平家物語(城方本・八坂系)
巻第一
祗園精舎(序文)101
ぎをんしやうじやの・かねのこゑ・しよぎやうむじやうの・ひびきあり・しやらさうじゆの・はなのいろ・しやうじやひつすゐの・ことわりを・あらはす・おごれるものも・ひさしからず・ただはるのよの・ゆめのごとし・たけきものも・つひには・ほろびぬ・ひとへに・かぜのまへのちりに・おなじ・とほくいてうの・せんしようをとぶらふに・しんのてうかう・かんのわうまう・りやうのしうい・たうのろくさん・これらはみな・きうしゆせんくわうの・まつりごとにもしたがはず・たのしみをきはめて・てんかのみだれむことをも・さとられ・いさめをも・おもひよらず・みんかんの・うれふるところをも・しらざりしかば・ひさしからずして・ほろびにし・ものなり・ちかくほんてうを・うかがふに・しようへいにまさかど・てんぎやうにすみとも・かうわのよしちか・へいぢにのぶより・これらは・みな・おごれることも・たけきこころも・とりどりなりしかども・まぢかくは・さきのだいじやうだいじんたひらのあそんきよもりこうと・まをししひとの・ありさまを・つたへうけたまはるこそ・こころもことばも・およばP2
れね・そのせんぞをたづぬるに・くわんむてんわうだいごのわうじ・いつぽんしきぶきやう・かつらばらのしんわう・くだいのこういん・さぬきのかみまさもりのまご・ぎやうぶきやうただもりの・あそんのちやくなんなり・かのしんわうの・おんこたかみのわうは・むくわんむゐにして・うせたまひぬ・そのおんこ・たかもちのわうの・ときより・はじめて・たひらのせいを・たまはつて・かづさのかみに・なりたまひしより・このかた・たちまちわうしをいでて・ひさしく・じんしんに・つらなる・そのおんこ・ちんじゆふのしやうぐんよしもち・のちには・ひたちのたいぜうくにかと・あらたむくにかより・さだもり・これひら・まさのり・まさひら・まさもりに・いたるまで・ろくだいは・しよこくのじゆりやうたりと・いへどもいまだ・てんじやうの・せんせきをば・ゆるされず

殿上闇討102
しかるをただもりの・いまだ・びぜんのかみたりしとき・とばのゐんのごぐわん・とくちやうじゆゐんを・ざうしんして・三拾三げんの・みだうをたて・一千一たいの・みほとけをすゑたてまつる・くやうは・てんしようぐわんねん三ぐわつ十三にちなり・ただもりけんじやうには・けつこくをたまふべきよし・おほせくだされさふらふをりふし・たじまのくにの・あきたりけるをぞ・たまはりける・じやうわう・なほえいかんに・たへずして・うちのしようでんをぞ・ゆるされける・ただもり・とし三拾六にして・はじめて・しようでんす・くものうへびと・これをそねみいきどほつて・おなじきとしの十一ぐわつ廿三にち・五せち・とよのあかりのせちゑのよ・ただもりを・でんじやうにして・やみうちに・せんとぞ・ぎせられける・ただもりこのことをほのぎいて・われ・いうひつの・みにあらず・ぶようの・いへにむまれて・ふりよのはぢに・あはんこと・いへのため・みのため・こころうかるべし・せんずるところ・みをまつたうして・きみに・つかへよと・いふ・P3
ほんもんありとて・かねて・そのよういをいたす・さんだいの・はじめより・いくわんのしたに・おほきなるさやまきを・しどけなげに・さしつつ・ひの・ほのくらきかたに・むかひては・やはらかのかたなをぬきいだし・びんに・ひきあて・ひきあて・したまひけるが・よそよりは・こほりなんどのやうにぞ・みえし・しよにんめをすます・またただもりの・らうどうに・もとは・一もんたりし・むくのかみたひらのさだみつが・まご・しん三らうだいふいへふさがこに・さひやうゑのぜういへさだとまをす・ものあり・とくさの・かりぎぬのしたに・もえぎの・はらまきを・き・ゑふのたち・わきばさんで・でんじやうのこにはに・かしこまつてぞ・さふらひける・くわんしういげ・あやしみをなし・六ゐをもつて・いはせけるは・うつぼばしらよりうち・すずの・つなのへんに・ほいのものの・さふらふは・なにものぞ・らうぜきなり・まかりいでよと・いはせければ・いへさだ・かしこまつてまをしけるは・これはさうでんのしゆ・びぜんのかうのとのの・こんや・これにて・やみうちに・せられたまふべきよしを・つたへうけたまはつて・ならんやうを・みんとて・かくて・さふらへば・えこそ・まかりいづまじけれとて・かしこまつてぞ・さふらひける・これらをよしなしとや・おもはれけん・そのよのやみうち・なかりけり・ただもり・ごぜんの・めしに・ついて・まはれけるに・ひとびと・ひやうしをかつて(イかへて)・いせへいしは・すがめなりけるとぞ・はやされける・このひと・かたじけなくも・かしはばらのてんわうの・みすゑにては・おはしけれども・まぢかくは・むげにくだつて・くわんとも・あさう・みやこの・すまひもうとうとしく・いが・いせに・のみ・ぢうごくふかき・ひとにて・おはしければ・かのくにのうつはもの・へいしにたとへて・いせへいじとは・はやされけり・そのうへ・ただもりのかための・すこし・すがまれ・たりければにや・かやうには・はやされけり・ただもり・いかに・すべきやうも・なうて・いまだ・ぎよいうも・をはらぬ・さきに・ごぜんを・まかりいでられけるに・いかがは・P4
おもはれけん・よこたへ・さされたりつる・かたなをば・ししんでんの・ごごにして・とのもづかさに・あづけおきてぞ・いでられける・あんのごとく・いへさだ・まちうけたてまつつて・さて・いかにさふらふと・まをしければ・ただもりこのことありのままにいひつるほどならばでんじやうまでも・きりのぼらん・ほどのものの・つらたましひ・なりければ・いまは・べちのことなしとて・ひきぐしてぞ・いでられける・五せちには・しらうすやう・こぜんじ(イとうせんし)のかみ・まきあげのふで・ともゑ・かいたる・ふでのぢくなんど・かやうに・さまざま・おもしろきことを・のみこそ・うたひ・はやされしに・なかごろ・だざいのごんのそつすゑなかきやうと・まをすひと・おはしけり・あまりに・いろのくろかりければ・ひと・こくそつとぞ・まをしける・このひとのいまだそのころ・くらんどのとうたりしとき・ごぜんの・めしについて・まはれたるに・ひとびとひやうしを・かへて・あなくろくろ・くろきとうかな・いかなるひとの・うるしぬりけんとぞ・はやされける・ならびに・はくはつなる・でんじやうびとの・まはれけるに・このひとのかたうどと・おぼしくて・あなしろしろ・しろき・ぬしかな・たれ・とらへて・はくを・おしけんとぞ・はやされける・じやうこには・かやうのことども・ありしかども・いまだ・こと・いでこず・まつだい・いかが・あらんずらん・おぼつかなしとぞ・ひとまをしける・あんの・ごとく五せち・はてにしかば・でんじやうには・くぎやうせんぎあり・それ・ゆうけんを・たいして・くえんに・つらなり・ひやうぢやうを・たまはつて・きうちうを・しゆつにふすること・これきやくしきの・れいをまぼる・りんめい・よしある・せんきたり・しかるを・ただもり・さうでんの・らうじうを・ほいの・つはものと・がうして・でんじやうのこにはに・めしおき・そのみは・こしのかたなを・よこたへ・さいて・せちゑの・ざに・つらなる・りやうでう・きたいいまだきかざる・らうぜきなり・ことすでにちようでふせり・ざんくわもつとも・のがれがたし・はやく・みふだP5
をけづつて・けつくわんちやうにんに・おこなはるべき・かと・おのおの・うつたへまをされ・たりければ・じやうわうも・おほきに・おどろきおぼしめして・いそぎ・ただもりを・めして・おんたづねありければ・ただもり・かしこまつて・ちんじまうされけるは・まづ・らうじう・こにはに・しこうのこと・ただもり・かくごつかまつらず・ただし・きんじつ・ひとびとあひたくまるる・しさいあるかのあひだ・さうでんのらうじう・ことを・つたへうけたまはつて・しゆのはぢを・たすけんがために・ただもりには・しらせずして・ひそかに・さんこうのでう・ちからおよばざるしだいなり・なほそのとが・あるべくは・そのみを・めしつかはすべきは(イか)・つぎにかたなのことは・とのもづかさに・あづけおきをはんぬ・かのかたなを・めしいだし・かたなのじつぷに・まかせて・とがの・さう・あるべき(べきレある)かと・まをされたりければ・じやうわう・このぎもつともとて・いそぎ・かのかたなを・めしいだして・えいらんあるに・うへはさやまきの・くろう・ぬつたりけるが・なかは・きがたなに・ぎんぱくをぞ・おしたりける・たうざの・ちじよくを・のがれむが・ために・こしのかたなを・たいするよし・あらはす・といへどもごにちの・そしようを・ぞんじしつて・きがなたを・たいしける・よういの・ほどこそ・しんべうなれ・つぎに・らうじう・こにはにしこうのことかつうは・ぶしの・らうどうのならひなり・されば・これは・ただもりが・とがにはあらずとて・かへつてえいかんに・あづかつしうへは・あへて・ざいくわのさたは・なかりけり

清盛昇進の沙汰(あひの物)103
そのこども・しよゑのすけを・へて・しようでんせしに・ひと・でんじやうのまじはりを・きらふにおよばず・あるときただもり・あかしのうらの・つきみむとて・はりまへ・げかうせられたりけるが・ほどなう・かへりのぼられ・たりければ・ひとびと・あかしP6
のうらの・つきはいかにと・とひたまへば・ただもりのへんじには

ありあけのつきもあかしのうらかぜになみばかりこそよるとみえしか
と・まをされたりければ・じやうわうも・おほきにぎよかんあつて・やがてこのうたをば・きんえふしふにぞ・いれられたる・またただもり・せんとうに・かようて・あそばれける・にようばうの・もとに・みなくれなゐのあふぎの・つまに・つきいだしたりけるを・とりわすれて・いでられければ・かたへのにようばうたち・あれは・いづくよりの・つきかげぞや・いでどころ・おぼつかなし・なんど・わらひ・あはれければ・このにようばう

くもゐよりただもりきたるつきなればおぼろけにてはいはじとぞおもふ
ことを・ともとかやただもりの・すいたりければ・このにようばうもいふなりけり・かくて・ただもり・にんべい三ねん・しやうぐわつ十五にちに・とし五十八にて・うせたまふ・きよもり・ちやくなんたるによつて・そのあとをつぐ・ほうげんぐわんねんの・七ぐわつに・しゆじやう・じやうわうの・みくにあらそひの・ありしとき・きよもり・しゆじやうの・おんみかたに・さふらひて・くんこうあり・つぎのとしはりまのかみに・うつつて・おなじき三ねんに・だざいだいにになる・またへいぢぐわんねん十二ぐわつに・のぶより・よしともが・むほんのときも・きよもりなほ・みかたにさふらひて・くんこうあり・くんこうひとつにあらず・おんしやうこれなほおもかるべしとて・やがて・じやう三みして・うちつづき・さいしやうゑふのかみ・けんびゐしのべつたう・ちうなごん・だいなごんに・へあがり・あまつさへせうじやうのくらゐにいたる・ないだいじんより・さうを・へず・だいじやうだいじん・じゆ一ゐに・あがり・たまひけり・たいしやうには・あらねども・ひやうぢやうをたまはつて・ずゐじんをめしぐす・れんしやに・のつて・きうちうを・いでいること・ひとへに・しつせいのひとに・おなじP7

童のさた104
だいじやうだいじんは・いちじんに・しはんとして・四かいに・ぎけいせり・みちをろんじ・くにををさめ・いんやうを・やはらげたまへり・そのひとに・あらずんば・けがすべき・くわんならねば・そくけつのくわんとも・なづけられたり・きよもり・そのひとにはあらねども・かやうに・一てん四かいを・たなごころに・にぎりたまひしうへは・ひととかうまをすに・およばず・かくて・にんあん三ねん・十一ぐわつ十二にちに・きよもり・やまひに・をかされ五拾一にて・しゆつけし・ほうみやう・じやうかいとぞ・なのられける・されば・そのしるしにや・しゆくびやうたちどころに・いえて・てんめいを・まつたうし・ひとの・したがひ・つきたてまつることは・ふくかぜのくさきを・なびかすが・ごとし・よのあまねく・あふげることも・ふるあめの・こくどを・うるほすに・ことならず・六はらどのの・一けのきんたちと・だにも・いひてんしかば・くわぞくも・えいえうも・おもてをむかひ・かたを・ならぶるひとも・なし・されば・にふだうのこじうと・へいだいなごんときただのきやうの・この一もん・たらざらんひとは・みな・にんぴにん・たるべしとぞ・のたまひける・されば・いかにもして・このえんゆかりに・むすぼほれむとぞ・しける・えもんの・かきやう・ゑぼしの・ためやうに・いたるまで・なにごとも・みな・六はらやうとだに・いひてんしかば・一てん四かい・これをぞ・まなびける・いかなる・けんわうせいしゆの・おんまつりごと・せつしやう・くわんぱくのごせいばいをも・なにとなく・よに・あまされたるものの・そしり・かたぶき・まをすことは・つねの・ならひなれども・このぜんもん・よさかりのあひだは・いささか・いるがせに・まをすものなし・そのゆゑは・にふだうの・はかりごとに・十四五六のわらんべP8
を・三百よにん・めしあつめ・かみを・かぶろに・きりまはし・あかきひたたれを・きせ・かぶろと・なづけて・めしつかはれけるが・きやう・しらかはに・みちみちて・わうへんしけり・されば・いささかも・へいけの・ことを・いるがせに・まをすものあれば・一にん・ききいださん・ほどこそ・ありけれ・よたうに・ふれめぐり・そのいへに・らんにふし・しざいざふぐを・つゐぶくし・そのやつを・からめとつて・六はらへ・ぐして・まゐる・にふだう・うけとらせ・そくじにうしなはれけり・されば・みちをすぐる・むまくるまも・六はらどのの・かぶろと・だにも・いひてんしかば・みなよきてこそ・とほしけれ・されば・きうもんを・しゆつにふすと・いへどもしやうみやうをたづねらるるに・およばず・けいしの・ちやうり・これがために・めをそばむとも・みえたり

我身の栄花105
わがみのえいぐわを・きはむるのみならず・ちやくししげもり・ないだいじんの・さだいしやう・じなん・むねもり・ちうなごんのうだいしやう・三なんとももり・三ゐのちうしやう・四なんしげひらくらんどのとう・ちやくそんこれもり・四ゐのせうしやうとて・およそ・一もんのくぎやう・十六にん・てんじやうびと・三拾よにん・そのほかしよこくのじゆりやう・ゑふ・しよし・つがふ・六拾よにんなり・よにはまた・ひとなくぞ・みえられける・むかしならのみかどのおんとき・じんぎ五ねんに・てうかに・こんゑのたいしやうを・はじめおきたまひしより・このかた・きやうだいさうに・あひならび・たまふこと・わづかに・三四ケどなり・もんとくてんわうのおんときは・ひだんに・よしふさ・ないだいじんのさだいしやう・みぎに・よしあふ・だいなごんのうだいしやう・これは・かんゐんのさだいじんふゆつぐのおんこなり・しゆじやくゐんのおんときは・ひだんにさねP9
より・をののみやどの・みぎにもろすけ・九でうどのていじんこうのおんこなり・ごれんぜいゐんの・おんときは・ひだんに・のりみち・おほ二でうどの・みぎに・よりむね・ほりかはどの・みだうのくわんぱくのおんこなり・二でうゐんのおんときは・ひだんに・もとふさ・まつどの・みぎに・かねざね・つきのわどの・ほうしやうじどののおんこなり・これみな・せつろくのしんのごしぞん・ぼんにんにおいては・そのれいなし・ひごろは・でんじやうのまじはりを・だにもきらはれ・たまひしひとの・しそんの・いまは・きんじきざつぱうを・ゆり・りようらきんしうを・みにまとひ・あまつさへ・だいじんのたいしやうにいたつて・きやうだい・さうに・あひならびたまふこと・まつだいとは・まをしながら・ふしぎなりし・ことどもなり・また・にふだうしやうごくは・おんむすめも・八にん・ましましけり・それもみな・とりどりに・さいよはひ(イさいはひ)たまふ・一は・さくらまちのちうなごんしげのりきやうに・八さいより・おんやくそくありしが・へいぢのらんに・ひきちがへたてまつりて・のちには・くわざんのゐんの・さだいじんどのの・みだいばんどころに・ならせたまふ・きんだちあまた・ましましけり・そもそも・このさくらまちのちうなごんしげのりきやうと・いふは・こせうなごんにふだうしんせいの・じなんなり・ことに・こころ・すきて・おはしければ・つねは・よしののやまを・こひつつ・ちやうにさくらをうゑおき・そのうちに・やをつくつて・すまれければ・きたるとしの・はるごとに・みるひと・さくらまちとぞ・まをしける・さくらはさいて・七ケにちにちる・ちうなごん・はなのなごりを・をしみたまひて・つねは・あまてるおんかみに・いのりまをされければにや・三七にちまで・なごりあり・きみも・けんわうにて・ましませば・しんも・しんとくを・かがやかし・はなも・こころあればにや・廿かのよはひを・たもちけり・二は・きさきにたたせたまひ・わうじ・ごたんじやうあつて・くわうたいしに・たたせたまひしかば・ひととかうまをすに・およばず・三は・六でうの・せつしやうどのの・きたの・まんどころに・ならせたまふ・たかくらのゐん・ございゐのおんとき・おんははしろとて・三こうになぞらふる・せんじを・かうぶらせたまひ・しらかはP10
どのと・まをして・よには・また・おもきひとにてぞ・ましましける・四は・れんぜいのだいなごんりうばうきやうの・きたのかた・五は・ふげんじどのの・きたのまんどころに・ならせたまふ・六は・七でうのしゆりのだいぶのぶたかのきやうに・あひぐしたまへり・七は・ごしらかはのほうわうへ・まゐらせたまひて・ひとへに・にようごのやうにてぞ・ましましける・これは・あきのくにいつくしまの・ないしのはらの・おんむすめなり・そのほか・九でうゐんのざふし・ときはがはらにも・ひめぎみ一ところ・ましましけり・これは・のちには・おんあねくわざんのゐんどのへ・まゐらせたまひて・じやうらふにようばうにて・らふのおんかたとぞ・まをしける・につぽんあきつしまは・わづかに六拾六ケこく・へいけちぎやうのくに・卅よケこく・すでに・はんこくにおよべり・そのほか・しやうゑんでんばた・いくらといふ・かずをしらず・きらじうまんして・だうじやう・はなのごとし・けんきぐんじゆして・もんぜんにいちをなす・やうしうのこがね・けいしうのたま・ごぐんのあや・しよくかうのにしき・七ちん万ぱう一として・かけたることぞ・なかりける・かだうぶかくのもとゐ・ぎよりようしやくばのもてあそびもの・おそらくは・ていけつもせんとうも・これにはすぎじとぞ・みえし

義王106
むかしは・げんぺいりやうけ・てうかに・めしつかへて・わうくわにも・したがはず・てうけんをかろんずるものあれば・たがひにいましめを・くはへられしかば・よのみだれも・なかりしに・ほうげんにためよしきられ・へいじによしともちうせられしのちは・すゑずゑのげんじ・ありといへども・あるひは・ながされ・あるひは・ちうせられしかば・一かうへいけの・一るゐのみ・はんじやうして・かしらを・さしいだすものも・なし・されば・すゑのよに・なにごとか・あらんとぞ・みえし・かやうににふだうP11
しやうごく・一てん四かいを・たなごころににぎり・たまひしうへは・よのそしりをも・はばからず・ひとの・あざけりをもかへりみず・ふしぎのことをのみ・したまひけり・たとへば・そのころ・きやうちうに・きこえたる・しらびやうし・ぎわう・ぎによとて・おとどいあり・これは・とぢとまをすしらびやうしのむすめなり・にふだうなかにもあねの・ぎわうをさいあいして・にし八でうのしゆくしよに・とりすゑてぞ・おかれたる・かかりければ・いもうとのぎによをも・ひとおもうして・もてなすことは・かぎりなし・ははの・とぢをも・にふだう・だいじのものにしたまひて・よきや・つくつて・とらせ・まいげつついたちごとに・百こく・百くわんを・くるまにて・おくられければ・いへのうちも・ふつきして・たのしいことは・かぎりなし・かかりければ・きやうちうの・しらびやうしども・ぎわうが・さいあいを・うらやむものもあり・また・そねむものも・おほかりけり・うらやむものは・あなめでたの・ぎわうごぜんの・さいはひや・おなじ・あそびものと・ならば・もつとも・かくこそ・あらまほしけれ・いかさまにも・これは・ぎといふ・もじを・なに・つきて・かくは・めでたきやらむ・いざや・われらも・つきてみんとて・あるひは・ぎ一と・つくものもあり・あるひはぎ二と・つくものも・あり・ぎとく・ぎふく・ぎじゆ・ぎはう・なんど・つけけり・そねむものは・なんでう・なにより・もじには・よるべき・なによりもじに・よらむには・たれかは・おとるべき・くわはうは・ただ・なにごとも・むまれがらにてこそ・あれとて・つかぬものも・おほかりけり・そもそも・わがてうに・しらびやうしの・はじまりけることは・とばのゐんのおんとき・しまのせんざい・わかのまへとて・かの二にんが・まひはじめたりけるとかや・はじめは・すゐかんに・たてゑぼし・しろきさやまきを・さして・まひければ・をとこまひと・なづけられたりしを・なかごろより・かたな・ゑぼしを・のけられて・しろき・すゐかんばかりにて・まひければ・しらびやうしとは・p12
なづけられけり・かくて・ぎわう・とりすゑられ・まゐらせて・三とせと・まうしし・はるのころ・またほとけとまうして・いうなる・あそびもの・一にん・いできにけり・これは・かがのくにの・ものとぞ・きこえし・そのころの・きやうちうのじやうげ・むかしより・おほくの・あそびものありつれども・かやうのものは・いまだ・なしとて・こぞつてこれをぞ・もてなしける・あるとき・ほとけごぜん・まをしけるは・われ・てんかに・かくれなしと・いへども・たうじ・ときめきたまふ・へいけ・だいじやうにふだうどのへ・めされぬことこそ・ほに(イほい)なけれ・あそびものの・すゐさんは・なにかは・くるしかるべきとて・あるとき・ほとけくるまにのつて・にし八でうどのへぞ・まゐりたる・ひとまゐつて・ほとけとまをして・いうなる・あそびものの・まゐつてさふらふと・まをしたりければ・にふだう・なんでふ・さやうの・あそびものは・ひとの・めしに・ついてこそ・まゐることにては・あれ・めしもなきところへ・すゐさんしかるべからず・そのうへぎわうが・あらむ・かぎりは・かみともいへ・ほとけともいへ・とうとう・まかりいでよと・いへ・ほとけすげなう・おほせをかうぶつて・はるばると・いでたりけるを・ぎわうごぜんまをしけるは・あそびもののすゐさんは・つねのならひ・としも・いまだ・をさなしとこそ・うけたまはりさふらへ・たまたま・おもひたつて・まゐりて・さふらふに・すげなうおほせを・かうぶつて・いかばかりか・はづかしう・かたはら・いたくも・さふらはん・わが・たてしみちなれば・ひとのうへとも・おぼえず・たとひ・まひを・ごらんじ・うたをこそ・きこしめさずとも・めされて・ごたいめんあつて・かへさせ・おはしまさんは・ありがたき・おなさけにてこそ・さふらはんずれ・ただめさるべしと・まをしたりければ・にふだうさらば・よべとて・よびかへさせ・いであひ・たいめんしたまひて・いかにほとけ・けふのげんざんは・いかにも・あるまじかりつれども・ぎわうが・なにとおもひてやらp13
ん・しきりに・まをすあひだ・めしたるなり・かやうにまた・めされて・こゑを・きかざらんは・むねんなるべし・なにごとにても・いまやう一・うたへかしと・のたまへば・ほとけうけたまはつて・いまやうひとつぞ・うたうたる・きみをはじめて・みるときは・ちよもへぬべし・ひめこまつ・おまへのいけなる・かめをかに・つるこそ・むれゐて・あそぶめれと・これを・二三べん・うたひすまし・たりければ・みなひと・かんじあはれけり・にふだうしやうごくも・おもしろげに・おもひたまひて・わう・わごぜは・いまやうは・じやうずにて・ありけるや・いまやうが・おもしろければ・まひもさだめて・おもしろかるらん・なにごとにても・一ばんさうらは・ばや・つづみうち・めせとて・めされて・一ばん・まはせらる・およそ・このごぜん・としも十六・なるうへ・みめ・かたち・ならびなく・かみのかかり・まひすがた・こゑよく・ふしも・じやうずなれば・なじかは・まひも・そんずべき・こころもおよばずぞ・まうたりける・けんもんのひとびとも・みな・じぼくを・おどろかさずと・いふことなし・にふだう・まひにや・めでたまひけん・ほとけに・こころをぞ・うつされける・てんせいこのにふだうどのは・いらいらしきひとにて・おはしければ・まひのはつるをおそしとや・おもはれけん・はじめのわか一・うたはせ・せめのわか・いまだ・うたひも・はてざるに・ほとけを・いだいて・いりたまふ・ほとけごぜんまをしけるは・わらは・もとより・すゐさんのものにて・すげなう・おほせをかうぶつて・はるばると・いでさふらひしをも・ぎわうごぜんの・まをしじやうに・よつてこそ・めされまゐらせても・さふらへ・おぼしめしわすれぬ・おんことならば・めされてまたは・まゐりさふらふとも・けふは・ただ・いとまをたうで・いださせおはしませと・まをしければ・にふだうすべて・くるしかるまじ・ただ・ともかくも・じやうかいが・ままぞとよ・ただし・ぎわうp14
に・はばかるか・そのぎならば・ぎわうをこそ・いださめと・のたまへば・ほとけごぜん・それまた・こころうく・さふらふべし・わらは・もろともに・めしおかれ・まゐらせんだにも・いかばかりか・はづかしう・かたはらいたくも・さふらふべきに・まして・さやうに・ぎわうごぜんを・いださせおはしまさんは・いよいよ・こころうかるべしと・まをしけれども・にふだう・ぜひをも・いはせず・ぎわう・とうとうまかりいでよとの・つかひ・しきなみに・三どまで・たちければ・ぎわう・すこしも・やすらふべきに・あらずとて・はきのごひ・ちりひろはせ・みぐるしきものども・したためて・すでに・いづべきにぞ・さだまりける・ひごろより・かかるべしとは・おもひまうけし・ことなれども・さすが・きのふけふとも・おぼえず・この三とせがあひだ・すみなれし・しやうじのうちを・いづるにぞ・なごりもをしく・かなしくて・かひなきなみだぞ・ながれける・ぎわう・いでけるが・さるにてもとて・またたちかへり・すみなれししやうじに・かうぞ・かきつけたる

もえいづるもかるるもおなじのべのくさいづれかあきにあはではつべき
ぎわう・くるまにのつて・いでけるが・しきりになみだのすすみければ

いまさらにゆくべき(イいづちともいづべき)かたもおぼえぬになにとなみだのさきにたつらん
と・えいじつつ・ぎわう・しゆくしよにかへり・しやうじのうちに・たふれふし・なくよりほかの・ことぞなき・ははこれを・あやしみて・いかにや・いかにと・とひけれども・へんじを・するにおよばず・ぐしたるをんなに・たづねてぞ・さることありとは・しりてんげるかかりければ・きやうちうの・じやうげ・あはや・ぎわうこそ・にし八でうどのより・いとまたうp15
で・いだされたんなれ・いざやげんざんして・あそばんとて・あるひはふみをつかはす・ひともあり・あるひは・ししやを・つかはすものも・ありけれども・ぎわういまさら・ひとにげんざんして・あそび・たはぶるべきにあらずとて・ふみを・とりあげ・みるにおよばねば・まして・つかひを・あひしらふまでの・ことは・なかりけり・かくてそのとしもくれ・はるのころにも・なりしかば・にふだう・ぎわうがもとへ・ししやをたてて・いかにぎわう・そののちは・なにごとか・ありし・ほとけがあまりに・つれづれげになるに・まゐつて・まひをも・まひ・いまやうをも・うたうて・ほとけなぐさめよと・のたまひ・つかはされたりければ・ぎわう・あまりのこころうさに・へんじにも・およばず・にふだう・かさねてのたまひけるは・いかに・ぎわう・など・ごへんじをば・まをさぬぞ・まゐるまじきか・まゐるまじくは・いささか・そのやうを・すみやかにまをせ・にふだうも・きききつて・はからふむね・ありとぞ・のたまひける・ははのとぢ・あれほどの・おほせなるに・など・ごへんじをば・まをさぬぞ・ぎわう・まゐらんとおもふみちならばこそ・やがて・まゐるとも・まをさめ・まゐらざらんものゆゑに・なにとか・ごへんじをば・まをすべき・めすにまゐらずは・はからふむねありと・のたまふは・みやこのうちを・いださるるか・さらずは・いのちを・めさるるか・これふたつには・よもすぎじ・たとひ・みやこのうちを・いださるるとも・いづくかつひの・すみかなる・たとひ・いのちを・うしなはるるとも・をしかるべき・またいのちかは・一どうきもの
に・おもはれまゐらせて・ふたたびおもてをむかふべきに・あらずとて・なほ・へんたふにも・およばず・ははかさねて・まをしけるは・なんによのえん・しゆくせ・いまだはじめぬ・ことなれや・ちとせまつだいと・ちぎれども・やがて・わかるるなかも・あり・かりそめと・おもへども・ながらへはつる・ひともあり・ただよに・さだめなきは・なんによの・なからひなり・p16
いはんや・わごぜんたちは・あそびものの・一にち二か・めしおかれ・まゐらせんだにも・いかばかりか・ありがたう・さふらふべきに・まして・この三とせが・あひだ・めしおかれまゐらせぬれば・こんじやうのおもひいで・なにごとか・これにすぐべき・めすに・まゐらずば・はからふむねありと・のたまふは・みやこの・うちをこそ・いだされんずらめ・いのちを・めさるるまでのことは・よも・あらじ・たとひ・みやこのうちを・いださるるとも・わごぜんたちは・わかければ・いづくの・うらわ・いはきのうえにても・すぐさんことは・やすかるべし・わらはが・としおいおとろへたるみの・ならはぬひなずまゐを・かねて・おもふこそ・かなしけれ・ただわらはを・みやこのうちにて・すみはてさせんと・おもひたまへ・それぞ・なににも・すぐれたる・こんじやうごせの・けうやうにて・あるべけれと・なみだも・せきあへず・まをしたりければ・ぎわうさらば・まゐるまでにてこそ・あれとて・なくなくたちいで・けるがひとり・まゐらんも・ものうければとて・いもうとの・ぎによをも・ぐしけり・おなじやうなる・しらびやうし・二にん・そうじて・四にん・ひとつくるまに・とりのつて・にし八でうどのへぞ・まゐりたる・にふだう・ひごろ・めされしところより・はるかに・さがりたるところに・ざしきしてこそ・おかれたれ・ぎわう・こは・なにごとの・とがぞや・はては・ざしきを・さへ・さげられつることの・こころうさよ・これに・つけても・なにしにか・まゐりけんと・おもふに・けしきを・ひとに・みえじと・おさふるそでの・したよりも・あまりてなみだぞ・ながれける・ほとけごぜん・ひごろ・めされぬところにても・さふらはず・ただ・これへめさるべし・さらずは・いでて・げんざんせんと・まをしけれども・にふだう・なんでふと・はなつくあひだ・ちからおよばず・そののちにふだう・いであひ・たいめんしたまひて・p17
いかにぎわう・そののちは・なにごとかありし・ほとけが・あまりに・つれづれげなるに・なにごとにても・いまやうひとつ・うたへかしと・のたまへば・ぎわう・まゐるほどにては・ただともかうも・にふだうどのの・おほせにこそと・おもひければ・おつるなみだを・おさへて・いまやう・ひとつぞ・うたうたる・つきふけ・かぜをさまつてのち・こころのおくを・たづぬれば・ほとけもむかしは・ぼんぶなり・われらも・おもへば・ほとけなり・いづれも・ぶつしやうぐせるみを・へだつるのみこそ・おろかなれと・これを二三べん・うたひすましたりければ・みなひと・あはれをぞ・もよほしける・にふだうしやうごく・いしうも・うたうたり・やがて・まひをも・みるべけれども・いささかまぎるること・いできたり・こののちは・めざすとも・つねに・まゐつて・まひをもまひ・いまやうをも・うたうて・ほとけなぐさめよ・えいとぞ・のたまひける・ぎわうしゆくしよに・かへりしやうじの・うちに・たふれふし・なくよりほかの・ことぞなき・おやのめいを・そむかじと・ふたたび・うきみちに・おもむき・はては・ざしきを・さへ・さげられつることの・こころうさよ・なほも・うきよに・ながらへ・あるならば・かさねて・かく・うきことをこそ・みきかんずらめ・かかるついでに・ひのなかみづの・そこへも・いりなばやとぞ・かなしみける・あねみをなげば・いもうとのぎによも・ともにみをなげんと・いふ・ははのとぢ・うらむるもことわりなり・ひごろは・これほどまで・なさけなかりける・ひととは・つゆおもひよらずして・とかう・けうくんして・まゐらせつることの・こころうさよ・あね・みをなげば・いもうとのぎによも・ともにみを・なげんと・いふに・わらはが・としおいおとろへたるみの・ひとり・のこりとどまつて・なににかせん・ともに・みをこそ・なげんずらめ・ただし・しごも・きたらぬ・おやに・みをなげさせんは・五ぎやくざいにてもや・あらむp18
ずらん・みだによらいは・さいはうじやうどを・しやうごんし・一ねん十ねんをも・きらはず・十あく五ぎやくざいをも・みちびかんといふ・ひぐわん・ましますなる四拾八の・せいぐわんのうちに・だい三拾五のぐわんには・われらが・やうに・ぐちもんまうなるものを・みちびかむといふ・ひぐわんましますなり・われらこのたび・おもひで・あるでも・なうて・ふたたび・三づに・しづみなは・また・いつのよにかは・うかぶべき・かほどめでたき・みやうがうに・すがつて・ごくらくじやうどの・ふたいの・はうどに・まゐらんとは・おもひたまはずやと・なみだも・せきあへず・いひければ・ぎわう・まことに・しごも・きたらぬ・おやに・みをなげさせんは・五ぎやくざい・うたがひ・あらずとて・みをなげんことをば・おもひとどまり・二十一にて・さまかへけり・いもうとの・ぎによも・ともにと・ちぎりし・ことなれば・十九にて・さまかへけり・ははのとぢ・あれほどに・さかんなる・ふたりのむすめの・さまを・かふる・よのなかに・わらはが・としおいおとろへたるみの・しらがを・つけても・なににかはせんとて・四十五にて・さまかへけり・三にん・さがのおくなる・やまざとに・ねんぶつまをし・わうじやうけつぢやう・りんじゆしやうねんとぞ・いのりける・かくて・はるすぎ・なつたちぬ・あきのはつかぜ・たちぬれば・ほしあひのそらを・ながめつつ・あまの・とわたる・かぢのはに・おもふことかく・これなれや・ものおもは・ざらんひとだにも・くれゆくあきの・ゆふべは・かなしかるべし・いはんや・ものおもふひとの・こころのうち・おしはかられて・あはれなり・にしのやまのはに・かかるひを・みては・あれこそ・さいはうのじやうどにて・あんなれば・いつか・われらも・かのところにむまれて・ものを・おもはで・すごすらん・これにつけても・むかしのことの・わすられて・つきせぬものは・なみだなり・ひもやうやうしぐれければ・p19
三にんのものども・ひとつところにさしつどひ・ぶつぜんに・はなかうそなへ・ともしび・かすかに・かかげつつ・ねんぶつして・ゐたるところに・とぢふさぎたる・たけのあみどを・ほとほとと・たたくおとしけり・三にんのものども・ねんぶつを・とどめて・いかさまにも・これは・われらがやうに・ぐちもんまうなるものの・ねんぶつして・ゐたるを・をかさんとて・まえんの・きたれるにこそ・ただし・まえんならば・あれほどの・たけのあみどを・おしあけて・いらむことは・やすかるべし・ただすみやかに・あけたらんほどに・たすけば・一ぶつ・たとひ・いのちを・うしなはるるとも・このほど・たのみたてまつる・ねんぶつ・あひかまへて・おこたるなよと・こころに・こころをいましめて・三にん・てにてを・とりくみ・とぢふさぎたる・たけのあみどを・おもひきつて・あけたれば・まえんにては・なかりけり・ほとけごぜんぞ・いできたる・ぎわう・はしりいで・ほとけがたもとに・とりついて・こは・さらに・うつつとも・おぼえさふらはぬものかな・ひるだにも・ひとめまれなる・やまざとへ・ただいまなにとして・きたりたまへると・いひければ・ほとけごぜん・いまさらまをせば・ことあたらしきに・にたり・まをさねばまた・おもはぬに・にたれば・はじめより・まをすぞよ・わらは・もとより・すゐさんのものにて・すげなう・おほせをかうぶつて・はるばると・いでさふらひしをも・わごぜんの・まをしじやうに・よつてこそ・めされまゐらせても・さふらへ・やがてわごぜんの・いだされたまひしこと・かならずひとの・うへとも・おぼえず・いつかまた・わがみのうへにて・あらんずらんと・おもひしに・あはせて・しやうじに・いづれか・あきにあはではつべきと・かきおきたまひし・ふでのあと・やがて・おもひしられてこそ・さふらひしか・いつぞやまた・わごぜんの・めされまゐらせて・いまやう・うたひたまひしとき・ざしきをさへ・さげp20
られ・たまひしことの・こころうさ・まをすばかりも・さふらはず・そののちは・いづくにとも・うけたまはらざりしが・このほど・ききいだしたてまつつて・うらやましきことに・おもひまゐらせ・いかに・いとまを・まをせども・おほかた・ゆるされ・まゐらすることも・さふらはず・つくづくものを・あんずるに・しやばのえいぐわは・ゆめのゆめ・たのしみ・さかえも・なにかせん・にんじんは・うけがたく・ぶつけうにはまた・あひがたし・いづるいき・いるをまたず・かげろふ・いなづまよりも・なほあやうし・かやうのことを・おもふにも・いとどこころの・とどまらずして・このひる・おもひも・かけぬ・ひまのありつるに・にげいでて・かくなりてこそ・まゐりたれとて・かづきたる・きぬを・うちのけ・たるを・みければ・さしも・はなやかなりし・えいぐわのたもとを・ひきかへて・あまになりてぞ・いできたる・ひごろの・とがは・これに・ゆるしたまへ・ゆるさんと・のたまはば・おなじあんじつに・ねんぶつまをし・ともに・ごしやうを・いのるべし・なほゆるさじと・のたまはばこれよりいづかたへも・あしにまかせて・まよひゆき・いかなるらんいはのかど・こけのむしろ・まつがねに・たふれふすまでも・ねんぶつまをしみだ三ぞんの・らいがうに・あづからんと・なみだも・せきあへず・まをしたりければ・ぎわう・あなはづかしの・わごぜんのこころのそこの・いさぎよさよ・ひごろは・これほどまで・おもひたまふひととは・いかでか・つゆほども・しるべき・なにごとも・うきよのなかの・さがなれば・かならず・ひとを・うらみと・おもふべからず・みのうきことをこそ・しるべきに・ややもすれば・わごぜんのことのみ・わすられで・かたごころに・かかつて・こんじやうもごしやうも・なかなかに・しそんじたるやうに・おぼえて・やるかたも・なかりつるに・わごぜんは・なにごとをも・おもひたまp21
はず・としもいまだ・十七とこそ・きくに・ゑどをば・いとひ・じやうどをば・ねがふべしとの・こころこそ・まことの・だうしんじやにては・おはしませ・わらはが・廿一にて・さまかへしをこそ・ひとも・ありがたき・ことにまをし・みながらも・ふしぎのことに・おもひしに・いま・わごぜんの・しゆつけに・くらぶれば・ことのかずにてあらざりけり・ひごろのとがは・なにしにか・つゆほども・のこるべき・いざやさらば・おこなはんとて・四にん・おなじあんじつに・ねんぶつまをし・ともに・ごしやうを・いのりけるが・ちそくこそ・ありけれども・つひには・わうじやうの・そくわいを・とげけるとぞ・うけたまはる・そののちにふだう・ほとけを・うしなうて・てんてを・わかつて・たづねさせられけれども・なかりければ・じやうかいが・ほとけはあまりに・みめがよかりつれば・てんぐが・とりたるに・こそとぞ・のたまひける・そののち・はんとしばかりあつて・ききいだされたりけれども・さやうに・なりたらんずるものをばとて・のちには・たづねさせられず・されば・ごしらかはのほふわうの・ちやうかうだうの・くわこちやうにも・ぎわう・ぎによ・ほとけ・とぢとうが・そんりやうと・一しよに・いれられけるとぞ・うけたまはる・あはれなりし・ことどもなり

二代の后107
とばのゐん・ごあんがののちは・ひやうかく・うちつづいて・しざいるけい・けつくわんちやうにん・つねに・おこなはれて・かいだいも・しづかならず・せけんも・いまだ・らくきよせず・おうほう・ぢやうくわんの・ころほひは・ゐんの・きんじゆしやをば・うちより・いましめらp22
れ・うちの・きんじゆしやをば・ゐんより・いましめられしかば・じやうげ・おそれ・おののいて・やすきここちも・
したまはず・ただ・しんゑんに・のぞんで・はくひようをふむに・おなじ・そのころの・しゆじやうとまをすは・二でうのゐん・じやうわうとまをすは・ごしらかはのゐんの・おんことなり・しゆじやう・じやうくわう・ふしの・おんあひだなりければ・なにごとの・おんへだてかわたらせたまふべき・なれども・おもひのほかのことども・あつて・しゆじやう・つねは・ゐんのおほせをも・まをしかへさせ・おはします・これもただ・げうきにおよんで・ひと・けうあくを・さきとするゆゑなり・そのころ・ひと・じぼくをおどろかし・よもつて・おほきに・そしり・かたぶきまをすことあり・そのゆゑは・こんゑのゐんのきさき・たいくわうたいこうぐうと・きこえさせたまひしは・おほゐのみかどの・うだいじんきんよしこうの・おんむすめなり・せんていに・おくれ・まゐらつさせ・たまひてのちは・ここのへのほか・このゑかはらの・おほみやのごしよに・うつりぞ・すませたまひける・いつしか・さきの・きさいのみやにて・ふるめかしう・かすかなる・おんすまひにてぞ・わたらせたまひける・ぢやうくわんの・ころほひは・おんとし・廿二三にもや・ならせ・おはしましけん・おんさかりも・すこし・すぎさせたまふほどなり・されども・てんかだい一の・びじんの・きこえ・わたらせたまひしかば・しゆじやう・つねは・いろにのみ・そみたる・おんありさまにて・ひそかにかうりよくしに・ぜうし・ぐわいきうに・ひき・もとめしむるにおよんで・ひそかに・おほみやへ・ごえんしよあり・おほみやあへて・ごへんじも・なかりければ・しゆじやうひたすら・ほに・あらはれて・きさき・じゆだいあるべきよしを・だいじんけへ・おほせくださる・このこと・てんかに・おいて・ことなる・しようじなりければ・くぎやう・せんぎあつて・おのおのいけんにいはく・かのそくてんくわうごうは・たいそうのきさき・かうそうくわうてい
のけいぼなり・たいそう・ほうぎよののち・かうそうのきさきに・たちたまへるれいは・きけども・それは・いてうの・せんきたるうへ・p23
べつだんのこと・わがてうには・じんむてんわうよりこのかた・にんわう七拾よだいに・いたらせたまふまで・いまだ・二だいのきさきの・れいをきかずと・しよきやう一どうに・うつたへ・まをされたりければ・じやうくわうもこのぎ・おほきに・しかるべからざるよし・おほせければ・しゆじやうおほせありけるは・てんしに・ぶもなし・われ十ぜんの・よくんに・よつて・いま・ばんじようのはうゐを・たもつ・これらほどのことを・えいりよに・まかせざるべきとて・すでに・ごじゆだいのひを・おんさだめありけるうへは・ちからおよばせたまはず・おほみや・このよし・きこしめされし・ひよりして・なのめならず・おんなげきに・しづませ・おはします・せんていに・おくれまゐらせし・きうじゆのあきの・はじめ・おなじ・くさばのつゆとも・きえ・やがて・いへをも・いでよをも・のがれたらましかば・いま・かかる・うきことを・きかざらましとぞ・おほせける・そののち・ちちのおとど・まゐらせたまひて・やうやうに・こしらへ・まをさせたまひけるは・よに・したがはざるを・もつて・きやうじんとすと・みえたり・すでに・ぜうめいを・くだされぬるうへは・しさいを・まをすに・ところなし・はやはや・ごじゆだい・あるべし・これひとへに・ぐらうを・たすけさせ・おはします・ごかうかうの・おんいたり・なるべし・なんどまをさせたまひたり・けれども・おほみやあへて・ごへんじも・なかりけるが・ややあつて・ちちの・おとどの・ごへんじかと・
おぼしくて・おんすずりのふたに・かうぞ・あそばされける

うきふしにしづみもやらで(イはてぬよ)かはたけのよにためしなきなをやながさむ
よには・いかにしてかは・もれにけむ・いうに・やさしき・ためしにぞ・まをしはべりける・すでにごじゆだいの・ひにも・なりしかば・ちちのおとど・ぐぶの・かんたちめ・しゆつしやのぎしき・こころことに・いだしまゐらつさせ・たまp24
ひけり・おほみやものうきおんいでなりければ・とみにも・いでさせたまはず・はるかに・よふけさよも・なかばすぎてのち・おほみや・なくなく・おんくるまに・たすけ・のせられさせ・たまひけり・ものうき・おんいでなりければ・いろある・ぎよいをば・めさず・しろきおんぞ・十五ばかりぞ・めされける・うちへ・まゐらせたまひては・れいけいでんに・うつりぞ・すませたまひける・おんあさまつりごとを・すすめ・まゐらつさせ・たまふばかりなり・かのししんでんの・くわうきよには・けんじやうの・しやうじをたてられたり・いいん・ていごりん・ぐせいなん・たいこうばう・ろくりせんせい・りせきしば・りしやうぐんがすがたを・さながら・うつせる・しやうじもあり・てなが・あしなが・むまかたのしやうじ・おにのま・をはりのかみ・をののだうふうが・七くわいげんじやうの・しやうじと・かきながせるも・ことわりなり・かのせいりやうでんの・ぐわとのみしやうじには・むかし・かなをかが・うつせるゑんざんの・ありあけのつきも・ありとかや・こゐんの・いまだ・えうちに・わたらせたまひし・そのかみ・なにとなき・おんて・まさぐりに・かき・くもらかさせたまひしがありしながらに・かはらぬを・ごらんじて・さすが・せんていの・おんおもかげ・おんこひしうや・おもひまゐらつさせたまひけむ・かうぞあそばされける・

おもひきやうきみながらにめぐりきておなじくもゐのつきをみんとは
そのおんあひだの・おんなからひいひしらず・なにとなく・ものあはれなりし・おんことなり

額打論108
かくてしゆじやうは・えうまんぐわんねんの・はるのころより・つねは・ごふよのおんことと・きこえさせたまひしが・なつのころにも・なp25
りしかば・ことのほかに・おもらせたまひけり・これに・よつて・おほくらのたいふ・いきのかねもりが・むすめのはらに・こんじやう一のみやの・こんねん・二さいに・ならせ・たまふが・わたらせたまひけるを・たいしに・たてまゐらすべしなんどきこえさせたまひしが・おなじき六ぐわつ廿五にちに・にはかに・しんわうのせんじを・かうぶらせたまひ・そのよ・やがて・じゆぜんありしかば・てんか・なにとなう・ものあわてたる・さまなりけり・そのころのいうしよくのひとびとの・まをしあはれけるは・ほんてうに・どうたいのれいを・たづぬるに・せいわてんわう・九さいにて・もんとくてんわうの・おんゆづりを・うけさせたまひしは・かの・しうこうたんの・せいわうに・かはり・なんめんにして・一じつばんきの・おんまつりごとを・をさめたまひしに・なずらへて・ぐわいそちうじんこうえうしゆをふちしまゐらつさせ・たまひし・これせつしやうの・はじめなり・とばのゐん五さい・こんゑのゐん三さい・それをこそ・ひといつしか・なりと・まをししに・これはわづかに・二さいに・ならせたまふ・せんれいなし・ものさわがしとも・おろかなり・おなじき七ぐわつ廿七にちに・しんてい・だいごくでんにして・ごそくゐあり・てんかの・いうきともに・あひまじはつて・よろづなにごとも・とりあへぬ・おんことどもにてぞ・わたらせたまひける・おなじき廿九にちに・じやうわうつひに・ほうぎよならせたまひけり・みくらゐを・さらせたまひては・わづかに卅よにちぞ・ましましける・こんねんは廿三に・ならせ・おはします・つぼめるはなの・ちれるがごとし・ひとびと・おんなごりををしみたてまつつて・八ぐわつ七かまで・おきたてまつりたりしかども・さてしもわたらせたまふべきならねば・くわうりうじの・うしとら・れんたいののおく・ふなをかやまのふもとに・おくりをさめたてまつる・おほみや・二だいのきさきには・たたせたまひしかども・さまでの・おんさいはひもわたらせたまはず・またこのきみに・さへ・おくれ・まゐらつさせ・たまひたりしが・つひに・みぐし・おろさせ・たまひけり・なかにも・ぎをんのべつたうちようけんほういんの・いまだp26
ごんだいそうづにて・やまより・くだられけるが・ごさうそうの・けぶりをみたてまつつて・かうぞ・えいじ・たまひける

つねにみし(イきのふみし)きみがみゆきをけふとへばかへらぬたびときくぞかなしき
かかりける・ごさうそうのよ・えんりやく・こうぶく・りやうじのだいしう・がくうちろんと・いふことを・しいだして・たがひのらうぜきに・およぶ・一てんのきみ・ほうぎよのときは・なんぼく二きやうの・たいしう・ことごとく・ぐぶして・ごむしよの・めぐりにわがてらでらの・がくをうつことあり・まづ・しやうむてんわうのごぐわん・あらそふべきてらなければとて・とうだいじのがくをうつ・つぎに・たんかいこうの・ごぐわんとて・こうぶくじの・がくをうつ・ほくきやうには・こうぶくじにむかへて・えんりやくじの・がくをうつ・つぎに・てんむてんわうのごぐわん・ちしようだいしのさうさうとて・をんじやうじのがくをうつ・しかるを・こんど・さんもんに・いかがはおもひけむ・せんれいを・そむいて・こうぶくじの・うへに・えんりやくじの・がくをうつあひだ・なんとの・たいしう・いきどほり・こうぶくじの・さいこんだうしゆに・くわんおんばう・せいしばうとて二にんのあくそうあり・くわんおんばうは・もえぎのはらまきに・しらえのおほなぎなたの・さやをはづし・せいしばうは・くろいとをどしの・よろひに・おほたちを・ぬき・二にん・はしりかかり・えんりやくじの・がくを・きつて・おとす・きよみづほうしに・ちもんばう・はしりよつて・がくを・さんざんに・きりやぶつてんげり・うれしやみづ・なるはたきのみづひは・てるともたえず・とうたへ・つねに・とうたへと・はやしあげて・わがかたへぞ・はしりかへりける

清水炎上109
一てんのきみ・みよを・はやう・せさせ・おはしまさんときは・いかなる・こころなき・さうもくまでも・うれひたるいろp27
をこそ・あらはすべきに・このあさましさに・じやうげみな・四はうへ・にげちりぬ・おなじき八かのひ・れいのさんもん
のたいしう・またげらくすと・きこえしかば・だいりならびに・ゐんのごしよへ・ぐんびやう・めされけり・きやうちうの・さうどう・なのめならず・また・なにものか・まをしいだしけん・一ゐん・やまのたいしうにおほせて・へいじつゐたうあるべきよし・きこえしかば・へいけのひとびとこは・いかがせんとぞ・さわがれける・こまつどのの・いまだそのころ・さゑもんのかみにて・おはしけるが・たうじ・なにごとによつてか・さやうのおんことの・わたらせたまふべきとは・せいせられけれども・あまりに・あわてて・さわぎ・ののしること・なのめならず・おなじき九かのひ・れいのさんもんの・たいしうすでに・げらくするあひだ・ぶしけんびゐし・にしさかもとに・ゆきむかふを・たいしう・ことともせず・うちやぶつて・らんにふしけるあひだ・一ゐん・ろくはらへ・ごかうなる・へいしやうごくも・さわがれけり・されども・たいしうそぞろなる・せいすゐじに・おしよせたり・おうては・さかおもて・からめてはせいかんじ・うたのなかやまより・よせきたる・きよみづほうし・じやうくわくかまへて・たてこもる・たいしう・おしよせたりければ・ぶんないは・せばかりけり・ひとたまりも・たまらず・おちけり・ふせぐところの・たいしう・卅よにん・うちころさる・そののち・じちうに・みだれいつて・ひをはなつ・だうしやたふめう・ぶつかくそうばう・いちうも・のこさず・やきはらふ・せいすゐじとまをすは・こうぶくじの・まつじなるに・よつて・これは・さんぬる・ごさうそうのよの・くわいけいの・はぢを・きよめんが・ために・やくなりとぞ・まをしける・たいしう・かへりのぼりての・こうてうに・くわんおんや・くわきやうへんじやうちは・いかにと・ふだにかいて・だいもんに・たてたりければ・りやくこふふしぎと・これを・いふなりと・かへりふだにぞ・たてたりける・いかなる・あとなしものの・しわざにてか・ありけむ・をかしかりし・ことどもなり・さるほどに・ことしづまりしかば・一ゐん・ほうぢうじどのp28
へ・くわんぎよなる・さゑもんのかみ・おんともに・まゐられたり・ちちの・おとどは・とどまりたまふ・これは・なほろくはらの・えうじんのためとぞ・おぼえたるさゑもんのかみ・ほどなう・かへりまゐられ・たりければ・ちちのおとど・のたまひけるは・さるにても・一ゐんの・ごかうこそ・おほきにおそれいつて・おぼゆれ・いかさまにもこれは・おほせあはせらるるむねの・あるに・こそと・のたまへば・さゑもんのかみ・ゆめゆめさやうのおんこと・おんことのはに・いださせたまふべからず・ひとに・ちゑつけがほに・なかなか・あしう・さふらひなんず・ただいくたびも・えいりよに・そむかせたまはで・ひとのために・ぜんを・ほどこさせ・おはしまさば・おんみの・おそれ・あるまじうさふらふとて・たたれければ・あはれこの・しげもりほど・なにごとに・つけても・おほやうなるひとは・なかりけりと・ちちのおとども・のたまひける・さるほどに・ほうぢうじどのには・一ゐん・くわんぎよののち・ごぜんに・うとからぬひとびとを・めしてさるにても・つゆ・おぼしめしよらぬ・おんことを・なにものか・まをしいだしたりけむ・ゆめの・やうなることかなと・おほせければ・さいくわうが・まをしけるは・てんに・くちなし・ひとにいはせよと・まをすことのさふらふなれば・へいけ・あまりに・くわぶんに・なりゆき・さふらふのあひだ・ほろぶべき・ぜんぺうにて・てんの・つげにてもや・さふらふらんと・まをしたりければ・ひとびと・これ・よしなし・かべに・みみありとて・おのおのくちをぞ・とぢられける・ことしは・りやうあんなればとて・ごけい・だいじやうゑをも・おこなはれず・けんしゆんもんゐんの・いまだそのころ・ひんがしのおんかたとて・わたらせたまふ・おんはらに・一ゐんの・みことの・こんねん・五さいに・ならせたまふが・わたらせたまひけるが・にはかにしんわうの・せんじを・かうぶらせたまひ・あけければ・かいげんあつて・にんあんぐわんねんとぞ・まをしけるp29

春宮立(あひ)110
きよねん・しんわうの・せんじ・かうぶらせたまひたりし・わうじ・おなじき八ぐわつ十かのひ・とう三でうどのにして・とうぐうに・たたせたまふ・とうぐうと・まをすは・つねはていのみこなり・また・たいしとまをして・しゆじやうの・おんおととの・まうけのきみに・そなはらせたまふことあり・これをば・たいていとも・まをす・しかるにしゆじやう・おんをひ・三さい・とうぐう・おんをぢ・六さい・ぜうぼく・あひかなはせ・たまはず・ただし・一でうゐん七さい・三でうゐん十一さいにして・とうぐうに・たたせたまふ・されば・せんれいなきには・あらずやとぞ・ひとまをしける・しかるに・しゆじやう・二さいにて・みくらゐに・つかせたまひ・五さいと・まをしし・にんあん三ねん二ぐわつ十五にちに・みくらゐを・さらせたまひて・いつしか・ひと・しんゐんとぞ・まをしける・いまだ・ごげんぷくもなくして・だ[い]じやうてんわうのそんがう・かんか・ほんてうに・これや・はじめなるらん・六でうゐんのおんことなり・おなじき三ぐわつ十かのひ・しんてい・だいこくでんにて・ごそくゐあり・こんねんは・八さいに・ならせ・おはします・およそ・このきみの・てうかを・しろしめされけることは・一かう・へいけのはんじやうとぞ・みえし・なかにも・へいだいなごんときただのきやうは・みかどの・ごぐわいせきにて・おはしければ・かのやうきひが・さいはひしとき・やうこくちうが・さかえたりしが・ごとしにんあん四ねん・六ぐわつ十四かに・かいげんあつて・かおうぐわんねんとぞ・まをしける

殿下の乗合111
p30
おなじき・六ぐわつ十七にちに・一ゐん・おんとし四十三にて・ごしゆつけあり・ゐん・ごしゆつけののちも・なほ・ばんきのおんまつりごとを・しろしめされければ・ゐんに・さふらはれける・くぎやうでんじやうびとや・じやうげのほくめんにいたるまで・くわんゐほうろく・みにあまり・たり・されども・ひとのこころの・ならひにて・なほあきたらず・へいのひとびとの・くにをもしやうをも・たまはつたることをば・よに・めざましきことに・おもひあはれそのひと・ほろびなば・そのくには・あきなむ・そのくわんには・なりなん・なんど・うとからぬどちは・さしつどひ・ささやくときも・ありけり・ほうわうも・ないない・おほせけるは・むかしより・てうてきを・たひらぐるもの・おほしと・いへども・かかるれいは・いまだなしさだもり・ひでさとが・まさかどを・ほろぼし・らいぎが・さだたふ・むねたふを・せめ・ぎかが・たけひら・いへひらを・うちたりしにも・けんしやうおこなはるること・わづかに・じゆりやうには・すぎざりき・しかるを・きよもりにふだうが・かく・こころのままに・ふるまふことこそ・しかるべからね・これもただ・よすゑに・なつて・わうはふの・つきぬるにこそと・おぼしめしけれども・ついでも・なければ・おんいましめも・なし・へいけもまた・べつして・てうかを・うらみたてまつることも・なかりけるに・よのみだれ・そめけるこんぽんは・こまつどののじなん・しん三ゐのちうじやうすけもりの・いまだそのころ・ゑちぜんのかみとて・しやうねん十三に・なられける・いんじかおう二ねん・十ぐわつ十六にちに・ゆきははだれに・ふりたりけり・かれのの・けしきのおもしろさに・わかきさぶらひ・二三十き・めしぐして・たかども・あまた・すゑさせつつ・うこんのばば・むらさきの・きたののへんに・うちいでて・うづら・ひばり・おつたておつたて・ひねもすに・かりくらし・はくぼにおよんで・おほみやのおほぢより・こうぢきりに・ろくはらへこそ・かへられけれ・そのときのせうろく・まつどの・なかのみかど・ひがしのとうゐんの・ごしゆくしよを・ぎよしゆつあつて・いうはうもんより・じゆぎよなるべp31
きにて・ひがしのとうゐんを・くだりに・おほゐのみかどを・にしへ・ぎよしゆつなる・ほりかは・ゐのくまのへんにて・すけもり・でんかのぎよしゆつに・はなつきに・まゐりあふ・あまりにてうおんに・のみ・ほこつて・よを・よとも・ひとを・ひととも・せざつしうへ・めしぐしたりける・さぶらひみな・わかきものどもにて・れいぎ・こつぱふをも・ぞんぜず・一せつに・げばも・せず・ぜんぐうみずゐじんども・なにものぞ・らうぜきなり・ぎよしゆつ・のなるに・おりさふらへおりさふらへと・いらひけれども・みみにも・ききいれず・かけわつてこそ・とほりけれ・とののおんともの・ひとびと・くらさはくらし・にふだうのまごとも・つやつや・ぞんぜず・むまより・とつて・ひきおとし・あておとし・すこぶる・ちじよくにおよびけり・すけもり・はふはふ・六はらに・おはして・おほぢ・だいじやうのにふだうどのに・このよしうつたへまをされければ・にふだう・おほきに・いかつて・たとひ・いかなる・でんがにても・わたらせたまへ・にふだうが・あたりをば・一どは・などか・おぼしめし・はばからせたまは・ざるべきに・さやうに・おいさきある・をさなきものどもに・なさけなう・ちじよくを・あたへられける・ことこそ・かへすがへすも・ゐこんなれ・かかることよりして・ひとにも・あざむかるるぞ・このこと・おもひしらせまをさでは・えこそ・あるまじけれとのたまへば・こまつどのの・いまだ・そのころだいなごんのうたいしやうにて・ごぜんに・おはしけるが・このよしを・ききたまひ・ゆめゆめ・さやうのおんこと・おぼしめしよらせたまふべからず・しげもりが・こどもなんど・いひたらむずるものの・でんがのぎよしゆつに・まゐりあうて・のりものより・おりさふらはざりつることこそ・かへすがへすも・びろうには・さふらへ・そのうへ・よりまさ・みつもとなんどいふ・げんじどもに・あざむかれても・さふらはばこそ・一もんのちじよくにても・さふらふべけれ・これはすこしも・くるしうさふらふまじ・いかさまにも・でんがへ・ぶれいのよしをこそ・まをしたうさふらへとてぞ・たたれける・p32
そののちにふだう・こまつどのには・のたまひも・あはせられずして・かたゐなかの・さふらひの・きはめて・こはらかなるが・にふだうの・おほせよりほかは・おそろしき・ことなしと・おもひける・いせのかみかげつなを・さきとして・つがふ六十よにんを・めしてらい廿一にちに・しゆじやう・ごげんぷく・おんさだめの・おんために・でんが・さんだいあらんずる・みちにて・ぜんくうみずゐじんどもが・もとどり・きり・すけもりが・はぢすすぞと・のたまへば・これらかしこまつてうけたまはり・つがふそのせい・三百よきにて・でんがのぎよしゆつを・いまやいまやと・まちうけたてまつる・でんがは・このこと・ゆめにも・しろしめされず・しゆじやう・ごげんぷく・おんさだめ・ごかくわん・はいくわんのおんために・けふより・ごちよくろに・わたらせたまふべきにて・つねのぎよしゆつよりは・ひきつくろはせたまひて・ぜんくうみずゐじんどもに・いたるまで・はなやかにこそ・いでたちたれ・こんどは・たいけんもんより・じゆぎよなるべきにて・なかのみかどをにしへ・ぎよしゆつなる・ほりかは・ゐのくまのへんにて・つはものども・でんがの・ぎよしゆつを・まちえたてまつり・みくるまの・ぜんごさうにて・ときを・どつとぞ・つくりける・けふを・はれと・いでたちたりける・ぜんくうみずゐじんども・ここにおつつめ・かしこにおさへて・もとどりきる・ぜんくう六にんがうち・とうのくらんどたいふたけのりが・もとどりを・きるとては・これは・なんぢが・もとどりと・おもふべからず・しうの・もとどりと・おもふべしと・いひふくめてぞ・きつたりける・ずゐじん十にんが・うち・みぎのふしやうたけもとが・もとどりも・きられにけり・ぐぶのくぎやう・でんじやうびと・くるまの・ものみ・うちわり・むながけ・しりがい・きり・はなつたり・ければ・くものこを・ちらすが・ごとくにぞ・なりにける・すだれかなぐりおとし・とのの・みくるまの・うちへも・ゆみの・はず・つきいれ・なんど・しければ・でんが・あまりの・おそろしさにや・みくるまより・こぼれ・おちさせ・たまひて・あやしの・しづが・p33
こやに・なくなく・たちぞ・しのばせ・たまひける・つはものども・かやうに・さんざんに・しちらし・六はらに・かへりまゐつて・このよし・まをしたり・ければ・にふだう・しんべうなりとぞ・のたまひける・そののち・みくるま・つかまつるものも・なかりければ・いなばの・さいつかひ・とばの・くにひさまるは・げらふなりけれども・さがさがしきによつて・みくるま・つかまつる・せつしやうどのは・さてしも・わたらせたまふべきならねば・おんなほしの・そでにて・おんなみだ・おさへ・させ・たまひつつ・くわんぎよのぎしきの・あさましさ・まをすばかりも・なかりけり・たいしよくくわんたんかいこうのおんことは・なかなかまをすに・およばず・ちうじんこう・せうぜんこうより・このかた・せつしやう・くわんぱくの・かかる・おんめに・あはせたまふおんことは・これ・はじめとぞ・うけたまはる・これぞへいけのあくぎやうの・はじめとは・うけたまはる・そののち・こまつどの・このよしを・ききたまひて・そのとき・ゆきむかうたりける・いせのかみかげつなを・さきとして・つがふ・六十よにんを・かんだうせらる・たとひ・にふだう・ふしぎを・げぢしたまふとも・など・しげもりに・ゆめをば・みせざりけるぞや・およそは・すけもり・きくわいなり・せんだんは・ふたばより・かうばしとこそ・みえたれ・しげもりが・こどもなんど・いひたらんずるものの・ことしは・十二か三に・なるとこそ・おぼゆるに・いまは・れいぎこつぽふをも・ぞんじてこそ・ふるまふべきに・かかる・いひがひなきものを・めしぐして・おほぢ・にふだうのあくみやうをたつ・ふけうのいたり・なんぢひとりに・ありとて・すけもりをも・かんだうし・いせのくにへぞ・おひくだされける・そのころの・きやうちうの・じやうげ・あはれこの・たいしやうほど・なにごとに・つけても・いうに・やさしきひとは・なかりけりと・ほめぬひとこそ・なかりけれ・さるほどに・しゆじやうのごげんぷくも・そのよは・のびぬ・おなじき二十五にちに・ゐんのでんじやうにしてぞ・ごげんぷく・おんさだめは・わたらせたまひける・せつしやうどのは・p34
さてしも・わたらせたまふべき・ならねば・おなじき十一ぐわつ九かのひ・かねせんじを・うけたまはらせ・たまひ・おなじき十三にちに・だいじやうだいじんに・あがりたまふ・おなじき十二ぐわつ二十七にちに・ごはいがの・きこえ・ありしかども・よのなか・にがにがしうぞ・みえし・さるほどに・としくれて・かおうも・三ねんに・なりにけり・

徳大寺厳島詣112
かおう三ねん・しやうぐわつ五かのひ・しゆじやう・てうきんのおんために・ほうぢうじどのへ・ぎやうかうなる・これは・とばのゐん七さいまで・ぎやうかうなりたりし・こんど・そのれいとぞ・きこえし・こんねん十一さいに・ならせおはします・うひかふりのおんすがた・ほうわうも・にようゐんも・いかばかりか・めでたく・おもひ・まゐらつさせ・たまひけん・さるほどに・めうおんゐんの・だいじやうだいじんもろながの・いまだそのころ・ないだいじんのさだいしやうにて・おはしけるが・たいしやうを・じせさせたまふことあり・ときに・とくだいじどの・そのじゆんに・あたりたまへりと・いへりまたくわんざんのゐんの・ちうなごんかねまさのきやうも・しよまうあり・なかのみかどのしんだいなごんなりちかのきやうは・たうじ・きみの・ごちようしんなるうへ・このことしきりに・のぞみまをされけるが・さまざまの・おんいのりどもをぞ・はじめられける・まづ・やはたに・そうをこめて・しんどくの・だいはんにやを・よまれけるに・はんぶにおよんで・をとこやまのかたより・やまばと二・とびきたり・かうらのみやうじんの・おんまへにて・くひあひてこそ・しにけれ・はとは・だいぼさつの・だい一の・ししやなり・ときのけんぎやう・ぎやくせいほういん(イ長清法印)・うちへ・このよし・そうもんす・やがて・じんぎくわんにて・おんうらあり・てんかのさわぎと・うらなひまをす・ただし・てうかの・おんことには・あらず・しんかの・つつしみとぞ・うらなひまをしける・だいP35
なごん・これにも・おそれたまはず・ひるは・ひとめをつつみほかうにて・よなよな・かもの・かみのやしろへ・まゐられけるに・だい三かに・あたりけるよ・げかうして・くるしさにや・うちふされたりけるゆめに・なかのやしろへ・まゐりたるかと・おぼしくて・ごはうでんの・みとおしひらき・うちよりゆゆしうけだかき・みこゑにて・一しゆのうたをぞ・あそばされけるさくらばなかものかはかぜうらむなよちるをばえこそとどむまじ(イとどめざり)けれだいなごんこれにも・なほ・おそれたまはず・なかのやしろに・そうをこめて・七か・ひほうをおこなはせられけるに・けちぐわん・ちかうなつて・わかみやの・うしろなる・おほすぎに・いかづち・おちかかり・ひ・もえつきて・しやだんも・あやうく・みえければ・じんにん・きうにん・ことごとく・おこつて・これを・うちけつてんげり・かみは・ひれいを・うけさせたまはず・だいなごん・ひぶんの・たいしやうを・いのりまをされければにや・かかるふしぎぞ・いできにける・そのころの・ぢよゐぢもくは・ゐん・うち・せつしやうくわんぱくの・ごせいばいにも・あらず・一かう・へいけの・まま・なりければ・とくだいじ・くわざんのゐんも・なりたまはず・にふだうしやうごくのちやくし・こまつどの・ひだんに・うつつて・おんおととの・むねもり・ちうなごんにて・おはしけるが・すはいのじやうらふを・てうをつして・みぎに・くははりたまふこそ・こころも・ことばも・およばれね・とくだいじどのは・一の・だいなごん・くわしよく・えいえう・さいかくいうちやうにて・こえられたまふぞ・ゐこんなる・されば・とくだいじどのは・よの・なりゆくやうを・ごらんぜんとや・おぼしめされけん・だいなごんをば・じしまをされて・しばらく・ろうきよとぞ・きこえし・かの・だいなごんに・ほうこうの・ともがらどものなかに・くらんどのたいふのりはると・まをすものあり・あるよ・だいなごんに・まをしけるは・P36
きみ・ごしゆつけ・なんどもさふらはば・ほうこうのともがらども・みな・まどひものと・なりさふらひなんず・さらむに・とつては・たうじ・あきのいつくしまをば・一かうへいけの・あがめまをされさふらふ・かれへ・おんまゐりあつて・たいしやうの・ごきせいなんども・さふらへかし・くだんのやしろには・ないしとて・いうなる・まひびめどもの・す十にんさふらふなる・これらを・おんもてなしさふらはば・にふだうしやうごく・かへりききたまひて・さだめて・はからはるる・むねもや・さふらはんずらんと・まをしたりければ・とくだいじどの・さらばとて・やがて・しやうじんはじめて・いつくしまへぞ・まゐられける・七か・さんろう・ことゆゑなう・とげさせたまひて・のち・みやこへかへりのぼらせたまひけるに・ないしたち・とくだいじどのの・おんなごりを・をしみたてまつて・ひとひぢまで・おくりたてまつる・とくだいじどの・ないしたちに・あまりに・なごりの・をしう・おぼゆるに・さらば・みやこへ・のぼりたまへかしとて・そのなかに・しかるべき・ないし・十よにん・めしぐして・みやこにのぼり・やうやうのおんもてなし・さまざまの・おんひきでもの・あつて・かへされけり・ないしたち・かへるとて・いさや・われらが・へいけへ・まゐらんとて・にし八でうどのへぞまゐりたる・にふだうしやうごく・やがて・いであひたいめんしたまひて・いかにないしたち・なにごとの・れつさんぞと・のたまへば・さんさふらふ・これは・たうじ・とくだいじどのの・たいしやう・ごきせいのおんために・いつくしまへ・まゐらせたまひて・さふらひつるが・めしぐせさせ・たまひて・やうやうの・おんもてなし・さまざまの・おんひきでものの・さふらひつると・まをしたりければ・にふだうじやうかいが・あがめたてまつる・あきのいつくしま・とくだいじどのの・さやうにたつとみ・たまふこそ・なによりも・ゆうに・ありがたうおぼゆれ・しんめいも・などか・かんおうなかるべきとて・にふだうしやうごくのちやくし・こまつどの・だいなごんのさたいしやうにて・おはしけるを・たいしやうを・じせさせたてまつつて・とくだいじどのへこそ・わたさP37
れけれ・されば・のりはるが・はかりごと・かしこかりける・かうみやうかな

鹿谷(あひ)113
とくだいじどのは・かくこそ・ゆゆしう・おはせしに・なかのみかどの・しんだいなごんなりちかのきやうは・とくだいじ・くわざんのゐんに・こえられたらむは・いかがせん・へいけの・むねもりに・こえられぬるこそ・ゐこんなれ・これも・ただ・へいけの・おもふさまなるが・いたすところなり・されば・いかにもして・へいけを・ほろぼし・わが・ほんまうをとげばやと・おもはれけるこそ・おそろしけれ・ちちのきやうは・このよはひにては・わづかにちうなごんにてこそ・おはししに・これは・そのばつしにて・くらゐ・じやう二ゐ・くわん・だいなごんにあがり・たいこくあまた・たまはりて・しそくしよじうに・いたるまで・くわんゐほうろく・みにあまり・たり・されば・なんの・ふそくにか・かかるこころの・つかれけむ・これひとへに・てんまの・しよゐとぞ・おぼえたる・つねは・ぐわいじんなきところに・よりあひ・よりのき・へいけを・ほろぼさんとの・いとなみのほかは・たじなしとぞ・きこえし・ひがしやまししのたには・しゆんくわんそうづが・りやうなりけるが・うしろは・みゐでらへ・つづいて・くきやうの・じやうくわくなりければ・へいけを・ほろぼし・かしこに・ひきこもらんとぞ・ぎせられける・あるとき・ほうわうも・じやうけんほういんばかりを・めしぐして・ひそかに・かしこへ・ごかうなり・さてこのこと・いかが・あるべきと・おほせければ・ほういん・あな・あさまし・ひとあまた・うけたまはりさふらふ・もし・このことの・てんかへ・もれきこえさふらはば・たんだいま・よのみだれ・いできさふらはんずるものをと・まをされたりければ・だいなごん・けしき・おほきに・かはつて・ごぜんを・まかりいでられけるが・いP38
かがは・せられたりけむ・ごぜんに・たてられたりける・へいじのくちに・かりぎぬの・そでを・かけて・たをされたり・ほうわう・あれは・いかにと・おほせければ・だいなごん・たちかへり・へいじ・たをれさふらひぬとぞ・まをされける・ほうわう・おほきに・ゑつぼに・いらせ・おはしまして・ものども・まゐつて・さるがくつかまつれとおほせければ・へいはんぐわんやすより・ごぜんに・つつとまゐり・へいじの・あまり・おほうさふらふに・もてゑひてこそさふらへ・しゆんくわんが・さてそれをば・なにとかつかまつりさふらふべき・れいのさいくわうがつつとまゐり・へいじをば・くびとるに・しかじとて・へいじのくちをとつて・あなたへはわたす・こなたへは・わたすとてぞ・いりにける・ほういん・あまりのあさましさに・ほうわうを・すすめたてまつりて・いそぎ・ほうぢうじどのへ・くわんぎよなしまをされけり・よりきのしうには・あふみのちうじやうにふだうれんじやう・やましろのかみもとかぬ・しきぶのたいふまさつな・そうはんぐわんのぶふさ・しんへいはんぐわんすけゆき・へいはんぐわんやすより・ほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづ・つのくにげんじ・ただのくらんどゆきつなを・さきとして・ほくめんのともがらども・おほく・よりきしてんげり・なかにもただのくらんどゆきつなをば・だいなごん・だいじのものに・したまひて・もしこのこと・しおふする・ほどならば・くににても・しやうにても・こひによるべし・まづゆみぶくろの・れうにとて・しろぎぬ五十たん・おくりつかはさる・そも・じやうこには・ほくめんは・なかりけり・しらかはのゐんのおんときは・すゑしげ・わらはより・せんじゆまる・いまいぬまるとて・これらは・さうなき・きりものなり・また・とばのゐんのおんときは・すゑより・すゑのり・ふしとも・つねは・でんそうすることも・ありなんど・きこえしかども・これらは・みのほどを・ぞんじてこそ・ふるまひしに・このおんときほくめんは・もつてのほかに・くわぶんにて・げほくめんより・じやうほくめんに・あがり・じやうほくめんより・でんじやうの・まじはりをゆるさるるも・ありけり・かくのみ・ふるまひしほどに・これらは・おごれるものどもにて・かやうP39
のことにも・くみしてんげり

鵜川合戦114
かの・ほくめんのともがらどものなかに・もろみつ・なりかげと・まをすものあり・これは・こせうなごんにふだうしんせいのもとに・こんれいわらは・もしは・かくごんしやにて・けしかる・ものにてぞ・さふらひける・されども・さかさかしきによつて・つねは・ゐんの・おんまちにも・かかり・もろみつさゑもんのぜう・なりかげうゑもんのぜうとて・一どに・ゆきへのぜうに・なつて・しんせい・ことに・あひしとき・ともに・しゆつけして・さゑもんのにふだうさいくわう・うゑもんのにふだうさいけいとて・しゆつけののちも・なほ・ゐんのみくらあづかりにてぞ・さふらひける・かのさいくわうがこに・もろたかと・まをすものあり・これも・さうなき・きりものなりければ・けんびいし・五ゐのぜうまで・へあがり・あまつさへ・あんげんぐわんねん十二ぐわつ二十九にちの・つゐなのぢもくに・かがのかみにぞ・ふせられける・したがつて・こくむを・おこなふあひだ・ひほうひれいを・ちやうぎやうし・じんじやふつじ・けんもんせいかの・しやうゑんをもつたうして・さんざんのことどもにてぞ・さふらひける・たとひまた・せうこう(イてうこう)が・あとをこそ・へだつと・いふとも・をんびんのまつりごとをこそ・おこなふべきに・かくのみ・ふるまひしほどに・おなじき二ねんのなつのころ・おととこんどうはんぐわんもろつねを・かがの・もくだいに・さしくださる・もろつね・げちやくのはじめ・こふのへんに・うかはの・ゆせんじとまをす・やまでらあり・もろつねかのてらに・らんにふし・じそうどもの・ゆあびけるを・おひあげ・わがみも・あび・いへのこらうどうをも・おろし・あまつさへ・ざふにんばらを・いれて・むまのゆあらひなんどを・せさせければ・じそうら・おほきに・いかつて・むかしより・このところに・こくはうのものの・にふぶP40
する・やう・なしと・いひければ・もろつねまをしけるは・せんぜんもくだいは・ふかくにてこそ・いやしまれたれ・たう
もくだいに・おいては・まつたく・そのぎ・あるまじ・ただ・せんれいに・まかせて・にふぶのあふばうを・とどめよと・いひければ・じそうら・は・こくはうのものを・つゐしゆつせんとす・こくはうのものは・また・ついでをもつて・らんにふせんと・せしほどに・たがひに・うちあひ・はりあひなんど・しけるほどに・もろつねが・さしも・ひさうしける・むまのあしを・うちをる・のみならず・をがみを・さへに・きつてんげり・もろつね・おほきにいかつて・ただほふに・まかせよといふあひだ・じそうら・きうせんひやうぢやうを・たいして・たがひにいあひ・きりあひなんどしけるほどに・もろつね・かなはじとや・おもひけむ・よにいつて・しゆくしよにひきしりぞき・つぎのひ・もろつね・たうごくの・ざいちやうくわんにん・三千よきを・いんぞつして・うかはに・おしよせたり・ふせぐところのたいしゆ・三百よにん・うちころさる・そののち・ぢちうに・みだれいつて・ひをはなつ・だうしやたふめう・ぶつかくそうばう・一うも・のこさず・やきはらふ・うかはとまをすは・はくさんの・ちうぐうの・まつじなるによつて・三しやならびに・八ゐんのしゆと・さうどうす・八ゐんのしゆとの・ちやうぼんに・ちしやく・がくみやう・はうだいばう・しやうち・がくい・とさのあじやりぞ・すすんだる・つがふそのせい・二千よにん・おなじき七ぐわつ九かのひの・とりのこくには・もくだいもろつねが・たちぢかくこそ・おしよせたれ・けふはひくれぬ・しようぶは・けつせしとて・たいしゆ・そのひは・そのへんなるところに・ひかへたり・つゆふきむすぶ・あきかぜは・いむけのそでを・ひるがへし・くもまを・てらす・いなづまは・かぶとのほしを・かがやかす・もろつね・かなはじとや・おもひけむ・よにげに・してこそ・のぼりけれ・つぎのひの・まんだあした・たいしゆ・おしよせたりけれども・もろつね・おちて・なかりければ・ちからおよばず・ほんざんへ・ひきかへす・せんずるところ・このよしをさんもんへ・うつたへて・くげへ・そうもんせんとて・はくさんめうりごんP41
げんの・しんよを・ひえいざん・ひんがしさかもとへ・ふりたてまつるとぞ・きこえし・おなじき八ぐわつ十一にちの・むまのこくばかりに・めうりごんげんの・しんよ・ひえいざん・ひんがしさかもとへ・つかせたまふと・まをすほどこそ・ありけれ・にはかに・そらかきくもり・ほくこくのかたより・いかづちおびただしう・なりさかり・みやこをさして・なつてゆくに・はくせつ・くだつて・ちをうづみ・さんじやうらくちう・おしなべて・ときはの・やまの・こずゑまでも・みな・しろたへにぞ・なりにける・三ぜんのたいしゆ・ひんがしさかもとに・おりくだり・しんよを・はいしたてまつり・すなはち・きやくじんのやしろへ・いれたてまつる・さんもんに・きやくじんごんげんとまをすは・はくさんごんげんのおんことなり・さたのじやうひは・しらねども・しやうがいのめんぼく・ただこのことのみに・ありかの・うらしまが・七せのまごに・あへりしが・ごとし・たいだい(イたりない)の・ものの・りやうぜんの・ちちをみしに・おなじ・三千のたいしゆ・くびすを・つぎ・七しやのじんにん・そでを・つらね・じじこくこくの・きねんほつせ・こころもことばも・およばれず

願立115
さんもんのたいしゆ・そうじやうをささげて・なげきけれども・いまだ・ごしよういんなきあひだ・さもしかるべき・くぎやうでんじやうびとの・のたまひあはれけるは・あはれ・このこと・とうして・ごさいきよあるべきものを・さんもんのそせうは・たにことなり・おほくらきやうためふさ・だざいのそつすゑなかは・てうかの・ちようしんたりしかども・さんもんのそせうによつて・るざいせられき・されば・もろたか・もろつねなんどが・ことは・ことのかずにや・あるべきなんど・のたまひあはれけれども・だいじんは・ろくをおもんじて・いさめず・せうしんは・つみにおそれて・まをさずと・いふことなれば・おのおの・くちをぞ・とぢられける・かもがはのみづ・すごろくP42
のさい・やまほうし・これぞ・まろが・こころには・かなはぬと・しらかはのゐんも・おほせなりけむなる・またとばのゐんのおんとき・ゑちぜんのへいせんじを・さんもんへ・つけられけることも・たうざんのごきえ・あさからざるに・よつて・さんもんのそせうは・ひをもつて・りとせよと・せんぎせられてこそ・ゐんぜんをも・くだされけむなれ・げにも・がうそつきやうばうのきやうの・まをさるる・やうに・たいしゆ・しんよをささげたてまつつて・そせうを・いたさんに・おいては・きみも・いかがは・せさせ・おはしますべきとぞ・ほうわうも・おほせなりけむなる・またほりかはのてんわうのぎよう・かはうぐわんねんの・ふゆのころ・みののかみみなもとのよしつなのあそん・たうごくしんりふのしやうを・たをすに・よつて・やまのきうぢうしや・ゑんおうをせつがいす・これによつて・ひよしのしやし・えんりやくじのじくわん・つがふ三十よにん・しさいを・そうもんのために・ぢんとうへこそ・はつかうすれ・ご二でうのくわんぱくどの・やまとげんじ・なかつかさのせうよりはるに・おほせて・これを・ふせがせらる・よりはるがらうどう・やをはなつ・きずを・かうぶるもの八にん・しするは・四にんなり・しやししよしら・をめきさけんで・四はうへみな・にげちりけり・これによつて・さんもん・おほきにいきどほり・七しやのしんよを・こんぽんちうだうへ・ふりあげたてまつつて・ご二でうのくわんぱくどのを・さまざまに・じゆそしたてまつりけるとぞ・きこえし・あるときまた・三千のたいしゆ・みな・ひんがしさかもとに・おりくだり・八わうじごんげんの・おんまへにて・しんどくのだいはんにやを・よまれけるに・ちういんほういんの・いまだそのころ・ちういんぐぶにて・おはしけるが・かうざに・のぼり・けいびやくの・かねうちならし・けうげの・ことばこそ・おそろしけれ・われらが・なたねの・ふたばより・おほしたちたまふ・かみたちと・しりながら・むしものにあうて・こしからふたまふ(イこしからみたまふ)・ご二でうのくわんぱくどのに・かぶらや・ひとつ・はなちあてたべ・だい八わうじごんげんと・かうじやうに・ののしつたりけるにぞきくP43
ひとみな・みのけ・よだつて・おぼえたる・やがて・そのよの・ねのこくばかりに・八わうじごんげんの・しんでんより・かぶらやのこゑ・いでて・みやこをさして・なつてゆくとぞ・ひとのみみにも・きこえける・つぎのひの・まんだあした・みやこ・にはくわんぱくどの・ごしゆくしよに・おんきやくしの・やくつかまつりけるが・ただいま・やまより・おりて・くだりたるが・ことごとなる・しきみのはな一えだ・つゆに・ぬれたるが・おひいでたり・これおほきに・ふしぎのずゐさうと・まをししほどに・やがてそのころ・ご二でうのくわんぱくどの・さんわうの・おんとがめとて・ごぢうびやうを・うけさせたまひ・やうやうの・ごぐわんさまざまの・おんいのりあり・まづ・ひよしのやしろに・おいて・百ばんの・ひとつもの・百ばんの・しはでんがく・けいば・やぶさめ・すまふ・おのおの・百ばんえんりやくじに・おいて・百ざの・にわうかう・百ざのやくしかう・とうしんのやくしのざう・七たい・しやか・あみだいつちやくしゆはんのざう・おのおの百たいつくり・くやうしたてまつらる・なかにも・くわんぱくどのの・ごぼぎは・きやうごくのおほとのの・きたのまんどころにて・さいあいの・ご一しにて・わたらせたまへば・ごぼぎことに・おんなげきあつて・しのびつつ・ひよしのやしろへ・おんまゐりあつて・七かこれに・ごさんろうあつて・いのりまをさせたまふ・ひと・これをしりたてまつらず・いはんや・ごしんぢうに・三のごぐわんあり・いかでか・ひと・これを・しりたてまつるべき・あるよ・きせんじやうげまゐり・あつまれるなかに・みちのくより・はるばるとたづねのぼりたりける・わらはみこの・こんやはじめて・このみやしろへ・まゐりたりけるが・やはんばかりに・にはかに・ぜつじゆす・じやうげ・こは・いかにと・みるところに・やがていきかへり・われに・八わうじごんげんの・のり・ゐさせ・たまへりとて・たくせんして・いはく・たうじ・くわんぱくどの・かみの・おんとがめとて・ごぢうびやうを・うけさせたまひ・やうやうの・ごぐわんを・たて・さまざまの・おんいのりあり・ごぼぎことに・おんなげきあつて・しのびつつ・このみやしろへ・まゐP44
らせたまひ・七かこれに・ごさんろうあつていのり・まをさせたまふ・ひと・これをしりたてまつらず・いはんや・ごしんぢうの・三のごぐわんをや・いかでか・ひとこれをしりたてまつるべき・まづ・だい一のごぐわんには・こんど・くわんぱくどの・ごぢうびやう・たちどころに・いえさせたまひて・おほとりゐより・はじめて・やしろやしろのはうぜん・八わうじにいたるまで・くわいらう・つくりかけむとなり・第二のごぐわんには・こんどくわんぱくどの・ごじゆみやうちやうをんの・おんことならば・われ・さまをやつし・八わうじの・したどのなる・もろもろの・かたわうどの・なかに・まじはり・にはのちりをはらひ・千にちの・おんみやづかひと・うけたまはるだい三の・ごぐわんには・こんどくわんぱくどのの・ごぢうびやう・たちどころに・いえさせたまひて・八わうじごんげんの・おんまへにて・まいにち・ほつけもんだふかう・おこたりあらじと・うけたまはる・いづれも・いづれもありがたうこそ・きこしめせ・まことに・さんけいのともがらどもの・あしたには・きりをはらひ・ゆふべには・つゆをしのぐに・くわいらうあらんこと・あらまほしうこそ・おぼしめせ・ただし・このしゆとは・なんぎやうくぎやうのこう・つもつて・こんど・しやうじをはなれんと・なれば・いまさらに・くわいらうを・よろこぶべきにも・あらず・だい二のごぐわん・にはのちりを・はらひ・千にちの・おんみやづかひと・うけたまはる・かみは・いつさいしゆじやうを・おぼしめすもただ・おやの・こをおもふが・ごとし・ひごろは・きやうごくのおほとのの・きたのまんどころにて・たまのすだれの・うち・にしきのちやうに・まとはれて・たへなるおんみにて・わたらせ・たまひしかども・こをおもふみちには・まよはせたまふにや・まことに・みるも・いぶせく・あさましげなる・かたわうどの・なかに・まじはり・一にち二かのことならず・一千にちまでの・おんみやづかひをば・かみとしても・いかでか・あはれみたてまつらざるべき・さこそは・おぼしめすらめと・あはれなり・これも・さるおんことにては・さふらへどもだい三のごぐわん・ほつけもんだふかうP45
こそ・まことに・ありがたうさふらへ・われこのやまのふもとに・あとをたれ・いつさいしゆじやうを・どするもひとへに・一じようけちえんのためなり・いちげいつくの・ほうもんだにも・いかばかりか・ありがたかるべきに・まして・まいにち・おこたりなからんことの・めでたさよ・まことに・さもあらば・こんど・くわんぱくどののごぢうびやう・ぢやうごふかぎりとは・まをせども・かみ・かの・おんみに・あひかはつて・みとせの・いのちを・たすけまをさうずるは・いかに・ただしくわんぱくどのの・しやししよしらに・はなち・あてたまふ・やは・かみのこのたいに・あたれりとて・ひだりのそでを・ひきあげたるを・みければ・げにも・やめと・おぼしくて・おほきなるあと・あざやかにみゆ・じやうげ・めを・おどろかし・みな・ずゐきのなみだをぞ・ながしける・そのとき・きたのまんどころ・さんわうの・ごたくぜん・しんじつに・おぼしめしてひとめを・つつませたまはず・きせんのなかに・あらはれいでさせたまひて・おんなみだに・むせばせ・おはします・まことに・たてまをすところの・三の・ぐわん・いづれも・たがひさふらはず・一にち二かのびんだにも・いかばかりか・ありがたかるべきに・まして・三とせがあひだとうけたまはる・こんどの・まゐりの・ごりしやう・ただこのことにこそ・さふらへ・ほつけもんだふかうに・おきさふらひては・おんうたがひさふらふまじと・なみだも・せきあへず・まをさせたまひ・たりければ・おんとものひとびと・さて・いかなるおんことの・わたらせたまひでか・なほもおんいのちの・のびさせたまひさふらふべきと・まをしあはれければ・かみも・三とせののちは・ちからおよばせ・たまはずとて・ごんげん・あがらせたまひけり・やがてつぎのひ・みやこへ・ごげかうあつて・くわんぱくどの・ごぢうだいの・ごけりやう・きのくにたなかのしやうと・いふところを・八わうじへ・ごきしんあつて・まいにち・ほつけもんだふかう・まつだいの・いまに・たえずとこそ・うけたまはる・しんかんは・つきさせたまはずと・P46
ありがたかりし・おんことなり・一にち二かと・せしほどに・三とせのすぐるは・ゆめなれや・かうわぐわんねん六ぐわつ二十一にちの・ゆふべより・くわんぱくどの・またごぢうびやうに・うちぞ・ふさせたまひける・さんわうのおんやくそく・いまのつきひをかぎらせたまふ・ことなれば・ただじこくたうらいを・またせたまふほどに・おなじき二十九にちの・あかつきがた・おんとし・三十八にてつひに・かくれさせたまひけり・みこころのたけさ・りの・つよさ・さしもただしき・ひととこそ・きこえさせたまひたりしかども・まめやかに・ことのきふにも・なりしかば・おんいのちををしませたまひけり・まことに・をしかるべし・いまだ四十をだにも・みたさせ・たまはで・おほとのにさきだち・まゐらつさせ・たまふぞ・あさましき・かならず・おやに・さきだつべしと・いふことには・あらねども・しやうじの・おきてに・したがふならひ・まんとくゑんまんの・せそん・十ちくきやうの・だいしたちも・ちからおよばせたまはず・じひぐそくの・さんわうだいし・りもつのはうべんなれば・とがめさせたまは・ざるべしとも・おぼえず・されば・さんもんのそせうは・おそろしき・ことに・のみこそ・まをしつたへたれ・さるほどに・としくれて・あんげんも・三とせに・なりにけり

