露伴『江戸紫』序

                        

菊池眞一


大島宝水著『江戸紫』(大正元年11月1日発行)に露伴の序文がある。
『露伴全集』第32巻「小品」の部、523頁にこの文章が載っているが、巻末後記には、

「江戸紫」「庭園」はともに初出未詳、

とある。初出は大島宝水著『江戸紫』(大正元年)であるから、「小品」部ではなく、「題跋」部に載せるべきであろう。

以下、露伴による『江戸紫』序を引く。『露伴全集』では最後の三行が欠けている。


桜の下の小袖幕、重箱の蒔絵に春の日光る長閑さは、京都のやさしみにて、高楼の歓笑、美妓の絃歌、床の大瓶の花に銀燭の影ゆらめくは浪華の伊達なるべし、そよ風渡る武蔵野のはらの広さに、気ぐらゐ高き富士を取り込み、むらさき匂ふ筑波の色気をちよつと加へし大庭に、太平の霞を張らせ、自由の蝶を飛ばせて、たゞ無造作の花に樽、酔うて罪なき顔を見するかゞみはこゝと打こんで、彼の無分別のおやぢが褒めしは、江戸の風情のたゞ中なるべし。
  花の三都の賛一篇宝水子におくりて江戸紫題言に代ふ。
   子どし暮春
                      露伴迂人



2016年8月29日公開

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