尾崎紅葉作長唄

               菊池眞一


 紅葉作の長唄について、岩波書店『紅葉全集』第九巻では、
明治三十三年二月二十八日大阪毎日新聞 にあるとした、
明治三十六年十一月十五日刊『草茂美地』(冨山房)を引用している。
 同書解題では、

初出未詳。『草茂美地』に収録。このうち「長唄色直老木緑」の記事の末尾には「卅三年二月廿八日 大阪毎日所載」とあるが、同日の紙面には掲載されていない。

とする。

 早稲田大学図書館蔵『温故雑帖 第六』及び『知新帖 二』に、初出と思われる摺物があるので、ここに紹介する。宴当日に配られたのか、後日かは不明だが、明治三十三年内のものだろう。『草茂美地』とは表記が若干違う。



於加賀氏結婚
五十週年立架

 色直老木緑

     紅葉山人作



新作長唄
色直老木緑

千とせのみどり色ふかき木の下蔭に偕老(かいらう)のしろき頭(かしら)をめぐらせば浮世はるかに遠霞花によう似た妹と背の契久しき五(いつ)むかし噺の種の爺婆が一期(いちご)さかえて枝も葉も茂る男松(をまつ)は柴刈る山に衣を濯(すゝ)ぎし其川の岸の姫松幾世へて。猶相生のかはらじとけふを常盤の色なほしざゝんざ謳(うた)ふ時津風酌みかはしたる下露のかゝる処に花が咲き候黄金(こがね)の花がげにげに是は不老門の道芝よてもさても見事な黄金ばな一枝折りておましよ簪(かざし)の花嫁御おゝはづかしと葉隠のお月さまさへいつまでも若うてござる朧染(ぞめ)こちはいとしと口軽に千代よぶ鶴もむつましう比翼の影やさし寄(よ)りて昔を今のさゝめ言花葉(くわえふ)時を分かずしてその気色とこしなへなる若夫婦家のはしらは弥生(いやおひ)の春のまとゐぞ楽しき





菊池眞一
2016年12月9日公開


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