御輿振116
あんげん三ねん三ぐわつ五か・のひ・めうおんゐんどの・だいじやうだいじんに・てんじたまふ・かはり・こまつどの・だいなごんさだふさのきやうを・こえて・ないだいじんに・あがりたまふ・めうおんゐんどの・おしあげられさせ・たまひけり・いちのかみこそ・せんど・なりしかども・ちち・あくさふの・おんれい・そのはばかりありとぞ・きこえし・おなじき十三にちに・こまつどのには・だいじんの・P47
だいきやう・おこなはる・そんじやは・おほゐのみかどの・さだいじんつねむねこうとぞ・きこえし・おなじき四ぐわつに・さんもんには・ひよしのさいれいを・おしとめ・おなじき十三にちに・おほみやろうもんのまへに・三たふくわいがふして・こくし・かがのかみ・もろたか・るざいにしよせられ・もくだいもろつね・きんごくせらるべきよし・どどのそうもんに・およぶといへども・ごさいだん・おそかりければ・十ぜんじ・きやくじん・ならびに・八わうじ三しやの・しんよを・かきささげたてまつつて・しさいを・そうもんのために・ぢんとうへこそ・はつかうすれ・にしさかもと・さがりまつ・きれつつみ・ただす・むめただ・やなぎはら・とうぼくゐんのへんに・ししつづみの・おとおびただしく・きこゆ・じんにん・みやし・しらたいしゆ・かもがはらに・みちみちたり・しんよは・一でうをにしへ・みゆきなる・ごしんはうは・てんに・かがやき・きらめき・わたつて・じつげつちに・おちさせ・たまへるかとぞ・おぼえたる・くわうきよには・げんぺいりやうかの・たいしやうぐん・ちよくをうけたまはつて・しはうのもんを・かためて・だいしゆを・ふせぐ・へいじには・こまつどの・三千よきにて・ひんがしおもてのぢん・やうめい・たいけん・いうはうもん・三のもんを・かためらる・うゑもんのかみよりもり・一千よきにて・みなみおもてのぢんを・かためらる・へいさいしやうのりもり・これも一千よきにて・にしおもてのぢんを・かためらる・げんじには・だいだいしゆごの・げん三みよりまさ・わたなべの・はぶく・さづくを・さきとして・つがふそのせい・三百よき・きたおもて・ぬひどののぢんを・かためて・たいしゆを・ふせぐ・おほぢは・ひろし・せいは・すくなし・まばらにこそは・みえたりけれたいしゆ・ぶせいたるに・めをかけて・きたおもてぬひどのの・ぢんより・しんよを・ふりいれたてまつらんとす・すでに・かうと・みえけるに・よりまさきやう・いかがは・おもはれけん・ゆみをばはづし・かぶとを・ぬいで・しんよを・はいしたてまつらる・たいしやうの・かく・しけるうへは・いへのこらうどうどもも・みな・したがつて・かくのごとしよりまさきやう・しばらく・P48
しゆとのおんなかへ・まをすべきむねありとて・つかひは・わたなべのちやう七となふとぞ・きこえし・となふが・そのひの・しやうぞくには・きちんのひたたれに・こざくらを・きに・かへしたる・よろひを・き・こくじつの・たちを・はき・二十四さいたる・おほなかぐろのや・おひ・ぬりこめどうのゆみ・わきにはさみつつ・かぶとをば・ぬいで・たかひもに・かけ・おき・みちより・あゆみいで・たいしゆのまへに・かしこまり・これは・げん三ゐどのよりまをせとさふらふ・こんどさんもんの・ごそせう・りうんのでう・もちろんにさふらふ・ただし・ごさいだんちちこそ・よそにても・ゐこんにぞんじさふらへ・さては・しんよを・このぢんより・あけて・いれまゐらせんこと・いとやすきおんことにては・さふらへども・しかも・あけて・いれまゐらせんぢんより・いらせ・おはしましたらむは・さんもんの・たいしゆ・たいぜいには・おそれて・めだれがほを・しけるよなんど・きやうわらんべの・まをさんこと・ごにちの・なんにてもや・さふらはんずらん・またふせぎ・まゐらせさふらへば・ねんらい・いわうさんわうに・かうべを・かたぶけ・まゐらせたるよりまさが・けふよりして・ながく・ゆみやのみちに・わかれはて・さふらひなんず・またあけて・とほしまゐらせさふらへば・せんじをそむくに・にたり・かれといひ・これといひ・かたがたなんぢの・やうにさふらふ・ひがしおもてのぢんをば・こまつどのの・三千よきにて・かためさせられてさふらふ・あのぢんより・いらせおはしましたらむ・は・さんわうのごゐくわうも・いよいよめでたく・しゆとの・ごいしゆも・あらはれて・ごそせう・やがて・たつしぬと・おぼえさふらふといひ・おくりたりければ・となふが・かくまをすに・ふせがれて・じんにんみやし・しばらく・ゆらへたり・わかたいしゆ・あくそうどもは・なんでふただ・このぢんより・しんよをふりいれたてまつれやと・せんぎす・すでに・かうと・みえけるに・ここに・三千のちやうぼん・つの・りつしやがううん・すすみいでて・まをしけるは・われらこんど・しんよを・P49
ささげたてまつつて・そしようを・いたさんに・おいては・たいぜいの・なかうちやぶつて・いつたらむこそ・こうだいのきこえも・あらんずれ・そのうへ・このよりまさきやうとまをすは・六そんわうより・このかた・げんじちやくちやくの・しやうとう・ゆみやを・とつて・てんかに・なをあぐる・のみならず・やまとことばにも・いうに・やさしかんなるぞ・ひととせこんゑのゐんのおんとき・たうざのごくわいの・ありしに・しんざんのはなと・いふだいの・いでたりしを・ずゐぶんのひとびとの・よみわづらはれたりしをも・このよりまさきやうこそ・しうかには・よみたりしか

みやまぎのそのこずゑともみえざりしさくらははなにあらはれにけり
と・まをす・めいかつかまつつて・ぎよかんにあづかりし・そのやさをとこが・かためたる・もんにこそ・あんなれ・いかが・なさけなう・ちじよくをば・あたふべき・ただそのしんよ・かきかへし・たてまつれやと・せんぎしければ・せんぢんより・ごぢんにいたるまで・みな・もつとももつともとぞ・どうじける・そののち・きたののしんよを・さきだてたてまつつて・ひがしのぢんへ・まはる・ぶしども・しんばし・ささへて・ふせぎけれども・たいしゆ・ことともせず・うちやぶつて・らんにふしけるあひだ・たちまちらうぜきいできて・たいけんもんかためたる・ぶし六にん・やをはなつ・そのや・十ぜんじごんげんの・みこしに・たつ・じんにんみやし・いころされ・しゆと・おほく・きずをかふむつて・をめきさけぶこゑ・かみはぼんでんまでも・きこえ・しもは・けんらうぢじんまでも・おどろきさわぎたまふらんとぞ・おぼえたる・そののち・さんしやのしんよをば・ぢんとうに・ふりすてたてまつつて・なくなく・ほんざんにこそ・かへりのぼりけれP50

内裏炎上117
こんど・みこしに・たつところの・やをば・じんにんして・ぬかせらる・そののち・だいりには・くらんどのさせうべんかねみつに・おほせて・せんれいを・だいげきもろひさに・おんたづねありければ・もろひさまをしけるは・まづ・はうあん四ねん四ぐわつに・しんよじゆらくのときは・ざすに・おほせて・せきさんのやしろへ・いれたてまつらる・またはうえん四ねん四ぐわつに・しんよじゆらくのときは・ぎをんのべつたうにおほせて・ぎをんのやしろへ・いれたてまつりたるよしをそうもんす・しからば・こんどは・はうえんの・れいたるべしとて・ぎをんのべつたうちようけんに・おほせて・ぎをんのやしろへ・いれたてまつらる・かのやしろの・しやししよしらへいしよくに・およんで・しんよを・うけとりたてまつつて・みやしろへ・いれたてまつる・いんじえいきうより・あんげんのいまに・いたるまで・たいしゆ・しんよを・ささげたてまつつて・そしようを・いたすこと・六どなり・まいど・ぶしを・もつてこそ・ふせがせらるるに・しんよに・やいかけたてまつること・これはじめとぞ・うけたまはる・れいしん・いかりをなす・ときは・さいがい・ちまたに・みつとも・いへり・おそろしおそろしとぞ・ひとまをしける・おなじき十四かに・れいのさんもんのたいしゆ・また・げらくすと・きこえしかば・だいりならびに・ゐんのごしよへ・ぐんびやう・めされけり・きやうちうのさうだう・なのめならず・さんもんには・じんにんみやし・いころされ・しゆとおほく・きずをかうぶりしかば・ひよしのおほみや・二みや・えんりやくじの・ちうだう・かうだう・すべて・しよだうを・やきはらつて・みな・さんりんに・まじはるべしとぞ・三千一どうに・せんぎしける・きみもこのこと・ごしよういんあるべきよし・きこえしかば・さんもんのじやうかうら・もんとのたいしゆに・このよし・ふれんとて・とうざんしけるを・たいしゆおほきにいかつて・にしさかもとより・P51
おつかへす・おなじき二十かのひ・へいだいなごんときただのきやうの・いまだそのころ・さゑもんのかみにて・しやうけいに・たたる・さんもんのたいしゆ・だいかうだうの・にはに・しふゑして・せんぎしけるは・せんずるところ・しやうけいを・とつて・ひつぱり・かぶりをうちおとし・みづうみへ・しづめよなんどぞ・まをしける・すでにかうとみえけるに・さゑものかみ・しばらく・しゆとの・おんなかへ・まをすべき・むねありとて・ふところより・こすずりたたうがみを・とりいだし・一くを・かいて・たいしゆのなかへぞ・おくられける・しゆと・らんあくを・いたすは・まえんのしよぎやう・めいわうのせいしを・くはふるは・ぜんせいのかごなりとぞ・かかれたる・たいしゆ・もつとももつともとて・たにだにに・くだり・ばうばうへこそ・いりにけれ・一し一くをもつて・三たふ三千の・いきどほりを・やすめこうしのはぢを・きよめたまふ・ときただのきやうこそ・やさしけれと・さんじやう・らくちう・おしなべて・ほめぬひとこそ・なかりけれ・おなじき二十三にちに・ほりかはの・だいなごんただちかのきやうを・しやうけいにて・こくし・かがのかみもろたか・るざいに・しよせられ・もくだいもろつねきんごくせらる・こんどしんよに・やいかけたてまつる・ぶし六にん・ごくぢやうせらる・これは・こまつどのの・めしつかはれける・ところの・ぐんびやうどもなり・おなじき二十八にちのよの・ねのこくばかりに・みやこには・ひぐち・とみのこうぢより・ひいできて・をりふし・たつみのかぜはげしうふいて・きやうちうおほく・やけにけり・きたののてんじんの・こうばいどの・ぐへいしんわうの・ちくさどの・さい三でうかもゐどの・とう三でう・そめどのふゆつぎのおとどの・かんゐんどの・ていじんこうのこ一でう・せうぜんこうの・ほりかはどの・たちばなのいつせいが・はいまつどの・おにどのに・いたるまで・むかしいまの・めいしよきうせき・二十よケしよ・くぎやうのしゆくしよだに・十七ケしよまで・やけにけり・そのほか・しよだいぶさぶらひのいへいへは・なかなかまをすにおよばず・しやりんのやうなる・ほむらが・三ちやう五ちやうを・へだてつつ・とびこえとびこえ・いぬゐをさして・やけゆけP52
ば・おそろしなんどもおろかなり・はては・だいだいにふきつけたり・しゆじやくもんより・はじめて・おうでんもんくわいしやうもん・だいごくでん・しよし八しやう・ぶらくゐん・あいたんどころ・くわんのちやう・だいがくれうに・いたるまで・ただ一じがあひだの・くわいじんの・ちりとぞ・なりにける・いへいへのにつき・だいだいのもんじよ・七ちん万ぱう・さながらちりはひと・なる・そのほかの・つひえ・いくばくぞや・ひとのやけしぬること・す百にん・ぎうばのたぐひ・かずをしらず・これただごとに・あらず・ひえいざんより・おほきなる・さるどもが一二千・おりくだりてんでに・たいまつを・とぼして・やくとぞ・ひとのゆめには・みえにける・およそ・だいごくでんの・やきにけるこそ・あさましけれ・だいごくでんは・せいわてんわうのぎよう・じやうぐわん十八ねんに・やけたりしかば・おなじき十九ねんしやうぐわつ三かのひ・やうぜいゐんの・ごそくゐは・ぶらくゐんにてぞ・とげられける・ぐわんぎやうぐわんねんしやうぐわつに・ことはじめあつて・おなじき二ねん四ぐわつに・つくりいだしたてまつつて・せんかう・なしたてまつつたりしを・またごれんぜいゐんの・ぎよう・てんき五ねん・二ぐわつ二十六にちに・やけたりしかば・ぢりやく四ねん八ぐわつに・ことはじめあつて・おなじき十ぐわつ十かのひ・おんむねあげとは・さだめられたりしかども・ごれんぜんゐん・つくりもいだされずして・ほうぎよなりぬ・しかるをご三でうゐんのぎよう・えんきう四ねん四ぐわつに・つくりいだしたてまつつて・おなじき十五にちに・せんかうなしたてまつり・れいじん・がくを・そうし・ぶんじん・しをたてまつる・いまは・くにのちからも・おとろへて・そののちは・つくりも・いだされず

平家物語(城方本・八坂系)
巻第二 P53
座主流 201
あんげん三ねん五ぐわつ五かのひてんだいざすめいうん・だいそうじやうくじやうをとどめて・けつくわん・せられたまふうへ・くらんどをおんつかひにて・によいりんの・ごほんぞんを・めしかへしたてまつつて・ごぢそうを・かいえきせらる・すなはちしちやうのつかひを・つけてこんど・だいりへ・しんよふりたてまつりし・しゆとの・ちやうぽんをぞ・めされける・またかがのくにに・ざすのごばうりやうあり・もろたか・これを・ちやうはいのあひだ・もんとの・だいしゆを・かたらつて・そしせうを・いたす・これすでに・てうかの・おんだいじに・およびぬべきよし・さいくわうほうし・ふしが・むじつの・ざんそうによつて・ほうわう・つみなき・めいうんを・ぢうくわに・おぼしめし・さだめけり・めいうんも・またほうわうの・ごきそく・あしきよし・きこえしかば・いんやくをかへしたてまつつて・ざすをじし・まをされけり・おなじき十一にちに・とばのゐんの・七のみや・かくくわいほうしんわう・てんだいざすに・ならせたまふ・これは・こしやうれんゐんの・だいそうじやう・ぎやうげんの・みでしなり・おなじき十二にちに・せんざすをば・すでに・すゐくわのせめにおよびぬべきよし・きこえしかば・おなじき十三にちに・だいじやうだいじんいげの・くぎやう十六にん・さんだいあつて・ぢんのざにつき・さきのざす・ざいくわのこと・ぎぢやうあり・なかにも・八でうのちうなごんながかたのきやうの・いまだ・そのころさだいべんのさいしやうにて・ばつざに・さふらはれけるが・すすみいでて・まをされけるは・ほつけの・かんじやうに・まかせ・しざい・一とうを・げんじ・をんる・せらるべしとは・みえてさふらへども・P54
このめいうんは・じやうぎやう・ぢりつなるうへ・けんみつ・けんがく・して・一じようめうきやうを・くげに・さづけたてまつり・三しゆ・じやうかいを・ほふわう(ほうわう)に・たもたせたてまつる・あるひは・おんきやうの・しなり・あるひは・ごかいのしなり・てうくわのをんるに・おこなはれんこと・みやうの・せうらん・はかりがたし・されば・げんぞくをんるをも・ともに・なだめまをさるべきかと・いささか・はばかるところもなう・まをされたりければ・たうざの・くぎやう・もつとも・ながかたのきやうの・ぎに・どうずとは・のたまひあはれけれども・ほうわうの・おんいきどほりふかかりければ・なほてうくわに・おぼしめしさだめけり・そうを・つみするならひとて・どゑんをとつて・げんぞくせさせたてまつり・だいなごんのたいふふぢゐのまつえだといふ・ぞくみやうをつけられける・こそ・うたてけれ・おなじきはつかのひ・せんざすをば・すでに・いづのくにへ・ながし・たてまつらるべきよし・きこえしかば・にふだうしやうごくも・このこと・なだめまをさんとて・ゐんざん・まをされ・たりけれども・ほうわう・おんかぜの・ここちとて・ごぜんへも・めされ・ざりければ・いきどほりふかげにてぞ・いでられける・おなじき廿二にちに・せんざすをば・けふすでに・みやこのうちを・おひいだし・たてまつるべしとて・おつたてのくわんにん・りやうそうしら・しらかはの・ごばうに・まゐりむかひ・このよし・まをしたりければ・せんざす・すこしも・やすらふべきに・あらずとて・いそぎ・ごばうを・いでさせたまひ・そのひは・あはたぐちのほとり・一さいきやうの・べつしよに・なくなくたちぞ・しのばせたまひける・さるほどに・さんもんの・だいしゆ・だいかうだうの・にはに・しゆゑして・せんぎしけるは・そもそもわれらが・かたきは・さいくわうほうし・ふしなりとて・かれら・おやこが・みやうじをかいて・こんぽんちうだうに・おはします・こんぴらたいしやうの・ひだりのみあしのしたに・ふませたてまつり・ねがはくは・十二じんしやう・七千やしや・じこくを・めぐらさず・さいくわうほうし・ふしが・いのちを・めしとらせ・たまへやと・をめきさP55
けんで・しゆそしけるこそ・おそろしけれ・おなじき廿三にちに・せんざす・いつさいきやうのべつしよを・なくなくたちぞ・いでさせたまひける・さしもの・ほふむの・だいそうじやう・ほどのひとに・かうぞめの・おんころもをば・きせたてまつりながら・てんまの・うたてげなるに・のせたてまつり・おつたてのくわんにん・りやうそうしらが・さきに・けたてたてまつつて・けふを・かぎりに・せきのひんがしへ・こえられける・みこころのうち・おしはかられて・あはれなり・おほつの・うちでのはまにも・なりしかば・もんじゆろうの・のきばの・しろじろとして・みえけるを・ふためとも・みたまはず・そでを・かほに・おしあてて・なくなく・そこをぞ・すぎられける・なかにも・ぎをんの・べつたうちようけんほういんの・いまだそのころ・ごんだいそうづにて・おはしけるが・せんざすの・おんなごりををしみたてまつり・あはづまで・おくりたてまつつて・かへられけるに・せんざす・ちようけんの・はるばると・これまで・とぶらひきたりたまへる・こころざしのほどをかんじたまひて・ねんらいごしんぢうに・ひせられける・てんだい・ゑんじゆの・ひほふ・一しん・三くわんのもん・ならびに・けちみやく・せうじようの・しだいを・ちようけんに・さづけらる・そもそも・このひほふとまをすは・しやか・ふぞくのでし・はらないこくの・めみやうびく・なんてんぢくの・りうじゆぼさつ・よりこのかた・しだいに・さうでんし・きたれり・しかるをけふのなさけに・ちようけんに・これを・さづけらる・さすが・わがてうは・ぞくさんへんちの・さかひとはまをしながら・ちょうけんこれを・ふぞくして・ありがたさに・ほうえのそでを・かほにあて・なくなくかへりたまひけり・そもそもこの・めいうんと・まをしたてまつるは・むらかみのてんわうに・だい七のわうじ・ぐへいしんわうに・五だいのまご・こがの・だいなごんあきみちのきやうの・おんこなり・じやうぎやうぢりつなるうへ・けんみつけんがくして・ならびなき・かうそうにて・ましましければ・六しようじ・ならびに・てんわうじの・べつたうをも・かねたまへり・にんあん三ねん二ぐわつ十五にちに・てんだいざすに・ならせたまふ・そのとき・あべのやすちか・このめいうんを・P56
みたてまつつて・ぎようとくのほどは・ありがたけれども・ただしおんなこそ・こころえられね・めいうんは・かみに・じつげつの・ひかりをならべて・しもに・くもありとぞ・なんじまをしける・むかし・でんけうだいし・ちうだうの・はうざうに・こめられたりける・はう一しやくの・はこあり・しろききぬにて・つつまれたり・かのなかに・わうしに・かけるふみ一くわんあり・これはでんけうだいし・まつだいの・ざすの・しだいを・かねてあそばし・おかれたり・されば・だいだいのざす・ごはいだうのおんとき・かのはこを・あけ・ふみをひらいて・みたまふに・わがなの・あるところまでは・みたまひて・それより・おくをば・みずして・まきをさめて・おかるる・ならひあり・されば・このめいうんも・ごはいだうの・おんとき・かのはこをあけ・ふみをひらいて・みたまふに・ぎしんくわしやうより・このかた・てんだいざすはじまつて・五十五だい・めいうんとまをす・おんなあり・かほど・めでたき・かうそうにて・ましましけれども・いかなるつみの・むくいにか・いまるざい・せられたまふらん・さるほどに・さんもんのだいしゆ・だいかうだうの・にはに・しゆゑして・せんぎしけるは・でんけう・じかくの・おんことは・なかなか・まうすにおよばず・ぎしんくわしやうより・このかた・てんだいざす・はじまつて・五十五だい・いまだ・るざいのれいを・きかず・つらつらことのこころを・あんずるに・さんぬる・えんりやくの・ころほひ・くわんむてんわう・でんけうだいしと・おんちぎりを・むすばせたまひ・くわうていは・ていとをたて・だいし・たうさんに・よぢのぼり・このところに・しめいの・けうぼふを・ひろめたまひしより・このかたながく・五しやうの・によにん・あとたえて・三千の・じやうりよ・きよをしめたり・みねには・一じようどくじゆ・としふりて・ふもとには・七しやの・れいげん・あらたなり・かの・ぐわつしの・りやうぜんは・ていとの・とうぼくに・そばだつて・だいしやうの・いうくつたり・じちゐきのえいがくは・わうじやうの・きもんに・あたつて・ごこくの・れいちたり・されば・だいだいの・けんわう・P57
ちしん・みな・このところに・だんじやうをしむ・こは・まつだいと・いはぬからに・いかでか・わがやまの・くわんしゆを・たこくへは・うつさるべき・こは・こころうしなんど・をめきさけぶ・ほどこそありけれ・三千の・だいしゆ・一にんものこらず・みなひがしさかもとに・おりくだる・そののち・三千のだいしゆ・十ぜんじごんげんの・おんまへに・しうゑして・せんぎしけるは・おつたてのくわんにん・りやうそうしらが・あんなれば・われら・こんど・あはづに・ゆきむかひ・るにんを・うばひとどめたてまつらんこと・ありがたし・いまは・十ぜんじごんげんの・おんちからの・ほかは・またたのみたてまつる・かたなしとて・かんたんを・くだいて・いのりたてまつりけるに・ここに・じようゑんりつしが・わらはに・つるまるとて・しやうねん・十八さいに・なりけるが・しんじんを・くるしめ・五たいに・あせをながし・われに・十ぜんじごんげんの・のりゐさせ・たまへりとて・たくせんして・いはく・しやうじやうせぜに・こころうし・こは・まつだいと・いはんからに・いかでか・わがやまの・くわんしゆを・たこくへは・うつすべき・さらんにとつては・われこのやまの・ふもとに・あとをたれても・なににかはせむとなり・だいしゆ・ずゐきのなみだを・ながし・まことの・れいけんにて・ましまさば・われらしるしを・たてまつらん・まづ・ひとつの・ずゐさうを・みせしめたまへとて・おもてに・たちならびたる・らうそう・千よにんが・てんでに・もちたる・じゆずどもを・おほゆかの・うへへぞ・なげあげたる・くだんのものつき・はしりめぐり・つかのごとくに・とりあつめ・すこしもたがへず・もとのぬしに・くばり・わたす・だいしゆいまは・十ぜんじごんげんの・れいけんあらたにましましけり・われらこんど・あはづに・ゆきむかひ・るにんを・うばひとどめたてまつらんこと・うたがひなしとよろこびて・いさみをなしてぞ・むかひける・あるひは・べうべうたる・しが・からさきの・はまぢに・あゆみつづける・だいしゆもあり・あるひは・やまだ・やばせの・こじやうに・ふねおしいだす・しゆともあり・たいぜいP58
うんかのごとくに・むかひければ・さしも・きびしげなりつる・おつたてのくわんにん・りやうそうしら・ざすをば・あはづの・こくぶんじの・みだうのまへに・すておきたてまつつて・みなちりぢりにこそ・なりにけれ・だいしゆ・まゐりければ・せんざす・のたまひけるは・けふすでに・みやこのうちを・おひいださるべしといふ・ゐんぜん・せんじの・なりぬるうへは・すこしもやすらふべきに・あらずとて・はしぢかう・ゐいで・のたまひけるは・われ三たいくわいもんの・いへをいで・四めいけいけいの・まどにいつしより・このかた・ひろく・ゑんしうの・けうぼふをがくし・けんみつ・りやうしうを・まなべり・ひとへにわがやまの・こうりうをのみ・おもへり・しゆとを・はごくむ・こころざしも・ふかかりき・またこくかを・いのりたてまつることも・あさからざりき・りやうしよ・さんじやう・さんわう・七しやも・さだめてせうらんしたまふらん・つみなくして・とがをかうむること・これひとへに・ぜんぜのしゆくしふとのみ・おもへば・まつたうよをも・ひとをも・かみをも・ほとけをも・うらみたてまつらず・しゆとの・これまで・はるばると・とぶらひきたりたまへる・はうしこそ・いつのよまで・わすれがたけれとて・かうぞめの・おんころもの・そでしぼるばかりに・みえられければ・だいしゆも・みなよろひのそでをぞ・ぬらしける・だいしゆ・おんこしさしよせ・いまはとうとう・めさるべうさふらふと・まをしたりければ・せんざす・のたまひけるは・われすでに・るにんのみとして・いかでか・ちゑふかき・しゆがくしや・やごとなき・だいとくたちに・かきささげられては・のぼるべき・たとひかへりのぼるとも・おなじう・あゆみ・つづきてこそは・のぼるべけれとて・さうなう・のりたまはず・ここに・さいたふのぢうりよ・かいじやうばうの・あじやりいうけいとて・そのたけ・七しやくばかりありけるが・ふしなはめのよろひの・かねまぜたるを・くさずりながにきなし・くはがたうつたる・三まいかぶとのををしめ・しらえのおほなぎなたの・さやをはづいて・つゑにつき・はるかのごぢんに・たちたりけるP59
が・かぶとをば・ぬいで・うしろへかつばと・なげけるを・げにんのほうし・とりてんげり・そののち・たいぜいのなかを・おしわけおしわけ・せんざすの・おんまへに・つつとまゐり・だいのまなこに・かどをたて・ざすを・はつたと・にらみたてまつつて・あなあさまし・そのみこころにて・わたらせたまへばこそ・いまかかる・うきめには・あはせたまへ・とうとうめさるべうさふらふとて・おんてをとつて・あらけなく・ひつたてまゐらせければ・ざす・あまりの・おそろしさにや・いそぎ・おんこしにぞ・めされける・だいしゆせんざす・とりえたてまつつたることを・よろこびて・いやしき・ほうしばらに・あらず・ちゑ・ふかき・しゆがくしや・やごとなきだいとくたち・かきささげてぞ・のぼりける・やがて・さきごしをば・いうけいかく・ひとは・かはれども・いうけいはかはらず・ごぢんは・よわれども・せんぢんは・つかれず・こしのながえも・なぎなたのえも・をれよ・くだけよと・もつままにさしも・さかしき・ひんがしざか・へいちをゆくがごとくにて・だいかうだうのにはにぞ・かきすゑたる・そののち・三千のだいしゆ・まただいかうだうの・にはに・しふゑして・せんぎしけるは・われら・こんど・るにんを・うばひとどめたてまつつて・いかでか・わがやまの・くわんしゆとは・あがめたてまつるべきと・せんぎしけるところに・いうけい・またさきのごとくに・すすみいでて・それわがやまは・につぽんぶさうの・れいち・ちんごこくかの・だうぢやうなり・されば・しゆとのいしゆも・よさんにこえ・いやしき・ほうしばらに・いたるまで・よもつて・これをかろんぜず・ちゑ・かうきにして・三千の・くわんしゆたり・とくぎやうおもうして・いつさんのくわしやうたり・われら・こんど・けんみつの・あるじを・うしなひたてまつつて・けいせつの・つとめ・おこたらんこと・とうだい・こうぶく・をんじやうの・あざけり・さんじやう・らくちうの・いきどほりに・あらずや・いうけいこんど・ちやうぽんにしようせられ・きんごく・るざい・かうべを・はねられ・まゐらせむこと・こんじやうのめんぼく・めいどのP60
おもひいでなるべしとて・さうがんより・なみだを・はらはらとながしければ・だいしゆ・もつともとて・またおんこし・かきささげたてまつつて・とうたふの・みなみだに・めうくわうばうへ・いれたてまつる・それよりしてぞ・いうけいをば・いかめばうとは・まをしける・されば・ときのわうさいをば・いかなる・ごんげのひとも・のがれたまはざるにや・だいたうの・一ぎやうあじやりは・げんそうくわうていの・ごぢそうなり・くわうていの・きさき・やうきひに・なだちたまへることあり・これ・あとかたなき・むじつの・とがなりけれども・くわらこくへぞ・ながされける・くだんのくにへは・三のみちあり・いうちだう・りんちだう・あんけつだうとぞ・まをしける・いうちだうは・みゆきみち・りんちだうは・ざふにんの・かよひぢ・なかにも・あんけつだうとまをすは・ぢうぼんのものを・つかはすに・七か七やがあひだ・つきひの・ひかりをみずして・ゆくみちなり・一ぎやうぢうぼんのひとなればとて・かのあんけつだうよりぞ・ながされける・みやうみやうとして・ひとりゆく・かうほうに・千ど・まよひ・しんしんとして・やまふかく・ただかんこくに・とりの一こゑ・ばかりにて・こけの・ぬれぎぬ・ほしあへず・てんだう・むじつの・とがを・あはれませたまふことなれば・九えうの・かたちを・げんじて・一ぎやうを・てらしたまふ・ときに一ぎやう・みぎのゆびを・くひきつて・ひだりのそでに・九えうの・かたちをぞ・うつされける・わかん・りやうてうに・しんごんの・ほんぞんたる・九えうの・まんだら・これなり
西光がきられ 202
こんど・さんもんのだいしゆの・せんざす・とりとどめたてまつたることを・ほうわう・きこしめされて・おほきに・やすからずとぞ・おほせける・れいのさいくわうがまをしけるは・むかしより・さんもんのだいしゆの・みだりがはしきそしようさふらふこと・いまにはじめずとは・まをしながら・P61これらほどの・らうぜきをば・いまだ・うけたまはりおよばず・よは・よにても・さふらふまじと・わがみの・たつたいま・ほろびんずるをも・しらずまた・さんわうだいしの・しんりよにも・はばからず・かやうにまをして・しんきんを・なやましたてまつる・そうらんしげからんとすれば・あきのかぜ・これをやぶり・わうしや・あきらかならんとすれば・ざんしん・これをくらうすともいへり・ざんしんは・くにをみだり・とふは・いへをやぶるとも・かやうのことをや・まをすべき・さるほどに・ほうわうは・しんだいなごんなりちかのきやういげ・ごきんじゆのひとびと・そのほか・ほくめんのともがらに・おほせて・やませめらるべしとぞ・きこえし・さんもんのだいしゆこのよしを・つたへうけたまはつて・われら・わうどに・はらまれながら・さのみ・ぜうめいを・たいかんすべきに・あらずとて・ないないは・ゐんぜんに・したがひ・つきたてまつる・しゆとも・せうせうありなんど・きこえしかば・せんざすは・めうくわうばうに・おはしけるが・このよしを・ききたまひて・またいかなる・うきめにか・あはむずらんとて・やすきこころも・したまはず・さるほどに・しんだいなごんなりちかのきやうは・たうじ・さんもんの・さうどうによつて・わたくしの・しゆくいをば・しばらく・おさへられたり・そもそも・ないぎしたくは・さまさまなりしかども・おほかたの・ぎせいばかりにては・いかにも・かなふべうも・みえざりけるに・むねと・たのまれたりける・つのくにげんじ・ただのくらんどゆきつな・このことむやくなりと・おもふこころぞ・いできにける・つらつらへいけの・はんじやうをみるに・たやすく・かたぶけがたし・まただいなごんどのの・かたらはるるところの・ぐんびやう・いくほどなし・ゆきつなよしなきことに・くみしたり・このことてんかに・もれなば・まづ・ゆきつな・さきに・うしなはれなんず・されば・ひとのくちより・もれぬ・さきに・このことへいけへまをし・わがみの・さいなんを・のがればやと・おもひければ・おなじき五ぐわつ廿九にちの・よにいつて・にふだうしやうごくの・しゆくしよ・にし八でうどのへぞ・P62
まゐりたる・にふだうやがていであひ・たいめんしたまひて・このよは・はるかに・ふけぬらんに・そもなにごとぞと・のたまへば・ゆきつなさんさふらふ・たうじ・ごきんじゆのひとびとの・ひやうぐを・ととのへぐんびやう・あつめられさふらふをば・いまだ・しろしめされ・さふらはぬやらんと・まをしたりければ・にふだうよにも・こともなげにて・わうそれは・ほうわうの・やませめらるべしとこそ・きけとのたまへば・ゆきつな・ゐよりて・いや・そのぎにてはさふらはず・たうじ・ごきんじゆのひとびとの・ご一もんを・かたぶけ・まゐらせんとこそ・ぎせられげに・さふらへと・まをしたりければ・にふだう・もつてのほかに・おどろきたまひて・さてさやうの・ことどもをば・ゐんにも・しろし・めされたるか・まをすにやおよびさふらふ・しつじのべつたう・しんだいなごんどのの・ぐんぴやうあつめられさふらひしにも・ゐんぜんとてこそ・もよほされ・さふらひしか・そのほか・さいくわうが・と・まをして・しゆんくわんが・かうまをしてなんど・あるままにも・さしすぎて・まをしちらし・いとままをして・まかりいづ・にふだうもつてのほかの・おほごゑをもつて・さぶらひども・よび・ののしりたまふ・こゑ・おそろしく・ゆきつなも・なまじひなること・まをしいだし・わがみも・そのしようにんにや・ひかれつらんと・おもひければ・ひともおはぬに・とりはかまし・おほのに・ひをはなつたるここちして・もんぜんにはしりいで・ばばなるむまに・うちのりて・いそぎしゆくしよへ・にげかへる・にふだう・さだよしとめす・ちくごのかみさだよし・おんまへに・まゐりかしこまる・にふだう・ややさだよし・きやうちうに・むほんのともがらどもが・みちみちたんなるぞ・ひとびとにも・ふれまをせ・さぶらひども・めすべしと・のたまへば・さだよしうけたまはつて・きやうちうを・もよほしけるに・こまつどのばかりこそ・なにごとにも・さわぎたまはぬひとにて・さんぜられね・そのほかのひとびとには・とうのちうじやうくらんどのかみ・さまのかみいげの・くぎやうでんじやうびと・みなわれもわれもと・はせまゐらる・そのほか・さぶらひぐんびやうども・われもわれもと・はせたりけり・よのほどに・P63
にし八でうどのには・四五千きにこそ・なりにけれ・あくれば・六ぐわつついたちの・まだくらかりけるに・にふだう・けんびゐしあべのすけなりを・めして・やよすけなり・ゐんのごしよにまゐり・だいぜんのだいぶ・よびいだし・そうせうずるやうよな・ごきんしゆの・ともがらどもが・あまりの・くわぶんにて・あまつさへ・じやうかいを・かたぶけんと・けつこうつかまつりさふらふをいちいちに・めしとつて・ことのしさいを・たづねうけたまはり・まをさうずるをば・ゐんには・しろし・めさるまじうさふらふと・まをせとて・つかはさる・すけなり・ゐんのごしよにまゐり・だいぜんのだいぶを・よびいだし・このよしまをしたりければ・ほうわう・あはれこれは・ひごろ・はかりしことの・はや・もれきこえたるに・こそと・おぼしめすより・あさましくて・こは・なにごとぞと・ばかりにて・ふんみやうのごへんじも・なかりければ・すけなり・さればこそと・むやくにて・いそぎ・かへりまゐるべきよしを・いひいれつつ・にし八でうに・かへりまゐりて・このよし・まをしたりければ・にふだう・さればこそ・よもごへんじは・あらじ・ゆきつなは・まことを・いひけり・このこと・つげしらせずは・にふだうあんをんにてや・あるべきとて・やがて・なんばせのをを・めして・むほんの・ともがらども・からめとるべきやうを・いちいちしだいに・げぢせらる・なかのみかど・からすまるの・しんだいなごんなりちかのきやうの・もとへ・ざふしきをもつて・きつとたちよらせさふらへ・いささか・のたまひあはすべきことの・さふらふとのたまひ・つかはされたりければ・だいなごん・あはれこれは・たうじ・さんもんの・さうどうのことを・ゐんへ・そうせんとにやらん・そのぎならば・おんいきどほり・もつてのほかげなるものをとて・わがみのうへとは・つゆ・しりたまはず・ないきよげなる・ほうえ・たをやかに・きなしつつ・八えふのくるまの・あざやかなるに・のりたまふ・うしかひざふしきに・いたるまで・みな・きよげにてぞ・いでられける・そもさいごとは・のちにぞ・おもひしられける・だいなごん・にし八でう・ちかうなP64
るままに・そのへんを・みたまへば・もののぐしたるつはものどもが・四五ちやう・十ちやうに・ところもなくぞ・みちみちたる・だいなごん・こは・なにごとやらんと・むねうちさわぎ・もんを・さしいりて・みたまへば・ちうもんのとには・おそろしげに・よろうたる・むしや・二にん・だいなごんどのに・たちむかひたてまつり・だいなごんどのの・さうのてを・とつて・ひつぱり・にはへ・ひきおとしたてまつつて・こは・いましめたてまつるべうもや・さふらふらんと・まをしたりければ・にふだう・すこしはらゐて・あるべからずと・のたまへば・うけたまはつて・つはものす十にんがなかに・とりこめたてまつつて・ひとまなるところに・おしこめたてまつる・だいなごんただ・ゆめのここちぞ・したまひける・おんともにさふらひける・しよたいふ・さぶらひども・いくらも・ありけれども・たいぜいに・おしへだてられて・ものをだにも・まをさず・うしかひざふしきに・いたるまで・くるまをすてて・みなちりぢりにこそ・なりにけれ・これをはじめとして・へいけの・さぶらひども・二百よき・三百よき・しよしよに・おしよせおしよせ・むほんのともがらども・一々しだいに・からめとり・まづ・あふみのちうじやうにふだうれんじやう・やましろのかみもとかね・しきぶのたいふまさつな・そうのはんぐわんのぶふさ・しんへいはんぐわんすけゆき・へいはんぐわんやすより・ほつしようじのしふぎやうしゆんくわんそうづも・からめられてぞ・いできたる・さいくわう・これも・このこと・ゐんへそうせんとて・いそぎ・むちあぶみあはせて・はせまゐる・へいけのさぶらひども・みちにて・ゆきあうたり・いかに・ごへん・にし八でうどのより・めしのさうぞ・きと・まゐりたまへと・いひければ・さいくわうこれも・いささか・ゐんへそうすべき・やうあつて・まゐりさふらふ・いかさまにも・やがて・まゐらむずるさふらふとて・うちすぎんとす・につくい・にふだうの・なにごとをか・そうすべき・さな・いはせそと・いふままに・むまよりとつて・あておとして・からめとる・ひのはじめより・どういよりきの・ものなりければ・したたかに・いましめて・にふだうしやうごくのしゆくしよ・にし八でうへ・ぐしP65
てまゐり・おんつぼのうちにぞ・ひつすゑたる・にふだうごらんじて・あはれ・このひごろ・いかにもして・じやうかいを・かたぶけんとせし・やつばらどもの・なれるすがたの・おもしろさよ・しやつ・ここへ・ひきよせよやとて・えんのきはに・ひきふせさせ・まづ・おほきなるむちをもつて・こころのゆくゆく・うちて・のたまひけるは・やれおのれが・やうなる・げらふのはてを・きみの・めしつかはせたまひて・なさるまじき・くわんしよくを・たうで・ふしともに・くわぶんの・ふるまひせし・やつばらと・みしにあはせて・あやまらぬ・てんだいざす・るざいに・まをしおこなひ・あまつさへ・じやうかいをかたぶけんとせし・むほんにん・ひのはじめより・みなひと・しつたり・いささか・そのやうを・すみやかにまをせ・につくい・にふだうのと・のたまへば・さいくわう・ちつともいろも・へんぜず・わるびれたる・きしよくもなくゐなほり・いでいで・さらば・のちごと・ひとつはなさんとて・いいや・さもさうぬぞとよ・しつじのべつたう・しんだいなごんどのの・ぐんびやう・あつめられさふらひしかば・ゐんちうに・めしつかはるるものの・みなれば・くみせぬとは・まをすまじ・それは・くみしたり・ただしごへんは・みみに・とどまることをも・のたまふものかな・たにんのまへはしらず・さいくわうなんどが・まへにては・さやうのくわんぶんの・ことばをば・えこそ・のたまふまじけれ・みさうざつし・ことか・ごへんは・こぎやうぶきやうのこにては・ありしかども・十四五までは・しゆつしもなく・こなかのみかどの・とうのちうなごんかせいのきやうのもとに・たちよりたまひしをば・きやうわらんべは・れいのたかへいたとこそ・わらひしか・いんじはうえんの・ころかとよ・ごへんのちち・ただもりの・はかりごと・いみじうして・かいぞくの・ちやうぽんにん・四十よにん・めししんぜられたりし・けんしやうに・ごへんのいまだ・そのころ・十八か・九にて・四ゐして・四ゐのひやうゑのすけと・いはれたまひしをば・ひといP66
つしかなりと・まをししが・ひごろは・でんじやうのまじはりをだにも・きらはれ・たまひしひとの・しそんの・いまは・きんじき・ざつはうをゆり・りようらきんしうを・みにまとひ・あまつさへ・だいじんたいしやうに・いたつて・きみをも・きみとはせず・しんをも・しんとせぬをこそ・くわぶんとはいへ・さぶらひほどのものの・じゆりやうけびゐしになること・せんれい・はふれい・なきにあらず・されば・なにごとか・くわぶんなるべき・にふだうどのといひければ・にふだうあまりに・はらをすゑかねて・しばしは・ものをも・のたまはず・ややあつて・にふだうしやうごく・のたまひけるは・しやつ・ここへひきよせよやとて・えんのきはに・あをのけに・ひきふせさせ・さいくわうが・しやつらを・ものはきながら・むんずむんずと・ふんで・しやつに・ものないはせそ・したをぬけ・くちをさけとぞ・いかられける・まつうらのたらういへとしと・まをすもの・ちうにくくつて・いでにけり・そののち・あしてを・はさみ・がうきにかけ・さまざまに・いため・とふ・さいくわうもとより・あらがひざつしうへ・きうもんは・きびしかりけり・ことのしさい・のこりなうこそ・おちたりけれ・はくじやうを・かみ四五まいに・きせられけり・そののち・五でうにしのしゆじやかに・ひきいだし・したをぬき・くちをさき・つひに・かうべをはねられけり・じなん・こんどうはんぐわんもろつね・きんごく・せられたりけるをも・めしいだし・おとと・さゑもんのじよう・もろひら・ともに・かうべを・はねられけり・ならびに・らうどう三にん・ちうせらる・ちやくし・かがのかみもろたかをば・をはりの・ゐどたへ・ながされ・たりけるをも・うつてをつかはして・ほろぼさる・もろたか・さんざんに・たたかひけるが・かなはじとや・おもひけむ・たちに・ひかけ・じがいしてこそ・うせにけれ・これらは・すべて・いひがひなき・ものの・ひいでて・あやまらぬ・てんだいざす・るざいに・まをしおこなひ・さんわうだいしの・しんばちみやうばちを・たちどころに・えて・わがみも・P67
しそんも・ことごとくほろびぬるこそ・あさましけれ
小教訓 203
さるほどに・だいなごんは・ひとまなるところに・おしこめられて・おはしけるが・あはれこれは・ひごろ・はかりしことの・はやもれ・きこえたるにこそ・たれもらしけむ・いかさまにも・これは・ほくめんのともがらどもの・うちにもや・あるらんなんど・おもはしなき・こともなう・あんじつづけて・おはしけるところに・うしろのかたより・あしおと・たからかに・ひとの・きたるおとの・しければ・だいなごん・ただいまこれにて・うしなはれんずるに・こそと・おもはれけるに・さはなくて・にふだうしやうごく・そけんのころもの・も・みじかなるに・しろき・おほくち・ふみふくみ・ひじりづかの・かたな・おしくつろげて・さすままに・だいなごんの・おはしける・うしろの・しやうじを・あららかに・さつとあけて・しばらく・にらまへてぞ・たちたまひける・ややあつて・にふだう・のたまひけるは・いかに・ごへんさんぬる・へいぢに・のぶよりのきやうが・むほんの・どうしんによつて・すでに・ちうせられたまふ・べかりしを・こまつのだいふが・やうやうにまをして・くびを・つぎたまひし・ひとぞかし・いつしか・そのおんをわすれて・あまつさへ・じやうかいを・かたぶけむとの・ごけつこうぞや・ひごろの・むほん・けつこうの・しだいを・たづねうけたまはり・まをさうずるは・いかにと・のたまへば・なまじひに・だいなごん・いかさまにも・それは・ひとの・ざんげんにてぞ・さふらふらん・くはしくおんたづねあるべうさふらふと・いはせも・はてず・それなりつる・さいくわうが・はくじやうもつて・まゐれと・のたまへば・うけたまはつて・P68
かみ四五まいに・かいたるものを・もつて・まゐりたり・にふだうひきひろげ・二三べんがほど・たからかに・よみきかせ・あらにくや・このうへは・ここをなにとか・あらがひたまふべき・それよく・みたまへとて・だいなごんの・かほに・さつと・なげかけて・いそぎ・しやうじを・ちやうどたててぞ・いりたまひける・そののち・にふだう・なんばせのをと・めされければ・つねとほ・かねやす・まゐりたり・あのをとこ・とつて・ひつぱり・にはへひきおとし・とつてふせて・をめかせよと・のたまへば・二にんのものども・こまつどのの・かへりきこしめされんずるところも・いかが・さふらふべかるらんとて・ふかうかしこまつてぞさふらひける・にふだう・よしよし・さきいつ・じやうかいが・めいをば・かるんじて・だいふはなほ・おそろしいとや・そのぎならば・そのむねをこそ・こころえめと・のたまへば・二にんのものども・あしかりなんとや・おもひけん・だいなごんどのの・さうのてを・とつて・ひつぱり・にはへ・ひきおとしたてまつつて・さうのおんみみに・くちをよせて・いかさまにも・おんこゑの・いづべうさふらふとて・あげては・どうとおき・どうとおき・二三ど・あげおろしたりければ・おんこゑ二こゑ三こゑぞ・いだされたる・なほいまめ・たてまつるべうもや・さふらふらんと・まをしたりければ・にふだう・すこし・はらゐて・いまはとうとう・やすめまをせとのたま・へば・うけたまはつて・つはものす十にんが・なかに・とりこめたてまつつて・また・ひとまなるところに・おしこめたてまつる・だいなごん・ただゆめのここちぞ・したまひける・そのてい・めいどにて・ざいにんどもが・つみのけいぢうによつて・あるひは・ごふのはかりにかけられ・あるひは・じやうはりの・かがみに・ひきむけられ・しよさのごふに・よつて・かしやくをくはへ・けいばつを・おこなはるらんも・これには・すぎじとぞ・みえし・せうはんとらはれ・とらはれて・かんはうにらき・すされたり・てうそりくをうけ・しうぎ・つみせらる・たとへば・P69
かのせうか・はんくわい・かんしん・はうゑつ・これらはみな・かうその・こうしんたりしかども・せうじんの・ざんによつて・くわはいの・はぢをうくとも・かやうのことをや・まをすべき・さるほどに・だいなごんは・ひとまなるところに・おしこめられて・おはしけるがちやくし・たんばのせうしやうも・いまは・めしやこめられぬらん・のこりとどまる・あとのありさま・さこそはあるらめなむど・おもはじなきこともなう・あんじつづけて・おはしける・ほどに・さしもの・ごくねつに・しやうぞくをだにも・くつろげたまはねば・あせも・なみだも・あらそひてぞ・みえられける・おとどは・いまだ・おはせぬやらん・さりとも・よもすておき・たまふべきとは・おもはれけれども・たれして・のたまふべきとも・おぼえねば・くれをもまたで・つゆのみの・きえぬべうこそ・おもはれけれ・こまつどのは・なにごとにも・さわぎたまはぬひとにて・おはしければ・はるかに・ひたけて・のち・ゑふ四五にん・ずゐしん三四にんほど・めしぐして・のどやかげにてぞ・おはしたる・にふだうよにも・あしげに・みたまへば・ちくごのかみさだよし・おんまへをついたつて・おとどに・まゐりむかひたてまつり・これほどの・おんだいじに・など・ぐんびやうどもをば・一にんも・めしぐ・せられさふらはぬやらんと・まをしたりければ・おとど・だいじとは・てんがの・だいじをこそいへ・されば・これは・わたくしごと・なんでう・ことのあるべきとて・いりたまへば・かつちうを・よろひ・きうせんを・たいしたる・ものどもも・みな・そぞろいてぞ・さふらひける・そののち・おとど・ちうもんに・おはして・だいなごんの・おはするところは・いづくやらんと・かしこここの・しやうじを・ひきあけひきあけ・みたまへば・ここに・くもでゆうたる・ところあり・これや・そなるらんとて・ひきあけて・みたまへば・をりふし・だいなごんは・おとどのこと・おぼしめしいだし・なみだにむせび・うつぶして・おはしけるが・おとど・P70
さていかにやと・のたまふこゑを・ききつけて・めをもちあげ・うれしげに・おもはれたる・けいき・ごくあくしんぢうの・ざいにんが・ぢざうぼさつに・あひたてまつるらんも・これには・すぎじとぞ・みえし・だいなごんは・こはなにごとにてさふらふやらん・みには・いつせつ・あやまつたる・こともさふらはねども・けさより・かやうに・めしこめられ・まゐらせて・ゆふさり・すでに・うしなはるべしとやらん・うけたまはりさふらふ・さんぬる・へいぢに・いのちたすけられ・まゐらせて・そのごおん・いまだ・はうじ・つくしがたうてさふらふ・こんども・よきやうに・まをして・たすけさせ・おはしましさふらへかし・かひなき・いのちだには(イ命だに生きて候はば)・やがて・もとどりきつて・いかならむ・かたやまざとにも・とぢこもり・ひとすぢに・ごしやうぼだいの・いとなみをも・つかまつりさふらはんと・おもひなつて・こそさふらへと・のたまへば・おとど・いかさまにも・それは・ひとの・ざんげんにてぞ・さふらふらん・さりながら・こんどもまた・よきやうにまをして・たすけ・たてまつらばやとこそ・ぞんじさふらへ・おんこころやすく・おぼしめされさふらふべしとて・いでられければ・だいなごん・おとどの・おはしつるほどは・いささか・たのもしう・おもはれつるに・おとど・いでたまひてのちは・だいなごん・よにも・こころぼそくぞ・おもはれける・そののち・おとど・ちちのおんまへに・おはして・さてあの・だいなごんをば・きられんずるにて・さふらふやらんと・まをされたりければ・にふだう・しさいにや・およぶ・このくれを・まつなりとぞ・のたまひける・おとど・あのだいなごん・さうなう・うしなはるべからず・そのゆゑは・かれがせんぞ・六でうのしゆりのだいぶあきすゑきやう・しらかはのゐんに・めしつかへてより・このかた・いへひさしう・へのぼり・くらゐ・じやう二ゐ・くわん・だいなごんに・あがり・ことには・たうじの・きみの・ぶさうのおんいとほしみにて・さふらふなるものを・さうなう・うしなはるべきこと・P71
いかがさふらふべかるらん・かやうには・また・きこしめされてさふらふとも・もしこのことの・ひがごとならば・いよいよふびんの・いたりなるべし・きたののてんじんは・しへいのおとどの・ざんげんによつて・うきなを・さいかいのなみにながし・にしのみやのだいじんは・ただのしんぼちが・ざんさうによりて・そのみを・せんやうの・くもにかくしたまふ・これみな・えんぎのせいしゆ・あんわのみかどの・おんひがごととぞ・まをしつたへたる・じやうこもつて・かくのごとしいはんや・まつだいに・おいてをや・けんわうなほ・おんあやまりあり・いはんやぼんにんにおいてをや・よくよく・ごあんも・あるべし・くはしう・おんたづねも・さふらふべし・こうくわい・さきにただずとこそ・うけたまはりさふらへ・けいのうたがはしきをば・かるんぜよ・こうのうたがはしきをば・おもんぜよとこそ・みえてさふらへ・かやうにまをしさふらへば・しげもり・かのだいなごんが・いもうとに・あひぐしたり・これもりまた・むこなり・かたがたしたしければ・まをすとや・おぼしめされさふらふらん・まつたく・そのぎにてさふらはず・ただよのため・いへのために・ぞんじて・かやうには・まをしさふらふなり・むかしさがのくわうていのおんとき・さひやうゑのじようふぢはらのなかなりが・ちうせられてより・このかた・しにたるものの・ふたたび・かへることなし・これふびんの・いたりなるべしとて・はうげんまでは・きみ・廿五だい・たえてひさしかりし・しざいを・しんぜいにふだう・しつけんのときに・あひあたりて・うぢのさふの・しがいを・ほりおこし・かうべをはね・おほぢをわたし・じつけんせられしこと・なんどは・むだうなる・いたり・あまりなる・まつりごととこそ・みさふらひしか・されば・ふるきひとのことばにも・あまりに・しざいを・おこなへば・かいだいに・むほんの・ともがらたえずと・まをししに・あはせて・なか・ふたとせあつて・へいぢに・こといでき・しんぜい・みやこのうちを・いだされ・いきながら・うづまれ・いくほどなうて・ほりおこし・かうべをはね・おほぢを・わたされ・くびをごくもんに・かけられし・ことP72
なんどは・いつしか・そのむくいかと・おぼえて・かへすがへすおそろしう・こそさふらへ・これは・させる・てうてきにても・さふらはず・せめては・みやこのうちを・いだされたらんに・ことたりさふらひなんず・だいじやうだいじんまでも・きはめさせたまひぬれば・ごえいぐわ・のこるところはさふらはねども・ししそんそんまでも・はんじやうこそ・あらまほしうさふらへ・ふその・ぜんあくは・しそんにおよび・しやくぜんのいへに・よけいあり・しやくあくのかどに・よあうとどまるとこそ・うけたまはりさふらへなんど・やうやうに・まをされたりければ・ゆふさりだいなごん・きられんことをば・おぼしめしとどまり・たまひける
あひ 204
そののちおとど・ちうもんにいで・さぶらひどもに・むかつて・のたまひけるは・たとひにふだう・ふしぎを・げぢしたまふとも・あのだいなごん・さうなう・きるべからず・おんふくりふのままに・ものさわがしき・おんことならば・さだめて・ごこうくわいあるべし・さるにても・つねとほ・かねやすが・けさあの・だいなごんに・あらけなく・あたりつることこそ・かへすがへすも・きくわいなれ・かたゐなかのものどもは・よろづのことに・かかるぞとよと・のたまへば・二にんのものども・さればこそ・けさ・われらが・まをしつるところも・ここぞかしとて・ふかう・おそれいつてぞ・さふらひける・おとどは・かやうに・げぢしつつ・こまつどのへぞ・かへられける・さるほどに・だいなごんのともに・さふらひける・しよたいふさふらひども・なかのみかど・からすまるのだいなごんなりちかのきやうの・ごしゆくしよに・かへりまゐつて・かみには・けさよりして・にし八でうに・めしこめられ・まゐらつさせたまひて・ゆふさりすでに・うしなはれ・させたまふべきと・やらん・うけたまはりさふらふ・またせうしやうどのを・はじめたてまつつて・P73
きんたちたちをも・みな・むかへまゐらつさせ・たまふべしと・やらん・つたへうけたまはつてさふらふと・まをしたりければ・きたのかためのとのにようばうを・はじめたてまつつて・いへのうちに・ありとし・あるひと・みな・きもたましひを・うしなつて・こゑをあげてぞ・なかれける・によばうだち・いまは六はらより・つゐふのくわんにんどもの・まゐりむかひさふらふらんに・こはいづくへも・しのばせたまひてと・まをしあはれければ・きたのかた・いまこれほどに・なりぬるうへは・いづかたへか・しのぶべき・ただひとところにて・ともかうも・なりたらんこそ・ほんいなれ・さるにても・けさをかぎりと・しらざりつる・ことこそ・かなしけれとて・ふししづみてぞ・なかれける・さるほどに・六はらより・つゐふのくわんにんどもの・まゐりむかふよし・きこえしかば・きたのかた・いまさればとて・はぢがましく・うきめを・みむよりは・しのばむとて・きたのかた・くるまにのりたまふ・十さいのわかぎみ・八さいのひめぎみ・ひとつくるまにのせ・たてまつつて・おほみやをのぼりに・きたやまのほとり・うんりんゐんへ・いれたてまつり・あさましげなる・そうばうに・おろしおきたてまつる・おんとものひとびとは・みのすてがたさに・いとままをして・みなちりぢりにこそ・なりにけれ・きたのかた・きんだちばかり・のこりとどまらせたまひて・くれゆくかげを・みたまふにつけても・あはれやだいなごんは・ゆふさりすでに・うしなはれさせたまふべき・なれば・つゆのおんいのち・いまいくほどぞやと・おもひやるにも・きえぬべし・さるほどに・だいなごんのとしごろ・めしつかはれたる・つぼねのにようばうめのわらは・ものをだにも・うちかつがず・かちはだしにて・もんぜんに・はしりいで・みなちりぢりにこそ・なりにけれ・もんをだにも・おしたてず・むまやには・むまどもなみたちけれども・くさかふものもなし・よあくれば・もんぜんには・うまくるまのひまなく・うちには・ひんかく・ざにつらなつて・よをよともせず・みちをすぐる・ものP74
ども・おぢおそれてこそ・きのふまでも・ありつるに・よのまにかはる・よのならひ・しやうじやひつすゐのことわり・は・めのまへにこそ・あらはれたれ・たのしみつきて・かなしみきたると・かかれたる・がうしやうこうの・ふでのあと・いまこそ・おもひしられけれ
少将の乞請 205
さるほどに・しんだいなごんなりちかのきやうのちやくし・たんばのせうしやうなりつねは・きのふより・ゐんのごしよに・うへぶしして・いまだまかりも・いでられざりけるに・ひとまゐつて・このよしまをしたりければ・せうしやうなど・これほどのことを・しうと・さいしやうのもとよりは・つげられぬやらんと・のたまふところに・しうとさいしやうのもとより・つかひあり・にし八でうより・ぐしたてまつつて・きつときたれとさふらふ・とうとうと・のたまひつかはされたりければ・せうしやう・はやこころえたまひて・ごしよちうの・にようばうたちを・よびいだしたてまつつて・かかることこそさふらへ・きのふより・せけん・なんとなう・そうぞうにさふらひつるを・れいのやまの・だいしゆの・くだるかなんど・よそに・ぞんじてさふらへば・はやなりつねが・みのうへにて・さふらひけり・さても・八さいより・おんめにかかり・十二より・このごしよに・しこうつかまつつて・あさゆふは・ふびんのおほせ・まかりかうぶり・さふらひしに・ゆふさり・あのだいなごん・うしなはれさふらはば・さだめてなりつねも・おなじみちにぞ・おこなはれ・さふらはんずらん・いま一ど・きみをも・みまゐらせたくは・さふらへども・かかるみに・まかりなりさふらひぬるうへは・よにおそれてこそ・まかりいでさふらへと・まをされたりければ・にようばうたち・ごぜんにまゐり・このよしそうし・まうされたりければ・ほうわう・なにかはくP75
るしかるべき・いま一どこれへと・おほせければ・せうしやうなくなく・ごぜんへは・まゐられたりけれども・まをしいださるるむねもなし・ほうわうもまた・おほせいださせたまふかたも・なかりけるに・さてしも・あるべきならねば・せうしやうおんいとままをして・いでられけり・ほうわうは・せうしやうの・うしろを・はるばると・ごらんじおくらせたまひて・ただまつだいこそ・こころうけれ・またもごらんぜられぬ・おんこともや・あらんずらんとて・おんなみだに・むせばせ・おはします・そのほかごしよちうのひとびと・せうしやうの・そでに・すがり・たもとにとりつき・みななみだをぞ・ながされける・せうしやうは・けさゐんのごしよを・いづるより・ながるるなみだも・つきざるに・しうとさいしやうのもとに・おはして・まづ・きたのかたの・おんありさまを・みたまふに・せんかたなし・ちかうさんしたまふべきにて・つきごろも・なにとなう・うちなやみたまひけるが・またこのことさへ・うちそひて・ふししづみてぞ・おはしける・またせうしやうのめのとに・六でうとまをす・にようばうあり・せうしやうの・そでをひかへたてまつつて・きみのちのなかに・わたらせたまひしを・とりあげいだき・そだて・まゐらせてより・このかた・わがみのとしの・おいゆくをもしらず・いつかとくして・おとなしく・ならせたまはんずらんと・まをしあかし・まをしくらし・ことしは・廿一まで・そだてまゐらせて・ゐんへも・うちへも・おんまゐりあつて・おそういでさせたまふときは・かつうは・おんこひしうも・かつうはまたおぼつかなうも・おもひまゐらせつるに・ただいまいでさせたまひて・いかなるおんめにか・あはせたまはんずらんとて・なきければ・せうしやういたうな・なげきそ・さいしやうさてましませば・いのちばかりをば・まをして・たすけたまはぬ・ことあらじとは・のたまへども・めのとの・六でう・ただもだえこがれ・たをれふし・なくよりほかの・ことぞなき・さるほどに・にし八でうより・つかひしきなみに・たちけP76
れば・さいしやうさらば・いでてこそ・ともかうも・ならめとて・くるまにのつてぞ・いでられける・せうしやうもどうしやして・こそいでられけれ・さいしやうのうちの・じやうげ・なんによみな・くるまよせまで・はしりいで・なきひとを・いだすがやうに・こゑをあげてぞ・なかれける・はうげんへいぢより・このかた・へいけのひとびとの・たのしみさかえは・ありしかども・うれへなげきは・なかりしに・このさいしやうばかりこそ・よしなき・むこゆゑに・かかるなげきは・したまひけれ・さるほどにさいしやう・にし八でうにおはして・あんないを・まをされたりければ・にふだう・せうしやうをば・うちへは・かなふまじと・のたまふあひだ・そのへんちかき・さぶらひのもとに・おろしおきたてまつつて・さいしやうばかり・いりたまふ・いつしかつはものども・せうしやうを・うちかこみたてまつつて・しゆごしたてまつる・さいしやう・ちうもんにおはして・いであはるるかと・たいめんを・またれけれども・にふだう・とみにも・いでられざりければ・げんたいふのはんぐわんすゑさだをもつて・まをされけるは・のりもり・よしなきものに・むすぼほれて・いまさら・くやしうさふらへどもちからおよびさふらはず・またかれに・あひぐせさせて・さふらふもののうちなやむことのさふらふが・またこのことさへ・うちそへて・いのちも・あやうくこそさふらへ・あはれかれが・いかにも・ならんほど・たんばのせうしやうを・のりもりに・あづけさせ・おはしまし・さふらへかし・なじかは・ひがごと・せさせさふらふべきと・まをされたりければ・すゑさだ・おんまへに・まゐつて・このよし・まをしたりければ・にふだうあはや・また・れいのさいしやうの・ものにも・こころえぬことを・のたまふものかなとて・おほきに・いかつて・しばしは・ものをも・のたまはず・ややあつて・にふだうしやうごく・のたまひけるは・そもそもかの・しんだいなごんなりちかのきやうと・いつぱ・むほんをおこして・たうけを・がたぶけむとす・されども・この一もんいまだ・うんつきざるによつて・このことはやく・あらはれたり・もしこのP77
むほん・とげましかば・そのごへんとても・あんをんにや・おはすべき・うとうも・おはせよ・したしうも・おはせよ・えこそ・なだめ・まをすまじけれ・むこも・こも・まことのときは・ただ・みに・まさることや・あるとぞ・のたまひける・さいしやうかさねて・まうされけるは・はうげん・へいぢよりこのかた・だいせうじ・おんいのちにかはり・まゐらせて・あらきかぜをば・まづふせぎ・まゐらせんとこそ・つかまつりさふらひしが・いまよりのちも・たとひのりもりこそ・としおいてさふらふとも・こどもあまた・もちてさふらへば・などか一ぱうの・おんかために・なりまゐらせでは・さふらふべき・それにしばらく・せうしやうを・のりもりに・あづけさせ・おはしませとまをすを・おんゆるされも・なきはよく・のりもりをも・ふたごころあるものに・おぼしめされたる・にてこそさふらへ・さやうに・うしろめたいものに・おもはれまゐらせて・のり
もり・よにありても・なににかはし・さふらふべき・あはれしゆつけのいとまをたまはつて・かうや・こがはにも・とぢこもり・ひとすぢに・ごしやう・ぼだいの・いとなみをつかまつりさふらはばや・よしなき・うきよの・まじはりなり・よにあればこそ・のぞみもあれ・のぞみのかなはねばこそ・うらみもあれ・しかじうきよをいとひ・まことのみちに・いりなんにはとぞ・まをされける・すゑさだまた・おんまへに・まゐつて・このよし・まをしたりければ・にふだうもつてのほかに・おどろきたまひて・さてはさやうに・さいしやうの・しゆつけにふだうなんどまで・まをさるなるこそ・けしからね・さらばしばらく・せうしやうを・しゆくしよにも・おかれさふらへかしと・よにも・しぶしぶにこそ・のたまひけれ・さいしやうなみだをながし・あはれわがこに・むすぼほれざらんには・なにしにか・これほどに・こころをくだくべき・よしなかりける・によしかなとて・なみだにむせびてぞ・いでられける・せうしやうまちうけたてまつつて・さていかに・さふらふと・のたまへば・さいしやうさればこそ・いかにも・かなP78
ふまじかりつるを・のりもりが・しゆつけにふだうなんどまで・まをしたればにやらん・しばらくしゆくしよに・おきたてまつれとはのたまへども・ゆくすゑとても・たのもしからずと・のたまへば・せうしやうさては・ごおんをもつて・しばらくの・いのちのたすかりさふらふござんなれ・さてあの・だいなごんどののおんことをば・なにとか・きこし・めされたるやらんと・のたまへば・さいしやう・いさとよ・いかにもしてぞ・このことをこそ・まをさばやと・しつれ・それまでの・ことは・おもひも・よらずと・のたまへば・さてあの・だいなごんどの・ゆふさり・うしなはれたまひさふらはば・うきもしづみも・なりつねをも・おなじみちには・まをさせたまはでと・のたまへば・さいしやうよにも・こころぐるしげにて・いさとよそれも・こまつのだいふの・けさよりして・やうやうに・とりまをさるなるが・それもしばらくの・いのちのたすからせ・たまふやうにこそ・うけたまはりつれと・のたまへば・せうしやうてをあはせてぞ・よろこばれける・まことの・こならざらむひとの・わがみの・うへをさしおきて・たれかは・かやうに・よろこぶべき・まことのちぎりは・おやこのなかにぞ・ありける・さればこに・すぎたる・たからなしと・やがて・おもひぞ・かへされける・さるほどに・さいしやうは・くるまにのつてぞ・いでられける・せうしやうもまた・けさのやうに・どうしやしてこそ・かへられけれ・ひとさきにまゐつて・せうしやうどのは・べちのおんことも・わたらせたまはで・かへらせたまひてさふらふと・まをしたりければ・さいしやうのうちの・じやうげなんによみな・くるまよせまで・はしりいで・ししたるひとの・いきかへりたるここちして・みなよろこびのなみだをぞ・ながされけるP79
教訓状 206
にふだうしやうごく・しんだいなごんなりちかのきやういげ・ごきんじゆのひとびと・そのほか・ほくめんのともがらどもに・いたるまで・おほくいましめおかれても・なほこころゆりずや(イ心ゆかずや)・おもはれけむあかぢのにしきのひたたれに・くろいとをどしの・はらまきの・むないたせめ・そのかみいまだ・あきのかみたりしとき・いつくしまのだいみやうじんより・れいむかうぶり・うつつにたまはられたりける・しらえのこなぎなた・つねのまくらをはなたず・たてられたりけるを・わきにはさみつつ・ちうもんのらうへぞ・いでられける・おほかたそのけしき・ゆゆしうぞみえし・にふだう・さだよしとめす・ちくごのかみさだよし・もくらんぢの・ひたたれに・ひをどしの・よろひきて・おまへにまゐり・かしこまる・にふだう・やや・さだよし・いかがはからふ・さんぬるはうげんに・をぢへいむまのすけただまさをさきとして・一もんなかばすぎ・しんゐんのみかたに・まゐりたりき・一みやのおんことは・ごぎやうぶきやうのとのの・やうくんにて・わたらせたまひしかば・かたがた・みはなちまゐらせがたうは・おもひしかども・こゐんの・ごゆゐかいにまかせて・このおんかたに・まゐり・さきをかけたりき・これ一の・ほうこうにあらずや・またへいぢぐわんねん十二ぐわつに・のぶより・よしともが・むほんのとき・ゐんうちおしこめたてまつつて・てんかは・くらやみとなりたりしにも・にふだう・いのちを・すてずしては・いかにも・かなふまじかつしあひだ・みかたにてぞくとを・うち・たひらげ・のぶより・よしともを・ちゆうりくし・つねむね・これかたをめし・いましめしにいたるまで・きみのおんために・いのちをすつること・どどにおよぶ・されば・ひと・いかにまをすとも・この一もんをば・いかでか・七だいまでも・おぼしめしすてさせたまふべきに・それになりちかといふ・むようのいたづらもの・またP80
さいくわうといふ・げせんのふたうにんが・まをすことに・きみのつかせ・おはしまして・たうけをかたぶけんとの・ごけつこうこそ・しかるべからね・なほも・ざんそうするものあらば・かさねてゐんぜん・くだされつと・おぼゆるなり・てうてきとなりなんのちは・いかにくゆとも・えきあるまじ・さればしばらくよをしづめむほど・ほうわうを・とばの・きたどのへうつし・まゐらするか・しからずば・また・ごかうを・これへなりとも・なしまゐらせばやと・おもふはいかがあるべき・さらむにとつては・ほくめんのともがらどもの・なかに・やをもひとつ・いつとおぼゆるもののあるぞとよ・さぶらひどもに・そのようい・せよと・ふるべし・おほかたにふだう・ゐんがたのほうこうに・おいては・おもひきつたり・むまにくらおけ・きせなが・とりいだせよとぞ・ひしめかれける・そののち・しゆめのはんぐわんもりくに・いそぎこまつどのに・はせまゐつて・まうしけるは・よははやすでに・かうとこそみえさせおはしましさふらへ・そのゆゑは・かみに・おんきせながを・めされさふらふうへ・つはものどもみな・うつたつて・ただいますでに・ゐんのごしよ・ほうぢうじどのに・よせさふらふぞや・ほうわうをば・とばどのにと・ごひろうあつて・ないないは・さいこくのかたへ・ながしまゐらすべしとこそ・うけたまはりさふらへと・まをしたりければ・おとどいかでか・さるおんことの・わたらせたまふべきとは・おぼしめされけれども・けさのぜんもんの・ふるまひ・さるものぐるはしう・おはしつれば・もし・さやうのこともや・おはすらんとて・いそぎ・おんくるまにめし・にし八でうに・おはして・もんぜんにて・くるまよりおり・もんをさしいりて・みたまへば・げにも・にふだう・はらまきを・ちやくしたまふうへ・一もんのけいしやううんかく・す十にんおもひおもひのひたたれに・いろいろのよろひきて・ちうもんのらうに・二ぎやうにちやくせられたり・そのほかしよこくのじゆりやう・ゑふしよしなんどは・えんにもゐこぼれて・にはにもひしと・なみゐたり・つはものどもはたさをを・ひきP81
そばめひきそばめ・むまのはるびをかため・かぶとのををしめて・ただいますでに・うつたたうずる・きそくなるに・おとどはまた・けさのやうに・ゑぼし・なほしに・だいもんの・さしぬきのそばとつて・さやめきいりたまふ・ことのほかにぞ・みえられける・にふだうしやうごく・このよしをみたまひて・あはまた・れいのだいふが・よをへうするやうに・ふるまふものかな・ついでをもつて・おほきに・いさめばやと・おもはれければ・なぎなた・ひざのしたにおき・ゐだけだかに・なつて・おはしけるが・さすがだいふは・こながらも・うちには・五かいをたもつて・じひをさきとし・ほかにはまた・五じやうをみだらず・れいぎをただしうしたまふ・ひとなり・あのすがたに・はらまきをちやくして・むかはんこと・さすが・おもはゆう・はづかしくもや・おもはれけん・しやうじを・すこしひきたて・そけんの・ころもをとつて・はらまきのうへに・あわてぎに・きたまひけるが・むないたのかなもののはづれて・すこしみえける・を・かくさんと・ころものむねをとつて・しきりにひきちがへひきちがへぞ・したまひける・おとどは・おんおとと・うたいしやうむねもりの・ざじやうに・ちやくせられけり・にふだうしやうごくも・のたまひいださせたまふむねもなし・おとどもまた・まうしいださせたまふかたも・なかりけるに・ややあつて・にふだうしやうごく・のたまひけるは・そもそもかの・しんだいなごんなりちかのきやうが・むほんはことの・かずならず・一かうこれは・おほかた・ほうわうの・ごけつこうにて・さふらひけるぞや・それにふだうが・くわたいは・がいぶんに・くわんとを・すすむばかりなり・それ・ゆみやとるならひ・せんれいなきにあらず・たむらまろは・ぎやうぶきやう・さかのうへの・かつたまろが・こなりしかども・わづかに・とういをたひらげし・けんしやうに・だいなごんにて・さこんのたいしやうを・けんじき・せいだいじやうこにも・わづかに・とういへんどをかせし・くんこうかくのごとし・いはんやにふだう・わうゐをうばはれ・たまはんとせP82
し・二ケどの・くんしやう・すてがたし・しかのみならず・こうしんちやくちやくのみとして・てうていどどの・はぢをきよめき・それになりちかといふ・むようのいたづらもの・さいくわうといふ・げせんのふたうじんが・まうすことに・きみのつかせおはしまして・たうけつゐたうの・ごけつこうこそ・しかるべからね・なほも・ざんそうするものあらば・かさねて・ゐんぜんくだされつと・おぼゆるなり・てうてきと・なりなんのちは・いかにくゆとも・えきあるまじ・さればしばらく・よをしづめむほど・ほうわうを・とばの・きたどのへ・うつしまゐらするか・しからずはまた・ごかうを・これへなりとも・なしまゐらせばやと・おもふは・いかがあるべきと・のたまへば・おとど・このこと・ききもあへたまはず・まづさめざめとぞ・なかれける・にふだうさてはいかにや・いかにと・あきれたまへば・ややあつて・おとどなみだをおさへて・まうされけるは・このおほせうけたまはりさふらふに・ごうんははや・すゑになりぬと・おぼえて・まづ・しげもりが・ふかくのなみだの・さきだちさふらふなり・ひとはかならず・うんめいつきむとては・かかるあくぎやうを・おもひたつことにてさふらふなり・さすがわがてうは・ぞくさんへんちの・さかひとはまをしながら・てんせうだいじんの・ごしそん・くにのあるじとして・あまつこやねの・みことの・ごべうえい・てうのまつりごとを・つかさどりたまひしより・このかた・だいじやうだいじんのくわんに・いたりたまふほどのひとの・かつちうをよろひ・ましますこと・これれいぎを・そむくにあらずや・なかんづくしゆつけのおんみなり・それ三ぜのしよぶつ・げだつどうさうの・ほうえをぬぎすてて・たちまちにかつちうをよろひきうせんをたいしましますこと・うちには・はかいむざんの・つみをまねかせ・たまふのみならず・ほかにはまた・じんぎれいちしんの・ほふにも・すでに・そむきぬらんとこそ・みえてさふらへ・かたがたおそれあるまをしごとにてはさふらへども・しばらく・おんこころをしづめて・しげもりが・まをしじやうを・つぶさにきこしめさるべうもや・さふらふらん・かつうは・さいごの・まうしじやうP83
なり・こころのうちに・ししゆを・のこすべからず・まづよに四おんさふらふ・しよきやうのせつさう・ふどうにして・ないげのぞんぢ・かくべちなりとは・まをせども・しんちくわんぎやうのもんにも・とかれてさふらふが・てんちのおん・こくわうのおん・ぶものおん・しゆじやうのおん・これなり・しるをもつて・じんりんとす・そのなかに・もつともおもきは・てうおんなり・ふてんのしたことごとく・わうどにあらずと・いふことなし・されば・えいせんのみづに・みみをあらひ・しゆやうざんに・わらびををつし・けんじんも・ちよくめいそむきがたき・れいぎをば・ぞんぢすとこそ・うけたまはれ・いまだせんぞにも・きかざりし・だいじやうだいじんのくわんを・きはめさせたまふのみならず・いはゆる・しげもりなんどが・むさいぐあんの・みをもつて・れんぶくわいもんの・くらゐにいたる・しかのみならず・こくぐんなかば・一かのしよりやうたり・でんをんはことごとく・一もんのしんしたり・これきたいの・てうおんにあらずや・いまばくだいの・ごおんをわすれて・みだりがはしく・きみをなみし・まゐらつさせたまはんおんこと・しんりよのほども・はかりがたし・それわがてうは・しんこくなり・かみはひれいを・うけさせたまはず・およそてうてきとなりなんものは・ちかくは百にち・とほくは・みとせを・すごさずとこそ・うけたまはりさふらへ・これはきみの・おぼしめしたつところ・だうりなかば・なきにあらずや・およそ・この一もんは・だいだいの・てうてきを・たひらげて・四かいの・げきらうをしづむること・ぶさうのちうとは・まをしながら・そのしやうにほこること・かへりて・ばうじやくぶじんともまた・まをしつべし・いへのめいをもつては・きみのめいをじせざれ・わうふのめいをもつては・ちちのめいをじせよとこそ・みえてさふらへ・おほせあはせらるる・だいなごんいげの・よたうのともがらに・しよたうのざいくわ・おこなはれぬるうへは・なにのおそれかさふらふべき・いまはしりぞいて・このしさいをちんじ・まをさせたまはば・きみのおんためには・いよいよほうこうのちうきんをいたし・たみのためには・ますます・むいくの・あいれんを・P84
ほどこさせおはしまさば・しんめいの・かごに・あづかつて・ぶつだの・みやうりよにも・そむくべからず・しんめいぶつだの・かんおうあらば・きみもなどか・おぼしめしなほさせたまはでは・さふらふべき・されば・しやうとくたいしの・十七ケでうの・ごけんぽふにも・みなひとこころ・まちまちなり・おのおのしふあり・われをぜし・かれをひす・かれをぜし・われをひす・ぜひのことわりを・たれかよく・さだむべき・あひともに・けんぐなり・はしなくして・たまきのごとし・たとひかのひと・いかるといふとも・かへりて・わがしつを・をさめよとこそ・みえてさふらへ・きみと・しんとを・ならぶるに・しんそわくかたなし・きみにつきたてまつるは・ちうしんのはふ(ほふ)・だうりと・ひがごとを・くらべんに・いかでか・だうりにつかざるべき・これはきみの・おんことわりにてさふらへば・しげもりはかなはぬまでも・ゐんちうを・しゆごしまゐらせんとこそ・ぞんじさふらへ・そのゆゑは・しげもりはじめ・じよしやくより・いまだいじんのたいしやうに・いたるまで・一として・てうおんならずと・いふことなし・そのおんの・おもきことを・おもへば・せんくわ・ばんくわの・たまにもこえ・そのふかきいろを・ろんずれば・一じふさいじふの・くれなゐにもなほ・すぎたらん・しげもりが・みにかはらむ・いのちにかはらむと・ちぎつてさふらふ・さぶらひども・せうせうさふらふらん・かれらを・めしぐして・ゐんの・ごしよにまゐり・もんもんをかためて・ふせぎまゐらせんは・ゆゆしき・おんだいじにてこそ・さふらはんずれ・かなしきかな・きみのおんために・ほうこうのちうきんを・いたさんと・すれば・めいろ八まんの・いただきよりなほたかき・ちちのおん・たちまちにわすれなんとす・いたましきかな・ふかうのつみを・のがれんと・すれば・きみのおんためには・ふちうの・ぎやくしんともなりぬべし・しんたいこれきはまれり・ぜひいかにも・わきまへがたし・せんずるところ・きみをも・しゆごし・まゐらせさふらふまじ・またゐんざんの・おんともをも・つかまつるP85
べからず・せんはただ・まをしうくるところ・しげもりが・くびをめさるべし・らうしのことばこそ・おもひいでてさふらへ・こうみやうかなひとげて・みをしりぞけず・くらゐをさらざれば・すなはち・がいにあふともまをす・かのせうかは・だいこうかたへに・こえたりしによつて・くわん・だいしやうごくにあがり・けんをたいし・くつをはきながら・でんじやうへのぼることを・ゆるされたりしかども・ひとたび・えいりよにそむくこと・ありしかば・かうそこれを・いましめて・おもうつみせられき・かやうのことを・おもふにも・ふつきといひ・えいぐわといひ・てうおんとまをし・ちようしよくといひ・かたがたきはめさせ・たまひぬれば・いまはごうんの・つきさせたまはんことも・かたかるべしとも・おぼえず・ふつきのいへには・ろくゐちようでふせり・なほふたたび・みなるきは・そのねかならず・いたむともまをす・いつまでか・ながらへて・かやうに・みだれむ・よをも・みさふらふべき・ただまつだいに・しやうをうけて・かかるうきめに・あひさふらふ・しげもりが・くわはうのほどこそ・つたなうさふらへ・さぶらひ一にんに・おほせつけ・おつぼのうちに・めしいだし・しげもりが・くびをめされんは・いとやすき・おんことにてこそ・さふらはんずらめ・これやおのおの・ききたまへとて・なほしのそで・しぼるばかりに・みえられければ・にふだうしやうごくを・はじめたてまつつて・一もんのけいしやううんかく・みなよろひのそでをぞ・ぬらされける・にふだうしやうごく・たのみきつたる・だいふは・かやうに・のたまふ・よろづ・ちからも・なげにて・いやいやそれまでの・ことは・おもひもよらず・あくたうどもの・まをすことに・きみのつかせおはしまして・もしおんひがごとなんどもや・いでこん・ずらんなど・おもふばかりにてこそ・あれと・のたまへば・おとど・たとひ・いかなる・おんひがこと・わたらせたまひさふらふとも・きみをば・なにとかし・まゐらつさせたまふべき(イべきとて)・おんまへを・ついたつて・ちうもんにいで・さぶらひどもにむかつて・のたまP86
ひけるは・いまおんまへにて・まをしつることどもをば・なんぢらはうけたまはらずや・けさよりこれにありて・かやうのことどもをもまをし・なだむべかりつれども・これていに・ひたさわぎ・なりつれば・かへりたりつるなり・またゐんざんのおんともに・おいては・しげもりが・くびをめされんをみて・まをすべし・さらばおのおの・まゐれとて・こまつどのへぞ・かへられける・されども・たうけぢうだい・からかはといふ・よろひ・こがらすといふたちをば・しのびつつ・おんくるまに・いれられけるとぞ・うけたまはる・よういのほどこそ・おそろしけれ・そののち・こまつどのには・おとど・かへりたまひてのち・しゆめのはんぐわんもりくにをもつて・もよほされけるは・しげもりこそ・べつして・てんがのだいじ・ききいだしたれ・しげもりを・しげもりと・おもひあはれんずるひとびとは・みな・もののぐして・はせまゐるべしと・ふれられ・たりければ・ひごろは・おぼろけにても・さわぎ・たまはぬひとの・いまかやうに・おほせなるは・べつのしさいぞ・あるらん・いざや・まゐらんとて・あるひは・よどはつかし・うぢをかのや・だいご・うぐるす・ひの・くわんじゆじ・おはら・しづはら・せれうのさと・むめづ・かつらに・あふれゐたりける・つはものども・あるひはよろひきて・かぶと・きるもあり・きぬもあり・やおひて・ゆみとるもあり・とらぬもあり・われさきに・さきにと・こまつどのへぞ・はせたりける・さるほどに・にし八でうに・す千きありつる・つはものどもも・こまつどのに・だいじいできたりと・ききてんげれば・にふだうしやうごくにこのよしかくとも・まをさず・みな・さやめき・つれて・こまつどのへぞ・まゐりける
烽火の沙汰(あひ) 207 P87
さるほどに・にし八でうには・ちくごのかみさだよしが・ほかは・きうせんに・たづさはりぬべき・ひと・一にんもなし・ただおいたるあま・あをにようばう・ふでとりなんどぞ・さふらひける・にふだう・さだよしとめす・ちくごのかみさだよし・おんまへにまゐりかしこまる・にふだう・ややさだよし・なにとてだいふは・これらをば・かやうに・よびとるやらん・いかさまにも・けさこれにて・いひつるやうに・にふだうが・もとへ・うつてなんどや・むけんずらんなど・のたまへば・さだよしまをしけるは・いかでか・さるおんことの・わたらせたまひさふらふべき・けさおんまへにて・まをさせたまひつる・おんことどもをも・いまはさだめて・ごこうくわいぞ・さふらふらんと・まをしたりければ・にふだういやいや・だいふと・なかたがうては・ゆゆしき・だいじぞとて・もののぐぬぎすて・そけんのころもに・けさうちかけ・ながずずつまぐつて・いとこころも・おこらぬ・ねんじゆしてこそ・おはしけれ・ひとへにものぐるひの・くるひさめたに・ことならず・そののち・こまつどのには・しゆめのはんぐわんもりくにうけたまはつて・ちやくたうつけけり・まゐりこもるつはもの・一まんよにんとちうしまをす・ちやくたうひけんののち・おとど・ちうもんにいで・さぶらひどもにむかつて・のたまひけるは・ひごろのけいやくたがへず・みな・しんべうにまゐりたり・ただしいこくにさるためしあり・むかししうのいうわうと・まをししひと・はうじとて・さいあいの・きさきを・もちたまへり・てんかいちの・びじん・されども・このきさき・いささかわらふことを・したまはず・かのくにのならひにて・てんかに・ことのいできたるときは・ほうくわとて・みやこよりはじめて・ひをあげ・たいこをうつて・くにぐにのつはものを・めさるるならひあり・あるとき・てんかにこといできにしかばほうくわを・あげたりければ・きさきこれをごらんじて・ふしぎや・ひもされば・あれほどに・たかうもあがる・ことかやとて・はじめてわらひたまひけり・ひとたびゑめば・もものこび・ありとかや・いうわうふしぎや・このきさきは・ほうくわを・あいしたまP88
へりとて・つねはそのこととなく・ひをあげ・たいこをうつて・きさきをなぐさめたてまつる・しよこうきたるに・あたなし・あたなければ・ほどなくさる・かやうにすること・どどにおよぶ・あるとき・りんごくより・きようぞくおこつて・いうわうのみやこを・かたぶけんとせしとき・ひをあげ・たいこをうちけれども・れいのきさきの・ひにならつて・まゐりちかづく・ものもなし・すなはち・みやこかたぶいて・いうわううたれたまひけり・そののち・このきさきは・きうびの・しやつことなつて・かきけすやうにぞ・うせられける・よにはかかる・ためしの・あるぞとよ・しげもりも・べつしててんかの・だいじききいだしたり・つれども・またひがごとに・ききなしたり・じこんいごも・これよりめさば・かくのごとく・まゐるべし・さらば・おのおのかへれとて・さぶらひどもをぞ・かへされける・およそ・このおとど・まことに・ちちといくさを・すべきには・あらず・またてんかのだいじをも・ききいだされざりけれども・かやうにして・わがみに・せいのつくや・つかぬをもみ・またはにふだうしやうごくの・あくしんをも・やはらげんのための・おとどの・はかりごととぞ・うけたまはる・きみきみたらずと・いふとも・しんもつて・しんたらずんば・あるべからず・ちちちちたらずといふとも・こもつて・こたらずんば・あるべからず・いはんやこのおとどは・きみのおんためには・ちうあつて・ちちのためには・かうあり・これぶんせんわうのことばに・たがはず・ほうわうも・ないないきこしめされて・いまにはじめぬことなれども・だいふがこころのうちこそ・はづかしけれ・あたをばはや・おんをもつて・はうじけりとぞ・おほせける・くににいさむる・しんあれば・そのくにかならず・やすし・いへにいさむる・こあれば・そのいへかならず・ただしともいへり・じやうこにも・まつだいにも・ありがたかりし・おとどなりP89
大納言の流され 208
おなじき六ぐわつ二かのひ・しんだいなごんなりちかのきやうをば・にし八でうの・くぎやうのざに・いだしたてまつつて・ぎよもつまゐらせたりけれども・むねふさがつて・おんてをだにも・かけられず・さてしもあるべき・ならねば・つはものども・おんくるまよせて・いまはとうとう・めさるべうさふらふと・まをしたりければ・だいなごん・こころならずのりたまふ・くるまの・ぜんごさいうを・みたまへば・もののぐしたる・つはものどもが・ところもなく・みちみちて・ひごろみなれたる・ひと・一にんもなし・ただみにそふものとては・つきせぬ・なみだばかりなり・しゆじやかを・みなみへゆけば・おほうちやまも・いまはよそにぞ・なりにける・とばどのを・すぎられけるに・ひごろ・このごしよへ・ごかうなりしには・一どもおんともには・はづれ・ざりつるものをと・わがさんしやう・すはまどのをも・よそに・してこそ・とほられけれ・とばのみなみのもんにて・つはものども・ふねをおそしと・いそがすれば・だいなごん・こはいづくを・さして・ゆくやらん・とても・うしなはるべくは・みやこちかき・このへんにても・あらばやと・のたまひけるぞ・いとほしき・だいなごん・ちかうさふらふ・ぶしは・たそと・とひたまへば・なんばの二らうつねとほと・まをす・だいなごんさて・このへんに・わがかたざまの・ものやある・たづねて・えさせよと・のたまひければ・うけたまはつて・たづねけれども・なかりければ・さふらはずとまをす・だいなごん・むざんやな・われよに・ありしときは・きのふまでも・したがひつきたりし・じやうげ・一二千にんもこそ・ありつらんに・いまはよそにてだにも・とぶらふものの・なきことよと・のたまひけるぞ・いとほしき・ひごろ・くまのまうで・てんわうじまうで・なP90
んどの・ありしには・ふたつがはら・みつむねに・つくつたるふね・またつぎのふね・およそ二三十さう・こぎつづけ・させてこそおはせしに・いまはいつしか・けしかる・かきすゑ・やかたぶねの・ともへあれたるに・おほまく・ひきまはさせ・みもなれぬ・つはものどもと・のりぐして・けふをかぎりに・みやこのうちを・いでられける・こころのうち・おしはかられて・あはれなり・よどのいりえを・こぎすぎて・こつどのうとの・はしらもと・きんや・かたのの・なぎさのをか・いりえいりえを・こぎすぎて・そのひは・つのくに・だいもつのうらにぞ・つきたまふ・またかおうぐわんねんのふゆのころ・このきやう・いまだそのころ・ちうなごんにて・みののくにを・ちぎやうせられたりけるに・もくだい・さゑもんのじようまさとも・さんもんのしよりやう・ひらののしやうの・じんにんと・ことをしいだし・たりしによつて・さんもんおほきに・いきどほり・こくしなりちかるざいにしよせられ・もくだいまさとも・きんごく・せらるべきよし・そうもんまをしたりければ・そのときも・このきやうの・さんもんの・そしようによつて・びつちうへ・ながさるべきにて・にしのきやうまで・いでられたりしをも・きみいかがは・おぼしめされけん・なか五かあつて・やがて・めしかへされさせ・たまひけり・これによつて・さんもんおほきに・いきどほり・なりちかきようを・さまざまに・じゆそしたてまつりけるとぞ・きこえし・されども・じようあんにねんしやうぐわつ十二にちに・じゆ二ゐしたまふ・おなじき三ねん三ぐわつ十三にちに・うひやうゑのかみを・けんじて・けびゐしのべつたうにぞ・あがられける・そのときは・あぜちのだいなごんすけかた・くわざんのゐんのちうなごんかねまさのきやう・こえられさせたまひけり・あぜちのだいなごんは・いへのひとおとななり・かねまさのきやうは・せいぐわのひと・けちやくにて・こえられたまふぞ・ゐこんなる・これは・三でうどの・ざうしんの・しやうとぞ・きこえし・またあんげんぐわんねん七ぐわつ五かのひ・じやう二ゐしたまふ・そのときは・なかのみかどのちうなごんむねいへのきやう・こえられさせ・たまひけP91
り・おなじき二ねん十ぐわつ廿二にちに・けびゐしのべつたうより・ごんだいなごんにぞ・あがられける・かくのみ・さかえたまひしかば・ひとあざけりて・あはれさんもんのだいしゆには・のろはるべかりけるものかなとぞ・まをしける・されども・しんばつ・みやうばつは・ときもあり・おそきもありし・ならひにて・つひには・かかるうきめに・あはれけるこそ・あさましけれ・おなじき三かのひ・だいもつのうらには・みやこよりおんつかひありとて・ひしめきけり・だいなごん・ただいまこれにて・うしなへとの・つかひやらんと・ききたまへば・びぜんの・こじまへ・ながしたてまつれとの・つかひなり・またこまつどのより・おんふみあり・ひらきてみたまへば・みやこちかき・かたやまざとにも・おきまゐらせんとて・やうやうに・まをしさふらひしかども・かなはぬことこそ・よにある・かひもさふらはね・さりながら・おんいのちばかりをば・よきやうに・まをしてこそさふらへ・おんこころやすく・おぼしめされさふらふべし・またなんばがかたへも・あひかまへて・おんこころにたがひたてまつらで・よくよくおんみやづかひ・つかまつれと・あそばされたる・だいなごんさても・かたじけなう・おもはれ・まゐらせつる・きみにも・すてられたてまつり・またつかのまも・はなれがたき・きたのかた・きんたちだちをも・ふりすてて・こはいづくを・さして・ゆくやらん・ひととせも・びつちうへ・ながさるべきにて・にしのきやうまで・いでたりしをも・やがて・めしこそ・かへされたれ・こんどは・いのちながらへて・こひしきものどもを・いま一ど・みみえむことも・かたかるべしとて・あけければ・ふねにのつてぞ・いでられける・みちすがらも・なみだにくれて・ゆくさきさらに・みえわかず・あとのしらなみ・へだつれば・みやこはしだいに・とほざかり・ゑんごくはまた・ちかくなる・さるほどに・だいなごん・びぜんのこじまに・つきたまふ・たひのうらと・いふところの・あさましげなる・しばのいほりに・おきたてまつる・これやこの・しづがP92すむなる・はにふのこやも・これなるらん・しまのならひ・うしろはやま・まへは・いそなれば・きしうつなみのおと・まつふくかぜ・あはれいづれも・つきざりけり
阿古屋の松 209
おなじき六ぐわつ五かのひ・むほんのともがらども・くにぐにへ・ながしつかはさる・まづ・あふみのちうじやうにふだうれんじやう・さどのくに・やましろのかみもとかぬ・おきのくに・しきぶのたいふまさつな・びんごのくに・そうはんぐわんのぶふさ・いよのくに・しんへいはんぐわんすけゆきは・みまさかのくにとぞ・きこえし・にふだうしやうごく・かやうに・さんざんに・しちらし・わがみは・いそぎ・ふくはらへこそ・くだられけれ・おなじき廿かのひ・つのさゑもんもりずみを・ししやにて・おととかどわきどののもとへ・いまは・たんばのせうしやうをも・とうとう・くだされさふらへかしと・のたまひつかはされ・たりければ・さいしやう・さらば・ありしとき・ともかうも・なしたまはで・ふたたびものを・おもはすることよと・のたまへば・にようばうたち・あはれ・さいしやうの・いま一ど・よきやうに・まをさせたまへかし・なんど・のたまひあはれければ・さいしやういまは・のりもりが・よをいとふより・ほかのことをば・なにごとをか・まをすべき・さりながら・いづくのうらわにも・おはせよ・のりもりが・いのちのあらんかぎりは・はぐくむべしとぞ・のたまひける・またせうしやうの・わかぎみ三さいに・なりたまふおはしけり・ひごろは・わかきひとにて・いとこまやかなる・ことも・おはせざりしかども・いまはのときにも・なりしかば・さすがこころにかかつてや・おもはれけん・あはれ・をさなきものを・いま一ど・みばやと・のたまへば・めのといだいてまゐりたり・せうしやう・ひざにおき・わかぎみの・かみP93
かきなでて・のたまひけるは・むざんや・なんぢ七さいにもならば・げんぷくせさせ・ゐんへまゐらせんとこそ・おもひしに・いまは・かひなし・もしまた・いのちながらへて・おとなしく・なりたらば・なりつねが・ごせとぶらうて・えさせよと・おとなしきひとに・むかつて・のたまふやうに・かきくどきて・のたまへば・このわかぎみ・うちうなづき・たまひけり・さてこそ・にようばうたちも・いとどそでをぞ・ぬらされけれ・おつかひ・こんやは・とばまでと・まをしければ・せうしやうとても・かなはぬ・ものゆゑに・こんやはこれにありて・あかつきとく・いでんと・のたまへども・おつかひゆるしたてまつらず・おなじき廿三にちに・つのさゑもん・せうしやうどのを・ぐそくしたてまつつて・ふくはらにくだり・にふだうしやうごくに・このよしまをしたりければ・にふだう・せうしやうをば・びつちうのくにのぢうにん・せのをのたらうかねやすに・おほせて・びつちうのせのをへこそ・くだされけれ・かねやす・かどわきどのの・かへりきこし・めされんずる・ところをも・はばかりにおもひければ・せうしやうどのを・やうやうに・もてなしたてまつる・されども・せうしやうは・いささか・くつろぐここちも・したまはず・ただあけくれ・ほとけのみなを・となへても・ちちだいなごんどのの・ことをのみぞ・いのられける・さるほどに・だいなごんは・びぜんのこじまに・おはしけるが・ここはなほ・ふねつきなれば・びんぎ・あしかりなんとて・それより・(イこなたの)ちにわたしたてまつる・びぜん・びつちう・りやうごくのさかひ・なんばに・かせのがう・きびのなかやまのふもと・ありきのべつしよと・いふところに・おきたてまつる・それより・せうしやうのおはしける・びつちうのせのをへは・わづかに・五十よちやうの・あひだなり・あるときせうしやう・かねやすをめして・これより・ちちだいなごんどのの・おはしける・ありきのべつしよとかやへは・いかほどの・みちぞと・とひたまへば・かねやす・ちかき・よしを・まうしあげては・あしかりなんとや・おもひけむ・十二三にちに・P94
ゆくところにてさふらふと・まをす・せうしやうこはいかに・につぽんは・むかし・三十三ケこくなりしを・てんぢてんわうのおんとき・六十よしうには・わけられたり・さればあづまに・きこゆる・あうしうも・むかしは・六十六ぐんなりしを・もんむてんわうのぎよう・たいはうけいうんに・十二ぐん・さきわかつて・ではのくにとは・なづけられたり・なかごろ・さねかたのちうしやうの・あづまへながされたりしに・むつに・あこやのまつといふ・めいしよあり・ちうしやうかれを・みんとて・くにのうちを・まはつて・たづねられけれども・なかりければ・ちからおよばず・かへられける・みちにて・らうおう・一にんゆきあうたり・ちうしやう・らうおうの・そでをひかへて・ややごへん・みちのくに・あこやのまつといふ・めいしよや・しりたまひたると・とひたまへば・たうごくのうちには・さふらはずと・まをす・ちうしやう・ふしぎや・よのすゑになれば・めいしよをも・はや・よみうしなへるに・こそとて・かへられければ・らうおう・ちうしやうのそでをひかへて・ややきみはみちのくのあこやのまつにこがくれていづべきつきも(イの)いでもやらぬかと・よめるうたのこころをもつて・たうごくのうちとは・しろしめされてさふらふか・さればそれは・いまだかのくにの・六拾六ぐんなりしとき・よめるうたのこころなり・もし・ではのくにに・もやさふらふらんと・いひければ・まことにもとて・ではのくにに・こえてこそ・あこやのまつをも・みたりしか・すでに・十二三にちは・ほとんどみやこより・ちんぜいげかうほどござんなれ・ちんぜいより・はらかの・つかひののぼるこそ・かちぢ・十四五にちとは・きけびぜん・びつちう・びんごも・むかしは・一こくなりしを・三ケこくには・わけられたり・なかんづく・せんやうだうに・それほどの・たいこくありとは・きかぬものを・びぜん・びつちうりやうごくのさかひ・いかにとほしといふとも・りやう三にちには・よもすぎじ・ちかきを・P95
とほきに・まをしなすは・しらせじ・とにこそとて・のちには・こひしけれども・とひたまはず・なかにも・へいはんぐわんやすより・ほつしようじのしゆぎやうしゆんくわんそうづをば・さつまがた・きかいがしまへぞ・ながされける・たんばのせうしやうをも・あひそへてこそ・くだされけれ・なかにも・やすよりは・すはう・むろつみと・いふところにて・しゆつけし・ほうみやう・しやうぜうとぞ・なのられける・しゆつけはもとよりの・のぞみなりければ・かうぞ・おもひつづけ・たるつひにかくそむきはてけるよのなかをとくすてざりしことぞくやしききかいがしまとまをすは・みやこをいでて・ほどとほく・うみをわたりて・ゆくしまなり・ふねなんども・たやすくかよふことなければ・しまには・ひとまれなり・をとこは・ゑぼしきず・をんなは・かみもさげず・みには・しきりに・けおひつつ・いろくろくして・うしのごとし・いしやうなければ・ひとにもにず・しよくするものも・なければ・ただ・せつしやうをもつて・さきとす・しづがやまだを・うたざれば・べいこくの・たぐひもなく・そののくはをも・とらざれば・けんばくのたぐひ・さらになし・さつまがたとは・そうみやうなり・むかしは・おにが・すみければ・きかいが・しまとは・なづけられけり・またいわうといふもの・おほかりければ・いわうがしまともまをす・しまのうちには・たかきやまあり・やまのいただきには・とこしなへに・ひもえつつ・つねは・いかづらのなりあがり・なりさがれば・ふもとのさとに・あめしげし・一にちへんし・つゆのいのち・ながらふべしとも・みえざりけり大納言の死去 210 P96
さるほどに・だいなごんは・びぜんのくに・ありきのべつしよに・おはしけるが・いささかくつろぐこともやと・おもはれけるに・さはなくて・ちやくし・たんばのせうしやうも・きかいが・しまへなんど・きこえしかば・よろづ・こころぼそくや・おもはれけん・こまつどのへしゆつけのいとままをし・おんとし四十三にて・うきよをよそに・すみぞめのそでと・なられけるこそ・あはれなれ・さるほどに・だいなごんのきたのかたは・みやこきたやまのほとり・うんりんゐんに・おはしけるが・さらでだに・すみもならはぬ・かたやまざとは・さびしきに・いとどしのばれければ・おのづから・すぎゆく・つきひを・くらしかね・あかしわづらふ・おんさまなり・さるほどに・だいなごんの・としごろ・めしつかはれける・しよたいふ・さぶらひども・いくらも・ありけれども・あるひは・よにおそれ・あるひは・へいけに・はばかつて・まゐりちかづく・ものもなし・なかにも・げんざゑもんのじようのぶとしばかりぞ・つねは・まゐりける・あるとき・きたのかた・のぶとしを・めして・ややのぶとしや・まことや・とのは・びぜんのありきの・べつしよとかやに・おはすなる・せめて・ふみをたてまつつて・へんじをなりとも・みて・なぐさまばやと・おもふは・いかがあるべきと・のたまひければ・のぶとし・まをしけるは・これは・えうせうより・きみの・ごおんあくまで・まかりかうぶり・さふらひしかば・つねは・いさめられまゐらせし・おんことの・きもにめいじ・そのみやこまでも・めされたりし・おんこゑの・はるかに・みみのそこに・とどまつて・かたとき・わすれまゐらすることも・さふらはず・みやこを・おんいでのときも・もつともおんともつかまつるべう・ぞんじ・さふらひつれども・へいけゆるされ・さふらはねば・ちから・およびさふらはず・こんどは・たとひ・いかなる・うきめにも・あひさふらへ・おんゆくへを・したひまゐらせて・たづねまゐらばやとこそ・ぞんじさふらへ・おんふみたまはらむと・まをしたりければ・きたのかた・なのめならず・よろこびたまひて・やがて・おんふみあそばP97
してぞ・たうだりける・のぶとし・おんふみたまはつて・よをひについで・くだるほどに・ほどなう・びぜんのくに・ありきのべつしよに・くだりつき・しゆごの・ぶしに・むかつて・まをしけるは・これは・だいなごんどのの・としごろ・めしつかはれし・さぶらひに・げんざゑもんのじようのぶとしと・まをすものにてさふらふ・おんゆくへを・したひまゐらせて・たづねまゐりたるよしを・まをしたりければ・なんばのじらうのぶとしが・はるばると・これまで・たづねくだりたる・こころざしのほどを・かんじて・だいなごんどのに・このよし・まをしたりければ・をりふしだいなごんは・みやこのおんこと・おぼしめしいだし・なみだに・むせび・うつぶして・おはしけるが・のぶとしが・これへこれへと・のたまへば・のぶとし・おんそばちかう・まゐつて・みたてまつるに・おはするところのあさましげなるも・さることにて・はやおんさまかへておはしけるを・みたてまつるにつけても・つきせぬものは・なみだなり・だいなごんさて・みやこのことは・いかにと・のたまへば・みやこのおんことは・なかなか・おぼしめし・やらせたまふべし・きたのおんかたよりの・おんふみとて・とりいだしてたてまつる・だいなごん・ひらいて・みたまへば・きたのかたの・みづぐきの・あとはなみだに・かきくれて・とかく・うらみくどきて・かかれたるより・をさなきひとびとの・いまだいとけなき・ふでのすさび・なるに・こひしこひしと・かかれたるを・みたまひてぞ・いとど・せんかたなくは・おもはれける・そののち・五六にちありて・のぶとしまをしけるは・いましばらくも・さふらひて・おんゆくへをも・みまゐらせたくは・さふらへども・きたのかたよりは・あひかまへて・ごへんじ・たまはつて・いそぎ・まゐりのぼるべきよしを・おほせられさふらひしに・あともなく・ゆくへもなく・さふらはんこと・おほきに・おそれいつて・おぼえさふらへば・こんどは・まづ・まかりのぼり・やがて・まゐるべきよしを・まをしたりければ・だいなごん・こんど・なんぢが・くだらんまで・いのちいきて・みみえんこともかたかるべし・あひかまへて・なりP98
ちかが・ごせとぶらうて・えさせよと・のたまひぬべき・ことはみな・かねてより・はやつきけれども・せめての・したはしさにや・はるばると・いでたりける・のぶとしを・いましばしや・しばしとて・たびたびめしぞ・かへされける・のぶとし・ごへんじたまはつて・またよを・ひについで・のぼるほどに・ほどなう・みやこにのぼりつき・うんりんゐんに・まゐり・だいなごんどのの・ごへんじを・きたのかたへたてまつる・きたのかた・めづらしき・ふみをも・みるものかなとて・わかぎみ・ひめぎみ・三にんひとつところに・さしつどひ・このふみを・ひらいて・みたまひて・なみだに・むせび・たまひけり・ふみのおくに・びんのかみを・一むら・まき・ぐせられたり・けるを・みたまひてぞ・はやさまかへて・おはしけるをも・しられける・あんげん三ねん八ぐわつ十六にちに・かいげんあつて・ぢしようぐわんねんとぞ・まをしける・おなじき廿二日に・だいなごん・ありきのべつしよにて・うせたまふ・そもさいごのありさま・さまざまに・きこゆ・はじめは・さけに・ぶすを・いれて・すすめたてまつりけれども・そのしるしも・なかりければ・のちには・二ぢやうばかりありける・きしのしたを・ほりにほり・ひしをうゑ・うへより・つきおとしたてまつつて・うしなひたてまつりけるとぞ・きこえし・さるほどに・だいなごんの・きたのかたは・うんりんゐんに・おはしけるが・このよしを・つたへ・ききたまひて・やがて・ぼだいゐんより・ひじりをしやうじ・おんとし三十九にて・さまをかへ・ひたすらだいなごんの・ごしやうぜんしよをぞ・いのられける・このきたのかたと・まをすは・やましろのかみあつかたのきやうの・おんむすめなり・わかぎみ・ひめぎみ・きたのかた・のべにいでては・はなをたをり・さはべにおりては・みづをむすび・ひたすらだいなごんの・ごしやう・ぼだいをぞ・いのられける・さるほどに・ときさり・ときうつり・よのかはりゆく・ありさま・ただてんにんの・五すゐとぞみえし・おなじき十ぐわつ廿五にちに・せいせいとうばうにいづ・または・せきP99
きあり・しいうきとも・まをす・てんもんはかせ・これをうらなひまをす・うちには・だいびやう(乱字脱か)あるのみならず・ほかにはまた・おほきなる・うれへとぞ・まをしける・さるほどに・としくれて・ぢしようも・二ねんに・なりにけり

