『新・江戸東京研究 近代を相対化する都市の未来』



監修者 陣内秀信
編 者 法政大学江戸東京研究センター
2019年3月29日、法政大学出版局発行
A5、288頁、定価 3600円+税 (EToS叢書1)

目次

新・江戸東京研究の展望 ・・・・・・・・・・・・・・ 陣内秀信

  基調講演

細粒都市 東京とその空間 ・・・・・・・・・・・・・ 槇 文彦
川向こうをめぐる断想 ・・・・・・・・・・・・・・・ 川田順三

  セッション Ⅰ

江戸東京のモデルニテの姿――自然・身体・文化 ・・・・ 我孫子信
この郡市を歩く――江戸東京における時間・空間・モダニティ
       ・・・・・・・・・ ローザ・カーロリ∕木島泰三訳
江戸-東京――サイボーグ郡市? 
・・・・・・・・ チェリー・オケ∕松井久訳
セッション Ⅰ 討論(安孫子信)

   セッション Ⅱ

江戸東京/巨視的時間/脱・近代 ・・・・・・・・・・・ 北山恒
西洋現代郡市の構造的危機――別の近代性を探して
・・・・・・ パオロ・チェッカレッリ 松井久訳 
「動十分心、動七分身(心を十分に動かして身を七分に動かせ)」
――多次元社会を目指して
・・・・・・・・ ロレーナ・アレッシオ/陣内秀信監訳 
創発都市東京――文化横断積断的視点から捉えた、企業型郡市開発に
代わる自然発生的都市パターン
・・・・・・・ ホルヘ・アルマザン∕石渡崇文訳
   セッションⅡ 討論(北山恒)

   セッション Ⅲ

水都の再評価と再生を可能にする哲学と戦略 ・・・・・・ 陣内秀信
新千年紀へのいくつかの指針 ・・・・・ リチャード・ベンダー〳木島泰三訳
ミラノの運河再開――未来のための歴史
・・・・・・・ アントネッロ・ボアッティ/松井久訳 
〈水都学〉のアジアから再発見する東京の可能性 ・・・・ 高村雅彦
   セッション Ⅲ 討論(陣内秀信)

あとがき(陣内秀信)

