太平記 巻第一 総平仮名版




たいへいきくわんだいいちもくろく
1.ごだいごのてんわうごちせいのことつけたりぶけはんじやうのこと
2.せきところちやうじのこと
3.りつこうのことつけたりさんみどのおんつぼねのこと
4.ちよわうのおんこと
5.ちゆうぐうごさんおんいのりのことつけたりとしもといつはつてろうきよのこと
6.ぶれいかうのことつけたりげんゑぶんだんのこと
7.よりかずかへりちゆうのこと
8.すけともとしもとくわんとうげかうのことつけたりごかうぶんのことP34
たいへいきくわんだいいち
じよ
もうひそかにここんのへんくわをとつてあんきのらいいうをみるにおほうてほかなきはてんのとくなり。めいくんこれにていしてこつかをたもつ。のせてすつることなきはちのみちなり。りやうしんこれにのつとつてしやしよくをまもる。もしそれそのとくかくるときはくらゐありといへどもたもたず。いはゆるかのけつはなんさうにはしりいんのちうはぼくやにやぶらる。そのみちたがふときはゐありといへどもひさしからず。かつてきくてうかうはかんやうにけいせられ、ろくさんはほうしやうにほろぶ。ここをもつてぜんせいつつしんではふをしやうらいにたるることをえたりや。こうこんかへりみていましめをきわうにとらざらんや。
1.ごだいごのてんわうごちせいのことつけたりぶけはんじやうのこと
ここにほんてうにんわうのはじめじんむてんわうよりくじふごだいのみかどごだいごのてんわうのぎようにあたつて、
P35
ぶしんさがみのかみたひらのたかときといふものあり。このときかみきみのとくにそむきしもしんのれいをうしなふ。これよりしかいおほきにみだれていちにちもいまだやすからず。らうえんてんをかくし、げいはちをうごかすこといまにいたるまでしじふよねん。いちにんとしてしゆんじうにとめることをえず。ばんみんしゆそくをおくにところなし。
つらつらそのらんしやうをたづぬれば、ただわざはひいつてういつせきのゆゑにあらず。げんりやくねんちゆうにかまくらのうだいしやうよりとものきやうへいけをついたうしてそのこうあるのときごしらかはのゐんえいかんのあまりにろくじふろくかこくのそうついぶしにふせらる。これよりぶけはじめてしよこくにしゆごをたてしやうゑんにぢとうをおく。かのよりとものちやうなんさゑもんのかみよりいへじなんうだいじんさねともこうあひついでみなせいいしやうぐんのぶしやうにそなはる。これをさんだいしやうぐんとかうす。しかるをよりいへのきやうはさねとものためにうたれさねともはよりいへのこあくぜんじ−くげうがためにうたれてふしさんだいわづかにしじふにねんにしてつきぬ。
そののちよりとものきやうのしうととほたふみのかみたひらのときまさのしそくさきのむつのかみよしときしぜんにてんがのけんぺいをとりいきほひやうやくしかいをおほはんとほつす。このときのだいじやうてんわうはごとばのゐんなり。ぶゐしもにふるはばてうけんかみにすたれんことをなげきおぼしめしてよしときをほろぼさんとしたまひしにしようきうのらんいできたつててんがしばらくもしづかならず。つひにせいきひにかすめてうぢせたにしてあひたたかふ。そのたたかひいまだいちにちもをへざるにくわんぐんたちまちにはいぼくせしかばごとばのゐんはおきのくにへうつされさせたまひてよしときいよいよはつくわうをたなごころににぎる。それよりのちむさしのかみやすときしゆりのすけときうぢむさしのかみつねときさがみのかみときよりさまのごんのかみときむねさがみのかみさだときあひついでしちだいまつりごとぶけよりいで、とくきゆうみんをぶする
P36
にたれりゐまんにんのうへにかうむるといへどもくらゐしほんのあひだをこえずけんにゐてじんおんをほどこしおのれをせめてれいぎをただす。ここをもつてたかしといへどもあやふからずみてりといへどもあぶれず。しようきうよりこのかたちよわうせつけのあひだにりせいあんみんのきにあひあたりたまへるきぞくをいちにんかまくらへまうしくだしたてまつてせいいしやうぐんとあふいでぶしんみなはいすうのれいをこととす。おなじきさんねんにはじめてらくちゆうにりやうにんのいちぞくをすゑてりやうろくはらとかうしてさいごくのさたをとりおこなはせきやうとのけいゑにそなへらる。またえいにんぐわんねんよりちんぜいにいちにんのたんだいをくだしきうしうのせいばいをつかさどらしめいぞくしふらいのまもりをかたうす。さればいちてんがあまねくかのげぢにしたがはずといふところもなくしかいのほかもひとしくそのけんせいにふくせずといふものはなかりけり。
てうやうをかさざれどもざんせいひかりをうばはるるならひなればかならずしもぶけよりくげをないがしろに−したてまつるとしもはなけれどもところにはぢとうつようしてりやうけはよわくくににはしゆごおもうしてこくしはかろし。このゆゑにてうていはとしどしにおとろへぶけはひびにさかんなり。
