自慢高慢も芸術の内

                        

菊池眞一

『美術と文芸』第十号一〇頁(大正6年11月30日)に、宮武外骨の
自慢高慢も芸術の内
という文章が載っている。
単行本随筆集に入っているのかどうか、調べていないが、面白いのでここに掲載する。
以下、引用。


  ●自慢高慢も芸術の内
                  宮武外骨
 我日本を錦絵の国とまで呼んで、日本の浮世絵を蒐集し、珍重し、研究して居る西洋人の間にもなかつた浮世絵専門の雑誌を発行して大いに浮世絵鼓吹の筆を執つた開祖は抑も誰であるか、それは斯く云ふ宮武外骨先醒といふ先覚者である、今は二三種の専門難誌も出来て居るが、予が「此花」を発行した当時には、今日ほど浮世絵の流行が盛んでなく、随つて雑誌も思はしく売れなかつた、それで廃刊の際、多くの合本を拵へたが、全部揃ひの四冊を一円に買つて呉れる人もなかつたので安売りして了つた、それが今では定価の倍額以上たる十円内外に売買されて居る、これを見ると、予の事業は失敗であつた様だが、其実は成功であつたと今頃は嬉しく思つて居る。
 然し予が浮世絵を皷吹したのは、風俗資料としての価値を主としたのであつたが、今の人々は美術として愛重するのが多いやうであつて、其間に逕庭があるかにも見へるが、又静かに考へて見ると、その美術として愛重する中には、版画の妙趣たる彫刻とスリとの両技を認める外に、他派の絵画に於て見る事の出来ない時代の風俗を偲ぶ点があるからであらう、さなくば予が編輯した『此花』が咋今高価に売買されて珍重がられる筈はないと思ふ、と我田引水の論法で自ら慰めて居る。
(『美術と文芸』第十号一〇頁。大正6年11月30日)






2016年3月17日公開

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