平家物語(城方本・八坂系)
巻第三 P100
山門滅亡 301
ぢしよう二ねん・しやうぐわつついたちのひ・しゆじやう・てうきんのおんために・ほうぢうじどのへ・ぎやうかうなつて・なにごとも・れいにかはりたる
ことは・なけれども・きよねんのなつ・しんだいなごんなりちかのきやう・いげ・ごきんじゆのひとびと・そのほかほくめんの・ともがらどもに・いたるまで・
おほくながし・うしなはれし・ことどもを・ほうわうやすからず・おぼしめされければ・よの・おんまつりごとをも・ものうく・おぼしめされけ
り・にふだうしやうごくも・ゆきつなが・つげしらせしのちは・きみをもうしろめたいことに・おもひまゐらせ・うへにはことなき・や
うなれども・したには・こころえうじんつねにして・にがわらひて・のみぞ・おはしける・そのころ・ほうわうは・みゐでら・
の・こうけんそうじやうを・ごしはんとして・しんごんの・ひほふ・こんねむ・だいにちきやう・こんがうちやうぎやう・そしつぢきやう・三ぶの
ひきやうを・ごでんじゆありて・おなじき二ぐわつ五かのひ・みゐでらにて・ごくわんぢやう・あるべきよし・きこえしかば・さんもんおほきに・
いきどほり・むかしより・だいだいの・みかどの・じゆかいくわんぢやうは・わがやまにて・とげさせたまふこと・これせんきなり・なかにも・さん
わうの・けだうは・じゆかい・くわんぢやうのためなり・しかるを・こんど・みゐでらにて・とげさせたまはば・をんじやうじを・やきはらふ
べしとぞ・せんぎしける・ほうわうこのよしを・つたへきこしめされて・やうやうに・こしらへ・なだめ・おほせられけれども・P101
れいの・さんもんの・だいしゆ・ゐんぜんにも・かかはらず・いよいよほうきすと・きこえしかば・ほうわうこれおほきに・むやく
なりとて・いそぎ・ごけぎやうを・ごけちぐわんあつて・みゐでらにての・ごくわんぢやうをば・おぼしめし・とどまらせ・たまひけり・
されども・ごほんいなりければ・こうけんを・めしぐして・てんわうじへ・ごかうなり・五ちくわうゐんを・つくらせたまひ・
かめゐの・みづをもつて・五ひやうの・ちすゐと・さだめ・ぶつぽふ・さいしよの・れいちにてぞ・でんほふ・くわんぢやうをば・とげさ
せたまひける・さるほどに・ほうわうは・さんもんの・さうどうことを・やめさせ・たまはんがために・みゐでらにての・ごくわん
ぢやうをば・おぼしめしとどまらせ・たまひたりけれども・そのころさんもんには・だうしゆと・がくしやうのあひだに・ふくわいのこと・いできて・
かつせん・どどに・およぶまいどに・がくりよ・うちおとさる・さんもんの・めつばう・これひとへにてうかの・おんだいじとぞ・みえし・
だうしゆと・まをすは・がくしやうの・めしつかひける・わらんべの・ほうしになりたるなり・もしは・ちうげんほうしばらや・こん
がうじゆゐんの・ざす・かくそん・ごんそうじやう・ちさんのとき・三たふに・けちばんして・げしゆと・がうして・がくしやうをも・こととも
せず・どどのいくさに・かちにけり・だうしゆ・ししゆの・めいをそむきて・かつせんのくはだてあり・だいじやうのにふだうどのも・ゐんぜんを・
うけたまはつて・きのくにのぢうにん・ゆあさの七らうひやうゑむねみつに・おほせて・きないのつはもの・二千よにん・だいしゆにさしそへて・だうしゆ
を・せめさせらる・だうしゆひごろは・とうやうばうに・さふらひけるが・あふみのくに・三かのしやうに・げかうして・こくちうのあくたう
らを・かたらひ・すたの・せいをいんぞつして・こんどは・さうおいさかのじやうに・たてこもる・だいしゆ・くわんぐんに・五
千よにんにて・おしよせたり・だいしゆは・くわんぐんを・さきだてんとす・くわんぐんはまた・だいしゆを・さきだてんとせしほど
に・おもひおもひ・こころごころになつて・こんどのいくさも・はかばかしうは・せざりけり・だうしゆが・かたらふところの・P102
あくたうとまをすは・しよこく七だうの・せつたう・がうたう・さんぞく・かいぞくらなれば・よくしん・しじやうにして・ししやうふちの・やつばら
なりければ・いのちもをしまず・せめたたかふ・こんどもみな・がくしやういくさに・まけにけり・よすゑになれば・あくにんは・い
よいよつよく・ぜんにんはまた・よわくなるこそかなしけれ・そののち・さんもんいよいよ・あれはてて・十二しん・ところ
ところのほかは・しぢうの・そうりよまれなり・たにだにの・かうえん・まめつして・だうだうの・ぎやうほふも・たいてんす・しゆがくの・まどを
とぢ・ざぜんのゆかも・むなしくせり・四けう・五じの・はるのはなも・にほはず・三たい・そくぜの・あきのつきも・くも
れり・三百よさいの・ほつとうかかぐる・ひともなく・六じふだんのかうのけぶりも・たへやしぬらん・だいしやたかくそびえて
は・三ぢうのかまへを・せいかんの・うちにさしはさみ・とうりやうはるかに・ひいでては・四めんのたるきを・はくぶのあひだに・
かけたりき・されども・いまは・ぐぶつは・みねのあらしに・まかせ・きんようを・こうれきに・うるほし・よるのつき・ともし
びをかかげ・あかつきのつゆ・たまをたれ・れんざのよそほひを・そふとかや・それまつだいの・ぞくに・およんで・三ごくのぶつ
ぽふも・しだいに・すゐびしけるにや・とほくてんぢくの・ぶつせきを・とぶらふに・ぎをんしやうじや・ちくりんしやうじや・ぎつこどくをん・
わしの・たかねも・このごろは・こらうのすみかと・あれはてて・いしずゑのみや・のこるらん・はくろちには・みづたえ
て・くさのみ・ふかくしげれり・たいぼん・げじようの・そとばも・こけのみ・むして・かたぶきぬ・しんたんには・
てんだいさん・五だいさん・はくばじ・ぎよくせんじも・このごろは・ぢうりよ・なきさまと・あれはてて・だいせうじようの・ほうもんも・
はこのそこにや・くちぬらん・わがてう・あたご・たかをの・だうたふも・むかしは・のきをならべて・ありしかども・いちやの・
うちにあれはてて・てんぐのすみかとなりにけり・なんとの七だいじも・このごろは・とうだい・こうふく・りやうじのほかは・のこP103
れる・だうしやもまれなり・八しう九しうも・あとたえて・ほつさう・三ろん・二しうのほかは・のこれる・ほうもんまれなり・
さしも・やごとなかりし・てんぢくの・ぶつぽふも・ぢじようの・いまにおよんで・ほろびぬるにやと・こころあるひとの・
これをかなしまずと・いふことなし・りざんしける・そうのうちにや・よみたりけん・ふるきばうの・はしらに・いつしゆのうたをぞ・かきつけける
いのりこしわがたつそまのひきかへてひとなきみねとあれやはてなん
これは・でんけうだいし・たうさん・さうさうの・いにしへ・あのくたら・三みやく・三ぼだいの・ほとけたちに・いのりまをされたりし・
そのこころをやおもひいでてや・よみたりけん・いと・やさしうぞ・きこえし・八日は・やくしの・ひなれども・な
むと・となふるこゑもせず・うづきは・すゐじやくのつきなれども・へいはくを・ささぐるひともなし・あけのたまがき・かみさびて・し
めなは・のみや・のこるらん・さればふるきひとびとの・まをしあはれけるは・わうばふつきんとては・まづ・ぶつぽふさき
だつて・ばうずと・いへり・されば・しなののくに・ぜんくわうじも・さんぬる・三ぐわつ十三にちに・えんじやうの・きこえあり・
このによらいとまをしたてまつるは・むかし・ちうてんぢく・びしやりこくに・おいて・五しゆの・あくびやう・おこつて・にんみんことごとく・
ほろびしとき・びしやりこくの・ぐわつがいちやうじやと・しやくそん・もくれん・みこころを・ひとつにして・えんぶだごんにて・てづからみ
づから・いうつし・まゐらつさせたまへる・一ちやくしゆはんの・みだの三ぞん・えんぶだい一の・れいざうなり・されば・
ぶつぽふ・とううぜんの・ことわりにこたへて・ちうてんぢくにて・五百さい・はくさいこくにて・一千よねん・そののちわがてう・つのくに・
なにはの・ほりえにして・しばらく・やすらひたまひしを・おほみの・あづまうど・ほんだよしみつ・とりたてまつつて・P104
しなののくに・みのちのこほりに・あんぢしたてまつる・ぢしようのころまでは・五百五十よねんなり
康頼祝 302
きかいがしまの・るにんども・つゆのいのち・くさばのすゑに・すがりても・をしむべきにはあらねども・たんばのせうしやうの・しうと・
へいさいしやう・のりもりの・しよりやう・ひぜんの・かせのしやうより・いしよくを・つねにおくられしかば・しゆんくわんも・やすよりも・いのちを
いきては・ながらへけり・たんばのせうしやうなりつね・へいはんぐわんやすよりにふだうと・二にんは・くまのしんし(イ信心)の・ひとにてお
はしければ・いかにもして・たうしまのうちに・くまの三しよごんげんを・くわんじやうしたてまつりて・きらくのことを・いのらばや
といふに・しゆんくわんは・もと・さんそうなるうへ・ふしんの・ひとにて・さんわうの・おんことならば・さもありなん・ごんげん
の・おんことは・あながち・しんも・おこらずとて・このぎに・どうしんをも・したまはず・二にんは・おなじこころに・も
ししまのうちに・くまのににたる・ところやあると・たづねまはるに・あるひは・りんたふの・たへなるところもあり・あるひは・こうきん
しうの・やまもあり・やまのけしき・きの・こだちほかより・なほすぐれたり・みなみをのぞめば・かいまんまんとし
て・くものなみ・けぶりのなみ・いとふかく・みづは・へきたんを・おび(イたたへ)たれば・かのちやうあん・しやうかが・むすめの・げんのとくを・
あらはせし・じんやうの・かう・のほとりも・これには・すぎじとぞ・みえし・きたをかへりみれば・また・さんがくの・
ががたるなかより・はくせきの・れうすゐ・みなぎりおちたる・たきのおと・ことにすさまじく・しようふう・かみさびたる・けしき・まこと
に・ひれうごんげんの・おはします・なちの・おやまに・さ(も字脱 )にたりけり・さてこそ・やがて・そこをば・なP105
ちさんとは・なづけられけれ・かのみねは・ほんぐう・これは・しんぐう・かれは・そんぢやう・そのわうじ・どのわうじ・
このわうじと・わうじわうじの・なをまをし・やすよりにふだう・せんだちにて・きらくの・ことをぞ・いのられける・なむごんげん・
こんがうどうじ・ねがはくは・われらを・いまいちど・こきやうへかへさせたまひて・こひしき・ものどもを・みせしめたまへと・
ふたとせが・あひだぞ・いのられける・ひかずつもつて・たちかふべき・じやうえなければ・あさのころもを・みにまとひ・
きりべの・わうじの・なぎのはを・いなりのやしろの・すぎのはには・たむけつつ・くろめに・つくとぞ・くわんじけ
る・けがらはしき・心ある時は・さはべの・みづを・こりにかき・いはたがはの・きよきながれと・おもひやり・
たかきところに・のぼりては・ほつしんもんとぞ・くわんじける・さるほどに・やすよりにふだうは・ひに六十六ど・まゐり・ご
へいがみの・なければ・はなをたをりて・へいとささげ・ほんぐう・しようじやうでんの・おんまへにて・つねはのつとをぞ・まをしけ
る・それあたりきたれる・としのついで・ぢしよう二ねん・つちのえいぬのとし・つきのならひは・十ぐわつ・二ぐわつ(イ十二月)・ひのかず・三
百五十よケにち・きちにちりやうしんを・えらびて・かけまくも・かたじけなく・まします・につぽんだい一・だいれいけん・ゆや三しよ・ごんげん・
ひれう・だいぼさつの・けうりやう・うづの・ひろまへにして・しんじんの・だいせしゆ・うりんふぢはらの・なりつね・ならびに・しやみしやうせう・一しんしやうじやうの・まことをいたし・三ごふさうおうの・こころざしを・ぬきんでて・つつしんでもつて・うやまつてまをす・それ・しようじやうだいぼさつは・さいどくかい
の・けうしゆ・三じんゑんまんの・かくしゆなり・りやうしよごんげんは・あるひは・とうばう・じやうるり・いわうのしゆ・しゆびやうしつぢよの・によらいた
り・あるひは・なんぱうふだらく・のうけのしゆ・にふちう・げんもんの・だいし・にやくわうじは・しやばせかいの・ほんしゆ・せむゐしや
のだいし・ちやうじやうの・ぶつめんを・げんじてしゆじやうのしよぐわんを・みてしめたまふ・ここをもつて・かみいちじんを・はじめたてまつつP106
て・しもばんみんに・いたるまで・あるひは・げんせあんをんのため・あるひは・ごしやう・ぜんしよのために・あしたには・じやうすゐを・むすん
で・ぼんなうの・あかを・すすぎ・ゆふべにはしんざんに・むかつて・はうがうを・となふるに・かんおうおこたることなし・
ががたる・みねのたかきをば・じんとくの・たかきに・たとへ・れいれいたる・たにのふかきをば・ぐぜいの・ふか
きに・なずらふる・くもをわけて・のぼり・つゆをしのぎて・くだる・ここに・りやくの・ちを・たのまずんば・
いかがあゆみを・けんなんのみちに・はこばむや・それ・ごんげんの・ゐとくを・あふがずんば・なんぞ・かならずしも・いうゑんのさかひ
に・ましまさむや・よりて・しようじやうだいごんげん・ひれうだいぼさつ・しやうれん・じひの・おんまなじりを・あひならべ・われらが・
むにの・たんせいを・ちけんして・いちいちにこんしを・なふじゆせしめたまへ・ままのみ・(イままのみ四字ナシ)そもそもむすぶはや
たまの・りやうしよごんげんは・おのおのきに・したがつて・あるひは・うえんの・しゆじやうを・みちびき・あるひは・むえんの・ぐん
るゐを・すくはんがために・七はうしやうごんの・すみかをすて・八まん四千の・ひかりを・やはらげ・かりに・すゐじやくと・あらはれ
て・六だう三うの・ちりに・どうじたまへり・されば・ぢやうごふやくのうてん・ぐちやうじゆ・とくちやうじゆの・らいはい・そでをつらね・
へいはくれいてんを・ささぐる・ことひまなし・にんにくのころもを・かさね・かくだうのはなを・ささげてしんでんのゆかを・うごかし・しん
じんの・みづをすましては・りしやうの・いけを・たたへたり・しんめい・なふじゆしたまはば・しよぐわんなんぞ・じやうじゆせざらんや・あ
ふぎ・ねがはくば・十二しよごんげん・おのおの・りしやうのつばさを・ならべ・はるかに・くかいの・そらにかけり・さ
せんの・うれへを・やすめて・すみやかに・きらくの・ほんくわいを・とげしめたまへ・さいはいさいはい・とぞまをしけるP107
卒都婆ながし 303
さるほどに・二にんのひとびとは・あるよ・ほんぐうしようじやうでんの・おんまへに・つやして・よもすがら・ねんじゆせられけ
るに・おきのあらし・ことに・はげしかりけるに・いづかたよりともしらず・このはふたつ・二にんの・ひとびとの・そでの
うへに・ふきかけたり・はんぐわんにふだう・なにとなう・これをとつて・みけるに・さしも・このあひだたのみを・かけたてまつる・
みくまのの・なぎのはにてぞ・さふらひける・このきのはに・一しゆのうたを・むしくひにこそ・したりけれ
ちはやぶるかみにいのりのしげければなどかみやこへかへらざるべき W
ごんげんの・ごなふじゆ・うたがひなしとぞ・おぼえたる・あるよまた・二にんの・ひとびとにしの・ごぜんのおんまへに・つやして・
ねんじゆ・せられけるに・ゆめうつつとも・わかざるに・おきのかたより・かざり・じんじやうに・したる・こ
ぶねを・一さう・なぎさによせ・よにうつくしき・にようばうたち・十よにん・ふねよりあがり・つづみ・しらべひやうしを・もたせつ
つ・にしのごぜんの・おんまへにて・いまやうをこそ・うたはれけれ・よろづのほとけの・ぐわんよりも・せんじゆの・
ちかひぞ・たのもしき・かれたる・くさ・木にも・たちまちに・はなさき・みのるとこそ・きけと・これを・二三
ど・うたふかと・おぼしくて・かきけすやうにぞ・うせられける・にしのごぜんの・ごほんぢ・せんじゆせんげんにて・
おはします・りうじんは・廿八ぶしゆの・そのひとつなれば・さだめて・ごやうがうなるらんと・たのもしかりしおんことなり・
なかにも・やすよりにふだうは・みやこのこひしさの・せつなるままに・せんぼんの・そとばを・つくり・あじの・ぼんじをかき・P108
けみやう・じつみやう・ねんがう・ぐわつぴのしたには・二しゆの・うたをぞ・かきつけける・
さつまがたおきのこじまにわれありと・おやにもつげよやへのしほかぜ
おもひやれしばしとおもふたびだにも・なほふるさとはこひしきものを
これをうらに・もつて・いで・につぽんのかたを・ふしをがみ・なむ・きみやうちやうらい・ぼんてん・たいしやく・四だいてんわう・けんらう
じしん・そうじては・につぽん・六拾よしうの・だいせうのじんぎ・みやうだう・べつしては・ゆや三しよ・ごんげん・かいりうわうとう・ま
でも・あはれみを・たれさせたまひて・このうちに・一ぽんなりとも・こきやうへ・つたへてたばせ・たまへと・きせいして・
おきつしらなみの・よせては・かへす・たびごとに・そとばを・うみにぞ・うかべける・そとばは・つくりいだすに・
したがつて・うみにいれければ・ひかず・つもれば・そとばの・かずも・つもりにけり・おもふこころや・たよ
りのかぜとも・なりたりけん・またしんめいぶつだや・おくらせ・おはしましけん・千ぼんの・そとばのうちに・一ぽんは
るばると・八へのしほぢを・ゆられきて・あきのくに・いつくしまの・だいみやうじんの・おまへのなぎさに・うちあげたり・
ここにやすよりが・ゆかりありけるそう・一にん・せんやうだう・しゆぎやうしけるが・あるとき・いつくしまに・まゐり・しやだんのていを・を
がみたてまつるに・こころもことばも・およばれず・八しやの・ごてんは・いらかをならべ・百八十けんの・くわいらうあり・しやとうは・
うみにのぞめる・ところにて・しほの・みちひに・つきぞすむ・しほの・さすときは・おきのとりゐ・うちのくわいらう・あけのたまがき
に・いたるまで・ことごとくみな・るりのごとし・またしほのひくときは・なつのよなれども・おまへの・はくさに・しもぞ
おく・それ・わくわうどうぢんの・すゐじやくは・いづれも・とりどりなりとは・まをせども・いかなれば・このおんかみは・P109
かいまんの・うろくづに・えんをばむすばせ・たまふらんと・ごほんぢを・みやびとに・たづねたてまつれば・しやがら・りうわうの・
だい三の・ひめみや・たいざうかいの・すゐじやくとぞ・まをしける・このそういよいよ・たつとくおもひ・たてまつつて・ひねもすに・ほつ
せまゐらせ・やうやう・ひくれ・つきさしいでて・おまへのなぎさに・たちいでまんまんたるかいしやうを・みけるに・そこはか
となく・うちよせける・もくづの・なかに・そとばのかたのみえけるを・このそうなにとなう・これをとつて・み
けるに・さつまがたおきの・こじまと・かきながせる・ことのはは・やすよりにふだうが・しわざなり・もじをばゑりい
れ・きざみつけたりければ・なみにも・いそにも・あらはれずして・よにも・あざやかにこそ・みえにけれ・
このそうあはれにもまた・ふしぎにおもひ・おひのかたはらに・さし・みやこに・のぼり・やすよりが・ははや・つまこどもの・
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いて・あはれこのそとばの・もろこしのかたへも・ゆられもゆかで・なにしにこれまでつたはりきて・ふた
たびものを・おもはすることよ・とて・なきければ・つまこどもも・ながされしときの・おもひより・いまこのそとば
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めしよせ・えいらんあつて・あなむざん・このものどもは・いまだきかいがしまに・ながらへて・あるにぞとて・れうがんにおんなみだせ
きあへさせたまはず・そののち・うちのおとどのもとへ・つかはし・おはします・だいふはまた・ちちのぜんもんに・みせ
たてまつらる・にふだうもいはきならねば・よにも・あはれげにこそ・のたまひけれ・そのころ・きやうちうに・あやしの・しづのを・しづの
めに・いたるまで・やすよりが・二しゆのうたとて・くちずさまぬは・なかりけり・かきのもとのひとまろは・しまがくれゆく・P110
ふねをおもひ・やまべのあかひとは・あしべのたづを・ながめたまふ・すみよしのみやうじんは・かたそぎの・おもひをなし・み
わのみやうじんは・すぎたてるかどをさす・むかし・そさのをのみことの・三十一じを・はじめおき・たまひしより・このかた・も
ろもろのしんめい・ぶつぽふ・そのえいぎんをもつて・百千まんの・おもひをのぶ・千ぼんの・そとばなれば・さこそは・
ちひさくも・ありけめに・さつまがたより・みやこまで・つたはりけるこそ・ふしぎなれ
蘇武 304
あまりに・ひとのおもふことは・かくしるしありけるにや・むかし・かんてうのみかど・ここくを・せめさせたまひしに・はじめは・
りりようとまをす・しやうぐんの・十八さいに・なりけるに・かんわうの・はたをたうで・十万きを・さしそへて・ここくへ・むけ
られたりけるに・ここくのいくさこはく・かんわうのいくさ・よわくして・みかたほどなく・おつかへさる・つぎのとし・またそぶ
とまをす・しやうぐんの・十六さいに・なりけるに・かんわうのはたをたうで・卅万きを・さしそへて・ここくへ・むけられた
りけるに・こんどもまた・ここくのいくさ・こはく・かんわうのいくさ・よわくして・みかた・たたかひまけにけり・そぶを・はじめ
て・つはもの千よにんを・とりこにし・ほらにおひこめ・三ねんといふに・とりいだし・そぶを・はじめて・つはもの・六百よにんが・かたももを・いち
いちにおしきつて・ひろきのべへ・おひはなつ・やがてしするもあり・ほどへてむなしく・なるもあり・そのなか
に・そぶ一にんは・しなざりけり・のべにいでては・くさのみをとり・やまだにおりては・おちぼをひろひ・さは
べの・みづを・えんとして・つゆのいのちを・ささへけり・さるままには・たのむのかり・はじめは・そぶに・おそれP111
けるが・しだいに・みなるるままに・おそるることこそ・なかりけれ・あるとき・そぶ・ゆびのさきより・
ちをあやし・一くをかいて・かりのつばさに・むすびつけ・これをかんてうに・もつてわたり・みかどのごげんざんに・い
れよやと・いひふくめてぞ・はなちける・かひがひしくも・たのものかり・あきはかならず・ここくより・みやこへかよふもの
なれば・かんの・せうてい・じやうりんゑんに・みゆきなつて・ぎよいうあり・ゆふされのそら・うすぐもつて・なにとなく・ものあはれ
なる・をりふし・ひとつらのかりとびわたる・そのなかに・かりひとつとびさがつて・おのがつばさに・むすび・つけた
る・たまづさを・くひきつてぞ・おとしける・くわんじんあやしみをなし・これをとつて・みかどへたてまつる・みかどひらい
て・えいらんあるに・そぶが・ほまれの・あとなれや・むかしは・がんくつの・ほらに・こめられて・いたづらに・三しゆんの・
しうたんを・おくりき・いまはくわうでんの・うねに・はなたれて・むなしく・こてきの一そくと・なれり・たとひかばねは・このち
に・ちらすと・いふとも・たましひはかへつて・ふたたびくんべんに・つかへん・そしけいとぞ・かいたりける・みかど・あなむざん
これは・ひととせ・そぶと・いつしものを・ここくへ・むけたりしが・いまだながらへて・あるにこそ・とて・こんど
は・やうりとまをす・しやうぐんの・十九さいに・なりけるに・かんわうの・はたをたうで・百まんきを・さしそへて・ここく
へぞ・むけられける・やうりは・そぶが・こなりけり・やうり・百万きを・たまはつて・ここくにむかひ・せめ
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くわうやのうちより・たづねいだす・かたあしは・きられながら・十九ねんの・せいさうを・おくり・とし卅四とまをすには・かんきう
ばんりの・なみのうへ・ふたたび・きうりへ・かへりけり・それよりしてぞ・ふみをがんしよと・なづけ・つかひを・がんしP112
とまをすなり・かんかの・そぶは・しよを・かりにつけて・きうりへ・おくり・ほんてうの・やすよりは・うたをなみのたよりに・
こきやうへ・つたふ・かれは・かりのつばさの・一くのし・これは・そとばの・おもての二しゆのうた・かれは・かんてう・こ
れは・ほんてう・かれは・じやうだい・これは・まつだいさかひを・へだて・よよは・かはれども・ふぜいは・いづれも・おなじ・あはれなりし・ことどもなり
ゆるしふみ 305
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きこえさせたまひしかば・くものうへ・あめがしたの・さわぎなるうへ・へいけのひとびと・ことにさわぎ・あはれけり・い
け・くすりを・つくし・おんやう・じゆつを・きはむ・しよじに・みどつきやう・はじめてしよしやへ・くわんぺいを・たてまつらる・されども・ご
なう・ただにも・わたらせたまはず・ごくわいにんと・きこえさせたまひしかば・いつしか・ひきかへたる・おんよろこびにてぞ・
わたらせたまひける・しゆじやう・こんねん・十八さい・ちうぐう・廿二に・ならせたまふまで・わうじ・ひとところも・いでき
させたまはず・あはれこんど・わうじにて・わたらせたまはば・いかばかりか・めでたからましと・たんだいま・わう
じ・ごたんじやうなんどの・あるやうに・みなひと・あらましごとをぞ・まをされける・しやうしゆく・ぶつ・ぼさつに・つけ
ては・ごさん・へいあん・きそうかうそうに・おほせては・わうじたんじやうとぞ・いのりまをされける・おなじき・六ぐわつついたつのひ・ちうぐう・
ごちやくたいあり・にんわうじのみや・これをごかぢあり・ざすのみやは・七ぶつ・やくしのほふ・ならびに・へんじやう・なんしの・ほふP113
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をも・つやつや・きこしめされず・ひすゐの・おんかんざしは・おんめのうへに・ところせく・おもやせさせ・たま
へる・おんありさま・なほいたはしき・おんさまなり・さるままには・かんの・りふじん・せうやうでんの・やまひの・とこ
にふし・たうの・やうきひ・りくわ・いつし・はるの・あめを・おび・ふようの・かぜに・しをれつつ・をみなへしの・つゆおも
げなるより・なほうつくしき・おんさまなり・かかりける・をりをえて・こはき・おんもののけども・とりいれ・まゐ
らせ・ごけんじや・しきりなり・まづは・さぬきのゐんの・ごりやう・うぢの・あくさふの・おくねん・なりちかのきやう・さいくわうほう
し・ふしが・しりやう・べつしては・きかいがしまの・しやうりやうなんどそ・うらなひまをしける・きくもよに・おどろ
おどろしう・おそろしかりし・おんことどもなり・きんねん・ふりよなる・ことども・あつて・せじやう・いまだ・らくきよ・せざる
ことも・これひとへに・ごりやうの・ゆゑなりとて・さぬきのゐんの・ごつゐがうあつて・しゆとくてんわうと・がうし・うぢの・あくさふの・
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は・しがい・みちのべの・つちとなつて・ねんねんに・はるのくさのみ・しげれり・しかるを・いまちよくし・たづねくだつて・
ちよくめいを・さづけられけれども・ばうこんいかが・おもはれけん・おぼつかなしとぞ・ひとまをしける・むかしもをんりやうは・かくおそ
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るしぶみあり・さいしやうのもとよりも・べつして・よろこびの・つかひをぞ・そへられける・つかひは・たんざゑもんのじよう・もとやすとぞ・
きこえし・七ぐわつげじゆんに・みやこをたつ・あひかまへて・よをひに・ついで・くだるべしとは・のたまへども・こころにまかせぬ・かいろ
なれば・ながづき廿かころにぞ・さつまがた・きかいがしまには・つきにける・おつかひ・ふねより・のぼり・これに・きよねんみやこ
より・三にん・ながされたまひし・たんばのせうしやうどのや・へいはんぐわんやすより・ほつしようじの・しゆぎやう・しゆんくわんそうづの・ごばうの・P116
おはする・ところは・いづくやらんと・こゑごゑに・よばはつたりければ・ににんの・ひとびとは・れいの・くまのまうでし
て・おはせざりけり・そうづ一にん・しばのいほりに・おはしけるが・ききたまひて・はしるともなく・たをるるともな
く・いそぎ・ふなつきに・おはして・これこそきよねん・みやこより・ながされし・しゆんくわんよ・そもなにごとぞと・のたまへ
ば・おつかひ・べつのしさいにてはさふらはず・みやこよりの・おゆるしぶみさふらふとて・くびにかけたる・ふみぶくろより・とりいだ
して・たてまつる・そうづ・なのめならず・よろこびたまひて・いそぎ・しばのいほりに・かへり・このふみを・ひらいてみたまへば・ぢう
くわは・をんるに・めんず・はやはや・きらくの・おもひをなすべし・ちうぐう・ごさん・へいあんの・おんいのりのおんために・
たいしや・おこなはるるに・よつて・きかいがしまの・るにん・たんばのせうしやうなりつね・へいはんぐわんやすより・二にん・しやめんと・ばか
りにて・そのなかに・そうづ一にん・もれにける・こそかなしけれ・うらにもや・あるらんとうらを・みたまふに
もなし・またらいしにもや・あるらむと・らいしをみたまふにも・なかりけり・さるほどに・二にんの・ひとびとも・や
うやう・げかうせられたる・せうしやうの・よまれけるにも・やすよりが・よみけるにも・二にんしやめんと・ばかりに
て・三にんとは・いれられず・そうづ・こはいかに・つみも・おなじつみ・はいしよも・ひとつ・ところぞかし・う
きも・しづみも・ともにこそ・おこなはる・べきに・されば・しひつの・あやまりかや・または・へいけの・お
ぼしめしわすれかや・みやうけんは・こはいかに・したまひつる・ことぞや・とて・ふみを・はしより・おくへ・ま
き・おくより・はしに・まきかへし・てんにあふぎ・ちにふし・かなしみたまへど・かひぞなき・されば・これは・ゆめか
や・うつつかや・うつつかと・おもはんと・すれば・さながら・ゆめのごとくなり・さるほどに・二にんの・ひとP117
びとは・よろこびまをしの・くまのまうでをぞ・したまひける・そうづ・ひごろは・おぼろけにても・まゐりたまはぬ・ひとの・せう
しやうのそでに・すがり・やすよりにふだうが・たもとにとりつき・なくなくまゐりたまひ・あひかまへて・このことひとのうへと・おも
ひたまふべからず・しゆんくわんがいま・かかるうきめに・あふことも・こだいなごんどのの・よしなきむほんの・ゆゑぞ
かし・みやこまでと・まをさばこそ・かたからめ・このふねにうちのせて・九こくの・ちまで・つけたまひて・そののちは・
すておき・たまふべしと・かきくどきて・のたまひければ・せうしやう・それは・さぞおぼしめされさふらふらん・なりつね・みやこ
をいで・はるばると・やへの・しほぢを・こぎすぎて・かかるうきしまに・ながされ・いちにちへんし・ながらふべし
とは・ぞんぜざりしかども・つゆのいのち・きえやらで・いまめしかへさるる・うれしさも・さることにては・さふらへ
ども・一にん・のこされたまふ・いたはしさ・まをすばかりも・さふらはず・このふねに・うちのせ・たてまつつて・九こくのちま
で・つけまゐらせんこと・いとやすきおんことにては・さふらへども・おつかひも・いかにもかなふまじきよしを・まをし
さふらふうへ・みやこよりも・おんゆるされも・さふらはざらんに・三にんともに・しまをば・いでたりなんど・きこえさふらひ
ては・なかなか・あしうさふらふべし・こんどはまづ・なりつね・みやこにのぼり・ひとびとにも・よきやうに・まをしあはせ・また
はにふだうしやくごくの・けしきをも・うかがうて・やがてひとを・むかひにたてまつるべし・あひかまへて・よしなきことども・おぼし
めしたたで・みやこのつてを・まちたまふべしなんど・やうやうに・こしらへ・のたまひけれども・そうづはいささか・
くつろぐここちも・したまはず・さるほどに・じゆんぷう・いできに・しかば・ふねをいだす・せうしやうの・かたみには・よる
のふすま・やすよりにふだうが・かたみには・一ぶの・ほけきやうを・とどめ・おきたりけれども・そうづは・なほなぐさむ・P118
ここちも・したまはず・かねてより・ふねにのつては・おり・おりては・のり・あらましごとをぞ・したまひけ
る・おつかひ・おんゆるされも・さふらはざらんに・なにしに・おふねには・めさるべきとて・あらけなく・おひ
おろし・たてまつつて・やがてふねをば・いだしけり・そうづは・なほも・ふねの・ともづなに・とりつき・こしになり・わきにな
り・たけのおよぶほどは・ひかれて・おはしけるが・たけも・およばぬほどにも・なりしかば・またむなしき
なぎさに・およぎかへり・をさなきものどもの・ははやめのとを・したふやうに・これ・ぐして・ゆけや・われ
のせて・ゆけやとて・をめきさけびたまへども・こぎゆく・ふねのならひにて・あとはしらなみばかりなり・いまい
くほども・へだたらねども・なみだにくれて・みえざれば・おきの・かたをぞ・まねかれける・かの・まつらさ
よひめが・もろこしぶねを・したひつつ・ひれふりたりけんも・これには・すぎじとぞ・みえし・せうしやうはよろづに・
なさけあるひとにて・おはしければ・さだめてよきやうにぞ・まをされんずらんとて・そのせに・みをも・なげざり
し・こころのほどこそ・うたてけれ・そうづ・そのよは・しばのいほりへも・かへりたまはず・なみにあしうちあらはせて・そのよは・
そこにて・なきあかす・かのさうり・そくりと・いつしひと・かいかんざんにはなたれて・むなしくなり
たりしも・これにはすぎじとぞ・みえし・さるほどに・二にんのひとびとは・うらづたひ・しまづたひして・十ぐわつ廿かごろ
には・ひぜんのくにかせのしやうにぞ・つきたまひける
あひ 306 P119
さいしやう・みやこよりひとをくだして・としのうちは・なみかぜもはげしければ・しばらくそれにて・ゆをもあび・みをもい
たはり・たまひて・はるになりて・のぼりたまふべしと・のたまひつかはされたりければ・二にんのひとびと・そのとしを
ば・ひぜんのくにかせのしやうにてぞ・おくられける・
御産の巻 307
さるほどに・みやこには・おなじき・十一ぐわつ・十二にちの・とらのこくばかりより・ちうぐう・ごさんのけ・わたらせたまふとて・きやう
ちう・ろくはら・ひしめきけり・きよげつ・廿七にちより・をりをり・そのけ・わたらせ・たまひけるが・ことには・けさの・
とらのこくばかりより・とりたてたる・おんことどもにてぞ・わたらせたまひける・ごさんじよは・ろくはら・なりければ・
ほうわうも・ごかうなる・そのほか・だいじん・くぎやう・でんじやうの・じしん・やくいのかみ・てんやくのかみ・おんやうのかみ・みなわれもわれもと・
はせまゐらる・にふだうどのも・二ゐどのも・むねにてを・おきたまひて・ひとのまゐつて・ものまをすときは・ただなにごとも・よ
きやうによきやうにと・ばかりぞ・のたまひける・さりとも・じやうかいが・いくさばなんどへ・いでたらんには・これほどにしも・おく
せじものをとぞ・のちには・のたまひける・こまつどのは・なにごとにも・さわぎたまはぬ・ひとにておはしければ・はるか
に・ひたけてのち・おんむま十二ひき・ひかせつつ・ちやくしごんのすけ・せうしやうこれもり・じなん・ゑちぜんのせうしやうすけもり・いげの・
きんだちのくるま・やりつづけさせ・よにも・のどやかげにてぞ・おはしたる・おとどまゐりも・はてたまはず・
しやきん・千りやう・なんれう・百ぎん・けん七・ぎよい・四十りやう・ひろぶたに・おいて・いだされたり・おほかた・きらきらしうP120
ぞ・みえし・五でうの・だいなごん・くにつなきやうも・おんむま二ひき・しんじやうせらる・おとどの・おんむま・まゐらせられ・けること
は・かつは・きさいのみやの・おんせうとなるうへ・ふしの・ごけいやく・あれば・ことわりや・くにつなきやうの・おん
うまの・まゐらせられやうは・こころざしのいたりか・または・とくの・あまりかとぞ・ひとびと・かたぶき・あはれける・こまつ
どのの・おんむま・まゐらせられけることは・いんじ・くわんこうに・一でうのゐんのきさき・じやうとうもんゐん・ごさんのとき・みだうどのの・
おんむま・まゐらせられたりし・そのれいとぞ・きこえし・またたいしや・おこなはれけることは・だいぢ・二ねん・九ぐわつ七かのひ・
とばのゐんの・きさき・たいけんもんゐん・ごさんのとき・ゆるしもの・おこなはれて・ぢうくわのもの・三百よにん・くわんいうせられた
りし・こんどそのれいとぞ・きこえし・じんじやには・いせ・いはしみづ・を・はじめたてまつつて・廿二しやに・くわんぺいあり・また
じんめを・まゐらせられけることも・かもを・はじめたてまつつて・あきの・いつくしまに・いたるまで・廿三しやとぞ・きこ
えし・ぶつじには・とうだい・こうふく・えんりやく・をんじやうじを・はじめとして・四十二ケしよへ・みじゆきやうものの・おつかひには・
みやのさぶらひの・なかに・うくわんの・ものども・うけたまはつて・ひやうもんの・かりぎぬに・たいけんしたる・ものどもが・ひがしの・ちうもんより・
いでて・にしのちうもんへいる・いろいろのみじゆきやうもの・ぎよけん・ぎよい・もち・つづいたる・ありさまは・めづらしかり
し・みものなり・ぶつしよの・ほういんに・おほせては・ごし・とうじんの・七ぶつ・やくしのざう・ならびに・五だいそんの・ざうを・つく
りはじめらる・にんわじのみや・くじやくきやうのほふ・てらの・ちやうり・こんがうどうじのほふ・ざすのみや・七ぶつ・やくしのほふ・
そのほか・一じきんりん・五だいこくうざう・五だんのほふ・六じかりん・八じもんじゆ・ふげんえんめいのほふに・いたるまですべて・だい
ほふ・ひほふ・のこるところなく・しゆせられけり・ごまのけぶりは・ごしよちうに・みちみち・すずのこゑは・くもをひびかし・しゆP121
ほふのこゑには・みのけよだつ・ごけんじやには・ばうかく・しやううんりやうそうじやう・しゆんげうほういん・がうせん・実せん・りやうそうづ・
いげの・ごけんじやたち・ねんらいしよぢのほんぞん・ほんじ・ほんざんの・さんばう・としごろの・ぎやうこふをもつて・おのおのそうが
のくどもを・あげあせをながし・くろけぶりをたてて・もみあはれたる・けいき・いかなる・おんもののけなりとも・
おもてを・むかふべしとも・みえざりけり・そのほか・あらはるるところの・おんもののけどもをば・みやうわうよりましの・ばく
にかけて・せめふせせめふせ・をどりくるふ・ありさまは・おそろしなんども・おろかなり・ほうわうは・いまくまのへ・
ごかうなるべきにて・ごしやうじんのおついで・なりければ・みきちやうちかう・ござあつて・せんじゆきやうを・うちあげうち
あげ・あそばされけるにぞ・さしもをどりくるふ・おんよりましどもも・しばらく・ばくを・しづめて・ちやう
もんつかまつりける・なによりも・ほうわうの・おほせけるおんことばこそ・かたじけなうはうけたまはれ・たとひいかなる・おんものの
け・なりとも・このおいほうしが・かくてさふらはんほどは・いかでか・たやすくちかづきたてまつるべき・ただしさぬきのゐんの・ご
りやうばかりなり・それもごつゐがうののちは・おんうらみあるべしとも・ぞんぜず・そのほか・つぎさまの・ものどもは・
てうおんをもつてみな・ひととなりたる・ものぞかし・たとひはうしやの・こころをこそ・ぞんぜずとも・あにしやうげを・なさんや・
とうとう・まかりしりぞき・さふらへとて・によにん・しやうさんしがたからん・ときに・のぞんで・じやま・じやしやうして・く・
しのびがた・からんときも・こころをいたして・だいひしゆを・しようじゆせば・きじんたいさんして・あんらくに・しやうぜんと・となへさ
せたまひて・おんじゆず・さらさらと・もませも・はてさせ・たまはぬに・ごさん・へいあんのみ・ならず・わうじ・に
てぞ・ましましける・なかにも・ほん三ゐのちうじやうしげひらのきやうの・いまだそのころ・ちうぐうのすけにて・おんまへに・さふらはれけP122
るが・みすのうちより・つつといで・ごさん・へいあんのみならず・わうじ・ごたんじやうさふらふ・ぞやと・たからかに・まを
されたりければ・ほうわうを・はじめたてまつつて・おのおのの・じよしゆ・すはいの・ごけんじやに・いたるまで・一どうに・あはや
とまをしあはれける・こゑごゑの・はるかに・もんぐわいまでも・ののめいて・しばしは・しづまりも・やらざりけ
り・にふだうしやうごく・あまりの・うれしさにや・こゑをあげてぞ・なかれける・よろこびなきとは・これをまをすべきにや・
ほうわうは・いまくまのへ・ごかうなるべきにて・はるかの・もんぜんにみくるま・たてさせられたりければ・いそぎ・ごたいしゆつ
あり・にうだう・あまりの・めでたさにや・ふじの・わた千りやう・おつさまに・ほうぢうじどのへ・しんじやうせらる・ほう
わう・これおほきに・むやくなりとて・いそぎ・ごけんじやの・うちへぞ・くだされける・そののち・ほうわうは・いまくまのへ・ごかうな
る・七か・ごさんろうのうちに・ごあんじちのまへに・こんど・ほうわうの・六はらにての・ごけんじやの・ごしやうよう・ほこ
りあるべしといふ・らくしよをぞ・たてたりける・いかなる・あどなしものの・しわざにてか・ありけん・を
かしかりし・ことどもなり・そののち・こまつどの・ごさんじよへ・まゐらせたまひ・きんせん・九十九もんを・わうじの・おんまくらが
みの・したに・おき・くはのゆみ・よもぎの・やを・もつて・てんち四はうを・い・てんをもつては・ちちとさだめ・ち
をもつては・ははとさだむ・みこころには・てんせうだいじん・いりかはらせたまへ・ごじゆみやうちやうをんは・むかしの・ほうそ・とうばう
さくが・よはひを・たもたせたまへと・いはひまゐらつさせ・たまひて・やがて・おんほそのを・きりまゐらつさせ・たまひけり
公卿揃(あひ) 308 P123
おんちつけには・へいだいなごん・ときただのきやうの・きたのかた・そつのすけどのぞ・まゐられける・さきのうだいしやうむねもりのきやうの・きたのかたこ
そ・まゐらせ・たまふ・べけれども・さんぬる・七ぐわつに・せいきよのうへは・たいしやう・だいなごん・りやうくわんをじし・まをさ
れて・むねもりきやうは・ろうきよとぞ・きこえし・あはれ・こんど・しゆつしあらば・きやうだい・さうにあひならび・たまひて・い
かばかりか・めでたからまし・むねもりのろうきよ・ほいなかりし・ことどもなり・されば・ふるきひとびとや・つぼねの・
にようばうたちの・まをしあはれけるは・あはれ・こにようゐん・だにも・わたらせたまはんには・これほどしも・おんかるがるし
き・おんことは・よもわたらせたまはじ・だいじやうほうわうの・ごけんじや・じやうこにもうけたまはらず・またまつだいにも・あるべしとも・
ぞんぜず・こんどの・ごさんに・めでたかりしは・わうじ・たんじやう・かたじけなかりしは・ほうわうの・ごけんじや・いう
なりしは・こまつどのの・ふるまひ・おもはざりしは・にふだうしやうごくの・よろこびなき・ほいなかりしは・むねもりの・
ろうきよ・またあやうかりしことは・わうじたんじやうの・ときは・ごてんのむねより・こしきを・みなみへころばかすことのさふらふ
を・ひめみや・たんじやうの・やうに・ききなして・きたへむけて・ころばかす・ひとびとあれは・いかにととよまれて・
またからげ・なほして・みなみへおとし・なほしたりしぞ・これきたいの・あやまりなる・またをかしかりしことに
は・かもんのかみ・ときはると・まをす・おんやうしの・千どのおはらひの・やくにめされて・まゐりけるが・しよじうなんども・
ほくせうなりけるに・ひとのおほきことは・たう・ま・ちく・ゐの・ごとし・ひざをよこたふるに・およばねば・やく
にんの・まゐりさふらふ・まゐりさふらふとて・たいぜいのなかを・おしわけおしわけ・まゐるほどに・いかがは・したりけむ・みぎの・くつ
を・ふみぬかれ・うつぶして・とらんと・しけるを・かうぶりをさへに・つきおとされて・そくたい・ただしき・P124
らうしやの・もとどりはなちにて・ゆるぎ・いでたりけるにぞ・みなひと・はらのわたをば・きられける・ときはる・
わがみのうへとは・つゆしらず・かかる・めでたき・ごさんじよに・いかなる・けうけいの・いできてさふらふ・や
らんとて・あきれて・たつたりければ・こらへかねたる・わかきひとびとは・みなかんしよへ・いでてぞ・わら
はれける・おんやうしは・へんばいとて・あしをだにも・あらけなく・ふまずとこそ・うけたまはりつるに・その
ときは・なにともおもはざりしかども・のちにこそ・おもひあはすることども・おほかりけれ・こんど・ふさんの・くぎやうには・
まづ・さきのうたいしやうむねもり・おほみやの・だいなごんたかすゑ・七でうのしゆりのだいぶのぶたかのきやうを・さきとして・いじやう十三にんとぞ・
きこえし・このひとびとは・つぎのひ・ゑぼし・ひたたれにて・おんよろこびまをしに・にし八でうへ・まゐられけるとぞ・きこえし・
さるほどに・ごさんじよに・まゐりこもらせたまふ・ひとびとには・くわんぱく・まつどの・めうおんゐんの・だいじやうだいじんもろなが・おほゐ・みかどの・さだいじんつねむね・つきのわの・うだいじんかねざね・こまつのないだいじんしげもり・ごとくだいじの・さたいしやうさねさだ・げんだいなごんさだふさ・三でうだいなごんさねふさ・とうだいなごんさねくに・五でうだいなごんくにつな・なかのみかどの・ちうなごんむねいへ・いけのちうなごんよりもり・くわざんのゐん
の・ちうなごんかねまさ・べつたうただちか・あぜちすけかた・げんちうなごんまさより・とうちうなごんすけなが・ごんちうなごんさねつな・さゑもんのかみとき
ただ・さひやうゑのかみしげのり・うひやうゑのかみみつよし・くわうごぐうのだいぶともかた・へいさいしやうのりもり・ひだりのさいしやうちうじやうさねむね・みぎのさいしやうちうじやうさねいへ・さだいべんさいしやうながかた・うだいべんのさいしやうつねふさ・六かくのさいしやうよりさだ・ほりかはのさいしやう・いへみち・しんさいしやうのちうじやう
みちちか・さきやうのだいぶながのり・三ゐのちうじやうとももり・しん三ゐのさねきよ・いじやう・卅三にん・うだいべんの・ほかは・みな・ちよくいなりP125
頼豪 309
そののちだいりには・こんどの・ごさんの・おんいのりの・きそう・かうそうたちに・けんしやうおこなはれけり・にんわじのみやは・とう
じしゆざう・ならびに・五七にちのみしゆほふ・たいけんのほふ・くわんちやうの・こうぎやうあるべしとて・みでし・ゑんりやうほうげんを・ほういん
にきよせらる・ざすのみやは・二ほん・ならびに・ぎうしやを・まをさせたまひけるを・おむろしきりに・あたへ(ささへノ愆カ)まを
させたまひければ・みでし・かくせいそうづを・ほういんに・きよせらる・むかししらかはのゐんのきさきは・きやうごくのおほとののおんむすめな
り・しゆじやういかにもして・きさきばらに・わうじ・あらま・ほしうおぼしめされければ・そのころ・みゐでらに・うげんと
きこゆ・じつさうばうの・あじやりらいがうを・めされて・なんぢ・きさきばらに・わうじ・いのりいだして・まゐらせよ・けんしやうは・こひに
よるべしと・おほせければ・らうがうかしこまつて・うけたまはり・おんまへを・ついたつて・みゐでらにかへり・ぢぶつだうに・とぢ
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ぎよかんあつて・やがて・らいがうを・めされて・ごぐわんははや・じやうじゆしぬ・さてなんぢがけんしやうは・いかにとおほせけれ
ば・らいがうかしこまつてうけたまはり・みゐでらにかいだんこんりふつかまつるべきよしを・まをす・しゆじやうこはいかに・一かい
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りやうもん・かつせんして・てんだいの・ぶつぽふ・ことごとくほろびなんず・つゆおぼしめし・よらぬおんことなりとて・つひにきこしめしも・いれさ
せたまはず・らいがう・もつてのほかにいかれる・けしきにて・おんまへを・ついたつて・みゐでらにかへり・ぢぶつだう
に・とぢこもり・ひとへに・ひじにに・せんとぞしける・しゆじやうこのよしをつたへ・きこしめされて・がうそつまさふさのきやうの・
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に・ゆきむかひ・やうやうに・こしらへて・みよかしと・おほせければ・まさふさ・かしこまつてうけたまはり・いそぎ・みゐでら
に・ゆきむかひ・ちよくぢやうのおもむき・いひふくめけるに・らいがうとみにも・いでやらず・ややあつて・ふすぼつたる・だう
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わうじ・ごたんじやうありとかや・八さいよりみくらゐに・つかせたまひ・ございゐ廿一ねん・さしもけんわう・せいしゆの・きこえ
わたらせたまひしが・これも・らいかうがりやうとて・をりをりなやませ・たまひしが・おんとし廿九とまをしし・かしよう二ねん・七ぐわつ
十九にちに・つひにかくれさせたまひけり・ほりかはのてんわうこれなり・むかしもをんりやうはかく・おそろしき・ことにのみこそ・
まをしつたへたれ・さればいまの・きかいがしまの・しゆんくわんをも・ともにめしこそかへされんずらめ・おそろしおそろしとぞ・ひとまをしける
大塔建立 310
にふだうしやうごくの・だい二のおんむすめ・ちうぐうとて・だいりに・わたらせたまへば・あはれきさきばらに・わうじいできさせ・たまへか
し・にふだうしやうごくふうふともに・ぐわいそふ・ぐわいそぼと・いはれ・てんがをわがままにせむと・おもはれければ・ひ
よしのやしろへ・百にちまうでなんどして・いのりまをされけれども・そのしるしも・なかりければ・さらばわがあがめたてまつる・P128
あきのいつくしまへ・まをさんとて・みとせつきまうでなんどして・いのりまをされたりければ・そのしるしにや・きさきほどなくご
くわいにんあつて・おぼしめすさまに・ごさん・へいあん・わうじ・ごたんじやうありとかや・そもそもにふだうしやうごくの・あきのいつくしま
を・しんじはじめられける・ゆゑをいかにとまをすに・そのかみいまだ・あきのかみたりしとき・とばのゐんのごぐわん・かうやの
だいたふこんりふあるべしとて・あき・すはう・ながと・三ケこくをたまはつて・かうやにのぼり・だいたふこんりふ六ねんに・こと
をへてのち・きよもり・おくのゐんにまゐり・つやして・ねんじゆせられけるに・ゆめうつつとも・わかざるに・ひたひには・
四かいのなみを・たたみ・まゆには・しもをたれ・ふたまたなる・かせづゑにすがつたる・らうそう一にんいでさせ・たまひ・
きよもりにたいめんあつて・ややはるかに・おんものがたりあり・われこのやまに・みつしうを・ひろめて・としひさし・だいたふこんりふ・こと
をはつたり・てんがにまたも・さふらふまじさらむにとつては・ゑちぜんの・けひのやしろと・あきのいつくしまのやしろは・ともに・
りやうかいの・すゐじやくにて・わたられたまふ・なかにも・こんがうかいの・すゐじやく・ゑちぜんの・けひのやしろは・めでたうさかえて・
ましませども・たいざうかいのすゐじやく・あきのいつくしまのやしろの・はいゑして・ひさしくなきが・ごとくに・さふらふをこれをもまをし
て・しゆざうし・たまへかし・さだにもさふらはば・ごへんのくわん・かかいにおいては・てんがにならぶ・ものもあるまじ
きぞとて・たたれければ・きよもりふしぎのおもひをなし・ひとをつけてみせられければ・一ちやうばかりはみえたま
ひて・そののち・みえたまはず・つかひかへつてこのよし・まをしたりければ・きよもりたつとや・まことの・だいしにて・まし
ましけるぞや・そのぎならば・しやばせかいのおもひいで・ひとつせんとて・だんにかへり・りやうかいの・まんだらを・すみゑに
こそ・うつさせられけれ・さいまんだらをば・じやうめうほういんとまをす・ゑしに・うつさせらる・とうまんだらをば・きよP129
もりみづからかかれけるが・なかにも八えふの・ちうぞんのはうくわんをば・かうべよりちを・いだしてかかれける・と
ぞうけたまはる・きよもりみやこに・のぼり・ゐんのごしよに・まゐつて・このよしをそうし・まをされたりければ・ほうわう・
なのめならず・ぎよかんあつて・さらばあきのいつくしまをも・しゆざうせよやとて・あき・すはう・ながと・三ケこくへ・また
にんを・のべられけり・きよもりうけたまはつて・いつくしまにわたり・とりゐを・たてかへ・やしろやしろをつくりあらためらる・百八十
けんのくわいらう・ことゆゑなうとげてのち・きよもり・みやうじんのおんまへにまゐり・つやして・ねんじゆせられけるに・ゆめうつつとも・
わかざるに・ごはうでんの・みと・おしひらき・うちより十二三ばかりなる・よにうつくしきどうじ一にん・いで
させたまひ・やや・なんぢ・てんがをばこれをもつて・をさむべしとて・ぎんにて・ひるまきしたる・しらえのこなぎなたを
たまはるとみて・うちおどろいてみたまへば・すなはちまくらにぞさふらひける・きよもりやがてかぐらを・まゐらせられければ・みやうじん
ないしに・のりうつらせたまひて・なんぢしれりや・わすれりや・あるひじりをもつて・いはせしことは・ただしあくぎやうあら
ば・しそんまでは・かなふまじとて・みやうじんあがらせたまひけり・ありがたかりしおんことなり・おなじき・十二ぐわつ・
十六にちに・しゆじやうごさんじよへ・ぎやうかうなる・やがてくわんかうとぞ・きこえし・おなじき・廿かのひ・わうじしんわうの・
せんじをかうぶらせたまふには・こまつのないだいじんしげもりこうとぞ・きこえしごさんありてのち・わづか卅よにち・ひといつしか
なりとぞまをしける・ひかずふればちうぐうだいりへ・まゐらせたまふ・さるほどにとしくれて・ぢしようも・三とせになりにけり
少将の都がへり 311 P130
ぢしよう三ねん・しやうぐわつ十かのひ・たんばのせうしやうなりつね・へいはんぐわんやすよりにふだうと・二にんは・ひぜんのくに・かせのしやうをたつ
て・みやこへとは・いそがれけれども・よかんもいまだはげしくて・かいじやうもいたくあれければ・ふねのうちにてひかず
をおくり・きさらぎ廿かごろにぞ・びぜんのこじまには・つきたまひける・それより・ちにわたり・ありきの・べつしよにたづね
いり・ちちだいなごんどのの・すみたまひしところにおはして・みたまふに・あやしのしづが・いへなれば・むぐらしげりてかきをと
ぢ・まつのはつもりて・のきをうづむ・しばひきむすぶ・いほのうちこのはかきしく・やどなれや・ふるきしやうじ・たけ
のはしらに・かきおきたまひし・ふでのすさみを・みたまふになみだせきあへたまはず・あんげん三ねん七ぐわつ廿かのひ・しゆつけ・おなじ
き廿五にちに・のぶとしげかうとも・かかれたり・さてこそげんざゑもんのじよう・のぶとしがまゐりたるをも・しられけれ・そ
ばなるかべには・三ぞんらいがう・たよりあり・九ほんわうじやう・うたがひなしとも・かかれたり・さすがこのひと・こんぐじやうどの
のぞみも・おはしけるにやと・かぎりなき・なげきのうちにもいささか・たのもしくぞおもはれける・あはれひとの・のちの
よまでの・かたみには・しゆせきにすぎたる・ものあらじ・ろてんかわかず・ふぜいなほおなじ・ぬしはおはせ
ねども・はかなきあとは・うせざりけり・かきおきたまはずば・いかでか・これをも・しるべきとて・やすよりにふ
だうと・二にん・よみてはなき・なきてはよみぞ・したまひける・そののちはかを・たづねたてまつるに・ひがしへ十よちやう・ゆきてまつの
ひとむらあるなかに・かひがひしう・だんをつきたることもなく・そとば一ぽんも・みえざりけるに・せうしやうつちのす
こしたかきところに・そでかきあはせ・いきたるひとにむかひて・ものをまをすやうに・かやうにこのよにも・わたらせたまはず・とほ
きおんまもりとならせ・たまひたるおんことをば・しまにてかすかにつたへうけたまはつてはさふらへども・こころにまかせぬうきP131
みなれば・いそいでまゐることもさふらはず・なりつねみやこをいで・はるばるとやへの・しほぢをこぎすぎて・かかるうきしま
にながされ・一にちへんしながらふべしとは・ぞんぜざりしかども・つゆのいのちきえやらで・いまめしかへさるるうれし
さも・さることにてはさふらへども・おなじうは・いきてこのよにわたらせ・たまふをみまゐらせても・さふらははばこそ・
いのちながらへたるかひもさふらはめ・これまでこそいそがれつれ・いまよりのちは・いそぐべしとも・おぼえずとて・か
きくどいてぞ・なかれける・まことにぞんじやうのときならば・まづこだいなごんどのこそ・いかにやとものたまふべきに・しやう
をへだつるならひほど・くちをしかりける・ものあらじこけのしたには・たれかはこたふべき・ただあらしにさわぐまつのひび
きばかりなり・そのよはやすよりにふだうも・ふたりはかのまはりを・ぎやうだうし・あけければ・はかにだんゆゆしう・つかせつつ・くぎ
ぬきしまはさせ・はかのまへには・かりやをうつて・そうをあまたしやうじたてまつり・七か七よがあひだ・ふだんねんぶつまをさせ・
わがみはきやうをぞ・かかれける・けちぐわんには・おほきなる・そとばをたて・くわこしやうりやう・しゆつりしやうじ・しようだいぼだい
と・かきとどめ・ねんがうぐわつぴしたには・かうしなりつねとぞ・かかれたる・三ぜ十ぱう・ぶつだの・しやうしゆも・あはれ
みたまひ・ばうこんそんれいも・いかにうれしとおもはれけむ・としさりとしきたれども・わすれがたきは・ぶいくのむかしのおん・ゆめ
のごとく・まぼろしのごとし・つきがたきは・れんぼのいまのなみだなり・されば・あやしの・しづやまがつの・こころなきもの
までも・いかなるののすゑ・やまのおくにも・こをば・もつべかりける・ものかなとて・みななみゐて・そでを
ぞぬらしける・そののちせうしやう・はかのまへに・かしこまり・いましらばらくもさふらひて・ねんぶつのこふをも・つむべうさふらへども・
みやこにまつらんひとの・おぼつかなくも・さふらふらんに・またこそまゐりさふらはめと・まうじやに・いとままをしつつ・なくなくそこをP132
ぞ・たたれける・さこそは・だいなごんも・くさのかげにて・なごりをしうや・おもはれけむ・おなじき・三ぐわつ
十六にちに・せうしやうとばにつきたまふ・だいなごんの・さんざうすはまどのとて・とばにあり・すみあらして・としへにけれ
ば・ついぢはあれども・おほひもなく・もんはあれども・とびらなし・にはにたちいりみたまへば・じんせきたえて・くさふかく・いけ
のみぎはを・みまはせば・あきのやまの・はるかぜに・しらなみしきりに・おりかけて・しゑん・はくおう・せうえうす・けうぜし
ひとの・こひしさに・つきせぬものは・なみだなり・いへはあれども・らんもんおちて・しとみ・かうしも・たえてなし・ここは・
だいなごんどのの・すみたまひしところ・このしやうじをば・かうこそありたまひしか・このとをば・とこそたてたまひしか・この
つまどをば・かうこそいであひたまひしか・このきをば・みづからこそ・うゑおき・たまひしかなんど・ちちのこ
とを・ことにふれて・よにも・なつかしげにこそ・のたまひけれ・やよひ・なかの六か・なれば・はなはいまだ・な
ごりあり・やうばいとうりの・こずゑこそ・をりしりがほに・いろいろなれ・むかしのあるじは・なけれども・はるをわすれぬ・はな
なれや・せうしやうはなのもとに・たちよつて・とうりものいはず・はるいくばくかくれぬ・えんかあとなし・むかしたれかすみし
ふるさとのはなのものいふよなりせば・いかにむかしのことをとはまし・
このふるきしいかを・えいぜられけるにぞ・やすよりにふだうも・そぞろになみだを・ながしつつ・すみぞめのそでをぞ・ぬらし
ける・くるるほどとは・おもはれけれども・なほもなごりの・をしければ・よふくるまでこそ・おはしけれ・あ
れたるやどの・ならひにて・ふるきのきの・いたまより・もるつきかげはくまぞ・なき・けいろうのやま・あけな
んとすれども・いへぢは・なほもいそがれず・さてしも・あるべきならねば・なみだをおさへて・いでられけり・あけP133
ければ・みやこより・めんめんに・のりものども・とばのへんまで・つかはされたりけれども・やすよりにふだうは・せうしやうの・
おんなごりををしみたてまつつて・ひとつくるまにのり・七でうかはらにて・ゆきわかれけるが・たがひに・なごりを・をしみつつ・
しばしは・はなれも・やらざりけり・まことにをしかるべし・たびびとが・ひとむらさめのすぎゆくとき・いちじゆのもとに・たちや
どり・ゆきわかるるだに・なごりは・したふ・ならひなり・はなのもとの・はんじつのかく・つきのまへの・一やの
とも・だにも・なごりはをしき・ならひなり・いはんやこのひとびとは・このみとせがあひだ・うかりししま・なみのうへ・ふねのうち
の・ともなれば・一ごうしよかんの・ちぎりにて・ぜんせのはうえんも・あさからずや・おもはれけん・さるほどに・やすより
にふだうは・ひがしやま・さうりんじへとて・ゆきければ・せうしやう・六はらへ・いりたまふ・せうしやうの・ははうへりやうぜんにおはしけ
るが・きのふよりさいしやうのもとに・おはして・またれけるが・せうしやうのいりたまふを・ただひとめみたまひて・いのちだに
あればと・ばかりにて・またひきかづきてぞ・なかれける・さいしやうのうちの・じやうげなんによ・みなひとつところに・さしつ
どひ・よろこびの・なみだをば・ながしける・せうしやうのめのとの・六でうが・くろかりし・かみもしろくなり・きたのおん
かたの・さしもはなやかなりし・おんありさまも・このみとせがあひだの・つきせぬ・おんものおもひに・やせくろませ・
たまひて・そのひととも・みえたまはず・またせうしやうの・ながされ・たまひしとき・三さいになられける・をさなきひとも・
ことしは・五さいに・なられける・はるかに・おとなしうなつて・かみゆふばかりにぞ・みえられける・また
きたのかたの・かたはらに・みつばかりなる・をさなきひとの・おはしけるを・せうしやうあれは・いかにと・のたまへ
ば・めのとの・にようばう・これこそと・ばかりにて・なみだに・むせびければ・せうしやうまことや・ながされしとき・たいないにありP134
しを・こころもとなう・みすてて・くだりしが・さては・べちのことなう・むまれ・そだちたることの・ふしぎ
さよどぞ・のたまひける・そののち・せうしやうふたたび・きみに・めしつかへて・さいしやうの・ちうしやうまで・あがられけると
ぞ・きこえし・さるほどに・やすよりにふだうは・ひがしやま・さうりんじの・やどに・おちついて・まづとどめ・おきたりける・
ははのゆくへを・とひけるに・ちかきあたりのひとの・まをしけるは・さんさふらふそれは・きよねんのはるのころまでは・これに
おんわたり・さふらひしが・それもなほ・ひとめをつつませ・たまひて・一でうのきた・むらさきののへんに・しのうで・おんわたり
さふらひしが・おんのぼりのよしを・ききたまひて・なのめならず・よころばせ・たまひしが・すぎにし・きさらぎの・ころより・
おんかぜの・ここちとやらん・きこえさせ・たまひしが・つひに・むなしう・ならせたまひて・けふははや・いつかな
りとぞ・まをしける・やすよりにふだう・なみだをながし・われひぜんの・かせのしやうのにて・としをおくり・びぜんのありきの・べつしよ
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一しやうはこれ・ゆめのごとし・たれか百ねんの・よはひをごせん・ばんじは・みなむなし・いづれか・じやうぢうの・おもひ
をなさんと・えいじつつ・ふるき・のきのいたまより・もるつきかげの・おぼろなるをみて・なくなく・よみたりけるとぞ
ふるさとののきのいたまにこけむして・おもひしほどはもらぬつきかな
と・くちずさみつつ・やがてそこに・ろうきよして・うかりしむかしを・おもひやり・はうもつしふといへる・もの
がたりを・つくりけるとぞ・うけたまはる・あはれなりし・ことどもなりP135
蟻王が島くだり 312
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ぞ・かなしみける・なかにも・かめわうは・そのおもひの・つもりにや・ほどなう・はかなくなりにけり・なほもうき
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一にん・しまにとどまりたまふと・きこえしかば・もしやと・とばのへんまで・ゆきむかうて・みけるに・まことに・二
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わらははんぐわんにふだうの・そばちかうたちよつて・ことのしさいをとひけるに・やすよりにふだう・しまのありさまを・こまやかに・
かたりければ・いとどせんかたなく・かなしくて・つきせぬはなみだり・わらはわれ・みやこにて・かくものをおも
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よに・なきみと・なりたまひたりとも・おんこつをもとりて・たつときところに・をさめばやと・おもひければ・ひと
には・いはねども・ないないは・いでたちけり・そうづの・ひめぎみの・ならに・おはしければ・わらはならに・くだつて・ひ
めぎみに・まをしけるは・二にんのひとびとは・めしかへされて・のぼりたまひぬ・かみの一にん・しまにとどまらせ・お
はしますが・あまりに・あさましう・ぞんじさふらふ・かなはぬまでもしまへ・たづねまゐらせて・まゐらばやとこそ・ぞんじ
さふらへ・おんふみやさふらふと・まをしたりければ・ひめぎみ・なのめならず・よろこびたまひて・やがておんふみ・あそばしてぞ・たP136
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じとて・おやにも・きやうだいにも・しらせずして・みやこのうちを・しのびつつ・まぎれいで・さつまがたへぞ・おもむき
ける・もろこしぶねのともづなは・うづき・さつきに・とくなれば・なつごろもたつを・おそしと・まちかねて・やよひのすゑに・
みやこをたつて・はるばると・やへのしほぢを・しのぎつつ・さつまがたへぞ・くだりけるわらは・さつまのちに・おち
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さだかならず・なほもはまのかたの・おぼつかなさに・あるときの・まだあした・わらははまのかたへと・ゆくほどに・ここに
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ぬが・かたてには・なましきうををもち・かたてには・あらめいそものをもつて・ずゐぶんさきへと・いそげども・は
かゆかず・ただひとところに・よろよろとしてぞ・いできたる・わらはわれ・みやこにておほくの・こつかいにんを・みつれども・
かやうのものは・いまだなし・ぢごく・がき・三あく・四しゆは・しんざん・だいかいの・ほとりに・ありと・ほとけののべ
ときたまふなるをしらず・われいき・ながら・がきだうへ・まよひ・きたれるやらんとおもひ・やうやう・あゆみ
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ふみはさふらふとて・もとゆひのなかより・とりいでて・たてまつる・そうづひらいて・みたまへば・げにもわらはが・まをすにたが
はず・かかれたり・いまははや・わかにもおくれ・さふらひぬ・またははうへにさへ・わかれまゐらせ・さふ
らひて・たうじは・ならの・をばごぜの・おんもとに・むかへられ・まゐらせて・こそさふらへ・などや・
二にんの・ひとびとは・かへりのぼりたまふに・一にんしまに・とどまらせ・おはしまし・さふらふやらん・あはれ・
によしほど・かなしかりける・ものあらじ・われ・をのこごのみならば・この・わらはに・ぐせられて・など
か・おんむかへにまゐらでは・さふらふべき・こんどはこのわらはを・ともにて・いそぎのぼらせ・たまへなんどぞ・かかれ
たる・そうづ・ひめはみしときよりも・てもはしたなく・ことばつづきも・おとなしけれども・ただし・はかないP141
ことをも・かいたるものかな・われこころに・まかせたる・みならば・なにしにか・かくうきしまにひとりのこ
り・とどまつて・うきめをみんとも・おもふべき・こんどは・このわらはを・ともにて・いそぎのぼれなんど・かい
たることの・はかなさよ・ひめはことしは・十二か・三になるかとこそ・おもへと・のたまへば・わらはも・いちぢやう
の・おんとしをば・しりまゐらせさふらはずと・まをす・そうづ・さて・このふみの・ところどころの・もじぎえの・したる
は・いかにと・のたまへば・わらはそれは・さぞおんわたりさふらふらん・あのおんふみ・あそばすとて・ひとふで・あそ
ばしてはうつぶし・ひとふであそばしては・うつぶし・なのめならず・むづからせ・おはしまし・さふらひつるが・
さては・おんなみだの・かからせ・たまひたるらんにては・さふらふらんと・まをせば・そうづも・なみだにむせばれけり・そう
づ・のたまひけるは・われこのしまに・ながされてのちは・つきひの・かはりゆくをも・しらず・はなさき・もみぢて・
ちるをもつて・はる・あきを・しり・あつきをもつて・なつをわきまへ・さむきをもつて・ふゆをわきまへ・びやく
げつ・こくげつの・かはりゆくをもつて・一つき・三十にちを・わきまふ・しづかに・ゆびを・をつて・かぞふれば・は
やみとせに・なるとこそ・おもへ・われにし八でうへ・いでしとき・われもゆかんと・したひしを・やがて・か
へらんずるぞとて・とどめおきたりし・ことの・ただいまの・やうに・おぼゆるぞや・わかは・そのとき・七に
なりしかば・ことしは・九にこそ・ならんずらめ・おやとなり・ことなり・ふうふの・ちぎりを・こむる
も・このよ・ひとつの・ことならず・されば・それらが・さやうに・なりけるをば・など・ゆめ・まぼろ
しにも・みえざりけるぞや・ひとのおやの・こころはやみに・あらねども・こをおもふ・みちにまよふとも・いまこP142
そ・おもひしられけれ・されば・それらを・みんとおもふ・ゆゑにこそ・いまいちど・みやこへも・のぼりたか
りつれ・それらが・さやうに・なりたらんに・おいては・きらくのことをも・おもはぬなり・ただし・ひめがことば
かりなり・それも・いきたるみは・ともかうも・してこそ・すごさんずらめ・すずり・すみ・ふでも・なけ
れば・へんじには・およばぬなり・しまのありさま・わがことをば・なんぢがみるやうに・かたるべし・またひとし
もこそ・おほきに・なんぢが・これまで・はるばると・たづねくだりたる・こころざしのほどこそ・かへすがへすも・しんべうなれ・
またいつまでか・ながらへて・なんぢに・うきめをも・みすべきとて・おのづからの・しよくじを・とどめて・いつ
かう・ごせ・ぼだいのつとめをのみ・したまひけるが・わらはしまにくだつて・三十よにちと・まをすには・そうづ・ねぶるが・ご
とくにて・つひに・はかなく・なりたまふ・わらは・あとにふし・まくらにつき・かなしみけれども・かひぞなき・おな
じくは・ごせのおんとも・つかまつりたくは・さふらへども・みやこにのぼり・ひめぎみに・このよしまをし・ごぼだいをこそ・とぶ
らひ・まゐらせさふらはめとて・こころのゆくゆく・なきあきて・まつのおちば・あしのかれはを・とりおほひ・もし
ほの・けぶりと・たきあげ・けぶりすめば・こつを・ひろひ・くびに・かけ・またあきびとの・ふねに・びんせんして・九こく
の・ちにこそ・つきにけれ・わらは・みやこに・のぼり・ならに・くだつて・そうづの・ゐこつを・ひめぎみに・たてまつれば・むね
にあて・かほにあて・かなしみ・たまへど・かひぞなき・すずり・すみ・ふでも・さふらはねば・ごへんじには・およばせ
たまひさふらはず・なにごとも・おぼしめしおく・おんことどもをば・むねのあひだに・とどめさせ・おはしまし・さふらふやらん・いま
は・たしやうを・へだて・くわうごふを・おくらせたまひさふらふとも・こんじやうにては・あひまゐらつさせ・たまはんこと・ありがP143
たし・いまは・ごぼだいをこそ・とふらひまゐらつさせ・たまはんずれ・なんどまをせば・ひめぎみ・さてはとて・とし
十三にて・さまをかへ・ならの・ほつけじに・おこなうて・ちちのごせをぞ・いのられける・わらはも・そうづの・
ゐこつを・くびにかけ・かうやへ・のぼり・おくのゐんに・をさめつつ・れんげだににて・ほうしになり・やまやま・てら
でら・しゆぎやうして・しうのごせをぞ・いのりける・かやうに・ひとの・おもひの・つもりける・へいけの・すゑこそ・おそろしけれ
辻風の沙汰(あひ) 313
おなじき五ぐわつ・十二にちの・むまのこく・ばかりに・つじかぜ・おびただしう・ふきて・じんをく・おほく・てんだうす・かぜは・
なかみかど・きやうごくより・おこつて・ひつじさるを・さして・ふきけるに・むなかど・ひらかど・ふきぬきふきぬき・三ちやう・五ちやうを・
へだてつつ・なげすて・なげすて・しけるうへは・けた・はしら・なげしなどは・こくうに・あがり・ひはだぶき・いたの
たぐひは・ふゆの・このはの・かぜに・みだるるが・ごとし・ひともあまた・いのちを・うしなひ・ぎうば・六ちくのたぐひ・
かずをつくして・うちころさる・これただごとに・あらずとて・やがて・じんきくわんにて・みうらあり・てんかの
さわぎと・うらなひまをす・ただし・てうかの・おんだいじには・あらず・ことには・ろくをおもんずる・だいじん・百にち
のうちの・つつしみ・べつしては・へいくわく・さうぞくして・ききん・えきれいの・うれひとぞ・じんぎくわん・おんやうれうともに・うらなひまをしけ
る・そのころ・こまつの・ないだいじんしげもりこう・このよしを・ききたまひて・やがて・くまのさんけいとぞ・きこえし・おとど・P144
ほんぐう・しようじやうでんの・おんまへに・つやして・よもすがら・けいびやく・したまひけるは・ちちにふだうしやうごくの・ていをみ
さふらふに・あくぎやくぶだうにして・ややもすれば・きみをなやまし・たてまつる・しげもり・その・ちやうしとして・しきりに・
いさめをいたすといへども・みふせうのあひだ・かれもつて・ふくようせず・そのうんめいをはかるに・いちごのえいぐわ・なほあやうし・
なまじひに・しげもり・そのときに・いたつて・よにふちんせんこと・あへて・りやうしん・かうしのほふに・あらずや・しえふ・
れんぞくし・みをあらはし・なをあげんことかたし・しかじなを・のがれ・みをしりぞいて・こんじやうのめいばうを・なげ
すてて・らいせのぼだいを・もとめんには・ただし・ぼんふはくち・ぜひに・まどへるがゆゑに・こころざしをほしいままにせず・
ねがはくはごんげん・こんがうどうじ・しそんはんえい・たえずして・つかへて・てうていに・まじはるべくんば・ちちにふだうしやうごくの・
あくしんをやはらげて・てんかのあんぜんを・えしめたまへ・もしまたえいえう・いちごをかぎつて・こうこんはぢに・およぶべくん
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無紋かねわたし 314
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あひ 315
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法印問答 316
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たり・それにだいふがちういんに・やはたへごかうなり・あまつさへ・ほうぢうじどのにして・ぎよいうあり・おんなげきのいろ・いちじもこれ
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あはれませたまはざるべき・たとひにふだうがなげきをこそ・あはれませたまはずとも・だいふがちうをば・いかでかおぼし
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のち・いくばくの・ひかずをへずして・やがてめしかへして・たにんにたぶこと・これなんのくわたいぞや・これ一・
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ども・つひにごしよういんなくて・くわんぱくのそくをなされしことはいかに・たとひ・にふだう・ひきよをまをすとも・ひとたびはなどか・
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こんのしだいなり・これ一・つぎに・しゆんくわんなりちかいげの・むようの・いたづらもの・ししのたにに・じやうくわくをかまへて・たう
けを・かたぶけんと・つかまつりさふらひしこと・まつたくこれ・わたくしのけいりやくにあらず・ただきみごきよようあるに・よつてなり・い
まめかしき・まをしごとにてさふらへども・この一もんをば・いかでか・七だいまでも・おぼしめしすてさせたまふべきに・それに
にふだう・七じゆんにおよんで・よめいいくばくならぬ・いちごのうちにだにも・ややもすれば・ほろぼさるべきよし
の・おんはからひあり・いはんやしそんあひついで・てうかに・めしつかへむこと・ありがたし・およそ・おいてこをうし
なふは・こぼくの・えだなきがごとし・だいふにおくれ・さふらひぬるをもつて・りやうけのうんめいは・はやおもひし
られてこそさふらへ・このよ・いまいくばくならぬに・さのみこころを・つひやしても・なににかは・しさふらふべき・
されば・いかていにも・ありなんと・おもひなつてこそさふらへとて・かつはふくりふし・かつはらくるゐして・くど
かれけるにぞ・ほういんおそろくしくも・またあはれにて・あせみづにこそ・なられけれ・ほういんわがみも・きんじゆのじんなり・
そのほか・ししのたににて・ひとびとの・ぎせられし・ことどもをも・まさしう・みきかれし・ひとなれば・わがみも・そのにん・P155
じゆとて・ただいま・めしやこめられんずらんと・りうのひげをなで・とらのをを・ふむここちしては・おもはれ
けれども・ほういんも・さるおそろしきひとにて・おはしければ・すこしもさわがず・まことに・どどのごほうこう・あさから
ず・しかりとはまをせども・くわんゐといひ・ほうろくといひ・おんみにとつては・ことごとくまんぞくしぬ・こうのばくだいなること
をば・きみもぎよかんなるおんことにてこそさふらへ・つぎに・きんしんことをみだり・きみごきよようありといふことは・いかやうにも・
ばうしんのけうがいと・おぼえさふらふ・およそ・みみを・しんじて・めをうたがふは・ぞくのつねのへいなり・せうじんのふげんを・しんじて・
てうおんの・たにことなるに・みだりがはしう・きみをなみし・まゐらつさせ・たまはんおんこと・しんりよのほども・はかり
がたし・それてんしんは・さうさうとして・はかりがたしと・いへども・えいりよさだめて・そのぎにてぞさふらふらん・しもとし
て・かみにさかふること・あに・じんしんのれいたらむや・せんずるところ・このむねをこそ・ひろうつかまつり・さふらはめとて・いで
られければ・へいけのさぶらひども・らうせうなみゐたりけるが・あなおそろし・あれほどに・にふだうしやうごくの・いかりたま
ふに・すこしも・さわがず・へんじして・たたれける・ゆゆしさよと・ほういんを・ほめぬひとこそ・なかりけれ。
大臣流罪(あひ) 317
ほういん・ゐんのごしよに・かへりまゐつて・このよしを・いちいちにそうし・まをされたりければ・ほうわうも・だうりしごくし
ては・おぼしめされけれども・おほせいださるる・むねもなし・おなじき・十六にちに・にふだうしやうごく・おもひたちたまP156
へる・ことなれば・くわんぱくどのを・はじめたてまつつて・四十三にんの・くわんしよくをとどめて・おひこめらる・なかにも・くわん
ばくどのをば・だざいのそつに・うつして・つくしへ・ながしたてまつらるべきよし・きこえしかば・かからんよには・とて
もかくても・ありなんとて・おとはのへん・こがといふところにて・ごしゆつけあり・ことしは・卅五にならせおは
します・れいぎよく・しろしめされて・くもりなき・かがみにて・わたらせたまひつる・ものをとて・よの・をしみたてまつ
ること・ひとへに・つきひを・うしなひ・たてまつるがごとし・はいしよへおもむくひとの・みちにて・しゆつけしたりしをば・やくそくの
くにへは・つかはされぬ・ことなれば・はじめは・ひうがのくにと・きこえしが・のちには・はいしよをかへて・びぜんのこふ
に・とどめおきたてまつる・だいじんるざいのれいは・さだいじんそがのあかゑ・うだいじんとよなり・さだいじんうをなこう・うだいしんすが
はら・かたじけなくも・きたののてんじんのおんことなり・さだいじんかうめいこう・ないだいじんふぢはらの・いしうこうに・いたるまで・そのれい六にん・
されども・せつしやうくわんぱくるざいのれいは・これはじめとぞうけたまはる
妙音院の琵琶ひき 318
なかにも・六でうのせつしやうどののおんこ・こんゑの二ゐの・ちうじやうどのをば・にふだうおんむこに・とりたてまつつて・だいじんくわんぱく・一
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城南の離宮 321
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つき・こほりをきしる・くるまのあと・はるかの・もんぜんによこたはれり・ちまたをすぐる・かうじん・せいばの・いそが
はしげなる・けしき・うきよをわたる・ありさま・かつかつ・おぼしめし・しられて・あはれなり・きうもんをまぼる・ばんいの・
よる・ひる・けいごを・つとむるも・さきのよに・いかなる・ちぎりにて・いまえんを・むすぶらんと・おぼしめすぞ・
かたじけなき・さるままには・ほうわう・ところどころの・ごさんけい・をりをりの・ごいうらん・おんがの・めでたかりし・ことどもP167
を・おぼしめし・つづくるに・くわいきうの・おんなみだおさへがたし・さるほどに・としくれて・ぢしようも・四とせに・りな(なり)にけり

