平家物語(城方本・八坂系)
巻第一
祗園精舎(序文)
ぎをんしやうじやのかねのこゑしよぎやうむじやうのひびきありしやらさうじゆのはなのいろしやうじやひつすゐのことわりをあらはすおごれるものもひさしからずただはるのよのゆめのごとしたけきものもつひにはほろびぬひとへにかぜのまへのちりにおなじとほくいてうのせんしようをとぶらふにしんのてうかうかんのわうまうりやうのしういたうのろくさんこれらはみなきうしゆせんくわうのまつりごとにもしたがはずたのしみをきはめててんかのみだれむことをもさとられいさめをもおもひよらずみんかんのうれふるところをもしらざりしかばひさしからずしてほろびにしものなりちかくほんてうをうかがふにしようへいにまさかどてんぎやうにすみともかうわのよしちかへいぢにのぶよりこれらはみなおごれることもたけきこころもとりどりなりしかどもまぢかくはさきのだいじやうだいじんたひらのあそんきよもりこうとまをししひとのありさまをつたへうけたまはるこそこころもことばもおよばれねそのせんぞをたづぬるにくわんむてんわうだいごのわうじいつぽんしきぶきやうかつらばらのしんわうくだいのこういんさぬきのかみまさもりのまごぎやうぶきやうただもりのあそんのちやくなんなりかのしんわうのおんこたかみのわうはむくわんむゐにしてうせたまひぬそのおんこたかもちのわうのときよりはじめてたひらのせいをたまはつてかづさのかみになりたまひしよりこのかたたちまちわうしをいでてひさしくじんしんにつらなるそのおんこちんじゆふのしやうぐんよしもちのちにはひたちのたいぜうくにかとあらたむくにかよりさだもりこれひらまさのりまさひらまさもりにいたるまでろくだいはしよこくのじゆりやうたりといへどもいまだてんじやうのせんせきをばゆるされず

殿上闇討
しかるをただもりのいまだびぜんのかみたりしときとばのゐんのごぐわんとくちやうじゆゐんをざうしんして三拾三げんのみだうをたて一千一たいのみほとけをすゑたてまつるくやうはてんしようぐわんねん三ぐわつ十三にちなりただもりけんじやうにはけつこくをたまふべきよしおほせくだされさふらふをりふしたじまのくにのあきたりけるをぞたまはりけるじやうわうなほえいかんにたへずしてうちのしようでんをぞゆるされけるただもりとし三拾六にしてはじめてしようでんすくものうへびとこれをそねみいきどほつておなじきとしの十一ぐわつ廿三にち五せちとよのあかりのせちゑのよただもりをでんじやうにしてやみうちにせんとぞぎせられけるただもりこのことをほのぎいてわれいうひつのみにあらずぶようのいへにむまれてふりよのはぢにあはんこといへのためみのためこころうかるべしせんずるところみをまつたうしてきみにつかへよといふほんもんありとてかねてそのよういをいたすさんだいのはじめよりいくわんのしたにおほきなるさやまきをしどけなげにさしつつひのほのくらきかたにむかひてはやはらかのかたなをぬきいだしびんにひきあてひきあてしたまひけるがよそよりはこほりなんどのやうにぞみえししよにんめをすますまたただもりのらうどうにもとは一もんたりしむくのかみたひらのさだみつがまごしん三らうだいふいへふさがこにさひやうゑのぜういへさだとまをすものありとくさのかりぎぬのしたにもえぎのはらまきをきゑふのたちわきばさんででんじやうのこにはにかしこまつてぞさふらひけるくわんしういげあやしみをなし六ゐをもつていはせけるはうつぼばしらよりうちすずのつなのへんにほいのもののさふらふはなにものぞらうぜきなりまかりいでよといはせければいへさだかしこまつてまをしけるはこれはさうでんのしゆびぜんのかうのとののこんやこれにてやみうちにせられたまふべきよしをつたへうけたまはつてならんやうをみんとてかくてさふらへばえこそまかりいづまじけれとてかしこまつてぞさふらひけるこれらをよしなしとやおもはれけんそのよのやみうちなかりけりただもりごぜんのめしについてまはれけるにひとびとひやうしをかつて(イかへて)いせへいしはすがめなりけるとぞはやされけるこのひとかたじけなくもかしはばらのてんわうのみすゑにてはおはしけれどもまぢかくはむげにくだつてくわんともあさうみやこのすまひもうとうとしくいがいせにのみぢうごくふかきひとにておはしければかのくにのうつはものへいしにたとへていせへいじとははやされけりそのうへただもりのかためのすこしすがまれたりければにやかやうにははやされけりただもりいかにすべきやうもなうていまだぎよいうもをはらぬさきにごぜんをまかりいでられけるにいかがはおもはれけんよこたへさされたりつるかたなをばししんでんのごごにしてとのもづかさにあづけおきてぞいでられけるあんのごとくいへさだまちうけたてまつつてさていかにさふらふとまをしければただもりこのことありのままにいひつるほどならばでんじやうまでもきりのぼらんほどのもののつらたましひなりければいまはべちのことなしとてひきぐしてぞいでられける五せちにはしらうすやうこぜんじ(イとうせんし)のかみまきあげのふでともゑかいたるふでのぢくなんどかやうにさまざまおもしろきことをのみこそうたひはやされしになかごろだざいのごんのそつすゑなかきやうとまをすひとおはしけりあまりにいろのくろかりければひとこくそつとぞまをしけるこのひとのいまだそのころくらんどのとうたりしときごぜんのめしについてまはれたるにひとびとひやうしをかへてあなくろくろくろきとうかないかなるひとのうるしぬりけんとぞはやされけるならびにはくはつなるでんじやうびとのまはれけるにこのひとのかたうどとおぼしくてあなしろしろしろきぬしかなたれとらへてはくをおしけんとぞはやされけるじやうこにはかやうのことどもありしかどもいまだこといでこずまつだいいかがあらんずらんおぼつかなしとぞひとまをしけるあんのごとく五せちはてにしかばでんじやうにはくぎやうせんぎありそれゆうけんをたいしてくえんにつらなりひやうぢやうをたまはつてきうちうをしゆつにふすることこれきやくしきのれいをまぼるりんめいよしあるせんきたりしかるをただもりさうでんのらうじうをほいのつはものとがうしてでんじやうのこにはにめしおきそのみはこしのかたなをよこたへさいてせちゑのざにつらなるりやうでうきたいいまだきかざるらうぜきなりことすでにちようでふせりざんくわもつとものがれがたしはやくみふだ
をけづつてけつくわんちやうにんにおこなはるべきかとおのおのうつたへまをされたりければじやうわうもおほきにおどろきおぼしめしていそぎただもりをめしておんたづねありければただもりかしこまつてちんじまうされけるはまづらうじうこにはにしこうのことただもりかくごつかまつらずただしきんじつひとびとあひたくまるるしさいあるかのあひださうでんのらうじうことをつたへうけたまはつてしゆのはぢをたすけんがためにただもりにはしらせずしてひそかにさんこうのでうちからおよばざるしだいなりなほそのとがあるべくはそのみをめしつかはすべきは(イか)つぎにかたなのことはとのもづかさにあづけおきをはんぬかのかたなをめしいだしかたなのじつぷにまかせてとがのさうあるべき(べきレある)かとまをされたりければじやうわうこのぎもつともとていそぎかのかたなをめしいだしてえいらんあるにうへはさやまきのくろうぬつたりけるがなかはきがたなにぎんぱくをぞおしたりけるたうざのちじよくをのがれむがためにこしのかたなをたいするよしあらはすといへどもごにちのそしようをぞんじしつてきがなたをたいしけるよういのほどこそしんべうなれつぎにらうじうこにはにしこうのことかつうはぶしのらうどうのならひなりさればこれはただもりがとがにはあらずとてかへつてえいかんにあづかつしうへはあへてざいくわのさたはなかりけり

清盛昇進の沙汰(あひの物)
そのこどもしよゑのすけをへてしようでんせしにひとでんじやうのまじはりをきらふにおよばずあるときただもりあかしのうらのつきみむとてはりまへげかうせられたりけるがほどなうかへりのぼられたりければひとびとあかしのうらのつきはいかにととひたまへばただもりのへんじには
ありあけのつきもあかしのうらかぜになみばかりこそよるとみえしか
とまをされたりければじやうわうもおほきにぎよかんあつてやがてこのうたをばきんえふしふにぞいれられたるまたただもりせんとうにかようてあそばれけるにようばうのもとにみなくれなゐのあふぎのつまにつきいだしたりけるをとりわすれていでられければかたへのにようばうたちあれはいづくよりのつきかげぞやいでどころおぼつかなしなんどわらひあはれければこのにようばう
くもゐよりただもりきたるつきなればおぼろけにてはいはじとぞおもふ
ことをともとかやただもりのすいたりければこのにようばうもいふなりけりかくてただもりにんべい三ねんしやうぐわつ十五にちにとし五十八にてうせたまふきよもりちやくなんたるによつてそのあとをつぐほうげんぐわんねんの七ぐわつにしゆじやうじやうわうのみくにあらそひのありしとききよもりしゆじやうのおんみかたにさふらひてくんこうありつぎのとしはりまのかみにうつつておなじき三ねんにだざいだいにになるまたへいぢぐわんねん十二ぐわつにのぶよりよしともがむほんのときもきよもりなほみかたにさふらひてくんこうありくんこうひとつにあらずおんしやうこれなほおもかるべしとてやがてじやう三みしてうちつづきさいしやうゑふのかみけんびゐしのべつたうちうなごんだいなごんにへあがりあまつさへせうじやうのくらゐにいたるないだいじんよりさうをへずだいじやうだいじんじゆ一ゐにあがりたまひけりたいしやうにはあらねどもひやうぢやうをたまはつてずゐじんをめしぐすれんしやにのつてきうちうをいでいることひとへにしつせいのひとにおなじ

童のさた
だいじやうだいじんはいちじんにしはんとして四かいにぎけいせりみちをろんじくにををさめいんやうをやはらげたまへりそのひとにあらずんばけがすべきくわんならねばそくけつのくわんともなづけられたりきよもりそのひとにはあらねどもかやうに一てん四かいをたなごころににぎりたまひしうへはひととかうまをすにおよばずかくてにんあん三ねん十一ぐわつ十二にちにきよもりやまひにをかされ五拾一にてしゆつけしほうみやうじやうかいとぞなのられけるさればそのしるしにやしゆくびやうたちどころにいえててんめいをまつたうしひとのしたがひつきたてまつることはふくかぜのくさきをなびかすがごとしよのあまねくあふげることもふるあめのこくどをうるほすにことならず六はらどのの一けのきんたちとだにもいひてんしかばくわぞくもえいえうもおもてをむかひかたをならぶるひともなしさればにふだうのこじうとへいだいなごんときただのきやうのこの一もんたらざらんひとはみなにんぴにんたるべしとぞのたまひけるさればいかにもしてこのえんゆかりにむすぼほれむとぞしけるえもんのかきやうゑぼしのためやうにいたるまでなにごともみな六はらやうとだにいひてんしかば一てん四かいこれをぞまなびけるいかなるけんわうせいしゆのおんまつりごとせつしやうくわんぱくのごせいばいをもなにとなくよにあまされたるもののそしりかたぶきまをすことはつねのならひなれどもこのぜんもんよさかりのあひだはいささかいるがせにまをすものなしそのゆゑはにふだうのはかりごとに十四五六のわらんべを三百よにんめしあつめかみをかぶろにきりまはしあかきひたたれをきせかぶろとなづけてめしつかはれけるがきやうしらかはにみちみちてわうへんしけりさればいささかもへいけのことをいるがせにまをすものあれば一にんききいださんほどこそありけれよたうにふれめぐりそのいへにらんにふししざいざふぐをつゐぶくしそのやつをからめとつて六はらへぐしてまゐるにふだううけとらせそくじにうしなはれけりさればみちをすぐるむまくるまも六はらどののかぶろとだにもいひてんしかばみなよきてこそとほしけれさればきうもんをしゆつにふすといへどもしやうみやうをたづねらるるにおよばずけいしのちやうりこれがためにめをそばむともみえたり

我身の栄花
わがみのえいぐわをきはむるのみならずちやくししげもりないだいじんのさだいしやうじなんむねもりちうなごんのうだいしやう三なんとももり三ゐのちうしやう四なんしげひらくらんどのとうちやくそんこれもり四ゐのせうしやうとておよそ一もんのくぎやう十六にんてんじやうびと三拾よにんそのほかしよこくのじゆりやうゑふしよしつがふ六拾よにんなりよにはまたひとなくぞみえられけるむかしならのみかどのおんときじんぎ五ねんにてうかにこんゑのたいしやうをはじめおきたまひしよりこのかたきやうだいさうにあひならびたまふことわづかに三四ケどなりもんとくてんわうのおんときはひだんによしふさないだいじんのさだいしやうみぎによしあふだいなごんのうだいしやうこれはかんゐんのさだいじんふゆつぐのおんこなりしゆじやくゐんのおんときはひだんにさねよりをののみやどのみぎにもろすけ九でうどのていじんこうのおんこなりごれんぜいゐんのおんときはひだんにのりみちおほ二でうどのみぎによりむねほりかはどのみだうのくわんぱくのおんこなり二でうゐんのおんときはひだんにもとふさまつどのみぎにかねざねつきのわどのほうしやうじどののおんこなりこれみなせつろくのしんのごしぞんぼんにんにおいてはそのれいなしひごろはでんじやうのまじはりをだにもきらはれたまひしひとのしそんのいまはきんじきざつぱうをゆりりようらきんしうをみにまとひあまつさへだいじんのたいしやうにいたつてきやうだいさうにあひならびたまふことまつだいとはまをしながらふしぎなりしことどもなりまたにふだうしやうごくはおんむすめも八にんましましけりそれもみなとりどりにさいよはひ(イさいはひ)たまふ一はさくらまちのちうなごんしげのりきやうに八さいよりおんやくそくありしがへいぢのらんにひきちがへたてまつりてのちにはくわざんのゐんのさだいじんどののみだいばんどころにならせたまふきんだちあまたましましけりそもそもこのさくらまちのちうなごんしげのりきやうといふはこせうなごんにふだうしんせいのじなんなりことにこころすきておはしければつねはよしののやまをこひつつちやうにさくらをうゑおきそのうちにやをつくつてすまれければきたるとしのはるごとにみるひとさくらまちとぞまをしけるさくらはさいて七ケにちにちるちうなごんはなのなごりををしみたまひてつねはあまてるおんかみにいのりまをされければにや三七にちまでなごりありきみもけんわうにてましませばしんもしんとくをかがやかしはなもこころあればにや廿かのよはひをたもちけり二はきさきにたたせたまひわうじごたんじやうあつてくわうたいしにたたせたまひしかばひととかうまをすにおよばず三は六でうのせつしやうどののきたのまんどころにならせたまふたかくらのゐんございゐのおんときおんははしろとて三こうになぞらふるせんじをかうぶらせたまひしらかはどのとまをしてよにはまたおもきひとにてぞましましける四はれんぜいのだいなごんりうばうきやうのきたのかた五はふげんじどののきたのまんどころにならせたまふ六は七でうのしゆりのだいぶのぶたかのきやうにあひぐしたまへり七はごしらかはのほうわうへまゐらせたまひてひとへににようごのやうにてぞましましけるこれはあきのくにいつくしまのないしのはらのおんむすめなりそのほか九でうゐんのざふしときはがはらにもひめぎみ一ところましましけりこれはのちにはおんあねくわざんのゐんどのへまゐらせたまひてじやうらふにようばうにてらふのおんかたとぞまをしけるにつぽんあきつしまはわづかに六拾六ケこくへいけちぎやうのくに卅よケこくすでにはんこくにおよべりそのほかしやうゑんでんばたいくらといふかずをしらずきらじうまんしてだうじやうはなのごとしけんきぐんじゆしてもんぜんにいちをなすやうしうのこがねけいしうのたまごぐんのあやしよくかうのにしき七ちん万ぱう一としてかけたることぞなかりけるかだうぶかくのもとゐぎよりようしやくばのもてあそびものおそらくはていけつもせんとうもこれにはすぎじとぞみえし

義王
むかしはげんぺいりやうけてうかにめしつかへてわうくわにもしたがはずてうけんをかろんずるものあればたがひにいましめをくはへられしかばよのみだれもなかりしにほうげんにためよしきられへいじによしともちうせられしのちはすゑずゑのげんじありといへどもあるひはながされあるひはちうせられしかば一かうへいけの一るゐのみはんじやうしてかしらをさしいだすものもなしさればすゑのよになにごとかあらんとぞみえしかやうににふだうしやうごく一てん四かいをたなごころににぎりたまひしうへはよのそしりをもはばからずひとのあざけりをもかへりみずふしぎのことをのみしたまひけりたとへばそのころきやうちうにきこえたるしらびやうしぎわうぎによとておとどいありこれはとぢとまをすしらびやうしのむすめなりにふだうなかにもあねのぎわうをさいあいしてにし八でうのしゆくしよにとりすゑてぞおかれたるかかりければいもうとのぎによをもひとおもうしてもてなすことはかぎりなしははのとぢをもにふだうだいじのものにしたまひてよきやつくつてとらせまいげつついたちごとに百こく百くわんをくるまにておくられければいへのうちもふつきしてたのしいことはかぎりなしかかりければきやうちうのしらびやうしどもぎわうがさいあいをうらやむものもありまたそねむものもおほかりけりうらやむものはあなめでたのぎわうごぜんのさいはひやおなじあそびものとならばもつともかくこそあらまほしけれいかさまにもこれはぎといふもじをなにつきてかくはめでたきやらむいざやわれらもつきてみんとてあるひはぎ一とつくものもありあるひはぎ二とつくものもありぎとくぎふくぎじゆぎはうなんどつけけりそねむものはなんでうなによりもじにはよるべきなによりもじによらむにはたれかはおとるべきくわはうはただなにごともむまれがらにてこそあれとてつかぬものもおほかりけりそもそもわがてうにしらびやうしのはじまりけることはとばのゐんのおんときしまのせんざいわかのまへとてかの二にんがまひはじめたりけるとかやはじめはすゐかんにたてゑぼししろきさやまきをさしてまひければをとこまひとなづけられたりしをなかごろよりかたなゑぼしをのけられてしろきすゐかんばかりにてまひければしらびやうしとはなづけられけりかくてぎわうとりすゑられまゐらせて三とせとまうししはるのころまたほとけとまうしていうなるあそびもの一にんいできにけりこれはかがのくにのものとぞきこえしそのころのきやうちうのじやうげむかしよりおほくのあそびものありつれどもかやうのものはいまだなしとてこぞつてこれをぞもてなしけるあるときほとけごぜんまをしけるはわれてんかにかくれなしといへどもたうじときめきたまふへいけだいじやうにふだうどのへめされぬことこそほに(イほい)なけれあそびもののすゐさんはなにかはくるしかるべきとてあるときほとけくるまにのつてにし八でうどのへぞまゐりたるひとまゐつてほとけとまをしていうなるあそびもののまゐつてさふらふとまをしたりければにふだうなんでふさやうのあそびものはひとのめしについてこそまゐることにてはあれめしもなきところへすゐさんしかるべからずそのうへぎわうがあらむかぎりはかみともいへほとけともいへとうとうまかりいでよといへほとけすげなうおほせをかうぶつてはるばるといでたりけるをぎわうごぜんまをしけるはあそびもののすゐさんはつねのならひとしもいまだをさなしとこそうけたまはりさふらへたまたまおもひたつてまゐりてさふらふにすげなうおほせをかうぶつていかばかりかはづかしうかたはらいたくもさふらはんわがたてしみちなればひとのうへともおぼえずたとひまひをごらんじうたをこそきこしめさずともめされてごたいめんあつてかへさせおはしまさんはありがたきおなさけにてこそさふらはんずれただめさるべしとまをしたりければにふだうさらばよべとてよびかへさせいであひたいめんしたまひていかにほとけけふのげんざんはいかにもあるまじかりつれどもぎわうがなにとおもひてやら
んしきりにまをすあひだめしたるなりかやうにまためされてこゑをきかざらんはむねんなるべしなにごとにてもいまやう一うたへかしとのたまへばほとけうけたまはつていまやうひとつぞうたうたるきみをはじめてみるときはちよもへぬべしひめこまつおまへのいけなるかめをかにつるこそむれゐてあそぶめれとこれを二三べんうたひすましたりければみなひとかんじあはれけりにふだうしやうごくもおもしろげにおもひたまひてわうわごぜはいまやうはじやうずにてありけるやいまやうがおもしろければまひもさだめておもしろかるらんなにごとにても一ばんさうらはばやつづみうちめせとてめされて一ばんまはせらるおよそこのごぜんとしも十六なるうへみめかたちならびなくかみのかかりまひすがたこゑよくふしもじやうずなればなじかはまひもそんずべきこころもおよばずぞまうたりけるけんもんのひとびともみなじぼくをおどろかさずといふことなしにふだうまひにやめでたまひけんほとけにこころをぞうつされけるてんせいこのにふだうどのはいらいらしきひとにておはしければまひのはつるをおそしとやおもはれけんはじめのわか一うたはせせめのわかいまだうたひもはてざるにほとけをいだいていりたまふほとけごぜんまをしけるはわらはもとよりすゐさんのものにてすげなうおほせをかうぶつてはるばるといでさふらひしをもぎわうごぜんのまをしじやうによつてこそめされまゐらせてもさふらへおぼしめしわすれぬおんことならばめされてまたはまゐりさふらふともけふはただいとまをたうでいださせおはしませとまをしければにふだうすべてくるしかるまじただともかくもじやうかいがままぞとよただしぎわう
にはばかるかそのぎならばぎわうをこそいださめとのたまへばほとけごぜんそれまたこころうくさふらふべしわらはもろともにめしおかれまゐらせんだにもいかばかりかはづかしうかたはらいたくもさふらふべきにましてさやうにぎわうごぜんをいださせおはしまさんはいよいよこころうかるべしとまをしけれどもにふだうぜひをもいはせずぎわうとうとうまかりいでよとのつかひしきなみに三どまでたちければぎわうすこしもやすらふべきにあらずとてはきのごひちりひろはせみぐるしきものどもしたためてすでにいづべきにぞさだまりけるひごろよりかかるべしとはおもひまうけしことなれどもさすがきのふけふともおぼえずこの三とせがあひだすみなれししやうじのうちをいづるにぞなごりもをしくかなしくてかひなきなみだぞながれけるぎわういでけるがさるにてもとてまたたちかへりすみなれししやうじにかうぞかきつけたる
もえいづるもかるるもおなじのべのくさいづれかあきにあはではつべき
ぎわうくるまにのつていでけるがしきりになみだのすすみければ
いまさらにゆくべき(イいづちともいづべき)かたもおぼえぬになにとなみだのさきにたつらんとえいじつつぎわうしゆくしよにかへりしやうじのうちにたふれふしなくよりほかのことぞなきははこれをあやしみていかにやいかにととひけれどもへんじをするにおよばずぐしたるをんなにたづねてぞさることありとはしりてんげるかかりければきやうちうのじやうげあはやぎわうこそにし八でうどのよりいとまたう
でいだされたんなれいざやげんざんしてあそばんとてあるひはふみをつかはすひともありあるひはししやをつかはすものもありけれどもぎわういまさらひとにげんざんしてあそびたはぶるべきにあらずとてふみをとりあげみるにおよばねばましてつかひをあひしらふまでのことはなかりけりかくてそのとしもくれはるのころにもなりしかばにふだうぎわうがもとへししやをたてていかにぎわうそののちはなにごとかありしほとけがあまりにつれづれげになるにまゐつてまひをもまひいまやうをもうたうてほとけなぐさめよとのたまひつかはされたりければぎわうあまりのこころうさにへんじにもおよばずにふだうかさねてのたまひけるはいかにぎわうなどごへんじをばまをさぬぞまゐるまじきかまゐるまじくはいささかそのやうをすみやかにまをせにふだうもきききつてはからふむねありとぞのたまひけるははのとぢあれほどのおほせなるになどごへんじをばまをさぬぞぎわうまゐらんとおもふみちならばこそやがてまゐるともまをさめまゐらざらんものゆゑになにとかごへんじをばまをすべきめすにまゐらずははからふむねありとのたまふはみやこのうちをいださるるかさらずはいのちをめさるるかこれふたつにはよもすぎじたとひみやこのうちをいださるるともいづくかつひのすみかなるたとひいのちをうしなはるるともをしかるべきまたいのちかは一どうきものにおもはれまゐらせてふたたびおもてをむかふべきにあらずとてなほへんたふにもおよばずははかさねてまをしけるはなんによのえんしゆくせいまだはじめぬことなれやちとせまつだいとちぎれどもやがてわかるるなかもありかりそめとおもへどもながらへはつるひともありただよにさだめなきはなんによのなからひなりいはんやわごぜんたちはあそびものの一にち二かめしおかれまゐらせんだにもいかばかりかありがたうさふらふべきにましてこの三とせがあひだめしおかれまゐらせぬればこんじやうのおもひいでなにごとかこれにすぐべきめすにまゐらずばはからふむねありとのたまふはみやこのうちをこそいだされんずらめいのちをめさるるまでのことはよもあらじたとひみやこのうちをいださるるともわごぜんたちはわかければいづくのうらわいはきのうえにてもすぐさんことはやすかるべしわらはがとしおいおとろへたるみのならはぬひなずまゐをかねておもふこそかなしけれただわらはをみやこのうちにてすみはてさせんとおもひたまへそれぞなににもすぐれたるこんじやうごせのけうやうにてあるべけれとなみだもせきあへずまをしたりければぎわうさらばまゐるまでにてこそあれとてなくなくたちいでけるがひとりまゐらんもものうければとていもうとのぎによをもぐしけりおなじやうなるしらびやうし二にんそうじて四にんひとつくるまにとりのつてにし八でうどのへぞまゐりたるにふだうひごろめされしところよりはるかにさがりたるところにざしきしてこそおかれたれぎわうこはなにごとのとがぞやはてはざしきをさへさげられつることのこころうさよこれにつけてもなにしにかまゐりけんとおもふにけしきをひとにみえじとおさふるそでのしたよりもあまりてなみだぞながれけるほとけごぜんひごろめされぬところにてもさふらはずただこれへめさるべしさらずはいでてげんざんせんとまをしけれどもにふだうなんでふとはなつくあひだちからおよばずそののちにふだういであひたいめんしたまひて
いかにぎわうそののちはなにごとかありしほとけがあまりにつれづれげなるになにごとにてもいまやうひとつうたへかしとのたまへばぎわうまゐるほどにてはただともかうもにふだうどののおほせにこそとおもひければおつるなみだをおさへていまやうひとつぞうたうたるつきふけかぜをさまつてのちこころのおくをたづぬればほとけもむかしはぼんぶなりわれらもおもへばほとけなりいづれもぶつしやうぐせるみをへだつるのみこそおろかなれとこれを二三べんうたひすましたりければみなひとあはれをぞもよほしけるにふだうしやうごくいしうもうたうたりやがてまひをもみるべけれどもいささかまぎるることいできたりこののちはめざすともつねにまゐつてまひをもまひいまやうをもうたうてほとけなぐさめよえいとぞのたまひけるぎわうしゆくしよにかへりしやうじのうちにたふれふしなくよりほかのことぞなきおやのめいをそむかじとふたたびうきみちにおもむきはてはざしきをさへさげられつることのこころうさよなほもうきよにながらへあるならばかさねてかくうきことをこそみきかんずらめかかるついでにひのなかみづのそこへもいりなばやとぞかなしみけるあねみをなげばいもうとのぎによもともにみをなげんといふははのとぢうらむるもことわりなりひごろはこれほどまでなさけなかりけるひととはつゆおもひよらずしてとかうけうくんしてまゐらせつることのこころうさよあねみをなげばいもうとのぎによもともにみをなげんといふにわらはがとしおいおとろへたるみのひとりのこりとどまつてなににかせんともにみをこそなげんずらめただししごもきたらぬおやにみをなげさせんは五ぎやくざいにてもやあらむずらんみだによらいはさいはうじやうどをしやうごんし一ねん十ねんをもきらはず十あく五ぎやくざいをもみちびかんといふひぐわんましますなる四拾八のせいぐわんのうちにだい三拾五のぐわんにはわれらがやうにぐちもんまうなるものをみちびかむといふひぐわんましますなりわれらこのたびおもひであるでもなうてふたたび三づにしづみなはまたいつのよにかはうかぶべきかほどめでたきみやうがうにすがつてごくらくじやうどのふたいのはうどにまゐらんとはおもひたまはずやとなみだもせきあへずいひければぎわうまことにしごもきたらぬおやにみをなげさせんは五ぎやくざいうたがひあらずとてみをなげんことをばおもひとどまり二十一にてさまかへけりいもうとのぎによもともにとちぎりしことなれば十九にてさまかへけりははのとぢあれほどにさかんなるふたりのむすめのさまをかふるよのなかにわらはがとしおいおとろへたるみのしらがをつけてもなににかはせんとて四十五にてさまかへけり三にんさがのおくなるやまざとにねんぶつまをしわうじやうけつぢやうりんじゆしやうねんとぞいのりけるかくてはるすぎなつたちぬあきのはつかぜたちぬればほしあひのそらをながめつつあまのとわたるかぢのはにおもふことかくこれなれやものおもはざらんひとだにもくれゆくあきのゆふべはかなしかるべしいはんやものおもふひとのこころのうちおしはかられてあはれなりにしのやまのはにかかるひをみてはあれこそさいはうのじやうどにてあんなればいつかわれらもかのところにむまれてものをおもはですごすらんこれにつけてもむかしのことのわすられてつきせぬものはなみだなりひもやうやうしぐれければ
三にんのものどもひとつところにさしつどひぶつぜんにはなかうそなへともしびかすかにかかげつつねんぶつしてゐたるところにとぢふさぎたるたけのあみどをほとほととたたくおとしけり三にんのものどもねんぶつをとどめていかさまにもこれはわれらがやうにぐちもんまうなるもののねんぶつしてゐたるををかさんとてまえんのきたれるにこそただしまえんならばあれほどのたけのあみどをおしあけていらむことはやすかるべしただすみやかにあけたらんほどにたすけば一ぶつたとひいのちをうしなはるるともこのほどたのみたてまつるねんぶつあひかまへておこたるなよとこころにこころをいましめて三にんてにてをとりくみとぢふさぎたるたけのあみどをおもひきつてあけたればまえんにてはなかりけりほとけごぜんぞいできたるぎわうはしりいでほとけがたもとにとりついてこはさらにうつつともおぼえさふらはぬものかなひるだにもひとめまれなるやまざとへただいまなにとしてきたりたまへるといひければほとけごぜんいまさらまをせばことあたらしきににたりまをさねばまたおもはぬににたればはじめよりまをすぞよわらはもとよりすゐさんのものにてすげなうおほせをかうぶつてはるばるといでさふらひしをもわごぜんのまをしじやうによつてこそめされまゐらせてもさふらへやがてわごぜんのいだされたまひしことかならずひとのうへともおぼえずいつかまたわがみのうへにてあらんずらんとおもひしにあはせてしやうじにいづれかあきにあはではつべきとかきおきたまひしふでのあとやがておもひしられてこそさふらひしかいつぞやまたわごぜんのめされまゐらせていまやううたひたまひしときざしきをさへさげ
られたまひしことのこころうさまをすばかりもさふらはずそののちはいづくにともうけたまはらざりしがこのほどききいだしたてまつつてうらやましきことにおもひまゐらせいかにいとまをまをせどもおほかたゆるされまゐらすることもさふらはずつくづくものをあんずるにしやばのえいぐわはゆめのゆめたのしみさかえもなにかせんにんじんはうけがたくぶつけうにはまたあひがたしいづるいきいるをまたずかげろふいなづまよりもなほあやうしかやうのことをおもふにもいとどこころのとどまらずしてこのひるおもひもかけぬひまのありつるににげいでてかくなりてこそまゐりたれとてかづきたるきぬをうちのけたるをみければさしもはなやかなりしえいぐわのたもとをひきかへてあまになりてぞいできたるひごろのとがはこれにゆるしたまへゆるさんとのたまはばおなじあんじつにねんぶつまをしともにごしやうをいのるべしなほゆるさじとのたまはばこれよりいづかたへもあしにまかせてまよひゆきいかなるらんいはのかどこけのむしろまつがねにたふれふすまでもねんぶつまをしみだ三ぞんのらいがうにあづからんとなみだもせきあへずまをしたりければぎわうあなはづかしのわごぜんのこころのそこのいさぎよさよひごろはこれほどまでおもひたまふひととはいかでかつゆほどもしるべきなにごともうきよのなかのさがなればかならずひとをうらみとおもふべからずみのうきことをこそしるべきにややもすればわごぜんのことのみわすられでかたごころにかかつてこんじやうもごしやうもなかなかにしそんじたるやうにおぼえてやるかたもなかりつるにわごぜんはなにごとをもおもひたまはずとしもいまだ十七とこそきくにゑどをばいとひじやうどをばねがふべしとのこころこそまことのだうしんじやにてはおはしませわらはが廿一にてさまかへしをこそひともありがたきことにまをしみながらもふしぎのことにおもひしにいまわごぜんのしゆつけにくらぶればことのかずにてあらざりけりひごろのとがはなにしにかつゆほどものこるべきいざやさらばおこなはんとて四にんおなじあんじつにねんぶつまをしともにごしやうをいのりけるがちそくこそありけれどもつひにはわうじやうのそくわいをとげけるとぞうけたまはるそののちにふだうほとけをうしなうててんてをわかつてたづねさせられけれどもなかりければじやうかいがほとけはあまりにみめがよかりつればてんぐがとりたるにこそとぞのたまひけるそののちはんとしばかりあつてききいだされたりけれどもさやうになりたらんずるものをばとてのちにはたづねさせられずさればごしらかはのほふわうのちやうかうだうのくわこちやうにもぎわうぎによほとけとぢとうがそんりやうと一しよにいれられけるとぞうけたまはるあはれなりしことどもなり

二代の后
とばのゐんごあんがののちはひやうかくうちつづいてしざいるけいけつくわんちやうにんつねにおこなはれてかいだいもしづかならずせけんもいまだらくきよせずおうほうぢやうくわんのころほひはゐんのきんじゆしやをばうちよりいましめられうちのきんじゆしやをばゐんよりいましめられしかばじやうげおそれおののいてやすきここちもしたまはずただしんゑんにのぞんではくひようをふむにおなじそのころのしゆじやうとまをすは二でうのゐんじやうわうとまをすはごしらかはのゐんのおんことなりしゆじやうじやうくわうふしのおんあひだなりければなにごとのおんへだてかわたらせたまふべきなれどもおもひのほかのことどもあつてしゆじやうつねはゐんのおほせをもまをしかへさせおはしますこれもただげうきにおよんでひとけうあくをさきとするゆゑなりそのころひとじぼくをおどろかしよもつておほきにそしりかたぶきまをすことありそのゆゑはこんゑのゐんのきさきたいくわうたいこうぐうときこえさせたまひしはおほゐのみかどのうだいじんきんよしこうのおんむすめなりせんていにおくれまゐらつさせたまひてのちはここのへのほかこのゑかはらのおほみやのごしよにうつりぞすませたまひけるいつしかさきのきさいのみやにてふるめかしうかすかなるおんすまひにてぞわたらせたまひけるぢやうくわんのころほひはおんとし廿二三にもやならせおはしましけんおんさかりもすこしすぎさせたまふほどなりされどもてんかだい一のびじんのきこえわたらせたまひしかばしゆじやうつねはいろにのみそみたるおんありさまにてひそかにかうりよくしにぜうしぐわいきうにひきもとめしむるにおよんでひそかにおほみやへごえんしよありおほみやあへてごへんじもなかりければしゆじやうひたすらほにあらはれてきさきじゆだいあるべきよしをだいじんけへおほせくださるこのことてんかにおいてことなるしようじなりければくぎやうせんぎあつておのおのいけんにいはくかのそくてんくわうごうはたいそうのきさきかうそうくわうていのけいぼなりたいそうほうぎよののちかうそうのきさきにたちたまへるれいはきけどもそれはいてうのせんきたるうへべつだんのことわがてうにはじんむてんわうよりこのかたにんわう七拾よだいにいたらせたまふまでいまだ二だいのきさきのれいをきかずとしよきやう一どうにうつたへまをされたりければじやうくわうもこのぎおほきにしかるべからざるよしおほせければしゆじやうおほせありけるはてんしにぶもなしわれ十ぜんのよくんによつていまばんじようのはうゐをたもつこれらほどのことをえいりよにまかせざるべきとてすでにごじゆだいのひをおんさだめありけるうへはちからおよばせたまはずおほみやこのよしきこしめされしひよりしてなのめならずおんなげきにしづませおはしますせんていにおくれまゐらせしきうじゆのあきのはじめおなじくさばのつゆともきえやがていへをもいでよをものがれたらましかばいまかかるうきことをきかざらましとぞおほせけるそののちちちのおとどまゐらせたまひてやうやうにこしらへまをさせたまひけるはよにしたがはざるをもつてきやうじんとすとみえたりすでにぜうめいをくだされぬるうへはしさいをまをすにところなしはやはやごじゆだいあるべしこれひとへにぐらうをたすけさせおはしますごかうかうのおんいたりなるべしなんどまをさせたまひたりけれどもおほみやあへてごへんじもなかりけるがややあつてちちのおとどのごへんじかとおぼしくておんすずりのふたにかうぞあそばされける
うきふしにしづみもやらで(イはてぬよ)かはたけのよにためしなきなをやながさむ
よにはいかにしてかはもれにけむいうにやさしきためしにぞまをしはべりけるすでにごじゆだいのひにもなりしかばちちのおとどぐぶのかんたちめしゆつしやのぎしきこころことにいだしまゐらつさせたまひけりおほみやものうきおんいでなりければとみにもいでさせたまはずはるかによふけさよもなかばすぎてのちおほみやなくなくおんくるまにたすけのせられさせたまひけりものうきおんいでなりければいろあるぎよいをばめさずしろきおんぞ十五ばかりぞめされけるうちへまゐらせたまひてはれいけいでんにうつりぞすませたまひけるおんあさまつりごとをすすめまゐらつさせたまふばかりなりかのししんでんのくわうきよにはけんじやうのしやうじをたてられたりいいんていごりんぐせいなんたいこうばうろくりせんせいりせきしばりしやうぐんがすがたをさながらうつせるしやうじもありてながあしながむまかたのしやうじおにのまをはりのかみをののだうふうが七くわいげんじやうのしやうじとかきながせるもことわりなりかのせいりやうでんのぐわとのみしやうじにはむかしかなをかがうつせるゑんざんのありあけのつきもありとかやこゐんのいまだえうちにわたらせたまひしそのかみなにとなきおんてまさぐりにかきくもらかさせたまひしがありしながらにかはらぬをごらんじてさすがせんていのおんおもかげおんこひしうやおもひまゐらつさせたまひけむかうぞあそばされける
おもひきやうきみながらにめぐりきておなじくもゐのつきをみんとは
そのおんあひだのおんなからひいひしらずなにとなくものあはれなりしおんことなり

額打論
かくてしゆじやうはえうまんぐわんねんのはるのころよりつねはごふよのおんことときこえさせたまひしがなつのころにもなりしかばことのほかにおもらせたまひけりこれによつておほくらのたいふいきのかねもりがむすめのはらにこんじやう一のみやのこんねん二さいにならせたまふがわたらせたまひけるをたいしにたてまゐらすべしなんどきこえさせたまひしがおなじき六ぐわつ廿五にちににはかにしんわうのせんじをかうぶらせたまひそのよやがてじゆぜんありしかばてんかなにとなうものあわてたるさまなりけりそのころのいうしよくのひとびとのまをしあはれけるはほんてうにどうたいのれいをたづぬるにせいわてんわう九さいにてもんとくてんわうのおんゆづりをうけさせたまひしはかのしうこうたんのせいわうにかはりなんめんにして一じつばんきのおんまつりごとををさめたまひしになずらへてぐわいそちうじんこうえうしゆをふちしまゐらつさせたまひしこれせつしやうのはじめなりとばのゐん五さいこんゑのゐん三さいそれをこそひといつしかなりとまをししにこれはわづかに二さいにならせたまふせんれいなしものさわがしともおろかなりおなじき七ぐわつ廿七にちにしんていだいごくでんにしてごそくゐありてんかのいうきともにあひまじはつてよろづなにごともとりあへぬおんことどもにてぞわたらせたまひけるおなじき廿九にちにじやうわうつひにほうぎよならせたまひけりみくらゐをさらせたまひてはわづかに卅よにちぞましましけるこんねんは廿三にならせおはしますつぼめるはなのちれるがごとしひとびとおんなごりををしみたてまつつて八ぐわつ七かまでおきたてまつりたりしかどもさてしもわたらせたまふべきならねばくわうりうじのうしとられんたいののおくふなをかやまのふもとにおくりをさめたてまつるおほみや二だいのきさきにはたたせたまひしかどもさまでのおんさいはひもわたらせたまはずまたこのきみにさへおくれまゐらつさせたまひたりしがつひにみぐしおろさせたまひけりなかにもぎをんのべつたうちようけんほういんのいまだごんだいそうづにてやまよりくだられけるがごさうそうのけぶりをみたてまつつてかうぞえいじたまひける
つねにみし(イきのふみし)きみがみゆきをけふとへばかへらぬたびときくぞかなしき
かかりけるごさうそうのよえんりやくこうぶくりやうじのだいしうがくうちろんといふことをしいだしてたがひのらうぜきにおよぶ一てんのきみほうぎよのときはなんぼく二きやうのたいしうことごとくぐぶしてごむしよのめぐりにわがてらでらのがくをうつことありまづしやうむてんわうのごぐわんあらそふべきてらなければとてとうだいじのがくをうつつぎにたんかいこうのごぐわんとてこうぶくじのがくをうつほくきやうにはこうぶくじにむかへてえんりやくじのがくをうつつぎにてんむてんわうのごぐわんちしようだいしのさうさうとてをんじやうじのがくをうつしかるをこんどさんもんにいかがはおもひけむせんれいをそむいてこうぶくじのうへにえんりやくじのがくをうつあひだなんとのたいしういきどほりこうぶくじのさいこんだうしゆにくわんおんばうせいしばうとて二にんのあくそうありくわんおんばうはもえぎのはらまきにしらえのおほなぎなたのさやをはづしせいしばうはくろいとをどしのよろひにおほたちをぬき二にんはしりかかりえんりやくじのがくをきつておとすきよみづほうしにちもんばうはしりよつてがくをさんざんにきりやぶつてんげりうれしやみづなるはたきのみづひはてるともたえずとうたへつねにとうたへとはやしあげてわがかたへぞはしりかへりける

清水炎上
一てんのきみみよをはやうせさせおはしまさんときはいかなるこころなきさうもくまでもうれひたるいろをこそあらはすべきにこのあさましさにじやうげみな四はうへにげちりぬおなじき八かのひれいのさんもんのたいしうまたげらくすときこえしかばだいりならびにゐんのごしよへぐんびやうめされけりきやうちうのさうどうなのめならずまたなにものかまをしいだしけん一ゐんやまのたいしうにおほせてへいじつゐたうあるべきよしきこえしかばへいけのひとびとこはいかがせんとぞさわがれけるこまつどののいまだそのころさゑもんのかみにておはしけるがたうじなにごとによつてかさやうのおんことのわたらせたまふべきとはせいせられけれどもあまりにあわててさわぎののしることなのめならずおなじき九かのひれいのさんもんのたいしうすでにげらくするあひだぶしけんびゐしにしさかもとにゆきむかふをたいしうことともせずうちやぶつてらんにふしけるあひだ一ゐんろくはらへごかうなるへいしやうごくもさわがれけりされどもたいしうそぞろなるせいすゐじにおしよせたりおうてはさかおもてからめてはせいかんじうたのなかやまよりよせきたるきよみづほうしじやうくわくかまへてたてこもるたいしうおしよせたりければぶんないはせばかりけりひとたまりもたまらずおちけりふせぐところのたいしう卅よにんうちころさるそののちじちうにみだれいつてひをはなつだうしやたふめうぶつかくそうばういちうものこさずやきはらふせいすゐじとまをすはこうぶくじのまつじなるによつてこれはさんぬるごさうそうのよのくわいけいのはぢをきよめんがためにやくなりとぞまをしけるたいしうかへりのぼりてのこうてうにくわんおんやくわきやうへんじやうちはいかにとふだにかいてだいもんにたてたりければりやくこふふしぎとこれをいふなりとかへりふだにぞたてたりけるいかなるあとなしもののしわざにてかありけむをかしかりしことどもなりさるほどにことしづまりしかば一ゐんほうぢうじどのへくわんぎよなるさゑもんのかみおんともにまゐられたりちちのおとどはとどまりたまふこれはなほろくはらのえうじんのためとぞおぼえたるさゑもんのかみほどなうかへりまゐられたりければちちのおとどのたまひけるはさるにても一ゐんのごかうこそおほきにおそれいつておぼゆれいかさまにもこれはおほせあはせらるるむねのあるにこそとのたまへばさゑもんのかみゆめゆめさやうのおんことおんことのはにいださせたまふべからずひとにちゑつけがほになかなかあしうさふらひなんずただいくたびもえいりよにそむかせたまはでひとのためにぜんをほどこさせおはしまさばおんみのおそれあるまじうさふらふとてたたれければあはれこのしげもりほどなにごとにつけてもおほやうなるひとはなかりけりとちちのおとどものたまひけるさるほどにほうぢうじどのには一ゐんくわんぎよののちごぜんにうとからぬひとびとをめしてさるにてもつゆおぼしめしよらぬおんことをなにものかまをしいだしたりけむゆめのやうなることかなとおほせければさいくわうがまをしけるはてんにくちなしひとにいはせよとまをすことのさふらふなればへいけあまりにくわぶんになりゆきさふらふのあひだほろぶべきぜんぺうにててんのつげにてもやさふらふらんとまをしたりければひとびとこれよしなしかべにみみありとておのおのくちをぞとぢられけることしはりやうあんなればとてごけいだいじやうゑをもおこなはれずけんしゆんもんゐんのいまだそのころひんがしのおんかたとてわたらせたまふおんはらに一ゐんのみことのこんねん五さいにならせたまふがわたらせたまひけるがにはかにしんわうのせんじをかうぶらせたまひあけければかいげんあつてにんあんぐわんねんとぞまをしける

春宮立(あひ)
きよねんしんわうのせんじかうぶらせたまひたりしわうじおなじき八ぐわつ十かのひとう三でうどのにしてとうぐうにたたせたまふとうぐうとまをすはつねはていのみこなりまたたいしとまをしてしゆじやうのおんおととのまうけのきみにそなはらせたまふことありこれをばたいていともまをすしかるにしゆじやうおんをひ三さいとうぐうおんをぢ六さいぜうぼくあひかなはせたまはずただし一でうゐん七さい三でうゐん十一さいにしてとうぐうにたたせたまふさればせんれいなきにはあらずやとぞひとまをしけるしかるにしゆじやう二さいにてみくらゐにつかせたまひ五さいとまをししにんあん三ねん二ぐわつ十五にちにみくらゐをさらせたまひていつしかひとしんゐんとぞまをしけるいまだごげんぷくもなくしてだ[い]じやうてんわうのそんがうかんかほんてうにこれやはじめなるらん六でうゐんのおんことなりおなじき三ぐわつ十かのひしんていだいこくでんにてごそくゐありこんねんは八さいにならせおはしますおよそこのきみのてうかをしろしめされけることは一かうへいけのはんじやうとぞみえしなかにもへいだいなごんときただのきやうはみかどのごぐわいせきにておはしければかのやうきひがさいはひしときやうこくちうがさかえたりしがごとしにんあん四ねん六ぐわつ十四かにかいげんあつてかおうぐわんねんとぞまをしける

殿下の乗合

おなじき六ぐわつ十七にちに一ゐんおんとし四十三にてごしゆつけありゐんごしゆつけののちもなほばんきのおんまつりごとをしろしめされければゐんにさふらはれけるくぎやうでんじやうびとやじやうげのほくめんにいたるまでくわんゐほうろくみにあまりたりされどもひとのこころのならひにてなほあきたらずへいのひとびとのくにをもしやうをもたまはつたることをばよにめざましきことにおもひあはれそのひとほろびなばそのくにはあきなむそのくわんにはなりなんなんどうとからぬどちはさしつどひささやくときもありけりほうわうもないないおほせけるはむかしよりてうてきをたひらぐるものおほしといへどもかかるれいはいまだなしさだもりひでさとがまさかどをほろぼしらいぎがさだたふむねたふをせめぎかがたけひらいへひらをうちたりしにもけんしやうおこなはるることわづかにじゆりやうにはすぎざりきしかるをきよもりにふだうがかくこころのままにふるまふことこそしかるべからねこれもただよすゑになつてわうはふのつきぬるにこそとおぼしめしけれどもついでもなければおんいましめもなしへいけもまたべつしててうかをうらみたてまつることもなかりけるによのみだれそめけるこんぽんはこまつどののじなんしん三ゐのちうじやうすけもりのいまだそのころゑちぜんのかみとてしやうねん十三になられけるいんじかおう二ねん十ぐわつ十六にちにゆきははだれにふりたりけりかれののけしきのおもしろさにわかきさぶらひ二三十きめしぐしてたかどもあまたすゑさせつつうこんのばばむらさきのきたののへんにうちいでてうづらひばりおつたておつたてひねもすにかりくらしはくぼにおよんでおほみやのおほぢよりこうぢきりにろくはらへこそかへられけれそのときのせうろくまつどのなかのみかどひがしのとうゐんのごしゆくしよをぎよしゆつあつていうはうもんよりじゆぎよなるべきにてひがしのとうゐんをくだりにおほゐのみかどをにしへぎよしゆつなるほりかはゐのくまのへんにてすけもりでんかのぎよしゆつにはなつきにまゐりあふあまりにてうおんにのみほこつてよをよともひとをひとともせざつしうへめしぐしたりけるさぶらひみなわかきものどもにてれいぎこつぱふをもぞんぜず一せつにげばもせずぜんぐうみずゐじんどもなにものぞらうぜきなりぎよしゆつのなるにおりさふらへおりさふらへといらひけれどもみみにもききいれずかけわつてこそとほりけれとののおんとものひとびとくらさはくらしにふだうのまごともつやつやぞんぜずむまよりとつてひきおとしあておとしすこぶるちじよくにおよびけりすけもりはふはふ六はらにおはしておほぢだいじやうのにふだうどのにこのよしうつたへまをされければにふだうおほきにいかつてたとひいかなるでんがにてもわたらせたまへにふだうがあたりをば一どはなどかおぼしめしはばからせたまはざるべきにさやうにおいさきあるをさなきものどもになさけなうちじよくをあたへられけることこそかへすがへすもゐこんなれかかることよりしてひとにもあざむかるるぞこのことおもひしらせまをさではえこそあるまじけれとのたまへばこまつどののいまだそのころだいなごんのうたいしやうにてごぜんにおはしけるがこのよしをききたまひゆめゆめさやうのおんことおぼしめしよらせたまふべからずしげもりがこどもなんどいひたらむずるもののでんがのぎよしゆつにまゐりあうてのりものよりおりさふらはざりつることこそかへすがへすもびろうにはさふらへそのうへよりまさみつもとなんどいふげんじどもにあざむかれてもさふらはばこそ一もんのちじよくにてもさふらふべけれこれはすこしもくるしうさふらふまじいかさまにもでんがへぶれいのよしをこそまをしたうさふらへとてぞたたれける
そののちにふだうこまつどのにはのたまひもあはせられずしてかたゐなかのさふらひのきはめてこはらかなるがにふだうのおほせよりほかはおそろしきことなしとおもひけるいせのかみかげつなをさきとしてつがふ六十よにんをめしてらい廿一にちにしゆじやうごげんぷくおんさだめのおんためにでんがさんだいあらんずるみちにてぜんくうみずゐじんどもがもとどりきりすけもりがはぢすすぞとのたまへばこれらかしこまつてうけたまはりつがふそのせい三百よきにてでんがのぎよしゆつをいまやいまやとまちうけたてまつるでんがはこのことゆめにもしろしめされずしゆじやうごげんぷくおんさだめごかくわんはいくわんのおんためにけふよりごちよくろにわたらせたまふべきにてつねのぎよしゆつよりはひきつくろはせたまひてぜんくうみずゐじんどもにいたるまではなやかにこそいでたちたれこんどはたいけんもんよりじゆぎよなるべきにてなかのみかどをにしへぎよしゆつなるほりかはゐのくまのへんにてつはものどもでんがのぎよしゆつをまちえたてまつりみくるまのぜんごさうにてときをどつとぞつくりけるけふをはれといでたちたりけるぜんくうみずゐじんどもここにおつつめかしこにおさへてもとどりきるぜんくう六にんがうちとうのくらんどたいふたけのりがもとどりをきるとてはこれはなんぢがもとどりとおもふべからずしうのもとどりとおもふべしといひふくめてぞきつたりけるずゐじん十にんがうちみぎのふしやうたけもとがもとどりもきられにけりぐぶのくぎやうでんじやうびとくるまのものみうちわりむながけしりがいきりはなつたりければくものこをちらすがごとくにぞなりにけるすだれかなぐりおとしとののみくるまのうちへもゆみのはずつきいれなんどしければでんがあまりのおそろしさにやみくるまよりこぼれおちさせたまひてあやしのしづがこやになくなくたちぞしのばせたまひけるつはものどもかやうにさんざんにしちらし六はらにかへりまゐつてこのよしまをしたりければにふだうしんべうなりとぞのたまひけるそののちみくるまつかまつるものもなかりければいなばのさいつかひとばのくにひさまるはげらふなりけれどもさがさがしきによつてみくるまつかまつるせつしやうどのはさてしもわたらせたまふべきならねばおんなほしのそでにておんなみだおさへさせたまひつつくわんぎよのぎしきのあさましさまをすばかりもなかりけりたいしよくくわんたんかいこうのおんことはなかなかまをすにおよばずちうじんこうせうぜんこうよりこのかたせつしやうくわんぱくのかかるおんめにあはせたまふおんことはこれはじめとぞうけたまはるこれぞへいけのあくぎやうのはじめとはうけたまはるそののちこまつどのこのよしをききたまひてそのときゆきむかうたりけるいせのかみかげつなをさきとしてつがふ六十よにんをかんだうせらるたとひにふだうふしぎをげぢしたまふともなどしげもりにゆめをばみせざりけるぞやおよそはすけもりきくわいなりせんだんはふたばよりかうばしとこそみえたれしげもりがこどもなんどいひたらんずるもののことしは十二か三になるとこそおぼゆるにいまはれいぎこつぽふをもぞんじてこそふるまふべきにかかるいひがひなきものをめしぐしておほぢにふだうのあくみやうをたつふけうのいたりなんぢひとりにありとてすけもりをもかんだうしいせのくにへぞおひくだされけるそのころのきやうちうのじやうげあはれこのたいしやうほどなにごとにつけてもいうにやさしきひとはなかりけりとほめぬひとこそなかりけれさるほどにしゆじやうのごげんぷくもそのよはのびぬおなじき二十五にちにゐんのでんじやうにしてぞごげんぷくおんさだめはわたらせたまひけるせつしやうどのはさてしもわたらせたまふべきならねばおなじき十一ぐわつ九かのひかねせんじをうけたまはらせたまひおなじき十三にちにだいじやうだいじんにあがりたまふおなじき十二ぐわつ二十七にちにごはいがのきこえありしかどもよのなかにがにがしうぞみえしさるほどにとしくれてかおうも三ねんになりにけり

徳大寺厳島詣
かおう三ねんしやうぐわつ五かのひしゆじやうてうきんのおんためにほうぢうじどのへぎやうかうなるこれはとばのゐん七さいまでぎやうかうなりたりしこんどそのれいとぞきこえしこんねん十一さいにならせおはしますうひかふりのおんすがたほうわうもにようゐんもいかばかりかめでたくおもひまゐらつさせたまひけんさるほどにめうおんゐんのだいじやうだいじんもろながのいまだそのころないだいじんのさだいしやうにておはしけるがたいしやうをじせさせたまふことありときにとくだいじどのそのじゆんにあたりたまへりといへりまたくわんざんのゐんのちうなごんかねまさのきやうもしよまうありなかのみかどのしんだいなごんなりちかのきやうはたうじきみのごちようしんなるうへこのことしきりにのぞみまをされけるがさまざまのおんいのりどもをぞはじめられけるまづやはたにそうをこめてしんどくのだいはんにやをよまれけるにはんぶにおよんでをとこやまのかたよりやまばと二とびきたりかうらのみやうじんのおんまへにてくひあひてこそしにけれはとはだいぼさつのだい一のししやなりときのけんぎやうぎやくせいほういん(イ長清法印)うちへこのよしそうもんすやがてじんぎくわんにておんうらありてんかのさわぎとうらなひまをすただしてうかのおんことにはあらずしんかのつつしみとぞうらなひまをしけるだいなごんこれにもおそれたまはずひるはひとめをつつみほかうにてよなよなかものかみのやしろへまゐられけるにだい三かにあたりけるよげかうしてくるしさにやうちふされたりけるゆめになかのやしろへまゐりたるかとおぼしくてごはうでんのみとおしひらきうちよりゆゆしうけだかきみこゑにて一しゆのうたをぞあそばされけるさくらばなかものかはかぜうらむなよちるをばえこそとどむまじ(イとどめざり)けれだいなごんこれにもなほおそれたまはずなかのやしろにそうをこめて七かひほうをおこなはせられけるにけちぐわんちかうなつてわかみやのうしろなるおほすぎにいかづちおちかかりひもえつきてしやだんもあやうくみえければじんにんきうにんことごとくおこつてこれをうちけつてんげりかみはひれいをうけさせたまはずだいなごんひぶんのたいしやうをいのりまをされければにやかかるふしぎぞいできにけるそのころのぢよゐぢもくはゐんうちせつしやうくわんぱくのごせいばいにもあらず一かうへいけのままなりければとくだいじくわざんのゐんもなりたまはずにふだうしやうごくのちやくしこまつどのひだんにうつつておんおととのむねもりちうなごんにておはしけるがすはいのじやうらふをてうをつしてみぎにくははりたまふこそこころもことばもおよばれねとくだいじどのは一のだいなごんくわしよくえいえうさいかくいうちやうにてこえられたまふぞゐこんなるさればとくだいじどのはよのなりゆくやうをごらんぜんとやおぼしめされけんだいなごんをばじしまをされてしばらくろうきよとぞきこえしかのだいなごんにほうこうのともがらどものなかにくらんどのたいふのりはるとまをすものありあるよだいなごんにまをしけるはきみごしゆつけなんどもさふらはばほうこうのともがらどもみなまどひものとなりさふらひなんずさらむにとつてはたうじあきのいつくしまをば一かうへいけのあがめまをされさふらふかれへおんまゐりあつてたいしやうのごきせいなんどもさふらへかしくだんのやしろにはないしとていうなるまひびめどものす十にんさふらふなるこれらをおんもてなしさふらはばにふだうしやうごくかへりききたまひてさだめてはからはるるむねもやさふらはんずらんとまをしたりければとくだいじどのさらばとてやがてしやうじんはじめていつくしまへぞまゐられける七かさんろうことゆゑなうとげさせたまひてのちみやこへかへりのぼらせたまひけるにないしたちとくだいじどののおんなごりををしみたてまつてひとひぢまでおくりたてまつるとくだいじどのないしたちにあまりになごりのをしうおぼゆるにさらばみやこへのぼりたまへかしとてそのなかにしかるべきないし十よにんめしぐしてみやこにのぼりやうやうのおんもてなしさまざまのおんひきでものあつてかへされけりないしたちかへるとていさやわれらがへいけへまゐらんとてにし八でうどのへぞまゐりたるにふだうしやうごくやがていであひたいめんしたまひていかにないしたちなにごとのれつさんぞとのたまへばさんさふらふこれはたうじとくだいじどののたいしやうごきせいのおんためにいつくしまへまゐらせたまひてさふらひつるがめしぐせさせたまひてやうやうのおんもてなしさまざまのおんひきでもののさふらひつるとまをしたりければにふだうじやうかいがあがめたてまつるあきのいつくしまとくだいじどののさやうにたつとみたまふこそなによりもゆうにありがたうおぼゆれしんめいもなどかかんおうなかるべきとてにふだうしやうごくのちやくしこまつどのだいなごんのさたいしやうにておはしけるをたいしやうをじせさせたてまつつてとくだいじどのへこそわたさ
れけれさればのりはるがはかりごとかしこかりけるかうみやうかな

鹿谷(あひ)
とくだいじどのはかくこそゆゆしうおはせしになかのみかどのしんだいなごんなりちかのきやうはとくだいじくわざんのゐんにこえられたらむはいかがせんへいけのむねもりにこえられぬるこそゐこんなれこれもただへいけのおもふさまなるがいたすところなりさればいかにもしてへいけをほろぼしわがほんまうをとげばやとおもはれけるこそおそろしけれちちのきやうはこのよはひにてはわづかにちうなごんにてこそおはししにこれはそのばつしにてくらゐじやう二ゐくわんだいなごんにあがりたいこくあまたたまはりてしそくしよじうにいたるまでくわんゐほうろくみにあまりたりさればなんのふそくにかかかるこころのつかれけむこれひとへにてんまのしよゐとぞおぼえたるつねはぐわいじんなきところによりあひよりのきへいけをほろぼさんとのいとなみのほかはたじなしとぞきこえしひがしやまししのたにはしゆんくわんそうづがりやうなりけるがうしろはみゐでらへつづいてくきやうのじやうくわくなりければへいけをほろぼしかしこにひきこもらんとぞぎせられけるあるときほうわうもじやうけんほういんばかりをめしぐしてひそかにかしこへごかうなりさてこのこといかがあるべきとおほせければほういんあなあさましひとあまたうけたまはりさふらふもしこのことのてんかへもれきこえさふらはばたんだいまよのみだれいできさふらはんずるものをとまをされたりければだいなごんけしきおほきにかはつてごぜんをまかりいでられけるがいかがはせられたりけむごぜんにたてられたりけるへいじのくちにかりぎぬのそでをかけてたをされたりほうわうあれはいかにとおほせければだいなごんたちかへりへいじたをれさふらひぬとぞまをされけるほうわうおほきにゑつぼにいらせおはしましてものどもまゐつてさるがくつかまつれとおほせければへいはんぐわんやすよりごぜんにつつとまゐりへいじのあまりおほうさふらふにもてゑひてこそさふらへしゆんくわんがさてそれをばなにとかつかまつりさふらふべきれいのさいくわうがつつとまゐりへいじをばくびとるにしかじとてへいじのくちをとつてあなたへはわたすこなたへはわたすとてぞいりにけるほういんあまりのあさましさにほうわうをすすめたてまつりていそぎほうぢうじどのへくわんぎよなしまをされけりよりきのしうにはあふみのちうじやうにふだうれんじやうやましろのかみもとかぬしきぶのたいふまさつなそうはんぐわんのぶふさしんへいはんぐわんすけゆきへいはんぐわんやすよりほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづつのくにげんじただのくらんどゆきつなをさきとしてほくめんのともがらどもおほくよりきしてんげりなかにもただのくらんどゆきつなをばだいなごんだいじのものにしたまひてもしこのことしおふするほどならばくににてもしやうにてもこひによるべしまづゆみぶくろのれうにとてしろぎぬ五十たんおくりつかはさるそもじやうこにはほくめんはなかりけりしらかはのゐんのおんときはすゑしげわらはよりせんじゆまるいまいぬまるとてこれらはさうなききりものなりまたとばのゐんのおんときはすゑよりすゑのりふしともつねはでんそうすることもありなんどきこえしかどもこれらはみのほどをぞんじてこそふるまひしにこのおんときほくめんはもつてのほかにくわぶんにてげほくめんよりじやうほくめんにあがりじやうほくめんよりでんじやうのまじはりをゆるさるるもありけりかくのみふるまひしほどにこれらはおごれるものどもにてかやうのことにもくみしてんげり

