明月やこの謡ひをば玉に瑕
菊池眞一
和田垣謙三著『逍遙遊』(大正8年12月20日発行。至誠堂書店)309ページに、尾崎紅葉の俳句が紹介されている。
言い捨ての句のようで、岩波書店『紅葉全集』には載っていない。
以下、『逍遙遊』の引用。
時は何時なりしか、慥には記憶せず或は氏が永眠の二年前なりしか、或処にて高楼置酒とはいへざれど五六名の者打集ひて一夕の歓を尽せし時、予は興に乗じて唸り出したるに、故人は早速筆を呵して「明月やこの謡ひをば玉に瑕」とやられたり。予は直にその筆を捥ぎ取り、「朧夜やこの謡ひをばきずに玉」と鸚鵡返しに答へたり。こは喧嘩にあらで、返歌にてありき、呵々、御免。
和田垣の記憶が正しければ、明治34年のことか。紅葉は明治30年に「明月にまづい笛吹く隣哉」と詠んでいる。これと同類。
菊池眞一
2016年10月17日公開
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