平家物語 下村時房本 総ひらがな版
使用テキスト 『平家物語上・下』正宗敦夫。日本古典全集刊行会(大正15年・昭和2年再刊)。底本東北大学狩野文庫蔵本。
下村時房本 室町後期か。覚一本から流布本へと至る過渡的な本文。内閣文庫等蔵。
総ひらがな版で、原則としまして、歴史的仮名遣いに基づいています。
*記号の説明 ¥ / −
単語を単位に区切り、記号で区別をします(この記号は、後に索引製作等に利用するために付けた物ですので、参考程度にお願いします。)
¥ 文節の区切り
/ 助詞・助動詞の前
― 連語のつなぎ
章段名を「 」にいれ、その後に、S+巻(上2桁)+章段(下2桁)で表記しました。参考としまして、覚一本(高野本)の章段名を該当個所に『 』T+巻(上2桁)+章段(下2桁)で表記しました。
例:「ぎをんしやうじや」S0101 『ぎをんしやうじや』T0101
参考としまして、流布本の章段名を該当個所にR+巻(上2桁)+章段(下2桁)で表記しました。上記と違う箇所に有る場合。一部です。
例:「ぐわんだて」R0113
覚一本には、和歌が100首有りますので、最初から番号を振り和歌の後に
W000 と表記しました。無い場合は欠番に成ります。
日本古典全集に基づき、改行しました。
日本古典全集のページを表示しました。P+巻数(上:1、下:2)+3桁。語句の途中の場合は、語句の後に表記しました。
P1003
へいけものがたり−くわん−だい−いち もくろく
ぎをんしやうじや
てんじやうのやみうち
すすき つけたり かぶろ
わがみのえいぐわ
にだいのきさき
がくうちろん
きよみづえんじやう つけたり とうぐうだち
ぎわう
でんかののりあひ
ししのたに つけたり しゆんくわん
P1004
うかはかつせん
ぐわんだて
みこしふり
だいりえんじやう
P1005
へいけものがたり−くわん−だい−いち
¥「ぎをんしやうじや」S0101 『ぎをんしやうじや』T0101
¥ぎをん−しやうじや/の¥かね/の¥こゑ、¥しよ−ぎやう−むじやう/の¥ひびき¥あり。¥しやら−さうじゆ/の¥はな/の¥いろ、¥しやうじや−ひつすい/の¥ことわり/を¥あらはす。¥おごれ/る¥ひと/も¥ひさしから/ず、¥ただ¥はる/の¥よ/の¥ゆめ/の/ごとし。¥たけき¥もの/も¥つひ/に/は¥ほろび/ぬ。¥ひとへ/に¥かぜ/の¥まへ/の¥ちり/に¥おなじ。¥とほく¥いてう/を¥とぶらへ/ば、¥しん/の¥てうかう、¥かん/の¥わうまう、¥りやう/の¥しうい、¥たう/の¥ろくさん、¥これ−ら/は¥みな¥きうしゆ−せんくわう/の¥まつりごと/に/も¥したがは/ず、¥たのしみ/を¥きはめ、¥いさめ/を/も¥おもひ−いれ/ず、¥てんが/の¥みだれ/ん¥こと/を¥さとら/ず/して、¥みんかん/の¥うれふる¥ところ/を¥しら/ざり/しか/ば、¥ひさしから/ず/して、¥ばうじ/に/し¥もの−ども/なり。¥ちかく¥ほんてう/を¥うかがふ/に、¥しようへい/の¥まさかど、¥てんぎやう/の¥すみとも、¥かうわ/の¥ぎしん、¥へいぢ/の¥しんらい、¥これ−ら/は¥たけき¥こころ/も、¥おごれ/る¥こと/も¥みな¥とりどり/に/こそ¥あり/しか。¥まぢかく/は¥ろくはら/の−にふだう−さき/の−だいじやう−だいじん−たひら/の−あそん−きよもり−こう/と¥まうし/し¥ひと/の¥ありさま、¥つたへ−うけたまはる/こそ、¥こころ/も¥ことば/も¥およば/れ/ね。¥そ/の¥せんぞ/を¥たづぬれ/ば、¥くわんむ−てんわう¥だいご/の¥わうじ、¥いつぽん−しきぶ−きやう−かづらはら/の−しんわう¥くだい/の¥こういん、¥さぬき/の−かみ−まさもり/が¥そん、¥ぎやうぶきやう−ただもり/の−あそん/の¥ちやくなん/なり。¥か/の¥しんわう/の¥みこ¥たかみ/の−わう¥むくわん¥むゐ/に/して¥うせ¥たまひ/ぬ。¥そ/の¥み−こ¥たかもち/の−わう/の¥とき、¥はじめて¥たひら/の¥しやう/を¥たまはつ/て、¥かづさ/の−すけ/に¥なり¥たまひ/し/より¥たちまち/に¥わうし/を¥いで/て¥じんしん/に¥つらなる。¥そ/の¥こ¥ちんじゆふ/の−しやうぐん−よしもち、¥のち/に/は¥くにか/と¥あらたむ。¥くにか/より¥まさもり/に¥いたる/まで¥ろくだい/は、¥しよ−こく/の¥じゆりやう/たり
P1006
/しか/ども、¥てんじやう/の¥せんせき/を/ば¥いまだ¥ゆるさ/れ/ず。
¥「てんじやうのやみうち」S0102 『てんじやうのやみうち』T0102
¥しかる/に¥ただもり/の−あそん、¥いまだ¥びぜん/の−かみ/たり/し¥とき、¥とば/の−ゐん/の¥ご−ぐわん、¥とくぢやうじゆ−ゐん/を¥ざうしん−し/て、¥さんじふさんげん/の¥み−だう/を¥たて、¥いつせんいつ−たい/の¥み−ほとけ/を¥すゑ¥たてまつら/る。¥くやう/は¥てんしよう−ぐわんねん−さんぐわつ−じふさんにち/なり。¥けんしやう/に/は¥けつこく/を¥たまふ/べき¥よし¥おほせ−くださ/れ/ける。¥をりふし¥たじま/の−くに/の¥あき/たり/ける/を/ぞ¥たまはり/ける。¥しやうくわう¥なほ¥ぎよ−かん/の¥あまり/に、¥うち/の¥しようでん/を¥ゆるさ/る。¥ただもり¥さんじふろく/にて¥はじめて¥しようでん−す。¥くも/の−うへびと¥これ/を¥そねみ−いきどほり、¥おなじき−とし/の−じふいちぐわつ−にじふさんにち、¥ごせち−とよのあかり/の−せちゑ/の¥よ、¥ただもり/を¥やみうち/に¥せ/ん/と/ぞ¥ぎ−せ/られ/ける。¥ただもり、¥こ/の¥よし/を¥つたへ−きき/て、¥「われ¥いうひつ/の¥み/に¥あら/ず、¥ぶよう/の¥いへ/に¥うまれ/て、¥いま¥ふりよ/の¥はぢ/に¥あは/ん¥こと、¥いへ/の¥ため、¥み/の¥ため¥こころ−うかる/べし。¥せんずる−ところ、¥み/を¥まつたう−し/て¥きみ/に¥つかへ¥たてまつれ/と¥いふ¥ほんもん¥あり」/とて、¥かねて¥ようい/を¥いたす。¥さんだい/の¥はじめ/より、¥おほき/なる¥さやまき/を¥ようい−し、¥そくたい/の¥した/に¥しどけな−げ/に¥さし、¥ひ/の¥ほの−くらき¥かた/に¥むかつ/て、¥やはら¥こ/の¥かたな/を¥ぬき−いで/て、¥びん/に¥ひき−あて/られ/たり/ける/が、¥よそ/より/は、¥こほり/など/の¥やう/に/ぞ¥みえ/たり/ける。¥しよにん¥め/を¥すまし/けり。¥また¥ただもり/の¥らうどう、¥もとは¥いちもん/たり/し¥もく/の−すけ−たひら/の−さだみつ/が¥まご、¥しん/の−しらう−だいふ−いへふさ/が¥こ/に、¥さひやうゑ/の−じよう−いへさだ/と¥いふ¥もの¥あり。¥うすあを/の¥かりぎぬ/の¥した/に、¥もえぎ−をどし/の−はらまき/を¥き、¥つかぶくろ¥つけ/たる¥たち¥わき−ばさん/で、¥てんじやう/の¥こには/に¥かしこまつ/て/ぞ¥さふらひ/ける。¥くわんじゆ¥いげ、¥あやしみ/を¥なし/て、¥「うつほばしら/より¥うち、¥すず/の¥つな/の¥あたり/に、¥ほうい/の¥もの¥さぶらふ/は¥なにもの/ぞ。¥らうぜき/なり。¥とうとう
P1007
¥まかり−いでよ」/と、¥ろくゐ/を¥もつて¥いは/せ/られ/たり/けれ/ば、¥いへさだ¥かしこまつ/て¥まうし/ける/は、¥「さうでん/の¥しゆ¥びぜん/の−かみ−どの、¥こんや¥やみうち/に¥せ/られ¥たまふ/べき¥よし¥つたへ−うけたまはつ/て、¥それ¥なら/ん¥さま/を¥み/ん/とて、¥かくて¥さぶらふ/なり。¥え/こそ¥いで/まじう¥さうらへ」/とて、¥かしこまつ/て/ぞ¥さぶらひ/ける。¥これ−ら/を¥よし−なし/と/や¥おもは/れ/けん、¥そ/の−よ/の¥やみうち¥なかり/けり。¥ただもり¥また¥ごぜん/の¥めし/に¥まは/れ/ける/に、¥ひとびと¥ひやうし/を¥かへ/て、¥「いせ−へいし/は¥すがめ/なり/けり」/と/ぞ¥はやさ/れ/ける。¥かけ/ま−く/も¥かたじけなく、¥こ/の¥ひとびと/は¥かしはばら/の−てんわう/の¥おん−すゑ/と/は¥まうし/ながら、¥なかごろ/は¥みやこ/の¥すまひ/も¥うとうとしく、¥ぢげ/に/のみ¥ふるまひ−なつ/て、¥いせ/の−くに/に¥ぢゆうこく¥ふかかり/しか/ば、¥そ/の¥くに/の¥うつはもの/に¥こと−よせ/て、¥いせ−へいじ/と/ぞ¥はやさ/れ/ける。¥そ/の−うへ¥ただもり/の¥め/の¥すがま/れ/たり/ける¥ゆゑ/に/こそ、¥かやう/に/は¥はやさ/れ/ける/なれ。¥ただもり¥なん/と¥す/べき¥やう/も¥なく/して、¥ぎよ−いう/も¥いまだ¥をはら/ざる¥さき/に、¥ひそか/に¥ごぜん/を¥まかり−いで/らるる/とて、¥ししんでん/の¥おん−うしろ/に/して、¥かたへ/の¥てんじやうびと/の¥み/られ/ける¥ところ/にて、¥とのもづかさ/を¥めし/て¥よこだへ¥ささ/れ/たり/ける¥かたな/を/ば、¥あづけ−おき/て/ぞ¥いで/られ/ける。¥いへさだ、¥まち−うけ¥たてまつり/て、¥「さて¥いかが¥さふらひ/つる」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥かく/と/も¥いは/まほしう/は¥おもは/れ/けれ/ども、¥いひ/つる¥ほど/なら/ば、¥やがて¥てんじやう/まで/も¥きり−のぼら/んずる¥もの/の¥つらだましひ/にて¥ある¥あひだ、¥「べつ/の¥こと¥なし」/と/ぞ¥こたへ/られ/ける。¥ごせつ/に/は、¥「しらうすやう、¥こぜんじ/の¥かみ、¥まきあげ/の¥ふで、¥ともゑ¥かい/たる¥ふで/の¥ぢく」/など、¥さまざま¥かやう/に¥おもしろき¥こと/を/のみ/こそ¥うたひ¥まは/るる/に、¥なかごろ¥だざい/の−ごん/の−そつ−すゑなか/の−きやう/と¥いふ¥ひと¥あり/けり。¥あまり/に¥いろ/の¥くろかり/けれ/ば、¥みる¥ひと、¥こくそつ/と/ぞ¥まうし/ける。¥そ/の−ひと¥いまだ¥くらうど/の−とう/たり/し¥とき、¥ごぜん/の¥めし/に¥まは/れ/ける/に、¥ひとびと¥ひやうし/を¥かへ/て、¥「あな¥くろくろ、¥くろき¥とう/かな。¥いか/なる¥ひと/の¥うるし¥ぬり/けん」/と/ぞ¥はやさ/れ/ける。¥また¥くわざん/の−ゐん/の−さき/の−だいじやう−だいじん−ただまさ−こう、¥いまだ¥じつさい/と¥まうし/し¥とき、¥ちち¥ちゆうなごん−ただむね/の−きやう/に¥おくれ¥たまひ/て、¥みなしご/にて¥おはせ/し/を、¥こ−なかみかど−とう−ちゆうなごん−かせい/の−きやう、¥そ/の−とき/は¥いまだ¥はりま/の−かみ/にて¥おはし/ける/が、¥むこ/に¥とり/て、¥はなやか/に¥もてなさ/れ/けれ/ば、¥これ/も¥ごせつ/に/は、¥「はりまよね/は¥とくさ/か、¥むく/の−は/か、¥ひと/の¥きら/を¥みがく/は」/と/ぞ¥はやさ
P1008
/れ/ける。¥「しやうこ/に/は¥かやう/に¥あり/しか/ども、¥こと¥いで−こ/ず。¥まつだい¥いかが¥あら/んず/らん、¥おぼつかなし/と/ぞ¥ひとびと¥まうし−あは/れ/ける。¥あん/の/ごとく¥ごせつ¥はて/に/しか/ば、¥てんじやうびと、¥いちどう/に¥うつたへ¥まうさ/れ/ける/は、¥「それ¥ゆうけん/を¥たいし/て¥くえん/に¥れつし、¥ひやうぢやう/を¥たまはり/て¥きゆうちゆう/を¥しゆつにふ−する/は、¥みな¥これ¥きやくしき/の¥れい/を¥まもる、¥りんめい¥よし−ある¥せんぎ/なり。¥しかる/を¥ただもり/の−あそん、¥あるいは¥さうでん/の¥らうじゆう/と¥かうし/て、¥ほうい/の¥つはもの/を¥てんじやう/の¥こには/に¥めし−おき、¥あるいは¥こし/の¥かたな/を¥よこだへ−さい/て、¥せちゑ/の¥ざ/に¥つらなる。¥りやうでう¥きたい¥いまだ¥きか/ざる¥らうぜき/なり。¥こと¥すで/に¥ちようでふ−せ/り。¥ざいくわ¥もつとも¥のがれ−がたし。¥はやく¥てんじやう/の¥おん−ふだ/を¥けづり/て、¥けつくわん−ちやうにん−せ/らる/べき¥よし、¥しよきやう¥いちどう/に¥うつたへ¥まうさ/れ/けれ/ば、¥しやうくわう¥おほき/に¥おどろか/せ¥たまひ/て、¥ただもり/を¥めし/て¥おん−たづね¥あり。¥ちんじ¥まうさ/れ/ける/は、¥「まづ¥らうじゆう¥こには/に¥しこう/の¥よし、¥まつたく¥かくご¥つかまつら/ず。¥ただし¥きんじつ¥ひとびと¥あひ−たくま/るる¥むね、¥しさい¥ある/か/の¥あひだ、¥としごろ/の¥けにん、¥こと/を¥つたへ−きく/か/に¥よつ/て、¥そ/の¥はぢ/を¥たすけ/む/が¥ため/に、¥ただもり/に/は¥しらせ/ず/して、¥ひそか/に¥さんこう/の¥でう、¥ちから¥およば/ざる¥しだい/なり。¥もし¥そ/の¥とが¥ある/べく/ば、¥か/の¥み/を¥めし−しんず/べき/か。¥つぎに¥かたな/の¥こと/は、¥とのもづかさ/に¥あづけ−おき¥さふらひ−をはん/ぬ。¥めし−いださ/れ、¥かたな/の¥じつぷ/に¥つき/て、¥とが/の¥さう¥ある/べき/か」/と¥まうす。¥こ/の¥ぎ¥もつとも¥しかる/べし/とて、¥か/の¥かたな/を¥めし−いで/て¥えいらん¥ある/に、¥うへ/は¥さやまき/の¥くろう¥ぬつ/たり/ける/が、¥なか/は¥き−がたな/に¥ぎんぱく/を/ぞ¥おし/たり/ける。¥「たうざ/の¥ちじよく/を¥のがれ/ん/が¥ため/に、¥かたな/を¥たいする¥よし¥あらはす/と¥いへ/ども、¥ごにち
P1009
/の¥そしよう/を¥ぞんじ/て、¥き−がたな/を¥たいし/たる¥ようい/の¥ほど/こそ¥しんべう/なれ。¥きゆうせん/に¥たづさはら/ん¥ほど/の¥もの/の¥はかりごと/は、¥もつとも¥かう/こそ¥あら/まほしけれ。¥かねては¥また¥らうじゆう¥こには/に¥しこう/の¥よし、¥かつうは¥ぶし/の¥らうどう/の¥ならひ/なり。¥ただもり/が¥とが/に/は¥あら/ず」/とて、¥かへつて¥えいかん/に¥あづかり/し¥うへ/は、¥あへて¥ざいくわ/の¥さた/は¥なかり/けり。
¥「すすき」S0103 『すずき』T0103
¥そ/の¥こども/は¥みな¥しよゑい/の−すけ/に¥なり/て、¥しようでん−せ/し/に、¥てんじやう/の¥まじはり/を¥ひと¥きらふ/に¥およば/ず。¥ある−とき¥ただもり、¥びぜん/の−くに/より¥みやこ/へ¥のぼり/たり/ける/に、¥とば/の−ゐん¥ごぜん/へ¥めし/て、¥「あかし/の−うら/は¥いか/に」/と¥おほせ/けれ/ば¥ただもり
¥ありあけ/の−つき/も¥あかし/の¥うらかぜ/に¥なみ/ばかり/こそ¥よる/と¥みえ/しか W001
/と¥まうさ/れ/たり/けれ/ば、¥ななめ/ならず/に¥ぎよ−かん¥あり/て、¥やがて¥こ/の¥うた/を/ば、¥きんえふしふ/に/ぞ¥いれ/られ/ける。¥ただもり、¥また¥せんとう/に¥さいあい/の¥にようばう/を¥もつ/て¥かよは/れ/ける/が、¥ある−とき¥おはし/たり/ける/に、¥こ/の¥にようばう/の¥つぼね/に、¥つま/に¥つき¥いだし/たる¥あふぎ/を¥とり−わすれ/て、¥いで/られ/たり/けれ/ば、¥かたへ/の¥にようばう−たち、¥「これ/は¥いづく/より/の¥つきかげ/ぞ/や、¥いでどころ¥おぼつかなし」/など、¥わらひ−あは/れ/けれ/ば、¥か/の¥にようばう、
¥くもゐ/より¥ただ¥もり−き/たる¥つき/なれ/ば¥おぼろ−げ/にて/は¥いは/じ/と/ぞ¥おもふ W002
/と¥よみ/たり/けれ/ば、¥いとど¥あさから/ず¥おもは/れ/ける。¥さつま/の−かみ−ただのり/の¥はは¥これ/なり。¥にる/を¥とも/とかや/の¥ふぜい/にて、
P1010
¥ただもり/の¥すい/たり/けれ/ば、¥か/の¥にようばう/も¥いう/なり/けり。¥かくて¥ただもり、¥ぎやうぶきやう/に¥なつ/て、¥にんぺい−さんねん−しやうぐわつ−じふごにち、¥とし¥ごじふはち/にて¥うせ¥たまひ/しか/ば、¥きよもり¥ちやくなん/たる/に¥よつ/て、¥そ/の¥あと/を¥つぐ。¥ほうげん−ぐわんねん−しちぐわつ/に、¥うぢ/の−さふ、¥よ/を¥みだり¥たまひ/し¥とき、¥あき/の−かみ/とて¥み−かた/にて¥くんこう¥あり/しか/ば、¥はりま/の−かみ/に¥うつつ/て、¥おなじき−さんねん¥だざい/の−だいに/に¥なる。¥つぎ/に¥へいぢ−ぐわんねん−じふにぐわつ、¥のぶより¥よしとも/が¥むほん/の¥とき/も、¥み−かた/にて¥ぞくと/を¥うち−たひらげ/たり/しか/ば、¥くんこう¥ひとつ/に¥あら/ず、¥おんしやう¥これ¥おもかる/べし/とて、¥つぎ/の−とし¥じやう−ざんみ/に¥じよ−せ/られ、¥うち−つづき¥さいしやう、¥ゑふ/の−かみ、¥けんびゐし/の−べつたう、¥ちゆうなごん、¥だいなごん/に¥〔へ−〕あがつ/て、¥あまつさへ¥じようしやう/の¥くらゐ/に¥いたり、¥さう/を¥へ/ず/して、¥ないだいじん/より¥だいじやう−だいじん−じゆ−いちゐ/に¥あがる。¥だいしやう/に¥あら/ね/ども、¥ひやうぢやう/を¥たまはつ/て¥ずいじん/を¥めし−ぐす。¥ぎつしや¥れんじや/の¥せんじ/を¥かうむり、¥のり/ながら¥きゆうちゆう/に¥しゆつにふ−す。¥ひとへ/に¥しつせい/の¥しん/の/ごとし。¥「だいじやう−だいじん/は¥いちじん/に¥しはん/して、¥しかい/に¥ぎけい−せ/り。¥くに/を¥をさめ¥みち/を¥ろんじ、¥いんやう/を¥やはらげ−をさむ。¥そ/の−ひと/に¥あら/ず/は、¥すなはち¥かけよ/と¥いへ/り。¥されば¥そくけつ/の−くわん/と/も¥なづけ/られ/たり。¥そ/の¥ひと/なら/で/は¥けがす/まじき¥くわん/なり/とも、¥にふだう−しやうこく¥いつてん−しかい/を¥たなごころ/の¥うち/に¥にぎり¥たまひ/し¥うへ/は、¥しさい/に¥およば/ず。¥そもそも¥へいけ¥かやう/に¥はんじやう−する¥こと/は、¥くまの−ごんげん/の¥ご−りしやう/と/ぞ¥きこえ/し。¥そ/の¥ゆゑ/は、¥きよもり¥いまだ¥あき/の−かみ/たり/し¥とき、¥いせ/の−くに¥あの/の−つ/より、¥ふね/にて¥くまの/へ¥まゐら/れ/ける/に、¥おほき/なる¥すずき/の¥ふね/へ¥をどり−いり/たり/ける/を、¥せんだち¥まうし/ける/は、¥「これ/は¥めでたき¥おん−こと/かな、¥まゐる/べし」/と¥まうし/けれ/ば、¥にふだう−しやうこく¥さ/しも¥じつかい/を¥たもつ/て、¥しやうじん−けつさい/の¥みち/なれ/ども、¥むかし、¥しう/の¥ぶわう/の¥ふね/に/こそ、¥はくぎよ/は¥をどり−いり/た/なれ/とて¥てうみ−し/て¥わ/が−み¥くひ、¥いへのこ−らうどう−ども/に/も¥くはせ/らる。¥そ/の¥ゆゑ/に/や¥げかう/の¥のち、¥うち−つづき/て、¥きちじ/のみ¥おほかり/けり。¥わ/が−み¥だいじやう−だいじん/に¥いたり、¥しそん/の¥くわん/も、¥りよう/の¥くも/に¥のぼる/より/は¥なほ