平家物語(城方本・八坂系)
巻第四 P168
新院厳島御幸 401
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おほきにおそれさせ・おはしましければ・にふだうのけんゐに・はばかつて・さんにふするひともなく・さくらまちの・ちうなごん
しげのり・おとうとさきやうのだいぶながのり・この二にん・ばかりぞ・おんゆるされを・かうむつては・まゐられける・おなじき四かのひ・
六はらには・とうぐうの・おんはかまぎ・ならびに・おんまな・きこしめす・なんど・よには・かくめでたきことども・
ありしかども・ほうわうはただ・とばどのにして・おんみみのよそにぞ・きこしめされける・おなじき二ぐわつ十八にちに・とうぐう
おんとし三さいにて・せんそあり・しゆじやうは・ことなる・おんつつがも・わたらせたまは・ざりしかども・おしおろしたてまつつて・
いつしか・ひとしんゐんとぞ・まをしける・そのころのいうそくの・ひとびとの・いつしか・なる・こんどの・ごじやうゐかなと・
のたまひあはれける・なかにも・へいだいなごんときただのきやうばかりこそ・うちのおんめのと・そつのすけの・をつとたりしかば・この
たびのごじやうゐ・いつしかなりと・たれやのひとか・まをさるべき・ゐこくには・しうのせいわう三さい・しんのぼくてい二さい・
わがてうには・こんゑのゐん三さい・六でうのゐん二さい・これみな・きやうはうのなかに・つつまれて・いたいをただして・せざりしか
P169
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うまれて百にちといへば・せんそあり・せんしようわかんかくの・ごとしと・まをされたりければ・ひとびとあな・おそろし・
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はなつけたるさふらひども・いでいつてひとへに・ゐんみやの・ごとくにてぞ・さふらひける・しゆつけのひとの・じゆん三こうの・せんじを
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の・つげありとぞおほせける・たうじ・あきのいつくしまをば・いつかうへいけの・あがめまをされければ・うへには・へいけにごどう
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おほせうけたまはる・かたじけなさに・いかでか・さるおんことの・わたらせたまひ・さふらふべきと・まをされたりければ・じやうわう・なのめなら
P170
ずぎよかんあつて・さらばやがてなんぢ・とばどのに・まゐりこのよしを・そうせよかしとおほせければ・むねもり・かしこまつてうけたはまり・
やがて・とばどのに・まゐり・このよしを・そうしまをされたりければ・ほうわうもあまりにおぼしめすおんことなれば
こはゆめやらんとぞ・おほせける・おなじき三ぐわつ十九にちの・あかつきがた・しんゐん・にふだうしやうごくの・しゆくしよ・にし八でうを・しゆつぎよ
なる・かすみにくもる・ありあけの・つきのひかりも・おぼろにて・こしぢへかへる・かりがねの・くもゐにおとづれゆくを・きこ
しめすに・つけても・をりふしあはれに・おぼしめすぐぶのひとびとには・まづさきの・うたいしやうむねもり・三でうのだいなごん
さねふさ・とうだいなごんさねくに・五でうのだいなごんくにつな・つちみかどのさいしやうのちうじやうみちちか・たかくらのちうじやうやすみち・れいぜんのせうしやうたか
ふさ・くないのせうむねのり・なんどぞ・まゐられける・よもほのぼのと・あけければ・じやうわう・とばどのに・まゐらせたま
ひ・まづもんを・さしいつて・えいらんあるに・はるもすでに・くれなんと・して・なつこだちにぞ・なりにける・こずゑ
のはな・いろおとろへ・みやのうぐひす・こゑおいたり・ひとまれにして・こぐらく・ものさびしげなる・おんありさまを・ごらん
ぜらるるに・つけても・まづおんなみだぞ・すすみける・きよねんのしやうぐわつ・六かのひ・しゆじやうてうきんのおんために・ほうぢうじ
どのへ・ぎやうかうなりたりしには・しよゑ・ぢんをひき・しよきやうれつにたつて・まんもんをひらき・ゐんじのくぎやう・まゐりむ
かつて・かもんれう・えんだうをしき・さしも・ただしかりしぎしき・けふはいちじもなし・ただゆめと・のみこそ・お
ぼしめせ・そののち・さくらまちのちうなごんしげのりきやう・まゐりむかつて・ごきそく・まをされたりければ・じやうわう・いらせたま
ひけり・ほうわうは・しんでんの・はしがくしのまにて・まちまゐらつさせ・たまひけりじやうわうは・ことし・廿にならせお
はしましけるが・あけがたのつきの・ひかりにはへさせたまひて・ぎよくたいも・ことにうつくしく・おんぼぎけんしゆんもんゐんに・
P171
すこしもたがはせたまはず・よく・にまゐらつさせたまひたりければ・ほうわうはまづ・こにようゐんの・おんことを・お
ぼしめしいでて・おんなみだに・むせばせおはします・そののち・りやうゐんちかう・ござあつて・やや・はるかにおんもの
がたりあり・ごもんだふのやう・たれうけたまはるべうもなし・おんまへには・あまぜばかりぞ・さぶらはれける・そののちはるか
にひたけてのち・じやうわう・とばどのを・たつてぞ・いでさせ・たまひける・じやうわうは・ほうわうの・ぜいなんのりきうのこてい・
いうかんせきばくの・ものさびしげなる・おんありさまを・ごらんじ・おかせたまへば・ほうわうはまた・じやうわうの・いつとなき・
りよはくわうぐうの・なみのうへ・ふねのうちの・おんすまひ・おぼつかなくぞ・おぼしめす・まことにそうべう・やはた・かも・かすが・
なんどをば・さしおかせたまひて・これははるばると・いつくしままでの・ごかうをば・しんめいもなどか・かんおうなかるべ
き・ごぐわんじやうじゆ・うたがひなしとぞ・おぼえたる

源氏そろへ 402
おなじき三ぐわつ廿六にちに・しんゐん・あきのいつくしまへ・ごさんちやくあり・にふだうの・さいあいのないしが・しゆくしよ・くわうきよに・なる・
なか一りやうにち・ごとうりうあつて・きやうゑぶがくなんど・おこなはれけり・こくしゆふぢはらのありつな・かんぬし・さへぎのかげひろ・ざす
そんえい・けんじやうかうふる・しんりよもうごき・にふだうしやうごくのこころも・さだめてはたらくらんとぞ・おぼえたる・おなじき四ぐわつ三
かのひ・しんゐんくわんぎよのついで・にふだうしやうごくのしゆくしよ・ふくはらのべつげふに・いらせたまふ・にふだうの・おとと・いけのちうなごんよりもり・
きやうのしゆくしよ・くわうきよになる・おなじき四かのひ・いへのしやうとて・ぢもくおこなはれけり・にふだうのやうし・たんばのかみきよくに・じやう
P172
げの五ゐ・まごに・ごんのすけせうしやうこれもりは・四ゐのじゆじやうとぞ・きこえし・おなじき五かのひ・じやうわう・ふくはらをたたせたま
ひて・てらゐにいらせたまひ・おなじき六かのひ・とばに・つかせたまふ・みやこよりのおんむかへの・くぎやうでんじやうびと・とば
のくさつまで・まゐられけり・おなじき七かのひ・みやこには・しんていのごそくゐとぞきこえし・ごそくゐは・だいごくでんにて
こそ・とげらるべけれども・だいごくでんは・ひととせ・やけたりしかば・だいじやうくわんのちやうにて・とげらるべしと・しよ
きやう・ごさたありけるに・九でうのみぎのおとどのまをさせたまひけるは・だいじやうくわんのちやうは・ぼんにんのいへにとつても・
くもんじよていのところなり。だいごくでんなからんうへは、ししんでんにてこそとげらるべけれとて、ししんでんにてぞとげられけ
る。さんぬるかうはう四ねん十一ぐわつに、れいぜんのゐんのごそくゐを、ししんでんにてとげられたりしは、ごじやきによりて、か
しこへぎやうかうもかなはざりしゆゑなり。さればそのれいいかがあるべからん。ただご三でうのゐんの、えんきうのかれいにま
かせて、だいじやうくわんのちやうにてあるべきものをと、とりどりにまをされしかども、九でうどののおんはからひのうへは、ちから
およばせたまはず。おなじき八かのひ、ちうぐうこうきでんより、じじうでんにうつらせたまひて、たかみくらへ、まゐらせたま
ひしおんありさま、めづらしかりしみものなり。へいけのひとびとも、みなしゆつしまをされけり。なかにもこまつどののきんだちば
かりこそ、きよねんの八ぐわつに、おとどかうじたまひしかば、いまだいろにて、しゆつしもなかりけり。さきのうたいしやうむねもり、
こんどのごそくゐのゐらんなく、めでたかりしことどもを、こまやかにしるして、ふくはらへまをされたりければ、にふ
だうどのも二ゐどのも、ゑみをふくみてぞおはしける。よにはかく、めでたきことどもありしかども、せけんはいまだ
らくきよせず。だいじやうほうわうのだい二のみこ、もちひとのわうとまをし、おんはははかがのだいなごんすゑなりのおんむすめ、三でうたかくらにまし
P173
ましければ、ひとたかくらのみやとぞまをしける。おんとし十五とまをし、しやうぐわつ十五にちに、ここのへのほか、こんゑかはらのおほみやの
ごしよにして、ひそかにごげんぷくあり。まさしう一ゐんだい二のみこにてわたらせたまへば、いまはたいしにもたち、
みくらゐにもつかせたまふべけれども、たうじのおんぼぎけんしゆんもんゐんのおんそねみによつて、おしこめられてわたらせ
たまへば、はなのもとのはるのあそびには、しがうをふるつて、てづからぎよせいをかき、つきのまへのあきのえんには、ぎよく
てきをふいて、みづからがいんをあやつり、かくてあかしくらさせたまふほどに、ぢしよう四ねんには、おんとし三十にならせお
はします。おなじきうづき九かのひのよにいりて、げん三ゐよりまさにふだうしのびつつ、みやのおんまへにまゐり、ひそかにまをさ
れけることこそ、なによりもおそろしけれ。まさしう一ゐんだん(だい)二のみこにてわたらせたまへば、いまはたいしにも
たち、みくらゐにもつかせたまふべきひとの、いまだしんわうのせんじをだにも、かうぶらせたまはぬおんことをば、こころうしと
はおぼしめされさふらはずや、うへにこそしたがふやうにさふらへども、たうじたれかへいけをそむかぬものやさふらふ、はやはやご
むほんおぼしめしたたせたまひ、へいけをほろぼさせおはしましさふらへかし。またほうわうのいつとなく、とばどのにおし
こめられてわたらせたまふ、そのおんいきどほりをもやすめまゐらつさせたまはんは、ごかうかうのおんいたりにてこそさふらはんず
れ。さだにもさふらはば、にふだうも、こども一りやうにんもちてさふらへば、などか一ぱうのおんかためになりまゐらせではさふらふべき、
そのほかりやうじをだにもたうづるほどならば、よろこびをなして、はせまゐらんずるげんじどもこそ、くにぐににおほうさふらへとて、
いちいちにまをしつづく。まづきやうとには、ではのかみみつのぶがこどもに、いがのかみみつもと、ではのはんぐわんみつなが、げんはんぐわんみつしげ、では
のくわんじやみつよし、くまのには、ためよしがばつし十らうよしもりとて、しんぐうのへんにかくれゐてさふらふ。つのくにには、ただのくらんど
P174
ゆきつな、ただのじらうともざね、おなじき八らうたかより、おほたのたらうたかよし、てしまのくわんじやよりもと、かはちのくにには、むさしのごんのかみ
よしもとにふだう、しそくいしかはのはんぐわんだいよしかね、やまとのくにには、うのの七らうちかはるがこどもに、たらうありはる、じらうなりはる、三
らうきよはる、四らうよしはる、あふみのくにには、やまもと、かしはぎ、にしごりが一たう、みのをはりには、やまだのじらうしげひろ、かうべのたらう
しげなほ、いづみのじらうしげみつ、うらのの四らうしげすけ、あじきのじらうしげより、そのこの四らうしげずみ、くわいでんのはんぐわんだいしげくに、きた
の三らうしげなが、やしまの四らうしげとき、そのこのたらうとききよ、かひのくにには、たけたのたらうのぶよし、かがみのじらうとほみつ、
そのこのこじらうながきよ、一でうのじらうただより、いたがきの三らうかねのぶ、ゐさはの五らうのぶみつ、へんみのくわんじやありよし、やすだの三
らうよしさだ、しなののくにには、おほうちのたらうこれよし、きそのくわんじやよしなか、をかだのくわんじやちかよし、そのこの四らうしげよし、ひらがのくわん
じやもりよし、そのこのこ四らうよしのぶ、いづのくにには、るにんさきのうひやうゑのごんのすけよりとも、ひたちのくにには、ためよしが三なん、三
らうせんじやうよしのりとて、しだのうきしまにかくれゐてさふらふ、さたけのくわんじやまさよしがこどもに、たらうただよし、じらうたかよし、三らうよしすゑ、
四らうよしむね、五らうよしきよ、むつのくにには、よしともがばつし、九らうくわんじやよしつねとて、これらはみな六そんわうのごべうえい、た
だのまんぢうがこういんなり。

いたちの沙汰(あひ) 403
むかしはげんぺいさうにあらそひて、いづれしようれつもさふらはざりしかども、いまはうんれいまじはりをへだてつつ、しうじうのれいにもなほおとれ
り。くにはこくしにしたがひ、しやうはりやうけのままなりければ、くじざふじにかりたてられて、よるひるやすきこころもさふらは
P175
ず、かれらにりやうしをだにも、くだしたうづるほどならば、よろこびをなしてませまゐり、へいけをほろぼし、きみをみくらゐ
につけまゐらせむこと、じじちはめぐらしさふらふまじと、かやうにたのもしげにまをされたりければ、みやはこのことおほ
きにおぼしめしわづらはせたまひけるが、そのころこあこまのだいなごんすけみつがまご、びんごのぜんじこれみつがこに、せう
なごんこれながは、ならびなきさうにんなりければ、にんさうせうなごんとぞまをしける。あるときかれがみやをみたてまつつて、きみは
みくらゐのさうわたらせたまふ、あひかまへててんがのおんことおぼしめしすてさせたまふべからずとまをしたりしにあはせて、三ゐにふ
だういままたかやうにまをされければ、これひとへにてんせうだいじんじやう八まんぐうのおんはからひにこそと、おぼしめし、まづくま
のにさふらふ十らうよしもりをめして、くらんどになさる。ゆきいへとかいみやうしてりやうしをたぶ。おなじき四ぐわつ廿八にちにみやこをたつ
て、あふみのくによりはじめて、くにぐにのげんじどもに、つげしらせてこそとほりけれ。おなじき五ぐわつ八かのひ、いづのくににくだりつ
き、るにんさきのうひやうゑのごんのすけよりともに、りやうしをたてまつる。せんじやうよしのりはあになりければ、たばんとてひたちのくにへもくだり
けり。きそのよしなかはをひなりければ、しらせんとて、それよりせんだうへこそかかりけれ。さるほどにほうわうは、しゆん
くわんなりちかなんどがやうに、とほきくにはるかのしまへもながしうしなはんずるにこそと、おぼしめされけれども、さはな
くて、ただとばどのにして、ことしはふたとせにならせおはします。おなじき五ぐわつ十二にちのとりのこくばかりに、とばどの
には、おほきなるいたちのおびただしうなきて、ごしよちうをはしりければ、ほうわうおんうらかたあそばして、あふみの
かみなかかねが、いまだそのころつるくらんどにて、おんまへちかうさふらひけるをめされて、これやすちかがもとにもちてゆき、きつとか
むがへさせよとおほせければ、なかかねかしこまりうけたまはり、やすちかがもとにゆきむかふ。やがてかんがへてまゐらせけり。なかかね
P176
いそぎかへりまゐりけれども、よははやふけぬ。しゆごのぶしきびしうして、もんをもあけざりければ、なかかねもとよ
りあんないはしつたり、ついぢをのぼりこえ、おほゆかのしたをくぐつて、きりいたよりかんじやうをたてまつる。ほうわうひらいてえい
らんあるに、三かがうちのおんよろこびならびにおんなげきとぞうらなひまをしける。三かがうちのおんよろこびとはなになるらんとおぼしめしけ
れば、いつとなくとばどのに、おしこめられて、わたらせたまひたりしを、さきのうたいしやうむねもりのきやうをりふしまをさ
れしによつて、とばどのをいだしたてまつつて、八でうからすまるなるびふくもんゐんのごしよへいれたてまつる。これぞおんよろこびなる。
またおんなげきとはなになるらんとおぼしめしければ、おなじき十四かのとりのこくばかりに、たかくらのみやのごむほんといふことあらはれ
て、きやうちうのさうどうなのめならず、これぞおんなげきなる。さきのうたいしやうむねもりのきやうはやむまをたてて、ふくはらへこのよしをまをされ
たりければ、にふだうおほきにいかつて、せんずるところみやをばとりたてまつつて、とさのはたへながしたてまつるべしとて、じやう
けいにはとうだいなごんさねくに、ぶしにはではのはんぐわんみつなが、げんたいふのはんぐわんかねつなをさきとして、つがふそのせい三百よきに
てぞむかはれける。このげんたいふのはんぐわんかねつなとまをすは、三ゐにふだうのじなんなり。へいけかやうに三ゐにふだうみやをすすめ
まゐらせけるとは、ゆめにもしらざりけるによりてなり。みやは五ぐわつ十五にち、よるのくもまのつきをながめさせたまひて、
なんのおんゆくへもおぼしめしよらざりつるに、ここに三ゐにふだうのつかひとて、ふみもつたるをとこひとり、いそがはし
げにてまゐりたり。

信連合戦 404
P177
みやのおめのとご、六でうのすけのたいふむねのぶこれをよむ。ごむほんすでにあらはれさせたまひて、六はらよりくわんにんどもが、
べつたうせんをうけたまはつて、おんむかへにまゐりさふらふ、とうとうごしよちうをいでさせたまひて、みゐでらへいらせたまふべし、にふ
だうもこどもらうじうひきぐして、やがてまゐらむずるさふらふとぞよみあげたる。みやはこのことおほきにおぼしめしわづらはせたまひ
ければ、ちやうさひやうゑのじようはせべののぶつらがまをしけるは、べちのやうやさふらふべき、ただにようばうのしやうぞくをからせたまふべし
とまをしたりければ、みやはかさねたるぎよいに、いちめがさをぞめされける。くろまろとまをすわらはに、つつみ
にものいれていただかせらる。すけのたいふむねのぶはひたたれにたまだすきあげて、からかさもつておんともつかまつる。たとへ
ばせいしがぢよをむかへてゆくがごとくにて、たかくらおもてのこもんよりいでさせたまひ、たかくらをのぼりに、こんゑを
ひがしへすぎさせたまひけるに、おほきなるみぞのありけるを、いとものかるやかに、さつとこえさせたまひければ、
みちゆきびとがたちとどまつて、あれはしたなのにようばうの、みぞのこえやうかなと、あやしげにみとがめまゐらせければ、
みやは、いとどあしばやにこそすぎさせたまひけれ。みやはなにごとも、とりあへぬおんさまにて、さしものてうはうどもを、
とりわすれさせたまひけるなかにも、せみをれこえだとて、ふたつのおんふえをつねのおんまくらにとりわすれさせたまひたりけるを、たちかへ
つてもとらまほしくぞおぼしめされける。さるほどにごしよのおんるすには、のぶつらいちにんさふらひけるが、みぐるしきもの
あらば、とりしたためんとて、ごしよちうをはしりめぐつてみけるに、このおんふえをみつけたてまつつて、あなあさま
し、これはきみのさしものごひさうにて、あんなるものをとて、五ちやうがうちにて、おつつきまゐらせければ、みやなのめ
ならずぎよかんあつて、われしなば、このふえをごくわんにいれよとぞおほせける。みややがて、なんぢもおんともにさふらへかしと
P178
おほせければ、のぶつらかしこまつてまをしけるは、あのごしよにのぶつらがさふらふことをば、きやうちうのじやうげみなぞんぢのことにてさふらふに、
それもそのよは、おちてなかりけりなんどいはれむこと、ゆみやとりは、かりにもなこそをしうさふらへ、くわんにんども
にひつとあひしらひあひしらうて、一ぱううちやぶつて、やがてまゐらむずるさふらふとてはしりかへる。のぶつらがそのよの
しやうぞくには、とくさのかりぎぬのしたに、もえぎのはらまきをき、ゑふのたちをぞはいたりける。三でうおもてのそうもん
をも、たかくらおもてのこもんをも、ともにひらいてぞまちかけたる。あんのごとくそのよのやはんばかりに、六はらの
つはものども三百よきにておしよせたり。なかにもげんたいふのはんぐわんかねつなは、ぞんずるむねありとて、はるかのもんぜんにひかへ
たり。ではのはんぐわんみつながはむまにのりながら、ごもんのうちにかけいり、おほにはにひかへ、あぶみふんばりつつ
たちあがり、だいおんじやうをあげて、みやのごむほんすでにあらはれさせたまひて、六はらよりくわんにんどもがべつたうせんをう
けたまはつて、おんむかへにまゐりてさふらふ、とうとうごしよちうをいでさせたまふべしとまをしたりければ、のぶつらおほゆかにたつ
て、たうじはごしよにてもさふらはず、おんものまうでのおんるすにてさふらふ、なにごとぞことのしさいをまをされよといひければ、
みつなが、なんでうこのごしよならではいづくにかわたらせたまふべき、そのぎならば、しもべどもまゐつてさがしたてまつれとぞまをし
ける。のぶつらおほきにいかつて、ものにもこころえぬくわんにんどもがもののまをしやうかな、たとひきみのてうてきとならせたまひて、いつ
てんがをかたきにうけさせたまはんからに、むまにのりながら、ごもんのうちへまゐるだにも、きつくわいなるに、あまさへ
しもべどもまゐつて、さがしたてまつれとはいかでかまをすぞ、ごぜんにはさひやうゑのじようはせべののぶつらがさふらふぞ、まぢかうよつて
あやまちすなとぞまをしける。はるかのもんぜんにひかへたりける、げんたいふのはんぐわんかねつなこのよしをききて、をめいてか
P179
けいり、かねつながらうどうに、かねたけといふやつはきこゆるだいりきのがうのものなりけるが、うちもののさやをはづし、のぶつら
をめにかけて、おほゆかのうへへきつてのぼる。のぶつらこのよしをみるよりも、かりぎぬのおびひぼひつきつてなげのけ、
ゑぶのたちとはいへども、みをばすこしこころえてうたせたりけるを、ぬきあはせ、かたきはおほたちおほなぎがたにてふ
るまへども、のぶつらがゑふのたちにきりたてられて、あらしにこのはのちるやうに、にはへさつとぞおりたりける。ころ
はさつきもちのよの、ひとむらさめのくもまより、ありあけのつきのあらはれいでて、あかかりけるに、のぶつらはあんないしや、
かたきはぶあんないなり、ここのめんらうにおつかけてははたときり、かしこのつまりにおつつめてはちやうと
きる。せんじのおつかひをば、いかでかくはつかまつるぞといひければ、せんじとはなんぞとて、さんざんにこそはきりたりけ
れ。たちゆがめばをどりのき、ふみなほしおしなほし、もみにもうでぞきつたりける。たちどころにくきやうのつはもの
ども十四五にんぞきりふせたる。そののちたちのさき五すんばかり、うちをつてすててけり。こしのかたなをさぐりけれども、
さやまきおちてなかりければ、ちからおよばずおほてをひろげ、もんぜんのかたへとゆくほどに、ここにてつかの八らうがなぎなたもつて
いできたり。のぶつらなぎなたにのらむととんでかかる。いかがはしたりけむ、あしうのりそんじ、ももをぬいさまに
つらぬかれ、のぶつらこころはたけうすすみけれども、たいぜいのなかにとりこめられて、とりこにこそせられけれ。そののちごしよ
ちうをさがしたてまつりけれども、みやわたらせたまはざりければ、のぶつらばかりからめとつて、六はらへこそかへられけれ。
つぎのひのまんだあさ、さきのうだいしやうむねもりのきやうおほゆかにたつて、のぶつらをおつぼのうちにめしいだし、まことやわをとこは、せんじ
とはなんぞとてきつたるか。のぶつらさんさふらふ、このほどあのごしよを、よなよなものがうかがひさふらふを、なんでうことのある
P180
べきとおもひあなづつて、えうじんをもつかまつりさふらはぬところに、このよのやはんばかりに、なにかはしらず、よろうたるもの
が参百きばかりうちいつてさふらふを、なにものぞととうてさふらへば、せんじのおつかひとなのるあひだ、たうじはせつたう、がうたう、さんぞく、
かいぞくらなんどいふやつばらどもが、あるひはせんじのおつかひ、あるひはきんだちのおいでなんど、かねがねなのるとうけたまはつてさふらふあひだ、
せんじとはなんぞとてきつた(イ切りたん候)さふらふ。うたいしやう、せんじのおんつかひあつこうし、ちやうのしもべにんじやうせつがい、かたがたもつてきくわいな
り、さだめてみやのおんありかをば、しりまゐらせたるらん、よくよくせめとうて、そののちかはらにひきいだし、かうべをはねさふら
へとぞのたまひける。のぶつらおほきにあざわらつて、せんじのおつかひあつこうし、ちやうのしもべにんじやうせつがいこともなげにさふらふや、
かねよきたちだにももつてさふらはば、三百にんのくわんにんどもをば、よも一にんもあんをんにてはかへしさふらはじ、これはがう
たうめらおどさんためのゑふのたちにてさふらへば、なにほどのことさふらふべき、ことごとしうとぞまをしける。そのうへみやの
おんありかをばしりまゐらせずさふらふ、たとひしりまゐらせてさぶらふとも、さふらひほどのものが、まをさじとおもひきつてんずることを、きう
もんにおよんでまをすべきや、みやのおんために、かうべをはねられまゐらせんこと、こんじやうのめんぼくめいどのおもひでなるべしとて、
そののちはものもまをさず。へいけのさぶらひどもらうせうなみゐたりけるが、あつぱれがうのもののてほんかなと、くちぐちにほめけ
れば、あるもののまをしけるは、あれがかうみやうは、いまにはじめぬことぞかし、かれが十六のとし、だいばんしうのとめか
ねたるがうたう六にんを、二でうほりかはに、ただ一にんおひかけ、四にんきりふせ、二にんをからめとつて、そのときなされたりしさひやう
ゑのじようぞかし、きられんことのをしさよをしさよと、くちぐちにをしみたてられて、うたいしやうもさすがをしうやおも
はれけん、もしおもひなほつたらば、たうけにほうこうをもいたせかしとて、はうきのひのへぞながされける。その
P181
のちへいけほろび、げんじのよとなつて、かまくらにくだり、かぢはらへい三かげときについて、ことのこんげんをくはしうまをしたり
ければ、かまくらどの、みやのおんために、こころざしのふかきほどをかんじたまひて、のとのくににごおんありとぞきこえける。

競 405
みやはたかくらをのぼりに、こんゑをひんがしへ、かはをわたつて、によいざんにかからせおはします。いつならはせたまふべきな
れば、おんあしかけぬ、はれぬ、ちあえつつ、あゆみぞかねさせたまひける。なつぐさのしげみがもとのつゆけさも、さこ
そはおんところせくおぼしめされけめ。むかしきよみはらのてんわうの、おほとものわうじにおそれさせたまひて、やまとのくによし
ののやまへ、わけいらせたまひしおんことまでも、いまこそおぼしめししられけれ。しらぬやまぢにかからせたまひ
て、よもすがらまよはせおはします。とかくしてあかつきがた三ゐでらへいらせたまひけり。みやだいしゆにむかつて、
おほせられけるは、かひなきいのちのすてがたさよ、しゆとをたのんでこれまできたれるなりとおほせければ、だいしゆかしこまつてうけ
たまはり、やがてほうりんゐんにごしよしつらうておきたてまつり、ぐごしたててまゐらせけり。おなじき十六にちに、こんゑ
がはらにさふらひけるげん三ゐよりまさにふだう、いへのこらうじうひきぐして、つがふそのせい三百よき、やかたにひかけ、みゐでらへこそ
まゐりけれ。としごろひごろもあればこそありけめ、いかなればことししも、三ゐにふだう、かかるむほんをおもひ
たたれける、ゆゑをいかにとまをすに、ごにちにきこえしは、さきのうだいしやうむねもりのきやうの、ふしぎのことをのみしたまひ
けり。さればひとのよにあればとて、いふまじきことをいひ、すまじきことをすることをば、かねてよくみなひとの
P182
しりよあるべきことどもなり。たとへばそのころ三ゐにふだうのちやくし、いづのかみなかつなのもとに、きこえたるめいばあり。かげな
るむまのいつきばかりなるが、なをばこのしたとぞまをしける。うたいしやうこのよしをつたへききたまひて、いづのかみのもとへししや
をたてて、それにきこえさふらふこのしたを、たまはつてみさふらはばやと、のたまひつかはされたりければ、いづのかみのごへん
じには、さるむまをもつてさふらひつるを、このほどあまりにのりそんじて、いたはらせんがために、ゐなかへつかはして
さふらふ、やがてめしこそのぼせさふらはめと、へんじせられたりければ、うたいしやうさてはとておはしけるところに、へいけ
のさぶらひどもらうせうならびゐたりけるが、あるもののまをしけるは、あつぱれそのむまはをととひまでもさふらひつるものを、き
のふもさふらひし、けさもにはのりさせさふらひつるものをなんど、くちぐちにまをしあはれければ、うたいしやう、さてはをしむご
ざんなれ、にくしそのむまこへとて、あるひはさぶらひしてはせはせつ、あるひはふみなんどして、ひびに五六どなんどぞ、
こはれける。ちちの三ゐにふだうどのこのよしをききたまひて、いづのかみをようでのたまひけるは、たとひこがねをもつてむまにした
りといふとも、さやうにひとのこばむを、をしむべきやうやある、はやはやそのむま六はらへつかはすべしとのたま
へば、いづのかみのごへんじには、まつたうむまのをしきにてはさふらはず、ただけんゐについて、こはるるとなれ
ば、やすからずさふらうてこそ、いままでもつかはしさふらはざりつれとて、ちからおよばず六はらへ、このむまをこそつ
かはされけれ。うたいしやうひきまはさせ、みるべきほどみて、むまはよきむま、ただしぬしがをしみつることこそに
くけれ、やがてなのりを、かなやきにしさふらへとて、いづのかみなかつなといふかなやきをしてぞおかれたる。きやく
じんきたつて、これにきこえさふらふこのしたを、たまはつてみさふらはばやとまをすときは、あのなかつなめがことさふらふか、あのなかつなめひきいだ
P183
せ、なかつなめにくつわはげよ、うてはれなんどぞのたまひける。いづのかみこのよしをききたまひて、ちちの三ゐにふだうどのにまをさ
れけるは、いつかむまをばうてとはいへども、はれとはいふ、さしもひとのみにかへてをしかりつるむまを、けん
ゐについて、こはるるをだにもやすからずさふらふに、けふこのごろなかつながむまゆゑに、てんかのわらはれぐさとなりさふら
ひぬることこそ、かへすがへすもくちをしうさふらへ、はぢをみむよりは、しにをせよとまをすことのさふらふものをなんど、やうやう
にまをされたりければ、三ゐにふだうまことに、ひとにさやうにせられては、いのちいきてもなににかはせん、さりな
がらびんぎをうかがふみにてこそあれとて、おはしけるが、さすがわたくしにてはおもひもたたで、みやをすす
めまゐらせけるとぞうけたまはる。これにつけてもあにのおとどのことをのみぞ、いまさらしのびまをしける。あるときおとどさんだい
のついでに、ちうぐうのおんかたへまゐらせたまひたりけるに、いづかたよりともしらぬ、おほきなるくちなはの、お
とどのおはしけるさしぬきのひだりのりんをはひまはりけるあひだ、おとどこのよしかくとまをさば、にようばうたちもさわがせたまひ、
ちうぐうもさだめておどろかせたまひなんずと、おもはれければ、ひだりのてにては、くちなはのかしらをおさへ、みぎのてに
ては、ををおさへ、やはらなほしのそでのうちにひきいれつつ、おんまへをついたつてぞまかりいでられける。おとどちうもん
におはして、六ゐやさふらふ六ゐやさふらふとめされけれども、をりふしひと壱にんもさふらはざりけるに、いづのかみなかつなの、いまだそ
のころゑぶのくらんどにてさふらはれけるが、なかつなとおいらへまをしてまゐられたり。おとどこのくちなはをたぶ。なかつな
たまはつて、でんじやうのこにはをへて、ゆばどのにいで、みくらのこどねりをめして、これたまはれとのたまへば、きや
つかしらをふつてにげさりぬ。そののちわたなべのきほふの、たきぐちをめして、このくちなはをたぶ。たきぐちたまはつてすて
P184
てんげり。つぎのひのまんだあさ、おとどよきむまにくらおかせ、たち一ふりそへて、いづのかみのもとへおくりつかはさ
るとて、さてもきのふのふるまひこそ、いうにみえられさふらへ、このむまはのりいちのむまなり、やいんにおよんで、ぢんげ
よりけいせいのもとなんどへかよはれんずるとき、もちひらるべうさふらふとのたまひつかはされたりければ、いづのかみのごへん
じには、六ゐのことば、おとどのごへんじなりければ、まづおんむまかしこまつてうけたまはりさふらひぬ、さてもきのふのおんふるまひ
は、げんじやうらくににてさふらひしかとぞまをされける。いかなればあにのおとどはかくこそゆゆしうおはせしに、おん
おとうとのむねもりは、さしもひとのをしむむまをこひとつて、てんがのだいじにおよびぬるこそあさましけれ。なかにもわた
なべのきほふのたきぐちがしゆくしよは、六はらのうらかきのうちなりければ、おくればせして、とどまりたるよしを、う
たいしやうききたまひて、きほふめせとてめされけり。めされてきほふまゐりたり。うたいしやうやがていであひ、たいめんしたまひて、など
なんぢはさうでんのしゆ三ゐにふだうがともをばせでとどまりたるぞ、いかさまにもぞんずるむねのあるかとのたまへば、きほふさん
さふらふ、ひごろはしぜんのこともさふらはば、まつさきかけて、うちじにつかまつるべうぞんじさふらひつるが、こんどはなにとおもはれさふら
ひてやらん、このよしかくともしらせられさふらはねば、まかりとどまりさふらふ、うたいしゃう、としごろなんぢがこのへんをいでいりつるを、
あつぱれめしつかはばやとおぼしつるに、たうけにほうかうをいたせよかし、三ゐにふだうがおんには、すこしもおと
るまじきぞとよ、ただしてうてき三ゐにふだうにどうしんをやすべき、またたうけにほうこうをいたさんとやおもふとのたまへば、きほふ、
さんさふらふ、たとひさうでんのよしみさふらふとも、いかでかてうてきにどうしんをばつかまつりさふらふべき、ぜんあくたうけにほうこうをいたさうず
るさふらふとまをしたりければ、うたいしやうなのめならずよろこびたまひていりたまふ。きほふはあるかさふらふさふらふとて、あしたよりゆ
P185
ふべにおよぶまでしこうす。そのひのくれがたに、きほふまをしけるは、みやならびに三ゐにふだうどの、三ゐでらにとうけたまはりさふらふ
が、わたなべたうには、ぞんぢやうそれがしたれがしなんどぞさふらふらん、おもふにこころにくうもさふらはず、さだめてようち
なんどをもせさせられさふらはんずらむ、しぜんのこともさふらはば、えりうちなんどをもつかまつるべうぞんじさふらふが、このほどのり
てようにあひぬべきむまをもつてさふらひつるを、したしきやつにぬすまれて、むま一ぴきももちさふらはず、あはれさ
もしかるべうさふらはば、おんむま一ぴきくだしたまはりさふらはばやとまをしたりければ、うたいしやういかにもして、あらせつ
けばやとおもはれければ、しろあしげなるむまのなをば、なんれう(イなんちやう)とつけて、さしもひざうせられたり
けるめいばに、きんぷくりんのくらおいてぞたうだりける。きほふおんむまたまはつて、なのめならずよろこび、しゆくしよにかへり、
あはれさらば、ひのとうしてくれよかし、このむまにうちのりて三ゐでらにはせまゐり、みやならびに三ゐにふだうどののまつさきか
けてうちじにせんと、おもひけるこそおそろしけれ。しだいにくらうもなりしかば、さいしどもをばしのばせて、
みづにちどりをおしたる、ひやうもんのひたたれに、きくとぢおほきらかにしてぞきたりける。ぢうだいのきせなが、ひ
をどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、いかものづくりのたちをはき、廿四さいたるおほなかぐろのや
おひ、ぬりごめとうのゆみもちて、たきぐちがこつはうをわすれじと、たかのはにてはいだりける、まとや一てぞさしそ
へたる。げにんのをのこにたてわきはさませ、やかたにひかけ、三ゐでらへこそまゐりけれ。そののち六はらには、きほふがしゆくしよ
より、ひいできたれりとてさうだうす。うたいしやうまづ、きほふはあるか。さふらはずとまをす。すはやきやつにだしぬかれつ
ることこそやすからね、しやつおつかけ、いけどりにせよとのたまへば、へいけのさぶらひども、らうせうなみゐたりけるが、い
P186
やいやきほふはきこゆるだいりきのがうのものにて、つよゆみせいひやうなり、廿四のやにては、まづ廿四にんはいころされなんず、
おとなせそとて、むかふものこそなかりけれ。そののち三ゐでらには、きほふがさたあつて、あつぱれこのもの一にんを
ば、めしぐせらるべうさふらひつるものをなんど、くちぐちにまをしあはれければ、三ゐにふだうかねてよつく、きほふがこころの
そこをやしりたまひたりけむ、いたづらにそのもの、とらへからめられはよもせじ、みよたんだいまこれへまゐ
らうずるものをとのたまふところに、きほふつつとまゐりたり。さればこそとぞのたまひける。きほふまをしけるは、いづのか
うのとののこのしたがかはりに、六はらのなんれうをこそとつてまゐりてさふらへとまをしたりければ、いづのかみなのめな
らずよろこびたまひて、やがてそのむまをきほふにこうて、をがみをきりすてさせ、むかしはなんれう、いまはたひらのむねもりにふだう
じやうはんといふかなやきをして、おなじ十八にちのまんだあさ、六はらのそうもんのうちへおひいれられたりければ、
へいけのさぶらひども、これをみつけてさうどうす。うたいしやう、こんど三ゐでらへよせたらんには、ひとをばしるべからず、まづ
きほふめをいけどりにせよ、のこぎりにてくびきらんずるものをとて、をどりあがりをどりあがりいかりたまへども、いまだなんれうがをがみ
もおひず、かなやきもまたうせざりけり。

三井寺より山門へ牒状 406
さるほどに三ゐでらには、みやいらせたまひてのち、おほせきこせきほりきつて、かひがねならし、だいしゆおこつてせんぎす。きん
じつせじやうのていをみるに、ぶつぽふのすゐびわうぱふのらうろうただこのときにあたれり。いまきよもりにふだうがぼあくをいましめずんば、い
P187
づれのひかくわいけいをきよめんや。しかるにたかくらのみやたうじへにふぎよのこと、これひとへにてんせうだいじん、しやう八まんぐう、しんらだいみやう
じんのみやうじよにあらずや。てんじんちるゐもやうがうをたれ、ぶつりきしんりきもさだめてかうぶくをくはへたまふべし。そもそもほくれいはゑん
とん一みのけうもんなり、なんとはまたげらふとくどのかいぢやうなり、てふそうのところなどかくみせざるべきとて、ならへもやまへも
てふじやうをこそおくりけれ。まづさんもんへのじやうにいはく、
をんじやうじてふすえんりやくじのがことにがふりよくをいたしてたうじのぶつぽふはめつをたすけられんとこふじやう
みぎにふだうじやうかいがために、ぶつぽふをほろぼし、わうばふをかたぶけむとす。うちにつけほかにつけ、なげきをなしうらみをなすあひだ、
しうたんきはまりなきところに、こんげつ十五にちのよ、一ゐんだい二のみこ、たかくらのみやふりよのなんをのがれむがために、ひそかににふじ
せしめたまふところなり。ここにゐんぜんとがうして、いだしたてまつるべきむねしきりにせめありといへども、しゆと一かう
これををしみたてまつる。よりてかのぜんもんぶしをたうじへいれんとす。たうじのぶつぽふのすゐびまさにこのときにあたれり。しよしゆ
なんぞしうたんせざらむや。それえんりやくをんじやうりやうじは、もんぜき二にあひわかるといへども、がくするところは、おなじくゑんとん一
みのけふもんなり。たとへばとりのさうのつばさのごとし。またはくるまの二のわににたり。一ぱうかけむにおいては、いかでかその
なげきなからんやは。ことにがふりよくをかうぶつて、たうじのぶつぽふはかいをたすけらるべくんば、ねんらいのゐこんをわすれて、ぢう
せんのむかしにふくせん。しゆとのせんぎかくのごとし。たいしゆら
ぢしよう四ねん五ぐわつのひ
とぞかいたりける。
P188
三井寺より南都への牒状 407
さるほどにさんもんには、このじやうをひけんして、なんぞたうじのまつじのみとして、とりのさうのつばさくるまのりやうりんなむどおさへ
て、かくでうらうぜきなりとて、へんてふにもおよばず。つぎになんとへのじやうにいはく、
をんじやうじてふすこうふくじのがことにがふりよくをかうぶつてたうじのぶつぽふはめつをたすけられんとこふじやう
みぎぶつぽふのしゆしようなることは、わうぽふによる。わうはふまたちやうきうなることも、かならずぶつぽふによる。ここにしきりのとしよりこの
かた、へいしやうごくぜんもんじやうかいがためにぶつぽふをほろぼし、てうせいをみだる。うちにつけほかにつけ、なげきをなしうらみをなすあひだ、
しうたんきはまりなきところに、こんげつ十五にちのよ、一ゐんだい二のみこ、たかくらのみやふりよのなんをのがれんがために、にはかににふじ
せしめたまふところなり。ここにゐんぜんとがうしていだしたてまつるべきむね、しきりにせめありといへども、しゆと一かうこれををしみ
たてまつる。よりてくわんぐんをはなちつかはさるべきむね、そのきこえあり。ぶつぽふといひわうぱふといひ、一じにまさにはめつ
せんとす。それたうのゑしやうてんしは、くわんぐんをおこして、ぶつぽふをほろぼさしめむとせしとき、しやうりやうせんのしゆと
かつせんをいたして、これをふせぐ。いはんやむほん八ぎやくのはいにおいてをや。なかんづくなんきやうれいなくして、つみなきちやう
じやをはいるせらる。このときにあらずんば、いづれのひかくわいけいをかうぶらんや。しゆとねがはくは、うちにはぶつぽふはめつを
たすけ、ほかにはまたあくぎやくのはんるゐをしりぞけば、どうしんのいたり、ほんくわいにたりぬべし。しゆとのせんぎかくのごとし。
ぢしよう四ねん五ぐわつのひ  だいしゆら
P189
とぞかきたりける。

南都より円城寺への返牒 408
そののちなんとには、このでうをひけんして、とうだいこうふくてらでらのだいしゆ、しふゑしてせんぎす。せんぎことをはつてのち、やがてまゐ
るべきよしのへんてふをこそおくりけれ。そのじやうにいはく、
こうふくじてふすをんじやうじのがことにらいてふいつしにのせられたり
みぎさきのだいじやうだいじんたひらのあそんきよもりがために、きじのぶつぽふをほろぼさしめむとするよしのことてふす。ぎよくせんぎよく
くわりやうかのしうぎをたつといへども、きんしやうきんくこれみなおなじく、一だいのけうもんよりいでたり。なかんづくなんきやう
ほつきやうともににて、によらいのでしたり。じじたじたがひにてうだつがましやうをふくすべし。そもそもきよもりにふだうはへいけの
さうかう、ぶけのぢんかいなり。そふまさもり、くらんど五ゐのいへにめしつかへて、しよこくじゆりやうのさくをとる。おほくらきやうため
ふさかしうししのこけびゐしよにふし、しゆりのだいぶあきすゑはりまのたいしゆたりしむかし、みまやのべつたうしきににんず。しかるをただ
もりしようでんをゆるされんとせしとき、とひのらうせうほうこのかきんををしみ、ないげのえいぐわおのおのばだいのしもん
になく。ただもりせいうんのつばさをかいつくろふといへども、よのためなほはくをくのたねをかろんじ、なををしむせいしそのいへに
のぞむことなし。しかるにきよもりにふだう、さんぬるへいぢぐわんねん十二ぐわつに、だいじやうてんわういつせんのこうをかんじて、ふじの
しやうをさづけられたまひしよりこのかた、たかくしやうごくにあがり、かねてひやうぢやうをたまはる。なんしあるひはたいくわいをかたじけなく
P190
し、あるひはうりんにつらなり、によしあるひはちうぐうしきにそなはり、あるひはじゆごうのせんをかうぶる。ぐんていそしみなきよくろにあゆみ、
そのまごかのをひことごとくちくふをさく。かみきうしをとうりやうし、はくしをしんだいして、みなぬひぼくじうとなす。一もこころに
たがへば、わうこうといへどこれをとらへ、へんげんみみにさかふれば、くぎやうといへどこれをからむ。しかりといへ
ども、あるひは一たんのしんみやうをのびんがため、あるひはへんしのれうにくをまぬかれんとおもひて、ばんじようのせいしなほめ
んてんのこびをなして、ぢうだいのけくんかへつてしつかうのれいをいたす。よよさうでんのけりやうをうばふといへども、じや
うさいもおそれてしたをまき、みやみやさうしようのしやうゑんをとるといへども、けんゐにはばかつてものいふことなし。かつに
のるあまり、きよねんのふゆ十一ぐわつに、だいじやうくわうのすみかをつゐぶくして、はくろくこうのみをおしながす、ほんげきのはなはだ
しきことまことにこきんにたえたり。そのときわれらすべからくは、ぞくしゆにゆきむかつてそのつみをとふべきなり。しかりと
いへども、あるひはしんりよにあひはばかつて、わうけむをしやうじ、あるひはうつたうおさへてくわういんをおくるあひだ、かさね
て一ゐんだい二のしんわうのみやをうちかこみたてまつるところに、八まん三しよかすがのだいみやうじん、ひそかにやうがうをたれ、せんひつをささ
げ、きじにおくりつけ、しんらのとぼそにあづけたてまつるところなり。これひとへにわうぱふつくべからざるむねあきらけし。したがつて
きじしんみやうをすててしゆごしたてまつるでう、がんしきのたぐひたれかずゐきせざらむや。そのときわれらゑんゐきにあつて、そのじやう
をかんずるところに、きよもりにふだうなほきようきをおこして、きじにみだれいらんとするよしのこと、ほのかにつたへう
けたまはりおよぶによつて、かねてそのよういをいたす。十七にちにたいしゆにふれ、十八にちのたつの一てんにしよじに
てふそうし、まつじにげぢし、ぐんしをえてのちあんないをたつせんとするところに、せいてうとびきたつてはうくわんをなげたり。すじつ
P191
のうつねん、一じにかいさんす。かのたうかしやうりやういつさんのひしゆ、なほぶそうのくわんびやうをかへす。いはんやわこくなんぼくりやうもん
のしゆと、いかでかぼうしんのじやるゐをはらはざらんや。よりてさうゑりやうのぢんをあはせて、よろしくわれらが
しんぱつのつげをまつべし。はやくじやうをさつしてぎたいなることなかれ。しゆとのせんぎかくのごとし。
ぢしよう四ねん五ぐわつのひ  だいしゆら
とぞかきたりける。

大衆そろへ 409
おなじき廿二にちのくれかたに、げん三ゐよりまさにふだう、みやのおんまへにまゐつて、まをされけるは、さんもんはこころがはりしぬ、
なんとはいまだまゐらず、このてらばかりにては、いかにもかなひがたし、いまはみかたにらうせう二千よにんはあるら
ん、いざやこんや六はらへようちにせん、まづらうそうどもはによいがみねよりからめてにむかふべし、もしたいしゆあくそうどもを
ば、一二百にんさきだてて、しらかはのざいけにひをかけて、くだりにゆかば、きやうしらかはのはやりうのものども、あ
はやこといできたりとて、さだめてはせむかはんずらむ、そのときいはさかさくらもとにひつかけひつかけ、たたかはんまに、い
づのかみをたいしやうとして、六はらにおしよせ、かざかみよりひをかけて、ひともみもうでせめたらんに、などかだい
じやうのにふだうやきいだしうたざるべきとぞまをされける。ここにへいけのいのりしける、一によばうのあじやりしんかいといへる
ものあり。せんぎのにはにすすみいで、かうまをせばへいけのかたうどするとやおぼしめされさふらふらん、それはさもさふらふべし、い
P192
かでかわがてらのはぢをおもひ、もんとのなをもをしまではさふらふべき、いくさはせいにはよらず、はかりごとによると、
むかしよりまをしつたへてさふらへば、よくよくごえうじんあつてよせさせたまふべしと、わざわざよをふかさんがために、さしも
なきことをながながとぞせんぎしける。ここにじようゑんばうのあじやりきやうしうは、もしやうぞくにかしらつつみ、おほきなるうち
かたなおしくつろげてさすままに、せんぎのにはにすすみいで、しようこをほかにひくべからず、わがてらのほんぐわん、
きよみはらのてんわう、おほとものわうじにおそれさせたまひて、やまとのくによしののやまへわけいらせたまひしとき、そのせいわづかに十
七き、されどもいがいせにいで、みのをはりのおんせいをもつて、おほとものわうじをほろぼし、つひにみくらゐにつかせたまふ。
きうてうふところにいり、じんりんこれをあはれぶといふほんもんあり、じよをばしるべからず、きやうしうがもんとにおいては、こん
や六はらにおしよせてうちじにせよやとぞまをしける。ゑんまんゐんのたいふげんかくすすみいでて、せんぎはしおほし、いそげやす
すめ、よのふくるにとぞまをしける。まづによいがみねへむかふらうそうどものたいしやうぐんには、げん三みにふだう、じようゑんばうの
あじやりきやうしう、りつざうばうのあじやりにちいん、そつのほうげんぜんちがでしぎはう、ぜんやうをさきとして、つがふそのせい六百よにん、
かぶとのををしめてぞうつたちける。まつさかよりむかふあくそうどものたいしやうぐんには、ゑんまんゐんのたいふげんかく、りつざうばうのい
がのきみ、ほふりんゐんのおにとさ、かれら三にんは、うちものとつてはおににもかみにもあはむといふ、一にんたうせんのつはものなり。
びやうどうゐんにはいなばのりつしやがうたいふ、じやうきゐんのあらさど、すみの六らうばう、つつゐほうしにきやうのきみ、あくせうなごん、きたのゐんに
は、こんくわうゐんのろくてんぐ、たいふ、しきぶ、のと、かが、さど、びんごらなり。かやのちくご、おほやのしゆんちやう、ひのをの
ぢやうおん、四らうばう、まつゐのひご、五ちゐんのたじま、じようゑんばうのあじやりきやうしうがばうに、六十にんがうち、かがのくわうじよう、
P193
ぎやうぶ、しゆんしう、ほうしばらには、一らいほうしぞすすんだる。だうしゆにはつつゐのじやうめうめいしゆん、をぐらのそんげつ、そんえい、ぢ
けい、らくぢう、かなこぶしのげんえいばう、ぶしにはいづのかみなかつな、げんだいふのはんぐわんかねつな、六でうのくらんどなかいへ、そのこくらんどたらう
なかみつ、しもかうべのとう三らうきよちか、わたなべたうにははぶく、はりまのじらうさづく、さつまのひやうゑのじよう、きほふのたきぐち、ちやう七、となふ、
あたふのうまのじよう、きよし、すすむ、さわぐ、むつる、つづくのげんだをさきとして、つがふそのせい一千よにん、てんでにたいまつをぞもつ
たりける。さるほどにみゐでらには、みやいらせたまひてのち、おほぜきこせきほりきつて、さかもぎゆひふさぎたりけれ
ば、ほりにはしわたし、さかもぎのけむとしけるまに、じこくおしうつつて、せきのにはとりことごとくなきあひぬ。いづのかみこのよし
をききたまひて、ここにてとりないては、六はらへははくちうにこそよせんずらめ、こはいかがせんとのたまふところに、
ゑんまんゐんのたいふげんかく、しばしとよ、いこくにさるためしあり、かんのせうわうのおんとき、まうしやうくんいましめをかうぶり、
めしこめられしに、はかりごとをもつて、にげまぬかれむとせしとき、かんこくのせきにいたる。かのせきのならひに
て、にはとりのなかざるほどは、せきのとあけてとほすことなし。まうしやうくん三千のかくのうちに、てんかつといへるつはものあ
り。あまりににはとりのなくまねをよくしければ、ひとけいめいとぞまをしける。いまだうしのこくばかりのことなりけるに、てん
かつたかきところにはしりのぼり、いむけのそでを二三どほととうちたたき、にはとりのなくまねをゆゆしくしたりければ、
せきのにはとりききつけてなきあひぬ。とりのそらねにばかされて、せきのとあけてとほすことあり。これもさだめてかた
きのはかりごとにてもやなかすらん、ただよせばやといひけれども、さつきのみじかよなりければ、よはほの
ぼのとぞあけにける。いづのかみ、ようちにはさりともとこそおもひしに、ひるいくさにてはいかにもかなふまじ、
P194
さらばてどもをよびかへせやとて、おほてはまつざかよりとつてかへし、からめてはによいがみねよりひつかへす。い
づのかみのたまひけるは、せんずるところこれは、一によばうがながせんぎによつてこそよはあけたれ、にくにくしそのばうきれと
て、ばうにおしよせさんざんにこそせめたりけれ。ふせぐところのでしどうしゆく十よにんうちころさる。いちによばうもいたでおう
て、はふはふ六はらにまゐり、このよしをまをしたりけれども、へいけはいとさわぐけしきもましまさず。おなじき廿三
にちのまんだあさ、げん三ゐよりまさにふだう、みやのおんまへにまゐつてまをされけるは、ようちには、さりともとこそぞんじさふら
ひつるに、ひるいくさにてはいかにもかなひさふらふまじ、いまはなんとへいらせたまふべうもやさふらふらんとまをされたり
ければ、みやも、いまはのときにもなりしかば、よろづおんこころぼそくやおぼしめされけん、せみをれこえだとて、ふたつの
おんふえを、さしもごひさうありけるを、なかにもせみをれをば、こんだうのみろくにこめまゐらつさせたまひけり。そもそもこのおんふえ
とまをしたてまつるは、とばのゐんのおんとき、そうてうのみかどへ、こがねを千りやうおくらせおはしましたりければ、そのごへんぱうかと
おぼしくて、しやうじんのせみのごとくに、ふしつきたりけるかんちくを、ひとよおくらせおはしましたりければ、み
かどなのめならずぎよかんあつて、わがてうにるゐあるべからず、ちようはうをいかでかただはえらせらるべきとて、だいなごん
のほういんかくそうにおほせて、だんじやうにたてしちにちかぢして、ゑらせられたりしおんふえなり。さればおぼろけのぎよいうに
は、とりもいだされざりけるを、あるときのぎよいうに、たかまつのちうなごんさねいへのきやううけたまはつて、このおんふえをふか
れけるに、ただよのつねのふえのやうにこころえて、とりわすれてひざよりしもにおかれたりければ、ふえやとがめけむ、
せみをれにけり。それよりしてこそせみをれとはなづけられけれ。しかるを、このみやのつたはらせたまひて、いつの
P195
よまでもおんみをはなたじとこそおぼしめされけれども、りうげのあかつき、ちぐのおんためにとおぼえて、あはれなりしおんことなり。
なかにもじようゑんばうのあじやりきやうしうは、はとのつゑにすがり、みやのおんまへにまゐつてまをしけるは、いづくのうらわまでも、
おんともつかまつるべうぞんじさふらへども、七じゆんにあまりぎやうぶもかなひがたうてさふらへば、でしにてさふらふぎやうぶしゆんしうをまゐら
せさふらふ、このしゆんしうとまをすは、とうごくさがみのくにのぢうにん、やまだのすどうぎやうぶのじようとしみちがこにてさふらふなり、ちちのぎやうぶのじようは、さん
ぬるへいぢによしともにつれて、六でうかはらにてうちじにつかまつりさふらひぬ、このしゆんしうはきやうしうにいささかゆかりあるによ
つて、えうせうよりあとふところにおほしそだててさふらへば、こころのおくまでも、よくぞんじしつてさふらふ、いづくのう
らわまでもめしぐせらるべうさふらふと、なみだもせきあへずまをしたりければ、みやもまたいつのよしみにか、かくはまを
すらめとて、おんなみだにむせばせおはします。これをはじめとして、らうそうどもはみないとままをして、まかりとどまりさふらふ
あくそうどもは、みなおんともにぞさふらひける。みやのおんせいわづかに一千よにんにはすぎざりけり。みやは、いつかおんむまにもめし
もならはせたまふべきなれば、てらとうぢとのあひだにて、六ケどまでごらくばあり。これはさんぬるよ、うちとけぎよ
しんもならざりつるゆゑなりとて、うぢのびやうどうゐんへいれたてまつり、しばらくこれにてごきうそくあり。
橋合戦 410
さるほどに三ゐにふだうなかつないげのぶしどもは、うぢばしのなか三げんひかせてかいだてにかき、むまひやさせ、くらがひおこな
ひなんどしけるほどに、へいけのかたには、このよしをききて、あはやたかくらのみやこそ、なんとへおもむかせたまふな
P196
れ、にくにくしそのぎならば、おつかけてうちたてまつれやとて、たいしやうぐんにはにふだうの三なんさひやうゑのかみとももり、をひに
ちうぐうのすけみちもり、おとうとにさつまのかみただのり、さぶらひたいしやうには、かづさのかみただきよ、ちやくしたらうはんぐわんただつな、ひだのかみかげいへ、そのこ
たいふのはんぐわんかげたか、ゑつちうのぜんじもりとし、じらうびやうゑもりつぎ、むさしの三らうさゑもんありくにをさきとして、つがふそのせい三万
よき、ぢしよう四ねん五ぐわつ廿三にちのむまのこくばかりに、こばたやまをうちこえて、うぢばしのつめにぞおしよせたる。むかひの
びやうどうゐんに、かたきありとみてんげれば、へいけのさぶらひども、えびらのほうたてうちたたき、てんもひびき、だいちも
ゆるぐばかりに、ときつくること三ケどなり。へいけのさぶらひどもあまりにいさみほこつてわたるほどに、せんぢんがはし
をひいたぞ、あやまちすな、はしをひいたぞ、あやまちすなと、いひけれども、ちかきものこそききつけけれ、ご
ぢんはこれをききつけず、ただおしにおしてわたるほどに、せんぢん二百よきおしおとされ、みづにおぼれてながれけり。そののち
げんぺいたがひに、はしのさうのつめにうつたつてやあはせす。げんじのかたには、わたなべたうのいけるやぞ、ものには
つよくとほりける。三ゐにふだうは、ちやうけんのひたたれに、しなかはをどしのよろひをき、ゆみをつよくひかんとて、
わざとかぶとはきたまはず。ちやくしいづのかみなかつなは、こんぢのにしきのひたたれに、くろいとをどしのよろひをき、けふをさいごとたたかは
んとて、これもかぶとはきざりけり。五ちゐんのたじまは、もくらんぢのひたたれに、ひをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まい
かぶとのををしめ、しらえのおほなぎなたのさやをはづし、はしのつめにすすみいで、むかひのきしより、さしつめひきつめさん
ざんにいけるやの、あがるやをばついくぐり、さがるやをばをどりこえ、むかうてくるやをば、なぎなたにてきつ
ておとす。しよにんめをすます。それよりしてぞ、やぎりのたじまとはまをしける。つつゐのじやうめうめいしゆんは、かちのひた
P197
たれに、くろかはをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、いかものづくりのたちをはき、廿四さいたるおほ
なかぐろのやおひ、ぬりごめどうのゆみに、このむしらえのおほなぎなたをぞとりそへたる。はしのつめにすすみいで、だいおんじやうをあ
げて、ものそのものにてはなけれども、みやのおんかたに、つつゐのじやうめうめいしゆんとて、をんじやうじにおいては、そのかく
れなし、へいけのかたに、われとおもはむずるひとびとは、すすめやむかへ、げんざんせんとて、やたばねといて、
おしくつろげさしつめひきつめさんざんにいけるに、やにはにかたき十二きいおとし、十一きにておはせたれば、
ひとつはのこつてえびらにあり。いまはゆみをもからとなげすて、えびらをもといてかはへなげいれ、つらぬきぬいて、は
だしになり、かぶとのををつようしめける。かたきみかたあれはいかにとみるところに、はしのゆきけたを、さらさら
とはしりわたる。ひとはおそれてわたらぬを、じやうめうがここちには、ただ一でう二でうのおほぢとこそはふるまひけれ。まづむ
かふかたきをば、なぎなたにて四にんなぎ、五にんにあたるとき、なぎなたうちをつてすててけり。つぎにたちをぬいてきり
けるが、三にんきりふせ、四にんにあたるとき、あまりかぶとのはちにつよううちあて、めぬきのもとよりちやうとを
れ、ぐつとぬけて、かはへざんぶとぞいれにける。たのむところはこしがたな、ひとへにしなんとのみぞくるひける。
ここにじようゑんばうのあじやりきやうしがうしもぼうしに、いちらいほうしとて、しやうねん十八さいになりけるが、もくらんぢのひたたれにもえぎ
のはらまきをき、三まいかぶとのををしめ、うちものぬいてかたになげかけ、これもはしのゆきけたを、さらさらとはしりわた
り、じやうめうはたつたり、よくべきやうはなかりけり。ここをせんどとたたかひけるじやうめうが、かぶとのてつさきにてうち
かけ、あしうさふらふじやうめうばうとて、かたをゆらりとをどりこえてぞたたかひける。じやうめうはいちらいをうたせじとつづく、いち
P198
らいはまたかたきのなかにわつていり、さんざんにたたかひ、ぶんどりあまたして、わがみもうちじにしてんげり。そのまに
じやうめうは、はしのゆきけたを、はふはふびやうどうゐんのしばにかへり、もののぐぬきおき、よろひにたつたるやめをかぞ
ふれば六十三、うらかくやは五ところなり。されどもいたでならねば、かしらをつつみ、じやうえをき、ゆみきりをつて
つゑにつき、あみだぶまをしてなんとのかたへぞまかりける。そののちじようめうがわたつたるをてほんにして、かたきみかた
はしのゆきけたをはしりわたりはしりわたりしようぶをす。とほきをばゆみにてい、ちかきをばたちにてきり、くまでにかけ
てとるもあり、とらるるもあり、ひきくんでさしちがへてかはへいるものもあり、はしのうへのいくさ、ひいづるほどにぞ
みえたりける。さぶらひたいしやうかづさのかみただきよ、たいしやうぐんのおんまへにまゐつてまをしけるは、いまはかはをわたさんずるにて
さふらふが、をりふしさみだれのころにて、みかさはるかにまさりたり、さればよどいもあらひかはちぢへやまゐりさふらふべき
とまをしけるところに、ここにしもつけのくにのぢうにん、あしかがのたらうとしつながこに、またたらうただつなとて、しやうねん十七さいなりけるが、
しげめゆひのひたたれに、もえぎをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、あししろのたちをはき、廿四さい
たるきりふのやおひ、しげどうのゆみもつて、れんせんあしげなるむまのふとくたくましきに、きんふくりんのくらおいて、のつたりけるが、
すすみいでてまをしけるは、あしうもまをさせたまひたるかづさどのかな、さればよどいもあらひかはちぢをば、てんぢくしんたんのぶし
がまゐつてわたすべきか、それもおもふに、われらこそわたさんずれ、めのまへなるかたきをのがしたてまつつて、なんとへ
いれまゐらせなば、よしのとつがはのおんせいがまゐりては、いよいよみかたのおんだいじなるべし、とうごくにはとねがは
とまをすおほかはあり、このながゐのわたり、すぎのわたりとて、ともにだいじのわたりあり、せんねんちちぶとあしかがなかをたがひ、
P199
かつせんをつかまつりさふらひしに、あしかが、につたのにふだうをかたらうて、おほてはこのながゐのわたり、すぎのわたりへはにつた
のにふだう、からめてにまはりさふらひしに、すぎのわたりにいくらもよういしたりしふねどもを、ちちぶがかたよりわられて、
につたのにふだうのまをししは、かはをへだてたるいくさに、ふねがなければとて、ふちせをきらふやうやある、みづにおぼれて
しなばしね、いざわたらむとて、たいぜいがむまいかだをつくつてわたせばこそ、とねがはをもわたしけめ、このかはの
ていをみるに、とねがはにはいくほどまさじおとらじな、とのばらいざわたさんとて、たづなかいくり、たいぜいがまつさ
きにこそうちいれたれ。つづくつはものたれたれぞ、たいこ、おほむろ、ふかす、やまかみ、なはのたらうひろずみ、さぬきの四らうたいふ、
をのでらのぜんじたらう、へやこの七らう、らうどうには、とねの六四らう、きりやた五らう、うぶがたじらう、おほをかのあん
五らうをさきとして、つがふそのせい三百よき、くつばみならべてうちいれたり。あしかがあぶみふんばりつつたちあがり、だいおんじやうをあ
げてげぢしけるは、つよからむむまをばうはてにたてて、よわからんむまをばしたてになせ、むまのあしのおよばん
ほどは、たづなをくれてあゆませよ、はずまばかいくつておよがせよ、さきなるむまのをにとりつけ、くらつぼに
みづしどまば、さうづにのりさがつて、むまにはよわくみづにはつよくあたるべし、くらつぼにのりさだまつて、あぶみ
をつよくふめ、むまのかしらしづまばひきあげよ、いつたうひいてひつかつぐな、かはなかにてかたきいるともあひびき
すな、かぶとのしころをかたぶけよ、いつたうかたぶけて、てへんいさすな、かねにわたいて、あやまち
すな、みづにしなうてわたすべし、わたせやわたせやとげぢしつつ、三百よきを一きもながさず、むかひのきしにさ
つとわたす。
P200
宮の最後 411
そののちあしかがたかきところにうちあがり、むちにてよろひのみづなでくだし、あぶみふんばりつつたちあがり、だいおんじやうをあげて、これは
むかしてうてきまさかどをたひらげてけんじやうかうぶりたりし、たはらとうだひでさとに五だいのまつえふ、しもつけのくにのぢうにん、あしかがのたらうとし
つながこに、またたらうただつなとて、しやうねん十七さいにまかりなる、かやうにむくわんむゐなるものの、みやにむかひたてまつつ
て、ゆみをひきやをはなつこと、みやうけんにつけてそのおそれすくなからずさふらへども、ゆみもやもみやうがのほども、へいけだいじやうの
にふだうどののおんみのうへにぞさふらふらん、みやのおんかたにわれとおもはんひとびとは、すすめやむかへ、げんざんせんとて、
びやうどうゐんのしばにおしよせ、ひいづるほどにぞたたかひける。これをはじめとして、二万よきのつはものどもも、みなうちいれうちいれ
わたしければ、さしもにはやきうぢがはなれども、むまひとにせかれて、みづはうへにぞたたへたる。おのづからは
づるるみづには、なんにもたまらず、おしながさる。そのなかにいがいせのつはもの六百よき、むまいかだおしやぶられ、
みづにおぼれてながれけり。もえぎ、ひをどし、あかをどし、いろいろのよろひかぶとのうきぬしづみぬながれけるは、かみなびやまのも
みぢばの、みねのあらしにさそはれて、たつたのかはのあきのくれ、ゐせきにかかつてながれもやらぬにことならず。なかに
もひをどしのよろひきたりけるむしや三にん、うぢのあじろにかかつてゆられけるを、いづのかみみたまひて、
いせむしやはみなひをどしのよろひきてうぢのあじろにかかりぬるかな
これはひののげん三、とばのげん六、くろだの五らう四らうとまをすものなり。なかにもくろだはふるつはものなりければ、ゆみのはずを
P201
いはのあひにねぢたて、わがみもあがり、のこり二にんをもたすけけるとぞうけたまはる。さるほどに三ゐにふだうは、みかた
のいくさまけいろにみえしかば、かなはじとやおもはれけん、わかたいしゆあくそうども廿よにんつけたてまつつて、みやをばなんとへ
さきだてたてまつり、わがみはこどもらうじうのこりとどまりて、ふせぎやいけり。なかにも三みにふだうのじなんげんたいふのはんぐわんかねつなは、あか
ぢのにしきのひたたれに、くろいとをどしのよろひをき、くはがたうつたる五まいかぶとのををしめ、いかものづくりのたちをはき、廿四さい
たるおほなかぐろのやをおひ、ぬりごめどうのゆみに、しらえのおほなぎなたのさやをはづいて、ちちの三ゐにふだうどのにかかりける
かたきに、かへしあはせかへしあはせさんざんにたたかはれけるところに、へいけのさぶらひたいしやうかづさのかみただきよがよつぴいていけるや
に、うちかぶとをしたたかにいさせて、ひるみたまふところを、かづさのかみがわらはおちやうて、げんたいふのはんぐわんとむずとくむ。はん
ぐわんはてはおはれたりけれども、きこゆるしたたかびとにておはしければ、とつておさへ、わらはがくびかききつて
なげのけ、おきあがらんとしたまふところを、かづさのかみがらうどうあまたおちあひて、げんたいふのはんぐわんのくびをとる。三
ゐにふだうこのよしをみたまひて、よろづこころぼそくやおもはれけん、ゆみやになつつうちものになつつ、たたかはれ
けるが、かたき四五ききつておとし、わがみもいたでおひければ、びやうどうゐんのしばにかへり、もののぐぬぎおき、わた
なべのちやうしちとなふをめして、はやはやなんぢかたきのてにかけで、わがくびうてとのたまへば、となふなくなく、おんくびたまは
つつともぞんじさふらはず、ごじがいだにもさふらはばと、なみだもせきあへずまをしたりければ、三ゐにふだうさらばとてにしに
むき、かうじやうにねんぶつす百べんとなへたまひけるが、ねんぶつをとどめ、さいごのことばぞあはれなる。
うもれぎのはなさくこともなかりしにみのなるはてぞかなしかりける
P202
そののちたちのきつさきをはらにおしあて、うつぶしにふしつらぬかつてぞうせられける。ことし七十五にぞな
られける。かならずそこにてうたよむべきにはあらねども、わかうよりすかれたりければ、さいごまでもわすれ
ざりけりとあはれなり。となふなくなくおんくびたまはつてひたたれにつつみ、おほきなるいしにくくりあはせて、うぢがはのふかきところ
にしづめてんげり。さるほどに三ゐにふだうのちやくし、いづのかみなかつなははしのうへにてたたかはれけるが、かたき七八ききつ
ておとし、わがみもいたでおひければ、びやうどうゐんのしばにかへり、もののぐぬぎおき、じがいしてこそうせたりけれ。その
くびをば、しもかうべのとう三らうきよちかとつて、びようどうゐんのつりどののしたへぞなげいれたる。なかにも六でうのくらんどゆきいへ、
そのこくらんどたらうなかみつは、たいぜいのなかにわつていり、さんざんにたたかひ、かたき四五ききつておとし、いつしよにうちじにしてん
げり。このくらんどとまをすは、こ六でうのためよしがじなん、こたてはきせんじやうよしかたがちやくし、きそのくわんじやにはあになりけり。三
ゐにふだうえうせうよりふぢして、くらんどにもなしたりしかば、そのおんをわすれじと、こんどどうしんしてうちじにしたりける
こそあはれなれ。なかにもわたなべきほふのたきぐちをば、へいけいかにもしていけどつて、うたいしやうどののげんざんにいれんとおも
ひあはれけるに、きほふさきにこころえてんげれば、てにもたまらずかけまはる。たいぜいのなかにわつていり、にし
よりひがしへ一わたり、きたよりみなみへ一わたり、とつてはかへし、わつてはとほり、さんざんにたたかひ、かたき十
四五ききつておとし、わがみはふかでもうすでもおはずして、びやうどうゐんのしばにかへり、三ゐにふだうのむくろのへんにち
かづき、ひごろは一しよにとちぎりたてまつりしことなればとて、はら十もんじにかききつて、おなじまくらにふしにけり。なか
にもゑんまんゐんのたいふげんかくは、つりどのにたつたりけるが、なぎなたのえくきみじかにとりなし、たいぜいのなかにわつ
P203
ていり、さんざんにたたかひ、一ぱううちやぶつて、うらへつつといで、かはへざんぶとぞとびいりける。かたきみかた、あはや
げんかくこそじがいしてんげるとまをしけるに、もののぐをもぬかず、ぐそくひとつもすてずして、みづのそこをくぐつて、むか
ひのきしにわたりつき、だんにあがりなぎなたうちふり、いかにへいけのひとびと、これまではおんだいじかようとて、てらのか
たへぞまかりける。なかにもへいけのかたのさぶらひたいしやう、ひだのかみかげいへは、ふるつはものなりければ、いまはさだめてみや
はなんとへぞさきだたせたまふらんとて、五百よきにておひかけたてまつる。あんのごとくくわうみやうせんのとりゐのまへに
ておつつきたてまつり、さしつめひきつめさんざんにいたてまつる。たがいるやともみえざるに、しらはのやひとすぢきたつて、
みやのおんそばはらにたちければ、やがておんむまよりおちさせたまひけり。へいけのつはものあまたおちあひて、みやのおんくびたま
はりけり。くろまるとまをすわらはも、ここにてうちじにす。ぎやうぶしゆんしうもうたれにけり。わかだいしゆあくそうども二十よにんつきたてまつ
りたりけるも、もるるは一にんもなかりけり。みないつしよにてぞうたれにける。なかにもみやのおめのとご、六
でうのすけのたいふむねのぶは、てんがだい一のだいおくびやうしやなりければ、みやはうたれさせたまひしかども、じがいをもせずうち
じにをもせで、むまにまかせておちゆくほどに、むまはよわしかたきはちかづく、かなはじとやおもひけん、にいのが
いけにとびいつてもひきかづき、めわづかにみいだしてぞゐたりける。いけのはたをうちすぎうちすぎしけるかたきのなかに、はるか
にひきさがつて、五百きばかりうちとほりけるかたきのなかをみけるに、じやうえきたまへるひとのくびもなきを、しとみの
もとにかいてとほる。あれはいかにとみたてまつるに、これぞわがしうのみやにてわたらせたまひける。われしなばご
くわんにいれよとおほせなりしこえだときこえしおんふえも、いまだおんこしにぞさされたる。やがてはしりもいでて、とりつき
P204
たてまつらばやとはおもひけれども、それもさすがおそろしければ、ただみづのそこにて、かはづとともにぞなきゐたる。
かたきみなうちとほりてのち、いけよりあがり、ぬれたるものどもしぼりきて、ゆふべにおよんでみやこへいる。にくま
ぬものこそなかりけれ。さるほどになんとのだいしゆ、みやのおむかへにまゐりけるが、つがふそのせい七千よにん、せんぢんはこづに
すすめば、ごぢんはいまだこうふくじのなんだいもんにぞささへたる。されどもみやははやくわうみやうせんのとりゐのまへにて、う
たれさせたまひぬときこえしかば、だいしゆちからおよばず、なみだをおさへてひきかへす。いま五十ちやうがあひだをまちつけさせたま
はずして、うたれさせたまひけるみやのごうんのほどこそうたてけれ。