鵜川合戦
かのほくめんのともがらどものなかにもろみつなりかげとまをすものありこれはこせうなごんにふだうしんせいのもとにこんれいわらはもしはかくごんしやにてけしかるものにてぞさふらひけるされどもさかさかしきによつてつねはゐんのおんまちにもかかりもろみつさゑもんのぜうなりかげうゑもんのぜうとて一どにゆきへのぜうになつてしんせいことにあひしときともにしゆつけしてさゑもんのにふだうさいくわううゑもんのにふだうさいけいとてしゆつけののちもなほゐんのみくらあづかりにてぞさふらひけるかのさいくわうがこにもろたかとまをすものありこれもさうなききりものなりければけんびいし五ゐのぜうまでへあがりあまつさへあんげんぐわんねん十二ぐわつ二十九にちのつゐなのぢもくにかがのかみにぞふせられけるしたがつてこくむをおこなふあひだひほうひれいをちやうぎやうしじんじやふつじけんもんせいかのしやうゑんをもつたうしてさんざんのことどもにてぞさふらひけるたとひまたせうこう(イてうこう)があとをこそへだつといふともをんびんのまつりごとをこそおこなふべきにかくのみふるまひしほどにおなじき二ねんのなつのころおととこんどうはんぐわんもろつねをかがのもくだいにさしくださるもろつねげちやくのはじめこふのへんにうかはのゆせんじとまをすやまでらありもろつねかのてらにらんにふしじそうどものゆあびけるをおひあげわがみもあびいへのこらうどうをもおろしあまつさへざふにんばらをいれてむまのゆあらひなんどをせさせければじそうらおほきにいかつてむかしよりこのところにこくはうのもののにふぶするやうなしといひければもろつねまをしけるはせんぜんもくだいはふかくにてこそいやしまれたれたうもくだいにおいてはまつたくそのぎあるまじただせんれいにまかせてにふぶのあふばうをとどめよといひければじそうらはこくはうのものをつゐしゆつせんとすこくはうのものはまたついでをもつてらんにふせんとせしほどにたがひにうちあひはりあひなんどしけるほどにもろつねがさしもひさうしけるむまのあしをうちをるのみならずをがみをさへにきつてんげりもろつねおほきにいかつてただほふにまかせよといふあひだじそうらきうせんひやうぢやうをたいしてたがひにいあひきりあひなんどしけるほどにもろつねかなはじとやおもひけむよにいつてしゆくしよにひきしりぞきつぎのひもろつねたうごくのざいちやうくわんにん三千よきをいんぞつしてうかはにおしよせたりふせぐところのたいしゆ三百よにんうちころさるそののちぢちうにみだれいつてひをはなつだうしやたふめうぶつかくそうばう一うものこさずやきはらふうかはとまをすははくさんのちうぐうのまつじなるによつて三しやならびに八ゐんのしゆとさうどうす八ゐんのしゆとのちやうぼんにちしやくがくみやうはうだいばうしやうちがくいとさのあじやりぞすすんだるつがふそのせい二千よにんおなじき七ぐわつ九かのひのとりのこくにはもくだいもろつねがたちぢかくこそおしよせたれけふはひくれぬしようぶはけつせしとてたいしゆそのひはそのへんなるところにひかへたりつゆふきむすぶあきかぜはいむけのそでをひるがへしくもまをてらすいなづまはかぶとのほしをかがやかすもろつねかなはじとやおもひけむよにげにしてこそのぼりけれつぎのひのまんだあしたたいしゆおしよせたりけれどももろつねおちてなかりければちからおよばずほんざんへひきかへすせんずるところこのよしをさんもんへうつたへてくげへそうもんせんとてはくさんめうりごんげんのしんよをひえいざんひんがしさかもとへふりたてまつるとぞきこえしおなじき八ぐわつ十一にちのむまのこくばかりにめうりごんげんのしんよひえいざんひんがしさかもとへつかせたまふとまをすほどこそありけれにはかにそらかきくもりほくこくのかたよりいかづちおびただしうなりさかりみやこをさしてなつてゆくにはくせつくだつてちをうづみさんじやうらくちうおしなべてときはのやまのこずゑまでもみなしろたへにぞなりにける三ぜんのたいしゆひんがしさかもとにおりくだりしんよをはいしたてまつりすなはちきやくじんのやしろへいれたてまつるさんもんにきやくじんごんげんとまをすははくさんごんげんのおんことなりさたのじやうひはしらねどもしやうがいのめんぼくただこのことのみにありかのうらしまが七せのまごにあへりしがごとしたいだい(イたりない)のもののりやうぜんのちちをみしにおなじ三千のたいしゆくびすをつぎ七しやのじんにんそでをつらねじじこくこくのきねんほつせこころもことばもおよばれず

願立
さんもんのたいしゆそうじやうをささげてなげきけれどもいまだごしよういんなきあひださもしかるべきくぎやうでんじやうびとののたまひあはれけるはあはれこのこととうしてごさいきよあるべきものをさんもんのそせうはたにことなりおほくらきやうためふさだざいのそつすゑなかはてうかのちようしんたりしかどもさんもんのそせうによつてるざいせられきさればもろたかもろつねなんどがことはことのかずにやあるべきなんどのたまひあはれけれどもだいじんはろくをおもんじていさめずせうしんはつみにおそれてまをさずといふことなればおのおのくちをぞとぢられけるかもがはのみづすごろくのさいやまほうしこれぞまろがこころにはかなはぬとしらかはのゐんもおほせなりけむなるまたとばのゐんのおんときゑちぜんのへいせんじをさんもんへつけられけることもたうざんのごきえあさからざるによつてさんもんのそせうはひをもつてりとせよとせんぎせられてこそゐんぜんをもくだされけむなれげにもがうそつきやうばうのきやうのまをさるるやうにたいしゆしんよをささげたてまつつてそせうをいたさんにおいてはきみもいかがはせさせおはしますべきとぞほうわうもおほせなりけむなるまたほりかはのてんわうのぎようかはうぐわんねんのふゆのころみののかみみなもとのよしつなのあそんたうごくしんりふのしやうをたをすによつてやまのきうぢうしやゑんおうをせつがいすこれによつてひよしのしやしえんりやくじのじくわんつがふ三十よにんしさいをそうもんのためにぢんとうへこそはつかうすれご二でうのくわんぱくどのやまとげんじなかつかさのせうよりはるにおほせてこれをふせがせらるよりはるがらうどうやをはなつきずをかうぶるもの八にんしするは四にんなりしやししよしらをめきさけんで四はうへみなにげちりけりこれによつてさんもんおほきにいきどほり七しやのしんよをこんぽんちうだうへふりあげたてまつつてご二でうのくわんぱくどのをさまざまにじゆそしたてまつりけるとぞきこえしあるときまた三千のたいしゆみなひんがしさかもとにおりくだり八わうじごんげんのおんまへにてしんどくのだいはんにやをよまれけるにちういんほういんのいまだそのころちういんぐぶにておはしけるがかうざにのぼりけいびやくのかねうちならしけうげのことばこそおそろしけれわれらがなたねのふたばよりおほしたちたまふかみたちとしりながらむしものにあうてこしからふたまふ(イこしからみたまふ)ご二でうのくわんぱくどのにかぶらやひとつはなちあてたべだい八わうじごんげんとかうじやうにののしつたりけるにぞきくひとみなみのけよだつておぼえたるやがてそのよのねのこくばかりに八わうじごんげんのしんでんよりかぶらやのこゑいでてみやこをさしてなつてゆくとぞひとのみみにもきこえけるつぎのひのまんだあしたみやこにはくわんぱくどのごしゆくしよにおんきやくしのやくつかまつりけるがただいまやまよりおりてくだりたるがことごとなるしきみのはな一えだつゆにぬれたるがおひいでたりこれおほきにふしぎのずゐさうとまをししほどにやがてそのころご二でうのくわんぱくどのさんわうのおんとがめとてごぢうびやうをうけさせたまひやうやうのごぐわんさまざまのおんいのりありまづひよしのやしろにおいて百ばんのひとつもの百ばんのしはでんがくけいばやぶさめすまふおのおの百ばんえんりやくじにおいて百ざのにわうかう百ざのやくしかうとうしんのやくしのざう七たいしやかあみだいつちやくしゆはんのざうおのおの百たいつくりくやうしたてまつらるなかにもくわんぱくどののごぼぎはきやうごくのおほとののきたのまんどころにてさいあいのご一しにてわたらせたまへばごぼぎことにおんなげきあつてしのびつつひよしのやしろへおんまゐりあつて七かこれにごさんろうあつていのりまをさせたまふひとこれをしりたてまつらずいはんやごしんぢうに三のごぐわんありいかでかひとこれをしりたてまつるべきあるよきせんじやうげまゐりあつまれるなかにみちのくよりはるばるとたづねのぼりたりけるわらはみこのこんやはじめてこのみやしろへまゐりたりけるがやはんばかりににはかにぜつじゆすじやうげこはいかにとみるところにやがていきかへりわれに八わうじごんげんののりゐさせたまへりとてたくせんしていはくたうじくわんぱくどのかみのおんとがめとてごぢうびやうをうけさせたまひやうやうのごぐわんをたてさまざまのおんいのりありごぼぎことにおんなげきあつてしのびつつこのみやしろへまゐ
らせたまひ七かこれにごさんろうあつていのりまをさせたまふひとこれをしりたてまつらずいはんやごしんぢうの三のごぐわんをやいかでかひとこれをしりたてまつるべきまづだい一のごぐわんにはこんどくわんぱくどのごぢうびやうたちどころにいえさせたまひておほとりゐよりはじめてやしろやしろのはうぜん八わうじにいたるまでくわいらうつくりかけむとなり第二のごぐわんにはこんどくわんぱくどのごじゆみやうちやうをんのおんことならばわれさまをやつし八わうじのしたどのなるもろもろのかたわうどのなかにまじはりにはのちりをはらひ千にちのおんみやづかひとうけたまはるだい三のごぐわんにはこんどくわんぱくどののごぢうびやうたちどころにいえさせたまひて八わうじごんげんのおんまへにてまいにちほつけもんだふかうおこたりあらじとうけたまはるいづれもいづれもありがたうこそきこしめせまことにさんけいのともがらどものあしたにはきりをはらひゆふべにはつゆをしのぐにくわいらうあらんことあらまほしうこそおぼしめせただしこのしゆとはなんぎやうくぎやうのこうつもつてこんどしやうじをはなれんとなればいまさらにくわいらうをよろこぶべきにもあらずだい二のごぐわんにはのちりをはらひ千にちのおんみやづかひとうけたまはるかみはいつさいしゆじやうをおぼしめすもただおやのこをおもふがごとしひごろはきやうごくのおほとののきたのまんどころにてたまのすだれのうちにしきのちやうにまとはれてたへなるおんみにてわたらせたまひしかどもこをおもふみちにはまよはせたまふにやまことにみるもいぶせくあさましげなるかたわうどのなかにまじはり一にち二かのことならず一千にちまでのおんみやづかひをばかみとしてもいかでかあはれみたてまつらざるべきさこそはおぼしめすらめとあはれなりこれもさるおんことにてはさふらへどもだい三のごぐわんほつけもんだふかうこそまことにありがたうさふらへわれこのやまのふもとにあとをたれいつさいしゆじやうをどするもひとへに一じようけちえんのためなりいちげいつくのほうもんだにもいかばかりかありがたかるべきにましてまいにちおこたりなからんことのめでたさよまことにさもあらばこんどくわんぱくどののごぢうびやうぢやうごふかぎりとはまをせどもかみかのおんみにあひかはつてみとせのいのちをたすけまをさうずるはいかにただしくわんぱくどののしやししよしらにはなちあてたまふやはかみのこのたいにあたれりとてひだりのそでをひきあげたるをみければげにもやめとおぼしくておほきなるあとあざやかにみゆじやうげめをおどろかしみなずゐきのなみだをぞながしけるそのとききたのまんどころさんわうのごたくぜんしんじつにおぼしめしてひとめをつつませたまはずきせんのなかにあらはれいでさせたまひておんなみだにむせばせおはしますまことにたてまをすところの三のぐわんいづれもたがひさふらはず一にち二かのびんだにもいかばかりかありがたかるべきにまして三とせがあひだとうけたまはるこんどのまゐりのごりしやうただこのことにこそさふらへほつけもんだふかうにおきさふらひてはおんうたがひさふらふまじとなみだもせきあへずまをさせたまひたりければおんとものひとびとさていかなるおんことのわたらせたまひでかなほもおんいのちののびさせたまひさふらふべきとまをしあはれければかみも三とせののちはちからおよばせたまはずとてごんげんあがらせたまひけりやがてつぎのひみやこへごげかうあつてくわんぱくどのごぢうだいのごけりやうきのくにたなかのしやうといふところを八わうじへごきしんあつてまいにちほつけもんだふかうまつだいのいまにたえずとこそうけたまはるしんかんはつきさせたまはずとありがたかりしおんことなり一にち二かとせしほどに三とせのすぐるはゆめなれやかうわぐわんねん六ぐわつ二十一にちのゆふべよりくわんぱくどのまたごぢうびやうにうちぞふさせたまひけるさんわうのおんやくそくいまのつきひをかぎらせたまふことなればただじこくたうらいをまたせたまふほどにおなじき二十九にちのあかつきがたおんとし三十八にてつひにかくれさせたまひけりみこころのたけさりのつよささしもただしきひととこそきこえさせたまひたりしかどもまめやかにことのきふにもなりしかばおんいのちををしませたまひけりまことにをしかるべしいまだ四十をだにもみたさせたまはでおほとのにさきだちまゐらつさせたまふぞあさましきかならずおやにさきだつべしといふことにはあらねどもしやうじのおきてにしたがふならひまんとくゑんまんのせそん十ちくきやうのだいしたちもちからおよばせたまはずじひぐそくのさんわうだいしりもつのはうべんなればとがめさせたまはざるべしともおぼえずさればさんもんのそせうはおそろしきことにのみこそまをしつたへたれさるほどにとしくれてあんげんも三とせになりにけり

御輿振
あんげん三ねん三ぐわつ五かのひめうおんゐんどのだいじやうだいじんにてんじたまふかはりこまつどのだいなごんさだふさのきやうをこえてないだいじんにあがりたまふめうおんゐんどのおしあげられさせたまひけりいちのかみこそせんどなりしかどもちちあくさふのおんれいそのはばかりありとぞきこえしおなじき十三にちにこまつどのにはだいじんのだいきやうおこなはるそんじやはおほゐのみかどのさだいじんつねむねこうとぞきこえしおなじき四ぐわつにさんもんにはひよしのさいれいをおしとめおなじき十三にちにおほみやろうもんのまへに三たふくわいがふしてこくしかがのかみもろたかるざいにしよせられもくだいもろつねきんごくせらるべきよしどどのそうもんにおよぶといへどもごさいだんおそかりければ十ぜんじきやくじんならびに八わうじ三しやのしんよをかきささげたてまつつてしさいをそうもんのためにぢんとうへこそはつかうすれにしさかもとさがりまつきれつつみただすむめただやなぎはらとうぼくゐんのへんにししつづみのおとおびただしくきこゆじんにんみやししらたいしゆかもがはらにみちみちたりしんよは一でうをにしへみゆきなるごしんはうはてんにかがやききらめきわたつてじつげつちにおちさせたまへるかとぞおぼえたるくわうきよにはげんぺいりやうかのたいしやうぐんちよくをうけたまはつてしはうのもんをかためてだいしゆをふせぐへいじにはこまつどの三千よきにてひんがしおもてのぢんやうめいたいけんいうはうもん三のもんをかためらるうゑもんのかみよりもり一千よきにてみなみおもてのぢんをかためらるへいさいしやうのりもりこれも一千よきにてにしおもてのぢんをかためらるげんじにはだいだいしゆごのげん三みよりまさわたなべのはぶくさづくをさきとしてつがふそのせい三百よききたおもてぬひどののぢんをかためてたいしゆをふせぐおほぢはひろしせいはすくなしまばらにこそはみえたりけれたいしゆぶせいたるにめをかけてきたおもてぬひどののぢんよりしんよをふりいれたてまつらんとすすでにかうとみえけるによりまさきやういかがはおもはれけんゆみをばはづしかぶとをぬいでしんよをはいしたてまつらるたいしやうのかくしけるうへはいへのこらうどうどももみなしたがつてかくのごとしよりまさきやうしばらくしゆとのおんなかへまをすべきむねありとてつかひはわたなべのちやう七となふとぞきこえしとなふがそのひのしやうぞくにはきちんのひたたれにこざくらをきにかへしたるよろひをきこくじつのたちをはき二十四さいたるおほなかぐろのやおひぬりこめどうのゆみわきにはさみつつかぶとをばぬいでたかひもにかけおきみちよりあゆみいでたいしゆのまへにかしこまりこれはげん三ゐどのよりまをせとさふらふこんどさんもんのごそせうりうんのでうもちろんにさふらふただしごさいだんちちこそよそにてもゐこんにぞんじさふらへさてはしんよをこのぢんよりあけていれまゐらせんこといとやすきおんことにてはさふらへどもしかもあけていれまゐらせんぢんよりいらせおはしましたらむはさんもんのたいしゆたいぜいにはおそれてめだれがほをしけるよなんどきやうわらんべのまをさんことごにちのなんにてもやさふらはんずらんまたふせぎまゐらせさふらへばねんらいいわうさんわうにかうべをかたぶけまゐらせたるよりまさがけふよりしてながくゆみやのみちにわかれはてさふらひなんずまたあけてとほしまゐらせさふらへばせんじをそむくににたりかれといひこれといひかたがたなんぢのやうにさふらふひがしおもてのぢんをばこまつどのの三千よきにてかためさせられてさふらふあのぢんよりいらせおはしましたらむはさんわうのごゐくわうもいよいよめでたくしゆとのごいしゆもあらはれてごそせうやがてたつしぬとおぼえさふらふといひおくりたりければとなふがかくまをすにふせがれてじんにんみやししばらくゆらへたりわかたいしゆあくそうどもはなんでふただこのぢんよりしんよをふりいれたてまつれやとせんぎすすでにかうとみえけるにここに三千のちやうぼんつのりつしやがううんすすみいでてまをしけるはわれらこんどしんよをささげたてまつつてそしようをいたさんにおいてはたいぜいのなかうちやぶつていつたらむこそこうだいのきこえもあらんずれそのうへこのよりまさきやうとまをすは六そんわうよりこのかたげんじちやくちやくのしやうとうゆみやをとつててんかになをあぐるのみならずやまとことばにもいうにやさしかんなるぞひととせこんゑのゐんのおんときたうざのごくわいのありしにしんざんのはなといふだいのいでたりしをずゐぶんのひとびとのよみわづらはれたりしをもこのよりまさきやうこそしうかにはよみたりしか
みやまぎのそのこずゑともみえざりしさくらははなにあらはれにけり
とまをすめいかつかまつつてぎよかんにあづかりしそのやさをとこがかためたるもんにこそあんなれいかがなさけなうちじよくをばあたふべきただそのしんよかきかへしたてまつれやとせんぎしければせんぢんよりごぢんにいたるまでみなもつとももつともとぞどうじけるそののちきたののしんよをさきだてたてまつつてひがしのぢんへまはるぶしどもしんばしささへてふせぎけれどもたいしゆことともせずうちやぶつてらんにふしけるあひだたちまちらうぜきいできてたいけんもんかためたるぶし六にんやをはなつそのや十ぜんじごんげんのみこしにたつじんにんみやしいころされしゆとおほくきずをかふむつてをめきさけぶこゑかみはぼんでんまでもきこえしもはけんらうぢじんまでもおどろきさわぎたまふらんとぞおぼえたるそののちさんしやのしんよをばぢんとうにふりすてたてまつつてなくなくほんざんにこそかへりのぼりけれ

内裏炎上
こんどみこしにたつところのやをばじんにんしてぬかせらるそののちだいりにはくらんどのさせうべんかねみつにおほせてせんれいをだいげきもろひさにおんたづねありければもろひさまをしけるはまづはうあん四ねん四ぐわつにしんよじゆらくのときはざすにおほせてせきさんのやしろへいれたてまつらるまたはうえん四ねん四ぐわつにしんよじゆらくのときはぎをんのべつたうにおほせてぎをんのやしろへいれたてまつりたるよしをそうもんすしからばこんどははうえんのれいたるべしとてぎをんのべつたうちようけんにおほせてぎをんのやしろへいれたてまつらるかのやしろのしやししよしらへいしよくにおよんでしんよをうけとりたてまつつてみやしろへいれたてまつるいんじえいきうよりあんげんのいまにいたるまでたいしゆしんよをささげたてまつつてそしようをいたすこと六どなりまいどぶしをもつてこそふせがせらるるにしんよにやいかけたてまつることこれはじめとぞうけたまはるれいしんいかりをなすときはさいがいちまたにみつともいへりおそろしおそろしとぞひとまをしけるおなじき十四かにれいのさんもんのたいしゆまたげらくすときこえしかばだいりならびにゐんのごしよへぐんびやうめされけりきやうちうのさうだうなのめならずさんもんにはじんにんみやしいころされしゆとおほくきずをかうぶりしかばひよしのおほみや二みやえんりやくじのちうだうかうだうすべてしよだうをやきはらつてみなさんりんにまじはるべしとぞ三千一どうにせんぎしけるきみもこのことごしよういんあるべきよしきこえしかばさんもんのじやうかうらもんとのたいしゆにこのよしふれんとてとうざんしけるをたいしゆおほきにいかつてにしさかもとよりおつかへすおなじき二十かのひへいだいなごんときただのきやうのいまだそのころさゑもんのかみにてしやうけいにたたるさんもんのたいしゆだいかうだうのにはにしふゑしてせんぎしけるはせんずるところしやうけいをとつてひつぱりかぶりをうちおとしみづうみへしづめよなんどぞまをしけるすでにかうとみえけるにさゑものかみしばらくしゆとのおんなかへまをすべきむねありとてふところよりこすずりたたうがみをとりいだし一くをかいてたいしゆのなかへぞおくられけるしゆとらんあくをいたすはまえんのしよぎやうめいわうのせいしをくはふるはぜんせいのかごなりとぞかかれたるたいしゆもつとももつともとてたにだににくだりばうばうへこそいりにけれ一し一くをもつて三たふ三千のいきどほりをやすめこうしのはぢをきよめたまふときただのきやうこそやさしけれとさんじやうらくちうおしなべてほめぬひとこそなかりけれおなじき二十三にちにほりかはのだいなごんただちかのきやうをしやうけいにてこくしかがのかみもろたかるざいにしよせられもくだいもろつねきんごくせらるこんどしんよにやいかけたてまつるぶし六にんごくぢやうせらるこれはこまつどののめしつかはれけるところのぐんびやうどもなりおなじき二十八にちのよのねのこくばかりにみやこにはひぐちとみのこうぢよりひいできてをりふしたつみのかぜはげしうふいてきやうちうおほくやけにけりきたののてんじんのこうばいどのぐへいしんわうのちくさどのさい三でうかもゐどのとう三でうそめどのふゆつぎのおとどのかんゐんどのていじんこうのこ一でうせうぜんこうのほりかはどのたちばなのいつせいがはいまつどのおにどのにいたるまでむかしいまのめいしよきうせき二十よケしよくぎやうのしゆくしよだに十七ケしよまでやけにけりそのほかしよだいぶさぶらひのいへいへはなかなかまをすにおよばずしやりんのやうなるほむらが三ちやう五ちやうをへだてつつとびこえとびこえいぬゐをさしてやけゆけ
ばおそろしなんどもおろかなりはてはだいだいにふきつけたりしゆじやくもんよりはじめておうでんもんくわいしやうもんだいごくでんしよし八しやうぶらくゐんあいたんどころくわんのちやうだいがくれうにいたるまでただ一じがあひだのくわいじんのちりとぞなりにけるいへいへのにつきだいだいのもんじよ七ちん万ぱうさながらちりはひとなるそのほかのつひえいくばくぞやひとのやけしぬることす百にんぎうばのたぐひかずをしらずこれただごとにあらずひえいざんよりおほきなるさるどもが一二千おりくだりてんでにたいまつをとぼしてやくとぞひとのゆめにはみえにけるおよそだいごくでんのやきにけるこそあさましけれだいごくでんはせいわてんわうのぎようじやうぐわん十八ねんにやけたりしかばおなじき十九ねんしやうぐわつ三かのひやうぜいゐんのごそくゐはぶらくゐんにてぞとげられけるぐわんぎやうぐわんねんしやうぐわつにことはじめあつておなじき二ねん四ぐわつにつくりいだしたてまつつてせんかうなしたてまつつたりしをまたごれんぜいゐんのぎようてんき五ねん二ぐわつ二十六にちにやけたりしかばぢりやく四ねん八ぐわつにことはじめあつておなじき十ぐわつ十かのひおんむねあげとはさだめられたりしかどもごれんぜんゐんつくりもいだされずしてほうぎよなりぬしかるをご三でうゐんのぎようえんきう四ねん四ぐわつにつくりいだしたてまつつておなじき十五にちにせんかうなしたてまつりれいじんがくをそうしぶんじんしをたてまつるいまはくにのちからもおとろへてそののちはつくりもいだされず

