承久記

凡例 

使用テキスト 
『平家物語 全 付承久記』(古谷知新編 国民文庫刊行会)(明治44年) 翻刻
承久記には、刻本の他に異本とも見るべき古写本があり、古写本は、刻本に比べて事実がやや詳細です。
本書は、古写本を採り、帝国図書館にある元和四年の版本と、帝国大学図書館所蔵の版本にて、校訂しています。

1. この本は、数字(の一部)と『見出し』と宣旨等以外、総ルビ付きですので、
ルビの振っていない数字は漢字のまま(基本的に旧漢字)、
その他はすべてひらがなで入力しました。
2.繰り返しの文字は、ひらがなに、置き換えました。
3.同じ語句でも、箇所によって、読みの違う物がありますが、そのままにしました。
   例:申す(まうす、まをす)、 弟(おとうと、おとと)
4.明らかな、誤植のみ、訂正しました。
例:小櫻(こくざら→こざくら) P608L2、
  後白河(ごしはかは→ごしらかは)P615L15
 太郎(たたう→たらう) P621L8
5.『見出し』の後に番号を付けました。上 01〜15,下16〜37
6.行毎に改行しています。

後日、歴史的仮名遣いによる、総ひらがな、区切り記号付きを公開予定です。

2000.6.29 荒山


承久記 

上巻 P603

後鳥羽の院の事 01
にんわう八十二だいのみかどをば、おきのほうわうともまうすなり。けんとくゐんともがうしたてまつる。のちにはごとばのゐんとまをしけり。おんいみな
はたかなり、たかくらのゐんのだい四のみこ、ごしらかはのゐんのおんむまごなり。おんははは七でうのゐん、しやう三ゐふぢはらののぶたかのきやうのむすめな
り。ぢしよう四ねんかのえね七ぐわつ十四かにごたんじやう、じゆえい二ねんみづのとのう八ぐわつ廿か、おんとし四さいにてごしらかはのほうわうのめいに
よつて、ごせんそあり。げんりやくぐわんねんきのえたつ七ぐわつ廿八にち、五さいにしてだいじやうくわんのだうにてごそくゐあり。ござい
ゐ十五ねんがあひだ、げいのうふたつをまなびおはします。けんきう九ねんつちのえうましやうぐわつふつかおんくらゐをおりさせたまうて、だい一
のみこにゆづりたまふ。つちみかどのいんこれなり。それよりこのかた、あやしのものにおんかたをならべ、いやしきげじ
よをちかづけさせたまふおんこともあり。けんわうせいしゆのみちをもおんまなびありけり。またゆみをいてよきつはものをもめしつかはばや
と、えいりよをめぐらし、ぶゆうのものをおんたづねありしかば、くにぐによりすすみまゐりけり。しからはのゐんのぎように、P604
ほくめんといふものを、はじめさせたまうて、さぶらひをぎよくたいにちかづけさせたまふおんことありき。またこのおんときより、さいめんと
いふことをはじめらる。はやわざすゐれんにいたるまで、えんげんをきはめまします。ゆみとつてよからむゆうし、十にんまゐら
せよと、くわんとうに、おほせければ、ひたちのちくごの六らう、とほたふみのはらのや三らう、かにまののじらうざゑもんときつぐをはじ
めとして、ぶし六にんをまゐらす。すまふのじやうず、おなじくまいらせよとおほせられければ、そのころをかべのぎすけ五らう、
いぬたけのこたらういへみつ二にんまゐりけるを、ぎすけをばさうして、くわんとうにとどめ、いぬたけのこたらうをまゐらせけ
り。かくて十三ねんをへて、しようげん四ねんかのえうま十一ぐわつ廿五にちに、一のみこみくらゐをおろしたてまつり、だい二のみこ
を、みくらゐにたてまゐらせたまふ。じゆんとくゐんこれなり。これたうぷくごちようあいによつてなり。そののち十一ねんをへて、じようきう
三ねん四ぐわつ廿か、またみくらゐをおろしたてまつりて、しんゐんのみこにゆづりたてまつりたまふ。これによつてしんゐんとも、ほうわうの
おんなかごふくわいなり。ございゐ四ケげつにおよばずして、みくらゐごほりかはのゐんにまゐりて、わうぱふつきはてさせたまひ、にん
しんよにそむきしゆゑを、いかにとたづぬるに、ぢとうりやうけ、さうろんのゆゑとぞきこえける。じやうこには、ぢとうといふこと
なかりしを、ここかまくらのうだいしやうよりとものきやう、へいけをほろばしけるけんしやうに、ぶんぢぐわんねんのふゆのころ、につぽんごくのそうつゐふし
になりたまふ。そののちけんきう三ねん七ぐわつに、せいいたいしやうぐんにふしたまふゆゑに、くにぐににしゆごをおき、ぐんがうにぢとうを
すゑ、すでに五しようづつのひやうらうまいをあてとる。これによつて、りやうけはぢとうをそねみ、ぢとうはりやうけをかろめけり。

頼家實朝昇進並薨去の事 02

P605
よりともは、いづのくにのるにんたりしが、へいけつゐたうのゐんぜんをかうぶりて、ぢしよう四ねんのあきのころ、むほんをおこして、六
ケねんのあひだ、てんがやすからず。げんりやく二ねんのはるなつのころ、へいけをほろぼしはて、せいひつにしよくすること十三ねん、よを
とること十九ねんなり。廿ねんとまをすしやうぢぐわんねんしやうぐわつ十三にちに、五十三さいにして、しゆつしたまふ。そのおんこさゑもん
のかみよりいへ、よをつぎたまふ。おんはははじゆ二ゐまさこ、とほたふみのかみたひらのときまさのむすめなり。わらはなは十まんどのとがうす。けんきう
八ねん十二ぐわつ十五にちに、じゆ五ゐじやうにじよし、おなじきひうせうしやうになりたまふ。おんとし十六さいなり。おなじき九ねんしやう
ぐわつ卅にち、さぬきのごんのすけににんじたまふ。おなじき十一ぐわつ廿八にち、しやう五ゐげにじよす。おなじき十ねんかいげんあつて、しやうぢ
とがうす。しやうぐわつ廿か、さちうじやうにてんず。おんとし十八さいなり。おなじき廿六にちに、しよこくのことをぶぎやうすべきよし、せん
げしたまふ。しやうぢ二ねんしやうぐわつ五か、じゆ四ゐじやうにじよし、おなじき八か、きんじきをゆるさる。おなじき十ぐわつ廿六にち、じゆ
三ゐにじよし、さゑもんのかみににんじたまふ。おんとし十九さいなり。おなじき七ぐわつ廿二にち、じゆ二ゐにじよし、おなじくせいい
たいしやうぐんたり。おなじき三ねん七ぐわつ廿七にち、やまふをうけたまふあひだ、おなじき八ぐわつ廿七にちにおんあとを、ちやうし一まん
どのにゆずりたまふ。おんとし六さいなり。おなじき九ぐわつ七かしゆつけしたまふ。おなじき廿九にちに、いづのくにしゆぜんじにうつり
たまふ。このしやうぐんよをしりたまふこと、しようぢぐわんねんより、けんにん三ねんにいたる、そのあひだ五ケねんなり。二だいのしやうぐんとして、
よをつぎたまふといへども、ふてうふるまひをしたまひしかば、しんりよにもはなされ、じんばうにもそむくゆゑに、わづかに五か
ねんがうちに、けんきうぐわんねん七ぐわつ十九にち、おほぢとほたふみのかみときまさがために、ほろぼされたまひけり。おんとし廿三さいなり。こ
こにおんおとうとまんじゆごぜん、いまだえうどうにて、ちやうきやうのおんあとをつぎたまふ。けんにん三ねん九ぐわつ七かに、おんとしP606
十二さいにてじゆ五ゐにじよし、おなじきひ、せいいたいしやうぐんのせんじをくださる。おなじきとし十ぐわつ廿四かに、うひやうゑのすけ
ににんじたまふ。おんとし十三にて、ごげんぷくあり、うひやうゑのごんのすけさねともとまをしき。おなじき四ねんかいげんありて、げんきう
といふ。しやうぐわつ五かじゆ五ゐじやうにじよし、げんきう二ねんしやうぐわつ五か、しやう五ゐげにじよしたまふ。おなじき廿九にち、う
ちうじやうけんかがのすけににんず。おなじき三ねん、かいげんありて、けんえいとがうす。二ぐわつ廿二にち、じゆ四ゐげにじよす。二ねんに
かいげんあつて、しようげんといふ。しやうぐわつ五か、じゆ四ゐじやうにじよす。しようげん二ねん十二ぐわつ九か、しやう四ゐげにじよす。おな
じき三ねん四ぐわつ十か、じゆ三ゐにじよし、おなじき五ぐわつ廿六にち、うちうじやうにふくにんす。おなじき五ねんかいげんあつて、
けんりやくとがうす。しやうぐわつ五か、しやう三ゐにじよし、おなじき十八にち、みまさかのごんのかみににんず。けんりやく二ねん十二ぐわつ十
か、じゆ二ゐにじよし、おなじき三ねんかいげんあつて、けんぱうといふ。二ぐわつ廿七にち、しやう二ゐにじよし、おなじき四ねん六
ぐわつ廿か、ごんちうなごんににんず。ちうじやうもとのごとく、ずゐしん四にんをたまふ。おんとし廿四さいなり。おなじき六ねんしやうぐわつ十
三にち、ごんだいなごんににんじ、おなじき三ぐわつ六か、さだいしやうににんず。みちいへのきやうのあとなり。おなじきひ、さまれうのしやう
げんたり。おなじき十ぐわつ九か、ないだいじんににんず。たいしやうもとのごとく、おなじき十二ぐわつ二か、うだいじんににんじたまふ。たい
しやうもとのごとし。これきんふさこうのあとなり。おなじき七ねん四ぐわつ十二にち、かいげんあつて、じようきうとがうす。しやうぐわつにだいきやう
おこなはるべしとて、そんじやのために、ばうもんのだいなごんただのぶきやうを、くわんとうに、てうしやうすべきよしとのきこえあり。
このことくげせんぎありけるに、あぜちのちうなごんみつちかきやう、まをされけるは、そもそもれいをわうだいにたづぬるにおよばず、
さねともがしんぷよりとも、うだいしやうはいにんは、すなはちしやうらくをうけ、きやくしきのごとし、なんぞさねともじいうに、そのみくわんとうにありP607
ながら、けつくけいしやうを、へんしうのさかひにくだして、はいがをすべしや、百くわんをとていにさだめられてよりこのかた、
いまだかかるれいをきかずとまをされければ、そのときのせつしやうは、ごきやうごくどのにてましましけるが、おほせられける
は、みつちかきやうのいけん、でうでうそのいはれあり、ただしなにとも、たださねともがまうすままにおんゆるしあるべしとおぼゆ、きう
きをみだりきやくしきにゐせば、くわんしよくは、わたくしにあらず、しんりよもはからひあるべしと、おほせありければ、おのおのこのぎに
どうじたまひけり。おなじきしやうぐわつ廿七にち、しやうぐんけ、うだいしやうはいがのために、つるがをかの八まんぐうへ、ごしやさんあり、
とりのこくにおんいでありけるに、まづうしかひ四にん、つぎにとねり四にん、つぎに一ゐんしやうそうす。かののかげもり、
ふしやうこまのもりみつ、しやうげんなかはらのなりよしいげ、そくたいなり。つぎにでんじやうびとには、一でうのじじうよしうぢ、
とうひやうゑのすけよりつね、いよのせうじやうさねまさ、うまのごんのかみよりのりのあそん、ちうぐうごんのすけのぶよしのあそん、ずゐしん
四にんなり。一でうのたいふよりうぢ、一でうのせうしやうよしふさ、さきのいなばのかみもろのりのあそん、いがのせうしやうたかつねの
あそん、もんじやうはかせなかのりのあそんなり。つぎにぜんくとうこうたうよりかた、へいこうとうときもり、さきのするがのかみすゑとき、
さこんのたいふともちか、さがみのごんのかみさねさだ、くらうどのたいふもとくに、うまのすけゆきみつ、くらんどのたいふくにただ、
うこんのたいふときひろ、さきのはうきのかみちかとき、さきのむさしのかみよしうぢ、さがみのかみときふさ、くらうどのたいふしげつな、さまのごんのすけの
りとし、うまのごんのすけむねやす、むさしのかみちかひろ、しゆりのごんのだいぶこれよしのあそん、うきやうのごんのだいぶよしと