これによつてだいだいのせいしゆとほくはしようきうのしんきんをやすめんがためちかくはてうぎのりようはいをなげきおぼしめしてとういをほろぼさばやとつねにえいりよをめぐらされしかどもあるいはいきほひびにしてかなはずあるいはときいまだいたらずしてもくししたまひけるところにときまさくだいのこういんさきのさがみのかみたひらのたかときにふだうそうかんがよにいたつててんちめいをあらたむべきききここにあらはれたり。つらつらいにしへをひいていまをみるにかうせきはなはだかろくしてひとのあざけりをかへりみずせいだうただしからずしてたみのつひえをおもはずただにちや
P37
にいついうをこととしてぜんれつをちかにはづかしめてうぼにきもつをもてあそびてけいはいをしやうぜんにいたさんとす。ゑいのいこうがつるをのせしたのしみはやくつきしんのりしがいぬをひきしうらみいまにきたりなんとす。みるひとまゆをひそめきくひとくちびるをひるがへす。
このときのみかどごだいごのてんわうとまうせしはごうだのゐんのだいにのわうじだつてんもんゐんのおんはらにておはせしをさがみのかみがはからひとしておんとしさんじふいちのときおんくらゐにつけたてまつる。ございゐのあひだうちにはさんがうごじやうのぎをただしうしてしうこうこうしのみちにしたがひほかにはばんきはくしのまつりごとおこたりたまはずえんぎてんりやくのあとをおはれしかばしかいふうをのぞんでよろこびばんみんとくにきしてたのしむ。およそしよだうのすたれたるをおこしいちじのぜんをもしやうせられしかばじしやぜんりつのはんじやうここにときをえけんみつじゆだうのせきさいもみなのぞみをたつせり。まことにてんにうけたるせいしゆちにほうぜるめいくんなりとそのとくをしようしそのくわにほこらぬものはなかりけり。
2.せきところちやうじのこと
それしきやうしちだうのせきところはくにのたいきんをしらしめときのひじやうをいましめんがためなり。しかるにいまろうだんのりに−よつてしやうばいわうらいのつひえねんぐうんそうのわづらひありとておほつくずはのほかはことごとくしよしよのしんせきをやめらる。
P38
またげんかうぐわんねんのなつたいかんちをからしてでんぷくのほかひやくりのあひだむなしくせきどのみあつてせいべうなし。がへうやにみちてきにんちにたふる。このとしぜにさんびやくを−もつてあはいつとうをかふ。きみはるかにてんがのききんをきこしめしてちんふとくあらばてんわれいちにんをつみすべし。れいみんなにのとがありてかこのわざはひにあへるとみづからていとくのてんにそむけることをなげきおぼしめしてあさがれひのぐごをやめられてきにんきゆうみんのせぎやうにひかれけるこそありがたけれ。これもなほばんみんのうゑをたすくべきにあらずとてけびゐしのべつたうにおほせてたうじふいうのともがらがりばいのためにたくはへつめるべいこくをてんけんしてにでうまちにかりやをたてられけんしみづからことはつてあたひをさだめてうらせらる。さればしやうばいともにりをえてひとみなくねんのたくはへあるがごとし。そしようのひとしゆつたいのときもししものじやうかみにたつせざることもやあらんとてきろくところへしゆつぎよなつてぢきにうつたへをきこしめしあきらめりひをけつだんせられしかばぐぜいのうつたへたちまちにとどまつてけいべんもくちはてかんこもうつひとなかりけり。
まことにりせいあんみんのまつりごともしきかうに−ついてこれをみればめいせいあせいのさいともしようじつべし。ただうらむらくはせいくわんはをおこなひそひとゆみをわすれしにえいりよすこしきにたることを。これはすなはちさうさうはいつてんをあはすといへどもしゆぶんはさんさいをこえざるゆゑんなり。
P39
3.りつこうのことつけたりさんみどのおんつぼねのこと
ぶんぽうにねんはちぐわつみつかのちのさいをんじのだいじやうだいじんさねかぬこうのおんむすめこうひのくらゐにそなはつてこうきでんにいらせたまふ。このいへににようごをたてられたることすでにごだいこれもしようきういごさがみのかみだいだいさいをんじのいへをそんそうせしかばいつかのはんじやうあたかもてんがのじぼくをおどろかせり。きみもくわんとうのきこえしかるべしとおぼしめしてとりわけりつこうのごさたもありけるにや。おんよはひすでにじはちにしてきんけいしやうのもとにかしづかれてぎよくろうでんのうちにいりたまへばえうたうのはるをいためるよそほひすいりうのかぜをふくめるおんかたちもうしやうせいしもおもてをはぢがうじゆせいきんもかがみをおほふほどなればきみのおんおぼえもさだめてたぐひあらじとおぼえしにくんおんはよりもうすかりしかばいつしやうむなしくぎよくがんにちかづかせたまはず。しんきゆうのうちにむかつてはるのひのくれがたきことをなげきあきのよのながきうらみにしづませたまふ。きんをくにひとなうしてかうかうたるのこんのともしびのかべにそむけるかげくんろうにかきえてせうせうたるよるのあめのまどをうつこゑものごとにみなおんなみだをそふるなかだちとなれり。ひとうまれてふじんのみとなることなかれひやくねんのくらくはたにんによるとはくらくてんがかきたりしもことわりなりとおぼえたり。