平家物語(城方本・八坂系)
巻第二
座主流 201
あんげん三ねん五ぐわつ五かのひてんだいざすめいうんだいそうじやうくじやうをとどめてけつくわんせられたまふうへくらんどをおんつかひにてによいりんのごほんぞんをめしかへしたてまつつてごぢそうをかいえきせらるすなはちしちやうのつかひをつけてこんどだいりへしんよふりたてまつりししゆとのちやうぽんをぞめされけるまたかがのくににざすのごばうりやうありもろたかこれをちやうはいのあひだもんとのだいしゆをかたらつてそしせうをいたすこれすでにてうかのおんだいじにおよびぬべきよしさいくわうほうしふしがむじつのざんそうによつてほうわうつみなきめいうんをぢうくわにおぼしめしさだめけりめいうんもまたほうわうのごきそくあしきよしきこえしかばいんやくをかへしたてまつつてざすをじしまをされけりおなじき十一にちにとばのゐんの七のみやかくくわいほうしんわうてんだいざすにならせたまふこれはこしやうれんゐんのだいそうじやうぎやうげんのみでしなりおなじき十二にちにせんざすをばすでにすゐくわのせめにおよびぬべきよしきこえしかばおなじき十三にちにだいじやうだいじんいげのくぎやう十六にんさんだいあつてぢんのざにつきさきのざすざいくわのことぎぢやうありなかにも八でうのちうなごんながかたのきやうのいまだそのころさだいべんのさいしやうにてばつざにさふらはれけるがすすみいでてまをされけるはほつけのかんじやうにまかせしざい一とうをげんじをんるせらるべしとはみえてさふらへどもこのめいうんはじやうぎやうぢりつなるうへけんみつけんがくして一じようめうきやうをくげにさづけたてまつり三しゆじやうかいをほふわう(ほうわう)にたもたせたてまつるあるひはおんきやうのしなりあるひはごかいのしなりてうくわのをんるにおこなはれんことみやうのせうらんはかりがたしさればげんぞくをんるをもともになだめまをさるべきかといささかはばかるところもなうまをされたりければたうざのくぎやうもつともながかたのきやうのぎにどうずとはのたまひあはれけれどもほうわうのおんいきどほりふかかりければなほてうくわにおぼしめしさだめけりそうをつみするならひとてどゑんをとつてげんぞくせさせたてまつりだいなごんのたいふふぢゐのまつえだといふぞくみやうをつけられけるこそうたてけれおなじきはつかのひせんざすをばすでにいづのくにへながしたてまつらるべきよしきこえしかばにふだうしやうごくもこのことなだめまをさんとてゐんざんまをされたりけれどもほうわうおんかぜのここちとてごぜんへもめされざりければいきどほりふかげにてぞいでられけるおなじき廿二にちにせんざすをばけふすでにみやこのうちをおひいだしたてまつるべしとておつたてのくわんにんりやうそうしらしらかはのごばうにまゐりむかひこのよしまをしたりければせんざすすこしもやすらふべきにあらずとていそぎごばうをいでさせたまひそのひはあはたぐちのほとり一さいきやうのべつしよになくなくたちぞしのばせたまひけるさるほどにさんもんのだいしゆだいかうだうのにはにしゆゑしてせんぎしけるはそもそもわれらがかたきはさいくわうほうしふしなりとてかれらおやこがみやうじをかいてこんぽんちうだうにおはしますこんぴらたいしやうのひだりのみあしのしたにふませたてまつりねがはくは十二じんしやう七千やしやじこくをめぐらさずさいくわうほうしふしがいのちをめしとらせたまへやとをめきさけんでしゆそしけるこそおそろしけれおなじき廿三にちにせんざすいつさいきやうのべつしよをなくなくたちぞいでさせたまひけるさしものほふむのだいそうじやうほどのひとにかうぞめのおんころもをばきせたてまつりながらてんまのうたてげなるにのせたてまつりおつたてのくわんにんりやうそうしらがさきにけたてたてまつつてけふをかぎりにせきのひんがしへこえられけるみこころのうちおしはかられてあはれなりおほつのうちでのはまにもなりしかばもんじゆろうののきばのしろじろとしてみえけるをふためともみたまはずそでをかほにおしあててなくなくそこをぞすぎられけるなかにもぎをんのべつたうちようけんほういんのいまだそのころごんだいそうづにておはしけるがせんざすのおんなごりををしみたてまつりあはづまでおくりたてまつつてかへられけるにせんざすちようけんのはるばるとこれまでとぶらひきたりたまへるこころざしのほどをかんじたまひてねんらいごしんぢうにひせられけるてんだいゑんじゆのひほふ一しん三くわんのもんならびにけちみやくせうじようのしだいをちようけんにさづけらるそもそもこのひほふとまをすはしやかふぞくのでしはらないこくのめみやうびくなんてんぢくのりうじゆぼさつよりこのかたしだいにさうでんしきたれりしかるをけふのなさけにちようけんにこれをさづけらるさすがわがてうはぞくさんへんちのさかひとはまをしながらちょうけんこれをふぞくしてありがたさにほうえのそでをかほにあてなくなくかへりたまひけりそもそもこのめいうんとまをしたてまつるはむらかみのてんわうにだい七のわうじぐへいしんわうに五だいのまごこがのだいなごんあきみちのきやうのおんこなりじやうぎやうぢりつなるうへけんみつけんがくしてならびなきかうそうにてましましければ六しようじならびにてんわうじのべつたうをもかねたまへりにんあん三ねん二ぐわつ十五にちにてんだいざすにならせたまふそのときあべのやすちかこのめいうんをみたてまつつてぎようとくのほどはありがたけれどもただしおんなこそこころえられねめいうんはかみにじつげつのひかりをならべてしもにくもありとぞなんじまをしけるむかしでんけうだいしちうだうのはうざうにこめられたりけるはう一しやくのはこありしろききぬにてつつまれたりかのなかにわうしにかけるふみ一くわんありこれはでんけうだいしまつだいのざすのしだいをかねてあそばしおかれたりさればだいだいのざすごはいだうのおんときかのはこをあけふみをひらいてみたまふにわがなのあるところまではみたまひてそれよりおくをばみずしてまきをさめておかるるならひありさればこのめいうんもごはいだうのおんときかのはこをあけふみをひらいてみたまふにぎしんくわしやうよりこのかたてんだいざすはじまつて五十五だいめいうんとまをすおんなありかほどめでたきかうそうにてましましけれどもいかなるつみのむくいにかいまるざいせられたまふらんさるほどにさんもんのだいしゆだいかうだうのにはにしゆゑしてせんぎしけるはでんけうじかくのおんことはなかなかまうすにおよばずぎしんくわしやうよりこのかたてんだいざすはじまつて五十五だいいまだるざいのれいをきかずつらつらことのこころをあんずるにさんぬるえんりやくのころほひくわんむてんわうでんけうだいしとおんちぎりをむすばせたまひくわうていはていとをたてだいしたうさんによぢのぼりこのところにしめいのけうぼふをひろめたまひしよりこのかたながく五しやうのによにんあとたえて三千のじやうりよきよをしめたりみねには一じようどくじゆとしふりてふもとには七しやのれいげんあらたなりかのぐわつしのりやうぜんはていとのとうぼくにそばだつてだいしやうのいうくつたりじちゐきのえいがくはわうじやうのきもんにあたつてごこくのれいちたりさればだいだいのけんわうちしんみなこのところにだんじやうをしむこはまつだいといはぬからにいかでかわがやまのくわんしゆをたこくへはうつさるべきこはこころうしなんどをめきさけぶほどこそありけれ三千のだいしゆ一にんものこらずみなひがしさかもとにおりくだるそののち三千のだいしゆ十ぜんじごんげんのおんまへにしうゑしてせんぎしけるはおつたてのくわんにんりやうそうしらがあんなればわれらこんどあはづにゆきむかひるにんをうばひとどめたてまつらんことありがたしいまは十ぜんじごんげんのおんちからのほかはまたたのみたてまつるかたなしとてかんたんをくだいていのりたてまつりけるにここにじようゑんりつしがわらはにつるまるとてしやうねん十八さいになりけるがしんじんをくるしめ五たいにあせをながしわれに十ぜんじごんげんののりゐさせたまへりとてたくせんしていはくしやうじやうせぜにこころうしこはまつだいといはんからにいかでかわがやまのくわんしゆをたこくへはうつすべきさらんにとつてはわれこのやまのふもとにあとをたれてもなににかはせむとなりだいしゆずゐきのなみだをながしまことのれいけんにてましまさばわれらしるしをたてまつらんまづひとつのずゐさうをみせしめたまへとておもてにたちならびたるらうそう千よにんがてんでにもちたるじゆずどもをおほゆかのうへへぞなげあげたるくだんのものつきはしりめぐりつかのごとくにとりあつめすこしもたがへずもとのぬしにくばりわたすだいしゆいまは十ぜんじごんげんのれいけんあらたにましましけりわれらこんどあはづにゆきむかひるにんをうばひとどめたてまつらんことうたがひなしとよろこびていさみをなしてぞむかひけるあるひはべうべうたるしがからさきのはまぢにあゆみつづけるだいしゆもありあるひはやまだやばせのこじやうにふねおしいだすしゆともありたいぜいうんかのごとくにむかひければさしもきびしげなりつるおつたてのくわんにんりやうそうしらざすをばあはづのこくぶんじのみだうのまへにすておきたてまつつてみなちりぢりにこそなりにけれだいしゆまゐりければせんざすのたまひけるはけふすでにみやこのうちをおひいださるべしといふゐんぜんせんじのなりぬるうへはすこしもやすらふべきにあらずとてはしぢかうゐいでのたまひけるはわれ三たいくわいもんのいへをいで四めいけいけいのまどにいつしよりこのかたひろくゑんしうのけうぼふをがくしけんみつりやうしうをまなべりひとへにわがやまのこうりうをのみおもへりしゆとをはごくむこころざしもふかかりきまたこくかをいのりたてまつることもあさからざりきりやうしよさんじやうさんわう七しやもさだめてせうらんしたまふらんつみなくしてとがをかうむることこれひとへにぜんぜのしゆくしふとのみおもへばまつたうよをもひとをもかみをもほとけをもうらみたてまつらずしゆとのこれまではるばるととぶらひきたりたまへるはうしこそいつのよまでわすれがたけれとてかうぞめのおんころものそでしぼるばかりにみえられければだいしゆもみなよろひのそでをぞぬらしけるだいしゆおんこしさしよせいまはとうとうめさるべうさふらふとまをしたりければせんざすのたまひけるはわれすでにるにんのみとしていかでかちゑふかきしゆがくしややごとなきだいとくたちにかきささげられてはのぼるべきたとひかへりのぼるともおなじうあゆみつづきてこそはのぼるべけれとてさうなうのりたまはずここにさいたふのぢうりよかいじやうばうのあじやりいうけいとてそのたけ七しやくばかりありけるがふしなはめのよろひのかねまぜたるをくさずりながにきなしくはがたうつたる三まいかぶとのををしめしらえのおほなぎなたのさやをはづいてつゑにつきはるかのごぢんにたちたりけるがかぶとをばぬいでうしろへかつばとなげけるをげにんのほうしとりてんげりそののちたいぜいのなかをおしわけおしわけせんざすのおんまへにつつとまゐりだいのまなこにかどをたてざすをはつたとにらみたてまつつてあなあさましそのみこころにてわたらせたまへばこそいまかかるうきめにはあはせたまへとうとうめさるべうさふらふとておんてをとつてあらけなくひつたてまゐらせければざすあまりのおそろしさにやいそぎおんこしにぞめされけるだいしゆせんざすとりえたてまつつたることをよろこびていやしきほうしばらにあらずちゑふかきしゆがくしややごとなきだいとくたちかきささげてぞのぼりけるやがてさきごしをばいうけいかくひとはかはれどもいうけいはかはらずごぢんはよわれどもせんぢんはつかれずこしのながえもなぎなたのえもをれよくだけよともつままにさしもさかしきひんがしざかへいちをゆくがごとくにてだいかうだうのにはにぞかきすゑたるそののち三千のだいしゆまただいかうだうのにはにしふゑしてせんぎしけるはわれらこんどるにんをうばひとどめたてまつつていかでかわがやまのくわんしゆとはあがめたてまつるべきとせんぎしけるところにいうけいまたさきのごとくにすすみいでてそれわがやまはにつぽんぶさうのれいちちんごこくかのだうぢやうなりさればしゆとのいしゆもよさんにこえいやしきほうしばらにいたるまでよもつてこれをかろんぜずちゑかうきにして三千のくわんしゆたりとくぎやうおもうしていつさんのくわしやうたりわれらこんどけんみつのあるじをうしなひたてまつつてけいせつのつとめおこたらんこととうだいこうぶくをんじやうのあざけりさんじやうらくちうのいきどほりにあらずやいうけいこんどちやうぽんにしようせられきんごくるざいかうべをはねられまゐらせむことこんじやうのめんぼくめいどのおもひいでなるべしとてさうがんよりなみだをはらはらとながしければだいしゆもつともとてまたおんこしかきささげたてまつつてとうたふのみなみだにめうくわうばうへいれたてまつるそれよりしてぞいうけいをばいかめばうとはまをしけるさればときのわうさいをばいかなるごんげのひとものがれたまはざるにやだいたうの一ぎやうあじやりはげんそうくわうていのごぢそうなりくわうていのきさきやうきひになだちたまへることありこれあとかたなきむじつのとがなりけれどもくわらこくへぞながされけるくだんのくにへは三のみちありいうちだうりんちだうあんけつだうとぞまをしけるいうちだうはみゆきみちりんちだうはざふにんのかよひぢなかにもあんけつだうとまをすはぢうぼんのものをつかはすに七か七やがあひだつきひのひかりをみずしてゆくみちなり一ぎやうぢうぼんのひとなればとてかのあんけつだうよりぞながされけるみやうみやうとしてひとりゆくかうほうに千どまよひしんしんとしてやまふかくただかんこくにとりの一こゑばかりにてこけのぬれぎぬほしあへずてんだうむじつのとがをあはれませたまふことなれば九えうのかたちをげんじて一ぎやうをてらしたまふときに一ぎやうみぎのゆびをくひきつてひだりのそでに九えうのかたちをぞうつされけるわかんりやうてうにしんごんのほんぞんたる九えうのまんだらこれなり
西光がきられ 202
こんどさんもんのだいしゆのせんざすとりとどめたてまつたることをほうわうきこしめされておほきにやすからずとぞおほせけるれいのさいくわうがまをしけるはむかしよりさんもんのだいしゆのみだりがはしきそしようさふらふこといまにはじめずとはまをしながらこれらほどのらうぜきをばいまだうけたまはりおよばずよはよにてもさふらふまじとわがみのたつたいまほろびんずるをもしらずまたさんわうだいしのしんりよにもはばからずかやうにまをしてしんきんをなやましたてまつるそうらんしげからんとすればあきのかぜこれをやぶりわうしやあきらかならんとすればざんしんこれをくらうすともいへりざんしんはくにをみだりとふはいへをやぶるともかやうのことをやまをすべきさるほどにほうわうはしんだいなごんなりちかのきやういげごきんじゆのひとびとそのほかほくめんのともがらにおほせてやませめらるべしとぞきこえしさんもんのだいしゆこのよしをつたへうけたまはつてわれらわうどにはらまれながらさのみぜうめいをたいかんすべきにあらずとてないないはゐんぜんにしたがひつきたてまつるしゆともせうせうありなんどきこえしかばせんざすはめうくわうばうにおはしけるがこのよしをききたまひてまたいかなるうきめにかあはむずらんとてやすきこころもしたまはずさるほどにしんだいなごんなりちかのきやうはたうじさんもんのさうどうによつてわたくしのしゆくいをばしばらくおさへられたりそもそもないぎしたくはさまさまなりしかどもおほかたのぎせいばかりにてはいかにもかなふべうもみえざりけるにむねとたのまれたりけるつのくにげんじただのくらんどゆきつなこのことむやくなりとおもふこころぞいできにけるつらつらへいけのはんじやうをみるにたやすくかたぶけがたしまただいなごんどののかたらはるるところのぐんびやういくほどなしゆきつなよしなきことにくみしたりこのことてんかにもれなばまづゆきつなさきにうしなはれなんずさればひとのくちよりもれぬさきにこのことへいけへまをしわがみのさいなんをのがればやとおもひければおなじき五ぐわつ廿九にちのよにいつてにふだうしやうごくのしゆくしよにし八でうどのへぞまゐりたるにふだうやがていであひたいめんしたまひてこのよははるかにふけぬらんにそもなにごとぞとのたまへばゆきつなさんさふらふたうじごきんじゆのひとびとのひやうぐをととのへぐんびやうあつめられさふらふをばいまだしろしめされさふらはぬやらんとまをしたりければにふだうよにもこともなげにてわうそれはほうわうのやませめらるべしとこそきけとのたまへばゆきつなゐよりていやそのぎにてはさふらはずたうじごきんじゆのひとびとのご一もんをかたぶけまゐらせんとこそぎせられげにさふらへとまをしたりければにふだうもつてのほかにおどろきたまひてさてさやうのことどもをばゐんにもしろしめされたるかまをすにやおよびさふらふしつじのべつたうしんだいなごんどののぐんぴやうあつめられさふらひしにもゐんぜんとてこそもよほされさふらひしかそのほかさいくわうがとまをしてしゆんくわんがかうまをしてなんどあるままにもさしすぎてまをしちらしいとままをしてまかりいづにふだうもつてのほかのおほごゑをもつてさぶらひどもよびののしりたまふこゑおそろしくゆきつなもなまじひなることまをしいだしわがみもそのしようにんにやひかれつらんとおもひければひともおはぬにとりはかましおほのにひをはなつたるここちしてもんぜんにはしりいでばばなるむまにうちのりていそぎしゆくしよへにげかへるにふだうさだよしとめすちくごのかみさだよしおんまへにまゐりかしこまるにふだうややさだよしきやうちうにむほんのともがらどもがみちみちたんなるぞひとびとにもふれまをせさぶらひどもめすべしとのたまへばさだよしうけたまはつてきやうちうをもよほしけるにこまつどのばかりこそなにごとにもさわぎたまはぬひとにてさんぜられねそのほかのひとびとにはとうのちうじやうくらんどのかみさまのかみいげのくぎやうでんじやうびとみなわれもわれもとはせまゐらるそのほかさぶらひぐんびやうどもわれもわれもとはせたりけりよのほどににし八でうどのには四五千きにこそなりにけれあくれば六ぐわつついたちのまだくらかりけるににふだうけんびゐしあべのすけなりをめしてやよすけなりゐんのごしよにまゐりだいぜんのだいぶよびいだしそうせうずるやうよなごきんしゆのともがらどもがあまりのくわぶんにてあまつさへじやうかいをかたぶけんとけつこうつかまつりさふらふをいちいちにめしとつてことのしさいをたづねうけたまはりまをさうずるをばゐんにはしろしめさるまじうさふらふとまをせとてつかはさるすけなりゐんのごしよにまゐりだいぜんのだいぶをよびいだしこのよしまをしたりければほうわうあはれこれはひごろはかりしことのはやもれきこえたるにこそとおぼしめすよりあさましくてこはなにごとぞとばかりにてふんみやうのごへんじもなかりければすけなりさればこそとむやくにていそぎかへりまゐるべきよしをいひいれつつにし八でうにかへりまゐりてこのよしまをしたりければにふだうさればこそよもごへんじはあらじゆきつなはまことをいひけりこのことつげしらせずはにふだうあんをんにてやあるべきとてやがてなんばせのををめしてむほんのともがらどもからめとるべきやうをいちいちしだいにげぢせらるなかのみかどからすまるのしんだいなごんなりちかのきやうのもとへざふしきをもつてきつとたちよらせさふらへいささかのたまひあはすべきことのさふらふとのたまひつかはされたりければだいなごんあはれこれはたうじさんもんのさうどうのことをゐんへそうせんとにやらんそのぎならばおんいきどほりもつてのほかげなるものをとてわがみのうへとはつゆしりたまはずないきよげなるほうえたをやかにきなしつつ八えふのくるまのあざやかなるにのりたまふうしかひざふしきにいたるまでみなきよげにてぞいでられけるそもさいごとはのちにぞおもひしられけるだいなごんにし八でうちかうなるままにそのへんをみたまへばもののぐしたるつはものどもが四五ちやう十ちやうにところもなくぞみちみちたるだいなごんこはなにごとやらんとむねうちさわぎもんをさしいりてみたまへばちうもんのとにはおそろしげによろうたるむしや二にんだいなごんどのにたちむかひたてまつりだいなごんどののさうのてをとつてひつぱりにはへひきおとしたてまつつてこはいましめたてまつるべうもやさふらふらんとまをしたりければにふだうすこしはらゐてあるべからずとのたまへばうけたまはつてつはものす十にんがなかにとりこめたてまつつてひとまなるところにおしこめたてまつるだいなごんただゆめのここちぞしたまひけるおんともにさふらひけるしよたいふさぶらひどもいくらもありけれどもたいぜいにおしへだてられてものをだにもまをさずうしかひざふしきにいたるまでくるまをすててみなちりぢりにこそなりにけれこれをはじめとしてへいけのさぶらひども二百よき三百よきしよしよにおしよせおしよせむほんのともがらども一々しだいにからめとりまづあふみのちうじやうにふだうれんじやうやましろのかみもとかねしきぶのたいふまさつなそうのはんぐわんのぶふさしんへいはんぐわんすけゆきへいはんぐわんやすよりほつしようじのしふぎやうしゆんくわんそうづもからめられてぞいできたるさいくわうこれもこのことゐんへそうせんとていそぎむちあぶみあはせてはせまゐるへいけのさぶらひどもみちにてゆきあうたりいかにごへんにし八でうどのよりめしのさうぞきとまゐりたまへといひければさいくわうこれもいささかゐんへそうすべきやうあつてまゐりさふらふいかさまにもやがてまゐらむずるさふらふとてうちすぎんとすにつくいにふだうのなにごとをかそうすべきさないはせそといふままにむまよりとつてあておとしてからめとるひのはじめよりどういよりきのものなりければしたたかにいましめてにふだうしやうごくのしゆくしよにし八でうへぐしてまゐりおんつぼのうちにぞひつすゑたるにふだうごらんじてあはれこのひごろいかにもしてじやうかいをかたぶけんとせしやつばらどものなれるすがたのおもしろさよしやつここへひきよせよやとてえんのきはにひきふせさせまづおほきなるむちをもつてこころのゆくゆくうちてのたまひけるはやれおのれがやうなるげらふのはてをきみのめしつかはせたまひてなさるまじきくわんしよくをたうでふしともにくわぶんのふるまひせしやつばらとみしにあはせてあやまらぬてんだいざするざいにまをしおこなひあまつさへじやうかいをかたぶけんとせしむほんにんひのはじめよりみなひとしつたりいささかそのやうをすみやかにまをせにつくいにふだうのとのたまへばさいくわうちつともいろもへんぜずわるびれたるきしよくもなくゐなほりいでいでさらばのちごとひとつはなさんとていいやさもさうぬぞとよしつじのべつたうしんだいなごんどののぐんびやうあつめられさふらひしかばゐんちうにめしつかはるるもののみなればくみせぬとはまをすまじそれはくみしたりただしごへんはみみにとどまることをものたまふものかなたにんのまへはしらずさいくわうなんどがまへにてはさやうのくわんぶんのことばをばえこそのたまふまじけれみさうざつしことかごへんはこぎやうぶきやうのこにてはありしかども十四五まではしゆつしもなくこなかのみかどのとうのちうなごんかせいのきやうのもとにたちよりたまひしをばきやうわらんべはれいのたかへいたとこそわらひしかいんじはうえんのころかとよごへんのちちただもりのはかりごといみじうしてかいぞくのちやうぽんにん四十よにんめししんぜられたりしけんしやうにごへんのいまだそのころ十八か九にて四ゐして四ゐのひやうゑのすけといはれたまひしをばひといつしかなりとまをししがひごろはでんじやうのまじはりをだにもきらはれたまひしひとのしそんのいまはきんじきざつはうをゆりりようらきんしうをみにまとひあまつさへだいじんたいしやうにいたつてきみをもきみとはせずしんをもしんとせぬをこそくわぶんとはいへさぶらひほどのもののじゆりやうけびゐしになることせんれいはふれいなきにあらずさればなにごとかくわぶんなるべきにふだうどのといひければにふだうあまりにはらをすゑかねてしばしはものをものたまはずややあつてにふだうしやうごくのたまひけるはしやつここへひきよせよやとてえんのきはにあをのけにひきふせさせさいくわうがしやつらをものはきながらむんずむんずとふんでしやつにものないはせそしたをぬけくちをさけとぞいかられけるまつうらのたらういへとしとまをすものちうにくくつていでにけりそののちあしてをはさみがうきにかけさまざまにいためとふさいくわうもとよりあらがひざつしうへきうもんはきびしかりけりことのしさいのこりなうこそおちたりけれはくじやうをかみ四五まいにきせられけりそののち五でうにしのしゆじやかにひきいだししたをぬきくちをさきつひにかうべをはねられけりじなんこんどうはんぐわんもろつねきんごくせられたりけるをもめしいだしおととさゑもんのじようもろひらともにかうべをはねられけりならびにらうどう三にんちうせらるちやくしかがのかみもろたかをばをはりのゐどたへながされたりけるをもうつてをつかはしてほろぼさるもろたかさんざんにたたかひけるがかなはじとやおもひけむたちにひかけじがいしてこそうせにけれこれらはすべていひがひなきもののひいでてあやまらぬてんだいざするざいにまをしおこなひさんわうだいしのしんばちみやうばちをたちどころにえてわがみもしそんもことごとくほろびぬるこそあさましけれ
小教訓 203
さるほどにだいなごんはひとまなるところにおしこめられておはしけるがあはれこれはひごろはかりしことのはやもれきこえたるにこそたれもらしけむいかさまにもこれはほくめんのともがらどものうちにもやあるらんなんどおもはしなきこともなうあんじつづけておはしけるところにうしろのかたよりあしおとたからかにひとのきたるおとのしければだいなごんただいまこれにてうしなはれんずるにこそとおもはれけるにさはなくてにふだうしやうごくそけんのころものもみじかなるにしろきおほくちふみふくみひじりづかのかたなおしくつろげてさすままにだいなごんのおはしけるうしろのしやうじをあららかにさつとあけてしばらくにらまへてぞたちたまひけるややあつてにふだうのたまひけるはいかにごへんさんぬるへいぢにのぶよりのきやうがむほんのどうしんによつてすでにちうせられたまふべかりしをこまつのだいふがやうやうにまをしてくびをつぎたまひしひとぞかしいつしかそのおんをわすれてあまつさへじやうかいをかたぶけむとのごけつこうぞやひごろのむほんけつこうのしだいをたづねうけたまはりまをさうずるはいかにとのたまへばなまじひにだいなごんいかさまにもそれはひとのざんげんにてぞさふらふらんくはしくおんたづねあるべうさふらふといはせもはてずそれなりつるさいくわうがはくじやうもつてまゐれとのたまへばうけたまはつてかみ四五まいにかいたるものをもつてまゐりたりにふだうひきひろげ二三べんがほどたからかによみきかせあらにくやこのうへはここをなにとかあらがひたまふべきそれよくみたまへとてだいなごんのかほにさつとなげかけていそぎしやうじをちやうどたててぞいりたまひけるそののちにふだうなんばせのをとめされければつねとほかねやすまゐりたりあのをとことつてひつぱりにはへひきおとしとつてふせてをめかせよとのたまへば二にんのものどもこまつどののかへりきこしめされんずるところもいかがさふらふべかるらんとてふかうかしこまつてぞさふらひけるにふだうよしよしさきいつじやうかいがめいをばかるんじてだいふはなほおそろしいとやそのぎならばそのむねをこそこころえめとのたまへば二にんのものどもあしかりなんとやおもひけんだいなごんどののさうのてをとつてひつぱりにはへひきおとしたてまつつてさうのおんみみにくちをよせていかさまにもおんこゑのいづべうさふらふとてあげてはどうとおきどうとおき二三どあげおろしたりければおんこゑ二こゑ三こゑぞいだされたるなほいまめたてまつるべうもやさふらふらんとまをしたりければにふだうすこしはらゐていまはとうとうやすめまをせとのたまへばうけたまはつてつはものす十にんがなかにとりこめたてまつつてまたひとまなるところにおしこめたてまつるだいなごんただゆめのここちぞしたまひけるそのていめいどにてざいにんどもがつみのけいぢうによつてあるひはごふのはかりにかけられあるひはじやうはりのかがみにひきむけられしよさのごふによつてかしやくをくはへけいばつをおこなはるらんもこれにはすぎじとぞみえしせうはんとらはれとらはれてかんはうにらきすされたりてうそりくをうけしうぎつみせらるたとへばかのせうかはんくわいかんしんはうゑつこれらはみなかうそのこうしんたりしかどもせうじんのざんによつてくわはいのはぢをうくともかやうのことをやまをすべきさるほどにだいなごんはひとまなるところにおしこめられておはしけるがちやくしたんばのせうしやうもいまはめしやこめられぬらんのこりとどまるあとのありさまさこそはあるらめなむどおもはじなきこともなうあんじつづけておはしけるほどにさしものごくねつにしやうぞくをだにもくつろげたまはねばあせもなみだもあらそひてぞみえられけるおとどはいまだおはせぬやらんさりともよもすておきたまふべきとはおもはれけれどもたれしてのたまふべきともおぼえねばくれをもまたでつゆのみのきえぬべうこそおもはれけれこまつどのはなにごとにもさわぎたまはぬひとにておはしければはるかにひたけてのちゑふ四五にんずゐしん三四にんほどめしぐしてのどやかげにてぞおはしたるにふだうよにもあしげにみたまへばちくごのかみさだよしおんまへをついたつておとどにまゐりむかひたてまつりこれほどのおんだいじになどぐんびやうどもをば一にんもめしぐせられさふらはぬやらんとまをしたりければおとどだいじとはてんがのだいじをこそいへさればこれはわたくしごとなんでうことのあるべきとていりたまへばかつちうをよろひきうせんをたいしたるものどももみなそぞろいてぞさふらひけるそののちおとどちうもんにおはしてだいなごんのおはするところはいづくやらんとかしこここのしやうじをひきあけひきあけみたまへばここにくもでゆうたるところありこれやそなるらんとてひきあけてみたまへばをりふしだいなごんはおとどのことおぼしめしいだしなみだにむせびうつぶしておはしけるがおとどさていかにやとのたまふこゑをききつけてめをもちあげうれしげにおもはれたるけいきごくあくしんぢうのざいにんがぢざうぼさつにあひたてまつるらんもこれにはすぎじとぞみえしだいなごんはこはなにごとにてさふらふやらんみにはいつせつあやまつたることもさふらはねどもけさよりかやうにめしこめられまゐらせてゆふさりすでにうしなはるべしとやらんうけたまはりさふらふさんぬるへいぢにいのちたすけられまゐらせてそのごおんいまだはうじつくしがたうてさふらふこんどもよきやうにまをしてたすけさせおはしましさふらへかしかひなきいのちだには(イ命だに生きて候はば)やがてもとどりきつていかならむかたやまざとにもとぢこもりひとすぢにごしやうぼだいのいとなみをもつかまつりさふらはんとおもひなつてこそさふらへとのたまへばおとどいかさまにもそれはひとのざんげんにてぞさふらふらんさりながらこんどもまたよきやうにまをしてたすけたてまつらばやとこそぞんじさふらへおんこころやすくおぼしめされさふらふべしとていでられければだいなごんおとどのおはしつるほどはいささかたのもしうおもはれつるにおとどいでたまひてのちはだいなごんよにもこころぼそくぞおもはれけるそののちおとどちちのおんまへにおはしてさてあのだいなごんをばきられんずるにてさふらふやらんとまをされたりければにふだうしさいにやおよぶこのくれをまつなりとぞのたまひけるおとどあのだいなごんさうなううしなはるべからずそのゆゑはかれがせんぞ六でうのしゆりのだいぶあきすゑきやうしらかはのゐんにめしつかへてよりこのかたいへひさしうへのぼりくらゐじやう二ゐくわんだいなごんにあがりことにはたうじのきみのぶさうのおんいとほしみにてさふらふなるものをさうなううしなはるべきこといかがさふらふべかるらんかやうにはまたきこしめされてさふらふとももしこのことのひがごとならばいよいよふびんのいたりなるべしきたののてんじんはしへいのおとどのざんげんによつてうきなをさいかいのなみにながしにしのみやのだいじんはただのしんぼちがざんさうによりてそのみをせんやうのくもにかくしたまふこれみなえんぎのせいしゆあんわのみかどのおんひがごととぞまをしつたへたるじやうこもつてかくのごとしいはんやまつだいにおいてをやけんわうなほおんあやまりありいはんやぼんにんにおいてをやよくよくごあんもあるべしくはしうおんたづねもさふらふべしこうくわいさきにただずとこそうけたまはりさふらへけいのうたがはしきをばかるんぜよこうのうたがはしきをばおもんぜよとこそみえてさふらへかやうにまをしさふらへばしげもりかのだいなごんがいもうとにあひぐしたりこれもりまたむこなりかたがたしたしければまをすとやおぼしめされさふらふらんまつたくそのぎにてさふらはずただよのためいへのためにぞんじてかやうにはまをしさふらふなりむかしさがのくわうていのおんときさひやうゑのじようふぢはらのなかなりがちうせられてよりこのかたしにたるもののふたたびかへることなしこれふびんのいたりなるべしとてはうげんまではきみ廿五だいたえてひさしかりししざいをしんぜいにふだうしつけんのときにあひあたりてうぢのさふのしがいをほりおこしかうべをはねおほぢをわたしじつけんせられしことなんどはむだうなるいたりあまりなるまつりごととこそみさふらひしかさればふるきひとのことばにもあまりにしざいをおこなへばかいだいにむほんのともがらたえずとまをししにあはせてなかふたとせあつてへいぢにこといできしんぜいみやこのうちをいだされいきながらうづまれいくほどなうてほりおこしかうべをはねおほぢをわたされくびをごくもんにかけられしことなんどはいつしかそのむくいかとおぼえてかへすがへすおそろしうこそさふらへこれはさせるてうてきにてもさふらはずせめてはみやこのうちをいだされたらんにことたりさふらひなんずだいじやうだいじんまでもきはめさせたまひぬればごえいぐわのこるところはさふらはねどもししそんそんまでもはんじやうこそあらまほしうさふらへふそのぜんあくはしそんにおよびしやくぜんのいへによけいありしやくあくのかどによあうとどまるとこそうけたまはりさふらへなんどやうやうにまをされたりければゆふさりだいなごんきられんことをばおぼしめしとどまりたまひける
あひ 204
そののちおとどちうもんにいでさぶらひどもにむかつてのたまひけるはたとひにふだうふしぎをげぢしたまふともあのだいなごんさうなうきるべからずおんふくりふのままにものさわがしきおんことならばさだめてごこうくわいあるべしさるにてもつねとほかねやすがけさあのだいなごんにあらけなくあたりつることこそかへすがへすもきくわいなれかたゐなかのものどもはよろづのことにかかるぞとよとのたまへば二にんのものどもさればこそけさわれらがまをしつるところもここぞかしとてふかうおそれいつてぞさふらひけるおとどはかやうにげぢしつつこまつどのへぞかへられけるさるほどにだいなごんのともにさふらひけるしよたいふさふらひどもなかのみかどからすまるのだいなごんなりちかのきやうのごしゆくしよにかへりまゐつてかみにはけさよりしてにし八でうにめしこめられまゐらつさせたまひてゆふさりすでにうしなはれさせたまふべきとやらんうけたまはりさふらふまたせうしやうどのをはじめたてまつつてきんたちたちをもみなむかへまゐらつさせたまふべしとやらんつたへうけたまはつてさふらふとまをしたりければきたのかためのとのにようばうをはじめたてまつつていへのうちにありとしあるひとみなきもたましひをうしなつてこゑをあげてぞなかれけるによばうだちいまは六はらよりつゐふのくわんにんどものまゐりむかひさふらふらんにこはいづくへもしのばせたまひてとまをしあはれければきたのかたいまこれほどになりぬるうへはいづかたへかしのぶべきただひとところにてともかうもなりたらんこそほんいなれさるにてもけさをかぎりとしらざりつることこそかなしけれとてふししづみてぞなかれけるさるほどに六はらよりつゐふのくわんにんどものまゐりむかふよしきこえしかばきたのかたいまさればとてはぢがましくうきめをみむよりはしのばむとてきたのかたくるまにのりたまふ十さいのわかぎみ八さいのひめぎみひとつくるまにのせたてまつつておほみやをのぼりにきたやまのほとりうんりんゐんへいれたてまつりあさましげなるそうばうにおろしおきたてまつるおんとものひとびとはみのすてがたさにいとままをしてみなちりぢりにこそなりにけれきたのかたきんだちばかりのこりとどまらせたまひてくれゆくかげをみたまふにつけてもあはれやだいなごんはゆふさりすでにうしなはれさせたまふべきなればつゆのおんいのちいまいくほどぞやとおもひやるにもきえぬべしさるほどにだいなごんのとしごろめしつかはれたるつぼねのにようばうめのわらはものをだにもうちかつがずかちはだしにてもんぜんにはしりいでみなちりぢりにこそなりにけれもんをだにもおしたてずむまやにはむまどもなみたちけれどもくさかふものもなしよあくればもんぜんにはうまくるまのひまなくうちにはひんかくざにつらなつてよをよともせずみちをすぐるものどもおぢおそれてこそきのふまでもありつるによのまにかはるよのならひしやうじやひつすゐのことわりはめのまへにこそあらはれたれたのしみつきてかなしみきたるとかかれたるがうしやうこうのふでのあといまこそおもひしられけれ
少将の乞請 205
さるほどにしんだいなごんなりちかのきやうのちやくしたんばのせうしやうなりつねはきのふよりゐんのごしよにうへぶししていまだまかりもいでられざりけるにひとまゐつてこのよしまをしたりければせうしやうなどこれほどのことをしうとさいしやうのもとよりはつげられぬやらんとのたまふところにしうとさいしやうのもとよりつかひありにし八でうよりぐしたてまつつてきつときたれとさふらふとうとうとのたまひつかはされたりければせうしやうはやこころえたまひてごしよちうのにようばうたちをよびいだしたてまつつてかかることこそさふらへきのふよりせけんなんとなうそうぞうにさふらひつるをれいのやまのだいしゆのくだるかなんどよそにぞんじてさふらへばはやなりつねがみのうへにてさふらひけりさても八さいよりおんめにかかり十二よりこのごしよにしこうつかまつつてあさゆふはふびんのおほせまかりかうぶりさふらひしにゆふさりあのだいなごんうしなはれさふらはばさだめてなりつねもおなじみちにぞおこなはれさふらはんずらんいま一どきみをもみまゐらせたくはさふらへどもかかるみにまかりなりさふらひぬるうへはよにおそれてこそまかりいでさふらへとまをされたりければにようばうたちごぜんにまゐりこのよしそうしまうされたりければほうわうなにかはくるしかるべきいま一どこれへとおほせければせうしやうなくなくごぜんへはまゐられたりけれどもまをしいださるるむねもなしほうわうもまたおほせいださせたまふかたもなかりけるにさてしもあるべきならねばせうしやうおんいとままをしていでられけりほうわうはせうしやうのうしろをはるばるとごらんじおくらせたまひてただまつだいこそこころうけれまたもごらんぜられぬおんこともやあらんずらんとておんなみだにむせばせおはしますそのほかごしよちうのひとびとせうしやうのそでにすがりたもとにとりつきみななみだをぞながされけるせうしやうはけさゐんのごしよをいづるよりながるるなみだもつきざるにしうとさいしやうのもとにおはしてまづきたのかたのおんありさまをみたまふにせんかたなしちかうさんしたまふべきにてつきごろもなにとなううちなやみたまひけるがまたこのことさへうちそひてふししづみてぞおはしけるまたせうしやうのめのとに六でうとまをすにようばうありせうしやうのそでをひかへたてまつつてきみのちのなかにわたらせたまひしをとりあげいだきそだてまゐらせてよりこのかたわがみのとしのおいゆくをもしらずいつかとくしておとなしくならせたまはんずらんとまをしあかしまをしくらしことしは廿一までそだてまゐらせてゐんへもうちへもおんまゐりあつておそういでさせたまふときはかつうはおんこひしうもかつうはまたおぼつかなうもおもひまゐらせつるにただいまいでさせたまひていかなるおんめにかあはせたまはんずらんとてなきければせうしやういたうななげきそさいしやうさてましませばいのちばかりをばまをしてたすけたまはぬことあらじとはのたまへどもめのとの六でうただもだえこがれたをれふしなくよりほかのことぞなきさるほどににし八でうよりつかひしきなみにたちければさいしやうさらばいでてこそともかうもならめとてくるまにのつてぞいでられけるせうしやうもどうしやしてこそいでられけれさいしやうのうちのじやうげなんによみなくるまよせまではしりいでなきひとをいだすがやうにこゑをあげてぞなかれけるはうげんへいぢよりこのかたへいけのひとびとのたのしみさかえはありしかどもうれへなげきはなかりしにこのさいしやうばかりこそよしなきむこゆゑにかかるなげきはしたまひけれさるほどにさいしやうにし八でうにおはしてあんないをまをされたりければにふだうせうしやうをばうちへはかなふまじとのたまふあひだそのへんちかきさぶらひのもとにおろしおきたてまつつてさいしやうばかりいりたまふいつしかつはものどもせうしやうをうちかこみたてまつつてしゆごしたてまつるさいしやうちうもんにおはしていであはるるかとたいめんをまたれけれどもにふだうとみにもいでられざりければげんたいふのはんぐわんすゑさだをもつてまをされけるはのりもりよしなきものにむすぼほれていまさらくやしうさふらへどもちからおよびさふらはずまたかれにあひぐせさせてさふらふもののうちなやむことのさふらふがまたこのことさへうちそへていのちもあやうくこそさふらへあはれかれがいかにもならんほどたんばのせうしやうをのりもりにあづけさせおはしましさふらへかしなじかはひがごとせさせさふらふべきとまをされたりければすゑさだおんまへにまゐつてこのよしまをしたりければにふだうあはやまたれいのさいしやうのものにもこころえぬことをのたまふものかなとておほきにいかつてしばしはものをものたまはずややあつてにふだうしやうごくのたまひけるはそもそもかのしんだいなごんなりちかのきやうといつぱむほんをおこしてたうけをがたぶけむとすされどもこの一もんいまだうんつきざるによつてこのことはやくあらはれたりもしこのむほんとげましかばそのごへんとてもあんをんにやおはすべきうとうもおはせよしたしうもおはせよえこそなだめまをすまじけれむこもこもまことのときはただみにまさることやあるとぞのたまひけるさいしやうかさねてまうされけるははうげんへいぢよりこのかただいせうじおんいのちにかはりまゐらせてあらきかぜをばまづふせぎまゐらせんとこそつかまつりさふらひしがいまよりのちもたとひのりもりこそとしおいてさふらふともこどもあまたもちてさふらへばなどか一ぱうのおんかためになりまゐらせではさふらふべきそれにしばらくせうしやうをのりもりにあづけさせおはしませとまをすをおんゆるされもなきはよくのりもりをもふたごころあるものにおぼしめされたるにてこそさふらへさやうにうしろめたいものにおもはれまゐらせてのりもりよにありてもなににかはしさふらふべきあはれしゆつけのいとまをたまはつてかうやこがはにもとぢこもりひとすぢにごしやうぼだいのいとなみをつかまつりさふらはばやよしなきうきよのまじはりなりよにあればこそのぞみもあれのぞみのかなはねばこそうらみもあれしかじうきよをいとひまことのみちにいりなんにはとぞまをされけるすゑさだまたおんまへにまゐつてこのよしまをしたりければにふだうもつてのほかにおどろきたまひてさてはさやうにさいしやうのしゆつけにふだうなんどまでまをさるなるこそけしからねさらばしばらくせうしやうをしゆくしよにもおかれさふらへかしとよにもしぶしぶにこそのたまひけれさいしやうなみだをながしあはれわがこにむすぼほれざらんにはなにしにかこれほどにこころをくだくべきよしなかりけるによしかなとてなみだにむせびてぞいでられけるせうしやうまちうけたてまつつてさていかにさふらふとのたまへばさいしやうさればこそいかにもかなふまじかりつるをのりもりがしゆつけにふだうなんどまでまをしたればにやらんしばらくしゆくしよにおきたてまつれとはのたまへどもゆくすゑとてもたのもしからずとのたまへばせうしやうさてはごおんをもつてしばらくのいのちのたすかりさふらふござんなれさてあのだいなごんどののおんことをばなにとかきこしめされたるやらんとのたまへばさいしやういさとよいかにもしてぞこのことをこそまをさばやとしつれそれまでのことはおもひもよらずとのたまへばさてあのだいなごんどのゆふさりうしなはれたまひさふらはばうきもしづみもなりつねをもおなじみちにはまをさせたまはでとのたまへばさいしやうよにもこころぐるしげにていさとよそれもこまつのだいふのけさよりしてやうやうにとりまをさるなるがそれもしばらくのいのちのたすからせたまふやうにこそうけたまはりつれとのたまへばせうしやうてをあはせてぞよろこばれけるまことのこならざらむひとのわがみのうへをさしおきてたれかはかやうによろこぶべきまことのちぎりはおやこのなかにぞありけるさればこにすぎたるたからなしとやがておもひぞかへされけるさるほどにさいしやうはくるまにのつてぞいでられけるせうしやうもまたけさのやうにどうしやしてこそかへられけれひとさきにまゐつてせうしやうどのはべちのおんこともわたらせたまはでかへらせたまひてさふらふとまをしたりければさいしやうのうちのじやうげなんによみなくるまよせまではしりいでししたるひとのいきかへりたるここちしてみなよろこびのなみだをぞながされける
教訓状 206
にふだうしやうごくしんだいなごんなりちかのきやういげごきんじゆのひとびとそのほかほくめんのともがらどもにいたるまでおほくいましめおかれてもなほこころゆりずや(イ心ゆかずや)おもはれけむあかぢのにしきのひたたれにくろいとをどしのはらまきのむないたせめそのかみいまだあきのかみたりしときいつくしまのだいみやうじんよりれいむかうぶりうつつにたまはられたりけるしらえのこなぎなたつねのまくらをはなたずたてられたりけるをわきにはさみつつちうもんのらうへぞいでられけるおほかたそのけしきゆゆしうぞみえしにふだうさだよしとめすちくごのかみさだよしもくらんぢのひたたれにひをどしのよろひきておまへにまゐりかしこまるにふだうややさだよしいかがはからふさんぬるはうげんにをぢへいむまのすけただまさをさきとして一もんなかばすぎしんゐんのみかたにまゐりたりき一みやのおんことはごぎやうぶきやうのとののやうくんにてわたらせたまひしかばかたがたみはなちまゐらせがたうはおもひしかどもこゐんのごゆゐかいにまかせてこのおんかたにまゐりさきをかけたりきこれ一のほうこうにあらずやまたへいぢぐわんねん十二ぐわつにのぶよりよしともがむほんのときゐんうちおしこめたてまつつててんかはくらやみとなりたりしにもにふだういのちをすてずしてはいかにもかなふまじかつしあひだみかたにてぞくとをうちたひらげのぶよりよしともをちゆうりくしつねむねこれかたをめしいましめしにいたるまできみのおんためにいのちをすつることどどにおよぶさればひといかにまをすともこの一もんをばいかでか七だいまでもおぼしめしすてさせたまふべきにそれになりちかといふむようのいたづらものまたさいくわうといふげせんのふたうにんがまをすことにきみのつかせおはしましてたうけをかたぶけんとのごけつこうこそしかるべからねなほもざんそうするものあらばかさねてゐんぜんくだされつとおぼゆるなりてうてきとなりなんのちはいかにくゆともえきあるまじさればしばらくよをしづめむほどほうわうをとばのきたどのへうつしまゐらするかしからずばまたごかうをこれへなりともなしまゐらせばやとおもふはいかがあるべきさらむにとつてはほくめんのともがらどものなかにやをもひとついつとおぼゆるもののあるぞとよさぶらひどもにそのよういせよとふるべしおほかたにふだうゐんがたのほうこうにおいてはおもひきつたりむまにくらおけきせながとりいだせよとぞひしめかれけるそののちしゆめのはんぐわんもりくにいそぎこまつどのにはせまゐつてまうしけるはよははやすでにかうとこそみえさせおはしましさふらへそのゆゑはかみにおんきせながをめされさふらふうへつはものどもみなうつたつてただいますでにゐんのごしよほうぢうじどのによせさふらふぞやほうわうをばとばどのにとごひろうあつてないないはさいこくのかたへながしまゐらすべしとこそうけたまはりさふらへとまをしたりければおとどいかでかさるおんことのわたらせたまふべきとはおぼしめされけれどもけさのぜんもんのふるまひさるものぐるはしうおはしつればもしさやうのこともやおはすらんとていそぎおんくるまにめしにし八でうにおはしてもんぜんにてくるまよりおりもんをさしいりてみたまへばげにもにふだうはらまきをちやくしたまふうへ一もんのけいしやううんかくす十にんおもひおもひのひたたれにいろいろのよろひきてちうもんのらうに二ぎやうにちやくせられたりそのほかしよこくのじゆりやうゑふしよしなんどはえんにもゐこぼれてにはにもひしとなみゐたりつはものどもはたさををひきそばめひきそばめむまのはるびをかためかぶとのををしめてただいますでにうつたたうずるきそくなるにおとどはまたけさのやうにゑぼしなほしにだいもんのさしぬきのそばとつてさやめきいりたまふことのほかにぞみえられけるにふだうしやうごくこのよしをみたまひてあはまたれいのだいふがよをへうするやうにふるまふものかなついでをもつておほきにいさめばやとおもはれければなぎなたひざのしたにおきゐだけだかになつておはしけるがさすがだいふはこながらもうちには五かいをたもつてじひをさきとしほかにはまた五じやうをみだらずれいぎをただしうしたまふひとなりあのすがたにはらまきをちやくしてむかはんことさすがおもはゆうはづかしくもやおもはれけんしやうじをすこしひきたてそけんのころもをとつてはらまきのうへにあわてぎにきたまひけるがむないたのかなもののはづれてすこしみえけるをかくさんところものむねをとつてしきりにひきちがへひきちがへぞしたまひけるおとどはおんおととうたいしやうむねもりのざじやうにちやくせられけりにふだうしやうごくものたまひいださせたまふむねもなしおとどもまたまうしいださせたまふかたもなかりけるにややあつてにふだうしやうごくのたまひけるはそもそもかのしんだいなごんなりちかのきやうがむほんはことのかずならず一かうこれはおほかたほうわうのごけつこうにてさふらひけるぞやそれにふだうがくわたいはがいぶんにくわんとをすすむばかりなりそれゆみやとるならひせんれいなきにあらずたむらまろはぎやうぶきやうさかのうへのかつたまろがこなりしかどもわづかにとういをたひらげしけんしやうにだいなごんにてさこんのたいしやうをけんじきせいだいじやうこにもわづかにとういへんどをかせしくんこうかくのごとしいはんやにふだうわうゐをうばはれたまはんとせし二ケどのくんしやうすてがたししかのみならずこうしんちやくちやくのみとしててうていどどのはぢをきよめきそれになりちかといふむようのいたづらものさいくわうといふげせんのふたうじんがまうすことにきみのつかせおはしましてたうけつゐたうのごけつこうこそしかるべからねなほもざんそうするものあらばかさねてゐんぜんくだされつとおぼゆるなりてうてきとなりなんのちはいかにくゆともえきあるまじさればしばらくよをしづめむほどほうわうをとばのきたどのへうつしまゐらするかしからずはまたごかうをこれへなりともなしまゐらせばやとおもふはいかがあるべきとのたまへばおとどこのことききもあへたまはずまづさめざめとぞなかれけるにふだうさてはいかにやいかにとあきれたまへばややあつておとどなみだをおさへてまうされけるはこのおほせうけたまはりさふらふにごうんははやすゑになりぬとおぼえてまづしげもりがふかくのなみだのさきだちさふらふなりひとはかならずうんめいつきむとてはかかるあくぎやうをおもひたつことにてさふらふなりさすがわがてうはぞくさんへんちのさかひとはまをしながらてんせうだいじんのごしそんくにのあるじとしてあまつこやねのみことのごべうえいてうのまつりごとをつかさどりたまひしよりこのかただいじやうだいじんのくわんにいたりたまふほどのひとのかつちうをよろひましますことこれれいぎをそむくにあらずやなかんづくしゆつけのおんみなりそれ三ぜのしよぶつげだつどうさうのほうえをぬぎすててたちまちにかつちうをよろひきうせんをたいしましますことうちにははかいむざんのつみをまねかせたまふのみならずほかにはまたじんぎれいちしんのほふにもすでにそむきぬらんとこそみえてさふらへかたがたおそれあるまをしごとにてはさふらへどもしばらくおんこころをしづめてしげもりがまをしじやうをつぶさにきこしめさるべうもやさふらふらんかつうはさいごのまうしじやうなりこころのうちにししゆをのこすべからずまづよに四おんさふらふしよきやうのせつさうふどうにしてないげのぞんぢかくべちなりとはまをせどもしんちくわんぎやうのもんにもとかれてさふらふがてんちのおんこくわうのおんぶものおんしゆじやうのおんこれなりしるをもつてじんりんとすそのなかにもつともおもきはてうおんなりふてんのしたことごとくわうどにあらずといふことなしさればえいせんのみづにみみをあらひしゆやうざんにわらびををつしけんじんもちよくめいそむきがたきれいぎをばぞんぢすとこそうけたまはれいまだせんぞにもきかざりしだいじやうだいじんのくわんをきはめさせたまふのみならずいはゆるしげもりなんどがむさいぐあんのみをもつてれんぶくわいもんのくらゐにいたるしかのみならずこくぐんなかば一かのしよりやうたりでんをんはことごとく一もんのしんしたりこれきたいのてうおんにあらずやいまばくだいのごおんをわすれてみだりがはしくきみをなみしまゐらつさせたまはんおんことしんりよのほどもはかりがたしそれわがてうはしんこくなりかみはひれいをうけさせたまはずおよそてうてきとなりなんものはちかくは百にちとほくはみとせをすごさずとこそうけたまはりさふらへこれはきみのおぼしめしたつところだうりなかばなきにあらずやおよそこの一もんはだいだいのてうてきをたひらげて四かいのげきらうをしづむることぶさうのちうとはまをしながらそのしやうにほこることかへりてばうじやくぶじんともまたまをしつべしいへのめいをもつてはきみのめいをじせざれわうふのめいをもつてはちちのめいをじせよとこそみえてさふらへおほせあはせらるるだいなごんいげのよたうのともがらにしよたうのざいくわおこなはれぬるうへはなにのおそれかさふらふべきいまはしりぞいてこのしさいをちんじまをさせたまはばきみのおんためにはいよいよほうこうのちうきんをいたしたみのためにはますますむいくのあいれんをほどこさせおはしまさばしんめいのかごにあづかつてぶつだのみやうりよにもそむくべからずしんめいぶつだのかんおうあらばきみもなどかおぼしめしなほさせたまはではさふらふべきさればしやうとくたいしの十七ケでうのごけんぽふにもみなひとこころまちまちなりおのおのしふありわれをぜしかれをひすかれをぜしわれをひすぜひのことわりをたれかよくさだむべきあひともにけんぐなりはしなくしてたまきのごとしたとひかのひといかるといふともかへりてわがしつををさめよとこそみえてさふらへきみとしんとをならぶるにしんそわくかたなしきみにつきたてまつるはちうしんのはふ(ほふ)だうりとひがごとをくらべんにいかでかだうりにつかざるべきこれはきみのおんことわりにてさふらへばしげもりはかなはぬまでもゐんちうをしゆごしまゐらせんとこそぞんじさふらへそのゆゑはしげもりはじめじよしやくよりいまだいじんのたいしやうにいたるまで一としててうおんならずといふことなしそのおんのおもきことをおもへばせんくわばんくわのたまにもこえそのふかきいろをろんずれば一じふさいじふのくれなゐにもなほすぎたらんしげもりがみにかはらむいのちにかはらむとちぎつてさふらふさぶらひどもせうせうさふらふらんかれらをめしぐしてゐんのごしよにまゐりもんもんをかためてふせぎまゐらせんはゆゆしきおんだいじにてこそさふらはんずれかなしきかなきみのおんためにほうこうのちうきんをいたさんとすればめいろ八まんのいただきよりなほたかきちちのおんたちまちにわすれなんとすいたましきかなふかうのつみをのがれんとすればきみのおんためにはふちうのぎやくしんともなりぬべししんたいこれきはまれりぜひいかにもわきまへがたしせんずるところきみをもしゆごしまゐらせさふらふまじまたゐんざんのおんともをもつかまつるべからずせんはただまをしうくるところしげもりがくびをめさるべしらうしのことばこそおもひいでてさふらへこうみやうかなひとげてみをしりぞけずくらゐをさらざればすなはちがいにあふともまをすかのせうかはだいこうかたへにこえたりしによつてくわんだいしやうごくにあがりけんをたいしくつをはきながらでんじやうへのぼることをゆるされたりしかどもひとたびえいりよにそむくことありしかばかうそこれをいましめておもうつみせられきかやうのことをおもふにもふつきといひえいぐわといひてうおんとまをしちようしよくといひかたがたきはめさせたまひぬればいまはごうんのつきさせたまはんこともかたかるべしともおぼえずふつきのいへにはろくゐちようでふせりなほふたたびみなるきはそのねかならずいたむともまをすいつまでかながらへてかやうにみだれむよをもみさふらふべきただまつだいにしやうをうけてかかるうきめにあひさふらふしげもりがくわはうのほどこそつたなうさふらへさぶらひ一にんにおほせつけおつぼのうちにめしいだししげもりがくびをめされんはいとやすきおんことにてこそさふらはんずらめこれやおのおのききたまへとてなほしのそでしぼるばかりにみえられければにふだうしやうごくをはじめたてまつつて一もんのけいしやううんかくみなよろひのそでをぞぬらされけるにふだうしやうごくたのみきつたるだいふはかやうにのたまふよろづちからもなげにていやいやそれまでのことはおもひもよらずあくたうどものまをすことにきみのつかせおはしましてもしおんひがごとなんどもやいでこんずらんなどおもふばかりにてこそあれとのたまへばおとどたとひいかなるおんひがことわたらせたまひさふらふともきみをばなにとかしまゐらつさせたまふべき(イべきとて)おんまへをついたつてちうもんにいでさぶらひどもにむかつてのたまひけるはいまおんまへにてまをしつることどもをばなんぢらはうけたまはらずやけさよりこれにありてかやうのことどもをもまをしなだむべかりつれどもこれていにひたさわぎなりつればかへりたりつるなりまたゐんざんのおんともにおいてはしげもりがくびをめされんをみてまをすべしさらばおのおのまゐれとてこまつどのへぞかへられけるされどもたうけぢうだいからかはといふよろひこがらすといふたちをばしのびつつおんくるまにいれられけるとぞうけたまはるよういのほどこそおそろしけれそののちこまつどのにはおとどかへりたまひてのちしゆめのはんぐわんもりくにをもつてもよほされけるはしげもりこそべつしててんがのだいじききいだしたれしげもりをしげもりとおもひあはれんずるひとびとはみなもののぐしてはせまゐるべしとふれられたりければひごろはおぼろけにてもさわぎたまはぬひとのいまかやうにおほせなるはべつのしさいぞあるらんいざやまゐらんとてあるひはよどはつかしうぢをかのやだいごうぐるすひのくわんじゆじおはらしづはらせれうのさとむめづかつらにあふれゐたりけるつはものどもあるひはよろひきてかぶときるもありきぬもありやおひてゆみとるもありとらぬもありわれさきにさきにとこまつどのへぞはせたりけるさるほどににし八でうにす千きありつるつはものどももこまつどのにだいじいできたりとききてんげればにふだうしやうごくにこのよしかくともまをさずみなさやめきつれてこまつどのへぞまゐりける
烽火の沙汰(あひ) 207 
さるほどににし八でうにはちくごのかみさだよしがほかはきうせんにたづさはりぬべきひと一にんもなしただおいたるあまあをにようばうふでとりなんどぞさふらひけるにふだうさだよしとめすちくごのかみさだよしおんまへにまゐりかしこまるにふだうややさだよしなにとてだいふはこれらをばかやうによびとるやらんいかさまにもけさこれにていひつるやうににふだうがもとへうつてなんどやむけんずらんなどのたまへばさだよしまをしけるはいかでかさるおんことのわたらせたまひさふらふべきけさおんまへにてまをさせたまひつるおんことどもをもいまはさだめてごこうくわいぞさふらふらんとまをしたりければにふだういやいやだいふとなかたがうてはゆゆしきだいじぞとてもののぐぬぎすてそけんのころもにけさうちかけながずずつまぐつていとこころもおこらぬねんじゆしてこそおはしけれひとへにものぐるひのくるひさめたにことならずそののちこまつどのにはしゆめのはんぐわんもりくにうけたまはつてちやくたうつけけりまゐりこもるつはもの一まんよにんとちうしまをすちやくたうひけんののちおとどちうもんにいでさぶらひどもにむかつてのたまひけるはひごろのけいやくたがへずみなしんべうにまゐりたりただしいこくにさるためしありむかししうのいうわうとまをししひとはうじとてさいあいのきさきをもちたまへりてんかいちのびじんされどもこのきさきいささかわらふことをしたまはずかのくにのならひにててんかにことのいできたるときはほうくわとてみやこよりはじめてひをあげたいこをうつてくにぐにのつはものをめさるるならひありあるときてんかにこといできにしかばほうくわをあげたりければきさきこれをごらんじてふしぎやひもさればあれほどにたかうもあがることかやとてはじめてわらひたまひけりひとたびゑめばもものこびありとかやいうわうふしぎやこのきさきはほうくわをあいしたまへりとてつねはそのこととなくひをあげたいこをうつてきさきをなぐさめたてまつるしよこうきたるにあたなしあたなければほどなくさるかやうにすることどどにおよぶあるときりんごくよりきようぞくおこつていうわうのみやこをかたぶけんとせしときひをあげたいこをうちけれどもれいのきさきのひにならつてまゐりちかづくものもなしすなはちみやこかたぶいていうわううたれたまひけりそののちこのきさきはきうびのしやつことなつてかきけすやうにぞうせられけるよにはかかるためしのあるぞとよしげもりもべつしててんかのだいじききいだしたりつれどもまたひがごとにききなしたりじこんいごもこれよりめさばかくのごとくまゐるべしさらばおのおのかへれとてさぶらひどもをぞかへされけるおよそこのおとどまことにちちといくさをすべきにはあらずまたてんかのだいじをもききいだされざりけれどもかやうにしてわがみにせいのつくやつかぬをもみまたはにふだうしやうごくのあくしんをもやはらげんのためのおとどのはかりごととぞうけたまはるきみきみたらずといふともしんもつてしんたらずんばあるべからずちちちちたらずといふともこもつてこたらずんばあるべからずいはんやこのおとどはきみのおんためにはちうあつてちちのためにはかうありこれぶんせんわうのことばにたがはずほうわうもないないきこしめされていまにはじめぬことなれどもだいふがこころのうちこそはづかしけれあたをばはやおんをもつてはうじけりとぞおほせけるくににいさむるしんあればそのくにかならずやすしいへにいさむるこあればそのいへかならずただしともいへりじやうこにもまつだいにもありがたかりしおとどなり
大納言の流され 208
おなじき六ぐわつ二かのひしんだいなごんなりちかのきやうをばにし八でうのくぎやうのざにいだしたてまつつてぎよもつまゐらせたりけれどもむねふさがつておんてをだにもかけられずさてしもあるべきならねばつはものどもおんくるまよせていまはとうとうめさるべうさふらふとまをしたりければだいなごんこころならずのりたまふくるまのぜんごさいうをみたまへばもののぐしたるつはものどもがところもなくみちみちてひごろみなれたるひと一にんもなしただみにそふものとてはつきせぬなみだばかりなりしゆじやかをみなみへゆけばおほうちやまもいまはよそにぞなりにけるとばどのをすぎられけるにひごろこのごしよへごかうなりしには一どもおんともにははづれざりつるものをとわがさんしやうすはまどのをもよそにしてこそとほられけれとばのみなみのもんにてつはものどもふねをおそしといそがすればだいなごんこはいづくをさしてゆくやらんとてもうしなはるべくはみやこちかきこのへんにてもあらばやとのたまひけるぞいとほしきだいなごんちかうさふらふぶしはたそととひたまへばなんばの二らうつねとほとまをすだいなごんさてこのへんにわがかたざまのものやあるたづねてえさせよとのたまひければうけたまはつてたづねけれどもなかりければさふらはずとまをすだいなごんむざんやなわれよにありしときはきのふまでもしたがひつきたりしじやうげ一二千にんもこそありつらんにいまはよそにてだにもとぶらふもののなきことよとのたまひけるぞいとほしきひごろくまのまうでてんわうじまうでなんどのありしにはふたつがはらみつむねにつくつたるふねまたつぎのふねおよそ二三十さうこぎつづけさせてこそおはせしにいまはいつしかけしかるかきすゑやかたぶねのともへあれたるにおほまくひきまはさせみもなれぬつはものどもとのりぐしてけふをかぎりにみやこのうちをいでられけるこころのうちおしはかられてあはれなりよどのいりえをこぎすぎてこつどのうとのはしらもときんやかたののなぎさのをかいりえいりえをこぎすぎてそのひはつのくにだいもつのうらにぞつきたまふまたかおうぐわんねんのふゆのころこのきやういまだそのころちうなごんにてみののくにをちぎやうせられたりけるにもくだいさゑもんのじようまさともさんもんのしよりやうひらののしやうのじんにんとことをしいだしたりしによつてさんもんおほきにいきどほりこくしなりちかるざいにしよせられもくだいまさともきんごくせらるべきよしそうもんまをしたりければそのときもこのきやうのさんもんのそしようによつてびつちうへながさるべきにてにしのきやうまでいでられたりしをもきみいかがはおぼしめされけんなか五かあつてやがてめしかへされさせたまひけりこれによつてさんもんおほきにいきどほりなりちかきようをさまざまにじゆそしたてまつりけるとぞきこえしされどもじようあんにねんしやうぐわつ十二にちにじゆ二ゐしたまふおなじき三ねん三ぐわつ十三にちにうひやうゑのかみをけんじてけびゐしのべつたうにぞあがられけるそのときはあぜちのだいなごんすけかたくわざんのゐんのちうなごんかねまさのきやうこえられさせたまひけりあぜちのだいなごんはいへのひとおとななりかねまさのきやうはせいぐわのひとけちやくにてこえられたまふぞゐこんなるこれは三でうどのざうしんのしやうとぞきこえしまたあんげんぐわんねん七ぐわつ五かのひじやう二ゐしたまふそのときはなかのみかどのちうなごんむねいへのきやうこえられさせたまひけりおなじき二ねん十ぐわつ廿二にちにけびゐしのべつたうよりごんだいなごんにぞあがられけるかくのみさかえたまひしかばひとあざけりてあはれさんもんのだいしゆにはのろはるべかりけるものかなとぞまをしけるされどもしんばつみやうばつはときもありおそきもありしならひにてつひにはかかるうきめにあはれけるこそあさましけれおなじき三かのひだいもつのうらにはみやこよりおんつかひありとてひしめきけりだいなごんただいまこれにてうしなへとのつかひやらんとききたまへばびぜんのこじまへながしたてまつれとのつかひなりまたこまつどのよりおんふみありひらきてみたまへばみやこちかきかたやまざとにもおきまゐらせんとてやうやうにまをしさふらひしかどもかなはぬことこそよにあるかひもさふらはねさりながらおんいのちばかりをばよきやうにまをしてこそさふらへおんこころやすくおぼしめされさふらふべしまたなんばがかたへもあひかまへておんこころにたがひたてまつらでよくよくおんみやづかひつかまつれとあそばされたるだいなごんさてもかたじけなうおもはれまゐらせつるきみにもすてられたてまつりまたつかのまもはなれがたききたのかたきんたちだちをもふりすててこはいづくをさしてゆくやらんひととせもびつちうへながさるべきにてにしのきやうまでいでたりしをもやがてめしこそかへされたれこんどはいのちながらへてこひしきものどもをいま一どみみえむこともかたかるべしとてあけければふねにのつてぞいでられけるみちすがらもなみだにくれてゆくさきさらにみえわかずあとのしらなみへだつればみやこはしだいにとほざかりゑんごくはまたちかくなるさるほどにだいなごんびぜんのこじまにつきたまふたひのうらといふところのあさましげなるしばのいほりにおきたてまつるこれやこのしづがすむなるはにふのこやもこれなるらんしまのならひうしろはやままへはいそなればきしうつなみのおとまつふくかぜあはれいづれもつきざりけり
阿古屋の松 209
おなじき六ぐわつ五かのひむほんのともがらどもくにぐにへながしつかはさるまづあふみのちうじやうにふだうれんじやうさどのくにやましろのかみもとかぬおきのくにしきぶのたいふまさつなびんごのくにそうはんぐわんのぶふさいよのくにしんへいはんぐわんすけゆきはみまさかのくにとぞきこえしにふだうしやうごくかやうにさんざんにしちらしわがみはいそぎふくはらへこそくだられけれおなじき廿かのひつのさゑもんもりずみをししやにておととかどわきどののもとへいまはたんばのせうしやうをもとうとうくだされさふらへかしとのたまひつかはされたりければさいしやうさらばありしときともかうもなしたまはでふたたびものをおもはすることよとのたまへばにようばうたちあはれさいしやうのいま一どよきやうにまをさせたまへかしなんどのたまひあはれければさいしやういまはのりもりがよをいとふよりほかのことをばなにごとをかまをすべきさりながらいづくのうらわにもおはせよのりもりがいのちのあらんかぎりははぐくむべしとぞのたまひけるまたせうしやうのわかぎみ三さいになりたまふおはしけりひごろはわかきひとにていとこまやかなることもおはせざりしかどもいまはのときにもなりしかばさすがこころにかかつてやおもはれけんあはれをさなきものをいま一どみばやとのたまへばめのといだいてまゐりたりせうしやうひざにおきわかぎみのかみかきなでてのたまひけるはむざんやなんぢ七さいにもならばげんぷくせさせゐんへまゐらせんとこそおもひしにいまはかひなしもしまたいのちながらへておとなしくなりたらばなりつねがごせとぶらうてえさせよとおとなしきひとにむかつてのたまふやうにかきくどきてのたまへばこのわかぎみうちうなづきたまひけりさてこそにようばうたちもいとどそでをぞぬらされけれおつかひこんやはとばまでとまをしければせうしやうとてもかなはぬものゆゑにこんやはこれにありてあかつきとくいでんとのたまへどもおつかひゆるしたてまつらずおなじき廿三にちにつのさゑもんせうしやうどのをぐそくしたてまつつてふくはらにくだりにふだうしやうごくにこのよしまをしたりければにふだうせうしやうをばびつちうのくにのぢうにんせのをのたらうかねやすにおほせてびつちうのせのをへこそくだされけれかねやすかどわきどののかへりきこしめされんずるところをもはばかりにおもひければせうしやうどのをやうやうにもてなしたてまつるされどもせうしやうはいささかくつろぐここちもしたまはずただあけくれほとけのみなをとなへてもちちだいなごんどののことをのみぞいのられけるさるほどにだいなごんはびぜんのこじまにおはしけるがここはなほふねつきなればびんぎあしかりなんとてそれより(イこなたの)ちにわたしたてまつるびぜんびつちうりやうごくのさかひなんばにかせのがうきびのなかやまのふもとありきのべつしよといふところにおきたてまつるそれよりせうしやうのおはしけるびつちうのせのをへはわづかに五十よちやうのあひだなりあるときせうしやうかねやすをめしてこれよりちちだいなごんどののおはしけるありきのべつしよとかやへはいかほどのみちぞととひたまへばかねやすちかきよしをまうしあげてはあしかりなんとやおもひけむ十二三にちにゆくところにてさふらふとまをすせうしやうこはいかににつぽんはむかし三十三ケこくなりしをてんぢてんわうのおんとき六十よしうにはわけられたりさればあづまにきこゆるあうしうもむかしは六十六ぐんなりしをもんむてんわうのぎようたいはうけいうんに十二ぐんさきわかつてではのくにとはなづけられたりなかごろさねかたのちうしやうのあづまへながされたりしにむつにあこやのまつといふめいしよありちうしやうかれをみんとてくにのうちをまはつてたづねられけれどもなかりければちからおよばずかへられけるみちにてらうおう一にんゆきあうたりちうしやうらうおうのそでをひかへてややごへんみちのくにあこやのまつといふめいしよやしりたまひたるととひたまへばたうごくのうちにはさふらはずとまをすちうしやうふしぎやよのすゑになればめいしよをもはやよみうしなへるにこそとてかへられければらうおうちうしやうのそでをひかへてややきみはみちのくのあこやのまつにこがくれていづべきつきも(イの)いでもやらぬかとよめるうたのこころをもつてたうごくのうちとはしろしめされてさふらふかさればそれはいまだかのくにの六拾六ぐんなりしときよめるうたのこころなりもしではのくににもやさふらふらんといひければまことにもとてではのくににこえてこそあこやのまつをもみたりしかすでに十二三にちはほとんどみやこよりちんぜいげかうほどござんなれちんぜいよりはらかのつかひののぼるこそかちぢ十四五にちとはきけびぜんびつちうびんごもむかしは一こくなりしを三ケこくにはわけられたりなかんづくせんやうだうにそれほどのたいこくありとはきかぬものをびぜんびつちうりやうごくのさかひいかにとほしといふともりやう三にちにはよもすぎじちかきをとほきにまをしなすはしらせじとにこそとてのちにはこひしけれどもとひたまはずなかにもへいはんぐわんやすよりほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづをばさつまがたきかいがしまへぞながされけるたんばのせうしやうをもあひそへてこそくだされけれなかにもやすよりはすはうむろつみといふところにてしゆつけしほうみやうしやうぜうとぞなのられけるしゆつけはもとよりののぞみなりければかうぞおもひつづけたるつひにかくそむきはてけるよのなかをとくすてざりしことぞくやしききかいがしまとまをすはみやこをいでてほどとほくうみをわたりてゆくしまなりふねなんどもたやすくかよふことなければしまにはひとまれなりをとこはゑぼしきずをんなはかみもさげずみにはしきりにけおひつついろくろくしてうしのごとしいしやうなければひとにもにずしよくするものもなければただせつしやうをもつてさきとすしづがやまだをうたざればべいこくのたぐひもなくそののくはをもとらざればけんばくのたぐひさらになしさつまがたとはそうみやうなりむかしはおにがすみければきかいがしまとはなづけられけりまたいわうといふものおほかりければいわうがしまともまをすしまのうちにはたかきやまありやまのいただきにはとこしなへにひもえつつつねはいかづらのなりあがりなりさがればふもとのさとにあめしげし一にちへんしつゆのいのちながらふべしともみえざりけり大納言の死去 210 
さるほどにだいなごんはびぜんのくにありきのべつしよにおはしけるがいささかくつろぐこともやとおもはれけるにさはなくてちやくしたんばのせうしやうもきかいがしまへなんどきこえしかばよろづこころぼそくやおもはれけんこまつどのへしゆつけのいとままをしおんとし四十三にてうきよをよそにすみぞめのそでとなられけるこそあはれなれさるほどにだいなごんのきたのかたはみやこきたやまのほとりうんりんゐんにおはしけるがさらでだにすみもならはぬかたやまざとはさびしきにいとどしのばれければおのづからすぎゆくつきひをくらしかねあかしわづらふおんさまなりさるほどにだいなごんのとしごろめしつかはれけるしよたいふさぶらひどもいくらもありけれどもあるひはよにおそれあるひはへいけにはばかつてまゐりちかづくものもなしなかにもげんざゑもんのじようのぶとしばかりぞつねはまゐりけるあるとききたのかたのぶとしをめしてややのぶとしやまことやとのはびぜんのありきのべつしよとかやにおはすなるせめてふみをたてまつつてへんじをなりともみてなぐさまばやとおもふはいかがあるべきとのたまひければのぶとしまをしけるはこれはえうせうよりきみのごおんあくまでまかりかうぶりさふらひしかばつねはいさめられまゐらせしおんことのきもにめいじそのみやこまでもめされたりしおんこゑのはるかにみみのそこにとどまつてかたときわすれまゐらすることもさふらはずみやこをおんいでのときももつともおんともつかまつるべうぞんじさふらひつれどもへいけゆるされさふらはねばちからおよびさふらはずこんどはたとひいかなるうきめにもあひさふらへおんゆくへをしたひまゐらせてたづねまゐらばやとこそぞんじさふらへおんふみたまはらむとまをしたりければきたのかたなのめならずよろこびたまひてやがておんふみあそばしてぞたうだりけるのぶとしおんふみたまはつてよをひについでくだるほどにほどなうびぜんのくにありきのべつしよにくだりつきしゆごのぶしにむかつてまをしけるはこれはだいなごんどののとしごろめしつかはれしさぶらひにげんざゑもんのじようのぶとしとまをすものにてさふらふおんゆくへをしたひまゐらせてたづねまゐりたるよしをまをしたりければなんばのじらうのぶとしがはるばるとこれまでたづねくだりたるこころざしのほどをかんじてだいなごんどのにこのよしまをしたりければをりふしだいなごんはみやこのおんことおぼしめしいだしなみだにむせびうつぶしておはしけるがのぶとしがこれへこれへとのたまへばのぶとしおんそばちかうまゐつてみたてまつるにおはするところのあさましげなるもさることにてはやおんさまかへておはしけるをみたてまつるにつけてもつきせぬものはなみだなりだいなごんさてみやこのことはいかにとのたまへばみやこのおんことはなかなかおぼしめしやらせたまふべしきたのおんかたよりのおんふみとてとりいだしてたてまつるだいなごんひらいてみたまへばきたのかたのみづぐきのあとはなみだにかきくれてとかくうらみくどきてかかれたるよりをさなきひとびとのいまだいとけなきふでのすさびなるにこひしこひしとかかれたるをみたまひてぞいとどせんかたなくはおもはれけるそののち五六にちありてのぶとしまをしけるはいましばらくもさふらひておんゆくへをもみまゐらせたくはさふらへどもきたのかたよりはあひかまへてごへんじたまはつていそぎまゐりのぼるべきよしをおほせられさふらひしにあともなくゆくへもなくさふらはんことおほきにおそれいつておぼえさふらへばこんどはまづまかりのぼりやがてまゐるべきよしをまをしたりければだいなごんこんどなんぢがくだらんまでいのちいきてみみえんこともかたかるべしあひかまへてなりちかがごせとぶらうてえさせよとのたまひぬべきことはみなかねてよりはやつきけれどもせめてのしたはしさにやはるばるといでたりけるのぶとしをいましばしやしばしとてたびたびめしぞかへされけるのぶとしごへんじたまはつてまたよをひについでのぼるほどにほどなうみやこにのぼりつきうんりんゐんにまゐりだいなごんどののごへんじをきたのかたへたてまつるきたのかためづらしきふみをもみるものかなとてわかぎみひめぎみ三にんひとつところにさしつどひこのふみをひらいてみたまひてなみだにむせびたまひけりふみのおくにびんのかみを一むらまきぐせられたりけるをみたまひてぞはやさまかへておはしけるをもしられけるあんげん三ねん八ぐわつ十六にちにかいげんあつてぢしようぐわんねんとぞまをしけるおなじき廿二日にだいなごんありきのべつしよにてうせたまふそもさいごのありさまさまざまにきこゆはじめはさけにぶすをいれてすすめたてまつりけれどもそのしるしもなかりければのちには二ぢやうばかりありけるきしのしたをほりにほりひしをうゑうへよりつきおとしたてまつつてうしなひたてまつりけるとぞきこえしさるほどにだいなごんのきたのかたはうんりんゐんにおはしけるがこのよしをつたへききたまひてやがてぼだいゐんよりひじりをしやうじおんとし三十九にてさまをかへひたすらだいなごんのごしやうぜんしよをぞいのられけるこのきたのかたとまをすはやましろのかみあつかたのきやうのおんむすめなりわかぎみひめぎみきたのかたのべにいでてははなをたをりさはべにおりてはみづをむすびひたすらだいなごんのごしやうぼだいをぞいのられけるさるほどにときさりときうつりよのかはりゆくありさまただてんにんの五すゐとぞみえしおなじき十ぐわつ廿五にちにせいせいとうばうにいづまたはせききありしいうきともまをすてんもんはかせこれをうらなひまをすうちにはだいびやう(乱字脱か)あるのみならずほかにはまたおほきなるうれへとぞまをしけるさるほどにとしくれてぢしようも二ねんになりにけり