きのあそん、つぎ
にくわんじんはたのかねみつ、ばんのおさかげののあつひで、つぎにみくるま、おなじくくるまぞひ四にん、きうたう一にん、つぎ
にずゐひやう二かうなり。をがさはらのじらうびやうゑながきよ、こざくらをどしのよろひをちやくす。たけだの五らうのぶみつ、くろいとをどしのよろひP608
をちやくす。いづのさゑもんのじようよりさだ、もえぎいとをどしのよろひをちやくす。をかきのさゑもんのじようもとゆき、ひをどしのよろひをちやくす。
おほすかのたらうみちのぶ、ふぢをどしのよろひをちやくす。しきぶのたいふやすときは、こざくら(原本こくざら)をどしのよろひをちやくす。あきたじやうのすけかげもり、くろいとをどしの
よろひをちやくす。三うらのこたらうときむら、もえぎいとをどしのよろひをちやくす。かはごえのじらうしげとき、ひをどしのよろひをちやくす。おきのじらうか
げかず、ふぢをどしのよろひをちやくす。つぎにざふしき廿にん、つぎにけびゐしのたいふはうぐわんかげかど、そくたいさやまきのたちな
り。つぎにおてうどかけ、ささきの五らうさゑもんのじようよしきよ、つぎにけかう、みずゐしんはたのきんうぢ、おなじくかねむら、
はりまのさだぶん、なかとみのちかとほ、かげののあつみつ、おなじくあつうぢ、つぎにくげには、しんだいなごん
ただのぶ、さゑもんのかみさねうぢ、さいしやうちうじやうくにみち、八でう三ゐみつもり、ぎやうぶきやう三ゐむねながおのおののりくるまなり。つぎ
にさゑもんのたいふみつかず、おきのかみゆきむら、みんぶのたいふひろつな、いきのかみきよしげ、せきのさゑもんのじようま
さつな、ふせのさゑもんのじようやすさだ、をのでらのさゑもんのじようひでみち、いがのさゑもんのじようみつすゑ、あまののさゑもんのじようまさ
かげ、むとうさゑもんのじようよりのり、いとうさゑもんのじようすけとき、あだちのさゑもんのじようもとはる、いちかはのさゑもんのじようす
けみつ、うさみのさゑもんのじようすけまさ、さぬきのさゑもんのじようひろつな、ごとうのさゑもんのじようもとつな、そうのさゑ
もんのじようたかちか、ちうでうのさゑもんのじよういへなが、さぬきのさゑもんのじようまさひろ、みなもとのげん四らううゑもんのじようひでうぢ、しほのや
のひやうゑのじようともなり、くないのひやうゑのじようきんうぢ、わかさのひやうゑのじやうただひで、つなしまのひやうゑのじようとしひさ、とうのひやうゑの
じようしげたね、つちやのひやうゑのじようむねなが、さかひのひやうゑのじようつねひで、かりのの七らうみつひろとうなり。ろじのずゐひやう一千よきなり。
みやでらのろうもんにいらしめたまふとき、うきやうのだいぶよしとき、にはかにしんしんゐれいのことありて、ぎよけんをなかのりのあそんP609
にゆづりて、まかりさりたまふ。じんぐうじごはいたつののちにおいて、こまちのごていにかへらしめたまふ。やいんに
およびて、じんはいことをはつて、やうやうまかりいでんとするところに、いづくよりともなきに、にようばうなかのけは
のはしのほとりより、うすぎぬきたるが、二三にんほどはしるともみえし、いつしかよりけん、いしばしのあひだにうかがひきた
りて、うすぎぬうちのけ、ほそみのたちをぬくとぞみえし、うだいじんどのをきりたてまつる。一のたちをばしやくにてあはさ
せたまふ。つぎのたちにて、きられふさせたまひぬ。ひろもとやあるとぞおほせられける。つぎのたちにもんじやうはかせき
られぬ。つぎのたちにはうきのかみもりのりきられ、きずをかうぶつてつぐのひしす。これをみて一どうに、あとばかりをの
のきけり。ぐぶのくぎやうでんじやうびとはさておきぬ。つじつじのずゐひやう、しよしよのかがりび、とうざいにあわて、なんぼくにち
そうす。そのおとおく千のいかづちのごとし。そののちずゐひやう、きうちうにはせかはとすいへども、しうてきをもとむるにとこ
ろなし。たけだの五らうまつさきにすすめり。あるひとまをしけるは、かみのみやのみぎりにおいて、べつたうこうげうちちのかたきをうつ
のよし、なのられけるとぞまをしける。これによつておのおのくだんのゆきのしたのほんばうに、おそひいたるところに、
かのもんていのあくそうらそのうちにこもつて、あひたたかふのところに、ながをのしん六さだかげ、しそくたらうかげのり、おなじくじらう
たねかげら、さきがけをあらそひけり。ゆうしのおもむきせんぢやうのほふ、まことにもつてびだんたり。つひにあくそうらはい
ぼくす。こうけうは、このところにゐたまはざりければ、ぐんびやうどもむなしくたいさんす。しよにんばうぜんたるほかなし。ここに
こうけうは、かのおんくびをもちて、こうけんのびつちうがしゆくしよにむかはれけり。ゆきのしたのきたたにのたたちせんのあひ
だも、なほてにおんくびをばはなしたまはず。こうけうのたまひけるは、われもつぱらとうくわんのちやうにあたる、はやくP610
けいぎをめぐらすべきよし、しめしあはせられけり。これはよしむらのそくなんこまわかまる、もんていにれつするによつて、そ
のよしみをたのまれしゆゑなり。よしむらこのことをききて、せんくんのおんくわをわすれざるのあひだ、らくるゐすかう、さらにごん
ごにおよばざりけり。すこしさへぎつて、まづばうをくにくわうりんあるべし、おんむかひのひやうしをまゐらすべきのよしをぞまを
しける。ししやまかりさつてのち、またししやをつかはし、くだんのおもむきをうきやうのだいぶにまうされけり。さてもこうけうは、
かくちうしたてまつるべきくはだてをばしりたまはず。さうなくあじやりをちうしたてまつるべきのよしげぢしたまふのあひだ、一ぞく
らをまねきあつめて、ひやうぢやうをこらす。それあじやりといふは、だいぶようにたんぬ、すなほにあらざるなり、
ひとたやすくこれをはからふべからず、すこぶるなんぎたるよし、おのおのあひぎするところに、よしむらはようかんの
きをえらんで、ながをのしん六さだかげうつてたたれけり。さだかげじたいにおよばずざをたつて、くろいとをどしのよろひをちやくし、
さいがのじらうとてだいがうりきのものあり、これらいげらうじう五にんあひぐし、こうけうのざいしよ、びつちうあじやりのいへにおも
むきけり。をりふしこうけうは、よしむらがむかひのつはものえんいんせしむるあひだ、つるがをかのこうめんのみねにのぼつて、よし
むらがいへにいたらんとしたまひけるところに、さだかげととちうにてゆきあひたまひけり。さいがのじらうよつてかか
り、たちまちにこうけうをいだく。たがひにしゆうをあらそふところに、さだかげたちをとつて、こうけうのおんくびをきりたてまつる。
そけんのころものしたに、はらまきをきたまひけり。しやうねん二十さいなり。そもそもこのこうけうとまうすは、うだいしやうよりとものきやう
のおんむまご、きんごしやうぐんよりいへのきやうのおんそくなり。おんはははかもの六らうしげなりのむすめなり。こういんそうじやうのいへにいりて、
いきやうぞうづしゆほふのおんでしなり。わかみやのべつたうあくぜんしのこうとがうす。むざんなりしことどもなり。おんちちよりいへP611
のきやう、おんあとをちやうし一まんどのにゆづりたまふところに、けんにん二ねん九ぐわつに、をぢほうでうたひらのときまさがさたとして、
よしときをたいしやうぐんとして、はつかうせしめ、これをうちたてまつる。このときおんとし六さいなり。をぢひきのはうぐわんふぢはらのよし
かずがらうだう百よにん、ふせぎたたかふといへども、かなはずしておのおのじがいしてけり。これによつてうだいじんどのにおいて
は、しんきやうのおんかたきなれば、こんどかかるむほんをくはだてたまひけり。このほかれんしあり、おなじくべつたうゑいち
んとて、しやうがんほつきやうのむすめのはらのおんこおはします。わらはなをばせんじゆどのとぞまをしける。これをもおなじき
としの十ぐわつ六かにうちたてまつりけり。おなじきおんはらにせんきやうとて、わらはなせんざいどのとぞまをしけるは、じようきう二
ねん四ぐわつ十一にちうたれたまへり。またきそよしなかのむすめのはらに、たけのおんかたとておはします。これはよりつねしやうぐん
のさいしつになりたまふ。さるほどにさだかげは、かのおんくびをもちてかへり、すなはちよしむらうきやうのだいぶのおんていにぢさん
す。ていしゆいであひてそのおんくびをみらる。あんどうのじらうただいへしそくをとり、ここにしきぶのだいぶまをされけるは、
まさしくいまだあじやりのおもてをみたてまつらず、なほおんくびにうたがひありとぞまをしける。そもそもけうのけうじ、か
ねてほんいをしめすこと、ひとつにあらず。いはゆるおんいでたちのごにおよびて、さきのだいぜんのだいぶにふだうさんじてまをしける
は、それがしはせいじんののち、いまだきうるゐのおもてにうくことをしらず、しかるにこんじぢつきんまうすのところに、らくるゐ
きんじがたし、これただごとにあらざるなり、ことさだめてしさいあるべきか、またきんうぢみぐしをかうするところ
にみづからみぐしを一すぢぬいて、つぎににはのむめをとりて、きんきのわかをえいじたまひけり。
いでていなばぬしなきやどとなりぬとものきばのむめよはるをわするなP612
となん。もんをぎよしゆつのときれいきうめいてんす。くるまよりおりたまふきざみは、ゆうけんをつきをりたまひけ
り。おなじき二十八にち、みだいどころらくしきせしめたまふ。おんかいのしは、しやうこんばうのりつしきやうゆうなり。ま
たむさしのかみちかひろ、さゑもんのだいぶときひろ、さきのするがのかみひでとき、あきたのじやうのすけかげもり、おきのかみゆきむら、たいふの
じようかげかどいげ、ごけにん一百よにん、こうきよのあいしやうにたへずして、しゆつけをとげらるなり。いぬのこくにはしやうぐんけちやう
じゆゐんのかたはらにそうしたてまつる。さんぬるよ、おんくびのあるところをしらざりければ、五たいふぐ、そのはばかりある
べきによつて、きのふきんうぢこうするところのみぐしをもつて、おんくびにもちひ、くわんにいれたてまつりけり。さても
このよのなか、いかになるべきぞ、まことにやみのよにともしびをうしなへるにことならず。かまくらどのには、たれをかすゑ
まゐらすべきとぞまをしける。さるほどに、くぎやうでんじやうびとは、むなしくかへりのぼりたまふ。するがのくにうきしまがはら
にて、きがんおとづれてゆきければ、さゑもんのかみさねうぢのきやう
はるのかりひとにわかれぬならひだにかへるみちにはなきてこそゆけ
おなじとしの二ぐわつ八か、うきやうのだいぶよしとき、おほくらのやくしだうにまうでたまふ。このてらはれいむのつげによつて、さうさう
のちなり。さんぬるつきの二十七にち、いぬのこくぐぶのとき、ゆめみるがごとくに、しろきいぬおんかたはらにまみえてのち、しん
じんなうらんのあひだ、ぎよけんをなかのりのあそんにゆづりて、いがの四らうばかりをあひぐしてまかりいでたまふ。しかるにう
きやうのだいぶぎよけんのやくたるのよし、ぜんじかねてもつてぞんぢのあひだ、そのやくにんをすぼつて、なかのりがくびをきりたま
ふ。たうじこのだう、いぬかみだうちうにざしたまはずとまうしけり。さてもこうけうは、こんどのくはだてのみにあらず、P613
このりやう三ねんがあひだ、ごしよちうにばけやどりをうなのすがたをして、ゆきいりたまふに、きはめてあしはやくみかろくして、し
ばしばまみえたまふをひとみけり。いまこそこのひとのしわざなりとぞおもひあはせける。おんちちには、四さいにてお
くれたまひしをば、二ゐどのはごくみたてまつりて、わかみやのべつたうになりたまひけり。またおなじきとし二ぐわつ十五にちのひつじ
のこくに、二ゐどののみちやうだいのうちへ、はととびいることありけり。かかるところに、おなじきひのさるのこくに、する
がのくによりひきやくまゐりてまをしていはく、あののじらうくわんじやよりたか、さんぬる十一にちよりたぜいをいつそつして、じやうくわくを
しんざんにかまふ。これすなはちせんじをまをしたまはつて、とうごくをくわんりやうすべきのよし、あひくはだつとぞまをしける。
これはこうだいしやうけのおんおとうと、あののぜんじぜんしやうのじなんなり。はははとほたふみのかみたひらのときまさがむすめなり。おな
じく十九にち、二ゐどののおほせによつて、よしとき、かねがくぼひやうゑのじようゆきちかいげのけにんらを、するがのくにへさつしか
はす。あののくわんじやちうりくのためなり。おなじき二十三にち、するがのくによりひきやくさんちやくして、あののくわんじやふせぎたたか
ふといへども、ぶせいなればかなはずして、じがいするのよしをぞまをしける。かくてとうごくはぶいになりに
けり。さてもしやうぐんのこうしたえはてたまはんことを、かなしみおもひたまふ。二ゐどののさたとして、くわうみやうぶじ
のさだいじんみちいへこうの三なん、よりつねのきやうをまうしくだしたまひ、げんけのしやうぐんのこうしをつがしめたまひけり。これに
よつて二ゐどののかはりとして、よしときてんかのしつけんたりき。またみやこには、げん三ゐにふだうのむまご、うまのごんのかみよりのりとて、
だいりのしゆごにてありけるを、これもげんじなるうへ、よりみつがまつえふなりとおぼしめして、さいめんのものどもにおほ
せて、させるつみなきをうたせられける。おなじくしそくよりうぢをいけどられけるこそふびんなれ。ぢんとうにひをP614
かけてじがいしてけり。うんみやうでんにつきてけり。ないしどころいかがなりたまひけんと、おぼつかなし。