そのころあののちゆうじやうきんかどのむすめにさんみどののつぼねとまうしけるにようばうちゆうぐうのおんかたにさうらはれけるをきみひとたびごらんぜられてたにことなるおんおぼえあり。さんぜんのちようあいいつしんにありしかばりくきゆうのふんたいがんしよくなきがごとくなり。すべてさんふじんきうひんにじふしちのせいふはちじふいちのにようご・
P40
およびこうきゆうのびじんがふのぎぢよといへどもてんしこめんのおんこころをつけられず。ただしゆえんいうたいのひとりよくぜをいたすのみにあらずけだしぜんかうべんねいえいしにさきだつてきをあらそひしかばはなのもとのはるのあそびつきのまへのあきのえんにもがすればてぐるまをともにしみゆき−すればせきをほしいままにしたまふ。これよりくんわうあさまつりごとをしたまはずたちまちにじゆごうのせんじをくだされしかばひとみなくわうごうげんひのおもひをなせり。おどろきみるくわうさいのはじめてもんこになれることを。このときてんがのひとなんをうむことをかろんじてぢよをうむことをおもんぜり。さればおんまへのひやうぢやうざつそのごさたまでもじゆごうのごこうじゆとだにいひてげればしやうきやうもちゆうなきにしやうをあたへぶぎやうもりあるをひとせり。くわんしよはたのしんでいんせずかなしんでやぶらず。しじんとつてこうひのとくとす。いかんかせんけいせいけいこくのらんいまにありぬとおぼえてあさましかりしことどもなり。
4.ちよわうのおんこと
しゆうしのくわおこなはれてくわうごうげんひのほかくんおんにほこるくわんぢよはなはだおほかりければみやみやしだいにごたんじやうあつてじふろくにんまでぞおはしましける。
なかにもだいいちのみやそんりやうしんわうはみこひだりのだいなごんためよのきやうのむすめぞうじゆざんみためこのおんはらにておはせしをよしだのないだいじんさだふさこうやうくんにしたてまつりしかばしがくのとしのはじめよりりくぎのみち
P41
にちやうじさせたまへり。さればとみのをがはのきよきながれをくみあさかやまのふるきあとをふんでせうふうろうげつにおんこころをいたましめたまふ。
だいにのみやもおなじおんはらにてぞおはしましける。あげまきのおんときよりめうほふゐんのもんぜきにごにふしつあつてしやくしの−をしへをうけさせたまふ。これもゆがさんみつのあひだにはかだうすきのおんもてあそびありしかばかうそだいしのきうげふにもはぢずじちんくわしやうのふうがにもこえたり。
だいさんのみやはみんぶきやうさんみどののおんはらなり。ごえうちのときよりりこんそうめいにおはせしかばきみおんくらゐをばこのみやにこそとおぼしめしたりしかどもごちせいはだいかくじどのとぢみやうゐんどのとかはるがはるもたせたまふべしとごさがのゐんのおんときよりさだめられしかばこんどのとうぐうをばぢみやうゐんどののおんかたにたてまゐらせらる。てんがのことなにとなくくわんとうのはからひとしてえいりよにもまかせられざりしかばごげんぶくのぎをあらためられなしもとのもんぜきにごにふしつあつてじようちんしんわうのごもんていとならせたまひていつをきいてじふをさとるごきりやうよにまたたぐひもなかりしかばいちじつゑんどんのはなのにほひをけいけいのかぜにくんじさんだいそくぜのつきのひかりをぎよくせんのながれにひたせり。さればきえなんとするほつとうをかかげたえなんとするゑみやうをつがんことただこのもんしゆのおんときなるべしといつさんたなごころをあはせてよろこびきうゐんかうべをかたぶけてあふぎたてまつる。
だいしのみやもおなじきおんはらにてぞおはしける。これはしやうごゐんのにほんしんわうのごふていにておはせしかばほつすいをみゐのながれにくみきべつをじそんのあかつきにごしたまふ。
P42
このほかちよくんちよわうのえらびちくゑんせうていのそなへまことにわうげふさいこうのうんふくそちやうきうのもとゐときをえたりとぞみえたりける。
5.ちゆうぐうごさんおんいのりのことつけたりとしもといつはつてろうきよのこと
げんかうにねんのはるのころよりちゆうぐうくわいにんのおんいのりとてしよじしよさんのきそうかうそうにおほせてさまざまのだいほふひほふをおこなはせらる。
なかにもほつしようじのゑんくわんしやうにんをののもんくわんそうじやうににんはべつちよくをうけたまはつてきんけつにだんをかまへぎよくたいにちかづきたてまつつてかんたんをくだいてぞいのられける。ぶつげんこんりんごだんのほふいちしゆくごへんくじやくきやうしちぶつやくししじやうくわううずさまへんじやうなんしのほふごだいこくうざうろくくわんおんろくじかりんかりていもはちじもんじゆふげんえんみやうこんがうどうじのほふごまのけぶりはだいゑんにみちしんれいのおとはえきでんにひびきていかなるあくまをんりやうなりともしやうげをなしがたしとぞみえたりける。かやうにこうをつみひをかさねておんいのりのせいぜいをつくされけれどもさんねんまでかつてごさんのおんことはなかりけり。のちにしさいをたづぬればくわんとうてうぶくのためにことをちゆうぐうのごさんによせてかやうにひほふをしゆせられけるとなり。
