太平記 巻第二 総平仮名版
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¥たいへいきくわんだいにもくろく¥ S02
¥なんとほくれい¥ぎやうがう/の¥こと¥ S0201
¥そうと¥ろくはら/へ¥めしとる¥こと¥つけたり¥ためあきら¥えいか/の¥こと¥ S0202
¥さんにん/の¥そうと¥くわんとう¥げかう/の¥こと¥ S0203
¥としもとあつそん¥ふたたび¥くわんとう¥げかう/の¥こと¥ S0204
ながさきしんざゑもんのじよう¥いけん/の¥こと¥つけたり¥くまわかどの/の¥こと¥ S0205
¥としもと¥ちゆうせ/らるる¥こと¥ならびに¥すけみつ/が¥こと¥ S0206
¥てんが¥けい/の¥こと¥ S0207
¥もろかた¥とうざん/の¥こと¥つけたり¥からさきのはまかつせん/の¥こと¥ S0208
¥ぢみやうゐんどの¥ろくはら/に¥ごかう/の¥こと¥ S0209
しゆしやう¥りんかう¥じつじ/に¥あら/ざる¥によつて¥さんもん/に¥ぎ/を¥へんずる¥こと¥つけたり¥きしん/が¥こと¥ S02010
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たいへいきくわんだいに
¥○なんとほくれい¥ぎやうがう/の¥こと S0201
¥げんとくにねん¥にぐわつよつか、¥ぎやうじのべんのべつたうまでのこうぢのちゆうなごんふぢふさのきやう/を¥めさ/れ/て、¥「らいぐわち¥やうか、¥とうだいじ・¥こうぶくじ¥ぎやうがう¥ある/べし。¥はやく¥ぐぶ/の¥ともがら/に¥ふれおほす/べし」/と、¥おほせいださ/れ/けれ/ば、¥ふぢふさ、¥ふるき/を¥たづね、¥れい/を¥かんがへ/て、¥ぐぶ/の¥かうさう、¥ろじ/の¥かうれつ/を¥さだめ/らる。¥ささきびつちゆうのかみ、¥ていゐ/に¥なり/て、¥はし/を¥わたし、¥しじふはちかしよ/の¥かがり、¥かつちう/を¥たいし、¥つじつじ/を¥かたむ。¥さんこうきうけい¥あひしたがひ、¥はくしせんくわん¥れつ/を¥ひく。¥ごんごだうだん/の¥げんぎ/なり。
¥とうだいじ/と¥まうす/は、¥しやうむてんわう/の¥ごぐわん、¥えんぶだいいち/の¥るしやなぶつ、¥こうぶくじ/と¥まうす/は、¥たんかいこう/の¥ごぐわん、¥とうじ¥そんそう/の¥だいがらん/なれ/ば、¥だいだい/の¥せいしゆ/も、¥みな¥けちえん/の¥おんこころざし/は¥おはせ/ども、¥いちにん¥いで¥たまふ¥こと¥たやすから/ざれ/ば、¥たねん¥りんかう/の¥ぎ/も¥なし。¥この¥みよ/に¥いたつ/て、¥たえ/たる/を¥つぎ、¥すたれ/たる/を¥おこし/て、¥ほうれん/を¥めぐらし¥たまひ/しか/ば、¥しゆと、¥くわんぎ/の¥たなごころ/を¥あはせ、¥れいぶつ¥ゐとく/の¥ひかり/を¥そふ。¥されば、¥かすがやま/の¥あらし/の¥おと/も、¥けふ/よりは¥ばんぜい/を¥よばふ/か/と¥あやしま/れ、¥きた/の¥ふぢなみ¥ちよ¥かけ/て、¥はな¥さく¥はる/の¥かげ¥ふかし。
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¥また¥おなじき¥つき¥にじふしちにち/に、¥ひえいさん/に¥ぎやうがう¥なつ/て、¥だいかうだう/の¥くやう¥あり。¥かの¥だう/と¥まうす/は、¥ふかくさのてんわう/の¥ごぐわん、¥だいにちへんぜう/の¥そんざう/なり。¥なかごろ¥ざうえい/の¥のち、¥いまだ¥くやう/を¥とげ/ず/して、¥せいざう¥すでに¥つもり/けれ/ば、¥いらか¥やぶれ/ては、¥きり¥ふだん/の¥かう/を¥たき、¥とぼそ¥おち/ては¥つき¥じやうぢゆう/の¥ともしび/を¥かかぐ。¥されば、¥まんざん¥なげき/て¥とし/を¥ふる¥ところに、¥たちまちに¥しゆざう/の¥たいこう/を¥とげ/られ、¥すみやかに¥くやう/の¥ぎしき/を¥ととのへ¥たまひ/しか/ば、¥いつさん¥まゆ/を¥ひらき、¥きうゐん¥かうべ/を¥かたぶけ/り。¥みだうし/は¥めうほふゐん/の¥そんちようほつしんわう、¥じゆぐわん/は¥とき/の¥ざす¥おほたふ/の¥そんうんほつしんわう/にてぞ¥おはし/ける。¥しようやうさんぶつ/の¥みぎり/には、¥じゆぼう/の¥はな¥にほひ/を¥ゆづり、¥かばいじゆとく/の¥ところ/には、¥ぎよさん/の¥あらし¥ひびき/を¥そふ。¥れいりん¥あつうん/の¥きよく/を¥そうし、¥ぶどう¥くわいせつ/の¥そで/を¥ひるがへせ/ば、¥はくじう/も¥ひきゐまひ、¥ほうてう/も¥らいぎする/ばかり/なり。¥すみよしのかんぬし、¥つもりのくになつ、¥たいこのやく/にて、¥とうざんし/たり/ける/が、¥しゆくばう/の¥はしら/に、¥いつしゆ/の¥うた/をぞ¥かきつけ/たる。
¥ちぎり¥あれ/ば¥この¥やま/も¥み/つ¥あのくたらさんみやくさんぼだい/の¥たね/や¥うゑ/けん WN002
¥これ/は、¥でんげうだいし¥たうざん¥さうさう/の¥いにしへ、¥「わが¥たつ¥そま/に¥みやうが¥あら/せ¥たまへ。」/と、¥さんみやくさんぼだい/の¥ほとけたち/に¥いのり¥たまひ/し¥こじ/を¥おもう/て、¥よめ/る¥うた/なる/べし。
¥そもそも¥げんかう¥いご、¥しゆ¥うれへ、¥しん¥はづかしめ/られ/て、¥てんが¥さらに¥やすき¥とき¥なし。¥をりふし/こそ¥おほかる/に、¥いま¥なんとほくれい/の¥ぎやうがう、¥えいぐわん¥なにごと/やらん/と¥たづぬれ/ば、¥きんねん¥さがみにふだう/の¥ふるまひ、¥ひごろ/の¥ふぎ/に¥てうくわせ/り。¥ばんい/の¥ともがら/は、¥ぶめい/に¥したがふ¥もの/なれ/ば、¥めす/とも¥ちよく/に¥おうず/べから/ず。¥ただ¥さんもん¥なんと/の¥だいしゆ/を¥かたらひ/て、¥とうい/を¥せいばつせ/られ/ん¥ため/の、¥おんはかりごと/とぞ¥きこえ/し。¥これによつて、
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¥おほたふのにほんしんわう/は、¥とき/の¥くわんじゆ/にて¥おはせ/しか/ども、¥いま/は¥かうがく、¥ともに¥すてはて/させ¥たまひ/て、¥てうぼ¥ただ¥ぶよう/の¥おんたしなみ/の¥ほか/は¥たじなし。¥おんこのみ¥ある¥ゆゑ/にや¥より/けん、¥はやわざ/は¥かうと/が¥けいせふ/にも¥こえ/たれ/ば、¥しつせき/の¥へいふう、¥いまだ¥かならずしも¥たかし/と/も¥せ/ず、¥うちもの/は¥しばう/が¥ひやうほふ/を¥え¥たまへ/ば、¥いつくわん/の¥ひしよ¥つくさ/れ/ず/と¥いふ¥こと¥なし。¥てんだいのざす¥はじまり/て、¥ぎしんくわしやう/より¥このかた、¥いつぴやくよだい、¥いまだ¥かかる¥ふしぎ/の¥もんしゆ/は¥おはしまさ/ず。¥のち/に¥おもひあはする/にこそ、¥とうい¥せいばつ/の¥ため/に¥おんみ/を¥ならはさ/れ/ける¥ぶげいのみち/とは¥しら/れ/たれ。
¥○そうと¥ろくはら/へ¥めしとる¥こと¥つけたり¥ためあきら¥えいぐわ/の¥こと S0202
¥こと/の¥もれやすき/は、¥わざはひ/を¥まねく¥なかだち/なれ/ば、¥おほたふのみや/の¥おんふるまひ、¥きんり/に¥てうぶくのほふ¥おこなは/るる¥ことども、¥いちいちに¥くわんとう/へ¥きこえ/て/けり。¥さがみにふだう、¥おほきに¥いかり/て、¥「いやいや¥この¥きみ/の¥ございゐ/の¥ほど/は、¥てんが¥しづまる/まじ。¥せんずるところ、¥きみ/をば¥しようきう/の¥れい/に¥まかせ/て、¥ゑんごく/へ¥うつし¥たてまつら/せ、¥おほたふのみや/を¥しざい/に¥しよし¥たてまつる/べき/なり。¥まづ¥きんじつ、¥ことに¥りようがん/に¥しせきし¥たてまつつ/て、¥たうけ/を¥てうぶくし¥たまふ/なる¥ほつしようじ/の¥ゑんくわんしやうにん、¥をの/の¥もんくわんそうじやう、¥なんと/の¥ちけう・¥けうゑん、¥じやうどじ/の¥ちゆうゑんそうじやう/を¥めしとり/て、¥しさい/を¥あひたづぬ/べし。」/と、¥すでに¥ぶめい/を¥ふくみ/て、¥にかいだうしもつけのはうぐわん・¥ながゐのとほたふみのかみ¥ににん、¥くわんとう/より¥しやうらくす。¥りやうし、¥すでに¥きやうちやくせ/しか/ば、¥「また¥いかなる¥あらき¥さた/をか¥いたさ
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/んず/らん。」/と、¥しゆしやう¥しんきん/を¥なやまさ/れ/ける¥ところに、¥ごぐわつじふいちにち/の¥あかつき、¥さいがはやとのすけ/を¥つかひ/にて、¥ほつしようじ/の¥ゑんくわんしやうにん・¥をの/の¥もんくわんそうじやう・¥じやうどじ/の¥ちゆうゑんそうじやう、¥さんにん/を¥ろくはら/へ¥めしとり¥たてまつる。¥
この¥なか/に、¥ちゆうゑんそうじやう/は、¥げんしゆう/の¥せきとく/なり/しか/ば、¥てうぶくのほふ¥おこなひ/たり/と¥いふ、¥その¥にんじゆ/には¥いら/ざり/しか/ども、¥これ/も¥この¥きみ/に¥ちかづき¥たてまつつ/て、¥さんもん/の¥かうだうくやう¥いげ/の¥こと、¥よろづ¥ぢきに¥まうしさたせ/られ/しか/ば、¥しゆと¥よりき/の¥こと、¥この¥そうじやう¥よも¥ぞんぜ/られ/ぬ¥こと/は¥あら/じ/とて、¥おなじく¥めしとら/れ¥たまひ/に/けり。¥これのみならず、¥ちけう・¥けうゑん¥ににん/も、¥なんと/より¥めしいださ/れ/て、¥おなじく¥ろくはら/へ¥いで¥たまふ。
¥また¥にでうのちゆうじやうためあきらのきやう/は、¥かだう/の¥たつしや/にて、¥つき/の¥よ、¥ゆき/の¥あした、¥ほうへん/の¥うたあはせのごくわい/に¥めさ/れ/て、¥えん/に¥はべる¥こと¥ひま¥なかり/しか/ば、¥さしたる¥けんぎ/の¥ひと/にては¥なかり/しか/ども、¥えいりよ/の¥おもむき/を¥たづねとは/ん¥ため/に、¥めしとら/れ/て、¥さいとうなにがし/に、¥これ/を¥あづけ/らる。¥ごにん/の¥そうたち/の¥こと/は、¥ぐわんらい¥くわんとう/へ¥めしくだし/て、¥さた¥ある/べき¥こと/なれ/ば、¥ろくはら/にて¥たづねきはむる/に¥およば/ず。¥ためあきらのきやう/の¥こと/において/は、¥まづ¥きやうと/にて¥たづねさた¥あり/て、¥はくじやう¥あら/ば、¥くわんとう/へ¥ちゆうしんす/べし/とて、¥けんだん/に¥おほせ/て、¥すでに¥がうもん/の¥さた/に¥およば/ん/と¥す。¥ろくはら/の¥きた/の¥つぼ/に¥すみ/を¥おこす¥こと、¥くわくたうろたん/の/ごとく/にして、¥その¥うへ/に¥あをだけ/を¥わり/て¥しきならべ、¥すこし¥ひま/を¥あけ/けれ/ば、¥まうくわ¥ほのほ/を¥はき/て¥れつれつたり。¥てうじやく¥ざふしき¥さう/に¥たちならび/て、¥りやうばう/の¥て/を¥ひつぱり/て、¥その¥うへ/を¥あゆま/せ¥たてまつら
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/ん/と、¥したくし/たる¥ありさま/は、¥ただ¥しぢゆうごぎやく/の¥ざいにん/の、¥せうねつ・¥だいせうねつ/の¥ほのほ/に¥み/を¥こがし、¥ごづ¥めづ/の¥かしやく/に¥あふ/らん/も、¥かく/こそ¥あら/め/と¥おぼえ/て、¥みる/にも¥きも/は¥きえ/ぬ/べし。¥ためあきらのきやう、¥これ/を¥み¥たまひ/て、¥「すずり/や¥ある」/と¥たづね/られ/けれ/ば、¥はくじやう/の¥ため/か/とて、¥すずり/に¥れうし/を¥とりそへ/て¥たてまつり/けれ/ば、¥はくじやう/には¥あら/で、¥いつしゆ/の¥うた/をぞ¥かか/れ/ける。
¥おもひ/き/や¥わが¥しきしまのみち/なら/で¥うきよ/の¥こと/を¥とは/る/べし/とは WN003
¥ときはするがのかみ、¥この¥うた/を¥み/て、¥かんたん¥きもにめいじ/けれ/ば、¥なみだ/を¥ながし/て¥ことわり/に¥ふくす。¥とうし¥りやうにん/も、¥これ/を¥よみ/て、¥もろともに¥そで/を¥ひたし/けれ/ば、¥ためあきら/は¥すいくわのせめ/を¥のがれ/て、¥とが¥なき¥ひと/に¥なり/に/けり。
