延慶本平家物語の歌 

凡例
底本 大東急記念文庫蔵、重要文化財「延慶本平家物語」全六巻十二帖
延慶本平家物語 古典研究会1964年 3冊、別冊『延慶本平家物語 解説・対校表』1965 伊地知鉄男氏 編著 付
参考
『延慶本平家物語本文篇』(上・下)(大東急記念文庫蔵本)1999:2冊 著者:北原 保雄氏 著者:小川、 栄一氏 勉誠出版
『延慶本平家物語索引篇』(上・下)(大東急記念文庫蔵本)1996:2冊 勉誠出版

国歌大観の番号をK+番号3桁を後に付けました。
仮名遣いは一部改めました。
句読点は、適宜施しました。
会話や心中思惟の部分には、「 」、『 』を付けました。
濁点は非常にわずかですが、適宜施しました。
促音は、表記のない場合も「つ」としました。
区切り記号を付けました。
*記号の説明   ¥ / − 
単語を単位に区切り、記号で区別をします(この記号は、後に索引製作等に利用するために自分用に付けた物ですので、参考程度にお願いします。)
¥ 文節の区切り
/ 助詞・助動詞の前
― 連語のつなぎ


やまのみなうつりてけふにあふことははるのわかれをとふとなるべし K001
りやうぜんのしやかのみまへにちぎりてししんによくちせずあひ−みつるかな K002
かびらゑのこけのむしろにゆき−あひしもんじゆのみ−かほまたぞはいする K003
みるからにたもとぞぬるるさくらばなひとりさき−だつちちやこひしき K004
いよさぬきさうの−だいしやうとり−こめてよくのかたにはいちの−ひとかな K005
はなの−やまたかきこずゑとききしかどあまのこどもがふるめひろふは K006
もえ−いづるもかるるもおなじのべのくさいづれかあきにあはではつべき K007
うきふしにしづみもはてぬかはたけのよにためしなきなをやながさむ K008
おもひきやうきみながらにめぐり−きておなじくもゐのつきをみむとは K009
つねにみしきみがみゆきをけさとへばかへらぬたびときくぞかなしき K010
さくらばなかものかはかぜうらむなよちるをばえこそとどめざりけれ K011
みやまぎのそのこずゑともわかざりしにさくらははなにあらはれにけり K012
たかきやにのぼりてみればけぶりたつたみのかまどはにぎはひにけり K013
まつえだはみなさかもぎにきり−はててやまにはざすにすべきものなし K014
ごくらくと思ふくもゐをふり−すててならくのそこへいらんかなしさ K015
われはこれにつぽんくわけいのかく なんぢはすなはちどうせいいつたくのひと
ちちとなりことなるぜんぜのちぎり やまをへだてうみをへだててれんせいねんごろなり
としをへてなみだをながすほうかうのやど ひをおひておもひをはすらんきくのしたしみ
かたちはやぶれてたしうにとうきとなる いかでかきうりにかへりてこのみをすてむ K016
きのふまでいはまをとぢしやまがはのいつしかたたくたにのしたみづ K017
ゆき−やらむ事のなければ黒かみをかたみにぞやるみてもなぐさめ K018
かたみこそ今はあたなれこれなくはかばかり物はおもはざらまし K019
すみぞめのころものいろときくからによそのたもともしぼり−かねつつ K020
つひにかくそむき−はてぬるよのなかをとくすてざりし事ぞくやしき K021
むらさきのくさのいほりにむすぶつゆのかはくまもなき袖の上かな K022
ぼだいきなく、みやうきやううてなにあらず。もとよりいちもつなし、なんぞぢんくあらむ。 K023
ざぜん−してほとけをえば、たれかかんしやうをぼくせざらむ。しらなみいくばくかきよき、しやうぜんしゆにきえ−す。 K024
むつのねにむつの花さくをほぞらをはるばるみればわが−みなりけり K025
「きしくづれてうををころす。そのきしいまだくをうけず。かぜおこりてはなをきようす。その風あにじやうぶつ−せんや。」 K026