これほどのちようじをおぼしめしたつことなればしよしんのいけんをもうかがひたくおぼしめしけれどもことたぶん
P43
におよばばぶけにもれきこゆることやあらんとはばかりおぼしめされけるあひだしんりよちくわのらうしんきんじのひとびとにもおほせあはせらるることもなし。ただひののちゆうなごんすけともくらんどのうせうべんとしもとしでうのちゆうなごんたかすけゐんのだいなごんもろかたへいさいしやうなりすけばかりにひそかにおほせあはせられてさりぬべきつはものをめされけるににしこりのはんぐわんだいあすけのじらうしげなりなんとほくれいのしゆとせうせうちよくぢやうにおうじてげり。
かのとしもとはるいえふのじゆげふをついでさいかくいうちやうなりしかばけんしよくにめしつかはれてくわんらんだいにいたりしよくしきじをつかさどれり。しかるあひだしゆつしことしげうしてちうさくにひまなかりければいかにもしてしばらくろうきよしてむほんのけいりやくをめぐらさんとおもひけるところにさんもんよかはのしゆとくわじやうをささげてきんていにうつたふることあり。としもとかのそうじやうをひらいてよみまうされけるがよみあやまりたるていにてれうごんゐんをまんごんゐんとぞよみたりける。ざちゆうのしよきやうこれをきいてめをあはせてさうのじをばへんにつけてもつくりにつけてももくとこそよむべかりけるとたなごころをうつてぞわらはれける。としもとおほきにはぢたるきしよくにておもてをあかめてたいしゆつす。
それよりちじよくにあひてろうきよすとひろうしてはんねんばかりしゆつしをやめやまぶしのかたちにみをかへてやまとかはちにゆいてじやうくわくになりぬべきところどころをみおきて、とうごくさいごくにくだつてくにのふうしよくひとのぶんげんをぞうかがひみられける。
P44
6.ぶれいかうのことつけたりげんゑぶんだんのこと
ここにみののくにのぢゆうにんときはうきのじふらうよりさだたぢみしらうじらうくにながといふものあり。ともにせいわげんじのこういんとしてぶようのきこえありければすけとものきやうさまざまのえんをたづねてむつびちかづかれほういうのまじはりすでにあさからざりけれどもこれほどのいちだいじをさうなくしらせんこといかんかあるべからんとおもはれければなほもよくよくそのこころをうかがひみんためにぶれいかうといふことをぞはじめられける。そのにんじゆにはゐんのだいなごんもろかたしでうのちゆうなごんたかすけとうゐんさゑもんのかみさねよくらんどのうせうべんとしもとだてのさんみばういうがしやうごゐんちやうのほふげんげんきあすけのじらうしげなりたぢみしらうじらうくにながとうなり。そのかうぐわわいいうえんのていけんもんじぼくをおどろかせり。けんぱいのしだいじやうげをいはずをのこはえぼしをぬいでもとどりをはなちほふしはころもをきずしてびやくえになりとしじふしちはちなるをんなのみめかたちいうにはだへことにきよらかなるをにじふよにんすずしのひとへばかりをきせてしやくをとらせければゆきのはだへすきとほりてたいえきのふようあらたにみづをいでたるにことならずさんかいのちんぶつをつくしししゆいづみのごとくにたたへてあそびたはぶれまひうたふ。そのあひだにはただとういをほろぼすべきくはだてのほかはたじなし。
そのこととなくつねにくわいがうせばひとのおもひとがむることもやあらんとてことをぶんだんによせんがためにそのころさいかくぶさうのきこえありけるげんゑほふいんといふぶんしやをしやうじてしやうれいぶんじふの
P45
だんぎをぞおこなはせける。かのほふいんむほんのくはだてとはゆめにもしらずくわいがふのひごとにせきにのぞんでげんをだんじりをひらく。かのぶんじふのなかにしやうれいてうじうにおもむくといふちやうへんあり。このところにいたつてだんぎをきくひとびとこれみなふきつのしよなりけり。ごしそんしりくたうさんりやくなんどこそしかるべきたうようのぶんなれとてしやうれいぶんじふのだんぎをやめてげり。このかんしやうれいとまうすはばんたうのすゑにいでてぶんさいいうちやうのひとなりけり。しはとしみりたいはくにかたをならべぶんしやうはかんぎしんそうのあひだにけつしゆつせり。しやうれいがいうしかんしやうといふものあり。これはもじをもたしなまずしへんにもたづさはらずただたうじのじゆつをまなんでぶゐをげふとしぶじをこととす。