P1011
¥すみやか/なり。くだい/の¥せんじよう/を¥こえ¥たまふ/こそ¥めでたけれ。
¥「かぶろ」S0104 『かぶろ』T0104
¥かくて¥きよもり、¥にんあん−さんねん−じふいちぐわつ−じふいちにち、¥とし¥ごじふいち/にて¥やまひ/に¥をかさ/れ、¥ぞんめい/の¥ため/に、¥たちまち/に¥しゆつけにふだう−す。¥ほふみやう/は¥じやうかい/と/こそ¥つき¥たまへ。¥そ/の¥ゆゑ/に/や、¥しゆくびやう¥たちどころ/に¥いえ/て¥てんめい/を¥まつたう−す。¥しゆつけ/の¥のち/も、¥えいえう/は¥なほ¥つき/ず/と/ぞ¥みえ/し。¥ぼんにん/の¥おもひ−つき¥たてまつる¥こと/は、¥ふる¥あめ/の¥こくど/を¥うるほす/が/ごとく、¥よ/の¥あまねく¥あふげる¥こと/も、¥ふく¥かぜ/の¥くさき/を¥なびかす/に¥おなじ。¥ろくはら−どの/の¥いつけ/の¥きんだち/と/だに¥いひ/て/しか/ば、¥くわしよく/も¥えいゆう/も、¥たれ¥かた/を¥ならべ、¥おもて/を¥むかふ¥きみ¥なし。¥また¥にふだう−しやうこく/の¥こじうと、¥へい−だいなごん−ときただ/の−きやう¥のたまひ/ける/は、¥「こ/の¥いちもん/に¥あら/ざら/ん¥もの/は、¥みな¥にんぴにん/たる/べし」/と/ぞ¥のたまひ/ける。¥され/ば¥いか/なる¥ひと/も、¥そ/の¥ゆかり/に¥むすぼれ/ん/と/ぞ¥し/ける。¥えぼし/の¥ため−やう/より¥はじめ/て、¥えもん/の¥さしぬき/の−りん/に¥いたる/まで、¥なにごと/も¥ろくはら−やう/と/だに¥いひ/て/しか/ば、¥いつてん−しかい/の¥ひと¥みな¥これ/を¥まなぶ。¥いか/なる¥けんわう¥けんしゆ/の¥おん−まつりごと、¥せつしやう¥くわんばく/の¥ご−せいばい/を/も、¥よ/に¥あまさ/れ/たる¥いたづらもの/など/の、¥ひと/の¥きかぬ¥ところ/に¥より−あひ/て、¥なに/と−なう¥そしり−かたぶけ¥まうす¥こと/は¥つね/の−ならひ/なれ/ども、¥こ/の¥ぜんもん¥よざかり/の¥ほど/は、¥いささか¥ゆるかせ/に¥まうす¥もの¥なし。¥そ/の¥ゆゑ/は¥にふだう−しやうこく/の¥はかりごと/に、¥じふしごろく/の¥わらべ/を¥さんびやくにん¥すくへ/て、¥かみ/を¥かぶろ/に¥きり−まはし、¥あかき¥ひたたれ/を¥きせ/て、¥めし−つかは/れ/ける/が、¥きやう−ぢゆう/に¥みちみち/て¥わうへん−し/けり。¥おのづから¥へいけ/の¥おん−こと/を、¥あしざま/に¥まうす
P1012
¥もの¥あれ/ば、¥ひとり¥きき−いださ/ぬ¥ほど/こそ¥あり/けれ、¥よたう/に¥ふれ−もよほし、¥そ/の¥いへ/に¥らんにふ−し、¥しざい−ざふぐ/を¥ついほ−し、¥そ/の¥やつ/を¥からめ−とり/て、¥ろくはら/へ¥ゐ/て¥まゐる。¥おほよそ¥め/に¥み、¥こころ/に¥しる/と¥いへ/ども、¥ことば/に¥あらはし/て¥まうす¥もの¥なし。¥ろくはら−どの/の¥かぶろ/と/だに¥いひ/て/しか/ば、¥みち/を¥すぐる¥うま¥くるま/も、¥みな¥よぎ/て/ぞ¥とほり/ける。¥きんもん/を¥しゆつにふ−す/と¥いへ/ども、¥しやうみやう/を¥たづね/らるる/に¥およば/ず。¥けいし/の¥ちやうり、¥これ/が¥ため/に¥め/を¥そばむ/と¥みえ/たり。
¥「わがみのえいぐわ」S0105 『わがみのえいぐわ』T0105
¥わ/が−み/の¥えいぐわ/を¥きはむる/のみ/なら/ず、¥いちもん¥とも/に¥はんじやう−し/て、¥ちやくなん¥しげもり、¥ないだいじん/の−さだいしやう、¥じなん¥むねもり、¥ちゆうなごん/の−うだいしやう、¥さんなん¥とももり、¥さんみ/の−ちゆうじやう、¥ちやくそん¥これもり、¥しゐ/の−せうしやう、¥すべて¥いちもん/の¥くぎやう¥じふろく−にん、¥てんじやうびと¥さんじふ−よ−にん、¥しよ−こく/の¥じゆりやう、¥ゑふ、¥しよし、¥つがふ¥ろくじふ−よ−にん/なり。¥よ/に/は¥また¥ひと¥なく/ぞ¥みえ/られ/ける。¥むかし¥なら/の−みかど/の¥おん−とき、¥じんき−ごねん、¥てうか/に¥ちゆうゑ/の−だいしやう/を¥はじめ−おか/れ、¥だいどう−しねん/に¥ちゆうゑ/を¥このゑ/と¥あらため/られ/し/より¥こ/の−かた、¥きやうだい¥さう/に¥あひ−ならぶ¥こと、¥わづか/に¥さんし−か−ど/なり。¥もんどく−てんわう/の¥おん−とき/は、¥ひだり/に¥よしふさ、¥うだいじん/の−さだいしやう、¥みぎ/に¥よしすけ、¥だいなごん/の−うだいしやう、¥これ/は¥かんゐん/の−さだいじん−ふゆつぐ/の¥おん−こ/なり。¥すじやくゐん/の¥ぎよ−う/に/は、¥ひだり/に¥さねより、¥をののみや−どの、¥みぎ/に¥もろすけ、¥くでう−どの、¥ていじん−こう/の¥おん−こ/なり。¥ごれいぜいゐん/の¥おん−とき/は、¥ひだり/に¥のりみち、¥おほにでう−どの、¥みぎ/に¥よりむね、¥ほりかは−どの、¥み−だう−くわんばく/の¥おん−こ/なり。¥にでう/の−ゐん/の¥ぎよ−う/に/は、¥ひだり/に¥もとふさ、¥まつ−どの、¥みぎ/に¥かねざね、¥つきのわ−どの、¥ほふしやうじ−どの/の¥おん−こ/なり。¥これ¥みな¥せふろく/の¥しん/の¥おん−しそく、¥ぼんじん/に¥とつ/て/は¥そ/の¥れい¥なし。¥てんじやう/の¥まじはり/を/だに¥きらは/れ/し¥ひと
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/の¥しそん/にて、¥きんじき−ざつぱう/を¥ゆり、¥りようら−きんしう/を¥み/に¥まとひ、¥だいじん/の−だいしやう/に¥なり/て¥きやうだい¥さう/に¥あひ−ならぶ¥こと、¥まつだい/と/は¥いひ/ながら、¥ふしぎ/なり/し¥こと−ども/なり。¥そ/の−ほか、¥おん−むすめ¥はち−にん¥おはし/き。¥みな¥とりどり/に¥さいはひ¥たまへ/り。¥ひとり/は¥さくらまち/の−ちゆうなごん−しげのり/の−きやう/の¥きたのかた/にて¥おはす/べかり/し/が、¥はつさい/の¥とし¥おん−やくそく/ばかり/にて、¥へいぢ/の−みだれ¥いご、¥ひき−ちがへ/られ/て、¥のち/に/は、¥くわざん/の−ゐん/の−さだいじん−どの/の¥み−だいばんどころ/に¥なら/せ¥たまひ/て、¥きんだち¥あまた¥ましまし/けり。¥そもそも¥こ/の¥しげのり/の−きやう/を¥さくらまち/の−ちゆうなごん/と¥まうし/ける¥こと/は、¥すぐれ/て¥こころ¥すき¥たまへ/る¥ひと/にて、¥つね/は¥よしの/の−やま/を¥こひ/つつ、¥ちやう/に¥さくら/を¥うゑ−ならべ、¥そ/の¥うち/に¥や/を¥たて/て¥すみ¥たまひ/しか/ば、¥くる¥とし/の¥はる−ごと/に、¥みる¥ひと、¥みな¥さくらまち/と/ぞ¥まうし/ける。¥さくら/は¥さき/て¥しち−か−にち/に¥ちる/を、¥なごり/を¥をしみ、¥あまてるおほかみ/に¥いのり¥まうさ/れ/けれ/ば/に/や、¥さんしち−にち/まで¥なごり¥あり/けり。¥きみ/も¥けんわう/にて¥ましませ/ば、¥しん/も¥しんとく/を¥かかやかし、¥はな/も¥こころ−あり/けれ/ば、¥はつか/の¥よはひ/を¥たもち/けり。¥いち−にん/は¥きさき/に¥たた/せ¥たまふ。¥わうじ¥ご−たんじやう¥あり/て、¥くわうたいし/に¥たち、¥くらゐ/に¥つか/せ¥たまひ/しか/ば、¥ゐんがう¥かうぶら/せ¥たまひ/て、¥けんれいもんゐん/と/ぞ¥まうし/ける。¥にふだう−しやうこく/の¥おん−むすめ/なる¥うへ、¥てんが/の¥こくも/にて¥ましませ/ば、¥とかう¥まうす/に¥およば/れ/ず。¥いち−にん/は¥ろくでう/の−せつしやう−どの/の¥きたのまんどころ/に¥なら/せ¥たまふ。¥たかくら/の−ゐん¥ご−ざいゐ/の¥おん−とき、¥おん−ははしろ/とて、¥じゆんさんごう/の¥せんじ/を¥かうぶり、¥しらかは−どの/とて、¥おもき¥ひと/にて/ぞ¥ましまし/ける。¥いち−にん/は¥ふげんじ−どの/の¥きたのまんどころ/に¥なら/せ¥たまふ。¥いち−にん/は¥しちでう/の−すり/の−だいぶ−のぶたか/の−きやう/に¥あひ−ぐし¥たまへ/り。¥いち−にん/は¥れんぜい/の−だいなごん−たかふさ/の−きやう/の¥きたのかた、¥また¥あき/の−くに−いつくしま/の−ないし/が¥はら/に¥いち−にん、¥おはし/ける/は、¥ごしらかは/の−ほふわう/へ¥まゐらせ¥たまひ/て、¥ひとへ/に¥にようご/の¥やう/で/ぞ¥ましまし/ける。¥そ/の−ほか¥くでう/の−ゐん/の¥ざふし¥ときは/が¥はら/に¥いち−にん、¥これ/は¥くわざん/の−ゐん−どの/の¥じやうらふ−にようばう/にて、¥らふ/の−おん−かた/と/ぞ¥まうし/ける。¥につぽん−あきつしま/は¥わづか/に¥ろくじふろく−か−こく、
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¥へいけ¥ちぎやう/の¥くに¥さんじふ−よ−か−こく、¥すで/に¥はんごく/に¥こえ/たり。¥そ/の−ほか¥しやうえん、¥たはた¥いくら/と¥いふ¥かず/を¥しら/ず。¥きら¥じゆうまん−し/て、¥だうじやう¥はな/の/ごとし。¥けんき¥ぐんじゆ−し/て、¥もんぜん¥いち/を¥なす。¥やうしう/の¥こがね、¥けいしう/の¥たま、¥ごぐん/の¥あや、¥しよくかう/の¥にしき、¥しちちん−まんぽう、¥ひとつ/と/して¥かけ/たる¥こと¥なし。¥かたう−ぶかく/の¥もとゐ、¥ぎよりよう−しやくば/の¥もてあそびもの、¥おそらく/は、¥ていけつ/も¥せんとう/も、¥これ/に/は¥すぎ/じ/と/ぞ¥みえ/し。
¥「にだいのきさき」S0106 『にだいのきさき』T0107
¥むかし/より¥いま/に¥いたる/まで、¥げんぺい−りやうし¥てうか/に¥めし−つかは/れ/て、¥わうくわ/に¥したがは/ず、¥おのづから¥てうけん/を¥かろんずる¥もの/に/は、¥たがひ/に¥いましめ/を¥くはへ/しか/ば、¥よ/の¥みだれ/は¥なかり/し/に、¥ほうげん/に¥ためよし¥きら/れ、¥へいぢ/に¥よしとも¥ちゆうせ/られ/て¥のち/は、¥すゑずゑ/の¥げんじ−ども¥あるいは¥ながさ/れ、¥あるいは¥うしなは/れ/て、¥いま/は¥へいけ/の¥いちるい/のみ¥はんじやう−し/て、¥かしら/を¥さし−いだす¥もの¥なし。¥いか/なら/ん¥すゑ/の−よ/まで/も、¥なにごと/か¥あら/ん/と/ぞ¥みえ/し。¥され/ども¥とば/の−ゐん¥ごあんが/の¥のち/は、¥へいかく¥うち−つづい/て、¥しざい、¥るけい、¥けつくわん、¥ちやうにん、¥つね/に¥おこなは/れ/て、¥かいだい/も¥しづか/なら/ず、¥せけん/も¥いまだ¥らくきよ−せ/ず。¥なかんづく¥えいりやく、¥おうほう/の¥ころ/より/して、¥ゐん/の¥きんじゆしや/を/ば、¥うち/より¥おん−いましめ¥あり、¥うち/の¥きんじゆしや/を/ば¥ゐん/より¥いましめ/らるる¥あひだ、¥じやうげ¥おそれ−をののい/て、¥やすい¥こころ/も¥なし。¥ただ¥しんえん/に¥のぞん/で、¥はくひよう/を¥ふむ/に¥おなじ。¥しゆしやう¥しやうくわう¥ふし/の¥おん−あひだ/に、¥なにごと/の¥おん−へだたり¥ある/べき/なれ/ども、¥おもひ/の−ほか/の¥こと−ども¥おほかり/けり。¥これ/も¥よ¥げうき/に¥およん/で、¥ひと¥けうあく/を¥さき/と¥する¥ゆゑ/なり。¥しゆしやう、¥ゐん/の¥おほせ/を¥つね/は¥まうし−かへさ/せ¥おはしまし/ける¥なか/に/も、¥ひと¥じもく/を¥おどろかし、¥よ¥もつて¥おほき/に¥かたぶけ¥まうす¥こと¥あり/けり。¥こ−このゑ/の−ゐん/の¥きさき、¥たいくわうたいこうぐう
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/と¥まうし/し/は、¥おほひのみかど/の−うだいじん−きんよし−こう/の¥おん−むすめ/なり。¥せんてい/に¥おくれ¥たてまつり¥たまひ/て¥のち/は、¥ここのへ/の¥ほか、¥このゑがはら/の¥ごしよ/に/ぞ¥うつり−すま/せ¥たまひ/ける。¥さき/の−きさい/の−みや/にて、¥かすか/なる¥おん−ありさま/にて¥わたら/せ¥たまひ/し/が、¥えいりやく/の¥ころほひ/は、¥おん−とし¥にじふにさん/に/も/や¥なら/せ¥ましまし/けん、¥おん−さかり/も¥すこし¥すぎ/させ¥おはします¥ほど/なり。¥され/ども、¥てんが¥だいいち/の¥びじん/の¥きこえ¥ましまし/けれ/ば、¥しゆしやう¥いろ/に/のみ¥そめる¥み−こころ/にて、¥ひそか/に¥かうりきし/に¥せうじ/て、¥ぐわいきゆう/に¥ひき−もとめ/しむる/に¥および/て、¥こ/の¥おほみや/へ¥ご−えんしよ¥あり。¥おほみや¥あへて¥きこしめし/も¥いれ/ず。¥しゆしやう¥ひたすら¥はや¥ほ/に¥あらはれ/て、¥きさき¥ご−じゆだい¥ある/べき¥よし、¥うだいじんげ/に¥せんじ/を¥くださ/る。¥こ/の¥こと¥てんが/に¥おい/て¥こと/なる¥しようじ/なれ/ば、¥くぎやう−せんぎ¥あり/けり。¥おのおの¥いけん/を¥いふ。¥「まづ¥いてう/の¥せんじよう/を¥とぶらふ/に、¥しんだん/の¥そくてんくわうごう/は、¥たう/の¥たいそう/の¥きさき、¥かうそう−くわうてい/の¥けいぼ/なり。¥たいそう¥ほうぎよ/の¥のち、¥かうそう/の¥きさき/に¥たち¥たまふ¥こと¥あり。¥それ/は¥いてう/の¥せんぎ/たる¥うへ、¥べつだん/の¥こと/なり。¥しかれ/ども¥わ/が−てう/に/は、¥じんむ−てんわう/より¥こ/の−かた¥にんわう¥しちじふ−よ−だい/に¥およぶ/まで、¥いまだ¥に−だい/の¥きさき/に¥なら/せ¥たまふ¥れい/を¥きか/ず」/と¥しよきやう¥いちどう/に¥まうさ/れ/たり。¥しやうくわう/も¥しかる/べから/ざる¥よし、¥こしらへ¥まうさ/せ¥たまへ/ども、¥しゆしやう¥おほせ−なり/ける/は、¥「てんし/に¥ぶも¥なし。¥われ¥じふぜん/の−かいこう/に¥よつ/て、¥ばんじよう/の−ほうゐ/を¥たもつ。¥これ−ほど/の¥こと¥など/か¥えいりよ/に¥まかせ/ざる/べき」/とて、¥やがて¥ご−じゆだい/の¥ひ、¥せんげ−せ/られ/ける¥うへ/は、¥ちから¥およば/せ¥たまは/ず。¥おほみや¥かく/と¥きこしめさ/れ/ける/より、¥おん−なみだ/に¥しづま/せ¥おはします。¥せんてい/に¥おくれ¥まゐらせ/に/し¥きうじゆ/の¥あき/の¥はじめ、¥おなじ¥のばら/の¥つゆ/と/も¥きえ、¥いへ/を/も¥いで¥よ/を/も¥のがれ/たり/せ/ば、¥いま¥かかる¥うき¥こと/を/ば¥きか/ざら/まし/と/ぞ、¥おん−なげき¥あり/ける。¥ちち/の−おとど¥こしらへ¥まうさ/せ¥たまひ/ける/は、¥「よ/に¥したがは/ざる/を¥もつて¥きやうじん
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/と¥す/と¥みえ/たり。¥すで/に¥ぜうめい/を¥くださ/る。¥しさい/を¥まうす/に¥ところ¥なし。ただ¥すみやか/に¥まゐらせ¥たまふ/べき/なり。¥もし¥わうじ¥ご−たんじやう¥あり/て、¥きみ/も¥こくも/と¥いは/れ、¥ぐらう/も¥ぐわいそ/と¥あふが/る/べき¥ずいさう/にて/も/や¥さうらふ/らん。¥これ¥ひとへ/に¥ぐらう/を¥たすけ/させ¥おはします¥ご−かうかう/の¥おん−いたり/なる/べし」/と、¥やうやう/に¥こしらへ¥まうさ/せ¥たまへ/ども、¥おん−ぺんじ/も¥なかり/けり。¥おほみや¥そ/の−ころ¥なに/と−なき¥おん−てならひ/の¥ついで/に、
¥うき−ふし/に¥しづみ/も¥やら/で¥かはたけ/の¥よ/に¥ためし¥なき¥な/を/や¥ながさ/ん W004