義時追討御評定の事 03

およそゐん、いかにもしてくわんとうをほろぼさんとのみ、おぼしめしける。きやうわらはべをあつめさせたまひて、ぎじち
やうとうとうたべとて、ものをたまはりければ、さなきだにそぞろごといひ、ぎじちやうとうとうとぞまをしける。
これはよしときくびをうてといふ、もじのひびきなり。またねんがうをじようきうとつけられたるも、ふかきこころあり。
そのうへなんとほくれいにおほせて、よしときをじゆそしたまふ。三でうしらかはにてらをたて、さいしようしてんわうじとなづけて、四てん
わうをあんちし、しやうじにしいかをえいぜらる。さねともうたれたまひぬときこしめして、にはかにこのてらをこぼたれぬ。
てうぷくのほふじやうじゆすれば、やくするいへなり。六でうのみやを、かまくらにすゑたてまつらんとおぼしめしけるが、きやうゐなかに
二にんのせいしゆ、あしかるべしとてとどまりけり。九でうのさだいじんうぢいへこうの三なん、二さいにならせたまふを、しやうぐんに
さだめさせたまひけり。これはかまくらどのおんいもうとむこ、一でうの二ゐのにふだうよしやすのきやうのおんむすめ、九でうどののきたのまんどころに
てましませば、そのおんゆかりなつかしさに、よしときまをしくだしけるとぞきこえし。じようきう二ねん六ぐわつ二十五にちに、
きやうをたたせたまひて、おなじき七ぐわつ十九にち、くわんとうにげちやく、たちまちにくわいもんだいかくのまどをいでて、くんけん
あしやうのとぼそにとどまりたまふ。そもそもうきやうのだいぶけんむつのかみたひらのよしときは、かうづけのかみなほかたが五だいのまつ
えふ、ほうでうのとほたふみのかみときまさがちやくし、二ゐどののおんおとうと、さねとものおんをぢなり。けんゐおもくして、くにこほりにあふが