¥しいか/は¥てうてい/の¥もてあそぶ¥ところ、¥きゆうば/は¥ぶけ/の¥たしなむ¥みち/なれ/ば、¥その¥ならはし、¥いまだ¥かならずしも、¥りくぎすきのみち/に¥たづさはら/ね/ども、¥もの/の¥たぐひ¥あひかんずる¥こと、¥みな¥しぜんなれ/ば、¥この¥うた¥いつしゆ/の¥かん/によつて、¥がうもんのせめ/を¥やめ/ける¥とうい/の¥しんぢゆう/こそ¥やさしけれ。¥ちから/をも¥いれ/ず/して、¥あめつち/を¥うごかし、¥め/に¥みえ/ぬ¥おにがみ/をも¥あはれ/と¥おもは/せ、¥をとこをんな/の¥なか/をも¥やはらげ、¥たけき¥もののふ/の¥こころ/をも¥なぐさむる/は¥うた/なり/と、¥きのつらゆき/が¥こきんのじよ/に¥かき/たり/し/も、¥ことわりなり/と¥おぼえ/たり。
¥○さんにん/の¥そうと¥くわんとう¥げかう/の¥こと S0203
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¥どうねん¥ろくぐわつやうか、¥とうし¥さんにん/の¥そうたち/を¥ぐそくし¥たてまつつ/て、¥くわんとう/に¥げかうす。
¥かの¥ちゆうゑんそうじやう/と¥まうす/は、¥じやうどじ/の¥じしようそうじやう/の¥もんてい/として、¥じふだいはんだん/の¥とうくわ、¥いつさん¥ぶさう/の¥せきがく/なり。¥もんくわんそうじやう/と¥まうす/は、¥もと/は¥はりまのくに¥ほつけじ/の¥ぢゆうりよ/たり/し/が、¥さうねん/の¥ころ/より¥だいごじ/に¥いぢゆうし/て、¥しんごん/の¥だいあじやり/たり/しか/ば、¥とうじ/の¥ちやうじや、¥だいご/の¥ざす/に¥ふせ/られ/て、¥ししゆさんみつ/の¥とうりやう/たり。¥ゑんくわんしやうにん/と¥まうす/は、¥もと/は¥さんと/にて¥おはし/ける/が、¥けんみつりやうしゆう/の¥さい、¥いつさん/に¥ひかり¥ある/か/と¥うたがは/れ、¥ちぎやうけんび/の¥ほまれ、¥しよじ/に¥ひと¥なき/が/ごとし。¥しかれども、¥ひさしく¥さんもん¥げうり/の¥ふう/に¥したがは/ば、¥じやうまん/の¥はたほこ¥たかう/して、¥つひに¥てんま/の¥しやうあく/の¥なか/に¥おち/ぬ/べし。¥しかじ、¥くじやうろんぢやう/の¥せいよ/を¥すて/て、¥かうそだいし/の¥きうき/に¥かへら/ん/には/と、¥ひとたび¥みやうり/の¥くつばみ/を¥かへし/て、¥ながく¥じやくまく/の¥こけのとぼそ/を¥とぢ¥たまふ。¥はじめ/の¥ほど/は¥さいたふ/の¥くろだに/と¥いふ¥ところ/に¥きよ/を¥しめ/て、¥さんえ/を¥かえふ/の¥あき/の¥しも/に¥かさね、¥いつぱつ/を¥しようくわ/の¥あした/の¥かぜ/に¥まかせ¥たまひ/ける/が、¥とく¥こ/なら/ず、¥かならず¥となり¥あり、¥だいみやう¥ひかり/を¥かくさ/ざり/けれ/ば、¥つひに¥ごだい¥せいしゆ/の¥こくし/として、¥さんじゆじやうかい/の¥たいそ/たり。¥かかる¥うちかうかう/の¥そんしゆく/たり/と¥いへ/ども、¥とき/の¥わうざい/をば¥のがれ¥たまは/ぬ/にや、¥また¥ぜんぜ/の¥しゆくごふ/にや¥より/けん、¥ゑんばん/の¥とらはれ/と¥なつ/て、¥げきりよ/の¥つき/に¥さすらひ¥たまふ。¥ふしぎなり/し¥ことども/なり。
¥ゑんくわんしやうにん/ばかりこそ、¥そういん・¥ゑんせう・¥だうしよう/とて、¥じよえいずいぎやう/の¥おんでし¥さんにん、¥ずいちくし/て、¥こし/の¥ぜんご/に¥ぐぶし/けれ。¥その¥ほか、¥もんくわんそうじやう・¥ちゆうゑんそうじやう/には¥あひしたがふ¥もの¥いちにん/も¥なく/て、¥あやしげなる
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¥てんま/に¥のせ/られ/て、¥みなれ/ぬ¥もののふ/に¥うちかこま/れ、¥まだ¥よぶかき/に¥とりがなく¥あづま/の¥たび/に¥いで¥たまふ¥こころのうち/こそ¥あはれなれ。¥かまくら/までも¥くだしつけ/ず、¥みち/にて¥うしなひ¥たてまつる/べし/なんど¥きこえ/しか/ば、¥かの¥しゆく/に¥つき/ても、¥いま/や¥かぎり、¥この¥やま/に¥やすめ/ば、¥これ/や¥かぎり/と、¥つゆのいのち/の¥ある¥ほど/も、¥こころ/は¥さき/に¥きえ/つ/べし。¥きのふ/も¥すぎ、¥けふ/も¥くれ/ぬ/と¥ゆく¥ほどに、¥われと/は¥いそが/ぬ¥みち/なれ/ど、¥ひかず¥つもれ/ば、¥ろくぐわつにじふしにち/に¥かまくら/にこそ¥つき/に/けれ。
¥ゑんくわんしやうにん/をば、¥さすけのゑちぜんのかみ、¥もんくわんそうじやう/をば、¥さすけのとほたふみのかみ、¥ちゆうゑんそうじやう/をば、¥あしかがのさぬきのかみ/にぞ¥あづけ/らる。
¥りやうし¥きさんし/て、¥かの¥そうたち/の¥ほんぞん/の¥かたち、¥ろだん/の¥やう、¥ゑづ/に¥うつし/て¥ちゆうしんす。¥ぞくじん/の¥みしる/べき¥こと/なら/ね/ば、¥ささめのらいぜんそうじやう/を¥しやうじ¥たてまつつ/て、¥これ/を¥みせ/らるる/に、¥「〔もんくわんそうじやう/の¥だん/の¥やう、〕¥しさいなき¥てうぶくのほふ/なり」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥「さらば¥この¥そう−たち/を¥がうもんせよ」/とて、¥さぶらひどころ/に¥わたし/て、¥すいくわのせめ/をぞ¥いたし/ける。¥もんくわんばう、¥しばし/が¥ほど/は、¥いかに¥とは/れ/けれ/ども、¥おち¥たまは/ざり/ける/が、¥すいもん¥かさなり/けれ/ば、¥み/も¥つかれ、¥こころ/も¥よわく¥なり/ける/にや、¥「ちよくぢやう/によつて、¥てうぶくのほふ¥おこなひ/たり/し¥でう、¥しさいなし」/と、¥はくじやうせ/られ/けり。¥その¥のち、¥ちゆうゑんばう/を¥がうもんせ/ん/と¥す。¥この¥そうじやう、¥てんぜい¥おくびやう/の¥ひと/にて、¥いまだ¥せめ/ざる¥さき/に、¥しゆしやう¥さんもん/を¥おんかたらひ¥あり/し¥こと、¥おほたふのみや/の¥おんふるまひ、¥としもと/の¥いんぼう/なんど、¥あり/も¥あら/ぬ¥こと/までも、¥のこる¥ところ¥なく¥はくじやう¥いつくわん/に¥のせ/られ/たり。¥このうへは¥なにの¥うたがひ/か¥ある/べき/なれ/ども、¥どうざい/の¥ひと/なれ/ば、¥さしおく/べき/に¥あら/ず、¥ゑんくわんしやうにん
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/をも¥みやうにち¥とひ¥たてまつる/べき¥ひやうぢやう¥あり/ける、¥その¥よ、¥さがみにふだう/の¥ゆめ/に、¥ひえいさん/の¥ひんがしさかもと/より、¥さるども¥にさんぜん¥むらがりきたつ/て、¥この¥しやうにん/を¥しゆごし¥たてまつる¥てい/にて、¥なみゐ/たり/と¥み¥たまふ。¥ゆめ/の¥つげ¥ただごと/なら/ず/と¥おもは/れ/けれ/ば、¥いまだ¥あけ/ざる/に¥あづかりびと/の¥もと/へ¥ししや/を¥つかはし、¥「しやうにん¥がうもん/の¥こと¥しばらく¥さしおく/べし」/と¥げぢせ/らるる¥ところに、¥あづかりびと¥さえぎつ/て、¥さがみにふだう/の¥かた/に¥きたつ/て¥まうし/ける/は、¥「しやうにん¥がうもん/の¥こと、¥この¥あかつき、¥すでに、¥その¥さた/を¥いたし¥さうらは/ん¥ため/に、¥しやうにん/の¥おんかた/へ¥まゐつ/て¥さうらへ/ば、¥ともしび/を¥かかげ/て、¥くわんぽふぢやうざせ/られ/て¥さうらふ。¥その¥おんかげ、¥うしろ/の¥しやうじ/に¥うつり/て、¥ふどうみやうわう/の¥かたち/に¥みえ/させ¥たまひ¥さうらひ/つる¥あひだ、¥おどろきぞんじ/て、¥まづ¥ことのしさい/を¥まうしいれ/ん¥ため/に¥まゐつ/て¥さうらふ/なり」/とぞ¥まうし/ける。¥むさう/と¥いひ、¥じげん/と¥いひ、¥ただびと/に¥あら/ず/とて、¥がうもん/の¥さた/を¥やめ/られ/けり。
¥おなじき¥しちぐわつじふさんにち/に、¥さんにん/の¥そうたち、¥をんる/の¥ざいしよ¥さだまり/て、¥もんくわんそうじやう/をば¥いわうがしま、¥ちゆうゑんそうじやう/をば、¥ゑちごのくに/へ¥ながさ/る。¥ゑんくわんしやうにん/ばかりをば¥をんる¥いつとう/を¥なだめ/て、¥ゆふきかうづけにふだう/に¥あづけ/られ/けれ/ば、¥あうしう/へ¥ぐそくし¥たてまつり、¥ちやうど/の¥たび/に¥さすらひ¥たまふ。¥させん・¥をんる/と¥いは/ぬ/ばかり/なり。¥ゑんばん/の¥ほか/に¥うつさ/れ/させ¥たまへ/ば、¥これ/も¥ただ¥おなじ¥りよてい/の¥おもひ/にて、¥でうほふし/が¥けいりく/の¥うち/に¥くるしみ、¥いちぎやうあじやり/の¥くわらこく/に¥ながさ/れ/し¥すいしゆくさんかう/の¥かなしみ/も、¥かくや/と¥おもひしら/れ/たり。¥なとりがは/を¥すぎ/させ¥たまふ/とて、¥しやうにん、¥いつしゆ/の¥うた/を¥よみ¥たまふ。
¥みちのく/の¥うき¥なとりがは¥ながれき/て¥しづみ/や¥はて/ん¥せぜ/の¥うもれぎ WN004
¥とき/の¥てんさい/をば、¥だいごんのしやうじや/も¥のがれ¥たまは/ざる/にや。¥むかし、¥てんぢく/の¥はらなしこく/に¥かい¥ぢやう
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¥ゑ/の¥さんがく/を¥けんびし¥たまへ/る¥ひとり/の¥しやもん¥おはし/けり。¥いつてう/の¥こくし/として、¥しかい/の¥いらい/たり/しか/ば、¥てんが/の¥ひと、¥きえかつがうせ/る¥こと、¥あたかも¥だいしやうせそん/の¥しゆつせじやうだう/の/ごとく/なり。¥あるとき、¥その¥くに/の¥だいわう、¥ほふゑ/を¥おこなふ/べき¥こと¥あり/て、¥せつかいのだうし/に、¥この¥しやもん/をぞ¥しやうぜ/られ/ける。¥しやもん¥すなはち¥ちよくめい/に¥したがひ/て、¥ほうけつ/に¥さんぜ/らる。¥みかど、¥をりふし¥ご/を¥あそばさ/れ/ける¥みぎり/へ、¥てんそう¥まゐつ/て、¥しやもん¥さんだい/の¥よし/を¥そうしまうし/ける/を¥あそばし/ける¥ご/に、¥おんこころ/を¥いれ/られ/て、¥これ/を¥きこしめさ/れ/ず。¥ご/の¥て/について、¥「きれ」/と¥おほせ/られ/ける/を、¥てんそう、¥ききあやまり/て、¥この¥しやもん/を¥きれ/との¥ちよくぢやう/ぞ/と¥こころえ/て、¥きんもん/の¥ほか/に¥いだし、¥すなはち¥しやもん/の¥かうべ/を¥はね/て/けり。¥みかど、¥ご/を¥あそばしはて/て、¥しやもん/を¥おんまへ/へ¥めさ/れ/けれ/ば、¥てんごくのくわん、¥「ちよくぢやう/に¥したがつ/て¥かうべ/を¥はね/たり」/と¥まうす。¥みかど、¥おほきに¥げきりん¥あつ/て、¥「『かうし¥さだまり/て¥のち、¥さんそうす』/と¥いへ/り。¥しかるを、¥いちごん/の¥した/に¥あやまり/を¥おこなう/て、¥ちん/が¥ふとく/を¥かさぬ。¥つみ¥だいぎやく/に¥おなじ」/とて、すなはち¥てんそう/を¥めしいだし/て、¥さんぞくのつみ/に¥おこなは/れ/けり。¥さて¥この¥しやもん、¥つみ¥なく/して¥しけい/に¥あひ¥たまひ/ぬる¥こと、¥ただごと/に¥あら/ず、¥ぜんしやう/の¥しゆくごふ/にて¥おはす/らん/と、¥おぼしめさ/れ/けれ/ば、¥みかど、¥その¥ゆゑ/を¥あらかん/に¥とひ¥たまふ。¥あらかん、¥なぬか/が¥あひだ、¥ぢやう/に¥いり/て、¥しゆくみやうつう/を¥え/て、¥くわげん/を¥み¥たまふ/に、¥しやもん/の¥ぜんしやう/は¥かうさく/を¥げふ/と¥する¥でんぷ/なり。¥みかど/の¥ぜんしやう/は¥みづ/に¥すむ¥かはづ/にてぞ¥あり/ける。¥この¥でんぷ、¥すき/を¥とつ/て¥はる/の¥やまだ/を¥かへし/ける¥とき、¥あやまり/て¥すき/の¥さき/にて、¥かはづ/の¥くび/をぞ¥きり/たり/ける。¥この¥いんぐわ/によつて、¥でんぷ/は¥しやもん/と¥うまれ、¥かはづ/は、¥はらなしこく/の¥だいわう/と¥うまれ、¥あやまり/て、¥また¥しざい/を¥おこなは/れ/ける/こそ¥あはれなれ。¥されば、¥この¥しやうにん/も、