あるときしやうれいかんしやうにむかつてまうしけるはなんぢてんちのうちにくわせいしてじんぎのほかにせうえうす。これくんしのはづるところせうじんのもつぱらとするところなり。われつねになんぢがためにこれをかなしむことせつなりとけうくんしければかんしやうおほきにあざわらうてじんぎはだいだうのすたれたるところにいでがつけうはたいぎのおこるときにさかんなり。われぶゐのさかひにいういうしてぜひのほかにじとくす。さればしんさいのひぢをさいてこちゆうにてんちをかくしざうくわのたくみをうばうてきつりにさんせんをそばたつ。かへつてかなしむらくはこうのただこじんのそうはくをあまなつてむなしくいつしやうをくくのうちにあやまることをとこたへければしやうれいかさねていはくなんぢがいふところわれいまだしんぜずいますなはちざうくわのたくみをうばふことをえてんやととふにかんしやうこたふることなくしてまへにおいたるるりのぼんをうちうつぶせてやがてまたひきあふのけたるをみれ
P46
ばたちまちにへきぎよくのぼたんのはなのせんげんたるいつしあり。しやうれいおどろいてこれをみるにくわちゆうにきんじにかけるいちれんのくあり。くもはしんれいによこたはつていへいづくにかある、ゆきはらんくわんをようしてむますすまず。うんぬん。しやうれいふしぎのおもひをなしてこれをようでいつしやうさんたんするにくのいうみえんちやうなるていせいのみあつてそのおもむきらくぢやくのところをしりがたし。てにとつてこれをみんとすればこつぜんとしてきえうせぬ。これよりしてこそかんしやうはせんじゆつのみちをえたりとはてんがのひとにしられけれ。
そののちしやうれいぶつぽふをやぶつてじゆけうをたつとむべきよしそうじやうをたてまつりけるとがに−よつててうじうへながさる。ひくれむまなづんでぜんとほどとほし。はるかにこきやうのかたをかへりみればしんれいにくもよこたはつてきつらんかたもおぼえず。いたんでばんじんのけはしきにのぼらんとすればらんくわんにゆきみちてゆくべきすゑのみちもなし。しんだいあゆみをうしなうてかうべをめぐらすところにいづくよりきたれるともなくかんしやうぼつぜんとしてかたはらにあり。しやうれいよろこんでむまよりおりかんしやうがそでをひいてなみだのうちにまうしけるはせんねんへきぎよくのはなのなかにみえたりしいちれんのくはなんぢわれにあらかじめさせんのうれへをつげしらせるなり。いままたなんぢここにきたれりはかりしんぬわれつひにだつきよにしうししてかへることをえじと。さいくわいごなくしてゑんべついまにあり。あにかなしみにたえんやとてさきのいちれんにくをついではちくいつしゆとなしてかんしやうにあたふ。
いつぽうてうそうすきうちようのてんゆふべにてうやうにへんせらるみちはつせん
P47
せいめいのためにへいじをのぞかんとほつすればあにすいきうを−もつてざんねんををしまんや
くもはしんれいによこたはつていへいづくにかあるゆきはらんくわんをようしてむますすまず
しんぬなんぢがとほくきたることすべからくこころあるべしよしわがこつをしやうかうのへんにをさめよ
かんしやうこのしをそでにいれてなくなくとうざいにわかれにけり。まことなるかなちにんのめんぜんにゆめをとかずといふことを。このだんぎをききけるひとびとのいみおもひけるこそおろかなれ。
7.よりかずかへりちゆうのこと
むほんにんのよたうときのさこんのくらんどよりかずはろくはらのぶぎやうさいとうたらうざゑもんのじようとしゆきがむすめとかしてさいあいしたりけるがよのなかすでにみだれてかつせんいできたりなばせんにひとつもうちじにせずといふことあるまじとおもひけるあひだかねてなごりやをしかりけんあるよのねざめのものがたりにいちじゆのかげにやどりおなじながれをくむもみなこれたしやうのえんあさからずいはんやあひなれたてまつつてすでにみとせにあまれり。なほざりならぬこころざしのほどをばけしきにつけをりにふれてもおもひしりたまふらんさてもさだめなきはにんげんのならひあひあふなかのちぎりなればいまもしわがみはかなくなりぬとききたまふことあらばなからんあとまでもていぢよのこころをうしなはでわがごせをとひたまへ。にんげんにかへらばふたたびふうふのちぎりをむすびじやうどにうまればおなじはちすのうてなにはんざをわけてまつべしと、
P48
そのこととなくかきくどきなみだをながしてぞまうしける。をんなつくづくときいてあやしやなにごとのはんべるぞやあすまでのちぎりのほどもしらぬよにごせまでのあらましはわすれんとてのなさけにてこそはんべらめさらではかかるべしともおぼえずとなきうらみてとひければをとこはこころあさうしてさればよわれふりよのちよくめいをかうむつてきみにたのまれたてまつるあひだじするにみちなくしてごむほんにくみしぬるあひだせんにひとつもいのちのいきんずることかたし。あぢきなくぞんずるほどにちかづくわかれのかなしさにかねてかやうにまうすなり。このことあなかしこひとにしらさせたまふなとよくよくくちをぞかためける
かのによしやうのこころのさかしきものなりければつとにおきてつくづくとこのことをおもふにきみのごむほんことならずばたのみたるをとこたちまちにちゆうせらるべし。もしまたぶけほろびなばわがしんるいたれかはいちにんものこるべき。さらばこれをちちとしゆきにかたつてさこんのくらんどをかへりちゆうのものになしこれをもたすけしんるいをもたすけばやとおもうていそぎちちがもとにゆきしのびやかにこのことをありのままにぞかたりける。
