木戸孝允作の清元
菊池眞一
木戸孝允作の清元がある。この存在を知ったのは『頓智むすめ』第三号の記事から。勝海舟の『流芳遺墨』に影印があるという。福井市立郷土歴史博物館のホームページにも影印・翻字がある。しかし、『流芳遺墨』を見ると、『頓智むすめ』の翻字も福井市立郷土歴史博物館サイトの翻字も読み間違いがあるようだ。
最初に、『流芳遺墨』による私の翻字を紹介し、次に『頓智むすめ』「福井市立郷土歴史博物館」の翻字を紹介する。原文の仮名に濁点はないが、私に補った。
木戸孝允 戯作文句
きのふ二上りけふ三下り調子揃わぬ
いとすじのほそひ世わたり日渡りもそこで
なぶられこゝではせかれ
主の心に誠があらばつらひつとめも
いとやせぬ
国難の日戯に清元の文句をしるし
福井の友人に送る 松菊狂生
流芳遺墨(勝安房編)
『頓智むすめ』第三号(明治23年12月29日)3ページ、紫僊子の『文苑及情歌に就て』の一節は次のとおり。
而して頃日勝伯の流芳遺墨中に維新の元勲木戸松菊公が曽て其友に送るの情歌あり曰『昨日二上り今日三下り調子揃はぬ三味線(さみせん)の細い日渡り世渡りも彼処(あこ)でなぶられ此処(こゝ)ではせかれ。主の心に誠があらば辛い勤めもいとやせぬ』と此等の情歌は共にこれ名士が感慨誠心を述べたるものにして、其高雅優美なる意想を述ぶるに於て何ぞ必ずしも平仄を調ぶるを要せん、手爾葉を学ぶを須えんや、
「いとすじ」を「三味線」としている。
「世わたり日渡り」を「日渡り世渡り」としている。
「そこ」を「彼処(あこ)」としている。
以上3点が如何かと思われる。
次に福井市立郷土歴史博物館サイトの翻字を紹介する。
きのふ二上りけふ
三下り調子揃わぬ
糸すじのほそひ
世わたり日渡りも
そこでなぶられ
ここではむかれ
主の心に誠があらば
つらひつとめもいとやせぬ
国難の日紙に清元
文句をしるし
福井の友人に送る
松菊(木戸孝允)夜生
「こゝではせかれ」を「ここではむかれ」としている。
「戯に」を「紙に」としている。
「松菊狂生」を「松菊夜生」としている。
以上3点は完全な読み間違いである。
木戸孝允筆歌謡「清元」の一節 「福井の友人」宛
勝安房の『流芳遺墨』は国会図書館デジタルコレクションで見られるので確認していただきたい。
流芳遺墨(勝安房編)
2016年1月1日公開
et8jj5@bma.biglobe.ne.jp
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