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¥いかなる¥しゆいんかんくわ/の¥り/によつて/か、¥かかる¥ふりよ/の¥つみ/に¥しづみ¥たまひ/ぬ/らん/と、¥ふしぎなり/し¥ことども/なり。
¥○としもとあつそん¥ふたたび¥くわんとう¥げかう/の¥こと S0204
¥としもとあつそん/は、¥せんねん¥ときのじふらうよりさだ/が¥うた/れ/し¥のち¥めしとら/れ/て、¥かまくら/まで¥くだり¥たまひ/しか/ども¥やうやうに¥ちんじまうさ/れ/し¥おもむき、¥げにも/とて¥しやめんせ/られ/たり/ける/が、¥また¥こんど/の¥はくじやうども/に、¥もつぱら¥いんぼう/の¥くはたて、¥かの¥あつそん/に¥あり/と¥のせ/たり/けれ/ば、¥しちぐわつじふいちにち/に¥また¥ろくはら/へ¥めしとら/れ/て、¥くわんとう/へ¥おくら/れ¥たまふ。¥さいぼん¥ゆるさ/ざる/は、¥はふりやう/の¥さだまる¥ところ/なれ/ば、¥なにと¥ちんずる/とも¥ゆるさ/れ/じ。¥ろし/にて¥うしなは/るる/か、¥かまくら/にて¥きら/るる/か、¥ふたつ/の¥あひだ/をば¥はなれ/じ/と¥おもひまうけ/てぞ¥いで/られ/ける。
¥らつくわ/の¥ゆき/に¥ふみまよふ、¥かたの/の¥はる/の¥さくらがり、¥もみぢのにしき/を¥き/て¥かへる、¥あらしのやま/の¥あき/の¥くれ、¥ひとよ/を¥あかす¥ほど/だにも、¥たびね/と/なれ/ば¥ものうき/に、¥おんあい/の¥ちぎり¥あさから/ぬ、¥わが¥ふるさと/の¥さいし/をば、¥ゆくへ/も¥しら/ず¥おもひおき、¥とし¥ひさしく/も¥すみなれ/し¥きうてう/の¥ていと/をば、¥いま/を¥かぎり/と¥かへりみ/て、¥おもは/ぬ¥たび/に¥いで¥たまふ、¥こころのうち/ぞ¥あはれなる。¥うき/をば¥とめ/ぬ¥あふさかのせき/の¥しみづ/に¥そで¥ぬれ/て、¥すゑ/は¥やまぢ/を、¥うちでのはま、¥おき/を¥はるかに¥みわたせ/ば、¥しほならぬうみ/に¥こがれゆく、¥み/を¥うきふね/の¥うきしづみ、¥こま/も¥とどろと¥ふみならす¥せたのながはし¥うちわたり、¥ゆきかふ¥ひと/に¥あふみぢ/や、¥よ/を¥うねのの
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/に¥なく¥たづ/も、¥こ/を¥おもふ/か/と¥あはれなり。¥しぐれ/も¥いたく¥もりやま/の、¥このしたつゆ/に¥そで¥ぬれ/て、¥かぜ/に¥つゆ¥ちる¥しのはら/や、¥ささ¥わくる¥みち/を¥すぎゆけ/ば、¥かがみのやま/は¥あり/とても、¥なみだ/に¥くもり/て¥みえわか/ず。¥もの/を¥おもへ/ば、¥よのま/にも、¥おいそのもり/の¥したくさ/に¥こま/を¥とどめ/て¥かへりみる¥こきやう/を¥くも/や¥へだつ/らん。¥ばんば、¥さめがゐ、¥かしはばら、¥ふはのせきや/は¥あれはて/て、¥なほ¥もる¥もの/は、¥あき/の¥つき/の¥いつか¥わが¥み/の¥をはり/なる、¥あつた/の¥やつるぎ¥ふしをがみ、¥しほひ/に¥いま/や¥なるみがた、¥かたぶく¥つき/に¥みち¥みえ/て、¥あけ/ぬ¥くれ/ぬ/と¥ゆく¥みち/の¥すゑ/は¥いづく/と¥とほたふみ、¥はまなのはし/の¥ゆふしほ/に、¥ひく¥ひと/も¥なき¥すてをぶね、¥しづみはて/ぬる¥み/にし¥あれ/ば、¥たれか¥あはれ/と¥ゆふぐれ/の、¥いりあひ/なれ/ば、¥いま/は/とて、¥いけだのしゆく/に¥つき¥たまふ。¥げんりやくぐわんねん/の¥ころ/か/とよ、¥しげひらのちゆうじやう/の、¥とうい/の¥ため/に¥とらはれ/て、¥この¥しゆく/に¥つき¥たまひ/し/に、¥「あづまぢ/の¥はにふのこや/の¥いぶせき/に¥ふるさと¥いかに¥こひしかる/らん WN005」/と、¥ちやうじや/の¥むすめ/が¥よみ/たり/し、¥その¥いにしへ/の¥あはれ/までも、¥おもひのこさ/ぬ¥なみだ/なり。¥りよくわん/の¥ともしび¥かすかに/して、¥けいめい¥あかつき/を¥もよほせ/ば、¥ひつば¥かぜ/に¥いばへ/て、¥てんりゆうがは/を¥うちわたり、¥さよのなかやま¥こえゆけ/ば、¥はくうん¥みち/を¥うづみき/て、¥そこ/とも¥しら/ぬ¥ゆふぐれ/に、¥かけい/の¥てん/を¥のぞみ/ても、¥むかし、¥さいぎやうほふし/が、¥「いのち/なり/けり」/と¥えいじ/つつ、¥ふたたび¥こえ/し¥あと/までも、¥うらやましく/ぞ¥おもは/れ/ける。¥ひま¥ゆく¥こま/の¥あし¥はやみ、¥ひ¥すでに¥ていご/に¥のぼれ/ば、¥かれひ¥すすむる¥ほど/とて、¥こし/を¥ていぜん/に¥かきとどむ。¥ながえ/を¥たたき/て、¥けいご/の¥ぶし/を¥ちかづけ、¥しゆく/の¥な/を¥とひ¥たまふ/に、¥「きくかは/と¥まうす/なり」/と¥こたへ/けれ/ば、¥しようきうのかつせん/の¥とき、¥ゐんぜん¥かき/たり/し¥とが/によつて、¥みつちかのきやう、¥くわんとう/へ¥めしくださ/れ/し/が、¥この¥しゆく/にて¥ちゆうせ/られ/し¥とき、
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¥むかし¥なんやうけん/の¥きくすい、¥かりう/を¥くん/で¥よはひ/を¥のぶ。¥
いま/は¥とうかいだう/の¥きくかは、¥せいがん/に¥しゆくし/て¥めい/を¥をふ。
/と¥かき/たり/し、¥とほき¥むかし/の¥ふで/の¥あと、¥いま/は¥わが¥みのうへ/に¥なり、¥あはれ/や¥いとど¥まさり/けん。¥いつしゆ/の¥うた/を¥えいじ/て、¥やど/の¥はしら/にぞ¥かか/れ/ける。
¥いにしへ/も¥かかる¥ためし/を¥きくかは/の¥おなじ¥ながれ/に¥み/をや¥しづめ/ん WN006
¥おほゐがは/を¥すぎ¥たまへ/ば、¥みやこ/に¥あり/し¥な/を¥きき/て、¥かめやまどの/の¥ぎやうがう/の、¥あらしのやま/の¥はなざかり、¥りようとうげきしゆ/の¥ふね/に¥のり、¥しいかくわんげん/の¥えん/に¥はべり/し¥こと/も、¥いま/は¥ふたたび¥み/ぬ¥よ/の¥ゆめ/と¥なり/ぬ/と、¥おもひつづけ¥たまふ。¥しまだ、¥ふぢえだ/に¥かかり/て、¥をかべ/の¥まくず¥うらがれ/て、¥ものがなしき¥ゆふぐれ/に、¥うつのやまべ/を¥こえゆけ/ば、¥つた¥かへで、¥いと¥しげり/て、¥みち/も¥なし。¥むかし、¥なりひらのちゆうじやう/の、¥すみどころ/を¥もとむ/とて、¥あづま/の¥かた/に¥くだる/とて、¥「ゆめ/にも¥ひと/に¥あは/ぬ/なり/けり」/と¥よみ/たり/し/も、¥かくや/と¥おもひしら/れ/たり。¥きよみがた/を¥すぎ¥たまへ/ば、¥みやこ/に¥かへる¥ゆめ/をさへ、¥とほさ/ぬ¥なみ/の¥せきもり/に、¥いとど¥なみだ/を¥もよほさ/れ、¥むかひ/は¥いづこ¥みほがさき、¥おきつ、¥かんばら¥うちすぎ/て、¥ふじのたかね/を¥み¥たまへ/ば、¥ゆき/の¥うち/より¥たつ¥けぶり、¥うへ¥なき¥おもひ/に¥くらべ/つつ、¥あくる¥かすみ/に¥まつ¥みえ/て、¥うきしまがはら/を¥すぎゆけ/ば、¥しほひ/や¥あさき¥ふね¥うき/て、¥おりたつ¥たご/の¥みづから/も、¥うきよ/を¥めぐる¥くるまがへし、¥たけ/の¥したみち¥ゆきなやむ、¥あしがらやま/の¥たうげ/より、¥おほいそ¥こいそ¥みおろし/て、¥そで/にも¥なみ/は¥こゆるぎの、¥いそぐ/としもは¥なけれ/ども¥ひかず¥つもれ/ば、¥しちぐわつにじふろくにち/の¥くれほど/に、¥かまくら/にこそ¥つき¥たまひ/けれ。
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¥その¥ひ¥やがて、¥なんでうのさゑもんたかなほ、¥うけとり¥たてまつつ/て、¥すはのさゑもん/に¥あづけ/らる。¥ひとま/なる¥ところ/に¥くもで¥きびしく¥ゆう/て、¥おしこめ¥たてまつる¥ありさま、¥ただ¥ぢごく/の¥ざいにん/の、¥じふわうのちやう/に¥わたさ/れ/て、¥くびかせ¥てかせ/を¥いれ/られ、¥つみ/の¥きやうぢゆう/を¥ただす/らん/も、¥かくや/と¥おもひしら/れ/たり。
¥○ながさきしんざゑもんのじよう¥いけん/の¥こと¥つけたり¥くまわかどの/の¥こと S0205
¥たうぎん、¥ごむほん/の¥こと、¥ろけん/の¥のち、¥おんくらゐ/は、¥やがて¥ぢみやうゐんどの/へぞ¥まゐら/んず/らん/と、¥きんじゆ/の¥ひとびと、¥あをにようばう/に¥いたる/まで、¥よろこびあへ/る¥ところに、¥とき/が¥うた/れ/し¥のち/も、¥かつて¥その¥さた/も¥なし。¥いま¥また、¥としもと¥めしくださ/れ/ぬれ/ども、¥おんくらゐ/の¥こと/については、¥いかなる¥さた¥あり/とも¥きこえ/ざり/けれ/ば、¥ぢみやうゐんどのがた/の¥ひとびと、¥あんにさうゐし/て、¥ごい/を¥うたふ¥もの/のみ¥おほかり/けり。
¥されば、¥とかく¥まうし¥まゐらする¥ひと/の¥あり/ける/にや、¥ぢみやうゐんどの/より¥ないない¥くわんとう/へ¥おんつかひ/を¥くださ/れ、¥「たうぎん¥ごむほん/の¥くはたて、¥きんじつ¥こと¥すでに¥きふなり。¥ぶけ¥すみやかに¥きうめい/の¥さた¥なく/ば、¥てんが/の¥らん¥ちかき/に¥ある/べし」/と¥おほせ/られ/たり/けれ/ば、¥さがみにふだう、¥「げにも」/と¥おどろき/て、¥むねと/の¥いちもん・¥ならびに¥とうにん・¥ひやうぢやうしゆ/を¥あつめ/て、¥「この¥こと¥いかが¥ある/べき」/と、¥おのおの¥しよぞん/を¥とは/る。¥しかれども、¥あるいは¥た/に¥ゆづり/て¥くち/を¥とぢ、¥あるいは¥おのれ/を¥かへりみ/て、¥ことば/を¥いださ/ざる¥ところに、¥しつし¥ながさきにふだう/が¥しそく、¥しんざゑもんのじようたかすけ、¥すすみいで/て¥まうし/ける/は、¥「せんねん、¥ときのじふらう/が¥うた/れ/し¥とき、¥たうぎん/の¥おんくらゐ/を¥あらためまうさ
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/る/べかり/し/を、¥てうけん/に¥はばかり/て、¥ごさた¥ゆるかり/し/によつて、¥この¥こと¥なほ¥いまだ¥やま/ず。¥らん/を¥はらつ/て¥ち/を¥いたす/は、¥ぶ/の¥いつとく/なり。¥すみやかに¥たうぎん/を¥をんごく/に¥うつし¥まゐらせ、¥おほたふのみや/を¥ふへん/の¥をんる/に¥しよし¥たてまつり、¥としもと・¥すけとも¥いげ/の¥らんしん/を、¥いちいちに¥ちゆうせ/らるる/より¥ほか/は、¥べちぎ¥ある/べし/とも¥そんじ¥さうらは/ず」/と、¥はばかる¥ところ¥なく¥まうし/ける/を、¥にかいだうではのにふだうだううん、¥しばらく¥しあんし/て¥まうし/ける/は、¥「この¥ぎ、¥もつとも¥しかるべく¥きこえ¥さうらへ/ども、¥しりぞき/て¥ぐあん/を¥めぐらす/に、¥ぶけ¥けん/を¥とり/て、¥すでに¥ひやくろくじふよねん、¥ゐ、¥しかい/に¥および、¥うん、¥るいえふ/を¥かかやかす¥こと、¥さらに¥たじなし。¥ただ、¥かみ、¥いちにん/を¥あふぎ¥たてまつつ/て、¥ちゆうてい/に¥わたくし¥なく、¥しも、¥はくせい/を¥なで/て、¥じんせい/に¥ほどこし¥ある¥ゆゑ/なり。¥しかるに、¥いま、¥きみ/の¥ちようしん¥いちりやうにん¥めしおか/れ、¥ごきえ/の¥かうそう¥りやうさんにん¥るざい/に¥しよせ/らるる¥こと/も、¥ぶしん¥あくぎやう/の¥せんいつ/と¥いひ/つ/べし。¥このうへ/に、¥また¥しゆしやう/を¥ゑんしよ/へ¥うつし¥まゐらせ、¥てんだいのざす/を¥るざい/に¥おこなは/れ/ん¥こと、¥てんだう¥おごり/を¥にくむ/のみ/なら/ず、¥さんもん、¥いかでか¥いきどほり/を¥ふくま/ざる/べき。¥かみ¥いかり、¥ひと¥そむか/ば、¥ぶうん/の¥あやふき/に¥ちかかる/べし。¥「きみ、¥きみ/たら/ず/と¥いへ/ども、¥しん¥もつて、¥しん/たら/ず/は¥ある/べから/ず」/と¥いへ/り。¥ごむほん/の¥こと、¥きみ¥たとひ¥おぼしめしたつ/とも、¥ぶゐ¥さかりなら/ん¥ほど/は、¥くみしまうす¥もの¥ある/べから/ず。¥これにつけても、¥ぶけ¥いよいよ¥つつしみ/て、¥ちよくめい/に¥おうぜ/ば、¥きみ/も、¥などか¥おぼしめしなほす¥こと¥なから/ん。¥かくてぞ、¥こつか/の¥たいへい、¥ぶうん/の¥ちやうきうに/て¥さうらは/ん/と¥ぞんずる/は、¥めんめん¥いかが¥おぼしめし¥さうらふ」/と¥まうし/ける/を、¥ながさきしんざゑもんのじよう、¥また¥じよ/の¥いけん/をも¥また/ず、¥もつてのほかに¥きしよく/を¥そんじ/て、¥かさねて¥まうし/ける/は、¥「ぶんぶ/の¥おもむき¥ひとつ/なり/と¥いへ/ども、¥ようしや¥とき¥ことなる/べし。¥しづかなる¥よ/には、¥ぶん/をもつて¥いよいよ¥をさめ、¥みだれ/たる¥とき/には、¥ぶ/をもつて¥きふに¥しづむ。