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れ、こころただしくしてわうゐをかろくせず。ここにしなののくにのぢうにんに、しなのじらうもりともといふものあり。十四
五になるこ二にんもちたり。ぞんちあるによつて、げんぷくもさせず。をりふし、ゐんくまのさんけいのみちにてまゐりあひ、
やがてげんざんにいりたてまつり、しかじかとまをしければ、すなはちさいめんにまゐるべきよしおほせくだされけり。
よろこびをなし、ちちもりとももまゐる。よしときつたへきいて、くわんとうごおんのものが、よしときにあんないをへずして、さう
なくきやうけほうこうのでう、はなはだもつてきくわいなりとて、もりともがしよりよう五百よちやう、もつしゆしをはんぬ。もりと
もこのよしをゐんへまをしければ、かへしつくべきよし、よしときにゐんぜんをくださる。おんうけぶみには、かへすべきよ
しまをしながら、すなはちじとうをすゑられけり。ゐん、きくわいなりと、ごきしよくなのめならず。またそのころ、きやうにかめ
ぎくといふしらびやうしあり。ゐん、みこころざしあさからずして、つのくに、くらはしのしやうといふところをぞたまはりけ
る。かのところは、くわんとうのぢとうあり、ともすれば、つづみうちどもを、さんざんにしけるあひだ、ゐんにうつたへまをしけれ
ば、ぢとうかいえきすべきよし、ゐんぜんをなさる。よしときおんうけぶみ、かのしやうのぢとうは、こうだいしやうのおんとき、へいけつゐたう
のおんしやうなり、いのちにかはりこうをつみて、たまはりたるところなり、よしときがわたくしのはからひにあらずとまをしけれ
ば、さることなれども、たうじざいくわによつて、かいえきすることなり、ただもつすべきよし、かさねておほせくだ
されけれども、なほもつてかなひがたきよしおんうけまをしけり。一ゐんひごろのおんいきどほりに、もりともかめぎく
そそのかしまをしけるあひだ、いよいよおんはらたてさせたまひて、おほせられけるは、そもそもうだいしやうよりともを、かま
くらどのとなすこと、ごしらかは(原本ごしはかは)のほうわうのおんゆるしなり、そつとわうどは、みなこれちんがはからひなり、しかるをよしとき、くわP616
ぶんのしよぞんにぢうして、ゐんぜんゐはいまをすこそ、ふしぎなれ、てんせうたいじんしやうはちまんも、いかでおんちからをあはせたまはざる
べきとて、ないないおほせあはせられけるひとびとには、ばうもんのだいなごんただのぶ、あぜちのちうなごんみつちか、なかのみかどちうな
ごんむねゆき、ひののちうなごんありまさ、かひのちうじやうのりもり、一でうのさいしやうよしのぶ、いけの三みひつもり、ぎやうぶきやうのそうじやうち
やうこん、二ゐのほうゐんそんちやう、ぶしには、のとのかみひでやす、三うらのへいくらうはうぐわんたねよし、みしなのじらうもりとも、
ささきのいやたらうはうぐわんたかしげなどなり。これはみなよしときをうらむるものどもなりければ、しんぺうのおんはからひなりとぞまをしけ
る。せつしやうくわんぱくなど、くらゐおもきひとには、おほせあはせられず、よりよりききたまひて、おぼしめさるるはことわりなり。しかれども、ただいま
てんかのだいじいできて、きみもしんもいかなるめをかみたまはんと、おそれまします。一ゐん、ひでやすをめして、まづたねよし
がもとにゆきて、しよぞんのむねをたづねよとおほせありければ、ひでやすがしゆくしよに、たねよしをまねいて、そもそもごへん、
かまくらのほうこうをすてて、くげにほうこう、いかやうのおんこころにてさふらふぞとたづねければ、たねよしがぞくしやう、ひとみなしろ
しめされたることなれば、いまさらまをすにおよばず、こうだいしやうけをこそ、ぢうだいのしゆくんにも、たのみたてまつりし
が、このきみにおくれたてまつりてのち、二だいのしやうぐんをかたみにぞんぜしに、これにもわかれたてまつりてのちは、かまくらに、
たねよしがしうとてみるべきひとがあらばこそ、べつのしよぞんなし、たいていみなこれなるべきに、たねよしたうじあひぐして
さふらふをうなは、こうだいしやうどののとき、一ほんぼうとまをししもののむすめなり、よりいへのかうのとののめされて、わかぎみ
一にんまうけたてまつりしを、わかみやのぜんじこうのごむほんにどういしつらんとて、よしときにちうせられけり、このゆ
ゑに、かまくらにきよぢうして、つらきことをみじとまをすあひだ、かつはこころならぬほうこう、つかまつるなりとぞまをしけP617
る。ひでやす、まことにうらみもふかきもことわりなり、よしときがふるまひ、くわぶんともおろかなり、いかにして、ほろぼすべき
といひければ、たねよしかさねてまをしけるは、きやうかまくらにたちわかれて、かつせんするには、いかにおもふともかな
ひさふらふまじ、はかりごとをめぐらしては、などかごほんいをとげざるべき、たねよしがあににてさふらふよしむらは、しよにんにすぐ
れていちもんはびこつてさふらふ、よしときがたびたびのいのちにかはりて、こころやすきものにおもはれたり、たねよしないないせうそく
をもつて、よしときうつてまゐらせたまへ、にほんごくのそうごだいくわんは、うたがひあるべからずとまをすならば、よのわづら
ひになさずして、やすらかにうつべきものにてさふらふとまをしければ、うちうなづいて、げにもしかるべしとて、
ひでやすごしよへまゐりて、このよしをそうす。一ゐん、たねよしををつぼにめして、ぎよれんをまきあげさせたまひ、みつみつに
ぢきにおんものがたりあり。たねよしがまをすでうさきのごとし、すこぶるえいかんをすすめたてまつる。すでにこのことおぼしめし
たちて、ひでやすにおほせて、あふみのくにのぶよしをめさる。とばのじやうなんゐんの、やぶさめのためにとひろうす。じやうきう三ねん
五ぐわつ十四か、さいきやうのもののふ、きないのつはものども、かうやうゐんどのにめさる。くらのごんのかみきよのり、けうみやうをしるす。
一千五百よきとぞしるしたる。ともゐのたいしやうきんつねをめさる。よのけしきもおぼつかなくおもひたまひてければ、
うしろみに、ちからのかみながひらをめして、いがのはうぐわんみつすゑがもとにはせゆきて、三ゐでらのあくそうぢつみやうとうをめされ、
そのほかなんと、ほくれい、くまののものどもおほくもよほさる。いかさましさいのあらんずるとおぼゆるなり。きんつねをめ
されて、ただいまゐんざんす、かさねてつげしらせんときゐんざんすべし、さうなくまゐるべからずとぞ、おほせつか
はされける。たいしやうどのまゐられければ、二ゐのほうゐんのそんちやううけたまはりて、きんつねのきやうのそでをとりてひ

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き、むまばやどのにおしこめたてまつる。これはごむほんをりやうしやうせず、いかにもくわんとうほろぼしがたきよし、ごむほん
にくみせざるによつてなり。いまのさいをんじのせんぞこれなり。さてこそくわんとうには、さいをんじのごしそんをば、か
たじけなきことにはしてたてまつりけれ。しそくちうなごんさねうぢのきやう、おなじくめしこめられけり。

光季親廣召さるる事 04

またたねよしをめして、いがのはうぐわんみつすゑ、せうしやうにふだうちかひろをばうつべきか、まためしこむべきかと、おほせ
あはせられけり。たねよしまをしけるは、ちかひろにふだう、ゆみやとるものにてもさふらはず、めされて、すかしおか
せたまうて、一かたにもつかはされべし、みつすゑはげんじにてさふらふうへ、よしときがこじうとにて、ゆみやをとるいへにてさふら
へば、めされさふらふとも、よもまゐりさふらはじ、うつてをさしむけられさふらふべしとおぼえさふらふ、さりながら、まづ
りやうにんめさるべくさふらふかとまをす。まづせうしやうにふだうみつすゑがもとへ、みゐでらのがうとうしづめんためにとて、いそぎまゐる
べきよしおほせくださるるあひだまゐりさふらふ、ごへんにも、おんつかひさふらひけるやらんというたりければ、はうぐわん、
いまだこれへつかひもさふらはば、めしにしたがつて、とうまゐりさふらはめとへんじす。ちかひろにふだうは、百よきにてはせさんず。
でんじやうぐちにめされて、いかにちかひろ、よしときすでにてうてきとなりたり、かまくらへつくべきか、みかたへさんずべきかと
おほせくだされければ、いかでかせんじをそむきたてまつるべきよしまうしければ、せいしよをもつてまをすべきよしおほせらる。二
まいかきて、きみに一まいきたのに一まいまゐらせけり。このうへは一かたのたいしやうに、たのみおぼしめすよしおほせあはせられけり。P619
そののちみつすゑをめさる。はうぐわん、ゐんのおんつかひにいであひまをしけるは、みつすゑは、かたのごとく、かまくらのだいくわんとして、
きやうとのしゆごにさふらふを、まづみつすゑをめしてのち、よのむしやをばめさるべきに、いままでめされずさふらふあひだ、おほかたふ
しん一つにあらずさふらふ、やがてまゐるべきよしまをしさふらふ、おんつかひ一ときのうちにかさねておそしとめされけれども、すぎにしころ
あやしきことをききしうへ、たいしやうどのおんつかひもやうあり、ひとよりのちにめさるるも、かたがたもつてあやしければ、ごへんじには、
いづかたへもおほせかふむりて、ぢきにむかふべくさふらふ、ごしよへは、まゐるまじきよしまをしければ、みつすゑめは、こころえてけり、
いそぎつゐたうすべし、けふはひくれぬ、みやうにちむかふべきよし、たねよしまをしてそのよはごしよをしゆごしたてまつりけり。

官兵光季を攻むる事 05

さるほどに、みつすゑもけふはくれぬ、みやうにちぞ、うつてはむかひさふらはんずらんと、おもひければたてこもる。そのよ、いへ
のこらうどうなみゐてひやうぢやうす。ひとびとまをしけるは、ぶせいにて、おほぜいにかなひがたし、わたくしのゐこんにあらず、かたじけなくも、十
ぜんのていわうを、おんかたきにうけさせたまへり、よのうちに、きやうをまぎれいでさせたまひてさふらはば、みのをはりになどか
はせのべさせたまはざるべき、またはわかさのくにへはせこして、ふねにめされ、ゑちごのしやうにつきて、それよりかまくらへつた
はせたまへと、くちぐちにせんぎす。みつすゑいひけるは、ひがしへもきたへも、おつべけれども、ひとこそ、ばんどうにおほけれ、
みつすゑをたのみて、だいくわんとしてきやうとのしゆごにおかれたるものが、かたきもかたきによりところもところによる、さすがにじうぜんのてい
わうを、かたきにうけたてまつり、ところはわうじやう、はなのみやこ、ゆみやとるもののめんぼくにあらずや、いまはせきをもすゑられつらん、P620
なまじひにおちうどとなりて、ここかしこにて、いけどられんことこそくちをしけれ、よしときかへりきかれんもはづかし、わかたうどもの
いはんところもやすからねば、みつすゑは一そくもひくまじ、おちんとおもはんひとびとおつべし、うらみもあるべからずと
いひければ、しばしこそありけれど、よふけければのこりずくなくおちにけり。おもひきりとどまるものは、らうどうに、
にえだのよさぶらう、つづみのごらう、いひぶちのさぶらう、おほすみのしんし、やまむらのじらう、かはちのたらう、しぶのじらう、うの
てのじらう、いぬむらのまたたらう、こんわうまる、いじやう廿七にんなり。おのおのふぼさいしのわかれはかなし、それとも、ねんらいのよ
しみたうざのぢうおん、またみらいのはぢもかなしければ、かばねをここのへのつちにさらすべしとて、とどまりけり。はうぐわんのこに、
じゆわうくわんじやみつつなとて十四さいになるものありけり。はうぐわん、なんぢはありとてもいくさすべきにあらず、かまくらへくだり、
みつすゑがかたみにもみえたてまつれ、をさなからんほどは、ちばのあねのもとにてそだてとひければ、じゆわうまをしけるは、ゆみや
とるもののことなりて、おやのうたるるをみすてにぐるものやさふらふ、またちばのすけもおやをみすてにぐるものを、やういくしら
れべきや、ただおんともたてまつりさふらふべしといひければ、さらば、じゆわうにもののぐさせよといひければ、もえぎのこはら
まきに、こゆみにそやをおうていでたたせたり。みつすゑもしろきおほくちにきせながまへにおき、ゆみ二ちやうに、やを二つそへ
ていのまにゐたり。しらびやうしどもめしよせ、よもすがらさかもりし、よもあけぼのになりしかば、ひごろひざうしけるものども、いう
くんどもにとらせつつかへしけり。おなじき十五にちうまのときに、かみきやうにぜうまういできたりとぞののしりける。またしばしあつて、
ぜうまうにはあらず、こ

れへむかふくわんぺいのうまのけたつるけぶりとぞまうしける。すでにゐんよりさしつかはさるるたいしやうぐんには、みうらの
へいくらうはうぐわんたねよし、せうしやうにふだうちかひろ、ささきのやましろのかみひろつな、いやたらうはうぐわんたかしげ、するがのたいふのはうぐわんこれいへ、ちく