平家物語(城方本・八坂系)巻第三
 山門滅亡 ぢしよう二ねんしやうぐわつついたちのひしゆじやうてうきんのおんためにほうぢうじどのへぎやうかうなつてなにごともれいにかはりたることはなけれどもきよねんのなつしんだいなごんなりちかのきやういげごきんじゆのひとびとそのほかほくめんのともがらどもにいたるまでおほくながしうしなはれしことどもをほうわうやすからずおぼしめされければよのおんまつりごとをもものうくおぼしめされけりにふだうしやうごくもゆきつながつげしらせしのちはきみをもうしろめたいことにおもひまゐらせうへにはことなきやうなれどもしたにはこころえうじんつねにしてにがわらひてのみぞおはしけるそのころほうわうはみゐでらのこうけんそうじやうをごしはんとしてしんごんのひほふこんねむだいにちきやうこんがうちやうぎやうそしつぢきやう三ぶのひきやうをごでんじゆありておなじき二ぐわつ五かのひみゐでらにてごくわんぢやうあるべきよしきこえしかばさんもんおほきにいきどほりむかしよりだいだいのみかどのじゆかいくわんぢやうはわがやまにてとげさせたまふことこれせんきなりなかにもさんわうのけだうはじゆかいくわんぢやうのためなりしかるをこんどみゐでらにてとげさせたまはばをんじやうじをやきはらふべしとぞせんぎしけるほうわうこのよしをつたへきこしめされてやうやうにこしらへなだめおほせられけれどもれいのさんもんのだいしゆゐんぜんにもかかはらずいよいよほうきすときこえしかばほうわうこれおほきにむやくなりとていそぎごけぎやうをごけちぐわんあつてみゐでらにてのごくわんぢやうをばおぼしめしとどまらせたまひけりされどもごほんいなりければこうけんをめしぐしててんわうじへごかうなり五ちくわうゐんをつくらせたまひかめゐのみづをもつて五ひやうのちすゐとさだめぶつぽふさいしよのれいちにてぞでんほふくわんぢやうをばとげさせたまひけるさるほどにほうわうはさんもんのさうどうことをやめさせたまはんがためにみゐでらにてのごくわんぢやうをばおぼしめしとどまらせたまひたりけれどもそのころさんもんにはだうしゆとがくしやうのあひだにふくわいのこといできてかつせんどどにおよぶまいどにがくりようちおとさるさんもんのめつばうこれひとへにてうかのおんだいじとぞみえしだうしゆとまをすはがくしやうのめしつかひけるわらんべのほうしになりたるなりもしはちうげんほうしばらやこんがうじゆゐんのざすかくそんごんそうじやうちさんのとき三たふにけちばんしてげしゆとがうしてがくしやうをもことともせずどどのいくさにかちにけりだうしゆししゆのめいをそむきてかつせんのくはだてありだいじやうのにふだうどのもゐんぜんをうけたまはつてきのくにのぢうにんゆあさの七らうひやうゑむねみつにおほせてきないのつはもの二千よにんだいしゆにさしそへてだうしゆをせめさせらるだうしゆひごろはとうやうばうにさふらひけるがあふみのくに三かのしやうにげかうしてこくちうのあくたうらをかたらひすたのせいをいんぞつしてこんどはさうおいさかのじやうにたてこもるだいしゆくわんぐんに五千よにんにておしよせたりだいしゆはくわんぐんをさきだてんとすくわんぐんはまただいしゆをさきだてんとせしほどにおもひおもひこころごころになつてこんどのいくさもはかばかしうはせざりけりだうしゆがかたらふところのあくたうとまをすはしよこく七だうのせつたうがうたうさんぞくかいぞくらなればよくしんしじやうにしてししやうふちのやつばらなりければいのちもをしまずせめたたかふこんどもみながくしやういくさにまけにけりよすゑになればあくにんはいよいよつよくぜんにんはまたよわくなるこそかなしけれそののちさんもんいよいよあれはてて十二しんところところのほかはしぢうのそうりよまれなりたにだにのかうえんまめつしてだうだうのぎやうほふもたいてんすしゆがくのまどをとぢざぜんのゆかもむなしくせり四けう五じのはるのはなもにほはず三たいそくぜのあきのつきもくもれり三百よさいのほつとうかかぐるひともなく六じふだんのかうのけぶりもたへやしぬらんだいしやたかくそびえては三ぢうのかまへをせいかんのうちにさしはさみとうりやうはるかにひいでては四めんのたるきをはくぶのあひだにかけたりきされどもいまはぐぶつはみねのあらしにまかせきんようをこうれきにうるほしよるのつきともしびをかかげあかつきのつゆたまをたれれんざのよそほひをそふとかやそれまつだいのぞくにおよんで三ごくのぶつぽふもしだいにすゐびしけるにやとほくてんぢくのぶつせきをとぶらふにぎをんしやうじやちくりんしやうじやぎつこどくをんわしのたかねもこのごろはこらうのすみかとあれはてていしずゑのみやのこるらんはくろちにはみづたえてくさのみふかくしげれりたいぼんげじようのそとばもこけのみむしてかたぶきぬしんたんにはてんだいさん五だいさんはくばじぎよくせんじもこのごろはぢうりよなきさまとあれはててだいせうじようのほうもんもはこのそこにやくちぬらんわがてうあたごたかをのだうたふもむかしはのきをならべてありしかどもいちやのうちにあれはてててんぐのすみかとなりにけりなんとの七だいじもこのごろはとうだいこうふくりやうじのほかはのこれるだうしやもまれなり八しう九しうもあとたえてほつさう三ろん二しうのほかはのこれるほうもんまれなりさしもやごとなかりしてんぢくのぶつぽふもぢじようのいまにおよんでほろびぬるにやとこころあるひとのこれをかなしまずといふことなしりざんしけるそうのうちにやよみたりけんふるきばうのはしらにいつしゆのうたをぞかきつけける
  いのりこしわがたつそまのひきかへてひとなきみねとあれやはてなん
これはでんけうだいしたうさんさうさうのいにしへあのくたら三みやく三ぼだいのほとけたちにいのりまをされたりしそのこころをやおもひいでてやよみたりけんいとやさしうぞきこえし八日はやくしのひなれどもなむととなふるこゑもせずうづきはすゐじやくのつきなれどもへいはくをささぐるひともなしあけのたまがきかみさびてしめなはのみやのこるらんさればふるきひとびとのまをしあはれけるはわうばふつきんとてはまづぶつぽふさきだつてばうずといへりさればしなののくにぜんくわうじもさんぬる三ぐわつ十三にちにえんじやうのきこえありこのによらいとまをしたてまつるはむかしちうてんぢくびしやりこくにおいて五しゆのあくびやうおこつてにんみんことごとくほろびしときびしやりこくのぐわつがいちやうじやとしやくそんもくれんみこころをひとつにしてえんぶだごんにててづからみづからいうつしまゐらつさせたまへる一ちやくしゆはんのみだの三ぞんえんぶだい一のれいざうなりさればぶつぽふとううぜんのことわりにこたへてちうてんぢくにて五百さいはくさいこくにて一千よねんそののちわがてうつのくになにはのほりえにしてしばらくやすらひたまひしをおほみのあづまうどほんだよしみつとりたてまつつてしなののくにみのちのこほりにあんぢしたてまつるぢしようのころまでは五百五十よねんなり
康頼祝
 きかいがしまのるにんどもつゆのいのちくさばのすゑにすがりてもをしむべきにはあらねどもたんばのせうしやうのしうとへいさいしやうのりもりのしよりやうひぜんのかせのしやうよりいしよくをつねにおくられしかばしゆんくわんもやすよりもいのちをいきてはながらへけりたんばのせうしやうなりつねへいはんぐわんやすよりにふだうと二にんはくまのしんし(イ信心)のひとにておはしければいかにもしてたうしまのうちにくまの三しよごんげんをくわんじやうしたてまつりてきらくのことをいのらばやといふにしゆんくわんはもとさんそうなるうへふしんのひとにてさんわうのおんことならばさもありなんごんげんのおんことはあながちしんもおこらずとてこのぎにどうしんをもしたまはず二にんはおなじこころにもししまのうちにくまのににたるところやあるとたづねまはるにあるひはりんたふのたへなるところもありあるひはこうきんしうのやまもありやまのけしききのこだちほかよりなほすぐれたりみなみをのぞめばかいまんまんとしてくものなみけぶりのなみいとふかくみづはへきたんをおび(イたたへ)たればかのちやうあんしやうかがむすめのげんのとくをあらはせしじんやうのかうのほとりもこれにはすぎじとぞみえしきたをかへりみればまたさんがくのががたるなかよりはくせきのれうすゐみなぎりおちたるたきのおとことにすさまじくしようふうかみさびたるけしきまことにひれうごんげんのおはしますなちのおやまにさ(も字脱)にたりけりさてこそやがてそこをばなちさんとはなづけられけれかのみねはほんぐうこれはしんぐうかれはそんぢやうそのわうじどのわうじこのわうじとわうじわうじのなをまをしやすよりにふだうせんだちにてきらくのことをぞいのられけるなむごんげんこんがうどうじねがはくはわれらをいまいちどこきやうへかへさせたまひてこひしきものどもをみせしめたまへとふたとせがあひだぞいのられけるひかずつもつてたちかふべきじやうえなければあさのころもをみにまとひきりべのわうじのなぎのはをいなりのやしろのすぎのはにはたむけつつくろめにつくとぞくわんじけるけがらはしき心ある時はさはべのみづをこりにかきいはたがはのきよきながれとおもひやりたかきところにのぼりてはほつしんもんとぞくわんじけるさるほどにやすよりにふだうはひに六十六どまゐりごへいがみのなければはなをたをりてへいとささげほんぐうしようじやうでんのおんまへにてつねはのつとをぞまをしけるそれあたりきたれるとしのついでぢしよう二ねんつちのえいぬのとしつきのならひは十ぐわつ二ぐわつ(イ十二月)ひのかず三百五十よケにちきちにちりやうしんをえらびてかけまくもかたじけなくましますにつぽんだい一だいれいけんゆや三しよごんげんひれうだいぼさつのけうりやううづのひろまへにしてしんじんのだいせしゆうりんふぢはらのなりつねならびにしやみしやうせう一しんしやうじやうのまことをいたし三ごふさうおうのこころざしをぬきんでてつつしんでもつてうやまつてまをすそれしようじやうだいぼさつはさいどくかいのけうしゆ三じんゑんまんのかくしゆなりりやうしよごんげんはあるひはとうばうじやうるりいわうのしゆしゆびやうしつぢよのによらいたりあるひはなんぱうふだらくのうけのしゆにふちうげんもんのだいしにやくわうじはしやばせかいのほんしゆせむゐしやのだいしちやうじやうのぶつめんをげんじてしゆじやうのしよぐわんをみてしめたまふここをもつてかみいちじんをはじめたてまつつてしもばんみんにいたるまであるひはげんせあんをんのためあるひはごしやうぜんしよのためにあしたにはじやうすゐをむすんでぼんなうのあかをすすぎゆふべにはしんざんにむかつてはうがうをとなふるにかんおうおこたることなしががたるみねのたかきをばじんとくのたかきにたとへれいれいたるたにのふかきをばぐぜいのふかきになずらふるくもをわけてのぼりつゆをしのぎてくだるここにりやくのちをたのまずんばいかがあゆみをけんなんのみちにはこばむやそれごんげんのゐとくをあふがずんばなんぞかならずしもいうゑんのさかひにましまさむやよりてしようじやうだいごんげんひれうだいぼさつしやうれんじひのおんまなじりをあひならべわれらがむにのたんせいをちけんしていちいちにこんしをなふじゆせしめたまへままのみ(イままのみ四字ナシ)そもそもむすぶはやたまのりやうしよごんげんはおのおのきにしたがつてあるひはうえんのしゆじやうをみちびきあるひはむえんのぐんるゐをすくはんがために七はうしやうごんのすみかをすて八まん四千のひかりをやはらげかりにすゐじやくとあらはれて六だう三うのちりにどうじたまへりさればぢやうごふやくのうてんぐちやうじゆとくちやうじゆのらいはいそでをつらねへいはくれいてんをささぐることひまなしにんにくのころもをかさねかくだうのはなをささげてしんでんのゆかをうごかししんじんのみづをすましてはりしやうのいけをたたへたりしんめいなふじゆしたまはばしよぐわんなんぞじやうじゆせざらんやあふぎねがはくば十二しよごんげんおのおのりしやうのつばさをならべはるかにくかいのそらにかけりさせんのうれへをやすめてすみやかにきらくのほんくわいをとげしめたまへさいはいさいはいとぞまをしける
卒都婆ながし
 さるほどに二にんのひとびとはあるよほんぐうしようじやうでんのおんまへにつやしてよもすがらねんじゆせられけるにおきのあらしことにはげしかりけるにいづかたよりともしらずこのはふたつ二にんのひとびとのそでのうへにふきかけたりはんぐわんにふだうなにとなうこれをとつてみけるにさしもこのあひだたのみをかけたてまつるみくまののなぎのはにてぞさふらひけるこのきのはに一しゆのうたをむしくひにこそしたりけれ
  ちはやぶるかみにいのりのしげければなどかみやこへかへらざるべき
ごんげんのごなふじゆうたがひなしとぞおぼえたるあるよまた二にんのひとびとにしのごぜんのおんまへにつやしてねんじゆせられけるにゆめうつつともわかざるにおきのかたよりかざりじんじやうにしたるこぶねを一さうなぎさによせよにうつくしきにようばうたち十よにんふねよりあがりつづみしらべひやうしをもたせつつにしのごぜんのおんまへにていまやうをこそうたはれけれよろづのほとけのぐわんよりもせんじゆのちかひぞたのもしきかれたるくさ木にもたちまちにはなさきみのるとこそきけとこれを二三どうたふかとおぼしくてかきけすやうにぞうせられけるにしのごぜんのごほんぢせんじゆせんげんにておはしますりうじんは廿八ぶしゆのそのひとつなればさだめてごやうがうなるらんとたのもしかりしおんことなりなかにもやすよりにふだうはみやこのこひしさのせつなるままにせんぼんのそとばをつくりあじのぼんじをかきけみやうじつみやうねんがうぐわつぴのしたには二しゆのうたをぞかきつけける
  さつまがたおきのこじまにわれありとおやにもつげよやへのしほかぜ
  おもひやれしばしとおもふたびだにもなほふるさとはこひしきものを
これをうらにもつていでにつぽんのかたをふしをがみなむきみやうちやうらいぼんてんたいしやく四だいてんわうけんらうじしんそうじてはにつぽん六拾よしうのだいせうのじんぎみやうだうべつしてはゆや三しよごんげんかいりうわうとうまでもあはれみをたれさせたまひてこのうちに一ぽんなりともこきやうへつたへてたばせたまへときせいしておきつしらなみのよせてはかへすたびごとにそとばをうみにぞうかべけるそとばはつくりいだすにしたがつてうみにいれければひかずつもればそとばのかずもつもりにけりおもふこころやたよりのかぜともなりたりけんまたしんめいぶつだやおくらせおはしましけん千ぼんのそとばのうちに一ぽんはるばると八へのしほぢをゆられきてあきのくにいつくしまのだいみやうじんのおまへのなぎさにうちあげたりここにやすよりがゆかりありけるそう一にんせんやうだうしゆぎやうしけるがあるときいつくしまにまゐりしやだんのていををがみたてまつるにこころもことばもおよばれず八しやのごてんはいらかをならべ百八十けんのくわいらうありしやとうはうみにのぞめるところにてしほのみちひにつきぞすむしほのさすときはおきのとりゐうちのくわいらうあけのたまがきにいたるまでことごとくみなるりのごとしまたしほのひくときはなつのよなれどもおまへのはくさにしもぞおくそれわくわうどうぢんのすゐじやくはいづれもとりどりなりとはまをせどもいかなればこのおんかみはかいまんのうろくづにえんをばむすばせたまふらんとごほんぢをみやびとにたづねたてまつればしやがらりうわうのだい三のひめみやたいざうかいのすゐじやくとぞまをしけるこのそういよいよたつとくおもひたてまつつてひねもすにほつせまゐらせやうやうひくれつきさしいでておまへのなぎさにたちいでまんまんたるかいしやうをみけるにそこはかとなくうちよせけるもくづのなかにそとばのかたのみえけるをこのそうなにとなうこれをとつてみけるにさつまがたおきのこじまとかきながせることのははやすよりにふだうがしわざなりもじをばゑりいれきざみつけたりければなみにもいそにもあらはれずしてよにもあざやかにこそみえにけれこのそうあはれにもまたふしぎにおもひおひのかたはらにさしみやこにのぼりやすよりがははやつまこどもの一でうのきたむらさきののへんにしのうでさふらひけるにとらせければらうぼこれをうけとりなみだをはらはらとながいてあはれこのそとばのもろこしのかたへもゆられもゆかでなにしにこれまでつたはりきてふたたびものをおもはすることよとてなきければつまこどももながされしときのおもひよりいまこのそとばをみけるにぞいとどおもひはふかかりけるそののちはるかえいぶんにおよんでほうわうかのそとばをめしよせえいらんあつてあなむざんこのものどもはいまだきかいがしまにながらへてあるにぞとてれうがんにおんなみだせきあへさせたまはずそののちうちのおとどのもとへつかはしおはしますだいふはまたちちのぜんもんにみせたてまつらるにふだうもいはきならねばよにもあはれげにこそのたまひけれそのころきやうちうにあやしのしづのをしづのめにいたるまでやすよりが二しゆのうたとてくちずさまぬはなかりけりかきのもとのひとまろはしまがくれゆくふねをおもひやまべのあかひとはあしべのたづをながめたまふすみよしのみやうじんはかたそぎのおもひをなしみわのみやうじんはすぎたてるかどをさすむかしそさのをのみことの三十一じをはじめおきたまひしよりこのかたもろもろのしんめいぶつぽふそのえいぎんをもつて百千まんのおもひをのぶ千ぼんのそとばなればさこそはちひさくもありけめにさつまがたよりみやこまでつたはりけるこそふしぎなれ
蘇武
 あまりにひとのおもふことはかくしるしありけるにやむかしかんてうのみかどここくをせめさせたまひしにはじめはりりようとまをすしやうぐんの十八さいになりけるにかんわうのはたをたうで十万きをさしそへてここくへむけられたりけるにここくのいくさこはくかんわうのいくさよわくしてみかたほどなくおつかへさるつぎのとしまたそぶとまをすしやうぐんの十六さいになりけるにかんわうのはたをたうで卅万きをさしそへてここくへむけられたりけるにこんどもまたここくのいくさこはくかんわうのいくさよわくしてみかたたたかひまけにけりそぶをはじめてつはもの千よにんをとりこにしほらにおひこめ三ねんといふにとりいだしそぶをはじめてつはもの六百よにんがかたももをいちいちにおしきつてひろきのべへおひはなつやがてしするもありほどへてむなしくなるもありそのなかにそぶ一にんはしなざりけりのべにいでてはくさのみをとりやまだにおりてはおちぼをひろひさはべのみづをえんとしてつゆのいのちをささへけりさるままにはたのむのかりはじめはそぶにおそれけるがしだいにみなるるままにおそるることこそなかりけれあるときそぶゆびのさきよりちをあやし一くをかいてかりのつばさにむすびつけこれをかんてうにもつてわたりみかどのごげんざんにいれよやといひふくめてぞはなちけるかひがひしくもたのものかりあきはかならずここくよりみやこへかよふものなればかんのせうていじやうりんゑんにみゆきなつてぎよいうありゆふされのそらうすぐもつてなにとなくものあはれなるをりふしひとつらのかりとびわたるそのなかにかりひとつとびさがつておのがつばさにむすびつけたるたまづさをくひきつてぞおとしけるくわんじんあやしみをなしこれをとつてみかどへたてまつるみかどひらいてえいらんあるにそぶがほまれのあとなれやむかしはがんくつのほらにこめられていたづらに三しゆんのしうたんをおくりきいまはくわうでんのうねにはなたれてむなしくこてきの一そくとなれりたとひかばねはこのちにちらすといふともたましひはかへつてふたたびくんべんにつかへんそしけいとぞかいたりけるみかどあなむざんこれはひととせそぶといつしものをここくへむけたりしがいまだながらへてあるにこそとてこんどはやうりとまをすしやうぐんの十九さいになりけるにかんわうのはたをたうで百まんきをさしそへてここくへぞむけられけるやうりはそぶがこなりけりやうり百万きをたまはつてここくにむかひせめけるにこんどぞここくのいくさよわくかんわうのいくさこはくしてここくほどなくやぶれにけりそののちそぶをばくわうやのうちよりたづねいだすかたあしはきられながら十九ねんのせいさうをおくりとし卅四とまをすにはかんきうばんりのなみのうへふたたびきうりへかへりけりそれよりしてぞふみをがんしよとなづけつかひをがんしとまをすなりかんかのそぶはしよをかりにつけてきうりへおくりほんてうのやすよりはうたをなみのたよりにこきやうへつたふかれはかりのつばさの一くのしこれはそとばのおもての二しゆのうたかれはかんてうこれはほんてうかれはじやうだいこれはまつだいさかひをへだてよよはかはれどもふぜいはいづれもおなじあはれなりしことどもなり
ゆるしふみ
 にふだうしやうごくのだい二のおんむすめちうぐうとてだいりにわたらせたまひけるがぢしよう二ねんのはるのころよりごなうときこえさせたまひしかばくものうへあめがしたのさわぎなるうへへいけのひとびとことにさわぎあはれけりいけくすりをつくしおんやうじゆつをきはむしよじにみどつきやうはじめてしよしやへくわんぺいをたてまつらるされどもごなうただにもわたらせたまはずごくわいにんときこえさせたまひしかばいつしかひきかへたるおんよろこびにてぞわたらせたまひけるしゆじやうこんねん十八さいちうぐう廿二にならせたまふまでわうじひとところもいできさせたまはずあはれこんどわうじにてわたらせたまはばいかばかりかめでたからましとたんだいまわうじごたんじやうなんどのあるやうにみなひとあらましごとをぞまをされけるしやうしゆくぶつぼさつにつけてはごさんへいあんきそうかうそうにおほせてはわうじたんじやうとぞいのりまをされけるおなじき六ぐわつついたつのひちうぐうごちやくたいありにんわうじのみやこれをごかぢありざすのみやは七ぶつやくしのほふならびにへんじやうなんしのほふをぞしゆせられけるきさきはつきのかさなるにしたがひておんみをのみくるしうせさせたまひてくごをもつやつやきこしめされずひすゐのおんかんざしはおんめのうへにところせくおもやせさせたまへるおんありさまなほいたはしきおんさまなりさるままにはかんのりふじんせうやうでんのやまひのとこにふしたうのやうきひりくわいつしはるのあめをおびふようのかぜにしをれつつをみなへしのつゆおもげなるよりなほうつくしきおんさまなりかかりけるをりをえてこはきおんもののけどもとりいれまゐらせごけんじやしきりなりまづはさぬきのゐんのごりやううぢのあくさふのおくねんなりちかのきやうさいくわうほうしふしがしりやうべつしてはきかいがしまのしやうりやうなんどそうらなひまをしけるきくもよにおどろおどろしうおそろしかりしおんことどもなりきんねんふりよなることどもあつてせじやういまだらくきよせざることもこれひとへにごりやうのゆゑなりとてさぬきのゐんのごつゐがうあつてしゆとくてんわうとがうしうぢのあくさふのぞうくわんぞうゐだいじやうだいじんじやういちゐをつかはさるちよくしはせうないきこれながとぞきこえしくだんのむしよはやまとのくにそうのかみのこほりかはかみのむらはんにやのの五三まいなりしをはうげんのむかしほりおこしてすてられしのちはしがいみちのべのつちとなつてねんねんにはるのくさのみしげれりしかるをいまちよくしたづねくだつてちよくめいをさづけられけれどもばうこんいかがおもはれけんおぼつかなしとぞひとまをしけるむかしもをんりやうはかくおそろしきことにのみこそまをしつたへたれくわざんのゐんのみよをいとはせたまひたりしはもとかたのみんぶきやうがりやうれいぜんゐんのおんものぐるはしうさんでうのゐんのおんめもごらんぜざりしはくわんざんぐぶがりやうとかやゐかみのないしんわうをばしゆだうてんわうとがうしさうらのはいたいしをばくわうごうのしきゐにふくす(イ早良の廃太子をば崇道天皇と号しゐかみの内親王をば皇后の職位に補す)かかりけるをりをえてかどわきのへいさいしやうのりもりのきやううちのおとどのもとにおはしてまことやらんうけたまはりさふらへばちうぐうごさんへいあんのおんいのりのおんためにさまざまのおんことどものさふらふなるなになにとまをすともたいしやにすぎたることはさふらふまじさらんにとつてはきかいがしまのるにんどもめしかへされたらんずるほどのくどくぜんごんはまたなにごとかさふらふべきとまをされたりければおとどいかさまにもちちのけしきをうかがうてこそみさふらはめとてあるときおとどちちのおんまへにおはしてちうぐうごさんへいあんのおんいのりのおんためにはなになにとまをすともたいしやにすぎたることはさふらふまじさらんにとつてはあのたんばのせうしやうがことをさいしやうのいたうなげきまをされさふらふがまことにふびんにさふらふなりちかのきやうがしりやうをなだめられんにつけてもいきてさふらふたんばのせうしやうをめしかへされたらんずるほどのくどくぜんごんはなにごとかさふらふべきひとのおもひをやめさせたまはばごぐわんもかならずじやうじゆしひとのねがひをみてさせたまはばちうぐうやがてごさんへいあんわうじごたんじやうあつてかもんのえいぐわいよいよひらけさふらふべしとまをされければにふだうしやうごくひごろはさしもよこがみをやられたりしがこんどはおもひのほかにやはらぎたまひてたんばのせうしやうをばめしかへすべきござんなれあのしゆんくわんややすよりほうしがことはいかにとのたまへばおとどそれもどうざいにてひとつはいしよにさふらへばともにめしこそかへされさふらはんずらめ一にんものこされたらんはなかなかざいごふのいんえんなるべうさふらふとまをされたりければにふだういやいややすよりほうしがことはさもやありなんしゆんくわんはずゐぶんにふだうがこうじゆによつてひととなりたるものぞかししかるにひがしやまししのたににじやうくわくをかまへてじやうかいがことをおろかにいひけるときくがきくわいなればしゆんくわんにおいてはおもひもよらずとぞのたまひけるそののちおとどさいしやうのもとにおはしてたんばのせうしやうをばめしかへさるべきにてさふらふなりおんこころやすくおぼしめされさふらふべしとのたまへばさいしやうなのめならずよろこびたまひてのりもりがごいつけのかたはしになりまゐらせたるしるしにやなどかこのこといまいちどよきやうにまをさるべきとおもひてやらんかれにあひぐせさせてさふらふものののりもりがかたをみさふらふたびごとになみだにむせびさふらふがあまりにふびんにぞんじてあながちにかくはまをしさふらふなりおとどそれはさぞおぼしめされさふらふらんこはたれとてもかなしければあのなりちかのきやうがことをもずゐぶんとりまをしさふらひしかどもきらくをまたずしてはいしよにてうせさふらひぬるうへはちからおよばずいきてさふらふたんばのせうしやうにおいてはおんこころやすくおぼしめされさふらふべしとのたまへばさいしやうてをあはせてぞよろこばれけるさるほどにきかいがしまのるにんどもすでにめしかへさるべきにさだまりしかばにふだうしやうこくよりおんゆるしぶみありさいしやうのもとよりもべつしてよろこびのつかひをぞそへられけるつかひはたんざゑもんのじようもとやすとぞきこえし七ぐわつげじゆんにみやこをたつあひかまへてよをひについでくだるべしとはのたまへどもこころにまかせぬかいろなればながづき廿かころにぞさつまがたきかいがしまにはつきにけるおつかひふねよりのぼりこれにきよねんみやこより三にんながされたまひしたんばのせうしやうどのやへいはんぐわんやすよりほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづのごばうのおはするところはいづくやらんとこゑごゑによばはつたりければににんのひとびとはれいのくまのまうでしておはせざりけりそうづ一にんしばのいほりにおはしけるがききたまひてはしるともなくたをるるともなくいそぎふなつきにおはしてこれこそきよねんみやこよりながされししゆんくわんよそもなにごとぞとのたまへばおつかひべつのしさいにてはさふらはずみやこよりのおゆるしぶみさふらふとてくびにかけたるふみぶくろよりとりいだしてたてまつるそうづなのめならずよろこびたまひていそぎしばのいほりにかへりこのふみをひらいてみたまへばぢうくわはをんるにめんずはやはやきらくのおもひをなすべしちうぐうごさんへいあんのおんいのりのおんためにたいしやおこなはるるによつてきかいがしまのるにんたんばのせうしやうなりつねへいはんぐわんやすより二にんしやめんとばかりにてそのなかにそうづ一にんもれにけるこそかなしけれうらにもやあるらんとうらをみたまふにもなしまたらいしにもやあるらむとらいしをみたまふにもなかりけりさるほどに二にんのひとびともやうやうげかうせられたるせうしやうのよまれけるにもやすよりがよみけるにも二にんしやめんとばかりにて三にんとはいれられずそうづこはいかにつみもおなじつみはいしよもひとつところぞかしうきもしづみもともにこそおこなはるべきにさればしひつのあやまりかやまたはへいけのおぼしめしわすれかやみやうけんはこはいかにしたまひつることぞやとてふみをはしよりおくへまきおくよりはしにまきかへしてんにあふぎちにふしかなしみたまへどかひぞなきさればこれはゆめかやうつつかやうつつかとおもはんとすればさながらゆめのごとくなりさるほどに二にんのひとびとはよろこびまをしのくまのまうでをぞしたまひけるそうづひごろはおぼろけにてもまゐりたまはぬひとのせうしやうのそでにすがりやすよりにふだうがたもとにとりつきなくなくまゐりたまひあひかまへてこのことひとのうへとおもひたまふべからずしゆんくわんがいまかかるうきめにあふこともこだいなごんどののよしなきむほんのゆゑぞかしみやこまでとまをさばこそかたからめこのふねにうちのせて九こくのちまでつけたまひてそののちはすておきたまふべしとかきくどきてのたまひければせうしやうそれはさぞおぼしめされさふらふらんなりつねみやこをいではるばるとやへのしほぢをこぎすぎてかかるうきしまにながされいちにちへんしながらふべしとはぞんぜざりしかどもつゆのいのちきえやらでいまめしかへさるるうれしさもさることにてはさふらへども一にんのこされたまふいたはしさまをすばかりもさふらはずこのふねにうちのせたてまつつて九こくのちまでつけまゐらせんこといとやすきおんことにてはさふらへどもおつかひもいかにもかなふまじきよしをまをしさふらふうへみやこよりもおんゆるされもさふらはざらんに三にんともにしまをばいでたりなんどきこえさふらひてはなかなかあしうさふらふべしこんどはまづなりつねみやこにのぼりひとびとにもよきやうにまをしあはせまたはにふだうしやくごくのけしきをもうかがうてやがてひとをむかひにたてまつるべしあひかまへてよしなきことどもおぼしめしたたでみやこのつてをまちたまふべしなんどやうやうにこしらへのたまひけれどもそうづはいささかくつろぐここちもしたまはずさるほどにじゆんぷういできにしかばふねをいだすせうしやうのかたみにはよるのふすまやすよりにふだうがかたみには一ぶのほけきやうをとどめおきたりけれどもそうづはなほなぐさむここちもしたまはずかねてよりふねにのつてはおりおりてはのりあらましごとをぞしたまひけるおつかひおんゆるされもさふらはざらんになにしにおふねにはめさるべきとてあらけなくおひおろしたてまつつてやがてふねをばいだしけりそうづはなほもふねのともづなにとりつきこしになりわきになりたけのおよぶほどはひかれておはしけるがたけもおよばぬほどにもなりしかばまたむなしきなぎさにおよぎかへりをさなきものどものははやめのとをしたふやうにこれぐしてゆけやわれのせてゆけやとてをめきさけびたまへどもこぎゆくふねのならひにてあとはしらなみばかりなりいまいくほどもへだたらねどもなみだにくれてみえざればおきのかたをぞまねかれけるかのまつらさよひめがもろこしぶねをしたひつつひれふりたりけんもこれにはすぎじとぞみえしせうしやうはよろづになさけあるひとにておはしければさだめてよきやうにぞまをされんずらんとてそのせにみをもなげざりしこころのほどこそうたてけれそうづそのよはしばのいほりへもかへりたまはずなみにあしうちあらはせてそのよはそこにてなきあかすかのさうりそくりといつしひとかいかんざんにはなたれてむなしくなりたりしもこれにはすぎじとぞみえしさるほどに二にんのひとびとはうらづたひしまづたひして十ぐわつ廿かごろにはひぜんのくにかせのしやうにぞつきたまひけるあひさいしやうみやこよりひとをくだしてとしのうちはなみかぜもはげしければしばらくそれにてゆをもあびみをもいたはりたまひてはるになりてのぼりたまふべしとのたまひつかはされたりければ二にんのひとびとそのとしをばひぜんのくにかせのしやうにてぞおくられける
御産の巻
 さるほどにみやこにはおなじき十一ぐわつ十二にちのとらのこくばかりよりちうぐうごさんのけわたらせたまふとてきやうちうろくはらひしめきけりきよげつ廿七にちよりをりをりそのけわたらせたまひけるがことにはけさのとらのこくばかりよりとりたてたるおんことどもにてぞわたらせたまひけるごさんじよはろくはらなりければほうわうもごかうなるそのほかだいじんくぎやうでんじやうのじしんやくいのかみてんやくのかみおんやうのかみみなわれもわれもとはせまゐらるにふだうどのも二ゐどのもむねにてをおきたまひてひとのまゐつてものまをすときはただなにごともよきやうによきやうにとばかりぞのたまひけるさりともじやうかいがいくさばなんどへいでたらんにはこれほどにしもおくせじものをとぞのちにはのたまひけるこまつどのはなにごとにもさわぎたまはぬひとにておはしければはるかにひたけてのちおんむま十二ひきひかせつつちやくしごんのすけせうしやうこれもりじなんゑちぜんのせうしやうすけもりいげのきんだちのくるまやりつづけさせよにものどやかげにてぞおはしたるおとどまゐりもはてたまはずしやきん千りやうなんれう百ぎんけん七ぎよい四十りやうひろぶたにおいていだされたりおほかたきらきらしうぞみえし五でうのだいなごんくにつなきやうもおんむま二ひきしんじやうせらるおとどのおんむままゐらせられけることはかつはきさいのみやのおんせうとなるうへふしのごけいやくあればことわりやくにつなきやうのおんうまのまゐらせられやうはこころざしのいたりかまたはとくのあまりかとぞひとびとかたぶきあはれけるこまつどののおんむままゐらせられけることはいんじくわんこうに一でうのゐんのきさきじやうとうもんゐんごさんのときみだうどののおんむままゐらせられたりしそのれいとぞきこえしまたたいしやおこなはれけることはだいぢ二ねん九ぐわつ七かのひとばのゐんのきさきたいけんもんゐんごさんのときゆるしものおこなはれてぢうくわのもの三百よにんくわんいうせられたりしこんどそのれいとぞきこえしじんじやにはいせいはしみづをはじめたてまつつて廿二しやにくわんぺいありまたじんめをまゐらせられけることもかもをはじめたてまつつてあきのいつくしまにいたるまで廿三しやとぞきこえしぶつじにはとうだいこうふくえんりやくをんじやうじをはじめとして四十二ケしよへみじゆきやうもののおつかひにはみやのさぶらひのなかにうくわんのものどもうけたまはつてひやうもんのかりぎぬにたいけんしたるものどもがひがしのちうもんよりいでてにしのちうもんへいるいろいろのみじゆきやうものぎよけんぎよいもちつづいたるありさまはめづらしかりしみものなりぶつしよのほういんにおほせてはごしとうじんの七ぶつやくしのざうならびに五だいそんのざうをつくりはじめらるにんわじのみやくじやくきやうのほふてらのちやうりこんがうどうじのほふざすのみや七ぶつやくしのほふそのほか一じきんりん五だいこくうざう五だんのほふ六じかりん八じもんじゆふげんえんめいのほふにいたるまですべてだいほふひほふのこるところなくしゆせられけりごまのけぶりはごしよちうにみちみちすずのこゑはくもをひびかししゆほふのこゑにはみのけよだつごけんじやにはばうかくしやううんりやうそうじやうしゆんげうほういんがうせん実せんりやうそうづいげのごけんじやたちねんらいしよぢのほんぞんほんじほんざんのさんばうとしごろのぎやうこふをもつておのおのそうがのくどもをあげあせをながしくろけぶりをたててもみあはれたるけいきいかなるおんもののけなりともおもてをむかふべしともみえざりけりそのほかあらはるるところのおんもののけどもをばみやうわうよりましのばくにかけてせめふせせめふせをどりくるふありさまはおそろしなんどもおろかなりほうわうはいまくまのへごかうなるべきにてごしやうじんのおついでなりければみきちやうちかうござあつてせんじゆきやうをうちあげうちあげあそばされけるにぞさしもをどりくるふおんよりましどももしばらくばくをしづめてちやうもんつかまつりけるなによりもほうわうのおほせけるおんことばこそかたじけなうはうけたまはれたとひいかなるおんもののけなりともこのおいほうしがかくてさふらはんほどはいかでかたやすくちかづきたてまつるべきただしさぬきのゐんのごりやうばかりなりそれもごつゐがうののちはおんうらみあるべしともぞんぜずそのほかつぎさまのものどもはてうおんをもつてみなひととなりたるものぞかしたとひはうしやのこころをこそぞんぜずともあにしやうげをなさんやとうとうまかりしりぞきさふらへとてによにんしやうさんしがたからんときにのぞんでじやまじやしやうしてくしのびがたからんときもこころをいたしてだいひしゆをしようじゆせばきじんたいさんしてあんらくにしやうぜんととなへさせたまひておんじゆずさらさらともませもはてさせたまはぬにごさんへいあんのみならずわうじにてぞましましけるなかにもほん三ゐのちうじやうしげひらのきやうのいまだそのころちうぐうのすけにておんまへにさふらはれけるがみすのうちよりつつといでごさんへいあんのみならずわうじごたんじやうさふらふぞやとたからかにまをされたりければほうわうをはじめたてまつつておのおののじよしゆすはいのごけんじやにいたるまで一どうにあはやとまをしあはれけるこゑごゑのはるかにもんぐわいまでもののめいてしばしはしづまりもやらざりけりにふだうしやうごくあまりのうれしさにやこゑをあげてぞなかれけるよろこびなきとはこれをまをすべきにやほうわうはいまくまのへごかうなるべきにてはるかのもんぜんにみくるまたてさせられたりければいそぎごたいしゆつありにうだうあまりのめでたさにやふじのわた千りやうおつさまにほうぢうじどのへしんじやうせらるほうわうこれおほきにむやくなりとていそぎごけんじやのうちへぞくだされけるそののちほうわうはいまくまのへごかうなる七かごさんろうのうちにごあんじちのまへにこんどほうわうの六はらにてのごけんじやのごしやうようほこりあるべしといふらくしよをぞたてたりけるいかなるあどなしもののしわざにてかありけんをかしかりしことどもなりそののちこまつどのごさんじよへまゐらせたまひきんせん九十九もんをわうじのおんまくらがみのしたにおきくはのゆみよもぎのやをもつててんち四はうをいてんをもつてはちちとさだめちをもつてはははとさだむみこころにはてんせうだいじんいりかはらせたまへごじゆみやうちやうをんはむかしのほうそとうばうさくがよはひをたもたせたまへといはひまゐらつさせたまひてやがておんほそのをきりまゐらつさせたまひけり
公卿揃(あひ)
 おんちつけにはへいだいなごんときただのきやうのきたのかたそつのすけどのぞまゐられけるさきのうだいしやうむねもりのきやうのきたのかたこそまゐらせたまふべけれどもさんぬる七ぐわつにせいきよのうへはたいしやうだいなごんりやうくわんをじしまをされてむねもりきやうはろうきよとぞきこえしあはれこんどしゆつしあらばきやうだいさうにあひならびたまひていかばかりかめでたからましむねもりのろうきよほいなかりしことどもなりさればふるきひとびとやつぼねのにようばうたちのまをしあはれけるはあはれこにようゐんだにもわたらせたまはんにはこれほどしもおんかるがるしきおんことはよもわたらせたまはじだいじやうほうわうのごけんじやじやうこにもうけたまはらずまたまつだいにもあるべしともぞんぜずこんどのごさんにめでたかりしはわうじたんじやうかたじけなかりしはほうわうのごけんじやいうなりしはこまつどののふるまひおもはざりしはにふだうしやうごくのよろこびなきほいなかりしはむねもりのろうきよまたあやうかりしことはわうじたんじやうのときはごてんのむねよりこしきをみなみへころばかすことのさふらふをひめみやたんじやうのやうにききなしてきたへむけてころばかすひとびとあれはいかにととよまれてまたからげなほしてみなみへおとしなほしたりしぞこれきたいのあやまりなるまたをかしかりしことにはかもんのかみときはるとまをすおんやうしの千どのおはらひのやくにめされてまゐりけるがしよじうなんどもほくせうなりけるにひとのおほきことはたうまちくゐのごとしひざをよこたふるにおよばねばやくにんのまゐりさふらふまゐりさふらふとてたいぜいのなかをおしわけおしわけまゐるほどにいかがはしたりけむみぎのくつをふみぬかれうつぶしてとらんとしけるをかうぶりをさへにつきおとされてそくたいただしきらうしやのもとどりはなちにてゆるぎいでたりけるにぞみなひとはらのわたをばきられけるときはるわがみのうへとはつゆしらずかかるめでたきごさんじよにいかなるけうけいのいできてさふらふやらんとてあきれてたつたりければこらへかねたるわかきひとびとはみなかんしよへいでてぞわらはれけるおんやうしはへんばいとてあしをだにもあらけなくふまずとこそうけたまはりつるにそのときはなにともおもはざりしかどものちにこそおもひあはすることどもおほかりけれこんどふさんのくぎやうにはまづさきのうたいしやうむねもりおほみやのだいなごんたかすゑ七でうのしゆりのだいぶのぶたかのきやうをさきとしていじやう十三にんとぞきこえしこのひとびとはつぎのひゑぼしひたたれにておんよろこびまをしににし八でうへまゐられけるとぞきこえしさるほどにごさんじよにまゐりこもらせたまふひとびとにはくわんぱくまつどのめうおんゐんのだいじやうだいじんもろながおほゐみかどのさだいじんつねむねつきのわのうだいじんかねざねこまつのないだいじんしげもりごとくだいじのさたいしやうさねさだげんだいなごんさだふさ三でうだいなごんさねふさとうだいなごんさねくに五でうだいなごんくにつななかのみかどのちうなごんむねいへいけのちうなごんよりもりくわざんのゐんのちうなごんかねまさべつたうただちかあぜちすけかたげんちうなごんまさよりとうちうなごんすけながごんちうなごんさねつなさゑもんのかみときたださひやうゑのかみしげのりうひやうゑのかみみつよしくわうごぐうのだいぶともかたへいさいしやうのりもりひだりのさいしやうちうじやうさねむねみぎのさいしやうちうじやうさねいへさだいべんさいしやうながかたうだいべんのさいしやうつねふさ六かくのさいしやうよりさだほりかはのさいしやういへみちしんさいしやうのちうじやうみちちかさきやうのだいぶながのり三ゐのちうじやうとももりしん三ゐのさねきよいじやう卅三にんうだいべんのほかはみなちよくいなり
頼豪
 そののちだいりにはこんどのごさんのおんいのりのきそうかうそうたちにけんしやうおこなはれけりにんわじのみやはとうじしゆざうならびに五七にちのみしゆほふたいけんのほふくわんちやうのこうぎやうあるべしとてみでしゑんりやうほうげんをほういんにきよせらるざすのみやは二ほんならびにぎうしやをまをさせたまひけるをおむろしきりにあたへ(ささへノ愆カ)まをさせたまひければみでしかくせいそうづをほういんにきよせらるむかししらかはのゐんのきさきはきやうごくのおほとののおんむすめなりしゆじやういかにもしてきさきばらにわうじあらまほしうおぼしめされければそのころみゐでらにうげんときこゆじつさうばうのあじやりらいがうをめされてなんぢきさきばらにわうじいのりいだしてまゐらせよけんしやうはこひによるべしとおほせければらうがうかしこまつてうけたまはりおんまへをついたつてみゐでらにかへりぢぶつだうにとぢこもり百にちかんたんをくだきていのりまをされたりければそのしるしにやきさきほどなうごくわいにんあつてしようはう二ねん七ぐわつ九かのひおぼしめすさまにごさんへいあんわうじごたんじやうありとかやしゆじやうなのめならずぎよかんあつてやがてらいがうをめされてごぐわんははやじやうじゆしぬさてなんぢがけんしやうはいかにとおほせければらいがうかしこまつてうけたまはりみゐでらにかいだんこんりふつかまつるべきよしをまをすしゆじやうこはいかに一かいそうじやうなんどをものぞみまをさんずるかとおぼしめされたればぞんぐわいのまをしやうかなわれわうじをまうけまゐらせてそをつがしめんとおぼしめすもただかいだいぶゐをおぼしめすゆゑなりなんぢがしよまうたつせばりやうもんかつせんしててんだいのぶつぽふことごとくほろびなんずつゆおぼしめしよらぬおんことなりとてつひにきこしめしもいれさせたまはずらいがうもつてのほかにいかれるけしきにておんまへをついたつてみゐでらにかへりぢぶつだうにとぢこもりひとへにひじににせんとぞしけるしゆじやうこのよしをつたへきこしめされてがうそつまさふさのきやうのいまだそのころみまさかのかみにておはしけるをめされてなんぢはらいがうにしだんのけいやくあんなればみゐでらにゆきむかひやうやうにこしらへてみよかしとおほせければまさふさかしこまつてうけたまはりいそぎみゐでらにゆきむかひちよくぢやうのおもむきいひふくめけるにらいがうとみにもいでやらずややあつてふすぼつたるだうぢやうのうちよりおそろしげなるこゑをもつてくんしにたはぶれのことばなしりんげんあせのごとしとこそうけたまはれまをすむねをごしよういんなからんにおいてはわがいのりいだしたてまつりたるわうじなればとりたてまつつてまだうへこそゆかんずれとてそののちはものをもまをさずまさふさのきやうおほきにおどろきいそぎだいりにかへりまゐつてこのよしをそうしまをされたりければきんちうもつてのほかにさわがせたまふほどこそありけれ十四にちとまをすにはらいがうつひにひじににこそはしたりけれそののちわうじらいがうがりやうとてつねはなやませたまひしがあるときはすずもちたるらうそうまたあるときはみづがめもちたるそうのわうじのおんまくらちかうまゐるとおぼしきときはごなういよいよおもらせたまひしがおんとし四さいとまをしししようりやく二ねん八ぐわつ六かのひつひにかくれさせたまひけりあつぶんのしんわうこれなりしゆじやうなのめならずおんなげきあつてそのころのさいきやうのざすりやうしんだいそうじやうのいまだそのころゑんゆうばうのそうづにておはしけるをめされてたまたままうけまゐらせたるわうじをうしなひたてまつりたるよしをおほせければゑんゆうばうのそうづかしこまつてうけたまはりむかしよりよよのみかどのごぐわんはわがやまにてこそとげさせたまふおんことにてはさふらへされば九でのうしようじやうもてんだいのじゑそうじやうにしだんのけいやくさふらひてこそれいぜんのゐんのごさんもへいあんにはわたらせたまひけむなれわがやまのぶつぽふさんわうのごゐくわういまにはじめぬおんことなりとていそぎとざんしてぢぶつだうにとぢこもりかんたんをくだきていのりまをされたりければそのしるしにやきさきほどなうごくわいにんあつてしようりやく三ねん十二ぐわつ廿九にちにおぼしめすさまにごさんへいあんわうじごたんじやうありとかや八さいよりみくらゐにつかせたまひございゐ廿一ねんさしもけんわうせいしゆのきこえわたらせたまひしがこれもらいかうがりやうとてをりをりなやませたまひしがおんとし廿九とまをししかしよう二ねん七ぐわつ十九にちにつひにかくれさせたまひけりほりかはのてんわうこれなりむかしもをんりやうはかくおそろしきことにのみこそまをしつたへたれさればいまのきかいがしまのしゆんくわんをもともにめしこそかへされんずらめおそろしおそろしとぞひとまをしける
大塔建立
 にふだうしやうごくのだい二のおんむすめちうぐうとてだいりにわたらせたまへばあはれきさきばらにわうじいできさせたまへかしにふだうしやうごくふうふともにぐわいそふぐわいそぼといはれてんがをわがままにせむとおもはれければひよしのやしろへ百にちまうでなんどしていのりまをされけれどもそのしるしもなかりければさらばわがあがめたてまつるあきのいつくしまへまをさんとてみとせつきまうでなんどしていのりまをされたりければそのしるしにやきさきほどなくごくわいにんあつておぼしめすさまにごさんへいあんわうじごたんじやうありとかやそもそもにふだうしやうごくのあきのいつくしまをしんじはじめられけるゆゑをいかにとまをすにそのかみいまだあきのかみたりしときとばのゐんのごぐわんかうやのだいたふこんりふあるべしとてあきすはうながと三ケこくをたまはつてかうやにのぼりだいたふこんりふ六ねんにことをへてのちきよもりおくのゐんにまゐりつやしてねんじゆせられけるにゆめうつつともわかざるにひたひには四かいのなみをたたみまゆにはしもをたれふたまたなるかせづゑにすがつたるらうそう一にんいでさせたまひきよもりにたいめんあつてややはるかにおんものがたりありわれこのやまにみつしうをひろめてとしひさしだいたふこんりふことをはつたりてんがにまたもさふらふまじさらむにとつてはゑちぜんのけひのやしろとあきのいつくしまのやしろはともにりやうかいのすゐじやくにてわたられたまふなかにもこんがうかいのすゐじやくゑちぜんのけひのやしろはめでたうさかえてましませどもたいざうかいのすゐじやくあきのいつくしまのやしろのはいゑしてひさしくなきがごとくにさふらふをこれをもまをしてしゆざうしたまへかしさだにもさふらはばごへんのくわんかかいにおいてはてんがにならぶものもあるまじきぞとてたたれければきよもりふしぎのおもひをなしひとをつけてみせられければ一ちやうばかりはみえたまひてそののちみえたまはずつかひかへつてこのよしまをしたりければきよもりたつとやまことのだいしにてましましけるぞやそのぎならばしやばせかいのおもひいでひとつせんとてだんにかへりりやうかいのまんだらをすみゑにこそうつさせられけれさいまんだらをばじやうめうほういんとまをすゑしにうつさせらるとうまんだらをばきよもりみづからかかれけるがなかにも八えふのちうぞんのはうくわんをばかうべよりちをいだしてかかれけるとぞうけたまはるきよもりみやこにのぼりゐんのごしよにまゐつてこのよしをそうしまをされたりければほうわうなのめならずぎよかんあつてさらばあきのいつくしまをもしゆざうせよやとてあきすはうながと三ケこくへまたにんをのべられけりきよもりうけたまはつていつくしまにわたりとりゐをたてかへやしろやしろをつくりあらためらる百八十けんのくわいらうことゆゑなうとげてのちきよもりみやうじんのおんまへにまゐりつやしてねんじゆせられけるにゆめうつつともわかざるにごはうでんのみとおしひらきうちより十二三ばかりなるよにうつくしきどうじ一にんいでさせたまひややなんぢてんがをばこれをもつてをさむべしとてぎんにてひるまきしたるしらえのこなぎなたをたまはるとみてうちおどろいてみたまへばすなはちまくらにぞさふらひけるきよもりやがてかぐらをまゐらせられければみやうじんないしにのりうつらせたまひてなんぢしれりやわすれりやあるひじりをもつていはせしことはただしあくぎやうあらばしそんまではかなふまじとてみやうじんあがらせたまひけりありがたかりしおんことなりおなじき十二ぐわつ十六にちにしゆじやうごさんじよへぎやうかうなるやがてくわんかうとぞきこえしおなじき廿かのひわうじしんわうのせんじをかうぶらせたまふにはこまつのないだいじんしげもりこうとぞきこえしごさんありてのちわづか卅よにちひといつしかなりとぞまをしけるひかずふればちうぐうだいりへまゐらせたまふさるほどにとしくれてぢしようも三とせになりにけり
少将の都がへり
 ぢしよう三ねんしやうぐわつ十かのひたんばのせうしやうなりつねへいはんぐわんやすよりにふだうと二にんはひぜんのくにかせのしやうをたつてみやこへとはいそがれけれどもよかんもいまだはげしくてかいじやうもいたくあれければふねのうちにてひかずをおくりきさらぎ廿かごろにぞびぜんのこじまにはつきたまひけるそれよりちにわたりありきのべつしよにたづねいりちちだいなごんどののすみたまひしところにおはしてみたまふにあやしのしづがいへなればむぐらしげりてかきをとぢまつのはつもりてのきをうづむしばひきむすぶいほのうちこのはかきしくやどなれやふるきしやうじたけのはしらにかきおきたまひしふでのすさみをみたまふになみだせきあへたまはずあんげん三ねん七ぐわつ廿かのひしゆつけおなじき廿五にちにのぶとしげかうともかかれたりさてこそげんざゑもんのじようのぶとしがまゐりたるをもしられけれそばなるかべには三ぞんらいがうたよりあり九ほんわうじやううたがひなしともかかれたりさすがこのひとこんぐじやうどののぞみもおはしけるにやとかぎりなきなげきのうちにもいささかたのもしくぞおもはれけるあはれひとののちのよまでのかたみにはしゆせきにすぎたるものあらじろてんかわかずふぜいなほおなじぬしはおはせねどもはかなきあとはうせざりけりかきおきたまはずばいかでかこれをもしるべきとてやすよりにふだうと二にんよみてはなきなきてはよみぞしたまひけるそののちはかをたづねたてまつるにひがしへ十よちやうゆきてまつのひとむらあるなかにかひがひしうだんをつきたることもなくそとば一ぽんもみえざりけるにせうしやうつちのすこしたかきところにそでかきあはせいきたるひとにむかひてものをまをすやうにかやうにこのよにもわたらせたまはずとほきおんまもりとならせたまひたるおんことをばしまにてかすかにつたへうけたまはつてはさふらへどもこころにまかせぬうきみなればいそいでまゐることもさふらはずなりつねみやこをいではるばるとやへのしほぢをこぎすぎてかかるうきしまにながされ一にちへんしながらふべしとはぞんぜざりしかどもつゆのいのちきえやらでいまめしかへさるるうれしさもさることにてはさふらへどもおなじうはいきてこのよにわたらせたまふをみまゐらせてもさふらははばこそいのちながらへたるかひもさふらはめこれまでこそいそがれつれいまよりのちはいそぐべしともおぼえずとてかきくどいてぞなかれけるまことにぞんじやうのときならばまづこだいなごんどのこそいかにやとものたまふべきにしやうをへだつるならひほどくちをしかりけるものあらじこけのしたにはたれかはこたふべきただあらしにさわぐまつのひびきばかりなりそのよはやすよりにふだうもふたりはかのまはりをぎやうだうしあけければはかにだんゆゆしうつかせつつくぎぬきしまはさせはかのまへにはかりやをうつてそうをあまたしやうじたてまつり七か七よがあひだふだんねんぶつまをさせわがみはきやうをぞかかれけるけちぐわんにはおほきなるそとばをたてくわこしやうりやうしゆつりしやうじしようだいぼだいとかきとどめねんがうぐわつぴしたにはかうしなりつねとぞかかれたる三ぜ十ぱうぶつだのしやうしゆもあはれみたまひばうこんそんれいもいかにうれしとおもはれけむとしさりとしきたれどもわすれがたきはぶいくのむかしのおんゆめのごとくまぼろしのごとしつきがたきはれんぼのいまのなみだなりさればあやしのしづやまがつのこころなきものまでもいかなるののすゑやまのおくにもこをばもつべかりけるものかなとてみななみゐてそでをぞぬらしけるそののちせうしやうはかのまへにかしこまりいましらばらくもさふらひてねんぶつのこふをもつむべうさふらへどもみやこにまつらんひとのおぼつかなくもさふらふらんにまたこそまゐりさふらはめとまうじやにいとままをしつつなくなくそこをぞたたれけるさこそはだいなごんもくさのかげにてなごりをしうやおもはれけむおなじき三ぐわつ十六にちにせうしやうとばにつきたまふだいなごんのさんざうすはまどのとてとばにありすみあらしてとしへにければついぢはあれどもおほひもなくもんはあれどもとびらなしにはにたちいりみたまへばじんせきたえてくさふかくいけのみぎはをみまはせばあきのやまのはるかぜにしらなみしきりにおりかけてしゑんはくおうせうえうすけうぜしひとのこひしさにつきせぬものはなみだなりいへはあれどもらんもんおちてしとみかうしもたえてなしここはだいなごんどののすみたまひしところこのしやうじをばかうこそありたまひしかこのとをばとこそたてたまひしかこのつまどをばかうこそいであひたまひしかこのきをばみづからこそうゑおきたまひしかなんどちちのことをことにふれてよにもなつかしげにこそのたまひけれやよひなかの六かなればはなはいまだなごりありやうばいとうりのこずゑこそをりしりがほにいろいろなれむかしのあるじはなけれどもはるをわすれぬはななれやせうしやうはなのもとにたちよつてとうりものいはずはるいくばくかくれぬえんかあとなしむかしたれかすみしふるさとのはなのものいふよなりせばいかにむかしのことをとはましこのふるきしいかをえいぜられけるにぞやすよりにふだうもそぞろになみだをながしつつすみぞめのそでをぞぬらしけるくるるほどとはおもはれけれどもなほもなごりのをしければよふくるまでこそおはしけれあれたるやどのならひにてふるきのきのいたまよりもるつきかげはくまぞなきけいろうのやまあけなんとすれどもいへぢはなほもいそがれずさてしもあるべきならねばなみだをおさへていでられけりあけければみやこよりめんめんにのりものどもとばのへんまでつかはされたりけれどもやすよりにふだうはせうしやうのおんなごりををしみたてまつつてひとつくるまにのり七でうかはらにてゆきわかれけるがたがひになごりををしみつつしばしははなれもやらざりけりまことにをしかるべしたびびとがひとむらさめのすぎゆくときいちじゆのもとにたちやどりゆきわかるるだになごりはしたふならひなりはなのもとのはんじつのかくつきのまへの一やのともだにもなごりはをしきならひなりいはんやこのひとびとはこのみとせがあひだうかりししまなみのうへふねのうちのともなれば一ごうしよかんのちぎりにてぜんせのはうえんもあさからずやおもはれけんさるほどにやすよりにふだうはひがしやまさうりんじへとてゆきければせうしやう六はらへいりたまふせうしやうのははうへりやうぜんにおはしけるがきのふよりさいしやうのもとにおはしてまたれけるがせうしやうのいりたまふをただひとめみたまひていのちだにあればとばかりにてまたひきかづきてぞなかれけるさいしやうのうちのじやうげなんによみなひとつところにさしつどひよろこびのなみだをばながしけるせうしやうのめのとの六でうがくろかりしかみもしろくなりきたのおんかたのさしもはなやかなりしおんありさまもこのみとせがあひだのつきせぬおんものおもひにやせくろませたまひてそのひとともみえたまはずまたせうしやうのながされたまひしとき三さいになられけるをさなきひともことしは五さいになられけるはるかにおとなしうなつてかみゆふばかりにぞみえられけるまたきたのかたのかたはらにみつばかりなるをさなきひとのおはしけるをせうしやうあれはいかにとのたまへばめのとのにようばうこれこそとばかりにてなみだにむせびければせうしやうまことやながされしときたいないにありしをこころもとなうみすててくだりしがさてはべちのことなうむまれそだちたることのふしぎさよどぞのたまひけるそののちせうしやうふたたびきみにめしつかへてさいしやうのちうしやうまであがられけるとぞきこえしさるほどにやすよりにふだうはひがしやまさうりんじのやどにおちついてまづとどめおきたりけるははのゆくへをとひけるにちかきあたりのひとのまをしけるはさんさふらふそれはきよねんのはるのころまではこれにおんわたりさふらひしがそれもなほひとめをつつませたまひて一でうのきたむらさきののへんにしのうでおんわたりさふらひしがおんのぼりのよしをききたまひてなのめならずよころばせたまひしがすぎにしきさらぎのころよりおんかぜのここちとやらんきこえさせたまひしがつひにむなしうならせたまひてけふははやいつかなりとぞまをしけるやすよりにふだうなみだをながしわれひぜんのかせのしやうのにてとしをおくりびぜんのありきのべつしよにてひかずをだにもおくらずばなどかいま一どははをみたてまつらざるべきさだめなきよのならひなり一しやうはこれゆめのごとしたれか百ねんのよはひをごせんばんじはみなむなしいづれかじやうぢうのおもひをなさんとえいじつつふるきのきのいたまよりもるつきかげのおぼろなるをみてなくなくよみたりけるとぞふるさとののきのいたまにこけむしておもひしほどはもらぬつきかなとくちずさみつつやがてそこにろうきよしてうかりしむかしをおもひやりはうもつしふといへるものがたりをつくりけるとぞうけたまはるあはれなりしことどもなり
蟻王が島くだり
 なかにもほつしようじのしゆきやうしゆんくわんそうづのわらはにありわうかめわうとてさふらひけるがともにしうのことをぞかなしみけるなかにもかめわうはそのおもひのつもりにやほどなうはかなくなりにけりなほもうきよにありわうはあはたぐちのへんにしのうでさふらひけるが二にんのひとびとはめしかへされてのぼりたまひぬそうづ一にんしまにとどまりたまふときこえしかばもしやととばのへんまでゆきむかうてみけるにまことに二にんのひとびとはみえたまへどもわがしうはみえたまはずひとにとへばしまにとどまりたまひぬとぞまをしけるわらははんぐわんにふだうのそばちかうたちよつてことのしさいをとひけるにやすよりにふだうしまのありさまをこまやかにかたりければいとどせんかたなくかなしくてつきせぬはなみだりわらはわれみやこにてかくものをおもはんよりしまへたづねまゐらせてまゐりかはらぬおんすがたをもいまいちどみもしみえたてまつらばやたとひまたこのよになきみとなりたまひたりともおんこつをもとりてたつときところにをさめばやとおもひければひとにはいはねどもないないはいでたちけりそうづのひめぎみのならにおはしければわらはならにくだつてひめぎみにまをしけるは二にんのひとびとはめしかへされてのぼりたまひぬかみの一にんしまにとどまらせおはしますがあまりにあさましうぞんじさふらふかなはぬまでもしまへたづねまゐらせてまゐらばやとこそぞんじさふらへおんふみやさふらふとまをしたりければひめぎみなのめならずよろこびたまひてやがておんふみあそばしてぞたうだりけるわらはひめぎみのおんふみたまはつていきながらめいどにおもむくここちしておもひければよもゆるさじとておやにもきやうだいにもしらせずしてみやこのうちをしのびつつまぎれいでさつまがたへぞおもむきけるもろこしぶねのともづなはうづきさつきにとくなればなつごろもたつをおそしとまちかねてやよひのすゑにみやこをたつてはるばるとやへのしほぢをしのぎつつさつまがたへぞくだりけるわらはさつまのちにおちついてしまへわたらんとびんせんをこへばひとあやしめいしやうをはぎとりなんどしけれどもわらはすこしもこうくわいせずひめぎみのおんふみばかりをこそひとにしられじともとゆひのなかにはいれたりけれとかくしてあきびとのふねにびんせんししまにわたつてみけるにみやこにてつたへききしはことのかずならずたもなくはたけもなくむらもなくまたさともなしたまたまあるものもこのどのひとにはにざりけりいふことをもききしらずわらはあるもののそばちかうたちよつてこれにひととせ三にんながされたまひしが二にんはめしかへされてのぼりたまひぬ一にんのこされおはしますほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづのごばうのおんゆくへやしりたまひたるととひければそうづともしゆぎやうともしつたらばこそへんじをもせめただかしらをふつてしらずとのみぞこたへけるそのなかにすこしこころえたるもののまをしけるはいざとよさやうのひとはこのへんにありしがそれもこのちかうよりはいづちへかゆきぬらんゆきがたしらずとぞまをしけるわらはさてはこのよになきひととなりたまひたるにこそとおもひければいとどせんかたなくかなしみてつきせぬものはなみだなりもしやまのかたにもやおはすらんとていまだしらぬみやまへこそわけいりけれみねによぢたににくだれどもせいらんゆめをやぶつてそのおもかげもみえずはくうんあとをうづめてゆききのみちもさだかならずなほもはまのかたのおぼつかなさにあるときのまだあしたわらははまのかたへとゆくほどにここにもとほうしなりけりとおぼしくてかみはそらざまにおひのぼりよろづのもくづとりついてひとへにやぶをいただけるがごとしみにきたるものはつぎめあらはれかはゆたえきぬぬののわけもみえぬがかたてにはなましきうををもちかたてにはあらめいそものをもつてずゐぶんさきへといそげどもはかゆかずただひとところによろよろとしてぞいできたるわらはわれみやこにておほくのこつかいにんをみつれどもかやうのものはいまだなしぢごくがき三あく四しゆはしんざんだいかいのほとりにありとほとけののべときたまふなるをしらずわれいきながらがきだうへまよひきたれるやらんとおもひやうやうあゆみゆくほどにさすがひとのすがたにみなしややものまをさうといへばなにごととこたふわらはふしぎやこれこそわがいふことをもききしつたるよとおもひそばちかうたちよつてこれにひととせ三にんながされたまひしが二にんはめしかへされてのぼりたまひぬ一にんのこされおはしますほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづのごばうのおんゆくへやしりたまひたるととひければわらはこそみわすれたりけれどもそうづはなにかはみわすれたまふべきなればいかにありわうよわれこそそれよとのたまひもあへずてにもちたまへるあらめいそものをなげすててすなごのうへにたふれふしやがてきえいりたまひけりわらはそうづをかかへたてまつつてわれみやこよりはるばるとこれまでたづねまゐらせてまゐりたるかひもなくいかにかかるうきめをばみせさせたまひさふらふやらんたとひぢやうごふにてわたらせたまひさふらふともしやうあるみこゑをもいまいちどきかさせたまへとやうやうにかなしみければそうづさすがぢやうごふならねばまたいきかへりたまひけりわらはまゐつてさふらふありわうまゐりてさふらふとまをしたりければそうづいきのしたにてのたまひけるはわれこのしまにながされてのちこひしきものどもをゆめにみるときもありまたまぼろしにたつときもありしがそれもこのちかうよりはみもよわりこころもつきはててさやうのゆめうつつをもおもひわかぬなりさればただいままたなんぢがくだりたるをもただゆめとのみこそおもへもしこのことのゆめならばさめてののちをいかがせんわらはこれはうつつにてさふらふふしぎやこのおんありさまにてもただいままでもおんいのちののびさせたまひたることのふしぎさよとまをしければそうづのたまひけるはわれこのしまにながされてのちたんばのせうしやうのしうとへいさいしやうのりもりのしよりやうひぜんのかせのしやうよりいしよくをつねはおくられしかばそのはぐくみにてありしが二にんのひとびとにわかれてのちやがていかにもなるべかりしみのたんばのせうしやうのよしなきことどもをおもひたててみやこのつてをまてなんどのたまひしほどにもしやとおろかにたのみつついままでかくてありつるなりこのしまにはひとのしよくじたえてなきところなりやまにいりてはいくらもあるゆわうといふものをとつてあきびとにあひものにかへなんどしてすぎしがそれもこのちかうよりはみもよわりちからもつきはててさやうのわざもかなはぬなりかやうにひののどかなるときはなぎさにいでたまたまこえたるつりびとにあひひざをかがめてをあはせなましきうををこひなぎさにいくらもうちよせけるあらめいそものをとつてつゆのいのちをいそのこげぢにかけたるなりさらではうきよをわたるよすがをばいかにしつるとかおもふこれにてなにごとをもいふべけれどもいざわがいへへとのたまへばわらはふしぎやあのおんありさまにてもわがいへとてもちたまひたることのふしぎさよとおもひやうやうあゆみゆけどもそうづさすがあゆみもやりたまはねばわらはがかたにひつかけてをしへにまかせてゆくほどにあるやまのふもとに二にんのひとびとのつくりおかれたりしあしやのまつのえだをはしらにしよりたけをけたうつばりにわたしまつのおちばあしのかればをうへにもしたにもひしととりかけられたりけるをこれこそわがいへよとてたちいつてふされけれどもいづくにあめかぜのたまるべしともみえざりけりわらはいとほしやこのひとのみやこにおはせしときはほつしようじのじむしきとて八十よケしょのしやうゑんをつかさどりたまひしかばむなかどひらかどのうちにしておほくのしよじうけんぞくどもにゐねうかつがうせられてこそおはせしにごふにさまざまありじゆんしやうじゆんげんじゆんごごふといへりさればこのひとのいちごのあひだもちゐたまへるところのざいはうひとへにだいがらんのじもつぶつもつならずといふことなしさればしんせむざんのことわりにこたへてこんじやうにてぜんごふをかんじたまへるかとおぼえたりそうづいまはまことにうつつなりとおもひさだめてのたまひけるはわれこのしまにながされてのち二にんのひとびとのむかひのときもいつさつをことづくるものもなしさればただいままたなんぢがくだりたるにもおとづれのなきはよくわがえんゆかりのものどもは一にんもみやこにあとをとどめぬかとのたまひければわらはさんさふらふきみにし八でうどのへおんいでののちつゐふくのくわんにんどもがまゐりむかひさふらひててんでんのごえんじやたちをここかしこにてうしなひたてまつりさふらひぬきたのおんかたばかりこそわかぎみひめぎみひきぐしまゐらつさせたまひてくらまにしのうでわたらせおはしましさふらひしがわらはつねはまゐりさふらふにわかぎみはいかにありわうよちちのわたらせたまふなるきかいがしまとかやにわれつれてゆけぐしてゆけとてまゐりさふらふたびごとにむづからせおはしましさふらひつるがこのはるせけんにわらはべのしさふらふなるもがさとやらんまをすことをせさせおはしましさふらひつるがすぎにしきさらぎ九かのひつひにむなしうならせおはしましさふらひぬきたのおんかたはひごろのおんおもひにまたこのことさへうちそひておんなげきあさからずましましさふらひつるがそれもおなじきやよひ二かのひつひにむなしうならせおはしましさふらひぬいまはひめぎみばかりこそならどのにむかへられまゐらつさせたまひておんわたりさふらへそのおんふみはさふらふとてもとゆひのなかよりとりいでてたてまつるそうづひらいてみたまへばげにもわらはがまをすにたがはずかかれたりいまははやわかにもおくれさふらひぬまたははうへにさへわかれまゐらせさふらひてたうじはならのをばごぜのおんもとにむかへられまゐらせてこそさふらへなどや二にんのひとびとはかへりのぼりたまふに一にんしまにとどまらせおはしましさふらふやらんあはれによしほどかなしかりけるものあらじわれをのこごのみならばこのわらはにぐせられてなどかおんむかへにまゐらではさふらふべきこんどはこのわらはをともにていそぎのぼらせたまへなんどぞかかれたるそうづひめはみしときよりもてもはしたなくことばつづきもおとなしけれどもただしはかないことをもかいたるものかなわれこころにまかせたるみならばなにしにかかくうきしまにひとりのこりとどまつてうきめをみんともおもふべきこんどはこのわらはをともにていそぎのぼれなんどかいたることのはかなさよひめはことしは十二か三になるかとこそおもへとのたまへばわらはもいちぢやうのおんとしをばしりまゐらせさふらはずとまをすそうづさてこのふみのところどころのもじぎえのしたるはいかにとのたまへばわらはそれはさぞおんわたりさふらふらんあのおんふみあそばすとてひとふであそばしてはうつぶしひとふであそばしてはうつぶしなのめならずむづからせおはしましさふらひつるがさてはおんなみだのかからせたまひたるらんにてはさふらふらんとまをせばそうづもなみだにむせばれけりそうづのたまひけるはわれこのしまにながされてのちはつきひのかはりゆくをもしらずはなさきもみぢてちるをもつてはるあきをしりあつきをもつてなつをわきまへさむきをもつてふゆをわきまへびやくげつこくげつのかはりゆくをもつて一つき三十にちをわきまふしづかにゆびををつてかぞふればはやみとせになるとこそおもへわれにし八でうへいでしときわれもゆかんとしたひしをやがてかへらんずるぞとてとどめおきたりしことのただいまのやうにおぼゆるぞやわかはそのとき七になりしかばことしは九にこそならんずらめおやとなりことなりふうふのちぎりをこむるもこのよひとつのことならずさればそれらがさやうになりけるをばなどゆめまぼろしにもみえざりけるぞやひとのおやのこころはやみにあらねどもこをおもふみちにまよふともいまこそおもひしられけれさればそれらをみんとおもふゆゑにこそいまいちどみやこへものぼりたかりつれそれらがさやうになりたらんにおいてはきらくのことをもおもはぬなりただしひめがことばかりなりそれもいきたるみはともかうもしてこそすごさんずらめすずりすみふでもなければへんじにはおよばぬなりしまのありさまわがことをばなんぢがみるやうにかたるべしまたひとしもこそおほきになんぢがこれまではるばるとたづねくだりたるこころざしのほどこそかへすがへすもしんべうなれまたいつまでかながらへてなんぢにうきめをもみすべきとておのづからのしよくじをとどめていつかうごせぼだいのつとめをのみしたまひけるがわらはしまにくだつて三十よにちとまをすにはそうづねぶるがごとくにてつひにはかなくなりたまふわらはあとにふしまくらにつきかなしみけれどもかひぞなきおなじくはごせのおんともつかまつりたくはさふらへどもみやこにのぼりひめぎみにこのよしまをしごぼだいをこそとぶらひまゐらせさふらはめとてこころのゆくゆくなきあきてまつのおちばあしのかれはをとりおほひもしほのけぶりとたきあげけぶりすめばこつをひろひくびにかけまたあきびとのふねにびんせんして九こくのちにこそつきにけれわらはみやこにのぼりならにくだつてそうづのゐこつをひめぎみにたてまつればむねにあてかほにあてかなしみたまへどかひぞなきすずりすみふでもさふらはねばごへんじにはおよばせたまひさふらはずなにごともおぼしめしおくおんことどもをばむねのあひだにとどめさせおはしましさふらふやらんいまはたしやうをへだてくわうごふをおくらせたまひさふらふともこんじやうにてはあひまゐらつさせたまはんことありがたしいまはごぼだいをこそとふらひまゐらつさせたまはんずれなんどまをせばひめぎみさてはとてとし十三にてさまをかへならのほつけじにおこなうてちちのごせをぞいのられけるわらはもそうづのゐこつをくびにかけかうやへのぼりおくのゐんにをさめつつれんげだににてほうしになりやまやまてらでらしゆぎやうしてしうのごせをぞいのりけるかやうにひとのおもひのつもりけるへいけのすゑこそおそろしけれ
辻風の沙汰(あひ)
 おなじき五ぐわつ十二にちのむまのこくばかりにつじかぜおびただしうふきてじんをくおほくてんだうすかぜはなかみかどきやうごくよりおこつてひつじさるをさしてふきけるにむなかどひらかどふきぬきふきぬき三ちやう五ちやうをへだてつつなげすてなげすてしけるうへはけたはしらなげしなどはこくうにあがりひはだぶきいたのたぐひはふゆのこのはのかぜにみだるるがごとしひともあまたいのちをうしなひぎうば六ちくのたぐひかずをつくしてうちころさるこれただごとにあらずとてやがてじんきくわんにてみうらありてんかのさわぎとうらなひまをすただしてうかのおんだいじにはあらずことにはろくをおもんずるだいじん百にちのうちのつつしみべつしてはへいくわくさうぞくしてききんえきれいのうれひとぞじんぎくわんおんやうれうともにうらなひまをしけるそのころこまつのないだいじんしげもりこうこのよしをききたまひてやがてくまのさんけいとぞきこえしおとどほんぐうしようじやうでんのおんまへにつやしてよもすがらけいびやくしたまひけるはちちにふだうしやうごくのていをみさふらふにあくぎやくぶだうにしてややもすればきみをなやましたてまつるしげもりそのちやうしとしてしきりにいさめをいたすといへどもみふせうのあひだかれもつてふくようせずそのうんめいをはかるにいちごのえいぐわなほあやうしなまじひにしげもりそのときにいたつてよにふちんせんことあへてりやうしんかうしのほふにあらずやしえふれんぞくしみをあらはしなをあげんことかたししかじなをのがれみをしりぞいてこんじやうのめいばうをなげすててらいせのぼだいをもとめんにはただしぼんふはくちぜひにまどへるがゆゑにこころざしをほしいままにせずねがはくはごんげんこんがうどうじしそんはんえいたえずしてつかへててうていにまじはるべくんばちちにふだうしやうごくのあくしんをやはらげててんかのあんぜんをえしめたまへもしまたえいえういちごをかぎつてこうこんはぢにおよぶべくんばまづしげもりがうんめいをつづめてらいせのくりん(イ苦患)をたすけたまへりやうケのぐぐわんひとへにみやうじよをあふぐとかんたんをくだいていのりまをされけれどもひとこれをしりたてまつらずあるよおとどのおんみよりとうろうのやうなるものいでてはつときえけるをけんしよのものどもみとがめたてまつりけれどもおそれてひとこれをまをさずおとどのごけかうのときいはたがはをわたられけるにちやくしごんのすけせうしやうこれもりなつのことなりければじやうえのしたにうすいろのきぬをきたまひてなにとなうかはのみづにたはぶれたまひけるがきぬのぬれてじやうえにうつりたるがひとへにいろのごとしちくごのかみさだよしこのよしをみとがめたてまつつてあのきんだちのめされてさふらふごじやうえのなにとやらんいまはしうみえさせたまひてさふらふいそぎめしかへらるべうもやさふらふらんとまをしたりければおとどしげもりがしよぐわんはやじやうじゆしぬとやおもはれけんあへてそのじやうえあらたむべからずとてべつしていはだがはよりよろこびのほうへいをほんぐうへこそたてられけれひとあやしとおもひたてまつりけれどもあへてそのこころをえずさればにやこのきんだちほどなくまことのいろになられけるこそふしぎなれおとどのごげかうののちいくばくのひかずをへずしておんやまひつきたまひしかばごんげんはやごなふじゆあるにこそとておのづかられうぢをもくはへられずまたきたうをもいたされずそのころにふだうしやうごくはふくはらにおはしけるがこのよしをききたまひいそぎしやうらくしたまひてまづゑつちうのぜんじもりとしをもつてのたまひつかはされけるがしよらうひびにそひてだいじなるべきよしそのきこえありこのほどそうてうよりすぐれたるめいいほんてうにわたりたるよしをきくをりふしこれをよころびとすいそぎかれをめししやうじていれうをくはへしめたまへとなりおとどよにもくるしげにてふされたりけるがやうやうにたすけおこされもりとしをおんそばちかうめしてのたまひけるはまづいれうのことかしこまつてうけたまはりぬとまをすべしただしなんぢもきけむかしえんぎのせいだいはさばかりのけんわうにてわたらせたまひたりしかどもいこくのさうにんをわうじやうのうちへいれられたりしことをばけんわうのおんあやまちまたはわがてうのはぢとこそまをしつたへたれいはゆるしげもりなんどがみとしてこのありさまにていこくのいしにまみえんこといかでかてうについてそのはばかりのあひのこらざるべきむかしかんのかうそは三じやくのつるぎをひつさげててんがををさめたまひしにあるときくわいなんのけいほをうちしときりうしにあたつてきずをかうぶるきさきりよたいこうりやういをめしてこれをみせしむるにいのいはくこのきずぢしつべしただし五十こんのきんをたまはつてぢせむとなりかうそののたまはくわれむかしまぼりのつよかりしときはおほくのやにあたりしかどもしすることをえずいまはうんすでにつきぬいのちはすなはちてんにありへんじやくといふともなにのせんかあらんしからずばまたきんををしむににたりとて五十こんのきんをいしにたうでつひにぢせられずせんげんみみにありいまもつてこれをかんしんすしげもりいやしくもきうけいにつらなり三たいにのぼるそのうんめいをはかるにもつててんしんにありなんぞてんしんをさつせずしていれうをおろかにいたはしうせんやしよしんもしぢやうごふたらばれうぢをくはふともえきなからんかしよらうまたひごふたらばれうぢをくはへずともたすかるむねさふらふべしただぢやうごふのやまひをぢするになほたへざるむねあきらけしかのきばがいじゆつをよけずしてだいかくせぞんめつどをばつだいかのほとりにとなへたまひきこれひとへにぢやうごふのやまひをぢするになほいやさざることわりをしめさんがためなりきぢするはぶつたいれうするはきばなりしかるにしげもりがみぶつたいにあらずめいいまたかのきばにおよぶべからずかの四ぶのしよをかかがみてはくれうにちやうずといふともいかでかうだいのゑしんをくれうせんたとひ五きやうのせつはつまびらかにしてしゆびやうをいやすといふともあにせんぜのごふびやうをぢせんやもしいじゆつによつてぞんめいあらばほんてうのいだうなきににたりいじゆつまたかうげんなくんばたいめんなんのせんかあらんなかんづくほんてうのだいじんほどのもののこのありさまにていこくのいしにまみえんことかつはくにのはぢかつはみちのれうし(イれうち)なりたとひしげもりがいのちはばうすといふともいかでかくにのはぢをおもふこころをぞんぜざらんやせんずるところこのむねをまをすべしとぞのたまひけるもりとしかへりまゐつてこのよしまをしたりければにふだうしやうごくもつてのほかにおどろきたまひてむかしよりおほくのだいじんはありつれどもこれほどまでくにのはぢをおもふだいじんはいまだなしくににさうおうせぬだいじんにてこのたびさだめてうせんずこはいかがせんとぞさわがれけるおなじき七ぐわつ廿七にちにおとどしゆつけしたまひてほうみやうせうくうとぞなのられけるおなじき八ぐわつついたちのひおとどつひにかうじたまひぬおんとし四十三りんじうしやうねんとぞきこえしおよそこのおとどのうせたまひけることはいつかうへいけのうんめいのすゑになるのみならずよのためもかならずあしかりなんにふだうしやうごくのさしもよこがみをやられたりしをもこのおとどこそやうやうになほしなだめられしかこはいかがせんとぞたけのひとびともさわがれけるいまはおんおととうだいしやうむねもりきやうのおんかたざまのひとばかりこそみよはさだめてたいしやうどのへぞまゐらんずらんとてよろこびあへるもおほかりけりひとのおやのこをおもふならひおろかなるがさきだつだにもおんあいのみちはかなしきぞかしいはんやこのおとどはたうけのとうりやうたうせいのけんじんにておはしければいへのすゐびといひおんあいのわかれといひかなしんでもなほあまりありおよそこのおとどはぶんしやううるはしうしてこころにちうをぞんちしてことばにとくをかねたまへりさればよにはりやうしんをうしなへることをなげきいへにはまたぶりやくのすたれぬることをかなしめり
無紋かねわたし
 およそこのおとどはみらいのことをもかねてよくさとりたまへるひとなりそのゆゑはわがてうにいかなるだいぜんごんをしたりといふともしそんあひつづいてとぶらはれんことありがたしさればいこくにいかなることをもしてわがごせとぶらはればやとおもはれければさんぬるあんげんのころほひちんぜいはかたよりめうでんとまをすせんどうをめしよせ三千五百りやうのこがねをたうでこれ五百りやうをばなんぢにたぶいま三千りやうをばそうてうにもつてわたり千りやうをばいわうざんのそうにひき二千りやうをみかどへたてまつつてでんだいをながくいわうさんへまをしよせわがごせとぶらはせよとのたまへばめうでんかけばくもかたじけなくおもひたてまつりかしこまつてうけたまはりやがてちんぜいのはかたにくだりもろこしぶねのともづなをとくほどこそありければんりのゑんらうをしのぎつつだいそうこくにぞつきにけるいわうざんのちやうらうぶつせうぜんじとくくわうにあひたてまつつてこのよしまをしたりければちやうらうおほきにずゐきかんたんしたまひてやがて千りやうをばいわんざんのてらのそうにひき二千りやうをみかどへたてまつつてにつぽんのだいふのまをさるるやうを一々にかきしるしまをされたりければみかどなのめならずぎよかんあつて五百ちやうのでんだいをながくいわうざんへぞよせられけるにつぽんのだいじんたひらのあそんしげもりこうのごじやうぜんしよといのることいまにありとぞうけたまはるおよそこのおとどはへいけのうんめいのすゑになりなんことをもかねてよりしりたまへることありそのゆゑはあるよおとどのおんゆめにべうべうたるはまをなぎさにそひてひがしへゆけばおほきなるとりゐたちたまへりいづのみしまのだいみやうじんのおんとりゐかとおぼしくてとりゐのひがしのわきにはひといく千万といふかずもしらずならびゐてただいまきりたるとおぼしきにふだうのくびをたちのさきにさしつらぬきこなたかなたへもてあつかふおとどあれはいかにとおもひたまへばこれはへいけだいじやうのにふだうどののくびをいづのくにのみしまのだいみやうじんのめしとらせたまひていづのくにのるにんさきのうひやうゑのごんのすけよりともにたまはすなりとぞまをしけるおとどさてはちちのおんことにこそとおぼしめしたちよつてみたまへばまことにちちのおんくびなりおとどこはいかにしつることぞやとていそぎとりゐのそとにたちいづるかとおぼしくてそのよのおんゆめさめにけりおとどそののちはうちもまどろみたまはずよろづこころぼそうあんじつづけておはしけるところにひがしのだいのつまどをほとほととたたくおとしけりおとどあれなにごとぞきけとてひとをいだされければびつちうのくにのぢうにんせのをのたらうかねやすがいささかまをすべきことあつてまゐつてさふらふとまをしければおとどやがていであひたいめんしたまひてこのよははるかにふけぬらんにそもなにごとぞとのたまへばかねやすおんまへのひとをのけおそばちかうまゐつてまをしけるはこんやにし八でうどのにおんとのゐまをしてさふらひつればかかるゆめをみさふらふがあまりにあさましさにそのやうをまをさんためにさてまゐりてさふらふとてただいまおとどのみたまひたるゆめにすこしもたがへずかたりければおとどしげもりもただいまかかるゆめをみつるぞとよさてはかねやすはしげもりがこころにつうずるものにこそとておほきにかんじたまひけりつぎのひのまんだあさちやくしごんのすけせうしやうこれもりさんだいのついでにおとどのおんかたにおはしたりおとどやがていであひたいめんしたまひていつよりもけふのしゆつしこそいうにみえられさふらひしかあれあれせうしやうどのにさけすすめたてまつれとのたまへばちくごのかみさだよしうけたまはつてさけをすすめたてまつるおとどこのさかづきをばまづこそまをしたうさふらへどもおやにてさふらへばたまはつてまをさんとておとど三どののちせうしやうどのにさされたりせうしやう三どののちさしおかれければおとどいまひとつとのたまへばせうしやうまたくまれけるときおとどあれあれせうしやうどのにひきでものせよとのたまへばさだよしうけたまはつてしやうぢのうちよりからにしきのふくろにいりたるたちをひとふりとりいだしせうしやうどのにたてまつるせうしやうこのたちをぬいてみたまへばたうけちやくちやくにつたはれるこがらすといふたちにもあらずおとどしきよのときそのいへをつぐぬしのはいてともすなるむもんといへるたちなりけりせうしやういまこれほどたうけよさかんなるにさだよしがこのたちをひくはいつかうだいふをじゆそしたてまつるにこそとおもはれければさだよしがかたをよにもあしげにみたまへばおとどはやこころえたまひていかにやせうしやうどのそのたちをあしうなおもひたまひそそれはにふだうどのしきよのときしげもりはいてともせんとてよういせさせてさふらへどもいまははやしげもりにふだうどのにさきだちたてまつりぬとおぼゆるあひださてそこへわたしたてまつるなりあひかまへてしげもりがなからんのちひとびとにもにくまれたまふなよまたさぶらひどもをもふびんにしたまふべしかやうにまをすやさいごのことばにてさふらはんずらんとてはらはらとなきたまへばせうしやうどのもなかれけりおんまへにさふらひけるさぶらひどももみななみだをぞながしけるただなにとなきかねごととこそおもひしにおとどほどなうかうじたまへばさてははやごりんじうをもかねてよりさとりたまへるひとにこそとおもふにもいよいよなみだぞすすみける
あひ
 にふだうしやうごくたのみきつたるだいふにはおくれたまひぬよろづこころぼそくやおもはれけむいそぎふくはらにはせくだりへいもんしてこそおはしけれ
法印問答
 おなじき十一ぐわつ七かのよのいぬのこくばかりにみやこにはだいちおびただしううごいてややひさしおんやうのかみあべのやすちかいそぎだいりにはせまゐつてそうもんしけるはただいまのだいぢしんせんもんのさすところそのつつしみかろからずなかにもたうだう三きやうのなかこんききやうのせつをみさふらふにとしをえてはとしをいでずつきをえてはつきをいでずひをえてひをいでずもつてのほかにくわきふにさふらふとてさうがんよりなみだをはらはらとながしければてんそうのひとびともいろをうしなひきみもえいりよをおどろかさせおはしますわかきくぎやうでんじやうびとやつぼねのにようばうたちはけしからぬやすちかがただいまのなきやうやさればなにごとのあるべきとてぞわらひあはれけるされどもこのやすちかはせいめい六だいのあとをうけてんもんはゑんげんをきはめずゐでうたなごころをさすがごとしいちぢもたがはざりしかばよにはひとさすのみことぞまをしけるさればうこんのばばにしていかづちのおちかかりたりしにもらいくわのためにかりぎぬのそではやけながらそのみはつつがもなかりけりじやうこにもまつだいにもありがたかりしものなりけりさるほどににふだうしやうごくはふくはらにおはしけるがおなじき十四かにす千きのぐんびやうをたなびいてしやうらくせらるときこえしかばそのころのきやうちうのじやうげあはやまたなにごとのいでこんずらんとてさわぎののしることなのめならずまたなにものかまをしいだしたりけんにふだうてうかをうらみたてまつらるべしときこえしかばてんがのひとびともみなしくわいのごとしくわんぱくどのもないないきこしめさるるむねもやありけんいそぎごさんだいあつてこんどしやうごくぜんもんじゆらくのことはひとへにもとふさをかたぶくべきけつこうとうけたまはりさふらへばいかなるうきめにかあひさふらはんずらんとまをさせたまひたりければしゆじやうそこにいかならんめをもみられんはただちんがみるにてこそあれとてりようがんにおんなみだせきあへさせたまはずまことにてんがのおんまつりごとはきみとしんとのおんはからひなるにこはいかにしつることぞやてんせうだいじんかすがのだいみやうじんのしんりよのほどもはかりがたしおなじき十五にちににふだうてうかをうらみたてまつらるべきことすでにひつぢやうときこえしかばほうわうこせうなごんにふだうしんぜいのしそくじやうけんほういんをおんつかひにてにふだうしやうごくのしゆくしよにし八でうへおほせつかはされけるはきんねんてうていしづかならずしてひとのこころもととのほらずせけんもいまだらくきよせずなりゆくことそうべつにつけてなげきおぼしめせどもさてそこにあればばんじはたのみおぼしめすにこれていにがうがうなるさまにてたとひてうかをしづむるまでのことこそなからめあまつさへこれをうらむべしなんどきこしめすはいかにほういんにし八でうにおはしてげんたいふのはんぐわんすゑさだをもつてちよくぢやうのおもむきいひいれつつごへんじをまたれけれどもあしたよりゆふべにおよぶまでにふだうぶいんなりければほういんさればこそとむやくにていそぎかへりまゐるべきよしをいひいれつついでられければにふだういかがおもはれけんあのほういんよべとてよびかへさせいであひたいめんしたまひてややほういんのごばうじやうかいがまをすところはひがごとかだいふみまかりすぎさふらへばにふだうずゐぶんひるゐをおさへてこそまかりすぎさふらへそれににふだうけふあすをもしらぬおいのなみにのぞんでかかるうきめにあひさふらふしんちうをばいかばかりとかおもひたまふごへんのこころにもすゐさつさふらへほうげんいごはらんげきうちつづいてきみやすきみこころもわたらせたまはざりしをにふだうどどのてうてきをたひらげて四かいのげきりんをしづめまゐらせさふらひきそのときもにふだうはただおほかたをとりおこなひしばかりなりまさしうだいふこそてをおろしみをくだきたるものにてもさふらへさればばんしにいつていつしやうをうることもどどなりそのほかりんじのおんだいじてうせきのせいむだいふほどのこうしんはありがたうこそさふらへここをもつていにしへをおもふにかのたうのたいそうはぎてうにおくれてかなしみのあまりにむかしのいんそうはりやうひつをゆめのうちにえいまのちんはけんしんをさめののちにうしなふといふひのもんをかいてみづからべうにたててだにこそかなしびたまひけんなれわがてうにもまのあたりみさふらひしことぞかしあきよりのみんぶきやうがせいきよしたりしをばこゐんことにおんなげきあつてやはたのぎやうかうをえんいんせられてぎよいうなかりきすべてしんかのそつすることをばよよのきみもなげきおぼしめすおんことにてこそさふらへさればおやよりもなつかしくこよりもむつまじきをばきみとしんとのおんなかとはまをしつたへたりそれにだいふがちういんにやはたへごかうなりあまつさへほうぢうじどのにしてぎよいうありおんなげきのいろいちじもこれをみずたとひだいふがちうをこそおぼしめしわすれさせたまひさふらふともにふだうがなげきをばひとたびはなどかあはれませたまはざるべきたとひにふだうがなげきをこそあはれませたまはずともだいふがちうをばいかでかおぼしめしすてさせたまふべきにふしともにえいりよにそむきぬることいまにおいてめんぼくをうしなひさふらふまづこれ一つぎにゑちぜんのくにをばししそんそんまでもごへんがいあるまじきよしのごちよくやくあつてだいふたまはりたりしをがうせいののちいくばくのひかずをへずしてやがてめしかへしてたにんにたぶことこれなんのくわたいぞやこれ一つぎにちうなごんけつのさふらひしときこんゑの二ゐのちうしやうどのしよまうさふらひしをにふだうずゐぶんとりまをしさふらひしかどもつひにごしよういんなくてくわんぱくのそくをなされしことはいかにたとひにふだうひきよをまをすともひとたびはなどかおんもちゐなかるべきいはんやゐかいといひけちやくといひりうんさうなきことなるをひきちがへられしことゐこんのしだいなりこれ一つぎにしゆんくわんなりちかいげのむようのいたづらものししのたににじやうくわくをかまへてたうけをかたぶけんとつかまつりさふらひしことまつたくこれわたくしのけいりやくにあらずただきみごきよようあるによつてなりいまめかしきまをしごとにてさふらへどもこの一もんをばいかでか七だいまでもおぼしめしすてさせたまふべきにそれににふだう七じゆんにおよんでよめいいくばくならぬいちごのうちにだにもややもすればほろぼさるべきよしのおんはからひありいはんやしそんあひついでてうかにめしつかへむことありがたしおよそおいてこをうしなふはこぼくのえだなきがごとしだいふにおくれさふらひぬるをもつてりやうけのうんめいははやおもひしられてこそさふらへこのよいまいくばくならぬにさのみこころをつひやしてもなににかはしさふらふべきさればいかていにもありなんとおもひなつてこそさふらへとてかつはふくりふしかつはらくるゐしてくどかれけるにぞほういんおそろくしくもまたあはれにてあせみづにこそなられけれほういんわがみもきんじゆのじんなりそのほかししのたににてひとびとのぎせられしことどもをもまさしうみきかれしひとなればわがみもそのにんじゆとてただいまめしやこめられんずらんとりうのひげをなでとらのををふむここちしてはおもはれけれどもほういんもさるおそろしきひとにておはしければすこしもさわがずまことにどどのごほうこうあさからずしかりとはまをせどもくわんゐといひほうろくといひおんみにとつてはことごとくまんぞくしぬこうのばくだいなることをばきみもぎよかんなるおんことにてこそさふらへつぎにきんしんことをみだりきみごきよようありといふことはいかやうにもばうしんのけうがいとおぼえさふらふおよそみみをしんじてめをうたがふはぞくのつねのへいなりせうじんのふげんをしんじててうおんのたにことなるにみだりがはしうきみをなみしまゐらつさせたまはんおんことしんりよのほどもはかりがたしそれてんしんはさうさうとしてはかりがたしといへどもえいりよさだめてそのぎにてぞさふらふらんしもとしてかみにさかふることあにじんしんのれいたらむやせんずるところこのむねをこそひろうつかまつりさふらはめとていでられければへいけのさぶらひどもらうせうなみゐたりけるがあなおそろしあれほどににふだうしやうごくのいかりたまふにすこしもさわがずへんじしてたたれけるゆゆしさよとほういんをほめぬひとこそなかりけれ
大臣流罪(あひ)
 ほういんゐんのごしよにかへりまゐつてこのよしをいちいちにそうしまをされたりければほうわうもだうりしごくしてはおぼしめされけれどもおほせいださるるむねもなしおなじき十六にちににふだうしやうごくおもひたちたまへることなればくわんぱくどのをはじめたてまつつて四十三にんのくわんしよくをとどめておひこめらるなかにもくわんばくどのをばだざいのそつにうつしてつくしへながしたてまつらるべきよしきこえしかばかからんよにはとてもかくてもありなんとておとはのへんこがといふところにてごしゆつけありことしは卅五にならせおはしますれいぎよくしろしめされてくもりなきかがみにてわたらせたまひつるものをとてよのをしみたてまつることひとへにつきひをうしなひたてまつるがごとしはいしよへおもむくひとのみちにてしゆつけしたりしをばやくそくのくにへはつかはされぬことなればはじめはひうがのくにときこえしがのちにははいしよをかへてびぜんのこふにとどめおきたてまつるだいじんるざいのれいはさだいじんそがのあかゑうだいじんとよなりさだいじんうをなこううだいしんすがはらかたじけなくもきたののてんじんのおんことなりさだいじんかうめいこうないだいじんふぢはらのいしうこうにいたるまでそのれい六にんされどもせつしやうくわんぱくるざいのれいはこれはじめとぞうけたまはる
妙音院の琵琶ひき
 なかにも六でうのせつしやうどののおんここんゑの二ゐのちうじやうどのをばにふだうおんむこにとりたてまつつてだいじんくわんぱく一どにせさせたてまつるふげんじどののおんことなりさんぬるゑんゆうゐんのぎようてんろく三ねん十一ぐわつついたちのひ一でうのせつしやうけんとくこうにわかにかくれさせたまひしかばほりかはのくわんぱくちうぎこうのおんおととほこゐんのだいにふだうどのかねいへこうのいまだそのころじゆ二ゐのちうなごんにておんはくぶれいぎこうこえかへしたてまつつてないだいじんじやう二ゐしたまひてないらんのせんじをかうぶらせたまひたりしをこそひといつしかなりしとまをししにこれはそれにはてうくわせりひさんぎ二ゐのちうしやうよりだいちうなごんをへずしてだいじんくわんぱくのおんれいめづらしかりしおんことなりだいげきのたいふしひつのさいしやうにいたるまでみなあきれたるさまなりけりなかにもめうおんゐんのだいじやうだいじんもろながをばつかさをとどめたてまつつてあづまのかたへおひくだしたてまつるこれはさんぬるほうげんにちちあくさふのごえんざによつてきやうだい四にんるざいせられたまひしにうだいしやうかねながひだんのさいしやうのちうしやうたかながはんちやうぜんじ三にんはきらくをまたずしてはいしよにてうせられぬこれはとさのはたにしてここのかへりのさいさうをおくりちやうくわん二ねん八ぐわつにめしかへされつぎのとしもとにふくしおなじき三ねんにさきのちうなごんよりごんだいなごんにあがられけりをりふしだいなごんあかざりければかずのほかにぞくははられけるだいなごんの六にんあることもこれはじめとぞうけたまはるまたさきのちうなごんよりだいなごんになることはごやましなのおとどみもりこううぢのだいなごんたかくにのきやうのほかはうけたまはりおよばずおよそこのおとどはくわんげんのみちにたつしさいげいすぐれておはしければきみもしんもおもくしたてまつつてしだいのしようしんとどこほらずだいじやうだいじんまでもたやすくへあがりたまふほどのひとのいかなるつみのむくいにかまたるざいせられたまふらんほうげんのむかしはなんかいどしうにうつされぢしようのいまはまたとうくわんをはりのくにとかやつみなくしてはいしよのつきをみんといふことをばもとよりこころあるほどのひとのこのむことなればおとどあへてことともしたまはずかのたうのだいじんひんかくはくらくてんきうがうきんのしいばにさせんせられてじんやうのかうのほとりにさすらへたまひしそのいにしへをおもひやりなるみがたしほぢはるかにゑんけんしてうらかぜにうそぶきつねはかうげつをのぞみびはをだんじわかをえいじてなほさりがてらにつきひをおくりたまひけりあるときだいじんたうごくだい三のやしろあつたのだいみやうじんにさんけいあつてびはひきらうえいしたまひけれどもところもとよりむちのぞくなればあはれをしれるものなしいううらうそんぢよぎよじんやそうかうべをうなだれみみをそばだつといへどもさらにせいだくをわかちりよりつをしれるものなしされどもこはきんをだんぜしかばぎよりんをどりほとばしりぐこううたをはつせしかばりやうぢんうごきうごくもののたへなるきよくをきはむるにはしぜんにかんをもよほすことわりにこたへてまんざなみだをながししよじんきいのおもひをなすはるかにやろうしんかうにおよんでおとどしらべひきよくをつくされけりふかうてうのうちにははなふんぶくのきをふくみりうせんのきよくのあひだにはつきせいめいのひかりをあらそふまたねがはくばこんじやうせぞくのもんじのわざきやうげんきぎよのあやまりをもつてといふらうえいしつつびはかきならしたまへばしんめいかんおうにたへずしてはうでんおほきにしんだうすへいけのあくぎやうなかりせばいかでかいまかかるずゐさうををがむべきとておとどかんるいをぞながされけるおほくらきやううきやうのだいぶけんいよのかみたかしなのやすつねさんぎくわうたいこうぐうのだいぶけんうひやうゑのかみふぢはらのみつよしくらんどのせうしやうけんちうぐうのごんのたいしんふぢはらのもとちか三くわんともにとどめらるあぜちのだいなごんすけかたくらんどのごんのせうしやうけんさぬきのかみみなもとのすけときは二のくわんをとどめらるあぜちのだいなごんすけかたことにうせうしやうまさかたをばよのほどにみやこのうちをおひいだしたてまつるべしとてしやうけいにはとうだいなごんさねくにぶしにははかせのはんぐわんのりさだまゐりむかつてこのよしまをされたりければだいなごんとるものもとりあへたまはず三がいひろしといへども五しやくのみおきどころなし一しやうほどなしといへども一にちくらしがたしとてやちうにここのへのうちをばまぎれいでやへだつくもゐのよそにぞおもむかれけるかのおほえやまやいくののみちにかかつてはじめはたんばのくにむらくものさとときこえしがのちにははいしよをかへてしなののこふとこそきこえけれ
院の流され
 なかにもあぜちのだいなごんすけかたはおよそくわんげんのみちにたつしさいげいすぐれておはしければほうわうしよじないげなうおほせあはせられけるによりてにふだうかやうにあだをむすばれけるとぞきこえしこんど四十よにんのひとびとのことにあはれけるゆゑをいかにとまをすにちうなごんのちうしやうどのとこんゑの二ゐのちうしやうどのとちうなごんごさうろんゆゑとぞきこえしさらばちうなごんのちうしやうどのばかりこそいかなるおんめにもあはせたまふべきに四十三にんのひとびとのことにあはれけるこそふしぎなれきんねんふりよなることどもあつてせじやうさわぎやまざることもこれひとへにごりやうのゆゑなりとてきよねんさぬきのゐんのごつゐがうあつてしゆとくてんわうとがうしうぢのあくさふのぞうくわんぞうゐのきこえありしかどもごりやうはいまだしづまりもやまざるにやにふだういよいよはらをすゑかねたまへりときこえしかばきやうちうのじやうげまたいかなることかいでこむずらんとてさわぎののしることなのめならずそのころさきのさせうべんゆきたかときこえしはこなかのやまのちうなごんあきたかのきやうのちやうしにて二でうゐんのおんときはべんくわんにてさもゆゆしうわたらせたまひしかどもゐんほうぎよののちはくわんとをうばはれせんとをうしなつてこの十よねんがあひだはしよじあるかなきかのていにておはしけるをにふだうゆきたかのもとへししやをたててきつとたちよられさふらへいささかのたまひあはすべきことのさふらふとのたまひつかはされたりければゆきたかこはなにごとをのたまひあはせらるべきやらんこの十よねんがあひだはしよじなにごとにもまじはらざりつるものをいかさまにもこれはざんげんするもののあるにこそとのたまへばきたのかためのとのにようばうをはじめたてまつつていへのうちにありとしあるひとみなきもたましひをうしなつてこゑをあげてぞなげかれけるさるにてもゆきたかやがてさんずべきよしのごへんじをばまをされたりけれどもぎつしやしゆつしのしやうぞくともになかりければおととのさゑもんみつたかのもとへこのよしのたまひつかはされたりければぎつしやしゆつしのしやうぞくともにゆきたかのもとへつかはさるゆきたかくるまにのりにし八でうにおはしてもんぜんにてくるまよりおりあんないをまをされたりければにふだうおもふにもにずやがていであひたいめんしたまひてこちうなごんどのとはにふだうしよじないげなうまをしうけたまはりさふらひしかばごへんとてもおろかにはおもひたてまつらずねんらいろうきよのことをもいたはしうはさふらひつれどもほうわうのごせいむなるうへちからおよびさふらはずいまはとうとうしゆつししたまふべしおほかたくわんとのことをもにふだうはからひまをすべしそのやうをまをさむとてなりベちのやうはなしはやはやかへりたまへとのたまへばゆきたかなのめならずよろこうでかへられけるににふだうあとよりげんたいふのはんぐわんすゑさだがくるまににふだうのうしかけさせしゆつしのしやうぞくともにゆきたかのもとへおくりつかはさるつぎのひのまんだあさにふだうさぞあるらむとてよねを百こくくるまにつみてゆきたかのもとへつかはさるゆきたかてのまひあしのふみどもおぼえずこはゆめかやゆめかとぞあきれたまひけるおなじき十七にちに五ゐのさふらひちうにふせられさせうべんあきときがおひこめられたるかはりにさきのさせうべんになりかへりたまひけりことしは五十一いつしかわかやぎたまふぞあはれなるこれもただへんしのえいぐわとぞみえしおなじき廿かのひのまんだあさろくはらのつはものどもほうぢうじどのの四もんをうちかこみたてまつるおよそそのせい二三千きはあるらんとぞみえしひととせのぶよりのきやうが三でうどのをなしまゐらせたるやうにごしよにもひをかけにようばうたちをもみなやきころすべしなんどきこえしかばつぼねのにようばうめのわらはものをだにもうちかづかずもんぜんにはしりいでみなちりぢりにこそなりにけれさきのうたいしやうむねもりのきやうみくるまよせていまはとうとうめさるべうさふらふとまをされたりければほうわうこはいかになしまゐらせんとはつかまつるぞしゆじやうさてましませばせいむにこうじゆするばかりなりそれもさあるまじくはさらでこそあるべきにいかでかやうにうきめをみせまゐらせむとはつかまつるぞいかさまにもこれはしゆんくわんなりちかなんどがやうにとほきくにはるかのしまへもながしうしなはむずるにこそとおほせければむねもりこのおほせうけたまはるかたじけなさにいかでかさるおんことのわたらせたまひさふらふべきしばらくよをしづめんほどとばどのへごかうなしまゐらすべきよしをにふだうはからひまをされさふらふとまをされたりければほうわうさらばおんともにひとひとりもなきにやがてなんぢおんともにさふらへかしとおほせけれどもにふだうのけんゐにはばかつてまゐらせられずほうわうあはれこだいふにはおとりたるものかなひととせもかかるおんめにあはせたまふべかりしをこまつのだいふがやうやうにまをしてこそいままでもあんおんにはわたらせたまひしかいまはさやうにいさむるもののなきあひだかくこころのままにふるまふにこそゆくすゑとてもたのもしからずさよとぞおほせけるみくるまへはおんきやうばこばかりぞいれられたるじやうどじの二ゐどののさまかへてあまぜとめされけるばかりこそみくるまへはまゐられけれおんともにはおんりきしやにこんぎやうばかりぞおほくのひとのなかにまぎれてはまゐりけるそのころのきやうちうのじやうげこのよしをみたてまつつてあはやゐんのながされさせたまふはとてみななみゐてそでをぞぬらしけるさんぬる七かのよのだいぢしんははやかかるせんべうにて十六らくしやのそこまでもこたへけんらうぢしんもさだめておどろきさわぎたまふらむとぞおぼえたるだいぜんのだいぶのぶなりがなにとしてかはまゐりたりけむおんまへちかうさふらひけるをめされてややのぶなりやゆふさりすでにうしなはるべしとこそきこしめされさふらへさらんにとつてはいま一どおんぎやうずゐをめさばやとおぼしめすはいかがあるべきとおほせければのぶなりはけさゐんのごしよをいづるよりながるるなみだもつきざるにまたこのおほせうけたまはるかたじけなさにつきせぬものはなみだなりのぶなりひたたれにたまだすきあげこしばがきこぼちおほゆかのつかばしらわりなんどしてこんぎやうにみづあげさせかたのごとくのゆをしいだしてまゐらせけりほうわうおんぎやうずゐをめしておんきやうばこよりおんきやうとりいださせたまひうちあげうちあげあそばされけるにもいまをかぎりとぞおぼしめされけるつぎのひのまんだあさじやうけんほういんにし八でうにおはしてまことやらむとばどのにひとひとりもなきよしをうけたまはりさふらふあはれおんゆるされをかうぶつてまゐらばはやとまをされければにふだうごへんはことすごすまじきひとなればとうとうとてぞゆるされけるほういんくるまにのりとばどのにまゐりもんぜんにてくるまよりおりもんをさしいりてみたまへばとばどのにはのやまのあらしはげしくしてものさびしげなるをりふしほうわうのおんきやううちあげうちあげあそばされけるおんこゑのはるかのもんのそとまでもきこえさせたまひけるにほういんおんまへちかうまゐられたりければほうわうこれをえいらんあつてあそばされけるおんきやうにおんなみだのはらはらとかからせたまへばほういんもしのびがたさにほうえのそでをかほにあてなくなくおんまへへぞまゐられけるほういんまゐられたりければあまぜののたまひけるはきみはきのふのあさ七でうどのにしてくごきこしめされたるほかはゆふべもけさもきこしめされずさらんにとつてはおんいのちもあやうくこそみえさせたまひてさふらへとまをさせたまひたりければほういんなどそれはきこしめされさふらはぬやらんへいけあくぎやうつもつてとしひさしてんせうだいじんしやう八まんぐうもきみをこそまぼりまゐらつさせたまはんずれことにはきみのしつしおぼしめすひよしさんわう廿一しや一じようしゆごのおんちかひあらたまらせたまはずばかのほつけ八ぢくにたちかけらせたまひてきみをこそしゆごしまゐらつさせたまはんずれさらんにとつてはきようとはみづのあわときえごせいむはおんはからひにこそなりまゐらつさせたまはんずれなんどやうやうにまをしたりければそののちはくごをもきこしめされけるとかやさるほどにしゆじやうはゐんのながされしんかたちのおほくながしうしなはれしひよりしてだいりにはりんじのごじんじあつてしゆじやうみづからいしばひのだんにしていせだいじんぐうをごはいありこれひとへにほうわうのいつとなくとばどのにおしこめられてわたらせたまふおんいのりのためとぞおぼえたる
あひ
 二でうゐんはてんしにぶもなしとてつねはゐんのおほせをもまをしかへさせおはしますさればそれはけいていのきみにてはわたらせたまはずこれはおなじふしのおんならひとはまをしながらおんちぎりことにふかかりければよそのたもともおさへがたし
城南の離宮
 はつかうのなかにはかうかうをもつてさきとすめいわうはかうをもつててんかををさむとみえたりさればたうげうはおいおとろへたるははをたつとみぐしゆんはかたくななるちちをうやまふとみえたりかのけんわうせいしゆのせんきをおはせおはしますえいりよのほどこそめでたけれあるときだいりよりしのびつつとばどのへぎよしよありかからんよにはくもゐにあとをとどむべしともぞんじさふらはずさればくわんぺいのむかしをたづねくわざんのいにしへをもおひさんりんるらうのみともなりぬべうこそさふらへとまをさせたまひたりければほうわうのごへんじにはさなおぼしめされそさてわたらせたまへばこそ一のたのみにてもさふらへさやうにあとなくおぼしめしたちなばなんのたのみかさふらふべきただぐらうがともかうもならんやうをごらんじはてさせたまひてこそとまをさせたまひたりければしゆじやうこのぎよしよをりようがんにおしあてさせたまひておんなみだいよいよせきあへさせたまはずきみはふねしんはみづみづよくふねをうかべみづまたふねをくつがへすしんよくきみをたもちしんまたきみをくつがへすはうげんへいぢのむかしはにふだうしやうごくきみをたもちたてまつるといへどもあんげんぢしようのいまはまたきみをなみしたてまつるこれししよのもんにたがはずおほみやのだいしやうごく三でうのないだいじんはむろのだいなごんなかのやまのちうなごんこのひとびともうせられぬいまふるきひととてはなりよりちかのりばかりなりこのひとびともかからんよにはてうにつかへみをたてだいちうなごんをへてもなににかはせむとていまだわかうさかんなつしひとのいへをいでよをのがれさいしやうにふだうなりよりはかうやのきりにまじはりみんぶきやうにふだうちかのりはをはらのしもにともなひいつかうごせぼだいのつとめのほかたじなしとぞきこえしむかしもしやうざんのくもにかくれえいせんのつきにこころをすますひともありなむときこえしかどもあにはくらんせいけつにしてよをのがれたるにあらずやなかにもかうやのおやまにおはしますさいしやうにふだうなりよりこのよしをつたへききたまひてあはれこころとうもよをのがれたるものかなかくてきくもおなじことなれどもまのあたりたちまじはつてみましかばいかばかりかこころうからましはうげんへいぢのみだれをこそあさましとおもひしにいまはよすゑになつてかかるふしぎのいでくるにやまたいかなるうきことをかみきかむずらんさればくもゐをわけてものぼりふかきやまのおくへもいりなばやとぞのたまひけるこころあらんほどのひとのあとをとどむべきよともみえざりけりおなじき廿三にちにせんざすめいうんだいそうじやうてんだいざすになりかへらせたまふぞありがたきこれもただいつかうへいけのとりまをされけるによりてなりにふだうしやうごくはくわんぱくどのむこなりちうぐうまただいりにわたらせたまへばよろづなにごともこころやすくやおもはれけんいつかうてんかのおんまつりごとはくげのごさたたるべうさふらふとまをしおきわがみはいそぎふくはらへこそくだられけれさきのうたいしやうむねもりのきやうさんだいあつてこのよしをそうしまをされたりければしゆじやうおほせなりけるはほうわうよりゆづりたうだるよならばこそせいむをもしろしめさめただしつぺいにいひあはせてたいしやうはからへとてつひにきこしめしもいれさせたまはずさるほどにほうわうはせいなんのりきうにしてふゆもなかばすぎさせたまへばあきのやまのあらしのおとのみはげしくてかんていのつきのひかりぞさやけきにはにはゆきふりつもれどもあとふみつくるひともなくいけにはつららとぢかさなつてむれゐしとりもみえざりけりおほでらのかねのこゑゐあいじのきき(イひびきを)おどろかしせいざんのゆきのいろかうろほうののぞみをもよほすよるしもにさむけききぬたのひびきかすかにおんまくらにつたひあかつきこほりをきしるくるまのあとはるかのもんぜんによこたはれりちまたをすぐるかうじんせいばのいそがはしげなるけしきうきよをわたるありさまかつかつおぼしめししられてあはれなりきうもんをまぼるばんいのよるひるけいごをつとむるもさきのよにいかなるちぎりにていまえんをむすぶらんとおぼしめすぞかたじけなきさるままにはほうわうところどころのごさんけいをりをりのごいうらんおんがのめでたかりしことどもをおぼしめしつづくるにくわいきうのおんなみだおさへがたしさるほどにとしくれてぢしようも四とせにりな(なり)にけり