若宮の沙汰(あひ) 412
さるほどに・へいけのさぶらひどもは・いづのかみいげ・つはもの五百よにんが・くびとつて・そのひのよに・いつてみやこへいる・へいけの
ゆかりのひとびと・いさみののしりたまふこと・なのめならず・なかにも・三みにふだうのくびは・おほきなるいしに・くくりあは
せて・うぢがはの・ふかきところに・しづめてんげれば・なかりけり・ただしみやのおんくび・みしりたてまつつたるものぞ・なか
りける・てんやくのかみさだなりが・ごれうぢの・おんためにとてつねは・まゐりたりければ・これぞさだめて・みしりたてまつりたるら
んとて・めされけれども・げんしよらうとて・まゐらず・一とせおんひたひに・あしきおんかさの・いできさせ・たまひたりし
をも・このさだもりが・やうやうに・れうぢまをしてこそ・いままでも・あんをんには・わたらせたまひしを・こんどあへなう・
うしなひたてまつりけるこそ・あさましけれ・さるほどに・いよのかみ(イ伊豆守)もりのりのむすめ・三ゐのつぼねとて・八でうの・によう
P205
ゐんに・さぶらはれけるを・みや・よなよなめされければ・うちつづき・わかみや三ところ・いできさせたまひけり・これ
ぞさだめて・みしりたまひたるらんとて・たづねいだしたてまつる・このにようばう・あるくびを・一めみて・なみだにむせばれける
にぞ・みやのおんくびとは・しりてげる・このにようばうをば・なのめならずにようゐんの・おんいとほしみにて・おはしければ・
みこの・みやたちをも・わがおんこのごとく・おぼしめされて・つねは・ぎよいの・おんふところにて・そだて・まゐら
つさせ・たまひけり・なかにも・こんねん七さいに・ならせたまひける・わかみやの・わたらせたまひけるを・にふだう・おとといけ
のちうなごんよりもりを・もつて・わかみやとうとう・いだしまゐらつさせ・たまふべきよしを・まをされたりければ・によう
ゐんいざとよ・それはさやうのことの・きこえつる・あかつきがた・めのとのにようばうが・こころをさなくも・とりたてまつりて・いづ
かたへか・ゆきぬらん・ゆきがたも・しらずとぞ・おほせける・このよりもりのきやうと・まをすは・にようゐんのおんめのと・ぢみやうゐんの
さいしやうどのに・あひぐせられたりければ・ひごろは・さしもむつまじう・おぼしめされけるに・いま・このわか
みやのおんこと・まをされければ・いつしか・あらぬひとの・やうにうとましうぞ・おぼしめされける・ちうなごん・六
はらにかへり・まゐつてこのよし・まをされたりければ・にふだう・おほきに・いかつてなんでう・そのごしよならでは・
いづくにか・わたらせたまふべき・そのぎならば・ごしよちうを・さがしたてまつれとぞ・のたまひける・ちうなごん・また・ご
しよにまゐり・もんぜんに・つはものおきなんどして・このよしまをされたりければ・わかみやまをさせたまひけるは・なじかは・
くるしうさふらふべき・ただとくいださせ・おはしますべしと・まをさせたまひければ・にようゐんいとほしや・われから
に・だいじの・いでくることを・あさましう・おぼしめして・ただとく・いだすべしなんど・のたまふことの・いとふし
P206
さよ・なにしにか・かくうきひとを・この六七ねん・てならしたてまつて・いまかくうきめを・みることよとて・おん
なみだに・むせばせおはします・おんぼぎ三みのつぼねのおんことは・なかなかまをすにおよばず・にようくわんたち・つぼねのにようばう・め
のわらはにいたるまで・みなそでをぞ・ぬらしける・ちうなごんも・さすがいはきならねば・よにもあはれに・おもは
れけれども・さてしもあるべきならねば・わかみや・ひとつことに・のせたてまつて・六はらへぐそくしたてまつらる・さき
のうたいしやうむねもりのきやう・このわかみやを・みたてまつつて・あはれにおもひ・まゐらせられければ・ちちのおんまへにおはして・あはれ
このみやの・おんいのちをば・むねもりに・たびさふらへかしと・まをされければ・にふだうさらば・やがてごしゆつけ・せさせたてまつ
れとぞ・のたまひける・うたいしやう・このよしを・にようゐんへ・まをされたりければ・にようゐんなのめならず・おんよろこばせ
おはしまして・ただともかうも・よきやうにとぞ・おほせける・やがてにんなじどのにして・ごしゆつけせさせたてまつる・
やすゐのみや・だうそんと・きこえしは・このわかみやのおんことなり・またならにも・一ところ・わたらせたまひけれ・これをば・おん
めのとごの・さぬきのかみいへひで・とりたてまつて・ほつこくに・おちくだりしを・きそこれをば・わがしうに・したてまつらんとて・
とりたてまつて・ゑつちうのくにみやざきと・いふところに・ごしよ・しつらうて・おきたてまつりたりしが・一とせ・きそうじやうらくの
とき・ぐそくしたてまつて・みやこにのぼり・げんぞくせさせたてまつる・さてこそ・げんぞくのみやともまをし・またはきそがみやとも・
まをしき・のちには・さがのへん・のよりと・いふところに・わたらせたまひければ・ひとのよりのみやとぞまをしける・さても・せう
なごんこれながは・みやをば・あしうみそんじたてまつりたるものかな・なかごろ・とうじう(イ通乗)と・きこえしさうにんは・おほ二でうどの
をば・三だいのくわんぱく・おんとし八十・そちのうちの・おとどをば・るざいのさう・わたらせたまふと・まをしたりしに・たがはず・
P207
むかししやうとくたいし・しゆじゆんてんわうを・みまゐらつさせたまひ・きみはわうしのさう・わたらせたまふと・まをさせたまひた
りしは・むまこのだいじんに・ころされ・させたまひけり・むかしはさせるさうにんと・しもは・なけれども・さもしか
るべきひとは・みなかくこそ・ゆゆしう・わたらせたまひしに・これは・せうなごんこれながが・ひがごと也(なり)とぞ・ひとまをしけ
る・かのけんめいしんわう・ぐへいしんわうは・けんわうせいしゆの・みこにて・さきのちうしよわう・あとのちうしよわうとて・ともにめでたう・
わたらせたまひたりしかども・いつか・ごむほんおこさせ・たまひたりし

三井寺炎上 413
ご三でうゐんの・だい三のわうじ・すけひとのしんわうと・きこえしは・おんこころもがうに・ごさいがくも・ゆゆしうわたらせ・たまひ
しかども・しらかはゐん・なんとかおもひまゐらつさせたまひたりけむ・つひにみくらゐにも・つけまゐらつさせ・たまはず・
されば・そのおんこころを・なぐさめまゐらせんとにや・おんこ・はなぞののさだいじんどのに・げんじのしやうを・さづけ・まゐらつさせ
たまひて・むゐより三ゐして・やがて・ちうしやうに・なしまゐらつさせたまひけり・むかしより・一せいのげんじの・む
ゐより三ゐに・なることは・さがの・てんわうのみこ・やうぜいゐんのだいなごんさだむのきやうのほかは・うけたまはりおよばず・
おなじき廿四かに・ぢもくおこなはれて・さきのうたいしやうむねもりのおんこ・じじうきよむね・しやうねん十二さいに・なられけるが・
三ゐして・三ゐのじじうとぞ・まをしける・ちちのきやうは・このよはひにては・わづかに・ひやうゑのすけにてこそ・おはせしに・
さこそよを・とるひとの・こならんからに・おそろしおそろしとぞ・ひとまをしける・これは・みなもとのもちひと・三ゐにふだう
P208
いげ・つゐたうのしやうとぞ・きこえし・おなじき廿五にちに・みなもとのもちひと・三ゐにふだういげ・てうぷくせられたりし・きそうかう
そうたちに・けんしやうおこなはれけり・このみなもとのもちひととまをすは・たかくらのみやのおんことなり・まさしく・一ゐんだい二のみこ
にて・わたらせたまひけるを・ここのへのうちを・おひいだしたてまつつて・うしなひたてまつるのみならず・ぼんにんに・さへなし・
まゐらせぬることこそ・くちをしけれ・ひごろは・さんもんのだいしゆ・いささかのこともあれば・みたりがましくうつたへつかまつるが・こんど
は・をんびんのぎを・ぞんじて・おともせず・しかるになんと・三ゐでらは・あるひはみやを・ふぢしたてまつる・あるひはおんむかへに・
まゐる・これひとへに・てうてきなりとて・ならをも・てらをも・はつかうあるべしとぞ・きこえし・へいけさらば・まづ・
をんじやうじを・はつかうせよやとて・たいしやうぐんには・にふだうの三なん・さひやうゑのかみとももり・おととにさつまのかみただのり・さぶらひ大
しやうには・ゑつちうのぜんじ・もりとし・じらうびやうゑもりつぎ・かづさの五らうびやうゑただみつを・さきとして・つがふそのせい・三千よき・
おなじき五ぐわつ廿七にちに・をんじやうじへ・はつかうせられけり・てらにも・おほぜき・こぜき・ほりきつて・さかもぎ・ひいて・
まちかけたり・ふせぐところの・だいしゆ三百よにん・うちころさる・そののち・ぢちうにみだれいつて・ひをはなつ・やくるところは・
どこどこぞ・ほんかくゐん・しんによゐん・じやうきゐん・だいがくゐん・けおんゐん・ふげんゐん・しやうりうゐん・こんがうわうだう・けいそくばう・けうたい
くわしやうのほんばうならびに・ごほんぞん・ごわうぜんじんの・しやだん・八けん四めんの・だいかうだう・しゆろう・きやうざう・二かいのろうもん・くわんちやう
だう・すべて・だうしやたふめう・あはせて・六百廿七う・おほつのうらの・にしのざいけ・二千八百五十三う・ことごとくちをはらふ・
そのなかに・こんだう一う・やけのこりけるこそ・ふしぎなれ・だいしのわたしたまへる・一さいきやう・七千よくわん・ぶつざう・二
千よたいも・たちまちに・けぶりとなるこそ・かなしけれ・ほうもんしやうげうの・やくるけぶりには・だいぼんてんわうの・まなこも・くれ・
P209
しよてん五めうの・がくもこのとき・ながくばうじ・けんらうぢしんのたん・しきりにこがれ・りうじん三ねつのくるしみも・まさるらんとぞ・おぼ
えたる・三ゐでらはこれ・あふみのぎだいりやうが・わたくしのてらたりしを・てんぢてんわうへ・よせたてまつて・ごぐわんとなす・ほんぶつ
は・かのみかどの・ごほんぞん・しやうじんのみろくとぞ・きこえさせたまひし・しかるを・けうたいくわしやう・百六拾ねん・おこな
うてのち・ちしようだいしに・ふぞくしたてまつる・としたてんじやうまにはうでんより・あまくだらせ・たまひて・はるかに・りうげげしやう
の・あかつきを・またせたまふ・てんぢ・てんぶ・ぢとう・これ三だいのみかどの・おんうぶゆを・めされたりしに・よつてこ
そ・三ゐでらとは・なづけられけれ・かく・めでたかりし・せいせきも・いまはなにならず・けんみつしゆゆに・ほろびて・
がらんさらに・あとも・なし・三みつのだうぢやうも・なければ・しんれいのひびきも・たえ・一げのぶつぜんも・なければ・あ
かのおとも・せざりけり・しゆくらうせきとくの・めいしは・ぎやうがくに・わかれ・じゆほうさうしようの・でしどもは・きやうげうにこそ・
わかれんだれ

あひ 414
そうかう十二にんけつくわんせらる。あくそうどもには、つつゐのじやうめうみやうしゆんをさきとして、卅よにんをきんごくせらる。三ゐにふだう
みやをば、さしもたのもしげにまをして、すすめまゐらせたりけれども、をんごくはしらず、きんごくのげんじだにもまゐら
ねば、みやをもあへなううしなひたてまつり、わがみもしそんも、ことごとくほろびぬるこそあさましけれ。
P210

ぬえ(空+鳥) 415
そもそもげん三ゐよりまさにふだうの、一ごのあひだかうみやうとおぼしきことおほきなかにも、ことにはこのゑのゐんのおんとき、しゆじやうよな
よなおびえさせたまふことあり。くだんのごなうは、ひがし三でうのこむらより、くろくも一むらごてんのうへに、おしおほふと
おぼしきときは、しゆじやういよいよおびえさせたまひけり。これによつてさんもんなんとのきそうかうそうにおほせて、だいほふひほふしゆ
せられけり。またぶしをもつてもけいごあるべしとて、げんぺいりやうかのつはものをぞめされける。よりまさのきやうのいまだその
ころひやうごのかみたりしとき、めしぬかれてまゐる。これはほりかはのてんわうのぎよう、くわんぢのころかとよ、しゆじやうかやうにおび
えさせたまふことあり。そのときのしやうぐんよしいへのあそんをぞめされける。かうのかりぎぬのそでながやかにかいつくろひ、なん
でんにしこうして、めいげんすること三どののち、これはさきのむつのくにのかみみなもとのよしいへのあそんぞやと、かうじやうに三ケどま
で、ののしつたりければ、ごなうやがておこたらせたまひけり。こんどそのれいとぞきこえし。よりまさまをしけるは、てう
かにぶしおかるることは、ゐちよくのともがらをしりぞけ、またはぎやくほんのものを、しづめられんがためにてこそあるに、
めにもみえぬへんげのものいよとのちよくぢやうこそ、しかるべからね、とはまをしながらりんげんそむきがたうして、
しらあをのかりぎぬのそでながやかにかいつくろひ、たのみきつたるらうどう、とほたふみのくにのぢうにんゐのはやたに、ほろのか
さきりにてはいだりけるや一こしおほせ、ぬりごめどうのゆみに、やまどりのをにてはいだりけるとがりやふたつとりそ
へ、なんでんにしこうして、よふくるまませけんをうかがひみるほどに、あんのごとく、そのよのやはんばかりに、ひがし三でうの
P211
こむらよりくろくも一むら、ごてんのうへに五ぢやうばかりぞたなびいたる。くもすきにみければ、くものなかにすがたあるもの
あり、よりまさとがりやをとつてうちつがひ、よつぴいてひやうといる。ふつとあたる。よりまさえたりやお
うとやさけびをこそしたりけれ。やがてやたちながらていじやうへどうとおつ。ゐのはやたつつとよりとつて
おさへ、こしのかたなをぬき、つかもこぶしもとほれとほれと、九かたなぞさいたりける。そののちてんでにひをとぼして
みたまへば、かしらはさる、むくろはたぬき、をはくちなは、あしてはとらのごとくにて、なきごゑぬえにぞにたり
ける。きたいふしぎのものなりけり。ごなうやがておこたらせたまひけり。しゆじやうぎよかんのあまりに、ししわうとまをす
ぎよけんを、よりまさにこそくだされけれ。らいちやうのさふたまはり、ついでごてんのきざはしを、なからばかりおりくだ
らせたまひて、よりまさにたまはしける。ころはうづき十かあまりのことにてもやさふらひけん、ほととぎすくもゐに二こゑ三こゑおと
づれてすぎければ、やがてさだいじんどの、
ほととぎすなをもくもゐにあぐるかな
とおほせられかけたりければ、よりまさかしこまつてうけたまはり、もとよりこのむことなれば、つきをそばめにかけて、
ゆみはりづきのいるにまかせて
とつかまつて、ぎよけんをたまはつてまかりいづ。そののちくだんのへんげのものをば、うつぼふねにいれて、にしのうみへぞ
ながされける。そのときのけんしやうには、たんばの五かのしやうをぞたまはりける。また二でうのゐんのぎよう、おうはうのころかとよ、
ぬえとまをすけてうが、よなよなぢんとうにないて、しばしばしんきんをなやましたてまつる。せんれいにまかせて、またよりまさを
P212
ぞめされける。よりまさまをしけるは、げんぺいりやうけのうちより、めしぬかれてまゐること、みのめんぼくとはまをしながら、いお
ふせんことふぢやう、いそんぜむことはけつぢやうなり、ただいまいそんずるほどならば、ゆみきりをつてさんりんにまじはるべし、さる
にても八まんだいぼさつあはれみをたれさせたまへと、しんちうにきせいして、またなんでんにしこうす。ころはさつきはつか
あまりのことなれば、さみだれさへにかきくれて、めざすともしらぬやみなるに、くだんのけてうが、ただ一こゑおと
づれて、二こゑともなかざれば、いづくにありともしりがたし。すがたもかたちもみえざれば、いづくをやつぼと
さだめがたし。よりまさはかりごとに、かぶらをとつてうちつがひ、よつぴいてひやうといる。ぬえかぶらのおとにおどろ
いて、こくうにしばらくひひめいたり。つぎにこかぶらをとつてうちつがひ、よつぴきしばしたもつて、ひい
ふつとぞいおとしたる。ごなうやがておこたらせたまひけり。しゆじやうぎよかんのあまりに、ぎよいを一りやうよりまさにこそくだ
されけれ。こんどはおほゐのみかどのうだいじんきんよしこうたまはりついで、ごてんのきざはしを、なからばかりおりくだらせたまひ
て、よりまさにうちかづけさせらるとて、むかしのやうゆうはくものほかなるかりをい、いまのよりまさはあめのなかにぬえをいえた
りとぞおほせける。やがてうだいじんこう、
さつきやみなをあらはせるこよひかな
とおほせられかけたりければ、よりまさかしこまつてうけたまはり、
たそがれどきもすぎぬとおもへば
とつかまつて、ぎよいをたまはつてまかりいづ。よりまさゆみやをとつててんがになをあぐるのみならず、かだうのか
P213
たにも、いうにやさしかりけりと、きんちうさざめきあへり。そのときのけんじやうには、わかさのとうのみやかはをぞたまはりけ
る。そもそもこのよりまさのきやうとまをすは、つのかみよりみつに五だいのまご、さきのみかはのかみよりつなのまご、ひやうごのかみなかまさのあそんのこなり
けり。はうげんにまつさきかけたりしかども、させるごおんにもあづからず、へいぢにおほくのしんるゐをすててみかた
にまゐりたりしかども、おんじやうこれおろそかなり。ぢうだいのしよくなれば、おほうちのしゆごうけたまはつてとしひさし。されどもしよう
でんをばゆるされざりしかば、はるかにとしたけよはひかたぶいてのち、じゆつかいのわか一しゆよみてこそ、しようでんをもゆる
されたりしか。
ひとしれずおほうちやまのやまもりはこがくれてのみつきをみるかな
とつかまつつて、四ゐしてしばらくさふらひけるが、また三ゐをこころにかけて、
のぼるべきたよりなければこのもとにしひをひろひてよをわたるかな
とつかまつつて三ゐになされ、しゆつけしてほうみやうじやうれんとぞまをしける。たんばの五ケのしやう、わかさのとうのみやかは、いづのくにを
もちぎやうして、しそくなかつなずれうになし、さてあるべかりしひとの、よしなきむほんおもひたち、みやをもあへな
ううしなひたてまつり、わがみもしそんことごとくほろびぬるこそあさましけれ。