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ごのぜんじありのぶ、ちくごのたらうさゑもんありなが、つがふ八百よきにておしよせたり。たちのうちにはすこしもさわがずさいごのしゆえん
してなみゐたり。にえだのさぶらうまをしけるは、きやうごくにしのおほもんをも、たかつじにしのこもんをも、ともにひらいて、りやうはうをふせい
で、さいごのかつせんを、ひとにみせさふらはんと、まをしければ、にえだうこんまうしけるは、ふたつのもんをひらくならば、たい
ぜいこみいりてぶせいをもつて、ささへがたし、おほもんをばさしかため、つちもんばかりをひらきて、いらんかたきをしばしささへて、のちには
じがいせんとまをす。このぎはよかりなんとて、きやうごくおもてをばさしかためたり。つじおもてばかりをひらきたり。つはものどもやさき
をそろへてたちならびたり。一ばんにはへいくらうはうぐわんがてのものすすみよりて、ときをつくる。しなののくにのぢうにんしがのごらう
さゑもんの、うちへかけいらんとすすみけるを、はうぐわんのらうどう、とうむしやのじらうに、ひざをいられてのきにけり。やましな
じらうはせよつて、にえだのしらうにかひないられてひきしりぞく。やしまのやせいたらう、にえだのさぶらうに、むないたいさせて
のきにけり。たるゐのひやうゑのたらう、いれかへたり。うちよりはなつやに、うまのはらいられてあぶみをはづして、えんのきは
までよりたりけるが、たかももいぬかれてひいていづる。さいめんのたてはきさゑもんのじやう、いしらまかされてのきにけり。
そののち、おしよせおしよせたたかへども、うちいるものこそなかりけれ。たちのなかには、すこしもさわがずふせぎけり。つちもんをばやぶ
りえず、おほもんをうちやぶれとぞげぢしける。はうぐわんこれをききて、かたきにうちやぶられてはみぐるし、うちよりあけよとい
ひければ、しのぶのじらうおしひらき、とくとくおんいりさふらへとぞまうしける。つはものども二てにひきわけてまつところに、ちくごのさ
ゑもんおしよせたり。いしらまかされてのきにけり。まののさゑもんときつらいれかへたり。うちよりはうぐわんこれをみて、ひ
ごろのことばにもにぬものかなとことばをかけければ、もんのそとよりかけいりてうまよりおり、たちをぬき、えんのきはまでよP622
りたり。すだれのあひだにたちより、なにといふにひとども、きみをすすめたてまつりて、につぽん一のだいじをおこすはいかに、
たいしやうぐんとなのりつれば、や一つたてまつらんとてはなつ。たねよしがゆみのとりうちいけづり、ならびたるむしや
にいたてたり。たねよしひとをすすませて、おもふやうありとてひきしりぞく。いやたらうはうぐわんたかしげとなのりて、もんのうちへ
をめいてかく。じゆわうくわんじや、ゑぼしおやにておはしさふらへば、おそれさふらへども、や一つまゐらせんとてはなつやに、
たかしげはいむけのそでにうらかかせけり。たかしげひきかへす。みとののうまのぜう、しがのへいしらう、いられてひいていづ。うちに
はたのみつるに、にえだのさぶらうだいじのておうて、はらをきる。ぢぶのしらうじがいす。むねとの二にんじがいするをみて、
のこるものどもやはいつくしつ、うちへいつてじがいす。かたきはみだれいりければ、二十七にんこもりつるつはもの、十よにんおちに
けり。十にんはじがいして、はうぐわんふし、にえだのうこん、まんどころのたらう、四にんにぞなりにける。いへにひかけて、
じがいせんとするところに、びぜんのせんじをひのたてはきのさゑもん、二にんかけいるを、にえだのうこん、まんどころのたらうお
りあひてうちはらひかへりいる。二にんもておうてじがいして、ふしにけり。じゆわうまるすだれのあひだにたちさりけるを、
はうぐわんかたきにとらるるな、みつすゑよりさきに、じがいせよといはれて、もののぐぬぎすてて、かたなをぬいたりけれども、
はらをきりえざりけり。さらばひのなかへとびいりて、しねといはれて、はしりいりつるに、おそろしくやおもひけん、
二三どはしりかへりはしりかへりしけるを、はうぐわんよびよせて、ひざにすゑて、めをふさぎ、はらをかききりひのなかへなげい
れて、わがみもひがしへむきて、なむ八まんだいぼさつ、みつすゑただいま、だいぶどののいのちにかはつてしにさふらふとまをす。三どかま
くらのかたをはいして、にしにむかひねんぶつとなへはらをきり、ひにとびいつて、じゆわうがしがいにいだきつきてふしにけり。さるほどにたねP623
よし、ちかひろいげ、ごしよへまゐりかつせんのしだいをぞそうす。きみもしんもむかしもいまも、みつすゑほどのものこそありがたけれと
ほめられけり。一ゐんこんどけんしやうあるべしとおほせければ、たねよしまをしけるは、みつすゑばかりにてさふらはば、もつともしかるべ
くさふらふ、よしときほどの、だいじのてうてきをおかれてただいまのけんしやういかがにさふらふべきとそうす。きみもしんも、いしうまうしたりと
ぞおほせける。一ゐんおほせけるは、よしときがためにいのちをすつるものとうごくにいかほどありなん、さすがてうてきとなのり
てのちはなにほどのことあるべきと、とはせたまひければ、ていじやうになみゐたるつはものどもおしはかりさふらふに、いくばくさふらふべ
きとまをしあぐるなかに、しやう四らうびやうゑなにがしといふものすすみいでてまをしけるは、しきだいまをさせたまふひとびとかな、あ
やしのうたれさふらふだにも、いのちをすつるもの五十にん百にんは、あるならひにてさふらふ、ましてだいだいのしやうぐんのうしろみ、にほん
こくのふくしやうぐんにてさふらふときまさよしときふし二だいのあひだ、おほやけさまのごおんとまうし、わたくしのこころざしをあたふること、いくせんばんかさふらは
ん、なかんづく、けんきうにはたけやまをうたれ、けんほにみうらをほろぼししよりこのかた、よしときがけんゐ、いよいよおもうしてなびかぬくさきもな
し、このひとびとのためにいのちをすつるもの、二三まんにんはさふらはんずらん、それがしもとうごくにだにさふらはば、よしときがおんをみたる
ものにてさふらへば、しなれずにこそとまをせば、おんきしよくあしかりけれども、のちには、しきだいなきつはものなりと、おぼし
めしあはせられたり。

公繼公意見の事 06

たいしやうきんつねふし、しざいにおこなはるべきよし、おほせければ、しよきやうくちをとづるところに、とくだいじのだいじんきんつぎのまをされけるP624
は、ちよくめいのうへはさうにおよばずさふらへども、ごしらかはほうわうのおんときともやすとまうす、ぜんごをしらざるふとくじんのもの
の、ざんそうにつかせたまひつつ、よしなかをつゐたうせんとせられしが、きそいきどほりをふくみほうぢゆうじどのへむかうて、せめ
たてまつる、みかたのいくさいつときのうちにやぶれて、きみもしんもほろびたまひき、いまさらたねよしひろつながざんにより、よしときをせめらる
べきか、かたきをほろぼさんにつきても、みかたのほろびんにつけても、だいじんいげなうごんいじやうのひとに、しざいをおこなは
んこと、よくよくえいりよを、めぐらさせたまふべきかと、はばかるところもなくまうされけり。一ゐんげにもとやおぼしめしけん
しざいをなだめらる。さてこそ、かまくらにもつたへうけたまはりて、このゑにふだうどの、とくだいじのうだいじんどのりやうしよをば、かたじけなきこ
とにまをされけれ。

方々へ宣旨を下さるる事 07

みつすゑつゐたうののちは、いそぎ四はうへせんじをくだすべしとひとびとまをされければ、ちうなごんみつちか、うけたまはりてせんじをかく。
そのじやうにいはく、

左辨官下     五畿内諸國
  應早令追討陸奥守平義時身參廳蒙裁斷諸國庄園守護地頭等事
 右大臣宣奉勅。近曾稱關東之成敗。亂天下讒之政務雖帶将軍之名。偏假其詞於命恣致裁斷於都制。
 剰耀威如忘皇憲論之政道可謂謀叛。早下知五畿七道諸國。令追討彼義時。兼又諸國庄園守護人地頭P625
 等。有可令言土之旨者。各參院廳。宣經上奏。随状廳斷。抑國宰並領家等亂事於論債。吏勿致監行
渉是嚴密。曾不違越者。諸國承知。依宣行之。
承久三年五月十五日     大史小槻宿禰謹言

とぞかきたる。とうごくのおんつかひに、おんむまやのとねりおしまつまるをくださる。これにつけて、ひとびとのないせうそく、おほくくだ
しけり。へい九らうはうぐわんたねよしは、わたくしのつかひをたてて、ないせうそくをくだしけり。十六にちのうのこくに、とうざいなんぼく、五
畿七だうにりんしをわけてくだされ、おなじきひ、なんとさんもんをはじめとして、しよじしよざんの一のあくそうどもをめす。ことごと
くまゐるべきよしりやうじようまをす。そのほか、きみにこころざしをはこぶともがら、しよこく七だうより、はせさんず。みののくによりにしは、たい
りやくはせさんじけり。とうごくのせんじのおんつかひ、たねよしがわたくしのつかひ、ぜんごをろんじて、くだりけるが、十九にちのひつじのこくに、
はうぐわんのつかひ、かたせがはよりさきにたて、かまくらにいりにけり。するがのかみよしむらがもとにゆきて、ふみをさしあげたり。いそ
ぎとりてみるに、十五にちむまのこくに、いがのはうぐわんみつすゑうたれぬ、さんぬる十六にちうのこくに、四はうへせんじを
くだされさふらふ、また(原本たま)とうごくへおんつかひくだりさふらふなりとて、ひごろのほんいをぞかきつくしたる。よしむらうちうなづき、おんつかひくだるな
るは、いづくにぞ。かたせがはよりさきにたちてさふらひつれば、いまはかまくらにぞいりさふらはんとまをす。へんじをせんとおも
へども、いまはかまくらより、せきせきもかためらるらんと、よしむらがじやうとて、ひけんせられんこと、なんぎぢぢやうなり、
まをされたることは、さこころえたりとまをすべしとて、ししやをいそぎかへしのぼせ、ときをうつさず、つかひもんをいでければ、
よしむらちよくめいにもしたがはず、たねよしがかたらひにもつかず、あんじすまして、ふみをもたせて、ごんだいぶどののもとにゆきむかふ。P626
をりふしさぶらひのげんざんして、すきもなきうちをわけてさしよりて、さんぬる十五にち、ごしよよりうつてむかうて、いがのはう
ぐわんうたれ、十六にちうのこくに、せんじ四はうへくださる、とうごくへおんつかひも、ただいまかまくらへいりさふらふなり、たねよしがないせうそく
にてさふらふとて、ひきひろげておきたれば、よしときみて、いままでことなかりつるこそ、ふしぎなれ、せんじにも、とう
ごくのものども、一みどうしんに、よしときもうつてまゐらせよとさふらふらん、ひとでにかけずして、ごへんてにかけて、きみのげん
ざんにいれさせたまへ、ちかくなよりたまひそとて、かいつくろひたまひければ、よしむらくちをしくもへだてられたてまつるもの
かな、おんいのちにかはりたてまつることたびたびなり、けんきうに、はたけやまをほろぼされたまひしときも、よしむらみすてて、六らうにくみつ
き、けんはうに一もんをすてて、みかたにまゐりさふらひき、ちうしやう一にあらず、いくたびも、三だいしやうぐんのおんかたみにて、
わたらせたまひさふらへば、いかでかすてたてまつりさふらふべき、まつたくせんじにもかたより、たねよしがかたらひにもつくまじくさふらふ、
よしむら二ごころをぞんぜば、にほんこくちうだいせうのじんぎべつして三うら十二てんじんの、しんばつをかふむりて、つきひのひかりにあたらぬみ
とまかりなるべしと、せいしやうをたてられければ、いまこそこころやすくおもひたてまつれ、されば三だいしやうぐんよみがへりて、わた
らせたまふとこそみたてまつれとぞ、のたまひける。