ほとけのはうべんなりければ、じんぎのゐくわうたのもしや。
たたけば必ずひびきあり、あふげばさだめて花ぞさく。 K027
しらつゆはつきの−光に黄ををるをすばかしあり。
ごんげんふねにさをさして、むかへのきしによするしらなみ。 K028
かみかぜやいのる誠のきよければ心のくもをふきやはらはむ K029
ながれ−よるいわうのしまのもしをぐさいつかくまのにめぐみいづべき K030
しらなみやたつたの山をけふこへて花の−都にかへるかりがね K031
ちはやぶるかみにいのりのしげければなどか都へかへらざるべき K032
おもひ−やれしばしと思ふたびだにもなをふるさとはこひしき物を K033
さつまがたをきのこじまにわれありとおやにはつげよやへのしほかぜ K034
みるたびに鏡のかげのつらきかなかからざりせばかからましやは K035
かへるかりへだつるくものなごりまでおなじあとをぞおもひ−つらねし K036
ことばのしたには、やみにほねをけすひをおこし、わらひのなかには、ひそかにひとをさすかたなをとぐ。 K037
「むかしはがんけつのほらにこめられて、いたづらにさんしゆんのしうたんをおくり、いまはけいでんのうねにはなたれて、むなしく
こてきのいつそくをきく。たとひみはとどまりてこちにくつとも、たましひはかへりてふたたびかんくん
につかへむ K038」
「てをたづさへてかりやうにのぼる。いうしゆふべいづくんかゆく。じふともにきたにとぶ、いつぷひとりみなみにかける。われ
をのづからこのやかたにとどまる。しいまこきやうにかへる K039」
おなじえにむれ−ゐるかものあはれにもかへるなみぢをとび−をくれぬる K040
へだて−こし昔の秋にあはましやこしぢのかりのしるべならずは K041
ことのはのなさけたえぬるをりふしにあり−あふみこそかなしかりけれ K042
しきしまやたえぬるみちになくなくも君とのみこそあとをしのばめ K043
うきながらそのまつやまのかたみにはこよひぞふぢの−ころもをばきる K044
よしさらばみちをばうづめつもるゆきさなくは人のかよふべきかは K045
まつやまのなみにながれてこし船のやがてむなしくなりにけるかな K046
よしやきみ昔のたまのとことてもかからむのちはなににかはせむ K047
ひさにへてわがのちの−よをとへよ松あとしのぶべき人しなければ K048
ちしやは秋のしか、なきてやまにいる。ぐじんは夏のむし、とびてひにやくる。 K049
はるきたつてはあまねくこれたうくわすいなれば、せんげんをわきまへずしていづれのところにかたづねむ。 K050
すみよしのまつふくかぜに雲はれてかめゐの水にやどる月かげ K051
いのり−こしわが−たつ−そまのひき−かへて人なきみねとなりやはてなむ K052
いとどしく昔のあとやたえなむとおもふも悲しけさのしらゆき K053
君がなぞなをあらはれむふる雪の昔のあとはたえ−はてぬとも K054
かたみとはなに思けむなかなかにそでこそぬるれ水くきのあと K055
くち−はてぬそのなばかりはありきにて昔がたりになりちかのさと K056
たうりものいはずはるいくばくかくれぬ。えんかあとなしむかしたれかすんじ。 K057
人はいさ心もしらずふるさとの花ぞ昔にかわらざりける K058
たづねてもわれこそとはめみちもなくふかきよもぎのもとの心を K059
ふるさとののきのいたまにこけむして思ひしよりももらぬつきかな K060
「みせばやなあわれとおもふ人やあると
只ひとりすむあしのとまやを K061」
はるかぜに花の−都はちりぬべしさかきのえだのかざしなくては K062
ゑはずはきんちゆうにいかでかさり−えん、ばゐさんのつきまさにさうさうたり。 K063
たれのひとかれうぐはいにひさしくせいじう−し、いづれのところのていしよにあらたにべつり−せん。 K064
春きてもとはれざりけりやまざとを花さきなばとなにおもひけむ K065