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¥かるがゆゑに¥せんごく/の¥とき/には¥こうまう¥もちゐる/に¥たら/ず、¥たいへい/の¥よ/には¥かんくわ¥もちゐる¥こと¥なき/に¥に/たり。¥こと¥すでに¥きふに¥あたり/たり。¥ぶ/をもつて¥をさむ/べき/なり。¥いてう/には、¥ぶんわう・¥ぶわう¥しん/として¥ぶだう/の¥きみ/を¥うち/し¥れい¥あり。¥わがてう/には、¥よしとき・¥やすとき、¥しも/として、¥ふぜん/の¥しゆ/を¥ながす¥れい¥あり。¥よ¥みな¥ここをもつて¥あたれ/り/と¥す。¥されば、¥こてん/にも、¥「きみ、¥しん/を¥みる¥こと、¥どかい/の/ごとく/なる¥とき/は、¥すなはち¥しん、¥きみ/を¥みる¥こと、¥こうしう/の/ごとし」/と¥いへ/り。¥こと¥ちやうたいし/て、¥ぶけ¥ついばつのせんじ/を¥くださ/れ/な/ば、¥こうくわいす/とも¥えき¥ある/べから/ず。¥ただ¥すみやかに¥きみ/を¥をんごく/に¥うつし¥まゐらせ、¥おほたふのみや/を¥いわうがしま/へ¥ながし¥たてまつり、¥いんぼう/の¥げきしん¥すけとも・¥としもと/を¥ちゆうせ/らるる/より¥ほか/の¥こと¥ある/べから/ず。¥ぶけ/の¥あんたい¥ばんせい/に¥およぶ/べし/とこそ¥そんじ¥さうらへ」/と、¥ゐたけだかに¥なり/て¥まうし/ける¥あひだ、¥たうざ/の¥とうにん、¥ひやうぢやうしゆ、¥けんせい/にや¥おもねり/けん、¥また¥ぐあん/にや¥おち/けん、¥みな¥この¥ぎ/に¥どうじ/けれ/ば、¥だううん¥さいわう/の¥ちゆうげん/に¥およば/ず、¥まゆ/を¥ひそめ/て¥たいしゆつす。
¥さるほどに¥「きみ/の¥ごむほん/を¥まうしすすめ/ける/は、¥げんちゆうなごんともゆき、¥うせうべんとしもと、¥ひののちゆうなごんすけとも/なり。¥おのおの¥しざい/に¥おこなは/る/べし」/と¥ひやうぢやう¥いちづに¥さだまり/て、¥「まづ¥きよねん/より¥さどのくに/へ¥ながさ/れ/て¥おはする¥すけとものきやう/を¥きり¥たてまつる/べし」/と、¥その¥くに/の¥しゆご¥ほんまやましろにふだう/に¥げぢせ/らる。¥この¥こと、¥きやうと/に¥きこえ/けれ/ば、¥この¥すけとも〔のきやう〕/の¥しそく、¥くにみつのちゆうなごん、¥その¥ころ/は、¥くまわかどの/とて、¥とし¥じふさん/にて¥おはし/ける/が、¥ちち/の¥きやう、¥めしうど/に¥なり¥たまひ/し/より、¥にんわじへん/に¥かくれ/て¥ゐ/られ/ける/が、¥ちち¥ちゆうせ/られ¥たまふ/べき¥よし/を¥きき/て、¥「いま/は¥なにごと/にか¥いのち/を¥をしむ/べき。¥ちち/と¥ともに¥きら
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/れ/て、¥めいどのたび/の¥とも/をも¥し、¥また¥さいご/の¥おんありさま/をも¥み¥たてまつる/べし」/とて、¥はは/に¥おんいとま/をぞ¥こは/れ/ける。¥ははご、¥しきりに¥いさめ/て¥「さど/と/やらん/は、¥ひと/も¥かよは/ぬ、¥おそろしき¥しま/とこそ¥きこゆれ。¥ひかず/を¥ふる¥みち/なれ/ば、¥いかん/として/か¥くだる/べき。¥そのうへ、¥なんぢ/にさへ¥はなれ/ては、¥ひとひかたとき/も¥いのち¥ながらふ/べし/とも¥おぼえ/ず」/と、¥なきかなしみ/て¥とめ/けれ/ば、¥「よしや、¥ともなひゆく¥ひと¥なく/ば、¥いかなる¥ふちせ/にも¥み/を¥なげ/て¥しな/ん」/と¥まうし/ける¥あひだ、¥はは¥いたく¥とめ/ば、¥また¥めのまへ/に¥うき¥わかれ/も¥あり/ぬ/べし/と¥おもひわび/て、¥ちからなく、¥いま/まで¥ただ¥いちにん¥つきそひ/たる¥ちゆうげん/を¥あひそへ/られ/て、¥はるばると¥さどのくに/へぞ¥くだし/ける。¥みち¥とほけれ/ども、¥のる/べき¥むま/も¥なけれ/ば、¥はき/も¥ならは/ぬ¥わらうづ/に、¥すげのをがさ/を¥かたぶけ/て、¥つゆ¥わけわくる¥こしぢ/の¥たび、¥おもひやる/こそ¥あはれなれ。
¥みやこ/を¥いで/て¥じふさんにち/と¥まうす/に、¥ゑちぜん/の¥つるがのつ/に¥つき/に/けり。¥これ/より¥あきんどぶね/に¥のり/て、¥ほどなく¥さどのくに/へぞ¥つき/に/ける。¥ひと/して¥かく/と¥いふ/べき¥たより/も¥なけれ/ば、¥みづから¥ほんま/が¥たち/に¥いたつ/て、¥ちゆうもん/の¥まへ/にぞ¥たつ/たり/ける。¥をりふし¥そう/の¥あり/ける/が¥たちいで/て、¥「この¥うち/への¥ごよう/にて¥おんたち¥さうらふ/か。¥また¥いかなる¥よう/にて¥さうらふ/ぞ」/と¥とひ/けれ/ば、¥くまわかどの、¥「これ/は¥ひののちゆうなごん/の¥いつし/にて¥さうらふ/が、¥このころ¥きら/れ/させ¥たまふ/べし/と¥うけたまはつ/て、¥その¥さいご/の¥やう/をも¥み¥さうらは/ん¥ため/に、¥みやこ/より¥はるばると¥たづねくだり/て¥さうらふ」/と¥いひ/も¥あへ/ず、¥なみだ/を¥はらはらと¥ながし/けれ/ば、¥この¥そう、¥こころあり/ける¥ひと/なり/けれ/ば、¥いそぎ、¥この¥よし/を¥ほんま/に¥かたる/に、¥ほんま/も¥いはき/なら/ね/ば、¥さすが¥あはれに/や¥おもひ/けん、¥やがて¥この¥そう/をもつて、¥ぢぶつだう/へ¥いざなひいれ/て、¥たびはばき¥とか/せ、¥あし¥あらは/せ/て、¥おろそかなら
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/ぬ¥てい/にてぞ¥おき/たり/ける。¥くまわかどの、¥これ/を¥うれし/と¥おもふ/につけても、¥「おなじく/は、¥ちち/の¥きやう/を¥とく¥み¥たてまつら/ばや」/と¥いひ/けれ/ども、¥けふあす¥きら/る/べき¥ひと/に、¥これ/を¥みせ/ては、¥なかなか¥よみぢ/の¥さはり/とも¥なり/ぬ/べし。¥また、¥くわんとう/の¥きこえ/も¥いかが¥あら/んず/らん/とて、¥ふし/の¥たいめん/を¥ゆるさ/ず、¥しごちやう¥へだて/たる¥ところ/に¥おき/たれ/ば、¥ちち/の¥きやう/は、¥これ/を¥きい/て、¥ゆくへ/も¥しら/ぬ¥みやこ/に¥いかが¥ある/らん/と、¥おもひやる/よりも¥なほ¥かなし。¥こ/は、¥その¥かた/を¥みやり/て、¥なみぢ¥はるかに¥へだたり/し¥ひな/の¥すまゐ/を¥おもひやり/て、¥おもひ/つる¥なみだ/は、¥さらに¥かずならず」/と、¥たもと/の¥かわく¥ひま/も¥なし。¥これ/こそ¥ちゆうなごん/の¥おはします¥らう/の¥うち/よ/とて、¥みやれ/ば、¥たけ/の¥ひとむら¥しげり/たる¥ところ/に¥ほり¥ほりまはし、¥へい¥ぬり/て、¥ゆきかよふ¥ひと/も¥まれなり。¥なさけな/の¥ほんま/が¥こころ/や、¥ちち/は¥きんろうせ/られ、¥こ/は¥いまだ¥いときなし、¥たとひ¥いつしよ/に¥おき/たり/とも、¥なにほど/の¥ふゐ/か¥ある/べき/に、¥たいめん/をだに¥ゆるさ/で、¥まだ¥おなじ¥よのなか/ながら、¥しやう/を¥へだて/たる/ごとく/にて、¥なから/ん¥のち/の¥こけのした、¥おもひね/に¥み/ん¥ゆめ/なら/では、¥あひみ/ん¥こと/も¥ありがたし/と、¥たがひに¥かなしむ¥おんあい/の、¥ふし/の¥みち/こそ¥あはれなれ。
¥ごぐわつにじふくにち/の¥くれほど/に、¥すけとものきやう/を¥らう/より¥いだし¥たてまつつ/て、¥「はるかに¥おんゆ/も¥めさ/れ¥さうらは/ぬ/に、¥おんぎやうずい¥さうらへ」/と¥まうせ/ば、¥はや¥きら/る/べき¥とき/に¥なり/けり/と¥おもひ¥たまひ/て、¥「ああ¥うたてしき¥こと/かな。¥わが¥さいご/の¥やう/を¥み/ん¥ため/に、¥はるばると¥たづねくだり/たる¥をさなき¥もの/を、¥ひとめ/も¥み/ず/して¥はて/ぬる¥こと/よ」/とばかり¥のたまひ/て、¥その¥のち/は¥かつて¥しよじ/につけて¥ことば/をも¥いだし¥たまは/ず。¥けさ/までは¥きしよく¥しをれ/て、¥つねに/は¥なみだ/を¥おしぬぐひ¥たまひ/ける/が、¥にんげん/の¥こと/において/は、¥づねん/を¥はらふ/ごとく/に¥なり/ぬ/と
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¥さとり/て、¥ただ¥めんみつ/の¥くふう/の¥ほか/は、¥よねん¥あり/とも¥みえ¥たまは/ず。¥よ/に¥いれ/ば、¥こし¥さしよせ/て¥のせ¥たてまつり、¥ここ/より¥じつちやう/ばかり¥ある¥かはら/へ¥いだし¥たてまつり、¥こし¥かきすゑ/たれ/ば、¥すこしも¥おくし/たる¥きしよく/も¥なく、¥しきがは/の¥うへ/に¥ゐなほり/て、¥じせい/の¥じゆ/を¥かき¥たまふ。
¥ごうん¥かりに¥かたち/を¥なし 。¥しだい¥いま¥くう/に¥きす 。
¥かうべ/をもつて¥はくじん/に¥あつ 。¥せつだん¥いちぢん/の¥ふう JN007
¥ねんがうつきひ/の¥した/に、¥みやうじ/を¥かきつけ/て、¥ふで/を¥さしおき¥たまへ/ば、¥きりて¥うしろ/へ¥まはる/とぞ¥みえ/し、¥おんくび/は¥しきがは/の¥うへ/に¥おち/て、¥むくろ/は¥なほ¥ざせ/る/が/ごとし。¥この¥ほど¥つねに¥ほふだん/なんど¥し¥たまひ/ける¥そう¥きたつ/て、¥さうれい¥かたのごとく¥とりいとなみ、¥むなしき¥こつ/を¥ひろひ/て¥くまわか/に¥たてまつり/けれ/ば、¥くまわか、¥これ/を¥ひとめ¥み/て、¥とる¥て/も¥たゆく¥たふれふし、¥「こんじやう/の¥たいめん¥つひに¥かなは/ず/して、¥かはれ/る¥はつこつ/を¥みる¥こと/よ」/と、¥なきかなしむ/も¥ことわりなり。¥くまわか¥いまだ¥えうちなれ/ども、¥けなげなる¥しよぞん¥あり/けれ/ば、¥ちち/の¥ゆいこつ/をば、¥ただ¥いちにん¥めしつかひ/ける¥ちゆうげん/に¥もた/せ/て、¥「まづ¥われ/より¥さき/に¥かうやさん/に¥まゐつ/て、¥おくのゐん/とかやに¥をさめよ」/とて、¥みやこ/へ¥かへしのぼせ、¥わが+¥み/は¥いたはる¥こと¥ある¥よし/にて、¥なほ、¥ほんま/が¥たち/にぞ¥とどまり/ける。¥これ/は、¥ほんま/が¥なさけなく¥ちち/を¥こんじやう/にて¥われ/に¥みせ/ざり/つる、¥うつぽん/を¥さんぜ/ん/と¥おもふ¥ゆゑ/なり。¥かくて¥しごにち¥へ/ける¥ほどに、¥くまわか、¥ひる/は¥やむ¥よし/にて¥ひねもすに¥ふし、¥よる/は¥しのびやかに¥ぬけいで/て、¥ほんま/が¥ねどころ/なんど¥こまごま/に¥うかがひ/て、¥ひま¥あら/ば、¥かの¥にふだう¥ふし/が¥あひだ/に、¥いちにん¥さしころし/て、¥はら¥きら/んずる/ものを/と、¥おもひさだめ/てぞ¥ねらひ/ける、¥ある+¥よ¥あめかぜ¥はげしく¥ふき/て、¥ばんする¥らうどうども/も、¥みな¥とほさぶらひ