平家物語(城方本・八坂系)
巻第五 P214
都遷 501
ぢしよう四ねん・六ぐわつ三かのひ・にふだうしやうごくの・としごろしつして・かよはれし・ふくはらへ・みやこうつりし・あるべしとぞ・きこ
えしかねては・三かとさだめられたりしかども・いま一にちひきあげて・二かのひの・うのこくに・ぎやうかうなる・しゆじやうえう
しゆのときの・ごどうよには・ぼこうとて・ははのきさきの・まゐらせたまふことなるに・こんどは・そのぎなし・へいだいなごんとき
ただのきやうの・きたのかた・そちのすけどのぞ・ごどうよには・まゐられける・おなじき三かのひ・ふくはらへ・いらせたまふ・にふだう
のおとと・いけのちうなごんよりもりのきやうの・しゆくしよ・くわうきよになる・おなじき四かのひ・いへのしやうとて・ぢもくおこなはれける・
よりもりのきやう・じやうニゐしたまふ・九でうどののおんこ・うたいしやうよしみちのきやう・こえられさせ・たまひけり・むかしより・せうろくの
きんだちの・ぼんにんに・かかい・こえられさせ・たまふこと・これはじめとぞ・うけたまはる・さるほどに・ほうわうは・じやうなんのり
きうに・おしこめられて・わたらせたまひたりしを・さきのうたいしやうむねもりのきやう・をりふし・まをされしによつて・と
ばどのをば・いだしたてまつつて・八でうからすまるの・びふくもんゐんのおんまへへ・いれたてまつりたりしが・こんどは・たかくらのみやの・ご
むほんによつて・ふくはらへ・ごかうなしたてまつり・四めんに・はたいたおし・くちひとつある・三げんのいたやを・つくつて・P215
おひこめたてまつつて・おきたてまつり・しゆごのぶしには・はらだの・たいふ・たねなほばかりぞ・さふらひける・わらべどもは・ふく
はらの・ろうの・ごしよとぞ・まをしける・きくも・よにおそろしう・あさましかりしおんことなり・さるままには・ほうわう
ばんきのおんまつりごとをば・つゆしろしめさず・ただやまやま・てらでら・しゆぎやうして・こころのままに・なぐさまばやとぞ・おほせ
ける・にふだうしやうごくの・あくぎやうに・おいては・はやみなきはまりぬ・くわんぱく・ながしたてまつつては・むこをくわんぱくに・おしな
し・あまつさへ・一ゐんだい二のおんこ・たかくらのみやをば・ここのへのうちを・おひいだしたてまつつて・うしなひたてまつる・のみならず・ぼん
にんにさへ・なしまゐらせぬる・ことこそ・くちをしけれ・いまのこるところとては・みやこうつしは・これせんしよう・なきにあら
ず・じんむてんわうは・ぢじん五だいのみかど・ひこなぎさたけうがやふきあはせずのみことの・だい四のわうじ・おんははは・たまよりひめ・てんじん
七だい・ぢじん五だい・かみのよ・十二だいのあとを・うけ・にんだい百わうの・ていそなり・かのとのとりのとし・ひうがのくに・みやさきの
こほりにして・くわうわうのはうそを・つぎ・五十九ねんと・いつし・つちのとのひつじのとし・十ぐわつに・とうせいして・このごろ・やまとの
くにと・なづけたり・とよあしはらの・なかつくにに・とどまつて・うねびの・やまを・てんし・きうと(イ帝都)を・たて・かし
はらのちを・きりはらうて・きうしつを・つくりたまふ・これを・かしはらのみやとは・なづけられけり・しかしよりこのかた・よよのみ
かどの・みやこを・たこく・たしよへ・うつさるること・三十どにあまり・四十どに・およべり・じんむてんわうより・けいかうてん
わうまで 十二だいは・なほ・おなじきくに・こほりこほりに・みやこをたてて・たこくへはうつされず・しかるを・せいむてんわうぐわんねん
に・あふみのくにに・うつつて・しがのこほりに・みやこをたつ・ちうあいてんわうニねんに・ながとのくににうつつて・とよらのこほり
に・みやこをたつ・そのくにの・かのこほりにして・みかど・かくれさせたまひしかば・きさき・じんぐうくわうごう・によたいとして・おんP216
ゆづりを・うけさせたまひ・しんら・はくさい・かうらい・けいたんを・はじめとして・いこくのいくさを・たひらげさせ・たまひて・その
のちわがてう・ちくぜんのくに・三かさのこほりにして・わうじ・ごたんじやうあり・それよりしてぞ・そのところを・うみのみやとも・まをす
なり・みくらゐののちは・おうじんてんわうとも・まをしき・かけはくも・かたじけなく・まします・やはたのおんことこれなり・
にんとくてんわうぐわんねんに・つのくに・なにはに・うつつて・たかつのみやに・すみたまふ・りちうてんわうニねんに・なほ・やまとの
くにに・うつつて・とをちのさとに・すみたまふ・はんぜいてんわうぐわんねんに・かはちのくにに・うつつて・しばがきのさとに・みやゐ・し
たまふ・いんけうてんわう四十二ねんに・なほ・やまとのくにに・うつつて・とぶとりの・あすかのみやに・すみたまふ・ゆうりやくてんわう
廿一ねんに・なほ・おなじきくに・はつせ・あさくらに・みやこをたつ・けいたいてんわう五ねんに・やましろのくに・つづきに・うつつ
て・十二ねん・そののち・おとくにに・すみたまふ・せんくわてんわうぐわんねんに・なほやまとのくにに・うつつて・ひのくまの・いるののみや
に・すみたまふ・きんめい・びだつ・ようめい・しゆじゆん・すゐこ・じよめい・くわうきよくまで・七だいは・なほ・おなじきくにに・みやこをた
てて・たこくへは・うつされず・しかるを・かうとくてんわう・たいくわぐわんねんに・つのくに・ながらに・うつつて・とよさきのこほり
に・みやこを・たつ・さいめいてんわうニねんに・なほ・やまのとのくにに・うつつて・をかもとのみやに・すみたまふ・てんぢてんわう・六
ねんに・あふみのくにに・うつつて・おほつにみやを・つくりたまふ・てんむてんわう・ぐわんねんに・なほ・やまとのくにに・かへつて・
をかもとの・みなみのみやに・すみたまふ・ぢとう・もんむ・二だいのせいてうは・なほ・おなじきくに・ふぢはらのみやに・すみたまふ・げんめい
げんせい・しやうむ・かうけん・はいたい・せうとく・くわうにんまで・七だいは・なほおなじき・くに・ならのみやこに・すみたまふ・しかるを・くわん
むてんわう・えんりやく三ねん・十一ぐわつついたちのひ・ならのきやう・かすがのさとより・やましろのくに・ながをかのきやうに・うつつて・十P217
ねん・このみやこに・すみたまふ・おなじきえんりやく十三ねん・しやうぐわつの三かのひ・だいなごん・ふぢはらのをぐろまる・さんぎさだんべん・き
のこさびを・つかはして・たうごくかどののこほり・うだのむらを・みせしむるに・りやうにんともに・そうして・いはく・この
ちのていを・みさふらふに・さしやうりう・うびやつこ・ぜんしゆじやく・ごげんむ・四じんさうおうのちなり・もつとも・ていとを・もとむるに・た
れり・よりておとくにのこほりに・おはします・かものだいみやうじんに・まをさせたまひて・おなじきえんりやく十三ねん・十一ぐわつ廿かのひ・
ながをかのきやうより・いまの・へいあんじやうに・うつつて・ていわう卅ニだい・せいさう・三百八十よさいの・しゆんじうを・おくりむか
へてぞ・ましましける・しかつしより・このかた・よよのみかどの・みやこを・たこく・たしよへ・うつされしかど
も・かかる・しようちは・いまだなしとて・くわんむてんわう・ことにしつし・おぼしめして・まづ・ちやうきうなるべき・じゆつ
とて・だいじん・くぎやう・しよだうの・さいじんに・おほせて・つちにて・八しやくの・ひとがたをつくらせ・くろがねのかつちうを・きせ・お
なじう・くろがねのきうせんを・もたせて・ひがしやまのみねに・にしむきに・たててぞ・うづませられける・これはすゑのよに・
このみやこを・たこくへ・うつすもの・あらば・かならずしゆごじんと・なるべしとの・おんやくそくありけり・されば・てん
がに・ことの・いでこんとては・このつかかならず・めいどうす・しやうぐんがつかとて・いまにあり・くわんむてんわうは・へいけの
なうそにてぞ・ましましける・へいあんじやうと・なづけては・たひらかにやすき・みやこと・かけり・もつともへいけのあがむべ
きみやこぞかし・さがのてんわうのおんとき・へいぜいのせんてい・よをみだらむと・せさせたまひしに・みやこを・たこく・たしよへ・
うつさんと・せさせたまひしとき・だいじん・くぎやう・しよこくのじんみん・ことごとくおこつて・そむき・まをせしかば・つひに・うつさ
れで・やみにき・かたじけなくも・いつてんのきみ・ばんじようの・あるじだにも・たやすく・うつしえたまはぬ・みやこを・なんP218
ぞ・だいじやうのにふだう・じんしんのみとして・たやすくうつされけるこそ・ふしぎなれ・いかさまにも・これはしよこくのい
ぞく・せめのぼり・へいけ・みやこのうちを・おひいだされ・さんりんにまじはるべき・ぜんぺうかとぞ・じやうげささやき・あへりける・
あはれきうとは・めでたかりし・みやこぞかし・わうじやうしゆごのちんじゆは・四はうにひかりをやはらげ・れいげんしゆしようのてらでら
は・じやうげにいらかを・ならべたり・はくせい・ばんみん・わづらひなく・五き・七だうも・たよりあり・ひとびとのいへいへをば・か
もがは・かつらがはに・こぼちいれ・いかだにくみ・うかべ・しざい・ざふぐを・ふねにつみて・ふくはらへはこびくだされ・たりければ・
はなのみやこも・ただなりに・ゐなかと・なるこそ・かなしけれ・つじつじほりきり・さかもぎ・ゆひふさぎ・たりけれ
ば・くるまなんどの・わのかよふこともなし・たまたま・ゆくひとは・みなをぐるまにのつて・みちを・へて・こそ
とほられけれ・またなにものがしたりけん・ふるきみやこの・だいりのはしらに・二しゆのうたをぞ・かきける・
ももとせをよかへりまでにすぎきにし・をたぎのさとのあれやはてなむ・
さきいづるはなのみやこをふりすてて・かぜふくはらのすゑぞあやうき・
されども・ふくはらには・しんとの・ことはじめ・あるべしとて・ぶぎやうのべんには・くらんどのさせうべんゆきたかとうの・うちうべん
みつまさ・くわんにんども・あひぐして・たうごくわだの・まつばらの・にしののをてんし・ここのへのちを・わられけるに・一でうよ
りはじめて・五でうまでは・ありしかども・それより・しもは・なかりけり・ぎやうじくわん・かへりまゐつて・このよしを・
そうし・まをしたりければ・さらば・はりまのいなみのか・なほたうごく・こやのか・なんど・さたありしかども・と
みに・ことゆくべしとも・みえざりけり・きうとは・すでに・うかれぬ・しんとは・いまだ・ことゆかず・ありとし・P219
あるひと・みなみを・うきぐもの・まよひと・なし・もと・そのところに・すむひとは・ちをうしなつて・うれ
へ・いまうつりくるひとは・みな・どぼくの・わづらひをぞ・なげかれける・なかにも・つちみかどの・さいしやうのちう
じやうみちちかのきやうの・まをされけるは・いこくには・三でうのくわうろを・ひらいて・十二のとうもんをたつと・いへり・いはんや
わがてうに・五でうまで・あらむみやこに・などか・だいりを・たてざるべきとて・五でうの・だいなごんくにつなのきやうの・
りんじに・すはうのくにを・たまはつて・さとだいり・つくらせらる・このくにつなのきやうとまをすは・ならびなき・だいふくちやうじやに
て・おはしければ・さとだいりざうしんせらるべきこと・さうにおよばすとは・まをしながら・まづさしあたつて・おこな
はるべき・ごけい・だいじやうゑをば・さしおかれて・かかる・よのみだれのなかに・せんとざうだいり・すこしも・さうおう
せず・いにしへの・かしこかりける・みよには・だいりをば・かやにて・ふき・のきをだにも・あらためられず・
たみのかまどの・ともしきをごらんじては・かぎりある・みつぎものをも・ゆるされけり・これひとへに・くにを・た
すけ・たみをはごぐむに・よりてなり・かのたうのげんそうの・りさんきうを・つくられしには・かはらにまつおひ・かきに・こけむす
まで・りんかう・なかりけるには・さうゐかな・しよしやう・くわたいをたて・れいみんあらけ・じんあはうのでんを・おこして・
てんがみだるとも・いへり・ばうしきらず・さいてんけづらず・しうしやかざらず・いふくあやなかりける・よも・ありける
ものを・おそろしおそろしとぞ・ひとまをしける
月見 502 P220
おなじき八ぐわつ八かのひ・ふくはらには・しんとの・ことはじめあつて・おなじき・十ぐわつ十かのひ・おんむねあげとぞ・きこえし・きう
とは・あれゆけば・いまのみやこは・はんじやうす・あさましかりし・なつもすぎ・あきも・なかばに・なりにけり・ふくはら
に・おはしける・ひとびとは・めいしよのつきを・みむとて・あるひは・げんじのたいしやうの・むかしのあとを・たづねつつ・す
まより・あかしのうらづたひ・しらく(イ白浦)ふきあげ・わかのうら・すみよし・なにはえ・たかさごをのへのつきの・あけぼのを・な
がめてかへる・ひともあり・きうとにのこるひとびとは・ふしみ・ひろさはの・つきをみる・なかにも・ふくはらにおはしける・ご
とくだいじのさたいしやう・じつていのきやうは・きうとのつきをみんとて・にふだうしやうごくに・いとまこひ・八ぐわつ十かあまりに・ふるきみやこ
へ・かへりのぼられけるが・みちすがらも・めいしよめいしよのつきをみる・すずめのまつばら・みかげのまつ・いくたこやのの・つき
をみる・くもゐにさらす・ぬのびきの・これや・この・もとめづかと・なづけしは・かのしまの・ほとりなり・こひゆゑみをうしなひ
し・二にんのをとこの・はかとかや・ゐなのみなとのあけぼのに・きりたちわたる・なにはがた・をとこやまのつきかげは・いはしみづにや・
やどるらん・むつだのよはの・むしのねに・いなばに・そよぐ・かぜのおと・あきのやまの・もみぢのいろ・こころをく
だく・たよりとなる・たいしやうきうとに・かへり・みたまへば・ひとびとのいへいへをば・さんぬる・なつ・かもがは・かつらがはに・
こぼちいれ・いかだにくみうかべ・しざいざふぐを・ふねにつみて・ふくはらへはこび・くだされたりければ・たまたまのこ
る・いへいへは・もんぜんくさふかく・ていじやうつゆしげく・よもぎが・そま・あさぢがはら・とりのふしどと・あれはてて・ただ・
きぎく・しらんの・のべとぞなりにける・いまふるき・みやこのおんなごりとては・おんいもうとこんゑがはらの・おほみやのごしよ
ばかりなり・たいしやうかれへ・まゐらせたまひて・ずゐじんをもつて・そうもんを・たたかせらるれば・うちよりにようばうのP221
こゑにて・たそやこのよもぎふの・つゆうちはらふひとだにも・まれなるところにと・とがむれば・これは・ふくはらより・たい
しやうどのの・おんまゐりにてさふらふと・まをす・ささふらはば・そうもんは・ぢやうが・さされて・さふらふぞ・ひがしのこもん
より・まゐらせたまふべしと・まをしたりければ・たいしやうさらばとて・ひがしのもんよりぞ・まゐられける・をりふしおほみやは・
つきにめでさせ・たまひて・みなみの・だいにして・おんびは・おんばちのおと・あざやかにこそ・あそばされけれ・かの
げんじの・うぢのまきには・うばそくのみやの・おんむすめ・あきのなごりを・をしみつつ・びはをしらべて・よもすがら・おん
こころをすまさせ・たまひしに・ありあけのつきの・やまのはより・いでけるを・なほ・たへず・やおぼしめされけむ・
ばちして・まねかせたまひしも・いまこそ・おぼしめししられけれ・おほみや・おんばちさしをさめさせ・たまひて・い
かにや・たいしやうこれへこれへと・おほせければ・たいしやうごぜんちかうまゐらせたまひて・ややはるかに・おんものがたりあり・そののち・たい
しやう・まつよひのこじじうを・よびいださせ・たまひて・むかしいまのことどもを・よもすがら・かたりぞ・あかさせたまひける・
そもそもこのまつよひのこじじうとまをすは・あるとき・おほみや・じじうをめして・まつよひと・かへるあしたは・いづれかはと・おほせ
ければ・じじうとりあへず・
まつよひのふけゆくかねのこゑきけば・あかぬわかれのとりはものかは
と・まをしたりけるによつてこそ・まつよひのこじじうとは・めされけれ・そののちたいしやう・はるかによふけ・ひとしづ
まつて・のち・やうでうねとり・さうさうかれなんとす・むしのおもひ・ねんごろなりといふ・らうえいして・
ふるきみやこの・あれゆくやうを・いまやうにこそ・うたはれけれ・P222
ふるきみやこをきてみれば・あさぢがはらとぞ・あれにける・
つきのひかりはくまなくて・あきかぜのみぞ・みにはしむ・
と・これを・二三どうたひ・すまされたりければ・おほみやをはじめまゐらせて・じじういげのにようばうたち・みなそでをぞぬ
らされける・あけければたいしやういとままをして・ふくはらへこそ・くだられけれ・じじう・たいしやうのおんなごりを・をしみたてまつつ
て・くるまよせまで・たちいで・おんうしろをはるばるとみおくりたてまつり・なみだをおさへてとどまりけり・たいしやうおんともにめしぐせら
れたりける・くらんどをめして・じじうがなにとおもひてやらむ・よにもなごりをしげにみえつるに・なんぢゆきて
なにともよきやうに・いひてこよかしとおほせければ・くらんどはしりかへり・これは・たいしやうどののまをせとさふらふとて
ものかはときみがいひけむとりのねの・けさしもなどかこひしかるらん・
じじうとりあへず
またばこそふけゆくかねもつらからめ・あかぬわかれのとりのねぞうき・
くらんどかへりまゐり・このよしをまをしたりければ・さればこそ・なんぢをばつかはしたりつれとて・たいしやうおほきのかんぜら
れけり・それよりしてこそ・ものかはのくらんどとは・めされけれ
物怪 503
にふだうしやうごくの・みやこうつりののちは・ゆめみも・あしう・またふしぎのことども・おほかりけり・たとへば・そのころ・にふだうP223
しやうごくの・すまれける・つぼのうちに・ひさうして・うゑさせられける・五えふのまつの・一やの・うちに・かれにけるこ
そ・ふしぎなれ・またうしろなる・まつやまのかたには・ひとならば・四五百・千にんばかりの・こゑにて・たいぼくをた
をすが・やうに・一どにどつと・わらふこゑしけり・にふだうひきめのばんと・なづけて・ひる卅にん・よる六十にんの
ひやうしを・すゑて・ひきめかぶらを・いさせられけるに・いおふせたるかと・おぼしきときは・おともせず・またそ
ぞろなるかたへ・いやつたるかと・おぼしきときは・一どにどつとぞ・わらひける・またにふだうしやうごくの・ちやうないには・
一まに・はばかるほどのものの・おもてが・いできて・にふだうしやうごくをにらみたてまつる・にふだうもさる・おそろしき・ひと
にて・おはしければ・すこしもさわがず・にらまれけるに・しにん・わらうて・うせにけり・あるときの・ふたあさ・
にふだう・ちうもんのらうに・いでたまひ・六ゐやさふらふ六ゐやさふらふと・めされけれども・をりふしひと・一りもさふらはざりけるに・つね
の・つぼのうちを・みやりたまへば・しやれたる・かうべが・四五百・千ばかり・みちみちて・はしなるが・なかへ
いり・なかなるが・はしへいで・うへなるが・したになり・したなるが・うへへあがり・たがひに・ころびあひ・ころ
びのき・がらめきけるが・さるかと・すれば・ひとつになつて・十ぢやうばかりに・そびえあがる・ときもあ
り・またちつとに・なるときもあり・千万のまなこをもつて・にふだうしやうごくを・にらめたてまつる・たとへば・にふだうも・せけん
に・わらはべのめくらべ・なんどを・するがやうに・またたきもせず・にらまれければ・つゆしものひに・あた
つて・きゆるが・ごとくに・あとかたもなうぞ・うせにける・またにふだうしやうごく・十四五六のわらはべを・三百よにん
めしあつめ・かぶろとなづけて・めしつかはれけるなかに・てんぐ・まぎれて・あそびけり・またにふだうしやうごくの・ひさうP224
して・なでかはれける・むまのをに・ねずみすをくひ・一やのうちに・こをうみにけるこそ・ふしぎなれ・
このむまはとうごく・さがみのくにのぢうにん・おほばの三らうかげちかが・もとより・八ケこく一の・めいばとて・まゐらせたりけるが・
くろきむまの・ひたひすこし・しろかりければ・もちづきと・なづけて・なのめならず・ひさうして・なでかはせられける・
むまのをに・ねずみすをくひ・一やのうちに・こをうみければ・これただごとに・あらずとて・八にんのはかせを・め
して・うらなはせらる・てんがの・さわぎと・うらなひまをす・やがてこのむまをば・あべのやすちかたまはりけり・むかしてんぢてん
わうのおんとき・れうのおんむまのをに・ねずみすをくひ・一やの・うちにこを・うみに・けるにも・てんがおだやかならずと
ぞ・にほんぎには・しるされたる・またふるきみやこに・おはしける・げんちうなごんがらいのきやうのもとに・さふらひけるせいし
が・みたりしゆめこそ・なによりも・ふしぎなれ・たとへば・たいだいの・じんぎくわんのへんを・とほると・おぼしき
に・そくたいしたまひたる・じやうらふの・いくらも・なみゐさせたまひて・ぎぢやうなんどの・ありけるを・なにごと
やらむと・たちとまつて・きくほどに・なかにも・ざじやうに・おはします・じやうらふの・ゆゆしう・けだかき・おんこゑに
て・このほど・へいけに・あづけおきたる・せつばかりを・めしかへし・いづのくにのるにん・さきのうひやうゑのごんのすけよりともに・た
ばんとぞ・おほせける・またまつざに・おはします・じやうらふの・へいけの・かたうどしたまふと・おぼしきを・おつたてらる
ると・みまをして・あけてのち・ひとに・かたるほどに・このことふくはらへ・きこえたり・にふだう・がらいのきやうのもとへ・ししや
を・たてて・それにゆめみの・をとこのさふらふなり・たまはつてゆめのやう・あひたづねさふらはんと・のたまひ・つかはされたり
ければ・このをとこ・あしかりなんとや・おもひけむ・やがてちくでん・してんげり・がらいのきやう・まつたう・さるP225
きよじを・ぢんじまをされたりければ・このうへは・にふだうちからおよばずとぞ・のたまひける・にふだうしやうごくの・いまだその
ころ・あきのかみたりしとき・いつくしまのだいみやうじんより・れいむかうふり・うつつに・たまはられたりける・しらえの
こなぎなた・つねのまくらを・はなたず・たてられたりけるが・にはかに・うせにけるこそ・ふしぎなれ・なかにも・かう
やのおやまに・おはしける・さいしやうのにふだうなりより・このよしを・つたへききたまひて・すはすは・へいけのうんめいは・すゑになり
ぬるは・なかにもざじやうに・おはします・じやうらふの・このほど・へいけに・あづけおきたる・せつどを・めしかへし・いづ
のくにのるにん・さきのうひやうゑのごんのすけよりともに・たばんと・おほせのわたらせたまふは・げんじのうぢがみ・しやう八まんだいぼさつ
にてぞ・わたらせたまふらん・またまつざに・おはします・じやうらふの・へいけのかたうど・したまふと・おぼしきを・おつ
たてらるると・みまをしたるは・へいけのうぢがみ・あきのいつくしまの・だいみやうじんにてぞ・わたらせたまふらん・いつくしまのだいみやう
じんは・しやからりうわうの・だい三のひめみや・たいざうかいのすゐじやくにて・によしんとこそ・うけたまはりつるに・さやうに・ぞくたいに
て・みえさせたまひけるこそ・ふしぎなれ・ただしこのおんかみは・三めい六つうを・えさせたまひたんなれば・もし・
さやうの・おんことにも・どうしんしたまへるに・こそと・ありがたかりし・おんことなり・うきよをいとひ・まことのみちに・
いるひとも・ぜんせいを・きいては・よろこび・なげきを・きいては・かなしめり・ふかきやまに・いりたまひしより
このかた・一かう・ごせぼだいの・つとめのほかは・たじやは・あるべきなれども・そのときより・をりにしたがふ・ならひと
て・かやうのことをも・のたまひけり・へいけ・よをとつて・廿一ねん・たのしみ・さかえは・むかしも・いまも・た
めし・すくなかりしことどもなり・されども・ほういつじやけんに・おはしければ・いまはせつどをも・めしかへさせたまふに・P226こそと・あはれなれし・ことどもなり
大場がはや馬(あひ) 504
おなじき九ぐわつニかのひ・とうごく・さがみのくにのぢうにん・おほばの三らうかげちかが・もとより・はやむまを・たてて・へいけへ・まをし
けるは・いづのくにのるにん・さきのうひやうゑのごんのすけよりとも・しうとほうでうの四らうときまさを・いんぞつして・つがふそのせい・五十
よき・さんぬる・八ぐわつ十七にちのよ・たうごくのもくだい・いづみのはんぐわんかねたかをやまきがたちにて・ようちに・しぬ・おなじき
二十かのひ・さがみのくにに・うちこえ・どひ・つちや・をかざきの・ものども・三百五十よきにて・いしばしのじやうに・たて
こもりさふらひぬ・おなじきニ十二にちに・かげちか・むさし・さがみ・二ケこくの・ぐんびやう・三千よきを・あひぐして・いしばしのじやう
におしよせ・さんざんに・せめたたかひさふらふほどに・よりとも・いくさに・うちまけ・しゆじう・七八きに・うちなされ・どひの・すぎ
やまに・にげかくれさふらひぬ・おなじき廿四かに・みうらのおほすけが一たう・五百よきにて・げんじがたす・はたけやま・五百
よきにて・ゆゐこつぼにて・かつせんす・はたけやま・いくさにうちまけ・むさしのくにに・ひきしりぞきさふらひぬ・なほ・はたけやま・はらを
たて・えど・かさい・しながはのものども・三千よきを・ひきぐして・おなじき廿六にちに・三うらきぬがさのじやうに・おしよせ・
さんざんにせめたたかひさふらふほどに・おほすけうたれさふらひぬ・こどもまごどもは・三百よきに・うちなされ・三うらくりばまよりふね
にとりのり・ひやうゑのすけが・あとをたづねてあはかづさへ・わたりぬとこそ・たてたりけれP227
朝敵揃 505
そのころふくはらに・さふらひける・へいけのさむらひども・このよしを・ききて・あはれさらば・げんじが・とうして・よせこよかし・
われうつてに・むかはんなんど・いふぞ・はかなき・そのころふくはらに・さふらひける・とうごくのだいみやうには・はたけやまの
しやうじしけよし・おととをやまだのべつたうありしげ・うつのみやのさゑもんともつななり・にふだうかれらをめして・のたまひけるは・なんぢらが
こども・とうごくに・あんなれば・げんじに・さだめて・どうしんするらん・なと・のたまへば・これらかしこまつて・まをしけるは・
ほうでうは・したしうなつてさふらへば・さやうの・おんこともやさふらふらん・そのほかのものどもは・まつたう・さなきよしを・
ちんじまをしたりければ・にふだうさらば・きしやうもんに・およぶべかしと・のたまへば・おのおのかしこまつてうけたまはり・くまののごわうを
まをしおろし・七まいのきしやうもんを・かいて・たてまつる・げにもと・まをすひともあり・いやいやこのこと・だいじにや・およばんず
らんと・ささやくものも・おほかりけり・にふだうかさねて・のたまひけるは・そもそもかの・ひやうゑのすけよりともと・いつぱ・さんぬ
るへいぢに・ちちよしともが・むほんによつて・いけどりに・せられ・すでにちうせらるべかりしを・こいけのぜんにの・を
りふし・のたまひしに・よつてこそ・しざいを・るざいに・しよするところなれ・いつしか・そのおんをわすれて・たうけに・
むかつて・ゆみを・ひき・いかでか・やをも・はなつべき・たうじこそ・わうゐもむげに・かるけれ・むかしは・
せんじを・むかへて・よみしかば・かれたる・くさきにも・ははり・はなさき・とぶとりも・したがひ・たてまつりたりしが・
むかしえんぎのせいだい・しんせんゑんに・ごかうなつて・いけの・みぎはに・さぎの・さふらひけるを・くらんどをめして・あP228
のさぎ・とつて・まゐらせさふらへと・おほせければ・くらんど・いかで・とるべきとは・おもひけれども・りんげんなれば・
まかりむかふ・さぎはね・つくろひを・して・たたんとす・くらんど・いかに・せんじぞ・まかりたつなと・い
はれて・さぎ・ひらみて・とびさらず・くらんどかれを・いだいて・おんまへへ・まゐりたりければ・みかど・なのめな
らず・ぎよかんあつて・なんぢが・せんじに・したがひ・まゐらせて・まゐりたるこそ・しんぺうなれ・やがて五ゐに・なせ
とて・五ゐに・なさる・けふよりのち・さぎのうちの・わうたるべしと・いふ・おんふだを・あそばして・さぎの・
くびにかけて・はなたせ・おはしましけり・まつたうこれは・さぎの・ごようには・あらず・ただ・わうゐの・
ほどを・しろしめされむが・ためなりき・それ・てうてきのはじめには・きのくに・なぐさのこほり・たかをのむらに・一のつちぐも
あり・あしてながく・みみじかく・ちからひとに・すぐれたり・じんみんおほく・がいせられしかば・くわんぐんはつかうし・
かづらの・あみを・むすびつつ・せんじを・よみかけて・つひにこれを・おほひ・ころす・しかつしより・この
かた・やしんを・さしはさむもの・おほいしのやままろ・おほやまのわうじ・おほともの・まとり・もりやのだいじん・そがの・い
るか・やまだ・いしかは・ぶんやのみやだ・おほやの・さゑもん・だざいのだいにひろつぐ・さだいじんながや・うだいじんとよなり・ゑ
みのだいじんおしかつ・いがみの・くわうぐう・さあらのたいし・たちばなのいつせい・ふぢはらの・ちうせい・たひらのまさかど・ふぢはら
のすみとも・あべのさだたふ・むねたふつしまのかみ・みなもとのよしちか・あくさふ・あくゑもんのかみに・いたるまでつがふそのれい・廿よにんなり・
されども・これらは・いつかは・そくわいを・とげたりし・かばねを・りようもんげんじやうの・つちにうづみ・かうべを・ごくもんに
かけられし・ものなりきP229
咸陽宮 506
とほくいてうの・せんじようを・とぶらふに・むかしえんの・たいしたんは・じんのしくわうていに・とらはれて・いましめを・かうぶ
ること・十二ねん・あるとき・たいしたん・しくわうていに・まをしけるは・われにしばらくの・いとまを・たまはれかし・わがふるさと
に・いちにんのらうぼあり・われほんごくにかへつて・いまいちどははを・みむと・まをしたりければ・しくわうてい・おほきに・あ
ざわらつて・なんぢに・いとまたばんこと・むまに・つのおひ・からすの・かしらの・しろくならむを・まつべしとぞ・のたまひける・
ときにたいしたん・てんに・あふぎ・ちにふして・ねがはくは・みやうけんの三ばう・かうかうのこころざしを・あはれませたまひて・むま
につのおひ・からすのかしらしろく・なしたまへ・われほんごくに・かへつて・いまいちど・ははをみむとぞ・いのりける・かの
めうおんだいしは・りやうぜんじやうどに・けいして・ふかうのつみを・いましめ・くしらうしは・だいたうしんたんに・いでて・ちうかうの
みちを・はじめたまふ・みやうけんの三ばう・かうかうのこころざしを・あはれませ・たまふことなれば・むまにつのおひて・きうちうに
きたり・からすのかしら・しろくなつて・ていぜんのきに・いたり・うとう・ばかくの・へんに・おどろき・りんげん・かへらざること
を・しくわうていおぼしめして・たいしたんを・ゆるして・ほんごくへこそ・かへされけれ・しくわうてい・たいしたんをゆるして・
ほんごくへ・かへされけることを・なほやすからず・おぼしめされければ・じんのくにと・えんのくにのさかひに・そこく
と・まをすくにあり・かのくににたいがあり・たいがのうへに・たかきはしあり・すなはちそこくの・はしとぞまをしける・しくわうていかしこ
へ・ひとをつかはして・たいしたんが・わたらんとき・おつべき・はかりごとを・めぐらされ・たりけるを・たいしP230
たんは・ゆめにもしらずして・わたるほどに・なじかは・よかるべき・なかのほどにて・おちに・けり・されども・みづ
にも・おぼれず・しさいなく・むかひのきしに・わたりつつ・たいしたん・おほきに・ふしぎの・おもひを・なし・うしろ
を・かへりみければ・おほきなる・かめの・かふにぞ・のつたりける・これもただ・かうかうの・こころざしの・ふかかりけるに・
よつてなり・たいしたん・これによつて・なほうらみをふくみ・しくわうていにも・したがはずかへつて・しくわうてい・うつべき・は
かりごとをぞ・めぐらしける・しくわうてい・四かいに・せんじを・くだし・たいしたんを・うつべき・はかりごとを・め
ぐらされたりければ・たいしたん・けいかだいじんを・はじめとして・つはものあまた・かたらはれけり・またここに・でんくわうせん
せいと・いへる・つはものあり・けいかかれが・もとにゆきて・かたらはれければ・せんせいがまをしけるは・きりんは千り
をとべりと・いへども・としおいぬれば・どばにも・おとれり・きみはこのみの・わかう・さかんなつし・ことを・
おぼしめして・かやうに・たのみおほせさふらふが・いかさまにも・べちのつはものを・かたらつて・たてまつらむとて・いでけれ
ば・けいか・かれが・そでをひかへて・あなかしこ・このことてんがに・もらしたまふなよと・いひければ・せんせい・
たちかへつて・なによりも・ひとに・うたがはれぬるに・すぎたるはぢはなし・われいはずとも・このこと・てんがに・も
れなば・さだめて・うたがはれなんず・ひとのくちより・もれぬさきに・こころやすう・おもひたまへとて・けいかが・
まえにて・じがいしてこそ・うせにけれ・またここに・はんよきと・まをすつはものあり・これはもと・じんのくにの・ものなりけ
るが・おや・をぢ・きゃうだいを・しくわうていに・ほろぼされて・えんのくにに・にげこもりたり・しくわうてい・四かいにせんじを・
くだして・はんよきが・かうべ・ならびにえんの・さしづもつて・まゐりたらむずる・ものには・五百こんの・きんをあたP231
ふべしと・ふれられ・たりければ・けいか・かれがもとに・ゆいて・われきく・なんぢが・かうべ・五百こんのきんに・
ほうぜられたんなり・まことになんぢ・しくわうてい・ほろぼすべき・こころざしならば・なんぢがかうべ・われにかせ・しくわうの・だいり
に・もつてゆき・えいらんを・へられんとき・つるぎをむねに・ささんは・やすかるべしと・いひければ・はんよき・
をどりあがり・いきをついて・まをしけるは・われ・おや・をぢ・きゃうだいを・しくわうわていに・ほろぼされ・よるひる・これを・おも
ふに・こつずゐに・とほつて・しのびがたし・まことに・なんぢしくわうてい・ほろぼすべきこころざしならば・わが・くび・なんぢに・あたへ
んこと・ちりはひよりも・なほ・やすかるべしとて・けいかがまへにて・みづから・くびかきおとし・うせに・けり・また
ここに・しんぶやうと・まをすつはものあり・これももとは・じんのくにの・ものなりけるが・十三のとし・おやの・かたきをうつて・
えんのくにに・にげこもりたり・かれが・いかつて・むかふときは・だいのをとこも・ぜつじゆし・またわらうて・むかふときは・み
どりごも・いだかれけり・かれに・はんよきが・くびを・もたせ・わがみは・えんのさしづの・いりたりける・
ひつを・もつて・じんのくにへぞ・むかひける・さうてん・ゆるしたまはねば・はつこう・ひをつらぬいて・とほさず・され
ば・わがほんい・とげがたしとぞ・たいしたんは・のたまひけるほどなう・じんのくににいたりぬ・はんよきが・かうべならびに・
えんのさしづ・もちて・まゐりたるよしを・そうもんす・しくわうてい・ひとして・うけとらむと・のたまへば・ひとしては・かな
ふまじ・ただちに・たてまつるべきよしを・まをしたりければ・しくわうてい・さらばとて・にはかに・せちゑのぎを・ととのへて・
えんの・つかひをぞ・めされける・かんやうきうと・まをすは・みやこのめぐり・一万八千三百七十よりと・かや・だいりをば・
ちより・三りたかく・つきあげ・くろがねのついぢ・たかさ百よぢやう・はう四十りに・つかせ・そのうちに・つくられP232
たり・あきは・たのむのかり・はるは・かならず・みやこより・こしぢへかへる・ものなれば・ひぎやう・じざいの・さはり
ありとて・ついぢには・がんもんと・いへるもんを・あけてぞ・とほされける・しろがねをもつて・つきを・つくり・
こがねを・もつて・ひを・つくれり・しんじゆのいさご・るりのいさご・こがねのいさごを・しきみてり・ちやうせいでんあり・ふらうもんあり・
四十八でんの・そのうちに・しくわうていの・つねに・すまれける・でんあり・あはうきうとて・くち・六しやくの・あかがねのはしらを・たか
さ・卅六ぢやうに・たてさせ・とうざいへ九ちやう・なんぼく五ちやうに・つくられたり・おほゆかのしたには・五ぢやうの・はたほこ
を・たてたれども・なほ・およばぬ・ほどなり・かしこに・たまの・きざはし・あり・しんぶやう・これを・のぼる
ほどに・おくしてもや・ありけん・ひざのふし・わなわなと・ふるつて・のぼり・わづらふ・しんか・あやし
みを・なし・ぶやうは・むほんのこころざし・あり・きみはけいじんに・ちかづかず・けいじんをば・また・きみのかたはらに・おか
ずと・いひければ・けいかたちかへつて・ぶやうは・むほんのこころざしなし・えんのくにの・いやしきに・ならつて・かかる
くわうきよを・はじめて・みるあひだ・めいわくすと・いはれて・しんか・おのおのしづまりぬ・そののち・はんよきが・かう
べならびに・えんのさしづともに・ひけんせらる・さしづの・いりたりける・ひつのそこに・つるぎの・こほりなんどの・やうに
て・みえければ・しくわうてい・おほきに・おそれをののいて・いそぎ・にげんと・したまひけるを・ぎよいの・たもとを・
むんずと・ひかへたてまつつて・つるぎを・むねにさしあて・たてまつる・すでに・かうとぞ・みえたりける・千万のつはものども
ていじやうにひざをつらねけれどもすくはんとするに・ちからなし・ただこのきみ・ぎやくしんに・をかされたまはんことを・
かなしみけりとぞ・うけたまはる・しくわうていは・三千にんの・きさきを・もちたまへり・そのなかにも・くわやうぶにんとて・ならびなP233
き・ことのじやうずにて・ましましけり・しくわうてい・けいかにむかつて・のたまひけるは・われにへんしのいとまをえさせ
よ・さいあいのきさきの・ことのねを・いまいちど・きかんと・のたまへば・けいかゆるしたてまつる・きさきは・七しやくのびやうぶを・へ
だてて・ことを・しらべ・ましましけり・およそこのきさきの・ことのねには・もののふの・たけく・いかれるも・しづま
り・とぶとりも・おち・くさきも・なびくばかりなり・いはんやけふをかぎり・ただいまばかりの・えいぶんに・そなへむと・し
らべましましければ・さこそは・おもしろかりけめ・けいかも・ぼうしんの・こころうしなひはて・かうべをうなだれ・みみ
を・そばだてて・これをきく・そのとききさき・はじめて・一きよくをそなふ・七しやくのびやうぶはたかくとも・をどらば・こえぬべ
し・一ぢようの・らこくは・つよくとも・ひかば・たえぬべしと・しらべ・ましましけるを・けいかは・これをきき
しらず・しくわうていは・ききしつて・ましましければ・ひかへたりける・ぎよいの・たもとを・ふつつと・ひきちぎ
つて・七しやくのびやうぶを・をどりこえ・あかがねのはしらの・かげに・かくれたまふ・けいか・おほきに・いかつて・つるぎを・なげ
かけたてまつる・をりふし・おんまへにばんのいしの・さふらひけるが・くすりのふくろを・なげかけたり・つるぎくすりのふくろを・かけられなが
ら・くち六しやくの・あかがねのはしらを・なからまでこそ・きつたりけれ・けいかは・つるぎの・あまたもなければ・つづい
ても・なげず・しくわうてい・たちかへり・ひしゆとまをす・ぎよけんを・めしよせて・けいかを・やつざきにこそ・したまひけ
れ・しんぶやうも・うたれにけり・そののちうつてをつかはして・たいしたんをも・ほろぼさる・むかしもいまも・おんをわす
れ・ちぎりをへんぜしものは・つひには・かくこそ・ありしか・さればいまの・ひやうゑのすけも・さこそは・あらんずら
むと・しきだいするひとも・おほかりけりP234
文覚の勧進帳 507
そもそもかのひやうゑのすけよりともといつぱ、おんとし十四とまをしし、えいりやくぐわんねん三月廿日のひ、いづのくにほうでうひるがしまにながされて、
廿よねんのはるあきをおくり、ことしはすでに卅四にぞなられける。としごろひごろもあればこそありけれ、いかなれば
ことししも、かかるむほんをおもひたたれける、ゆゑをいかにとまをすに、ごにちにきこえしは、たかをのもんがくしやうにんの
おんすすめなりけるとぞきこえし。このもんがくしやうにんとまをすは、わたなべのゑんどうさこんのしやうげんたいふもちとほがこに、ゑんどうむしやもり
とほとて、じやうさいもんゐんのしゆなり。しかるにもりとほ十九のとし、あさからずおもひけるをんなにおくれ、けんごのだうしんおこ
して、やまやまてらでらしゆぎやうしけるが、あるときおほみねをぎやうぜばやとおもひ、せんだちかたらうてくまのへまゐり、なちに千
にちこもり、おほみねことゆゑなうぎやうじてのち、さすがこきやうやこひしかりけむ、みやこにのぼり、たかをとまをすところにしばら
くおこなひてぞさふらひける。せんねんたかをに、じんごじとまをすやまでらあり。ひさしくしゆざうなくしてあれはいせり。とびらはかぜに
たふれて、むなしくおちばのしたにくち、のきばはあめにをかされて、ぶつだんさらにあらはなり。もんがくわれたまたまにん
げんにしやうをうけ、さいはひにしゆつけとんせいのみとなれり。あたらしうだうたふをたてんより、ふるきをこんりふしたらむに
はしかじと、たいきやうにもみえたり。せんずるところしゆざうせばやとおもひ、くわんじんちやうをかきて、十ぱうだんなをすすめあ
りきけるが、あるときゐんのごしよほうぢうじどのにまゐり、ほうがのよしをまをしければ、ひとびとけうなるひじりのごばうかな、ぎよいうの
をりふしぞ、わたるにまゐれとおほせければ、もんがくこれはまをせどもひとがそうせぬぞとこころえて、もとよりふてきだい一のあらP235
ひじりにてはさふらひけり。おんつぼのうちにやぶりいつて、だいじだいひのきみにてわたらせたまへば、などかごほうがのな
かるべきとて、ふところよりくわんじんちやうをおつとりいだし、おそろしげなるこゑをもつて、たからかにこそよみたりけれ。
しやみもんがくうやまつてまをす、ことにはじうばうだんなのごじよじやうをかうぶつて、たかをさんのいちに一ゐんをこんりふし、げんたうニ
せあんらくのだいりを、こんぎやうせしめんとこふくわんじんのじやう。
それおもんみれば、しんによくわうだいなり。しやうぶつのけみやうをたつといへども、ほつしやうずゐまうのくもあつくおほひて、はるかに十二いんえんのみね
にたなびきしよりこのかた、ほんうしんれんのつきのひかりかすかにして、いまだ三どく四まんのそらにあらはれず、かなしいかな、
ぶつじつはるかにぼつして、しやうじるてんのちまたみやうみやうたり。いろにふけり、かにほこる、たれかきやうざうてうゑんのまどひを
しやせん。ひとをばうしほふをばうす、あにえんらごくそつのせめをまぬがれんや。ここにもんがく、たまたまぞくぢんをはらひて、
ほうえをかざるといへども、あくぎやうなほこころにたくましくしてにちやにうつり、ぜんいんまたみみにさかつててうぼにすたる、いたましいかな、ふたたび
さんづのくわきようにかへつて、かさねてしやうじのくりんをめぐらんことを、このゆゑにむにのけんしやう千万ぢく、ぢくぢくにぶつしゆの
いんをあらはし、ずゐえんししやうのほふ、みなもつてぼだいのひがんにいたらずといふことなし。ゆゑにもんがくむニのくわんもんになみだをおとし、
じやうげしんぞくのけちえんをもよほし、じやうぼんれんだいにふをはげまして、とうめうかくわうのれいぢやうをたてんとなり。それたかをさんは、やま
うづたかうしてしゆぶのやまのこずゑをまなび、たにしづかにしてしやうさんとうのこけをしく。がんせんむせんでぬのをひき、れいゑんさけんでえだ
にあそぶ。じんりとほくしてがうぢんなく、しせきことなうしてしんじんのみあり。ちけいすぐれたり。もつともぶつてんをあがむべ
し。ほのかにきくしゆさゐぶつたふくどく、たちまちにぶついんをかんず、いはんやいつしはんせんのほうさいにおいてをや。ねがはくはこんりふじやうじゆして、きんP236
けつほうれきごぐわんゑんまん、ないしとひゑんきんりんみんしんそ、ともにげうしゆんぶゐのくわをうたひ、ちんえふさいくわいのゑみをひらか
ん。かねてまたしやうりやういうぎぜんごだいせう、ともにいちぶつしんもんのだいにいつて、おなじく三(イ三身)万とくのつきをもてあそばんや。
よりてくわんじんしゆぎやうのおもむきけだしもつてかくのごとし。
ぢしよう三ねん三ぐわつ廿かのひ もんがくほうし
うやまつてまをすとぞよみあげたる。
文覚の流され 508
さるほどに・ほうぢうじどのには・めうおんゐんのだいじやうだいじんもろなが・びは・かきならし・あぜちのだいなごんすけかたのきやう・ひやうしを
うちて・ふぞく・さいばら・うたはれけり・げんせうしやうまさかた・わごんを・しらべ・四ゐのじじうもろさだ・いまやう・と
りどりに・うたうて・たまのすだれも・れいれいと・してまことに・おもしろかりければ・ほうわうも・ぎよかんのあま
り・おんつけうたなんど・さふらひけるに・それに・もんがくが・もつてのほかおほごゑに・てうしも・はやことごとくみだれぬ・ほう
わう・あれなにものぞ・らうぜきなり・つゐほうせよと・おほせくださるる・ほどこそありけれ・あはれなにごとかな・ことにあはば
やと・おもふ・はやりうの・ものども・はしりよりて・いかに・けうのひじり・ぎよいうのをりふしぞ・ごにちにまゐれと・おほせけれ
ば・もんがくあなことごとし・たかをのじんごじに・おいて・くににても・しやうにても・いつしよ・よせたまはざらんほか
は・まつたうまかりいづまじとぞ・まをしける・そののち・すけゆきはんぐわんは・もんがくが・そくび・つかんとて・よりけるを・もんP237
がくくわんじんちやうをば・ひだりのてに・おつとりなほし・みぎのかひなを・さしいだし・すけゆきはんぐわんが・ゑぼしを・う
つてうちおとし・むねを・ばぐと・ついて・のけに・つきたふす・すけゆきはんぐわんは・もんがくに・ゑぼし・うちおと
され・をめをめと・なりて・おほゆかのうへへぞ・にげ・のぼりける・そののち・もんがくは・むまのをにて・つかまいたる・
かたなの・そのたけ・七すんばかり・ありけるが・よそよりは・こほりなんどの・やうに・みえけるを・ぬきもつて・
よりくるもの・あらば・つかんとこそは・まちかけたれ・もんがく・ひだりのてには・くわんじんちやうをもち・みぎのてに
は・かのかたなを・もつて・はしりありきければ・おもひもかけぬ・にはかごとにては・さふらひけり・ひとめにはただ・さ
うのてに・かたなをもつたる・やうにぞ・みえし・ほうわうも・えいりよを・おどろかさせ・おはします・わかき・く
ぎやうでんじやうびとや・つぼねのにようばうたちに・いたるまで・こは・いかなるべしとも・おぼえさせたまはず・ここにしなののくに
のぢうにん・あんどうみぎむねが・たうしよくにて・むしやどころに・さふらひけるが・たちを・ぬいて・つつといで・くわんじんのひじりを・
きつては・せんなしとてや・おもひけん・もんがくが・かたなもちたるかたの・かひなを・たちのみねにて・かたかけて・
したたかにうつ・うたれてひるむところを・たちをなげすて・はしりかかつて・むずとだく・もんがくは・だかれな
から・みぎむねが・かひなをぞ・ついたりける・みぎむねは・つかれながらぞ・しめたりける・もんがくもつよし・
みぎむねも・つよかりければ・たがひに・うへになり・したになり・ころびあふところを・ここかしこへ・にげ・ちり
たりつるものども・わが・かうみやうがうに・ちぎりき・さいぼうを・もつて・より・もんがくが・はたらくところの・
ぢやうを・さんざんに・がうしてんげり・されどももんがくは・ちつとも・いろもへんぜず・わるびれたる・けP238
しきも・なく・ゐをり・いよいよあくこう・ほうごんをぞ・しける・たとひほうがをこそ・したまはざらめ・これほどに・
くわんじんのひじりに・からきめを・みせたまひぬれば・たんだいま・おもひしらせ・まをさんずるものを・三がいは・
みなこれくわたくなり・わうぐうとても・のがるべからず・たとひいまこそ・十ぜんのていゐに・ほこつたうとも・くわうせんのたびに・
おもむきたまひなんのちは・ごづめづのせめをば・よにし・まぬがれたらじものを・まぬがれたらじものをと・をどりあがりをどりあがりぞ・
まをしける・そののちもんがくをば・ちやうのものに・たぶちやうのもの・たまはつて・七八にんが・なかに・ひつたてて・いでけるが・
ちやうのものどもは・もんがくを・ひつたてて・いづると・おもひけれども・ひとめには・ただ・ちやうのものどもが・もんがくに・ひ
つたてられて・いづるとぞ・みえし・もんがくをば・やがて・ごくぢやうせらる・そののち・すけゆきはんぐわんは・もんがくに・ゑぼ
し・うちおとされ・めんぼくなくや・おもひけむ・しばしは・しゆつしも・せざりけり・あんどうみぎむねは・もんがくに・くみ
たる・けんしやうに・たうざに・一らふを・へずして・うまのじようにぞなされける・そのころ・びふくもんゐん・にはかに・
かくれさせ・たまひしかば・もんがく・やがて・ごくをば・いだされけり・もんがくなほも・こりぬさまにて・またくわんじん
ちやうをかいて・十ぱうだんなを・すすめ・ありきけるが・へいけのひとびとの・あたり・とほると・おぼしきときは・
あつぱれ・てうおんに・ほこりたる・へいけのひとびとの・たんだいま・よのみだれ・いできて・うせはてに・あはう
ずるものを・あはうずるものをと・かやうに・のろのろしきことを・いひ・ありきければ・すべて・このほうし・みやこの・うちに
は・かなふまじ・さらば・をんるせよやとて・いづのくにへぞ・ながされける・これぞ・へいけのうんの・きはめ
なる・かいだうは・かなふまじ・ふねにのせて・くだせやとて・いせのくに・あののつより・ふねに・のせて・くだP239
すほどに・とほたふみのくに・てんりうなだ・九十九ひきのこまがた・なんどまをす・あくしよを・すぎゆくほどに・をりふし・おほかぜおほなみたつ
て・ふねすでに・じゆかいせんとす・すゐしゆかんどりども・ろ・かき・かぢを・たてなほせども・かなはず・あるひは・くわんおんの
みやうがうを・となへ・あるひは・さいごの・十ねんに・およびけれども・もんがくは・ちつとも・さわがず・ふなぞこに・ざぜんしてこ
そ・ゐたりけれ・すゐしゆかんどりども・いかに・ひじりのごばう・これほどに・おほかぜおほなみ・たつて・ふねすでに・じゆかいせん
と・するに・などきやうをもよみ・ねんぶつをも・まをして・りうじんに・たむけ・いのちたすからんとは・おもひたまはぬぞ
と・いひければ・もんがくげにもとや・おもひけん・かつぱと・おきなほり・ふなばたに・あゆみいで・だいのまなこに・
かどをたて・うみのおもてを・はつたと・にらまへて・いかにりうわうやある・いかにりうわうやある・これほどに・だいぐわん・おこ
したる・ひじりを・いかで・しづめて・みんとは・するぞ・たんだいま・てんのせめ・かうぶらんずる・りうじんどもかなと・
よばはつ・たりければ・りうじんこのことばにや・おそれけん・なみかぜしづまつて・ことゆゑなく・いづのくににぞ・つきにけ
る・もんがくだいぐわんを・おこすことあり・われふたたび・みやこにのぼり・たかをのじんごじを・しゆざうすべくば・しぬまじ・さ
らずば・しぬべしとて・みやこを・いでしひよりして・いづのくにに・つくまで・二十一にちがあひだは・ゆみづを・だにも
のみいれず・だんじきしてこそ・くだりけれ・されどもきりよくすこしも・おとろへず・ざぜん・ぎやうほふをも・おこたらず
して・いづのくににぞ・つきにける・そのほか・ただびとならずと・おもふことども・おほかりけり
福原院宣 509 P240
さるほどに・もんがくをば・たうごくのざいちやう・こんどう四らうくにたか・うけとつて・なごやがをかにぞ・おきたりける・それよ
りひやうゑのすけの・おはするところも・ほどちかかりければ・つねはよりあひ・きやう・ゐなか・むかし・いまのことどもを・かたりあ
はせて・たがひに・なぐさめあはれけり・あるとき・もんがく・ひやうゑのすけに・まをしけるは・へいしには・こまつどの・ばかりこそ・
おんこころも・がうにごさいかくも・ゆゆしう・わたらせたまひたりしかども・それも・へいけのうんめいを・はかつて・きよねんの
八ぐわつに・こうじたまひぬ・いまは・げんぺいりやうけのうちを・みるに・ごへんほど・しやうぐんのさう・もちたるひとも・おはせぬ
ぞ・はやはやおもひたつて・へいけをほろぼし・につぽんのしやうぐんとならむとは・おもひたまはずやと・いひければ・
ひやうゑのすけ・それおもひも・よらぬことなり・そのゆゑは・さんぬる・へいぢに・いけどりに・せられて・すでに・ちうせらる
べかりしを・こいけのぜんにに・いのちたすけられ・まゐらせしのちは・まいにち・ほけきやうを・二ぶようで・一ぶをば・
ぶもけうやう・一ぶをば・かのぜんにのために・たむけたてまつるよりほかは・またたじなしとぞ・のたまひける・もんがくかさねて・まをし
けるは・てんのあたふるを・とらざれば・かへりてそのとがめを・うけ・ときいたつて・おこなはざれば・そのわざはひを・う
くといふ・ほんもんあり・ごへんに・こころざしの・あり・なきをば・これにて・よく・しりたまへとて・ふところより・ぬののふくろ
に・いれたる・しやれたる・かうべを・なげいだし・ひやうゑのすけにたてまつる・ひやうゑのすけ・あれは・いかにとのたまへば・これこそ・
ごへんのちち・こさまのかうのとのの・おんくびよ・さんぬる・へいぢに・ごくしよのへんに・うづもれて・おはしけるを・
もんがくあまりの・いたはしさに・ほりおこし・たてまつつて・この二十よねんがあひだみを・はなたず・とぶらひたてまつりぬれば・
いまはさだめて・一ごふも・うかびたまひぬらむ・されば・もんがくは・こさまのかうのとのの・おんためには・ほうこうのものにP241
て・さふらふものをなんど・やうやうに・まをしたりければ・ひやうゑのすけ・これを・まこととは・おもはれざりけれども・ちちの
くびと・きくが・なつかしさに・ひだりのそでに・うけとつて・まづ・なみだをぞ・ながされける・それよりしてぞ・
むほんをば・やうやう・おもひたちたまひける・そののち・ひやうゑのすけ・のたまひけるは・たとひさやうのこと・おもひたつとも・
ちよくかんを・ゆるされ・まゐらせずしては・いかがあるべきと・のたまへば・もんがく・それは・われみやこにのぼり・まをして・
ゆるしたてまつらん・ひやうゑのすけ・おほきに・あざわらつて・ごへんも・るにんのみとして・ひとのちよくかんを・まをして・ゆるさ
んと・のたまふこそ・おほきに・まことしからねと・のたまへば・もんがく・やらそれは・わが・ゆりんと・まをさば
こそ・ひとの・ちよくかんを・まをして・ゆるしたてまつらむは・なじかは・くるしかるべき・これより・ふくはらのしんとへ・
三か・ゐんぜん・うかがはんに・一にち・じやうげ・七か八かには・よもすぎじ・あひかまへて・そのあひだは・まちたまふべしと
て・させる・りやうじやうは・なけれども・もんがく・ばうにかへり・でしどもに・あうて・かたりけるは・われ・いづ
のおやまに・七かさんろうのこころざしあり・たとひひと・たづぬるとも・あひかまへて・このよしかくと・かたるべからずとて・おひを・かけ・
ばうをいで・よをひについで・のぼるほどに・三かとまをす・とりのこくばかりに・ふくはらのしんとに・のぼりつき・うひやうゑの
かみみつよしの・もとに・いささか・ゆかりありければ・もんがく・かしこにおちつき・みつよしにあうて・かたりける
は・いづのくにのるにん・さきの・うひやうゑのごんのすけよりともこそ・ちよくかんを・だにも・ゆるされ・まゐらせば・へいけを・
ほろぼさんと・まをせなんど・かたりければ・みつよし・たうじは・きみも・へいけに・おしこめられさせたまひて・
つきひのひかりを・だにも・はかばかしう・ごらんぜず・みつよしも・三くわんともに・おしとどめられて・こころぐるP242
しき・をりふしなりとは・のたまへども・もんがくかさねて・まをしければ・みつよしおんまへに・まゐり・このよしを・そうし・まをされた
りければ・ほうわう・なのめならず・ぎよかんなつて・やがてゐんぜん・あそばしてぞ・たうだりける・もんがく・ゐんぜん・
たまはつて・なのめならず・よろこび・またよをひについで・くだるほどに・ひやうゑのすけ・あはれ・このひじりの・なまじひなること・
まをしいだし・またいかなる・うきめにか・あはんずらむ・なんど・おもはじなき・こともなう・あんじつづけて・お
はしける・七かとまをす・いぬのこくばかりに・もんがく・いづのくにに・おちつき・たまひて・くは・やとの・ひやうゑのすけ・ゐんぜんよ・
とてなげいだす・ひやうゑのすけ・ゐんぜんときくが・かたじけなさに・あたらしき・じやうえをき・てうづ・うがひして・
そののちかのゐんぜんをぞ・ひらかれける・そのじやうに・いはく
へいし・わうくわを・べちじよして・せいだうにはばかることなし・それわがてうは・しんこくなり・そうべう・あひならむで・じんとくこれあら
たなり・ゆゑに・てうていかいきののち・す千よさいのあひだ・ていゐを・かたぶけ・こくかを・あやぶめんと・せしもの・
みなもつて・はいぼくせずと・いふことなし・これによつて・かつは・しんだうのみやうじよに・まかせ・かつは・ちよくせんの・しいしゆに・
まかせて・はやく・へいじの・いちるゐを・ほろぼして・てうのをんてきを・しりぞけて・ふだいきうせんの・ひやうりやくをつぎて・みを
たて・いへを・おこすべし・てへりゐんぜん・かくのごとく・よりてしつぴつくだんのごとし
ぢしよう四ねん・七ぐわつ九かのひ・うひやうゑのかみみつよしが・うけたまはりたてまつりてひやうゑのすけどのへとぞ・あそばされたる
富士川合戦 510 P243
そののち・かのゐんぜんをば・にしきの・ふくろにいれて・いしばしの・かつせんのときも・ひやうゑのすけの・くびに・かけられけるとぞ・きこ
えし・さるほどに・ふくはらには・さらばまづ・とうごくへ・うつてを・むけよやとて・たいしやうぐんには・こまつのごんのすけ
せうしやうこれもり・ふくしやうぐんには・さつまのかみただのり・さぶらひたいしやうには・かづさのかみただきよ・ちやくしたらうはんぐわんただつな・ひだのかみかげいへ・その
こたいふのはんぐわんかげたか・かはちのはんぐわんひでくに・たかはしのはんぐわんながつな・いとう九らうすけうぢ・またのの五らうかげひさ・むさしの三らうさ
ゑもんありくに・ながゐのさいとうべつたうさねもりを・さきとして・つがふそのせい・三まんよき・おなじき九ぐわつ十八にちに・ふくはらをたちて・
あくる十九にちに・きうとに・つき・おなじき二十かのひ・とうごくへ・はつかうせられけり・なかにも・こまつのごんのすけせう
しやうこれもりは・しやうねん・廿三に・なられけるが・ようぎ・たいはい・よに・すぐれむまくら・もののぐにいたるまで・あた
りも・てりかがやくほどにぞ・みえられける・そのほか・われもわれもと・いでだたれ・たりし・ありさま・めづらし
かりし・けんぶつなり・せんぢやうへ・むかふ・たいしやうぐん・三のそんちあり・せつとを・たまはるとき・いへを・わすれ・いへをいづ
るとき・つまこを・わすれ・かたきと・たたかふとき・みをわするると・いふほんもんあり・このひとびとも・さこそは・
おもはれけめと・あはれなり・なかにも・ふくしやうぐん・さつまのかみただのりの・ねんらい・かようて・あそばされける・みやばらの
にようばうの・もとより・こそでをひとかさね・おくられけるが・千りのなごりを・をしみつつ・一しゆのうたをぞ・おくられける・
あづまぢのくさばをわけてそでよりも・たたぬたもとはなほぞつゆけき
ただのりの・へんじには
あづまぢをなにとなげかんこえてゆく・せきをむかしのあととおもへば・P244
せきをむかしのあととおもへばと・よめるうたのこころは・このひとびとの・せんぞ・へいしやうぐんさだもり・さうまのまさかど・つゐたうのために・とう
八ケこくへ・こえられたりしこころを・おもひいでてや・よまれたりけむ・いと・やさしうぞ・きこえし・てうてきを・
たひらげに・ぐわいとへ・むかふしやうぐんは・まづ・さんだいして・せつたうを・たまはるものなれば・しゆじやう・しんぎなんでんに・
しゆつぎよなつて・ないべんぐわいべんのくぎやう・さんれつして・ちうぎのせちゑを・おこなはる・しようへいてんぎやうの・しようせきも・としひさし
くして・なぞらへがたし・これは・ほりかはのてんわうのおんとき・さぬきのかみまさもりが・いまだいなばのかみ・たりしとき・つしまのかみ・
みなもとのよしちか・つゐたうのために・いづもへ・げかう・したりしれいとて・すずばかりを・たまはつて・かのふくろに・いれざふ
しきがくびに・かけさせてぞ・くだられける・さるほどに・へいけは・ここのへのみやこを・たちて・のはらのつゆに・やどをか
り・たかねの・くもに・たびねして・やまを・かさね・かはをへだてつつ・やうやう・くだりたまふほどに・十ぐわつ十六
にちには・するがのくに・きよみがせきにぞ・つきたまひける・ろじのつはもの・かりぐして・つがふそのせい・七万よき・せんぢん
は・ふじかは・かんばらに・ささへければ・ごぢんは・いまだ・てごしうつのやまにこそ・みちみちたれ・つぎのひ・
せうしやう・さぶらひたいしやう・かづさのかみただきよを・めして・おなじうは・あしがらを・うちこえ・八ケこくに・ついて・かつせん・せばや
と・おもふは・いかが・あるべきと・のたまへば・かづさのかみ・かしこまつて・まをしけるは・とうごくは・くさもきも・みな・
ひやうゑのすけに・したがひ・つきて・さふらへば・およそ・二三十まんきに・おとることは・さふらふまじ・みかたはわづかに・七万よき
とは・まをせども・あるひは・ざふひやう・あるひは・くにぐにの・かりむしやどもにて・ながたびに・せめつかれては・いかにも・
かなひさふらふまじ・ただこのたびも・やまを・まへにあて・かはをへだてて・みかたのおんせいを・またせたまふ・べうもや・さふらふらP245
んと・まをしたりければ・このうへは・せうしやうも・ちからおよびたまはず・なかにも・ふくしやうぐん・さつまのかみただのり・あはれひとの
こころの・のびたるほど・くちをしかりける・ものあらじ・にふだうの・いま一にちも・さきに・うつてを・むけられたらんに
は・おほばや・はたけやまが一たうは・まつさきに・こそまゐらんずれ・これほどに・こころうきことあらじとぞ・のたまひけ
る・そののち・せうしやう・とうごくのあんないしやに・めしぐせられたりける・ながゐのさいとうべつたうさねもりを・めして・とうごくに・
なんぢほどの・おほやいるものは・いかほどあるぞと・のたまへば・さねもり・おほきに・あざわらつて・きみは・さねもりをも・おほ
や・いるものと・おぼしめされさふらふか・わづかに・十三ぞくをこそ・つかまつりさふらへ・とうごくに・おほやと・まをすぢやうのものの・
十五そくに・おとつて・ひくは・さふらふまじ・ゆみは・三にん・五にんして・おしかかる・おほゆみ・おほやを・もつて・
つかまつりさふらへば・よろひの・二三りやうは・かけず・とほりさふらふ・とうごくに・だいみやうと・まをすぢやうのものの・五百きに・
おとつて・つるるは・さふらふまじ・むまをのるに・おつることを・しらず・あくしよを・はするに・むまを・たふさず・
さいこくぶし・きないのつはものどもこそ・おや・うたれさふらへば・こは・ひきしりぞき・いみ・あひて・よせ・こ・うたれ
さふらへば・おやは・ひきしりぞき・けうやうしては・よせさふらへ・とうごくには・すべて・そのぎさふらふまじ・おやうたれんと・すれ
ば・こは・さきに・しなんと・すすみ・しううたれんとすれば・いへのこ・らうどうは・さきにしなんと・すすみ
さふらふ・おやも・うたれよ・こもうたれよ・しにんを・のぼりこえのぼりこえ・たたかうさふらふ・かひ・しなのの・げんじ・やま
のあんないは・しつたり・からめてさだめて・まはりさふらふらん・ことにげんじは・ようちを・このみさふらふ・かやうに・まをせばとて・
きみを・おくせ・させ・まゐらせんとには・さふらはず・いくさは・せいにはよらず・はかり・ごとによると・むかしよP246
り・まをしつたへてさふらへば・よくよくごようじん・あるべしと・かやうに・おびただしげに・まをしたりければ・へいけのつはものども・
みないろを・うしなつてぞ・ふるひける・さるほどに・かまくらの・ひやうゑのすけよりともは・おなじき十八にちに・十八まんきに
て・あしがらを・こえ・たまふ・かひげんじ・なんぶ・たけだ・をがさはら・一まんきにて・ふじのこしを・つたうて・ひやうゑの
すけと・一になる・しなのげんじ・おほうち・ひらが・きそのくわんじや・これも・一まんよきにて・ひやうゑのすけと・一つになる・
げんじほどなく・廿万きに・なりにけり・おなじき廿かのひ・げんじ廿万き・ふじかはのはたに・うちいで・むかひのきしに・
ぢんをとる・げんぺいたがひに・かはをへだてて・ささへたり・おなじき廿三にちの・うのこくに・げんぺいたがひに・やあはせと
ぞ・さだめてんげる・へいけのかたには・このよしをきいて・いくさは・こんみやうのほどにては・よもさふらはじ・いざやたびの
なごりを・をしまんとて・そのへんちかき・しゆくじゆくより・いうくん・いうぢよども・よびむかへ・あるひはえびらをといて・まくらとし・
あるひは・かぶとをふせて・まくらとし・ぜんごも・しらずぞ・うちとけたる・ながゐのさいとうべつたうさねもり・このよしをみて・ゆく
すゑ・たのもしからずや・おもひけん・またいへのなを・をらじとや・てぜい五十よきを・ひきわけて・さき
に・きやうへぞ・のぼりける・せうしやう・こは・いかに・さねもりが・なきところにては・いくさは・せられぬことかとぞ・のたまひ
ける・さるほどに・げんぺいたがひに・やあはせと・さだめてんげる・そのよのやはんばかりに・ふじぬまに・いくらも・むれゐ
たりける・すゐてうどもが・なににかは・おどろきたりけむ・千万・たつ・はおとの・おほかぜおほなみ・なんどの・やうに・
きこえければ・へいけのつはものども・このよしを・きいて・あはや・さねもりが・いひつる・やうに・げんじは・ようちこ
のみと・きくに・あはせて・ただいま・よせたるに・こそわれら・ぶあんないなり・これにて・とりこめられては・かP247
なふまじ・すのまた・あじかを・ふせげや・とて・われさきにとぞ・のぼりける・あまりに・あわてたるものどもは・
ゆみ一ちやうに・二三にん・たち一ふりに・一二にん・とりつき・わがよ・ひとのよと・うばひやう・なほも・あわてたる
ものどもは・つなぎむまに・のつたりければ・うてどもうてども・ただ・くひを・のみこそ・まはりけれ・なほも・あ
わてたるものどもは・さかさまむまに・のつたりければ・ぬしは・にしへと・こころざせば・むまは・ひんがしへ・
はしるも・あり・そのへんちかき・しゆくじゆくより・いうくん・いうぢよども・よびむかへ・たりければ・かかるさうだうに・
あるひは・こし・ふみぬかれ・あるひは・かしらふみわられ・をめき・さけぶ・ありさま・をかしかりしことどもなり・
おなじき廿三にちの・うのこくに・げんじ廿万き・ふじかはのはたに・うちいで・ときをどつとつくつたりけれども・へいけの・
かたには・しづまり・かへつておとも・せず・ひやうゑのすけ・おほきに・ふしぎのおもひをなし・ひとをつかはして・み
せられければ・へいけはおちて・さふらはずとまをす・あるひは・よろひわすれてさふらふ・あるひは・かぶとわすれてさふらふ・あるひは・おほまくわすれ
てさふらふ・あるひは・えびらわすれてさふらふとて・てんでに・もつてまゐる・ひやうゑのすけわうじやうのかたを・ふしをがみ・これより
ともが・ゐせいに・あらず・うぢがみ八まんだいぼださつの・おんはからひにてぞ・わたらせたまふらん・やがて・つづいて
も・せむべけれども・あとのことも・おぼつかなければ・とて・それよりかまくらへこそ・かへられけれ・へいけは・た
だにげにして・きやうへのぼる・そのへん・ちかきしゆくじゆくのものども・このよしをみて・むかしより・みにげと・いふことは・あ
れども・ききにげと・いふことは・いまだなし・せんぢやうへ・むかふ・たいしやうぐん・やひとつを・だにも・いすてず・
にげのぼる・ゆくすゑとても・たのもし・からずさよとぞ・まをしける・なかにも・かづさのかみただきよが・ふじかはによろひわすP248
れたりければ・ただきよが・ただをとつて
ふじかはによろひはすてつすみぞめの・ころもただきよのちのよのため
ふじかはのいはこすせぜのみづよりも・はやくもおつるいせへいしかな
ただきよはにげのむまにぞのりてけるかづさしりがひかけてとどめよ
へいけをひらやによみなして
ひらやなるむねもりいかにさわぐらんはしらとたのむすけをおとして
にふだうしやうごく・このよしを・ききたまひて・おほきにはらを・たて・せんずるところ・せうしやうをば・きかいがしまへ・ながすべし・かづ
さのかみには・はらをきらせんと・いかられけるを・ひとびとやうやうに・とりまをされ・たりければ・そのうへは・にふだう
も・ちからおよびたまはず・されども・ふくはらには・しんとの・ことはじめあるべしとて・さとだいり・きらぎらしう・つくりいだしたてまつ
つて・おなじき十一ぐわつ七かのひ・ごせんかうとぞ・きこえし・されども・このみやこは・きたはやまに・そうてたかく・みなみは・
うみちかくて・くだれり・つねは・なみのおと・しほかぜはげしくして・かまびすき・ところなり・だいりは・やまの・なかなれば・き
のまろどのも・かくやと・おぼえて・なかなか・いうなるところもあり・ひとびとのいへいへは・のなか・たなかなり・ければ・
あさのころもは・うたねども・とをちのさととも・いつつべし
五節の沙汰(あひ) 511 P249
ことしは・だいじやうゑあるべしとて・てんがみな・そのいとなみなり・だいじやうゑと・まをすは・十ぐわつのすゑに・しゆじやう・ひがしか
はらへ・みゆきなつて・ごけいあり・だいだいの・きたののに・ざいちやうしよを・つくつて・じんぷく・じんぐを・ととのふ・りようび
だうのだんじやうに・くわいりうでんを・たてて・みゆをめす・おなじきだんのならびに・だいじやうぐうを・つくつて・しんせんを・そなふ・
しえんあり・ぎよいうあり・せいしよだうの・みかぐらあり・されども・ふくはらには・だいごくでんなければ・たいれい・おこなはること
もなく・せいしよだうも・なければ・みかぐらをも・そうせず・ことしは・五せちしんじやうゑ・ばかり・あるべしとて・な
ほしんとの・おんまつりごとをば・きうとの・じんぎくわんにてぞ・とげられける・五せちは・これ・むかし・きよみはらの・てんわうの・
おほとものわうじに・おそれさせたまひて・やまとのくによしののおくに・すませたまひしとき・つき・しろく・さえ・あらしはげしき・よ・
みかど・きんを・しらべたまひしに・しんぢよ・たちまちに・あまくだつて・をとめごが・をとめ・さびしも・からだまや・
そのからだまや・からだまと・五へんこれを・うたうて・五たび・そでを・ひるがへす・これぞ・五せちの・
はじめなる・こんどの・みやこうつしのことをば・きみもしんも・おほきに・なげきおぼしめされける・うへ・べつして・さんもんのたいしゆ・た
びたび・そうじやうをもちて・なげきまをしけり・だい三ケどのそうじやうに・にふだう・だうりしごくしてや・おもはれけん・おなじき十二
ぐわつ十かのひ・みやこがへり・あるべしとぞ・きこえし・へいけのひとびとの・かくかへりのぼられける・うへは・まし
て・たけのひとびとの・たれか・こころうかるべき・ふくはらのしんとに・一にちも・やすらふべきに・あらずとて・
われさきにとぞ・のぼられける・ひとびとのいへいへをば・さんぬる・なつ・かもがは・かつらがはに・こぼちいれ・いかだにくみう
かべ・しざいざふぐを・ふねにつみて・ふくはらへ・はこびくだされたりげれば・ないない・とりたてられ・けれども・いまは・なに
P250
ごとの・さたにも・およばず・みな・うちすてうちすてぞ・のぼられける・おのおの・すみかも・なければ・あるひは・八
はた・かも・ひよし・さが・うづまさ・にしやま・ひがしやまの・かたほとりに・ついて・あるひは・やしろのはうぜん・あるひはみだうの・
くわいらうに・さもしかるべき・ひとはみな・たちやどつてぞ・おはしける
奈良炎上 512
こんどの・みやこうつりの・ほんいを・いかにと・まをすに・きうとは・さんもん・なんと・ちかくして・いささかのことも・あれ
ば・あるひは・なんとの・しんぼくを・ささげたてまつつて・しやうらくし・あるひは・ひよしの・しんよを・かきささげたてまつつて・つねは・
げらくするあひだ・ふくはらは・えもはるかにへだたり・みちのほども・とほければ・さやうのことに・よもたやすからじと・にふ
だう・はからひいだして・うつされけるとぞ・きこえし・こんど・たかくらのみやの・ごむほんの・どうしんによつて・なん
との・うつぷんいまだ・やまず・せつしやうどのよりは・しゆとを・めされて・なにごとにても・ぞんずるむねあらば・そうもんに・
およべかしと・おほせければ・だいしゆかしこまつてうけたまはり・ただだいじやうのにふだうにあうて・しにたうさふらふとぞ・まをしける・そののち・
なんとには・ほうしばらに・おほせて・おほきなる・ぎつちやうの・たまを・つくらせ・これは・きよもりにふだうが・くびと・
なづけて・うて・ふめ・なんどぞ・まをしける・またつちにて・八しやくのにんぎようを・つくらせ・はんにやじの・おほそとば
に・くぎづけにして・これこそ・だいじやうのにふだうを・はつつけに・あはすれなんどぞ・まをしける・このひとかたじけなくも・
かしはばらのてんわうの・みすゑ・みかどの・ごぐわいしやくにて・だいじやうだいじんまでも・たやすくへあがりたまふほどの・ひとを・かやP251
うにまをす・なんとの・だいしゆに・てんま・いれかはれりとぞ・ひとまをしける・ことの・もらし・やすきは・わざはひをまねく・
なかだちと・つつしまざるは・やぶれを・とるもとゐとも・かやうの・ことをや・まをすべき・そののちだいりには・くらんどのせうしやうちかまさ
に・おほせて・なんと・しづめよとて・くだされければ・だいしゆ・きづがはのはたに・ゆきむかひ・みやこよりの・みつかひを・
さんざんに・りようりやくし・あまさへ・くわんがくゐんの・ざふしきニにんが・もとどり・きり・みつかひちかまさが・もとどりも・きれや・
きれとののしりければ・ちかまさおほきに・いろを・うしなつて・にげのぼる・にふだうまた・せのをのたらうかねやすを・やまとの
くにの・けびゐしよに・ふして・なんとしづめよとて・くだされけるが・わざとゆみや・うちもの・こしのかたなをも・たい
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がはのはたに・ゆきむかひ・かねやすが・てぜい・五百よきを・さんざんに・けちらし・あまつさへ・つはもの六十よにんが・くびを・
きつて・さるさはのいけのはたにぞ・かけさせける・へいけ・かやうのことどもを・なじかは・よしと・おもはるべき・
さらばまづ・なんとをも・はつかうせよやとて・たいしやうぐんには・にふだうの四なん・くらんどのとうしげひら・さぶらひたいしやうには・ゑつ
ちうのぜんじもりとし・じらうびやうゑもりつぎ・かづさの五らうびやうゑただみつ・ゑひのじらうもりかたをさき・として・つがふそのせい・四万
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しつめ・ひきつめ・さんざんに・いる・だいしゆは・七千よにん・みなうちもの・かちだちなり・ければ・そのひ・一にち・たたか
ひくらし・よにいりければ・なら・はんにやじ・二ケしよのじやうかく・やぶれにけり・はぢをもおもひ・なをも・をしむ・P252
だいしゆは・ならざかにて・うちじにし・はんにやじにて・じがいす・ぎやうぶも・かなはぬ・らうさう・あゆみも・やらぬ・しゆ
がくしやは・にはにいで・おほく・じがいしてんげり・ここに・おちゆくせいの・うちに・さかの四らうばうえいがくとて・うちものとつ
ては・七だいじ・十五だいじにも・すぐれたり・もえぎのはらまきに・くろいとをどしのよろひを・かさねて・き・ぼうしかぶとに・五
まいかぶとを・おなじく・かさねて・きるままに・かたてには・しらえの・おほなぎなたの・さやを・はづし・かたてには・
おほたちを・ぬきもち・われに・おとらぬ・でし・どうじゆく・十よにん・ぜんごさいうに・たて・てんかいの・もんよ
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びにける・おなじき廿八にちの・よのことなりければ・くらさはくらし・かたきもみかたも・みえわかず・たいしやうぐん・
くらんどのとうしげひら・ほつけじの・とりゐのまへに・うちたつて・ひをいだせ・やと・げぢせられ・たりければ・はりまの
くにのぢうにん・ふくゐのしやうの・げいし・二らうたいふともかたが・てよりも・たてを・わつて・たいまつにし・てんかいのみなみ
なる・にしの・ざいけに・ひをぞかけたりける・ほもとは・ひとつなりけれども・ふきまよふかぜに・おほ
くのがらんに・おしかけかけたり・ぶつざう・きやうくわん・ほふもん・しやうけうの・たぐひ・一くわんものこらず・くわいろくすでに・た
に・ことにして・せいやう一てうの・けぶりを・なす・じんじやうなる・ちご・にようばうや・だうぞく・なんによの・きらひなく・あるひは
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にげのぼり・かたきをのぼせじと・やがてはしをば・ひかせけり・さりともと・こそ・おもひしに・みやうくわは・ま
さしく・おしかけたり・をめきさけぶありさま・けうくわん・だいけうくわん・せうねつ・だいせうねつ・むげんあびほのほのにはの・P253
ざいにんどもの・かなしびも・これには・すぎじとぞみえし・こうふくじは・これ・たんかいこうのごぐわん・とうしるいだいのてらなり・
とうこんだうに・おはします・ぶつぽうさいしよの・しやかのざう・さいこんだうに・おはします・じねんゆしゆつの・くわんぜおん・るり
を・ならべし・四めんのらう・しゆたんを・まじへし・二かいのろう・九りんたかく・かがやける・二きのたふも・たちまちに
けぶりと・なるこそ・かなしけれ・とうだいじは・これじやうざいふめつ・じつほうじやくくわうの・しやうじんのによらいと・なぞらへて・しやう
むくわうてい・てづから・みづから・ゐうつし・まゐらつさせたまへる・こんどう十六ぢやうの・るしやなぶつ・うしゆつたかく・そびえ
ては・はんてんのくもに・かくれ・びやくがうあらたに・みがかれ・たまふ・まんげつの・おんよそほひ・みぐしは・やけおちて・だいち
にあり・ごしんは・わきあひて・つかの・ごとし・八万四千のさうかうは・あきのつき・はやく五ぢうの・くもにかく
れ・四十一ちのやうらくは・よるのほし・むなしく・十あくのかぜにただよひ・けぶりは・ちうてんに・みちみちて・みやう
くわは・こくうに・ひまぞ・なき・まのあたり・みるものは・さらにまなこを・あてず・かすかに・つたへきく
ひとは・きもたましひを・うしなへり・てんぢくしんたんは・しらず・につぽんわがてうにおいては・かかる・ほふめつは・まだなし・
ぼんしやく四わう・りうじん八ぶ・みやうくわんみやうしゆも・さだめて・おどろき・さわぎ・たまふらんとぞ・おぼえたる・ほつさうおうごの・かす
がのだいみやうじんも・いかなることをか・おぼしめされけん・しんりよのほども・はかりがたし・さればにや・かすがののつゆ・
いろかはり・みかさやまの・あらしのおとまでも・みなうらむる・さまにぞきこえける・おなじき廿九にちに・たいしやうぐん・くらんどの
とうしげひら・なんとほろぼして・ほつきやうへこそ・かへられけれ・こんどちやうぼんの・あくそうどものくびをば・ごくもんに・かけらるべ
し・なんど・ごさたありしかども・なんとほろぼして・めんぼくなくや・おもはれけん・こくさうゐんの・みなみなる・ほりやP254
みぞにぞ・すてられける・こんどせんぢやうにて・うたるるだいしゆ・かずをしらず・やけしぬるもの・四千にん・あるひは・やましな
でらにて・六百よにん・あるひは・みだうにて三百よにん・またあるみだうにて・五百よにん・だいぶつでんのニかいにも・一千
七百よにんとかや・いじやう・四千よにんとぞ・しるされける・こんど・なんとほろぼして・へいけばかりいきどほり・はれて・
おもはれけん・一ゐん・しんゐん・せつしやうどののおんなげき・まをすばかりも・なかりけり・たとへ・あくそうどもをこそ・ほろぼすと
いふとも・がらんを・はめつすべしやはとぞ・おんなげきありける・されば・しやうむくわうていの・しんぴつの・ごきしやうもんにも・
わがてら・すゐびせば・てんがも・かならず・すゐびすべし・わがてら・こうふくせば・てんがもかならず・こうふくすべしとこそ・
あそばされけんなれ・いまこれほどに・ちりはひと・なりぬるうへは・てんがのめつばう・うたがひなし・さるほどに・としくれて・
ぢしようも五ねんに・なりにけり
P255
平家物語(城方本・八坂系)
巻第六 P255
新院の崩御 601
ぢしよう五ねん・しやうぐわつついたちのひ・だいりには・とうごくのへいかく・なんとのくわさいによつて・はいらいなし・こでうはいも・おこな
はれず・二かのひ・でんじやうのゑんすゐもなし・しんゐんのごしよには・ごなうと・きこえさせたまひしかば・なんによ・うちひ
そめて・きんちうのありさま・いまいましきほどなり・ほうわうも・ないないおほせけるは・四だいのていわう・おもへばこなり・まご
なり・しかるに・せいむをも・しろしめさずして・としつきを・おくらむ・こころうしとぞおほせける・なんとのそうがう・三
十四にんを・げくわんせらる・あくそうどもをば・きんごくせらる・しうとは・せんぢやうにて・うたれ・あるひは・やきころされ・あるひは・
ながし・うしなはれしかば・たまたまのこるものどもも・いへかまどをすてて・みなさんりんにこそ・まじりけれ・なかに
も・こうふくじのべつたう・けりんゐんのそうじやう・やうゑんは・ほうもんしやうけうの・けぶりとなるを・みたまひし・ひよりして・やまひ
つきほどなう・うせたまひぬ・このやうゑんは・やさしきひとにてぞ・ましましける・あるとき・ほととぎすのなくをききたまひて
きくたびにめづらしければほととぎす・いつもはつねのここちこそすれ W
と・よまれたりけるに・よつてこそ・はつねのそうじやうとは・めされけれ・おなじき四かのひ・そうみやうのさた・あり
P256
しかども・なんとは・げくわんせられぬ・さらば・てんだいしうの・しゆとばかりを・めさるべきか・さらずは・ごえん
いんあるべきか・なんどごさたありしかども・ことしは・ごさいゑばかり・あるべしとて・さんろうしうのがくしやうの・なか
に・じやうほうわうかうとて・くわんじゆじに・さふらはれける・らうそうばかりを・めされてぞ・かたのごとくの・ごさいゑをば・とげ
られけり・そのほどに・しんゐんのごしよは・こぞのふゆより・ごなうと・きこえさせたまひしが・とうごくのへいかく・なんとの
くわさいに・よつて・なほおもらせたまひしが・おなじきむつき十二にちに・おんとし二十一にて・つひに・かくれさせたま
ひけり・やがてそのよ・ひがしやませいかんじへ・おくりたてまつり・ゆふべのけぶりに・たぐへつつ・はるのかすみとともにたちぞ・
きえさせたまひける・八さいよりおんくらゐに・つかせたまひ・ぎよう・十二ねん・とくせい・千まんたん・ししよじんぎの・すたれだ
るみちをおこし・りせいあんらくの・たえたる・あとをつぎたまふ・じひのおんめぐみは・いつてんをてらし・びやうどうの・い
つくしみは・四かいのほかに・ながれたり・三みやう六つうのらかんも・まぬかれず・げんじゆつへんげのごんじやも・のがるる
かたなき・みちなれども・しやうしむじやうの・かなしみは・ことわりすぎてぞ・おぼえたる
紅葉 602
そもそも・たかくらのゐんと・まをしたてまつるは・ひとのしたがひつきたてまつることも・おそらくは・えんぎてんりやくのみかどとまをすとも・これには・
いかでか・まさらせたまふべきとぞ・ひとまをしける・おほかたは・けんわうのなをあげ・じんとくのかうをほどこさせ・おは
しますことも・きみごせいじんののちは・せいぢよくを・わかたせたまひて・そのうへのことにてこそあるに・むげにこのきみは・えう
P257
ちに・わたらせたまひしより・このかた・せいをにうわにうけさせおはします・しようあんのころほひは・ございゐの・はじめ
つかたにて・おんとしわづかに・十さいばかりにもや・ならせおはしましけん・もみぢをことに・えいらんあるに・あるとき・
はじ・かへでの・まことに・いろうつくしう・もみぢたりけるが・まゐりたりけるを・しゆじやう・なのめならず・ぎよかんあ
つて・きたのぢんに・こやまをつかせ・これをうゑさせ・もみぢのやまと・なづけて・ひねもすに・えいらんあるに・なほあ
きたらせ・おはしまさず・しかる・を・あるよ・あらしはげしうふきて・もみぢをみな・ふきちらし・らくえふ・すこぶる・
らうぜき・なり・とのもりの・とものみやつこ・あさぎよめすとて・ことごとくこれを・とりすててんげり・のこれ
るえだ・ちれるこのはを・かきあつめて・あらしすさまじき・あしたなれば・ぬひどののぢんにて・さけあたためて・たべ
ける・たきぎにこそは・したりけれ・だいぜんのだいぶのぶなりが・いまだそのころ・くらうどにて・もみぢのぶぎやう・うけたまはつて・
さふらひけるが・みゆきより・さきにと・かしこへゆきて・みけるに・一もなし・いかにと・とひければ・し
かじかとこたふ・のぶなりおほきに・いろをうしなつて・しらず・なんぢら・いかなる・きんごく・るざいにも・あうた
り・のぶなりもまた・いかなるげきりんにかあづからむ・ずらむと・おほきに・おそれ・をののくところに・しゆじやうは・い
とどしく・よるのおとどを・おんいであつて・おんあさまつりごとより・さきにと・かしこへぎやうかうなつて・えい
らんあらんと・するに・あとかたなし・しゆじやう・さて・いかにやと・おんたづねありければ・のぶなり・そうすべきやう
はなし・ありのままにぞ・まをしける・しゆじやうてんきことに・おんこころよげに・うちゑませたまひて・りんかんに・さけあたためて・
こうえふを・たくといふ・しのこころをば・これらには・たがをしへけるぞや・やさしうも・つかまつつたる・ものか
P258
なとて・かへりて・えいかんに・あづかつしうへは・あへて・ちよくかんは・なかりけり・またあんげん二ねんの・ふゆのすゑに・しゆ
じやうあるところへ・おんかたたがへのぎやうかうの・なりたりけるに・さらでだに・けいじん・あかつき・となふこゑ・めいわうねふりを・おどろかす・こ
ろにもなりしかば・しゆじやうは・いつも・おんねざめがちにて・うちとけ・ぎよしんも・ならざりけり・いはんやさゆるしもよ
の・てんきことに・はげしきときは・むかし・えんぎの・せいだい・こくどのたみどもが・いかにさむかりつらんとて・よる
の・おとどより・ぎよいをぬがせたまひて・おしいださせたまひし・おんことまでも・おぼしめしいでて・わがていとくの・い
たらぬことをのみ・なげかせおはします・そののち・はるかに・よふけ・ひとしづまつて・ほどとほく・をんなの・さ
けぶおとの・しければ・ぐぶのくぎやう・でんじやうびとは・ききもいだされざりけるを・しゆじやうは・きこしめしいだして・ただいま・さ
けぶは・なにものぞ・きつとみてまゐれと・おほせければ・うへふししたる・でんじやうびと・じやうじつのものに・おほせくださる・
じやうじつのもの・うけたまはつて・はしりめぐつて・みけるに・あるつじに・あやしの・めのわらはの・ながもちの・ふたさ
げたるが・なくにてぞ・ありける・じやうじつのもの・たちよりて・いかにと・とひければ・ささふらへばこそ・しう
のにようばうの・やうやうにして・したてられて・さふらひつる・おしやうぞくを・ごしよへもちて・まゐりさふらふを・
ただいま・おそろしげなる・をとこ・二・三にんがほど・いできたつて・うばひとつて・まかりぬるぞや・いまは・おしやうぞく
が・さふらはばこそ・ごしよにもわたらせ・たまはめ・またはかばかしう・たちよらせたまふべきを・したしき・
ひともましまさねば・これをおもふに・なくなりとぞ・まをしける・じやうじつのもの・かのめのわらはを・ぐそくして・ごしよ
にかへりまゐり・このよしをそうし・まをしたりければ・しゆじやう・あなむざん・なにものの・しわざにてか・ありつら
P259
む・むかしの・げうの・よのたみは・げうのこころをもつて・こころとするゆゑに・みな・すなほなりき・いまのちんがよの・たみ
は・ちんがこころをもつて・こころとするゆゑに・かだましきもの・てうに・あつて・つみををかす・これわが・はぢにあ
らずやとぞ・おほせける・さてその・とられつる・きぬは・なにいろぞと・おほせければ・しかじかとまをす・ちうぐう
のおんかたに・さやうのいろしたる・おんきぬやさふらふと・おほせつかはされたりければ・はるかにいろうつくしきが・まゐ
りたりけるを・しゆじやう・かのめのわらはに・くだし・たまはすとて・なほも・よふかし・さやうの・めにも
や・あふとて・じやうじつのもの・あまたつけさせ・おはしまして・しうのにようばうの・つぼねまで・おくらせたまふぞ・かたじけな
き・されば・あやしの・しづのを・しづのめに・いたるまで・ただこのきみ・せんしうばんぜいの・はうさんを・いのりたてまつる
葵の前(あひ) 603
なによりもそのころ・いうに・やさしき・ためしに・まをしはべりしは・ちうぐうのおんかたに・さふらはれける・つぼねの
にようばうたちの・めしつかはれける・うへわらはのなかに・あふひのまひとて・りようがんに・しせきしたてまつる・ことあり・ただあからさまの・
ことにてもなうて・しゆじやう・つねは・めされければ・しうのにようばうも・めしつかはず・かへつて・しうのごとくに
ぞ・もてなしける・そのかみの・えうえいに・いかで・ぢよをうんでも・ひたんすることなかれ・ぢようは・ひたり・
ひはきさきとも・なれり・しらずこのひと・にようごきさきともや・いはれ・たまはんずらんとて・ないないは・あふひにようごな
んどぞ・ささやきまをしける・しゆじやうこのよしを・つたへきこしめされて・そののちはあへて・めされざりけり・これはまつ
P260
たう・おんこころざしの・つきさせ・たまへるにはあらず・ただよの・そしりを・おぼしめしはばからせたまふに・よりて・な
り・されども・おんこころざしのつきさせ・たまはざりしかば・くごをも・つやつや・きこしめされず・ぎよしんも・うちとけ
ならず・そのときの・せつろくまつどの・このよしを・つたへききたまひて・さては・さやうに・おこころぐるしきおんことの・わたらせたま
ふにこそ・まゐつて・なぐさめたてまつらむとて・いそぎごさんだいあつて・さやうに・えいりよに・かけて・おぼしめさ
れむずる・おんことを・おんはばかりあつて・なんのせんかさふらふべき・ただ・くだんのじんを・めさるべし・ぞくしやう・あひたづねら
るるにおよばず・やがてもとふさが・やうやうにつかまつるべきよしを・まをさせたまひたりければ・しゆじやう・おほせなりけ
るは・くらゐを・しりぞいてのちは・まま・さるためしありとは・しろしめせども・まさしう・ざいゐのとき・か
やうのもの・めされたる・ためしなし・わがよに・はじめたらむは・こうだいのそしり・なるべしとて・つひにきこしめし
も・いれさせたまはず・このうへは・くわんぱくどのも・ちからおよばせたまはず・いそぎおんくるまにめして・ごたいしゆつあり・あるときしゆじやう
おんてならひのついでに・みどんのうすやうの・にほひことに・ふかかりけるに・ふるきうたなりけれども・かかるをりふしを・おぼし
めしいでて
しのぶれどいろにいでにけりわがこひは・ものやおもふとひとのとふまで・ W
おんこころしりの・でんじやうびと・たまはりついて・あふひのまひに・たぶ・あふひのまひ・たまはつて・れいならぬ・ここ
ちいできたりとて・さとにかへり・しやうじのうちに・たふれふし・このぎよしよを・むねにあて・かほにあて・かなし
みけるが・十四かとまをすに・つひに・はかなく・なりにけり・しゆじやう・このよしを・つたへきこしめされて・なのめなら
P261
ず・おんなげきに・しづませおはします・きみが・一じつのおんのために・せふが・百ねんのみを・あやまつとも・かやうのことを
や・まをすべき・かのたうのたいそうの・ていじんきが・むすめを・げんくわでんに・いれしめんと・せしとき・ぎちようがいはく・てい
ぢよすでに・りくしにやくせりと・いさめしによつて・でんへいれられんと・せしことを・やめられ・たりしにも・まさ
らせたまふ・おんこころばせかなとぞ・ひとまをしける・きみは・あふひのまひが・ことに・おぼしめししづませたまひて・ごなう
と・きこえさせたまひしかば・ちうぐうのおんかたより・ごかいしやくの・にようばうたち・あまた・まゐらせられけり
小督 604
そのころ・さくらまちのちうなごん・しげのりのきやうの・おんむすめ・こがうのとのと・まをして・きんちういちの・びじんならびなき・ことのじやうず・
おはしけり・れいぜいのだいなごんたかふさのきやうの・いまだそのころ・せうしやうにて・せちゑに・まゐられたりけるが・このにようばう
を・ひとめみそめ・たてまつつて・おもひにこころを・そめ・うたをよみ・ふみをつくし・としつき・こひかなしまれけれども・な
びくけしきも・なかりしに・さすが・なさけによわるこころにや・つひには・なびきたまひけり・せうしやう・ちようあいして・
わりなく・おもはれけれども・ほどなう・うちへめされまゐらせて・あかぬ・わかれのなみだにや・そでしほぬれて・ほしあ
へず・せうしやう・よそながらも・みたてまつることもや・とて・つねは・そのこととなく・さんだいせられけり・こがうのとのの・
すみたまひける・つぼねのまへを・かなた・こなたへ・とほり・みすのそとに・たたずみ・ありかれけれども・つて
のなさけをだにも・かけられず・せうしやう・なさけなく・おもひたまひて・あるとき・一しゆのうたをかきて・みすのうちへぞ・
P262
いれられける
おもひかねこころはそらにみちのくの・ちかのしほがまちかきかひなし・ W
こがうのとの・やがて・へんじをも・せばやとは・おもはれけれども・われかやうに・きみに・めしおかれ・まゐら
せぬる・うへは・せうしやう・いかにいふとも・ことばをかはし・へんじを・すべきにあらずとて・ふみをば・うへわらはに
とらせて・みすのそとへぞ・なげいだされける・せうしやうなさけなくも・うらめしうは・おもはれけれども・さすが・ひと
めも・そらおそろしくて・このふみを・ふところにひきいれつつ・あゆみいでられけるが・さるにてもとて・またたちかへり
たまづさをいまはてにだにとらじとや・さこそこころにおもひすつとも・ W
いまは・こんじやうにてあひみんことも・かたければ・いきてゐて・ひとをこひしと・おもはんより・ただしなんとの
みぞ・のたまひける・あうて・あはざる・こひもあり・あはで・おもひ・ふかき・うらみもあり・あはで・おもふ・こひ
よりも・あうてあはざる・うらみこそ・せんかたなくは・おもはれけれ・このれいぜいのせうしやうと・まをすも・にふだうしやうごくの
むこなり・またちうぐう・だいりに・わたらせたまへば・ふたりのむこを・こがうのとのに・とられて・にふだういやいや・この
こがうが・あらむかぎりは・よのなかよかるまじ・されば・このこがうを・とらへて・なにとも・なさばやとぞ・のたま
ひける・こがうどの・このよしを・つたへききたまひて・わがみの・ともかうも・ならんは・いかにもなりなん・きみ
のおんことこそ・おんこころぐるしけれとて・あるくれがたに・だいりをば・しのびつつ・まぎれいで・ゆきがたしらずぞ・
うせられける・きみは・こがうがことに・おぼしめししづませたまひて・ぐごなんども・きこしめさず・ぎよしんも・うちとけなら
P263
ず・にふだうしやうごく・このよしを・つたへききたまひて・きみは・こがうがことに・おぼしめししづませ・たまひたんなれ・さらむに
とつては・とて・ごかいしやくの・にようばうたち・一にんも・まゐらせられず・さんだいせられける・しんかたちをも・そね
まれければ・にふだうの・けんゐに・はばかりて・さんだいするひとなし・きんちうのありさま・いたいたしきほどなり・きみは・
こがうがことに・おぼしめししづませ・たまひて・ひるは・よるの・おとどにのみ・いらせたまひ・よるは・なんでんに・しゆつぎよ
なつて・つきのひかりに・おんこころをすまさせ・おはします・ころははづきの十かあまりの・ことなれば・さしも・くま
なき・そらなれども・おんなみだに・くもりて・つきのひかりぞ・おぼろなる・しゆじやう・ひとやさふらふひとやさふらふと・おほせけれども・おんいらへ
まをすものも・なかりけるに・ややあつて・だんじやうのたいひつ・なかくにそのよしも・ごぜんちかう・おんとのゐまをして・さふらひけ
るが・なかくにと・おいらへまをして・まゐりたり・いかになかくにちかう・まゐれ・おほせあはすべき・ことありと・おほせければ・
なかくにごぜん・ちかうぞ・まゐりたる・おもひもかけぬ・ことなれども・もし・こがうが・ゆくへや・しりたるかと・
おほせければ・いかでか・たやすく・しりまゐらせ・さふらふべき・しゆじやう・まことや・さがのおく・かたをりどと・や
らんしたるうちに・ありとまをす・もののあるぞとよ・あるじが・なをば・しらずとも・たづねて・まゐらせなんや
とぞ・おほせける・なかくにまをしけるは・あるじがなを・しりさふらはでは・いかで・たやすく・たづねまゐらせさふらふべき・
しゆじやう・まことにもとて・りようがんに・おんなみだせきあへさせたまはず・なかくにこのおほせ・うけたまはるかたじけなさに・つくづく
ものを・あんずるに・まことや・そのひとの・だいりにて・ことひきたまひしとき・つねは・ふえのやくに・めされてまゐりしもの
を・たとひいづくにも・おはせよ・このつきのくまなさに・きみのおんこと・おぼしめしいだして・ことひきたまはぬ・ことあらじ・
P264
さがのざいけ・いくほどなし・うちまはつて・たづねたてまつらんに・そのひとの・ことのねならば・いづくにても・きき
しらんずるものをと・おもひければ・ささふらはば・たづねまゐらせて・みまゐらせさふらはばや・たとひたづねあひまゐらせて・
さふらふとも・ごしよを・たまはりさふらはでは・うはのそらにてもや・さふらはんずらんと・まをしたりければ・しゆじやう・まことに
もとて・やがて・ごしよあそばしてぞ・たうだりける・れうのおんむまにのつて・ゆけとぞ・おほせける・なかくに・
おんむまたまはつて・めいげつにむちをあげて・そこはかとなく・あこがれゆく・をしかなく・このやまさとと・えいじけ
む・さがのあたりの・あきのくれ・さこそは・あはれにおもひけめ・かたをりどしたるところを・みつけては・もしこれにも
や・おはすらんとて・ひかへひかへ・ききけれども・ことひくおとは・せざりけり・このつきのくまなさに・つきのひかり
に・さそはれて・もしみだうなんどへもや・まゐりたまひたるらんとて・しやかだうをはじめとし・だうだうを・まはつ
て・たづねまゐらせけれども・こがうのとのに・にたるひとだにも・なかりけり・だいりをば・さしも・たのもしげに・
まをしていでぬ・たづぬるひとには・いまだあはず・むなしう・かへりまゐりたらんは・なかなかあしかりなん・これより・いづ
かたへも・おちゆかばやとは・おもへども・いづくか・わうどならぬ・みをかくすべき・やどもなし・ほうりんは・
ほどちかければ・ほうりんの・かたへと・ゆくほどに・かめやまのあたりちかく・まつのひとむらあるかたに・かすかに・こと
ぞ・きこえける・みねのあらしか・まつかぜか・たづぬるひとの・ことのねか・おぼつかなくは・おもへども・こまをはやめて・う
つほどに・かたをりど・したるうちに・ことをぞ・ひきすましける・すこしも・まがふべからず・こがうのとのの・つま
おとなり・がくは・なにぞとききければ・をとこおもうて・こふとよむ・さうふれんをぞ・ひかれける・がくしもこそ・お
P265
ほきに・ただいま・このがくを・ひきたまふことよ・なかくにいとほしや・このひとも・いまだきみの・おんことをば・おぼしめし・
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れば・ことをば・はやひき・やみたまひぬ・これは・だいりより・なかくにと・まをすものが・おんつかひに・まゐつてさふらふ・あけら
れさふらへあけられさふらへとて・たたけどもたたけども・とがむる・おともせざりけり・ややあつて・うちより・ひとのきたるおとの・し
ければ・うれしくて・まつところに・ぢやうをはづし・かどをあけ・いたいけしたる・こにようばうの・かほばかりを・さし
いだして・これは・だいりなんどより・おんつかひ・たまはりぬべき・ところにてもさふらはず・いかさまにも・かどたがへにて
もや・さふらふらんと・まをしければ・なかくに・へんじせば・かどたてられ・ぢやうさされては・あしかり・なんと
や・おもひけん・やがて・おしあけてぞ・いりにける・こがうのとのの・すみたまひける・つまどのあひの・えんに・
よりゐて・まをしけるは・いかで・かかる・おんすまひにて・わたらせたまひ・さふらふぞや・きみは・おんことゆゑに・おぼしめし
しづませ・たまひて・ぐこなんども・きこしめされず・ぎよしんも・うちとけならず・ただうはのそらと・おぼしめされ
てさふらふが・ごしよを・たまはつて・まゐりてさふらふ・ものをとて・ありつる・にようばうして・きみのごしよを・たてまつる・ひらい
て・みたまへば・まことに・きみの・ごしよなり・やがてごへんじ・あそばして・ひきむすびつつ・にようばうのしやうぞく・一かさね
そへて・おしいだされ・たり・なかくに・にようばうの・しやうぞく・かたにうちかけて・まをしけるは・よのおんつかひ・にてもさふらはば・
ごしよの・ごへんじのうへは・しさいさふらふまじ・けれども・きみのだいりにて・おことひかせ・たまひしとき・つねは・ふえ
のやくに・めされて・まゐりさふらひし・そのごほうこうをば・いつしか・おぼしめし・わすれさせたまひて・さふらふやらん・ぢきの・
P266
ごへんじ・うけたまはらざらむは・くちをしう・さふらひなんずと・まをしければ・こがうのとの・あるべしとや・おもはれけん・み
づから・へんじしたまひけり・そこにも・さだめて・しられたるらんやうに・だいじやうのにふだうどのの・あまりに・おそ
ろしき・ことをのみ・のたまふと・ききしが・あさましさに・あるくれがたに・だいりをば・しのびつつ・まぎれいで・
かかるすまひにて・ありつれば・ことなんど・ひくことも・なかりつるに・あすのころより・をはらのへんに・お
もひたつことの・さふらふあひだ・あるじの・にようばうが・こよひばかりの・なごりを・をしみつつ・よもはや・ふけぬ・
いまは・たちぎくものも・あらじなんど・やうやうに・こしらへ・おくほどに・さぞな・むかしのことも・
ゆかしくて・てなれし・ことをひくほどに・やすくも・ききいだされけるよ・とておんなみだに・むせびたまへば・なかくにも・そで
をぞ・ぬらしける・なかくにまをしけるは・あすのころより・をはらのへんに・おぼしめしたつおんことと・さふらふは・いかさまにも・
おんさまなんど・かへらるべきにて・さふらふやらん・あるべうも・さふらはず・あるじの・にようばう・いだしたてまつるべから
ずとて・めしぐしたりける・めぶ・きちじやうなんど・まをす・をとこを・とどめおき・わがみは・だいりへ・かへりまゐり
ければ・よははや・ほのぼのとぞ・あけにける・れうのおんむま・つながせつつ・にようばうのしやうぞく・はねむまのしやうじ
に・なげかけ・いまははや・ぎよしんも・はるかに・なりぬらん・たれしてか・まをすべき・なんどおもひ・なんでんの
かたへと・ゆくほどに・いざよひのつきは・はやなんていを・わたつて・にしのちうもんへ・さしいれども・きみは・よるの・
おとどへも・いらせたまはず・なかくにを・おんまちがほにて・ゆふべの・おんざにぞ・ましましける・みなみに・かけり・
きたに・むかふ・かんうんの・あきのかりに・つけがたし・ひがしにいで・にしにながる・ただせんばうを・あかつきのつき
P267
に・よすと・たからかに・えいぜさせたまふところに・なかくに・つつとまゐり・こがうのとのの・ごへんじをたてまつる・しゆじやう・
なのめならず・ぎよかんあつて・おほせあはすべきものも・なきに・さらばやがて・なんぢむかへかしと・おほせければ・なかくに・へい
けの・かへりききたまはんところをも・はばかりおもひけれども・これもまた・ちよくぢやうなりければ・てぐるま・きよげに・さたし・
さがに・まゐり・このよしまをしたりければ・こがうのとの・しきりに・まゐるまじきよしを・まをされけるを・やうやうに
して・こしらへ・むかへとりたてまつり・かすかなるところに・しのばせまゐらせて・しゆじやうよなよな・めされける
ほどに・ひめみや・ひとところ・いできさせたまひけり・このひめみやとまをすは・ばうもんのにようゐんの・おんことなり
九州の早馬(あひ) 605
一ゐんは・うちつづき・おんなげき・あさからず・まづえうまんぐわんねん・七ぐわつには・だい一のみこ・二でうゐん・かくれさせたまひ
ぬ・またあんげんぐわんねん・七ぐわつには・おんまご・六でうゐん・ほうぎよなりぬ・ひよくのとり・れんりのえだと・ほしをさし・さしも・
おんちぎりあさからざりし・けんしゆんもんゐんは・ゆふべのきりに・をかされ・あしたのつゆと・きえぞうせさせたまひける・またげんせ・ご
しやう・たのみまゐらつさせ・たまひたりける・このたかくらゐんに・さへおくれまゐらつさせたまひしかば・一じようめうてん
の・おんどくじゆ・三みつごまの・ごくんじゆも・つもらせたまひけり・にふだうしやうごくも・このひごろ・こころのままに・ふるまは
れけることを・さすがそらおそろしうや・おもはれけん・あきいつくしまの・ないしがはらの・おんむすめ・ことし十六に・
なられけるを・ほうわうへまゐらせられけり・ひとびとをも・えらまれ・にようばうたちをも・あまたつけまをされけり・
P268
ひとへに・じゆだいのぎしきにたがはず・しんゐんかくれさせたまひて・いまだ七ケにちだにも・すぎざるに・ひといつし
か・つねめかしとぞ・まをしける・そのころ・しなののくに・きそとまをすやまなかに・よしなかと・いふげんじありとぞ・きこえ
し・これは・こ六でうの・はんぐわん・ためよしが・じなんこたちはきのせんじやうよしかたが・こなりけり・ちちのよしかたは・さんぬる・きう
じゆ二ねん・九ぐわつ廿三にちに・むさしのくに・おほくらがやかたにして・あくげんたよしひらにくんで・うたれぬ・そのときよしなか・わづかに・二
さいに・なりけるを・ははいだきて・しなのにこえ・きそのごんのちう三かねとほにあひて・このこそだてて・ひとになして・
みせたまへと・いひければ・かねとほ・かひがひしくも・たのまれて・この廿よねんがあひだ・やういくしたりけるに・おひ
たつままに・みぢからだいにして・ちから・ひとにすぐれたり・はかりごとを・めぐらすことも・たむら・としひと
にもこえ・まさかどすみともにも・なほすぎたらむ・さればいかにしてへいけを・ほろぼし・よをうちとらばやなむとぞ・
まをしける・やうふのかねとほ・このよしをききて・まことにさやうに・のたまふこそ・八まんどのの・おんすゑとも・おぼゆれと・ほめ
られて・いよいよこころたけくなる・まづ・しなののくにには・ねのゐの・やた(イ大弥太)・しげののゆきちかを・さきとして・
こくちうのものども・きそにつく・かうつけのくにには・なはのたらうひろずみを・さきとして・たこのこほりのものども・こたちはきの
せんじやう・よしかたが・よしみによつて・きそにつく・きそとまをすは・しなののくにに・とつても・みなみのはし・みののくに
に・さかうたり・それより・みやこも・ほどちかかりければ・へいけのひとびと・こはいかがせんとぞ・さわがれける・
にふだうしやうごく・このよしをつたへききたまひて・しなの・一こくは・しやうごくなれば・したがふとも・じよのものどもは・なにとかおも
ふべき・なかにも・ゑちごのくにのぢうにん・じやうのたらうすけながは・よ五しやうぐんのばつえふ・たせいのものにて・あんなれば・かれ
P269
らにうちて・まゐらせよと・おほせくだされたらんに・などか・うちてまゐらせ・ざるべきと・よにも・こともなげにぞ・
のたまひける・おなじき・きさらぎついたちのひ・じやうのたらうに・ゑちごをたぶ・おなじき三かのひ・じやうのたらう・ゑちごのかみに・にん
ぜらる・おなじき七かのひ・おとどのいへいへにおほせて・そんしようだらに・ならびに・ふどうみやうわうの・じくのじゆ・かきくやうせさ
せたてまつらる・なにとしたらば・はかばかしき・ことのあらんずる・やうに・ともすれば・ひとぐるしき・ことの
みあつてとぞ・じやうげささやき・あへりける・おなじき八かのひ・かはちのくにのぢうにん・むさしのごんのかみよしもとにふだう・
しそくいしかはのはんぐわんだい・よしかね・五百よきにて・むほんおこすときこえしかば・おなじき九かのひ・せのをのたらうかねやす・
一せんよきにて・かはちのくににはせくだり・ながののじやうに・おしよせて・さんざんにせめければ・よしもとにふだう・うたれにけり・しそく
いしかはの・はんぐわんだいは・いたでおひて・いけどりにこそ・せられけれ・おなじき十一にちに・よしもとにふだうがかうべ・おほぢをわたさ
る・りやうあんに・ぞくしゆ・おほぢを・わたさるることは・ほりかはのてんわうのおんとき・つしまのかみ・みなもとのよしちかがかうべ・おほぢをわたさ
れたりし・こんどそのれいとぞ・きこえし・そもそもよしもとにふだうとまをすは・八まんどのに五なん・むつの五らうびやうゑ・よしときのあそんの
こなり・けり・おなじき十二にちに・うさのだいぐうじきんみつ・はやむまをたてて・へいけへまをしけるは・うすきのじらう・これたか・
をがたの三らうこれよし・ざいざいしよしよに・じやうくわくをかまへて・だざいふのげちにも・したがはずとぞまをしける・いよのくにには・かは
のの四らうみちのぶ・五百よきにて・むほんおこすとも・きこえけり・きのくにには・ゆあさの七らうびやうゑむねみつ・くまの
のべつたうたんそう・これもへいけをそむきて・げんじにどうしんすともきこえけり・とうごく・ほつこく・はちのごとくに・おこりあひ・
P270
なんかい・さいかい・かくのごとし・四いすでにみだれぬ・よはたんだいま・うせなむず・こはいかがせんとぞ・さわが
れける
入道の死去 606
おなじきはつかのひ・へいけの一もん・六はらに・はせあつまつて・そもそもこんどの・いくさのやうは・いかがあるべきと・
ひやうぢやうあり・なかにも・さきのうたいしやうむねもりのきやうの・すすみいでて・まをされけるは・どどとうごくへ・うつてをばつかは
してさふらへども・はかばかしう・しいだしたることもさふらはず・こんどは・むねもりまかりむかふべきよしを・まをさ
れたりければ・ひとびとしきだいして・ゆゆしうさふらひなんず・さたにもさふらはば・とうごくに・おいて・そむきたてまつるべ
きひと・一にんもさふらふまじと・まをしあはれければ・にふだうなのめならず・よろこびたまひて・ぶくわんにそなはり・きうせんに・たづさ
はりぬべき・ひとはみな・むねもりを・たいしやうとして・とうごくへ・はつかうすべしとぞ・のたまひける・おなじき廿六にちに・かど
いでして・あかつきすでにうつたたんと・したまひける・そのよの・やはんばかりより・にふだうにはかに・おんやまひつきたま
ひしかば・へいけは・かどいでばかりにて・とうごくげかうは・やみにけり・おなじき廿七にちに・にふだうおんやまひつきたまひぬ
と・きこえしかば・きやうぢうのじやうげ・あはや・さみつる・ことよことよとぞ・まをしける・にふだう・おんやまひつきたまひしひ
よりして・ゆみづをだにも・のみいりたまはず・みのうちのあつきことは・ただひをたくに・おなじ・あまりに・あ
つうたへがたければ・あたり・四五けんは・まゐりちかづくものもなく・たまたままゐりたるものどもも・あわて・
P271
さわぎて・はしりいで・ただのたまふこととては・あつやあつやと・ばかりなり・きんぎんのたぐひ・りようらきんしう・ぎうば六
ちくの・たからををしまず・れいぶつれいしやへ・なげうたれけれども・ぶつりきも・しんりきも・つきはてて・いのる・い
のりも・かなはず・ただのたまふこととては・あつやあつやとばかりなり・にふだうしやうごくの・ふしたまひけるうへを・おほ
しかの・五六・十四五・廿ばかり・かなたへは・こゆる・こなたへは・こゆると・ぬればゆめ・さむれば・う
つつにぞ・みたまひける・これひとへに・かすがの・だいみやうじんの・たち・かけらせたまふに・こそと・おそろし
かりし・おんことなり・おなじき・うるふきさらぎついたちのひ・へいけのなんによ・ひとつところに・さしつどひ・かなしみたまへど・か
ひぞなき・なかにも・にふだうのきたのかた・二ゐどのは・あまりに・あつうたへがたけれども・おんまくらちかう・たちよつ
て・いまははやごしよらう・たのみすくなう・みえさせたまひて・さふらふに・なにごとにても・おぼしめしおく・おんこと
さふらはば・のたまひおかれ・さふらへかしと・なみだもせきあへず・のたまひければ・にふだう・よにも・くるしげ
にて・いきを・ついて・のたまひけるは・へいけよをとつて・廿一ねん・たのしみさかえは・むかしも・いまも・ためし
すくなかりし・ことどもなり・されども・しやうをうくるものの・しをのがるることなし・にふだう一にんに・かぎらねば・いま
さら・おどろくべきにもあらず・ただしかまくらの・ひやうゑのすけが・かうべをみざりつる・ことこそ・よみぢの・さはりとも・なり
ぬべう・おぼゆれ・にふだういかにも・なりたらんのち・あひかまへて・きやうをも・かき・ぶつたふをも・くやうすべか
らず・にふだうを・にふだうと・おもひあはれんずるひとびとは・むねもりを・たいしやうとして・とうごくにはつかうし・ひやうゑのすけが・
かしらをきつて・つかのまへに・かけさせよ・それぞ・なににもすぐれたる・こんじやうごしやうの・けうやうとも・おもふべきと・
P272
のたまひけるにぞ・きくひと・つみふかげには・おもはれける・あるよ・また二ゐどののおんゆめに・うしのおもてしたるもの
や・むまのおもてしたるものや・やしやきじんらが・四五百・千にんばかり・ひきつれて・八えふのくるまの・みやうくわ・お
びただしう・もえたるに・くろがねのふだに・むといふもじを・かきて・たて・にふだうしやうごくの・しゆくしよ・にし八でうの・つぼ
のうちへ・からと・やりいれたり・二ゐどの・あれは・いかにと・のたまへば・これは・えんまだいわうより・へいけ・
だいじやうのにふだうどのの・おんむかへに・やしやきじんらが・まゐりてさふらふと・まをしたりければ・二ゐどのゆめごころに・おそろしうは・
おもはれけれども・さてあのふだは・いかにととひたまへば・これは・だいがらん・ほろぼしたまへる・とがによつて・八万ごふま
で・しづみたまふべき・むげんの・むなり・げんのじは・いまだ・あらはれずと・まをすと・おぼして・ゆめさめてのち・
二ゐどの・むなぐるしう・五たいより・あせながれ・しばしは・ものをも・のたまはず・そののち・ねつびやう・いよいよ
しきりに・せめければ・せんずゐより・みづをくだし・いしのふねにいれ・四はうより・ひをかけたれども・みづほ
どなく・ゆのごとくに・なりにけり・ひさげに・みづをいれ・むねのあひだに・おかれけれども・いささかくつろぐ・ここち
も・したまはず・いたじきに・みづをかけ・そのうへに・ころび・ふされけれども・なほたすかる・ここちも・したまは
ず・ただのたまふこととては・あつやあつやと・ばかりなり・おなじきうるふきさらぎ四かのひ・もんぜつびやくぢして・つひに・あ
つちじににこそ・したまひけれ・おなじき・五かのひ・にふだううせたまひぬと・きこえしかば・きやうちう六はらに・むまくるま
の・かけちがふおとは・いかづちのごとし・たとひ・いつてんのきみ・ばんじようの・あるじの・いかなる・おんこと・わた
らせたまふとも・かぎりあれば・これには・すぎじとぞ・みえし・ことしは・六十四にぞ・なられける・かならずこれ
P273
を・おいじにと・まをすべきには・あらねども・てんばつを・かうむり・たまひしかば・ひととかうまをすに・およばず・ひごろは・
みにかはらむ・いのちにかはらむと・ちぎりし・つはものども・めいどのつかひをば・ふせがず・まくらをならべ・ふすまを・かさね
し・さいせふも・くわうせんのたびへは・ともなはず・ただひごろ・つくりおきし・ざいごふ・ばかりや・ともなふらんと・あはれ
なりし・ことどもなり・さてしも・あるべきならねば・おなじき七かのひ・をたぎでらへ・おくりたてまつり・ゆふべのけぶりと・な
したてまつる・こつをば・をぢの・ゑんじつ・ほうげん・くびにかけ・ふくはらへ・もつてくだり・きやうのしまにぞ・をさめける・
かかりける・さうさうのよ・にふだうしやうごくの・しゆくしよにし八でうより・ひいできて・にはかに・やけに・けるこそ・ふしぎな
れ・ひとのいへの・やくるは・つねのならひなれども・をりふしこそ・あるに・これも・ただごとならずとぞ・ひとまをしけ
る・あやしの・しづが・なきあとにも・つねは・かねうちならし・つとめおこなふ・ことも・あるぞかし・さこ
そ・ゆゐごんからに・ただあけくれは・いくさ・かつせんの・いとなみのほかは・たじなしとぞ・きこえし
慈心坊 607
にふだうしやうごくの・さいごのありさまこそ・まことに・おそろしかりけれども・おほかたは・じんぎをうやまひ・ぶつぽふをあがめ
たまふことも・よにはまた・すぐれたまへる・ひとなり・そのゆゑは・つのくに・ふくはらに・きやうのしまを・つかせ・じやうげ・わう
らいのふねどもの・まつだいのいまに・いたるまで・さうゐなく・つくことこそ・めでたけれ・このしまとまをすは・しゆそうをあつめ・いつ
さいきやうを・いしのおもてに・一にち一やに・かきうつし・くやうして・つきこめられけるに・よりてこそ・きやうのしまとは・なづけ
P274
たれ・いまのひやうごのしま・これなり・そのうへ・にふだうしやうごくは・ただびとにては・おはせざりけり・そのゆゑは・さん
ぬる・あんげんのころほひ・つのくに・ありまごほり・せいちようじとまをす・やまでらに・じしんばう・そんゑとて・ならびなき・ぢ
きやうしや一にんさふらひけり・あるとき・かれがゆめに・みやうくわんきたつて・つげたまはく・きたる十ぐわつ廿一にちに・えんまぐうの・だいり・だい
ごくでんにして・十万ごくより・十万にんの・そうをしやうじて・ほつけてんどくの・ことあり・そんゑも・そのにんじゆに・いりたり・
そのときに・いたつて・かならずきたるべしといふ・つげをかうむつて・ゆめさめてのち・このてらのべつたう・しゆぎやうに・かたりければ・
おほきに・ふしぎの・おもひをなす・げにも・そのときにいたつて・すゐめんの・ここちいできたりしかば・ぢぶつだうに・とぢ
こもり・ねんじゆして・さふらひけるに・まことに・ひとひのみやうくわんきたつて・ぐそくしてゆく・えんまぐうの・だいりだいごくでんと・
おぼしきところに・そうりよなみゐて・ほつけてんどく・こころもことばも・およばれず・さるほどに・ほうゑはてにしかば・そうりよみな・
いとままをして・まかりいづ・そのうちに・そんゑは・いまだいでざりけり・えんまだいわう・などなんぢは・いでぬぞと・おほせけ
れば・そんゑまをしけるは・そもそもほつけは・さんぜのしよぶつの・しゆつせの・ほんくわい・いつさいしゆじやう・じやうぶつの・ぢきだうなり・一
け一くの・くどくは・五はらみつの・ぜんごんにもこえ・五十てんでんの・ずゐきは・八十ケねんの・ふせにもこえた
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しらず・なにとしてか・わうじやうのそくわいをとげ・さふらふべきやらんと・まをされたりければ・えんまだいわう・おほせけるは・わう
じやうふわうじやうは・ひとの・しん・ふしんに・よるなり・あくをしゆする・ものは・あくだうに・だし・ぜんをしゆするものは・ぜん
しよに・うまると・みえたり・ただしなんぢが・しやうしよは・はりのかがみに・みえたり・ゆきてみよとて・またみやうくわんに・
P275
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らはれずと・いふことなし・そんゑも・つひには・とそつのないゐんに・うまるべしとぞ・みえたりける・そんゑかつ
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が・ために・かりに・しやうぐんのみと・あらはれたるなり・されば・ただいま・てんどくしたてまつる・おんきやうも・このひとのためな
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てんだいぶつぽふ・おうごしやじげんさいしよしやうぐんしん・あくごふ・しゆじやうどう・りやくと・このもんを三たびとなへて・らいするなりとぞ・おほせけ
る・そんゑかやうのことどもを・ほんに・ふくし・せいちようじの・えんぎに・うつして・いまにありとぞ・うけたまはる・かのゆの
やまとまをすは・えんまぐうの・とうもんに・あたれりとぞ・ひとまをしける
祇園女御 608
そのうへ・にふだうしやうごくは・ただもりが・こにては・なかりけり・まことは・しらかはのゐんの・みこなりとぞ・まをしける・そのゆゑ
は・さんぬる・えいきうのころほひ・しらかはのほとりに・ならびなき・さいはひじん・一にんましましけり・しらかは
のゐん・なにとしてか・きこしめしいださせ・たまひたりけん・つねは・かしこへ・ごかうなる・さてこそ・ひと・ぎをん
P276
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しこへ・ごかうならせたまひけるに・ころは・さつき廿かあまりのことなれば・さみだれさへに・かきくれて・め
ざすとも・しらぬやみなるに・このにようばうの・すまれける・あたりちかき・はやしのなかを・すぎさせたまふほどに・
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みがきたてたるが・ごとし・かたてには・つちのやうなる・ものをもち・かたてには・ひかるものをもちて・とば
かりあつては・さつとは・ひかりひかり・しだいに・ちかづきたてまつる・ぐぶのくぎやう・でんじやうびと・あな・おそろし・
つちのやうなるものは・おにがもつなる・うちでの・こづちなんめり・ちかづきたてまつつて・いかなる・おんことの・いでこ
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て・みたまへば・むそぢばかりなる・ほうしなり・このみだうの・しようしほうしにてぞ・さふらひける・ほとけに・みあかし・
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P277
づきたるぞ・しろがねのはりの・やうには・みえにける・そのとき・みなひと・いちどに・どつと・わらひて・のきたま
ふ・一ゐんこれを・えいらんあつて・あはれぶしの・こころほど・たけうやさしかりける・もの・あらじ・まことのきじんと
こそ・おぼしめしつるに・もしこれを・いもし・きりも・とどめたらむは・いかばかり・むねんならまし・くま
んと・おもひかかりたる・ただもりが・こんやの・ふるまひ・かへすがへすも・しんべうなりとて・けんじやうには・くだんの・ぎ
をんにようごをぞ・たまはりける・このにようばう・くわいにんしたまへり・うめらむ・ところのこ・なんしたらば・なんぢがこにせよ・によ
したらば・われにえさせよとぞ・おほせける・ほどなうさんしたまへり・まことの・なんしにてぞ・ましましける・ただ
もりかやうのことをも・そうせばやとは・おもはれけれども・とかく・うちまぎれ・このわかぎみ・二さいと・まをしし・あき
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にて・ごきうそくの・さふらひける・をりふし・ただもりそうせばやと・おもはれければ・かたやぶに・いくらもある・ぬか
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と・まをされたりければ・一ゐんはやおんこころえあつて・
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とぞ・おほせける・このわかぎみ・あまりに・よなきをしたまひけるをも・ただもりまをされたりければ・一ゐん
よなきすとただもりたてよすゑのよに・きよくさかふることもこそあれ W
P278
と・あそばされたりけるに・よりてこそ・きよもりとは・なのられけれ・まことの・わうじにてましませば・ただ
もりなのめならず・もてなし・まをされけり・十二にて・じよしやくし・十八にて・四ゐのひやうゑのすけとぞ・まをしける・ま
ことのわうじにて・ましませば・しだいの・しようしんとどこほらず・だいじやうだいじんまでも・たやすくへあがりたまひけり・
とばのゐん・ばかりこそ・きよもりが・くわしよくは・ひとには・おとるまじとは・おほせけれ・ひとは・とかうまをしけれども・いち
ごは・おもふことなくて・すごされけるこそ・めでたけれ
あひ 609
むかし・てんぢてんわう・はらみたまへるきさきを・たいしよくくわんに・たまはすとて・なんしたらば・しんがこにせよ・によ
したらば・われにえさせよとぞ・おほせける・ほどなうさんしたまへり・まことの・なんしにてぞ・ましましける・たうぶ
のみねのほんぐわん・ぢやうゑくわしやう・これなり
国綱の死去 610
おなじき・うるふ二ぐわつ廿かのひ・五でうのだいなごんくにつなのきやうも・うせられけり・このくにつなのきやうと・まをすは・にふだうしやうごくに・しよ
じないげなう・とくいまをされけるが・おなじとしの・おなじひ・やまひづき・おなじきつきに・うせられけるこそ・ふ
しぎなれ・このくにつなのきやうの・にふだうしやうごくに・とくいはじめられける・ゆゑを・いかにとまをすに・ならびなき・だいふくちやうじやにて・
P279
おはしければ・なににても・ひに・一しゆにふだうのもとへ・おくられければ・げんぜのとくい・これに・すぐべからず
とて・くにつなのきやうのしそく・たんばのかみきよくにを・にふだうの・やうしにし・しそく・しげひらを・くにつなの・むこにぞ・なされけ
る・されば・そのゆゑにや・しやう二ゐのだいなごんまで・あがられけるこそ・めでたけれ・せんねんくにつなの・ははうへ・
やはたへ・まゐりたまひて・ねがはくは・わがこのくにつなくらんどのとうに・なして・みせたまへと・いのりまをされける・よのゆめに・
かものかたよりと・おぼしくて・みやびとどもが・びりやうのくるまを・くにつなのもとへ・やりいるるといふ・ゆめをみて・
これをひとにかたりたまへば・いかさまにも・くぎやうの・きたのかたに・ならせたまはんずるに・こそと・まをしければ・
わがみ・としおいぬ・いかでかさることのあるべきと・のたまひけるが・くにつなくらんどのとうをも・さしすぎて・しやう二ゐの・
だいなごんまで・あがられけるこそ・ふしぎなれ・このくにつなのきやうとまをすは・八でうのちうなごん・かねすけに・八だいのまご・さき
のではのかみ・もとすけのまご・うまのかみもとくにの・あそんのこなり・けり・このひとの・いまだそのころ・しんしのざふしきに
て・このゑのゐんにさふらはれけるが・にんぺい三ねん・うづきに・四でうだいりに・ぜうまうの・いできたりしに・しゆじやう・なんでんに・
しゆつぎよなつて・ひとやさふらふひとやさふらふと・おほせけれども・をりふし・おいらへ・まをすものも・なかりけるに・くにつなえうよを・かか
せて・まゐりたり・しゆじやう・こはいかなるものぞと・おほせければ・しんしのざふしき・ふぢはらのくにつなと・なのりまをす・しゆ
じやう・えうよに・めされて・五でうの・だいりへ・ぎやうかうなる・そののち・しゆじやう・ほうしやうじどののもとへ・かやうに・さかさ
かしきものこそ・さふらへ・それに・めしつかはるべしと・おほせくだされたりければ・ほうしやうじどの・ごりやうたび・なん
どして・めしつかはれけり・あるときしゆじやう・やはたへ・ぎやうかうなつて・りんじの・みかぐらのさふらひけるに・にんちやうが・
P280
はうしやうがはへ・おちいりて・ぬれねずみのごとくにて・そのひのみかぐらは・あるまじかりしを・をりふしくにつな・ほうしやうじどの
の・おんともに・さふらはれけるが・しんべうにこそ・さふらはねども・にんちやうがしやうぞくをば・これにも・よういせさせてさふらふとて・
とりいだして・にんちやうに・きせ・そのひのみかぐらをぞ・とげられける・ほどこそすこし・おしうつりたりけれども・うた
のこゑも・すみわたり・まひのそで・ひやうしに・あうて・おもしろかりけり・ものの・おもしろきことは・しんめいも・ひとのこころも・
おなじこと・むかし・あまてらすおほんがみ・あな・おもしろやと・おほせなりし・おんことまでも・いまこそ・おぼしめししられけれ・
むかし・くわんぺいほうわう・さがの・おほゐかはへ・ごかうなつて・ぎよいうの・さふらひけるに・くわんしゆじの・ないだいじん・たかふぢ
こうの・おんこいづみのたいしやう・くにたか・をぐらやまの・あらし・はげしくして・ゑぼしを・かはへふきおとされ・たぶさを・
おさへて・せんかたなげにて・そのひの・ぎよいうは・あるまじかりしを・やまかげの・ちうなごんの・おんこ・じよむ
そうづ・さんえばこより・ゑぼしを・とりいだし・たいしやうにきせたてまつつて・そのひの・ぎよいうとげられけり・よあがつ
てこそ・かかるふしぎは・ありしに・くにつなときにとつての・ようい・かしこかりける・かうみやうかな・ぢしよう四ねんの・
ごせちは・ふくはらにてぞ・とげられける・わかき・くぎやう・でんじやうびとは・ちうぐうのおんかたに・すゐさんまをし・いまやう・らう
えいして・あそばれける・なかに・あるでんじやうびとの・たけしやうほにまだらなり・くもこしつのあとにこると・いふらうえいを・せ
られたりければ・くにつなあな・あさまし・さやうのことは・きんきと・こそうけたまはれ・ききにも・きかじとて・ぬきあし
をしてぞ・にげられける・このしのこころは・むかしの・げうの・みかど・おんむすめ二にん・もちたまへり・あねをば・がくわう・いもうとを
ば・ぢよえいとて・ともに・しゆんのみかどの・きさきにたちたまへり・あるとき・しゆんわう・かくれさせたまひしかば・さうごの
P281
のべへ・おくりたてまつり・二にんのきさき・みかどのおんわかれを・かなしみたまひて・さうごののべにて・なきたまひけるなみだ・しやうほ
のきしのたけに・かかつてまだらなり・きさきそこにて・しつを・しらべたまひしかば・しやうほのきしのたけ・おひいづるごとに・
まだらにてたてり・そのうへ・しつを・しらぶるところには・つねに・くもたなびいて・ものあはれなる・こころあり・くにつな・さ
せるぶんしやう・うるはしきひとにては・おはせねども・さかさかしきによつて・かやうのことをも・ききとがめら
れ・けるとかや・おなじきうるふ二ぐわつ廿二にちに・ほうわう・ほうぢうじどのへ・くわんぎよなるべきよしを・おほせくださる・このほうぢうじ
どのと・まをすはさんぬる・おうはうのころ・つくりいだしたてまつつて・せんすゐ・こだちにいたるまで・おんこころに・まかせたりしかども・この
三四ねんがあひだは・あるひは・とばどのに・おしこめられさせたまひ・あるひは・ふくはらへごかうなり・なんどして・ごしよ
も・みな・あれはてにしかば・さきのうたいしやうむねもりきやう・ざうしんして・なし・まゐるべきよしを・まをされたりし
かども・いまは・なにごとの・さたにも・およばせたまはず・ひそかに・かしこへ・ごかうなりて・えいらんあるに・きしの
まつ・みぎりのさくら・としへにけりと・おぼえて・こだかく・なりたりけるを・ごらんぜらるるに・つけて・まづ・
こにようゐんのおんことを・おぼしめしいでて・おんなみだに・むせばせ・おはします・たいえきのふよう・びやうのやなぎ・これにむかふに・
いかでか・なみだおちざらん・かのなんたいせいきうの・むかしのあと・しげみに・まじる・はなとりを・ごらんぜらるるに・つけ
ても・つきせぬ・ものは・おんなみだなり
行高の沙汰(あひ) 611
P282
おなじき・やよひついたちのひ・なんとのたいしゆ・ほんにふくし・しやうゑん・まつじもとのごとくに・ちぎやうすべきよしを・おほせくだ
さる・おなじき三かのひ・とうだいじ・つくりはじめらる・ぶぎやうべんには・くらうどのさせうべんゆきたかとぞ・きこえし・せんねんゆきたか・
やはたへまゐりたまひて・つやして・ねんじゆせられける・よのゆめに・ごはうでんの・みとおしひらき・うちより・ゆ
ゆしう・けだかきみこゑにて・ややなんぢ・とうだいじ・ぶぎやうのときは・これをたいして・むかふべしとて・こがねの・しやく
をたまふとみて・うちおどろきて・みたまへば・すなはちまくらにぞ・さふらひける・ゆきたか・たうじなにごとに・よつてか・とうだい
じぶぎやうには・むかふべきとは・おもはれけれども・ふかうをさめて・げかうせられたりけるが・はるかにほどへての
ち・へいけの・あくぎやうに・よつて・とうだいじ・えんじやうし・いまこのしやくを・たいして・とうだいじぶぎやうに・むかはれける
こそ・ふしぎなれ・八まんだいぼさつの・しんりよにも・あひかなひたまへる・しゆくしふのほどこそ・めでたけれ
墨俣合戦 612
おなじきやよひ五かのひ・とうごくより・はやむまうつて・へいけへまをしけるは・十らうくらんどゆきいへ・あくぜんしゑんさいきやうのきみぎ
ゑん・三にんひとつになつて・つがふそのせい・七千よき・をはりのくにまで・せめのぼつたるよしを・みののくにの・もくだいの
もとより・まをしたりければ・さらば・まづ・これをふせげやとて・たいしやうぐんには・さひやうゑのかみとももり・さつまのかみただのり・
さふらひたいしやうには・ゑつちうのぜんじもりとし・じらうびやうゑもりつぎ・かづさの・五らうびやうゑただみつ・ゑびのじらうもりかたを・さきとし
て・つがふそのせい・一万よき・おなじきやよひ十かのひ・みやこをたつて・おなじき十五にちに・みののくにに・はせくだり・すのまた
P283
がはらにぢんをとる・十らうくらんど・このよしをききたまひて・みののくにまで・せめのぼり・すのまたがはに・おしよせ・むかひの
きしに・ぢんをとる・そのひのよにいりて・きやうのきみぎゑん・しうじう七き・すのまたがはを・うちわたり・へいけのぢんへぞ・いりたり
ける・をりふしゑつちうのぜんじもりとしが・五十きばかりにて・よまはりするに・ゆきあうたり・あれは たそ・みかた
と・いふ・みかたは・たそ・まことはかたきぞかし・これはよしともがばつし きやうのきみぎゑん・ひごろの・うつぷんをたつせん
ために・ただいまよせたるなりと・いふ・にくしそのぎならば・あますな・もらすな・うてやとて・たいぜいが・
まんなかに・とりこめて・われうちとらんとぞ・すすみける・十らうくらんど・このよしをききたまひて・きやうのきみうたすな・ぎゑん
うたすな・すすめやものども・つづけつはものとて・げんじ七千よき・すのまたがはに・うちいれてぞ・わたしける・へいけの・
かたのたいしやうぐん・さひやうゑのかみとももり・あぶみふんばり・つつたちあがり・だいおんじやうを・あげて・げんじ・ただいまかはを・わたし
たれば・ぬれむしやは・みなかたきぞ・あますな・もらすな・うてやとて・むまもののぐのぬれたるをば・ここにお
つつめ・かしこに・おさへて・くびをとる・きやうのきみぎゑん・二ときばかりたたかつて・うたれにけり・十らうくらんど・この
よしを・みたまひて・かなはじとや・おもはれけん・またすのまたがはを・わたしかへして・ひきしりぞく・へいけつづい
て・すのまたがはを・うちわたし・おちゆくものどもを・ここにおつつめ・かしこに・かけつめて・うちとりけり・げんじのか
たには・ふせぎたたかふといへども・ぶせい・たぜいに・かなはねば・さんざんに・うちちらされて・ひきしりぞく・すゐ
えきを・うしろにせざれとこそ・まをすに・こんどのげんじの・はかりごと・おろかなりとぞ・ひとまをしける・十らうくらんど
みののくににも・こらへえで・をはりのくにに・ひきしりぞく・へいけつづいて・をはりのくにに・うちこえ・さんざんに・せめければ・
P284
十らうくらんど・をはりのくににも・こらへえで・みかはのくにに・ひきしりぞき・やはぎがはの・はしを・ひいて・むかひのきしに・ぢん
をとる・へいけつづいて・みかはのくにに・うちこえ・やはぎがはをも・わたされければ・十らうくらんど・みかはにも・こらへ
えで・とほたふみのくにに・ひきしりぞき・はまなのはしを・ひきて・むかひのきしに・ぢんをとる・へいけつづいて・せめられけるが・
たいしやうぐん・しよらうのここち・いできたりとて・たかせのふもとより・とつてかへす・こんども一ぢんは・やぶれども・ざん
たうを・やぶらねば・はかばかしう・しいだしたる・ことなきがごとし・へいけは・きよきよねん・こまつのおとど・
こうじたまひぬ・こんねんまた・にふだうしやうごく・うせたまひしかば・ねんらいおんこの・ともがらのほかは・まゐりちかづけるものもなし・なかに
も・ゑちごのくにのぢうにん・じやうのたらうすけながは・さんぬる二ぐわつに・ゑちごのかみに・にんぜし・そのてうおんのかたじけなさに・きそ・
つゐたうせんとて・ゑちご・では・あひづ四ぐんを・もよほしけるに・つがふ・そのせい・六まんよき・おなじき五ぐわつ十五にちに・かどいで
して・あかつきすでに・うつたたむとしける・そのよのやはんばかりに・あめかぜおびただしう・ふりくだり・あめかぜ
やんでのち・こくう・しばらく・うすぐもつて・さふらひけるに・おそろしげなる・こゑを・もつて・こくうに・
ものが・つげてとほる・なにものにても・だいがらんほろぼしたる・へいけのかたうど・したらんものをば・いちいちに・め
しとるべしと・よばはつたりければ・じやうのたらう・おそろしさ・きくひと・みなみのけよだつて・おぼえけ
れども・ゆみやとりのそれには・よるべからずとて・やかたを・いで・十四五ちやう・いでたりけるに・じやうのたらうが・
うへに・くろくもひとむらおし・おほふとぞ・みえし・たちまちめくれ・はなぢたつて・たふれふす・むまにても・か
なふべうも・みえざりければ・あをたに・かかれてやかたにかへり・二ときばかりあつて・しにけり・じやうの四
P285
らう・はやむまを・たてて・このよしまをしたりければ・へいけの・ひとびと・こはいかがせんとぞ・さわがれける・おなじ
き・七ぐわつ十三にちに・かいげんあつて・やうわぐわんねんとぞ・まをしける・おなじき十四かに・ぢもくおこなはれて・ちくごのかみ
さだよし・ひごのかみに・なつて・ちんぜいのむほん・たひらげむとて・三千よきにて・みやこをたつ・おなじき八ぐわつ八かのひ・
まさかどつゐたうのれいとて・くわんのちやうにて・だいにんわうゑおこなはる・おなじき九ぐわつ九かのひ・すみともつゐたうのれいとて・くろがねの
かつちうを・いせへ・まゐらつさせ・たまひけるに・さいしゆじんぎのおほなかとみのさだたか・ゐんのごしよへまゐり・くろがねのかつちうを・
うけとりて・いせへ・もつて・まゐるほどに・あふみのむまやにて・やまひづき・いせのりぐうにて・しにけり・そのころ・へい
けは・みゐでらにて・三七にちの・五だんのほふを・おこなはせられけるに・はじめの七かの・だい三かに・あたりけ
るよ・がう三せのだんの・だいあじやり・かくさんほういん・ひぎやうしやの・ひがんしよにて・ひじに(ねしに)に・こそは・したり
けれ・しんめいも・さんばうも・ごなふじゆなしといふこと・いちじるし・そのころ・あんしやうじの・じちげんあじやり・へいけへ・
ごくわんじゆ・たてまつりけるが・げんじ・てうぷくとは・かかで・へいけてうぷくと・かきたるぞ・これきたいの・あやまりなり・めさ
れて・いかにと・おんたづねありければ・さんさふらふ・われらは・てんかたいへい・てうてきてうぷくの・おんいのりつかまつる・ものなり・しか
るに・たうせいのていを・みさふらふに・へいけ・もつぱら・てうてきとみえさせ・たまふに・よつて・これをてうぷくす・されば・
なにのひがごとか・さふらふべきと・まをしたりければ・そのほう(イほうし)・しざいか・るざいか・なんど・ごさたありしかども・てんかの
だいせうじに・まぎれて・やみにけり・そののちへいけほろび・げんじのよとなりて・かまくらどのより・たづねいだされたてまつつて・や
がてごんりつしなされ・ほういんに・きよせらる・おなじき十二ぐわつ・廿五にちに・ちうぐう・ゐんがうかうむらせたまひて・けんれいもん
P286
ゐんとぞ・まをしける・しゆじやう・えうしゆのときのぼこうのゐんがう・これはじめとぞ・うけたまはる・さるほどに・としくれて・やうわも・二ねんにな
りにけり
横田河原合戦 613
おなじきしやうぐわつ廿三にちに・たいはく・ばうせい・をかすてんもんはかせ・これを・うらなひまをす・たいはくばうせい・をかすときんば・
しやうぐん・くにのさかひを・いづとも・いへり・おそろしおそろしとぞ・まをしける・おなじき二ぐわつに・さんもんの・ごんせうそうづけんしん・
きせんじやうげを・すすめて・ひえのやしろに・おいて・一まんぶの・ほつけどくじゆの・ことあり・かかりければ・ほうわうも・おん
けちえんのために・ごかうなる・またなにものが・まをしだしたりけん・一ゐん・やまのたいしゆにおほせて・へいけ・つゐたう・あるべき
よし・きこえしかば・へいけのひとびと・こはいかに・せんとぞ・さわがれける・さるほどに・さんもんには・へいけ・
やまをせむべしと・いふことに・ききなして・さんもんのさうどう・なのめならず・かかりければ・おんけちえんも・はやうち
さましぬ・ほうわう・いそぎ・みやこへ・くわんぎよなる・なかにも・ほん三ゐちうじやうしげひら・一千よきにて・きたしらかはまで・おんむかへ
にまゐり・ほうわうを・うけとり・たてまつつて・いそぎほうぢうじどのへ・くわんぎよなしまをされけり・かかりければ・へいけ・やまを・せむ
べしと・いふことも・またやまより・へいけを・ほろぼすべしと・いふことも・あとかた・なき・そらごとなり・これひとへ
に・てんまのしよゐとぞ・おぼえたる・おなじき五ぐわつ八かのひ・かいげんあつて・じゆえいぐわんねんとぞ・まをしける・さるほどに・ゑち
ごのくにのぢうにん・じやうの四らうすけもちは・あにすけながが・せいきよのあひだ・ながもちと・かいめいし・あにが・うつぷんをたつせんがために・
P287
きそつゐたうせん・とてこんどは・ゑちごばかりを・もよほしけるに・つがふそのせい・二まんよき・おなじき九ぐわつ十一にちに・
ゑちごのこふをたつて・しなののくにに・うちこし・よこたがはらに・ぢんをとる・きそも・そのせい三千よき・たうごく・
よだのじやうを・たつて・よこたがはらに・おしよせ・むかひのきしに・ぢんをとる・きそ・のたまひけるは・よしなかが・いくさ
のきちれいには・七てにわかつものなれば・まづ・いまゐの四らうかねひらに・五百よきを・さしそへて・よこたがはに・
うちいれてぞ・わたさせける・のこり六ても・おのおののゐたるところより・うちいれうちいれわたしけるを・へいけは・うんのきはめ
にや・これをたいぜいとこそ・みてんげれ・まづじやうの四らうがせんぢんに・さふらひける・あひづのじようたんばう・うたれにけ
り・じやうの四らう・きそに・ていたうせめられて・むらくもたつてぞ・ひかへたる・きそ・かつに・のつていよいよ
せめければ・じやうの四らうが・せい二まんよきとは・みえしかども・おちぬ・うたれぬ・せしほどに・たんごぶらいに・
なりに・けり・じやうの四らう・ただ一きに・なつて・かなはじとや・おもひけん・よこたがはに・とびいり・みづのそこを・く
ぐつて・ゑちござかひへぞ・おちゆきける・じやうの四らう・はやむまを・たてて・みやこへ・このよしを・まをしたりけれども・へい
けは・あまりのことにや・いと・さわぐけしきも・ましまさず・おなじき十ぐわつ十三にちに・さきのうだいしやうむねもりきやう・
ないだいじんに・あがりたまふ・くぎやう・六にん・せんくあり・でんじやうびと十三にん・こしようせらる・みな・われもわれもと・いで
たたれたりしありさま・いまいくほどぞやとぞ・みえし・とうごく・ほくこく・はちのごとくに・おこりあひ・せんやう・せん
おん・なんかい・さいかいの・つはものども・すでに・みやこへせめのぼる・なんどきこえしかども・へいけは・かぜのふくやらん・なみのたつ
らんをも・しらずしてあそび・たはぶれてのみ・おはしけるぞ・ひとへにへいけの・うんのきはめなる・さるほど
P288
に・としくれて・じゆえいも・二ねんに・なりにけり

平家物語(城方本・八坂系)
巻第七 P289
清水の冠者のさた 701
じゆえい二ねん・しやうぐわつ廿二にちに・さきのないだいじん・むねもりこう・じゆ一ゐに・あがりたまふ・ただし・ないだいじんをば・じしまを
されけり・おなじき廿三にちに・いせ・いはしみづを・はじめたてまつつて・廿二しやに・くわんぺいあり・これはこんど・とうごく・ひやう
らんの・おんいのりの・おんためとぞ・おぼえたる・しかいに・せんじを・なしくだし・しよこくへ・ゐんぜんをくだされけれども・いつ
かう・へいけのげぢと・のみこころえて・まゐりちかづく・ものもなし・くまの・きんぷうせんの・そうら・なんと・ほくれいのたいしゆ・
いせ・いはしみづの・しんじん・きうじんにいたるまで・いつかう・へいけを・そむいて・げんじに・こころをぞかよはしける・そのころ・
かまくらのひやうゑのすけと・きそと・ふくわいのこと・あつて・かつせんあるべしとぞ・きこえし・さるほどに・かまくらの・ひやうゑのすけより
ともは・十万よきにて・かまくらをたつて・ゑちごのこふに・つきたまふ・きそもそのせい・三千よき・たうごく・よたのじやう
を・たつて・ゑちごと・しなのの・さかひなる・くまさかやまに・ぢんをとる・きそひやうゑのすけのかたへ・ししやをたてて・いかで
か・よしなか・うたんとはさふらふぞ・十らうくらんどどのこそ・ごへんをうらむるしさいありて・たうごくにうちこえて・おはす
なるを・よしなかさへ・すげなうもてなし・まをさんずることも・いかんぞやなれば・ひきぐしては・さふらふなる・
P290
もしそのゆゑか・それならば・いしゆあるべしとも・ぞんぜず・たうじごへんと・よしなかと・いくさして・へいけにわらは
れんとは・おもふべきと・のたまひつかはされたりければ・ひやうゑのすけ・いいやいまこそ・さやうにまをさるれども・ま
ことは・よりとも・うつべきはかりごとを・めぐらされけるに・こそとて・うつてのいちぢん・いよいよちかづくよ
し・きこえしかば・きそ・かなはじとや・おもはれけん・しそく・しみづのくわんじやよししげとて・しやうねん十一さいに・な
られけるに・うんの・もちづき・すは・ふぢさは・いげのつはもの・五百よきを・さしそへて・ひやうゑのすけのかたへ・つかはさ
る・ひやうゑのすけ・このうへは・いしゆなしとて・しみづのくわんじやを・ぐそくして・かまくらへこそかへられけれ・さるほどに・き
そは・ゑちごのくにに・うつていで・じやうの四らうと・かつせんす・こんどもまた・じやうの四らう・いくさににうちまけて・ではざかひへぞ・
おちゆきける・さるほどに・へいけは・きよねんのふゆより・みやうねんの・むまのくさかひに・ついて・いくさあるべしと・ふれられた
りければ・せんやう・せんおん・なんかい・さいかいの・つはものどもみなまゐりけり・とうかいだうには・とほたふみより・ひがしは・まゐらず・とう
せんだうには・あふみ・みの・ひだのつはもの・まゐりけり・ほくろくだうには・わかさ・よりきたは・まゐらず・そのほかは・みなまゐ
りけり・されども・いづのくにのぢうにん・いとうの九らうすけうぢ・さがみのくにのぢうにん・またのの五らうかげひさ・たかはしのはんぐわんながつな・
むさしの三らうさゑもんありくに・ながゐのさいとうべつたうさねもりは・へいけの・かたにぞさふらひける・さらば・まづほくこくへ・はつ
かうせよやとて・たいしやうぐんには・こまつの三ゐのちうしやうこれもり・ゑちぜんの三ゐみちもり・さつまのかみただのり・みかはのかみとものり・たじ
まのかみつねまさ・わかさのかみつねとし・さぶらひたいしやうには・かづさのたらうはんぐわんただつな・ひだのたいふのはんぐわんかげたか・かはちはんぐわんひでくに・
たかはしのはんぐわんながつな・いとうの九らうすけうぢ・またのの五らうかげひさ・むさしの三らうさゑもんありくに・ながゐのさいとうべつたうさねもりを・
P291
さきとして・つがふそのせい・十万よき・おなじき四ぐわつ十六にちに・みやこをたつて・ほつこくへ・はつかうせられけり・かたみちを・
たまはつてんければ・あふさかのせきより・はじめて・ろじにもてやう・けんもん・せいかの・しやうぜいくわんもつをいはず・
みないちいちに・うばひとる・まして・しが・からさき・まのの・たかしま・しほつ・かいづの・みちのほとりの・いへいへを・つゐふく
して・とほられければ・じんみんことごとく・にげさんず・せんぢんは・ゑちぜんへ・すすめば・ごぢんは・いまだあふみのくに・かいづの
うらに・みちみちたり
経政の竹生島詣 702
なかにも・ごぢんのたいしやうぐん・くわうごぐうのすけけんたじまのかみつねまさは・およそ・くわんげんのみちに・たつし・さいげい・ひとにすぐれて・お
はしければ・かかるよの・みだれのなかなれども・なぎさにたちいで・まんまんたる・かいしやうをみわたせば・一のしまあり・あ
れはいかにとのたまへば・あれこそきこえさふらふ・ちくぶじまさふらふよと・まをしければ・いざやさらば・わたつてみむとて・
さぶらひあんゑもんありのりを・はじめとして・そうじて・さふらひ五六にん・こぶねに・とりのり・かのしまにわたつて・しまのけいきをみたま
ふに・こころもことばも・およばれず・ころはうづき十かあまりの・ことなれば・まつにふぢなみ・さきかかり・むらさきのくもかと・
うたがはれ・はつねゆかしきほととぎす・をりしりがほに・つげわたり・かんこくの・あうぜつの・こゑおいんたり・かの・じんくわう・
どうなん・くわぢよを・つかはして・ふしのくすりを・もとめしに・われ・ほうらいをみずば・いなや・かへらじとて・い
たづらに・ふねのうちにて・としつきを・おくり・てんすゐ・べうべうとして・もとむることを・えざりけん・かのほうらいたうのあり
P292
さまも・これにはすぎじとぞ・みえし・あるきやうのもんにみえたる・なんえんぶだい・たいかいのひがしに・みづうみあり・そのうちに・
こんりんざいより・おひいでたる・すゐしやうりんの・やまあり・てんによすむところと・いへりすなはち・かの・ちくぶしまこれなり・べんざいてん
は・じゆげせきじやうに・あまくだらせたまへりと・いへり・これは・こすゐ・せきじやうに・一そくの・かたちをうつしたま
ふ・つねまさ・ふねよりあがり・みやうじんのおんまへに・まゐりをがみを・まゐらつさせたまひけり・それべんざいてんは・わうこ
のによらい・ほつしんのだいじなり・めうおんべんざいてん・みなは・おのおのべちなりとは・まをせども・しゆじやうさいどの・おんめぐみ・ひ
としく・一どさんけいのともがらも・しよぐわんじやうじゆ・ゑんまんすとこそ・うけたまはれ・たのもしうこそ・さふらへとて・ただ
かたときの・ほどとはおもはれけれども・そのひも・すでに・くれければ・そのよはしまにてぞ・あかされける・ころはうづき・
なかの八かの・ことなれば・ゐまちのつき・さしいでて・こじやうも・てりわたり・みやのうちも・かがやきて・おもしろかり
ければ・つねまさ・じやうぢうより・びはを・まをしおろし・よもすがら・しらべ・ひきよくを・つくされけり・かのしやうりつ
の・しらべには・みやのうちも・すみわたり・まことにおもしろかりければ・みやうじん・かんおうやしたまひけん・つねまさの・そで
のうへに・びやくりうげんじて・みえたまふ・つねまさ・ばちさしをさめ・たまひて・
ちはやふるかみにいのりのかなへばや・しるくもいろのあらはれにけり・
われらこんど・てうてきを・たひらげて・みをまつたうせんこと・うたがひなしとよろこびて・またふねに・とりのつて・かい
づのうらにぞ・あがられける
P293
火うち合戦 703
さるほどに・きそは・ゑちごのこふに・ありながら・ゑちぜんの・ひうちが・じやうをぞ・こしらへさせられける・じやう
のうちに・こもるせい・とがしのにふだうぶつせい・はやしの六らうみつあきら・へいせんじのちやうりさいめいゐぎし・にふぜん・みやさき・いしくろ・うち
だのものどもを・さきとして・つがふそのせい・六千よきとぞ・きこえし・へいけ・かしこにおしよせて・みたまへば・
ひうちもとより・くきやうの・じやうくわくなり・ばんじやくそばたち・めぐつて・しはうにみねを・つらね・やまをうしろにし・やま
をまへにあつ・じやうのまへには・のうみがは・しんだうがはとて・ながれたり・ふたつのかはの・おちあひに・たいぼくをきつて・しが
らみにかき・たいせきをたたみ・あげたりければ・みづとうざいの・やまのねをひたして・ひとへにたいかいに・のぞむがご
とし・かげなんざんを・ひたして・あをうして・くわうやうたり・なみせいじつをしづめて・くれなゐにして・いんりんたり・かのこんめい
ちの・ありさまも・これには・すぎじとぞ・みえし・ふねならでは・たやすくわたすべしとも・みえざりければ・へい
けのだいぜい・むかひのやまに・ぢんをとつて・むなしくひかずをぞ・おくられける・なかにも・じやうのうちにさふらひける・
へいせんじのちやうり・さいめいゐぎし・へいけに・こころざしありければ・よにいつて・やまのねをまはり・ふみをかいて・ひき
めにいれ・へいけのぢんへぞ・うちいれたる・へいけのつはもの・これをみて・ここなるひきめの・ならぬことこそ・ふしぎ
なれとて・とつて・みけるに・なかにふみぞ・さふらひける・たいしやうぐんに・みせたてまつる・ひらいてみたまへば・このかは
は・わうこよりの・ふちにはあらず・いつたん・やまがはを・せきあげてさふらふ・よにいつて・あしがるどもを・つかはして・し

