「どどいつ」の世界
菊池眞一

1.「どどいつ」とは?
・江戸時代後半の天保頃、江戸の寄席音曲師・都々逸坊扇歌が完成させた俗謡の一。
・「七七七五」の形式を基本とする。
・幕末から明治にかけて大流行した。
・江戸時代には、「七七七五」の形式の様々な俗謡が行われたが、明治時代以降は、「七七七五」の形式であれば、即「どどいつ」というようになった。節をつけて歌うことよりも、七七七五の形式での詩(文学)を作ることの方が多くなった。(歌謡から文学へ)
・男女間の恋愛感情を詠みこむことが多い。
・都々逸・都都逸・都々一・都々いつ・都々ゐつ・都都一・度々逸・度々一・度度一・度独逸・度止逸・都度逸・都度一・都々いつ・都ゞいつ・都といつ・百々逸・百々一・土渡逸・どど逸・どゞ逸・どゝ逸・どど一・どゞ一・どゝ一・どゝ一ツ・とゝ一・とゞ一・どどいつ・どゝいつ・どゞいつ・とゝいつ・どゝゐつ・轟逸・轟一・情歌・俚謡正調・俚謡・街歌


2.「どどいつ」を聞く

石川さゆり「恋は天下のまわりもの」
美空ひばり「車屋さん」@−10
美空ひばり「都々逸」A−9
柳家三亀松「都々逸」B−1
柳家小菊「都々逸」C−7
檜山うめ吉「都々逸」D−9

3.代表的な「どどいつ」
・あきらめましたよどうあきらめたあきらめきれぬとあきらめた(『守貞漫稿』は扇歌作とする)
・こうしてこうすりゃこうなるものと知りつつこうしてこうなった(伝・都々逸坊扇歌作)
・九尺二間に過ぎたるものは紅のついたる火吹竹(伝・河合継之助作)
・三千世界の烏を殺し主と朝寝がしてみたい(伝・高杉晋作作)
・戀といふ字を砕て見れば糸し糸しと言心(公川)(『袖みやげ 弐編』慶応元年刊か)
・惚れて通えば千里も一里逢えで帰ればまた千里(作者不明)
・ざんぎり頭を叩いてみれば文明開化の音がする(作者不明。明治四年)


4.有名人の作った「どどいつ」
声曲文芸研究会編『佳調都々逸集』(明治43年)による。
俗説・伝説によるもので、余り信じない方がよいかと思われる。
・井戸の蛙とそしらばそしれ花も散り込む月も見る(頼山陽)
・朝顔が便りし竹にも振離されて俯向(うつむき)や涙の露が散る(頼山陽)
・お月様さへ泥田の水に落ちて行く世の浮沈み(頼山陽)
・龍田芳野も見る人なけりや花も紅葉も谷の塵(頼山陽)
・九尺二間に過ぎたるものは紅のついたる火吹竹(頼山陽)
・四海波でも切れる時や切れる口約束でも二世三世(河合継之助)
・欄干(てすり)にもたれて化粧の水を何処に捨てうか虫の声(小松帯刀)
・雪の肌(はだえ)に氷の刃(やいば)露の命の捨てどころ(小松帯刀)
・嘘も実(まこと)も売るのが勤め其処(そこ)で買い手の上手下手(小松帯刀)
・龍田川無理に渡れば紅葉が散るし渡らにや聞かれぬ鹿の声(高杉晋作)
・三千世界の鴉を殺し主と朝寝がして見たい(高杉晋作)
・何をくよくよ河端柳水の流れを見て暮らす(高杉晋作)
・苦労する身は何厭はねど苦労仕甲斐のあるやうに(高杉晋作)
・花は桜に人は武士と言ふたお方の顔見たい(品川弥二郎)
・末は袂をしぼると知れど濡れて見たさの夏の雨(陸奥宗光)
・私一人で舞子の浜で波や千鳥を見て暮らす(伊藤博文)
・たとへ野立(のだち)の一重の梅も力づくでは開きやせぬ(某氏)
・意気な世間に生れたからは粋な人ぢやと言はれたい(某公)


5.「どどいつ」形式の名文句
・立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花
・声はすれども姿は見えずほんにお前は屁のような
・二度と行くまい丹後の宮津縞の財布が空になる(「宮津節」)
・烏なぜなく烏は山に可愛い七つの子があれば(野口雨情「山烏」)