つひにかく花さく秋になりにけりよよにしほれし庭のあさがほ K066
今日すぐるみをうきしまがはらにてぞつひのみちをばきき−さだめつる K067
ほととぎすしらぬやまぢにまよふにはなくぞわが−みのしるべなりける K068
やまほふしおりのべぎぬのうすくして恥をばえこそかくさざりけれ K069
やまほふしみそかひしほかからひしほかへいじのしりにつきてまはるは K070
たきぎこるしづがねりそのみじかきがいふことのはの末のあはぬは K071
おりのべを一きれもえぬ我さへにうす恥をかく数にいるかな K072
おもひ−やれくらきやみぢのみつせがはせぜのしらなみはらひ−あへじを K073
宇治河にしづむをみればみだほとけちかひの船ぞいとど恋しき K074
いせむしやは皆ひをどしの−よろひきて宇治のあじろにかかるなりけり K075
むもれぎの花さく事もなかりしにみのなるはてぞあはれなりける K076
やましろのゐでの−わたりにしぐれしてみづなしがはに波やたつらん K077
ころもの−たちはほころびにけり
年をへしいとの乱れのくるし−さに K078
ならぼふしくりこ山とてしぶり−きていか物のぐをむき−とられけり K079
これはなのなかにひとへにきくをあいするにはあらず、このはなひらけ−つくしてさらにはなのなければなり。 K080
人−しれずおほうちやまのやまもりはこがくれてのみ月をみるかな K081
のぼるべきたよりなければこの−もとにしゐをひろひてよをわたるかな K082P1819
ほととぎすなをもくもゐにあぐるかな
ゆみはりづきのいるにまかせて K083
さつきやみなをあらはせるこよひかな
たそかれ時もすぎぬとおもふに K084
ゆかしくはきてもみよかしこの−したのかげをばいかがひき−はなつべき K085
ももとせをよ−かへりまでにすぎ−きにしをたぎの−里のあれやはてなむ K086
もりがたうたひらのきやうをにげ−いでぬうぢたえ−はつるこれは初めか K087
さき−いづる花の−都をふり−すててかぜふくはらの末ぞあやうき K088
なにはがたあしふく風に月すめば心をくだくおきつしらなみ K089
つらきをもうらみぬ我にならふなようき−みをしらぬ人もこそあれ K090
君が−よはにまのさとびとかずそひて今もそなふるみつぎものかな K091
古き都をきてみればあさぢがはらとぞなりにける
月の−光もさびしくて秋風のみぞみにはしむ K092
まつ−よひのふけ−ゆくかねのこゑきけばあかぬ−わかれの鳥はものかは K093
物かはときみがいひけむ鳥の−ねのけさしもいかにかなしかるらむ K094
またばこそふけ−ゆくかねもつらからめあかぬ−わかれの鳥の−ねぞうき K095
月のあしをもふみ−みつるかな
おほぞらはてかくばかりはなけれども K096
あきつの−里に春ぞきにける
み−わたせばきりめの−山に霞−して K097
この神のなかあにの宮とは
つくしなるうみの−やしろにとはばやな K098
ひとりぬるやもめがらすはあなにくやまだ夜ぶかきにめをさましつる K099
きみやこしわれやゆきけむおぼつかなしのぶのみだれかぎりしられず K100
むさしのはけふはなやきそわかくさのつまもこもれり我もこもれり K101
露ふかきあさぢがはらにまよふみのいとどやみぢにいるぞかなしき K102
やみぢにもともにまよはでよもぎふにひとり露けきみをいかにせん K103
くさまくらいかに結びしちぎりにて露の−命にをき−かわるらむ K104
ほけきやうをいちじもよまぬかとうじがやまきのはてを今みつるかな K105
みなもとはおなじながれぞいはしみづせき−あげ給へ雲のうへまで K106
ちひろまで深くたのみていはしみづ只せき−あげよ雲の上まで K107
あづまぢのくさばをわけむそでよりもたたぬたもとぞ露けかりける K108
わかれぢをなにかなげかむこへてゆくせきを昔のあとと思へば K109