P294
がらみを・きりおとさせたまはば・みづはほどなく・おつべし・むまの・あしぎき・くきやうのところにてさふらふ・いそぎ・よせさせ
たまへ・うしろやに・おいては・つかまつらむずるさふらふ・かうまをすは・へいせんじのちやうり・さいめいゐぎしが・まをしじやうとぞかきた
りける・へいけ・なのめならず・よろこびたまひて・よにいつて・あしがるどもを・つかはして・しがらみを・きりおとさせら
れたりければ・げにもやまかはにてはあり・みづはほどなくおちにけり・へいけしばしの・ちちにもおよばず・十万
よきを・おほて・からめてふたてに・わけてぞよせられける・なかにも・じやうのうちにさふらひける・へいせんじのちやうりさい
めいゐぎし・てぜい三百よきを・ひきわけて・へいけにちうをぞ・いたしける・にふぜん・みやさき・いしぐろ・うちだのものども・
ふせぎたたかふといへども・ぶせい・たぜいにかなはねば・さんざんにうちちらされ・かがのくにに・ひきしりぞき・しらやま
の・いちのはしをひきて・しらやまかはうちに・たてこもる・へいけつづいて・かがのくにに・みだれいり・とがしはやしが・二ケしよの・じやう
くわく・やきはらひてぞ・とほられける・へいけの・かたのたいしやうぐんに・こまつの三ゐのちうしやうこれもり・はやむまをたててみやこへ・
このよしを・まをされたりければ・のこりとどまりたまへる・へいけのゆかりのひとびと・いさみののしりたまふこと・なのめ
ならず・さるほどに・へいけは十万よきを・おほてからめて・ふたてにわけてぞむかはれける・まづ・おほての・たいしやうぐん
には・こまつ三ゐのちうしやうこれもり・ゑちぜんの三ゐみちもり・みかはのかみとものり・三にんたいしやうぐんにて・つがふそのせい・七まんよき・か
が・ゑつちうのさかひなる・となみやまへぞむかはれける・からめての・たいしやうぐんには・さつまのかみただのり・たじまのかみつねまさ・わかさの
かみつねとし・三にんたいしやうぐんにて・つがふそのせい・三万よき・のと・ゑつちうのさかひなる・しほのてへこそ・むかはれけれ・
なかにも・ひうちがじやうに・さふらひける・はやしの六らうみつあきら・きそどのへ・まをしけるは・さりともと・ぞんじさふらひつる・ひ
P295
うちのじやうをば・へいせんじのちやうりさいめいゐぎしが・かへりちうによつて・ねんなう・やぶられさふらひぬ・こんどは・へいけ・
たいぜいにて・むかはれさふらふ・ゑつちうの・ひろみへ・うちいづるほどならば・いよいよみかたの・おんだいじなるべし・いよいよよせ
させたまへと・まをしたりければ・きそ・さてはとて・おなじき五ぐわつ五かのひ・五万よきにて・ゑちごのこふをぞ・
うつたたれける・きそ・のたまひけるは・へいけのたいぜい・ゑつちうのひろみへ・うちいづるほどならば・さだめて・かけあひの
かつせんにてぞ・あらんずらん・かけあひの・いくさといふは・いきほひのたせうに・よることなれば・たいぜいを・かさに・か
けては・かなふまじ・まづ・からめてを・むけよやとて・をぢの十らうくらんどゆきいへに・壱万よきを・さしそへて・
しほのてへこそ・むけられけれ・よしなかが・いくさの・きちれいには・七手(ななて)に・わかつものなればとて・のこり四万よ
きを・六てに・わかつ・まづあしかがの・やたのはんぐわんだいよしきよに・七千よきを・さしそへて・きたくろさかへぞ・むけ
られける・にしな・たかなし・やまだのじらう・これも・七千よきにて・みなみくろさかへぞ・むかひける・ひぐちのじらうかね
みつ・五せんよきにて・くりからの・だうのうしろへ・からめてにこそ・まはりけれ・ねのゐの・こやた・五千よき・まつ
ながのやなぎはら・ぐみのきばやしに・ひきかくす・いまゐの四らうかねひら・六千よきにて・わしのしまを・うちわたり・ひ
のみやばやしに・たてこもる・きそは・一万よきにて・くろさかの・きたのはづれ・おやへの・わたりをし・はに
ふのもりに・ぢんをとる
木曽の願書 704
P296
きそ・はかりごとに・はたさしを・さきにたてよやとて・まづ・はたさしを・さきだてらる・おなじき五ぐわつ十一
にちの・みのこくばかりに・くろさかのたうげに・はせついて・しらはた卅ながればかり・一どに・はつと・さしあげたり
ければ・へいけのかたには・これをみて・あはや・げんじの・一ぢんこそ・むかうたんなれ・ここは・やまも・た
かう・たにもふかう・四はう・ぐわんせきなりければ・からめて・さうなう・よもまはさじ・ここに・ぢんをとれやとて・
となみやまの・さんちう・さるが・ばばと・いふところに・へいけ七万よき・おりゐて・ぢんをぞ・とつたりける・きそ
は・やはたのしやりやう・はにふのもりに・ぢんどつて・四はうを・きつと・みまはせば・なつやまの・みねの・みどんの・
このまより・あけのたまがき・ほのみえて・かたそぎづくりの・やしろあり・まへに・とりゐぞ・たちたりける・きそ・くに
の・あんないしやをめして・あれにみえさせたまふをば・いづれの・やしろと・まをしたてまつるぞ・または・いかなるかみを・
あがめたてまつりたるぞと・のたまへば・あれこそ・やはたを・うつしたてまつつて・たうごくの・しんやはたともまをし・またははにふの
やしろとも・まをしさふらふなりとぞ・まをしける・きそ・なのめならずよろこびたまひて・てかきに・めしぐせられたりける・た
いふばうかくめいをめして・よしなかこそ・さいはひに・うぢがみ・八まんだいぼさつの・ごはうぜんに・ちかづきたてまつつて・かつせんを・とげむ
とすれ・さらむにとつては・かつうは・こうだいのため・かつうは・たうじの・きたうのために・ぐわんしよを・ひとふでまゐ
らせばやと・おもふはいかがあるべきと・のたまへば・かくめい・このぎもつとも・ゆゆしうさふらひなんとて・むまより・お
りてかからんとす・かくめいが・そのひのしやうぞくには・かちのひたたれに・くろいとをどしの・よろひをき・三じやく五すんの・いか
ものづくりの・たちをはき・廿四さいたる・おほなかぐろの・やおひ・ぬりごめどうのゆみ・わきにはさみつつ・えびらより・こ
P297
すずり・たたうがみを・とりいだし・きそがまへに・ついひざまづいて・ぐわんしよを・かくす千のつはもの・これをみて・あつぱれ・ぶん
ぶどもの・たつしやかなとぞ・ほめたりける・このかくめいとまをすは・もとは・じゆけのものなり・くらんどみつひろとて・くわんがく
ゐんに・さふらひけるが・しゆつけして・三でうばうしんきうと・なのつて・しばらく・なんとに・さふらひけるが・一とせ・たか
くらのみや・みゐでらへ・じゆぎよのとき・さんもん・なんとへ・てふじやうつかはされし・そのへんでふをも・このかくめいぞ・かきたりけ
る・そもそもきよもりにふだうは・へいしのさうかう・ぶけのぢんかいなりと・かきたりければ・にふだうおほきに・いかつて・せんず
るところ・そのしんきうほうし・いけどりにして・しざいに・おこなへと・のたまへば・かくめい・なんとには・こらへで・ほつこくに・
おちくだり・きそに・ついて・かいみやうし・そのなを・たいふばうかくめいとぞ・なのりける・かかりし・さいじんなりければ・
なじかは・かきもそんすべき・こころもおよばずぞ・かきたりける・そのぐわんしよに・いはく・
きみやうちやうらい・八まんだいぼさつは・じちゐきてうていのほんしよ・るゐせいめいくんのなうそなり・はうそをまもらむがため・さうせいをりせん
がために・三じんのきんようをおく・三じよのけんひをひらきたまへり・ここにしきりのとしよりこのかた・へいしやうこくといふものあつ
て・しかいをくわんりやうし・ばんみんをなうらんせしむ・これすでに・ぶつぽふのあだ・わうぽふのてきたり・よしなかいやしくも・きうばの
いへにむまれて・わづかにききうのちりをつぐ・かのばうあくをみるに・しりよかへりみるにあたはず・うんをてんだうにまかせて・みを
こくかになげうち・まことにぎへいをおこして・きようきをしりぞけむとす・いまたうせんりやうかの・ぢんをあはすと・いへども・しそついまだ・
いちどのいさみを・えざるあひだ・まちまちのこころ・おそれたるところに・いまいちぢんはたをあぐ・せんぢやうにして・たちまちに三しよわ
くわうのしやだんをはいす・きかんのじゆんじゆく・あきらかなり・きようとちうりくうたがひなし・くわんきなみだ・こぼれて・かつがうきもにそむ・そう
P298
そふ・さきのむつのかみ・みなもとのよしいへのあそん・みをそうべうの・しぞくに・きふして・そのなを・八まんたらうと・がうせ
しよりこのかた・そのもんえふたるものの・ききやうせずと・いふことなし・よしなかいやしくも・そのこういんとして・かうべをかたぶけて・とし
ひさし・いまこのたいこうを・おこすこと・たとへば・えいじのかひをもつて・きよかいをはかり・たうらうがをのをとつて・りうしやに・むか
ふがごとし・しかりといへども・いへのため・みのためにして・これをおこさず・きみのため・くにのためにして・これを
おこす・こころざしのいたり・しんかんあんに・あらんをや・たのもしいかな・よろこばしいかな・ふしてねがはくは・みやうけん・ゐをくはへ・りやうしん
ちからをあはせて・かつことを・いちじにけつし・あくを・四はうへ・しりぞけたまへ・しからばすなはち・たんき・みやうりよにかなひ・ゆうけん・か
ごを・なすべくんば・まづ・一のずゐさうを・みせしめたまへ
じゆえい二ねん五ぐわつ十一にち・ みなもとのよしなかうやまつてまをす
とぞ・よみあげたる
倶利伽羅 705
きそどのを・はじめとして十三にんの・うはやのかぶちらを・一づつ・ぐわんしよにそへて・だいぼさつの・ごはうぜんにぞ・をさめけ
る・八まんだいぼさつ・まことのこころざし・二つなきところを・はるかにせうらんや・したまひけん・くものなかより・やまばと・二・とびきたり・
げんじの・はたのうへに・へんはんす・げんじのかたには・このよしをみて・いさみののしること・なのめならず・へいけの・つはものどもは・これ
をみて・みのけ・よだつてぞ・おぼえたる・そののちは・げんじもすすまず・へいけも・すすまず・りやうはう・たてのは
P299
をつきあはせてぞ・ささへたる・そのあひわづかに・二ちやうばかりは・あるらんとぞ・みえし・そののち・げんじはかり
ごとに・せいひやう十五きを・いだして・十五のかぶらを・へいけのぢんへ・いいれさす・へいけも・せいひやう・十五きを・いだ
して・十五のかぶらを・いかへさす・げんじ・卅きを・いだして・卅のかぶらを・いさせければ・へいけも・卅きを・いだ
して・卅のかぶらを・いかへす・げんじ・五十きを・いだせば・へいけも・五十きをいだし・百きをいだせば・百きを
いだし・あはせ・りやうはうたてのおもてに・さしいでて・しようぶをせんと・はやりけるを・げんじせいして・しようぶをば・せさせ
ず・かやうに・あひしらひ・ひをまちくらし・へいけのたいぜいを・そばなるたにへ・おひおとさんと・しけるを・へい
けはこれを・ゆめにも・しらずして・ともに・あひしらひ・ひをまちくらしけるこそ・はかなけれ・そのよの・
ねのこくばかりに・ひぐちのじらうかねみつ・五千よきにて・くりからのだうのうしろに・まはりあひ・ときを・どつ
とぞ・つくりける・ねのゐのこやた・五千よき・まつながのやなぎはら・ぐみのきばやしより・をめきさけんで・はせ
きたる・いまゐの四らうかねひら・六千よきにて・ひのみやばやしより・はせちかづく・きそは・一万よきにて・おなじう・
ときのこゑをぞ・あはせける・ぜんご・しまんよきが・ときのこゑには・やまも・かはも・ただいちどに・くづるるか
とぞおぼえたる・へいけは・おもひもかけぬ・ときのこゑに・おどろいて・そばなる・たにへぞおとしける・きたなしや・
かへせや・かへせと・いひけれども・たいぜいの・かたぶきぬるはとつて・かへすが・まれなれば・おやおとせば・
こも・おとし・あにが・おとせば・おとともつづく・しゆおとせば・いへのこ・らうどうも・つづきけり・むまにはひと・
ひとにはむま・おちかさなりおちかさなり・せしほどに・さしもに・ふかき・たにひとつを・へいけのせい・七万よきにて・うめ
P300
あげたり・さればにや・がんせん・ちをながし・しがい・をかを・なすとかや・わづかに・たいしやうぐん・これもり・みちもり・
ばかりこそ・からきいのち・たすかつて・かがのくにへは・ひかれけれ・にふだうの・ばつしみかはのかみとものりも・うたれ
たまひぬ・ただつな・かげたかも・うたれにけり・さればにや・このたにのそこ・いはのはざまには・やのあと・かたなのきずあと・
のこつて・いまにありとぞ・うけたまはる・なかにも・いづのくにのぢうにん・いとうの九らうすけうぢは・とし卅四と・なのつて・とつ
て・かへし・さんざんに・たたかうて・うたれにけり・またのの五らうかげひさも・いつしよにうちじに・してんげり・
なかにも・びつちうのくにのぢうにん・せのをのたらうかねやす・へいせんじの・ちやうり・さいめいゐぎしは・いけどりにこそ・せられけれ・
せのをのたらうかねやす・をば・きそ・いかがは・おもはれけむ・さうなう・きらで・かがのくにのぢうにん・くらみつの三
らうなりずみに・あづけおかれたり・へいせんじの・ちやうりさいめいゐぎしをば・きそが・まへにひつすゑ・にくし・そのほう
しきれとて・きらせられけり・そのほか・いけどり・三千よにんが・くびきりかけさせ・いまは・おもふことなし・ただし・
をぢの十らうくらんどゆきいへに・一万よきを・さしそへて・しほの・てへむけつるこそ・おぼつかなけれ・いざやゆきて・
みむとて・四万よきが・うち・あらて・二万よきを・ひきぐして・ゑつちうのくに・ひみのみなとを・うちわたさんと・
したまひけるが・をりふし・しほさしみちて・ふかさ・あささを・しらざりけるに・たいふばうかくめいが・はかりごとに・
くらおきむま・十ぴきばかりに・たつな・むすんで・うちかけ・たいぜいがまつさきに・おひいれたりければ・くらつめ・ひた
るほどにて・むかひのきしに・わたりつつ・さては・あさかりけるぞや・わたせやとて・きそ・あらて・二万よき・
うちいりてぞ・わたしける・しほのてに・うちのぞんで・みたまへば・あんのごとく・十らうくらんど・いくさに・うちまけ・
P301
ひきしりぞき・むまのいきを・やすめたまふところに・きそ・あらて・二万よきを・いれかへて・さんざんにこそ・せめられけれ・へい
け・きそに・ていたう・せめられて・かなはじとや・おもはれけん・かがのくにに・ひきしりぞき・あだか・しのはらに・
ぢんをとる・きそ・つづいて・かがのくにに・みだれいり・あだか・しのはらにて・かつせんす・五ぐわつ廿三にち・むまの
こく・ばかりのことなりければ・くさも・ゆるがず・てらすひに・げんぺいたがひに・いりみだれ・さんざんに・せめたたか
ひけるに・へんしんより・あせながれ・みづをいだすに・ことならず・ここにて・へいけ・三千よき・うたれにけり・げんじ
も・二千よき・ほろびにけり・へいけは・しよしよの・いくさにうちまけて・みなちりぢりに・なつてぞ・のぼら
れける
実盛が最後 706
ここに・おちゆくせいのうちに・むしや三き・とつてかへし・さんざんにこそ・たたかひけれ・一きは・たかはしのはんぐわんながつな・
一きは・むさしの三らうざゑもんありくに・一きは・ながゐのさいとうべつたうさねもりとぞ・きこえし・なかにも・たかはしのはんぐわんなが
つなは・ゑつちうのくにのぢうにん・にふぜんのこたらうと・くんで・おちけるところを・にふぜんが・いとこ・ゑちごのくにのぢうにん・なんでう
のじらう・おちあひて・たかはしがくびをば・とつてけり・むさしの三らうざゑもんありくには・むまをも・いさせ・おりた
つて・たたかひけるが・や・二三十すぢ・いたてられ・たちをつゑにつき・かたきのかたを・にらまへて・たちすくみ
にこそ・したりけれ・いまは・ながゐの・さいとうべつたう・ただいつきに・なつて・かへしあはせ・かへしあはせ・さんざんに
P302
こそ・たたかひけれ・ここに・げんじの・かたより・むしや一き・はせきたり・みかたのせいは・みな・おちゆきさふらふに・ただ
一き・のこりとどまつて・いくさするひとこそ・おぼつかなけれ・いかなるひとぞ・なのれや・なのれと・いひければ・
かういふ・わぎみは・なにものぞ・まづ・なのれと・いはれて・これは・しなののくにの・ぢうにん・てづかの・たらう・かな
さしのみつもりとぞ・なのりたる・ひごろより・さるひとありとは・ききおよびたり・これは・わざとおもふやうあつて・
なのらぬなり・ただしなんぢを・さぐるには・あらず・よれあへや・くまんとて・むまうちならべ・ひつくんで・
どうとおつ・さねもりこころは・たけうおもへども・いたで・どもをば・おうたりけり・そのうへ・おいむしや・なりければ・
つひに・てづかが・したになつてぞ・うたれける・てづか・くびとつて・きそどのの・おんまへにまゐり・みつもりこそ・きい
のくせものと・あうて・くんでうつてまゐりてさふらへ・たいしやうぐん・かとみさふらへば・つづく・せいも・さふらはず・また・は
むしややらんと・ぞんじさふらへば・にしきの・ひたたれをきて・さふらひつる・さいこくぶし・きないのつはものやらんと・ききさふらへ
ば・こゑは・ばんどうごゑにてさふらふと・まをしたりければ・きそどの・あなむざん・もしそれは・ながゐの・さいとうべつたうさね
もりにてもや・あるらん・それならば・よしなかが・かうづけへ・こえたりしとき・をさなめに・みしかば・しら
がの・すこしかすほなり・しが・いまは・七十にも・あまり・しらがにこそ・ならむずるに・びんはつの・く
ろきは・たれなるらん・ひぐちのじらうかねみつは・ねんらいのとくいなれば・みしりたるらん・ひぐち・めせとて・めされ
けり・ひぐち・このくびを・ただひとめみて・あなむざん・これは・まことに・ながゐのさいとうべつたうさねもりにて・さふらひ
けるぞや・きそ・さて・びんひげのくろきは・いかにと・のたまひければ・ひぐちのじらう・なみだを・はらはらと・な
P303
がいて・さんさふらふ・そのやうを・まをさんと・つかまつりさふらへば・あまりに・あはれにおぼえて・まづ・かねみつが・ふかく
のなみだの・さきだちさふらふなり・されば・ゆみやとりは・ただかりそめの・ところにても・のちまでの・おもひでのことばをば・
かねて・まをしおくべきことにてさふらふなり・さねもり・ひごろ・かねみつにあうての・つねは・うちとけ・ものがたりに・われ六十
にあまり・いくさばに・いでんときは・びんひげを・すみにそめうと・おもふなり・そのゆゑは・わかとのばらに・あらそつて・さ
きをかけんも・おとなげなし・またおいむしやとて・ひとにあなづられんも・くちをしかるべし・なんどまをして・さふら
ひしが・さては・そめて・さふらひけるぞや・あらはせて・ごらんじさふらへと・なみだもせきあへず・まをしたりけ
れば・きそどの・まことにもとて・かがのくに・なりあひの・いけにて・あらはせて・みたまへば・げにも・はくはつに
こそ・なりにけれ・さねもり・またにしきの・ひたたれを・きさふらひけることは・さねもり・みやこを・いづるとて・おほいとの
に・まをしけるは・ひととせ・とうごくの・あんないしや・つかまつつて・やひとつを・だにも・いすてずして・するがの・かんばら
より・にげのぼりて・さふらふことも・さねもり一にんが・みのうへにては・さふらはねども・おいのはての・ちじよくただ・このことにこそ・
さふらへ・こんど・ほくこくに・まかりむかうて・さふらはば・さだめて・うちじに・つかまつるべしあはれ・にしきの・ひたたれを・おんゆる
され・さふらへかし・そのゆゑは・さねもりもとは・ゑちぜんのものにてさふらふが・きんねんしよりやうに・ついて・むさしのながゐに・きよ
ぢうつまつり・さふらひき・さてこそ・ながゐのさいとうとは・めされさふらへ・こきやうへは・にしきをきてかへれと・まをすことのさふらふ・
ものをなんど・やうやうに・まをしたりければ・おほいとのは・さることありとて・かんじて・ゆるしたまひけり・
むかしの・けんしんは・にしきのたもとを・くわいけいざんに・ひるがへし・いまのさねもりは・にしきをきて・そのなをほつこくの・ちまたにあぐと
P304
かや・へいけ・さんぬる・四ぐわつに・みやこをいでられしには・十万よき・おなじき五ぐわつにかへりのぼり・たまふには・ただ三万
よき・さしも・はなやかに・て・みやこをいでし・ひとびとの・くちもせぬ・なをば・うきよにとどめおき・そのみは・
こしぢのすゑのちりと・なるこそ・かなしけれ・みかはのかみとものりも・かへりたまはず・ただつな・かげたかも・かへらず・ながれ
を・つくして・すなどるときは・おほくの・うを・うと・いへども・めいねんには・うをなし・はやしを・やきて・かるとき
は・おほくの・けだもの・うと・いへども・めいねんには・けだものなし・のちを・ぞんじて・せうせうは・のこさるべかりけるもの
をとぞ・みなひと・まをしあはれける
玄ムの沙汰(あひ) 707
かづさのかみただきよは・ちやくし・たらうはんぐわんただつなを・うたせておほいとのに・いとままをし・しゆつけとんせい・してんげり・おとと・ひだの
かみかげいへも・ちやくし・たいふのはんぐわんかげたかを・うたせこれも・しゆつけにふだう・してんげる・みやこのうちは・まをすにおよばず・
きんごく・ゑんごくの・ものどもも・あるひは・おやを・うたせこにわかれ・をつとにはなれ・もんとを・とぢて・かなしみけり・これ
ひとへに・うむなんの・たたかひに・あひおなじ・おなじき六ぐわつついたちのひ・だいりには・さいしゆじんぎのおほなかとみのさだとしを・
でんじやうのしもくちへ・めされて・こんど・ひやうらんしづまらば・いせへ・ぎやうかうなるべき・よしを・おほせくださる・さだとし
かしこまりうけたまはつて・まかりいづ・そもそもいせだいじんぐうと・まをしたてまつるは・むかし・たかまのはらより・みののくに・いぶき
のたけへ・あまくだらせ・たまひたりしを・すゐにんてんわう・廿五ねん・三ぐわつついたちのひ・いせのくに・わたらへのこほり・いすず
P305
のかはかみ・したづ・いはねにして・おほみやばしらを・ふとしきたてて・いはひそめ・まゐらせてより・このかた・につぽん・六十よしう・三
千七百・五十よしやの・なかには・すぐれたまへる・おんかみなり・されども・よよのみかどの・りんかうは・なかりしに・
むかし・ならの・みかどのおんとき・さだいじん・ふひとのまご・しきぶきやう・うまかひのこに・だざいのせうに・けんさひやうゑのかみ・ふぢ
はらの・ひろつぎといふひとは・おそろしきひとなりけり・たとへば・てんぴやう十五ねん・十ぐわつに・ひぜんのくにまつらのこほりに
して・す万のひやうかくをそつして・こくかを・あやぶめんと・せしとき・みかどおほののあづまうどを・たいしやうとして・ひろ
つぎつゐたうの・おんいのりのおんために・はじめていせへぎやうかうなる・さればそのばうりやうあれて・つねに・おそろしきことども・
おほかりけり・おなじき・てんぴやう十八ねん・六ぐわつ三かのひ・ちくぜんのくに・みかさのこほり・だざいふの・くわんぜんおんじ・くやうのだう
しは・なんとの・げんばうそうじやうとぞ・きこえし・げんばう・かうざに・のぼり・けいびやくのかね・うちならし・せつぽふせんと・しけ
るに・にはかに・そらかきくもり・いかづち・おびただしう・なりさかり・だうのむねを・けやぶつて・げんばうのうへに・おち
かかり・そのくびを・とつて・くものうちへぞ・いりにける・おそろしなんども・おろかなり・これは・げんばう・ひろつぎを・
てうぷく・せられたりけるに・よつてなり・おなじき・てんぴやう十九ねん正ぐわつ十五にちの・むまのこく・ばかりに・こうふくじ
の・なんだいもんには・しやれたる・かうべに・げんばうといふ・めいをかきて・そらより・おとし千にんばかりが・こゑに
て・くものうちに・いちどにどつと・わらふこゑ・しけり・きくひとみな・みのけよだつてぞ・おぼえたる・この・ひろ
つぎとまをすは・ひぜんのくに・まつらより・みやこへ一にちにうつ・むまを・もちたまへり・されば・さいごのときも・かのむまに・うち
のつて・かいちうへ・かけいりてぞ・うせられける・されば・そのりやうをあがめて・ひぜんのくにまつらのこほりに・いははれたまふ・
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かがみのみやうじん・これなり・このげんばうとまをすは・むかし・きびのだいじん・につたうのとき・ほつさうしうを・わがてうへ・わたしたりしひとなり・
そのときに・たうじんが・げんばうとは・かへりて・ばうすと・いふこゑあり・いかさまにも・このひと・きてうののち・ことにあ
ふべしと・まをしたりしに・たがはず・むかし・さがの・てんわうのおんとき・へいぜいの・せんてい・よを・みだらんと・
せさせたまひしとき・みかど・第三(だいさん)の・ひめみやを・かもの・さいゐんに・たてまゐらつさせ・たまひけり・それより・さい
ゐん・はじまりけり・またしゆじやくゐんのぎよう・てんぎやう七ねんに・すみとも・つゐたうの・おんいのりの・おんために・やはたの・りんじ
のまつりを・はじめらる・へいけ・かやうのことどもを・れいとして・さまざまの・おんいのりどもをぞ・はじめられける
木曽山門の牒状 708
おなじき六ぐわつ八かのひ・きそは・ゑちぜんのこふに・つきて・まづ・いまゐ・ひぐち・たてねのゐを・めして・われら・こん
ど・きんごくを・へてこそ・しやうらくすべきに・れいのさんもんのたいしゆ・へいけの・かたうどして・ふせぐ・こともや・あら
んずらん・うちやぶつて・とほらんことは・やすけれども・へいけこそ・ぶつぽふをも・しらじ・きみを・なやましたてまつ
れ・そのしゆごのために・しやうらくせん・よしなかが・しゆとに・むかつて・かつせんせんこと・おとらぬ・にのまひなるべし・
これこそ・ゆゆしきやすだいじなれ・こはいかが・はからふ・とのはらたちと・いひければ・たいふばうかくめいが・まをし
けるは・さんもんはこれ・三千しゆと・いちみどうしんに・あるべからず・ないないは・みかたに・こころざしを・ぞんずる・しゆと
も・せうせうさふらふらん・まづ・てふじやうを・つかはして・ごらんじさふらへかし・しさいは・へんてふに・みえさふらふべしと・まをし
P307
たりければ・きそ・このぎもつともとて・やがて・てふじやうを・かくめいに・かかせて・さんもんへこそ・おくられけれ・その
じやうにいはく
みなもとのよしなかおそれながらつつしみてまをしあげさふらふ・つらつら・へいけの・あくぎやくをおもふに・さんぬる・はうげん・へいぢより・このかた・
ながく・じんしんの・れいをうしなふ・しかりといへども・きせんてをつかね・しそあしをいただく・ほしいままに・ていゐを・しんだいし・
あくまで・こくぐんを・りやりやうす・だうり・ひりを・ろんぜず・うざい・むざいを・きらはず・けんもん・せいかを・つゐふくし・
そのしさいを・とりて・みだりがはしく・らうどうにあたへ・かの・しやうゑんを・もつしうして・ほしいままに・しそんに・はぶく・なかんづく・いんじ・
ぢしよう三ねん十一ぐわつに・ほうわうを・せいなん・りきうに・おしこめたてまつり・はくろくを・せいかいの・ぜつゐきに・うつし・たてまつる・
しゆしよ・ものいはず・だうろ・めをもつてす・しかのみならず・おなじき・四ねん五ぐわつに・一ゐんだい二の・みこ・たかくらのみやの・
しゆかくを・うちかこみて・ここのへの・こうぢんを・おどろかさしむ・ここに・ていし・ひぶんのがいを・のがれんがために・三ゐでら
へ・じゆぎよのとき・よしなかせんじつ・りやうしをたまはつて・さんらくを・くはだてんと・ほつするところ・をんてき・ちまたに・みちて・よ
さん・みちをうしなふ・きんきやうのげんじ・なほさんこうせず・いはんやわれら・ゑんきやうにおいてをや・なかんづく・をんじやうは・ぶげんせばき
によつて・なんとへ・おもむかしめたまふすなはち・げん三ゐよりまさにふだう・うぢばしにおいて・めいを・かろんじ・ぎをおもん
じて・一せんのこうをはげますと・いへどもたせいのせめを・まぬかれず・げいがいを・こがんの・こけにうづみ・せいめい
を・ちやうかのなみに・ながしをはんぬ・りやうしのおもむき・きもにめいじ・どうるゐの・かなしみ・たましひをうしなふ・これによりて・とうごく・
ほくこくのげんじら・さんらくをくはだてんとす・そのなかに・よしなか・そのしゆくいを・たつせんがために・いんじ・としのあき・はたを
P308
あげ・つるぎをとつて・しんしうをいでし・ひ・ゑちごのくにのぢうにん・じやうの四らうながもち・すまんのひやうかくを・そつして・はつかう
せしむるあひだ・よしなか・よこたがはらに・はせむかつて・かつせんす・よしなか・わづかに・三千のつはものをもつて・かの二万の・ぐん
びやうをやぶりをはんぬ・しかるを・ふうぶん・ひろきにおよんで・かさねて・へいしの・たいしやう十まんの・ひやうかくを・そつして・ほくろく
にはつかうす・ゑつしう・かしう・のうしう・となみ・くろさか・しほ・あだか・しのばら・いげのじやうくわくに・おいて・すケど
の・かつせんにおよぶ・はかりごとを・ゐあくのうちに・めぐらして・かつことを・しせきのもとに・えたり・うちては・かならずふく
し・せむればかならずくだる・たとへば・あきのかぜの・ばせうをやぶるに・ことならず・ふゆのしもの・ぐんえふを・からすに・
あひおなじ・これ・よしなかが・ぶりやくにあらず・ひとへにしんめいぶつだのたすけなり・へいしすでに・はいぼくのうへは・さんらくを・くはだてん
とす・いまえいがくのふもとをへて・まさに・らくやうのちまたに・いるべきなり・このときにいたつて・ひそかに・ぎたいあり・そのゆゑ・
いかんとなれば・そもそもてんだい・三千しゆと・げんじに・どうしんか・へいけによりきか・もしかのあくとを・たすけらるべ
くんば・しゆとにむかつて・かつせんすべし・もしかつせんにおよばば・えいがくのめつばう・くびすをめぐらすべからず・かなしいかな・へい
けしんきんをなやまし・たてまつり・ぶつぽふをほろぼすあひだ・あくぎやくをしづめむがために・ぎへいをおこすところに・たちまちに・三千のしゆとに
むかつて・ふりよのかつせんに・およばむことを・いたましいかな・いわうさんわうに・はばかりたてまつつて・かうていにちりうせしめば・
てうていくわんたいのしんとして・ぶりやくかきんの・そしりをのこさんことを・しんたいにまよひて・かくのごとく・あんないを・けいするところなり・
こひねがはくは三千しゆとかみのため・ほとけのため・きみのため・くにのために・して・げんじに・どうしんして・へいけを・ほろ
ぼし・こうくわに・よくせん・こんたんのいたりに・たへずよしなか・きようくわうきんげん
P309
じゆえい二ねん・六ぐわつのひ
しんじやう ゑくわうゐんのりつしのごばうへとぞかかれける
山門よりの返牒 709
そののちさんもんには・このじやうをひけんして・あるひはげんじに・どうしんせむといふ・しゆともあり・あるひは・へいけに・よりきせ
んといふ・たいしゆもあり・そのなかに・らうそうどものまをしけるは・われらは・むねとこんりんしやうわう・てんちやうちきうと・いのりたてまつ
るものなり・しかるに・へいけは・たうだいのごぐわいせき・さんもんに・おいて・ききやうを・いたさる・されども・あくぎやく・ほふにも
れ・ばんしんこれを・そむきたり・きんねんよりは・くにぐにへ・うつてを・つかはすといへども・へいけかへつて・いぞくのために・
ほろぼされ・うんめい・すでに・つきなんとす・げんじは・しよしよのいくさに・うちかちて・うんめいすでに・ひらけなんとす・なんぞ・さん
もんひとり・しゆくうんつきぬる・へいけのかたうどして・げんじをそむかんや・ねがはくは・われら・けふよりして・へいけ・ちぐ
のぎを・ひるがへし・げんじ・がふりよくすべきよしを・一みどうしんに・せんぎして・そののちかのへんてふをも・おくりける・そのじやうに
いはく・
さんぬる・十かのひのてふじやう・おなじき・十六にちたうらい・ひえつのところに・すじつのうつねん・いちじにかいさんす・ここに・へい
け・るゐねんにおよんで・せじやう・さわぎやむことなし・ことじんこうにあり・ゐしつすること・あたはず・(イ詳にあたはず)それえいざん
は・ていととうぼくのかみとして・こくか・せいひつの・せいきをいたす・しかりといへども・一てんひさしくかのえうげきにをかされ・し
P310
かいしづかに・そのあんぜんをえず・けんみつのほふり・なきがごとし・おうごのじんゐしばしば・すたるここに・きかたまたま・るゐだいぶび
のいへに・むまれて・たうじさいはひに・せいせんのじんたり・あらかじめ・きぼうをめぐらして・ぎへいをおこすところに・そのらういまだ・りやうねん
を・すぎざるに・そのなすでに・七だうにほどこす・こくかのため・るゐかのために・ぶこうをかんじ・ぶりやくをかんず・わがやまのしゆと・
かつかつもつて・しようえつす・かくのごとくならば・さんじやうのせいき・むなしからざる・ことを・よろこび・かいだいのけいご・おこた
り・なきことをしりぬ・しゆとらが・しんちう・ただけんさつをたれよ・じじ・たじ・じやうぢうの・ぶつぽふ・ほんしや・まつしや・さいそん
の・しんめい・いまけうほふの・ふたたび・さかえんことを・よろこび・そうきやうのふるきに・ふくせんことを・さだめて・ずゐきしたまふらむ・みやう
にはまた・いわうぜんせいのししやとして・きやうぞくつゐたうのゆうしに・あひくははり・けんにはまた・三千しゆと・しばらく・しゆ
がくさんきやうのきんせつを・やめて・あくりよちばつの・くわんぐんをたすけしめむ・しくわん十じようのぼんふうは・かんりよわてうのほかに・は
らひ・ゆか三みつのほふうは・じぞくを・げうねんのふるきに・かへさん・しゆとせんぎ・かくのごとし・つらつらこれを・さつ
せよ
じゆえい二ねん・六ぐわつのひ だいしゆら
とぞ・かきたりける
平家の一門日吉の社へ連署の願書 710
これによつて・げんじの一ぢん・すでにちかづきしよし・きこえしかば・へいけのひとびと・こは・いかがせんとぞ・さわ
P311
がれける・なんと・みゐでらは・うつぷんをふくめる・をりふしなれば・かたらふとも・よもなびかじさんもんは・たうけ
において・ふちうをぞんぜず・たうけまた・さんもんにおいて・うらみをむすばねば・ひよしのやしろへ・れんしよのぐわんしよを・こめ
たてまつつて・三千しゆとを・かたらはんとて・一もん十よにん・れんしよのぐわんしよを・かいて・ひよしのやしろへこそ・おく
られけれ・そのぐわんしよに・いはく
うやまつてまをすひよしのやしろを・うぢがみとさだめ・えんりやくじを・うぢでらと・がうして・いつかうてんだいのぶつぽふを・あふぐべきこと
みぎたうけ一ぞくのともがら・ことにきせいするむねあり・それ・えいざんは・くわんむてんわうの・ぎよう・だいしにつたうきてうののち・かの
たうざんによぢのぼり・このところに・しやなのたいかいをひろめ・たまひしよりいらい・ふかくぶつぽふはんじやうのれいくつとして・もつぱら・
ちんごこくかのだうぢやうに・そなふ・ここに・いづのくにのるにん・さきのうひやうゑの・ごんのすけ・よりとも・みのとがをくいず・
かへつててうけんをあざける・そのかんぼうにくみし・どうしんをいたすげんじら・ゆきいへ・よしなか・いげ・たうをむすんで・かずあり・りん
きやう・ゑんきやう・すこくをそうりやうし・とぎどこう・ばんぶつをあふりやうせしむ・これによつて・かつは・るゐだいくんこうのあとをおひ・
かつは・たうじきうばのげいにまかせて・しきりにつゐざいを・こふぎよりんかくよくのぢん・くわんぐんりをえず・せいぼでんげきのゐ・げき
るゐかつにのるににたり・いましんめいぶつだの・かびにあらずんば・いづれのひか・ほんげきの・きようらんを・しずめむ・こ
れによりて・いつかうてんだいの・ぶつぽふを・あふぎて・ひとへに・ひよしのしんおんを・たのまん・まくのみ・いかにいはんや・しん
らがなうそを・おもへば・かたじけなくも・ほんぐわんの・よえいと・いひつべし・いよいよ・そうちようすべし・いよいよ・くぎやうすべし・この
しそんにつたへて・ながく・しつだせし・さんもんに・よろこびあらば・いちもんの・よろこびとし・しやけに・いきどほり・あらば・一
P312
かの・いきどほりとし・ぜんにつけ・あくにつけ・ともによろこびをなし・おなじく・うれひをいだかん・とうしはまた・かす
がのやしろ・こうふくじを・うぢがみ・うぢでらとそんそうして・ひさしく・ほつそうだいじようのしうに・きえす・たうけはまた・ひよしの
やしろ・えんりやくじを・うぢがみ・うぢでらと・ききやうして・あらたに・ゑんじつとんごの・をしへにちぐせん・かれは・むかしの・
ゐせきなり・きみのために・えいかうをおもふ・これは・いまのせいきなり・いへのために・しきりにつゐばつをこふ・あふぎねがはくは・
さんわう七しや・わうじけんぞく・とうざいまんざん・ごほふしやうしゆ・十二だいぐわん・につくわうげつくわう・いわうぜんぜい・十二しんしやう・おのおのむ
にのたんぜいをてらし・ゆゐ一けんおうを・たれたまへ・じやほふげきしんのぞく・てをくんもんにつかね・ぼうぎやく・ざんがいのともがら・かばねを・
きやうどにのこさんか・われらがこんぜい・ぶつしんあに・すてめや・よつてたうけ一ぞくのともがら・いくどうおんに・れいをなし・きせい
かくのごとし・じゆ三ゐ・うこんゑのちうじやう・けん・さぬきのかみ・たひらのすけもり・じゆ三ゐ・ちうぐうの・ごんのちうしやう・けん・
ゑちぜんかみの・たひらのみちもり・じやう三ゐ・さこんゑのちうじやう・けん・いよのかみ・たひらのこれもり・じやう三ゐさこんゑの・ちうじやう・けん・はり
まのごんのかみ・たひらのしげひら・じやう三ゐ・ゑもんのかみ・けん・こんゑのきやうとほたふみのかみ・たひらの・きよむね・さんぎ・じやう三ゐ・しゆり
のごんのだいぶ・けん・かが・ゑつちうのかみ・たひらのつねもり・せいいたいしやうぐん・じゆ二ゐ・ぎやう・ごんちうなごん・けん・さひやうゑの
かみ・たひらのとももり・じゆ二ゐぎやう・ごんちうなごん・けんひぜんのかみ・たひらののりもり・じやう二ゐぎやう・ごんだいなごん・けん・さゑもんの
かみ・たひらのときただ・じやう二ゐぎやう・ごんだいなごん・けんでは・むつのかみ・たひらのよりもり・じゆ一ゐさきのないだいじん・たひらのむねもり・
うやまつてまをす・
じゆえい二ねん・六ぐわつのひ
P313
きん(きん二字愆カ)きんじやうざすそうじやうのごばうへとぞかかれたる
主上の都落 711
さんわう・だいしあはれみを・たれさせたまひ・おなじう・三千のだいしゆ・ちからをあはせよとなり・たいしゆ・われら・せんじつげんじ
に・どうしんのうへは・いまさら・ひるがへすべきに・あらずとて・へんてふにも・およばず・なかにも・ひごのかみさだよしは・ちんぜい
の・むほん・たひらげて・きくち・へつき・まつらたう・三千よきを・ひきぐして・おなじき・七ぐわつ十八にちに・みやこに
つく・こんども・ちんぜいはしたがへども・とうごく・ほくこくは・いまだ・しづまりも・やらざりけり・おなじき・廿二にちのよの・
ねのこく・ばかりに・六はらへんにはかに・だいちを・うちかへすが・ごとくに・しんどうし・むまにくらおき・はらおびし
め・しざいさふぐを・とうざいへ・はこびかくす・あけてのち・きこえしは・みの・げんじに・さどの・ゑもんの・じようしげ
としと・まをすものあり・これは・さんぬる・はうげんに・ちんぜいの・八らうためともが・いくさにまけて・おちゆきけるを・あふみのくに・いし
だふにて・からめとりて・そのときゑもんのじようには・なされたり・ためとも・からめたりとて・いちもんのげんじには・にくまれて・
へいけをかたらひけるが・このよの・やはんばかりに・六はらに・はせまゐつて・まをしけるは・きそよしなか・あふみのくに
まで・みだれいり・五万よきの・せいにて・ひがしさかもとに・みちみちて・ひとをも・やすくとほさず・たての六らう・
ちかただ・たいふのばうかくめい・てんだいざんに・きほひのぼり・そうぢゐんを・じやうくわくとして・さんそうら・ひとつに・なつて・すでに・
みやこへみだれいりさふらふ・ぞやと・まをしたりければ・へいけさらば・まづ・これをふせげやとて・たいしやうぐんには・さひやうゑの
P314
かみ・とももり・ほん三ゐのちうしやう・しげひら・二にんたいしやうぐんにて・つがふ・そのせい二千よにん・やましなをふせぎに・むかはれけ
り・さつまのかみただのり・たじまのかみつねまさ・わかさのかみつねとし・三にん・たいしやうぐんにて・つがふそのせい・三千よき・せたの・てへ
こそ・むかはれけれ・ゑちぜんの三ゐみちもり・のとのかみのりつね・二にん・たいしやうぐんにて・つがふそのせい・一千よき・うぢ
をふせぎに・むかはれけり・さるほどに・そのくらんどゆきいへ・一万よきにて・うぢぢより・みやこへいるとも・きこえけり・
あしかがの・やたのはんぐわんだい・よしきよ・五千よきにて・たんばのくにより・おほえやまをへて・しやうらくすとも・きこえけり・その
ほか・つのくに・かはちげんじども・ひとつになりて・よど・かはじりより・みだれいるとも・きこえけり・へいけこのうへは・みやこのう
ちにてこそ・ともかうも・ならむずれ・さらば・てどもよびかへせとて・うぢ・せたのてをも・みなよ
びかへされける・ていとみやうりのち・にはとりなきて・やすきことなし・をさまれるよだに・かくのごとし・いはんやみだれ
たるよに・おいてをや・よしののやまの・おくの・おくへも・いりなばやとは・おぼしめされけれども・しよこく七だうことごとく・や
ぶれにしかば・いづくのうらか・おだしかるべき・さんがいむあん・ゆによくわたく・によらいのきんげん・一じようの・めうもんなれ
ば・なじかは・すこしもまがふべき・おなじき・廿三にちの・さよふけがたに・おほいとの・にようゐんの・わたらせたまひ
ける・六はら・いけどのへ・まゐらせたまひて・まをさせたまひけるは・このよのなかの・ありさまは・いまははや・か
うにこそさふらへ・ひとびとは・みやこのうちにて・ともかうもなるべきよしを・のたまへども・まのあたりひとびとに・うき
めを・みせまゐらせんことも・いかんぞや・なれば・ひとまど・なりとも・ごかう・ぎやうかうをも・さいこくの・か
たへと・おもひなつて・こそさふらへと・まをさせたまひたりければ・にようゐん・ただ・とも・かうも・そこの・おん
P315
はからひに・こそとて・ぎよいのおんたもとに・あまるおんなみだ・せきあへさせ・たまはねば・おほいとのも・なほしの
そで・しぼるばかりにぞ・みえられける・へいけ・ゐんをも・うちをも・とりたてまつつて・さいこくの・かたへと・いふこと
を・ほうわうも・ないないしろしめされてもや・ありけむ・おなじき・廿四かのくれがたに・あぜちの・だいなごんすけかたのきやう
の・しそく・うまのかみすけとき・ばかりを・おんともにて・ひそかに・くらまのかたへ・ごかうなる・ひとこれを・しりたてまつら
ず・ここに・へいけの・さぶらひに・きちないさゑもんすゑやすと・いふものあり・さがさがしきによつて・つねはゐんのおんまへに
も・めしつかはれけるが・そのよしも・ゐんのごしよに・おんとのゐまをしさふらひけるが・つねのごしよのかた・なにと
なうさざめきあひ・にようばうたちの・しのびねに・うちなきなんど・したまひけるを・なにごとやらんと・きくほどに・
ほうわうの・ごしよにもわたらせ・たまはねば・いづかたへごかうなりたる・やらむと・まをすこゑに・ききなし・あな・あさ
ましやと・おもひ・いそぎ・六はらへ・はしりまゐつて・このよしまをしたりければ・おほいとの・いかでか・さるおん
ことの・わたらせ・たまふべきとは・のたまひけれども・いそぎおんむまに・めしゐんの・ごしよに・はしりまゐつて・みま
ゐらつさせ・たまふに・げにも・ほうわう・わたらせ・たまはずにようばうたちには・二ゐどの・たんごどのを・はじめたてまつつて・
ひとところも・わたらせ・たまはず・おほいとの・さていかにや・いかにと・おんたづねありけれども・たれおんゆくへ・しりま
ゐらせたりと・まをすひと・ひとりもなかりけり・さるほどに・ほうわうの・ごしよにも・わたらせ・たまはぬと・まをすほど
こそ・ありけれ・きやうちうの・さうどうなのめならず・いはんや・へいけの・ひとびとの・さわぎ・あはれける・ありさま・おの
づから・いへいへに・かたきうちいりたりとも・かぎりあれば・これには・すぎじとぞ・みえし・へいけ・ゐんをも・うちをも・
P316
とりたてまつつて・さいこくへとは・おもはれけれども・ほうわうのかく・すてさせ・おはしましけるうへは・たのむこの
もとに・あめのたまらぬ・ここちぞ・したまひける・さてしも・あるべきならねば・いまは・ぎやうかうばかりをなりとも・
なしまゐらせよやとて・おなじき廿五にちの・うのこくに・たまのみこしを・さしよせまゐらせ・たりければ・しゆじやう
は・こんねん・六さいにならせ・おはしましけるが・なにごころもなうぞ・めされける・へいだいなごん・ときただのきやうのきたの
かた・そちのすけどのぞ・ごどうよには・まゐられける・なかにも・へいだいなごん・ときただのきやううけたまはつて・しんじ・はうけん・ない
しどころ・いんやく・ときのふだすずかに・いたるまで・みな・とりたてまつれやと・げぢせられけれども・あまりにあわてて・とり
おとす・もののみおほかりけり・へいだいなごんときただ・くらのかみのぶもと・さぬきのちうしやうときざね・おやこ三にんばかりこそ・い
くわんただしうして・ぎやうかうには・ぐぶせられけれ・そのほかおほゐとの・を・はじめたてまつつて・こんゑづかさ・みつなのすけ
にいたるまで・かつちうをよろひ・きうせんをたいして・ぐぶせられけり・七でうをにしへ・しゆじやつかをみなみへ・ぎやうかうなる・ゆめ
のやうなる・おんことなり・さるほどに・かんてんすでに・ひらけて・くも・とうれいに・たなびき・あけがたのつきしろく・さ
え・けいめいまた・いそがはし・ひととせみやこうつしとて・にはかに・あわただしかりし・ことどもは・かかるべき・ぜん
べうとも・いまこそ・おもひしられけれ
あひ 712
なかにも・せつしやうどのは・とうじの・みなみへもんまで・ぎやうかうに・ぐぶせさせおはしまし・けるが・いかなるおんことか・わた
P317
らせ・たまひけん・かすがのだいみやうじんの・おんつげありとて・それより・おんくるまを・とつてかへし・おほみやを・のぼ
りに・きたやまのへん・ちそくゐんどのへ・いらせたまひけり
維盛の都落 713
なかにも・こまつの三ゐのちうじやうこれもりのきやうは・ひごろより・おもひまうけられし・ことなれども・さしあたつて
は・またかなしくぞ・おもはれける・この・きたのかたと・まをすは・こなかのみかどの・しんだいなごんなりちかのきやうの・おんむすめにて・
おはしけれども・ちちにも・ははにも・おくれたまひて・みなしごにては・おはしけれども・たうがんつゆに・ほころ
び・こうふんおもてに・こびをなし・りうはつ・かぜに・みだるるよそほひ・までも・たぐひすくなくぞ・みえられける・わかぎみ・
六だいごぜんとて・こんねん十になりたまふ・ひめぎみ・やしやごぜんとて・八になりたまふ・おはします・あるとき・三ゐ
のちうしやう・きたのかたにむかつて・のたまひけるは・これもりこそ・ひごろまをしさふらひつるやうに・いちもんに・ぐせられて・
さいこくのかたへ・おちゆきさふらへ・いづくまでも・ひきぐし・たてまつるべけれども・みちにもかたき・あひまつなれば・たひら
かに・とほらんこともかたければ・さて・とどめおきたてまつるなり・もしまた・いづくのうらわにも・こころやすう・おちついて・
さふらはば・それよりひとを・むかへにたてまつるべし・たとへ・これもり・またこのよに・なきものと・なりたると・ききたまふとも・さ
まなんど・かへさせたまふべからず・いかならんひとにも・みみえて・みをもたすけ・あの・をさなきもの
どもをも・はごくみ・たまふべし・よのつねの・ならひなれば・なさけをかけたてまつる・ひともなどかは・なかるべ
P318
き・なんど・やうやうに・こしらへおき・たまへども・きたのかたには・とかくのへんじも・したまはず・ひきか
つぎてぞ・なかれける・三ゐのちうじやう・すでに・いでんと・したまへば・きたのかた・三ゐのそでに・すがつて・みやこに
は・ちちもなし・ははもなし・すてられたてまつつて・そのゆゑはまた・たれにかは・みゆべきに・いかならん・ひとにもみ
えよなんど・うけたまはるこそ・うらめしけれ・ひごろは・おんこころざし・あさからぬやうに・もてなしたまへば・たれもひと
しれず・ふかうたのみたてまつつて・おなじのはらのつゆとも・きえ・おなじそこのみくづとも・ならんとこそ・ちぎ
りしに・いつのまにかはりぬる・ひとのこころぞや・されば・さよのねざめの・むつごとも・みないつはりに・なりに
けり・せめて・わがみ・ひとりならば・すてられたてまつる・みのほどを・おもひしりても・とどまりなん・
あのをさなきものをば・たれにみゆづり・いかになれとて・とどめおきたまふぞや・なさけなうも・すてたまふものかなと
て・かつうはうらみ・かつうはしたひつつ・なきたまひけるにも・三ゐのちうじやうまた・きたのかたにむかつて・のたまひけるは・
まことに・これもり十五・ひとは・十三のとしより・たがひに・みそめみえそめ・たてまつつて・ことしは・すでに・十二ねん・ひ
のなか・みづのそこへも・ともにいり・ともにしづみ・かぎりある・わかれぢまでも・おくれさきだたじとこそ・まをして
さふらひしかども・こんどはかく・こころうきかつせんのにはへ・うちいでさふらへば・あのをさなきものどもをさへ・ひきぐして・
うきめを・みせんことも・いかんぞやなれば・さて・とどめおきたてまつるなり・そのうへ・こんどは・よういもつかまつらず・あひ
かまへて・むかへをたてまつるべしとて・ちうもんにて・もののぐし・すでにいでんとしたまへば・わかぎみ・はしりいで・
ちちのよろひの・さうのそで・くさずりに・とりつきたまひて・こは・いづちとて・わたらせたまひさふらふぞや・われもまゐ
P319
らん・われもゆかんと・したひつつ・なきたまひけるにぞ・三ゐのちうじやう・うきよのきづなとは・おもはれけり・
さるほどに・三ゐのおとと・しん三ゐのちうじやう・すけもり・さちうじやうきよつね・しんせうしやうありもり・たんごの・ぢじうただふさ・びつちうのかみもろもり・
きやうだい・五にん・むまにのりながら・おほにはにひかへたまひて・ぎやうかうははや・はるかに・のびさせたまひてさふらふに・いかに
や・いままでのちさんと・こゑごゑに・まをされたりければ・三ゐのちうじやう・さてはとて・むまにうちのりて・いでられけ
るが・さるにてもとて・またひきかへし・えんのきはに・こまうちよせ・ゆみのはずにて・みすをきつと・かきあげたま
ひて・あれごらんぜよや・千万のかたきのなかをこそ・わつてもとほり・さふらはめ・あのをさなき・ものどもが・
あまりにしたひさふらふを・とかう・こしらへおかんと・つかまつりつるほどに・ぞんぐわいのちさんと・のたまひもあへず・なみだにむせ
びたまへば・きやうだい五きのひとびとも・みなよろひのそでをぞ・ぬらされける・また三ゐのさぶらひに・さいとう五・さいとう六とて・
あには十九・おととは・十七になるさぶらひあり・これはさんぬる・なつ・ほつこく・かがのくににて・うちじに・したりし・なが
ゐの・さいとうべつたうさねもりが・こどもなり・三ゐの・おんむまの・みづつきに・とりつきたてまつつて・いづくまでも・まゐるべ
きよしを・まをしければ・三ゐのちうじやう・わざと・なんぢらをば・おもふやうあつて・さてとどめおくなり・あの六だいが・また
たれをかは・たのむべき・ただまげて・とどまれと・のたまへば・かれら・ちからおよばず・なみだを・おさへて・
とどまりけり・三ゐのちうじやう・すでに・うちいでたまへば・きたのかたひごろは・これほどまで・なさけなかりける・ひととは・つゆおも
ひこそよらざりしかとて・ひとのきくをも・はばからず・みすのきはに・たふれふし・こゑをあげてぞ・なか
れける・わかぎみ・ひめぎみ・にようばうたちの・なきたまひける・こゑごゑの・はるかのもんぐわいにまでも・きこえければ・三ゐのちうじやう・こころ
P320
つよくも・こしらへおきては・いでられけれども・さすが・むまをも・すすめもやりたまはず・ただうしろのみ・
ひきかへす・ここちして・ひかへひかへぞ・なかれける・ひとはいつのひのいつのときには・かならず・かへりきた
るべしと・そのごをさだめおくだにも・さしあたつては・まづかなしきぞかし・いはんや・このひとびとは・けふ
をかぎり・ただいま・ばかりのわかれなれば・さこそはなごりをしかりけめ・わかぎみ・ひめぎみのなきたまひける・こゑごゑのはるか
の・みみのそこに・とどまつて・こんど・さいかいの・たびのそら・ふくかぜたつなみに・つけても・きくやうにこそ・おも
はれけれ
池の大納言都にとどまらるる事(あひ) 714
さるほどに・にふだうのおとと・いけのだいなごんよりもりは・いけどのに・ひかけさせ・てぜい三百よき・はたささせ・とうじの・みなみ
のもんまで・ぎやうかうに・ぐぶせられたり・けるが・いかがは・おもはれけむ・とつて・かへし・はたをばま
いて・もたせ・おほみやを・のぼりに・きたやまのほとり・ときはのゐんどのへ・まゐりこもられけり・こんどだいなごんの・ときはの
ゐんどのへ・まゐられけるゆゑを・いかにまをすに・にようゐんのおんめのと・ぢみやうゐんのさいしやうどのに・あひぐせられたりける
によつてなり・そののち・だいなごん・にようゐんの・おんまへにまゐつて・まをされけるは・しぜんのことも・さふらはば・たすけさ
せ・おはしませと・まをされたりければ・にようゐん・いざとよ・たうじはよが・よにても・あらばこそと・よ
にも・たのもしげなうぞ・おほせける・なかにも・ゑつちうのじらうびやうゑもりつぎ・おほいとののおんまへに・まゐり・かしこまつて
P321
まをしけるは・こんどいけどのの・とどまらせたまふによつて・おほくのさぶらひどもの・つきたてまつつて・とどまりさふらふが・あ
まりに・にくうおぼえさふらふ・いけどのまでは・おほきにおそれいつておぼえさふらへば・さぶらひどものなかへ・やひとつ・いか
けさふらはばやと・まをしたりければ・おほいとの・よしよし・そのぎ・さなくとも・ひごろのぢうおんを・わすれて・とど
まらんずる・やつばらは・なかなかいふにおよばずとぞ・のたまひける・おほいどの・さてもまつどのの・きんたちだちは・い
かにと・のたまへば・それもいまだ・ひとところも・みえさせたまはずと・まをしたりければ・しんちうなごんとももり・おほい
とののおんまへに・まゐらせたまひて・まをさせたまひけるは・みやこをいでて・いまだいちにちをだにも・すぎざるに・ひと
びとのこころのかはりゆくこそ・なによりもつて・うたてけれ・これにつけても・みやこのうちにて・とも・かうも・な
りぬべかりつるものをとて・おほいとのの・かたをつらげにみてぞ・なかれける・まことにもとぞ・おもはれけ
る・こんどよりもりのきやうの・みやこにとどまられけるゆゑを・いかにとまをすに・かまくらのひやうゑのすけの・かたより・八まんだいぼ
さつも・ごせうらんさふらへ・いけどのにおきたてまつつて・いしゆおもひたてまつらざるよしを・たびたびのたまひ・のぼせられける
うへ・うつてののぼる・たびごとに・いけどのに・むかひたてまつつて・ゆみばしひくな・やへいびやうゑに・むかつて・やば
しはなつなと・のたまひけるを・たのみにて・とどまられけるとぞ・きこえし・たとへ・ひやうゑのすけこそ・さやうに
はうしん・したまふとも・じよのものどもは・なにとかおもふべき・いちもんには・おくれたまひぬ・なみにも・いそにもつか
ぬ・ここちぞしたまひける
P322
経政の都落 715
なかにも・くわうごぐうのすけ・けんたじまのかみつねまさは・えうせうより・にんわじ・おむろのごしよに・さふらはれければ・いちもんのひと
びとには・さきだつて・よに・まぎれ・みやこをいで・にんわじどのへぞ・まゐられける・そのみ・ちよくかんのみにて・おはし
ければ・さうなう・おんまへへは・まゐられず・ひとして・ことのしさいを・まをされたりければ・みや・なにかは・く
るしかるべき・いまいちどこれへと・おほせければ・つねまさおんまへにまゐり・かしこまりなみだをはらはらと・ながいて・えうどうの
いにしへは・このごしよに・しこうつかまつつて・ごおんみにあまり・まかりうけたまはり・さふらひき・きうゐんに・ほうこうのとき
も・つねは・さんじさふらひしに・いまはいちもんの・きようとにさそはれて・さいかいのなみのうへに・ただよふおちうどと・
なりぬべうさふらへば・またいつのよに・かへりまゐるべき・そのごもさだめがたうさふらふ・さても・十三のとしよりくだ
し・あづかりさふらひつる・おんびはをば・かたときみをはなたじとこそ・ぞんじさふらひしかども・いま・ゐなかの・ちり
に・まじへ・そうかいのそこの・みくづと・なさむことも・あまりに・くちをしうさふらへば・まづかへしおきまゐらせさふらふ
なり・もしたうけの・よともなつて・ふたたびみやこへ・かへりのぼることもさふらはば・そのときは・かならずくだしあづかりさふらふべ
しとて・さぶらひ・あんゑもんのぜうありのりを・めして・からにしきのふくろにいれて・もたせられたりける・おんびはを・めしよせて・
みやのおんまへに・さしおくとて・よにもなごりをしげにみえられければ・みやかうぞ・おほせける
あかずしてわかるるきみがなごりをば・のちのかたみにつつみてぞおく・
P323
つねまさかしこまつてうけたまはり
くれたけのかけひのみづのかはらねば・なほすみあかぬみやのうちかな・
さてしもあるべき・ならねば・つねまさ・いとままをして・いでられけり・みやもまた・いつのよにか・ごらんぜらるべき
なれば・おんなみだにむせばせ・おはします・そのほかごしよちうのひとびと・つねまさのそでにすがり・たもとにとりつき・みな・
なみだをぞ・ながされける・なかにも・はむろのだいなごんみつよりのきやうのしそく・だいなごんの・ほういんぎやうけいは・つねまさの・こ
じにておはしければ・ことになごりを・をしみたてまつつて・かつらがはのほとりまで・うちおくりて・かへられけるが・つねまさ
の・そでをひかへて
あはれなりおいきわかぎもやまざくら・おくれさきだち(イたつ)はなはのこらじ・
つねまさひきかへし
たびごろもよなよなそでをかたしきて・おもひとほくもわれはゆくかな・(イ思へば我は遠く行くなり)
ほういんかへりたまへば・つねまさ・むらさきぢのにしきのひたたれに・もえぎにほひの・よろひをきて・たつがしらのかぶとの・ををしめ・あししろ
の・たちをはき・廿四さいたる・きりふのやおひ・しげどうのゆみもつて・つきげなる・むまにきんぷくりんの・くらお
いて・のりたまふ・まいてもたせられたりける・あかはたといてはつと・さしあげたりければ・ここかしこにひか
へて・まちたてまつる・二き・三き・五き・十き・うちよりうちより・みなおんともつかまつり・ほどなう・百きばかりになつて・
かつらがはのみぎはを・くだりに・よのほのぼのとあけければ・やまざきせきとのゐんに・いでたまふ・およそ・このつねまさは・
P324
くわんげんのみちにたつし・さいげいすぐれて・おはしければ・なによりも・みやこにとどめおかれし・おんびはのゆくへをのみぞ・
おもはれける・まことにをしかるべし・わがてうにまたそのたぐひ・あるべからざる・てうはうなり・そのゆゑは・むかしにんめいてんわうのぎよう・
かじやう三ねんに・かもんのかみていびんが・につたうして・だいたうの・びはのはかせ・れんしようぶにあひ・三きよくをさうでんして・き
てうのとき・げんしやう・せいざん・ししのまろとて・三めんのびはを・さうでんしてこそ・わたりけれ・とかいにて・なみかぜ・はげし
かりければ・りうじんのおそれありとて・なかにも・ししのまろをば・かいていに・しづむ・げんしやう・せいざんは・ことゆゑなくぞ・
わたりける・それより・だいりに・とどまつて・よよの・みかどのおんたからとなる・なかにも・むらかみのてんわうのぎよう・
てんとく四ねんのあきのなかばに・みかどせいりやうでんの・つきのえんにして・かのげんしやうを・あそばされけるに・三五やちうの・しん
げつしろくさえ・りやうふう・さつさつの・よふかきに・けにんあまくだつて・しやうかゆゆしくつかまつる・みかど・いつごらん
じなれたる・ものともおぼし・めされねば・そもなんぢは・いかなるものぞと・おほせければ・かのけにん・これは・だいたう
の・びはのはかせ・れんしようぶとまをす・ものなり・かもんのかみていびんが・につたうして・三きよくをつたへしに・いまいつきよくををし
みて・つたへざりしによつて・まだうにおちて・ちんりんす・いまかしこを・すぎゆくに・みかどの・おんびはをうけたはまつ
て・まゐりよりてさふらふなり・すなはちかのひきよくをば・かたじけなくも・てんしにさづけたてまつつて・まだうのくるしみをば・のがるべしとて・
おんまへに・たてられたる・せいざんをとつて・かきならし・じやうげん・せきじやうの・しらべとまをす・ひきよくをば・かたじけなくも・
てんしに・さづけたてまつつて・かきけすやうにぞ・うせにける・それより・かのせいざんをば・いよいよごひさう・ありけるを・
あるとき・だいりより・おむろへ・まゐらつさせ・たまひけりしかるを・えうどうの・ごさいあいのうへ・みちのたつしやにておは
P225
しければ・くだしあづかられけるとぞ・うけたまはる・このひと十七のとし・うさの・はうじやゑの・ちよくしにたつて・かの
おんびはをともなひ・九しうにげかうし・八まんだいぼさつの・ごはうぜんの・つきのえんにして・かのせいざんを・ひかれける
に・あやしのともがらも・みみをおどろかし・とものみやびとも・みな・りよくいのそでをぞ・ぬらしける・せいざんは・これ・
しだんのかふ・ひつじのかはの・ばちめんのゑに・なつやまの・このまもりくる・ありあけのつきを・かかれたりしに・よりて・
こそ・せいざんとは・なづけられけれ
薩摩守の都落 716
なかにも・さつまのかみただのりは・いづくよりかは・かへられけむ・さぶらひ五きわらは一にん・めしぐして・五でうの三
ゐしゆんぜいのきやうのもとに・おはして・みたまふに・もんこをとぢたり・さつまのかみ・むまよりおり・もんを・ほとほととたたい
て・これはただのりとまをすものが・いささかまをすべきこと・あつて・まゐつてさふらふ・もんをばな・あけられさふらひそ・このきはまで・
たちよらせたまふべうもやさふらふらんと・まをされければ・三ゐそのひとならば・くるしかるまじ・もんをあけよと
て・ひらいてたいめんある・さつまのかみは・こんぢのにしきのひたたれに・こぐそくばかりせられ・たりけるが・なほ・こ
ぐそくをも・とつて・ひとにもたせられたり・ことのてい・なにとなうものあはれなり・さつまのかみ・まをされけるは・としごろまをし・
うけたまはりさふらひし・のちは・そりやくを・ぞんぜずとは・まをしながら・このりやう三ねんは・きやうとのさわぎ・くにぐにの・みだ
れひとへに・たうけの・みのうへにてさふらへば・つねはまゐりよることも・さふらはず・きみ・みやこをいでさせたまひぬる・うへは・
P326
いまはのべに・かばねをさらさむずる・よりほかは・また・ごするかたも・さふらはず・さても・ちよくせんあるべきよし・うけたまは
りさふらひしに・いくほどなうて・よのみだれ・いでき・そのさたなくさふらふこと・ただいつしんのなげきと・こそぞんじさふらへ・もし
よしづまつてのち・ちよくせんのさたさふらはば・このうちにいつしゆなりとも・ごおんに・かうぶつて・くさのかげにても・とほ
きおんまぼりと・なりまゐらせさふらはめとて・ふところより・まきもの・ひとつ・とりいだし・しゆんぜいのきやうに・たてまつらる・ひらい
てみたまへば・百しゆのうたをぞ・かかれたる・三ゐいまにはじめぬ・おんこととは・まをしながら・かかる・そうげきの・なか
にも・おぼしめしわすれぬ・おんこころざしこそ・いうに・ありがたう・ぞんじさふらへ・ちよくせんに・おいては・ぐしんうけたまはり
さふらへば・そりやくを・ぞんずまじうさふらふと・まをされたりければ・さつまのかみ・なのめならず・よろこびたまひて・いまはのべに・
かばねを・さらさばさらせ・さうかいのそこに・しづまば・しづめ・こんじやうにおもひおくことも・さふらはず・たとへ・このよの・
わかれこそ・ただいまばかりにてさふらふとも・らいせにては・かならずいちぶつじやうどのえんと・まゐりあひ・まゐらせさふらふべし・
さらば・いとままをしてとて・なみだを・おさへて・いでられけり・三ゐも・あはれにて・さつまのかみの・うしろをはるばると・
みおくり・なみだをおさへている・そののち・さつまのかみは・もんぜんにて・もののぐし・むまにうちのりて・いでられければ・いづ
くよりか・きたりけん・さぶらひ二三百きがほど・いできたつて・さつまのかみをなかに・とりこめたてまつつて・おとしたてまつるときに・
ただのりのこゑと・おぼしくて・せんどほどとほし・おもひを・がんざんのゆふべのくもにはすと・たからかに・えいぜられ・たり
けるにぞ・まことにすごく・みにしみて・のちのよまでも・わすれがたみと・なられけるこそ・あはれなれ・げにも・よ
しづまつてのち・ちよくせんのさたあり・いまのせんざいしふ・これなり・そのうちに・さつまのかみのうたいつしゆぞ・いれられたる・
P327
こころざしせつなりしかば・あまたも・いればやとは・おもはれけれども・そのみ・ちよくかんのひとにて・おはしければ・わざと
みやうじをば・あらはされず・よみびとしらずとぞ・いれられたる・こきやうの・はなといふ・だいをもつて・よまれ
たりし・うたなり
さざなみやしがのみやこはあれにしを・むかしながらのやまざくらかな・
そのみちよくかんのひととは・まをしながら・くちをしかりし・ことどもなり・さるほどに・こまつの三ゐのちうじやうこれもり・きゃうだい・六きうち
つれて・つがふそのせい・五百よき・つくりみちに・うつていで・こまをはやめて・うつほどに・よどのむつだがはらの
へんにてぞ・ぎやうかうに・おつつきたてまつる
福原落 717
おほいとの・三ゐのちうじやうを・みつけたまひて・などや・いままでのちさんと・のたまへば・三ゐのちうじやう・さればこそ・
あのをさなきものどもが・あまりに・したひさふらふを・とかうこしらへ・おかんと・つかまつりつるほどに・と・のたまへば・
あなこころつよや・など・ひきぐしたまはぬぞと・のたまへば・三ゐのちうじやう・ゆくすゑとても・たのもし・からずさふらへ
ばとて・とふに・つらさのなみだをぞ・ながされけるこそ・あはれなれ・へいけみやこを・おつるとて・六はらどの・こ
まつどの・にし八でうに・ひをかけたりければ・くろけぶり・てんにみちみちて・ひのひかりも・みえざりけり・あるひは・せい
しゆ・りんかうのちなり・ほうけつ・むなしく・いしずゑをのこし・らんよ・ただあとをとどむ・あるひは・こうひいうえんのみぎりなり・
P328
せつぱうのあらし・こゑかなしみ・えきていのつゆ・いろうれふ・あるひは・さうきやうふちやうのもとゐ・よくりんてうしよのたち・えんらんのすみか・たじち
のけいえい・むなしくして・へんしの・くわいじんとなれり・いはんやらうじうのをくしやに・おいてをや・いはんやざふにんの・ほうひつ
に・おいてをや・よえんの・およぶところ・ざいざい・しよしよす十ちやうなり・きやうごほろびて・けいきよくあり・こそだいのつゆ・じやうじやうた
り・ぼうしんおとろへて・こらうなし・かんやうきうの・けぶり・へいげいを・かくしけむも・これには・すぎじとぞ・みえし・
ひごろは・かんこく・二かうの・さかしきを・かたくせしかども・ほくてきのために・これをやぶられ・こうが・けいいの・
ふかきを・おもんしかども・とういのために・これを・とられたり・あにはかりきや・たちまちに・れいぎのみやこを・
せめいだされ・なくなく・むちのさかひに・みをよせむとは・きのふは・くものうへにして・あめを・くだす・しんりうた
り・けふは・いちくらの・ほとりにして・みづをうしなふ・こぎよたり・はうげん・へいぢの・むかしは・へいけはるのはなと・
さかえしが・えいじゆ二ねんのいまは・また・あきのもみぢと・おちはてぬ・そのころ・みやこにさふらひける・とうごくの・だいみやう
には・はたけやまのしやうじしげよし・おとと・をやまだのべつたうありしげ・うつのみやのさゑもんともつななり・さんぬる・ぢしようのころより・
めしうどにて・みやこに・さふらひけるを・おほいどの・みやこをいづるとて・かれら・三にんが・くびをはねんと・のたまひける
を・へいだいなごんと・しんちうなごんの・まをされけるは・たとへ・かれら・十にん百にんが・くびを・はねさせ・たまひてさふらふとも・
ごうんつきさせたまひなば・みよを・めされんこと・ありがたしそのうへ・かれらは・とうごくに・こどもあまたもつて・
さふらへば・かれらが・なげかんずる・あとこそ・まことに・ふびんにさふらへば・ただまげて・たすけさせおはしませと・のたま
ひあはれければ・おほいどのも・このうへは・ちからおよびたまはず・かれら・三にんよどの・すまひのつじまで・ぎやうかうの・おんとも
P329
つかまつり・いづくまでも・まゐるべきよしを・まをしければ・おほいとの・かれらがこどもは・とうごくにのみ・あんな
れば・なんぢがたましひは・一かうとうごくにのみぞ・あるらん・からだばかり・めしぐして・なんのせんか・あるべき・も
し・たうけの・よとも・なつて・ふたたび・みやこへかへりのぼる・ことあらば・そのときは・いそぎ・まゐるべし・ただまげて・
とどまれと・のたまへば・かれらちからおよばず・なみだを・おさへて・とどまりけり・これも・この廿よねんの・しゆなりけれ
ば・さこそなごり・をしかりけめ・へいけは・やまざきせきどのゐんにして・たまのみこしを・かきすゑて・をとこやまを・
ふしをがみ・なむきみやうちやうらい・八まんだいぼさつ・しゆじやうをはじめたてまつつて・われらを・いま一ど・みやこへ・かへし・いれさ
せたまへと・まをさせたまふぞ・あはれなる・おちゆくへいけは・たれだれぞ・まづ・さきのないだいじんむねもり・ゑもんのかみきよむね・
へいだいなごんときただ・へいちうなごんのりもり・しんちうなごんとももり・しゆりのたいふつねもり・ほん三ゐのちうじやうしげひら・こまつの三ゐちうじやう
これもり・ゑちぜんの三ゐみちもり・しん三ゐのちうじやうすけもり・でんじやうびとには・くらんどのかみのぶもと・さぬきのちうじやうときざね・ひやうぶのせう
まさあき・さまのかみゆきもり・さちうじやうきよつね・しんせうしやうありもり・たんごのじじうただふさ・さつまのかみただのり・たじまのかみつねまさ・わかさのかみつね
とし・あはぢのかみきよふさ・をはりのかみきよさだ・のとのかみのりつね・びつちうのかみもろもり・むさしのかみともあきら・くらんどのたいふなりもり・たいふあつもり・
そうがうには・二ゐのそうづせんしん・ほつしようじしゆぎやうのうゑん・ちうなごんりつし・ちうくわい・きやうじゆばうのあじやりいうゑん・さぶらひには・げん
たいふのはんぐわんすゑさだ・つのはんぐわんもりずみ・きちないさゑもんすゑやす・とうないびやうゑすゑくにを・さきとして・一もん百六十三にん・
むねとのさぶらひ・三百よにん・つがふそのせい・七千よにん・これらは・この二三ケねんがあひだ・とうごく・ほつこく・どどのいくさに・うち
もらされて・わづかにのこるところなり・なかにも・こまつの三ゐのちうじやうこれもりのほかは・おほいとのを・はじめたてまつつて・みな・
P330
さいしを・ひきぐしてぞ・くだられける・そのほかつぎざまのものどもは・こうゑ・そのごを・しらざれば・みなうちすてうちすて
ぞ・くだりける・あるひは・としの・ひごろの・よしみ・なじかは・わするべきなれば・ゆくもとどまるも・ただ・
うしろをのみ・かへりみて・さきへは・すすみも・やらざりける・おのおの・うしろをかへりみたまへ
ば・くろけぶり・てんに・みちみちたり・なかにも・さつまのかみただのり
はかなしなぬしはくもゐをわかるれば・やどはけぶりとたちのぼるかな・(イのぼるなり)
しゆりのたいふつねもり
ふるさとをやけののはらとかへりみて・すゑもけぶりのなみぢをぞゆく・
みやこをばただ・一ぺんのえんぢんに・へだてつつ・ぜんと・ばんりのくもぢに・おもむきたまふ・こころのうち・おしはかられ・
あはれなり・なかにも・ちくごのかみさだよしは・かはじりに・げんじありとききて・けちらさんとて・七千よきにて・む
かうたりけるが・ひがごとなりければ・とつてかへし・みやこをさして・のぼるほどに・よどのおほわたりのへんにて・
ぎやうかうにまゐり・あひ・いそぎ・むまよりとんでおり・おほいとのの・おんまへにまゐり・かしこまつてまをしけるは・こはいづく
を・さして・いらせたまひさふらふやらん・さいこくのかたへ・いらせたまひてさふらはば・おちうどとて・かしこ・ここのの
べに・かばねをさらさせ・たまはんずる・おんことをば・こころうしとは・おぼしめされさふらはずやと・まをしたりければ・
おほいとのさだよしは・いまだ・しらずや・きそよしなか・あふみのくにまで・みだれいり・五万よきのせいにて・ひがしさかもと
に・みちみちて・ひとをも・たやすくとほさず・たての六らうちかただ・たいふばうかくめい・一千よきにて・てんだいさんに・きほひの
P331
ぼり・そうぢゐんを・じやうくわくとして・さんそうら・一になつて・すでにみやこへ・みだれいるあひだ・ひとびとは・みやこのうちにて・と
も・かうも・なるべきやうを・のたまへども・まのあたり・ひとびとにうきめを・みせまゐらせんことも・いか
んぞやなれば・ひとまど・なりとも・さいこくのかたへと・おもふまでにて・こそあれと・のたまへば・ささふらはば・
さだよしには・いとまたびさふらへかしとて・てぜい・三百よきを・ひきわけて・みやこにのぼり・にし八でうの・やけあとに・おほ
まく・ひきまはさせ・一やしゆくし・たりけれども・かへりのぼりたまふ・へいけの・きんたち・一にんも・おはせざりけれ
ば・ゆくすゑたのもし・からずや・おもひけむ・またげんじのひづめに・かけじとや・こまつどのの・はか・ほらせ・あた
りの・つちをば・かもがはへ・ながし・こつをば・かうやさんへおくり・わがみをば・へいけと・うしろ・あはせに・
なつて・とうごくのかたへぞ・くだりけるなかにも・うつのみやのさゑもんともつなは・さんぬる・ぢしようのころ・より・めしうどに
て・みやこに・さふらひけるを・さだよし・あづかつて・ことのほかに・はうしん・ほどこし・たりしかば・そのおんを・わすれ
じと・とうごくに・ぐしくだり・なのめならず・いとほしみ・けるとぞ・きこえし・さるほどに・へいけは・にしのうみ・
八へのしほぢに・ひをくらし・いそべのとこの・くさまくら・いりえ・こぎゆく・かいのしづく・つゆも・なみだにあらそひて・たもとも
さらに・ほしあへず・あけければ・ふねに・さをさす・ひともあり・こまに・むちうつものもあり・おもひおもひ・ここ
ろごころに・おちぞゆく・そのひのくれがたに・つのくに・ふくはらにこそ・つきたまへ・さるほどに・へいけは・ふくはらのきうり
に・おちつき・たまひて・おほいとの・まづ・むねとのさぶらひ・三百よにんをめして・しやくぜんのいへに・よけいつき・しやくあく
の・よわう・みにおよぶ・ゆゑに・しんめいにも・はなれ・たてまつりきみにも・すてられ・まゐらせて・みやこのほかに・い
P332
で・なみのうへに・ただよふ・おちうどとなりぬるうへは・なんのたのみか・あるべき・されども・あるひは・きんしんの・よしみた
に・ことなるもあり・あるひは・ぢうだいはうおんの・これふかきもあり・一じゆのかげに・やどるも・ぜんせのちぎり・あさか
らず・一かのながれを・むすぶも・たしやうの・えんなほふかし・いはんや・なんぢら・一たんかたらひをなす・もんかくに・あ
らず・すでに・るゐそ・さうでんのけにんなり・かもんはんじやうの・いにしへは・おんはに・よつて・わたくしをねがひき・たのしみつ
きて・かなしみきたる・なんぞ・しりよを・めぐらして・はうおんを・むくいざらむや・しゆじやうみやこを・いでさせ・たまふと
は・まをせども・しんじ・はうけん・ないしどころ・三しゆの・じんきを・たいして・ましませば・ののすゑ・やまのおくまでも・
ぎやうかうの・おんともつかまつらんとは・おもはずやと・かきくどいて・のたまひければ・さぶらひどもも・みな・しうるゐして・
まをしけるは・いかなる・こころなき・とり・けだものに・いたりさふらふまでも・おんをはうじ・とくをむくう・こころざしは・みなさふらふ
なるものを・いはんやわれら・ひととして・いかでか・ごおんを・わすれまゐらせさふらふべき・この廿よねんがあひだ・さいしを・はご
くみ・しよじうをかへりみさふらふ・ことも・ひとつとして・ごおんならずと・いふことなし・されば・くものはて・うみ
のはて・までも・ぎやうかうのおんとも・つかまつるべきよしを・いくどうおんに・まをしたりければ・おほいとのも・二ゐどのも・
ちからつきてこそ・おもはれけれ・へいけそのよは・ふくはらの・きうり・にて・一やをこそ・あかされけれ・をりふし・
あきのはじめのつきは・しものゆみはりなり・しんかう・くうや・しづかにして・たびねのとこの・くさまくら・つゆも・なみだに・あらそ
ひて・ただもののみぞ・かなしき・いつかへるべしとも・おぼえねば・こにふだうしやうごくの・つくりおきたまひし・はるは
はなみの・をかのごしよ・あきはつきみの・はまのごしよ・ばばどの・二かいのさじきどの・ゆきのごしよ・かやのごしよ・ひとびとの・
P333
いへいへ・五でうのだいなごん・くにつなのきやう・のうけたまはつて・つくらせられし・さとだいり・いつしか三とせに・あれはてて・
あきのくさ・もんをとぢ・きうたいみちを・ふさぐ・かはらに・まつおひ・かきに・つたしげり・だい・かたぶいて・こけむせり・
まつかぜのみや・かよふらん・すだれたえ・ねやあらはにて・つきかげのみぞ・さしいりける・あけければ・しゆじやうを・はじめ
たてまつつて・へいけみな・ふねにとりのり・うみにぞ・うかびたまひける・みやこをいでしほどこそ・なけれども・これも・なごり
は・をしかりけり・なかにも・たじまのかみつねまさは・ぎやうかうに・ぐぶすとて
みゆきするすゑもみやことおもへども・なほなぐさまぬなみのうへかな・
きのふはとうざんのせきのふもとに・くつばみを・ならべて・十万よき・けふは・さいかいのなみのうへにして・ともづなをといて・七
千よにん・うらうら・しましま・すぎゆけば・あまのたくもの・ゆふけぶり・をのへの・しかの・あかつきのこゑ・なぎさなぎさに・よする
なみのおと・そでにやどかる・よはのつき・ちぐさにすだく・むしのこゑ・すべて・めにみ・みみにふるる・ことのひと
つとして・あはれを・もよほし・こころをいたましめずと・いふことなし・うんかい・ちんちん・として・せいてん・すでに・くれな
んとす・こたうに・せきぶへだてつつ・つきかいしやうにうかぶ・きよくほのなみをわけ・しほにひかれて・ゆくふねは・はんてんの・くも
に・さかのぼる・ひかずふれば・みやこは・さんせんほどをへだてつつ・をんごくはまた・ちかくなる・はるばるきぬと・
おもふにも・つきせぬものは・なみだなり・なみのうへに・しろきとりの・むれゐるをみては・かれならん・むかし・
ありはらのちうじやうの・すみだがはらにて・こととひけん・なもむつまじき・みやこどりにやと・あはれなり・じゆえい二ねん・七
ぐわつ廿五にちの・うのこくに・へいけ・みやこをおちはてぬ