平家物語(城方本・八坂系)巻第四
新院厳島御幸
ぢしよう四ねんしやうぐわつついたちのひとばどのにはぐわん三のおんあひだなりけれどもにふだうしやうごくもゆるされずほうわうもまたおほきにおそれさせおはしましければにふだうのけんゐにはばかつてさんにふするひともなくさくらまちのちうなごんしげのりおとうとさきやうのだいぶながのりこの二にんばかりぞおんゆるされをかうむつてはまゐられけるおなじき四かのひ六はらにはとうぐうのおんはかまぎならびにおんまなきこしめすなんどよにはかくめでたきことどもありしかどもほうわうはただとばどのにしておんみみのよそにぞきこしめされけるおなじき二ぐわつ十八にちにとうぐうおんとし三さいにてせんそありしゆじやうはことなるおんつつがもわたらせたまはざりしかどもおしおろしたてまつつていつしかひとしんゐんとぞまをしけるそのころのいうそくのひとびとのいつしかなるこんどのごじやうゐかなとのたまひあはれけるなかにもへいだいなごんときただのきやうばかりこそうちのおんめのとそつのすけのをつとたりしかばこのたびのごじやうゐいつしかなりとたれやのひとかまをさるべきゐこくにはしうのせいわう三さいしんのぼくてい二さいわがてうにはこんゑのゐん三さい六でうのゐん二さいこれみなきやうはうのなかにつつまれていたいをただしてせざりしかどもあるひはせつしやうおうてくらゐにつきあるひはぼこういだいててうにのぞむとみえたりごかんのくわうせうくわうていはうまれて百にちといへばせんそありせんしようわかんかくのごとしとまをされたりければひとびとあなおそろしものなまをされそさればそれはよきためしかはとぞかたぶきあはれけるとうぐうせんそありしかばにふだうしやうごくふうふともにじゆん三こうのせんじをかうぶりねんくわんねんしやくをたまはつてじやうじつのものをめしつかはるゑかきはなつけたるさふらひどもいでいつてひとへにゐんみやのごとくにてぞさふらひけるしゆつけのひとのじゆん三こうのせんじをかうぶらせたまふことはほこゐんのだいにふだうどのかねいへこうのほかはうけたまはりおよばずしゆつけののちもえいぐわはなほつきせずとこそうけたまはれおなじき三ぐわつ十九にちにしんゐんあきのいつくしまへごかうとぞきこえしていわうみくらゐをさらせたまひてのちしよしやのごかうのはじめにはあるひはやはたかもかすがなんどへこそごかうならせたまふにこれははるばるとあきのいつくしままでのごかうをいかにとまをすにしらかはのゐんはくまのへごかういちのゐんはひよしのやしろへごかうなるすでにしりぬえいりよにありといふことをごしんちうにふかきごぐわんありまたごむさうのつげありとぞおほせけるたうじあきのいつくしまをばいつかうへいけのあがめまをされければうへにはへいけにごどうしんしたにはまたほうわうのいつとなくとばどのにおしこめられてわたらせたまふそのおんいのりのおんためとぞおぼえたるおなじき三ぐわん(ぐわつ)十八にちのまんだあさしんゐんさきのうたいしやうむねもりをめしてみやうにちごかうのついでにとばどのへまゐらばやとおぼしめすはぜんもんにふれずしてはあしかりなんやとおほせければむねもりこのおほせうけたまはるかたじけなさにいかでかさるおんことのわたらせたまひさふらふべきとまをされたりければじやうわうなのめならずぎよかんあつてさらばやがてなんぢとばどのにまゐりこのよしをそうせよかしとおほせければむねもりかしこまつてうけたはまりやがてとばどのにまゐりこのよしをそうしまをされたりければほうわうもあまりにおぼしめすおんことなればこはゆめやらんとぞおほせけるおなじき三ぐわつ十九にちのあかつきがたしんゐんにふだうしやうごくのしゆくしよにし八でうをしゆつぎよなるかすみにくもるありあけのつきのひかりもおぼろにてこしぢへかへるかりがねのくもゐにおとづれゆくをきこしめすにつけてもをりふしあはれにおぼしめすぐぶのひとびとにはまづさきのうたいしやうむねもり三でうのだいなごんさねふさとうだいなごんさねくに五でうのだいなごんくにつなつちみかどのさいしやうのちうじやうみちちかたかくらのちうじやうやすみちれいぜんのせうしやうたかふさくないのせうむねのりなんどぞまゐられけるよもほのぼのとあけければじやうわうとばどのにまゐらせたまひまづもんをさしいつてえいらんあるにはるもすでにくれなんとしてなつこだちにぞなりにけるこずゑのはないろおとろへみやのうぐひすこゑおいたりひとまれにしてこぐらくものさびしげなるおんありさまをごらんぜらるるにつけてもまづおんなみだぞすすみけるきよねんのしやうぐわつ六かのひしゆじやうてうきんのおんためにほうぢうじどのへぎやうかうなりたりしにはしよゑぢんをひきしよきやうれつにたつてまんもんをひらきゐんじのくぎやうまゐりむかつてかもんれうえんだうをしきさしもただしかりしぎしきけふはいちじもなしただゆめとのみこそおぼしめせそののちさくらまちのちうなごんしげのりきやうまゐりむかつてごきそくまをされたりければじやうわういらせたまひけりほうわうはしんでんのはしがくしのまにてまちまゐらつさせたまひけりじやうわうはことし廿にならせおはしましけるがあけがたのつきのひかりにはへさせたまひてぎよくたいもことにうつくしくおんぼぎけんしゆんもんゐんにすこしもたがはせたまはずよくにまゐらつさせたまひたりければほうわうはまづこにようゐんのおんことをおぼしめしいでておんなみだにむせばせおはしますそののちりやうゐんちかうござあつてややはるかにおんものがたりありごもんだふのやうたれうけたまはるべうもなしおんまへにはあまぜばかりぞさぶらはれけるそののちはるかにひたけてのちじやうわうとばどのをたつてぞいでさせたまひけるじやうわうはほうわうのぜいなんのりきうのこていいうかんせきばくのものさびしげなるおんありさまをごらんじおかせたまへばほうわうはまたじやうわうのいつとなきりよはくわうぐうのなみのうへふねのうちのおんすまひおぼつかなくぞおぼしめすまことにそうべうやはたかもかすがなんどをばさしおかせたまひてこれははるばるといつくしままでのごかうをばしんめいもなどかかんおうなかるべきごぐわんじやうじゆうたがひなしとぞおぼえたる
源氏そろへ
 おなじき三ぐわつ廿六にちにしんゐんあきのいつくしまへごさんちやくありにふだうのさいあいのないしがしゆくしよくわうきよになるなか一りやうにちごとうりうあつてきやうゑぶがくなんどおこなはれけりこくしゆふぢはらのありつなかんぬしさへぎのかげひろざすそんえいけんじやうかうふるしんりよもうごきにふだうしやうごくのこころもさだめてはたらくらんとぞおぼえたるおなじき四ぐわつ三かのひしんゐんくわんぎよのついでにふだうしやうごくのしゆくしよふくはらのべつげふにいらせたまふにふだうのおとといけのちうなごんよりもりきやうのしゆくしよくわうきよになるおなじき四かのひいへのしやうとてぢもくおこなはれけりにふだうのやうしたんばのかみきよくにじやうげの五ゐまごにごんのすけせうしやうこれもりは四ゐのじゆじやうとぞきこえしおなじき五かのひじやうわうふくはらをたたせたまひててらゐにいらせたまひおなじき六かのひとばにつかせたまふみやこよりのおんむかへのくぎやうでんじやうびととばのくさつまでまゐられけりおなじき七かのひみやこにはしんていのごそくゐとぞきこえしごそくゐはだいごくでんにてこそとげらるべけれどもだいごくでんはひととせやけたりしかばだいじやうくわんのちやうにてとげらるべしとしよきやうごさたありけるに九でうのみぎのおとどのまをさせたまひけるはだいじやうくわんのちやうはぼんにんのいへにとつてもくもんじよていのところなり。だいごくでんなからんうへは、ししんでんにてこそとげらるべけれとて、ししんでんにてぞとげられける。さんぬるかうはう四ねん十一ぐわつに、れいぜんのゐんのごそくゐを、ししんでんにてとげられたりしは、ごじやきによりて、かしこへぎやうかうもかなはざりしゆゑなり。さればそのれいいかがあるべからん。ただご三でうのゐんの、えんきうのかれいにまかせて、だいじやうくわんのちやうにてあるべきものをと、とりどりにまをされしかども、九でうどののおんはからひのうへは、ちからおよばせたまはず。おなじき八かのひ、ちうぐうこうきでんより、じじうでんにうつらせたまひて、たかみくらへ、まゐらせたまひしおんありさま、めづらしかりしみものなり。へいけのひとびとも、みなしゆつしまをされけり。なかにもこまつどののきんだちばかりこそ、きよねんの八ぐわつに、おとどかうじたまひしかば、いまだいろにて、しゆつしもなかりけり。さきのうたいしやうむねもり、こんどのごそくゐのゐらんなく、めでたかりしことどもを、こまやかにしるして、ふくはらへまをされたりければ、にふだうどのも二ゐどのも、ゑみをふくみてぞおはしける。よにはかく、めでたきことどもありしかども、せけんはいまだらくきよせず。だいじやうほうわうのだい二のみこ、もちひとのわうとまをし、おんはははかがのだいなごんすゑなりのおんむすめ、三でうたかくらにましましければ、ひとたかくらのみやとぞまをしける。おんとし十五とまをし、しやうぐわつ十五にちに、ここのへのほか、こんゑかはらのおほみやのごしよにして、ひそかにごげんぷくあり。まさしう一ゐんだい二のみこにてわたらせたまへば、いまはたいしにもたち、みくらゐにもつかせたまふべけれども、たうじのおんぼぎけんしゆんもんゐんのおんそねみによつて、おしこめられてわたらせたまへば、はなのもとのはるのあそびには、しがうをふるつて、てづからぎよせいをかき、つきのまへのあきのえんには、ぎよくてきをふいて、みづからがいんをあやつり、かくてあかしくらさせたまふほどに、ぢしよう四ねんには、おんとし三十にならせおはします。おなじきうづき九かのひのよにいりて、げん三ゐよりまさにふだうしのびつつ、みやのおんまへにまゐり、ひそかにまをされけることこそ、なによりもおそろしけれ。まさしう一ゐんだん(だい)二のみこにてわたらせたまへば、いまはたいしにもたち、みくらゐにもつかせたまふべきひとの、いまだしんわうのせんじをだにも、かうぶらせたまはぬおんことをば、こころうしとはおぼしめされさふらはずや、うへにこそしたがふやうにさふらへども、たうじたれかへいけをそむかぬものやさふらふ、はやはやごむほんおぼしめしたたせたまひ、へいけをほろぼさせおはしましさふらへかし。またほうわうのいつとなく、とばどのにおしこめられてわたらせたまふ、そのおんいきどほりをもやすめまゐらつさせたまはんは、ごかうかうのおんいたりにてこそさふらはんずれ。さだにもさふらはば、にふだうも、こども一りやうにんもちてさふらへば、などか一ぱうのおんかためになりまゐらせではさふらふべき、そのほかりやうじをだにもたうづるほどならば、よろこびをなして、はせまゐらんずるげんじどもこそ、くにぐににおほうさふらへとて、いちいちにまをしつづく。まづきやうとには、ではのかみみつのぶがこどもに、いがのかみみつもと、ではのはんぐわんみつなが、げんはんぐわんみつしげ、ではのくわんじやみつよし、くまのには、ためよしがばつし十らうよしもりとて、しんぐうのへんにかくれゐてさふらふ。つのくにには、ただのくらんどゆきつな、ただのじらうともざね、おなじき八らうたかより、おほたのたらうたかよし、てしまのくわんじやよりもと、かはちのくにには、むさしのごんのかみよしもとにふだう、しそくいしかはのはんぐわんだいよしかね、やまとのくにには、うのの七らうちかはるがこどもに、たらうありはる、じらうなりはる、三らうきよはる、四らうよしはる、あふみのくにには、やまもと、かしはぎ、にしごりが一たう、みのをはりには、やまだのじらうしげひろ、かうべのたらうしげなほ、いづみのじらうしげみつ、うらのの四らうしげすけ、あじきのじらうしげより、そのこの四らうしげずみ、くわいでんのはんぐわんだいしげくに、きたの三らうしげなが、やしまの四らうしげとき、そのこのたらうとききよ、かひのくにには、たけたのたらうのぶよし、かがみのじらうとほみつ、そのこのこじらうながきよ、一でうのじらうただより、いたがきの三らうかねのぶ、ゐさはの五らうのぶみつ、へんみのくわんじやありよし、やすだの三らうよしさだ、しなののくにには、おほうちのたらうこれよし、きそのくわんじやよしなか、をかだのくわんじやちかよし、そのこの四らうしげよし、ひらがのくわんじやもりよし、そのこのこ四らうよしのぶ、いづのくにには、るにんさきのうひやうゑのごんのすけよりとも、ひたちのくにには、ためよしが三なん、三らうせんじやうよしのりとて、しだのうきしまにかくれゐてさふらふ、さたけのくわんじやまさよしがこどもに、たらうただよし、じらうたかよし、三らうよしすゑ、四らうよしむね、五らうよしきよ、むつのくにには、よしともがばつし、九らうくわんじやよしつねとて、これらはみな六そんわうのごべうえい、ただのまんぢうがこういんなり。
いたちの沙汰(あひ)
 むかしはげんぺいさうにあらそひて、いづれしようれつもさふらはざりしかども、いまはうんれいまじはりをへだてつつ、しうじうのれいにもなほおとれり。くにはこくしにしたがひ、しやうはりやうけのままなりければ、くじざふじにかりたてられて、よるひるやすきこころもさふらはず、かれらにりやうしをだにも、くだしたうづるほどならば、よろこびをなしてませまゐり、へいけをほろぼし、きみをみくらゐにつけまゐらせむこと、じじちはめぐらしさふらふまじと、かやうにたのもしげにまをされたりければ、みやはこのことおほきにおぼしめしわづらはせたまひけるが、そのころこあこまのだいなごんすけみつがまご、びんごのぜんじこれみつがこに、せうなごんこれながは、ならびなきさうにんなりければ、にんさうせうなごんとぞまをしける。あるときかれがみやをみたてまつつて、きみはみくらゐのさうわたらせたまふ、あひかまへててんがのおんことおぼしめしすてさせたまふべからずとまをしたりしにあはせて、三ゐにふだういままたかやうにまをされければ、これひとへにてんせうだいじんじやう八まんぐうのおんはからひにこそと、おぼしめし、まづくまのにさふらふ十らうよしもりをめして、くらんどになさる。ゆきいへとかいみやうしてりやうしをたぶ。おなじき四ぐわつ廿八にちにみやこをたつて、あふみのくによりはじめて、くにぐにのげんじどもに、つげしらせてこそとほりけれ。おなじき五ぐわつ八かのひ、いづのくににくだりつき、るにんさきのうひやうゑのごんのすけよりともに、りやうしをたてまつる。せんじやうよしのりはあになりければ、たばんとてひたちのくにへもくだりけり。きそのよしなかはをひなりければ、しらせんとて、それよりせんだうへこそかかりけれ。さるほどにほうわうは、しゆんくわんなりちかなんどがやうに、とほきくにはるかのしまへもながしうしなはんずるにこそと、おぼしめされけれども、さはなくて、ただとばどのにして、ことしはふたとせにならせおはします。おなじき五ぐわつ十二にちのとりのこくばかりに、とばどのには、おほきなるいたちのおびただしうなきて、ごしよちうをはしりければ、ほうわうおんうらかたあそばして、あふみのかみなかかねが、いまだそのころつるくらんどにて、おんまへちかうさふらひけるをめされて、これやすちかがもとにもちてゆき、きつとかむがへさせよとおほせければ、なかかねかしこまりうけたまはり、やすちかがもとにゆきむかふ。やがてかんがへてまゐらせけり。なかかねいそぎかへりまゐりけれども、よははやふけぬ。しゆごのぶしきびしうして、もんをもあけざりければ、なかかねもとよりあんないはしつたり、ついぢをのぼりこえ、おほゆかのしたをくぐつて、きりいたよりかんじやうをたてまつる。ほうわうひらいてえいらんあるに、三かがうちのおんよろこびならびにおんなげきとぞうらなひまをしける。三かがうちのおんよろこびとはなになるらんとおぼしめしければ、いつとなくとばどのに、おしこめられて、わたらせたまひたりしを、さきのうたいしやうむねもりのきやうをりふしまをされしによつて、とばどのをいだしたてまつつて、八でうからすまるなるびふくもんゐんのごしよへいれたてまつる。これぞおんよろこびなる。またおんなげきとはなになるらんとおぼしめしければ、おなじき十四かのとりのこくばかりに、たかくらのみやのごむほんといふことあらはれて、きやうちうのさうどうなのめならず、これぞおんなげきなる。さきのうたいしやうむねもりのきやうはやむまをたてて、ふくはらへこのよしをまをされたりければ、にふだうおほきにいかつて、せんずるところみやをばとりたてまつつて、とさのはたへながしたてまつるべしとて、じやうけいにはとうだいなごんさねくに、ぶしにはではのはんぐわんみつなが、げんたいふのはんぐわんかねつなをさきとして、つがふそのせい三百よきにてぞむかはれける。このげんたいふのはんぐわんかねつなとまをすは、三ゐにふだうのじなんなり。へいけかやうに三ゐにふだうみやをすすめまゐらせけるとは、ゆめにもしらざりけるによりてなり。みやは五ぐわつ十五にち、よるのくもまのつきをながめさせたまひて、なんのおんゆくへもおぼしめしよらざりつるに、ここに三ゐにふだうのつかひとて、ふみもつたるをとこひとり、いそがはしげにてまゐりたり。
信連合戦
 みやのおめのとご、六でうのすけのたいふむねのぶこれをよむ。ごむほんすでにあらはれさせたまひて、六はらよりくわんにんどもが、べつたうせんをうけたまはつて、おんむかへにまゐりさふらふ、とうとうごしよちうをいでさせたまひて、みゐでらへいらせたまふべし、にふだうもこどもらうじうひきぐして、やがてまゐらむずるさふらふとぞよみあげたる。みやはこのことおほきにおぼしめしわづらはせたまひければ、ちやうさひやうゑのじようはせべののぶつらがまをしけるは、べちのやうやさふらふべき、ただにようばうのしやうぞくをからせたまふべしとまをしたりければ、みやはかさねたるぎよいに、いちめがさをぞめされける。くろまろとまをすわらはに、つつみにものいれていただかせらる。すけのたいふむねのぶはひたたれにたまだすきあげて、からかさもつておんともつかまつる。たとへばせいしがぢよをむかへてゆくがごとくにて、たかくらおもてのこもんよりいでさせたまひ、たかくらをのぼりに、こんゑをひがしへすぎさせたまひけるに、おほきなるみぞのありけるを、いとものかるやかに、さつとこえさせたまひければ、みちゆきびとがたちとどまつて、あれはしたなのにようばうの、みぞのこえやうかなと、あやしげにみとがめまゐらせければ、みやは、いとどあしばやにこそすぎさせたまひけれ。みやはなにごとも、とりあへぬおんさまにて、さしものてうはうどもを、とりわすれさせたまひけるなかにも、せみをれこえだとて、ふたつのおんふえをつねのおんまくらにとりわすれさせたまひたりけるを、たちかへつてもとらまほしくぞおぼしめされける。さるほどにごしよのおんるすには、のぶつらいちにんさふらひけるが、みぐるしきものあらば、とりしたためんとて、ごしよちうをはしりめぐつてみけるに、このおんふえをみつけたてまつつて、あなあさまし、これはきみのさしものごひさうにて、あんなるものをとて、五ちやうがうちにて、おつつきまゐらせければ、みやなのめならずぎよかんあつて、われしなば、このふえをごくわんにいれよとぞおほせける。みややがて、なんぢもおんともにさふらへかしとおほせければ、のぶつらかしこまつてまをしけるは、あのごしよにのぶつらがさふらふことをば、きやうちうのじやうげみなぞんぢのことにてさふらふに、それもそのよは、おちてなかりけりなんどいはれむこと、ゆみやとりは、かりにもなこそをしうさふらへ、くわんにんどもにひつとあひしらひあひしらうて、一ぱううちやぶつて、やがてまゐらむずるさふらふとてはしりかへる。のぶつらがそのよのしやうぞくには、とくさのかりぎぬのしたに、もえぎのはらまきをき、ゑふのたちをぞはいたりける。三でうおもてのそうもんをも、たかくらおもてのこもんをも、ともにひらいてぞまちかけたる。あんのごとくそのよのやはんばかりに、六はらのつはものども三百よきにておしよせたり。なかにもげんたいふのはんぐわんかねつなは、ぞんずるむねありとて、はるかのもんぜんにひかへたり。ではのはんぐわんみつながはむまにのりながら、ごもんのうちにかけいり、おほにはにひかへ、あぶみふんばりつつたちあがり、だいおんじやうをあげて、みやのごむほんすでにあらはれさせたまひて、六はらよりくわんにんどもがべつたうせんをうけたまはつて、おんむかへにまゐりてさふらふ、とうとうごしよちうをいでさせたまふべしとまをしたりければ、のぶつらおほゆかにたつて、たうじはごしよにてもさふらはず、おんものまうでのおんるすにてさふらふ、なにごとぞことのしさいをまをされよといひければ、みつなが、なんでうこのごしよならではいづくにかわたらせたまふべき、そのぎならば、しもべどもまゐつてさがしたてまつれとぞまをしける。のぶつらおほきにいかつて、ものにもこころえぬくわんにんどもがもののまをしやうかな、たとひきみのてうてきとならせたまひて、いつてんがをかたきにうけさせたまはんからに、むまにのりながら、ごもんのうちへまゐるだにも、きつくわいなるに、あまさへしもべどもまゐつて、さがしたてまつれとはいかでかまをすぞ、ごぜんにはさひやうゑのじようはせべののぶつらがさふらふぞ、まぢかうよつてあやまちすなとぞまをしける。はるかのもんぜんにひかへたりける、げんたいふのはんぐわんかねつなこのよしをききて、をめいてかけいり、かねつながらうどうに、かねたけといふやつはきこゆるだいりきのがうのものなりけるが、うちもののさやをはづし、のぶつらをめにかけて、おほゆかのうへへきつてのぼる。のぶつらこのよしをみるよりも、かりぎぬのおびひぼひつきつてなげのけ、ゑぶのたちとはいへども、みをばすこしこころえてうたせたりけるを、ぬきあはせ、かたきはおほたちおほなぎがたにてふるまへども、のぶつらがゑふのたちにきりたてられて、あらしにこのはのちるやうに、にはへさつとぞおりたりける。ころはさつきもちのよの、ひとむらさめのくもまより、ありあけのつきのあらはれいでて、あかかりけるに、のぶつらはあんないしや、かたきはぶあんないなり、ここのめんらうにおつかけてははたときり、かしこのつまりにおつつめてはちやうときる。せんじのおつかひをば、いかでかくはつかまつるぞといひければ、せんじとはなんぞとて、さんざんにこそはきりたりけれ。たちゆがめばをどりのき、ふみなほしおしなほし、もみにもうでぞきつたりける。たちどころにくきやうのつはものども十四五にんぞきりふせたる。そののちたちのさき五すんばかり、うちをつてすててけり。こしのかたなをさぐりけれども、さやまきおちてなかりければ、ちからおよばずおほてをひろげ、もんぜんのかたへとゆくほどに、ここにてつかの八らうがなぎなたもつていできたり。のぶつらなぎなたにのらむととんでかかる。いかがはしたりけむ、あしうのりそんじ、ももをぬいさまにつらぬかれ、のぶつらこころはたけうすすみけれども、たいぜいのなかにとりこめられて、とりこにこそせられけれ。そののちごしよちうをさがしたてまつりけれども、みやわたらせたまはざりければ、のぶつらばかりからめとつて、六はらへこそかへられけれ。つぎのひのまんだあさ、さきのうだいしやうむねもりのきやうおほゆかにたつて、のぶつらをおつぼのうちにめしいだし、まことやわをとこは、せんじとはなんぞとてきつたるか。のぶつらさんさふらふ、このほどあのごしよを、よなよなものがうかがひさふらふを、なんでうことのあるべきとおもひあなづつて、えうじんをもつかまつりさふらはぬところに、このよのやはんばかりに、なにかはしらず、よろうたるものが参百きばかりうちいつてさふらふを、なにものぞととうてさふらへば、せんじのおつかひとなのるあひだ、たうじはせつたう、がうたう、さんぞく、かいぞくらなんどいふやつばらどもが、あるひはせんじのおつかひ、あるひはきんだちのおいでなんど、かねがねなのるとうけたまはつてさふらふあひだ、せんじとはなんぞとてきつた(イ切りたん候)さふらふ。うたいしやう、せんじのおんつかひあつこうし、ちやうのしもべにんじやうせつがい、かたがたもつてきくわいなり、さだめてみやのおんありかをば、しりまゐらせたるらん、よくよくせめとうて、そののちかはらにひきいだし、かうべをはねさふらへとぞのたまひける。のぶつらおほきにあざわらつて、せんじのおつかひあつこうし、ちやうのしもべにんじやうせつがいこともなげにさふらふや、かねよきたちだにももつてさふらはば、三百にんのくわんにんどもをば、よも一にんもあんをんにてはかへしさふらはじ、これはがうたうめらおどさんためのゑふのたちにてさふらへば、なにほどのことさふらふべき、ことごとしうとぞまをしける。そのうへみやのおんありかをばしりまゐらせずさふらふ、たとひしりまゐらせてさぶらふとも、さふらひほどのものが、まをさじとおもひきつてんずることを、きうもんにおよんでまをすべきや、みやのおんために、かうべをはねられまゐらせんこと、こんじやうのめんぼくめいどのおもひでなるべしとて、そののちはものもまをさず。へいけのさぶらひどもらうせうなみゐたりけるが、あつぱれがうのもののてほんかなと、くちぐちにほめければ、あるもののまをしけるは、あれがかうみやうは、いまにはじめぬことぞかし、かれが十六のとし、だいばんしうのとめかねたるがうたう六にんを、二でうほりかはに、ただ一にんおひかけ、四にんきりふせ、二にんをからめとつて、そのときなされたりしさひやうゑのじようぞかし、きられんことのをしさよをしさよと、くちぐちにをしみたてられて、うたいしやうもさすがをしうやおもはれけん、もしおもひなほつたらば、たうけにほうこうをもいたせかしとて、はうきのひのへぞながされける。そののちへいけほろび、げんじのよとなつて、かまくらにくだり、かぢはらへい三かげときについて、ことのこんげんをくはしうまをしたりければ、かまくらどの、みやのおんために、こころざしのふかきほどをかんじたまひて、のとのくににごおんありとぞきこえける。