ふじがはのせぜのいはこす波よりも早くもおつるいせへいじかな K110
ひらやなるむねもりいかにさわぐらむ柱とたのむすけををとして K111
富士川に鎧はすてつすみぞめのころもただきよのちの−よのため K112
ただかげはにげの−馬にやのりつらむかけぬにおつるかづさしりがひ K113
おもひきやはなのみやこをたちしよりかぜふくはらもあやうかりけり K114
をとめごがをとめさびすもからたまををとめさびすもそのからたまを K115
きくたびにめづらしければほととぎすいつもはつねのここちこそすれ K116
しのぶれど色にでにけりわがこひはものやおもふと人のとふまで K117
おもひ−かね心はそらにみちのくのちかのしほがまちかきかひ−なし K118
玉づさをいまはてにだにとらじとやさこそ心におもひ−すつとも K119
こひしなばうかれむ玉よしばしだにわがおもふひとのつまにとどまれ K120
君ゆへにしらぬやまぢにまよひつつうきねのとこに旅ねをぞする K121
きやうらいじゑ−だいそうじやう てんだいぶつぽふおうごしや
じげんさいしようしやうぐんしん あくごふしゆじやうどうりやく K122
おぼつかなたがそま山の人ぞとよこのくれにひくぬしをしらばや K123
くもまよりただもり−きたる月なればおぼろけならでいはじとぞ思ふ K124
ありあけの−月もあかしのうらかぜに波ばかりこそよるとみへしか K125
夜なき−すとただもり−たてよこのちごはきよくさかふる事もこそあれ K126
わがてつる道のくさばやかれぬらむあまりこがれて物を思へば K127
おもふには道の草ばもよもかれじなみだの雨のつねにそそけば K128
ひんがんにしよをかくればあきのはうすし、ぼやうにじうをごすればせいくわむなし。K129
ひとえだををらずはいかにさくらばなやそぢあまりの春にあわまし K130
たへらかに花さくやども年ふればかたぶくつきとなるぞはかなき K131
くもゐより吹−くる風のはげしくて涙の露のをち−まさるかな K132
むすびつる情もふかきもとゐにはちぎる心はほどけもやせむ K133
あづまよりとものををかぜふき−くれば西へかたぶくひらやとぞみる K134
いかにせむふぢのすゑばのかれ−ゆくをただ春の−日にまかせてぞ見る K135
としごろのひらやをすててはとの−はにうき−みをかくすいけるかひ−なし K136
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いかにせむみやぎがはらにつむせりのねのみなけどもしる人のなき K138
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くれたけのもとのかけひはたへ−はててながるるみづのすへをしらばや K142
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西のうみたつしらなみのうへにゐてなにすごすらむかりのこの−世を K152
名にしをはばいざ事−とはむ都鳥わがおもふ人ありやなしやと K153
すみ−なれし古き都のこひし−さは神も昔をわすれ給わじ K154
よしさらばこぞもことしもさかずして花のかわりに我ぞちりぬる K155
ほどこししむねのちぶさをたきぎにてやくすみぞめのころもきよきみ K156
君がすむやどのこずへをゆくゆくと隠るるまでにかへりみるかな K157
えきちやうおどろくことなかれときのへんがいなり。ひと−たびはさかへひと−たびはをとろふこれ春と秋となり。K158
ゆふぐれは野にも山にもたつけぶりおもひよりこそもへ−はじめけれ K159
こちふかばにほひをこせよ梅の花あるじなしとて春なわすれそ K160
おんしのぎよいはいまここにあり。ささげ−もちてひねもすによかうをはいす。K161
