『尾張狂俳の研究』  椙山女学園大学研究叢書 31
   冨田 和子 著

                2008年3月24日・勉誠出版発行
                A5判・744頁・定価17000円+税



尾張狂俳の研究 目次

 序 鈴木勝忠 (1)

   論文編

 序章 研究の視点と方法 ………………………………………………   3

  第一節 研究の立場と範囲 5
   一 研究の立場と範囲 5
   二 狂俳の短詩形文芸における位置 11
   三 狂俳の引札 16

  第二節 現代に見る狂俳形式と興行形態 31
   はじめに 31
   一 尾張・西三河地域の年代別人口分布 32
   二 岐阜地方の年代別人口分布 41
   三 現代の狂俳の特色 54
   (1)狂俳と冠句 54
   (2)題と撰句 58
   四 現代の狂俳句会 60
   (1)尾張・三河地域の句会 60
   (2)岐阜地方の句会 66
   五 史的伝承とその後のあゆみ 70
   まとめ 76

  第三節 雑俳研究史と狂俳研究史 81
   一 雑俳研究史 81
   二 狂俳研究史 91

第一部 千里亭芝石とその狂俳 ………………………………………  99

 第一章 狂俳の背景――芝石と月次五題―― 101
  はじめに 101
  一 暮雨巷と「月次五題」の継承 102
  二 芝石と天保八年『月次五題』の周辺 105
  三 名古屋の愛好者の俳諧意識 111
  まとめ 113

 第二章 狂俳の俳諧への接近 119
  はじめに 119
  一 芝石伝と俳歴 120
  二 樗良始祖説と撰句基準「元祖無為庵遺訓」 141
  三 芝石の撰句例 146
  まとめ 153

 第三章 芝石の狂俳撰集―『太箸集』『潮の花』『続太箸集』他― 159
  はじめに 159
  一 『狂俳冠句 太箸集』と『続太箸集』 160
  (1)継続発行の目的と形態 160
  (2)集句範囲 163
  (3)入句状況 163
  二 『狂俳冠句 太箸集』及び『続太箸集』における撰句の配列 172
  三 『海陸集』『潮の花』『萬句集』における撰句の配列 178
  まとめ 180

第二部	天保期の名古屋狂俳の趨勢 …………………………………… 183

 第一章 名古屋天保期の狂俳点者とその狂俳 185
  はじめに 185
  一 五人の点者について 187
  二 真酔・麦袋・増井の句に見る〈間〉 192
  三 個々の句に見る〈間〉 196
  まとめ 199
    
 第二章 萬巻堂出版書目にみる名古屋狂俳の趨勢 203
  はじめに 203
  一 萬巻堂の狂俳書広告をもとに 204
  (1)静観亭撰『をだまき集』の刊行時期について 204
  (2)柳江庵撰『増かゞみ』の刊行時期及び未見の
     天保期の刊行書 209
  二 萬巻堂版の狂俳書の再版 214
  (1)静々舎撰『花の魁』の刊行時期 214
  (2)出版広告にみる萬巻堂版の狂俳書再版 219
  三 奥付にみる萬巻堂の販売網 223
  まとめ 225

 第三章 『狂俳天狗七部集』の天狗たち 229
  はじめに 229
  一 天狗たちの狂俳句作活動の地盤と参加傾向 230
  二 『狂俳たまかしは』と『狂俳をだまき集』の天狗たち 242
  まとめ 248

 第四章 『狂俳 相撲競』『狂俳 力競画像集』 251
  はじめに 251
  一 相撲巻の興行 252
  二 天保七年仲冬開巻「狂俳 相撲競」 254
  三 天保七年版と天保十二年版の興行地盤 258
  四 狂俳撰集にみる入句状況 262
  五 『狂俳 力競画像集』初編 270
  六 上位句評価の傾向と編者呉鶴 273
  まとめ 278

 第五章 石橋庵真酔の文芸活動――狂俳の流行を絡めて―― 283
  はじめに 283
  一 著作類と発表方法 285
  二 真酔の名古屋中心意識 296
  三 号譲りに見る真酔の評価――後継者養成―― 300
  まとめ 305

第三部 芝石以後の狂俳界の動向 …………………………………… 311

 第一章 「水の音」「狂俳」「自由塔」と「樗流」 313
  はじめに 313
  一 「水の音」の混乱 314
  二 「水の音」「狂俳」「興俳雑誌 自由塔」にみる
     名古屋狂俳界の気風 335
  三 岐阜狂俳と「樗流」――その姿勢 340
  四 「自由塔」と「樗流」 346
  まとめ 348

 第二章 『俳諧単句 皇國俳人全揃集』 351
  はじめに 351
  一 選者貫々居一斎 352
  二 編者春日亭梅楽 355
  三 『俳諧単句 皇國俳人全揃集』に見る勢力範囲と構成員 358
  (1)勢力範囲 358
  (2)年齢層 370             
  (3)職業・社会的地位等 375
  (4)愛好者の俳諧との関りと風貌 376
  四 一斎の撰句の紹介 382
  まとめ 387