 みやはたかくらをのぼりに、こんゑをひんがしへ、かはをわたつて、によいざんにかからせおはします。いつならはせたまふべきなれば、おんあしかけぬ、はれぬ、ちあえつつ、あゆみぞかねさせたまひける。なつぐさのしげみがもとのつゆけさも、さこそはおんところせくおぼしめされけめ。むかしきよみはらのてんわうの、おほとものわうじにおそれさせたまひて、やまとのくによしののやまへ、わけいらせたまひしおんことまでも、いまこそおぼしめししられけれ。しらぬやまぢにかからせたまひて、よもすがらまよはせおはします。とかくしてあかつきがた三ゐでらへいらせたまひけり。みやだいしゆにむかつて、おほせられけるは、かひなきいのちのすてがたさよ、しゆとをたのんでこれまできたれるなりとおほせければ、だいしゆかしこまつてうけたまはり、やがてほうりんゐんにごしよしつらうておきたてまつり、ぐごしたててまゐらせけり。おなじき十六にちに、こんゑがはらにさふらひけるげん三ゐよりまさにふだう、いへのこらうじうひきぐして、つがふそのせい三百よき、やかたにひかけ、みゐでらへこそまゐりけれ。としごろひごろもあればこそありけめ、いかなればことししも、三ゐにふだう、かかるむほんをおもひたたれける、ゆゑをいかにとまをすに、ごにちにきこえしは、さきのうだいしやうむねもりのきやうの、ふしぎのことをのみしたまひけり。さればひとのよにあればとて、いふまじきことをいひ、すまじきことをすることをば、かねてよくみなひとのしりよあるべきことどもなり。たとへばそのころ三ゐにふだうのちやくし、いづのかみなかつなのもとに、きこえたるめいばあり。かげなるむまのいつきばかりなるが、なをばこのしたとぞまをしける。うたいしやうこのよしをつたへききたまひて、いづのかみのもとへししやをたてて、それにきこえさふらふこのしたを、たまはつてみさふらはばやと、のたまひつかはされたりければ、いづのかみのごへんじには、さるむまをもつてさふらひつるを、このほどあまりにのりそんじて、いたはらせんがために、ゐなかへつかはしてさふらふ、やがてめしこそのぼせさふらはめと、へんじせられたりければ、うたいしやうさてはとておはしけるところに、へいけのさぶらひどもらうせうならびゐたりけるが、あるもののまをしけるは、あつぱれそのむまはをととひまでもさふらひつるものを、きのふもさふらひし、けさもにはのりさせさふらひつるものをなんど、くちぐちにまをしあはれければ、うたいしやう、さてはをしむござんなれ、にくしそのむまこへとて、あるひはさぶらひしてはせはせつ、あるひはふみなんどして、ひびに五六どなんどぞ、こはれける。ちちの三ゐにふだうどのこのよしをききたまひて、いづのかみをようでのたまひけるは、たとひこがねをもつてむまにしたりといふとも、さやうにひとのこばむを、をしむべきやうやある、はやはやそのむま六はらへつかはすべしとのたまへば、いづのかみのごへんじには、まつたうむまのをしきにてはさふらはず、ただけんゐについて、こはるるとなれば、やすからずさふらうてこそ、いままでもつかはしさふらはざりつれとて、ちからおよばず六はらへ、このむまをこそつかはされけれ。うたいしやうひきまはさせ、みるべきほどみて、むまはよきむま、ただしぬしがをしみつることこそにくけれ、やがてなのりを、かなやきにしさふらへとて、いづのかみなかつなといふかなやきをしてぞおかれたる。きやくじんきたつて、これにきこえさふらふこのしたを、たまはつてみさふらはばやとまをすときは、あのなかつなめがことさふらふか、あのなかつなめひきいだせ、なかつなめにくつわはげよ、うてはれなんどぞのたまひける。いづのかみこのよしをききたまひて、ちちの三ゐにふだうどのにまをされけるは、いつかむまをばうてとはいへども、はれとはいふ、さしもひとのみにかへてをしかりつるむまを、けんゐについて、こはるるをだにもやすからずさふらふに、けふこのごろなかつながむまゆゑに、てんかのわらはれぐさとなりさふらひぬることこそ、かへすがへすもくちをしうさふらへ、はぢをみむよりは、しにをせよとまをすことのさふらふものをなんど、やうやうにまをされたりければ、三ゐにふだうまことに、ひとにさやうにせられては、いのちいきてもなににかはせん、さりながらびんぎをうかがふみにてこそあれとて、おはしけるが、さすがわたくしにてはおもひもたたで、みやをすすめまゐらせけるとぞうけたまはる。これにつけてもあにのおとどのことをのみぞ、いまさらしのびまをしける。あるときおとどさんだいのついでに、ちうぐうのおんかたへまゐらせたまひたりけるに、いづかたよりともしらぬ、おほきなるくちなはの、おとどのおはしけるさしぬきのひだりのりんをはひまはりけるあひだ、おとどこのよしかくとまをさば、にようばうたちもさわがせたまひ、ちうぐうもさだめておどろかせたまひなんずと、おもはれければ、ひだりのてにては、くちなはのかしらをおさへ、みぎのてにては、ををおさへ、やはらなほしのそでのうちにひきいれつつ、おんまへをついたつてぞまかりいでられける。おとどちうもんにおはして、六ゐやさふらふ六ゐやさふらふとめされけれども、をりふしひと壱にんもさふらはざりけるに、いづのかみなかつなの、いまだそのころゑぶのくらんどにてさふらはれけるが、なかつなとおいらへまをしてまゐられたり。おとどこのくちなはをたぶ。なかつなたまはつて、でんじやうのこにはをへて、ゆばどのにいで、みくらのこどねりをめして、これたまはれとのたまへば、きやつかしらをふつてにげさりぬ。そののちわたなべのきほふの、たきぐちをめして、このくちなはをたぶ。たきぐちたまはつてすててんげり。つぎのひのまんだあさ、おとどよきむまにくらおかせ、たち一ふりそへて、いづのかみのもとへおくりつかはさるとて、さてもきのふのふるまひこそ、いうにみえられさふらへ、このむまはのりいちのむまなり、やいんにおよんで、ぢんげよりけいせいのもとなんどへかよはれんずるとき、もちひらるべうさふらふとのたまひつかはされたりければ、いづのかみのごへんじには、六ゐのことば、おとどのごへんじなりければ、まづおんむまかしこまつてうけたまはりさふらひぬ、さてもきのふのおんふるまひは、げんじやうらくににてさふらひしかとぞまをされける。いかなればあにのおとどはかくこそゆゆしうおはせしに、おんおとうとのむねもりは、さしもひとのをしむむまをこひとつて、てんがのだいじにおよびぬるこそあさましけれ。なかにもわたなべのきほふのたきぐちがしゆくしよは、六はらのうらかきのうちなりければ、おくればせして、とどまりたるよしを、うたいしやうききたまひて、きほふめせとてめされけり。めされてきほふまゐりたり。うたいしやうやがていであひ、たいめんしたまひて、などなんぢはさうでんのしゆ三ゐにふだうがともをばせでとどまりたるぞ、いかさまにもぞんずるむねのあるかとのたまへば、きほふさんさふらふ、ひごろはしぜんのこともさふらはば、まつさきかけて、うちじにつかまつるべうぞんじさふらひつるが、こんどはなにとおもはれさふらひてやらん、このよしかくともしらせられさふらはねば、まかりとどまりさふらふ、うたいしゃう、としごろなんぢがこのへんをいでいりつるを、あつぱれめしつかはばやとおぼしつるに、たうけにほうかうをいたせよかし、三ゐにふだうがおんには、すこしもおとるまじきぞとよ、ただしてうてき三ゐにふだうにどうしんをやすべき、またたうけにほうこうをいたさんとやおもふとのたまへば、きほふ、さんさふらふ、たとひさうでんのよしみさふらふとも、いかでかてうてきにどうしんをばつかまつりさふらふべき、ぜんあくたうけにほうこうをいたさうずるさふらふとまをしたりければ、うたいしやうなのめならずよろこびたまひていりたまふ。きほふはあるかさふらふさふらふとて、あしたよりゆふべにおよぶまでしこうす。そのひのくれがたに、きほふまをしけるは、みやならびに三ゐにふだうどの、三ゐでらにとうけたまはりさふらふが、わたなべたうには、ぞんぢやうそれがしたれがしなんどぞさふらふらん、おもふにこころにくうもさふらはず、さだめてようちなんどをもせさせられさふらはんずらむ、しぜんのこともさふらはば、えりうちなんどをもつかまつるべうぞんじさふらふが、このほどのりてようにあひぬべきむまをもつてさふらひつるを、したしきやつにぬすまれて、むま一ぴきももちさふらはず、あはれさもしかるべうさふらはば、おんむま一ぴきくだしたまはりさふらはばやとまをしたりければ、うたいしやういかにもして、あらせつけばやとおもはれければ、しろあしげなるむまのなをば、なんれう(イなんちやう)とつけて、さしもひざうせられたりけるめいばに、きんぷくりんのくらおいてぞたうだりける。きほふおんむまたまはつて、なのめならずよろこび、しゆくしよにかへり、あはれさらば、ひのとうしてくれよかし、このむまにうちのりて三ゐでらにはせまゐり、みやならびに三ゐにふだうどののまつさきかけてうちじにせんと、おもひけるこそおそろしけれ。しだいにくらうもなりしかば、さいしどもをばしのばせて、みづにちどりをおしたる、ひやうもんのひたたれに、きくとぢおほきらかにしてぞきたりける。ぢうだいのきせなが、ひをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、いかものづくりのたちをはき、廿四さいたるおほなかぐろのやおひ、ぬりごめとうのゆみもちて、たきぐちがこつはうをわすれじと、たかのはにてはいだりける、まとや一てぞさしそへたる。げにんのをのこにたてわきはさませ、やかたにひかけ、三ゐでらへこそまゐりけれ。そののち六はらには、きほふがしゆくしよより、ひいできたれりとてさうだうす。うたいしやうまづ、きほふはあるか。さふらはずとまをす。すはやきやつにだしぬかれつることこそやすからね、しやつおつかけ、いけどりにせよとのたまへば、へいけのさぶらひども、らうせうなみゐたりけるが、いやいやきほふはきこゆるだいりきのがうのものにて、つよゆみせいひやうなり、廿四のやにては、まづ廿四にんはいころされなんず、おとなせそとて、むかふものこそなかりけれ。そののち三ゐでらには、きほふがさたあつて、あつぱれこのもの一にんをば、めしぐせらるべうさふらひつるものをなんど、くちぐちにまをしあはれければ、三ゐにふだうかねてよつく、きほふがこころのそこをやしりたまひたりけむ、いたづらにそのもの、とらへからめられはよもせじ、みよたんだいまこれへまゐらうずるものをとのたまふところに、きほふつつとまゐりたり。さればこそとぞのたまひける。きほふまをしけるは、いづのかうのとののこのしたがかはりに、六はらのなんれうをこそとつてまゐりてさふらへとまをしたりければ、いづのかみなのめならずよろこびたまひて、やがてそのむまをきほふにこうて、をがみをきりすてさせ、むかしはなんれう、いまはたひらのむねもりにふだうじやうはんといふかなやきをして、おなじ十八にちのまんだあさ、六はらのそうもんのうちへおひいれられたりければ、へいけのさぶらひども、これをみつけてさうどうす。うたいしやう、こんど三ゐでらへよせたらんには、ひとをばしるべからず、まづきほふめをいけどりにせよ、のこぎりにてくびきらんずるものをとて、をどりあがりをどりあがりいかりたまへども、いまだなんれうがをがみもおひず、かなやきもまたうせざりけり。
三井寺より山門へ牒状
 さるほどに三ゐでらには、みやいらせたまひてのち、おほせきこせきほりきつて、かひがねならし、だいしゆおこつてせんぎす。きんじつせじやうのていをみるに、ぶつぽふのすゐびわうぱふのらうろうただこのときにあたれり。いまきよもりにふだうがぼあくをいましめずんば、いづれのひかくわいけいをきよめんや。しかるにたかくらのみやたうじへにふぎよのこと、これひとへにてんせうだいじん、しやう八まんぐう、しんらだいみやうじんのみやうじよにあらずや。てんじんちるゐもやうがうをたれ、ぶつりきしんりきもさだめてかうぶくをくはへたまふべし。そもそもほくれいはゑんとん一みのけうもんなり、なんとはまたげらふとくどのかいぢやうなり、てふそうのところなどかくみせざるべきとて、ならへもやまへもてふじやうをこそおくりけれ。まづさんもんへのじやうにいはく、をんじやうじてふすえんりやくじのがことにがふりよくをいたしてたうじのぶつぽふはめつをたすけられんとこふじやうみぎにふだうじやうかいがために、ぶつぽふをほろぼし、わうばふをかたぶけむとす。うちにつけほかにつけ、なげきをなしうらみをなすあひだ、しうたんきはまりなきところに、こんげつ十五にちのよ、一ゐんだい二のみこ、たかくらのみやふりよのなんをのがれむがために、ひそかににふじせしめたまふところなり。ここにゐんぜんとがうして、いだしたてまつるべきむねしきりにせめありといへども、しゆと一かうこれををしみたてまつる。よりてかのぜんもんぶしをたうじへいれんとす。たうじのぶつぽふのすゐびまさにこのときにあたれり。しよしゆなんぞしうたんせざらむや。それえんりやくをんじやうりやうじは、もんぜき二にあひわかるといへども、がくするところは、おなじくゑんとん一みのけふもんなり。たとへばとりのさうのつばさのごとし。またはくるまの二のわににたり。一ぱうかけむにおいては、いかでかそのなげきなからんやは。ことにがふりよくをかうぶつて、たうじのぶつぽふはかいをたすけらるべくんば、ねんらいのゐこんをわすれて、ぢうせんのむかしにふくせん。しゆとのせんぎかくのごとし。たいしゆらぢしよう四ねん五ぐわつのひとぞかいたりける。
三井寺より南都への牒状
 さるほどにさんもんには、このじやうをひけんして、なんぞたうじのまつじのみとして、とりのさうのつばさくるまのりやうりんなむどおさへて、かくでうらうぜきなりとて、へんてふにもおよばず。つぎになんとへのじやうにいはく、をんじやうじてふすこうふくじのがことにがふりよくをかうぶつてたうじのぶつぽふはめつをたすけられんとこふじやうみぎぶつぽふのしゆしようなることは、わうぽふによる。わうはふまたちやうきうなることも、かならずぶつぽふによる。ここにしきりのとしよりこのかた、へいしやうごくぜんもんじやうかいがためにぶつぽふをほろぼし、てうせいをみだる。うちにつけほかにつけ、なげきをなしうらみをなすあひだ、しうたんきはまりなきところに、こんげつ十五にちのよ、一ゐんだい二のみこ、たかくらのみやふりよのなんをのがれんがために、にはかににふじせしめたまふところなり。ここにゐんぜんとがうしていだしたてまつるべきむね、しきりにせめありといへども、しゆと一かうこれををしみたてまつる。よりてくわんぐんをはなちつかはさるべきむね、そのきこえあり。ぶつぽふといひわうぱふといひ、一じにまさにはめつせんとす。それたうのゑしやうてんしは、くわんぐんをおこして、ぶつぽふをほろぼさしめむとせしとき、しやうりやうせんのしゆとかつせんをいたして、これをふせぐ。いはんやむほん八ぎやくのはいにおいてをや。なかんづくなんきやうれいなくして、つみなきちやうじやをはいるせらる。このときにあらずんば、いづれのひかくわいけいをかうぶらんや。しゆとねがはくは、うちにはぶつぽふはめつをたすけ、ほかにはまたあくぎやくのはんるゐをしりぞけば、どうしんのいたり、ほんくわいにたりぬべし。しゆとのせんぎかくのごとし。ぢしよう四ねん五ぐわつのひ  だいしゆらとぞかきたりける。
南都より円城寺への返牒
 そののちなんとには、このでうをひけんして、とうだいこうふくてらでらのだいしゆ、しふゑしてせんぎす。せんぎことをはつてのち、やがてまゐるべきよしのへんてふをこそおくりけれ。そのじやうにいはく、こうふくじてふすをんじやうじのがことにらいてふいつしにのせられたりみぎさきのだいじやうだいじんたひらのあそんきよもりがために、きじのぶつぽふをほろぼさしめむとするよしのことてふす。ぎよくせんぎよくくわりやうかのしうぎをたつといへども、きんしやうきんくこれみなおなじく、一だいのけうもんよりいでたり。なかんづくなんきやうほつきやうともににて、によらいのでしたり。じじたじたがひにてうだつがましやうをふくすべし。そもそもきよもりにふだうはへいけのさうかう、ぶけのぢんかいなり。そふまさもり、くらんど五ゐのいへにめしつかへて、しよこくじゆりやうのさくをとる。おほくらきやうためふさかしうししのこけびゐしよにふし、しゆりのだいぶあきすゑはりまのたいしゆたりしむかし、みまやのべつたうしきににんず。しかるをただもりしようでんをゆるされんとせしとき、とひのらうせうほうこのかきんををしみ、ないげのえいぐわおのおのばだいのしもんになく。ただもりせいうんのつばさをかいつくろふといへども、よのためなほはくをくのたねをかろんじ、なををしむせいしそのいへにのぞむことなし。しかるにきよもりにふだう、さんぬるへいぢぐわんねん十二ぐわつに、だいじやうてんわういつせんのこうをかんじて、ふじのしやうをさづけられたまひしよりこのかた、たかくしやうごくにあがり、かねてひやうぢやうをたまはる。なんしあるひはたいくわいをかたじけなくし、あるひはうりんにつらなり、によしあるひはちうぐうしきにそなはり、あるひはじゆごうのせんをかうぶる。ぐんていそしみなきよくろにあゆみ、そのまごかのをひことごとくちくふをさく。かみきうしをとうりやうし、はくしをしんだいして、みなぬひぼくじうとなす。一もこころにたがへば、わうこうといへどこれをとらへ、へんげんみみにさかふれば、くぎやうといへどこれをからむ。しかりといへども、あるひは一たんのしんみやうをのびんがため、あるひはへんしのれうにくをまぬかれんとおもひて、ばんじようのせいしなほめんてんのこびをなして、ぢうだいのけくんかへつてしつかうのれいをいたす。よよさうでんのけりやうをうばふといへども、じやうさいもおそれてしたをまき、みやみやさうしようのしやうゑんをとるといへども、けんゐにはばかつてものいふことなし。かつにのるあまり、きよねんのふゆ十一ぐわつに、だいじやうくわうのすみかをつゐぶくして、はくろくこうのみをおしながす、ほんげきのはなはだしきことまことにこきんにたえたり。そのときわれらすべからくは、ぞくしゆにゆきむかつてそのつみをとふべきなり。しかりといへども、あるひはしんりよにあひはばかつて、わうけむをしやうじ、あるひはうつたうおさへてくわういんをおくるあひだ、かさねて一ゐんだい二のしんわうのみやをうちかこみたてまつるところに、八まん三しよかすがのだいみやうじん、ひそかにやうがうをたれ、せんひつをささげ、きじにおくりつけ、しんらのとぼそにあづけたてまつるところなり。これひとへにわうぱふつくべからざるむねあきらけし。したがつてきじしんみやうをすててしゆごしたてまつるでう、がんしきのたぐひたれかずゐきせざらむや。そのときわれらゑんゐきにあつて、そのじやうをかんずるところに、きよもりにふだうなほきようきをおこして、きじにみだれいらんとするよしのこと、ほのかにつたへうけたまはりおよぶによつて、かねてそのよういをいたす。十七にちにたいしゆにふれ、十八にちのたつの一てんにしよじにてふそうし、まつじにげぢし、ぐんしをえてのちあんないをたつせんとするところに、せいてうとびきたつてはうくわんをなげたり。すじつのうつねん、一じにかいさんす。かのたうかしやうりやういつさんのひしゆ、なほぶそうのくわんびやうをかへす。いはんやわこくなんぼくりやうもんのしゆと、いかでかぼうしんのじやるゐをはらはざらんや。よりてさうゑりやうのぢんをあはせて、よろしくわれらがしんぱつのつげをまつべし。はやくじやうをさつしてぎたいなることなかれ。しゆとのせんぎかくのごとし。ぢしよう四ねん五ぐわつのひ  だいしゆらとぞかきたりける。
大衆そろへ
 おなじき廿二にちのくれかたに、げん三ゐよりまさにふだう、みやのおんまへにまゐつて、まをされけるは、さんもんはこころがはりしぬ、なんとはいまだまゐらず、このてらばかりにては、いかにもかなひがたし、いまはみかたにらうせう二千よにんはあるらん、いざやこんや六はらへようちにせん、まづらうそうどもはによいがみねよりからめてにむかふべし、もしたいしゆあくそうどもをば、一二百にんさきだてて、しらかはのざいけにひをかけて、くだりにゆかば、きやうしらかはのはやりうのものども、あはやこといできたりとて、さだめてはせむかはんずらむ、そのときいはさかさくらもとにひつかけひつかけ、たたかはんまに、いづのかみをたいしやうとして、六はらにおしよせ、かざかみよりひをかけて、ひともみもうでせめたらんに、などかだいじやうのにふだうやきいだしうたざるべきとぞまをされける。ここにへいけのいのりしける、一によばうのあじやりしんかいといへるものあり。せんぎのにはにすすみいで、かうまをせばへいけのかたうどするとやおぼしめされさふらふらん、それはさもさふらふべし、いかでかわがてらのはぢをおもひ、もんとのなをもをしまではさふらふべき、いくさはせいにはよらず、はかりごとによると、むかしよりまをしつたへてさふらへば、よくよくごえうじんあつてよせさせたまふべしと、わざわざよをふかさんがために、さしもなきことをながながとぞせんぎしける。ここにじようゑんばうのあじやりきやうしうは、もしやうぞくにかしらつつみ、おほきなるうちかたなおしくつろげてさすままに、せんぎのにはにすすみいで、しようこをほかにひくべからず、わがてらのほんぐわん、きよみはらのてんわう、おほとものわうじにおそれさせたまひて、やまとのくによしののやまへわけいらせたまひしとき、そのせいわづかに十七き、されどもいがいせにいで、みのをはりのおんせいをもつて、おほとものわうじをほろぼし、つひにみくらゐにつかせたまふ。きうてうふところにいり、じんりんこれをあはれぶといふほんもんあり、じよをばしるべからず、きやうしうがもんとにおいては、こんや六はらにおしよせてうちじにせよやとぞまをしける。ゑんまんゐんのたいふげんかくすすみいでて、せんぎはしおほし、いそげやすすめ、よのふくるにとぞまをしける。まづによいがみねへむかふらうそうどものたいしやうぐんには、げん三みにふだう、じようゑんばうのあじやりきやうしう、りつざうばうのあじやりにちいん、そつのほうげんぜんちがでしぎはう、ぜんやうをさきとして、つがふそのせい六百よにん、かぶとのををしめてぞうつたちける。まつさかよりむかふあくそうどものたいしやうぐんには、ゑんまんゐんのたいふげんかく、りつざうばうのいがのきみ、ほふりんゐんのおにとさ、かれら三にんは、うちものとつてはおににもかみにもあはむといふ、一にんたうせんのつはものなり。びやうどうゐんにはいなばのりつしやがうたいふ、じやうきゐんのあらさど、すみの六らうばう、つつゐほうしにきやうのきみ、あくせうなごん、きたのゐんには、こんくわうゐんのろくてんぐ、たいふ、しきぶ、のと、かが、さど、びんごらなり。かやのちくご、おほやのしゆんちやう、ひのをのぢやうおん、四らうばう、まつゐのひご、五ちゐんのたじま、じようゑんばうのあじやりきやうしうがばうに、六十にんがうち、かがのくわうじよう、ぎやうぶ、しゆんしう、ほうしばらには、一らいほうしぞすすんだる。だうしゆにはつつゐのじやうめうめいしゆん、をぐらのそんげつ、そんえい、ぢけい、らくぢう、かなこぶしのげんえいばう、ぶしにはいづのかみなかつな、げんだいふのはんぐわんかねつな、六でうのくらんどなかいへ、そのこくらんどたらうなかみつ、しもかうべのとう三らうきよちか、わたなべたうにははぶく、はりまのじらうさづく、さつまのひやうゑのじよう、きほふのたきぐち、ちやう七、となふ、あたふのうまのじよう、きよし、すすむ、さわぐ、むつる、つづくのげんだをさきとして、つがふそのせい一千よにん、てんでにたいまつをぞもつたりける。さるほどにみゐでらには、みやいらせたまひてのち、おほぜきこせきほりきつて、さかもぎゆひふさぎたりければ、ほりにはしわたし、さかもぎのけむとしけるまに、じこくおしうつつて、せきのにはとりことごとくなきあひぬ。いづのかみこのよしをききたまひて、ここにてとりないては、六はらへははくちうにこそよせんずらめ、こはいかがせんとのたまふところに、ゑんまんゐんのたいふげんかく、しばしとよ、いこくにさるためしあり、かんのせうわうのおんとき、まうしやうくんいましめをかうぶり、めしこめられしに、はかりごとをもつて、にげまぬかれむとせしとき、かんこくのせきにいたる。かのせきのならひにて、にはとりのなかざるほどは、せきのとあけてとほすことなし。まうしやうくん三千のかくのうちに、てんかつといへるつはものあり。あまりににはとりのなくまねをよくしければ、ひとけいめいとぞまをしける。いまだうしのこくばかりのことなりけるに、てんかつたかきところにはしりのぼり、いむけのそでを二三どほととうちたたき、にはとりのなくまねをゆゆしくしたりければ、せきのにはとりききつけてなきあひぬ。とりのそらねにばかされて、せきのとあけてとほすことあり。これもさだめてかたきのはかりごとにてもやなかすらん、ただよせばやといひけれども、さつきのみじかよなりければ、よはほのぼのとぞあけにける。いづのかみ、ようちにはさりともとこそおもひしに、ひるいくさにてはいかにもかなふまじ、さらばてどもをよびかへせやとて、おほてはまつざかよりとつてかへし、からめてはによいがみねよりひつかへす。いづのかみのたまひけるは、せんずるところこれは、一によばうがながせんぎによつてこそよはあけたれ、にくにくしそのばうきれとて、ばうにおしよせさんざんにこそせめたりけれ。ふせぐところのでしどうしゆく十よにんうちころさる。いちによばうもいたでおうて、はふはふ六はらにまゐり、このよしをまをしたりけれども、へいけはいとさわぐけしきもましまさず。おなじき廿三にちのまんだあさ、げん三ゐよりまさにふだう、みやのおんまへにまゐつてまをされけるは、ようちには、さりともとこそぞんじさふらひつるに、ひるいくさにてはいかにもかなひさふらふまじ、いまはなんとへいらせたまふべうもやさふらふらんとまをされたりければ、みやも、いまはのときにもなりしかば、よろづおんこころぼそくやおぼしめされけん、せみをれこえだとて、ふたつのおんふえを、さしもごひさうありけるを、なかにもせみをれをば、こんだうのみろくにこめまゐらつさせたまひけり。そもそもこのおんふえとまをしたてまつるは、とばのゐんのおんとき、そうてうのみかどへ、こがねを千りやうおくらせおはしましたりければ、そのごへんぱうかとおぼしくて、しやうじんのせみのごとくに、ふしつきたりけるかんちくを、ひとよおくらせおはしましたりければ、みかどなのめならずぎよかんあつて、わがてうにるゐあるべからず、ちようはうをいかでかただはえらせらるべきとて、だいなごんのほういんかくそうにおほせて、だんじやうにたてしちにちかぢして、ゑらせられたりしおんふえなり。さればおぼろけのぎよいうには、とりもいだされざりけるを、あるときのぎよいうに、たかまつのちうなごんさねいへのきやううけたまはつて、このおんふえをふかれけるに、ただよのつねのふえのやうにこころえて、とりわすれてひざよりしもにおかれたりければ、ふえやとがめけむ、せみをれにけり。それよりしてこそせみをれとはなづけられけれ。しかるを、このみやのつたはらせたまひて、いつのよまでもおんみをはなたじとこそおぼしめされけれども、りうげのあかつき、ちぐのおんためにとおぼえて、あはれなりしおんことなり。なかにもじようゑんばうのあじやりきやうしうは、はとのつゑにすがり、みやのおんまへにまゐつてまをしけるは、いづくのうらわまでも、おんともつかまつるべうぞんじさふらへども、七じゆんにあまりぎやうぶもかなひがたうてさふらへば、でしにてさふらふぎやうぶしゆんしうをまゐらせさふらふ、このしゆんしうとまをすは、とうごくさがみのくにのぢうにん、やまだのすどうぎやうぶのじようとしみちがこにてさふらふなり、ちちのぎやうぶのじようは、さんぬるへいぢによしともにつれて、六でうかはらにてうちじにつかまつりさふらひぬ、このしゆんしうはきやうしうにいささかゆかりあるによつて、えうせうよりあとふところにおほしそだててさふらへば、こころのおくまでも、よくぞんじしつてさふらふ、いづくのうらわまでもめしぐせらるべうさふらふと、なみだもせきあへずまをしたりければ、みやもまたいつのよしみにか、かくはまをすらめとて、おんなみだにむせばせおはします。これをはじめとして、らうそうどもはみないとままをして、まかりとどまりさふらふあくそうどもは、みなおんともにぞさふらひける。みやのおんせいわづかに一千よにんにはすぎざりけり。みやは、いつかおんむまにもめしもならはせたまふべきなれば、てらとうぢとのあひだにて、六ケどまでごらくばあり。これはさんぬるよ、うちとけぎよしんもならざりつるゆゑなりとて、うぢのびやうどうゐんへいれたてまつり、しばらくこれにてごきうそくあり。
橋合戦
 さるほどに三ゐにふだうなかつないげのぶしどもは、うぢばしのなか三げんひかせてかいだてにかき、むまひやさせ、くらがひおこなひなんどしけるほどに、へいけのかたには、このよしをききて、あはやたかくらのみやこそ、なんとへおもむかせたまふなれ、にくにくしそのぎならば、おつかけてうちたてまつれやとて、たいしやうぐんにはにふだうの三なんさひやうゑのかみとももり、をひにちうぐうのすけみちもり、おとうとにさつまのかみただのり、さぶらひたいしやうには、かづさのかみただきよ、ちやくしたらうはんぐわんただつな、ひだのかみかげいへ、そのこたいふのはんぐわんかげたか、ゑつちうのぜんじもりとし、じらうびやうゑもりつぎ、むさしの三らうさゑもんありくにをさきとして、つがふそのせい三万よき、ぢしよう四ねん五ぐわつ廿三にちのむまのこくばかりに、こばたやまをうちこえて、うぢばしのつめにぞおしよせたる。むかひのびやうどうゐんに、かたきありとみてんげれば、へいけのさぶらひども、えびらのほうたてうちたたき、てんもひびき、だいちもゆるぐばかりに、ときつくること三ケどなり。へいけのさぶらひどもあまりにいさみほこつてわたるほどに、せんぢんがはしをひいたぞ、あやまちすな、はしをひいたぞ、あやまちすなと、いひけれども、ちかきものこそききつけけれ、ごぢんはこれをききつけず、ただおしにおしてわたるほどに、せんぢん二百よきおしおとされ、みづにおぼれてながれけり。そののちげんぺいたがひに、はしのさうのつめにうつたつてやあはせす。げんじのかたには、わたなべたうのいけるやぞ、ものにはつよくとほりける。三ゐにふだうは、ちやうけんのひたたれに、しなかはをどしのよろひをき、ゆみをつよくひかんとて、わざとかぶとはきたまはず。ちやくしいづのかみなかつなは、こんぢのにしきのひたたれに、くろいとをどしのよろひをき、けふをさいごとたたかはんとて、これもかぶとはきざりけり。五ちゐんのたじまは、もくらんぢのひたたれに、ひをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、しらえのおほなぎなたのさやをはづし、はしのつめにすすみいで、むかひのきしより、さしつめひきつめさんざんにいけるやの、あがるやをばついくぐり、さがるやをばをどりこえ、むかうてくるやをば、なぎなたにてきつておとす。しよにんめをすます。それよりしてぞ、やぎりのたじまとはまをしける。つつゐのじやうめうめいしゆんは、かちのひたたれに、くろかはをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、いかものづくりのたちをはき、廿四さいたるおほなかぐろのやおひ、ぬりごめどうのゆみに、このむしらえのおほなぎなたをぞとりそへたる。はしのつめにすすみいで、だいおんじやうをあげて、ものそのものにてはなけれども、みやのおんかたに、つつゐのじやうめうめいしゆんとて、をんじやうじにおいては、そのかくれなし、へいけのかたに、われとおもはむずるひとびとは、すすめやむかへ、げんざんせんとて、やたばねといて、おしくつろげさしつめひきつめさんざんにいけるに、やにはにかたき十二きいおとし、十一きにておはせたれば、ひとつはのこつてえびらにあり。いまはゆみをもからとなげすて、えびらをもといてかはへなげいれ、つらぬきぬいて、はだしになり、かぶとのををつようしめける。かたきみかたあれはいかにとみるところに、はしのゆきけたを、さらさらとはしりわたる。ひとはおそれてわたらぬを、じやうめうがここちには、ただ一でう二でうのおほぢとこそはふるまひけれ。まづむかふかたきをば、なぎなたにて四にんなぎ、五にんにあたるとき、なぎなたうちをつてすててけり。つぎにたちをぬいてきりけるが、三にんきりふせ、四にんにあたるとき、あまりかぶとのはちにつよううちあて、めぬきのもとよりちやうとをれ、ぐつとぬけて、かはへざんぶとぞいれにける。たのむところはこしがたな、ひとへにしなんとのみぞくるひける。ここにじようゑんばうのあじやりきやうしがうしもぼうしに、いちらいほうしとて、しやうねん十八さいになりけるが、もくらんぢのひたたれにもえぎのはらまきをき、三まいかぶとのををしめ、うちものぬいてかたになげかけ、これもはしのゆきけたを、さらさらとはしりわたり、じやうめうはたつたり、よくべきやうはなかりけり。ここをせんどとたたかひけるじやうめうが、かぶとのてつさきにてうちかけ、あしうさふらふじやうめうばうとて、かたをゆらりとをどりこえてぞたたかひける。じやうめうはいちらいをうたせじとつづく、いちらいはまたかたきのなかにわつていり、さんざんにたたかひ、ぶんどりあまたして、わがみもうちじにしてんげり。そのまにじやうめうは、はしのゆきけたを、はふはふびやうどうゐんのしばにかへり、もののぐぬきおき、よろひにたつたるやめをかぞふれば六十三、うらかくやは五ところなり。されどもいたでならねば、かしらをつつみ、じやうえをき、ゆみきりをつてつゑにつき、あみだぶまをしてなんとのかたへぞまかりける。そののちじようめうがわたつたるをてほんにして、かたきみかたはしのゆきけたをはしりわたりはしりわたりしようぶをす。とほきをばゆみにてい、ちかきをばたちにてきり、くまでにかけてとるもあり、とらるるもあり、ひきくんでさしちがへてかはへいるものもあり、はしのうへのいくさ、ひいづるほどにぞみえたりける。さぶらひたいしやうかづさのかみただきよ、たいしやうぐんのおんまへにまゐつてまをしけるは、いまはかはをわたさんずるにてさふらふが、をりふしさみだれのころにて、みかさはるかにまさりたり、さればよどいもあらひかはちぢへやまゐりさふらふべきとまをしけるところに、ここにしもつけのくにのぢうにん、あしかがのたらうとしつながこに、またたらうただつなとて、しやうねん十七さいなりけるが、しげめゆひのひたたれに、もえぎをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、あししろのたちをはき、廿四さいたるきりふのやおひ、しげどうのゆみもつて、れんせんあしげなるむまのふとくたくましきに、きんふくりんのくらおいて、のつたりけるが、すすみいでてまをしけるは、あしうもまをさせたまひたるかづさどのかな、さればよどいもあらひかはちぢをば、てんぢくしんたんのぶしがまゐつてわたすべきか、それもおもふに、われらこそわたさんずれ、めのまへなるかたきをのがしたてまつつて、なんとへいれまゐらせなば、よしのとつがはのおんせいがまゐりては、いよいよみかたのおんだいじなるべし、とうごくにはとねがはとまをすおほかはあり、このながゐのわたり、すぎのわたりとて、ともにだいじのわたりあり、せんねんちちぶとあしかがなかをたがひ、かつせんをつかまつりさふらひしに、あしかが、につたのにふだうをかたらうて、おほてはこのながゐのわたり、すぎのわたりへはにつたのにふだう、からめてにまはりさふらひしに、すぎのわたりにいくらもよういしたりしふねどもを、ちちぶがかたよりわられて、につたのにふだうのまをししは、かはをへだてたるいくさに、ふねがなければとて、ふちせをきらふやうやある、みづにおぼれてしなばしね、いざわたらむとて、たいぜいがむまいかだをつくつてわたせばこそ、とねがはをもわたしけめ、このかはのていをみるに、とねがはにはいくほどまさじおとらじな、とのばらいざわたさんとて、たづなかいくり、たいぜいがまつさきにこそうちいれたれ。つづくつはものたれたれぞ、たいこ、おほむろ、ふかす、やまかみ、なはのたらうひろずみ、さぬきの四らうたいふ、をのでらのぜんじたらう、へやこの七らう、らうどうには、とねの六四らう、きりやた五らう、うぶがたじらう、おほをかのあん五らうをさきとして、つがふそのせい三百よき、くつばみならべてうちいれたり。あしかがあぶみふんばりつつたちあがり、だいおんじやうをあげてげぢしけるは、つよからむむまをばうはてにたてて、よわからんむまをばしたてになせ、むまのあしのおよばんほどは、たづなをくれてあゆませよ、はずまばかいくつておよがせよ、さきなるむまのをにとりつけ、くらつぼにみづしどまば、さうづにのりさがつて、むまにはよわくみづにはつよくあたるべし、くらつぼにのりさだまつて、あぶみをつよくふめ、むまのかしらしづまばひきあげよ、いつたうひいてひつかつぐな、かはなかにてかたきいるともあひびきすな、かぶとのしころをかたぶけよ、いつたうかたぶけて、てへんいさすな、かねにわたいて、あやまちすな、みづにしなうてわたすべし、わたせやわたせやとげぢしつつ、三百よきを一きもながさず、むかひのきしにさつとわたす。
宮の最後
 そののちあしかがたかきところにうちあがり、むちにてよろひのみづなでくだし、あぶみふんばりつつたちあがり、だいおんじやうをあげて、これはむかしてうてきまさかどをたひらげてけんじやうかうぶりたりし、たはらとうだひでさとに五だいのまつえふ、しもつけのくにのぢうにん、あしかがのたらうとしつながこに、またたらうただつなとて、しやうねん十七さいにまかりなる、かやうにむくわんむゐなるものの、みやにむかひたてまつつて、ゆみをひきやをはなつこと、みやうけんにつけてそのおそれすくなからずさふらへども、ゆみもやもみやうがのほども、へいけだいじやうのにふだうどののおんみのうへにぞさふらふらん、みやのおんかたにわれとおもはんひとびとは、すすめやむかへ、げんざんせんとて、びやうどうゐんのしばにおしよせ、ひいづるほどにぞたたかひける。これをはじめとして、二万よきのつはものどもも、みなうちいれうちいれわたしければ、さしもにはやきうぢがはなれども、むまひとにせかれて、みづはうへにぞたたへたる。おのづからはづるるみづには、なんにもたまらず、おしながさる。そのなかにいがいせのつはもの六百よき、むまいかだおしやぶられ、みづにおぼれてながれけり。もえぎ、ひをどし、あかをどし、いろいろのよろひかぶとのうきぬしづみぬながれけるは、かみなびやまのもみぢばの、みねのあらしにさそはれて、たつたのかはのあきのくれ、ゐせきにかかつてながれもやらぬにことならず。なかにもひをどしのよろひきたりけるむしや三にん、うぢのあじろにかかつてゆられけるを、いづのかみみたまひて、いせむしやはみなひをどしのよろひきてうぢのあじろにかかりぬるかなこれはひののげん三、とばのげん六、くろだの五らう四らうとまをすものなり。なかにもくろだはふるつはものなりければ、ゆみのはずをいはのあひにねぢたて、わがみもあがり、のこり二にんをもたすけけるとぞうけたまはる。さるほどに三ゐにふだうは、みかたのいくさまけいろにみえしかば、かなはじとやおもはれけん、わかたいしゆあくそうども廿よにんつけたてまつつて、みやをばなんとへさきだてたてまつり、わがみはこどもらうじうのこりとどまりて、ふせぎやいけり。なかにも三みにふだうのじなんげんたいふのはんぐわんかねつなは、あかぢのにしきのひたたれに、くろいとをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、いかものづくりのたちをはき、廿四さいたるおほなかぐろのやをおひ、ぬりごめどうのゆみに、しらえのおほなぎなたのさやをはづいて、ちちの三ゐにふだうどのにかかりけるかたきに、かへしあはせかへしあはせさんざんにたたかはれけるところに、へいけのさぶらひたいしやうかづさのかみただきよがよつぴいていけるやに、うちかぶとをしたたかにいさせて、ひるみたまふところを、かづさのかみがわらはおちやうて、げんたいふのはんぐわんとむずとくむ。はんぐわんはてはおはれたりけれども、きこゆるしたたかびとにておはしければ、とつておさへ、わらはがくびかききつてなげのけ、おきあがらんとしたまふところを、かづさのかみがらうどうあまたおちあひて、げんたいふのはんぐわんのくびをとる。三ゐにふだうこのよしをみたまひて、よろづこころぼそくやおもはれけん、ゆみやになつつうちものになつつ、たたかはれけるが、かたき四五ききつておとし、わがみもいたでおひければ、びやうどうゐんのしばにかへり、もののぐぬぎおき、わたなべのちやうしちとなふをめして、はやはやなんぢかたきのてにかけで、わがくびうてとのたまへば、となふなくなく、おんくびたまはつつともぞんじさふらはず、ごじがいだにもさふらはばと、なみだもせきあへずまをしたりければ、三ゐにふだうさらばとてにしにむき、かうじやうにねんぶつす百べんとなへたまひけるが、ねんぶつをとどめ、さいごのことばぞあはれなる。うもれぎのはなさくこともなかりしにみのなるはてぞかなしかりけるそののちたちのきつさきをはらにおしあて、うつぶしにふしつらぬかつてぞうせられける。ことし七十五にぞなられける。かならずそこにてうたよむべきにはあらねども、わかうよりすかれたりければ、さいごまでもわすれざりけりとあはれなり。となふなくなくおんくびたまはつてひたたれにつつみ、おほきなるいしにくくりあはせて、うぢがはのふかきところにしづめてんげり。さるほどに三ゐにふだうのちやくし、いづのかみなかつなははしのうへにてたたかはれけるが、かたき七八ききつておとし、わがみもいたでおひければ、びやうどうゐんのしばにかへり、もののぐぬぎおき、じがいしてこそうせたりけれ。そのくびをば、しもかうべのとう三らうきよちかとつて、びようどうゐんのつりどののしたへぞなげいれたる。なかにも六でうのくらんどゆきいへ、そのこくらんどたらうなかみつは、たいぜいのなかにわつていり、さんざんにたたかひ、かたき四五ききつておとし、いつしよにうちじにしてんげり。このくらんどとまをすは、こ六でうのためよしがじなん、こたてはきせんじやうよしかたがちやくし、きそのくわんじやにはあになりけり。三ゐにふだうえうせうよりふぢして、くらんどにもなしたりしかば、そのおんをわすれじと、こんどどうしんしてうちじにしたりけるこそあはれなれ。なかにもわたなべきほふのたきぐちをば、へいけいかにもしていけどつて、うたいしやうどののげんざんにいれんとおもひあはれけるに、きほふさきにこころえてんげれば、てにもたまらずかけまはる。たいぜいのなかにわつていり、にしよりひがしへ一わたり、きたよりみなみへ一わたり、とつてはかへし、わつてはとほり、さんざんにたたかひ、かたき十四五ききつておとし、わがみはふかでもうすでもおはずして、びやうどうゐんのしばにかへり、三ゐにふだうのむくろのへんにちかづき、ひごろは一しよにとちぎりたてまつりしことなればとて、はら十もんじにかききつて、おなじまくらにふしにけり。なかにもゑんまんゐんのたいふげんかくは、つりどのにたつたりけるが、なぎなたのえくきみじかにとりなし、たいぜいのなかにわつていり、さんざんにたたかひ、一ぱううちやぶつて、うらへつつといで、かはへざんぶとぞとびいりける。かたきみかた、あはやげんかくこそじがいしてんげるとまをしけるに、もののぐをもぬかず、ぐそくひとつもすてずして、みづのそこをくぐつて、むかひのきしにわたりつき、だんにあがりなぎなたうちふり、いかにへいけのひとびと、これまではおんだいじかようとて、てらのかたへぞまかりける。なかにもへいけのかたのさぶらひたいしやう、ひだのかみかげいへは、ふるつはものなりければ、いまはさだめてみやはなんとへぞさきだたせたまふらんとて、五百よきにておひかけたてまつる。あんのごとくくわうみやうせんのとりゐのまへにておつつきたてまつり、さしつめひきつめさんざんにいたてまつる。たがいるやともみえざるに、しらはのやひとすぢきたつて、みやのおんそばはらにたちければ、やがておんむまよりおちさせたまひけり。へいけのつはものあまたおちあひて、みやのおんくびたまはりけり。くろまるとまをすわらはも、ここにてうちじにす。ぎやうぶしゆんしうもうたれにけり。わかだいしゆあくそうども二十よにんつきたてまつりたりけるも、もるるは一にんもなかりけり。みないつしよにてぞうたれにける。なかにもみやのおめのとご、六でうのすけのたいふむねのぶは、てんがだい一のだいおくびやうしやなりければ、みやはうたれさせたまひしかども、じがいをもせずうちじにをもせで、むまにまかせておちゆくほどに、むまはよわしかたきはちかづく、かなはじとやおもひけん、にいのがいけにとびいつてもひきかづき、めわづかにみいだしてぞゐたりける。いけのはたをうちすぎうちすぎしけるかたきのなかに、はるかにひきさがつて、五百きばかりうちとほりけるかたきのなかをみけるに、じやうえきたまへるひとのくびもなきを、しとみのもとにかいてとほる。あれはいかにとみたてまつるに、これぞわがしうのみやにてわたらせたまひける。われしなばごくわんにいれよとおほせなりしこえだときこえしおんふえも、いまだおんこしにぞさされたる。やがてはしりもいでて、とりつきたてまつらばやとはおもひけれども、それもさすがおそろしければ、ただみづのそこにて、かはづとともにぞなきゐたる。かたきみなうちとほりてのち、いけよりあがり、ぬれたるものどもしぼりきて、ゆふべにおよんでみやこへいる。にくまぬものこそなかりけれ。さるほどになんとのだいしゆ、みやのおむかへにまゐりけるが、つがふそのせい七千よにん、せんぢんはこづにすすめば、ごぢんはいまだこうふくじのなんだいもんにぞささへたる。されどもみやははやくわうみやうせんのとりゐのまへにて、うたれさせたまひぬときこえしかば、だいしゆちからおよばず、なみだをおさへてひきかへす。いま五十ちやうがあひだをまちつけさせたまはずして、うたれさせたまひけるみやのごうんのほどこそうたてけれ。
若宮の沙汰(あひ)
 さるほどにへいけのさぶらひどもはいづのかみいげつはもの五百よにんがくびとつてそのひのよにいつてみやこへいるへいけのゆかりのひとびといさみののしりたまふことなのめならずなかにも三みにふだうのくびはおほきなるいしにくくりあはせてうぢがはのふかきところにしづめてんげればなかりけりただしみやのおんくびみしりたてまつつたるものぞなかりけるてんやくのかみさだなりがごれうぢのおんためにとてつねはまゐりたりければこれぞさだめてみしりたてまつりたるらんとてめされけれどもげんしよらうとてまゐらず一とせおんひたひにあしきおんかさのいできさせたまひたりしをもこのさだもりがやうやうにれうぢまをしてこそいままでもあんをんにはわたらせたまひしをこんどあへなううしなひたてまつりけるこそあさましけれさるほどにいよのかみ(イ伊豆守)もりのりのむすめ三ゐのつぼねとて八でうのにようゐんにさぶらはれけるをみやよなよなめされければうちつづきわかみや三ところいできさせたまひけりこれぞさだめてみしりたまひたるらんとてたづねいだしたてまつるこのにようばうあるくびを一めみてなみだにむせばれけるにぞみやのおんくびとはしりてげるこのにようばうをばなのめならずにようゐんのおんいとほしみにておはしければみこのみやたちをもわがおんこのごとくおぼしめされてつねはぎよいのおんふところにてそだてまゐらつさせたまひけりなかにもこんねん七さいにならせたまひけるわかみやのわたらせたまひけるをにふだうおとといけのちうなごんよりもりをもつてわかみやとうとういだしまゐらつさせたまふべきよしをまをされたりければにようゐんいざとよそれはさやうのことのきこえつるあかつきがためのとのにようばうがこころをさなくもとりたてまつりていづかたへかゆきぬらんゆきがたもしらずとぞおほせけるこのよりもりのきやうとまをすはにようゐんのおんめのとぢみやうゐんのさいしやうどのにあひぐせられたりければひごろはさしもむつまじうおぼしめされけるにいまこのわかみやのおんことまをされければいつしかあらぬひとのやうにうとましうぞおぼしめされけるちうなごん六はらにかへりまゐつてこのよしまをされたりければにふだうおほきにいかつてなんでうそのごしよならではいづくにかわたらせたまふべきそのぎならばごしよちうをさがしたてまつれとぞのたまひけるちうなごんまたごしよにまゐりもんぜんにつはものおきなんどしてこのよしまをされたりければわかみやまをさせたまひけるはなじかはくるしうさふらふべきただとくいださせおはしますべしとまをさせたまひければにようゐんいとほしやわれからにだいじのいでくることをあさましうおぼしめしてただとくいだすべしなんどのたまふことのいとふしさよなにしにかかくうきひとをこの六七ねんてならしたてまつていまかくうきめをみることよとておんなみだにむせばせおはしますおんぼぎ三みのつぼねのおんことはなかなかまをすにおよばずにようくわんたちつぼねのにようばうめのわらはにいたるまでみなそでをぞぬらしけるちうなごんもさすがいはきならねばよにもあはれにおもはれけれどもさてしもあるべきならねばわかみやひとつことにのせたてまつて六はらへぐそくしたてまつらるさきのうたいしやうむねもりのきやうこのわかみやをみたてまつつてあはれにおもひまゐらせられければちちのおんまへにおはしてあはれこのみやのおんいのちをばむねもりにたびさふらへかしとまをされければにふだうさらばやがてごしゆつけせさせたてまつれとぞのたまひけるうたいしやうこのよしをにようゐんへまをされたりければにようゐんなのめならずおんよろこばせおはしましてただともかうもよきやうにとぞおほせけるやがてにんなじどのにしてごしゆつけせさせたてまつるやすゐのみやだうそんときこえしはこのわかみやのおんことなりまたならにも一ところわたらせたまひけれこれをばおんめのとごのさぬきのかみいへひでとりたてまつてほつこくにおちくだりしをきそこれをばわがしうにしたてまつらんとてとりたてまつてゑつちうのくにみやざきといふところにごしよしつらうておきたてまつりたりしが一とせきそうじやうらくのときぐそくしたてまつてみやこにのぼりげんぞくせさせたてまつるさてこそげんぞくのみやともまをしまたはきそがみやともまをしきのちにはさがのへんのよりといふところにわたらせたまひければひとのよりのみやとぞまをしけるさてもせうなごんこれながはみやをばあしうみそんじたてまつりたるものかななかごろとうじう(イ通乗)ときこえしさうにんはおほ二でうどのをば三だいのくわんぱくおんとし八十そちのうちのおとどをばるざいのさうわたらせたまふとまをしたりしにたがはずむかししやうとくたいししゆじゆんてんわうをみまゐらつさせたまひきみはわうしのさうわたらせたまふとまをさせたまひたりしはむまこのだいじんにころされさせたまひけりむかしはさせるさうにんとしもはなけれどもさもしかるべきひとはみなかくこそゆゆしうわたらせたまひしにこれはせうなごんこれなががひがごと也(なり)とぞひとまをしけるかのけんめいしんわうぐへいしんわうはけんわうせいしゆのみこにてさきのちうしよわうあとのちうしよわうとてともにめでたうわたらせたまひたりしかどもいつかごむほんおこさせたまひたりし
三井寺炎上
 ご三でうゐんのだい三のわうじすけひとのしんわうときこえしはおんこころもがうにごさいがくもゆゆしうわたらせたまひしかどもしらかはゐんなんとかおもひまゐらつさせたまひたりけむつひにみくらゐにもつけまゐらつさせたまはずさればそのおんこころをなぐさめまゐらせんとにやおんこはなぞののさだいじんどのにげんじのしやうをさづけまゐらつさせたまひてむゐより三ゐしてやがてちうしやうになしまゐらつさせたまひけりむかしより一せいのげんじのむゐより三ゐになることはさがのてんわうのみこやうぜいゐんのだいなごんさだむのきやうのほかはうけたまはりおよばずおなじき廿四かにぢもくおこなはれてさきのうたいしやうむねもりのおんこじじうきよむねしやうねん十二さいになられけるが三ゐして三ゐのじじうとぞまをしけるちちのきやうはこのよはひにてはわづかにひやうゑのすけにてこそおはせしにさこそよをとるひとのこならんからにおそろしおそろしとぞひとまをしけるこれはみなもとのもちひと三ゐにふだういげつゐたうのしやうとぞきこえしおなじき廿五にちにみなもとのもちひと三ゐにふだういげてうぷくせられたりしきそうかうそうたちにけんしやうおこなはれけりこのみなもとのもちひととまをすはたかくらのみやのおんことなりまさしく一ゐんだい二のみこにてわたらせたまひけるをここのへのうちをおひいだしたてまつつてうしなひたてまつるのみならずぼんにんにさへなしまゐらせぬることこそくちをしけれひごろはさんもんのだいしゆいささかのこともあればみたりがましくうつたへつかまつるがこんどはをんびんのぎをぞんじておともせずしかるになんと三ゐでらはあるひはみやをふぢしたてまつるあるひはおんむかへにまゐるこれひとへにてうてきなりとてならをもてらをもはつかうあるべしとぞきこえしへいけさらばまづをんじやうじをはつかうせよやとてたいしやうぐんにはにふだうの三なんさひやうゑのかみとももりおととにさつまのかみただのりさぶらひ大しやうにはゑつちうのぜんじもりとしじらうびやうゑもりつぎかづさの五らうびやうゑただみつをさきとしてつがふそのせい三千よきおなじき五ぐわつ廿七にちにをんじやうじへはつかうせられけりてらにもおほぜきこぜきほりきつてさかもぎひいてまちかけたりふせぐところのだいしゆ三百よにんうちころさるそののちぢちうにみだれいつてひをはなつやくるところはどこどこぞほんかくゐんしんによゐんじやうきゐんだいがくゐんけおんゐんふげんゐんしやうりうゐんこんがうわうだうけいそくばうけうたいくわしやうのほんばうならびにごほんぞんごわうぜんじんのしやだん八けん四めんのだいかうだうしゆろうきやうざう二かいのろうもんくわんちやうだうすべてだうしやたふめうあはせて六百廿七うおほつのうらのにしのざいけ二千八百五十三うことごとくちをはらふそのなかにこんだう一うやけのこりけるこそふしぎなれだいしのわたしたまへる一さいきやう七千よくわんぶつざう二千よたいもたちまちにけぶりとなるこそかなしけれほうもんしやうげうのやくるけぶりにはだいぼんてんわうのまなこもくれしよてん五めうのがくもこのときながくばうじけんらうぢしんのたんしきりにこがれりうじん三ねつのくるしみもまさるらんとぞおぼえたる三ゐでらはこれあふみのぎだいりやうがわたくしのてらたりしをてんぢてんわうへよせたてまつてごぐわんとなすほんぶつはかのみかどのごほんぞんしやうじんのみろくとぞきこえさせたまひししかるをけうたいくわしやう百六拾ねんおこなうてのちちしようだいしにふぞくしたてまつるとしたてんじやうまにはうでんよりあまくだらせたまひてはるかにりうげげしやうのあかつきをまたせたまふてんぢてんぶぢとうこれ三だいのみかどのおんうぶゆをめされたりしによつてこそ三ゐでらとはなづけられけれかくめでたかりしせいせきもいまはなにならずけんみつしゆゆにほろびてがらんさらにあともなし三みつのだうぢやうもなければしんれいのひびきもたえ一げのぶつぜんもなければあかのおともせざりけりしゆくらうせきとくのめいしはぎやうがくにわかれじゆほうさうしようのでしどもはきやうげうにこそわかれんだれ
あひ
 そうかう十二にんけつくわんせらる。あくそうどもには、つつゐのじやうめうみやうしゆんをさきとして、卅よにんをきんごくせらる。三ゐにふだうみやをば、さしもたのもしげにまをして、すすめまゐらせたりけれども、をんごくはしらず、きんごくのげんじだにもまゐらねば、みやをもあへなううしなひたてまつり、わがみもしそんも、ことごとくほろびぬるこそあさましけれ。
ぬえ(空+鳥)
 そもそもげん三ゐよりまさにふだうの、一ごのあひだかうみやうとおぼしきことおほきなかにも、ことにはこのゑのゐんのおんとき、しゆじやうよなよなおびえさせたまふことあり。くだんのごなうは、ひがし三でうのこむらより、くろくも一むらごてんのうへに、おしおほふとおぼしきときは、しゆじやういよいよおびえさせたまひけり。これによつてさんもんなんとのきそうかうそうにおほせて、だいほふひほふしゆせられけり。またぶしをもつてもけいごあるべしとて、げんぺいりやうかのつはものをぞめされける。よりまさのきやうのいまだそのころひやうごのかみたりしとき、めしぬかれてまゐる。これはほりかはのてんわうのぎよう、くわんぢのころかとよ、しゆじやうかやうにおびえさせたまふことあり。そのときのしやうぐんよしいへのあそんをぞめされける。かうのかりぎぬのそでながやかにかいつくろひ、なんでんにしこうして、めいげんすること三どののち、これはさきのむつのくにのかみみなもとのよしいへのあそんぞやと、かうじやうに三ケどまで、ののしつたりければ、ごなうやがておこたらせたまひけり。こんどそのれいとぞきこえし。よりまさまをしけるは、てうかにぶしおかるることは、ゐちよくのともがらをしりぞけ、またはぎやくほんのものを、しづめられんがためにてこそあるに、めにもみえぬへんげのものいよとのちよくぢやうこそ、しかるべからね、とはまをしながらりんげんそむきがたうして、しらあをのかりぎぬのそでながやかにかいつくろひ、たのみきつたるらうどう、とほたふみのくにのぢうにんゐのはやたに、ほろのかさきりにてはいだりけるや一こしおほせ、ぬりごめどうのゆみに、やまどりのをにてはいだりけるとがりやふたつとりそへ、なんでんにしこうして、よふくるまませけんをうかがひみるほどに、あんのごとく、そのよのやはんばかりに、ひがし三でうのこむらよりくろくも一むら、ごてんのうへに五ぢやうばかりぞたなびいたる。くもすきにみければ、くものなかにすがたあるものあり、よりまさとがりやをとつてうちつがひ、よつぴいてひやうといる。ふつとあたる。よりまさえたりやおうとやさけびをこそしたりけれ。やがてやたちながらていじやうへどうとおつ。ゐのはやたつつとよりとつておさへ、こしのかたなをぬき、つかもこぶしもとほれとほれと、九かたなぞさいたりける。そののちてんでにひをとぼしてみたまへば、かしらはさる、むくろはたぬき、をはくちなは、あしてはとらのごとくにて、なきごゑぬえにぞにたりける。きたいふしぎのものなりけり。ごなうやがておこたらせたまひけり。しゆじやうぎよかんのあまりに、ししわうとまをすぎよけんを、よりまさにこそくだされけれ。らいちやうのさふたまはり、ついでごてんのきざはしを、なからばかりおりくだらせたまひて、よりまさにたまはしける。ころはうづき十かあまりのことにてもやさふらひけん、ほととぎすくもゐに二こゑ三こゑおとづれてすぎければ、やがてさだいじんどの、ほととぎすなをもくもゐにあぐるかなとおほせられかけたりければ、よりまさかしこまつてうけたまはり、もとよりこのむことなれば、つきをそばめにかけて、ゆみはりづきのいるにまかせてとつかまつて、ぎよけんをたまはつてまかりいづ。そののちくだんのへんげのものをば、うつぼふねにいれて、にしのうみへぞながされける。そのときのけんしやうには、たんばの五かのしやうをぞたまはりける。また二でうのゐんのぎよう、おうはうのころかとよ、ぬえとまをすけてうが、よなよなぢんとうにないて、しばしばしんきんをなやましたてまつる。せんれいにまかせて、またよりまさをぞめされける。よりまさまをしけるは、げんぺいりやうけのうちより、めしぬかれてまゐること、みのめんぼくとはまをしながら、いおふせんことふぢやう、いそんぜむことはけつぢやうなり、ただいまいそんずるほどならば、ゆみきりをつてさんりんにまじはるべし、さるにても八まんだいぼさつあはれみをたれさせたまへと、しんちうにきせいして、またなんでんにしこうす。ころはさつきはつかあまりのことなれば、さみだれさへにかきくれて、めざすともしらぬやみなるに、くだんのけてうが、ただ一こゑおとづれて、二こゑともなかざれば、いづくにありともしりがたし。すがたもかたちもみえざれば、いづくをやつぼとさだめがたし。よりまさはかりごとに、かぶらをとつてうちつがひ、よつぴいてひやうといる。ぬえかぶらのおとにおどろいて、こくうにしばらくひひめいたり。つぎにこかぶらをとつてうちつがひ、よつぴきしばしたもつて、ひいふつとぞいおとしたる。ごなうやがておこたらせたまひけり。しゆじやうぎよかんのあまりに、ぎよいを一りやうよりまさにこそくだされけれ。こんどはおほゐのみかどのうだいじんきんよしこうたまはりついで、ごてんのきざはしを、なからばかりおりくだらせたまひて、よりまさにうちかづけさせらるとて、むかしのやうゆうはくものほかなるかりをい、いまのよりまさはあめのなかにぬえをいえたりとぞおほせける。やがてうだいじんこう、さつきやみなをあらはせるこよひかなとおほせられかけたりければ、よりまさかしこまつてうけたまはり、たそがれどきもすぎぬとおもへばとつかまつて、ぎよいをたまはつてまかりいづ。よりまさゆみやをとつててんがになをあぐるのみならず、かだうのかたにも、いうにやさしかりけりと、きんちうさざめきあへり。そのときのけんじやうには、わかさのとうのみやかはをぞたまはりける。そもそもこのよりまさのきやうとまをすは、つのかみよりみつに五だいのまご、さきのみかはのかみよりつなのまご、ひやうごのかみなかまさのあそんのこなりけり。はうげんにまつさきかけたりしかども、させるごおんにもあづからず、へいぢにおほくのしんるゐをすててみかたにまゐりたりしかども、おんじやうこれおろそかなり。ぢうだいのしよくなれば、おほうちのしゆごうけたまはつてとしひさし。されどもしようでんをばゆるされざりしかば、はるかにとしたけよはひかたぶいてのち、じゆつかいのわか一しゆよみてこそ、しようでんをもゆるされたりしか。ひとしれずおほうちやまのやまもりはこがくれてのみつきをみるかなとつかまつつて、四ゐしてしばらくさふらひけるが、また三ゐをこころにかけて、のぼるべきたよりなければこのもとにしひをひろひてよをわたるかなとつかまつつて三ゐになされ、しゆつけしてほうみやうじやうれんとぞまをしける。たんばの五ケのしやう、わかさのとうのみやかは、いづのくにをもちぎやうして、しそくなかつなずれうになし、さてあるべかりしひとの、よしなきむほんおもひたち、みやをもあへなううしなひたてまつり、わがみもしそんことごとくほろびぬるこそあさましけれ。