海ならずたたふる水の淵までに清き心は月ぞてらさん K162
雨のしたかわける程のなければやきてしぬれぎぬひるよしもなき K163
造るとも又もやけなんすがわらやむねのいたまのあわぬかぎりは K164
かもんひと−たびおほひていくばくのふうえんぞ。ふうげつなげ−うててきたりてきうじふねん。K165
たちまちにてうしにおどろきてけいきよくをはらふに、くわんほんたかくくははりてはいかんなる。
じんおんのすいくつにくだることをよろこぶといへども、ただしそんしてもぼつしてもさせんのなをはづ。K166
きのふはほくけつにおもんみらるるしとさうらふ、けふはせいとにはぢをきよむるかばねとなる。
いきてのうらみししてのよろこびわれをいかん、いまはすべからくのぞみたりぬくわうきをまもりたてまつらむ。K167
なさけ−なくきるひとつらし春くればあるじわすれぬやどのむめがへ K168
これかさはをとにききつる春−ごとにあるじを忍ぶやどの梅がへ K169
おもひ−いでよなき名のたつはうき事とあらひとがみとなりしむかしを K170
ちはやぶる神にまかせて心みむなき名のたねはをひやいづると K171
世の−中のうさには神もなき物を心づくしになに祈るらん K172
ちはやぶるほこのみさきにかけ給へなき名ををする人の命を K173
いかにしてふじのたかねにひとよねて雲の上なる月をながめん K174
あづさゆみつひにはづれぬものなれば無きひとかずにかねて入るかな K175
をれ−ちがふみぎわのあしをくもでにてこほりをわたすぬまのうきはし K176
月をみしこぞのこよひのとものみや都に我をおもひ−いづらむ K177
恋しとよこぞのこよひのよもすがら月見しとものおもひ−いでられて K178
君すめば是もくもゐの月なれどなほこひしきはみやこなりけり K179
名にしをふ秋のなかばもすぎぬべしいつより露の霜にかはらむ K180
うち−とけてねられざりけりかぢまくらこよひぞ月のゆくへみむとて K181
さりともと思ふ心も虫の−ねもよわり−はてぬる秋のゆふぐれ K182
都なるここのへの内こひしくはやなぎのごしよを春よりてみよ K183
みるたびに心づくしの神なればうさにぞかへすもとのやしろへ K184
白さひて赤たなごひにとり−かへてかしらに巻けるこ−にふだうかな K185
とへかしななさけは人のためならずうきわれとてもこころやはなき K186
うぢがはを水つけにしてかき−わたる木曽のごれうはくらう−はうぐわん K187
でんぱくのつくりものみなかりくひて木曽のごれうはたへ−はてにけり K188
名にたかき木曽のごれうはこぼれにきよしなかなかに犬にくれなむ K189
けふまでもあればあるとやおもふらむゆめのうちにもゆめをみるかな K190
人−しれずそなたを忍ぶこころをばかたぶく月にたぐへてぞやる K191
むかしよりとり−つたへたるあづさゆみひかでは人のかへるものかは K192
こち−なくもみゆるものかはさくらがり
いけどりとらむためとをもへば K193
わがこひはほそたにがはのまろきばしふみ−かへされてぬるる袖かな K194
ふみ−かえす谷のうきはしうき−よぞとおもひ−しりてもぬるる袖かな K195
只たのめほそたにがはのまろきばしふみ−かへしてはおちざらむやは K196
谷水の下にながれてまろきばしふみみてのちぞくやしかりける K197
いづくともしらぬなぎさのもしをぐさかき−をくあとをかたみとはみよ K198
なみだ河うき名を流す身なれども今ひとしをのあふせともがな K199
君ゆへにわれもうき名を流せども底のみくづと共にならばや K200
あふことも露の−命ももろともにこよひばかりやかぎりなるらむ K201
かぎりとてたち−わかれなば露の−身の君より先にきえぬべきかな K202
あづまぢやはにふの小屋のいぶせさにいかにふるさとこひしかるらん K203