¥よ/に/は¥いか/に−し/て¥もれ/ける/や/らん、¥あはれ/に¥やさしき¥ためし/に/ぞ¥ひと¥みな¥まうし−あは/れ/ける。¥すで/に¥ご−じゆだい/の¥ひ/に/も¥なり/しか/ば、¥ちち/の−おとど、¥ぐぶ/の¥かんだちめ、¥いだしぐるま/の¥ぎしき/など、¥こころ¥〔こと〕/に¥だし−たて¥まゐら/させ¥たまひ/けり。¥おほみや¥もの−うき¥おん−いでたち/なれ/ば、¥とみ/に/も¥たてまつら/ず、¥はるか/に¥よ¥ふけ、¥さ−よ/も¥なかば/に¥なり/て¥のち、¥み−くるま/に¥たすけ−のせ/られ/させ¥たまひ/けり。¥ご−じゆだい/の¥のち/は、¥れいけいでん/に/ぞ¥ましまし/ける。¥ひたすら¥あさまつりごと/を¥すすめ¥まうさ/せ¥たまふ¥おん−さま/なり。¥か/の¥ししんでん/の¥くわうきよ/に/は、¥げんじやう/の¥さうじ/を¥たて/られ/たり。¥いいん、¥ていごりん、¥ぐせいなん、¥たいこうばう、¥ろくりせんせい、¥りせき、¥しば、¥てなが、−あしなが、¥うまがた/の−さうじ、¥おに/の−ま、¥りしやうぐん/が¥すがた/を¥さ/ながら¥うつせ/る¥さうじ/も¥あり。¥をはり/の−かみ−をの/の−みちかぜ/が、¥しちくわい−げんじやう/の¥さうじ/と¥かけ/る/も、¥ことわり/と/ぞ¥みえ/し。¥か/の¥せいりやうでん/の¥ぐわと/の¥み−さうじ/に/は、¥むかし¥かなをか/が¥かき/たり/し、¥とほやま/の¥ありあけ/の−つき/も¥あり/とかや。¥こ−ゐん/の¥いまだ¥えうしゆ/にて¥ましまし/ける¥そ/の−かみ、¥なに/と−なき¥おん−て−まさぐり/の¥ついで/に、¥かき−くもらかさ/せ¥たまひ/たり/し/が、¥あり/し/ながら/に¥すこし/も¥たがは/ぬ/を¥ごらんじ/て、¥せんてい/の¥むかし/も/や¥おん−こひしう¥おぼしめさ/れ/けん、
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¥おもひ/き/や¥うき−み/ながら/に¥めぐり−き/て¥おなじ¥くもゐ/の¥つき/をの[* の ノ字衍字]¥み/ん/と/は W005
¥そ/の−あひだ/の¥おん−なからひ、¥いひ−しら/ず¥あはれ/に¥やさしき¥おん−こと/なり。
¥「がくうちろん」S0107 『がくうちろん』T0108
¥さる−ほど/に、¥えいまん−ぐわんねん/の¥はる/の¥ころ/より、¥しゆしやう¥ご−ふよ/の¥おん−こと/と¥きこえ/させ¥たまひ/し/が、¥なつ/の¥はじめ/に/も¥なり/しか/ば、¥こと/の−ほか/に¥おもら/せ¥たまふ。¥これ/に−よつ/て、¥おほくら/の−たいふ−いき/の−かねもり/が¥むすめ/の¥はら/に、¥きんじやう¥いちのみや/の¥に−さい/に¥なら/せ¥たまふ/が¥ましまし/ける/を、¥たいし/に¥たて¥まゐら/させ¥たまふ/べし/と¥きこえ/し¥ほど/に、¥おなじき−ろくぐわつ−にじふごにち、¥にはか/に¥しんわう/の−せんじ¥くださ/せ¥たまふ。¥やがて¥そ/の−よ¥じゆぜん¥あり/しか/ば、¥てんが¥なに/と−なう¥あわて/たる¥さま/なり/けり。¥そ/の−とき/の¥いうしよく/の¥ひとびと¥まうし−あは/れ/ける/は、¥まづ¥ほんてう/に、¥どうてい/の¥れい/を¥たづぬる/に、¥せいわ−てんわう¥く−さい/に/して、¥もんどく−てんわう/の¥おん−ゆづり/を¥うけ/させ¥たまふ。¥これ/は¥か/の¥しうこうたん/の¥せいわう/に¥かはり、¥なんめん/に/して、¥いちじつ−ばんき/の¥まつりごと/を¥をさめ¥たまひ/し/に¥なぞらへ/て、¥ぐわいそ−ちゆうじん−こう、¥えうしゆ/を¥ふち−し¥たまへ/り。¥これ/ぞ¥せつしやう/の¥はじめ/なる。¥とば/の−ゐん¥ご−さい、¥こんゑ/の−ゐん¥さん−ざい/にて¥せんそ¥あり。¥かれ/を/こそ、¥いつしか/なれ/と¥まうし/し/に、¥これ/は¥に−さい/に¥なら/せ¥たまふ。¥せんれい¥なし。¥もの−さわがし/とも¥おろか/なり。¥さる−ほど/に、¥おなじき−しちぐわつ−にじふしちにち、¥しやうくわう¥つひ/に¥ほうぎよ¥なり/ぬ。¥おん−とし¥にじふさん。¥つぼめ/る¥はな/の¥ちれ/る/が/ごとし。¥たま/の−すだれ、¥にしき/の−ちやう/の¥うち、¥みな¥おん−なみだ/に¥むせば/せ¥おはします。¥やがて¥そ/の−よ、¥かうりゆうじ/の¥うしとら、¥れんだいの/の¥おく、¥ふなをかやま/に¥をさめ¥たてまつる。¥ご−さうそう/の¥よ、¥こうぶく¥えんりやく¥りやうじ/の¥だいしゆ、¥がくうちろん/と¥いふ¥こと/を¥し−いだし/て、¥たがひ/に
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¥らうぜき/に¥およぶ。¥いつてん/の−きみ¥ほうぎよ¥なり/て¥のち、¥ご−むしよ/へ¥わたし¥たてまつる¥とき/の¥さほふ/は、¥なんぼく−にきやう/の¥だいしゆ、¥ことごとく¥ぐぶ−し/て、¥ご−むしよ/の¥めぐり/に、¥わ/が¥てらでら/の¥がく/を¥うつ¥こと¥あり/けり。¥まづ¥しやうむ−てんわう/の¥ご−ぐわん、¥あらそふ/べき¥てら¥なけれ/ば、¥とうだいじ/の¥がく/を¥うつ。¥つぎ/に¥たんかい−こう/の¥ご−ぐわん/とて¥こうぶくじ/の¥がく/を¥うつ。¥ほくきやう/に/は、¥こうぶくじ/に¥むかへ/て、¥えんりやくじ/の¥がく/を¥うつ。¥つぎ/に¥てんむ−てんわう/の¥ご−ぐわん、¥けうだい−わじやう、¥ちしよう−だいし/の¥さうさう/とて¥をんじやうじ/の¥がく/を¥うつ。¥しかる/を、¥さんもん/の¥だいしゆ、¥いかが¥おもひ/けん、¥せんれい/を¥そむい/て、¥とうだいじ/の¥つぎ、¥こうぶくじ/の¥うへ/に、¥えんりやくじ/の¥がく/を¥うつ¥あひだ、¥なんと/の¥だいしゆ、¥と/や¥せ/まし、¥かう/や¥せ/まし/と、¥せんぎ−する¥ところ/に、¥ここ/に¥こうぶくじ/の¥さいこんだうじゆ、¥くわんおん−ばう、¥せいし−ばう/とて、¥きこえ/たる¥だいあくそう¥に−にん¥あり/けり。¥くわんおん−ばう/は¥くろいと−をどし/の−はらまき/に、¥しらえ/の−なぎなた、¥くき−みじか/に¥とり、¥せいし−ばう/は¥もよぎ−をどし/の−はらまき/に、¥くろぞめ/の−おほ−だち¥もち/て、¥に−にん¥つと¥はしり−いで、¥こうぶくじ[* えんりやくじ ノ誤カ]/の¥がく/を¥きつ/て¥おとし、¥さんざん/に¥うち−わり、¥「うれし/や¥みづ、¥なる/は¥たき/の¥みづ、¥ひ/は¥てる/とも、¥たえ/ず/と¥うたへ」/と¥はやし/つつ、¥なんと/の¥しゆと/の¥なか/へ/ぞ¥いり/に/ける。
¥「きよみづえんじやう」S0108 『きよみづでらえんしやう』T0109
¥さんもん/の¥だいしゆ、¥らうぜき/を¥いたさ/ば¥てむかへ−す/べき¥ところ/に、¥こころ−ぶかう¥ねらふ¥かた/も/や¥あり/けん、¥ひとことば/も¥いださ/ず。¥みかど¥かくれ/させ¥たまひ/て¥のち/は、¥こころ−なき¥さうもく/まで/も、¥みな¥うれひ/たる¥いろ/に/こそ¥ある/べき/に、¥こ/の¥さうどう/の¥あさまし−さ/に¥たかき/も¥いやしき/も、¥きも−たましひ/を¥うしなひ/て、¥しはう/へ¥みな¥たいさん−す。¥おなじき−にじふくにち/の¥うま/の−こく/ばかり、¥さんもん/の¥だいしゆ¥おびたたしう
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¥げらく−す/と¥きこえ/しか/ば、¥ぶし、¥けんびゐし、¥にしざかもと/に¥ゆき−むかつ/て¥ふせぎ/けれ/ども、¥こと/と/も¥せ/ず、¥おし−やぶつ/て¥らんにふ−す。¥また¥なにもの/の¥まうし−いだし/たり/ける/やらん、¥「いちゐん、¥さんもん/の¥だいしゆ/に¥おほせ/て、¥へいけ¥ついたう−せ/らる/べし」/と¥きこえ/しか/ば、¥ぐんびやう¥だいり/に¥さんじ/て¥しはう/の¥ぢんどう/を¥けいご−す。¥へいじ/の¥いちるい¥みな¥ろくはら/へ¥はせ−あつまる。¥いちゐん/も¥いそぎ¥ろくはら/へ¥ご−かう¥なる。¥きよもり−こう¥そ/の−とき/は¥いまだ¥だいなごん/の−うだいしやう/にて¥おはし/ける/が、¥おほき/に¥おそれ−さわが/れ/けり。¥こまつ−どの、¥「なに/に¥よつ/て、¥ただいま¥さる−こと¥さうらふ/べき」/と¥しづめ¥まうさ/れ/けれ/ども、¥つはもの−ども¥さわぎ−ののしる¥こと¥おびたたし。¥され/ども¥さんもん/の¥だいしゆ¥ろくはら/へ/は¥よせ/ず/して、¥すぞろ/なる¥きよみづでら/に¥おし−よせ/て、¥ぶつかく¥そうばう¥いち−う/も¥のこさ/ず¥みな¥やき−はらふ。¥これ/は¥さんぬる¥ご−さうそう/の¥よ/の¥くわいけい/の−はぢ/を¥きよめ/ん/が¥ため/と/ぞ¥きこえ/し。¥きよみづでら/は¥こうぶくじ/の¥まつじ/たる/に¥よつ/て/なり。¥きよみづでら¥やけ/たり/ける¥あした、¥「や、¥くわんおん−くわけう−へんじやうち/は¥いか/に」/と、¥ふだ/に¥かき/て、¥だいもん/の¥まへ/に¥たて/たり/けれ/ば、¥つぎ/の−ひ¥また、¥「りやくこふ−ふしぎ¥ちから¥およば/ず」/と、¥かへし/の¥ふだ/を/ぞ¥うち/たり/ける。¥しゆと¥かへり−のぼり/に/けれ/ば、¥いちゐん/も¥いそぎ¥ろくはら/より¥くわんぎよ¥なる。¥しげもり/の−きやう/ばかり/ぞ、¥おん−とも/に/は¥まゐら/れ/ける。¥ちち/の−きやう/は¥まゐら/れ/ず。¥なほ¥ようじん/の¥ため/か/と/ぞ¥みえ/し。¥しげもり/の−きやう、¥おん−おくり/より¥かへら/れ/たり/けれ/ば、¥ちち−だいなごん¥のたまひ/ける/は、¥「さて/も¥いちゐん/の¥ご−かう/こそ¥おほき/に¥おそれ−おぼゆれ。¥かねても¥おぼしめし−より、¥おほせ/らるる¥むね/の¥あれ/ば/こそ、¥かう/は¥きこえ/め。¥それ/に/も¥うち−とけ¥たまふ/まじ」/と¥のたまへ/ば、¥しげもり/の−きやう¥まうさ/れ/ける/は、¥「こ/の¥こと¥ゆめゆめ¥おん−けしき/に/も、¥おん−ことば/に/も¥いださ/せ¥たまふ/べから/ず。¥ひと/に¥こころつけがほ/に、¥なかなか¥あしき¥おん−こと/なり。¥それ/に−つけ/て/も、¥よくよく¥えいりよ/に¥そむか/せ¥たまは/で、¥ひと/の¥ため/に¥おん−なさけ/を¥ほどこさ/せ¥ましまさ/ば、¥しんめい¥さんぽう¥かご¥ある/べし。¥さら/ん/に¥とつ/て/は、¥おん−み/の¥おそれ¥さうらふ/まじ」/とて¥たた/れ/けれ
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/ば、¥「しげもり/の−きやう/は¥ゆゆしう¥おほやう/なる/ものかな」/と/ぞ、¥ちち/の−きやう/も¥のたまひ/ける。¥いちゐん¥くわんぎよ/の¥のち、¥ごぜん/に¥うとから/ぬ¥きんじゆしや−たち、¥あまた¥さぶらは/れ/ける/に、¥「さて/も¥ふしぎ/の¥こと/を¥まうし−いだし/たる/ものかな。¥つゆ/も¥おぼしめし−よら/ぬ/ものを」/と¥おほせ/けれ/ば、¥ゐん−ぢゆう/の¥きりもの/に¥さいくわう−ほふし/と¥いふ¥もの¥あり。¥をりふし¥ごぜん¥ちかう¥さぶらひ/ける/が、¥すすみ−いで/て、¥「てん/に¥くち¥なし、¥にん/を¥もつて¥いは/せよ/と¥まうす。¥へいけ¥もつて/の−ほか/に¥くわぶん/に¥さうらふ¥あひだ、¥てん/の¥おん−いましめ/に/や」/と/ぞ¥まうし/ける。¥ひとびと、¥「こ/の¥こと¥よし−なし。¥かべ/に¥みみ¥あり。¥おそろし¥おそろし」/と/ぞ、¥おのおの¥ささやき−あは/れ/ける。
¥「とうぐうだち」S0109 『とうぐうだち』T0110
¥さる−ほど/に、¥そ/の¥とし/は¥りやうあん/なり/けれ/ば、¥ご−けい¥だいじやうゑ/も¥おこなは/れ/ず。¥けんしゆんもんゐん、¥そ/の−とき/は¥いまだ¥ひがし/の−おん−かた/と¥まうし/ける。¥そ/の¥おん−はら/に、¥いちゐん/の¥みや/の¥ましまし/ける/を、¥たいし/に¥たて¥まゐら/させ¥たまふ/べし/と¥きこえ/し¥ほど/に、¥おなじき−じふにぐわつ−にじふしにち、¥にはか/に¥しんわう/の−せんじ¥かうぶら/せ¥たまふ。¥あくれ/ば¥かいげん¥あり/て、¥にんあん/と¥かうす。¥おなじき−とし/の−じふぐわつ−やうかのひ、¥きよねん¥しんわう/の−せんじ¥かうぶら/せ¥たまひ/し¥わうじ、¥とうさんでう/にて¥とうぐう/に¥たた/せ¥たまふ。¥とうぐう/は¥おん−をぢ¥ろく−さい、¥しゆしやう/は¥おん−をひ¥さん−ざい、¥いづれ/も¥ぜうもく/に¥あひ−かなは/ず。¥ただし¥くわんわ−にねん/に、¥いちでう/の−ゐん¥しち−さい/にて¥ご−そくゐ¥あり。¥さんでう/の−ゐん¥じふいつ−さい/にて¥とうぐう/に¥たた/せ¥たまふ。¥せんれい¥なき/に/しも−あら/ず。¥しゆしやう/は¥に−さい/にて¥おん−ゆづり/を¥うけ/させ¥たまひ、¥わづか/に¥ご−さい/と¥まうし/し¥にぐわつ−じふくにち/に、¥おん−くらゐ/を¥すべり/て、¥しんゐん/と/ぞ¥まうし/ける。¥いまだ¥ご−げんぶく/も¥なく/して、¥だいじやう−てんわう/の¥そんがう¥あり。¥かんか¥ほんてう、¥これ/や¥はじめ/なら/ん。¥にんあん−さんねん−さんぐわつ−はつかのひ、¥しんてい¥だいごくでん/に/して
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¥ご−そくゐ¥あり。¥こ/の¥きみ/の¥くらゐ/に¥つか/せ¥たまひ/ぬる/は、¥いよいよ¥へいけ/の¥えいぐわ/と/ぞ¥みえ/し。¥こくも¥けんしゆんもんゐん/と¥まうす/は、¥へいけ/の¥いちもん/にて¥おはし/ける¥うへ、¥とりわき¥にふだう−しやうこく/の¥きたのかた、¥はちでう−ゐん/の−にゐ−どの/の¥おん−いもうと/なり。¥また¥へい−だいなごん−ときただ/と¥まうす/も、¥にようゐん/の¥おん−せうと/にて¥ましまし/けれ/ば、¥ないげ/に¥つけ/て/も¥しつけん/の−しん/と/ぞ¥みえ/し。¥そ/の−ころ/の¥じよゐ¥じもく/と¥まうす/も、¥ひとへ/に¥こ/の¥ときただ/の−きやう/の¥まま/なり/けり。¥やうきひ/が¥さいはひ/し¥とき、¥やうこくちゆう/が¥さかえ/し/が/ごとし。¥よ/の¥おぼえ、¥とき/の¥きら¥めでたかり/き。¥にふだう−しやうこく¥てんが/の¥だいせうじ/を¥のたまひ−あはせ/られ/けれ/ば、¥とき/の−ひと、¥へい−くわんばく/と/ぞ¥まうし/ける。
¥「ぎわう」S0110 『ぎわう』T0106
¥にふだう/は、¥しやうこく¥いつてん−しかい/を¥たなごころ/の¥うち/に¥にぎり¥たまひ/し¥うへ/は、¥よ/の¥そしり/を/も¥はばから/ず、¥ひと/の¥あざけり/を/も¥かへりみ/ず、¥ふしぎ/の¥こと/を/のみ¥し¥たまへ/り。¥たとへば、¥そ/の−ころ¥みやこ/に¥きこえ/たる¥しらびやうし/の¥じやうず、¥ぎわう、¥ぎぢよ/とて¥おとどひ¥あり。¥とぢ/と¥いふ¥しらびやうし/の¥むすめ/なり。¥しかる/に¥あね/の¥ぎわう/を/ば、¥にふだう−しやうこく¥ちようあい−せ/られ/けり。¥これ/に−より/て、¥いもうと/の¥ぎぢよ/を/も、¥よ/の−ひと¥もてなす¥こと¥ななめ/なら/ず。¥はは¥とぢ/に/も¥よき¥や¥つくり/て¥とら/せ、¥まい−ぐわつ〔/に〕¥ひやく−こく¥ひやく−くわん/を¥おくら/れ/けれ/ば、¥かない¥ふつき−し/て¥たのしい¥こと¥ななめ/なら/ず。¥そもそも¥わ/が−てう/に¥しらびやうし/の¥はじまり/ける¥こと/は、¥むかし¥とば/の−ゐん/の¥ぎよ−う/に、¥しまのせんざい、¥わかのまへ、¥かれ−ら¥ふたり/が¥まひ−いだし/たり/ける/なり。¥はじめ/は¥すいかん/に¥たて−えぼし、¥しろざやまき/を¥さい/て¥まひ/けれ/ば¥をとこまひ/と/ぞ¥まうし/ける。¥しかる/を¥なかごろ/より