平家物語(城方本・八坂系)
巻第五 

都遷 
ぢしよう四ねん六ぐわつ三かのひにふだうしやうごくのとしごろしつしてかよはれしふくはらへみやこうつりしあるべしとぞきこえしかねては三かとさだめられたりしかどもいま一にちひきあげて二かのひのうのこくにぎやうかうなるしゆじやうえうしゆのときのごどうよにはぼこうとてははのきさきのまゐらせたまふことなるにこんどはそのぎなしへいだいなごんときただのきやうのきたのかたそちのすけどのぞごどうよにはまゐられけるおなじき三かのひふくはらへいらせたまふにふだうのおとといけのちうなごんよりもりのきやうのしゆくしよくわうきよになるおなじき四かのひいへのしやうとてぢもくおこなはれけるよりもりのきやうじやうニゐしたまふ九でうどののおんこうたいしやうよしみちのきやうこえられさせたまひけりむかしよりせうろくのきんだちのぼんにんにかかいこえられさせたまふことこれはじめとぞうけたまはるさるほどにほうわうはじやうなんのりきうにおしこめられてわたらせたまひたりしをさきのうたいしやうむねもりのきやうをりふしまをされしによつてとばどのをばいだしたてまつつて八でうからすまるのびふくもんゐんのおんまへへいれたてまつりたりしがこんどはたかくらのみやのごむほんによつてふくはらへごかうなしたてまつり四めんにはたいたおしくちひとつある三げんのいたやをつくつておひこめたてまつつておきたてまつりしゆごのぶしにははらだのたいふたねなほばかりぞさふらひけるわらべどもはふくはらのろうのごしよとぞまをしけるきくもよにおそろしうあさましかりしおんことなりさるままにはほうわうばんきのおんまつりごとをばつゆしろしめさずただやまやまてらでらしゆぎやうしてこころのままになぐさまばやとぞおほせけるにふだうしやうごくのあくぎやうにおいてははやみなきはまりぬくわんぱくながしたてまつつてはむこをくわんぱくにおしなしあまつさへ一ゐんだい二のおんこたかくらのみやをばここのへのうちをおひいだしたてまつつてうしなひたてまつるのみならずぼんにんにさへなしまゐらせぬることこそくちをしけれいまのこるところとてはみやこうつしはこれせんしようなきにあらずじんむてんわうはぢじん五だいのみかどひこなぎさたけうがやふきあはせずのみことのだい四のわうじおんはははたまよりひめてんじん七だいぢじん五だいかみのよ十二だいのあとをうけにんだい百わうのていそなりかのとのとりのとしひうがのくにみやさきのこほりにしてくわうわうのはうそをつぎ五十九ねんといつしつちのとのひつじのとし十ぐわつにとうせいしてこのごろやまとのくにとなづけたりとよあしはらのなかつくににとどまつてうねびのやまをてんしきうと(イ帝都)をたてかしはらのちをきりはらうてきうしつをつくりたまふこれをかしはらのみやとはなづけられけりしかしよりこのかたよよのみかどのみやこをたこくたしよへうつさるること三十どにあまり四十どにおよべりじんむてんわうよりけいかうてんわうまで 十二だいはなほおなじきくにこほりこほりにみやこをたててたこくへはうつされずしかるをせいむてんわうぐわんねんにあふみのくににうつつてしがのこほりにみやこをたつちうあいてんわうニねんにながとのくににうつつてとよらのこほりにみやこをたつそのくにのかのこほりにしてみかどかくれさせたまひしかばきさきじんぐうくわうごうによたいとしておんゆづりをうけさせたまひしんらはくさいかうらいけいたんをはじめとしていこくのいくさをたひらげさせたまひてそののちわがてうちくぜんのくに三かさのこほりにしてわうじごたんじやうありそれよりしてぞそのところをうみのみやともまをすなりみくらゐののちはおうじんてんわうともまをしきかけはくもかたじけなくましますやはたのおんことこれなりにんとくてんわうぐわんねんにつのくになにはにうつつてたかつのみやにすみたまふりちうてんわうニねんになほやまとのくににうつつてとをちのさとにすみたまふはんぜいてんわうぐわんねんにかはちのくににうつつてしばがきのさとにみやゐしたまふいんけうてんわう四十二ねんになほやまとのくににうつつてとぶとりのあすかのみやにすみたまふゆうりやくてんわう廿一ねんになほおなじきくにはつせあさくらにみやこをたつけいたいてんわう五ねんにやましろのくにつづきにうつつて十二ねんそののちおとくににすみたまふせんくわてんわうぐわんねんになほやまとのくににうつつてひのくまのいるののみやにすみたまふきんめいびだつようめいしゆじゆんすゐこじよめいくわうきよくまで七だいはなほおなじきくににみやこをたててたこくへはうつされずしかるをかうとくてんわうたいくわぐわんねんにつのくにながらにうつつてとよさきのこほりにみやこをたつさいめいてんわうニねんになほやまのとのくににうつつてをかもとのみやにすみたまふてんぢてんわう六ねんにあふみのくににうつつておほつにみやをつくりたまふてんむてんわうぐわんねんになほやまとのくににかへつてをかもとのみなみのみやにすみたまふぢとうもんむ二だいのせいてうはなほおなじきくにふぢはらのみやにすみたまふげんめいげんせいしやうむかうけんはいたいせうとくくわうにんまで七だいはなほおなじきくにならのみやこにすみたまふしかるをくわんむてんわうえんりやく三ねん十一ぐわつついたちのひならのきやうかすがのさとよりやましろのくにながをかのきやうにうつつて十ねんこのみやこにすみたまふおなじきえんりやく十三ねんしやうぐわつの三かのひだいなごんふぢはらのをぐろまるさんぎさだんべんきのこさびをつかはしてたうごくかどののこほりうだのむらをみせしむるにりやうにんともにそうしていはくこのちのていをみさふらふにさしやうりううびやつこぜんしゆじやくごげんむ四じんさうおうのちなりもつともていとをもとむるにたれりよりておとくにのこほりにおはしますかものだいみやうじんにまをさせたまひておなじきえんりやく十三ねん十一ぐわつ廿かのひながをかのきやうよりいまのへいあんじやうにうつつてていわう卅ニだいせいさう三百八十よさいのしゆんじうをおくりむかへてぞましましけるしかつしよりこのかたよよのみかどのみやこをたこくたしよへうつされしかどもかかるしようちはいまだなしとてくわんむてんわうことにしつしおぼしめしてまづちやうきうなるべきじゆつとてだいじんくぎやうしよだうのさいじんにおほせてつちにて八しやくのひとがたをつくらせくろがねのかつちうをきせおなじうくろがねのきうせんをもたせてひがしやまのみねににしむきにたててぞうづませられけるこれはすゑのよにこのみやこをたこくへうつすものあらばかならずしゆごじんとなるべしとのおんやくそくありけりさればてんがにことのいでこんとてはこのつかかならずめいどうすしやうぐんがつかとていまにありくわんむてんわうはへいけのなうそにてぞましましけるへいあんじやうとなづけてはたひらかにやすきみやことかけりもつともへいけのあがむべきみやこぞかしさがのてんわうのおんときへいぜいのせんていよをみだらむとせさせたまひしにみやこをたこくたしよへうつさんとせさせたまひしときだいじんくぎやうしよこくのじんみんことごとくおこつてそむきまをせしかばつひにうつされでやみにきかたじけなくもいつてんのきみばんじようのあるじだにもたやすくうつしえたまはぬみやこをなんぞだいじやうのにふだうじんしんのみとしてたやすくうつされけるこそふしぎなれいかさまにもこれはしよこくのいぞくせめのぼりへいけみやこのうちをおひいだされさんりんにまじはるべきぜんぺうかとぞじやうげささやきあへりけるあはれきうとはめでたかりしみやこぞかしわうじやうしゆごのちんじゆは四はうにひかりをやはらげれいげんしゆしようのてらでらはじやうげにいらかをならべたりはくせいばんみんわづらひなく五き七だうもたよりありひとびとのいへいへをばかもがはかつらがはにこぼちいれいかだにくみうかべしざいざふぐをふねにつみてふくはらへはこびくだされたりければはなのみやこもただなりにゐなかとなるこそかなしけれつじつじほりきりさかもぎゆひふさぎたりければくるまなんどのわのかよふこともなしたまたまゆくひとはみなをぐるまにのつてみちをへてこそとほられけれまたなにものがしたりけんふるきみやこのだいりのはしらに二しゆのうたをぞかきけるももとせをよかへりまでにすぎきにしをたぎのさとのあれやはてなむさきいづるはなのみやこをふりすててかぜふくはらのすゑぞあやうきされどもふくはらにはしんとのことはじめあるべしとてぶぎやうのべんにはくらんどのさせうべんゆきたかとうのうちうべんみつまさくわんにんどもあひぐしてたうごくわだのまつばらのにしののをてんしここのへのちをわられけるに一でうよりはじめて五でうまではありしかどもそれよりしもはなかりけりぎやうじくわんかへりまゐつてこのよしをそうしまをしたりければさらばはりまのいなみのかなほたうごくこやのかなんどさたありしかどもとみにことゆくべしともみえざりけりきうとはすでにうかれぬしんとはいまだことゆかずありとしあるひとみなみをうきぐものまよひとなしもとそのところにすむひとはちをうしなつてうれへいまうつりくるひとはみなどぼくのわづらひをぞなげかれけるなかにもつちみかどのさいしやうのちうじやうみちちかのきやうのまをされけるはいこくには三でうのくわうろをひらいて十二のとうもんをたつといへりいはんやわがてうに五でうまであらむみやこになどかだいりをたてざるべきとて五でうのだいなごんくにつなのきやうのりんじにすはうのくにをたまはつてさとだいりつくらせらるこのくにつなのきやうとまをすはならびなきだいふくちやうじやにておはしければさとだいりざうしんせらるべきことさうにおよばすとはまをしながらまづさしあたつておこなはるべきごけいだいじやうゑをばさしおかれてかかるよのみだれのなかにせんとざうだいりすこしもさうおうせずいにしへのかしこかりけるみよにはだいりをばかやにてふきのきをだにもあらためられずたみのかまどのともしきをごらんじてはかぎりあるみつぎものをもゆるされけりこれひとへにくにをたすけたみをはごぐむによりてなりかのたうのげんそうのりさんきうをつくられしにはかはらにまつおひかきにこけむすまでりんかうなかりけるにはさうゐかなしよしやうくわたいをたてれいみんあらけじんあはうのでんをおこしててんがみだるともいへりばうしきらずさいてんけづらずしうしやかざらずいふくあやなかりけるよもありけるものをおそろしおそろしとぞひとまをしける
月見
 おなじき八ぐわつ八かのひふくはらにはしんとのことはじめあつておなじき十ぐわつ十かのひおんむねあげとぞきこえしきうとはあれゆけばいまのみやこははんじやうすあさましかりしなつもすぎあきもなかばになりにけりふくはらにおはしけるひとびとはめいしよのつきをみむとてあるひはげんじのたいしやうのむかしのあとをたづねつつすまよりあかしのうらづたひしらく(イ白浦)ふきあげわかのうらすみよしなにはえたかさごをのへのつきのあけぼのをながめてかへるひともありきうとにのこるひとびとはふしみひろさはのつきをみるなかにもふくはらにおはしけるごとくだいじのさたいしやうじつていのきやうはきうとのつきをみんとてにふだうしやうごくにいとまこひ八ぐわつ十かあまりにふるきみやこへかへりのぼられけるがみちすがらもめいしよめいしよのつきをみるすずめのまつばらみかげのまついくたこやののつきをみるくもゐにさらすぬのびきのこれやこのもとめづかとなづけしはかのしまのほとりなりこひゆゑみをうしなひし二にんのをとこのはかとかやゐなのみなとのあけぼのにきりたちわたるなにはがたをとこやまのつきかげはいはしみづにややどるらんむつだのよはのむしのねにいなばにそよぐかぜのおとあきのやまのもみぢのいろこころをくだくたよりとなるたいしやうきうとにかへりみたまへばひとびとのいへいへをばさんぬるなつかもがはかつらがはにこぼちいれいかだにくみうかべしざいざふぐをふねにつみてふくはらへはこびくだされたりければたまたまのこるいへいへはもんぜんくさふかくていじやうつゆしげくよもぎがそまあさぢがはらとりのふしどとあれはててただきぎくしらんののべとぞなりにけるいまふるきみやこのおんなごりとてはおんいもうとこんゑがはらのおほみやのごしよばかりなりたいしやうかれへまゐらせたまひてずゐじんをもつてそうもんをたたかせらるればうちよりにようばうのこゑにてたそやこのよもぎふのつゆうちはらふひとだにもまれなるところにととがむればこれはふくはらよりたいしやうどののおんまゐりにてさふらふとまをすささふらはばそうもんはぢやうがさされてさふらふぞひがしのこもんよりまゐらせたまふべしとまをしたりければたいしやうさらばとてひがしのもんよりぞまゐられけるをりふしおほみやはつきにめでさせたまひてみなみのだいにしておんびはおんばちのおとあざやかにこそあそばされけれかのげんじのうぢのまきにはうばそくのみやのおんむすめあきのなごりををしみつつびはをしらべてよもすがらおんこころをすまさせたまひしにありあけのつきのやまのはよりいでけるをなほたへずやおぼしめされけむばちしてまねかせたまひしもいまこそおぼしめししられけれおほみやおんばちさしをさめさせたまひていかにやたいしやうこれへこれへとおほせければたいしやうごぜんちかうまゐらせたまひてややはるかにおんものがたりありそののちたいしやうまつよひのこじじうをよびいださせたまひてむかしいまのことどもをよもすがらかたりぞあかさせたまひけるそもそもこのまつよひのこじじうとまをすはあるときおほみやじじうをめしてまつよひとかへるあしたはいづれかはとおほせければじじうとりあへずまつよひのふけゆくかねのこゑきけばあかぬわかれのとりはものかはとまをしたりけるによつてこそまつよひのこじじうとはめされけれそののちたいしやうはるかによふけひとしづまつてのちやうでうねとりさうさうかれなんとすむしのおもひねんごろなりといふらうえいしてふるきみやこのあれゆくやうをいまやうにこそうたはれけれふるきみやこをきてみればあさぢがはらとぞあれにけるつきのひかりはくまなくてあきかぜのみぞみにはしむとこれを二三どうたひすまされたりければおほみやをはじめまゐらせてじじういげのにようばうたちみなそでをぞぬらされけるあけければたいしやういとままをしてふくはらへこそくだられけれじじうたいしやうのおんなごりををしみたてまつつてくるまよせまでたちいでおんうしろをはるばるとみおくりたてまつりなみだをおさへてとどまりけりたいしやうおんともにめしぐせられたりけるくらんどをめしてじじうがなにとおもひてやらむよにもなごりをしげにみえつるになんぢゆきてなにともよきやうにいひてこよかしとおほせければくらんどはしりかへりこれはたいしやうどののまをせとさふらふとてものかはときみがいひけむとりのねのけさしもなどかこひしかるらんじじうとりあへずまたばこそふけゆくかねもつらからめあかぬわかれのとりのねぞうきくらんどかへりまゐりこのよしをまをしたりければさればこそなんぢをばつかはしたりつれとてたいしやうおほきのかんぜられけりそれよりしてこそものかはのくらんどとはめされけれ
物怪
 にふだうしやうごくのみやこうつりののちはゆめみもあしうまたふしぎのことどもおほかりけりたとへばそのころにふだうしやうごくのすまれけるつぼのうちにひさうしてうゑさせられける五えふのまつの一やのうちにかれにけるこそふしぎなれまたうしろなるまつやまのかたにはひとならば四五百千にんばかりのこゑにてたいぼくをたをすがやうに一どにどつとわらふこゑしけりにふだうひきめのばんとなづけてひる卅にんよる六十にんのひやうしをすゑてひきめかぶらをいさせられけるにいおふせたるかとおぼしきときはおともせずまたそぞろなるかたへいやつたるかとおぼしきときは一どにどつとぞわらひけるまたにふだうしやうごくのちやうないには一まにはばかるほどのもののおもてがいできてにふだうしやうごくをにらみたてまつるにふだうもさるおそろしきひとにておはしければすこしもさわがずにらまれけるにしにんわらうてうせにけりあるときのふたあさにふだうちうもんのらうにいでたまひ六ゐやさふらふ六ゐやさふらふとめされけれどもをりふしひと一りもさふらはざりけるにつねのつぼのうちをみやりたまへばしやれたるかうべが四五百千ばかりみちみちてはしなるがなかへいりなかなるがはしへいでうへなるがしたになりしたなるがうへへあがりたがひにころびあひころびのきがらめきけるがさるかとすればひとつになつて十ぢやうばかりにそびえあがるときもありまたちつとになるときもあり千万のまなこをもつてにふだうしやうごくをにらめたてまつるたとへばにふだうもせけんにわらはべのめくらべなんどをするがやうにまたたきもせずにらまれければつゆしものひにあたつてきゆるがごとくにあとかたもなうぞうせにけるまたにふだうしやうごく十四五六のわらはべを三百よにんめしあつめかぶろとなづけてめしつかはれけるなかにてんぐまぎれてあそびけりまたにふだうしやうごくのひさうしてなでかはれけるむまのをにねずみすをくひ一やのうちにこをうみにけるこそふしぎなれこのむまはとうごくさがみのくにのぢうにんおほばの三らうかげちかがもとより八ケこく一のめいばとてまゐらせたりけるがくろきむまのひたひすこししろかりければもちづきとなづけてなのめならずひさうしてなでかはせられけるむまのをにねずみすをくひ一やのうちにこをうみければこれただごとにあらずとて八にんのはかせをめしてうらなはせらるてんがのさわぎとうらなひまをすやがてこのむまをばあべのやすちかたまはりけりむかしてんぢてんわうのおんときれうのおんむまのをにねずみすをくひ一やのうちにこをうみにけるにもてんがおだやかならずとぞにほんぎにはしるされたるまたふるきみやこにおはしけるげんちうなごんがらいのきやうのもとにさふらひけるせいしがみたりしゆめこそなによりもふしぎなれたとへばたいだいのじんぎくわんのへんをとほるとおぼしきにそくたいしたまひたるじやうらふのいくらもなみゐさせたまひてぎぢやうなんどのありけるをなにごとやらむとたちとまつてきくほどになかにもざじやうにおはしますじやうらふのゆゆしうけだかきおんこゑにてこのほどへいけにあづけおきたるせつばかりをめしかへしいづのくにのるにんさきのうひやうゑのごんのすけよりともにたばんとぞおほせけるまたまつざにおはしますじやうらふのへいけのかたうどしたまふとおぼしきをおつたてらるるとみまをしてあけてのちひとにかたるほどにこのことふくはらへきこえたりにふだうがらいのきやうのもとへししやをたててそれにゆめみのをとこのさふらふなりたまはつてゆめのやうあひたづねさふらはんとのたまひつかはされたりければこのをとこあしかりなんとやおもひけむやがてちくでんしてんげりがらいのきやうまつたうさるきよじをぢんじまをされたりければこのうへはにふだうちからおよばずとぞのたまひけるにふだうしやうごくのいまだそのころあきのかみたりしときいつくしまのだいみやうじんよりれいむかうふりうつつにたまはられたりけるしらえのこなぎなたつねのまくらをはなたずたてられたりけるがにはかにうせにけるこそふしぎなれなかにもかうやのおやまにおはしけるさいしやうのにふだうなりよりこのよしをつたへききたまひてすはすはへいけのうんめいはすゑになりぬるはなかにもざじやうにおはしますじやうらふのこのほどへいけにあづけおきたるせつどをめしかへしいづのくにのるにんさきのうひやうゑのごんのすけよりともにたばんとおほせのわたらせたまふはげんじのうぢがみしやう八まんだいぼさつにてぞわたらせたまふらんまたまつざにおはしますじやうらふのへいけのかたうどしたまふとおぼしきをおつたてらるるとみまをしたるはへいけのうぢがみあきのいつくしまのだいみやうじんにてぞわたらせたまふらんいつくしまのだいみやうじんはしやからりうわうのだい三のひめみやたいざうかいのすゐじやくにてによしんとこそうけたまはりつるにさやうにぞくたいにてみえさせたまひけるこそふしぎなれただしこのおんかみは三めい六つうをえさせたまひたんなればもしさやうのおんことにもどうしんしたまへるにこそとありがたかりしおんことなりうきよをいとひまことのみちにいるひともぜんせいをきいてはよろこびなげきをきいてはかなしめりふかきやまにいりたまひしよりこのかた一かうごせぼだいのつとめのほかはたじやはあるべきなれどもそのときよりをりにしたがふならひとてかやうのことをものたまひけりへいけよをとつて廿一ねんたのしみさかえはむかしもいまもためしすくなかりしことどもなりされどもほういつじやけんにおはしければいまはせつどをもめしかへさせたまふにこそとあはれなれしことどもなり
大場がはや馬(あひ)
 おなじき九ぐわつニかのひとうごくさがみのくにのぢうにんおほばの三らうかげちかがもとよりはやむまをたててへいけへまをしけるはいづのくにのるにんさきのうひやうゑのごんのすけよりともしうとほうでうの四らうときまさをいんぞつしてつがふそのせい五十よきさんぬる八ぐわつ十七にちのよたうごくのもくだいいづみのはんぐわんかねたかをやまきがたちにてようちにしぬおなじき二十かのひさがみのくににうちこえどひつちやをかざきのものども三百五十よきにていしばしのじやうにたてこもりさふらひぬおなじきニ十二にちにかげちかむさしさがみ二ケこくのぐんびやう三千よきをあひぐしていしばしのじやうにおしよせさんざんにせめたたかひさふらふほどによりともいくさにうちまけしゆじう七八きにうちなされどひのすぎやまににげかくれさふらひぬおなじき廿四かにみうらのおほすけが一たう五百よきにてげんじがたすはたけやま五百よきにてゆゐこつぼにてかつせんすはたけやまいくさにうちまけむさしのくににひきしりぞきさふらひぬなほはたけやまはらをたてえどかさいしながはのものども三千よきをひきぐしておなじき廿六にちに三うらきぬがさのじやうにおしよせさんざんにせめたたかひさふらふほどにおほすけうたれさふらひぬこどもまごどもは三百よきにうちなされ三うらくりばまよりふねにとりのりひやうゑのすけがあとをたづねてあはかづさへわたりぬとこそたてたりけれ
朝敵揃
 そのころふくはらにさふらひけるへいけのさむらひどもこのよしをききてあはれさらばげんじがとうしてよせこよかしわれうつてにむかはんなんどいふぞはかなきそのころふくはらにさふらひけるとうごくのだいみやうにははたけやまのしやうじしけよしおととをやまだのべつたうありしげうつのみやのさゑもんともつななりにふだうかれらをめしてのたまひけるはなんぢらがこどもとうごくにあんなればげんじにさだめてどうしんするらんなとのたまへばこれらかしこまつてまをしけるはほうでうはしたしうなつてさふらへばさやうのおんこともやさふらふらんそのほかのものどもはまつたうさなきよしをちんじまをしたりければにふだうさらばきしやうもんにおよぶべかしとのたまへばおのおのかしこまつてうけたまはりくまののごわうをまをしおろし七まいのきしやうもんをかいてたてまつるげにもとまをすひともありいやいやこのことだいじにやおよばんずらんとささやくものもおほかりけりにふだうかさねてのたまひけるはそもそもかのひやうゑのすけよりともといつぱさんぬるへいぢにちちよしともがむほんによつていけどりにせられすでにちうせらるべかりしをこいけのぜんにのをりふしのたまひしによつてこそしざいをるざいにしよするところなれいつしかそのおんをわすれてたうけにむかつてゆみをひきいかでかやをもはなつべきたうじこそわうゐもむげにかるけれむかしはせんじをむかへてよみしかばかれたるくさきにもははりはなさきとぶとりもしたがひたてまつりたりしがむかしえんぎのせいだいしんせんゑんにごかうなつていけのみぎはにさぎのさふらひけるをくらんどをめしてあのさぎとつてまゐらせさふらへとおほせければくらんどいかでとるべきとはおもひけれどもりんげんなればまかりむかふさぎはねつくろひをしてたたんとすくらんどいかにせんじぞまかりたつなといはれてさぎひらみてとびさらずくらんどかれをいだいておんまへへまゐりたりければみかどなのめならずぎよかんあつてなんぢがせんじにしたがひまゐらせてまゐりたるこそしんぺうなれやがて五ゐになせとて五ゐになさるけふよりのちさぎのうちのわうたるべしといふおんふだをあそばしてさぎのくびにかけてはなたせおはしましけりまつたうこれはさぎのごようにはあらずただわうゐのほどをしろしめされむがためなりきそれてうてきのはじめにはきのくになぐさのこほりたかをのむらに一のつちぐもありあしてながくみみじかくちからひとにすぐれたりじんみんおほくがいせられしかばくわんぐんはつかうしかづらのあみをむすびつつせんじをよみかけてつひにこれをおほひころすしかつしよりこのかたやしんをさしはさむものおほいしのやままろおほやまのわうじおほとものまとりもりやのだいじんそがのいるかやまだいしかはぶんやのみやだおほやのさゑもんだざいのだいにひろつぐさだいじんながやうだいじんとよなりゑみのだいじんおしかついがみのくわうぐうさあらのたいしたちばなのいつせいふぢはらのちうせいたひらのまさかどふぢはらのすみともあべのさだたふむねたふつしまのかみみなもとのよしちかあくさふあくゑもんのかみにいたるまでつがふそのれい廿よにんなりされどもこれらはいつかはそくわいをとげたりしかばねをりようもんげんじやうのつちにうづみかうべをごくもんにかけられしものなりき
咸陽宮
 とほくいてうのせんじようをとぶらふにむかしえんのたいしたんはじんのしくわうていにとらはれていましめをかうぶること十二ねんあるときたいしたんしくわうていにまをしけるはわれにしばらくのいとまをたまはれかしわがふるさとにいちにんのらうぼありわれほんごくにかへつていまいちどははをみむとまをしたりければしくわうていおほきにあざわらつてなんぢにいとまたばんことむまにつのおひからすのかしらのしろくならむをまつべしとぞのたまひけるときにたいしたんてんにあふぎちにふしてねがはくはみやうけんの三ばうかうかうのこころざしをあはれませたまひてむまにつのおひからすのかしらしろくなしたまへわれほんごくにかへつていまいちどははをみむとぞいのりけるかのめうおんだいしはりやうぜんじやうどにけいしてふかうのつみをいましめくしらうしはだいたうしんたんにいでてちうかうのみちをはじめたまふみやうけんの三ばうかうかうのこころざしをあはれませたまふことなればむまにつのおひてきうちうにきたりからすのかしらしろくなつてていぜんのきにいたりうとうばかくのへんにおどろきりんげんかへらざることをしくわうていおぼしめしてたいしたんをゆるしてほんごくへこそかへされけれしくわうていたいしたんをゆるしてほんごくへかへされけることをなほやすからずおぼしめされければじんのくにとえんのくにのさかひにそこくとまをすくにありかのくににたいがありたいがのうへにたかきはしありすなはちそこくのはしとぞまをしけるしくわうていかしこへひとをつかはしてたいしたんがわたらんときおつべきはかりごとをめぐらされたりけるをたいしたんはゆめにもしらずしてわたるほどになじかはよかるべきなかのほどにておちにけりされどもみづにもおぼれずしさいなくむかひのきしにわたりつつたいしたんおほきにふしぎのおもひをなしうしろをかへりみければおほきなるかめのかふにぞのつたりけるこれもただかうかうのこころざしのふかかりけるによつてなりたいしたんこれによつてなほうらみをふくみしくわうていにもしたがはずかへつてしくわうていうつべきはかりごとをぞめぐらしけるしくわうてい四かいにせんじをくだしたいしたんをうつべきはかりごとをめぐらされたりければたいしたんけいかだいじんをはじめとしてつはものあまたかたらはれけりまたここにでんくわうせんせいといへるつはものありけいかかれがもとにゆきてかたらはれければせんせいがまをしけるはきりんは千りをとべりといへどもとしおいぬればどばにもおとれりきみはこのみのわかうさかんなつしことをおぼしめしてかやうにたのみおほせさふらふがいかさまにもべちのつはものをかたらつてたてまつらむとていでければけいかかれがそでをひかへてあなかしここのことてんがにもらしたまふなよといひければせんせいたちかへつてなによりもひとにうたがはれぬるにすぎたるはぢはなしわれいはずともこのことてんがにもれなばさだめてうたがはれなんずひとのくちよりもれぬさきにこころやすうおもひたまへとてけいかがまえにてじがいしてこそうせにけれまたここにはんよきとまをすつはものありこれはもとじんのくにのものなりけるがおやをぢきゃうだいをしくわうていにほろぼされてえんのくにににげこもりたりしくわうてい四かいにせんじをくだしてはんよきがかうべならびにえんのさしづもつてまゐりたらむずるものには五百こんのきんをあたふべしとふれられたりければけいかかれがもとにゆいてわれきくなんぢがかうべ五百こんのきんにほうぜられたんなりまことになんぢしくわうていほろぼすべきこころざしならばなんぢがかうべわれにかせしくわうのだいりにもつてゆきえいらんをへられんときつるぎをむねにささんはやすかるべしといひければはんよきをどりあがりいきをついてまをしけるはわれおやをぢきゃうだいをしくわうわていにほろぼされよるひるこれをおもふにこつずゐにとほつてしのびがたしまことになんぢしくわうていほろぼすべきこころざしならばわがくびなんぢにあたへんことちりはひよりもなほやすかるべしとてけいかがまへにてみづからくびかきおとしうせにけりまたここにしんぶやうとまをすつはものありこれももとはじんのくにのものなりけるが十三のとしおやのかたきをうつてえんのくにににげこもりたりかれがいかつてむかふときはだいのをとこもぜつじゆしまたわらうてむかふときはみどりごもいだかれけりかれにはんよきがくびをもたせわがみはえんのさしづのいりたりけるひつをもつてじんのくにへぞむかひけるさうてんゆるしたまはねばはつこうひをつらぬいてとほさずさればわがほんいとげがたしとぞたいしたんはのたまひけるほどなうじんのくににいたりぬはんよきがかうべならびにえんのさしづもちてまゐりたるよしをそうもんすしくわうていひとしてうけとらむとのたまへばひとしてはかなふまじただちにたてまつるべきよしをまをしたりければしくわうていさらばとてにはかにせちゑのぎをととのへてえんのつかひをぞめされけるかんやうきうとまをすはみやこのめぐり一万八千三百七十よりとかやだいりをばちより三りたかくつきあげくろがねのついぢたかさ百よぢやうはう四十りにつかせそのうちにつくられたりあきはたのむのかりはるはかならずみやこよりこしぢへかへるものなればひぎやうじざいのさはりありとてついぢにはがんもんといへるもんをあけてぞとほされけるしろがねをもつてつきをつくりこがねをもつてひをつくれりしんじゆのいさごるりのいさごこがねのいさごをしきみてりちやうせいでんありふらうもんあり四十八でんのそのうちにしくわうていのつねにすまれけるでんありあはうきうとてくち六しやくのあかがねのはしらをたかさ卅六ぢやうにたてさせとうざいへ九ちやうなんぼく五ちやうにつくられたりおほゆかのしたには五ぢやうのはたほこをたてたれどもなほおよばぬほどなりかしこにたまのきざはしありしんぶやうこれをのぼるほどにおくしてもやありけんひざのふしわなわなとふるつてのぼりわづらふしんかあやしみをなしぶやうはむほんのこころざしありきみはけいじんにちかづかずけいじんをばまたきみのかたはらにおかずといひければけいかたちかへつてぶやうはむほんのこころざしなしえんのくにのいやしきにならつてかかるくわうきよをはじめてみるあひだめいわくすといはれてしんかおのおのしづまりぬそののちはんよきがかうべならびにえんのさしづともにひけんせらるさしづのいりたりけるひつのそこにつるぎのこほりなんどのやうにてみえければしくわうていおほきにおそれをののいていそぎにげんとしたまひけるをぎよいのたもとをむんずとひかへたてまつつてつるぎをむねにさしあてたてまつるすでにかうとぞみえたりける千万のつはものどもていじやうにひざをつらねけれどもすくはんとするにちからなしただこのきみぎやくしんにをかされたまはんことをかなしみけりとぞうけたまはるしくわうていは三千にんのきさきをもちたまへりそのなかにもくわやうぶにんとてならびなきことのじやうずにてましましけりしくわうていけいかにむかつてのたまひけるはわれにへんしのいとまをえさせよさいあいのきさきのことのねをいまいちどきかんとのたまへばけいかゆるしたてまつるきさきは七しやくのびやうぶをへだててことをしらべましましけりおよそこのきさきのことのねにはもののふのたけくいかれるもしづまりとぶとりもおちくさきもなびくばかりなりいはんやけふをかぎりただいまばかりのえいぶんにそなへむとしらべましましければさこそはおもしろかりけめけいかもぼうしんのこころうしなひはてかうべをうなだれみみをそばだててこれをきくそのとききさきはじめて一きよくをそなふ七しやくのびやうぶはたかくともをどらばこえぬべし一ぢようのらこくはつよくともひかばたえぬべしとしらべましましけるをけいかはこれをききしらずしくわうていはききしつてましましければひかへたりけるぎよいのたもとをふつつとひきちぎつて七しやくのびやうぶををどりこえあかがねのはしらのかげにかくれたまふけいかおほきにいかつてつるぎをなげかけたてまつるをりふしおんまへにばんのいしのさふらひけるがくすりのふくろをなげかけたりつるぎくすりのふくろをかけられながらくち六しやくのあかがねのはしらをなからまでこそきつたりけれけいかはつるぎのあまたもなければつづいてもなげずしくわうていたちかへりひしゆとまをすぎよけんをめしよせてけいかをやつざきにこそしたまひけれしんぶやうもうたれにけりそののちうつてをつかはしてたいしたんをもほろぼさるむかしもいまもおんをわすれちぎりをへんぜしものはつひにはかくこそありしかさればいまのひやうゑのすけもさこそはあらんずらむとしきだいするひともおほかりけり
文覚の勧進帳
 そもそもかのひやうゑのすけよりともといつぱ、おんとし十四とまをしし、えいりやくぐわんねん三月廿日のひ、いづのくにほうでうひるがしまにながされて、廿よねんのはるあきをおくり、ことしはすでに卅四にぞなられける。としごろひごろもあればこそありけれ、いかなればことししも、かかるむほんをおもひたたれける、ゆゑをいかにとまをすに、ごにちにきこえしは、たかをのもんがくしやうにんのおんすすめなりけるとぞきこえし。このもんがくしやうにんとまをすは、わたなべのゑんどうさこんのしやうげんたいふもちとほがこに、ゑんどうむしやもりとほとて、じやうさいもんゐんのしゆなり。しかるにもりとほ十九のとし、あさからずおもひけるをんなにおくれ、けんごのだうしんおこして、やまやまてらでらしゆぎやうしけるが、あるときおほみねをぎやうぜばやとおもひ、せんだちかたらうてくまのへまゐり、なちに千にちこもり、おほみねことゆゑなうぎやうじてのち、さすがこきやうやこひしかりけむ、みやこにのぼり、たかをとまをすところにしばらくおこなひてぞさふらひける。せんねんたかをに、じんごじとまをすやまでらあり。ひさしくしゆざうなくしてあれはいせり。とびらはかぜにたふれて、むなしくおちばのしたにくち、のきばはあめにをかされて、ぶつだんさらにあらはなり。もんがくわれたまたまにんげんにしやうをうけ、さいはひにしゆつけとんせいのみとなれり。あたらしうだうたふをたてんより、ふるきをこんりふしたらむにはしかじと、たいきやうにもみえたり。せんずるところしゆざうせばやとおもひ、くわんじんちやうをかきて、十ぱうだんなをすすめありきけるが、あるときゐんのごしよほうぢうじどのにまゐり、ほうがのよしをまをしければ、ひとびとけうなるひじりのごばうかな、ぎよいうのをりふしぞ、わたるにまゐれとおほせければ、もんがくこれはまをせどもひとがそうせぬぞとこころえて、もとよりふてきだい一のあらひじりにてはさふらひけり。おんつぼのうちにやぶりいつて、だいじだいひのきみにてわたらせたまへば、などかごほうがのなかるべきとて、ふところよりくわんじんちやうをおつとりいだし、おそろしげなるこゑをもつて、たからかにこそよみたりけれ。しやみもんがくうやまつてまをす、ことにはじうばうだんなのごじよじやうをかうぶつて、たかをさんのいちに一ゐんをこんりふし、げんたうニせあんらくのだいりを、こんぎやうせしめんとこふくわんじんのじやう。それおもんみれば、しんによくわうだいなり。しやうぶつのけみやうをたつといへども、ほつしやうずゐまうのくもあつくおほひて、はるかに十二いんえんのみねにたなびきしよりこのかた、ほんうしんれんのつきのひかりかすかにして、いまだ三どく四まんのそらにあらはれず、かなしいかな、ぶつじつはるかにぼつして、しやうじるてんのちまたみやうみやうたり。いろにふけり、かにほこる、たれかきやうざうてうゑんのまどひをしやせん。ひとをばうしほふをばうす、あにえんらごくそつのせめをまぬがれんや。ここにもんがく、たまたまぞくぢんをはらひて、ほうえをかざるといへども、あくぎやうなほこころにたくましくしてにちやにうつり、ぜんいんまたみみにさかつててうぼにすたる、いたましいかな、ふたたびさんづのくわきようにかへつて、かさねてしやうじのくりんをめぐらんことを、このゆゑにむにのけんしやう千万ぢく、ぢくぢくにぶつしゆのいんをあらはし、ずゐえんししやうのほふ、みなもつてぼだいのひがんにいたらずといふことなし。ゆゑにもんがくむニのくわんもんになみだをおとし、じやうげしんぞくのけちえんをもよほし、じやうぼんれんだいにふをはげまして、とうめうかくわうのれいぢやうをたてんとなり。それたかをさんは、やまうづたかうしてしゆぶのやまのこずゑをまなび、たにしづかにしてしやうさんとうのこけをしく。がんせんむせんでぬのをひき、れいゑんさけんでえだにあそぶ。じんりとほくしてがうぢんなく、しせきことなうしてしんじんのみあり。ちけいすぐれたり。もつともぶつてんをあがむべし。ほのかにきくしゆさゐぶつたふくどく、たちまちにぶついんをかんず、いはんやいつしはんせんのほうさいにおいてをや。ねがはくはこんりふじやうじゆして、きんけつほうれきごぐわんゑんまん、ないしとひゑんきんりんみんしんそ、ともにげうしゆんぶゐのくわをうたひ、ちんえふさいくわいのゑみをひらかん。かねてまたしやうりやういうぎぜんごだいせう、ともにいちぶつしんもんのだいにいつて、おなじく三(イ三身)万とくのつきをもてあそばんや。よりてくわんじんしゆぎやうのおもむきけだしもつてかくのごとし。ぢしよう三ねん三ぐわつ廿かのひ もんがくほうしうやまつてまをすとぞよみあげたる。
文覚の流され
 さるほどにほうぢうじどのにはめうおんゐんのだいじやうだいじんもろながびはかきならしあぜちのだいなごんすけかたのきやうひやうしをうちてふぞくさいばらうたはれけりげんせうしやうまさかたわごんをしらべ四ゐのじじうもろさだいまやうとりどりにうたうてたまのすだれもれいれいとしてまことにおもしろかりければほうわうもぎよかんのあまりおんつけうたなんどさふらひけるにそれにもんがくがもつてのほかおほごゑにてうしもはやことごとくみだれぬほうわうあれなにものぞらうぜきなりつゐほうせよとおほせくださるるほどこそありけれあはれなにごとかなことにあはばやとおもふはやりうのものどもはしりよりていかにけうのひじりぎよいうのをりふしぞごにちにまゐれとおほせければもんがくあなことごとしたかをのじんごじにおいてくににてもしやうにてもいつしよよせたまはざらんほかはまつたうまかりいづまじとぞまをしけるそののちすけゆきはんぐわんはもんがくがそくびつかんとてよりけるをもんがくくわんじんちやうをばひだりのてにおつとりなほしみぎのかひなをさしいだしすけゆきはんぐわんがゑぼしをうつてうちおとしむねをばぐとついてのけにつきたふすすけゆきはんぐわんはもんがくにゑぼしうちおとされをめをめとなりておほゆかのうへへぞにげのぼりけるそののちもんがくはむまのをにてつかまいたるかたなのそのたけ七すんばかりありけるがよそよりはこほりなんどのやうにみえけるをぬきもつてよりくるものあらばつかんとこそはまちかけたれもんがくひだりのてにはくわんじんちやうをもちみぎのてにはかのかたなをもつてはしりありきければおもひもかけぬにはかごとにてはさふらひけりひとめにはたださうのてにかたなをもつたるやうにぞみえしほうわうもえいりよをおどろかさせおはしますわかきくぎやうでんじやうびとやつぼねのにようばうたちにいたるまでこはいかなるべしともおぼえさせたまはずここにしなののくにのぢうにんあんどうみぎむねがたうしよくにてむしやどころにさふらひけるがたちをぬいてつつといでくわんじんのひじりをきつてはせんなしとてやおもひけんもんがくがかたなもちたるかたのかひなをたちのみねにてかたかけてしたたかにうつうたれてひるむところをたちをなげすてはしりかかつてむずとだくもんがくはだかれなからみぎむねがかひなをぞついたりけるみぎむねはつかれながらぞしめたりけるもんがくもつよしみぎむねもつよかりければたがひにうへになりしたになりころびあふところをここかしこへにげちりたりつるものどもわがかうみやうがうにちぎりきさいぼうをもつてよりもんがくがはたらくところのぢやうをさんざんにがうしてんげりされどももんがくはちつともいろもへんぜずわるびれたるけしきもなくゐをりいよいよあくこうほうごんをぞしけるたとひほうがをこそしたまはざらめこれほどにくわんじんのひじりにからきめをみせたまひぬればたんだいまおもひしらせまをさんずるものを三がいはみなこれくわたくなりわうぐうとてものがるべからずたとひいまこそ十ぜんのていゐにほこつたうともくわうせんのたびにおもむきたまひなんのちはごづめづのせめをばよにしまぬがれたらじものをまぬがれたらじものをとをどりあがりをどりあがりぞまをしけるそののちもんがくをばちやうのものにたぶちやうのものたまはつて七八にんがなかにひつたてていでけるがちやうのものどもはもんがくをひつたてていづるとおもひけれどもひとめにはただちやうのものどもがもんがくにひつたてられていづるとぞみえしもんがくをばやがてごくぢやうせらるそののちすけゆきはんぐわんはもんがくにゑぼしうちおとされめんぼくなくやおもひけむしばしはしゆつしもせざりけりあんどうみぎむねはもんがくにくみたるけんしやうにたうざに一らふをへずしてうまのじようにぞなされけるそのころびふくもんゐんにはかにかくれさせたまひしかばもんがくやがてごくをばいだされけりもんがくなほもこりぬさまにてまたくわんじんちやうをかいて十ぱうだんなをすすめありきけるがへいけのひとびとのあたりとほるとおぼしきときはあつぱれてうおんにほこりたるへいけのひとびとのたんだいまよのみだれいできてうせはてにあはうずるものをあはうずるものをとかやうにのろのろしきことをいひありきければすべてこのほうしみやこのうちにはかなふまじさらばをんるせよやとていづのくにへぞながされけるこれぞへいけのうんのきはめなるかいだうはかなふまじふねにのせてくだせやとていせのくにあののつよりふねにのせてくだすほどにとほたふみのくにてんりうなだ九十九ひきのこまがたなんどまをすあくしよをすぎゆくほどにをりふしおほかぜおほなみたつてふねすでにじゆかいせんとすすゐしゆかんどりどもろかきかぢをたてなほせどもかなはずあるひはくわんおんのみやうがうをとなへあるひはさいごの十ねんにおよびけれどももんがくはちつともさわがずふなぞこにざぜんしてこそゐたりけれすゐしゆかんどりどもいかにひじりのごばうこれほどにおほかぜおほなみたつてふねすでにじゆかいせんとするになどきやうをもよみねんぶつをもまをしてりうじんにたむけいのちたすからんとはおもひたまはぬぞといひければもんがくげにもとやおもひけんかつぱとおきなほりふなばたにあゆみいでだいのまなこにかどをたてうみのおもてをはつたとにらまへていかにりうわうやあるいかにりうわうやあるこれほどにだいぐわんおこしたるひじりをいかでしづめてみんとはするぞたんだいまてんのせめかうぶらんずるりうじんどもかなとよばはつたりければりうじんこのことばにやおそれけんなみかぜしづまつてことゆゑなくいづのくににぞつきにけるもんがくだいぐわんをおこすことありわれふたたびみやこにのぼりたかをのじんごじをしゆざうすべくばしぬまじさらずばしぬべしとてみやこをいでしひよりしていづのくににつくまで二十一にちがあひだはゆみづをだにものみいれずだんじきしてこそくだりけれされどもきりよくすこしもおとろへずざぜんぎやうほふをもおこたらずしていづのくににぞつきにけるそのほかただびとならずとおもふことどもおほかりけり
福原院宣
 さるほどにもんがくをばたうごくのざいちやうこんどう四らうくにたかうけとつてなごやがをかにぞおきたりけるそれよりひやうゑのすけのおはするところもほどちかかりければつねはよりあひきやうゐなかむかしいまのことどもをかたりあはせてたがひになぐさめあはれけりあるときもんがくひやうゑのすけにまをしけるはへいしにはこまつどのばかりこそおんこころもがうにごさいかくもゆゆしうわたらせたまひたりしかどもそれもへいけのうんめいをはかつてきよねんの八ぐわつにこうじたまひぬいまはげんぺいりやうけのうちをみるにごへんほどしやうぐんのさうもちたるひともおはせぬぞはやはやおもひたつてへいけをほろぼしにつぽんのしやうぐんとならむとはおもひたまはずやといひければひやうゑのすけそれおもひもよらぬことなりそのゆゑはさんぬるへいぢにいけどりにせられてすでにちうせらるべかりしをこいけのぜんににいのちたすけられまゐらせしのちはまいにちほけきやうを二ぶようで一ぶをばぶもけうやう一ぶをばかのぜんにのためにたむけたてまつるよりほかはまたたじなしとぞのたまひけるもんがくかさねてまをしけるはてんのあたふるをとらざればかへりてそのとがめをうけときいたつておこなはざればそのわざはひをうくといふほんもんありごへんにこころざしのありなきをばこれにてよくしりたまへとてふところよりぬののふくろにいれたるしやれたるかうべをなげいだしひやうゑのすけにたてまつるひやうゑのすけあれはいかにとのたまへばこれこそごへんのちちこさまのかうのとののおんくびよさんぬるへいぢにごくしよのへんにうづもれておはしけるをもんがくあまりのいたはしさにほりおこしたてまつつてこの二十よねんがあひだみをはなたずとぶらひたてまつりぬればいまはさだめて一ごふもうかびたまひぬらむさればもんがくはこさまのかうのとののおんためにはほうこうのものにてさふらふものをなんどやうやうにまをしたりければひやうゑのすけこれをまこととはおもはれざりけれどもちちのくびときくがなつかしさにひだりのそでにうけとつてまづなみだをぞながされけるそれよりしてぞむほんをばやうやうおもひたちたまひけるそののちひやうゑのすけのたまひけるはたとひさやうのことおもひたつともちよくかんをゆるされまゐらせずしてはいかがあるべきとのたまへばもんがくそれはわれみやこにのぼりまをしてゆるしたてまつらんひやうゑのすけおほきにあざわらつてごへんもるにんのみとしてひとのちよくかんをまをしてゆるさんとのたまふこそおほきにまことしからねとのたまへばもんがくやらそれはわがゆりんとまをさばこそひとのちよくかんをまをしてゆるしたてまつらむはなじかはくるしかるべきこれよりふくはらのしんとへ三かゐんぜんうかがはんに一にちじやうげ七か八かにはよもすぎじあひかまへてそのあひだはまちたまふべしとてさせるりやうじやうはなけれどももんがくばうにかへりでしどもにあうてかたりけるはわれいづのおやまに七かさんろうのこころざしありたとひひとたづぬるともあひかまへてこのよしかくとかたるべからずとておひをかけばうをいでよをひについでのぼるほどに三かとまをすとりのこくばかりにふくはらのしんとにのぼりつきうひやうゑのかみみつよしのもとにいささかゆかりありければもんがくかしこにおちつきみつよしにあうてかたりけるはいづのくにのるにんさきのうひやうゑのごんのすけよりともこそちよくかんをだにもゆるされまゐらせばへいけをほろぼさんとまをせなんどかたりければみつよしたうじはきみもへいけにおしこめられさせたまひてつきひのひかりをだにもはかばかしうごらんぜずみつよしも三くわんともにおしとどめられてこころぐるしきをりふしなりとはのたまへどももんがくかさねてまをしければみつよしおんまへにまゐりこのよしをそうしまをされたりければほうわうなのめならずぎよかんなつてやがてゐんぜんあそばしてぞたうだりけるもんがくゐんぜんたまはつてなのめならずよろこびまたよをひについでくだるほどにひやうゑのすけあはれこのひじりのなまじひなることまをしいだしまたいかなるうきめにかあはんずらむなんどおもはじなきこともなうあんじつづけておはしける七かとまをすいぬのこくばかりにもんがくいづのくににおちつきたまひてくはやとのひやうゑのすけゐんぜんよとてなげいだすひやうゑのすけゐんぜんときくがかたじけなさにあたらしきじやうえをきてうづうがひしてそののちかのゐんぜんをぞひらかれけるそのじやうにいはくへいしわうくわをべちじよしてせいだうにはばかることなしそれわがてうはしんこくなりそうべうあひならむでじんとくこれあらたなりゆゑにてうていかいきののちす千よさいのあひだていゐをかたぶけこくかをあやぶめんとせしものみなもつてはいぼくせずといふことなしこれによつてかつはしんだうのみやうじよにまかせかつはちよくせんのしいしゆにまかせてはやくへいじのいちるゐをほろぼしててうのをんてきをしりぞけてふだいきうせんのひやうりやくをつぎてみをたていへをおこすべしてへりゐんぜんかくのごとくよりてしつぴつくだんのごとしぢしよう四ねん七ぐわつ九かのひうひやうゑのかみみつよしがうけたまはりたてまつりてひやうゑのすけどのへとぞあそばされたる
富士川合戦
 そののちかのゐんぜんをばにしきのふくろにいれていしばしのかつせんのときもひやうゑのすけのくびにかけられけるとぞきこえしさるほどにふくはらにはさらばまづとうごくへうつてをむけよやとてたいしやうぐんにはこまつのごんのすけせうしやうこれもりふくしやうぐんにはさつまのかみただのりさぶらひたいしやうにはかづさのかみただきよちやくしたらうはんぐわんただつなひだのかみかげいへそのこたいふのはんぐわんかげたかかはちのはんぐわんひでくにたかはしのはんぐわんながつないとう九らうすけうぢまたのの五らうかげひさむさしの三らうさゑもんありくにながゐのさいとうべつたうさねもりをさきとしてつがふそのせい三まんよきおなじき九ぐわつ十八にちにふくはらをたちてあくる十九にちにきうとにつきおなじき二十かのひとうごくへはつかうせられけりなかにもこまつのごんのすけせうしやうこれもりはしやうねん廿三になられけるがようぎたいはいよにすぐれむまくらもののぐにいたるまであたりもてりかがやくほどにぞみえられけるそのほかわれもわれもといでだたれたりしありさまめづらしかりしけんぶつなりせんぢやうへむかふたいしやうぐん三のそんちありせつとをたまはるときいへをわすれいへをいづるときつまこをわすれかたきとたたかふときみをわするるといふほんもんありこのひとびともさこそはおもはれけめとあはれなりなかにもふくしやうぐんさつまのかみただのりのねんらいかようてあそばされけるみやばらのにようばうのもとよりこそでをひとかさねおくられけるが千りのなごりををしみつつ一しゆのうたをぞおくられけるあづまぢのくさばをわけてそでよりもたたぬたもとはなほぞつゆけきただのりのへんじにはあづまぢをなにとなげかんこえてゆくせきをむかしのあととおもへばせきをむかしのあととおもへばとよめるうたのこころはこのひとびとのせんぞへいしやうぐんさだもりさうまのまさかどつゐたうのためにとう八ケこくへこえられたりしこころをおもひいでてやよまれたりけむいとやさしうぞきこえしてうてきをたひらげにぐわいとへむかふしやうぐんはまづさんだいしてせつたうをたまはるものなればしゆじやうしんぎなんでんにしゆつぎよなつてないべんぐわいべんのくぎやうさんれつしてちうぎのせちゑをおこなはるしようへいてんぎやうのしようせきもとしひさしくしてなぞらへがたしこれはほりかはのてんわうのおんときさぬきのかみまさもりがいまだいなばのかみたりしときつしまのかみみなもとのよしちかつゐたうのためにいづもへげかうしたりしれいとてすずばかりをたまはつてかのふくろにいれざふしきがくびにかけさせてぞくだられけるさるほどにへいけはここのへのみやこをたちてのはらのつゆにやどをかりたかねのくもにたびねしてやまをかさねかはをへだてつつやうやうくだりたまふほどに十ぐわつ十六にちにはするがのくにきよみがせきにぞつきたまひけるろじのつはものかりぐしてつがふそのせい七万よきせんぢんはふじかはかんばらにささへければごぢんはいまだてごしうつのやまにこそみちみちたれつぎのひせうしやうさぶらひたいしやうかづさのかみただきよをめしておなじうはあしがらをうちこえ八ケこくについてかつせんせばやとおもふはいかがあるべきとのたまへばかづさのかみかしこまつてまをしけるはとうごくはくさもきもみなひやうゑのすけにしたがひつきてさふらへばおよそ二三十まんきにおとることはさふらふまじみかたはわづかに七万よきとはまをせどもあるひはざふひやうあるひはくにぐにのかりむしやどもにてながたびにせめつかれてはいかにもかなひさふらふまじただこのたびもやまをまへにあてかはをへだててみかたのおんせいをまたせたまふべうもやさふらふらんとまをしたりければこのうへはせうしやうもちからおよびたまはずなかにもふくしやうぐんさつまのかみただのりあはれひとのこころののびたるほどくちをしかりけるものあらじにふだうのいま一にちもさきにうつてをむけられたらんにはおほばやはたけやまが一たうはまつさきにこそまゐらんずれこれほどにこころうきことあらじとぞのたまひけるそののちせうしやうとうごくのあんないしやにめしぐせられたりけるながゐのさいとうべつたうさねもりをめしてとうごくになんぢほどのおほやいるものはいかほどあるぞとのたまへばさねもりおほきにあざわらつてきみはさねもりをもおほやいるものとおぼしめされさふらふかわづかに十三ぞくをこそつかまつりさふらへとうごくにおほやとまをすぢやうのものの十五そくにおとつてひくはさふらふまじゆみは三にん五にんしておしかかるおほゆみおほやをもつてつかまつりさふらへばよろひの二三りやうはかけずとほりさふらふとうごくにだいみやうとまをすぢやうのものの五百きにおとつてつるるはさふらふまじむまをのるにおつることをしらずあくしよをはするにむまをたふさずさいこくぶしきないのつはものどもこそおやうたれさふらへばこはひきしりぞきいみあひてよせこうたれさふらへばおやはひきしりぞきけうやうしてはよせさふらへとうごくにはすべてそのぎさふらふまじおやうたれんとすればこはさきにしなんとすすみしううたれんとすればいへのこらうどうはさきにしなんとすすみさふらふおやもうたれよこもうたれよしにんをのぼりこえのぼりこえたたかうさふらふかひしなののげんじやまのあんないはしつたりからめてさだめてまはりさふらふらんことにげんじはようちをこのみさふらふかやうにまをせばとてきみをおくせさせまゐらせんとにはさふらはずいくさはせいにはよらずはかりごとによるとむかしよりまをしつたへてさふらへばよくよくごようじんあるべしとかやうにおびただしげにまをしたりければへいけのつはものどもみないろをうしなつてぞふるひけるさるほどにかまくらのひやうゑのすけよりともはおなじき十八にちに十八まんきにてあしがらをこえたまふかひげんじなんぶたけだをがさはら一まんきにてふじのこしをつたうてひやうゑのすけと一になるしなのげんじおほうちひらがきそのくわんじやこれも一まんよきにてひやうゑのすけと一つになるげんじほどなく廿万きになりにけりおなじき廿かのひげんじ廿万きふじかはのはたにうちいでむかひのきしにぢんをとるげんぺいたがひにかはをへだててささへたりおなじき廿三にちのうのこくにげんぺいたがひにやあはせとぞさだめてんげるへいけのかたにはこのよしをきいていくさはこんみやうのほどにてはよもさふらはじいざやたびのなごりををしまんとてそのへんちかきしゆくじゆくよりいうくんいうぢよどもよびむかへあるひはえびらをといてまくらとしあるひはかぶとをふせてまくらとしぜんごもしらずぞうちとけたるながゐのさいとうべつたうさねもりこのよしをみてゆくすゑたのもしからずやおもひけんまたいへのなををらじとやてぜい五十よきをひきわけてさきにきやうへぞのぼりけるせうしやうこはいかにさねもりがなきところにてはいくさはせられぬことかとぞのたまひけるさるほどにげんぺいたがひにやあはせとさだめてんげるそのよのやはんばかりにふじぬまにいくらもむれゐたりけるすゐてうどもがなににかはおどろきたりけむ千万たつはおとのおほかぜおほなみなんどのやうにきこえければへいけのつはものどもこのよしをきいてあはやさねもりがいひつるやうにげんじはようちこのみときくにあはせてただいまよせたるにこそわれらぶあんないなりこれにてとりこめられてはかなふまじすのまたあじかをふせげやとてわれさきにとぞのぼりけるあまりにあわてたるものどもはゆみ一ちやうに二三にんたち一ふりに一二にんとりつきわがよひとのよとうばひやうなほもあわてたるものどもはつなぎむまにのつたりければうてどもうてどもただくひをのみこそまはりけれなほもあわてたるものどもはさかさまむまにのつたりければぬしはにしへとこころざせばむまはひんがしへはしるもありそのへんちかきしゆくじゆくよりいうくんいうぢよどもよびむかへたりければかかるさうだうにあるひはこしふみぬかれあるひはかしらふみわられをめきさけぶありさまをかしかりしことどもなりおなじき廿三にちのうのこくにげんじ廿万きふじかはのはたにうちいでときをどつとつくつたりけれどもへいけのかたにはしづまりかへつておともせずひやうゑのすけおほきにふしぎのおもひをなしひとをつかはしてみせられければへいけはおちてさふらはずとまをすあるひはよろひわすれてさふらふあるひはかぶとわすれてさふらふあるひはおほまくわすれてさふらふあるひはえびらわすれてさふらふとててんでにもつてまゐるひやうゑのすけわうじやうのかたをふしをがみこれよりともがゐせいにあらずうぢがみ八まんだいぼださつのおんはからひにてぞわたらせたまふらんやがてつづいてもせむべけれどもあとのこともおぼつかなければとてそれよりかまくらへこそかへられけれへいけはただにげにしてきやうへのぼるそのへんちかきしゆくじゆくのものどもこのよしをみてむかしよりみにげといふことはあれどもききにげといふことはいまだなしせんぢやうへむかふたいしやうぐんやひとつをだにもいすてずにげのぼるゆくすゑとてもたのもしからずさよとぞまをしけるなかにもかづさのかみただきよがふじかはによろひわすれたりければただきよがただをとつてふじかはによろひはすてつすみぞめのころもただきよのちのよのためふじかはのいはこすせぜのみづよりもはやくもおつるいせへいしかなただきよはにげのむまにぞのりてけるかづさしりがひかけてとどめよへいけをひらやによみなしてひらやなるむねもりいかにさわぐらんはしらとたのむすけをおとしてにふだうしやうごくこのよしをききたまひておほきにはらをたてせんずるところせうしやうをばきかいがしまへながすべしかづさのかみにははらをきらせんといかられけるをひとびとやうやうにとりまをされたりければそのうへはにふだうもちからおよびたまはずされどもふくはらにはしんとのことはじめあるべしとてさとだいりきらぎらしうつくりいだしたてまつつておなじき十一ぐわつ七かのひごせんかうとぞきこえしされどもこのみやこはきたはやまにそうてたかくみなみはうみちかくてくだれりつねはなみのおとしほかぜはげしくしてかまびすきところなりだいりはやまのなかなればきのまろどのもかくやとおぼえてなかなかいうなるところもありひとびとのいへいへはのなかたなかなりければあさのころもはうたねどもとをちのさとともいつつべし
五節の沙汰(あひ)
 ことしはだいじやうゑあるべしとててんがみなそのいとなみなりだいじやうゑとまをすは十ぐわつのすゑにしゆじやうひがしかはらへみゆきなつてごけいありだいだいのきたののにざいちやうしよをつくつてじんぷくじんぐをととのふりようびだうのだんじやうにくわいりうでんをたててみゆをめすおなじきだんのならびにだいじやうぐうをつくつてしんせんをそなふしえんありぎよいうありせいしよだうのみかぐらありされどもふくはらにはだいごくでんなければたいれいおこなはることもなくせいしよだうもなければみかぐらをもそうせずことしは五せちしんじやうゑばかりあるべしとてなほしんとのおんまつりごとをばきうとのじんぎくわんにてぞとげられける五せちはこれむかしきよみはらのてんわうのおほとものわうじにおそれさせたまひてやまとのくによしののおくにすませたまひしときつきしろくさえあらしはげしきよみかどきんをしらべたまひしにしんぢよたちまちにあまくだつてをとめごがをとめさびしもからだまやそのからだまやからだまと五へんこれをうたうて五たびそでをひるがへすこれぞ五せちのはじめなるこんどのみやこうつしのことをばきみもしんもおほきになげきおぼしめされけるうへべつしてさんもんのたいしゆたびたびそうじやうをもちてなげきまをしけりだい三ケどのそうじやうににふだうだうりしごくしてやおもはれけんおなじき十二ぐわつ十かのひみやこがへりあるべしとぞきこえしへいけのひとびとのかくかへりのぼられけるうへはましてたけのひとびとのたれかこころうかるべきふくはらのしんとに一にちもやすらふべきにあらずとてわれさきにとぞのぼられけるひとびとのいへいへをばさんぬるなつかもがはかつらがはにこぼちいれいかだにくみうかべしざいざふぐをふねにつみてふくはらへはこびくだされたりげればないないとりたてられけれどもいまはなにごとのさたにもおよばずみなうちすてうちすてぞのぼられけるおのおのすみかもなければあるひは八はたかもひよしさがうづまさにしやまひがしやまのかたほとりについてあるひはやしろのはうぜんあるひはみだうのくわいらうにさもしかるべきひとはみなたちやどつてぞおはしける
奈良炎上
 こんどのみやこうつりのほんいをいかにとまをすにきうとはさんもんなんとちかくしていささかのこともあればあるひはなんとのしんぼくをささげたてまつつてしやうらくしあるひはひよしのしんよをかきささげたてまつつてつねはげらくするあひだふくはらはえもはるかにへだたりみちのほどもとほければさやうのことによもたやすからじとにふだうはからひいだしてうつされけるとぞきこえしこんどたかくらのみやのごむほんのどうしんによつてなんとのうつぷんいまだやまずせつしやうどのよりはしゆとをめされてなにごとにてもぞんずるむねあらばそうもんにおよべかしとおほせければだいしゆかしこまつてうけたまはりただだいじやうのにふだうにあうてしにたうさふらふとぞまをしけるそののちなんとにはほうしばらにおほせておほきなるぎつちやうのたまをつくらせこれはきよもりにふだうがくびとなづけてうてふめなんどぞまをしけるまたつちにて八しやくのにんぎようをつくらせはんにやじのおほそとばにくぎづけにしてこれこそだいじやうのにふだうをはつつけにあはすれなんどぞまをしけるこのひとかたじけなくもかしはばらのてんわうのみすゑみかどのごぐわいしやくにてだいじやうだいじんまでもたやすくへあがりたまふほどのひとをかやうにまをすなんとのだいしゆにてんまいれかはれりとぞひとまをしけることのもらしやすきはわざはひをまねくなかだちとつつしまざるはやぶれをとるもとゐともかやうのことをやまをすべきそののちだいりにはくらんどのせうしやうちかまさにおほせてなんとしづめよとてくだされければだいしゆきづがはのはたにゆきむかひみやこよりのみつかひをさんざんにりようりやくしあまさへくわんがくゐんのざふしきニにんがもとどりきりみつかひちかまさがもとどりもきれやきれとののしりければちかまさおほきにいろをうしなつてにげのぼるにふだうまたせのをのたらうかねやすをやまとのくにのけびゐしよにふしてなんとしづめよとてくだされけるがわざとゆみやうちものこしのかたなをもたいすべからずとのたまへばうけたまはつてかねやす五百よきにてむかひけるがみなしらしやうぞくなりだいしゆまたきづがはのはたにゆきむかひかねやすがてぜい五百よきをさんざんにけちらしあまつさへつはもの六十よにんがくびをきつてさるさはのいけのはたにぞかけさせけるへいけかやうのことどもをなじかはよしとおもはるべきさらばまづなんとをもはつかうせよやとてたいしやうぐんにはにふだうの四なんくらんどのとうしげひらさぶらひたいしやうにはゑつちうのぜんじもりとしじらうびやうゑもりつぎかづさの五らうびやうゑただみつゑひのじらうもりかたをさきとしてつがふそのせい四万よきぢしよう四ねん十二ぐわつ廿八にちになんとへこそはつかうせられけれなんとにもならざかはんにやじふたつのみちをきりふたぎざいざいしよしよにやぐらをかいてまちかけたりくわんぐんは四万よきむまむしやどもがさしつめひきつめさんざんにいるだいしゆは七千よにんみなうちものかちだちなりければそのひ一にちたたかひくらしよにいりければならはんにやじ二ケしよのじやうかくやぶれにけりはぢをもおもひなをもをしむだいしゆはならざかにてうちじにしはんにやじにてじがいすぎやうぶもかなはぬらうさうあゆみもやらぬしゆがくしやはにはにいでおほくじがいしてんげりここにおちゆくせいのうちにさかの四らうばうえいがくとてうちものとつては七だいじ十五だいじにもすぐれたりもえぎのはらまきにくろいとをどしのよろひをかさねてきぼうしかぶとに五まいかぶとをおなじくかさねてきるままにかたてにはしらえのおほなぎなたのさやをはづしかたてにはおほたちをぬきもちわれにおとらぬでしどうじゆく十よにんぜんごさいうにたててんかいのもんよりうつていでにしにむけてしんばしささへたりけるにぞむまのあしながれてくわんぐんおほくほろびにけるおなじき廿八にちのよのことなりければくらさはくらしかたきもみかたもみえわかずたいしやうぐんくらんどのとうしげひらほつけじのとりゐのまへにうちたつてひをいだせやとげぢせられたりければはりまのくにのぢうにんふくゐのしやうのげいし二らうたいふともかたがてよりもたてをわつてたいまつにしてんかいのみなみなるにしのざいけにひをぞかけたりけるほもとはひとつなりけれどもふきまよふかぜにおほくのがらんにおしかけかけたりぶつざうきやうくわんほふもんしやうけうのたぐひ一くわんものこらずくわいろくすでにたにことにしてせいやう一てうのけぶりをなすじんじやうなるちごにようばうやだうぞくなんによのきらひなくあるひはやましなでらとうだいじへわれさきにとぞにげこもりけるだいぶつでんの二かいにもらうせう二千にんばかりにげのぼりかたきをのぼせじとやがてはしをばひかせけりさりともとこそおもひしにみやうくわはまさしくおしかけたりをめきさけぶありさまけうくわんだいけうくわんせうねつだいせうねつむげんあびほのほのにはのざいにんどものかなしびもこれにはすぎじとぞみえしこうふくじはこれたんかいこうのごぐわんとうしるいだいのてらなりとうこんだうにおはしますぶつぽうさいしよのしやかのざうさいこんだうにおはしますじねんゆしゆつのくわんぜおんるりをならべし四めんのらうしゆたんをまじへし二かいのろう九りんたかくかがやける二きのたふもたちまちにけぶりとなるこそかなしけれとうだいじはこれじやうざいふめつじつほうじやくくわうのしやうじんのによらいとなぞらへてしやうむくわうていてづからみづからゐうつしまゐらつさせたまへるこんどう十六ぢやうのるしやなぶつうしゆつたかくそびえてははんてんのくもにかくれびやくがうあらたにみがかれたまふまんげつのおんよそほひみぐしはやけおちてだいちにありごしんはわきあひてつかのごとし八万四千のさうかうはあきのつきはやく五ぢうのくもにかくれ四十一ちのやうらくはよるのほしむなしく十あくのかぜにただよひけぶりはちうてんにみちみちてみやうくわはこくうにひまぞなきまのあたりみるものはさらにまなこをあてずかすかにつたへきくひとはきもたましひをうしなへりてんぢくしんたんはしらずにつぽんわがてうにおいてはかかるほふめつはまだなしぼんしやく四わうりうじん八ぶみやうくわんみやうしゆもさだめておどろきさわぎたまふらんとぞおぼえたるほつさうおうごのかすがのだいみやうじんもいかなることをかおぼしめされけんしんりよのほどもはかりがたしさればにやかすがののつゆいろかはりみかさやまのあらしのおとまでもみなうらむるさまにぞきこえけるおなじき廿九にちにたいしやうぐんくらんどのとうしげひらなんとほろぼしてほつきやうへこそかへられけれこんどちやうぼんのあくそうどものくびをばごくもんにかけらるべしなんどごさたありしかどもなんとほろぼしてめんぼくなくやおもはれけんこくさうゐんのみなみなるほりやみぞにぞすてられけるこんどせんぢやうにてうたるるだいしゆかずをしらずやけしぬるもの四千にんあるひはやましなでらにて六百よにんあるひはみだうにて三百よにんまたあるみだうにて五百よにんだいぶつでんのニかいにも一千七百よにんとかやいじやう四千よにんとぞしるされけるこんどなんとほろぼしてへいけばかりいきどほりはれておもはれけん一ゐんしんゐんせつしやうどののおんなげきまをすばかりもなかりけりたとへあくそうどもをこそほろぼすといふともがらんをはめつすべしやはとぞおんなげきありけるさればしやうむくわうていのしんぴつのごきしやうもんにもわがてらすゐびせばてんがもかならずすゐびすべしわがてらこうふくせばてんがもかならずこうふくすべしとこそあそばされけんなれいまこれほどにちりはひとなりぬるうへはてんがのめつばううたがひなしさるほどにとしくれてぢしようも五ねんになりにけり