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あとがき

 法政大学に、文部科学省私立大学研究ブランディング事業(平成二九年度選定
「江戸東京研究の先端的・学際的拠点形成」)として「江戸東京研究センター」が
昨年一月に設立され、それを記念する国際シンポジウム「新・江戸東京研究――
近代を相対化する都市の未来」が、二月二十五日に法政大学薩埵ホールで開催さ
れた。本書はその成果をとりまとめたものである。
 近年、東京に対する海外の人々の注目度は、ますます高まっているように見える。
長い聞、世界の都市モデルとされてきた西洋の都市自体が文明の限界を感じ、新た
な生き方を求めている。自然と都市を対立するものと捉える志向性をもった西洋と
異なり、水や緑を都市空開のなかにしなやかに取り込み、自然と共生する生活文化
と美意識を育んできた江戸東京の都市の独特の姿、仕組みが再評価されている。
 こうして世界からも注目を集める重要な都市であるにもかかわらず、この東京の
もつ特徴、資質、そして抱える問題と近未釆への可能性を正面から研究する機関、
組織は存在していない。我々の法政大学江戸東京研究センターは、そうした役割を
担う研究組織として誕生した。
 その設立記念シンポジウムの実施にあたって、準備期間が限られていたが、国内
外からこのテーマにふさわしい専門家、研究者を数多く招き、江戸東京研究の新た
な枠組みやその可能性についてたくさんの示唆をいただき、活発な議論を展開する
ことができた。
 二部構成からなるその内容をごく簡単に振り返っておきたい。午前の第一部では、
二人の基調講演が行われた。文理融合の学際的な討論の場らしく、また多面性をも
つ東京の都市空間を考察するのにふさわしく、先ずは、世界的な建築家で山の手文
化を代表する槇文彦氏が「ヒューマニズムの建築を目指して」と題し、次に、著名
な文化人類学者で下町文化を象徴する川田順造氏が「『川向こう』をめぐる断想」
と題して実に興味深い講演をされ、多様で奥深い江戸東京の都市としての魅力と特
質が存分に描き出された。なお、この部分については、お二人の語りの臨場感を大
切にし、講演録をもとに「です」「ます」調の表現をとることにした。
 午後の第二部では、江戸東京を取り巻く三つの異なる主題を設定した。セッショ
ンⅠは、安孫子信氏をコーディネーターに「江戸東京のモデルニテの姿ーー自然・
身体・文化」と題し、フランス人哲学者で日本、東京の文化状況に詳しいチェリー
・オケ氏、日本の近代史が専門で東京の都市空間にも関心を深めるイタリア人のロー
ザ・カーロリ氏を招き、様々な問題が議論された。日本の文化的特質から、西洋的
概念の流入過程を再考することで、東京の近代化を相対化するためのビジョンが示
された。
 セッションⅡH主題は、北山恒氏をコーディネーターとする「江戸東京の巨視的
コンセプト Post‐Western/Non‐Western」である。イタリアを代
表する都市計画家で日本を含む非西洋世界にも詳しいパオロ・チェッカレッリ氏、
比較的若い世代で東京の祁市空間研究にも実践的に取り組むイタリア人のロレーナ・
アレッシオ氏とスペイン人のホルヘ・アルマザン氏を招き、明治維新以降、東京を
変貌させてきたモダニズムを振り返り、江戸から現代への連続性のなかでこの都市の
文化状況を相対化することが試みられた。
 最後のセッションⅢでは、陣内がコーディネーターをつとめ「水都の再評価と再生
を可能にする哲学と戦略」が主題とされた。米国を代表するアーバン・デザイナーで
東京の都市開発に関してもしばしばアドバイザーを務めてきたリチャード・ベンダー
氏、ミラノの運河再生にライフワークとして取り組むイタリア人のアントネッロ・ボ
アッティ氏、中国をはじめアジア各国の水の都市を研究する高村雅彦氏による米国、
欧州、アジアと日本を比較するダイナミックな議論を通じて、都市の基盤構造として
の水が都市形成やコミュニティ形成に果たしてきた役割を再確認するとともに、近代
が喪失した水辺空間を復権する道筋が論じられ、江戸以来の歴史的経験を活かした東
京の水都の再生へのビジョンが示された。
 本書には以上の内容が収められている。なお、第二部については、各パネリストに
シンポジウムでの発表内容にもとづき、文章として新たに書き起こしていただいた。
 法政大学江戸東京研究センターとしては、様々な研究活動の一貫として、こうした
国際シンポジウムを継続的に開催し、その成果を公表していくことを考えている。忌
憚のないご意見、ご批判をいただければ幸いである。
 この国際シンポジウムの開催、及び本書の刊行に際しては、多くの方々にお世話に
なった。先ずは、建築・都市論の分野で世界を舞台に活躍し、国際シンポジウムを数
多く手がけてきた太田佳代子氏に企画段階から中心に入って協力いただき、プログラ
ムづくり、講師依頼、同時通訳の依頼、広報活動、シンポジウム当日の運営など、多
岐にわたりご尽力いただき、また本書刊行に際しても多くの貴重なアドバイスをいた
だいた。厚くお礼申し上げる。そして、法政大学江戸東京研究センター事務室の倉本
英治氏をはじめ多くのスタッフの方々に大変お世話になった。特に、鈴村裕輔氏には
基調講演者、パネリストとのシンポジウムでの発表、及び書籍化に際しての様々なや
り取りで多大なるご協力をいただいた。深く感謝したい。
 最後に、本書の刊行を快くお引き受け下さった法政大学出版局の編集長、郷間雅俊
氏、その編集作業を精力的かつ大変丁寧に担当して下さった高橋浩貴氏に心よりお礼
申し上げたい。             陣内秀信