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¥えぼし¥かたな/を¥のけ/られ/て、¥すいかん/ばかり/を¥もちひ/たり。¥さて/こそ¥しらびやうし/と/は¥なづけ/けれ。¥きやう−ぢゆう/の¥しらびやうし−ども、¥ぎわう/が¥さいはひ/の¥めでたき¥やう/を¥きき/て、¥うらやむ¥もの/も¥あり、¥そねむ¥もの/も¥あり/けり。¥うらやむ¥もの/は、¥「あな¥めでた/の¥ぎわう−ごぜん/の¥さいはひ/や/な。¥おなじ¥あそびめ/と/なら/ば、¥たれ/も¥みな¥あ/の¥やう/で/こそ¥あり/たけれ。¥いかさま¥これ/は¥ぎ/と¥いふ¥もじ/を¥な/に¥つけ/て、¥かく/は¥めでたき/やらん。¥いざ¥われ−ら/も¥つい/て¥み/ん」/とて、¥あるいは¥ぎいち/と¥つき、¥ぎに/と¥つき、¥あるいは¥ぎふく、¥ぎとく/など¥いふ¥もの/も¥あり/けり。¥そねむ¥もの/は、¥「なでふ¥な/に¥より、¥もじ/に/は¥よる/べき。¥さいはひ/は¥ただ¥ぜんぜ/の¥うまれつき/で/こそ¥ある/なれ」/とて、¥つか/ぬ¥もの/も¥おほかり/けり。¥かくて¥みとせ/と¥まうす/に、¥みやこ/に¥また¥しらびやうし/の¥じやうず、¥いち−にん¥いで−き/たり。¥かが/の−くに/の¥もの/なり。¥な/を/ば¥ほとけ/と/ぞ¥まうし/ける。¥とし¥じふろく/と/ぞ¥きこえ/し。¥むかし/より¥おほく/の¥しらびやうし−ども/は¥あり/しか/ども、¥かかる¥まひ/は¥いまだ¥み/ず/とて、¥きやう−ぢゆう/の¥じやうげ、¥もてなす¥こと¥ななめ/なら/ず。¥ある−とき¥ほとけ−ごぜん¥まうし/ける/は、¥「われ¥てんが/に¥きこえ/たれ/ども、¥たうじ¥さしも¥めでたう¥さかえ/させ¥たまふ¥にしはちでう−どの/へ、¥めさ/れ/ぬ¥こと/こそ¥ほい−なけれ。¥あそびもの/の¥ならひ、¥なに/か¥くるしかる/べき。¥すいさん−し/て¥み/ん」/とて、¥ある−とき¥にしはちでう−どの/へ/ぞ¥まゐり/たる。¥ひと¥まゐり/て、¥「たうじ¥みやこ/に¥きこえ¥さうらふ¥ほとけ−ごぜん/が¥まゐり/て¥さうらふ」/と¥まうし/けれ/ば、¥にふだう、¥「なでふ、¥さやう/の¥あそびもの/は、¥ひと/の¥めし/に¥したがひ/て/こそ¥まゐれ。¥さう−なう¥すいさん−する¥やう/や¥ある。¥そ/の−うへ、¥かみ/と/も¥いへ、¥ほとけ/と/も¥いへ、¥ぎわう/が¥あら/ん¥ところ/へ/は¥いか/に/も¥かなふ/まじい。¥とうとう¥まかり−いでよ」/と/ぞ¥のたまひ/ける。¥ほとけ−ごぜん、¥すげなう¥いは/れ¥たてまつり/て、¥すで/に¥いで/ん/と¥し/ける/を、¥ぎわう¥にふだう−どの/に¥まうし/ける/は、¥「あそびもの/の¥すいさん/は、¥つね/の−ならひ/にて/こそ¥さぶらへ。¥そ/の−うへ¥とし/も¥いまだ¥をさなう¥さぶらふ/なる/が、¥たまたま¥おもひ−たち/て¥まゐり/て¥さぶらふ/を、¥すげなう¥おほせ/られ/て、¥かへさ/せ¥たまは/ん¥こと/こそ¥ふびん/なれ。
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¥いか/ばかり¥はづかしう、¥かたはらいたく/も¥さぶらふ/らん。¥わ/が¥たて/し¥みち/なれ/ば、¥ひと/の¥うへ/と/も¥おぼえ/ず。¥たとひ¥まひ/を¥ごらんじ、¥うた/を¥きこしめさ/るる/まで/こそ¥なく/とも、¥ご−たいめん/ばかり/は、¥なじか/は¥くるしう¥さぶらふ/べき。¥ただ¥り/を¥まげ/て、¥めし−かへし¥ご−たいめん¥あり/て¥かへさ/せ¥たまは/ば、¥あり−がたき¥おん−なさけ/で/こそ¥さぶらは/んず/らめ」/と¥まうし/けれ/ば、¥にふだう、¥「いでいで¥わ−ごぜ/が¥あまり/に¥いふ¥こと/なれ/ば、¥げんざん−し/て¥かへさ/ん」/とて、¥おん−つかひ/を¥たて/て、¥めさ/れ/けり。¥ほとけ−ごぜん/は、¥すげなう¥いは/れ¥たてまつり/て、¥すで/に¥くるま/に¥のり/て¥いで/ん/と¥し/ける/が、¥めさ/れ/て¥かへり−まゐり/たり。¥にふだう¥やがて¥いで−あひ¥たいめん¥あり/て、¥「けふ/の¥げんざん/は¥ある/まじかり/つれ/ども、¥ぎわう/が¥なに/と¥おもふ/やらん、¥あまり/に¥まうし−すすむる¥あひだ、¥げんざん/は¥し/つ。¥げんざん−する¥ほど/で/は¥いかで/か¥こゑ/を/も¥きか/で¥ある/べき。¥まづ¥いまやう¥ひとつ¥うたへ/かし」/と¥のたまへ/ば、¥ほとけ−ごぜん、¥「うけたまはり¥さぶらふ」/とて、¥いまやう¥ひとつ/ぞ¥うたう/たる。¥きみ/を¥はじめて¥みる¥をり/は¥ちよ/も¥へ/ぬ/べし¥ひめこまつ¥お−まへ/の¥いけ/なる¥かめをか/に¥つる/こそ¥むれ−ゐ/て¥あそぶ/めれ/と、¥おし−かへし−おし−かへし、¥さんべん¥うたひ−すまし/けれ。¥けんもん/の¥ひとびと/も、¥みな¥じぼく/を¥おどろか/す。¥にふだう/も¥おもしろ−げ/に¥おもひ¥たまひ/て、¥「わ−ごぜ/は、¥いまやう/は¥じやうず/にて¥あり/けり。¥こ/の¥ぢやう/で/は¥まひ/も¥さだめて¥よかる/らん。¥いちばん¥み/ばや、¥つづみ¥うち−めせ」/とて¥めさ/れ/けり。¥うた/せ/て¥いちばん¥まう/たり/けり。¥ほとけ−ごぜん/は、¥かみ−すがた/より¥はじめ/て、¥みめ−かたち¥よ/に¥すぐれ、¥こゑ¥よく¥ふし/も¥じやうず/なり/けれ/ば、¥なじか/は¥まひ/も¥そんず/べき。¥こころ/も¥およば/ず¥まひ−すまし/たり/けれ/ば、¥にふだう−しやうこく¥まひ/に¥めで¥たまひ/て、¥ほとけ/に¥こころ/を¥うつさ/れ/たり。ほとけ−ごぜん、¥「こ/は¥され/ば¥なにごと¥さぶらふ/ぞ/や。¥もと/より¥わらは/は¥すいさん/の¥もの/にて、¥いださ/れ¥まゐらせ¥さぶらひ/し/を、¥ぎわう−ごぜん/の¥まうしじやう/に¥よつ/て/こそ、¥めし−かへさ/れ/て/も¥さぶらへ。¥かやう/に¥めし−おか/れ/な/ば、¥ぎわう−ごぜん/の¥おもひ¥たまは/ん¥こころ/の¥うち
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¥はづかしう¥はべる/べし。¥はやばや¥いとま¥たまひ/て、¥いださ/せ¥おはしませ」/と¥まうし/けれ/ば、¥にふだう、¥「すべて¥そ/の¥ぎ¥あさまし。¥ぎわう/が¥ある/を¥はばかる/か。¥そ/の¥ぎ/なら/ば¥ぎわう/を/こそ¥いださ/め」/と¥のたまへ/ば、¥ほとけ−ごぜん、¥「それ¥また¥いかで/か¥さる−こと¥さぶらふ/べき。¥もろ−とも/に¥めし−おか/れ/ん/だに/も、¥こころ−うく¥さぶらふ/べき/に、¥ぎわう−ごぜん/を¥いださ/れ¥まゐらせ/て、¥わらは/が¥いち−にん¥めし−おか/れ/な/ば、¥いとど¥こころ−うく¥さぶらふ/べし。¥おのづから¥のち/まで/も¥わすれ/ぬ¥おん−こと/なら/ば、¥めさ/れ/て¥また/は¥まゐる/とも、¥けふ/は¥いとま/を¥たまはら/ん」/と/ぞ¥まうし/ける。¥にふだう、¥「なでう¥そ/の¥ぎ¥ある/べき。¥ただ¥ぎわう/を¥いださ/め」/とて、¥ぎわう¥とうとう¥まかり−いで/よ」/と、¥おん−つかひ¥かさね/て¥さんど/まで/こそ¥たて/られ/けれ。¥ぎわう¥ひごろ/より¥おもひ−まうけ/たる¥みち/なれ/ども、¥さすが¥きのふ¥けふ/と/は¥おもひ/も¥よら/ず。¥しきり/に¥いづ/べき¥よし、¥のたまふ¥あひだ、¥はき−のごひ、¥ちり¥ひろは/せ、¥み−ぐるしき¥もの−ども¥とり−したため/て、¥いづ/べき/に/こそ¥さだまり/けれ。¥いちじゆ/の¥かげ/に¥やどり−あひ、¥おなじ¥ながれ/を¥むすぶ/だに、¥わかれ/は¥かなしき¥ならひ/ぞ/かし。¥まして¥これ/は¥みとせ/が¥あひだ¥すみ−なれ/し¥ところ/なれ/ば、¥なごり/も¥をしう¥かなしく/て、¥かひ−なき¥なみだ/ぞ¥こぼれ/ける。¥さて/しも¥ある/べき¥こと/なら/ね/ば、¥いま/は¥かう/とて¥いで/ける/が、¥なから/ん¥あと/の¥わすれ−がたみ/に/も/と/や¥おもひ/けん、¥しやうじ/に¥なくなく¥いつしゆ/の¥うた/を/ぞ¥かき−つけ/ける。
¥もえ−いづる/も¥かるる/も¥おなじ¥のべ/の¥くさ¥いづれ/か¥あき/に¥あは/で¥はつ/べき W003
¥さて¥くるま/に¥のり/て¥しゆくしよ/へ¥かへり、¥しやうじ/の¥うち/に¥たふれ−ふし、¥ただ¥なく/より¥ほか/の¥こと/ぞ¥なき。¥はは/や¥いもうと¥これ/を¥み/て、¥いか/に/や−いか/に/と¥とひ/けれ/ども、¥ぎわう¥とかう/の¥へんじ/に/も¥およば/ず、¥ぐし/たる¥をんな/に¥たづね/て/こそ、¥さる−こと¥あり/と/も¥しり/てける。¥さる−ほど/に¥まい−ぐわつ¥おくら/れ/ける¥ひやく−こく¥ひやく−くわん/を/も¥とめ/られ/て、¥いま/は¥ほとけ−ごぜん/の¥ゆかり/の¥もの−ども/ぞ、¥はじめて¥たのしび−さかえ/ける。¥きやう−ぢゆう/の
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¥じやうげ、¥こ/の¥よし/を¥つたへ−きき/て、¥「まこと/や¥ぎわう−ごぜん/こそ、¥にしはちでう−どの/より¥いとま¥たまひ/て¥いで/たる/なれ。¥いざ¥げんざん−し/て¥あそば/ん」/とて、¥あるいは¥ふみ/を¥つかはす¥ひと/も¥あり、¥あるいは¥ししや/を¥たつる¥もの/も¥あり。¥ぎわう、¥され/ば/とて、¥いまさら¥また¥ひと/に¥たいめん−し/て、¥あそび−たはぶる/べき/に/も¥あら/ね/ば、¥ふみ/を¥とり−いるる¥こと/も¥なし。¥まして¥つかひ/に¥あひ−しらふ/まで/も¥なかり/けり。¥これ/に−つけ/て/も、¥かなしく/て、¥いとど¥なみだ/に/のみ/ぞ¥しづみ/たる。¥かくて¥ことし/も¥くれ/ぬ。¥ある¥はる/の¥ころ、¥にふだう−しやうこく、¥ぎわう/が¥もと/へ¥ししや/を¥たて/て、¥「いか/に/や、¥そ/の−のち¥なにごと/か¥ある。¥あまり/に¥ほとけ/の¥つれづれ−げ/に¥みゆる/に、¥まゐり/て¥いまやう/を/も¥うたひ、¥まひ/など/を/も¥まひ/て、¥ほとけ¥なぐさめよ」/と/ぞ¥のたまひ/ける。¥ぎわう¥とかう/の¥おん−ぺんじ/に/も¥およば/ず、¥なみだ/を¥おさへ/て¥ふし/に/けり。¥にふだう¥かさね/て、¥「など¥ぎわう/は、¥へんじ/を/ば¥せ/ぬ/ぞ。¥まゐる/まじい/か。¥まゐる/まじく/は、¥そ/の¥やう/を¥まうせ。¥じやうかい/も¥はからふ¥むね¥あり」/と/ぞ¥のたまひ/ける。¥はは¥とぢ¥これ/を¥きく/に¥かなしく/て、¥いか/なる/べし/とも¥おぼえ/ず。¥なくなく¥けうくん−し/ける/は、¥「いか/に¥ぎわう−ごぜん、¥など¥おん−ぺんじ/を/ば¥まうさ/ぬ/ぞ。¥かやう/に¥しから/れ¥まゐらせ/ん/より/は」/と¥いへ/ば、¥ぎわう¥なみだ/を¥おさへ/て¥「まゐら/ん/と¥おもふ¥みち/なら/ば/こそ、¥やがて¥まゐる/と/も¥まうさ/め、¥まゐら/ざら/ん¥もの−ゆゑ/に、¥なに/と¥おん−ぺんじ/を¥まうす/べし/と/も¥おぼえ/ず。¥こ/の−たび¥めさ/ん/に¥まゐら/ず/ば、¥はからふ¥むね¥あり/と¥おほせ/らるる/は、¥みやこ/の¥ほか/へ¥いださ/るる/か、¥さら/ず/は¥いのち/を¥めさ/るる/か、¥これ¥ふたつ/に/は¥よも¥すぎ/じ。¥たとひ¥みやこ/を¥いださ/るる/とも、¥なげく/べき¥みち/に¥あら/ず。¥たとひ¥いのち/を¥めさ/るる/とも¥をしかる/べき¥わ/が−み/かは。¥いちど¥うき¥もの/に¥おもは/れ¥まゐらせ/て、¥ふたたび¥おもて/を¥むく/べき/に/も¥あら/ず」/とて、¥なほ¥おん−ぺんじ/を/も¥まうさ/ず、¥はは¥とぢ¥かさね/て¥けうくん−し/ける/は、¥「いか/に/や¥ぎわう−ごぜん、¥それ¥あめ/が−した/に¥すま/ん¥ほど/は、¥と/も−かう/も¥にふだう−どの/の¥おほせ/を/ば、¥そむく/まじき¥こと/にて¥ある/ぞよ。¥なんによ/の¥えにし、¥すくせ、¥いま/に¥はじめ/ぬ¥こと/ぞ/かし。
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¥せんねん¥まんねん/と/は¥ちぎれ/ども、¥やがて¥わかるる¥なか/も¥あり。¥あからさま/と/は¥おもへ/ども、¥ながらへ−はつる¥こと/も¥あり。¥よ/に¥さだめ¥なき¥もの/は、¥をとこ¥をんな/の¥ならひ/なり。¥いはんや¥わ−ごぜ/は、¥こ/の¥みとせ/が¥あひだ¥おもは/れ¥まゐらせ/たれ/ば、¥あり−がたき¥おん−なさけ/で/こそ¥さぶらへ。¥こ/の−たび¥めさ/ん/に¥まゐら/ね/ば/とて、¥いのち/を¥うしなは/るる/まで/は¥よも¥あら/じ。¥ただ¥みやこ/の¥ほか/へ/ぞ¥いださ/れ/んず/らん。¥たとひ¥みやこ/を¥いださ/るる/とも、¥わ−ごぜ−たち/は¥とし¥わかけれ/ば、¥いか/なら/ん¥いはき/の¥はざま/にて/も、¥すぐさ/ん¥こと¥やすかる/べし。¥され/ども¥わ/が−み/は¥とし¥たけ¥よはひ¥かたぶい/て、¥ならは/ぬ¥ひな/の¥すまひ/こそ、¥かねて¥おもふ/も¥かなしかり/けれ。¥ただ¥われ/を¥みやこ/の¥うち/にて¥すみ−はて/させよ。¥それ/ぞ¥こんじやう¥ごしやう/の¥おやこ/の¥けうやう/にて¥あら/んずる」/と¥いへ/ば、¥ぎわう¥うし/と¥おもひ/し¥みち/なれ/ども、¥おや/の¥めい/を¥そむか/じ/と、¥つらき¥みち/に¥おもむき/て¥なくなく¥いで−たち/ける、¥こころ/の¥うち/こそ¥むざん/なれ。¥ひとり¥まゐら/ん/は、¥あまり¥もの−うし/とて、¥いもうと/の¥ぎぢよ/を/も¥あひ−ぐし、¥また¥ほか/の¥しらびやうし¥ににん、¥そうじて¥しにん、¥ひとつ−くるま/に¥とり−のり/て、¥にしはちでう−どの/へ/ぞ¥さんじ/たる。¥さきざき¥めさ/れ/ける¥ところ/へ/は¥いれ/られ/ず、¥はるか/に¥さがり/たる¥ところ/に、¥ざしき¥しつらう/て/ぞ¥おか/れ/ける。¥ぎわう、¥「こ/は¥され/ば¥なにごと/ぞ/や。¥わ/が−み/に¥あやまつ¥こと/は¥なけれ/ども、¥すて/られ¥たてまつる/だに¥ある/に、¥ざしき/を/さへ¥さげ/らるる¥こと/の¥こころ−う−さ/よ。¥こ/は¥いか/に−せ/ん」/と¥おもふ¥こころ/に¥しらせ/じ/と、¥おさふる¥そで/の¥ひま/より/も、¥あまり/て¥なみだ/ぞ¥こぼれ/ける。¥ほとけ−ごぜん¥これ/を¥み/て、¥あまり/に¥あはれ/に¥おもひ/けれ/ば、¥「あれ/は¥いか/に、¥ひごろ¥めさ/れ/ぬ¥ところ/にて/も¥さぶらは/ば/こそ。¥これ/へ¥めさ/れ¥さぶらへ/かし。¥さら/ず/は¥わらは/に¥いとま/を¥たべ。¥いで/て¥げんざん−せ/ん」/と¥まうし/けれ/ば、¥にふだう¥「すべて¥そ/の¥ぎ¥ある/まじ」/と¥のたまふ¥あひだ、¥ちから¥およば/で¥いで/ざり/けり。¥にふだう¥やがて¥いで−あひ¥たいめん¥あり/て¥ぎわう/が¥こころ/の−うち/を/ば¥しり¥たまは/ず、¥「いか/に¥そ/の−のち/は¥なにごと/か¥ある。¥さて/は¥まひ/も¥み/たけれ/ども、¥それ/は¥つぎ/の¥こと、
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¥まづ¥いまやう¥ひとつ¥うたへ/かし」/と¥のたまへ/ば、¥ぎわう、¥まゐる¥ほど/で/は、¥と/も−かう/も¥にふだう−どの/の¥おほせ/を/ば、¥そむく/まじ/と¥おもひ/けれ/ば、¥ながるる¥なみだ/を¥おさへ/つつ、¥いまやう¥ひとつ/ぞ¥うたう/たる。¥ほとけ/も¥むかし/は¥ぼんぶ/なり¥われ−ら/も¥つひ/に/は¥ほとけ/なり¥いづれ/も¥ぶつしやう¥ぐせ/る¥み/を¥へだつる/のみ/こそ¥かなしけれ/と、¥なくなく¥にへん¥うたう/たり/けれ/ば、¥そ/の¥ざ/に¥いくら/も¥なみ−ゐ¥たまへ/る¥へいけ¥いちもん/の¥くぎやう−てんじやうびと、¥しよだいぶ、¥さぶらひ/に¥いたる/まで、¥みな¥かんるい/を/ぞ¥ながさ/れ/ける。¥にふだう/も¥「とき/に¥とり/て/は¥しんべう/に/も¥まうし/たる/もの/かな。¥さて/は¥まひ/も¥み/たけれ/ども、¥けふ/は¥まぎるる¥こと/の¥いで−き/たり。¥こ/の−のち/は¥めさ/ず/とも¥つね/に¥まゐり/て、¥いまやう/を/も¥うたひ、¥まひ/など/を/も¥まう/て、¥ほとけ¥なぐさめよ」/と/ぞ¥のたまひ/ける。¥ぎわう¥とかう/の¥おん−ぺんじ/に/も¥およば/ず、¥なみだ/を¥おさへ/て¥いで/に/けり。¥「うし/と¥おもひ/し¥みち/なれ/ども、¥おや/の¥めい/を¥そむか/じ/と、¥つらき¥みち/に¥おもむき/て、¥ふたたび¥うき−め/を¥み/つる¥こと/の¥こころ−う−さ/よ。¥かくて¥こ/の−よ/に¥ある/なら/ば、¥また/も¥うき−め/を¥み/んず/らん。¥いま/は¥ただ¥み/を¥なげ/ん/と¥おもふ/なり」/と¥いへ/ば、¥いもうと/の¥ぎぢよ¥これ/を¥きき/て、¥「あね¥み/を¥なげ/ば、¥われ/も¥とも/に¥み/を¥なげ/ん」/と¥いふ。¥はは¥とぢ¥これ/を¥きく/に¥かなしく/て、¥なくなく¥また¥けうくん−し/ける/は、¥「いか/に¥ぎわう−ごぜん、¥さやう/の¥こと¥ある/べし/と/も¥しら/ず/して、¥けうくん−し/て¥まゐらせ/つる¥こと/の¥うらめし−さ/よ。¥まこと/に¥わ−ごぜ/の¥うらむる/も¥ことわり/なり。¥ただし¥わ−ごぜ/が¥み/を¥なげ/ば、¥いもうと/の¥ぎぢよ/も¥とも/に¥み/を¥なげ/ん/と¥いふ。¥ふたり/の¥むすめ−ども/に¥おくれ/な/ん¥のち、¥とし−おい¥おとろへ/たる¥はは、¥いのち¥いき/て¥なに/に/かは¥せ/ん/なれ/ば、¥われ/も¥とも/に¥み/を¥なげ/ん/と¥おもふ/なり。¥いまだ¥しご/も¥き/たら/ぬ¥おや/に、¥み/を¥なげ/させ/んずる¥こと/は、¥ごぎやくざい/にて/ぞ¥あら/んず/らん。¥こ/の−よ/は¥かり/の¥やどり/なり。¥はぢ/て/も¥はぢ/て/も¥なに/なら/ず。¥ただ¥ながき¥よ/の¥やみ/こそ¥こころ−うけれ。¥こんじやう/で/こそ¥あら/め、¥ごしやう/で/だに¥あくだう/へ¥おもむか/んずる