平家物語(城方本・八坂系)
巻第六
新院の崩御
 ぢしよう五ねんしやうぐわつついたちのひだいりにはとうごくのへいかくなんとのくわさいによつてはいらいなしこでうはいもおこなはれず二かのひでんじやうのゑんすゐもなししんゐんのごしよにはごなうときこえさせたまひしかばなんにようちひそめてきんちうのありさまいまいましきほどなりほうわうもないないおほせけるは四だいのていわうおもへばこなりまごなりしかるにせいむをもしろしめさずしてとしつきをおくらむこころうしとぞおほせけるなんとのそうがう三十四にんをげくわんせらるあくそうどもをばきんごくせらるしうとはせんぢやうにてうたれあるひはやきころされあるひはながしうしなはれしかばたまたまのこるものどももいへかまどをすててみなさんりんにこそまじりけれなかにもこうふくじのべつたうけりんゐんのそうじやうやうゑんはほうもんしやうけうのけぶりとなるをみたまひしひよりしてやまひつきほどなううせたまひぬこのやうゑんはやさしきひとにてぞましましけるあるときほととぎすのなくをききたまひてきくたびにめづらしければほととぎすいつもはつねのここちこそすれ とよまれたりけるによつてこそはつねのそうじやうとはめされけれおなじき四かのひそうみやうのさたありしかどもなんとはげくわんせられぬさらばてんだいしうのしゆとばかりをめさるべきかさらずはごえんいんあるべきかなんどごさたありしかどもことしはごさいゑばかりあるべしとてさんろうしうのがくしやうのなかにじやうほうわうかうとてくわんじゆじにさふらはれけるらうそうばかりをめされてぞかたのごとくのごさいゑをばとげられけりそのほどにしんゐんのごしよはこぞのふゆよりごなうときこえさせたまひしがとうごくのへいかくなんとのくわさいによつてなほおもらせたまひしがおなじきむつき十二にちにおんとし二十一にてつひにかくれさせたまひけりやがてそのよひがしやませいかんじへおくりたてまつりゆふべのけぶりにたぐへつつはるのかすみとともにたちぞきえさせたまひける八さいよりおんくらゐにつかせたまひぎよう十二ねんとくせい千まんたんししよじんぎのすたれだるみちをおこしりせいあんらくのたえたるあとをつぎたまふじひのおんめぐみはいつてんをてらしびやうどうのいつくしみは四かいのほかにながれたり三みやう六つうのらかんもまぬかれずげんじゆつへんげのごんじやものがるるかたなきみちなれどもしやうしむじやうのかなしみはことわりすぎてぞおぼえたる
紅葉
 そもそもたかくらのゐんとまをしたてまつるはひとのしたがひつきたてまつることもおそらくはえんぎてんりやくのみかどとまをすともこれにはいかでかまさらせたまふべきとぞひとまをしけるおほかたはけんわうのなをあげじんとくのかうをほどこさせおはしますこともきみごせいじんののちはせいぢよくをわかたせたまひてそのうへのことにてこそあるにむげにこのきみはえうちにわたらせたまひしよりこのかたせいをにうわにうけさせおはしますしようあんのころほひはございゐのはじめつかたにておんとしわづかに十さいばかりにもやならせおはしましけんもみぢをことにえいらんあるにあるときはじかへでのまことにいろうつくしうもみぢたりけるがまゐりたりけるをしゆじやうなのめならずぎよかんあつてきたのぢんにこやまをつかせこれをうゑさせもみぢのやまとなづけてひねもすにえいらんあるになほあきたらせおはしまさずしかるをあるよあらしはげしうふきてもみぢをみなふきちらしらくえふすこぶるらうぜきなりとのもりのとものみやつこあさぎよめすとてことごとくこれをとりすててんげりのこれるえだちれるこのはをかきあつめてあらしすさまじきあしたなればぬひどののぢんにてさけあたためてたべけるたきぎにこそはしたりけれだいぜんのだいぶのぶなりがいまだそのころくらうどにてもみぢのぶぎやううけたまはつてさふらひけるがみゆきよりさきにとかしこへゆきてみけるに一もなしいかにととひければしかじかとこたふのぶなりおほきにいろをうしなつてしらずなんぢらいかなるきんごくるざいにもあうたりのぶなりもまたいかなるげきりんにかあづからむずらむとおほきにおそれをののくところにしゆじやうはいとどしくよるのおとどをおんいであつておんあさまつりごとよりさきにとかしこへぎやうかうなつてえいらんあらんとするにあとかたなししゆじやうさていかにやとおんたづねありければのぶなりそうすべきやうはなしありのままにぞまをしけるしゆじやうてんきことにおんこころよげにうちゑませたまひてりんかんにさけあたためてこうえふをたくといふしのこころをばこれらにはたがをしへけるぞややさしうもつかまつつたるものかなとてかへりてえいかんにあづかつしうへはあへてちよくかんはなかりけりまたあんげん二ねんのふゆのすゑにしゆじやうあるところへおんかたたがへのぎやうかうのなりたりけるにさらでだにけいじんあかつきとなふこゑめいわうねふりをおどろかすころにもなりしかばしゆじやうはいつもおんねざめがちにてうちとけぎよしんもならざりけりいはんやさゆるしもよのてんきことにはげしきときはむかしえんぎのせいだいこくどのたみどもがいかにさむかりつらんとてよるのおとどよりぎよいをぬがせたまひておしいださせたまひしおんことまでもおぼしめしいでてわがていとくのいたらぬことをのみなげかせおはしますそののちはるかによふけひとしづまつてほどとほくをんなのさけぶおとのしければぐぶのくぎやうでんじやうびとはききもいだされざりけるをしゆじやうはきこしめしいだしてただいまさけぶはなにものぞきつとみてまゐれとおほせければうへふししたるでんじやうびとじやうじつのものにおほせくださるじやうじつのものうけたまはつてはしりめぐつてみけるにあるつじにあやしのめのわらはのながもちのふたさげたるがなくにてぞありけるじやうじつのものたちよりていかにととひければささふらへばこそしうのにようばうのやうやうにしてしたてられてさふらひつるおしやうぞくをごしよへもちてまゐりさふらふをただいまおそろしげなるをとこ二三にんがほどいできたつてうばひとつてまかりぬるぞやいまはおしやうぞくがさふらはばこそごしよにもわたらせたまはめまたはかばかしうたちよらせたまふべきをしたしきひともましまさねばこれをおもふになくなりとぞまをしけるじやうじつのものかのめのわらはをぐそくしてごしよにかへりまゐりこのよしをそうしまをしたりければしゆじやうあなむざんなにもののしわざにてかありつらむむかしのげうのよのたみはげうのこころをもつてこころとするゆゑにみなすなほなりきいまのちんがよのたみはちんがこころをもつてこころとするゆゑにかだましきものてうにあつてつみををかすこれわがはぢにあらずやとぞおほせけるさてそのとられつるきぬはなにいろぞとおほせければしかじかとまをすちうぐうのおんかたにさやうのいろしたるおんきぬやさふらふとおほせつかはされたりければはるかにいろうつくしきがまゐりたりけるをしゆじやうかのめのわらはにくだしたまはすとてなほもよふかしさやうのめにもやあふとてじやうじつのものあまたつけさせおはしましてしうのにようばうのつぼねまでおくらせたまふぞかたじけなきさればあやしのしづのをしづのめにいたるまでただこのきみせんしうばんぜいのはうさんをいのりたてまつる
葵の前(あひ)
 なによりもそのころいうにやさしきためしにまをしはべりしはちうぐうのおんかたにさふらはれけるつぼねのにようばうたちのめしつかはれけるうへわらはのなかにあふひのまひとてりようがんにしせきしたてまつることありただあからさまのことにてもなうてしゆじやうつねはめされければしうのにようばうもめしつかはずかへつてしうのごとくにぞもてなしけるそのかみのえうえいにいかでぢよをうんでもひたんすることなかれぢようはひたりひはきさきともなれりしらずこのひとにようごきさきともやいはれたまはんずらんとてないないはあふひにようごなんどぞささやきまをしけるしゆじやうこのよしをつたへきこしめされてそののちはあへてめされざりけりこれはまつたうおんこころざしのつきさせたまへるにはあらずただよのそしりをおぼしめしはばからせたまふによりてなりされどもおんこころざしのつきさせたまはざりしかばくごをもつやつやきこしめされずぎよしんもうちとけならずそのときのせつろくまつどのこのよしをつたへききたまひてさてはさやうにおこころぐるしきおんことのわたらせたまふにこそまゐつてなぐさめたてまつらむとていそぎごさんだいあつてさやうにえいりよにかけておぼしめされむずるおんことをおんはばかりあつてなんのせんかさふらふべきただくだんのじんをめさるべしぞくしやうあひたづねらるるにおよばずやがてもとふさがやうやうにつかまつるべきよしをまをさせたまひたりければしゆじやうおほせなりけるはくらゐをしりぞいてのちはままさるためしありとはしろしめせどもまさしうざいゐのときかやうのものめされたるためしなしわがよにはじめたらむはこうだいのそしりなるべしとてつひにきこしめしもいれさせたまはずこのうへはくわんぱくどのもちからおよばせたまはずいそぎおんくるまにめしてごたいしゆつありあるときしゆじやうおんてならひのついでにみどんのうすやうのにほひことにふかかりけるにふるきうたなりけれどもかかるをりふしをおぼしめしいでてしのぶれどいろにいでにけりわがこひはものやおもふとひとのとふまで おんこころしりのでんじやうびとたまはりついてあふひのまひにたぶあふひのまひたまはつてれいならぬここちいできたりとてさとにかへりしやうじのうちにたふれふしこのぎよしよをむねにあてかほにあてかなしみけるが十四かとまをすにつひにはかなくなりにけりしゆじやうこのよしをつたへきこしめされてなのめならずおんなげきにしづませおはしますきみが一じつのおんのためにせふが百ねんのみをあやまつともかやうのことをやまをすべきかのたうのたいそうのていじんきがむすめをげんくわでんにいれしめんとせしときぎちようがいはくていぢよすでにりくしにやくせりといさめしによつてでんへいれられんとせしことをやめられたりしにもまさらせたまふおんこころばせかなとぞひとまをしけるきみはあふひのまひがことにおぼしめししづませたまひてごなうときこえさせたまひしかばちうぐうのおんかたよりごかいしやくのにようばうたちあまたまゐらせられけり
小督
 そのころさくらまちのちうなごんしげのりのきやうのおんむすめこがうのとのとまをしてきんちういちのびじんならびなきことのじやうずおはしけりれいぜいのだいなごんたかふさのきやうのいまだそのころせうしやうにてせちゑにまゐられたりけるがこのにようばうをひとめみそめたてまつつておもひにこころをそめうたをよみふみをつくしとしつきこひかなしまれけれどもなびくけしきもなかりしにさすがなさけによわるこころにやつひにはなびきたまひけりせうしやうちようあいしてわりなくおもはれけれどもほどなううちへめされまゐらせてあかぬわかれのなみだにやそでしほぬれてほしあへずせうしやうよそながらもみたてまつることもやとてつねはそのこととなくさんだいせられけりこがうのとののすみたまひけるつぼねのまへをかなたこなたへとほりみすのそとにたたずみありかれけれどもつてのなさけをだにもかけられずせうしやうなさけなくおもひたまひてあるとき一しゆのうたをかきてみすのうちへぞいれられけるおもひかねこころはそらにみちのくのちかのしほがまちかきかひなし こがうのとのやがてへんじをもせばやとはおもはれけれどもわれかやうにきみにめしおかれまゐらせぬるうへはせうしやういかにいふともことばをかはしへんじをすべきにあらずとてふみをばうへわらはにとらせてみすのそとへぞなげいだされけるせうしやうなさけなくもうらめしうはおもはれけれどもさすがひとめもそらおそろしくてこのふみをふところにひきいれつつあゆみいでられけるがさるにてもとてまたたちかへりたまづさをいまはてにだにとらじとやさこそこころにおもひすつとも いまはこんじやうにてあひみんこともかたければいきてゐてひとをこひしとおもはんよりただしなんとのみぞのたまひけるあうてあはざるこひもありあはでおもひふかきうらみもありあはでおもふこひよりもあうてあはざるうらみこそせんかたなくはおもはれけれこのれいぜいのせうしやうとまをすもにふだうしやうごくのむこなりまたちうぐうだいりにわたらせたまへばふたりのむこをこがうのとのにとられてにふだういやいやこのこがうがあらむかぎりはよのなかよかるまじさればこのこがうをとらへてなにともなさばやとぞのたまひけるこがうどのこのよしをつたへききたまひてわがみのともかうもならんはいかにもなりなんきみのおんことこそおんこころぐるしけれとてあるくれがたにだいりをばしのびつつまぎれいでゆきがたしらずぞうせられけるきみはこがうがことにおぼしめししづませたまひてぐごなんどもきこしめさずぎよしんもうちとけならずにふだうしやうごくこのよしをつたへききたまひてきみはこがうがことにおぼしめししづませたまひたんなれさらむにとつてはとてごかいしやくのにようばうたち一にんもまゐらせられずさんだいせられけるしんかたちをもそねまれければにふだうのけんゐにはばかりてさんだいするひとなしきんちうのありさまいたいたしきほどなりきみはこがうがことにおぼしめししづませたまひてひるはよるのおとどにのみいらせたまひよるはなんでんにしゆつぎよなつてつきのひかりにおんこころをすまさせおはしますころははづきの十かあまりのことなればさしもくまなきそらなれどもおんなみだにくもりてつきのひかりぞおぼろなるしゆじやうひとやさふらふひとやさふらふとおほせけれどもおんいらへまをすものもなかりけるにややあつてだんじやうのたいひつなかくにそのよしもごぜんちかうおんとのゐまをしてさふらひけるがなかくにとおいらへまをしてまゐりたりいかになかくにちかうまゐれおほせあはすべきことありとおほせければなかくにごぜんちかうぞまゐりたるおもひもかけぬことなれどももしこがうがゆくへやしりたるかとおほせければいかでかたやすくしりまゐらせさふらふべきしゆじやうまことやさがのおくかたをりどとやらんしたるうちにありとまをすもののあるぞとよあるじがなをばしらずともたづねてまゐらせなんやとぞおほせけるなかくにまをしけるはあるじがなをしりさふらはではいかでたやすくたづねまゐらせさふらふべきしゆじやうまことにもとてりようがんにおんなみだせきあへさせたまはずなかくにこのおほせうけたまはるかたじけなさにつくづくものをあんずるにまことやそのひとのだいりにてことひきたまひしときつねはふえのやくにめされてまゐりしものをたとひいづくにもおはせよこのつきのくまなさにきみのおんことおぼしめしいだしてことひきたまはぬことあらじさがのざいけいくほどなしうちまはつてたづねたてまつらんにそのひとのことのねならばいづくにてもききしらんずるものをとおもひければささふらはばたづねまゐらせてみまゐらせさふらはばやたとひたづねあひまゐらせてさふらふともごしよをたまはりさふらはではうはのそらにてもやさふらはんずらんとまをしたりければしゆじやうまことにもとてやがてごしよあそばしてぞたうだりけるれうのおんむまにのつてゆけとぞおほせけるなかくにおんむまたまはつてめいげつにむちをあげてそこはかとなくあこがれゆくをしかなくこのやまさととえいじけむさがのあたりのあきのくれさこそはあはれにおもひけめかたをりどしたるところをみつけてはもしこれにもやおはすらんとてひかへひかへききけれどもことひくおとはせざりけりこのつきのくまなさにつきのひかりにさそはれてもしみだうなんどへもやまゐりたまひたるらんとてしやかだうをはじめとしだうだうをまはつてたづねまゐらせけれどもこがうのとのににたるひとだにもなかりけりだいりをばさしもたのもしげにまをしていでぬたづぬるひとにはいまだあはずむなしうかへりまゐりたらんはなかなかあしかりなんこれよりいづかたへもおちゆかばやとはおもへどもいづくかわうどならぬみをかくすべきやどもなしほうりんはほどちかければほうりんのかたへとゆくほどにかめやまのあたりちかくまつのひとむらあるかたにかすかにことぞきこえけるみねのあらしかまつかぜかたづぬるひとのことのねかおぼつかなくはおもへどもこまをはやめてうつほどにかたをりどしたるうちにことをぞひきすましけるすこしもまがふべからずこがうのとののつまおとなりがくはなにぞとききければをとこおもうてこふとよむさうふれんをぞひかれけるがくしもこそおほきにただいまこのがくをひきたまふことよなかくにいとほしやこのひともいまだきみのおんことをばおぼしめしわすれざりけりとうれしくてやうでうすこしねとりむまよりとんでおりかどをほとほととたたきければことをばはやひきやみたまひぬこれはだいりよりなかくにとまをすものがおんつかひにまゐつてさふらふあけられさふらへあけられさふらへとてたたけどもたたけどもとがむるおともせざりけりややあつてうちよりひとのきたるおとのしければうれしくてまつところにぢやうをはづしかどをあけいたいけしたるこにようばうのかほばかりをさしいだしてこれはだいりなんどよりおんつかひたまはりぬべきところにてもさふらはずいかさまにもかどたがへにてもやさふらふらんとまをしければなかくにへんじせばかどたてられぢやうさされてはあしかりなんとやおもひけんやがておしあけてぞいりにけるこがうのとののすみたまひけるつまどのあひのえんによりゐてまをしけるはいかでかかるおんすまひにてわたらせたまひさふらふぞやきみはおんことゆゑにおぼしめししづませたまひてぐこなんどもきこしめされずぎよしんもうちとけならずただうはのそらとおぼしめされてさふらふがごしよをたまはつてまゐりてさふらふものをとてありつるにようばうしてきみのごしよをたてまつるひらいてみたまへばまことにきみのごしよなりやがてごへんじあそばしてひきむすびつつにようばうのしやうぞく一かさねそへておしいだされたりなかくににようばうのしやうぞくかたにうちかけてまをしけるはよのおんつかひにてもさふらはばごしよのごへんじのうへはしさいさふらふまじけれどもきみのだいりにておことひかせたまひしときつねはふえのやくにめされてまゐりさふらひしそのごほうこうをばいつしかおぼしめしわすれさせたまひてさふらふやらんぢきのごへんじうけたまはらざらむはくちをしうさふらひなんずとまをしければこがうのとのあるべしとやおもはれけんみづからへんじしたまひけりそこにもさだめてしられたるらんやうにだいじやうのにふだうどののあまりにおそろしきことをのみのたまふとききしがあさましさにあるくれがたにだいりをばしのびつつまぎれいでかかるすまひにてありつればことなんどひくこともなかりつるにあすのころよりをはらのへんにおもひたつことのさふらふあひだあるじのにようばうがこよひばかりのなごりををしみつつよもはやふけぬいまはたちぎくものもあらじなんどやうやうにこしらへおくほどにさぞなむかしのこともゆかしくててなれしことをひくほどにやすくもききいだされけるよとておんなみだにむせびたまへばなかくにもそでをぞぬらしけるなかくにまをしけるはあすのころよりをはらのへんにおぼしめしたつおんこととさふらふはいかさまにもおんさまなんどかへらるべきにてさふらふやらんあるべうもさふらはずあるじのにようばういだしたてまつるべからずとてめしぐしたりけるめぶきちじやうなんどまをすをとこをとどめおきわがみはだいりへかへりまゐりければよははやほのぼのとぞあけにけるれうのおんむまつながせつつにようばうのしやうぞくはねむまのしやうじになげかけいまははやぎよしんもはるかになりぬらんたれしてかまをすべきなんどおもひなんでんのかたへとゆくほどにいざよひのつきははやなんていをわたつてにしのちうもんへさしいれどもきみはよるのおとどへもいらせたまはずなかくにをおんまちがほにてゆふべのおんざにぞましましけるみなみにかけりきたにむかふかんうんのあきのかりにつけがたしひがしにいでにしにながるただせんばうをあかつきのつきによすとたからかにえいぜさせたまふところになかくにつつとまゐりこがうのとののごへんじをたてまつるしゆじやうなのめならずぎよかんあつておほせあはすべきものもなきにさらばやがてなんぢむかへかしとおほせければなかくにへいけのかへりききたまはんところをもはばかりおもひけれどもこれもまたちよくぢやうなりければてぐるまきよげにさたしさがにまゐりこのよしまをしたりければこがうのとのしきりにまゐるまじきよしをまをされけるをやうやうにしてこしらへむかへとりたてまつりかすかなるところにしのばせまゐらせてしゆじやうよなよなめされけるほどにひめみやひとところいできさせたまひけりこのひめみやとまをすはばうもんのにようゐんのおんことなり
九州の早馬(あひ)
 一ゐんはうちつづきおんなげきあさからずまづえうまんぐわんねん七ぐわつにはだい一のみこ二でうゐんかくれさせたまひぬまたあんげんぐわんねん七ぐわつにはおんまご六でうゐんほうぎよなりぬひよくのとりれんりのえだとほしをさしさしもおんちぎりあさからざりしけんしゆんもんゐんはゆふべのきりにをかされあしたのつゆときえぞうせさせたまひけるまたげんせごしやうたのみまゐらつさせたまひたりけるこのたかくらゐんにさへおくれまゐらつさせたまひしかば一じようめうてんのおんどくじゆ三みつごまのごくんじゆもつもらせたまひけりにふだうしやうごくもこのひごろこころのままにふるまはれけることをさすがそらおそろしうやおもはれけんあきいつくしまのないしがはらのおんむすめことし十六になられけるをほうわうへまゐらせられけりひとびとをもえらまれにようばうたちをもあまたつけまをされけりひとへにじゆだいのぎしきにたがはずしんゐんかくれさせたまひていまだ七ケにちだにもすぎざるにひといつしかつねめかしとぞまをしけるそのころしなののくにきそとまをすやまなかによしなかといふげんじありとぞきこえしこれはこ六でうのはんぐわんためよしがじなんこたちはきのせんじやうよしかたがこなりけりちちのよしかたはさんぬるきうじゆ二ねん九ぐわつ廿三にちにむさしのくにおほくらがやかたにしてあくげんたよしひらにくんでうたれぬそのときよしなかわづかに二さいになりけるをははいだきてしなのにこえきそのごんのちう三かねとほにあひてこのこそだててひとになしてみせたまへといひければかねとほかひがひしくもたのまれてこの廿よねんがあひだやういくしたりけるにおひたつままにみぢからだいにしてちからひとにすぐれたりはかりごとをめぐらすこともたむらとしひとにもこえまさかどすみともにもなほすぎたらむさればいかにしてへいけをほろぼしよをうちとらばやなむとぞまをしけるやうふのかねとほこのよしをききてまことにさやうにのたまふこそ八まんどののおんすゑともおぼゆれとほめられていよいよこころたけくなるまづしなののくににはねのゐのやた(イ大弥太)しげののゆきちかをさきとしてこくちうのものどもきそにつくかうつけのくににはなはのたらうひろずみをさきとしてたこのこほりのものどもこたちはきのせんじやうよしかたがよしみによつてきそにつくきそとまをすはしなののくににとつてもみなみのはしみののくににさかうたりそれよりみやこもほどちかかりければへいけのひとびとこはいかがせんとぞさわがれけるにふだうしやうごくこのよしをつたへききたまひてしなの一こくはしやうごくなればしたがふともじよのものどもはなにとかおもふべきなかにもゑちごのくにのぢうにんじやうのたらうすけながはよ五しやうぐんのばつえふたせいのものにてあんなればかれらにうちてまゐらせよとおほせくだされたらんになどかうちてまゐらせざるべきとよにもこともなげにぞのたまひけるおなじききさらぎついたちのひじやうのたらうにゑちごをたぶおなじき三かのひじやうのたらうゑちごのかみににんぜらるおなじき七かのひおとどのいへいへにおほせてそんしようだらにならびにふどうみやうわうのじくのじゆかきくやうせさせたてまつらるなにとしたらばはかばかしきことのあらんずるやうにともすればひとぐるしきことのみあつてとぞじやうげささやきあへりけるおなじき八かのひかはちのくにのぢうにんむさしのごんのかみよしもとにふだうしそくいしかはのはんぐわんだいよしかね五百よきにてむほんおこすときこえしかばおなじき九かのひせのをのたらうかねやす一せんよきにてかはちのくににはせくだりながののじやうにおしよせてさんざんにせめければよしもとにふだううたれにけりしそくいしかはのはんぐわんだいはいたでおひていけどりにこそせられけれおなじき十一にちによしもとにふだうがかうべおほぢをわたさるりやうあんにぞくしゆおほぢをわたさるることはほりかはのてんわうのおんときつしまのかみみなもとのよしちかがかうべおほぢをわたされたりしこんどそのれいとぞきこえしそもそもよしもとにふだうとまをすは八まんどのに五なんむつの五らうびやうゑよしときのあそんのこなりけりおなじき十二にちにうさのだいぐうじきんみつはやむまをたててへいけへまをしけるはうすきのじらうこれたかをがたの三らうこれよしざいざいしよしよにじやうくわくをかまへてだざいふのげちにもしたがはずとぞまをしけるいよのくににはかはのの四らうみちのぶ五百よきにてむほんおこすともきこえけりきのくににはゆあさの七らうびやうゑむねみつくまののべつたうたんそうこれもへいけをそむきてげんじにどうしんすともきこえけりとうごくほつこくはちのごとくにおこりあひなんかいさいかいかくのごとし四いすでにみだれぬよはたんだいまうせなむずこはいかがせんとぞさわがれける
入道の死去
 おなじきはつかのひへいけの一もん六はらにはせあつまつてそもそもこんどのいくさのやうはいかがあるべきとひやうぢやうありなかにもさきのうたいしやうむねもりのきやうのすすみいでてまをされけるはどどとうごくへうつてをばつかはしてさふらへどもはかばかしうしいだしたることもさふらはずこんどはむねもりまかりむかふべきよしをまをされたりければひとびとしきだいしてゆゆしうさふらひなんずさたにもさふらはばとうごくにおいてそむきたてまつるべきひと一にんもさふらふまじとまをしあはれければにふだうなのめならずよろこびたまひてぶくわんにそなはりきうせんにたづさはりぬべきひとはみなむねもりをたいしやうとしてとうごくへはつかうすべしとぞのたまひけるおなじき廿六にちにかどいでしてあかつきすでにうつたたんとしたまひけるそのよのやはんばかりよりにふだうにはかにおんやまひつきたまひしかばへいけはかどいでばかりにてとうごくげかうはやみにけりおなじき廿七にちににふだうおんやまひつきたまひぬときこえしかばきやうぢうのじやうげあはやさみつることよことよとぞまをしけるにふだうおんやまひつきたまひしひよりしてゆみづをだにものみいりたまはずみのうちのあつきことはただひをたくにおなじあまりにあつうたへがたければあたり四五けんはまゐりちかづくものもなくたまたままゐりたるものどももあわてさわぎてはしりいでただのたまふこととてはあつやあつやとばかりなりきんぎんのたぐひりようらきんしうぎうば六ちくのたからををしまずれいぶつれいしやへなげうたれけれどもぶつりきもしんりきもつきはてていのるいのりもかなはずただのたまふこととてはあつやあつやとばかりなりにふだうしやうごくのふしたまひけるうへをおほしかの五六十四五廿ばかりかなたへはこゆるこなたへはこゆるとぬればゆめさむればうつつにぞみたまひけるこれひとへにかすがのだいみやうじんのたちかけらせたまふにこそとおそろしかりしおんことなりおなじきうるふきさらぎついたちのひへいけのなんによひとつところにさしつどひかなしみたまへどかひぞなきなかにもにふだうのきたのかた二ゐどのはあまりにあつうたへがたけれどもおんまくらちかうたちよつていまははやごしよらうたのみすくなうみえさせたまひてさふらふになにごとにてもおぼしめしおくおんことさふらはばのたまひおかれさふらへかしとなみだもせきあへずのたまひければにふだうよにもくるしげにていきをついてのたまひけるはへいけよをとつて廿一ねんたのしみさかえはむかしもいまもためしすくなかりしことどもなりされどもしやうをうくるもののしをのがるることなしにふだう一にんにかぎらねばいまさらおどろくべきにもあらずただしかまくらのひやうゑのすけがかうべをみざりつることこそよみぢのさはりともなりぬべうおぼゆれにふだういかにもなりたらんのちあひかまへてきやうをもかきぶつたふをもくやうすべからずにふだうをにふだうとおもひあはれんずるひとびとはむねもりをたいしやうとしてとうごくにはつかうしひやうゑのすけがかしらをきつてつかのまへにかけさせよそれぞなににもすぐれたるこんじやうごしやうのけうやうともおもふべきとのたまひけるにぞきくひとつみふかげにはおもはれけるあるよまた二ゐどののおんゆめにうしのおもてしたるものやむまのおもてしたるものややしやきじんらが四五百千にんばかりひきつれて八えふのくるまのみやうくわおびただしうもえたるにくろがねのふだにむといふもじをかきてたてにふだうしやうごくのしゆくしよにし八でうのつぼのうちへからとやりいれたり二ゐどのあれはいかにとのたまへばこれはえんまだいわうよりへいけだいじやうのにふだうどののおんむかへにやしやきじんらがまゐりてさふらふとまをしたりければ二ゐどのゆめごころにおそろしうはおもはれけれどもさてあのふだはいかにととひたまへばこれはだいがらんほろぼしたまへるとがによつて八万ごふまでしづみたまふべきむげんのむなりげんのじはいまだあらはれずとまをすとおぼしてゆめさめてのち二ゐどのむなぐるしう五たいよりあせながれしばしはものをものたまはずそののちねつびやういよいよしきりにせめければせんずゐよりみづをくだしいしのふねにいれ四はうよりひをかけたれどもみづほどなくゆのごとくになりにけりひさげにみづをいれむねのあひだにおかれけれどもいささかくつろぐここちもしたまはずいたじきにみづをかけそのうへにころびふされけれどもなほたすかるここちもしたまはずただのたまふこととてはあつやあつやとばかりなりおなじきうるふきさらぎ四かのひもんぜつびやくぢしてつひにあつちじににこそしたまひけれおなじき五かのひにふだううせたまひぬときこえしかばきやうちう六はらにむまくるまのかけちがふおとはいかづちのごとしたとひいつてんのきみばんじようのあるじのいかなるおんことわたらせたまふともかぎりあればこれにはすぎじとぞみえしことしは六十四にぞなられけるかならずこれをおいじにとまをすべきにはあらねどもてんばつをかうむりたまひしかばひととかうまをすにおよばずひごろはみにかはらむいのちにかはらむとちぎりしつはものどもめいどのつかひをばふせがずまくらをならべふすまをかさねしさいせふもくわうせんのたびへはともなはずただひごろつくりおきしざいごふばかりやともなふらんとあはれなりしことどもなりさてしもあるべきならねばおなじき七かのひをたぎでらへおくりたてまつりゆふべのけぶりとなしたてまつるこつをばをぢのゑんじつほうげんくびにかけふくはらへもつてくだりきやうのしまにぞをさめけるかかりけるさうさうのよにふだうしやうごくのしゆくしよにし八でうよりひいできてにはかにやけにけるこそふしぎなれひとのいへのやくるはつねのならひなれどもをりふしこそあるにこれもただごとならずとぞひとまをしけるあやしのしづがなきあとにもつねはかねうちならしつとめおこなふこともあるぞかしさこそゆゐごんからにただあけくれはいくさかつせんのいとなみのほかはたじなしとぞきこえし慈心坊 にふだうしやうごくのさいごのありさまこそまことにおそろしかりけれどもおほかたはじんぎをうやまひぶつぽふをあがめたまふこともよにはまたすぐれたまへるひとなりそのゆゑはつのくにふくはらにきやうのしまをつかせじやうげわうらいのふねどものまつだいのいまにいたるまでさうゐなくつくことこそめでたけれこのしまとまをすはしゆそうをあつめいつさいきやうをいしのおもてに一にち一やにかきうつしくやうしてつきこめられけるによりてこそきやうのしまとはなづけたれいまのひやうごのしまこれなりそのうへにふだうしやうごくはただびとにてはおはせざりけりそのゆゑはさんぬるあんげんのころほひつのくにありまごほりせいちようじとまをすやまでらにじしんばうそんゑとてならびなきぢきやうしや一にんさふらひけりあるときかれがゆめにみやうくわんきたつてつげたまはくきたる十ぐわつ廿一にちにえんまぐうのだいりだいごくでんにして十万ごくより十万にんのそうをしやうじてほつけてんどくのことありそんゑもそのにんじゆにいりたりそのときにいたつてかならずきたるべしといふつげをかうむつてゆめさめてのちこのてらのべつたうしゆぎやうにかたりければおほきにふしぎのおもひをなすげにもそのときにいたつてすゐめんのここちいできたりしかばぢぶつだうにとぢこもりねんじゆしてさふらひけるにまことにひとひのみやうくわんきたつてぐそくしてゆくえんまぐうのだいりだいごくでんとおぼしきところにそうりよなみゐてほつけてんどくこころもことばもおよばれずさるほどにほうゑはてにしかばそうりよみないとままをしてまかりいづそのうちにそんゑはいまだいでざりけりえんまだいわうなどなんぢはいでぬぞとおほせければそんゑまをしけるはそもそもほつけはさんぜのしよぶつのしゆつせのほんくわいいつさいしゆじやうじやうぶつのぢきだうなり一け一くのくどくは五はらみつのぜんごんにもこえ五十てんでんのずゐきは八十ケねんのふせにもこえたりとこそみえてさふらへわれえうせうよりいまにいたるまでほつけおこたることなしされどもいまだしやうしよをしらずなにとしてかわうじやうのそくわいをとげさふらふべきやらんとまをされたりければえんまだいわうおほせけるはわうじやうふわうじやうはひとのしんふしんによるなりあくをしゆするものはあくだうにだしぜんをしゆするものはぜんしよにうまるとみえたりただしなんぢがしやうしよははりのかがみにみえたりゆきてみよとてまたみやうくわんにぐせられてゆきてみけるにげにもをさなうよりしておもひとおもひせしことのひとつとしてあらはれずといふことなしそんゑもつひにはとそつのないゐんにうまるべしとぞみえたりけるそんゑかつがうのこころきもにめいしずゐきのなみだせきあへずそののちそんゑえんまだいわうのおんまへにまゐりいとまをまをされたりければえんまだいわうおほせけるはなんぢもさだめてしりたるらんなんぢがくににへいけだいじやうのにふだうじやうかいといふひとありこれはてんだいのじゑそうじやうのさいたんなりまつだいのしゆじやうにいんぐわのことわりをしめさんがためにかりにしやうぐんのみとあらはれたるなりさればただいまてんどくしたてまつるおんきやうもこのひとのためなりそのぐわんりきのありがたさにこのひとをひびに三どらいしたてまつるなりそのもんにいはくきやうらいじゑだいそうじやうてんだいぶつぽふおうごしやじげんさいしよしやうぐんしんあくごふしゆじやうどうりやくとこのもんを三たびとなへてらいするなりとぞおほせけるそんゑかやうのことどもをほんにふくしせいちようじのえんぎにうつしていまにありとぞうけたまはるかのゆのやまとまをすはえんまぐうのとうもんにあたれりとぞひとまをしける
祇園女御
 そのうへにふだうしやうごくはただもりがこにてはなかりけりまことはしらかはのゐんのみこなりとぞまをしけるそのゆゑはさんぬるえいきうのころほひしらかはのほとりにならびなきさいはひじん一にんましましけりしらかはのゐんなにとしてかきこしめしいださせたまひたりけんつねはかしこへごかうなるさてこそひとぎをんにようごとはまをしけれあるときはくぎやう一りやうにんまたあるときはでんじやうびと三四にんがほどめしぐしてひそあにかしこへごかうならせたまひけるにころはさつき廿かあまりのことなればさみだれさへにかきくれてめざすともしらぬやみなるにこのにようばうのすまれけるあたりちかきはやしのなかをすぎさせたまふほどにあるふるだうのうちよりもひかりものこそいできたれひかりもののていたらくかしらにはしろがねのはりをみがきたてたるがごとしかたてにはつちのやうなるものをもちかたてにはひかるものをもちてとばかりあつてはさつとはひかりひかりしだいにちかづきたてまつるぐぶのくぎやうでんじやうびとあなおそろしつちのやうなるものはおにがもつなるうちでのこづちなんめりちかづきたてまつつていかなるおんことのいでこんずらんもしこれをいもしきりもととめたらむものにはけんじやうあるべしとしよきやうごさたありけるにただもりのいまだそのころびぜんのかみにてほくめんにさふらはれけるがらうどうにむかつてのたまひけるはこのへんはやしのなかなりまことのきじんにてはよもあらじおもふにきつねたぬきのしわざにてぞあるらんおなじうはくんでいけどらばやとおもふなりとてみだうのうちにはしりいりひかりものをむずとだくだかれてこはいかにやとまをすこゑをきけばひとのこゑなりそののちてんでにひをともしてみたまへばむそぢばかりなるほうしなりこのみだうのしようしほうしにてぞさふらひけるほとけにみあかしたてまつりけるがてがめにあぶらをいれてもちけるがつちのやうにはみえにけりかはらけにひをいれてふきけるがひかりものとはみえにけりあめしげければぬれじとてこむぎのわらをあみあつめてかづきたるぞしろがねのはりのやうにはみえにけるそのときみなひといちどにどつとわらひてのきたまふ一ゐんこれをえいらんあつてあはれぶしのこころほどたけうやさしかりけるものあらじまことのきじんとこそおぼしめしつるにもしこれをいもしきりもとどめたらむはいかばかりむねんならましくまんとおもひかかりたるただもりがこんやのふるまひかへすがへすもしんべうなりとてけんじやうにはくだんのぎをんにようごをぞたまはりけるこのにようばうくわいにんしたまへりうめらむところのこなんしたらばなんぢがこにせよによしたらばわれにえさせよとぞおほせけるほどなうさんしたまへりまことのなんしにてぞましましけるただもりかやうのことをもそうせばやとはおもはれけれどもとかくうちまぎれこのわかぎみ二さいとまをししあきのころ一ゐんくまのまうでのくわんぎよのとききのくにいとがやまといふところにみこしかきすゑさせしばらくこれにてごきうそくのさふらひけるをりふしただもりそうせばやとおもはれければかたやぶにいくらもあるぬかごとまをすものをそでにもりいれごぜんにまゐりかしこまつてまをされけるはいもがこははふほどにこそなりにけれとまをされたりければ一ゐんはやおんこころえあつてただもりとりてやしなひにせよ とぞおほせけるこのわかぎみあまりによなきをしたまひけるをもただもりまをされたりければ一ゐんよなきすとただもりたてよすゑのよにきよくさかふることもこそあれ とあそばされたりけるによりてこそきよもりとはなのられけれまことのわうじにてましませばただもりなのめならずもてなしまをされけり十二にてじよしやくし十八にて四ゐのひやうゑのすけとぞまをしけるまことのわうじにてましませばしだいのしようしんとどこほらずだいじやうだいじんまでもたやすくへあがりたまひけりとばのゐんばかりこそきよもりがくわしよくはひとにはおとるまじとはおほせけれひとはとかうまをしけれどもいちごはおもふことなくてすごされけるこそめでたけれあひ むかしてんぢてんわうはらみたまへるきさきをたいしよくくわんにたまはすとてなんしたらばしんがこにせよによしたらばわれにえさせよとぞおほせけるほどなうさんしたまへりまことのなんしにてぞましましけるたうぶのみねのほんぐわんぢやうゑくわしやうこれなり
国綱の死去
 おなじきうるふ二ぐわつ廿かのひ五でうのだいなごんくにつなのきやうもうせられけりこのくにつなのきやうとまをすはにふだうしやうごくにしよじないげなうとくいまをされけるがおなじとしのおなじひやまひづきおなじきつきにうせられけるこそふしぎなれこのくにつなのきやうのにふだうしやうごくにとくいはじめられけるゆゑをいかにとまをすにならびなきだいふくちやうじやにておはしければなににてもひに一しゆにふだうのもとへおくられければげんぜのとくいこれにすぐべからずとてくにつなのきやうのしそくたんばのかみきよくにをにふだうのやうしにししそくしげひらをくにつなのむこにぞなされけるさればそのゆゑにやしやう二ゐのだいなごんまであがられけるこそめでたけれせんねんくにつなのははうへやはたへまゐりたまひてねがはくはわがこのくにつなくらんどのとうになしてみせたまへといのりまをされけるよのゆめにかものかたよりとおぼしくてみやびとどもがびりやうのくるまをくにつなのもとへやりいるるといふゆめをみてこれをひとにかたりたまへばいかさまにもくぎやうのきたのかたにならせたまはんずるにこそとまをしければわがみとしおいぬいかでかさることのあるべきとのたまひけるがくにつなくらんどのとうをもさしすぎてしやう二ゐのだいなごんまであがられけるこそふしぎなれこのくにつなのきやうとまをすは八でうのちうなごんかねすけに八だいのまごさきのではのかみもとすけのまごうまのかみもとくにのあそんのこなりけりこのひとのいまだそのころしんしのざふしきにてこのゑのゐんにさふらはれけるがにんぺい三ねんうづきに四でうだいりにぜうまうのいできたりしにしゆじやうなんでんにしゆつぎよなつてひとやさふらふひとやさふらふとおほせけれどもをりふしおいらへまをすものもなかりけるにくにつなえうよをかかせてまゐりたりしゆじやうこはいかなるものぞとおほせければしんしのざふしきふぢはらのくにつなとなのりまをすしゆじやうえうよにめされて五でうのだいりへぎやうかうなるそののちしゆじやうほうしやうじどののもとへかやうにさかさかしきものこそさふらへそれにめしつかはるべしとおほせくだされたりければほうしやうじどのごりやうたびなんどしてめしつかはれけりあるときしゆじやうやはたへぎやうかうなつてりんじのみかぐらのさふらひけるににんちやうがはうしやうがはへおちいりてぬれねずみのごとくにてそのひのみかぐらはあるまじかりしををりふしくにつなほうしやうじどののおんともにさふらはれけるがしんべうにこそさふらはねどもにんちやうがしやうぞくをばこれにもよういせさせてさふらふとてとりいだしてにんちやうにきせそのひのみかぐらをぞとげられけるほどこそすこしおしうつりたりけれどもうたのこゑもすみわたりまひのそでひやうしにあうておもしろかりけりもののおもしろきことはしんめいもひとのこころもおなじことむかしあまてらすおほんがみあなおもしろやとおほせなりしおんことまでもいまこそおぼしめししられけれむかしくわんぺいほうわうさがのおほゐかはへごかうなつてぎよいうのさふらひけるにくわんしゆじのないだいじんたかふぢこうのおんこいづみのたいしやうくにたかをぐらやまのあらしはげしくしてゑぼしをかはへふきおとされたぶさをおさへてせんかたなげにてそのひのぎよいうはあるまじかりしをやまかげのちうなごんのおんこじよむそうづさんえばこよりゑぼしをとりいだしたいしやうにきせたてまつつてそのひのぎよいうとげられけりよあがつてこそかかるふしぎはありしにくにつなときにとつてのよういかしこかりけるかうみやうかなぢしよう四ねんのごせちはふくはらにてぞとげられけるわかきくぎやうでんじやうびとはちうぐうのおんかたにすゐさんまをしいまやうらうえいしてあそばれけるなかにあるでんじやうびとのたけしやうほにまだらなりくもこしつのあとにこるといふらうえいをせられたりければくにつなあなあさましさやうのことはきんきとこそうけたまはれききにもきかじとてぬきあしをしてぞにげられけるこのしのこころはむかしのげうのみかどおんむすめ二にんもちたまへりあねをばがくわういもうとをばぢよえいとてともにしゆんのみかどのきさきにたちたまへりあるときしゆんわうかくれさせたまひしかばさうごののべへおくりたてまつり二にんのきさきみかどのおんわかれをかなしみたまひてさうごののべにてなきたまひけるなみだしやうほのきしのたけにかかつてまだらなりきさきそこにてしつをしらべたまひしかばしやうほのきしのたけおひいづるごとにまだらにてたてりそのうへしつをしらぶるところにはつねにくもたなびいてものあはれなるこころありくにつなさせるぶんしやううるはしきひとにてはおはせねどもさかさかしきによつてかやうのことをもききとがめられけるとかやおなじきうるふ二ぐわつ廿二にちにほうわうほうぢうじどのへくわんぎよなるべきよしをおほせくださるこのほうぢうじどのとまをすはさんぬるおうはうのころつくりいだしたてまつつてせんすゐこだちにいたるまでおんこころにまかせたりしかどもこの三四ねんがあひだはあるひはとばどのにおしこめられさせたまひあるひはふくはらへごかうなりなんどしてごしよもみなあれはてにしかばさきのうたいしやうむねもりきやうざうしんしてなしまゐるべきよしをまをされたりしかどもいまはなにごとのさたにもおよばせたまはずひそかにかしこへごかうなりてえいらんあるにきしのまつみぎりのさくらとしへにけりとおぼえてこだかくなりたりけるをごらんぜらるるにつけてまづこにようゐんのおんことをおぼしめしいでておんなみだにむせばせおはしますたいえきのふようびやうのやなぎこれにむかふにいかでかなみだおちざらんかのなんたいせいきうのむかしのあとしげみにまじるはなとりをごらんぜらるるにつけてもつきせぬものはおんなみだなり
行高の沙汰(あひ)
 おなじきやよひついたちのひなんとのたいしゆほんにふくししやうゑんまつじもとのごとくにちぎやうすべきよしをおほせくださるおなじき三かのひとうだいじつくりはじめらるぶぎやうべんにはくらうどのさせうべんゆきたかとぞきこえしせんねんゆきたかやはたへまゐりたまひてつやしてねんじゆせられけるよのゆめにごはうでんのみとおしひらきうちよりゆゆしうけだかきみこゑにてややなんぢとうだいじぶぎやうのときはこれをたいしてむかふべしとてこがねのしやくをたまふとみてうちおどろきてみたまへばすなはちまくらにぞさふらひけるゆきたかたうじなにごとによつてかとうだいじぶぎやうにはむかふべきとはおもはれけれどもふかうをさめてげかうせられたりけるがはるかにほどへてのちへいけのあくぎやうによつてとうだいじえんじやうしいまこのしやくをたいしてとうだいじぶぎやうにむかはれけるこそふしぎなれ八まんだいぼさつのしんりよにもあひかなひたまへるしゆくしふのほどこそめでたけれ
墨俣合戦
 おなじきやよひ五かのひとうごくよりはやむまうつてへいけへまをしけるは十らうくらんどゆきいへあくぜんしゑんさいきやうのきみぎゑん三にんひとつになつてつがふそのせい七千よきをはりのくにまでせめのぼつたるよしをみののくにのもくだいのもとよりまをしたりければさらばまづこれをふせげやとてたいしやうぐんにはさひやうゑのかみとももりさつまのかみただのりさふらひたいしやうにはゑつちうのぜんじもりとしじらうびやうゑもりつぎかづさの五らうびやうゑただみつゑびのじらうもりかたをさきとしてつがふそのせい一万よきおなじきやよひ十かのひみやこをたつておなじき十五にちにみののくににはせくだりすのまたがはらにぢんをとる十らうくらんどこのよしをききたまひてみののくにまでせめのぼりすのまたがはにおしよせむかひのきしにぢんをとるそのひのよにいりてきやうのきみぎゑんしうじう七きすのまたがはをうちわたりへいけのぢんへぞいりたりけるをりふしゑつちうのぜんじもりとしが五十きばかりにてよまはりするにゆきあうたりあれは たそみかたといふみかたはたそまことはかたきぞかしこれはよしともがばつし きやうのきみぎゑんひごろのうつぷんをたつせんためにただいまよせたるなりといふにくしそのぎならばあますなもらすなうてやとてたいぜいがまんなかにとりこめてわれうちとらんとぞすすみける十らうくらんどこのよしをききたまひてきやうのきみうたすなぎゑんうたすなすすめやものどもつづけつはものとてげんじ七千よきすのまたがはにうちいれてぞわたしけるへいけのかたのたいしやうぐんさひやうゑのかみとももりあぶみふんばりつつたちあがりだいおんじやうをあげてげんじただいまかはをわたしたればぬれむしやはみなかたきぞあますなもらすなうてやとてむまもののぐのぬれたるをばここにおつつめかしこにおさへてくびをとるきやうのきみぎゑん二ときばかりたたかつてうたれにけり十らうくらんどこのよしをみたまひてかなはじとやおもはれけんまたすのまたがはをわたしかへしてひきしりぞくへいけつづいてすのまたがはをうちわたしおちゆくものどもをここにおつつめかしこにかけつめてうちとりけりげんじのかたにはふせぎたたかふといへどもぶせいたぜいにかなはねばさんざんにうちちらされてひきしりぞくすゐえきをうしろにせざれとこそまをすにこんどのげんじのはかりごとおろかなりとぞひとまをしける十らうくらんどみののくににもこらへえでをはりのくににひきしりぞくへいけつづいてをはりのくににうちこえさんざんにせめければ十らうくらんどをはりのくににもこらへえでみかはのくににひきしりぞきやはぎがはのはしをひいてむかひのきしにぢんをとるへいけつづいてみかはのくににうちこえやはぎがはをもわたされければ十らうくらんどみかはにもこらへえでとほたふみのくににひきしりぞきはまなのはしをひきてむかひのきしにぢんをとるへいけつづいてせめられけるがたいしやうぐんしよらうのここちいできたりとてたかせのふもとよりとつてかへすこんども一ぢんはやぶれどもざんたうをやぶらねばはかばかしうしいだしたることなきがごとしへいけはきよきよねんこまつのおとどこうじたまひぬこんねんまたにふだうしやうごくうせたまひしかばねんらいおんこのともがらのほかはまゐりちかづけるものもなしなかにもゑちごのくにのぢうにんじやうのたらうすけながはさんぬる二ぐわつにゑちごのかみににんぜしそのてうおんのかたじけなさにきそつゐたうせんとてゑちごではあひづ四ぐんをもよほしけるにつがふそのせい六まんよきおなじき五ぐわつ十五にちにかどいでしてあかつきすでにうつたたむとしけるそのよのやはんばかりにあめかぜおびただしうふりくだりあめかぜやんでのちこくうしばらくうすぐもつてさふらひけるにおそろしげなるこゑをもつてこくうにものがつげてとほるなにものにてもだいがらんほろぼしたるへいけのかたうどしたらんものをばいちいちにめしとるべしとよばはつたりければじやうのたらうおそろしさきくひとみなみのけよだつておぼえけれどもゆみやとりのそれにはよるべからずとてやかたをいで十四五ちやういでたりけるにじやうのたらうがうへにくろくもひとむらおしおほふとぞみえしたちまちめくれはなぢたつてたふれふすむまにてもかなふべうもみえざりければあをたにかかれてやかたにかへり二ときばかりあつてしにけりじやうの四らうはやむまをたててこのよしまをしたりければへいけのひとびとこはいかがせんとぞさわがれけるおなじき七ぐわつ十三にちにかいげんあつてやうわぐわんねんとぞまをしけるおなじき十四かにぢもくおこなはれてちくごのかみさだよしひごのかみになつてちんぜいのむほんたひらげむとて三千よきにてみやこをたつおなじき八ぐわつ八かのひまさかどつゐたうのれいとてくわんのちやうにてだいにんわうゑおこなはるおなじき九ぐわつ九かのひすみともつゐたうのれいとてくろがねのかつちうをいせへまゐらつさせたまひけるにさいしゆじんぎのおほなかとみのさだたかゐんのごしよへまゐりくろがねのかつちうをうけとりていせへもつてまゐるほどにあふみのむまやにてやまひづきいせのりぐうにてしにけりそのころへいけはみゐでらにて三七にちの五だんのほふをおこなはせられけるにはじめの七かのだい三かにあたりけるよがう三せのだんのだいあじやりかくさんほういんひぎやうしやのひがんしよにてひじに(ねしに)にこそはしたりけれしんめいもさんばうもごなふじゆなしといふこといちじるしそのころあんしやうじのじちげんあじやりへいけへごくわんじゆたてまつりけるがげんじてうぷくとはかかでへいけてうぷくとかきたるぞこれきたいのあやまりなりめされていかにとおんたづねありければさんさふらふわれらはてんかたいへいてうてきてうぷくのおんいのりつかまつるものなりしかるにたうせいのていをみさふらふにへいけもつぱらてうてきとみえさせたまふによつてこれをてうぷくすさればなにのひがごとかさふらふべきとまをしたりければそのほう(イほうし)しざいかるざいかなんどごさたありしかどもてんかのだいせうじにまぎれてやみにけりそののちへいけほろびげんじのよとなりてかまくらどのよりたづねいだされたてまつつてやがてごんりつしなされほういんにきよせらるおなじき十二ぐわつ廿五にちにちうぐうゐんがうかうむらせたまひてけんれいもんゐんとぞまをしけるしゆじやうえうしゆのときのぼこうのゐんがうこれはじめとぞうけたまはるさるほどにとしくれてやうわも二ねんになりにけり
横田河原合戦
 おなじきしやうぐわつ廿三にちにたいはくばうせいをかすてんもんはかせこれをうらなひまをすたいはくばうせいをかすときんばしやうぐんくにのさかひをいづともいへりおそろしおそろしとぞまをしけるおなじき二ぐわつにさんもんのごんせうそうづけんしんきせんじやうげをすすめてひえのやしろにおいて一まんぶのほつけどくじゆのことありかかりければほうわうもおんけちえんのためにごかうなるまたなにものがまをしだしたりけん一ゐんやまのたいしゆにおほせてへいけつゐたうあるべきよしきこえしかばへいけのひとびとこはいかにせんとぞさわがれけるさるほどにさんもんにはへいけやまをせむべしといふことにききなしてさんもんのさうどうなのめならずかかりければおんけちえんもはやうちさましぬほうわういそぎみやこへくわんぎよなるなかにもほん三ゐちうじやうしげひら一千よきにてきたしらかはまでおんむかへにまゐりほうわうをうけとりたてまつつていそぎほうぢうじどのへくわんぎよなしまをされけりかかりければへいけやまをせむべしといふこともまたやまよりへいけをほろぼすべしといふこともあとかたなきそらごとなりこれひとへにてんまのしよゐとぞおぼえたるおなじき五ぐわつ八かのひかいげんあつてじゆえいぐわんねんとぞまをしけるさるほどにゑちごのくにのぢうにんじやうの四らうすけもちはあにすけなががせいきよのあひだながもちとかいめいしあにがうつぷんをたつせんがためにきそつゐたうせんとてこんどはゑちごばかりをもよほしけるにつがふそのせい二まんよきおなじき九ぐわつ十一にちにゑちごのこふをたつてしなののくににうちこしよこたがはらにぢんをとるきそもそのせい三千よきたうごくよだのじやうをたつてよこたがはらにおしよせむかひのきしにぢんをとるきそのたまひけるはよしなかがいくさのきちれいには七てにわかつものなればまづいまゐの四らうかねひらに五百よきをさしそへてよこたがはにうちいれてぞわたさせけるのこり六てもおのおののゐたるところよりうちいれうちいれわたしけるをへいけはうんのきはめにやこれをたいぜいとこそみてんげれまづじやうの四らうがせんぢんにさふらひけるあひづのじようたんばううたれにけりじやうの四らうきそにていたうせめられてむらくもたつてぞひかへたるきそかつにのつていよいよせめければじやうの四らうがせい二まんよきとはみえしかどもおちぬうたれぬせしほどにたんごぶらいになりにけりじやうの四らうただ一きになつてかなはじとやおもひけんよこたがはにとびいりみづのそこをくぐつてゑちござかひへぞおちゆきけるじやうの四らうはやむまをたててみやこへこのよしをまをしたりけれどもへいけはあまりのことにやいとさわぐけしきもましまさずおなじき十ぐわつ十三にちにさきのうだいしやうむねもりきやうないだいじんにあがりたまふくぎやう六にんせんくありでんじやうびと十三にんこしようせらるみなわれもわれもといでたたれたりしありさまいまいくほどぞやとぞみえしとうごくほくこくはちのごとくにおこりあひせんやうせんおんなんかいさいかいのつはものどもすでにみやこへせめのぼるなんどきこえしかどもへいけはかぜのふくやらんなみのたつらんをもしらずしてあそびたはぶれてのみおはしけるぞひとへにへいけのうんのきはめなるさるほどにとしくれてじゆえいも二ねんになりにけり


平家物語(城方本・八坂系本)
巻第七 P289
清水の冠者のさた 701
じゆえい二ねんしやうぐわつ廿二にちにさきのないだいじんむねもりこうじゆ一ゐにあがりたまふただしないだいじんをばじしまを
されけりおなじき廿三にちにいせいはしみづをはじめたてまつつて廿二しやにくわんぺいありこれはこんどとうごくひやう
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かうへいけのげぢとのみこころえてまゐりちかづくものもなしくまのきんぷうせんのそうらなんとほくれいのたいしゆ
いせいはしみづのしんじんきうじんにいたるまでいつかうへいけをそむいてげんじにこころをぞかよはしけるそのころ
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P290
もしそのゆゑかそれならばいしゆあるべしともぞんぜずたうじごへんとよしなかといくさしてへいけにわらは
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かうせよやとてたいしやうぐんにはこまつの三ゐのちうしやうこれもりゑちぜんの三ゐみちもりさつまのかみただのりみかはのかみとものりたじ
まのかみつねまさわかさのかみつねとしさぶらひたいしやうにはかづさのたらうはんぐわんただつなひだのたいふのはんぐわんかげたかかはちはんぐわんひでくに
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P291
さきとしてつがふそのせい十万よきおなじき四ぐわつ十六にちにみやこをたつてほつこくへはつかうせられけりかたみちを
たまはつてんければあふさかのせきよりはじめてろじにもてやうけんもんせいかのしやうぜいくわんもつをいはず
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うらにみちみちたり
経政の竹生島詣 702
なかにもごぢんのたいしやうぐんくわうごぐうのすけけんたじまのかみつねまさはおよそくわんげんのみちにたつしさいげいひとにすぐれてお
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P292
さまもこれにはすぎじとぞみえしあるきやうのもんにみえたるなんえんぶだいたいかいのひがしにみづうみありそのうちに
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P293
火うち合戦 703
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P294
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P295
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木曽の願書 704
P296
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P297
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くらのみやみゐでらへじゆぎよのときさんもんなんとへてふじやうつかはされしそのへんでふをもこのかくめいぞかきたりけ
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るところそのしんきうほうしいけどりにしてしざいにおこなへとのたまへばかくめいなんとにはこらへでほつこくに
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なじかはかきもそんすべきこころもおよばずぞかきたりけるそのぐわんしよにいはく
きみやうちやうらい八まんだいぼさつはじちゐきてうていのほんしよるゐせいめいくんのなうそなりはうそをまもらむがためさうせいをりせん
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てしかいをくわんりやうしばんみんをなうらんせしむこれすでにぶつぽふのあだわうぽふのてきたりよしなかいやしくもきうばの
いへにむまれてわづかにききうのちりをつぐかのばうあくをみるにしりよかへりみるにあたはずうんをてんだうにまかせてみを
こくかになげうちまことにぎへいをおこしてきようきをしりぞけむとすいまたうせんりやうかのぢんをあはすといへどもしそついまだ
いちどのいさみをえざるあひだまちまちのこころおそれたるところにいまいちぢんはたをあぐせんぢやうにしてたちまちに三しよわ
くわうのしやだんをはいすきかんのじゆんじゆくあきらかなりきようとちうりくうたがひなしくわんきなみだこぼれてかつがうきもにそむそう
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そふさきのむつのかみみなもとのよしいへのあそんみをそうべうのしぞくにきふしてそのなを八まんたらうとがうせ
しよりこのかたそのもんえふたるもののききやうせずといふことなしよしなかいやしくもそのこういんとしてかうべをかたぶけてとし
ひさしいまこのたいこうをおこすことたとへばえいじのかひをもつてきよかいをはかりたうらうがをのをとつてりうしやにむか
ふがごとししかりといへどもいへのためみのためにしてこれをおこさずきみのためくにのためにしてこれを
おこすこころざしのいたりしんかんあんにあらんをやたのもしいかなよろこばしいかなふしてねがはくはみやうけんゐをくはへりやうしん
ちからをあはせてかつことをいちじにけつしあくを四はうへしりぞけたまへしからばすなはちたんきみやうりよにかなひゆうけんか
ごをなすべくんばまづ一のずゐさうをみせしめたまへ
じゆえい二ねん五ぐわつ十一にち みなもとのよしなかうやまつてまをす
とぞよみあげたる
倶利伽羅 705
きそどのをはじめとして十三にんのうはやのかぶちらを一づつぐわんしよにそへてだいぼさつのごはうぜんにぞをさめけ
る八まんだいぼさつまことのこころざし二つなきところをはるかにせうらんやしたまひけんくものなかよりやまばと二とびきたり
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をみてみのけよだつてぞおぼえたるそののちはげんじもすすまずへいけもすすまずりやうはうたてのは
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平家物語(城方本・八坂系)
巻第八 P334 
法皇の山門御幸 801
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P434
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平家物語(城方本・八坂系)
巻第十 P435
頸渡 1001
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重衡の戒文 1005
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維盛の出家 1010
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維盛の熊野参詣 1011
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維盛の入水 1012
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五節の沙汰(あひ) 1016
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たみのわづらひのみあつてさるほどにとしくれてげんりやくも二ねんになりにけり

平家物語(城方本・八坂系)
巻第十一 P482
逆櫓 さかろ 1101
げんりやく二ねんむつき十かのひ九らうたいふのはんぐわんよしつねゐんのごしよにまゐりおほくらのきやうやすつねのあそんをもつてまをさ
れけるはへいけはしゆくはうつきてしんめいにもはなたれたてまつりきみにもすてられまゐらせてみやこのほかにいで
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P483
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P484
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桜場(あひ) 1102
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観音講 1103
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ことまでもこまやかにこそかかれたれはんぐわんこれみたまへやひとびとこれこそてんのあたへたまへるところのふみよかまくらどのにみせたてまつらんとてふかうをさめてぞよせられけるにうのやしろとりたかまつのさとをもうちすぎうちすぎよりたまふほどにあるまつのなかにひとおとあまたしてきこえければはんぐわんあはやここにもかたきのこもりたるにこそとてひとをつかはしてみせられければかたきにてはなかりけりころはきさらぎ十八にちまんだあさのことなりければあるみだうにそのへんのざいちのものよりあひてくわんおんかうをぞおこなひけるつかひかへつてこのよしまをしたりければはんぐわんさてはよしつねがまうけにこそはしたるらめとてかしこにおしよせかれらをおつぱらひしゆはんをおこなはれけるがはんぐわんかうのざしきにつきながらしきよまではいかがあるべきべんけいよめとのたまへばうけたまはつてもののぐしながらかうざにのぼりけいびやくのかねうちならしもとよりふるやまぼうしなりければくわんおんかうのしきをばうちわすれさんわうかうのしきをぞようだりけるはんぐわんたたばただもたちたまはずらいとうはよしつねさうぞようとてぞいでられけるそののちはんぐわんまたちかいへをめしてさて八しまのじやうのていはいかにとのたまへばむげにあさまにさふらふしほのひてさふらふときはむまのふとばらもぬれずさふらふとぞまをしけるはんぐわんさらばしほのひんをまつべしとてしほひがたよりぞよせられけるころはきさらぎ十ハにちのむまのこくばかりのことなればけあぐるしほのかすみとともにしぐらうだるなかよりげんじはかりごとに五き十きうちむれうちむれよせけるをへいけはうんのきはめにやこれをたいぜいとこそみてんげれさるほどに八しまにはあはのみんぶしげよしがちやくしでんないざゑもんのりよしがかはのをせめに三千よP490
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あひ 1104
おほいとのこのよしをみたまひてげんじのせいいくほどもなかりけるものをあまりにあわててごしよやだいりを
やかせつることこそやすからねのとどのはおはせぬかくがにあがつて一いくさしたまへかしとのたまへば
うけたまはつてこぶね百さうばかりなぎさによす
次信が最期 1105 P492
なかにもゑつちうの二らうびやうゑもりつぎかちのひたたれにくろかはのよろひをきしらえのおほなぎなたのさやをはづいてつゑにつきふねのへにすすみいでだいおんじやうをあげていぜんになのつたりけれどもかいしやうはるかにへだてけみやうじつみやうさだかならずいかなるひとぞなのれやなのれといひければいせの三らうよしもりすすみいでてあなこともおろかやせいわてんわうに十だいのみすゑかまくらどののおんおとうと九らうたいふのはんぐわんどのぞもりつぎきいてあなことごとしさてはそれはかねあきうどがしよじうにてこそあんなれちちよしともはさんぬるへいぢにうたれぬははときはがふところにいだかれてやまとやましろまどひありきしがそののちはすておきたりしをこだいじやうのにふだうどののをさなければふびんさにそだておきくらまのてらにちごにて十四五まではありしがそののちはかねあきうどがらうれうせおひておくのかたへまどひたりしそのこくわんじやにこそとぞまをしけるよしもりわうしたのねのやはらかなるままにさやうのことなまをされそさてはごへんはほつこくとなみやまのかつせんにうちまけてこつじきをしてきやうへにげのぼりけるとこそきけそれをばよもあらがはじとぞまをしけるもりつぎこれはえうせうよりきみのごおんをあくまでとげたるみのなにのふそくにこつじきをばせむさてわぎみはいせのくにすずかやまのやまだちしてよをわたりけるとこそきけそれをばよもあらがはじなとぞまをしけるかねこの十らういへただすすみいでてとのばらたちのざふごんむやくりやうはうくちのきいたるままにひがごとをまをしあはむによはあけひはくるるともつきすまじただしこぞのきさらぎつのくに一たににてむさしさがみのわかとのばらのてなみのほどはよくしつたるらんといはせもはてずうしろにひかへたるおとうとのよ一ちかのりなかさしと
つP493てつがひよつぴいてひやうといるもりつぎがよろひのむないたうらかくほどにいさせてぞことばたたかひはやみにけるのとどのこのよしをみたまひてふないくさはやうあるものぞとてわざとひたたれをばきたまはずからまきぞめのこそでにくろいとをどしのよろひをき五まいかぶとのををしめて廿四さいたるおほなかぐろのやおひぬりごめどうのゆみもつてふねのへにすすみいでこんどのげんじのたいしやうをいおとさむとぞうかがはれけるのとどのはとうごくまでもきこえたまへるつよゆみせいひやうやつぎばやのてききにておはしければのとどののやさきにはんぐわんをかけたてまつらじとげんじのつはものどもおんまへにむんずとふさがつてぞさふらひけるのとどのだいおんじやうをあげておんまへにさふらひけるざふにんばらどもあまりにみぐるしうさふらふのけられさふらへのけられさふらへとてさしつめひきつめさんざんにいたまひけるにくきやうのつはものども五きまでこそいおとされけれなかにもはんぐわんのみにかへておもはれけるあうしうのさとう三らうびやうゑつぎのぶはかちのひたたれに
くろかはをどしのよろひをきかげなるむまにのつておんまへにむんずとふさがつてさふらひけるよろひのひきあはせ
うしろへつつといいだされてむまよりまつさかさまにどうとおつのとどののわらはにきくわうまるとてしやう
ねん十八さいになりけるがしげめゆひのひたたれにもえぎのはらまきをきしらえのおほなぎなたのさやをはづいて
つゑにつきておひたるつぎのぶがくびとらむとするところをおとうとのただのぶにつくきやつのとてなかさしとつ
てつがひよつぴいてひやうといるこれもはらまきのひきあわせうしろへつつといいだされていぬゐにこ
そはまろびけれのとどのわらはがくびかたきにとられじといそぎふねよりとんでおりわらはをひつさ
げP494てぞのりたまひけるわらはがくびかたきにはとられねどもいたでなりければふねのなかにてしににけりこのきく
わうとまをすはのとどののおんあにゑちぜんの三みみちもりのわらはなり三みうたれたまひてのちしかるべきおんかたみにもと
おもはれけるきくわうをうたせてよろづこころぼそくやおもはれけんそののちはいくさをもしたまはず
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先帝の身投 1111
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能登殿の最後 1112 P512
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腰越 1119
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大臣殿のきられ 1120
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P536

平家物語(城方本・八坂系)
巻第十二 P536
重衡のきられ 1201
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十郎蔵人の沙汰(あひ) 1208
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法性寺合戦 1214
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