二位殿口説き事並引出物の事 08

おしまつまる、たづねいださる。かさゐがやつより、ひつさげていできたる。しよじのせんじ、七つうあり。あしかが、たけだ、をがさ
はら、かさゐ、三うら、うつのみや、ちくごのにふだう、いじやう七にんにあてらる。このせんじについて、ひとびとのせうそくおほかりける。

P627
ごんだいふするがのかみあひぐして、二ゐどのにさんず。だいみやう、せうみやう、まゐりこみたり。にはにもひまなくぞみえし。二ゐどの
つまどのすだれおしあげたまひて、まづうつのみやをめされつつ、そののちちばのすけあしかがどのをぞめされける。二ゐどの、あき
たのじやうのすけかげもりをもつて、おほせられけるは、一ゐんこそ、ちやうこんそんちやうひでやすたねよしらがざんげんにつかせたまひ
て、よしときをうたんとて、まづみつすゑうたれてさふらふなり、きみをもよをもうらむべきにあらず、ただわがみのくわはうのつたなき
なり、をうなのめでたきさまには、わがみをよにはひくなれども、われほどものをなげき、こころをくだくものあらじ、
ことのにあひはじめたてまつりしより、ちちのいましめ、まことならぬははのそねみ、をとこのゆくへ、このありさまとりてくるしかりしに、
うちつづきてくにをとり、ひとをしたがへたまひしより、おんみをぶつじんにまかせたてまつりしこと、ちうやおこたらず、よをとりをさめたまひ
しのちは、こころやすかるべしとおもひしに、おほひめごぜんをば、ことのとりわきてもてなしいたはりて、きさきにすゑんとありし
に、よをはやくせしかば、おなじみちにとしたひしかども、ことのにいさめられたてまつりて、おもひをやめてかへししに、こひめご
ぜんにもおくれて、おもひしづみしに、このためつみふかしと、いさめられたてまつり、それもことわりとおもひなぐさひてありしに、
ことのにおくれたてまつり、つきひのかげをうしなふここちして、こどものなげきをも、このひとにこそなぐさみしに、このたびおもひのかぎりな
るとおもひよわりしに、二にんのきんだち、いまだをさなくて、よのまつりにもふかんにして、二にんのきんだちをはごくみ
しに、さゑもんのかうのとのにおくれてのちは、よのなかにうらめしからぬものもなく、こころよりしに、ひとへにしなんと
こそおもひしに、うだいじんどの、たれかはこならぬ、さねともがただ一にんになりたるをすてて、しなんとおほせさふらふこそ
くちをしうさふらへとうらみしかば、げにもししたるこをおもひて、いきたるこにわかれんことをや、これじひにもはづP628
れたりと、おもひかへしてすぎしほどに、うだいじんどの、ゆめのやうにてうせたまひしかば、いまはたれにひかれて、いのちもをし
かるべしなれば、みづのそこにもいりなばやとおもひさだめたりしを、よしときがこれをみて、ことののおんなごりとては、
おんかたをこそあふぎまゐらせさふらへ、よしときがひとにところをおかれさふらふも、まつたくかうみやうにあらず、しかしながら、おんことゆゑにて
こそさふらへ、まことにおぼしめしきられさふらはば、よしときまづじがいつかまつりて、みせたてまつりさふらふべし、かたがたのおんぼだい
とまをし、かまくらのありさまとまをし、むなしくなりたまはんおんことこそ、こころよくおぼえさふらへと、なくなくまをししかば、
げにもことののすゑたえ、ひとごともかなしくて、おもひにしたまはぬみとなりて、せめてのゆかりをたづねてしやうぐんをすゑたてまつ
りて、この二三ねんはすぎにき、たとひわがみなくともかまくらのやすからんことを、くさのかげにてもみんとおもひつ
るに、たちまちぎうばのはなしと、ならんずらんこそくちをしけれ、三だいしやうぐんのおんはかの、あとかたなくうせんことこそ
あはれなれ、ひとびとみたまはずや、むかしとうごくのとのはらが、へいけのみやづかへせしには、かちはだしにてのぼりくだりしぞかし、
ことのかまくらをたてさせたまひて、きやうとのみやづかへもやみぬ、おんしやううちつづき、たのしみさかえてあるぞかし、ことののごおん
をば、いつのよにかほうじつくしたてまつるべき、みのためおんのため、三だいしやうぐんのおんはかをば、いかでかきやうけのむまの
ひづめにかくべき、ただいまおのおのまをしきるべし、せんじにしたがはんとおもはれば、まづあまをころして、かまくらちうをやきはらひて
のち、きやうへまゐりたまへとなきなきのたまひければ、だいみやうども、ふしめになりてゐたるところに、あかぢのにしきのふくろにいり
たる、こがねづくりのたち二ふり、てづからとりいだして、これこそことののみをはなしたまはぬ、おんはかせとて、かたみにも
ちたれども、これかまくらのあるがはてなればとて、あしかがどのにまゐらせらる。かしこまつてたまはられけり。うつのみやには、みP629
つぼねといふめいばにくらおかせて、もえぎいとをどしのよろひをひかせたまふ。千ばのすけには、むらさきいとをどしのよろひの、ながふくりんの
たち一こし、いづれもかしこまつてたまはりけり。そののち、むつのくの六らうありとき、じやうのにふだう、ささきの四らうざゑもん、たけだを
がさはらばんどう八ケこくの、むねとのだいみやう廿三にん、かはりかはりめされて、いろいろのものをたまはる。いなばのひろもとにふだう、おしやく
をとりて、ごしゆをたまはるを、おのおのまをしけるは、いかでか三だいしやうぐんのごおんをば、おもひわすれたてまつるべき、そのうへげんじ
は七だいさうでんのしゆくんなり、ししそんそんまでも、そのおんよしみをわすれまゐらすべきにあらず、やがてみやうにちうちたち
て、いのちをきみにまゐらせて、かしらをにしにむけてかかれとまをして、おのおのらくるゐして、一どうにたちにけり。

關東合戰評定の事 09

そののちいりあひほどに、よしときのしゆくしよにくわいがふして、せんじのごへんじ、かつせんのしだい、ひやうぢやうあり。するがのかみよしむらまをしける
は、あしがらはこねをうちふさぎ、ささへむとぞまをしける。ごんだいぶどの、このぎあしかりなむ、しからばにつほんごく三ぶんの二、きやう
かたへなりなんず、ただみやうにち、やがてはせのぼり、かたきのあはんところをかぎりにて、しようぶをけつすべしとありければ、このはからひ
さうにおよはずとて、一みどうしんにうつたちけり。一ぢんはさがみのかみときふさ、二ぢんむさしのかみやすとき、三ぢんはあしかがの
むさしのぜんじよしうぢ、四ぢんするがのかみよしむら、五ぢんちばのすけたねつな、これはかいだうのたいしやうたるべし。せんとうには、一ぢんを
がさはらのじらうながきよ、二ぢんたけだの五らうのぶみつ、三ぢんとほやまのさゑもんながむら、四ばんいくのうまのにふだう、ほくろくだうには、
しきぶのたいふともとき、たいしやうにてのぼるべしとさだめらる。おのおのまをしけるは、みやうにちはあまりにとりあへずさふらふ、いま一にちのべられP630
て、ゐなかわかたうむまもののぐをめしよせて、のぼりさふらはばやとまをされければ、よしときおほきにいかりて、いはれなし、いま一
にちものぼるならば、三うらのへい九らうはうぐわんをさきとして、うちむかひなんず、くにぐにをうちとられんこと、あしかりなん、みやう
にちはあくにちなれば、はまふぢさはのさゑもんきよちかがもとに、かどいでして、みやうごにち廿一にち、はつかうすべしとおほせける。さる
ほどにあくるひのうのこくに、すでにはつかうす。かいだうのたいしやうぐんときふさ、やすとき、よしうぢ、よしむら、たねつなにしたがふつはものには、むつ
のくの六らう、せうのはうぐわんだい、さとみのはうぐわんだいよしなほ、じやうのすけにふだう、もりのくらうどのにふだう、かののすけにふだう、うつのみやの
四らうよりなか、やまとのにふだうのぶふさ、しそくたらうさゑもん、おなじく四らうさゑもん、おととの三らうひやうゑ、むまごやくそのくわんじや、する
がのじらうやすむら、おなじく三らうみつむら、さはらのじらうひやうゑ、をひまたたらう、あまのの三らうざゑもんまさかげ、こやまのしんざゑ
もんともなほ、ながぬまの五らうむねまさ、どひのひやうゑのぜう、ゆふきの七らうざゑもんともみつ、ごとうのさゑもんともつな、ささき四らうのぶつな、
ながゐのひやうたらうひでたね、ちくごの六らうさゑもんともしげ、をがさはらの五らうひやうゑ、さうまのじらう、としまのへいたらう、こくぶの
じらう、おほすがのひやうゑ、とうのひやうゑのじよう、たけのじらう、おなじくへい四、すみさだのたらう、おなじくじらう、さののた
らう三らう、おなじくこたらう、おなじく四らう、おなじくたらうにふだう、おなじく五らうにふだう、おなじく七らうにふだう、そののさゑ
もんのにふだう、わかさのひやうゑのにふだう、をのでらのたらう、おなじくちうしよ、しもかはべの四らう、くげのひやうゑのじやう、さぬきのひやう
ゑのたらう、おなじく五らうにふだう、おなじく六らう、おなじく七らう、おなじく八らう、おなじく九らう、おなじく十らう、えどの七らうた
らう、おなじく八らうたらう、きたみのじらう、しながはのたらう、しむらのや三らう、てらじまのたらう、しものじらう、かといのじらう、
わたりのさこん、あだちのたらう、おなじく三らう、いしだのたらう、おなじく六らう、あばうのぎやうぶ、しほやのみんぶ、かちのこじP631
らう、おなじくたむない、おなじくげん五らう、あらきのひやうゑ、めぐろのたらう、きむらの七らう、おなじく五らう、ささめの三らう、みかじ
りのこじらう、むまやのじらう、かやはらの三らう、くまがへのこじらうびやうゑのなほいへ、おとうとのへいざゑもんなほくに、かすがのぎやうぶ、しせの
さこん、たの五らうびやうゑ、ひきたのこじらう、たの三らう、たけのじらうやすむね、おなじく三らうしげよし、いがのさこんのた
らう、ほんまのたらうびやうゑ、おなじくじらう、おなじく三らう、ささめのたらう、をかべのがうざゑもん、せんゑもんのたらう、やまだの
ひやうゑのにふだう、おなじく六らう、いひだのうこんのぜう、みやぎのの四らう、しそくこじらう、まつだ、かはむら、そが、なかむら、はや
かはのひとびと、はたのの五らうのぶまさ、かねこの十らう、てつしかはらのこ四らう、しんかいのひやうゑ、おなじくや五らう、いとうのさ
ゑもん、おなじく六らう、うさみの五らうびやうゑ、きちかはのやたらう、あまつやのこじらう、たかはしのだい九らう、たつせの
さまのぜう、きしまのたらう、しぶかはのなかつかさ、あんどうのひやうゑただみつをさきとして、そのせい十まんよきをさしのぼす。