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¥こと/の¥かなし−さ/よ」/と、¥さめざめ/と¥かき−くどき/けれ/ば、¥ぎわう¥「げに/も¥さやう/に¥さぶらは/ば、¥ごぎやくざい¥うたがひ−なし。¥いつたん¥うき¥はぢ/を¥み/つる¥こと/の¥くちをし−さ/に/こそ、¥み/を¥なげ/ん/と/は¥まうし/たれ。¥さ¥さぶらは/ば¥じがい/を/ば¥おもひ−とどまり¥はべり/ぬ。¥かくて¥うき−よ/に¥ある/なら/ば、¥また/も¥うき−め/を¥み/んず/らん。¥いま/は¥ただ¥みやこ/の¥ほか/へ¥いで/ん」/とて、¥ぎわう¥にじふいち/にて¥あま/に¥なり、¥さが/の¥おく/なる¥やまざと/に、¥しば/の−いほり/を¥ひき−むすび、¥ねんぶつ−し/て/ぞ¥ゐ/たり/ける。¥いもうと/の¥ぎぢよ¥これ/を¥み/て、¥「あね¥み/を¥なげ/ば、¥われ/も¥とも/に¥み/を¥なげ/ん/と/こそ¥ちぎり/しか。¥まして¥よ/を¥いとは/ん/に、¥たれ/か/は¥おとる/べき」/とて、¥じふく/にて¥さま/を¥かへ、¥あね/と¥いつしよ/に¥こもり−ゐ/て、¥ごせ/を¥ねがふ/ぞ¥あはれ/なる。¥はは¥とぢ¥これ/を¥み/て、¥「わかき¥むすめ−ども/だに、¥さま/を¥かふる¥よ/の−なか/に、¥とし−おい¥おとろへ/たる¥はは、¥しらが/を¥つけ/て/も¥なに/に/かは¥せ/ん」/とて、¥しじふご/にて¥かみ/を¥そり、¥ふたり/の¥むすめ¥もろ−とも/に、¥いつかう−せんじゆ/に¥ねんぶつ−し/て、¥ひとへ/に¥ごせ/を/ぞ¥ねがひ/ける。¥かくて¥はる¥すぎ¥なつ¥たけ/ぬ。¥あき/の¥はつかぜ¥ふき/ぬれ/ば、¥ほしあひ/の¥そら/を¥ながめ/つつ、¥あま/の−と¥わたる¥かぢ/の−は/に、¥おもふ¥こと¥かく¥ころ/なれ/や。¥ゆふひ/の¥かげ/の¥にし/の¥やま/の−は/に¥かくるる/を¥み/て/も、¥ひ/の¥いり¥たまふ¥ところ/は、¥さいはう−じやうど/にて¥ある/なり。¥いつか¥われ−ら/も¥かしこ/へ¥うまれ/て、¥もの/も¥おもは/で¥すごさ/んず/らん/と、¥かかる/に−つけ/て/も¥すぎ/に/し¥むかし/の¥うき¥こと−ども¥おもひ−つづけ/て、¥ただ¥つきせ/ぬ¥もの/は¥なみだ/なり。¥たそかれどき/を¥すぎ/ぬれ/ば、¥たけ/の−あみど/を¥とぢ−ふさぎ、¥ともしび¥かすか/に¥かき−たて/て、¥おやこ¥さん−にん¥ねんぶつ−し/て¥ゐ/たる¥ところ/に、¥たけ/の−あみど/を、¥ほとほと/と¥うち−たたく¥もの¥いで−き/たり。¥そ/の−とき¥あま−ども¥きも/を¥けし、¥「あはれ、¥これ/は、¥いふ−かひ−なき¥われ−ら/が¥ねんぶつ−し/て¥ゐ/たる/を¥さまたげ/ん/とて、まえん/の¥き/たる/にて/ぞ¥ある/らん。¥ひる/だに/も¥ひと/も¥とひ−こ/ぬ¥やまざと/の、¥しば/の−いほり/の¥うち/なれ/ば、¥よ¥ふけ/て¥たれ/か¥たづぬ/べき。¥わづか/の¥たけ/の−あみど/なれ/ば、¥あけ/ず/とも¥おし−やぶら/ん¥こと¥やすかる
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/べし。¥なかなか¥ただ¥あけ/て¥いれ/ん/と¥おもふ/なり。¥それ/に¥なさけ/を¥かけ/ず/して、¥いのち/を¥うしなふ¥もの/なら/ば、¥としごろ¥たのみ¥たてまつる¥みだ/の¥ほんぐわん/を¥つよく¥しんじ/て、¥ひま−なく¥みやうがう/を¥となへ¥たてまつる/べし。¥こゑ/を¥たづね/て¥むかへ¥たまふ/なる¥しやうじゆ/の¥らいがう/にて¥ましませ/ば、¥など/か¥いんぜふ¥なかる/べき。¥あひ−かまへ/て¥ねんぶつ¥おこたり¥たまふ/な」/と¥たがひ/に¥こころ/を¥いましめ/て、¥たけ/の−あみど/を¥あけ/たれ/ば、¥まえん/にて/は¥なかり/けり。¥ほとけ−ごぜん/ぞ¥いで−きたる。¥ぎわう、¥「あれ/は¥いか/に、¥ほとけ−ごぜん/と¥み¥たてまつる/は。¥ゆめ/か/や¥うつつ/か」/と¥いひ/けれ/ば、¥ほとけ−ごぜん¥なみだ/を¥おさへ/て、¥「かやう/の¥こと¥まうせ/ば、¥こと−あたらしう/は¥さぶらへ/ども、¥まうさ/ず/ば¥また¥おもひ−しら/ぬ¥み/と/も¥なり/ぬ/べけれ/ば、¥はじめ/より/して、¥まうす/なり。¥もと/より¥わらは/は¥すいさん/の¥もの/にて、¥いださ/れ¥まゐらせ¥さぶらひ/し/を、¥ぎわう−ごぜん/の¥まうしじやう/に¥よつ/て/こそ、¥めし−かへさ/れ/て/も¥さぶらふ/に、¥をんな/の¥み/の¥いふ−かひ−なき¥こと/は、¥わ/が−み/を¥こころ/に¥まかせ/ず/して、¥おし−とどめ/られ¥まゐらせ/し¥こと、¥こころ−うく/こそ¥はべり/しか。¥わ−ごぜ/の¥いだ/され¥たまひ/し/を¥み/し/に¥つけ/て/も、¥いつか¥また¥わ/が−み/の¥うへ¥おもひ/て、¥うれし/と/は¥さら/に¥おもは/ず。¥しやうじ/に¥また、¥『いづれ/か¥あき/に¥あは/で¥はつ/べき』/と¥かき−おき¥たまひ/し¥ふで/の¥あと、¥げに/も/と¥おもひ¥はべり/し/ぞ/や。¥いつ/ぞ/や¥また¥めさ/れ¥まゐらせ/て、¥いまやう¥うたひ¥たまひ/し/に/も、¥おもひ−しら/れ/て/こそ¥さぶらひ/しか。¥そ/の−のち/は¥おん−ゆくへ/を¥いづく/と/も¥しり¥まゐらせ/ざり/つる/が、¥かやう/に¥ひとつ−ところ/に/と¥うけたまはり/て¥のち/は、¥あまり/に¥うらやましく/て、¥つね/に/は¥いとま/を¥まうし/しか/ども、¥にふだう−どの¥さら/に¥おん−もちひ¥ましまさ/ず。¥つくづく¥もの/を¥あんずる/に、¥しやば/の¥えいぐわ/は¥ゆめ/の¥ゆめ、¥たのしみ−さかえ/て¥なにか¥せ/ん。¥にんしん¥うけ−がたく、¥ぶつけう/に/は¥あひ−がたし。¥こ/の−たび¥ないり/に¥しづみ/な/ば、¥たしやう−くわうごふ/を/ば¥へだつ/とも、¥うかび−あがら/ん¥こと¥かたかる/べし。¥とし/の¥わかき/を¥たのむ/べき/に¥あら/ず。¥らうせう−ふぢやう/の¥さかひ
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/なり。¥いづる¥いき¥いる/を/も¥まつ/べから/ず。¥かげろふ¥いなづま/より/も¥なほ¥はかなし。¥いつたん/の¥たのしみ/に¥ほこつ/て、¥ごせ/を¥しら/ざら/ん¥こと/の¥かなし−さ/に、¥けさ¥まぎれ−いで/て、¥かく¥なり/て/こそ¥まゐり/たれ」/とて、¥かづい/たる¥きぬ/を¥うち−のけ/たる/を¥みれ/ば、¥あま/に¥なり/て/ぞ¥いで−きたる。¥「かやう/に¥さま/を¥かへ/て¥まゐり/たれ/ば、¥ひごろ/の¥とが/を/ば¥ゆるし¥たまへ。¥ゆるさ/ん/と¥のたまは/ば、¥もろ−とも/に¥ねんぶつ−し/て、¥ひとつ−はちす/の¥み/と¥なら/ん。¥それ/に/も¥なほ¥こころ−ゆか/ず/は、¥これ/より¥いづち/へ/も¥まよひ−ゆき、¥いか/なら/ん¥まつ/が¥ね、¥こけ/の¥むしろ/に/も¥たふれ−ふし、¥いのち/の¥あら/ん¥かぎり/は¥ねんぶつ−し/て、¥わうじやう/の¥そくわい/を¥とげ/ん」/と¥そで/を¥かほ/に¥おし−あて/て、¥さめざめ/と¥かき−くどき/けれ/ば、¥ぎわう¥なみだ/を¥おさへ/て、¥「わ−ごぜ/の¥これ−ほど/に¥おもひ¥たまひ/ける/と/は¥ゆめ/に/も¥しら/ず、¥うき¥よ/の−なか/の¥さが/なれ/ば、¥み/の¥うし/と/こそ¥おもふ/べき/に、¥と/も−すれ/ば¥わ−ごぜ/の¥こと/のみ¥うらめしく/て、¥わうじやう/の−そくわい/を¥とげ/ん¥こと¥かなふ/べし/とも¥おぼえ/ず。¥こんじやう/も¥ごしやう/も、¥なまじひ/に¥し−そんじ/たる¥ここち/にて¥あり/つる/に、¥かやう/に¥さま/を¥かへ/て¥おはし/たれ/ば、¥ひごろ/の¥とが/は、¥つゆ¥ちり¥ほど/も¥のこら/ず、¥いま/は¥わうじやう¥うたがひ−なし。¥こ/の−たび¥そくわい/を¥とげ/ん/こそ、¥なに/より/も¥また¥うれしけれ。¥わらは/が¥あま/に¥なり/し/を/だに、¥よ/に¥あり−がたき¥こと/の¥やう/に、¥ひと/も¥いひ、¥われ−ら/も¥おもひ/し/が、¥いま¥わごぜ/の¥しゆつけ/に¥くらぶれ/ば、¥こと/の−かず/に/も¥あら/ざり/けり。¥され/ども¥それ/は¥よ/を¥うらみ、¥み/を¥うらみ/て¥さま/を¥かふる/は¥つね/の−ならひ。¥わ−ごぜ/は¥うらみ/も¥なく¥なげき/も¥なし。¥ことし/は¥わづか/に¥じふしち/に/こそ¥なる¥ひと/の、¥これ−ほど/に¥ゑど/を¥いとひ、¥じやうど/を¥ねがは/ん/と、¥ふかく¥おもひ−いり¥たまふ/こそ、¥まこと/の¥だいだうしん/と/は¥おぼえ¥さぶらひ/しか。¥うれしかり/ける¥ぜんぢしき/かな。¥いざ¥もろ−とも/に¥ねがは/ん」/とて、¥しにん¥ひとつところ/に¥こもり−ゐ/て、¥あさゆふ¥ぶつぜん/に¥けかう/を¥そなへ、¥よねん¥なく¥ねがひ
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/ける/が、¥ちそく/こそ¥あり/けれ、¥しにん/の¥あま−ども¥みな¥わうじやう/の¥そくわい/を¥とげ/ける/と/ぞ¥きこえ/し。¥され/ば¥ごしらかは/の−ほふわう/の¥ちやうがうだう/の¥くわこちやう/に/も、¥ぎわう、¥ぎぢよ、¥ほとけ、¥とぢ−ら/が¥そんりやう/と、¥しにん¥いつしよ/に¥いれ/られ/たり。¥あり−がたかり/し¥こと/なり/けり。
¥「でんかののりあひ」S0111 『てんがののりあひ』T0111
¥さる−ほど/に¥かおう−ぐわんねん−しちぐわつ−じふろくにち、¥いちゐん¥ご−しゆつけ¥あり。¥ご−しゆつけ/の¥のち/も、¥ばんき/の−まつりごと/を¥しろしめさ/れ/けれ/ば、¥ゐん、¥うち、¥わく−かた−なし。¥ゐん−ぢゆう/に¥ちかう¥めし−つかは/れ/ける¥くぎやう−てんじやうびと、¥じやうげ/の¥ほくめん/に¥いたる/まで、¥くわんゐ¥ほうろく、¥みな¥み/に¥あまる/ばかり/なり。¥され/ども¥ひと/の¥こころ/の¥ならひ/にて、¥なほ¥あき−たら/で、¥「あつぱれ、¥そ/の−ひと/の¥うせ/たら/ば、¥そ/の¥くに/は¥あき/な/ん。¥そ/の−ひと¥ほろび/たら/ば、¥そ/の¥くわん/に/は¥なり/な/ん」/など、¥うとから/ぬ¥どち/は、¥より−あひ−より−あひ、¥ささやき/けり。¥いちゐん/も¥ないない¥おほせ−なり/ける/は、¥「むかし/より¥よよ/の¥てうてき/を¥たひらぐ/る¥もの¥おほし/と¥いへ/ども、¥いまだ¥かやう/の¥こと¥なし。¥さだもり¥ひでさと/が¥まさかど/を¥うち、¥らいぎ/が¥さだたふ¥むねたふ/を¥ほろぼし、¥ぎか/が¥たけひら¥いへひら/を¥せめ/たり/し/に/も、¥けんじやう¥おこなは/れ/し¥こと、¥わづか¥じゆりやう/に/は¥すぎ/ざり/き。¥きよもり/は、¥かく¥こころ/の¥まま/に¥ふるまふ¥こと/こそ¥しかる/べから/ね。¥これ/も¥よ¥すゑ/に¥なり/て、¥わうぼふ/の¥つき/ぬる¥ゆゑ/なり」/と¥おほせ−なり/けれ/ども、¥ついで¥なけれ/ば¥おん−いましめ¥なし。¥へいけ/も¥また¥べつ−し/て¥てうか/を¥うらみ¥たてまつる¥こと/も¥なかり/し/に、¥よ/の¥みだれ−そめ/ける¥こんぼん/は、¥いにし¥かおう−にねん−じふぐわつ−じふろくにち/に、¥こまつ−どの/の¥じなん、¥しん−ざんみ/の−ちゆうじやう−すけもり、¥そ/の−とき/は¥いまだ¥ゑちぜん/の−かみ/とて、¥しやうねん¥じふさん/に¥なら/れ/ける/が、¥ゆき¥はだれ/に¥ふつ/たり
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/けり。¥かれの/の¥けしき、¥まこと/に¥おもしろかり/けれ/ば、¥わかき¥さぶらひ−ども¥さんじつ−き/ばかり¥めし−ぐし/て、¥れんだいの/や、¥むらさきの、¥うこん/の−ばば/に¥うち−いで/て¥たか−ども¥あまた¥すゑ/させ、¥うづら¥ひばり¥おつ−たて−おつ−たて、¥ひねもす/に¥かり−くらし、¥はくぼ/に¥および/て¥ろくはら/へ/こそ¥かへら/れ/けれ。¥そ/の−とき/の¥おん−せつろく/は¥まつ−どの/にて¥ましまし/ける/が、¥ひがし/の−とうゐん/の¥ごしよ/より、¥ご−さんだい¥あり/けり。¥いうはうもん/より¥じゆぎよ¥ある/べき/にて、¥ひがし/の−とうゐん/を¥みなみ/へ、¥おほひのみかど/を¥にし/へ¥おん−いで¥なる。¥すけもり/の−あそん、¥おほひのみかど−ゐのくま/にて、¥てんが/の¥おん−いで/に¥はなつき/に¥まゐり−あふ。¥おん−とも/の¥ひとびと、¥「なにもの/ぞ、¥らうぜき/なり。¥おん−いで/の¥なる/に、¥のりもの/より¥おり¥さうらへ¥おり¥さうらへ」/と¥いらで/けれ/ども、¥あまり/に¥ほこり−いさみ、¥よ/を¥よ/と/も¥せ/ざり/ける¥うへ、¥めし−ぐし/たる¥さぶらひ−ども/も、¥みな¥はたち/より¥うち/の¥わかもの−ども/なれ/ば、¥れいぎ¥こつぽふ¥わきまへ/たる¥もの¥いち−にん/も¥なし。¥てんが/の¥おん−いで/と/も¥いは/ず、¥いつせつ¥げば/の−れいぎ/に/も¥およば/ず、¥ただ¥かけ−やぶつ/て¥とほら/ん/と¥する¥あひだ、¥くら−さ/は¥くらし、¥つやつや¥だいじやう/の−にふだう/の¥まご/と/も¥しら/ず、¥また¥せうせう/は¥しり/たれ/ども、¥そら−しら/ず/して、¥すけもり/の−あそん/を¥はじめ/と¥し/て、¥さぶらひ−ども¥みな¥うま/より¥とり/て¥ひき−おとす。¥すこぶる¥ちじよく/に¥および/けり。¥すけもり/の−あそん、¥はふはふ¥ろくはら/へ¥おはし/て、¥おほぢ/の¥しやうこく−ぜんもん/に¥こ/の¥よし¥うつたへ¥まうさ/れ/けれ/ば、¥にふだう¥おほき/に¥いかつ/て、¥「たとひ¥てんが/なり/とも、¥じやうかい/が¥あたり/を/ば¥はばかり¥たまふ/べき/に、¥をさなき¥もの/に¥さう−なう¥ちじよく/を¥あたへ/られ/ける/こそ¥ゐこん/の¥しだい/なれ。¥かかる¥こと/より/して、¥ひと/に/は¥あざむか/るる/ぞ。¥こ/の¥こと¥おもひ−しらせ¥たてまつら/で/は、¥え/こそ¥ある/まじけれ。¥いか/に/も−し/て¥てんが/を¥うらみ¥たてまつら/ばや/と¥おもふ/は¥いか/に」/と¥のたまへ/ば、¥しげもり/の−きやう¥まうさ/れ/ける/は、¥「これ/は¥すこし/も¥くるしう¥さうらふ/まじ。¥よりまさ、¥みつもと/など¥まうす¥げんじ−ども/に¥あざむか/れ/て¥さうらは/ん/は、¥まこと/に¥いちもん/の¥ちじよく/にて/も¥さうらふ/べし。¥しげもり/が¥こども/とて¥さうらは/んずる
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¥もの/の、¥との/の¥おん−いで/に¥まゐり−あひ/て、¥のりもの/より¥おり¥さうらは/ぬ¥こと/こそ¥かへすがへす¥びろう/に¥さうらへ」/とて、¥そ/の−とき¥こと/に¥あう/たる¥さぶらひ−ども、¥みな¥めし−よせ/て、¥「じこん−いご/も¥なんぢ−ら¥よくよく¥こころ−う/べし。¥あやまつ/て¥てんが/へ¥ぶれい/の¥よし/を¥まうさ/ばや/と¥おもへ」/とて/こそ¥かへさ/れ/けれ。¥そ/の−のち¥にふだう、¥こまつ−どの/に/は¥かう/と/も¥のたまひ/も¥あはせ/ず/して、¥かたゐなか/の¥さぶらひ−ども/の、¥きはめて¥こはらか/にて¥にふだう/の¥おほせ/より¥ほか/は、¥また¥おそろしき¥こと¥なし/と¥おもふ¥もの−ども、¥なんば、¥せのを/を¥はじめ/と¥し/て、¥つがふ¥ろくじふ−よ−にん¥めし−よせ/て、¥「きたる¥にじふいちにち、¥しゆしやう¥ご−げんぶく/の¥おん−さだめ/の¥ため/に、¥てんが¥おん−いで¥ある/べかん/なり。¥いづく/にて/も¥まち−うけ¥たてまつり、¥せんぐ¥み−ずいじん−ども/が¥もとどり¥きつ/て、¥すけもり/が¥はぢ¥すすげ」/と/こそ¥のたまひ/けれ。¥つはもの−ども¥おそれ−うけたまはり/て¥まかり−いづ。¥てんが¥これ/を/ば¥ゆめ/に/も¥しろしめさ/れ/ず、¥しゆしやう¥みやうねん¥ご−げんぶく、¥ご−かくわん¥はいくわん/の¥おん−さだめ/の¥ため/に、¥ご−ちよくろ/に¥しばらく¥ご−ざ¥ある/べき/にて、¥つね/の¥おん−いで/より¥ひき−つくろは/せ¥たまひ/て、¥こんど/は¥たいけんもん/より¥じゆぎよ¥ある/べき/にて、¥なかのみかど/を¥にし/へ¥おん−いで¥なる。¥ゐのくまほりかは/の¥ほとり/にて、¥ろくはら/の¥つはもの−ども、¥ひた−かぶと¥さんびやく−よ−き、¥まち−うけ¥たてまつり、¥てんが/を¥なか/に¥とり−こめ¥まゐらせ/て、¥ぜんご/より¥いちど/に、¥とき/を¥どつと/ぞ¥つくり/ける。¥せんぐ¥み−ずいじん−ども/が、¥けふ/を¥はれ/と¥しやうぞき/たる/を、¥あそこ/に¥おひ−かけ、¥ここ/に¥おつ−つめ、¥うま/より¥とつ/て¥ひき−おとし、¥さんざん/に¥りようりやく−し、¥いちいち/に¥みな¥もとどり/を¥きる。¥ずいじん¥じふ−にん/が¥うち、¥みぎ/の−ふしやう−たけもと/が¥もとどり/を¥きら/れ/てけり。¥そ/の−なか/に¥とう−くらんど/の−たいふ−たかのり/が¥もとどり/を¥きる/とて、¥「これ/は¥なんぢ/が¥もとどり/と¥おもふ/べから/ず、¥しゆ/の¥もとどり/と¥おもふ/べし」/と、¥いひ−ふくめ/て/ぞ¥きつ/てける。¥そ/の−のち/は¥み−くるま/の¥うち/へ/も、¥ゆみ/の¥はず¥つき−いれ/など¥し/て、¥すだれ¥かなぐり−おとし、¥お−うし/の¥しりがい¥むながい¥きり−はなち、¥かく¥さんざん/に¥し−ちらし/て、¥よろこび/の¥とき/を¥つくり、