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/に¥ふし/たり/けれ/ば、¥いま/こそ¥まつ¥ところの¥さいはひ/よ/と¥おもひ/て、¥ほんま/が¥ねどころ/の¥かた/を¥しのび/て¥うかがふ/に、¥ほんま/が¥うん/や¥つよかり/けん、¥こんや/は¥つね/の¥ねどころ/を¥かへ/て、¥いづく/に¥あり/とも¥みえ/ず。¥また¥ふたま/なる¥ところ/に、¥ともしび/の¥かげ/の¥みえ/ける/を、¥これ/は¥もし¥ほんまにふだう/が¥しそく/にてや¥ある/らん。¥それ/なり/とも¥うつ/て、¥うらみ/を¥さんぜ/ん/と¥ぬけいり/て、¥これ/を¥みる/に、¥それ/さへ¥ここ/には¥なく/して、¥ちゆうなごんどの/を¥きり¥たてまつり/し¥ほんまさぶらう/と¥いふ¥もの/ぞ、¥ただ¥いちにん¥ふし/たり/ける。¥よしや¥これ/も、¥ときにとつては¥おや/の¥かたき/なり。¥やましろにふだう/に¥おとる/まじ/と¥おもひ/て、¥はしりかから/ん/と¥する/に、¥われ/は¥もとより¥たち/も¥かたな/も¥もた/ず。¥ただ¥ひと/の¥たち/を¥わが¥もの/と¥たのみ/たる/に、¥ともしび¥ことに¥あきらかなれ/ば、¥たちよら/ば、¥やがて¥おどろきあふ¥こと/もや¥あら/んず/らん/と¥あやしみ/て、¥さうなく¥よりえ/ず。¥いかが¥せ/ん/と¥あんじわづらひ/て¥たつ/たる/に、¥をりふし¥なつ/なれ/ば、¥ともしび/の¥かげ/を¥み/て、¥が/と¥いふ¥むし/の、¥あまた¥あかりしやうじ/に¥とりつき/たる/を、¥すはや¥くつきやう/の¥こと/こそ¥あれ/と¥おもひ/て、¥しやうじ/を¥すこし¥ひきあけ/たれ/ば、¥この¥むし¥あまた¥うち/へ¥いり/て、¥やがて¥ともしび/を¥うちけし/ぬ。¥いま/は¥かう/と¥うれしく/て、¥ほんまさぶらう/が¥まくら/に¥たちより/て¥さぐる/に、¥たち/も¥かたな/も¥まくら/に¥あり/て、¥ぬし/は¥いたく¥ねいり/たり。¥まづ¥かたな/を¥とつ/て¥こし/に¥さし、¥たち/を¥ぬき/て、¥むなもと/に¥さしあて/て、¥ね〔−いり〕/たる¥もの/を¥ころす/は、¥しにん/に¥おなじけれ/ば、¥おどろかさ/ん/と¥おもひ/て、¥まづ¥あし/にて¥まくら/を¥はた/とぞ¥け/たり/ける。¥け/られ/て¥おどろく¥ところ/を、¥いちのたち/に¥ほぞ/の¥うへ/を、¥たたみ/まで¥つ/と¥つきとほし、¥かへす¥たち/に、¥のどぶえ¥さしきつ/て、¥こころしづかに¥うしろ/の¥たけはら/の¥なか/へぞ¥かくれ/ける。¥ほんまさぶらう/が、¥いちのたち/に¥むね/を¥とほさ/れ/て、¥「あつ」/と¥いふ¥こゑ/に、¥ばんしゆども¥おどろきさわぎ/て、¥ひ/を¥ともし/て、¥これ/を¥みる/に、¥ち/の¥つき/たる
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¥ちひさき¥あしあと¥あり。¥「さては¥くまわかどの/の¥しわざ/なり。¥ほり/の¥みづ¥ふかけれ/ば、¥きど/より¥ほか/へは¥よも¥いで/じ。¥さがしいだし/て¥うちころせ」/とて、¥てんで/に¥たいまつ/を¥とぼし、¥このした、¥くさ/の¥かげ/まで¥のこる¥ところ¥なく/ぞ¥さがし/ける。¥くまわか/は、¥たけはら/の¥なか/に¥かくれ/ながら、¥いま/は¥いづく/へか¥のがる/べき。¥ひとで/に¥かから/ん/よりは、¥じがい/を¥せ/ばや/と¥おもは/れ/ける/が、¥にくし/と¥おもふ¥おや/の¥かたき/をば¥うつ、¥いま/は¥いかにもして¥いのち/を¥まつたうし/て、¥きみ/の¥ごよう/にも¥たち、¥ちち/の¥そい/をも¥たつし/たら/ん/こそ、¥ちゆうしん・¥けうし/の¥ぎ/にても¥あら/んずれ。¥もしや/と、¥ひとまど¥おち/て¥み/ばや/と¥おもひかへし/て、¥ほり/を¥とびこえ/ん/と¥し/ける/が、¥くち¥にぢやう、¥ふかさ¥いちぢやう/に¥あまり/たる¥ほり/なれ/ば、¥こゆ/べき¥やう/も¥なかり/けり。¥さらば、¥これ/を¥はし/に¥し/て¥わたら/ん/よ/と¥おもひ/て、¥ほり/の¥うへ/に¥すゑ¥なびき/たる¥くれたけ/の¥こずゑ/へ、¥さらさらと¥のぼり/たれ/ば、¥たけ/の¥すゑ、¥ほり/の¥むかひ/へ¥なびきふし/て、¥やすやすと¥ほり/をば¥こえ/て/けり。¥よ/は¥いまだ¥ふかし、¥みなと/の¥かた/へ¥ゆき/て、¥ふね/に¥のり/てこそ¥くが/へは¥つか/め/と¥おもひ/て、¥たどるたどる¥うら/の¥かた/へ¥ゆく¥ほどに、¥よ/も¥はや¥しだいに¥あけはなれ/て、¥しのぶ/べき¥みち/も¥なけれ/ば、¥み/を¥かくさ/ん/とて¥ひ/を¥くらし、¥あさ/や¥よもぎ/の¥おひしげり/たる¥なか/に、¥かくれゐ/たれ/ば、¥おひてども/と¥おぼしき¥ものども、¥ひやくしごじつき¥はせちり/て、¥「もし¥じふにさん/ばかり/なる、¥ちご/や¥とほり/つる」/と、¥みち/に¥ゆきあふ¥ひと¥ごと/に、¥とふ¥こゑし/てぞ¥すぎゆき/ける。¥くまわか、¥その¥ひ/は¥あさ/の¥なか/にて¥ひ/を¥くらし、¥よ/に¥なれ/ば¥みなと/へ/と¥こころざし/て、¥そこ/とも¥しら/ず¥ゆく¥ほどに、¥かうかう/の¥こころざし/を¥かんじ/て、¥ぶつじん¥おうご/の¥まなじり/をや¥めぐらさ/れ/けん、¥とし¥おい/たる¥やまぶし¥いちにん¥ゆきあひ/たり。¥この¥ちご/の¥ありさま/を¥み/て、¥いたはしく/や¥おもひ/けん、¥「これ/は¥いづく/より¥いづく/を¥さし
P1078
/て、¥おんわたり¥さうらふ/ぞ」/と¥とひ/けれ/ば、¥くまわか、¥ことのやう/を¥ありのままに/ぞ¥かたり/ける。¥やまぶし、¥これ/を¥きき/て、¥われ、¥この¥ひと/を¥たすけ/ず/ば、¥ただいま/の¥ほど/に¥かはゆき¥め/を¥みる/べし/と¥おもひ/けれ/ば、¥「おんこころやすく¥おぼしめさ/れ¥さうらへ。¥みなと/に¥あきんどぶねども¥おほく¥さうらへ/ば、¥のせ¥たてまつつ/て、¥ゑちご・¥ゑつちゆう/の¥かた/まで、¥おけりつけ¥まゐらす/べし」/と¥いひ/て、¥あし¥たゆめ/ば、¥この¥ちご/を¥かた/に¥のせ、¥せなか/に¥おひ/て、¥ほどなく¥みなと/にぞ¥ゆきつき/ける。¥よ¥あけ/て、¥「びんせん/や¥ある」/と¥たづね/ける/に、¥をりふし¥みなと/の¥うち/に、¥ふね¥いつさう/も¥なかり/けり。¥いかが¥せ/ん/と¥もとむる¥ところに、¥はるか/の¥おき/に¥のりうかべ/たる¥たいせん、¥じゆんぷう/に¥なり/ぬ/と¥み/て、¥ほばしら/を¥たて¥〔/て〕¥とま/を¥まく。¥やまぶし¥て/を¥あげ/て、¥「その¥ふね¥これ/へ¥よせ/て¥たび¥たまへ。¥びんせん¥まうさ/ん」/と¥よばはり/けれ/ども、¥かつて¥みみ/にも¥ききいれ/ず、¥ふなびと¥こゑ/を¥ほ/に¥あげ/て、¥みなと/の¥ほか/に¥こぎいだす。¥やまぶし、¥おほきに¥はら/を¥たて/て、¥かきのころも/の¥つゆ/を¥むすび/て¥かた/に¥かけ、¥おき¥ゆく¥ふね/に¥たちむかつ/て、¥いらだかじゆず/を¥さらさらと¥おしもみ/て、¥「いちぢひみつじゆ、¥しやうじやう/に¥かご、¥ぶじしゆぎやうじや、¥ゆによばかぼん/と¥いへ/り。¥いはんや¥たねん/の¥ごんぎやう/において/をや。¥みやうわう/の¥ほんぜい¥あやまら/ず/ば、¥ごんげん・¥こんがうどうじ・¥てんりゆうやしや・¥はちだいりゆうわう、¥その¥ふね、¥こなた/へ¥こぎかへし/て¥たば/せ¥たまへ」/と、¥をどりあがりをどりあがり、¥かんたん/を¥くだき/てぞ¥いのり/ける。¥ぎやうじや/の¥いのり、¥しん/に¥つうじ/て、¥みやうわう¥おうご/や¥し¥たまひ/けん、¥おき/の¥かた/より¥にはかに¥あくふう¥ふききたつ/て、¥この¥ふね¥たちまちに¥くつがへら/ん/と¥し/ける¥あひだ、¥ふなびとども¥あわて/て、¥「やまぶし/の¥ごばう、¥まづ¥われら/を¥おんたすけ¥さうらへ」/と、¥て/を¥あはせ、¥ひざ/を¥かがめ/て、¥てんで/に¥ふね/を¥こぎもどす。¥みぎは¥ちかく¥なり/けれ/ば、¥せんどう¥ふね/より¥とびおり/て、¥ちご/を¥かた/に¥のせ、¥やまぶし/の¥て/を¥ひき/て、¥やかた/の¥うち/に¥いり/たれ/ば、¥かぜ/は¥また¥もと/の
P1079
/ごとく/に¥なほり/て、¥ふね/は¥みなと/を¥いで/に/けり。¥その¥のち¥おひてども、¥ひやくしごじつき¥はせきたり。¥とほあさ/に¥むま/を¥ひかへ/て、¥「あの¥ふね¥とまれ」/と¥まねけ/ども、¥ふなびと、¥これ/を¥み/ぬ¥よし/にて、¥じゆんぷう/に¥ほ/を¥あげ/たれ/ば、¥ふね/は¥その¥ひ/の¥くれほど/に、¥ゑちごのこふ/にぞ¥つき/に/ける。¥くまわか、¥やまぶし/に¥たすけ/られ/て、¥わにのくちのし/を¥のがれ/し/も、¥みやうわう¥かご/の¥おんちかひ、¥けつえん/なり/ける¥しるし/なり。
¥○としもと¥ちゆうせ/らるる¥こと¥ならびに¥すけみつ/が¥こと S0206
¥としもとあつそん/は、¥ことさら¥むほん/の¥ちやうぼん/なれ/ば、¥をんごく/に¥ながす/までも¥ある/べから/ず、¥きんじつ/に¥かまくらぢゆう/にて¥きり¥たてまつる/べし/とぞ¥さだめ/られ/たる。¥この¥ひと、¥たねん/の¥しよぐわん¥あり/て、¥ほつけきやう/を¥ろつぴやくぶ¥みづから¥どくじゆし¥たてまつる/が、¥いま¥にひやくぶ¥のこり/ける/を、¥「ろつぴやくぶ/に¥みて/る¥ほど/の¥いのち/を¥あひまた/れ¥さうらひ/て、¥その¥のち¥ともかくも¥なさ/れ¥さうらへ」/と¥しきりに¥しよまう¥あり/けれ/ば、¥「げにも¥それほど/の¥たいぐわん/を¥はたさ/せ¥たてまつら/ざら/ん/も¥つみ/なり」/とて、¥いま¥にひやくぶ/の¥をはる¥ほど、¥わづか/の¥ひかず/を¥まちくらす、¥いのち/の¥ほど/こそ¥あはれなれ。
¥この¥あつそん/の¥たねん¥めしつかひ/ける¥せいし/に、¥ごとうさゑもんのじようすけみつ/と¥いふ¥もの¥あり。¥しゆう/の¥としもと¥めしとら/れ¥たまひ/し¥のち、¥きたのかた/に¥つき¥まゐらせ、¥さが/の¥おく/に¥しのび/て¥さうらひ/ける/が、¥としもと、¥くわんとう/へ¥めしくださ/れ¥たまふ¥よし/を¥きき¥たまひ/て、¥きたのかた/は、¥たへ/ぬ¥おもひ/に¥ふししづみ/て、¥なげきかなしみ¥たまひ/ける/を¥み¥たてまつる/に、¥かなしみ/に¥たへ/ず/して、¥きたのかた/の¥おんふみ/を¥たまはつ/て、¥すけみつ、¥しのび/て¥かまくら/へぞ¥くだり/ける。
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¥けふあす/の¥ほど/と¥きこえ/しか/ば、¥いま/は¥はや¥きら/れ/もや¥し¥たまひ/つ/らん/と、¥ゆきあふ¥ひと/に¥ことのよし/を¥とひとひ、¥ほどなく¥かまくら/にこそ¥つき/に/けれ。¥うせうべんとしもと/の¥おはする¥あたり/に¥やど/を¥かり/て、¥いかなる¥たより/もがな、¥ことのしさい/を¥まうしいれ/ん/と¥うかがひ/けれ/ども、¥かなは/ず/して¥ひ/を¥すぐし/ける¥ところに、¥「けふ/こそ、¥きやうと/よりの¥めしうど/は、¥きら/れ¥たまふ/べき/なれ。¥あな¥あはれ/や」/なんど¥さたし/けれ/ば、¥すけみつ、¥こは¥いかが¥せ/ん/と¥きも/を¥けし、¥ここかしこ/に¥たち/て¥けんもんし/けれ/ば、¥としもと、¥すでに¥はりごし/に¥のせ/られ/て、¥けはひざか/へ¥いで¥たまふ。¥ここ/にて¥くどうじらうざゑもんのじよう¥うけとり/て、¥かづらはらがをか/に¥おほまく¥ひい/て、¥しきがは/の¥うへ/に¥ざし¥たまへ/り。¥これ/を¥み/ける¥すけみつ/が¥こころのうち、¥たとへ/て¥いは/ん¥かた/も¥なし。¥め¥くれ¥あし/も¥なえ/て、¥たえいる/ばかりに¥あり/けれ/ども、¥なくなく¥くどうどの/が¥まへ/に¥すすみいで/て、¥「これ/は¥うせうべんどの/の¥しこう/の¥もの/にて¥さうらふ/が、¥さいご/の¥やう¥み¥たてまつり¥さうらは/ん¥ため/に、¥はるばると¥まゐり¥さうらふ。¥しかるべく/は¥ごめん/を¥かうぶり/て¥おんまへ/に¥まゐり、¥きたのかた/の¥おんふみ/をも¥げんざん/に¥いれ¥さうらは/ん」/と¥まうし/も¥あへ/ず、¥なみだ/を¥はらはらと¥ながし/けれ/ば、¥くどう/も¥みる/に¥あはれ/を¥もよほさ/れ/て、¥ふかく/の¥なみだ¥せきあへ/ず。¥「しさい¥さうらふ/まじ。¥はや¥まく/の¥うち/へ¥おんまゐり¥さうらへ」/とぞ¥ゆるし/ける。¥すけみつ¥まく/の¥うち/に¥いり/て、¥おんまへ/に¥ひざまづく。¥としもと/は¥すけみつ/を¥うちみ/て、¥「いかにや」/とばかり¥のたまひ/て、¥やがて¥なみだ/に¥むせび¥たまふ。¥すけみつ/も、¥「きたのかた/の¥おんふみ/にて¥さうらふ」/とて、¥おんまへ/に¥さしおき/たる/ばかりにて、¥これ/も¥なみだ/に¥くれ/て、¥かほ/をも¥もちあげ/ず¥なきゐ/たり。¥やや¥しばらく¥あり/て、¥としもと、¥なみだ/を¥おしのごひ、¥ふみ/を¥み¥たまへ/ば、¥「きえかかる¥つゆのみ/の¥おきどころなき/につけても、¥いかなる¥くれ/にか、¥なき¥よ/の¥わかれ/と¥うけたまはり¥さうらは/んず/らん/と、¥こころ/を