義時宣旨御返事の事 10

おなじく廿七にち、せんとうのせんじのおんうけぶみに、ことばをもつてよしときまをされけるは、しやうぐんのおんうしろみとして、まがりすぎさふらふに、
わうゐをかろくしたてまつることなし、おのづからちよくめいをうけたまはること、ぜひみなだうりのおすところぢうぢうのひやうぢやうなり、しかるを、
そんちやうたねよしらがざんげんにつかせましまして、そつじにせんじをくだされ、すでにあやまりなきに、てうてきにまかりなりさふらふでう、
いとふびんのいたりなり、ただしかつせんをおんこのみ、ぶゆうをおんたしなみさふらふあひだ、かいだうのたいしやうにしやていときふさ、ちやくしやすときふく
しやうぐんに、よしうぢよしむらたねつなとうをはじめとして、十九萬八百よきをさししんず。せんだうより五萬よき、ほくろくだうにじなんともP632
とき、四萬よきにてまゐりさふらふ、このはうのつはものどもにめしむかはせて、かつせんさせてごらんぜられべくさふらふ、もしこのせいしら
みさふらはば、よしときが三なんしげときに、せんぢんうたせ、よしときたいしやうとして、はせまゐるべくさふらふ、そのためふるにふだうどもは、せうせう
かまくらにのこしとどめさふらうて、たちまちにはせまゐりさふらふあひだ、いまはばんどう三ぶん一のせいをさきとし、よ三ぶん二はけふあすこ
そはせきたりさふらふらめと、そうまをすべしとて、たびらうあくまで、とらせておいいださる。おしまつ、ゆめのここち
しのぼりけるが、おなじく六ぐわつついたちとりのこくばかりに、かうやうゐんどのにはしりまゐりて、おんつぼのうちにうちふしける。きみもしんも、
いかにおしまつものをばまをさぬぞ、つかれたるか、よしときがくびをば、なにものがうつてまゐるぞ、かまくらにはいくさするか、
またりやうはうささへたるかと、くちぐちにとひたまふ。あまりにくるしくさふらうて、いきつぎさふらふとて、しばしあつてまをしける。五ぐわつ
十九にちへいくらうはうぐわんのおんつかひ、かたせがはよりさきだて、かまくらにいり、よしむらにうちのせうそくつげてさふらへば、うきひきたるかほに
て、ししやをばかへしのぼせ、くだんのじやうをよしときにみせられてさふらひけるあひだ、おしまつからめいだされて、なはをつけられさふら
ひき、かいだうせんだうほくろくだう、たいぜいのぼりてのち、廿七にちのあかつきおひいだされさふらふ、よしときかくこそまをされしか、たいぜいは廿
一にちにかまくらをたちさふらひしかども、おくればせのせいをまちてうちてのぼりさふらふ、あまりにたいぜいにて、みちもさりあ
へず、みちにまたかつせんしてのぼりさふらふあひだ、五かおくれてかまくらをたつてさふらへども、おんだいじにてさふらひしほどに、よるもはし
りさふらふあひだ、たいぜいよりさきにまゐりさふらふ、いまははや、あふみのくにへいりさふらひつらん、かいだうは一ちやうとうまのあしのきれ
たるところさふらはず、百萬ぎもさふらふらんとて、またふしにけり。これをききてみないろをうしなひたましひをけす。P633
京都方々手分の事 11
ゐんは、おしまつがまをしでう、さこそあるらん、おくすべからず、たとひまたみかたにこころざしあらんものも、かまくらいでをば、
よしときがたとこそなのらめ、じつげつはいまだちにおちたまはず、はやくみかたよりもうつてをもむくべし、ほくろくだうには、
みしなのじらうながとき、みやざきのさゑもんのぜうさだもり、かすやのうゑもんのぜうありひさ、つがふ一千よきをくだしつかはししかば、かさねてさしくだす
におよばず、かいだうせんだう、このみちにうつてを、くだすべしとぞおほせける。たねよし、ひろちか、いげのつはものども、おのおのぞんぢの
むねをまをすべきよし、おほせくだされけり。なかにも、やまだのじらうしげただ、すすみいでてまをしけるは、かたきのちかづかぬさきに、みかたよ
りゐんゐんみやみやをたいしやうとして、かたきのあはんところまで、おんくだしさふらはば、そののちくにぐには、みかたにまゐりさふらふべし、このぎあし
くさふらはば、うぢせたをかためられて、じんばのあしをつからかして、しづかにみやこにてごかつせんあつて、もしわうばふつきさせたま
はば、おのおのぢんとうにてはらをきり、なをとめかばねをうづむべしと、ことばをはなしてぞまをしける。ゐんきこしめされ、このり
やうでうにすぐべからず、ただしいまは、かたきあふみのくににいりぬらん、うつてをさしむくとも、いくほどのくにをしたがへん、うぢ
せたをかためて、みやこにてかつせんもこころせはし、ただかたきのあはんところまではつかうすべきよし、おほせくださる。たねよしこのおんはらかひ、しか
るべしとぞまをしける。しげただばかりぞ、りやうじようまをさずつぶやきける。ひでやすかつせんのそうぶぎやうにて、たねよし、もりつな、しげ
ただいげ、六ぐわつみつかうのこくに、みやこをたつておなじきよつか、をはりがはにつき、てんてをわかつておほゐとのわたりはせんだうの
てなり、このてにしゆりのだいぶこれよし、そのこするがのたいふのはうぐわんこれのぶ、ちくごの六らうさゑもん、かすやの四らうさゑもんのぜうひさすゑ、P634
さいめんのものせうせう、そのせい二千よき、うるまのわたりにはみののもくだい、たてはきのさゑもんのぜう、かんちのくらうどにふだう二千よき、
いきかせにはあさひのはうぐわんだいよりきよ、せきのさゑもんのぜうまさやす一千よき、いたはしにはときのじらうはうぐわんだいみつゆき、かいてんの
たらうしげくに一千よき、まめとはおほてとて、のとのかみひでやす、三うらのへいくらうはうぐわん、やましろのかみひろつな、たねよし、ささきしもふさの
ぜんじよりつな、おなじくやたらうはうぐわんたかしげ、あきのそうないさゑもん、かがみのうゑもんのぜうひさつな、や二らうさゑもんもりとき、あすけの
二らうしげなり、さいめんのともがら、せうせうあひぐし一萬よき、ひえしまにはながせのはうぐわんだいしげたらうのさゑもんにふだう五百よき、しきの
わたりに、あきのたらうにふだう、うすゐのたらうにふだう、やまだのさゑもんのぜう五百よき、すのまたには、かはちのはうぐわんひですみ、やまだのじらう
しげただ、ごとうのはうぐわんもときよ、にしごりのはうぐわんだいよしつぎ、さいめんせうせうあひぐしてそのせい三千よき、いちわきにはかとういせのぜんじみつ
さだ、いせのくにのぢうにんあひぐしてそのせい一千よきにすぎざりけり。とうごくよりのぼるところの一かたのせいのはんぶんにだにもおよ
ばず。ちよくめいのかたじけなき、ゆみやのなをしくて、おもひきりてぞくだりける。ゐんのおんはた、あかぢのにしきにひれとこん
がうれうをゆひつけて、なかには、ふどうみやうわう四てんわうをあらはしたてまつりたるはたとながれを、十にんにたまはりけり。わたくしの
いへいへのもんのはたさしにそへたり。おびただしくぞみえたりける。

高重討死の事 12

五ぐわつつごもりに、とうごくよりのたいしやうさがみのかみむさしのかみ、とほたふみのくにはしもとにつきたるひ、きやうがたしもふさのぜんじのらうどう、つつゐの
四らうたらうたかしげといふもの、そのじぶんとうごくへくだりけるが、このことをききてはせのぼるに、たいぜいにみちはとられぬ、のがれゆくP635
べきやうなくて、せんぢんのせいにまぎれてはしもとにつきにけり。いまはのがればやとおもひてたちあがりむまのはるびつよくしめ、
たかしのやまにうちあげあゆませゆく、そのせい十九きなり。さがみのかみこれをみたまひて、このせいのうちにときふさにあんないを
ばはからずして、はせゆくこそあやしけれ、とめよとのたまへば、とほたふみのくにのぢうにんうちだの四らうまをしけるは、するがのぜんじ
のまをされさふらひしみかたのたいぜいのなかに、きやうがたさだめてあるらん、みちみちやどやどごようじんあるべし、わかげのおんこと、
おんこころもとなきぞとまをしさふらひつるものをといひもあへず、むちをあげておひかくる。つつゐこれをばしらず、うちす
ぎうちすぎゆくほどに、をとがはといふかはばたに、をかのありけるにおりゐて、いまはなにごとかあるべきとて、むまの
あしやすませてゐたるところに、よろひきたるもの、けはしげにきたる。なにさまにも、たかしげとめにくるものとおぼえたり
とて、かたはらにこやのありけるにいつて、もののぐするところに、うちたふしよせて、このいへにこもりつるは、いづくのぢ
うにん、けうみやうをは、いかやうのひとにて、おはするぞ、たいしやうのおほせをかうむりて、とほたふみのくにのぢうにん、うちだの四らう
がまゐりたりといひければ、つつゐすすみいでうちわらひて、かねてはよもしりたまはじ、ささきのしもふさのぜんじ
もりつなのらうどうに、つつゐの四らうたらうたひらのたかしげとまをすものぞ、かのたいぜいをかたきにして、きやうがたにさせんとする
より、かかることあんのうちなりとて、うちだの六らうがむないたかけず、もとはずのかくるるまでいたりければ、すこしも
たまらずおちにけり。これをみて六十よき、すこしもひるまずかけいりける。あはのくにのぢうにん、くんしのたらう
といふもの、こやにいりければ、たかしげゆみをうちすててくみあひけるが、さしちがへてぞししにける。たか
しげがらうどう七にんは、ともにうたれにける。のこる十二き、にぐるかとみるところに、さはなくて、たいぜいのうちにP636
いり、一きものこらずうたれにけり。十九にんがくび、ひとところにかけてけり。そののち、さがみのかみむさしのかみとほりたまひて、
これをみて、しうじうともに、だいがうのけなげなるものかなと、かんじたまひける。

