「やなぎ」の川柳

                        

菊池眞一

『柳屋』第二十六号(川柳の巻)一頁に、廃姓外骨の
やなぎ
と題する文章が載っている。特集にあわせ、「柳」を詠んだ川柳に略注をつけたもの。
単行本に収録されているのかどうか、調べていない。
以下、引用。


   やなぎ
              廃姓外骨


 葉柳の七本茂る浄土道
 柳とは云ふもの実は桜なり
 桃桜中も柳の両隣り
などいふ難解の古川柳研究に没頭して居るところへ、柳屋主人より「川柳の巻」を発行するから、何でも川柳の事を書いた原稿を送れとの通告、雪折れのない柳屋が川柳の巻を出すとは、其因縁浅からずとて、こゝに柳に関する川柳に略解を附けて見る事にした。
抑も川柳とは柄井無名庵の号である、其号に因んで撰句集を柳樽と題し、誹諧的短句を川柳点、又は川柳風狂句合と称したのがモトで十七文字の滑稽的韻文を川柳と呼ぶ事に成つたのである、それで其後同流派の撰句集にも
 川そへ柳、芽出し柳、二葉柳、眉玉柳、和哥柳、しげり柳、ことたま柳、清水柳、さし柳、梅柳、柳の葉末、柳の緑、柳の栞、柳の枝、柳の小枝、柳の丈競べ、柳の栄、柳の露、柳の翠、柳蔭、
など、柳づくしの外題を附けたのが多い、又柳樽が巨魁であるので、これに擬した新柳樽、新々柳樽、新編柳樽、新撰柳樽、絵本柳樽、開化新柳樽など云ふのが百数十冊ある。
 柳樽池の汀で開くなり
版元書肆花屋久次郎が江戸上野不忍池畔に居た故の句である。
 柳樽下女読んで見て腹を立ち
其のアラをさらけ出された句が多いから
 洗ひ髮風に柳の風情なり
 餅の丸薬を柳へ嫁はつけ
 一葉つゝきたなびれずに散る柳
 青柳は編笠ほどの日を通し
 幽霊も手持無沙汰な枯れ柳
 葺きかゝる屋根屋柳を結びあげ
 今日きりの屋根屋柳を解いて行き
などは註解にも及ぶまい
 五日目に柳の動くおだやかさ
五風十雨の順調をいふ
 つめりたい柳を包む緋の袴
官女の細腰をいふ、尚此類句が多い
 南枝にも北枝にも成る柳腰
いづれへでも向く尤物
 聟えらみするうち柳、臼に成り
一抱あれど柳は柳かなの句はあれど
 仲の町さくらにまけぬ柳こし
江戸吉原遊女の八文字道中
 蛙さへ飛びつきそうな柳こし
小野道風の故事にかけた狂句
 風に身たまかす柳の一ト構へ
京島原出口の柳、江戸吉原の見返り柳「出口のかんばん誰にもなびき候」
 人の花売る目印にも柳植ゑ
「こんな腰ありと出口に植て置き」と同義
 首尾の松あれば不首尾の柳あり
「持てた奴ばかり見返る柳なり」の柳
 名にも似ぬ松のふりよき柳島
白蛇の柳、江戸柳島妙見社内
 柳橋蒲団を川へほうり込み
 上げ汐でお仕合せだと柳橋
吉原通ひ、柳橋から山谷堀行の猪牙舟
 柳原幕がおそいと石を投げ
夜鷹の前客に対する催促
 柳原夜ルもばくもの売る所
昼はイカサマの古着古道具
 蛇柳と知らずに帰る高野山
 蛇柳の外に柳はなき高野
紀州金剛峰寺の畏ろしい伝説つき名物
 猫の爪研ぐ音にあく柳行李
バリバリの形容
 お局は柳桜をこきつかひ
御殿女中が柳清香、桜香を化粧用に
 あはれなる柳、猿沢、隅田川
奈良と江戸、采女の衣かけ柳、梅若塚の柳、
 柳と娘こきまぜる楊枝店
明和の江戸三美人、笠森お仙、蔦屋お芳と共に艷名を鳴らした浅草楊子店柳屋仁平次の娘お藤、其お藤の愛嬌で店の大繁昌
柳屋の雑誌「川柳の巻」に、柳屋の評判娘が川柳に詠まれた秀逸の句をシンガリとは、さても芽出度し芽出度し。
(『柳屋』第二十六号一頁。大正13年11月25日)






2016年3月17日公開

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