P1081
¥くだく¥なみだ/の¥ほど、¥おんおしはかり/も¥なほ¥あさく/なむ」/と、¥ことば/に¥あまり/て¥おもひ/の¥いろ¥ふかく、¥くろみすぐる/まで¥かか/れ/たり。¥としもと、¥いとど¥なみだ/に¥くれ/て、¥よみかね¥たまへ/る¥けしき、¥みる¥ひと¥そで/を¥ぬらさ/ぬ/は¥なかり/けり。¥「すずり/や¥ある」/と¥のたまへ/ば、¥やたて/を¥おんまへ/に¥さしおけ/ば、¥すずり/の¥なか/なる¥こがたな/にて、¥びんのかみ/を¥すこし¥おしきり/て、¥きたのかた/の¥ふみ/に¥まきそへ、¥ひきかへし¥ひとふで¥かき/て、¥すけみつ/が¥て/に¥わたし¥たまへ/ば、¥すけみつ、¥ふところ/に¥いれ/て¥なきしづみ/たる¥ありさま、¥ことわり/にも¥すぎ/て¥あはれなり。¥くどうさゑもん、¥まく/の¥うち/に¥いり/て、¥「あまりに¥とき/の¥うつり¥さうらふ」/と¥すすむれ/ば、¥としもと、¥たたうがみ/を¥とりいだし、¥くび/の¥まはり¥おしのごひ、¥その¥かみ/を¥おしひらき/て、¥じせい/の¥じゆ/を¥かき¥たまふ。
¥こらい¥いつく ¥し/も¥なく¥しやう/も¥なし 。¥ばんり¥くも¥つき/て ¥ちやうかう¥みづ¥きよし JN008
¥ふで/を¥さしおき/て、¥びんのかみ/を¥なで¥たまふ¥ほど/こそ¥あれ、¥たちかげ¥うしろ/に¥ひかれ/ば、¥くび/は¥まへ/に〔/ぞ〕¥おち¥/ける/を、¥みづから¥かかへ/て¥ふし¥たまふ。¥これ/を¥み¥たてまつる¥すけみつ/が¥こころのうち、¥たとへ/て¥いは/ん¥かた/も¥なし。¥さて¥なくなく¥しがい/を¥さうし¥たてまつり、¥むなしき¥ゆいこつ/を¥くび/に¥かけ、¥かたみ/の¥おんふみ¥み/に¥そへ/て、¥なくなく¥きやう/へぞ¥のぼり/ける。
¥きたのかた/は、¥すけみつ/を¥まちつけ/て、¥べんどの/の¥ゆくへ/を¥きか/ん¥こと/の¥うれしさ/に、¥ひとめ/も¥はばから/ず¥すだれ/より¥そと/に¥いでむかひ、¥「いかにや、¥べんのとの/は¥いつごろ/に¥おんのぼり¥ある/べき/との¥おんぺんじ/ぞ」/と¥とひ¥たまへ/ば、¥すけみつ、¥はらはらと¥なみだ/を¥こぼし/て、¥「はや¥きら/れ/させ¥たまひ/て¥さうらふ。¥これ/こそ¥いまはのきは/の¥おんかへりごと/にて¥さうらへ」/とて、¥びんのかみ/と¥せうそく/とを¥さしあげ/て、¥こゑ/も¥をしま/ず¥なき/けれ/ば、¥きたのかた
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/は、¥かたみ/の¥ふみ/と¥はつこつ/を¥み¥たまひ/て、¥うち/へも¥いり¥たまは/ず、¥えん/に¥たふれふし、¥きえいり¥たまひ/ぬ/と¥おどろく¥ほど/に¥みえ¥たまふ。¥ことわり/なる/かな、¥いちじゆ/の¥かげ/に¥やどり、¥いちが/の¥ながれ/を¥くむ¥ほど/も、¥しれ/ず¥しら/ぬ¥ひと/にだに、¥わかれ/と¥なれ/ば¥なごり/を¥をしむ¥ならひ/なる/に、¥いはんや¥れんりのちぎり¥あさから/ず/して、¥ととせあまり/に¥なり/ぬる/に、¥ゆめ/より¥ほか/は¥またも¥あひみ/ぬ、¥このよ/の¥ほか/の¥わかれ/と¥きき/て、¥たえいり¥かなしみ¥たまふ/ぞ¥ことわりなる。¥しじふくにち/と¥まうす/に、¥かたのごとく/の¥ぶつじ¥いとなみ/て、¥きたのかた、¥さま/を¥かへ、¥こき¥すみぞめ/に¥み/を¥やつし、¥しばのとぼそ/の¥あけくれ/は、¥ばうふ/の¥ぼだい/をぞ¥とぶらひ¥たまひ/ける。¥すけみつ/も¥もとどり¥きり/て、¥ながく¥かうやさん/に¥とぢこもり/て、¥ひとへに¥ばうくん/の¥ごしやうぼだい/をぞ¥とぶらひ¥たてまつり/ける。¥ばうふ/の¥ちぎり、¥くんしん/の¥ぎ、¥なき¥あと/までも¥とどまり/て、¥あはれなり/し¥ことども/なり。
¥○てんが¥けい/の¥こと S0207
¥かりやくにねん/の¥はる/の¥ころ、¥なんと/の¥だいじようゐん/の¥ぜんじばう/と、¥ろつぱう/の¥だいしゆ/と¥かくしふ/の¥こと¥あり/て、¥かつせん/に¥およぶ。¥こんだう・¥かうだう・¥なんゑんだう・¥さいこんだう、¥たちまちに¥ひやうくわ/の¥よえん/に¥せうしつ−す。¥また¥げんこうぐわんねん、¥さんもん¥とうだふ/の¥きただに/より¥ひやうくわ¥いでき/て、¥しわうゐん・¥えんみやうゐん・¥だいかうだう・¥ほつけだう・¥じやうぎやうだう、¥いちじに¥くわいじん/と¥なり/ぬ。¥これら/をこそ、¥てんが/の¥さいなん/を¥かねて¥しらする¥ところの¥ぜんさう/か/と、¥ひと¥みな¥たましひ/を¥ひやし/ける/に、¥おなじき¥とし/の¥しちぐわつみつか、¥だいぢしん¥あつ/て、¥きのくに¥せんりのはま/の¥とほひがた、¥にはかに
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¥りくち/に¥なる¥こと¥にじふよちやう/なり。¥また¥おなじき¥なぬか/の¥とりのこく/に、¥ぢしん¥あつ/て、¥ふじ/の¥ぜつちやう¥くづるる¥こと、¥すひやくぢやう/なり/と。¥うらべのしゆくね、¥おほかめ/を¥やき/て¥うらなひ、¥おんやうのはかせ、¥せんもん/を¥ひらき/て¥みる/に、¥「こくわう¥くらゐ/を¥かへ、¥だいじん¥わざはひ/に¥あふ」/と¥あり。¥「かんもん/の¥おもて¥おだやかなら/ず。¥もつとも¥おんつつしみ¥ある/べし」/と¥ひそかに¥そうす。¥「てらでら/の¥くわさい、¥しよしよ/の¥ぢしん、¥ただごと/に¥あら/ず。¥いま/や¥ふしぎ¥いでくる」/と、¥ひとびと¥こころ/を¥おどろかし/ける¥ところに、¥はたして、¥その¥とし/の¥はちぐわつにじふににち、¥とうし¥りやうにん、¥さんぜんよき/にて¥しやうらくす/と¥きこえ/しか/ば、¥なにごと/とは¥しら/ず、¥きやう/に¥また¥いかなる¥こと/や¥あら/んず/らん/と、¥きんごく/の¥ぐんぜい、¥われもわれもと¥はせあつまる。¥きやうぢゆう¥なにとなく、¥もつてのほかに¥さうどうす。
¥りやうし¥すでに¥きやうちやくし/て、¥いまだ¥ふんばこ/をも¥あけ/ぬ¥さき/に、¥なにとかして¥きこえ/けん、¥「こんど¥とうし/の¥しやうらく/は、¥しゆしやう/を¥をんごく/へ¥うつし¥まゐらせ、¥おほたふのみや/を¥しざい/に¥おこなひ¥たてまつら/ん¥ため/なり」/と、¥さんもん/に¥ひろう¥あり/けれ/ば、¥はちぐわつにじふしにち/の¥よ/に¥いり/て、¥おほたふのみや/より、¥ひそかに¥おんつかひ/をもつて、¥しゆしやう/へ¥まうさ/せ¥たまひ/ける/は、¥「こんど¥とうし¥しやうらく/の¥こと、¥ないない¥うけたまはり¥さうらへ/ば、¥くわうきよ/を¥をんごく/へ¥うつし¥たてまつり、¥そんうん/を¥しざい/に¥おこなは/ん¥ため/にて¥さうらふ/なる。¥こんや、¥いそぎ¥なんと/の¥かた/へ¥おんしのび¥さうらふ/べし。¥じやうくわく¥いまだ¥ととのは/ず、¥くわんぐん¥はせさんぜ/ざる¥さき/に、¥きようと¥もし¥くわうきよ/に¥よせきたら/ば、¥みかた¥ふせきたたかふ/に¥り/を¥うしなひ¥さうらは/ん/か。¥かつうは、¥きやうと/の¥てき/を¥さいぎりとめ/ん/が¥ため、¥または¥しゆと/の¥こころ/を¥み/ん/が¥ため/に、¥きんしん/を¥いちにん、¥てんし/の¥がう/を¥ゆるさ/れ/て、¥さんもん/へ¥のぼせ/られ、¥りんかう/の¥よし/を¥ひろう¥さうらは/ば、¥てきぐん¥さだめて¥えいさん/に¥むかつ/て、¥かつせん/を¥いたし¥さうらは/ん/か。¥さる¥ほど/なら/ば、¥しゆと、¥わがやま/を¥おもふ¥ゆゑ/に、¥ふせきたたかふ/に¥しんみやう/を¥かろんじ¥さうらふ/べし。
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¥きようと¥ちから¥つかれ、¥かつせん¥すじつ/に¥およば/ば、¥いが・¥いせ・¥やまと・¥かはち/の¥くわんぐん/をもつて、¥かへつて、¥きやうと/を¥せめ/られ/ん/に、¥きようと/の¥ちゆうりく、¥くびす/を¥めぐらす/べから/ず。¥こつか/の¥あんき、¥ただ¥この¥いつこ/に¥ある/べく¥さうらふ/なり」/と¥まうさ/れ/たり/ける¥あひだ、¥しゆしやう、¥ただ¥あきれ/させ¥たまへ/る/ばかりにて、¥なにの¥ごさた/にも¥および¥たまは/ず。¥ゐんだいなごんもろかた・¥までのこうぢのちゆうなごんふぢふさ、¥おなじき¥しやてい¥すゑふさ、¥さんしにん¥うへぶしし/たる/を¥おんまへ/に¥めさ/れ/て、¥「この¥こと¥いかが¥ある/べき」/と¥おほせいださ/れ/けれ/ば、¥ふぢふさのきやう¥すすみ/て¥まうさ/れ/ける/は、¥「げきしん、¥きみ/を¥をかし¥たてまつら/ん/と¥する¥とき、¥しばらく¥その¥なん/を¥さけ/て、¥かへつて¥こつか/を¥たもつ/は、¥ぜんしよう、¥みな¥かれい/にて¥さうらふ。¥いはゆる¥ちようじ/は¥てき/に¥はしり、¥だいわう¥〔/は〕¥ひん/に¥ゆく。¥ともに¥わうげふ/を¥なし/て、¥しそん¥むぐうに¥ひかり/を¥さかえ/し¥さうらひ/き。¥とかく/の¥ごしあん/に¥および¥さうらは/ば¥よ/も¥ふけ¥さうらひ/な/ん。¥はや¥おんしのび¥さうらへ」/とて、¥おんくるま/を¥さしよせ、¥さんじゆのしんぎ/を¥のせ¥たてまつり、¥したすだれ/より¥だしぎぬ¥いだし/て、¥にようばうぐるま/の¥てい/に¥みせ、¥しゆしやう/を¥たすけのせ¥まゐらせ/て、¥やうめいもん/より¥なし¥たてまつる。¥ごもん¥しゆご/の¥ぶしども、¥おんくるま/を¥おさへ/て、¥「たれ/にて¥おんわたり¥さうらふ/ぞ」/と、¥とひまうし/けれ/ば、¥ふぢふさ・¥すゑふさ¥ににん、¥おんくるま/に¥したがつ/て¥ぐぶし/たり/ける/が、¥「これ/は¥ちゆうぐう/の¥よ/に¥まぎれ/て、¥きたやまどの/へ¥ぎやうけい¥なら/せ¥たまふ/ぞ」/と¥のたまひ/たり/けれ/ば、¥「さては¥しさい¥さうらは/じ」/とて、¥おんくるま/をぞ¥とほし/ける。¥かねて¥ようい/や¥し/たり/けん、¥げんちゆうなごんともゆき・¥あぜちのだいなごんきんとし・¥ろくでうのせうしやうただあき、¥さんでうがはら/にて¥おつつき¥たてまつる。¥これ/より¥おんくるま/をば¥やめ/られ、¥あやしげなる¥はりごし/に¥めしかへ/させ¥まゐらせ/たれ/ども、¥にはか/の¥こと/にて、¥かよちやう/も¥なかり/けれ/ば、¥だいぜんのだいぶしげやす・¥がくにん¥とよはらのかねあき・¥ずいじん¥はだのひさたけ/なんど/ぞ¥おんこし/をば¥かき¥たてまつり/ける。¥ぐぶ
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/の¥しよきやう、¥みな¥いくわん/を¥とき/て、¥をりえぼし/に¥ひたたれ/を¥ちやくし、¥しちだいじまうでする¥きやうけ/の¥せいし/なんど/の、¥によしやう/を¥ぐそくし/たる¥てい/に¥みせ/て、¥おんこし/の¥ぜんご/にぞ¥ぐぶし/たり/ける。¥こづ/の¥いしぢざう/を¥すぎ/させ¥たまひ/ける¥とき、¥よ/は¥はや¥ほのぼのと¥あけ/に/けり。¥これ/にて¥あさがれひのぐご/を¥すすめまうし/て、¥まづ¥なんと/の¥とうなんゐん/へ¥いら/せ¥たまふ。¥かの¥そうじやう、¥もとより¥ふたごころなき¥ちゆうぎ/を¥そんせ/しか/ば、¥まづ¥りんかう¥なり/たる¥〔よし〕/をば¥ひろうせ/で、¥しゆと/の¥こころ/を¥うかがひきく/に、¥にしむろ/の¥けんじつそうじやう/は、¥くわんとう/の¥いちぞく/にて、¥けんせい/の¥もんしゆ/たる¥あひだ、¥みな¥その¥ゐ/にや¥おそれ/たり/けん、¥よりきする¥しゆと/も¥なかり/けり。¥かくては¥なんと/の¥くわうきよ¥かなふ/まじ/とて、¥よくじつ¥にじふろくにち、¥わつか/の¥じゆぼうせん/へ¥いら/せ¥たまふ。¥これ/は¥また¥あまりに¥やま¥ふかく、¥さと¥とほく/して、¥なにごと/の¥けいりやく/も¥かなふ/まじき¥ところ/なれ/ば、¥えうがい/に¥ごぢん/を¥めさ/る/べし/とて、¥おなじき¥にじふしちにち、¥せんかう/の¥ぎしき/を¥ひきつくろひ、¥なんと/の¥しゆと¥せうせう¥めしぐせ/られ/て、¥かさぎ/の¥いはむろ/へ¥りんかう¥なる。