 第三章 『狂俳 眠りざまし』『この花集』『類題花の魁』 391
  はじめに 391
  一 『狂俳 眠りざまし』初編の確認 392
  二 狂俳における令雅の文明開化 397
  三 『この花集』と『類題花の魁』 404
  (1)編集方針 405
  (2)組連主催の興行形態の一端 411
  四 『この花集』と『類題花の魁』の差異 413
  五 巻頭・巻軸の句 422
  まとめ 429

 結 433

    資料編

  一 狂俳書一覧(江戸時代後期から明治初期まで)
              ――方言資料として―― 441
   はじめに 441
   一 狂俳書の形式別にみる所在地表記の特色 442
   二 名古屋城下の所在地表記の省略 444
   三 一覧表に見る傾向 445
   まとめ 446
  二 芝石の俳諧句一覧 483
  三 芝石の俳諧句を採取した俳書の所在一覧 537

  四 翻刻 555
    1《翻刻》『狂俳 海陸集』とその紹介 555
    2《翻刻》『晩湖居士追福 狂俳萬句集』とその紹介 589
    3《翻刻)『眠りざまし』五編 629
    4『俳諧単句 清原集号外 皇國俳人全揃集』
     〔明治二十三(一八九〇)年刊〕巻末名簿 663

  五 狂俳書解題 677

   主要参考文献 709
   初出一覧 725
   あとがき 731
   索引 左1
……………………………………………………………………………………
序
                               鈴木勝忠

 従来、通俗文芸として軽視され、問題にもされて来なかった「尾張狂俳」を標題とする本書が、著者の努力によって、総合研究書として世に出ることになった。学会初めての業績として、特筆すべきことであろう。狂俳の足跡をたどり、実態の検証と地道な調査をつみ重ね、資料の蒐集・整理に楽しみをもって当って来た著者の達成感を、今ここに共有できるのは幸せである。
 想うに、連歌俳諧が現代に残した二大様式がある。四季諷詠を基調とし、広く自由律をも併せ持って、無季の川柳的世界までも許容するまでになっている「俳句」と、「うれしがりけり」などの人情題、「忙しいこと」などの生活題を切り捨てて、滑稽俳句として独詠化した「川柳」との二つである。
 この二様式に伍して、第三の分野に「狂俳」のあることは見逃せない。連句の基本には、付け合いがある。題と付句の間の滑稽と共感を楽しむ連想ゲームなのである。著者のいう「狂俳(冠句)は、間(ま)の文芸」という本質論は、この辺の事情を物語っているので、「狂俳」が、連俳の嫡子であることの証言なのである。
さて、本書の目次を一覧すると、典型的な研究書を形式的に踏襲して安心しているかに見える。序章の「視点と方法」に総括できるというのであろうが、単発恣意の既出の論文を並べて「序論」を成すのは、初めから無理の相談といえるだろう。論が無いと研究はできないというのは過信であり、個々単独な主張がある方が自然なのである。レポートには、調査報告としての価値があり、                                                 読者にはその興味の所在によって個別の評価と受けとめる方あるはずである。 
 狂俳の第一人者、中興の祖千里亭芝石に目を向けた第一部第二章は、本書の中軸である。
蕉門俳人士朗の門人芝石は、いわゆる天保俳諧の只中に居た。子規が月並調として、その俗情を嫌みとして否定した時代相の中で、まず発句点者として立ち、季題と人情の交感を可として、共通の表現手段をもった狂俳に転向したのには、何の抵抗もなかった筈である。むしろ、俳諧継承者として自負があったと見える。俳諧性即通俗性という認識は、方言(口語調)を積極的に採用する実践として承認できるものなのである。
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冨田和子(とみた かずこ)
   
1959年、愛知県に生まれる。
椙山女学園大学文学部卒業。名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。
博士(人間文化)。現在、椙山女学園大学現代マネジメント学部助手。
本書所収以外の論文に、「名古屋から見た「江戸俳諧」――川柳風狂句流行――」(「川柳学」2 川柳学会編・新葉館出版 2005年12月)、「上方における「カサ付」の用字の変遷――「笠」と「冠」のイメージー――」(「会報 大阪俳文学研究会」40 2006年10月)など。同じく辞典に、久保田淳・野山嘉正・堀信夫編『日本秀歌秀句の辞典』(小学館 1995年3月)に「青竹にかゝやく菊の盛りかな」含め40句を執筆担当。
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 本書は、平成17年3月に名古屋市立大学から博士(人間文化)を授与された折の、学位請求論文「幕末名古屋俳諧の研究――芝石狂俳を中心に――」をもとにしてまとめたものである。
                                   
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