さいとうおほきにおどろきやがてさこんのくらんどをよびよせかかるふしぎをうけたまはるまことにてさうらふやらん。いまのよにかやうのことおもひくはだてたまはんはひとへにいしをいだいてふちにいるものにてさうらふべし。もしたにんのくちよりもれなばわれらにいたるまでみなちゆうせらるべきにてさうらへばとしゆきいそぎごへんのつげしらせたるよしをろくはらどのにまうしてともにそのとがをのがれんとおもふはいかんかはからひたまふ
P49
ぞととひければこれほどのいちだいじをによしやうにしらするほどのこころにてなじかはぎやうてんせざるべきこのことはどうみやうよりさだたぢみしらうじらうがすすめに−よつてどういつかまつりてさうらふただともかくもみのとがをたすかるやうにおんぱからひさうらへとぞまうしける。
よいまだあけざるにさいとういそぎろくはらへさんじてことのしさいをくはしくつげまうしければすなはちときをかへずかまくらへはやむまをたててきやうぢゆうらくぐわいのぶしどもをろくはらへめしあつめてまづちやくたうをぞつけられける。そのころつのくにくずはといふところにぢげにんだいくわんをそむきてかつせんにおよぶことあり。かのほんじよのざつしやうをろくはらのさたとしてしやうけにしすゑんためにしじふはちかしよのかがりならびにざいきやうにんをもよほさるるよしをひろうせらる。これはむほんのともがらをおとさじがためのはかりごとなり。ときもたぢみもわがみのうへとはおもひもよらずみやうにちはくずはへむかふべきよういしてみなおのれがしゆくしよにぞゐたりける。
さるほどにあくればげんとくぐわんねんくぐわつじふくにちのうのこくにぐんぜいうんかのごとくにろくはらへはせまゐる。こぐしのさぶらうざゑもんのじようのりゆきやまもとくらうときつなごもんのはたをたまはりてうつてのたいしやうをうけたまはつてろくでうがはらへぶちいでさんぜんよきをふたてにわけてたぢみがしゆくしよにしきのこうぢたかくらときじふらうがしゆくしよさんでうほりかはへよせけるがときつなかくてはいかさまだいじのてきをうちもらしぬとおもひけるにやおほぜいをばわざとさんでうがはらにとどめてときつなただいつきちゆうげんににんになぎなたもたせてしのびやかにときがしゆくしよへはせてゆきもんぜんにむまをばのりすててこもんよりうち
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へつといつてちゆうもんのかたをみればとのゐしけるものよとおぼえてもののぐたちかたなまくらにとりちらしたかいびきかきてねいりたり。むまやのうしろをまはつていづくにかくけぢのあるとみればうしろはみなついぢにてもんよりほかはみちもなし。さてはこころやすしとおもうてきやくでんのおくなるふたまをさつとひきあけたればときじふらうただいまおきあがりたりとおぼえてびんのかみをなであげてゆひけるがやまもとくらうをきつとみてこころえたりといふままにたてたるたちをとりそばなるしやうじをひとまふみやぶりむまのきやくでんへをどりいでてんじやうにたちをうちつけじとはらひぎりにぞきつたりける。ときつなはわざとてきをひろにはへおびきいだしすきまもあらばいけどらんとこころざしてうちはらひてはしりぞきうちながしてはとびのきひとまぜもせずたたかうてうしろをきつとみたればごぢんのおほぜいにせんよきにのきどよりこみいつてどうおんにときをつくる。ときじふらうひさしくたたかうてはなかなかいけどられんとやおもひけんもとのねどころへはしりかへつてはらじふもんじにかききつてきたまくらにこそふしたりけれなかのまにねたりけるわかたうどももおもひおもひにうちじにしてのがるるものいちにんもなかりけりくびをとつてきつさきにつらぬいてやまもとくらうはこれよりろくはらへはせまゐる。
たぢみがしゆくしよへはこぐしさぶらうざゑもんのりゆきをさきとしてさんぜんよきにておしよせたり。たぢみはよもすがらのさけにのみゑひてぜんごもしらずふしたりけるがときのこゑにおどろいてこれはなにごとぞとあわてさわぐそばにふしたるいうくんものなれたるをんななりければまくらなるよろひとつてうちきせうはおびつよくしめさせてなほねいりたるものどもをぞおこしけるをがさはらまごろくけいせいに