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¥ろくはら/へ/こそ¥まゐり/けれ。¥にふだう、¥「しんべう/なり」/と/ぞ¥のたまひ/ける。¥み−くるま−ぞへ/に/は、¥いなば/の−さいづかひ、¥とば/の−くにひさまる/と¥いふ¥をのこ、¥げらふ/なれ/ども、¥さかざかしき¥もの/にて、¥やうやう/に¥しつらひ、¥み−くるま¥つかまつ/て、¥なかのみかど/の¥ごしよ/へ¥くわんぎよ¥なし¥たてまつる。¥そくたい/の¥おん−そで/にて¥おん−なみだ/を¥おさへ/つつ、¥くわんぎよ/の¥ぎしき/の¥あさまし−さ、¥まうす/も¥なかなか¥おろか/なり。¥たいしよくくわん、¥たんかい−こう/の¥おん−こと/は¥あげ/て¥まうす/に¥およば/ず、¥ちゆうじん−こう、¥せうぜん−こう/より¥こ/の−かた、¥せつしやう¥くわんばく/の¥かかる¥おん−め/に¥あはせ¥たまふ¥こと、¥いまだ¥うけたまはり−およば/ず。¥これ/こそ¥へいけ/の¥あくぎやう/の¥はじめ/なれ。¥こまつ−どの¥おほき/に¥さわい/で、¥そ/の−とき¥ゆき−むかう/たる¥さぶらひ−ども、¥めし−よせ/て、¥みな¥かんだう−せ/らる。¥「たとひ¥にふだう¥いか/なる¥ふしぎ/を¥げぢ−し¥たまふ/とも、¥など¥しげもり/に¥ゆめ/を/ば¥みせ/ざり/ける/ぞ。¥およそ/は¥すけもり¥きくわい/なり。¥せんだん/は¥ふたば/より¥かうばし/と/こそ¥みえ/たれ。¥すで/に¥じふにさん/に¥なら/んずる¥もの/が、¥いま/は¥れいぎ/を¥ぞんぢ−し/て/こそ¥ふるまふ/べき/に、¥かやう/の¥びろう/を¥げんじ/て、¥にふだう/の¥あくみやう/を¥たつ。¥ふけう/の¥いたり、¥なんぢ¥ひとり/に¥あり/けり」/とて、¥しばらく¥いせ/の−くに/へ¥おひ−くださ/る。¥され/ば、¥こ/の¥だいしやう/を/ば、¥きみ/も¥しん/も¥ぎよ−かん¥あり/ける/と/ぞ¥きこえ/し。
¥「ししのたに」S0112 『ししのたに』T0112
¥これ/に−よつ/て、¥しゆしやう¥ご−げんぶく/の¥おん−さだめ/は¥そ/の−ひ/は¥のばさ/せ¥たまひ/て、¥おなじき−にじふごにち、¥ゐん/の¥てんじやう/にて/ぞ¥ご−げんぶく/の¥おん−さだめ/は¥あり/ける。¥せつしやう−どの¥さて/も¥わたら/せ¥たまふ/べき/なら/ね/ば、¥おなじき−じふいちぐわつ−ここのかのひ、¥かねてせんじ/を¥かうぶら/せ¥たまひ/て、¥じふしにち¥だいじやう−だいじん/に¥あがら/せ¥たまふ。¥やがて¥おなじき−じふしちにち、¥よろこび−まうし/の¥あり/しか/ども、¥よ/の−なか/は¥にがにがしう/ぞ¥みえ/し。¥さる−ほど/に¥ことし/も¥くれ/て、¥かおう
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/も¥みとせ/に¥なり/に/けり。¥しやうぐわつ−いつかのひ、¥しゆしやう¥ご−げんぶく¥あり/て、¥おなじき−じふさんにち、¥てうきん/の−ぎやうがう¥あり/けり。¥ほふわう¥にようゐん¥まち−うけ¥まゐら/させ¥たまひ/て、¥うひかうぶり/の¥おん−よそほひ/も、¥いか/ばかり¥らうたく¥おぼしめさ/れ/けん。¥にふだう−しやうこく/の¥おん−むすめ、¥にようご/に¥まゐらせ¥たまふ。¥おん−とし¥じふご−さい、¥ほふわう¥ご−いうじ/の¥ぎ/なり。¥そ/の−ころ¥めうおんゐん/の−だいじやう−だいじん−どの、¥だいしやう/を¥じし¥まうさ/せ¥たまふ¥こと¥あり/けり。¥とき/に¥とくだいじ/の−だいなごん−さねさだ/の−きやう、¥そ/の¥にん/に¥あひ−あたり¥たまふ。¥また¥くわざん/の−ゐん/の−ちゆうなごん−かねまさ/の−きやう/も¥しよまう¥あり。¥そ/の−ほか¥こ−なかのみかど/の−とう−ぢゆうなごん−いへなり/の−きやう/の¥さんなん、¥しん−だいなごん−なりちか/の−きやう/も¥ひら/に¥まうさ/る。¥こ/の¥だいなごん/は¥ゐん/の¥み−けしき¥よかり/けれ/ば、¥さまざま¥いのり/を¥はじめ/らる。¥まづ¥やはた/に¥ひやく−にん/の¥そう/を¥こめ/て、¥しんどく/の¥だいはんにや/を¥しち−にち¥よま/せ/られ/たり/ける¥さいちゆう/に、¥かうら/の−だい−みやうじん/の¥おん−まへ/なる¥たちばな/の−き/へ、¥をとこやま/の¥かた/より、¥やまばと¥みつ¥とび−きたつ/て、¥くひ−あひ/て/ぞ¥しに/に/ける。¥はと/は¥はちまん−だい−ぼさつ/の¥だいいち/の¥ししや/なり。¥みやでら/に¥かかる¥ふしぎ¥なし/とて、¥とき/の¥けんぎやう、¥きやうせい−ほふいん¥こ/の¥よし¥だいり/へ¥そうもん−し/たり/けれ/ば、¥これ¥ただごと/に¥あら/ず、¥おん−うらなひ¥ある/べし/とて、¥じんぎくわん/に/して¥おん−うらなひ¥あり。¥おもき¥おん−つつしみ/と¥うらなひ¥まうす。¥ただし¥これ/は¥きみ/の¥おん−つつしみ/に/は¥あら/ず、¥しんか/の¥つつしみ/と/ぞ¥まうし/ける。¥だいなごん¥それ/に¥おそれ/を/も¥いたさ/れ/ず、¥ひる/は¥ひとめ/の¥しげけれ/ば、¥よなよな¥ほかう/にて、¥なかのみかど−からすまる¥しん−だいなごん/の¥しゆくしよ/より、¥かも/の−かみ/の−やしろ/へ、¥ななよ¥つづけ/て¥まゐら/れ/けり。¥ななよ/に¥まんずる¥よ、¥しゆくしよ/に¥げかう−し/て、¥くるし−さ/に¥すこし¥まどろみ/たり/ける¥ゆめ/に、¥かも/の−かみ/の−やしろ/へ¥まゐり/たる/と¥おぼしく/て、¥ご−ほうでん/の¥おん−と¥おし−ひらき、¥ゆゆしう¥けだか−げ/なる¥み−こゑ/にて、
¥さくらばな¥かも/の¥かはかぜ¥うらむ/な/よ¥ちる/を/ば¥え/こそ¥とどめ/ざり/けれ W006
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¥しん−だいなごん¥これ/に¥なほ¥おそれ/を/も¥いたさ/れ/ず、¥かも/の−かみ/の−やしろ/の¥ご−ほうでん/の¥おん−うしろ/なる、¥すぎ/の¥うつろ/に¥だん/を¥たて、¥ある¥ひじり/を¥こめ/て、¥だぎに/の−ほふ/を¥ひやくにち¥おこなは/せ/られ/ける¥さいちゆう/に、¥にはか/に¥そら¥かき−くもり、¥いかづち¥おびたたしう¥なり/て、¥か/の¥おほすぎ/に¥おち−かかり、¥らいくわ¥もえ−あがり/て、¥きゆうちゆう¥すで/に¥あやふく¥みえ/ける/を、¥みやびと−ども¥はしり−あつまり/て、¥これ/を¥うち−けつ。¥さて¥のち¥げほふ¥おこなひ/ける¥ひじり/を¥ついしゆつ−せ/ん/と¥する/に、¥「われ¥たうしや/に¥ひやくにち¥さんろう/の¥こころざし¥あり。¥けふ/は¥わづか¥しちじふごにち/に¥なる。¥まつたく¥いづ/まじ」/とて¥うごか/ず。¥こ/の¥よし/を¥しやけ/より¥だいり/へ¥そうもん−し/けれ/ば、¥ただ¥ほふ/に¥まかせよ/と、¥せんじ/を¥くださ/る。¥そ/の−とき¥しんじん¥しらづゑ/を¥もつ/て¥か/の¥ひじり/が¥うなじ/を¥しらげ/て、¥いちでう/の−おほち/より、¥みなみ/へ¥おつ−こし/てけり。¥しん/は¥ひれい/を¥うけ¥たまは/ず/と¥まうす/に、¥こ/の¥だいなごん、¥ひぶん/の¥だいしやう/を¥いのり¥まうさ/れ/けれ/ば/に/や、¥かかる¥ふしぎ/も¥いで−き/に/けり。¥そ/の−ころ/の¥じよゐ¥ぢもく/と¥まうす/は、¥ゐん、¥うち/の¥おん−はからひ/に/も¥あら/ず、¥せつしやう¥くわんばく/の¥ご−せいばい/に/も¥およば/ず、¥ただ¥いつかう¥へいけ/の¥まま/にて¥あり/けれ/ば、¥とくだいじ、¥くわざん/の−ゐん/も¥なり¥たまは/ず、¥にふだう−しやうこく/の¥ちやくなん¥こまつ−どの、¥そ/の−とき/は¥いまだ¥だいなごん/の−うだいしやう/にて¥ましまし/ける/が、¥ひだり/に¥うつり/て、¥じなん¥むねもり、¥ちゆうなごん/にて¥おはせ/し/が、¥すはい/の¥じやうらふ/を¥てうをつ−し/て、¥みぎ/に¥くははら/れ/ける/こそ、¥まうす¥はかり/も¥なかり/しか。¥なか/に/も¥とくだいじ−どの/は、¥いち/の−だいなごん/にて、¥くわそく¥えいゆう、¥さいかく¥いうちやう、¥けちやく/にて¥ましまし/ける/が、¥へいけ/の¥じなん¥むねもり/の−きやう/に、¥かかい¥こえ/られ¥たまひ/ぬる/こそ¥ゐこん/の¥しだい/なれ。¥さだめて¥ご−しゆつけ/など/も/や¥ある/らん/ず/らん」/と、¥ひとびと¥ささやき−あは/れ/けれ/ども、¥とくだいじ−どの/は¥しばらく¥よ/の¥なら/ん¥やう/を¥み/ん/とて、¥だいなごん/を¥じし/て¥ろうきよ/と/ぞ¥きこえ/し。¥しん−だいなごん−なりちか/の−きやう/の¥のたまひ/ける/は、¥「とくだいじ、¥くわざん/の−ゐん/に¥こえ/られ/たら/ん/は¥いか/に−せ/ん。¥へいけ
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/の¥じなん¥むねもり/の−きやう/に¥こえ/られ/ぬる/こそ、¥ゐこん/の¥しだい/なれ。¥いか/に/も−し/て¥へいけ/を¥ほろぼし/て、¥ほんまう/を¥とげ/ん」/と¥のたまひ/ける/こそ¥おそろしけれ。¥ちち/の−きやう/は、¥こ/の¥よはひ/で/は、¥わづか¥ちゆうなごん/まで/こそ¥いたら/れ/しか。¥そ/の¥ばつし/にて、¥くらゐ¥じやう−にゐ、¥くわん¥だいなごん/に¥あがり、¥たいこく¥あまた¥たまはつ/て、¥しそく、¥しよじゆう、¥てうおん/に¥ほこれ/り。¥なに/の¥ふそく¥あり/て/か¥かかる¥こころ¥つか/れ/けん、¥ひとへ/に¥てんま/の¥しよゐ/と/ぞ¥みえ/し。¥へいぢ/に/も¥ゑちご/の−ちゆうじやう/とて、¥のぶより/の−きやう/に¥どうしん/の¥あひだ、¥すで/に¥ちゆうせ/らる/べかり/し/を、¥こまつ−どの¥やうやう/に¥まうし/て、¥くび/を¥つぎ¥たまへ/り。¥しかる/に¥そ/の¥おん/を¥わすれ/て、¥ぐわいじん/も¥なき¥ところ/に、¥ひやうぐ/を¥ととのへ、¥ぐんびやう/を¥かたらひ−おき、¥あさゆふ/は¥ただ¥いくさ−かつせん/の¥いとなみ/の¥ほか/は、¥また¥たじ¥なし/と/ぞ¥みえ/たり/ける。¥ひがしやま¥ししのたに/と¥いふ¥ところ/は、¥うしろ/は¥みゐでら/に¥つづい/て、¥ゆゆしき¥じやうくわく/にて/ぞ¥あり/ける。¥それ/に¥しゆんくわん−そうづ/の¥さんざう¥あり。¥かれ/に¥つね/は¥より−あひ−より−あひ、¥へいけ¥ほろぼす/べき¥はかりごと/を/ぞ¥めぐらし/ける。¥ある−よ、¥ほふわう/も¥ご−かう¥なる。¥こ−せうなごん−にふだう−しんせい/の¥しそく、¥じやうけん−ほふいん¥おん−とも¥つかまつら/る。¥そ/の−よ/の¥しゆえん/に、¥こ/の¥よし/を¥おほせ−あはせ/られ/たり/けれ/ば、¥ほふいん、¥「あな¥あさまし。¥ひと¥あまた¥うけたまはり¥さうらひ/ぬ。¥ただいま¥もれ−きこえ/て、¥てんが/の¥おん−だいじ/に¥および¥さうらひ/な/んず」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥しん−だいなごん¥けしき¥かはり/て、¥さつと¥たた/れ/ける/が、¥おん−まへ/に¥たて/られ/たり/ける¥へいじ/を、¥かりぎぬ/の¥そで/に¥かけ/て¥ひき−たふさ/れ/たり/ける/を、¥ほふわう¥えいらん¥あり/て、¥「あれ/は¥いか/に」/と¥おほせ/けれ/ば、¥だいなごん¥たち−かへり/て、¥「へいじ¥たふれ¥さうらひ/ぬ」/と/ぞ¥まうさ/れ/ける。¥ほふわう/も¥ゑつぼ/に¥いら/せ¥おはしまし/て、¥「もの−ども¥まゐり/て¥さるがく¥つかまつれ」/と¥おほせ/けれ/ば、¥へい−はうぐわん−やすより¥つと¥まゐり/て、¥「ああ¥あまり/に¥へいじ/の¥おほう¥さうらふ/に、¥もて¥ゑひ/て¥さうらふ」/と¥まうす。¥しゆんくわん−そうづ、¥「さて¥それ/を/ば、¥いかが¥つかまつる/べき/と¥まうし/けれ/ば、¥さいくわう−ほふし、¥「ただ¥くび/を¥とる/に/は¥しか/じ」/とて、¥へいじ/の
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¥くび/を¥とつ/て/ぞ¥いり/に/ける。¥ほふいん、¥あまり/の¥あさまし−さ/に、¥つやつや¥もの/も¥まうさ/れ/ず。¥かへすがへす/も¥おそろしかり/し¥こと−ども/なり。¥よりき/の¥ともがら¥たれたれ/ぞ。¥あふみ/の−ちゆうじやう−にふだう−れんじやう、¥ぞくみやう¥なりまさ、¥ほつしようじ/の−しゆぎやう−しゆんくわん−そうづ、¥やましろ/の−かみ−もとかぬ、¥しきぶ/の−たいふ−まさつな、¥へい−はうぐわん−やすより、¥そう−はうぐわん−のぶふさ、¥しん−へい−はうぐわん−すけゆき、¥ぶし/に/は¥ただ/の−くらんど−ゆきつな/を¥はじめ/と¥し/て、¥ほくめん/の¥もの−ども¥おほく¥よりき−し/てけり。
¥「うかはかつせん」S0113 『しゆんくわんのさた うがはいくさ』T0113
¥そもそも¥こ/の¥〔ほつしようじ/の−しゆぎやう−〕しゆんくわん−そうづ/と¥まうす/は、¥きやうごく/の¥げん−だいなごん−まさとし/の−きやう/の¥まご、¥きでら/の−ほふいん−くわんが/に/は¥こ/なり/けり。¥そぶ¥だいなごん/は、¥ゆみ−や¥とる¥いへ/に/は¥あら/ね/ども、¥あまり/に¥はら−あしき¥ひと/にて、¥さんでう/の−ぼうもん−きやうごく/の¥しゆくしよ/の¥まへ/を/ば、¥ひと/を/も¥やすく¥とほさ/れ/ず、¥つね/は¥ちゆうもん/に¥たたずみ、¥は/を¥くひしばり、¥いかり/て/のみ/ぞ¥おはし/ける。¥かかる¥おそろしき¥ひと/の¥まご/なれ/ば/に/や、¥こ/の¥しゆんくわん/も、¥そう/なれ/ども、¥こころ¥たけく、¥おごれ/る¥ひと/にて、¥よし−なき¥むほん/に/も¥くみし/てける/に/こそ。¥しん−だいなごん−なりちか/の−きやう、¥ただ/の−くらんど−ゆきつな/を¥めし/て、¥「こんど¥ご−へん/を/ば、¥いつぱう/の¥たいしやう/に¥たのむ/なり。¥こ/の¥こと¥し−おほせ/つる¥もの/なら/ば、¥くに/を/も¥しやう/を/も¥しよまう/に¥よる/べし。¥まづ¥ゆぶくろ/の¥れう/に」/とて、¥しろぬの¥ごじつ−たん¥おくら/れ/たり。¥あんげん−さんねん−さんぐわつ−いつかのひ、¥めうおんゐん−どの、¥だいじやう−だいじん/に¥てんじ¥たまへ/る¥かはり/に、¥こまつ−どの、¥げん−だいなごん−さだふさ/の−きやう/を¥こえ/て、¥ないだいじん/の−さだいしやう/に¥なり/て、¥やがて¥だいきやう¥おこなは/る。¥だいじん/の−だいしやう¥めでたかり/き。¥そんじや/に/は¥おほひのみかど/の−うだいじん−つねむね−こう/と/ぞ¥きこえ/し。¥いち/の−かみ/こそ¥せんど/なれ/ども、¥ちち¥うぢ/の−あく−さふ