尾張の國にして官軍合戰の事 13

六ぐわつ五かたつのこくに、をはりの一のみやのとりゐのまへに、くわんとうのりやうしやう、ときふさやすときいげ、みなひかへて、てんでをわ
けてけり。かたきすでに、をはりみかはとうにむかひたる、おほゐとをば、せんだうのてにあつべし、うるまのわたりは、もりのにふ
だう、いきがせには、あしかがのむさしのぜんじよりうぢ、あすけのくわんじや、いたはしには、かののすけにふだう、まめとはおほてなりとて、
むさしのかみやすとき、するがのぜんじよしむら、いづするがりやうごくのせい、はせかかりて、いよいようんかのせいになりにけり。すのまたには、
さがみのかみときふさ、じやうのすけにふだう、とほたふみのくにのせいにみしまあたり、えどかはごえのともがら、あひぐしてむかひたり。てんでにわけ
らるるとき、いくさはせんだうのてをまちて、ところどころのやあはせたるべしと、むさしのかみふれられけり。おほしほのたらう、うらた
のや三らう、くせのさゑもんじらう、わたりわたりによせたりけれども、せんだうのてをあひまちて、ひかへたるところに、まめとの
て、かたきむかうにありとみて、たいしやうのゆるしなきに、さうなくかはをはせわたし、やがてうちちがへけり。むさしのかみこれをみておほきに
いかりて、いくさをするもやうにこそよれ、さしもおさへよと、あひづをさしたるかひもなく、いくさをはじめて、わたりわたり
をさわがせんこと、べんごさうゐしてんず、かへすかへすりよぐわいなりとのたまへば、しづまりぬ。ここにきやうがたより、あさいな三らう
たひらのよしすゑとなのつて、や一つ、むさしのかみのぢんのうちへいわたしたり。とりてみれば、十四そく二つぶせなP637
り。やすときこのやをみて、おほきにわらひて、あさいなはゆみはいざりけり、やつか十二そくにすこしはづみたるばかりな
り、これはみかたをぐさせんとて、はかりごとにしたるなり、たれかかへすべきとのたまへば、するがのかみやすむら、つかまつらんと
ぞまをされける。やすときあるべからず、ごへんだちのとほやのいごときはまりたらんときなり、かはむらの三らう、
このやいかへすべきとおほせければ、いかへしけり。またせんだうのてに、せきのたらうといふもの、かたきありときいて、
三てがひとつになりてはせむかふ。をがさはらのじらうながきよ、ぶし八にん、たけだの五らうのぶみつ、ぶし七にん、なごの
たらう、かはちのたらう、にのみやのたらう、へいゐ三らう、かがみの五らう、あきやまのたらう、きやうだい三にん、あさりのたらう、なんぶ
のたらう、とどろきのじらう、へんみのにふだう、をやまのさゑもんのぜう、いぐのむまのにふだう、ふせのなかつかさ、
あその四らうきやうだい三にん、もたひのちう三、しがの三らう、しほかはの三らう、やはらのたらう、をやまだのたらう、
や五三らう、こみたのたらう、ちちのたらう、くろがのぎやうぶ、かたぎりの三らう、ながせ六らう、ももさはのさ
ゑもん、うんの、もちづき、やまにてむまどもはせおろし、つかののおほてらに、かたきむかふときいて、おとしたれどもひとも
なし。ひとつがはらといふところに、ぢんをとりて、みつが一てによりあひて、いくさのひやうぢやうす。あすおほゐはわたら
んとて、おのおのやすむところに、たけだの五らうまをしけるは、あすとはのたまひつれども、めにみたるかたきを、いかでか
一よまではのがすべき、ひとをばしらず、のぶみつは、こんにちこのかはをわたらんとて、うちたつて、たけだのこ五らうに、
こころをあはせてすすみけり。二ぢんのてがすすみければ、せんぢんごぢんいかでひかふべきとて、はせゆきけり。かはばたに
はせてみれば、かたきかはばたより、すこしひきあけて、ぢんをとる。かはぎしにふねをふせて、さかもぎをひきたり。たP638
やすくわたるべきやうなし。かはかみのさこん、ちちのや六、ときはの六らう、あかめの四らう、たいどうのにふだう
これつねらわたりけるをみて、かたきのかたより、むしや一にんおこしてまをしけるは、一ばんにわたるはたぞ、かうまを
すは、しなののくにのぢうにん、すはたうに、おほつまのたらうかねすみなりとぞなのりたる。ばんどうよりとりあへず、
とうごくのぢうにんかはかみのさこんちちのや六とぞこたへける。さては一かなれば、ちちのや六をばだいみやうじんにゆる
したてまつる、さこんのぜうをばまをしうくるとて、かはへさとううちつけたり。ちのおもてもふらずをめいてかく。ぬしを
こそみやうじんにゆるしたてまつれ、むまをばまをしうけんとてきつつけのあまり、はのかくるまでいたり。
ちのさかもぎのうへにおりたつて、たちをぬくところを、おちあひてくびをとる。ときはの六らうつづいてより
けるを、五にんおちあひて、くびをとる。あかめのないとうは、これもむまのはらいさせて、かちむしやにてかはをわた
り、むかへのきしにわたりつつ、かたきこれをばしらずしていざりける。たけだの五らうわたらんとしけるに、あひぐしてわた
るともがら、おなじく六らう、ちのの五らうたらう、やしまのじらう、とどろきのじらう五らうをさきとして、百きばかり、かは
なみしろくけたてて、わたらんとしける。かたきこれをみて、かはぎしにあよませ、やさきをそろへて、あめのふるごとくいす
くめられて、かはなかにひかへたり。たけだの五らうがちちのぶみつ、むちをあげて、かはのひがしのきしにひかへて、あぶみふんば
り、いかにこ五らう、ひごろのくちにはにず、かたきにうしろをみせて、ひがしへかへすものならば、のぶみつここにてなんぢ
をうたんずるぞ、ただそのかはなかにてしねやしねや、かへすなとぞをめきたる。こ五らうのぶまさこれききて、
ただしねやしねやものどもとて、一むちあてて百きおなじかしらにわたす。ふねもさかもぎもけちらし、くつばみをならべて、むかへP639
のきしへさとかけあがる。ちちこれをみて、こ五らううたすなとて、一千よきはせわたす。をがさはらのじらうながきよ、を
やまのさゑもんこれをみて、むちをあげてはせつつ、これをはじめとして、せんだうのて五百よきはたのかしらを一にし
て、一きものこらずうちわたり、するがのたいふのはうぐわんこれのぶ、ちくごのさゑもんありなか、かすやの四らうさゑ
もんひさすゑをはじめとして、なををしむともがらども、かへしあはせかへしあはせ、たたかひたたかひたちゆきける。なかにもたて
はきのさゑもんかへしあはせて、ふかいりしてかうつけのたらうにうたれにけり。みののはちやのくわんじや、それもふかいりして、
いづのじらうにうたれけり。いぬたけのこたらういつみつといふもの、おもひきりて、かへしあはせたたかひけるを、しな
ののくにのぢうにんいはまの七らうと、くんでおつるところに、いはまがしそくふたり、おちあひてうつてけり。ちくごか
すやたいしやうにて、しばしこたへけれども、たいぜいになびかされて、ちからなくおちゆきけり。おほつまのたらうは、はじ
めよりいのちをしむともみえざりけり。だいじのておひて、おちもやらず、なかのの四らうと、こしまの三らうと
ふたりつれたりけるが、をがさはらの六らう、それよりまはし、うたんとするをみて、おほつまいひけるは、かね
すみはかたきのてにはかからずして、やまへはせいりて、じがいせん、わどのばら、これよりまめとへおちゆきて、
かつせんのやうを、のとどのいげのひとびとにかたりまをせとて、やまへはせいりけり。ちくごの六らうは、をがさはらの七らうを
ゆんでならべて、きこゆるごしよづくりきくめいのたちにて、をがさはらかどうなかをきりおとさんとしけるが、
うちはづしてむまのかしらをうちおとす。そのひまにしりぞきけり。

P640
秀康胤義落行く事 14

なかのの四らう、こじまの三らう、まめとへはせゆきて、かつせんのしだいをまをしければ、のとのかみひでやすをは
じめとして、くちをしきことかな、さりともとこそおもひつるにとて、あわてさわぐ。たねよしこれをききて、
ただいませんだうのてやぶれぬれば、しもてのてでは、これをきき、しをれおちなん、いざさせたまへ、やたらうは
うぐわん、せんだうのてにむかひて、ささへてみんとて、ときはの七らうあんないしやとして、五百きばかりあ
ゆませけり。そのひよにいりければ、のとのかみしもふさのぜんじいげ、よりあひて、へいはうぐわんは、たのもしげに
いひてむかひつれども、よあけ、せんだうのてあとへまはり、おほてまへよりわたすならば、かくともひくと
もかなふまじ、よにまぎれてここをひきて、みやこにまゐりて、ことのよしをもまをしいれて、うぢせたをかためて、
せけんをしばしみんといひければ、もつともしかるべしとて、おちゆきければ、たねよしもこのこと、われひとりた
けくおもふとも、こころしだいに、すぎもてゆかばかなふまじとて、ここをうちぐしおちてゆく。

阿曾沼の渡豆戸の事 15

おなじき六かのあかつき、まめとにむかひたるばんどうぜいのうちに、むさしのくにのぢうにん、あそぬまのこぢらうちかつなとい
ふものあり。かはにうちのぞんでまをしけるは、せんだうのいくさは、みやうにちとあひづをさしたれども、はやはじまりてP641
さふらひけり。ししたるむまながれたり。せんどうのて、ごぢんにひかへんことこそくちをしけれと、いひもあへず
うちいるる、二ぢんにむさしのたらうときうぢうちいれたまふ。これをみて、三千よきにて、かたきのやかたのうちへ、をめいてか
けいりけり。つはものどもいちにんもみえず、ざふにんども十四五にんぞにげちりける。

承久記 上巻 終

 

入力者:荒山慶一



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