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おどろかされてたちばかりをとつてちゆうもんにはしりいでめをすりすりしはうをきつとみければくるまのわのはたひとながれついぢのうへよりみえたり。まごろくうちへいつてろくはらよりうつてのむかうてさうらひける。このあひだのごむほんはやあらはれたりとおぼえさうらふ。はやめんめんたちのめぬきのこらへんほどはきりあうてはらをきれとよばはつてはらまきとつてかたになげかけにじふしさいたるえびらとしげどうのゆみとをひつさげてもんのうへなるやぐらへはしりあがりなかざしとつてうちつがひさまのいたはちもんじにひらいてあらことごとしのおほぜいや。われらがてがらのほどこそあらはれたれそもそもうつてのたいしやうはたれとまうすひとのむかはれてさうらふやらん。ちかづいてやひとつうけてごらんさうらへといふままにじふにそくみつぶせわするるばかりひきしぼりてきつてはなつまつさきにすすんだるかののしもづけのぜんじがわかたうにきぬずりのすけふさがかぶとのまつかうはちつけのいたまでやさきしろくいとほしてむまよりさかさまにいおとすこれをはじめとしてよろひのそでくさずりかぶとのはちともいはずさしつめておもふさまにいけるにおもてにたつたるつはものにじふしにんやのしたにいておとす。いまひとすぢやなぐひにのこりたるやをぬいてやなぐひをばやぐらのしたへからりとなげおとしこのやひとつをばめいどのたびのようじんにもつべしといつてこしにさしにつぽんいちのがうのものむほんにくみしじがいするありさまみおいてひとにかたれとかうじやうによばはつてたちのきつさきをくちにくはへてやぐらよりさかさまにとびおちてつらぬかれてこそしににけれ。このあひだにたぢみをはじめとしていちぞくわかたうにじふよにんもののぐひしひしとかためおほにはにをどりいでてもんのくわんのきさしてまちかけたりよせてうんかのごとしといへどもおもひきつたるものどもがしにぐるひ
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をせんとひつこもつたるがこはさにうちへきつていらんとするものもなかりけるところにいとうひこじらうふしきやうだいよつたりもんのとびらのすこしやぶれたるところよりはうてうちへぞいりたりける。こころざしのほどはたけけれどもまちうけたるてきのなかへはうていつたることなればてきにうちちがふるまでもなくてみなもんのわきにてうたれにけり。よせてこれをみていよいよちかづくものもなかりけるあひだうちよりもんのとびらをおしひらいてうつてをうけたまはるほどのひとたちのきたなうもみえられさうらふものかな。はやこれへおんいりさうらへ。われらがくびどもひきでものにまゐらせんとはぢしめてこそたちたりけれ。よせてどもてきにあくまであざむかれてせんぢんごひやくよにんむまをのりはなしてかちだちになりおめいてにはへこみいる。たてこもるところのつはものどもとてものがれじとおもひきつたることなればいづくへかひとあしもひくべき。にじふよにんのものどもおほぜいのなかへみだれいつておもてもふらずきつてまはるさきがけのよせてごひやくよにんさんざんにきりたてられてもんよりほかへさつとひく。されどもよせてはおほぜいなればせんぢんひけばにぢんおめいてかけいる。かけいればおひいだし、おひいだせばかけいりたつのこくのはじめよりむまのこくのをはりまでひいづるほどこそたたかひけれ。かやうにおほてのいくさつよければささきはうぐわんがてのものせんよにんうしろへまはつてにしきのこうぢよりざいけをうちやぶつてみだれいる。たぢみいまはこれまでとやおもひけんちゆうもんになみゐてにじふににんのものどもたがひにさしちがへさしちがへさんをちらせるごとくふしたりける。おふてのよせてどもがもんをやぶりけるそのあひだにからめでのせいどもみだれいりくびをとつてろくはらへはせかへる。ふたときばかりのかつせんにておひしにんをかぞふるににひやくしちじふさんにん
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なり。
8.すけともとしもとくわんとうげかうのことつけたりおんつげぶみのこと
ときたぢみうたれてのちきみのごむほんしだいにかくれなかりければとうしながさきしらうざゑもんやすみつなんでうのじらうざゑもんむねなほににんしやうらくしてごぐわつとをかすけともとしもとりやうにんをめしとりたてまつる。ときがうたれしときいけどりのものいちにんもなかりしかばはくじやうはよもあらじさりともわれらがことはあらはれじとはかなきたのみにゆだんしてかつてそのよういもなかりければさいしとうざいににげまよひてみをかくさんとするにところなくざいほうはおほぢにひきちらされてばていのちりとなりにけり。かのすけとものきやうはひののいちもんにてしよくだいりをへくわんはちゆうなごんにいたりしかばきみのおんおぼえもたにことにしていへのはんじやうときをえたりき。としもとあつそんはみじゆがのもとよりいでのぞみくんげふのうへにたつせしかばどうくわんもひばのちりをのぞみちやうじやもざんぱいのれいにしたがふ。むべなるかなふぎにしてとみかつたつときはわれに−おいてうかべるくものごとしといへること。これこうしのぜんげんろろんにきするところなればなじかはたがふべき。ゆめのうちにたのしみつきてがんぜんのかなしみここにきたれりかれをみこれをききけるひとごとにじやうしやひつすいのことわりをしらでもそでをしぼりえず。