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/の¥おん−ためし、¥そ/の¥はばかり¥あり。¥ほくめん/は¥しやうこ/に/は¥なかり/けり。¥しらかは/の−ゐん/の¥おん−とき、¥はじめ−おか/れ/て/より¥こ/の−かた、¥ゑふ−ども¥あまた¥さうらひ/けり。¥ためとし、¥もりしげ、¥わらは/より¥いまいぬまる、¥ちとせまる/とて、¥これ−ら/は¥さう−なき¥きりもの/にて/ぞ¥あり/ける。¥とば/の−ゐん/の¥おん−とき/も、¥すゑのり・¥すゑより¥ふし¥とも/に、¥てうか/に¥めし−つかは/れ/て¥あり/し/が、¥つね/は¥てんそう−する¥をり/も¥あり/なんど¥きこえ/しか/ども、¥みな¥み/の−ほど/を/ば¥ふるまう/て/こそ¥あり/し/か。¥こ/の¥とき/の¥ほくめん/の¥ともがら/は、¥もつて/の−ほか/に¥くわぶん/にて、¥くぎやう−てんじやうびと/を/も¥こと/と/も¥せ/ず、¥しもほくめん/より¥かみほくめん/に¥あがり、¥かみほくめん/より¥てんじやう/の¥まじはり/を¥ゆるさ/るる¥もの¥おほかり/けり。¥かく/のみ¥おこなは/るる¥あひだ、¥おごれ/る¥こころ−ども¥つい/て、¥よし−なき¥むほん/に/も¥くみし/てける/に/こそ。¥なか/に/も¥こ−せうなごん−にふだう−しんせい/が¥もと/に¥めし−つかひ[* は ノ誤カ]/れ/ける¥もろみつ、¥なりかげ/と¥いふ¥もの¥あり。¥もろみつ/は¥あは/の−くに/の¥ざいちやう、¥なりかげ/は¥きやう/の¥もの、¥〔しゆく〕[* 原本空白 ]こん¥いやしき¥げらふ/なり。¥こんでいわらは、¥もしは¥かくごしや/など/にて/も/や¥あり/けん、¥さかざかしかり/し/に¥よつ/て、¥ゐん/に/も¥めし−つかは/れ/ける/が、¥もろみつ/は¥さゑもん/の−じよう、¥なりかげ/は¥うゑもん/の−じよう/とて、¥に−にん¥いちど/に¥ゆきへ/の−じよう/に¥なり/ぬ。¥しんせい¥こと/に¥あひ/し¥とき、¥に−にん¥とも/に¥しゆつけ−し/て、¥さゑもん−にふだう−さいくわう、¥うゑもん−にふだう−さいきやう/とて、¥これ−ら/は¥しゆつけ/の¥のち/も、¥ゐん/の¥み−くら−あづかり/にて/ぞ¥さぶらひ/ける。¥か/の¥さいくわう/が¥こ/に¥もろたか/と¥いふ¥もの¥あり。¥これ/も¥さう−なき¥きりもの/にて、¥けんびゐし、−ごゐ/の−じやう/まで¥へ−あがり/て、¥あまつさへ¥あんげん−ぐわんねん−じふにぐわつ−にじふくにち、¥ついな/の−ぢもく/に、¥かが/の−かみ/に/ぞ¥なさ/れ/ける。¥こくむ/を¥おこなふ¥あひだ、¥ひほふ¥ひれい/を¥ちやうぎやう−し、¥じんじや¥ぶつじ、¥けんもん−せいけ/の¥しやうりやう/を¥もつたう−し/て、¥さんざん/の¥こと−ども/にて/ぞ¥あり/ける。¥たとひ¥せうこう/が¥あと/を¥へだつ/と¥いふ/とも、¥をんびん/の¥まつりごと/を¥おこなふ/べかり/し/に、¥かく¥こころ/の¥まま/に¥ふるまふ
P1040
¥あひだ、¥おなじき−にねん/の¥なつ/の¥ころ、¥こくし−もろたか/が¥おとうと、¥こんどう−はんぐわん−もろつね/を¥かが/の¥もくだい/に¥ふせ/らる。¥もくだい¥げちやく/の¥はじめ、¥こくふ/の¥へん/に¥うかは/と¥いふ¥やまでら¥あり。¥をりふし¥じそう−ども/が¥ゆ/を¥わかい/て¥あび/ける/を、¥らんにふ−し¥おひ−あげ、¥わ/が−み¥あび、¥ざふにん−ども¥おろし、¥うま¥あらは/せ/など¥し/けり。¥じそう¥いかり/を¥なし/て、¥「むかし/より¥こ/の¥ところ/は、¥くにがた/の¥もの/の¥にふぶ−する¥こと¥なし。¥すみやか/に¥せんれい/に¥まかせ/て、¥にふぶ/の¥あふばう¥とどめよ/や」/と/ぞ¥まうし/ける。¥「もくだい¥おほき/に¥いかり/て、¥「さきざき/の¥もくだい/は、¥ふかく/で/こそ¥いやしま/れ/たれ。¥たう−もくだい/は、¥すべて¥そ/の¥ぎ¥ある/まじ。¥ただ¥ほふ/に¥まかせよ」/と¥いふ¥ほど/こそ¥あり/けれ、¥じそう−ども/は¥くにがた/の¥もの/を¥ついしゆつ−せ/ん/と¥す。¥くにがた/の¥もの−ども/は、¥ついで/を¥もつて¥らんにふ−せ/ん/と、¥うち−あひ、¥はり−あひ−し/ける¥ほど/に、¥もくだい−もろつね/が¥ひざう−し/ける¥うま/の¥あし/を/ぞ¥うち−をり/ける。¥そ/の−のち/は¥たがひ/に¥きゆうせん¥ひやうぢやう/を¥たいし/て、¥い−あひ、¥きり−あひ、¥すこく¥たたかふ。¥よ/に¥いり/て/は、¥もくだい¥かなは/じ/と/や¥おもひ/けん¥ひき−しりぞく。¥そ/の−のち¥たう−ごく/の¥ざいちやう−ら¥いつせん−よ−にん、¥もよほし−あつめ/て、¥うかは/に¥おし−よせ/て、¥ばうじや¥いち−う/も¥のこさ/ず¥やき−はらふ。¥うかは/と¥いふ/は、¥はくさん/の¥まつじ/なり。¥こ/の¥こと¥うつたへ/ん/とて、¥すすむ¥らうそう¥たれたれ/ぞ。¥ちしやく、¥がくみやう、¥ほうだいばう、¥しやうち、¥がくおん、¥とさ/の−あざり/ぞ¥すすみ/ける。¥はくさん¥さんじや¥はちゐん/の¥だいしゆ、¥ことごとく¥おこり−あひ、¥つがふ¥そ/の¥せい¥にせん−よ−にん、¥おなじき−しちぐわつ−ここのかのひ/の¥くれがた/に、¥もくだい−もろつね/が¥たち¥ちかう/こそ¥おし−よせ/たれ。¥けふ/は¥ひ¥くれ/ぬ。¥あす/の¥いくさ/と¥さだめ/て、¥そ/の−ひ/は¥よせて¥ゆらへ/たり。¥つゆ¥ふき−むすぶ¥あきかぜ/は、¥いむけ/の−そで/を¥ひるがへし、¥くもゐ/を¥てらす¥いなづま/は、¥かぶと/の¥ほし/を¥かがやかす。¥もくだい¥かなは/じ/と/や¥おもひ/けん、¥よにげ/に/して¥きやう/へ¥のぼる。¥あくる¥う/の−こく/に¥おし−よせ/て、¥とき/を¥どつと/ぞ¥つくり/ける。¥じやう/の¥うち/に/は¥おと/も¥せ/ず。¥ひと/を¥いれ/て¥みせ/けれ/ば、¥「みな¥おち/て¥さうらふ」/と¥まうす。¥だいしゆ¥ちから¥およば/で¥ひき−しりぞく。
P1041
¥さら/ば¥さんもん/へ¥うつたへ/ん/とて、¥はくさん−ちゆうぐう/の¥しんよ、¥かざり¥たてまつつ/て、¥ひえいさん/へ¥ふり−あげ¥たてまつる。¥〔おなじき−〕はちぐわつ−じふににち/の¥うま/の−こく/に、¥はくさん/の¥しんよ、¥すで/に¥ひえいさん¥ひがしざかもと/に¥つか/せ¥たまふ/と¥きこえ/しか/ば、¥ほくこく/の¥かた/より、¥いかづち¥おびたたしく¥なり/て、¥みやこ/を¥さし/て¥なり−のぼり、¥しらゆき¥ふり/て¥ち/を¥うづみ、¥さんじやう¥らくちゆう¥おしなべて、¥ときは−やま/の¥こずゑ/まで、¥みな¥しろたへ/に/ぞ¥なり/に/ける。
¥「ぐわんだて」S0114 『ぐわんだて』T0114
¥しんよ/を/ば、¥まらうと/の−みや/へ¥いれ¥たてまつる。¥まらうと/と¥まうす/は、¥はくさん−めうり−ごんげん/にて¥おはします。¥まうせ/ば¥ふし/の¥おん−なか/なり。¥まづ¥さた/の¥せいひ/は¥しら/ず、¥しやうぜん/の¥おん−よろこび、¥ただ¥こ/の¥こと/に¥あり。¥うらしま/が¥こ/の¥しつせ/の¥まご/に¥あへ/り/し/に/も¥すぎ、¥たいない/の¥もの/の¥りやうぜん/の¥ちち/を¥み/し/に/も¥こえ/たり。¥さんぜん/の¥しゆと¥くびす/を¥つぎ、¥しちしや/の¥しんじん¥そで/を¥つらね、¥じじ−こくこく/の¥ほつせ¥きねん、¥ごんご−だうだん/の¥こと−ども/にて/ぞ¥さうらひ/ける。¥さる−ほど/に¥さんもん/の¥だいしゆ、¥こくし−かが/の−かみ−もろたか/を¥るざい/に¥しよせ/られ、¥もくだい−こんどう−はんぐわん−もろつね/を¥きんごく−せ/らる/べき¥よし、¥そうもん−す/と¥いへ/ども、¥ご−さいきよ¥なかり/けれ/ば、¥しかる/べき¥くぎやう−てんじやうびと/は、¥「あはれ¥とく/して¥ご−さいきよ¥ある/べき/ものを。¥むかし/より¥さんもん/の¥そしよう/は¥た/に¥こと/なり。¥おほくら/の−きやう−ためふさ、¥ださい/の−ごん/の−そつ−すゑなか/の−きやう/は、¥さ/しも¥てうか/の¥ちようしん/たり/しか/ども、¥さんもん/の¥そしよう/に¥よつ/て¥るざい−せ/られ¥たまひ/に/き。¥いはんや¥もろたか/など/は¥こと/の−かず/に/も/や/は¥ある/べき、¥しさい/に/や¥およぶ/べき」/と¥まうし−あは/れ/けれ/ども、¥たいしん/は¥ろく/を¥おもんじ/て¥いさめ/ず、¥せうしん/は¥つみ/に¥おそれ/て¥まうさ/ず」/と¥いふ¥こと/なれ/ば、¥おのおの¥くち/を¥とぢ¥たまへ/り。¥「ぐわんだて」R0113¥「かもがは/の¥みづ、¥すごろく/の¥さい、¥やまぼふし、¥これ/ぞ¥わ/が¥み−こころ/に¥かなは/ぬ¥もの」/と、¥しらかは/の−ゐん
P1042
/も¥おほせ−なり/ける/とかや。¥とば/の−ゐん/の¥おん−とき/も、¥ゑちぜん/の¥へいせんじ/を¥さんもん/へ¥よせ/られ/ける¥こと/は、¥たうざん/を¥ご−きゑ¥あさから/ざる/に¥よつ/て/なり。¥「ひ/を¥もつて¥り/と¥す」/と¥せんげ−さ/れ/て/こそ、¥ゐんぜん/を/ば¥くださ/れ/けれ。¥され/ば¥がうぞつ−まさふさ/の−きやう/の¥まうさ/れ/し¥やう/は、¥「ひよし/の¥しんよ/を¥ぢんどう/へ¥ふり¥たてまつり/て、¥うつたへ¥まうさ/ん/に/は、¥きみ/は¥いかが¥おん−はからひ¥さうらふ/べき」/と¥まうさ/れ/けれ/ば、¥「げに/も¥さんもん/の¥そしよう/は¥もだし−がたし」/と/ぞ¥おほせ/ける。¥いにし¥かほう−にねん−さんぐわつ−ふつかのひ、¥みの/の−かみ−みなもと/の−よしつな/の−あそん、¥たう−ごく¥しんりふ/の¥しやう/を¥たふす¥あひだ、¥やま/の¥くぢゆうしや¥ゑんおう/を¥せつがい−す。¥これ/に−よつ/て¥ひえ/の¥しやし、¥えんりやくじ/の¥じくわん、¥つがふ¥さんじふ−よ−にん、¥まうしぶみ/を¥ささげ/て¥ぢんどう/へ¥さんじ/たる/を、¥ごにでう/の−くわんばく−どの、¥やまと−げんじ¥なかづかさ/の−ごん/の−せふ−よりはる/に¥おほせ/て、¥これ/を¥ふせが/せ/らるる/に¥よりはる/が¥らうどう、¥や/を¥はなつ。¥やには/に¥い−ころさ/るる¥もの¥はち−にん、¥きず/を¥かうぶる¥もの¥じふ−よ−にん、¥しやし、¥〔しよし、〕¥しはう/へ¥みな¥たいさん−す。¥これ/に−よつ/て¥さんもん/の¥じやうかう−ら、¥しさい/を¥そうもん/の¥ため/に、¥おびたたしう¥げらく−す/と¥きこえ/しか/ば、¥ぶし、¥けんびゐし、¥にしざかもと/に¥ゆき−むかつ/て、¥みな¥おつ−かへす。¥さんもん/に/は、¥ご−さいだん¥ちち/の¥あひだ、¥しちしや/の¥しんよ/を¥こんぽんちゆうだう/に¥ふり−あげ¥たてまつり、¥そ/の¥おん−まへ/にて¥しんどく/の¥だいはんにや/を¥しち−にち¥よみ/て、¥ごにでう/の−くわんばく−どの/を¥じゆそ−し¥たてまつる。¥けちぐわん/の¥だうし/に/は、¥ちゆういん−ほふいん、¥そ/の−とき/は¥いまだ¥ちゆういん−ぐぶ/と¥まうし/し/が、¥かうざ/に¥のぼり¥かね¥うち−ならし、¥けいびやく/の¥ことば/に¥いはく、¥「われ−ら/が¥なたね/の¥ふたば/より¥おほし−たて¥たまひ/し¥かみ−たち、¥ごにでう/の−くわんばく−どの/に、¥かぶらや¥ひとつ¥はなち−あて¥たまへ。¥だいはちわうじ−ごんげん」/と¥たからか/に/こそ¥きせい−し/たり/けれ。¥そ/の¥よ¥やがて¥ふしぎ/の¥こと¥あり/けり。¥はちわうじ/の−おん−との/より、¥かぶらや/の¥こゑ¥いで/て、¥わうじやう/を¥さし/て¥なり/て¥ゆく/と/ぞ、¥ひと/の¥ゆめ/に/は¥みえ/たり/ける。¥そ/の¥あした¥くわんばく−どの/の¥ごしよ/の¥み−かうし/を¥あげ/ける/に、¥ただいま¥やま/より¥とり/て¥き/たる¥やう/に、¥つゆ/に¥ぬれ/たる¥しきみ¥ひとえだ、¥たち/たり/ける/こそ¥ふしぎ/なれ。¥やがて¥そ/の¥よ/より、
P1043
¥ごにでう/の−くわんばく−どの、¥さんわう/の¥おん−とがめ/とて、¥おもき¥おん−やまふ/を¥うけ/させ¥たまひ/て、¥うち−ふさ/せ¥たまひ/しか/ば、¥ははうへ¥おほ−との/の¥きたのまんどころ、¥おほき/に¥おん−なげき¥あつ/て、¥おん−さま/を¥やつし、¥いやしき¥げらふ/の¥まね/を¥し/て、¥ひえ/の−やしろ/へ¥まゐらせ¥たまひ/て、¥しち−にち−しち−や/が¥あひだ¥いのり¥まうさ/せ¥おはします。¥まづ¥あらはれ/て/の¥ご−りふぐわん/に/は、¥しばでんがく¥ひやく−ばん、¥ひやく−ばん/の¥ひとつもの、¥くらべうま、¥やぶさめ、¥すまふ、¥おのおの¥ひやく−ばん、¥ひやく−ざ/の¥にんわうかう、¥ひやく−ざ/の¥やくしかう、¥いつ−ぴしゆ−はん/の¥やくし¥ひやく−たい、¥とうしん/の¥やくし¥いつ−たい、¥ならびに¥しやか、¥あみだ/の¥ぞう、¥おのおの¥ざうりふ−くやう−せ/られ/けり。¥また¥ご−しんぢゆう/に¥みつ/の¥ご−りふぐわん¥あり。¥み−こころ/の¥うち/の¥おん−こと/なれ/ば、¥ひと¥いかで¥しり¥たてまつる/べき/に、¥それに¥なに/より/も¥また¥ふしぎ/なり/ける¥こと/に/は、¥しち−や/に¥まんずる¥よ、¥はちわうじ/の−み−やしろ/に¥いくら/も¥あり/ける¥まゐりうど−ども/の¥なか/に、¥むつ/の−くに/より、¥はるばる/と¥のぼり/たり/ける¥わらは−みこ、¥やはん/ばかり¥にはか/に¥たえ−いり/に/けり。¥はるか/に¥かき−いだし/て¥いのり/けれ/ば、¥やがて¥たち/て¥まひ−かなづ。¥ひと¥きどく/の¥おもひ¥なし/て¥これ/を¥みる。¥はんじ/ばかり¥まひ/て¥のち、¥さんわう¥おり/させ¥たまひ/て、¥やうやう/の¥ご−たくせん/こそ¥おそろしけれ。¥「しゆじやう−ら¥たしか/に¥うけたまはれ。¥おほ−との/の¥きたのまんどころ、¥けふ¥しち−にち、¥わ/が¥おん−まへ/に¥こもら/せ¥たまひ/たり。¥ご−りふぐわん¥みつ¥あり。¥まづ¥ひとつ/に/は、¥こんど¥てんが/の¥じゆみやう/を¥たすけ/させ¥おはしませ。¥さ/も¥さぶらは/ば、¥おほみや/の¥した−どの/に¥さぶらふ¥もろもろ/の¥かたはうど/に¥まじはつ/て、¥いつせんにち/が¥あひだ、¥あさゆふ¥みやづかへ¥まうさ/ん/と/なり。¥おほ−との/の¥きたのまんどころ/にて、¥よ/を¥よ/と/も¥おぼしめさ/で、¥すぐさ/せ¥たまふ¥み−こころ/に、¥こ/を¥おもふ¥みち/に¥まよひ/ぬれ/ば、¥いぶせき¥こと/を/も¥わすら/れ/て、¥あさまし−げ/なる¥かたはうど/に¥まじはり/て、¥いつせんにち/が¥あひだ、¥あさゆふ¥みやづかへ¥まうさ/ん/と¥おほせ/らるる/こそ、¥まこと/に¥あはれ/に¥おぼしめせ。¥ふたつ/に/は¥おほみや/の¥はしどの/より、¥はちわうじ/の−み−やしろ/まで、¥くわいらう¥つくり/て¥まゐらせ/ん/と/なり。¥さんぜん−にん/の¥だいしゆ、¥あめ
P1044
/に/も¥はれ/に/も、¥しやさん/の¥とき、¥いたはしう¥おぼゆる/に、¥くわいらう¥つくら/れ/たら/ん/は、¥いか/に¥めでたから/ん。¥みつ/に/は¥こんど¥てんが/の¥じゆみやう/を¥たすけ/させ¥おはしませ。¥さ/も¥さうらは/ば、¥はちわうじ/の−み−やしろ/にて、¥ほつけ−もんだふかう¥まいにち¥たいてん¥なく¥おこなは/す/べし/と/なり。¥こ/の¥りふぐわん−ども/は、¥いづれ/も¥おろか/なら/ね/ども、¥せめて/は¥かみ/の¥ふたつ/は、¥さ¥なく/と/も¥あり/な/ん。¥ほつけ−もんだふかう/こそ、¥いちぢやう¥あら/まほしう¥おぼしめせ。¥ただし、¥こんど/の¥そしよう/は、¥むげ/に¥やすかり/ぬ/べき¥こと/にて¥あり/つる/を、¥ご−さいきよ¥なく/して、¥しんじん、¥みやじ¥い−ころさ/れ、¥しゆと¥おほく¥きず/を¥うけ/て、¥なくなく¥まゐり/て¥うつたへ¥まうす/が、¥〔あまり/に〕¥こころ−うけれ/ば、¥いか/なら/ん¥よ/に¥わする/べし/と/も¥おぼしめさ/ず。¥そ/の−うへ¥かれ−ら/に¥あたる¥ところ/の¥や/は、¥すなはち¥わくわう−すいしやく/の¥おん−はだへ/に¥たち/たる/なり。¥まこと¥そらごと/は¥これ/を¥みよ」/とて、¥かた¥ぬい/だる/を¥みれ/ば、¥ひだり/の¥わき/の¥した、¥おほい/なる¥かはらけ/の¥くち¥ほど、¥うげのい/て/ぞ¥みえ/たり/ける。¥「これ/が¥あまり/に¥こころ−うけれ/ば、¥いか/に¥まうす/と/も¥しじゆう/の¥こと/は¥かなふ/まじ。¥ほつけ−もんだふかう¥いちぢやう¥ある/べく/は、¥みとせ/が¥いのち/を¥のべ/て¥たてまつら/ん。¥それ/を¥ふそく/に¥おぼしめさ/ば¥ちから¥およば/ず」/とて、¥さんわう¥あがら/せ¥たまひ/けり。¥ははうへ¥こ/の¥ご−りふぐわん/の¥おん−こと、¥ひと/に/も¥かたら/せ¥たまは/ね/ば、¥たれ¥もらし/ぬ/らん/と、¥すこし/も¥うたがふ¥かた/も¥ましまさ/ず。¥み−こころ/の¥うち/の¥こと−ども/を、¥あり/の−まま/に¥ご−たくせん¥あり/けれ/ば、¥いよいよ¥しんかん/に¥そう/て、¥こと/に¥たつとく¥おぼしめさ/れ、¥「たとひ¥いち−にち−へんし/で¥さうらふ/とも、¥あり−がたう/こそ¥さうらふ/べき/に、¥まして¥みとせ/が¥いのち/を¥のべ/て¥たまはら/ん/と¥おほせ/らるる/こそ、¥まこと/に¥あり−がたう/は¥さぶらへ」/とて、¥おん−なみだ/を¥おさへ/て¥おん−げかう¥あり/けり。¥そ/の−のち¥き/の−くに/に¥てんが/の¥りやう、¥たなか/の−しやう/と¥いふ¥ところ/を、¥えいたい¥はちわうじ/へ¥きしん−せ/らる。¥され/ば¥いま/の−よ/に¥いたる/まで、¥はちわうじ/の¥み−やしろ/にて、¥ほつけ−もんだふかう、¥まいにち¥たいてん¥なし/と/ぞ¥うけたまはる。¥かかり/し−ほど/に、¥ごにでう/の−くわんばく−どの¥おん−やまふ¥かるま