ふるさともこひしくもなし旅の−空いづくもつひのすみかならねば K204
世をいとひじやうどをねがふすみぞめのさすがにぬるる袖のうへかな K205
うらめしやいつか忘れむなみだがは袖のしがらみくちははつとも K206
そるまではうらみし物をあづさ弓誠の道にいるぞうれしき K207
そるとてもなにかうらみむあづさ弓ひき−とどむべき心ならねば K208
こひしなば世のはかなきにいひ−なしてなきあとまでも人にしらすな」K209
くれたけのもとはあふよもしげかりきすゑこそふしはとほざかり−ゆけ K210
つねになき浮世の中にさき−そめてとまらぬ花やわが−みなるらむ K211
昔より風にしられぬともしびの光にはるる長き夜の夢 K212
すみ−なれし都のかたはよそながら袖になみこすいその松風 K213
今ぞしるみもすそ川のながれには浪のしたにも都ありとは」K214
ながむればぬるるたもとにやどりけり月よくもゐのものがたり−せよ K215
雲の上にみしにかわらぬ月かげはすむにつけても物ぞかなしき K216
我−らこそあかしの浦にたびね−せめをなじ水にもやどる月かな K217
名にしほふ明石の浦の月なれど都よりなほくもる袖かな K218
やくもたついづもやへがきつまごめてやへがきつくるそのやへがきを K219
なげき−こしみちのつゆにもまさりけりふるさとこふるそでのなみだは K220
たにふかきいほりは人目ばかりにてげには心のすまぬなりけり K221
ほととぎすはなたちばなのかをとめてなくは昔の人やこひしき K222
あまた−たびゆき−あふさかのせきみづをけふをかぎりの影ぞかなしき K223
かがみやまいざたち−よりて見てゆかんとしへたる身はおいやしたると K224
ぬぎ−かふるころももいまはなにかせん是をかぎりのかたみともへば K225
返り−こむ事はかただにひくあみの目にもたまらぬ涙なりけり K226
里とをみたがとひ−くらむならの−葉のそよぐは鹿の渡るなりけり K227
いふなら−くならくの−底にをちぬればせつりもしゆだもかわらざりけり K228
池水に岸のあをやぎちり−しきて波の−花こそさかりなりけれ K229
世の−中はとても−かくても有ぬべし宮もわら屋もはてしなければ K230
あしたにこうがんあつてせろにほこれども、ゆふべにはくこつとなつてかうげんにくちぬ。 K231
ねんねんせいせいはなあひ−にたり、せいせいねんねんひとおなじからず。 K232
せいがはるかにきこゆこうんのうへ、しやうじゆらいかう−すらくじつのまへ。
さうあんひとなくしてやまひをたすけてふす、かうろひありてにしにむかひてねぶる。 K233
雲の上にほのかにがくのこゑすなり人にとはばやそらみみかそも K234
かわくまもなきすみぞめのすがたかなこはたらちめのそでのしづくか K235
きえがたのかうのけぶりのいつまでとたち−めぐるべきこの−よならねば K236
おもひきやみやまの奥にすまひ−してくもゐの月をよそにみむとは K237
いにしへのならの−都のやへざくらけふここのへにうつりつるかな K238
打−しめりあやめぞかをるほととぎすなくやさつきの雨のゆふぐれ K239
ひさかたの月のかつらも秋はなをもみぢ−すればやてり−まされらん K240
まつひとも今はきたらばいかがせむふまま−くをしき庭のしらゆき K241
いざさらば涙くらべむほととぎすわれもつきせぬうきねをぞなく K242
こちふかばにほひをこせよ梅の花あるじなしとて春なわすれそ K243
いにし−としのこよひはせいりやうにはべりき、あきのおもひのしへんひとりはらわたをたつ。K244
せいさんのむかしみるになほはなうるはし、はくしゆのいまかへるになんぞしよりとならむ。K245
末の露もとのしづくやよの−なかのおくれ−さき−だつためしなるらむ K246
いにしへはくま−なき月とおもひしに光りをとろふみやまべのさと K247