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おなじきにじふしちにちとうしりやうにんすけともとしもとをぐそくしたてまつつてかまくらへげちやくす。このひとびとはことさらむほんのちやうぼんなればやがてちゆうせられぬとおぼえしかどもともにてうていのきんしんとしてさいかくいうちやうのひとたりしかばよのそしりきみのおんいきどほりをはばかつてがうもんのさたにもおよばずただよのつねのはなしめしうどのごとくにてさぶらひどころにぞあづけおかれける。
しちぐわつなぬかこんやはけんぎうしよくぢよのじせいうじやくのはしをわたしていちねんのくわいはうをとくよなればきゆうじんのならはし、ちくかんにねがひのいとをかけていぜんにかくわをつらねてきつかうでんをしゆするよなれどもせじやうさわがしきをりふしなればしいかをたてまつるさうじんもなくげんくわんをしらぶるれいりんもなし。たまたまうへぶししたるげつけいうんかくもなにとなくよのなかのみだれまたたがみのうへにかきたらんずらんとたましひをけしきもをひやすをりふしなればみなまゆをひそめおもてをたれてぞさうらひける。よいたくふけてたれかさうらふとめされければよしだのちゆうなごんふゆふささうらふとておんまへにこうす。しゆしやうせきをちかづけておほせありけるはすけともとしもとがとらはれしのちとうふうなほいまだしづかならずちゆうかつねにあやふきをふむ。このうへにまたいかなるさたをかいたさんずらんとえいりよさらにおだやかならずいかんしてまづとういをしづむべきはかりごとあらんとちよくもんありければふゆふさつつしんでまうしけるはすけともとしもとがはくじやうありともうけたまはりさうらはねばぶしんこのうへのさたにはおよばじとぞんじさうらへどもこのごろとういのふるまひそこつのぎおほくさうらへばごゆだんあるまじきにてさうらふ。まづかうぶんいつしをくだされてさがみにふだうがいかりをしづめさうらはばやとまうされければしゆしやうげにもとやおぼしめさ
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れけんさらばやがてふゆふさかけとおほせありければすなはちおんまへにしてさうあんをしてこれをそうらんす。きみしばらくえいらんあつておんなみだのかうぶんにはらはらとかかりけるをおんそでにておしのごはせたまへばおんまへにさうらひけるらうしんみなひていをふくまぬはなかりけり。
やがてまでのこうぢのだいなごんのぶふさのきやうをちよくしとしてこのかうぶんをくわんとうへくださるさがみにふだうあいたのじやうのすけを−もつてかうぶんをうけとつてすなはちひけんせんとしけるをにかいだうのではのにふだうだううんかたくいさめてまうしけるはてんしぶしんにたいしてぢきにかうぶんをくだされたることいこくにもわがてうにもいまだそのれいをうけたまはらず。しかるをなほざりにひけんせられんことみやうけんに−ついてそのおそれあり。ただふんばこをひらかずしてちよくしにかへしまゐらせらるべきかとさいわうまうしけるをさがみにふだうなにかくるしかるべきとてさいとうたらうざゑもんとしゆきによみまゐらせさせられけるにえいしんいつはらざるところてんのせうらんににんずとあそばされたるところをよみけるときにとしゆきにはかにめくるめきはなぢたりければよみはてずしてたいしゆつすそのひよりのんどのしたにあくさういでてなぬかがうちにちをはいてしににけり。ときげうきにおよんでみちどたんにおちぬといへどもくんしんじやうげのれいたがふときはさすがぶつじんのばちもありけりとこれをききけるひとごとにおぢおそれぬはなかりけり。なにさますけともとしもとのいんぼうえいりよよりいでしことなればたとひかうぶんをくだされたりといへどもそれによるべからずしゆしやうをばをんごくへうつしたてまつるべしとはじめはひやうぢやういつけつしてけれどもちよくしのぶふさのきやうのまうされしおもむきげにもとおぼゆるうへかうぶんよみたりしとしゆきにはかに
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ちをはいてしにたりけるにしよにんみなしたをまきくちをとづさがみにふだうもさすがてんりよそのはばかりありけるにやごちせいのおんことはてうぎにまかせたてまつるうへはぶけいろひまうすべきにあらずとちよくたふをまうしてかうぶんをへんしん−せらる。のぶふさのきやうすなはちきらくしてこのよしをそうしまうされけるにこそしんきんはじめてとけてぐんしんいろをばなほされけれ。
さるほどにとしもとあつそんはつみのうたがはしきをかろんじてしやめんせられすけとものきやうはしざいいつとうをなだめられてさどのくにへぞながされける。
たいへいきくわんだいいち
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入力者:荒山慶一



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