¥○もろかた¥とうざん/の¥こと¥つけたり¥からさきのはまかつせん/の¥こと S0208
¥ゐんだいなごんもろかたのきやう/は、¥しゆしやう/の¥だいり/を¥ぎよしゆつ¥あり/し¥よ、¥さんでうがはら/まで¥ぐぶせ/られ/たり/し/を、¥おほたふのみや/より¥さまざま¥おほせ/られ/つる¥しさい¥あれ/ば、¥りんかう/の¥よし/にて¥さんもん/へ¥のぼり、¥しゆと/の¥こころ/をも¥うかがひ、¥また¥せい/をも¥つけ/て¥かつせん/を¥いたせ/と¥おほせ/られ/けれ/ば、¥もろかた、¥ほつしようじ/の¥まへ/より、¥こんりようのぎよい
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/を¥ちやくし/て、¥えうよ/に¥のりかへ/て、¥さんもん/の¥さいたふゐん/へ¥のぼり¥たまふ。¥しでうのちゆうなごんたかすけ・¥にでうのちゆうじやうためあきら・¥なかのゐんのさちゆうじやうさだひら、¥みな¥いくわん¥ただしく/して、¥ぐぶ/の¥てい/に¥あひしたがふ。¥こと/の¥ぎしき、¥まことしく/ぞ¥みえ/たり/ける。¥さいたふ/の¥しやかだう/を¥くわうきよ/と¥なさ/れ、¥しゆしやう、¥さんもん/を¥おんたのみ¥あつ/て¥りんかう¥なり/たる¥よし、¥ひろう¥あり/けれ/ば、¥さんじやう・¥さかもと/は¥まうす/に¥およば/ず、¥おほつ・¥まつもと・¥とづ・¥ひえつじ・¥あふぎ・¥きぬがは・¥わに・¥かただ/の¥もの/までも、¥われさきに/と¥はせまゐる。¥その¥せい、¥とうざいりやうたふ/に¥じゆうまんし/て、¥うんか/の/ごとく/にぞ¥みえ/たり/ける。
¥かかりけれども、¥ろくはら/には¥いまだ¥かつて、¥これ/を¥しら/ず。¥よ¥あけ/けれ/ば、¥とうし¥りやうにん、¥だいり/へ¥まゐつ/て、¥まづ¥ぎやうがう/を¥ろくはら/へ¥なし¥たてまつら/ん/とて¥うつたち/ける¥ところに、¥じやうりんばうのあじやりがうよ/が¥もと/より、¥ろくはら/へ¥ししや/を¥たて/て、¥「こんや/の¥とらのこく/に、¥しゆしやう、¥さんもん/を¥おんたのみ¥あつ/て、¥りんかう¥なり/たる¥あひだ、¥さんぜん/の¥しゆと¥ことごとく¥はせまゐり¥さうらふ。¥あふみ・¥ゑちぜん/の¥ごせい/を¥まち/て、¥あす/は¥ろくはら/へ¥よせ/らる/べき¥よし¥ひやうぢやう¥あり。¥こと/の¥おほきに¥なり¥さうらは/ぬ¥さき/に、¥いそぎ¥ひんがしさかもと/へ¥ごせい/を¥むけ/られ¥さうらへ。¥がうよ、¥うしろぜめ¥つかまつり/て、¥しゆしやう/をば¥とり¥たてまつる/べし」/とぞ¥まうし/たり/ける。¥りやうろくはら、¥おほきに¥おどろき/て、¥まづ¥だいり/へ¥まゐつ/て¥み¥たてまつる/に、¥しゆしやう/は¥ござ¥なく/て、¥ただ¥つぼねまち/の¥にようばうたち、¥ここかしこ/に¥さしつどひ/て、¥なく¥こゑ/のみぞ¥し/たり/ける。¥「さては、¥さんもん/へ¥おち/させ¥たまひ/たる¥こと¥しさいなし。¥せい¥つか/ぬ¥さき/に、¥さんもん/を¥せめよ」/とて、¥しじふはちかしよ/の¥かがり/に、¥きない¥ごかこく/の¥せい/を¥さしそへ/て、¥ごせんよき¥おふて/の¥よせて/として、¥せきさん/の¥ふもと、¥さがりまつ/の¥へん/へ¥さしむけ/らる。¥からめて/へは、¥ささきのさぶらうはうぐわんときのぶ・
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¥かいどうさこんのしやうげん・¥ながゐたんごのかみむねひら・¥ちくごのせんじさだとも・¥はだのかうづけのせんじのぶみち・¥ひたちのせんじときとも/に、¥みの・¥をはり・¥たんば・¥たぢま/の¥せい/を¥さしそへ/て¥しちせんよき、¥おほつ・¥まつもと/を¥へ/て、¥からさきのまつ/の¥へん/まで¥よせかけ/たり。
¥さかもと/には、¥かねて/より¥あひづ/を¥さし/たる¥こと/なれ/ば、¥めうほふゐん・¥おほたふのみや¥りやうもんしゆ、¥よひ/より¥はちわうじ/へ¥おんのぼり¥あつ/て、¥おんはた/を¥あげ/られ/たる/に、¥ごもんと/の¥ごしやうゐん/の¥そうづいうぜん・¥めうくわうばう/の¥あじやりげんそん/を¥はじめ/として、¥さんびやくき、¥ごひやくき、¥ここかしこ/より¥はせまゐり/ける¥ほどに、¥いちや/の¥あひだ/に、¥ごせい¥ろくせんよき/に¥なり/に/けり。¥てんだいのざす/を¥はじめ/て、¥げだつどうさうのおんころも/を¥ぬぎ¥たまひ/て、¥けんかふりへい/の¥おんかたち/に¥かはる。¥すいしやくわくわう/の¥みぎり¥たちまちに¥へんじ/て、¥ゆうし¥しゆぎよ/の¥ば/と¥なり/ぬれ/ば、¥しんりよ/も¥いかが¥あら/ん/と、¥はかりがたく/ぞ¥おぼえ/たる。
¥さるほどに、¥ろくはら/の¥せい¥すでに¥とづのしゆく/の¥へん/まで¥よせ/たり/と、¥さかもと/の¥うち¥さうどうし/けれ/ば、¥みなみぎしのゑんしゆうゐん、¥なかのばうしようぎやうばう、¥はやりを/の¥どうじゆくども、¥とるものもとりあへず、¥からさきのはま/へ¥いであひ/ける。¥その¥せい¥みな¥かちだち/にて、¥しかも¥さんびやくにん/には¥すぎ/ざり/けり。¥かいどう、¥これ/を¥み/て、¥「てき/は¥こぜい/なり/ける/ぞ。¥ごぢん/の¥せい/の¥かさなら/ぬ¥さき/に、¥かけちらさ/では¥かなふ/まじ。¥つづけ/や¥ものども」/と¥いふ¥ままに、¥さんじやくしすん/の¥たち/を¥ぬき/て、¥よろひ/の¥いむけ/の¥そで/を¥さしかざし、¥てき/の¥うづまき/て¥ひかへ/たる¥まんなか/へ¥かけいり、¥てき¥さんにん¥きりふせ、¥なみうちぎは/に¥ひかへ/て、¥つづく¥みかた/をぞ¥まち/たり/ける。¥をかもと−ばう/の¥はりまのりつしやくわいじつ、¥はるかに¥これ/を¥み/て、¥まへ/に¥つきならべ/たる¥もちだて¥いちでふ、¥がばと¥ふみたふし、¥にしやくはつすん
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/の¥こなぎなた、¥みづぐるま/に¥まはし/て¥をどりかかる。¥かいどう、¥これ/を¥ゆんで/に¥うけ、¥かぶと/の¥はち/を¥まつぷたつ/に¥うちわら/ん/と、¥かたてうち/に¥うち/ける/が、¥うちはづし/て、¥そで/の¥かぶりのいた/より¥ひしぬひのいた/まで、¥かたすぢかひ/に¥かけず¥きつ/て¥おとす。¥にのたち/を¥あまりに¥つよく¥きら/ん/とて、¥ゆんで/の¥あぶみ/を¥ふみをり、¥すでに¥むま/より¥おち/ん/と¥し/ける/が、¥のりなほり/ける¥ところ/を、¥くわいじつ、¥なぎなた/の¥え/を¥とりのべ、¥うちかぶと/へ¥きつさきあがり/に¥ふたつみつ、¥すきま/も¥なく¥いれ/たり/ける/に、¥かいどう¥あやまた/ず、¥のどぶえ/を¥つか/れ/て、¥むま/より¥まつさかさまに¥おち/に/けり。¥くわいじつ、¥やがて¥かいどう/が¥あげまき/に¥のりかかり、¥びんのかみ/を¥つかみ/て¥ひつかけ/て、¥くび¥かききつ/て¥なぎなた/に¥つらぬき、¥「ぶけ/の¥たいしやう¥いちにん¥うつとり/たり。¥ものはじめ¥よし」/と¥よろこび/て、¥あざわらひ/てぞ¥たつ/たり/ける。¥ここに¥なにもの/とは¥しら/ず、¥けんぶつしゆ/の¥なか/より、¥とし¥じふごろく/ばかり/なる¥ちご/の、¥かみ¥からわ/に¥あげ/たる/が、¥きぢん/の¥どうまる/に、¥おほくち/の¥そば¥たかく¥とり、¥こがねづくり/の¥こたち/を¥ぬき/て、¥くわいじつ/に¥はしりかかり、¥かぶと/の¥はち/を¥したたかに、¥みうちようち/ぞ¥うち/たり/ける。¥くわいじつ、¥きつと¥ふりかへつ/て、¥これ/を¥みる/に、¥よはひ¥じはち/ばかり/なる¥こちご/の、¥おほまゆ/に¥かねぐろ/なり。¥これほど/の¥ちご/を¥うちとめ/たら/ん/は、¥ほふし/の¥み/にとつては¥なさけなし。¥うた/じ/と¥すれ/ば¥はしりかかりはしりかかり、¥てしげく¥きりまはり/ける¥あひだ、¥よしよし¥さらば¥なぎなた/の¥え/にて、¥たち/を¥うちおとし/て、¥くみとめ/ん/と¥し/ける¥ところ/を、¥ひえつじ/の¥ものども/が、¥た/の¥あぜ/に¥たちわたつ/て¥い/ける¥よこや/に、¥この¥ちご¥むないた/を¥つと¥いぬか/れ/て、¥やにはに¥ふし/て¥しに/に/けり。¥のち/に¥たれ/ぞ/と¥たづぬれ/ば、¥かいどう/が¥ちやくし、¥かうわかまる/と¥いひ/ける¥こちご、¥ちち/が¥とめおき/ける/によつて、¥いくさ/の¥とも/をば¥せ/ざり/ける/が、¥なほも¥おぼつかなく/や¥おもひ/けん、¥けんぶつしゆ/に¥まぎれ/て、¥あと/に¥つい/て¥きたり/ける/なり。
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¥かうわか¥をさなし/と¥いへ/ども、¥ぶしのいへ/に¥うまれ/たる¥ゆゑ/にや、¥ちち/が¥うた/れ/ける/を¥み/て、¥おなじく¥せんぢやう/に¥うちじにし/て、¥な/を¥のこし/ける/こそ¥あはれなれ。¥かいどう/が¥らうどう、¥これ/を¥み/て、¥「ににん/の¥しゆう/を¥めのまへ/に¥うた/せ、¥あまつさへ¥くび/を¥てき/に¥とら/せ/て、¥いき/て¥かへる¥もの/や¥ある/べき」/とて、¥さんじふろくき/の¥ものども、¥くつばみ/を¥ならべ/て¥かけいり、¥しゆう/の¥しがい/を¥まくら/に¥し/て、¥うちじにせ/ん/と¥あひあらそふ。¥くわいじつ、¥これ/を¥み/て¥からからと¥うちわらひ/て、¥「こころえ/ぬ¥もの/かな。¥ごへんたち/は、¥てき/の¥くび/をこそ¥とら/んずる/に、¥みかた/の¥くび/を¥ほしがる/は、¥ぶけ¥じめつ/の¥ずいさう¥あらはれ/たり。¥ほしから/ば、¥すは¥とら/せ/ん」/と¥いふ¥ままに、¥もち/たる¥かいどう/が¥くび/を¥てき/の¥なか/へ¥がばと¥なげかけ、¥さかもとやう/の¥をがみぎり、¥はつぱう/を¥はらひ/て¥ひ/を¥ちらす。¥さんじふろくき/の¥ものども、¥くわいじつ¥いちにん/に¥きりたて/られ/て、¥むま/の¥あし/をぞ¥たてかね/たる。¥ささきさぶらうはうぐわんときのぶ、¥うしろ/に¥ひかへ/て、¥「みかた¥うた/す/な、¥つづけ/や」/と¥げぢし/けれ/ば、¥いば・¥めかだ・¥きむら・¥まぶち、¥さんびやくよき¥おめい/て¥かかる。¥くわいじつ、¥すでに¥うた/れ/ぬ/と¥みえ/ける¥ところに、¥けいりんばう/の¥あくさぬき、¥なかのばう/の¥こさがみ、¥しようぎやうばう/の¥じじゆうりつしやぢやうくわい、¥こんれんばう/の¥はうきぢきげん、¥しにん¥さう/より¥わたりあひ/て、¥きつさき/を¥さしあはせ/て¥きつ/て¥まはる。¥さぬき/と¥ぢきげん/と¥おなじ−ところ/にて¥うた/れ/に/けれ/ば、¥ごぢん/の¥しゆと¥ごじふよにん、¥つづき/て¥また¥うつ/て¥かかる。¥からさきのはま/と¥まうす/は、¥ひんがし/は¥みづうみ/にて、¥その¥みぎは¥くづれ/たり。¥にし/は¥ふかだ/にて、¥むま/の¥あし/も¥たた/ず。¥へいさ¥べうべうと/して¥みち¥せばし。¥うしろ/へ¥とりまはさ/ん/と¥する/も¥かなは/ず、¥なか/に¥とりこめ/ん/と¥する/も¥かなは/ず、¥されば¥しゆと/も¥よせて/も、¥たがひに¥おもて/に¥たつ/たる¥もの/ばかり¥たたかう/て、¥ごぢん/の¥せい/は¥いたづらに¥けんぶつし/てぞ¥ひかへ/たる。
