江戸時代の遊女の句(発句・俳句)
菊池眞一
『別世界』第二巻第八号(明治27年8月5日)に
神垣茂文による「古代遊女句集」という一文がある。
古代とは大げさだが、江戸時代のこと。出典が示されていないのが残念。
古代遊女句集
おはぐろ溝の市隠
神垣茂文
一双の玉手を千人の枕に貸し、半点の朱唇を万客の口に接す、憂を忍んで客と楼に笑ふもの必ずしも真の嬉しきに非ず、涙を先立てゝ間夫と籬に泣くものにも他の知らぬ楽みは存するなり、わきて思ひを文筆に寄せ情を詞藻に傾くる遊女は、口吟の上に思ひの丈を露はすもの古来尠からず、言葉の様に書く文もト端唄にまで笑はるゝが十の七八なる中に殊勝にも水茎の跡数十百年の後に迄香り其心栄の程もおし計られて憐れなるもの乏しからず、予(おのれ)そを諸書より見当りしまゝ元禄より嘉永に至る遊女の口吟を蒐めて世の銕釘流の花魁(是は失礼)達に示さんと云爾
君は今駒形あたり時鳥 高尾
思ふ事積みては崩す炭火哉 都路
猪に抱れて萩の一夜かな 高尾
受出さるゝ時
夢に夢見る心地なり花の籠 勝山
宵々の待身につらき水鶏哉 若糸
青柳や我髪洗ふ橋のもと 花扇
袂にも包みあまるや筑摩鍋 諸越
情夫の家に忍びし夜半の吟
忍ぶ身に嬉しき雨ぞ時鳥 雛鶴
初雪や誰が心も一とつ夜着 薄雲
我形を恨みつ風の糸柳 松山
吾茶の湯路次は桜の仲の町 賤の尾
夕立や嘘の様なる日の光 瀬川
懸想せし人に恥ぢしめ与へし句
心にも錦着せばや松のうち 粧
恋死なば我墳で啼け時鳥 奥州
磨々の木賊の中や露の月 長尾
親の全快を喜びて
蜘蛛の巣の塵も見透や月今宵 若妙
なまめかす心恥かし女郎花 常夏
後朝の雨は涙かほとゝぎす 蔦之助
我罪を宥させ給へ寒念仏 黛
ゆく水の一夜どまりや薄氷 初瀬川
春の夜や大名衆も知らぬ夢 橋立
春風や花には花の合しらひ 花紫
愛猫死して後又猫来り前猫と能く似たるを喜び女達に着物を贈るとて
恋猫に見せばや紋の影日向 小車
2016年1月18日公開
et8jj5@bma.biglobe.ne.jp
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