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/せ¥たまひ/て、¥もと/の/ごとく/に¥なら/せ¥たまふ。¥じやうげ¥よろこび−あは/れ/し¥ほど/に、¥みとせ/の¥すぐる/は¥ゆめ/なれ/や、¥えいちやう−にねん/に¥なり/に/けり。¥ろくぐわつ−にじふいちにち、¥また¥ごにでう/の−くわんばく−どの、¥おん−ぐし/の¥きは/に¥あしき¥おん−かさ¥いで/させ¥たまひ/て、うち−ふさ/せ¥たまひ/し/が、¥おなじき−にじふしちにち、¥おん−とし¥さんじふはち/にて、¥つひ/に¥かくれ/させ¥たまひ/ぬ。¥み−こころ/の¥たけさ、¥り/の¥つよさ、¥さ/しも¥ゆゆしう¥おはせ/しか/ども、¥まめやか/に¥こと/の¥きふ/に/も¥なり/ぬれ/ば、¥おん−いのち/を¥をしま/せ¥たまひ/けり。¥まこと/に¥をしかる/べし。¥しじふ/に/だに¥みたせ¥たまは/で、¥おほ−との/に¥さきだた/せ¥たまふ/こそ¥かなしけれ。¥かならず¥ちち/を¥さきだつ/べし/と¥いふ¥こと/は¥なけれ/ども、¥しやうじ/の¥おきて/に¥したがふ¥ならひ、¥まんどく−ゑんまん/の¥せそん、¥じふぢ−くきやう/の¥だいじ−たち/も、¥ちから¥およば/せ¥たまは/ぬ¥しだい/なり。¥じひ−ぐそく/の¥さんわう、¥りもつ/の¥はうべん/にて¥ましませ/ば、¥おん−とがめ¥なかる/べし/と/も¥おぼえ/ず。
¥「みこしふり」S1015 『みこしぶり』T0115
¥さる−ほど/に¥さんもん/に/は、¥こくし−かが/の−かみ−もろたか/を¥るざい/に¥しよ−せ/られ、¥おとうと¥こんどう−はんぐわん−もろつね/を¥きんごく−せ/らる/べき¥よし、¥そうもん¥どど/に¥およぶ/と¥いへ/ども、¥ご−さいきよ¥なかり/けれ/ば、¥ひえ/の¥さいれい/を¥うち−とどめ/て、¥あんげん−さんねん−しぐわつ−じふさんにち/の¥たつ/の−いつてん/に、¥じふぜんじ、¥まらうど、¥はちわうじ、¥さんじや/の¥しんよ/を¥かざり¥たてまつつ/て、¥ぢんどう/へ¥ふり¥たてまつる。¥さがりまつ、¥きれづつみ、¥かも/の¥かはら、¥ただす、¥うめただ、¥やなぎはら、¥とうぼくゐん/の¥へん/に、¥しらだいしゆ、¥しんじん、¥みやじ、¥せんだう¥みちみち/て、¥いくら/と¥いふ¥かず/を¥しら/ず。¥しんよ/は¥いちでう/を¥にし/へ¥いら/せ¥たまへ/ば、¥ご−じんぼう¥てん/に¥かかやき、¥じつげつ¥ち/に¥おち¥たまふ/か/と¥おどろか/る。¥これ/に−よつ/て¥げんぺい−りやうけ/の¥たいしやうぐん/に¥おほせ/て、
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¥しはう/の¥ぢんどう/を¥かため/て、¥だいしゆ¥ふせぐ/べき¥よし¥おほせ−くださ/る。¥へいけ/に/は¥こまつ/の−ないだいじん/の−さだいしやう−しげもり−こう、¥そ/の¥せい¥さんぜん−よ−き/にて、¥おほみやおもて/の¥やうめい、¥たいけん、¥いうはう、¥みつ/の¥もん/を¥かため¥たまふ。¥おとうと¥むねもり、¥とももり、¥しげひら、¥をぢ¥よりもり、¥〔のりもり、〕¥つねもり/など/は、¥にしみなみ/の¥ぢん/を¥かため¥たまふ。¥げんじ/に/は¥たいだい−しゆご/の¥げん−ざんみ−よりまさ、¥わたなべ/の−はぶく、¥さづく/を¥さき/と/して、¥そ/の¥せい¥わづか/に¥さんびやく−よ−き、¥きた/の−もん、¥ぬひどの/の−ぢん/を¥かため¥たまふ。¥ところ/は¥ひろし、¥せい/は¥すくなし、¥まばら/に/こそ¥みえ/たり/けれ。¥だいしゆ¥そ/の¥せい/たる/に¥よつ/て、¥きた/の−もん、¥ぬひどの/の−ぢん/より¥しんよ/を¥いれ¥たてまつら/ん/と¥す。¥よりまさ/の−きやう¥さる−ひと/にて、¥いそぎ¥うま/より¥おり、¥かぶと/を¥ぬぎ、¥てうづ−うがひ−し/て、¥しんよ/を¥はいし¥たてまつら/る。¥つはもの−ども/も¥みな¥かく/の/ごとし。¥よりまさ¥だいしゆ/の¥なか/へ¥ししや/を¥たて/て、¥いひ−おくら/るる¥むね¥あり。¥そ/の¥つかひ/は¥わたなべ/の−ちやうしち−となふ/と/ぞ¥きこえ/し。¥となふ¥そ/の−ひ/は、¥きちん/の−ひたたれ/に、¥こざくら/を¥き/に¥かへい/たる¥よろひ¥き/て、¥しやくどう−づくり/の−たち/を¥はき、¥にじふし¥さい/たる¥しらは/の−や¥おひ、¥しげどう/の−ゆみ¥わき/に¥はさみ、¥かぶと/を/ば¥ぬい/で、¥たかひも/に¥かけ、¥しんよ/の¥おん−まへ/に¥かしこまつ/て、¥「しばらく¥しづまら/れ¥さうらへ。¥げん−ざんみ−どの/より、¥しゆと/の¥おん−うち/へ¥〔げん−ざんみ−どの/の〕¥まうせ/と¥ざふらふ」/とて、¥「こんど¥さんもん/の¥ご−そしよう、¥りうん/の¥でう¥もちろん/に¥さうらふ。¥ご−さいだん¥ちち/こそ/は、¥よそ/にて/も¥ゐこん/に¥おぼえ¥さうらへ。¥しんよ¥いれ¥たてまつら/ん¥こと、¥しさい/に¥および¥さうらは/ね/ども。¥ただし¥よりまさ¥ぶせい/に¥さうらふ。¥あけ/て¥いれ¥たてまつる¥ぢん/より¥いら/せ¥たまひ/な/ば、¥さんもん/の¥だいしゆ/は、¥めだりがほ−し/けり/など、¥きやう−わらんべ/の¥まうさ/ん¥こと、¥ごにち/の¥なん/に/や¥さうらは/んず/らん。¥あけ/て¥いれ¥たてまつれ/ば、¥せんじ/を¥そむく/に¥に/たり。¥また¥ふせぎ¥たてまつら/ん/と¥すれ/ば、¥としごろ¥いわう、−さんわう/に¥くび/を¥かたぶけ/て¥さうらふ¥み/が、¥けふ/より¥のち、¥ながく¥ゆみ−や/の−みち/に¥わかれ¥さうらひ/な/んず。¥かれ/と¥いひ、¥これ/と¥いひ、¥かたがた¥なんぢ/の¥やう/に¥おぼえ¥さうらふ。¥ひがし/の¥ぢんどう/を/ば¥こまつ−どの/の¥たいぜい/にて¥かため/られ/て¥さうらふ。¥そ/の¥ぢん/より¥いら
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/せ¥たまふ/べう/も/や¥さうらふ/らん」/と、¥いひ−おくり/たり/けれ/ば、¥となふ/が¥かく¥いふ/に¥ふせが/れ/て、¥しんじん、¥みやじ、¥しばらく¥ゆらへ/たり。¥わかだいしゆ、¥あくそう−ども/は、¥「なでふ¥そ/の¥ぎ¥ある/べき。¥ただ¥こ/の¥ぢん/より¥しんよ/を¥いれ¥たてまつれ/や」/と¥いふ¥やから¥おほかり/けれ/ども、¥らうそう/の¥なか/に、¥さんたふ−いち/の¥せんぎしや/と¥きこえ/し¥せつつ/の−りつしや−がううん、¥すすみ−いで¥まうし/ける/は、¥「もつとも¥こ/の¥ぎ¥さ¥いは/れ/たり。¥われ−ら¥しんよ/を¥さき−だて¥まゐらせ/て、¥そしよう/を¥いたさ/ば、¥たいぜい/の¥なか/を¥うち−やぶり/て/こそ、¥こうだい/の¥きこえ/も¥あら/んずれ。¥なかんづく¥こ/の¥よりまさ/の−きやう/は、¥ろくそんわう/より¥こ/の−かた、¥げんじ¥ちやくちやく/の¥しやうとう、¥ゆみ−や/を¥とつ/て、¥いまだ¥そ/の¥ふかく/を¥きか/ず。¥およそ/は¥ぶげい/に/も¥かぎら/ず、¥かだう/に/も¥すぐれ/たる¥をのこ/なり。¥ひととせ¥こんゑ/の−ゐん¥ご−ざいゐ/の¥おん−とき、¥たうざ/の¥ご−くわい/の¥あり/し/に、¥『みやま/の−はな』/と¥いふ¥だい/を¥いださ/れ/たり/ける/に、¥ひとびと¥みな¥よみ−わづらひ/たり/し/に、¥こ/の¥よりまさ/の−きやう、
¥み−やま−ぎ/の¥そ/の¥こずゑ/と/も¥みえ/ざり/し¥さくら/は¥はな/に¥あらはれ/に/けり W007
/と¥いふ¥めいか¥つかまり/て¥ぎよ−かん/に¥あづかり/たる¥ほど/の¥やさをとこ/に、¥いかが¥とき/に¥のぞん/で¥なさけ−なう¥ちじよく/を/ば¥あたふ/べき。¥こ/の¥ぢん/より¥しんよ¥かき−かへし¥たてまつれ/や」/と、¥せんぎ−し/たり/けれ/ば、¥すせん−にん/の¥だいしゆ、¥せんぢん/より¥ごぢん/まで、¥〔みな〕¥もつとも−もつとも/と/ぞ¥どうじ/ける。¥さて¥しんよ/を/ば¥かき−かへし¥たてまつり、¥ひがし/の¥ぢんどう、¥たいけんもん/より¥いれ¥たてまつら/ん/と¥し/ける/に、¥らうぜき¥たちまち/に¥いで−き/て、¥ぶし−ども¥さんざん/に¥い¥たてまつる。¥じふぜんじ/の¥み−こし/に/も、¥や−ども¥あまた¥い−たて/けり。¥しんじん、¥みやじ¥い−ころさ/れ、¥しゆと¥おほく¥きず/を¥かうぶり、¥をめき−さけぶ¥こゑ¥ぼんてん/まで/も¥きこえ、¥けんらう¥ぢしん/も¥おどろく/らん/と/ぞ¥おぼえ/ける。¥だいしゆ¥しんよ/を/ば¥ぢんどう/に¥ふり−すて¥たてまつり、¥なくなく¥ほんざん/へ/ぞ¥かへり−のぼり/ける。
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¥「だいりえんじやう」S0116 『だいりえんしやう』T0116
¥ゆふべ/に¥およん/で¥くらんど/の−させうべん−かねみつ/に¥おほせ/て、¥ゐん/の¥てんじやう/にて、¥にはか/に¥くぎやう−せんぎ¥あり/けり。¥さんぬる¥ほうあん−しねん−しぐわつ/に¥しんよ¥じゆらく/の¥とき/は、¥ざす/に¥おほせ/て、¥せきさん/の−やしろ/へ¥いれ¥たてまつる。¥また¥ほうえん−しねん−しちぐわつ/に¥しんよ¥じゆらく/の¥とき/は、¥ぎをん/の−べつたう/に¥おほせ/て、¥ぎをん/の−やしろ/へ¥いれ¥たてまつら/る。¥こたび/は¥ほうえん/の¥れい/たる/べし/とて、¥ぎをん/の−べつたう−ごん/の−だいそうづ−ちようけん/に¥おほせ、¥へいしよく/に¥およん/で¥ぎをん/の−やしろ/へ¥いれ¥たてまつら/る。¥しんよ/に¥たつ¥ところ/の¥や/を/ば、¥しんじん/して¥これ/を¥ぬか/せ/らる。¥むかし/より¥さんもん/の¥だいしゆ、¥しんよ/を¥ぢんどう/へ¥ふり¥たてまつる¥こと/は、¥えいきう/より¥こ/の−かた、¥ぢしよう/まで/は¥む−たび/なり。¥され/ども¥まいど/に¥ぶし/に¥おほせ/て¥ふせが/せ/らるる/に、¥しんよ¥い¥たてまつる¥こと、¥これ¥はじめ/と/ぞ¥うけたまはる。¥「れいじん¥いかり/を¥なせ/ば、¥さいがい¥ちまた/に¥みつ/と¥いへ/り。¥おそろし−おそろし」/と/ぞ¥おのおの¥のたまひ−あは/れ/ける。¥おなじき−じふしにち/の¥やはん/ばかり、¥さんもん/の¥だいしゆ、¥また¥おびたたしう¥げらく−す/と¥きこえ/しか/ば、¥しゆしやう/は¥よなか/に¥えうよ/に¥めし/て、¥ゐん/の−ごしよ−ほふぢゆうじ−どの/へ¥ぎやうがう¥なる。¥ちゆうぐう、¥みやみや/は、¥み−くるま/に¥たてまつり/て、¥たしよ/へ¥ぎやうげい¥あり/けり。¥こまつ/の−おとど/は、¥なほし/に¥や¥おう/て¥ぐぶ−せ/らる。¥ちやくし¥ごん/の−すけ−ぜうしやう−これもり/は、¥そくたい/に¥ひらやなぐひ¥おひ/て/ぞ¥まゐら/れ/ける。¥くわんばく−どの/を¥はじめ¥たてまつり/て、¥だいじやう−だいじん¥いげ/の¥けいしやう−うんかく、¥われ/も−われ/も/と¥ぐぶ−せ/らる。¥およそ¥きんちゆう/の¥きせん、¥きやう−ぢゆう/の¥じやうげ、¥さわぎ−ののしる¥こと¥おびたたし。¥され/ども¥さんもん/に/は、¥しんよ/に¥や¥たち、¥しんじん¥みやじ¥い−ころさ/れ、¥しゆと¥おほく¥きず/を¥かうぶり/たり/しか/ば、¥おほみや¥に/の−みや¥いげ/の、¥かうだう、¥ちゆうだう、¥すべて¥しよだう、¥いち−う/も¥のこさ/ず¥みな¥やき−はらひ/て、¥さんや/に¥まじはる/べき¥よし、¥さんぜん¥いちどう/に¥せんぎ−す。¥これ/に−よつ/て¥だいしゆ/の¥まうす¥ところ、
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¥ほふわう¥おん−はからひ¥ある/べし/と¥きこえ/し/は、¥さんもん/の¥じやうかう−ら、¥しさい/を¥しゆと/に¥ふれ/ん/とて、¥とざん−す/と¥きこえ/しか/ば、¥だいしゆ¥にしざかもと/に¥おり−くだり/て、¥みな¥おつ−かへす。¥へい−だいなごん−ときただ/の−きやう、¥そ/の−とき/は¥いまだ¥さゑもん/の−かみ/にて¥おはし/ける/が、¥じやうけい/に¥たつ。¥だい−かうだう/の¥には/に¥さんたふ¥くわいがふ−し/て、¥「じやうけい/を¥とつ/て¥ひつぱり、¥しや−かぶり/を¥うち−おとし、¥そ/の¥み/を¥からめ/て、¥みづうみ/に¥しづめよ」/など/ぞ¥まうし/ける。¥すで/に¥かう/と¥みえ/し¥とき、¥ときただ/の−きやう、¥だいしゆ/の¥なか/へ¥ししや/を¥たて/て、¥「しばらく¥しづまら/れ¥さうらへ。¥しゆと/の¥おん−なか/へ¥まうす/べき¥こと/の¥さうらふ」/とて、¥ふところ/より¥こすずり¥たたうがみ¥とり−いだし、¥いつぴつ/とて¥だいしゆ/の¥なか/へ¥おくら/るる。¥これ/を¥ひらい/て¥みる/に、¥「しゆと/の¥らんあく/を¥いたす/は、¥まえん/の¥しよぎやう/なり。¥めいわう/の¥せいし/を¥くはふる/は、¥ぜんぜい/の¥かご/なり」/と/こそ¥かか/れ/たれ。¥これ/を¥み/て、¥だいしゆ¥ひつぱる/に/も¥およば/ず、¥みな¥もつとも−もつとも/と¥どうじ/て、¥たにだに/に¥おり、¥ばうばう/へ/ぞ¥いり/に/ける。¥いつし−いつく/を¥もつて、¥さんたふ¥さんぜん/の¥いきどほり/を¥やすめ、¥おほやけ−わたくし/の¥はぢ/を/も¥のがれ¥たまひ/けん¥ときただ/の−きやう/こそ¥ゆゆしけれ。¥さんもん/の¥だいしゆ/は、¥はつかう/の¥みだりがはしき/ばかり/か/と¥おもひ−ゐ/たれ/ば、¥ことわり/を/も¥ぞんぢ−し/けり/と/ぞ、¥ひとびと¥かんじ−あは/れ/ける。¥おなじき−はつかのひ、¥くわざん/の−ゐん−ごん−ぢゆうなごん−ただちか/の−きやう/を¥じやうけい/にて、¥こくし−かが/の−かみ−もろたか/を¥けつくわん−せ/られ/て、¥をはり/の¥ゐどた/へ¥ながさ/るる。¥おとうと¥こんどう−はんぐわん−もろつね/を/ば¥きんごく−せ/らる。¥また¥さんぬる¥じふさんにち¥しんよ¥い¥たてまつり/し¥ぶし¥ろくにん¥ごくぢやう−せ/らる。¥これ−ら/は¥みな¥こまつ−どの/の¥さぶらひ/なり。¥おなじき−しぐわつ−にじふはちにち/の¥いぬ/の−こく/ばかり、¥ひぐちとみのこうぢ/より¥ひ¥いで−き/て、¥きやう−ぢゆう¥おほく¥やけ/に/けり。¥をりふし¥たつみ/の¥かぜ¥はげしく¥ふき/けれ/ば、¥おほい/なる¥しやりん/の/ごとく/なる¥ほむら/が、¥さんぢやう¥ごちやう/を¥へだて/て、¥いぬゐ/の¥かたへ¥すぢかへ/に¥とび−こえ−とび−こえ¥やき−ゆく/は、¥おそろし/など/も¥おろか/なり。¥あるいは¥ともひら−しんわう/の¥ちぐさ−どの、¥あるいは¥きたの/の−てんじん/の¥こうばい−どの、¥きつ−いつせい/の¥はへまつ−どの、¥おに−どの、¥たかまつ−どの、
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¥かもゐ−どの、¥とうさんでう、¥ふゆつぐ/の−おとど/の¥かんゐん−どの、¥せうぜん−こう/の¥ほりかは−どの、¥これ/を¥はじめ/て、¥むかし−いま/の¥めいしよ¥さんじふ−よ−か−しよ、¥くぎやう/の¥いへ/だに/も¥じふろく−か−しよ/まで¥やけ/に/けり。¥そ/の−ほか¥てんじやうびと、¥しよだいぶ/の¥いへいへ/は¥しるす/に¥およば/ず。¥はて/は¥おほうち/に¥ふき−つけ/て、¥すじやくもん/より¥はじめ/て、¥おうてんもん、¥くわいしやうもん、¥だいごくでん、¥ぶらくゐん、¥しよし−はちしやう、¥あいたんどころ、¥いちじ/が¥うち/に、¥みな¥くわいじん/の¥ち/と/ぞ¥なり/に/ける。¥いへいへ/の¥にき、¥よよ/の¥もんじよ、¥しつちん−まんぽう¥さ/ながら¥ちり−はひ/と¥なり/ぬ。¥そ/の¥あひだ/の¥つひえ¥いか/ばかり/ぞ。¥ひと/の¥やけ−しぬる¥こと¥すひやく−にん、¥ぎうば/の¥たぐひ¥かず/を¥しら/ず。¥これ¥ただごと/に¥あら/ず。¥さんわう/の¥おん−とがめ/とて、¥ひえいさん/より、¥おほい/なる¥さる−ども/が、¥にさんぜん¥おり−くだり、¥てんで/に¥たいまつ/を¥ともい/て、¥きやう−ぢゆう/を¥やく/と/ぞ、¥ひと/の¥ゆめ/に¥みえ/たり/ける。¥だいごくでん/は¥せいわ−てんわう/の¥ぎよ−う、¥ぢやうくわん−じふはちねん/に¥はじめて¥やけ/たり/けれ/ば、¥おなじき−じふくねん−しやうぐわつ−みつかのひ、¥やうぜい−ゐん/の¥ご−そくゐ/は¥ぶらくゐん/にて/ぞ¥あり/ける。¥ぐわんきやう−ぐわんねん−しぐわつ−ここのかのひ、¥ことはじめ¥あり/て、¥おなじき−にねん−じふぐわつ−やうかのひ/ぞ¥つくり−いださ/れ/たり/ける。¥ごれんぜい/の−ゐん/の¥ぎよ−う、¥てんき−ごねん−にぐわつ−にじふろくにち、¥また¥やけ/に/けり。¥ぢりやく−しねん−はちぐわつ−じふしにち/に、¥ことはじめ¥あり/しか/ども、¥いまだ¥つくり/も¥いださ/れ/ず/して、¥ごれんぜい/の−ゐん¥ほうぎよ¥なり/ぬ。¥ごさんでう/の−ゐん/の¥ぎよ−う、¥えんきう−しねん−しぐわつ−じふごにち/に¥つくり−いださ/れ/て、¥ぶんじん¥し/を¥たてまつり、¥れいじん¥がく/を¥そうし/て、¥せんかう¥なし¥たてまつる。¥いま/は¥よ¥すゑ/に¥なり/て、¥くに/の¥ちから/も¥みな¥おとろへ/たれ/ば、¥そ/の−のち/は¥つひ/に¥つくら/れ/ず。
¥へいけものがたり−くわん−だい−いち をはり¥