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¥すでに¥からさき/に¥いくさ¥はじまり/たり/と¥きこえ/けれ/ば、¥ごもんと/の¥せい¥さんぜんよき、¥しらゐ/の¥まへ/を¥いまみち/へ¥むかふ。¥ほんゐん/の¥しゆと¥しちせんよにん、¥さんのみやはやし/を¥おりくだる。¥わに・¥かただ/の¥ものども/は¥こぶね¥さんびやくよさう/に¥とりのつ/て、¥てき/の¥うしろ/を¥さいぎら/ん/と、¥おほつ/を¥さし/て¥こぎまはす。¥ろくはら/の¥せい、¥これ/を¥み/て、¥かなは/じ/とや¥おもひ/けん、¥しが/の¥えんまだう/の¥まへ/を¥よこぎり/に、¥いまみち/に¥かかり/て¥ひつかへす。¥しゆと/は¥あんないしや/なれ/ば、¥ここかしこ/の¥つまりつまり/に¥おちあひ/て、¥さんざんに¥いる。¥ぶし/は¥みな¥ぶあんない/なれ/ば、¥ほり・¥がけ/とも¥いは/ず、¥むま/を¥はせ−たふし/て、¥ひきかね/ける¥あひだ、¥ごぢん/に¥ひき/ける¥かいどう/が¥わかたう¥はちき、¥はだの/が¥らうどう¥じふさんき、¥まののにふだう¥ふし¥ににん、¥ひらゐくらう¥しゆじゆう¥にき、¥たにぞこ/にして¥うた/れ/に/けり。¥ささきはうぐわん/も¥むま/を¥い/させ/て¥のりかへ/を¥まつ¥ほどに、¥たいてき¥さう/より¥とりまき/て、¥すでに¥うた/れ/ぬ/と¥みえ/ける/を、¥な/を¥をしみ、¥めい/を¥かろんずる¥わかたうども、¥かへしあはせかへしあはせ、¥ところどころ/にて¥うちじにし/ける¥その¥あひだ/に、¥ばんし/を¥いで/て¥いつしやう/に¥あひ、¥はくちう/に¥きやう/へ¥ひつかへす。
¥このころ/まで/は、¥てんが¥ひさしく¥しづかに/して、¥いくさ/と¥いふ¥こと/は¥あへて¥みみ/にも¥ふれ/ざり/し/に、¥にはかなる¥ふしぎ¥いでき/ぬれ/ば、¥ひと¥みな¥あわてさわぎ/て、¥てんち/も¥ただいま¥うちかへす¥やうに、¥さたせ/ぬ¥ところ/も¥なかり/けり。
¥○ぢみやうゐんどの¥ろくはら/へ¥ごかう/の¥こと S0209
P
¥せじやう¥みだれ/たる¥をりふし/なれ/ば、¥やしん/の¥ものども/の¥とり¥まゐらする¥こと/もや/とて、¥きのふ¥にじふしちにち/の¥みのこく/に、¥ぢみやうゐんのほんゐん・¥とうぐう¥りやうごしよ、¥ろくでうどの/より¥ろくはら/の¥きたのかた/へ¥ごかう¥なる。¥ぐぶ/の¥ひとびと/には、¥いまでがはのさきのうだいじんかねすゑこう・¥さんでうのだいなごんみちあき・¥さいをんじだいなごんきんむね・¥ひののさきのちゆうなごんすけな・¥ばうじやうのさいしやうつねあき・¥ひののさいしやうすけあきら、¥みな¥いくわん/にて、¥おんくるま/の¥ぜんご/に¥あひしたがふ。¥その¥ほか/の¥ほくめん・¥しよし・¥かくごん/は、¥たいりやく¥かりぎぬ/の¥した/に¥はらまき/を¥きすかし/たる/も¥あり。¥らくちゆう¥しゆゆ/に¥へんくわし/て、¥りくぐん¥すいくわ/を¥けいごし¥たてまつる。¥けんもん¥じぼく/を¥おどろかせ/り。
¥○しゆしやう¥りんかう¥じつじ/に¥あら/ざる/によつて¥さんもん¥ぎ/を¥へんずる¥こと¥つけたり¥きしん/が¥こと S0210
¥さんもん/の¥だいしゆ、¥からさきのかつせん/に¥うちかつ/て、¥ことはじめ¥よし/と¥よろこびあへ/る¥こと¥ななめならず。¥ここに¥さいたふ/を¥くわうきよ/に¥さだめ/らるる¥でう、¥ほんゐん¥めんぼくなき/に¥に/たり。¥じゆえい/の¥いにしへ、¥ごしらかはのゐん、¥さんもん/を¥おんたのみ¥あり/し¥とき/も、¥まづ¥よかは/へ¥ごとうざん¥あり/しか/ども、¥やがて¥とうだふ/の¥みなみだに、¥ゑんゆうばう/へこそ¥おんうつり¥あり/しか。¥かつうは¥せんじよう/なり、¥かつうは¥きちれい/なり。¥はやく¥りんかう/を¥ほんゐん/へ¥なし¥たてまつる/べし/と、¥さいたふゐん/へ¥ふれおくる。¥さいたふ/の¥しゆと、¥り/に¥をれ/て、¥せんひつ/を¥うながさ/ん¥ため/に、¥くわうきよ/に¥さんれつす。¥をりふし¥みやまおろし¥はげしく/して、¥みす/を¥ふきあげ/たる/より、¥りようがん/を¥はいし¥たてまつり/たれ/ば、¥しゆしやう/にては¥おはしまさ/ず、¥ゐんのだいなごんもろかた/の、¥てんし/の¥こんえ/を¥ちやくし¥たまへ/る/にてぞ¥あり/ける。¥だいしゆ、¥これ/を¥み/て、¥「こは¥いかなる
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¥てんぐ/の¥しよぎやう/ぞや」/と¥きよう/を¥さます。¥その¥のち/よりは、¥まゐる¥だいしゆ¥いちにん/も¥なし。¥かくては¥さんもん¥いかなる¥やしん/をか¥そんせ/んず/らん/と¥おぼえ/けれ/ば、¥その¥よ/の¥やはん/ばかりに、¥ゐんのだいなごんもろかた・¥しでうのちゆうなごんたかすけ・¥にでうのちゆうじやうためあきら、¥しのび/て¥さんもん/を¥おち/て、¥かさぎ/の¥いはむろ/へ¥まゐら/る。¥さるほどに、¥じやうりんばうあじやりがうよ/は、¥ぐわんらい¥ぶけ/へ¥こころ/を¥よせ/しか/ば、¥おほたふのみや/の¥しつし、¥あぐゐのちゆうなごんほふいんちようしゆん/を¥いけどり/て、¥ろくはら/へ¥これ/を¥いだす。¥ごしやうゐんそうづいうぜん/は、¥ごもんと/の¥なか/の¥だいみやう/にて、¥はちわうじ/の¥いちのきど/を¥かため/たり/し/かば、¥かくては¥かなは/じ/とや¥おもひ/けん、¥どうじゆく、¥てのもの¥ひきつれ/て、¥ろくはら/へ¥かうさんす。¥これ/を¥はじめ/として、¥ひとり¥おち、¥ふたり¥おち、¥おちゆき/ける¥あひだ、¥いま/は¥くわうりんばう/の¥りつしげんぞん・¥めうくわうばう/の¥こさがみ・¥なかのばう/の¥あくりつし¥さんしにん/より¥ほか/は、¥おちとまる¥しゆと/も¥なかり/けり。
¥めうほふゐん/と¥おほたふのみや/とは、¥その¥よ/まで、¥なほ¥はちわうじ/に¥ござ¥あり/ける/が、¥かくては¥あしかり/ぬ/べし/と、¥ひとまど/も¥おちのび/て、¥きみ/の¥おんゆくへ/をも¥うけたまはら/ばや/と¥おぼしめさ/れ/けれ/ば、¥にじふくにち/の¥やはん/ばかりに、¥はちわうじ/に¥かがりび/を¥あまたどころ/に¥たか/せ/て、¥いまだ¥おほぜい/の¥こもり/たる¥よし/を¥みせ、¥とづのはま/より¥こぶね/に¥めさ/れ、¥おちとまる¥ところの¥しゆと¥さんびやくにん/ばかりを¥めしぐせ/られ/て、¥まづ¥いしやま/へ¥おち/させ¥たまふ。¥これ/にて、¥「りやうもんしゆ¥いつしよ/へ¥おち/させ¥たまは/ん¥こと/は、¥けいりやく¥とほから/ぬ/に¥に/たる¥うへ、¥めうほふゐん/は¥ごぎやうぶ/も¥かひがひしから/ね/ば、¥ただ¥しばらく¥この¥へん/に¥ござ¥ある/べし」/とて、¥いしやま/より¥ににん¥ひきわかれ/させ¥たまひ/て、¥めうほふゐん/は¥かさぎ/へ¥こえ/させ¥たまへ/ば、¥おほたふのみや/は¥とつかは/の¥おく/へ/と¥こころざし/て、¥まづ¥なんと
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/の¥かた/へぞ¥おち/させ¥たまひ/ける。¥さしも¥や〔ん〕ごとなき¥いつさん/の¥くわんじゆ/の¥くらゐ/を¥すて/て、¥いまだ¥ならは/せ¥たまは/ぬ¥ばんり¥へうはく/の¥たび/に¥うかれ/させ¥たまへ/ば、¥いわう・¥さんわう/の¥けちえん/も、¥これ/や¥かぎり/と¥なごりをしく、¥ちくゑんれんし/の¥さいくわい/も、¥いま/は¥いつ/をか¥ごす/べき/と、¥おんこころぼそく¥おぼしめさ/れ/けれ/ば、¥たがひに¥へだたる¥おんかげ/の、¥かくるる/までに¥かへりみ/て、¥なくなく¥とうざい/へ¥わかれ/させ¥たまふ¥おんこころのうち/こそ¥かなしけれ。¥そもそも¥こんど¥しゆしやう、¥まことに¥さんもん/へ¥りんかう¥なら/ざる/によつて、¥しゆと/の¥こころ¥たちまちに¥へんずる¥こと、¥いつたん¥こと¥なら/ず/と¥いへ/ども、¥つらつら¥ことのやう/を¥あんずる/に、¥これ¥えいち/の¥あさから/ざる¥ところ/に¥いで/たり。¥むかし、¥がうしん¥ほろび/て¥のち、¥そ/の¥かうう/と¥かん/の¥かうそ/と¥くに/を¥あらそふ¥こと¥はちかねん、¥いくさ/を¥いどむ¥こと¥しちじふよかど/なり。¥その¥たたかひ/の¥たび¥ごと/に、¥かうう、¥つねに¥かつにのり/て、¥かうそ、¥はなはだ¥くるしめ/る¥こと¥おほし。¥あるとき、¥かうそ、¥けいやうのじやう/に¥こもる。¥かうう、¥つはもの/をもつて¥じやう/を¥かこむ¥こと¥すひやくぢゆう/なり。¥ひ/を¥へ/て、¥じやうちゆう/に¥かて¥つき/て、¥つはもの¥つかれ/けれ/ば、¥かうそ¥たたかは/ん/と¥する/に¥ちから¥なく、¥のがれ/ん/と¥する/に¥みち¥なし。¥ここに、¥かうそ/の¥しん/に¥きしん/と¥いひ/ける¥つはもの、¥かうそ/に¥むかつ/て¥まうし/ける/は、¥「かうう、¥いま、¥じやう/を¥かこみ/ぬる¥こと¥すひやくぢゆう、¥かん¥すでに¥しよく¥つき/て、¥しそつ¥また¥つかれ/たり。¥もし¥つはもの/を¥いだし/て¥たたかは/ば、¥かん¥かならず¥そ/の¥ため/に¥とりこ/と¥なら/ん。ただ¥てき/を¥あざむき/て、¥ひそかに¥じやう/を¥にげいで/ん/には¥しかじ。¥ねがはくは、¥しん、¥いま、¥かんわう/の¥いみな/を¥をかし/て、¥そ/の¥ぢん/に¥かうせ/ん。¥そ、¥これ/に¥かこみ/を¥とき/て¥しん/を¥え/ば、¥かんわう、¥すみやかに¥じやう/を¥いで/て、¥かさねて¥たいぐん/を¥おこし、¥かへつて¥そ/を¥ほろぼし¥たまへ」/と¥まうし/けれ/ば、¥きしん/が¥たちまちに¥そ/に¥くだり/て¥ころさ/れ/ん¥こと¥かなしけれ/ども、¥かうそ、¥しやしよく/の¥ため/に¥み/を¥かろく¥す/べき/に¥あら/ざれ/ば、¥ちからなく¥なみだ/を¥おさへ、¥わかれ/を¥したひ/ながら、¥きしん/が¥はかりごと/に¥したがひ¥たまふ。
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¥きしん¥おほきに¥よろこび/て、¥みづから¥かんわう/の¥ぎよい/を¥ちやくし、¥くわうをくのくるま/に¥のり、¥さたう/を¥つけ/て、¥「かうそ/の¥つみ/を¥しやし/て、¥そ/の¥だいわう/に¥かうす」/と¥よばはり/て、¥じやう/の¥とうもん/より¥いで/たり/けり。¥そ/の¥つはもの、¥これ/を¥きき/て、¥しめん/の¥かこみ/を¥とき/て、¥いつしよ/に¥あつまる。¥ぐんぜい¥みな¥ばんぜい/を¥となふ。¥この¥あひだ/に、¥かうそ、¥さんじふよき/を¥したがへ/て¥じやう/の¥さいもん/より¥いで/て、¥せいかう/へぞ¥おち¥たまひ/ける。¥よ¥あけ/て¥のち、¥そ/に¥くだる¥かんわう/を¥みれ/ば、¥かうそ/には¥あら/ず、¥その¥しん/に¥きしん/と¥いふ¥もの/なり/けり。¥かうう¥おほきに¥いかり/て、¥つひに¥きしん/を¥さしころす。¥かうそ、¥やがて¥せいかう/の¥つはもの/を¥そつし/て、¥かへつて¥かうう/を¥せむ。¥かうう/が¥いきほひ¥つき/て¥のち、¥つひに¥をかう/にして¥うた/れ/しか/ば、¥かうそ、¥ながく¥かん/の¥わうげふ/を¥おこし/て、¥てんが/の¥しゆ/と¥なり/に/けり。¥いま、¥しゆしやう/も、¥かかり/し¥かれい/を¥おぼしめし、¥もろかた/も¥かやう/の¥ちゆうせつ/を¥ぞんぜ/られ/ける¥〔ゆゑ〕/にや。¥かれ/は¥てき/の¥かこみ/を¥とか/せ/ん¥ため/に¥いつはり、¥これ/は¥かたき/の¥つはもの/を¥さいぎら/ん¥ため/に¥はかれ/り。¥わかん、¥とき¥ことなれ/ども、¥くんしん、¥たい/を¥あはせ/たる¥〔こと〕、¥まことに¥せんざいいちぐう/の¥ちゆうてい、¥きやうこく¥へんくわ/の¥ちぼう/なり。
¥たいへいきくわんだいに
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