6.「どどいつ」形式の歌謡曲
(「名月赤城山」昭和14年。東海林太郎)
(「大利根月夜」昭和14年。田端義夫)
(「明日はお立ちか」昭和14年。小唄勝太郎)
(「リンゴの歌」昭和21年。並木路子)
(「東京の花売娘」昭和21年。岡晴夫)
(「星の流れに」昭和22年。菊池章子)
(「異国の丘」昭和23年。竹山逸郎)
(「越後獅子の唄」小夜半25年。美空ひばり)
(「伊豆の佐太郎」昭和27年。高田浩吉)
(「落葉しぐれ」昭和28年。三浦洸一)
(「お富さん」昭和29年。春日八郎)
(「おんな船頭唄」昭和30年。三橋美智也)
(「高原の宿」昭和30年。林伊佐緒)
(「ガード下の靴みがき」昭和30年。宮城まり子)
(「ハンドル人生」昭和30年。若原一郎)
(「港町十三番地」昭和30年。美空ひばり)
(「銀座の蝶」昭和33年。大津美子)
(「僕は泣いちっち」昭和34年。守屋浩)
(「再会」昭和35年。松尾和子)
(「長崎の女」昭和38年。春日八郎)
(「高校三年生」昭和38年。舟木一夫)
(「アンコ椿は恋の花」昭和39年。都はるみ)
(「柔」昭和40年。美空ひばり)
(「兄弟仁義」昭和40年。北島三郎)
(「いっぽんどっこの唄」昭和41年。水前寺清子)
(「命かれても」昭和42年。森進一)
(「一度だけなら」昭和45年。野村真樹)
(「花街の母」昭和48年。昭和54年再発売。金田たつえ)
(「みちのくひとり旅」昭和55年。山本譲二)
(「兄弟船」昭和58年。鳥羽一郎)
(「細雪」昭和58年。五木ひろし)


7.「どどいつ」の分類
@中道風迅洞『どどいつ万葉集』(1992年。徳間書店)

A飯島一彦『都々逸を知る 実践講座 教材四』(発行年不明。東洋文化学院)


8.「どどいつ」研究
@石田龍蔵『都々逸の研究』(大正10年。如蘭社)

A西沢爽『日本近代歌謡史』(平成2年。桜楓社)


9.「どどいつ」本のさまざま

いろはどどいつ
いろは尻取りどどいつ
文句入りどどいつ(新内・常磐津・長唄・一中節・端唄・大津絵節・富本・清元・義太夫・歌舞伎台詞・漢詩)
辻占どどいつ
開化どどいつ


10.落語と「どどいつ」

★林家小染「ためし酒」
・お酒飲む人花ならつぼみ今日もさけさけ明日もさけ
★桂文太「居残り左平次」
・酔うたよたよた手酌で飲んで主と飲んだらなおよかろ
★笑福亭鶴二「寝床」
・目から火の出る所帯をしても火事さえ出さなきゃ水いらず
★桂まん我「胴斬り」
・あかえりさんでは年季が長い婀娜な年増にゃ密夫がある
★林家染左「借家借り」
・竹ならば割ってみせたい私の心先へ届かぬこの思い
・これほど思うにもしそわれずばいつも宝のもちぐされ
★林家卯三郎「時うどん」
・さぞやさぞさぞやさぞさぞさぞ今ごろはしらみも質屋でひもじかろ
★林家小染「ためし酒」
・明の鐘ゴンとなる時や三日月形の櫛の落ちてる四畳半
★桂都んぼ「替り目」
・目から火の出る所帯はしても火事さえ出さねば水いらず
★林家染左「応挙の幽霊」
・水の川さえ棹さしゃ届く何故に届かぬこの思い
★桂米二「替り目」
・縁は異なもの又味なもの独活が刺し身の爪となる
・去年の今夜は知らない同士今年の今夜はうちの人

その他、
菊池真一「落語と都々逸」(『甲南国文』第52号。平成17年3月)
http://www.j-texts.com/dodo/rakudodo.html


11.参考

参考文献
中道風迅洞
『新編どどいつ入門』
出版社名 三五館
発行年月 2005年12月
価格(税込)1,680円

参考サイト
「しぐれ歌会」
http://www007.upp.so-net.ne.jp/wakazo/shigure.html

参考番組
NHKラジオ文芸選評「おりこみどどいつ」
毎月第二土曜日午前11時台ラジオ第1放送
中道風迅洞担当

参考資料
菊池真一研究室
「都々逸(どどいつ)研究」
http://www.kikuchi2.com/dodo/index.html





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