『花の幻――評伝・原民喜』
小野恵美子 著
2013年8月15日、土曜美術社出版販売発行
新宿区東五軒町3−10
電話 03−5229−0730
B6判、168頁、定価1800円+税
目 次
はじめに ………………………………………………………………… 3
T 貞恵の死 …………………………………………………………… 10
U 被爆地広島 ………………………………………………………… 32
V 八幡村 ……………………………………………………………… 50
W 小説『原子爆弾』 ………………………………………………… 72
X 「三田文学」 ……………………………………………………… 92
Y 「鎮魂歌」 ………………………………………………………… 108
Z ペンマンとして …………………………………………………… 124
[ 朝鮮戦争勃発 ……………………………………………………… 140
\ 訣別 ………………………………………………………………… 152
あとがき ………………………………………………………………… 166
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はじめに
原民喜は、優れた散文詩の書き手であった。玻璃のような透明感を漂わせ、対象の内へ内へと深く入りこみ、果ては作者自身も一体と化す。考えようによっては、このあり方は危険かもしれない。だが、収斂度の高さにおいて比類がなく、若かった私はすっかり心を奪われてしまった。
それは、民喜の人生を象徴していた。あってはならない過酷な被爆体験も、彼の本質まで変えることはできなかったのである。現実の捉えようが卓抜したものであっても、その長期化に耐えられなかった。民喜は独自の方法で生命を閉じる。それは決意といってよい。被はほほえみをもって実行する。どう膀られようが、彼にとって、彼岸への歩みは、自己の文学を再現するための旅立ちであった。結局、民喜は全身感性の人であった。
読み易さを心がけ、あえて評伝小説の形をとった。少年期や句作への言及は省き、貞恵との別れから書き起こした。生活能力のない夢想家が、力強い伴侶を失い、さらに、誰も経験したことのない原爆体験からどう立ちあがるか。これが私の最大の関心事であったからだ。
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著者略歴
小野恵美子(おの・えみこ)
1949年 栃木県生まれ。
著書 詩集 『昼の記憶』、『らくだ』、『平熱』、『赤い犬』