平家物語(城方本・八坂系)
巻第八 P334 
法皇の山門御幸 801
さるほどにほうわうは・くらまにしのうで・わたらせたまひけるが・ここはなほみやこちかくて・たまぼこのみちゆくひとの・ひとめもしげけ
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名虎 802
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大蛇の沙汰 803
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このひごろ・あひなれたてまつりぬるうへは・なんのおんはばかりか・さふらふべき・ただいでさせたまへ・みたてまつらむと・
いひければ・さあらばといひて・はひいでたるを・みれば・ふしたけ・四ぢやうばかりなる・だいじやの・まなこは・
じつげつのごとくにて・くちには・しゆをさせるか・ごとし・したは・くれなゐのはかまを・ふるにおなじ・かりぎぬの・く
びかみと・おぼしきところは・すなはち・だいじやののどぶえにてぞ・さふらひける・さいたるはりをば・ひきぬきて・すてながら・
P343
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はれたまふ・うばがたけのだいみやうじん・これなり・またはたかちほの・みやうじんとも・まをしき・をんなはほどなく・さんしたり・なん
しにてぞ・さふらひける・おひたつままに・みちから・だいにして・ちからひとに・すぐれたり・九の・とし・ははかた
のをぢ・だいたいふ・げんぷくせさせ・なをば・だいたとぞ・まをしける・なつも・ふゆも・のやまを・はだしにて・はしり・あ
りきければ・てにも・あしにも・おほきなる・あかがりの・きれたりければ・みなひと・あかがりだいたとぞ・
まをしける・このをがたの三らうとまをすは・そのあかがり・だいたには・五だいの・すゑなり・かやうに・おそろしき・もの
のすゑなりければ・九ごく二たうをも・ただひとりして・うちとらばやなむと・まをすほどの・おほけなき・ものにてぞ・
さふらひける・さるほどにへいけは・だざいふに・おはしけるが・このよしを・ききたまひて・こはいかがせんとぞ・さわ
がれける・このをがたの三らうと・まをすは・もとこまつどのに・めしつかはれけるところの・さぶらひなり・いづれにても・きん
だち一にん・うちこえ・よきやうにこしらへて・みたまへかし・なんど・のたまひあはれければ・ひとびとこのぎ・もつともと
てたいしやうぐんに・しん三ゐのちうしやうすけもり・さちうしやうきよつね・しんせうしやうありもり・たんごのじじうただふさ・さぶらひたいしやうには・ゑつちう
のぜんじもりとしを・さきとして・つがふそのせい・五百よき・ぶんごのくにに・うちこえ・やうやうに・こしらへ・のたまひけれ
ども・をがたの三らう・一せつ・これをもちゐたてまつらず・あまつさへ・きんだちをも・これにて・うちとめまゐらせたくは・さふらへども・
それも・おもふに・なにほどのことか・わたらせたまふべき・ただだざいふへ・かへらせたまひて・ごいつしよにて・いか
にもならせ・たまふべしとて・それよりだざいふへ・おひかへしたてまつり・そののちをがたの三らう・しそくの・のじりの二
P344
らうこれむらを・もつて・へいけへ・まをしけるは・もつともせんぞのしゆにて・わたらせたまへば・ゆみを・はづし・かぶとを・ぬいて・
かうにんにまゐりたくは・さふらへども・これもまた・一ゐんの・おほせにてさふらへば・ちからおよばずただ・すみやかに・九ごくのうちを・おん
いであるべうさふらふと・まをしおくりたりければ・へいだいなごんときただ・ひをくくりの・ひたたれに・くずの・はかまをき・これむら
に・いであひ・たいめんしたまひて・それわがぎみは・てんそん四十九せいのしやうとう・にんわう八十一だいに・あひあたらせたまへば・
てんせうだいじん・しやう八まんぐうも・さだめて・きみをこそ・しゆごし・まゐらつさせ・たまふらんに・ゆきいへ・よしなからが・も
しこのこと・しおふするほどならば・くにをあづけん・しやうを・とらせむと・いふを・まことぞとこころえて・そのはなぶんごが・
げぢにのみ・したがふことこそ・おほきに・こころえられねとぞ・のたまひける・このぎやうぶきやうの三ゐとまをすは・よにすぐ
れて・はなのおほきに・おはしければ・ひと・はなぶんごとぞまをしける・これむらかへつて・ちちに・かくと・かたりければ・
をがたの三らう・おほきにいかりて・むかしはむかし・いまはいま・にくしそのぎならば・九ごくの・うちを・おひいだしたてまつれや
とて・たいぜいにて・むかふよし・きこえしかば・へいけ・さらばまづ・これをふせがばやとて・たいしやうぐんには・しんちう
なごんとももり・さつまのかみただのり・のとのかみのりつね・さぶらひたいしやうには・ゑつちうのぜんじもりとし・じらうびやうゑもりつぎ・かづさの五らうびやうゑ
ただみつ・ゑひのじらうもりかたを・さきとして・つがふそのせい・三千よき・ぶんごと・ちくごのさかひなる・たかののほんしやうと・
いふところに・おしよせて・さんざんに・せめけれども・むぜい・たぜいに・かなはねば・へいけさんざんに・うちちらされまた・だ
ざいふへこそ・ひきしりぞきたまひけれ・へいけ・かさねて・うつてを・むくべけれども・おもへばこれは・わたくしごと・げん
じと・いくさせんとて・だざいふへこそ・かへられけれ
P345
太宰府落 804
さるほどにへいけは・ちくぜんのくに・みかさのこほり・だざいふに・おはしけるが・をがたの三らうこれよし・三まんよきにて・すでに・
よすときこえしかば・とるものも・とりあへたまはず・だざいふをこそ・おちられけれ・をりふし・かよちやうも・まゐら
ねば・たまのみこしを・うちすてて・しゆじやうは・えうよに・めされけり・こくもをはじめたてまつつて・二ゐどのいげの・やご
となきにようばうたちは・はかまの・そばをとり・おほいどのいげの・けいしやううんかくは・さしぬきの・そばたかくとつて・わ
れさきにわれさきにと・みづきの・とをすぎて・はこざきのつへこそ・おちられけれ・をりふしくだるあめ・しやぢくのごとし・
ふくかぜいさごを・あぐとかや・おつるなみだ・ふるあめ・わきて・いづれも・みえざりけり・かのげんじやう三ざうの・りうさ・そう
れいの・けんなんをしのがれけむ・くるしみも・これにはすぎじとぞ・みえし・されども・それは・ぐほふのためなれば・
らいせの・たのみもあり・これはをんできのゆゑなれば・ごせの・くるしみ・かつおもふこそ・かなしけれ・しんら・
はくさい・かうらい・けいたん・までもわたりなばやとは・おもはれけれども・なみかぜむかうて・かなはねば・ひやうとうじひでとほ
に・ぐせられて・やまかのしろにぞ・こもられける・やまがへもまた・てきよすと・きこえしかば・いそぎあまをぶねに・
とりのつて・よもすがら・ぶぜんのくに・やなぎのうらへぞ・わたられける・さるほどに・九ぐわつも・十かあまりに・なりにけり・
をぎのはむけの・ゆふあらし・ひとりまろねの・とこのうへ・かたしくそでも・しをれつつ・ふけゆくあきの・あはれさは・い
づくもとは・いひながら・たびのそらこそ・しのびがたけれ・十三やは・ことになをえたる・つきなれども・そのよ
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は・みやこを・おもひいづるなみだにや・われからくもりて・さやかならず・かかりけるなかなれども・かいへんのりよはく・めづらし
くや・おもはれけむ・なかにも・さつまのかみただのり
つきをみしこぞのこよひのとものみや・みやこにわれをおもひいづらむ・
しゆりのだいぶつねもり
こひしとよこぞのこよひのよもすがら・ちぎりしひとのおもひいでられて・
さまのかみゆきもり
きみすめばこれもくもゐのつきなれど・なほこひしきはみやこなりけり・
それよりうさへ・ぎやうかうなる・しやとうは・しゆじやうの・くわうきよとなり・くわいらうは・げつけいうんかくのきよしよとなる・ていしやうに
は・五ゐ六ゐのくわんじん・おほとりゐには・四こくちんぜいのつはものども・かつちうをよろひ・きうぜんをたいして・なみゐたり・
ふりにしあけのたまがきを・ふたたび・かざるとぞ・みえし・七かさんろうのあかつきがた・おほいどののおんために・
ごむさうあつて・ごはうでんのみと・おしひらき・うちよりゆゆしう・けだかきみこゑにて・一しゆのうたをぞ・あ
そばされける
よのなかのうさにはかみもなきものを・なにいのるらんこころつくしに(イ心つくしに何いのるらん)・
おほいどの・うちおどろき・むねさわぎ・こは・いかなるべしとも・おぼえさせたまはず・こかなりけれども・かかるをり
ふしを・おもひいでたまひて
P347
さりともとおもふこころもむしのねも・よわりはてぬるあきのくれかな・
やなぎのうらに・だいりつくらるべしなんど・きこえしかども・ぶんげんなければ・かなはず・またふねにとりのつて・うみに
ぞ・うかびたまひける・なかにも・こまつどのの・三なん・さちうじやうきよつねは・みやこをいづるとて・さいあいのきたのかたを・とどめおき
て・いでられけるが・せめてのなごりに・びんのかみを・一むらきつて・とどめおきてぞ・いでられける・あるときかぜの
たよりの・おとづれに・きたのかたより・おんふみあり・ひらいてみたまへば・ふみのおくに・びんのかみを・ひとむら・まき
ぐして・一しゆのうたをぞ・かかれたる
みるたびにこころつくしのかみなれば・うさにぞかへすもとのやしろへ・
ちうじやう・かやうのことどもを・おもひたまひ・ふねのやかたに・たちいで・つきのよ・こころをすまし・うたよみ・らうえいして・
あそばれけるが・ちうじやうは・わかけれども・よろづ・なにごとをも・おもひいりたまへる・ひとにて・みやこをば・げんじの
ために・おとされぬ・ちんぜいをば・これよしがために・せめいだされて・あみにかかれる・うをのごとし・いづくへゆかば・
のがるべきか・つひにまた・ながらへはつべき・みならずとて・しづかに・きやうよみ・ねんぶつしたまひ・とし二十一と・まをす
には・うみにぞ・しづみたまひける・なんによのきんだち・さしつどひ・かなしみたまへど・かひぞなき
あひ 805
そのころながとは・しんちうなごんの・くになりけるが・だいくわんは・きのぎやうぶのたいふみちすけとぞ・きこえし・へいけこぶねに・
P348
のりたまふよしをききて・あき・すはう・ながと・三ケごくにまさつみけるふね・五百よさうを・てんりやうして・へいけへたてまつる・へい
けこれに・とりのつて・さぬきの八しまへぞ・わたられける・あはのみんぶしげよしが・さたとして・四こくの・うちをもよほし・
さぬきの八しまに・かたのごとくの・いたやのごしよや・だいりをぞ・つくられける・あやしのしづが・やを・くわうきよと・
すべきにあらざれば・ふねをごしよとぞ・さだめける・おほいどのいげの・けいしやううんかくの・あまのとまやに・ひをくらし・
しづがふせやに・よをあかす・りようどうげきしゆを・かいちうに・うかべ・なみのうへのくわうきよは・しづかなるときなし・つきをひた
す・うしほのふかきうれへに・しづみ・しもをおほへる・あしのはの・もろき・いのちをあやぶめり・すさきにさわぐ・千どりのこ
ゑ・あかつきうらみをのこし・そばゐに・かかるかぢのおと・よはに・こころをいたましむ・はくろのゑんしように・むれゐるをみ
ては・げんじはたを・あぐるかと・うたがはれ・さうかいの・やがんのなくをききては・かたきふねを・こぐかと・おどろかる・せい
らんはだへをひたし・すゐたいこうがんのいろ・やうやうおとろへ・さうはまなこをうがちて・ぐわいとばうきやうのなみだ・おさへがたし・すゐちやう
こうけいに・ことなる・はにふのこやのあしすだれ・くんろのけぶりに・かはれる・あしびたくやの・いやしきに・つけても・によう
ばうたちのつきせぬ・おんものおもひに・くれなゐの・おんなみだ・せきあへさせたまはねば・みどんのまゆずみも・みだれつつ・
そのひととも・みえたまはず
征夷将軍の院宣 806
そのころかまくらの・ひやうゑのすけ・よりとも・せいいたいしやうぐんのゐんぜんを・たまはる・おんつかひは・ちやうくわんさししやう・なかはらのやすさだとぞきこえし・
P349
じゆえい二ねん・十ぐわつ四かに・くわんとうにげちやくす・ひやうゑのすけのたまひけるは・よりとも・ぶようのめいよ・ちやうぜるによつて・
ゐながら・せいいしやうぐんのゐんぜんを・たまはる・さればわたくしにては・いかでか・たまはるべき・八まんだいぼさつのごはうぜんに
して・うけとりたてまつるべしと・のたまへば・やすさだ・わかみやへ・むかふ・わかみやは・つるがをかにたたせたまふ・ほんしやに・すこ
しも・たがはせたまはず・しゆくゐんあり・くわいらうあり・つくりみち・十よちやう・みくだせり・おんつかひのやすさだは・いへのこ五
にん・らうどう十にん・めしぐしたり・そもそもこんどのゐんぜんをば・たれしてか・うけとりたてまつるべき・三うらのすけよしずみして・うけ
とりたてまつるべし・そのゆゑは・かれがちち・よしあきが・くわうせんのめいあんを・てらさんがためとぞ・おぼえたる・うけとりてのよし
ずみは・いへのこ二にん・らうどう十にん・めしぐしたり・いへのこ二にんは・一にんは・わだの三らうむねざね・一にんは・ひきのとう
四らうよしかずとぞ・きこえし・らうどう十にんをば・だいみやう十にんして・にはかに・一にんづつ・いだしたてられたり・つがふ十
二にんは・ひたかぶとなり・よしずみは・くまかぶとをばちやくす・かちのひたたれに・くろいとをどしのよろひをき・三じやく五すんの・いかものづく
りのたちをはき・廿四さいたる・おほなかぐろのやおひ・ぬりごめどうのゆみ・わきにはさみつつ・おきみちより
あゆみいで・おんつかひのまへにかしこまる・やすさだ・おんつかひは・たそと・とはれければ・ひやうゑのすけのじに・はばかつてや・
ありけん・三うらのすけとは・なのらで・ほんみやう・三うらのあらじらう・たひらのよしずみと・なのりまをす・やがてゐんぜんぶくろ・らん
ばこにいれて・いだされたり・らんばこをばやがて・かへされけり・やすさだこれをみたまへば・まづしやきん百りやう・いれられ
たり・そののちひやうゑのすけ・てうづ・うがひして・かのゐんぜんをぞ・ひらかれける・そのじやうにいはく
五きない・とうかい・とうさん・ほくろく・せんやう・せんおん・なんかい・さいかい・いじやうしよこく・はやくよりとものあそんをもつて・せいいしやうぐん
P350
たらしむべきこと・みぎ・さだいじんせんほうちよく・はやく・みなもとのあそんをもつて・しよこくをせいちし・せんによつて・これを
おこなへ・てへりゐんぜんかくのごとし・よつてしつたつくだんのごとし
じゆえい弐ねん九ぐわつのひ[*原本「の」]
さだいしをつきのしゆくね・うちうべんふぢはらあそんとぞ・あそばされたる・そののちくわいらうには・かうらいべりのたたみをしきて・やすさだに・
さけをすすめらる・たかつきに・さかなおかれたり・さいゐんのすけちかよし・うけたまはつて・これをけんばいす・五ゐ一にん・やくそうをつとむ・く
どうさゑもんすけつね・うけたまはつて・むま十ぴきひかせらる・三びきに・くらおかれたり・そのひは・やすさだをば・ひやうゑのすけのやかた
へは・いれられず・ふかきかややを・しつらうて・おかれたり・まことにはいはん・ゆたかにして・びれいなる・あつ
わたのきぬ二りやう・こそで十かさね・ながもちに・いれてまうけたり・びけん百ぴき・つぎのきぬ三百ぴき・あゐずりこん・五百たん・しろぬの千
だんを・つませらる・つぎのひ・やすさだ・ひやうゑのすけのやかたへ・まかりむかふ・うちとにさぶらひあり・ともに十六けんなり・
うちさぶらひには・げんじ・しやうざして・ばつざには・かまくらうちの・しよだいみやう・なみゐたり・そとさぶらひには・げんじのつはものども・
かたをならべ・ひざをくみて・なみゐたり・めづらしかりしみものなり・そののちひろびさしには・むらさきべりのたたみをしきて・やすさだに・
しやうざせさせらる・みすをはんに・まかれたり・ひやうゑのすけは・ほいに・たてゑぼし・くずはかまにて・いでられたり・
ひやうゑのすけは・せい・ちひさく・ようばういうびにして・げんぎよふんみやうなり・そののち・ひやうゑのすけのたまひけるは・そもそもへいけ・
よりともがめいにおそれて・みやこをおちぬるそのあとへ・ゆきいへ・よしなからが・わがかうみやうがうにうちいつて・くにをきらひまをし・くわんをのぞみまをす
でう・あまりにきくわいにさふらふ・そのときのききがきたうらいす・よりともおほきにこころえず・また十らうくらんどどのへ・きそのくわんじやと・かいてさふら
P351
ひしときも・へんじをば・してこそ・さふらひしか・またおくのひでひらが・むつのこくしゆになり・さたけのくわんじやまさよしが・ひ
たちのかみに・なつて・さふらふとて・よりともが・げぢにも・したがふまじきよしを・まをしさふらふ・あはれこのついでに・ゐんぜんをたまはつて・こ
れらをも・つゐたう・したうこそさふらへと・のたまへば・やすさだこれもやがて・みやうぶをも・まゐらせたくはさふらへど
も・わたくしにては・いかにも・かなひさふらふまじ・おととにてさふらふ・しのたいふしげやすも・このよしまをせとこそ・さふらひつれ・
いかさまにも・こんどは・まづまかりのぼるべきよしを・まをされたりければ・ひやうゑのすけ・おほきにあざわらひて・いかで
か・よりともなんどがみとして・おのおののみやうぶをば・たまはるべき・さるにても・けふは・まづとうりうあれとて・そのひは
とどめらる・つぎのひやすさだ・ひやうゑのすけのやかたへ・いとままをしにまかりむかふ・むま三びき・ひかせらる一ぴきに・くらおかれたり・よろひ
三りやう・はらまき一りやう・こがねづくりのたち一ふり・九さいたるのや一こし・ぬりごめどうのゆみ一ちやう・やすさだにこれをたぶ・そのほか・
いへのこらうどうどもに・いたるまで・おほくち・ひたたれ・くつ・むかばきに・およびけり・やすさだ・かまくらいでのひよりして・あふみの・
かがみにつくまで・しゆくじゆくに・十こくのこめをまうけさせられたりければ・あまりにたくさんなるままに・みちすがら・せぎやうひき
てぞ・のぼられける・やすさだみやこにのぼり・ゐんのごしよに・まゐつて・このよしを・そうしまをしたりければ・ほうわうをはじめたてまつ
つて・くぎやうでんじやうびとや・つぼねのにようばうたちにいたるまで・みなゑみを・ふくみてぞ・おはしける
猫間(あひ) 807
さるほどにきそは・みやこのしゆごにて・ありながら・ぜんぶんの・あらゑびすにてぞ・さふらひける・そのころ・ねこまのちう
P352
なごんみつたかのきやうとまをすひと・きそにいささか・のたまひあはすべきことありて・おはしたりければ・ひとまゐつて・ねこまのちうな
ごんどのと・まをすひと・いささかごげんざんのために・いらせたまひてさふらふと・まをしたりければ・きそ・どこなる・やとの・ねこの
ひとに・げんざうする・やうや・あると・のたまへば・いいやこれは・ねこまのちうなごんどのとまをして・くげにて・おんわた
りさふらふ・いかさまにも・ねこまどのとは・ごしゆくしよのなと・おぼえさふらふと・まをしけれども・きそなほ・ねこまどのとは・え
いはて・ねこどのの・たまたま・わいたに・いひよそはせよと・のたまへば・ちうなごん・いかでか・さることの・あるべき
とて・いそぎいでむと・したまひけるを・きそ・どこなる・やとの・ねこどのの・たまたま・わいたに・いひよそはせ
では・いかが・あるべき・しかも・けどきなり・なましきものをば・なにをもみな・むえんと・いふぞと・
こころえて・をりふし・むえんの・ひらたけ・もつたり・とうとうとてぞ・いそがせける・ややあつて・ばうりふしたる・
いひを・うづだかに・よそひなし・あはせ三くさして・ねゐのこやた・はいぜんし・きそがまへにも・おなじてい
にぞ・すゑたりける・きそ・はしおつとり・それめせねこどの・ちうなごん・くはでも・あしかりなむと・おもは
れければ・ひきいれの・はたに・くちを・よせむが・いぶせさに・なかを・えりめす・きそ・そのがふし・き
たなしと・おもひたまふな・よしなかが・しやうじんがふしにて・さうものを・かいたまへや・ねこどの・かいたまへや・ねこどの
とて・わがみは・さしわり・つきわり・のこりすくなに・せめなす・ちうなごんすこし・くうて・さしおき
たまへば・きそあつぱれ・きこゆる・ねこおろしをこそ・したまひたれとぞ・わらひける・ちうなごんは・きそに・
いささか・のたまひあはすべき・ことあつて・おはしたりけれども・きそがふるまひ・あまりに・ばうじやくぶじんなりければ・なに
P353
ごとの・さたにも・およばずしてぞ・いでられける・そののちきそは・ゐんざんまをさんと・したまひけるが・くわんなり・
かかいしたるものの・ひたたれにて・しゆつしすべき・やうなしとて・はじめて・いくわん・とりつくろふ・ややあつて・
きそは・くるまに・こがみ・のつてぞ・いでられける・きそどののおんくるまつかまつるものは・ひごろ八しまの・おほいどのの・
めしつかはれし・いや二らうまろとぞ・きこえし・きそに・せめしたがへられて・めしつかはれけることを・やす
からず・おもひければ・もんをいづるとてうしに・ひつと・ずはえ・あてたらむに・なじかは・よかるべき・
うしは・とんでいで・きそは・いつか・くるまに・のりならふべきなれば・まのけに・たふれ・てふの・はねを・ひ
ろげたるが・ごとくにて・やれ・うしこんでいめよ・うしこんでいめよとのたまへども・みみにも・ききいれず・五六ちやうがほどぞ・
あがらせたる・うしかひ・ここにて・きそと・なかなほり・せむとや・おもひけむ・くるまをとどめ・それにさふらふ・
てがたとまをすものに・とりつかせたまへと・まをしたりければ・きそ・むんずと・とりつき・かつはと・おきなほり・
あつぱれ・したくや・これは八しまの・おほいどのの・おんはからひか・または・うしこんでいめが・しわざかとぞ・
のたまひける・かかりけるところに・いまゐの四らうかねひら・いそぎむちあぶみ・あはせて・はせきたり・いかで・かやうに・おん
くるまをば・つかまつるぞと・いひければ・あまりに・うしのはなのこはうさふらふとぞ・のべたりける・そののちきそ・ゐんざんまをし
て・くるまより・おりむと・したまひけるに・ざふしきは・きやうのものなりければ・おんくるまには・めされさふらふおんときこそ・
あとよりは・めされさふらへ・おりさせたまふおんときには・まへあがりおりさせたまふおんことにてさふらふと・まをしたりければ・き
そ・どこなるやとの・くるまなればとて・すどほり・すべき・やうなしとて・なほ・はつて・あとよりこそ・
P354
おりられけれ・きそは・みめよきをとこの・いろのしろきが・よろひとつて・うちきせ・かぶとのををしめ・むまに・うちの
つて・いでたるには・にず・わるかりけり・かむりのつけぎは・さしぬきのけまはしにいたるまで・よろづ・かたく
ななること・おほかりけれども・おそれて・ひとこれをまをさず
水島合戦 808
きそは・そのころさいごくへ・うつてをぞ・むけられける・うつてのたいしやうぐんには・あしかがの・やだのはんぐわんよしきよ・ふくしやう
ぐんには・うんののいやへい四らうゆきちかを・さきとして・つがふそのせい五千よき・おなじき十ぐわつ十五にちに・みやこをたつて・はり
まのくににはせくだり・むろやまに・ぢんをぞ・とつたりける・へいけのかたにも・このよしをききて・さらばまづ・これをふせげ
やとて・たいしやうぐんには・さひやうゑのかみとももり・ふくしやうぐんには・のとのかみのりつね・さぶらひたいしやうには・ゑつちうのぜんじもりとし・じらう
ひやうゑもりつぎ・かづさの五らうひやうゑただみつ・ゑひのじらうもりかたを・さきとして・つがふそのせい・一まんよき・千よさうのふねに・
とりのり・びつちうのくにに・おしわたり・みづしまがとに・ぢんをとる・おなじき廿九日に・げんじもまた・びつちうのくにに・はせくだり・
みづしまがたに・ぢんをとる・あくれば・うるふ十ぐわつついたちの・まんだくらきに・みづしまが・とより・こぶね一さういできたり・
あまぶね・つりぶね・やらんと・みるところに・へいけのかたよりの・しめしのつかひの・ふねなりけり・げんじも・くがも・ほし
あげ・おいたりける・ふねどもを・おめき・さけんで・おしおろす・さるほどにへいけの・かたのたいしやうぐん・さひやう
ゑのかみとももり・ふねのへに・すすみいで・だいおんじやうをあげて・この二三ケねんがあひだ・とうごくほくこくのやつばらに・いきなぶりに・
P355
せられつることをば・こころうしとは・おもはずや・みかたのふねを・くめやとて・千よさうのふねの・ともへをならべ
て・くみあはせ・なかに・もやひのつなを・いれあよみのいたを・ひきならべ・ひきならべわたしたりければ・ふねのうへは・
へいへいたり・げんじのつはものどもは・へいけのふねに・のりうつりのりうつりてぞ・たたかひける・うんののいやへい四らうゆきちか
も・へいけのふねに・のりうつて・たたかひけるが・いかがは・したりけん・たいぜいのなかに・とりこめられ・さんざんに
たたかひて・うたれにけり・げんじのたいしやうぐん・あしかがのやだのはんぐわんだいよしきよは・このよしを・みたまひて・おほきに・はら
をたて・しうじう七八にん・こぶねに・とりのり・へいけのふねの・あたりを・おしまはさせ・さしつめ・ひきつめ・さ
んざんにいたまひけるが・いかがは・せられたりけむ・ふねくるりと・ふみかへして・ひと・一にんも・たす
からず・げんじの・かたには・たいしやうぐん・ふくしやうぐんも・うたれにければ・かなはじとや・おもひけむ・またみづしまがた
に・ひきしり・ぞく・へいけの・かたには・このよしを・みたまひて・ふねども・のりかたぶけのりかたぶけ・うまども・うみへ・おひ
おろしおひおろし・ふなばたにひきつけひきつけ・およがせて・くらづめ・ひたるほどにも・なりしかば・ひたひたと・うちのつ
て・くがへ・をめいて・かけあがり・おちゆくものどもを・ここにおひつめ・かしこにかけつめて・うちとりけり・げん
じの・かたには・ふせぎたたかふといへども・むぜい・たぜいに・かなはねば・さんざんにうちちらされ・のこりすくなに・
なりにけり・へいけは・みづしまがとの・いくさに・うちかつてぞ・くわいけいのはぢをば・すすぎける
妹尾が最後 809
P356
きそどのこのよしを・ききたまひて・おほきにはらをたて・こんどはよしなか・むかふべしとて・三千よきにてぞ・うちたたれ
ける・なかにも・へいけのさぶらひに・びつちうのくにのぢうにん・せのをのたらうかねやすをば・さんぬるなつ・ほつこく・となみやまにて・
いけどりに・せられたりけるを・きそ・いかがは・おもはれけむ・さうなうきらで・かがのくにのぢうにん・くらみつ
の三らうなりずみに・あづけ・おかれたりけるが・あるときせのを・くらみつにあうて・まことやとのは・さいこくげかうとやら
ん・うけたまはる・さらむに・とつては・びつちうのせのをは・ねんらいかねやすが・ちぎやうのところにて・さうが・うまのくさかひ・
くきやうのところにて・さうぞ・ごへんまをして・あづかりたまへかしと・いひければ・くらみつ・きそどのに・このよしをまをす・き
そどのさらば・ごへんさきにくだつて・うまのぬかをも・よういせよかしと・のたまへば・くらみつ・せのをを・あんないしやとし
て・びつちうの・せのをへこそ・くだりけれ・そしけいが・ここくに・とらはれ・りせうけいが・かんてうへかへらざりしが・
ごとく・とほくいこくに・つけることをば・むかしの・ひとのかなしめりしが・ごとしといへり・おしかはのたまき・かも
のばく・もつてふううをふせぎ・なまぐさきしし・らくのつくりみづ・もつて・きかつにあつ・しかるによは・いぬることなく・ひるは・き
をこり・くさをからぬと・いふばかりに・したがひつき・いかにもして・みをまつたうしいま一ど・へいけへ・まゐら
んと・おもひける・かねやすがこころの・うちこそ・おそろしけれ・さるほどに・せのをがちやくし・こたらうむねやすは・びつ
ちうのせのをに・ゐたりけるが・ちちがくだるよしを・ききて・十四五きにて・むかへにのぼるほどに・はりまのこふにて・
ゆきあひ・それより・うちつれくだるほどに・びぜんのくに・みついしのしゆくに・つきたりけるよ・こたらうむねやす・ざふかれひかまへ・
くらみつに・さけをぞ・しひたりける・くらみつ・さけにゑひて・ぜんごも・しらず・ふしたりけるところに・せのを・おやこし
P357
て・さしころしてんげり・これをはじめとして・たたかふものをばうちとり・おちゆくものをば・たすけけり・そのころびぜんは・十
らうくらんどの・くになりけるが・だいくわんの・こふのへんに・さふらひけるをも・うちすぐるとて・ようちにしてこそ・と
ほりけれ・そののちせのを・びぜん・びつちう・りやうごくを・ふれけるは・かねやすこそ・ふしぎのいのち・たすかつて・これまで・
くだりたれ・へいけに・こころざし・おもひあはれんずるひとびとは・かねやすを・たいしやうとして・きそどののくだるに・一やい
よとぞ・ふれたりける・そのころびぜん・びつちう・りやうごくのものどもは・いへのこらうどう・三にんもつたるもの・二にんをば・へいけ
へまゐらせ・五にんもつたるものは・三にんをばへいけへ・まゐらせたりければ・をりふしひとももののぐも・なかりけり・
たまたまのこるものどもは・ぬののこそでに・あづまおり・かきのひたたれに・つめひもし・くさりはらまき・つづりきて・あるひはたかえびらに・
すがりまた・五つ六つ・あるひは・やまうつぼに・たけのねのそや・十四五・かしらだかに・おふままに・つがふ
そのせい・二千よにん・びぜんのくに・ふくりんじ・なはて・ささのせまりを・ほりきつて・じやうくわくかまへて・たてこもる・さるほどに・十
らうくらんどの・だいくわんの・いへのこと・くらみつが・うちもらされのらうどうと・きそどのに・このよしまをさんとて・それより・
うちつれ・のぼるほどに・はりまと・つのくにのさかひなる・ふなさかといふところにて・きそどのに・まゐりあひ・このよしまをしたり
ければ・いまゐの四らうかねひらが・まをしけるは・ささふらへばこそ・きやつが・つらたましひ・まなこざし・けのやつに
て・さふらひつるものを・いそぎきらせたまへと・まをしさふらひつるは・ここさふらふかし・きそよしよし・しやつがことなら
ば・なにほどの・ことかあるべき・ごへんむかうて・うてかしと・のたまへば・いまゐの四らううけたまはつて・五百よきに
てはせくだり・びぜんのくに・ふくりんじなはて・ささのせまりに・おしよせたり・かのささのせまりとまをすは・三ばうはぬま・一ぱうは・ほりなり
P358
けり・いまゐ・ほりの・かたより・おしよせて・ときを・どつとぞ・つくりける・くち一の・ところなりければ・いまゐが
せい・五百き・まとになつてぞ・いられける・いまゐかなはじとや・おもひけむ・そばなる・ぬまへぞ・うちいりた
る・うまの・くさわき・むながいつくしに・たちけれども・いまゐそを・ことともせず・すぢかひさまに・むらめか
してぞ・よせたりける・じやうのうちにも・たかやぐらより・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いけるが・その
のち・やだねつきければ・うちもののさやをはづし・きどを・ひらいて・きつていで・さんざんにたたかひけるが・せのを
がせい・二千よにんとは・みえしかども・おちぬ・うたれぬ・せしほどに・ささのせまりも・やぶれにけり・せのを・百き
ばかりに・うちなされ・いたくらがはを・うちわたし・むかうのきしに・ぢんをとる・いまゐつづいて・いたくらがはをも・わたしけれ
ば・せのを・しうじう三にんに・うちなされ・みどろやま(イみとの山)へぞ・にげいりける・さるほどに・せのをが・ちやくし・こたらう
むねやすは・しやうねん二十三に・なりけるが・ふとりせめたる・だいのをとこ・うまにはなれては・一ちやうとも・はたらきえず・らう
どうがまをしけるは・ただこたらうどのと・ごいつしよにて・いかにも・ならせたまへと・いひけれども・せのをかれを・
うちすて・十よちやうぞ・にげのびたる・せのを・らうどうにむかつて・いひけるは・ひごろかねやすが・てきのなかに・かけいつて・いくさを・
するには・四はうはれて・おぼゆるが・いつしか・けふは・こたらうを・すてて・ゆけばにやらん・四はうくらくな
つて・おぼゆるぞ・ここを・おちのび・へいけへ・まゐらんことは・やすけれども・さいこくのどうれいどもが・あの
としにて・こを・すてたりなんど・いはれむことこそ・くちをしけれ・ただこたらうと・一しよにて・うちじに・せばや・
とおもふぞ・いかがあるべきと・いひければ・らうどう・ささふらへばこそ・こたらうどのと・ごいつしよにて・いかにも・
P359
ならせたまへと・まをしつるは・ここさふらふぞかし・かへさせたまへと・まをしければ・せのをさらばとて・とつてかへして・
みけるに・あんのごとく・こたらうむねやすは・あし・かばかに・はれてぞ・いねゐたりける・こたらうが・まをしけるは・
たとへむねやすこそ・ぶきりやうのものにて・これにて・うちじに・つかまつりさふらふとも・などや・ひとまどなりとも・のびさせたまひ・
さふらはぬやらんと・まをしたりければ・せのを・なんぢと一しよにて・うちじに・せんとおもふなりとて・よろひむしやが三にん・
たがひにいきつぎて・ゐたりけるところへ・いまゐ五百よきにて・おしよせたり・あはやてきは・ここにあるはとて・たい
ぜいのまんなかに・とりこめて・われうちとらむとぞ・すすみける・せのをも・かれこれ・しうじう三にん・うちものの・きつさき
をならべて・さんざんにたたかひけるが・こたらうむねやす・いたでおうてみえければ・せのを・ひとでにかけじとや・
おもひけむ・くびふつと・うちおとして・すててけり・そののちせのをも・とし五十八と・なのつて・てき八き・きつておとし・
わがみも・うちじに・してんげり・らうどうも・さんざんに・たたかひ・ぶんどりあまたして・一しよに・うちじに・してんげ
り・そののち・かれら三にんが・くびをとつて・きそどのに・みせたてまつる・あつぱれ・がうのものの・てほんかな・一にんたう
千とも・これらをこそ・いふべけれ・あつたらもの・いましばし・いけて・みてとぞ・をしまれける・そののち・かれら・三
にんが・くびをば・たうごく・さぎがもりにぞ・かけさせける・せのをおやこ・うたれてぞ・りやうごくのいくさは・やぶれにける
室山合戦(あひ) 810
そののちきそは・たうごく・まじゆのしやうにて・せいぞろへし・へいけと・かせんあるべしと・きこえしが・またみやこのるすに・おか
P360
れたりける・ひぐちのじらうかねみつ・はやうまをたてて・きそどのに・まをしけるは・十らうくらんどどのこそ・ゐんのきりびとして・
さまざまの・ござんげんの・さふらふなる・いそぎのぼらせたまへと・まをしたりければ・きそまづ・さしあたつたる・いくさをば・
せさせず・それより・とつてかへしてぞ・のぼられける・きそは・つのくにを・へて・しやうらくす・十らうくらんど・この
よしをききたまひて・てぜい・一千よきを・ひきぐして・たんばのくにをへて・はりまのこふへぞ・くだられける・さるほどに・
へいけは・三まんよきにて・はりまのくにまで・せめのぼり・むろやまにぢんをぞ・とつたりける・十らうくらんど・このよしをききたまひ
て・ここにて・へいけと・一いくさし・きそと・なかなほりせんとや・おもはれけむ・十らうくらんど・むろやまに・おしよ
せて・ときを・どつとぞ・つくりける・へいけのかたには・これをみて・うんかのごとくに・みだれいで・十らうくらんど・
一せんよきにて・三まんぎがなかに・かけいり・にしよりひがしへ・一わたり・きたより・みなみへ・一わたり・とつては・かへ
し・わつては・とほり・さんざんに・たたかひ・一ぱううちやぶつて・いでたれば・一千よきとは・みえしかども・おち
ぬうたれぬ・せしほどに・二百よきにぞ・なりにける・十らうくらんど・みやこをば・きそに・おそれ・はりまは・へいけ
に・はばかり・たかさごのうらより・ふねにとりのり・いづみのくにに・おしわたり・かはちのくにに・うちこえ・ながのの・じやうにた
てこもる・へいけは・びつちうのみづしま・はりまのむろやま・二ケどの・いくさにうちかつて・いよいよせいこそ・つきにけれ
法住寺合戦 811
さるほどにきそは・みやこのしゆごにて・ありながら・ひたすらの・あらえびす・にてぞさふらひ(脱字アルカ)かも・はちまん
P361
のしやりやうを・いはず・あをたをかつて・まぐさにし・だうたふを・やぶりたく・そのころきやうちうに・いくらもある・くらを・
やぶり・ざいはうを・はこびとる・つじつじに・しらはた・うつたてうつたて・ろじに・もてやう・けんもんせいかの・しやうぜいくわん
ものを・いはず・うばひとる・おのづから・さしあたつたる・しよくじをも・せさせず・そのひを・むなしう・せ・
させけり・へいけのときは・ろくはらとまをして・おそろしきことばかりなり・かやうのことは・なかりしに・いつ
しか・げんじ・へいけに・かへおとり・したりとぞ・ひとまをしける・そのころいきのかみともたかがこに・いきのはんぐわんともやす
は・十のうのものの・きこえありしが・なかにも・すぐれたる・つづみの・しやうずなりければ・ひとつづみはんぐわんとぞ・まをしける・
あるとき・ほうわう・ともやすをめして・なんぢ・きそがもとに・ゆきて・らうぜきしづめよと・いへと・おほせければ・ともやす・かしこまつ
て・うけたまはり・きそがもとに・ゆきむかひ・ちよくぢやうのおもむき・いひふくめけるに・きそまづ・ごへんじをばまをさず・やとのわ
どのを・たうじみなひとの・つづみはんぐわんといふは・よろづのひとに・うたれたうか・はられたうか・またなりたまふかと
いひければ・ともやすは・きき・はらあしき・をのこにて・いそぎ・ゐんのごしよに・かへりまゐつて・きそは・むほん
の・こころざしさふらふなるものを・いそぎ・つゐたうせさせたまはでと・まをしたりければ・ほうわうさらば・しかるべき・くぎやう・でん
じやうびとにも・おほせあはせられず・して・やまのざす・てらのちやうりに・おほせて・さんもんなんとの・あくそうどもをぞ・めされける・
あふみげんじ・やまもとのくわんじやよしたか・しなのげんじ・むらかみのじらうはんぐわんだいもとくには・ごしよがたにぞ・さふらひける・そのほか・
ゆみとつて・よからんずるものは・みなはせまゐるべしと・ふれられたり・ければ・あるひはむかひつぶて・いんぢ・つじくわん
じやばら・もしは・こつじきほうしに・いたるまで・みなごしよがたへぞ・まゐりける・ほふぢうじどのに・まゐりこもるせい・一
P362
万よにんと・しるしまをす・ほうぢうじどのの・かさじるしには・まつのはをぞ・したりける・さるほどに・いまゐの四らう
かねひら・きそどのに・まをしけるは・こは・まつだいと・まをすとも・いかでか・じふぜんのきみに・むかひたてまつつて・ゆみをひき・やを
ば・はなさせ・たまふべき・ただゆみをはづし・かぶとをぬいで・かうじんに・まゐらせたまひさふらへと・まをしたりければ・
きそ・どこなるやとの・たとへじふぜんのきみにても・わたらせたまへ・いかでか・よしなかが・ゆみをはづし・かぶとをぬいて・
かうじんには・まゐるべき・みやこのしゆごにて・あらんずるほどのものの・こま一ぴき・のらざるべきか・それに・い
くらもある・あをたをかつて・まぐさに・せむは・なじかは・くるしかるべき・四はうのせきぜき・ふさがつて・わたくし
のねんぐも・のぼらねば・わかたうどもが・かひなき・いのちたすけんとて・きやうちうに・いくらもある・くらをやぶり・
ひやうらうどり・させんは・なじかは・くるしかるべき・そのほか・にようゐん・みやみやの・わたらせたまふ・ごしよちうへも・
まゐらばこそ・よしなかが・らうぜきにても・あらんずれ・そのうへ・このほうわうは・さるほつかなき・ひとにて・おは
するものを・さうなうまゐつて・くびうつきられ・まをしての・せんのなさよ・よしなかが・こぞ・しなのを・いでしより・
このかた・だいせうのいくさ・かせんに・あふこと・廿よど・されども・一ども・ふかくをせず・こんどぞ・よしなかが・さいごの・か
せんなるべし・よしなかが・いくさのきちれいには・七てに・わかつものなれば・とて・まづいまゐの四らうかねひらに・五百
よきを・さしそへて・れんげわうゐん・いまくまのへ・からめてにこそ・むけられけれ・のこり六ても・おのおの・いたらんずる
ところより・うちいでうちいで・一てに・なれやものどもとて・ころは十一ぐわつ十九にちの・みのこくばかりに・きそがせい・三
千よき・七でうがはらに・うちたつて・ほふぢうじどのへぞ・さしよせたる・さるほどに・ほふぢうじどのには・つづみはんぐわんとも
P363
やす・いくさのぶぎやう・うけたまはつて・さふらひけるが・かちのひたたれに・よろひをば・きず・かぶとばかり・うちきて・かぶとの四はうに
は・四てんをかいてぞ・おしたりける・かほには・あかくにを・ぬり・かたてには・こんがうりやうをもち・ゆくて
には・つるぎをぬき・もつて・うちふりうちふり・まふときもあり・またうたひのたまはするときもあり・くぎやう・でんじやうびと・ふぜい
なし・いかさまにも・ともやすには・てんぐ・いりかはりたりとぞ・わらはれける・そののち・ともやす・ごしよのひがしの・
ついがきにのぼり・だいおんじやうをあげて・こはまつだいと・まをすとも・いかでか・じふぜんのきみに・むかひたてまつつて・ゆみを
ひき・やをば・はなつべき・はなたむずるやは・かへつてみにたち・ぬかんずるつるぎにては・かへつてみを・きる
べしと・よばはつたりければ・きそ・あはやまた・れいのつづみめが・なりまはると・おぼゆるぞ・にくし・その
ぎならば・うちやぶつて・くれよやとて・ごしよのそうもんに・おしよせて・ひをぞ・かけたりける・ともやすは・
いくさのぶぎやう・うけたまはつてさふらひけるが・いくさをば・せず・このよしをみて・ついぢより・とびおりて・みなみをさしてぞ・
にげたりける・そのほかのものどもは・あるひは・むかひつぶて・いんぢ・つじくわんじやばら・もしは・こつじきほうし・なりければ・一たま
りも・たまらず・われ・さきにとぞにげたりける・おくれ・はしるものは・はやう・はしるものに・ふみたをされ・
あとに・はしるものに・ふみころされ・みかたのたち・なぎなたに・つらぬかつて・しぬるもの・おほかりけり・をか
しかりし・ことどもなり・さるほどに・ほうわうは・けぶりに・むせびて・わたらせたまひけるが・みこしに・めされて・七でう
を・にしへ・ごかうなる・つはものども・やをいかけたてまつる・くぎやう・でんじやうびと・らうぜきなり・一ゐんの・ごかうぞと・おほせけれ
ば・つはものども・みな・ゆみをひらめて・かしこまる・このぢんをば・たが・かためたるぞと・おほせければ・ねゐのこやたさふらふ
P364
とまをす・さらばうけとりたてまつつて・いづかたへなりとも・ごかうなしたてまつれかしと・おほせければ・きそどのに・このよしをまをす・
きそどの・かしこまつてうけたまはり・ほふわうを・うけとりたてまつつて・五でうだいりへ・ごかうなしたてまつる・さるほどに・しゆじやうは・おんふねに
めして・いけのみぎはに・うかばせ・おはしまし・たりけるを・つはものども・やを・いかけたてまつる・くぎやう・でんじやうびと・
らうぜきなり・ござふねぞと・おほせければ・つはものども・ゆみをひらめてかしこまる・さらば・うけとりたてまつつて・いづかたへなりとも・
ぎやうかうなしたてまつれかしと・おほせければ・きそかしこまつてうけたまはり・しゆじやうを・うけとりたてまつつて・かんゐんどのへ・ぎやうかうなしたてまつる・
さるほどに・やまのざす・めいうんだいそうじやうも・ほうぢうじどのに・わたらせたまひけるが・おんむまにめして・七でうをにしへ・おち
させ・たまひけるところを・ひぐちのじらうかねみつ・よつ・ぴいて・いころしたてまつり・てんげり・てらのちやうり・八でうのみや
もおなじう・おんうまにめして・七でうをにしへ・おちさせたまひけるところを・いまゐの四らうかねひら・よつぴいて・いころ
したてまつる・もんどのかみさだなりがこ・せいだいげきちかなりは・とくさのかりきぬのしたに・もえぎのはらまきをき・かげなる・うま
に・のり・七でうをにしへ・おちけるところを・ねゐのこやた・よつぴて・いころしてんげり・みやうぎやうだうのはかせの・
いころされぬるこそ・あさましけれ・またみやうぎやうだうのはかせの・かつちうを・よろふことも・これはじめとぞうけたまはる・なかにも・
げんくらんどなかかね・おととかはちのかみなかのぶは・かはらざかにうつていで・さんざんにたたかはれけるところに・げんくらんどのらうどうに・くさ
ししのかがばうと・いふものあり・げんくらんどに・まをしけるは・あまりの・えせうまに・のつてさふらへば・はかばかし
う・いくさもせられさふらはず・あはれ・おんうまに・のりかへさふらはばやと・まをしたりければ・げんくらんどの・うまを・たぶ・しうの
うまに・のりかへ・たいぜいのなかに・わつていり・さんざんに・たたかうて・うたれにけり・げんくらんどなかかね・おととかはちの
P365
かみなかのぶは・いまはごかう・ぎやうかうも・よそへなりぬ・たれをかばひて・いくさをもすべきとて・一ぱううちやぶつて・みなみをさ
してぞ・おちられける・しなのげんじ・むらかみのじらうはんぐわんだいもとくには・てぜい・参百よき・かはらざかにうつていで・さん
ざんにたたかひ一ぱううちやぶつて・みなみをさしてぞ・おちゆきける・あふみげんじ・やまもとのくわんじやよしたかも・てぜい五百よき・か
はらざかに・うつていで・さんざんに・たたかひ・ひとあまた・うたせければ・かなはじとや・おもひけむ・これも・
みなみを・さしてぞ・おちゆきける・なかにも・せつしやうどのは・かからんよには・みやこのおんすまひも・なにかは・せさせたま
ふべき・とて・みこしに・めされ・うぢどのをさして・いらせたまひけるが・むしや二き・こばたのたうげにて・まゐり
あふ・こはいかなるものと・おほせければ・げんくらんどなかかね・おととかはちのかみなかのぶさふらふとまをす・さらばおんともに・ひと・一にん
もなきに・おんともにさふらへかしと・おほせければ・かしこまつてうけたまはり・うぢどのまで・おくりたてまつつて・それより・しよりやう
なりければ・かはちのくに・つぼゐを・さしてぞ・くだられけれる・そのころの・ぶんごのくにのこくし・ぎやうぶきやう・三みよりすけは・
かはらざかに・いくさのけんぶつして・おはしけるが・まつはだかに・はぎなされ・にしむきに・たつてぞ・おはしける・
ころはしもつき十九にちの・みのこくばかりの・ことなりければ・かはらかぜの・はげしさ・まをすばかりも・なかりけり・ここ
にひごろ・ぎやうぶきやう三みをよく・みしりたてまつりける・さぶらひほうしの・一にんさふらひけるが・こそで二つに・ころもをぞ・きた
りける・さらば・したなる・こそでを・ぬいても・きせたてまつらず・うへなる・ころもをぬいで・うちきせたてまつる・
ぎやうぶきやう三みは・たけのたかきをとこの・いろのしろきが・うつぼごろも・うちきて・びやくえなる・ほうしを・さきにたて・
みなみを・さして・おはしけるが・さらば・いそいでも・おはせず・ここは・どこぞ・かしこは・たがしゆくしよ
P366
ぞなんど・とはれけるこそ・をかしけれ・これをはじめとして・つぼねのにようばう・めのわらは・かしこ・ここにて・
はぎとられ・をめき・さけぶこと・なのめならず・ここに・げんくらんどのいへのこに・しなののじらうよりつなと・まをすものあり・
かはらざかに・うつていでて・みけるに・しうのうまは・あつて・おはせず・ひごろは・一しよとこそ・ちぎりたてまつりた
るに・はや・うたれたまひぬるに・こそと・おもひければ・たいぜいの・かたに・かけむかひ・あぶみふんばり・つ
つたちあがり・だいおんじやうを・あげて・これは・げんくらんどのいへのこに・しなののじらうよりつなと・なのつて・やたばねといて・
おしくつろげ・さしつめひきつめ・さんざんに・いけるやに・やにはに・てき三き・いおとし・そののちやだね・
つきければ・うちものの・さやをはづいて・さんざんに・きつて・まはりけるが・てき二き・きつておとし・わがみも・よ
きてきに・ひきくんでおち・さしちがへてぞ・しにける・てきもこれをみて・をしまぬものこそ・なかりけれ・これをはじめ
として・れんげわうゐん・いまくまの・ほうしやうじおほぢ・やなぎはら・ざいざいしよしよにて・かせんす・七でうがすゑをば・やまほうしの
かためたりけるが・一やもいで・にげにけり・八でうがすゑをば・ならほうしの・かためたりけるが・一いくさも
せで・おちにけり・九でうがすゑをば・つのくにげんじの・かためたりけるが・一やもいで・にげにけり・ひごろ・
ごしよがたより・なにものにても・てきのおちゆかんずるをば・うちとめよと・ふれられたりければ・そのへんの・ざいち
のものども・つのくにげんじの・おちゆくを・てきのおつるぞと・こころえて・りやうはうの・やねゐに・あがり・おそひの・いし
にてぞ・うちたりける・これはごしよがたぞ・あやまちすなと・いひけれども・さないはせそと・いふままに・
ひろひかけてぞ・うつたりける・つのくにげんじ・かなはじとや・おもひけむ・みな・うま・もののぐを・すててぞ・
P367
おちゆきける・そののち・きそは・七でうがはらに・うちたつて・やはたのかたを・ふしをがみ・いけどりどものくび・きりかけさ
せ・なかにも・やまのざす・てらのちやうりは・たつとき・ほうしなれば・くびを・たかううつて・かけよやとて・たか
ううつてぞ・かけさせける・そのひの・よにいつて・さきやうのたいふながのり・ほうわうの・わたらせたまひける・五でうの
だいりへ・まゐられたり・けれども・しゆごのぶし・きびしうしてもんをも・あけざりければ・しゆくしよにかへり・しゆつけ
して・つぎのひの・まんだあさ・ころもはかま・にてぞ・まゐられける・ながのり・おんまへちかう・まゐられたりければ・ほう
わうさても・きのふのあわたしう・あさましかりし・ことどもを・たがひにおほせあはせられて・なきぬ・わらひぬぞ・し
たまひける・さても・やまのざす・てらのちやうりの・うたれぬるこそ・あさましけれ・これもただ・まろがゆゑなり
とぞ・おほせける・おなじき廿一にちに・ほうわうをば・五でうのだいりを・いだしたてまつつて・たいぜんのだいぶなりただが・しゆくしよ・六
でうにしのどうゐんへ・いれたてまつり・しゆしやうをば・かんゐんどのを・いだしたてまつつて・五でうだいりへ・ぎやうかうなしたてまつる・きそは・
いよいよかつに・のつてぞ・ふるまひける・おなじき廿二にちに・四十九にんの・くわんしよくを・とどめて・おひこめたてまつる・おなじ
き廿三にちに・せつしやうどのよりは・きそをめされて・へいけのときも・四十三にんの・くわんしよくをこそ・とどめたるに・これは
すでに・四十九にん・さやうに・あくぎやうばかりにては・いかでか・よをも・をさむべきと・おほせければ・きそ・
かしこまつてうけたまはり・四十九にんの・くわんしよくを・ことごとく・かへしたてまつる・きそは・ぜんぢやうくわんぱくの・おんむこに・おし
なりける・こそ・をかしけれ・きそさらば・わうにならばやと・おもひけるが・そのころのしゆじやうは・をさ
なう・わたらせたまへば・わうに・ならんずれば・とていまさら・わらはしに・ならんことも・かなふまじ・き
P368
そさらば・ゐんにならばやと・おもひけるが・そのころのゐんは・ほうわうにて・わたらせたまへば・ゐんに・ならんず
ればとて・いまさら・にふだうせぬも・かなふまじ・きそ・くわんぱくとは・えいはで・さらば・はんぱくにも・な
れかし・ひとまゐつて・くわんぱくどのには・ふぢはらしのおんひとこそ・ならせたまふ・おんことにてはさふらへ・げんじにては・い
かにも・かなはせたまふべからずと・まをしたりければ・きそさらばとて・たんばのくにを・ちぎやうして・ゐんの・み
まやのべつたうに・おしなりけるこそ・をかしけれ・おなじき廿四かに・まつどののおんこ・もろいへのとのとて・しやうねん・十
二さいに・なられけるを・きそおんむこに・とりたてまつつて・たいじん・くわんぱく・一どに・せさせたてまつる・をりふしだいじん・あか
ざりければ・とくだいじの・さだいじんどの・かりたてまつつて・だいじん・くわんぱく・一どに・せさせたてまつる・きやうもゐなかも・むかし
もいまも・ひとのくちの・さがなさは・このもろいへのとのをば・みなひと・かるのだいじんとぞ・まをしける・おなじき廿五にちに・
ほうわうくないはんぐわんきんときを・おんつかひにて・きそ・つゐたうのゐんぜんを・かまくらへこそ・くだされけれ・さるほどに・かまくらに
は・この二三ケねんがあひだは・きやうとのさわぎ・くにぐにのらんに・よつて・おほやけのごねんぐも・たてまつらねば・そのおそれありとて・
おほやけのごねんぐ・たてまつらる・ならびに・のりより・よしつねに・一せんよきを・さしそへて・みやこのしゆごのために・さしのぼせられける
が・をはりのくに・あつたの・うらにて・たうりうあり・くないはんぐわん・あつたに・くだり・このよしまをされたりければ・のりより・
よしつね・わたくしにては・いかにも・かなふまじきよしを・まをされければ・くないはんぐわん・おなじき十二ぐわつ八かのひ・かま
くらに・くだりつき・きそ・つゐたうのゐんぜんを・ひやうゑのすけに・たてまつる・ひやうゑのすけ・ぜんぶんの・あらえびすを・みやこのしゆご
に・すゑおきて・くげ・ゐんちうの・おんさわぎこそ・おほきに・おそれいつて・おぼえさふらへ・さらば・やがてきそ・つゐ
P369
たうせむとて・のりより・よしつねに・六まんよきの・ぐんびやうをさしそへてぞ・のぼせられける・さるほどに・四はうのせきせき・
ふさがつて・わたくしのねんぐも・のぼらねば・みやこにおはしけるひとびとは・ただせうすゐの・うをのごとし・へいけはさい
かいに・ひやうゑのすけは・かまくらに・きそは・みやこにはかりおこなふ・たとへば・ごかんの・のち・てんか三に・わかれて・ぎ・
しよく・ごと・がうせしがごとし・あぶなながらに・としくれて・じゆえいも・三ねんにぞ・なりにける

平家物語(城方本・八坂系)
巻第九 P370
拝礼の沙汰 901
じゆえい三ねん・しやうぐわつついたちのひ・ゐんのごしよは・だいぜんのだいぶなりただが・しゆくしよ・六でうにしのとうゐんなりければ・ごしよの
てい・しかるべからざるうへ・はいらいなし・ゐんのはいらいも・なければ・八しまのいそにて・はるをむかへ・あらたまの・とし
たちかへり・たりけれども・せんていましませば・しゆじやうと・あふぎたてまつれども・こでうはいも・おこなはれず・はらかも・そうせず・
よしのの・くずもまゐらず・ひのためしも・たてまつらず・さすが・よみだれたりとは・いひしかども・みやこにて・か
くは・なかりしものをと・あはれなり・せいやうのはるもきたり・うらふくかぜも・やはらかに・いそべものどかに・なりゆけども・へい
けのひとびとは・いつも・こほりにとぢこめられたる・ここちして・ただかんくてうに・ことならず・とうがんせいがんのやなぎ・ちそく
をまじへ・なんしほくしのうめ・かいらくすでに・ことにして・はなのあした・つきのよる・しいかくわんげん・まりこゆみ・あふぎあはせ・ゑあはせ・
くさづくし・むしづくし・さまざまに・けうありしことどもを・おもひいで・かたりあひて・ながきひを・くらしかねたまふぞ
あはれなる
P371
佐々木と・梶原と・生数寄・摺墨を・あらそふ事 902
おなじきむつき十かのひ・きそのさまのかみよしなかを・ゐんのごしよへ・めされて・へいけ・つゐたうのために・さいこくへ・はつ
かうすべきよしを・おほせくださる・きそ・かしこまつてうけたまはり・おなじき十六にちに・かどでして・あかつきすでに・うちたたんと・しけ
るに・またとうごくよりのうつて・すまんぎにて・みののくに・いせのくにに・つきなんと・きこえしかば・きそは・かどいでばかり
にて・さいこくげかうは・とどまりぬ・きそは・そのころ・三千よきときこえしが・みなはうばうへ・わかち・つかはし
て・をりふしせいこそ・なかりけれ・まづひぐちのじらうかねみつに・五百よきを・さしそへて・をぢの・十らうくらんどゆきいへ・
かはちのくに・ながののじやうに・ありとききて・せめさせんとて・つかはしぬ・いまゐの四らうかねひら七百よきにて・せた
のてへこそ・むけられ・けれ・にしな・たかなし・やまだのじらう・五百よきにて・うぢのてへこそ・むかひけれ・
しだの三らうせんじやうよしのり・ほうどうの三らうよしひろ・つがう三百よきにて・よどをふせぎに・むかひけり・そのころかまくらどのに
は・いけずき・するすみとて・きこゆる・めいばあり・なかにもいけずきとは・くろくりげなるむまの・ふとくたくましきが・むまをも・
ひとをも・よせたてず・くひければ・いけずきとは・なづけられたり・たけは・やきのむまとぞ・きこえし・かまの
おんざうし・九らうおんざうし・このむまを・しよまうありけれども・かなはず・あるとき・かぢはらげんたかげすゑ・まゐつて・このむまを・まをし
ければ・ひやうゑのすけ・のたまひけるは・これは・よりともが・しぜんのとき・一のむまに・たのんであれば・かなふまじ・
これもおとらぬ・むまなればとて・するすみをぞ・たまはりける・また・ささき四らうたかつなまゐつて・このむまを・まをしければ・P372
ひやうゑのすけ・のたまひけるは・ずゐぶんひとびとの・まをされつるうへ・またかぢはらげんだかげすゑが・まをしつるにも・たばざんなり・
ただしごへんのちち・ささきのげん三ひでよしは・こさまのかうのとのの・おんいとほしみ・あさからざりき・されば・はうげん・
へいぢ・りやうどのかつぜんに・いのちをすてたりしひとなり・あひついでまた・ごへんのほうこう・しんべうにさふらふ・こんどうぢがはをば・
このむまにのりて・わたすべしとて・いけずきをこそ・たうだりけれ・ささき・しやうがいのめんもく・これには・すぎじとお
もひ・ごぜんを・まかりたつて・いでけるが・いかがはおもひけん・またたちかへり・こんどたかつな・うぢがはにて・しした
りと・きこしめされさふらはば・はやひとに・さきを・せられてんげりと・おぼしめされさふらふべし・またいきたりと・きこ
しめされさふらはば・せんぢんはさだめて・したるらんものをと・おぼしめされさふらふべしと・まをしきつて・いでければ・あつ
ぱれ・くわうりやうの・まをしやうかなとぞ・のたまひける・さるほどにひとびと・かまくらをたつて・たにやまを・うちこえ・するがのくに・うき
じまがはらに・かかつて・やうやうあゆませゆくほどに・なかにも・かぢはらげんだかげすゑ・たかきところに・うちあがり・お
ほくの・むまどもを・みけるに・いく千万といふかずを・しらず・おもひおもひのくらおかせ・いろいろのしりがいかけさせて・
あるひは・のりくちに・ひかせ・あるひは・もろくちに・ひかせつつ・ひきとほしひきとほし・しけるなかにも・かげすゑが・するすみに・ま
さるむまこそ・なかりけれと・よろこうで・しづかに・あよませゆくところに・はるかに・ひきさがつて・ささき・
いけずきに・きんぷくりんのくらおかせ・こぶさのしりがい・かけさせて・とねりあまたに・ひかせつつ・さしもに・ひろき・
うきしまがはらを・ところもなげに・おとらかさせ(イおどろかさせ)・しらあわ・かませちうにかけつて・いできたるかげすゑ・あ
たりを・はらつてぞ・みえたりける・かぢはら・いけずきが・のぼりけるよ・やあそれは・たがおんむまぞ・ささ
P373
きどののおんむまさふらふ・ささきは・三らうどのか・四らうどのか・四らうどののおんむまさふらふとて・ひきとほす・かぢはら・こはい
かに・かげすゑが・まをしつるには・たばで・ささきに・たうづることこそ・ゐこんなれ・いかさまにも・こんど・
みやこに・のぼり・きそどののみうちに・四てんわうと・きこえつる・いまゐ・ひぐち・たて・ねのゐに・くむか・さらすば・さい
こくにくだり・へいけの・かたに・さしも・おにがみの・やうに・きこえたる・ゑつちうのぜんじもりとし・じらうびやうゑもりつぎ・
かづさのあく七びやうゑかげきよに・くむか・さらずば・のとどのに・くみたてまつらんとこそ・おもひしに・ささきに・お
もひかへられたてまつりて・いくさして・しなんと・はるばると・きやうへ・のぼつて・せんなし・せんずるところ・ここにて・ささ
きと・ひつくんで・さしちがへ・はぢあるさぶらひ・ふたりしして・ただいま・だんじかかへたまふ・かまくらどのに・そんとらせたてまつ
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いけずき・たまはつてとなう・ささき・かねて・こころえてんげれば・すこしもさわがず・につこと・わらひ・いけず
きをば・たまはらぬぞとよ・そのゆゑは・ずゐぶんひとびとの・まをされつるうへにも・たばざんなれば・ましてたかつななん
どが・まをすとも・よもたまはらじ・まをしてまた・たまはざらんは・むねんなるべし・よしよし・かかる・てんがのおんだい
じに・しうのおんむまや・もののぐなんど・ぬすみたらんは・すこしもくるしかるまじ・きつくわいのおほせをば・ごにち
にこそ・うけたまはらんめと・おもひて・たたむと・しつるあかつき・とねりをとこに・こころをあはせて・ぬすんで・のぼるぞ・
かぢはらどのと・いひければ・かぢはらこのことばに・はらがゐて・ねつたい・さらばかげすゑも・ぬすむべかりつるものをと
P374
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宇治川 903
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なん・四らうたかつな・こんどうぢがはの・せんぢんぞやとぞ・なのつたる・けしきまことに・あたりを・はらつてぞ・みえ
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P377
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たる・いはなみ・しきりに・かぶとの・てつさきに・あたつて・おしあげおしあげ・しけれども・これをこととも・せず・
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P378
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たたへたる・ざふにんばらは・むまの・しもて(イしたはら)に・とりつきとりつき・わたしけるが・ひざより・うへを・ぬらさぬ
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河原合戦 904
きそは・うぢ・せた・やぶれぬと・きこえしかば・ゐんのごしよ・六でうどのに・まゐり・ほうわうを・とりたてまつりて・さい
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P379
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たまひては・いぬじに・せさせ・おはしまし・さふらひなんず・はやはやうちたたせたまへと・まをしけれども・きそなほ・
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こそとて・やがて・もののぐしてぞ・うちたたれける・かうづけのくにのぢうにん・なはのたらうひろずみを・さきとして・そのせい
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に・みちみちたり・なかにも・わかてのむしやとおぼしくて・五十きばかりすすんだり・ことにむしや二き・す
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ここにひかへて・ごぢんのせいをや・まつべきと・まをしければ・しほのやがまをしけるは・一ぢんやぶれぬれば・ざんたうまつた
からずと・いへり・ただかけよやとて・をめいて・かく・きそも・そのせい・二百よき・たいぜいの・なかにわつ
ていり・にしよりひがしへ・一わたり・きたよりみなみへ・一わたり・とつてはかへし・わつてはとほり・さんざんに・たたか
ひ・一ぱううちやぶつて・いでたれば・二百よきとは・みえしかども・おちぬうたれぬ・せしほどに・五十き・ばかりに
こそ・なりにける・かかりければ・九らうおんざうしよしつねは・うぢのて・おひおとして・のぼられけるが・まづ・ごしよ
の・おぼつかなければとて・しうじう・六き・ゐんのごしよ・六でうどのへ・はせまゐられけるに・ごしよには・だいぜんのだいぶ
P380
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みつけて・あはやまた・きそが・かへりまゐりさふらふぞやと・まをしたりければ・ほうわうを・はじめたてまつりて・くぎやう・でんじやうびと
や・つぼねのにようばうたちに・いたるまで・こんどぞ・よの・うせはてなるべしとて・てを・にぎり・たてぬぐわんも・ましまさ
ず・なりただ・よつく・みて・いいや・これは・きそにては・さふらはず・かさじるしの・かはつて・おぼえさふらふ・
いかさまにも・これは・こんにちまゐる・とうごくのげんじどもと・おぼえさふらふと・まをしもはてぬに・九らうおんざうしよしつね・ごしよのそう
もんに・うつたつて・だいおんじやうをあげて・これは・かまくらの・ひやうゑのすけよりともが・おとうと九らうくわんじやよしつね・うぢのて・おひ
おとして・まゐるよしを・まをさせたまふべうもや・さふらふらんと・まをされたりければ・なりただ・このよしを・ききて・いそ
ぎついがきよりとぶほどに・あまりに・あわてて・こしを・つきそんじてんげり・あまりのうれしさに・いたさを・わすれ・
はふはふ・おんまへに・まゐりこのよしを・そうしまをしたりければ・ほうわうなのめならず・ぎよかんありて・さらば・もんをひらい
て・いれよやとて・そうもんをひらいてぞ・いれられたる・たいしやうの・そのひのしやうぞくには・あかぢのにしきのひたたれに・くれなゐ
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おひ・しげどうのゆみの・とりうちのもとを・だんしを・一すんに・かかせ・五ぶに・たたんで・ひだりまきに・まいたる・
ばかりぞ・たいしやうの・しるしとは・みえし、のこり五にんも・もののぐこそ・いろいろなりけれども・つらたましひ・こつ
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P381
つね・一にんは・あふみのくにのぢうにん・ささきのげん三ひでよしが四なん・四らうたかつな・一にんは・むさしのくにのぢうにん・はたけやまのしやう
じしげよしがこに・じらうしげただ・一にんは・かはごえのたらうしげよりがこに・こたらうしげふさ・一にんは・さがみのくにのぢうにん・かぢはら
へい三かげときがこに・げんたかげすゑ・一にんはしぶやのしやうじしげくにがこに・うまのぜうしげすけさふらふと・めんめんになのりて・かしこまる・
そののち・ほうわう・たいしやう九らうよしつねを・おほゆかちかう・めされて・ことのしさいを・おんたづねありけるに・かしこまつてまをしける
は・さんさふらふ・かまくらの・ひやうゑのすけよりとも・きそが・らうぜき・うけたまはつて・のりより・よしつねに・六万よきのぐんびやうを・さし
そへて・のぼせさふらふ・のりよりは・せたよりまゐりさふら〔ふ〕が・いまだ・みえさふらはず・よしつねは・うぢのて・おひおとして・のぼ
りさふらへば・きそは・二百きばかりにて・かはらおもてに・みえ・さふらひつるを・いくさをば・つはものどもに・せさせ・よしつね
は・まづ・ごしよの・おぼつかなさに・さてまゐりてさふらふ・いまはさだめて・きそをば・うちとりさふらひぬらんと・よにも・
こともなげに・まをされたりければ・ほうわう・なのめならず・ぎよかんあつて・さらば・なんぢ・やがて・ごしよちうを・しゆ
ごし・まをせよと・おほせければ・よしつね・かしこまつてうけたまはり・しうじう六き・ごしよのそうもんに・うちたちて・きみを・しゆ
ごしたてまつる・これをはじめとして・十き・廿き・五十き・百き・はせまゐるほどに・ほどなう・三千きに・なつて・
ごしよの・四もんをかためて・しゆごしたてまつりけるにぞ・ほうわうも・あんどの・みこころつき・おぼしめす・若(イ若字なし)
くぎやう・でんじやうびとや・つぼねのにようばうたちに・いたるまで・ちからづきてこそ・おもはれけれ・きそは・なほも・ゐんのごしよ・六
でうどのにまゐり・ほうわうを・とりたてまつつて・さいこくへとは・おもはれけれども・ごしよにも・とうごくのたいぜい・まゐりこもり
たるよし・きこえしかば・また五十よきとつてかへし・たいぜいの・かたに・かけむかひ・ここをさいごとぞ・たたかはれ
P382
ける・かかるべしとだに・しりたらば・いまゐを・せたへは・やらざらまし・ひごろは・一しよにとこそ・
ちぎりしに・ところどころにて・しなんことこそ・かなしけれ・さるにても・いま一ど・いまゐがゆくへを・たづねむとて・かはらを・
のぼりに・かけて・ゆく・てきおつかくれば・とつてはかへし・おつかくれば・とつてはかへし・六でうがはらと・三
でうがはらのあひだにて・七八どまでこそ・かへされけれ・五十きばかりありつるせいも・三十きばかりに・なる・されど
もつひには・てきをおひはらひ・三でうがはらを・うちわたり・あはたぐちへぞ・いでられける・きそが・きよねん・しなのをいでし
には・五万よきと・きこえしが・けふ・四のみやがはらを・すぐるには・しうじう七きに・なりにけり・まして・ちう
うのたびのそら・おもひやられて・あはれなり・七きがなかの一きは・ともゑといへるをんななり
木曽の最後 905
きそは・ともゑ・やまぶきとて・ふたりのをんなを・めしつかはれけるが・なかにも・ともゑとは・廿二三の・をんなの・みめ・
かたち・よかりけるが・あらむまのりの・だいりき・あくしよおとしの・じやうずなりければ・きそ・いくさの・あるたびごとに・
よきよろひ・きせ・よきむまにのせて・一ぱうのたいしやうに・さし・むけられけるに・一ども・ふかくは・せざりけり・
さるほどにきそは・ながさかにかかつて・たんばぢへとも・きこゆ・またりうげごえにかかつて・ほつこくへ・おつとも・きこゆ・
されどもきそは・いまゐがゆくへを・たづねんとて・せたのかたへと・ゆくほどに・おほつの・うちでの・はまにてぞ・いまゐ
の四らうは・いできたる・さるほどに・いまゐの四らうかねひらは・七百よきにて・せたへ・むかうたりけるが・そのせいおちうた
P383
れ・百きばかりになつて・はたをばまいて・もたせ・とつてかへし・みやこをさして・のぼるほどに・一ちやうばかりより・たがひに・さ
ぞと・みてんげれば・りやうはう・こまをはやめて・よりあうたり・きそ・むまうちならべ・いまゐが・てを・とつて・
よしなか・六でうがはらにて・いかにも・なるべかりつるを・なんぢがきやうごの・おぼつかなさに・おほくのかたきに・うしろをみせて・
これまで・きたれるなりと・のたまへば・いまゐ・かしこまつてうけたまはり・かねひらも・せたにて・うちじにつかまつるべう・さふらひつるを・
おんゆくへの・おぼつかなさに・これまで・まゐりたるよしを・まをしたりければ・きそ・さてはちぎりは・いまだ・くち
せざりけり・よしなかが・はたさしは・六でうがはらにて・うたれぬ・よしなかがせいは・このへんにも・さだめて・おちつ(イお
ちちり)たるらん・なんぢが・はたを・あげて・みよかしと・のたまへば・いまゐうけたまはつて・まいてもたせたりける・しらはたといて・
ばつと・さしあげたりければ・きやうよりおちたる・せいともなく・せたよりちつたる・せいともなく・いまゐがはたを・
みて・五き・十きづつ・はせまゐるほどに・ほどなう・五百よきにぞ・なりにける・きそ・うれしきものかな・
このせいあらば・などか・さいごのいくさ・一いくさせざるべき・あれに・しぐらうて・みえたるは・たがてやらん・
かひの・一でうどのの・おんてとこそ・うけたまはりさふらへ・せいは・いかほどあるやらん・七千よきとこそ・うけたまは
れ・きそさては・かたきも・たぜいにて・あんなれば・あのたいぜいの・なかへ・かけいつて・うちじにせんことよとぞ・よ
ろこばれける・きそどのの・そのひのしやうぞくには・あかぢのにしきのひたたれに・うすがねと・いふ・からあやをどしのよろひをき・くは
がたうつたる・五まいかぶとのををしめ・こがねづくりのたちを・はき・廿四さいたる・いしうちのや・そのひのいくさに・うちすて・
せうせう・のこりたりけるを・かしらだかに・おふままに・ぬりごめどうのゆみの・まんなかもつて・きその・おにあしげと・きこ
P384
ゆる・むまのふとくたくましきに・きんぷくりんの・くらをおきて・うちいり・たいぜいの・かたに・かけむかひ・あぶみふんばり・つつたち
あがり・だいおんじやうをあげて・ひごろは・おとにも・ききけんきそのくわんじや・いまは・めにもみるらんさまのかみ・けんい
よのかみ・あさひのしやうぐん・みなもとのよしなかぞ・かたきは・一でうのじらうと・こそ・きけ・よしなかうちとつて・けんじやううけたまはれや
とぞ・なのられける・一でうのじらう・このよしをききて・いまなのるは・たいしやうきそぞ・あますな・もらすな・うてや
とて・たいぜいがまんなかに・とりこめて・うちとらんとぞ・すすみける・きそも・そのせい五百よき・たいぜいのなかに・わ
つていり・にしよりひがしへ・一わたり・きたよりみなみへ・一わたり・とつては・かへし・わつてはとほり・さん
ざんにたたかひ・一ぱううちやぶつて・いでたれば・五百よきとは・みえしかども・五十きばかりにぞなりにける・ど
ひのじらうさねひらが・三百きばかりにて・ひかへたりける・ところをも・かけわつて・いでたれば・しうじう五きにぞ・
なりにける・五きがなかにても・ともゑは・いまだ・うたれざりけり・ここに・むさしのくにのぢうにんに・おんだの八らうためしげ
とて・およそ卅にんがちから・もつたる・だいりきの・がうのものあり・かれが・らうどうに・むかつて・まことや・きそどののみ
うちに・ともゑとて・をんなむしやの・あんなるぞ・たとへ・こころこそたけくとも・おもふに・なにほどのことか・あるべき・おなじ
くは・くんで・いけどらんと・おもふなり・われ・くむとみば・なんぢら・すきをあらせず・おちあへとて・かしこ・
ここを・かけまはりかけまはり・みけるところに・ここに・ねりぬきに・うめの・たちえ・ぬひたる・ひたたれに・もえぎにほひの・よろひ
をき・くはがたの・かぶとのををしめ・あししろのたちをはき・十八さいたるそめはのや・おひ・二どころどうのゆみもちて・つき
げなるむまの・ふとくたくましきに・きんぷくりんの・くらおいて・のりたりける・むしやをみつけ・おんだ・これや・そなるらんと・
P385
おもひ・さしうつぶいて・みければ・かねぐろに・うすげしやうをぞ・したりける・おんだ・さればこ
そと・おもひ・ゆんでの・かたを・うちすぐるていに・もてなし・あひつけ・よつて・むずとくむ・ともゑこのよし
を・きつとみて・めての・うでを・さしいだし・おんだがよろひの・むないた・たまかけぼねに・とりぐして・ちうに・
さしあげ・二ふり・三ふり・うちふつて・くらのまへわに・おしあつるとぞ・みえし・このひごろ・さしも・きこえ
たりつる・おんだが・しやくび・ねぢきつて・すててけり・らうどうは・これをみて・おちやうにおよばねば・みな
ちりぢりにこそ・なりけれ・そののち・きそ・ともゑを・めして・いづくまで・かたきに・うしろを・みすべきな
れば・よしなかは・ただいまこれにて・じがい・せむとおもふなり・なんぢは・これより・いづかたへも・おちゆくべしと・のたま
へば・ともゑ・こは・くちをしきことをも・のたまふものかな・いづくまでも・さいごのおんとも・つかまつるべきよしを・まをしければ・
きそなんぢが・こころざしのほどは・うれしけれども・ゆみやとりの・さいごのところにて・をんなの・ししたらんには・こうだいのきこえ・あ
しかるべし・ただこれより・いづかたへも・あしに・まかせて・おちゆき・よしなかがごせ・とぶらうて・えさせよ・
それぞ・さいごの・ともしたりとも・おもふべきと・のたまへば・ともゑ・なみだを・ながして・きよねん・しなのを・いでしより
いらい・だいせうじ・かつせんに・あふこと・廿よど・かたとき・はなれまゐらすることも・さふらは・ざりしに・いま・しうの
さいごを・みすてて・いづくを・さして・おちゆくべきぞやとて・さしも・たけき・ともゑなれども・すすむなみだは・
せきあへず・きそ・さるにても・とうとうと・のたまへば・ともゑちからおよばず・あはづの・こくぶんじの・みだうのまへに・
もののぐぬぎおき・たちわきばさみ・ひがしをさして・おつるとぞみえしが・ゆきがたしらずぞ・なりにける・てづか
P386
のたらううちじにす・てづかのべつたうは・いたでおひて・せたのかたへぞ・おちゆきける・いまはきそと・いまゐとばかりなり・き
そどの・いまゐに・むかつて・のたまひけるは・ひごろは・なにともおもはざりつるうすがねが・けふは・などやらん・おも
つて・おぼゆるぞと・のたまへば・いまゐ・いまだ・おんむまも・つかれさふらはず・またおんみも・よわらせたまはねば・
なにごとによつてか・一りやうのおんきせながの・おもうは・ならせ・たまふべき・いまはみかたに・つづくおんせいもさふらは
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れば・きそおほきにいかつて・よしなか六でうがはらにて・いかにもなるべかりしみの・これまでおちきたりて・なんぢと・一しよにし
なんいのちの・なにごとによつてか・をしうては・おくすべき・そのぎならば・うちじにせんとて・またかけいでむと・し
たまひけるを・いまゐ・いそぎむまよりとんでおり・きそどのの・おんむまのみづつきに・とりつきたてまつて・ゆみやとりは・ひごろ
いかなる・かうみやうをして・さふらへども・さいごのところにて・あしうさふらへば・ながきゆみやの・おんきずなるべし・このひ
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まつのうちへ・いらせたまひ・しづかにごねんぶつさふらひて・ごじがいさふらふべし・かねひらがえびらにや七八・いのこしてさふらへば・ふせぎや
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P387
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も・むまをよせうちのりて・たいぜいのなかに・かけむかひ・あぶみふんばり・つつたちあがり・だいおんじやうをあげて・これはしな
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しろしめされたんなるぞ・かねひらうちとつて・けんじやううけたまはれやとぞ・なのりける・てきのかたには・このよしをききて・ただ
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いまゐの四らうかねひらは・よろひよければ・うらかかず・すきまをいねば・てもおはず・いまゐもししやうはしらねども・八
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つがひ・よつぴいてひやうといる・をりふしふりむきたまへる・うちかぶとをしたたかに・いさせて・いたでなりければ・かぶと
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もろひさが・かうこそうちたてまつりたれやとぞ・なのりける・いまゐこのよしをきいて・いまはたれを・かばはんとて・いくさをも
すべき・いかにとうごくのひとびと・がうのものの・じがいするをみて・てほんにせよやとて・むまのうへにて・よろひのうはおび
きつてのけ・はら十もんじに・かきやぶつたりけれども・なほもしなれざりければ・たちのきつさきを・
P388
くちにふくみ・むまよりさかさまに・おちつらぬかつてぞ・うせにける・きそどのは卅一・いまゐの四らう卅三・
きそといまゐが・うたれてぞ・あはづのいくさは・やぶれにける(イやみにける)
樋口が切れ 906
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て・むかうたりけるが・十らうくらんど・ながのをばたつて・きのくに・なぐさにくだつて・おはしけるを・ひぐちつ
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ひぐちどのに・このよしをまをさんとて・かはちをさしてくだりけるが・よどのおほわたりのへんにて・ゆきあうたり・ひぐちの
二らう・さていかにやと・いひければ・さんさふらふきみは・ゆふべあはづのまつばらにて・うたれさせ・おはしましさふらひ
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これききたまへや・ひとびと・きみにおんこころざしおもひあはれむずるひとびとは・これよりかねみつを・たいしやうとして・みやこにのぼり・
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れば・ひぐちのじらう・ひごろはさしものつはものなれども・うんやつきけむ・ゆみをはづし・かぶとをぬいで・かうにんにこそ・
なりにけれ・たいしやうぐんへ・このよしをまをす・のりより・よしつね・ゐんへこのよしを・そうしまをされたりければ・ほうわうよりは・
P390
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はやま・みなみはみぎは・みねたかうして・ひとへに・びやうぶを・そばだてたるにことならず・きたは・やまのふもとより・うみのとほあさに
いたるまで・たいぼくをきりて・しがらみにかき・たいせきをたたんで・かいだてとす・うみのとほあさにも・おほふねども・す千さう
そばだて・かたぶけて・かいだてとす・じやうくわくの四はうには・くらおきむまども・十へはたへに・ひきたてたり・じやうくわくのまへ
には・たかやぐらをかいて・うへにもしたにも・つはものども・ところもなく・みちみちたり・つねは・たいこをうちて・らんじやうす・
たかきところには・あかはたいく千万といふ・かずもしらず・うつたてたりければ・はるかぜに・もまれて・てんにひるがへり・ひとへに・
みやうくわのもえのぼるに・ことならず・かたきもこれをみて・おくしぬべうぞ・おぼえたる
六箇度合戦 907
さるほどに・あは・さぬきのものども・このひごろは・へいけに・ちうをいたしけるが・げんじにこころがはりしてんげり・かれらが
まをしけるは・われらこのひごろ・へいけにちうをいたしたれば・いまさらげんじへ・まゐりたりとも・よももちひたまはじ・いざや
へいけに・一やいて・それをおもてにして・まゐらむとて・かどわきのへいちうなごんのりもり・ゑちぜんの三みみちもり・のとのかみのりP392
つね・ふし三にん・びぜんのくに・しもつゐのうらといふところに・おはしけるを・かれらこぶね・廿よさうにとりのり・びぜんのくにに
おしわたり・しもつゐのうらに・おしよせて・ときをどつとぞつくりける・のとどのこのよしをみたまひて・このひごろ・み
かたにちうをいたしたるものどもが・げんじにこころがはりしてんげり・にくしそのぎならば・あますなもらすな・うてやとて・
さんざんに・うちたまひければ・これらのとどのに・ていたくせめられて・かなはじとやおもひけん・またふねにとりのり・四
こくをさして・わたりけるが・をりふしおほかぜおほなみ・むかひてたちければ・あはぢのくににおしわたり・ふくらのみなとにつきにけ
り・またこのところに・げんじ二にんありとぞきこえし・一にんはあはぢのくわんじやためしげ・一にんはかものくわんじやためのぶとて・これら
はこ六でうの・はんぐわんためよしがこどもなり・あは・さぬきのものども・かれら二にんを・たいしやうとして・ふくらのみなとに・じやうくわく
かまへてたてこもる・のとどのこのよしをききたまひて・こぶね五十よさうにとりのり・あはぢのくににおしわたり・ふくらのみなとにおし
よせて・さんざんにせめられければ・あはぢのくわんじや・うたれにけり・かものくわんじやは・いたでおひて・いけどりにこそ・せら
れけれ・これをはじめとして・あは・さぬきのものども・五十よにんが・くびとりて・いちのたににぞ・まゐられける・またあはぢのくに
のぢうにんに・あまの六らうただかげ・是もげんじにこころざしありければ・こぶね五さうにとりのり・かはじりをさして・わたりけるを・
のとどのこのよしを・ききたまひて・にしのみやのおくにて・よせあはせ・あまの六らうがふねを・なかにとりこめて・さんざんにせめられけ
れば・のとどのに・ていたくせめられて・かなはじとやおもひけん・いづみのくにに・おしわたり・ふけいたがはにぞ・つき
にける・またきのくにのぢうにんに・そのべのひやうゑただやす・これもげんじにこころざしありければ・いへのこらうどう・六十よにんを・ひき
ぐして・いづみのくにに・うちこゑ・あまの六らうと一になりて・ふけゐたがはに・じやうくわくかまへて・たてこもる・のとどのこのよしを・きき
P393
たまひて・いづみのくににおしわたり・ふけゐたがはに・おしよせて・さんざんにせめられければ・あまの六らう・のとどのに・
ていたくせめられて・かなはじとやおもひけん・やおもてをば・ざふにんばらに・ふせがせ・わがみは・よにいりて・きやうへのぼり・
げんじと一にぞ・なりにける・のとどの・あまの六らうをば・うちもらされたりけれども・ふせぐところのものども・百よにんが・
くびとつて・いちのたにへぞ・まゐらせられける・またいよのくにのぢうにんに・かはのの四らうみちのぶ・五百よきにて・むほん・お
こすと・きこえしかば・のとどの・このよしを・ききたまひて・さぬきのくにに・おしわたり・いよのくににこえたまふ・かはのこのよし
を・ききて・せうせん百よさうにとりのり・あきのくにに・おしわたり・ははかたのをぢ・ぬたのじらうと・ひとつになりて・
ぬたのじやうに・たてこもる・のとどの・このよしききたまひて・びんごのくにに・おしわたり・みのじまにつきたまふ・つぎのひ・あきの
くにに・うちこえ・ぬたのじやうにおしよせて・さんざんにせめられければ・ぬたのじらう・のとどのに・ていたくせめられて・
かなはじとやおもひけん・ゆみをはづし・かぶとをぬいで・かうにんにこそ・なりにけれ・かはの五十よきに・うち
なされ・ぬたなはてにのがれて・おちけるところを・のとどのの・めのとごに・へい八びやうゑとほしげ・弐百よきにて・おつか
けたり・かはのとつてかへし・さんざんにたたかひ・しうじう五きになつて・おちけるところを・へい八びやうゑがこに・へいはちたらうとほ
かげ・五十よきにて・おつかけたり・かはのとつてかへし・さんざんにたたかひ・しうじう二きになりて・おちけるところを・へい八た
らうが・いへのこに・あべの七らうともなり・ただ一きにて・おつかけたり・かはのがらうどうとつてかへし・あべの七らうと・
ひきくんで・どうとおつ・かはのとつてかへし・まづうへなる・あべの七らうが・くびかききつてなげのけ・したなるらう
どう・とつてひきたて・かたにひつかけ・うらへつつといで・またふねにとりのつて・九こくをさしてぞ・おちゆきける・のとどのP394
かはのをば・うちもらされけれども・ふせぐところのいへのこらうどう・弐百よにんがくびとつて・いちのたにへぞ・まゐらせられける・
さるほどに・九こくのぢうにん・うすきのじらうこれたか・をがたの三らうこれよし・かはのの四らうみちのぶ・三にん一になつて・つがふその
せい・一万よき・千よさうのふねに・とりのり・びぜんまで・せめのぼり・いまきがじやうに・たてこもる・のとどの・このよしをききたま
ひて・こんどは・いちのたにへ・おんせいを・まをさせたまひ・つがふそのせい・三千よき・びぜんのくににおしわたり・いまきがじやうに
おしよせて・ときをどつとぞつくりける・じやうのうちには・よせてこぜいと・みてんげれば・きどをひらいてきつていで・
さんざんにたたかひけれども・のとどの・これをことともしたまはず・よるひる三かに・さんざんにせめられければ・いまきがじやうも・
やぶれにけり・うすきのじらうこれたか・をがたの三らうこれよしは・九こくをさしてぞ・おちゆきける・かはのの四らうみちのぶは・
またふねにとりのり・四こくをさしてぞおちゆきける・のとどの・たいしやうどもをば・うちもらされたりけれども・ふせぐところのつはもの・五百
よにんがくびとつて・一たにへぞ・かへられける・おほいとの・こんど・のとどのの・ところどころのかうみやうを・おほきにかんじたまひ
けり・さるほどにへいけのひとびとは・いちのたににおはしけるが・それよりみやこも・ほどちかかりければ・たよりのふみをかよは
して・たがひになぐさみあはれけるが・なかにも・二ゐのそうづせんしんは・かぢゐのみやの・ごどうじゆくにて・おはしけるが・
たびたびまをされけるに・あるときのごへんじに・みやこもいまだおだしからずなんど・あそばされて・おくには・一しゆ
のうたをぞ・あそばされたる
ひとしれずそなたをおもふこころをばかたぶくつきにたぐえてぞやる・
おなじきむつき廿九にちに・みやこには・のりより・よしつねを・ゐんのごしよへめされて・へいけつゐたうのために・さいこくへはつかうすべき
P395
よしを・おほせくださる・おのおのかしこまつてうけたまはり・ゐんのごしよをまかりいづ・さるほどにふくはらには・きさらぎ四かは・にふ
だうしやうごくの・きにちとて・へいけの一もん・ひとつところにさしつどひ・かたのごとくのぶつじをぞ・とげられける・あさゆふ
の・いくさだちに・すぎゆくつきひは・しらねども・こぞは・ことしに・めぎり(イめぐり)きて・うかりしはるにも・なりにけり・
よのよならましかば・きりふたふばのくはだて・ぐぶつせそうのいとなみも・あるべけれども・いまはなにごとのさたにも・およば
ず・ただなんによの・きんだち・さしつどひ・なくよりほかの・ことぞなき・おなじき五かのひ・ふくはらには・ぢもくおこなは
れて・だいげきもろなほがこ・すはうのかみもろずみ・だいげきになさる・ひやうぶのせうまさあき・くらんどになつて・くらんどのせうと
ぞ・まをしける・そののち・おほいとの・かどわきの・へいちうなごんのりもりきやうのもとへ・ししやをたてて・こんど・のとどのの・ところどころの
かうみやうによつて・しやう二ゐのだいなごんに・あがりたまふべきよしを・のたまひつかはされたりければ・のりもりのごへん
じには
けふまでもあればあるかのわがみかは・ゆめのうちにも・ゆめをみよとや
とて・つひになりたまはず・むかし・まさかどが・しもふさのくに・さうまのこほりに・みやこをたて・百くわんをなしたりしには・
こよみのはかせぞ・なかりける・されば・これはそれには・にべからず・しゆじやうみやこを・いでさせたまふとはまをせども・
しんきはうけん・ないしどころ・三しゆのしんきを・たいしてましませば・ぢもくおこなはるることもおんひがごとならずとぞ・ひとまをしけ
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三草の夜討 908
さるほどに・げんじのかたには・おなじききさらぎ四かのひ・いくさあるべしと・ふれられたりけれども・きさらぎ四かは・にふだうしやうごく
の・きにちときいて・ぶつじさまたげんも・つみふかかるべし・五かは・にしふさがり・六かは・たうこにち・七か
のひの・うのこくに・いちのたにいくたのもり・とうざいのきどぐちにて・げんぺいたがひにやあはせとぞ・さだめてんげる・されども四かは・
きちにちなれば・かどいでばかりを・せよやとて・げんじ六万よきを・おほてからめて二てに・わけてぞ・むかはれけ
る・まづおほてのたいしやうぐん・がまのおんざうしのりよりに・あひしがたふひとびとには・たけだのたらうのぶよし・かがみのじらうとほみつ・
そのこのこじらうながきよ・一でうの二らうただより・いたがきの三らうかねのぶ・ゐざはの五らうのぶみつ・へんみのくわんじやありよし・やすだの三
らうよしさだ・やまなの三らうよしゆき・さぶらひたいしやうには・はたけやまのしやうじじらうしげただ・しやていながのの三らうしげきよ・おなじきうぢ・かはごえの
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P397
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P399
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鵯越 909
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P403
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な・したまひそ・いくさのさきをかくるといふは・みかたのせいを・ごぢんにちかづけて・わがかうみやうをも・ひとのふかくをも・たがひ
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もひ・こさかのすこし・ありつるに・うちあげて・むまをくだりかしらに・たてて・みかたのせいを・あひまつところに・
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はたさしは・ふたつびきりやうのひたたれに・あらひがはのよろひをき・さびつきげにこそ・のりたりけれ・ひらやまもさらば・なのらばやと・
あぶみふんばり・つつたちあがり・だいおんじやうをあげて・これはさんぬる・はうげんへいぢ・りやうどの・かつせんにうちかちて・かうみやう
しきはめたる・むさしのくにのぢうにん・ひらやまのむしやどころすゑしげ・ありとはしらずやと・ののしつたりければ・じやうのうちにP406
は・このよしをききて・こはくまがへばかりかとおもひたれば・またひらやまとなのるは・てこはしとやおもひけん・じやうの
うちへ・ばつとひきしりぞき・かたきをとざまになしてぞ・ふせぎける・くまがへおやこは・たちのきつさきを・まつかふにあてて・いよ
いよまへへはすすめども・うしろへはひつとあしもひかざりけり・くまがへはむまをいさせて・おりたつてぞたたかひけ
る・ちやくしのこじらうなほいへも・めてのこがひなを・いさせ・むまよりおり・ちちとならうでぞたつたりける・くまがへい
かに・こじらうよ・ておひたるか・さんさふらふ・やぬいてたべと・いひければ・ふかくにんかな・しばしこらへよ・
かぶとのしころを・つねにうちふれ・てへんいさすな・よろひづきを・つねにせよ・やにうらかかすなとぞ・
をしへける・くまがへひごろ・こじらうをば・あらきかぜにも・あてじとこそおもひしに・いつしかけふ・いくさばにて
は・ただしねや・しねとぞ・いさめける・そののち・くまがへまた・だいおんじやうをあげて・きよねんのふゆ・びつちうのみづしま・
はりまのむろやま・二ケどのいくさに・うちかつて・かうみやうしきはめたると・ののしるなる・ゑつちうのせんじもりとし・じ
らうびやうゑもりつぎ・かづさのあく七びやうゑかげきよは・なきか・のとどのはおはせぬか・かうみやうをも・ふかくをも・ひとによつ
てぞする・ひとごとに・あうての・かうみやうをば・えせじものを・くまがへにくめや・ひらやまにおちあへやと・ののしりけ
れども・こたふるものもなかりけり・くまがへは・のりかへにのりてぞ・たたかひける・なかにも・ゑつちうの二らうびやうゑもりつぎは・
こむらごのひたたれに・ひをどしのよろひをき・くはがたうつたる・五まいかぶとのををしめ・いかものづくりのたちをはき・廿四さしたる・
おほなかぐろのやおひ・ぬりごめどうのゆみもちて・れんせんあしげなるむまに・きんぷくりんのくらおいて・のつたりけるが・じやうのうちへひいて
いる・くまがへいかに・あれはゑつちうのじらうびやうゑとこそみれ・まさなうもかたきに・うしろをみするものかな・かへせや・P407
かへせといひけれども・いいやさもさうずとて・ひいている・かづさの五らうびやうゑただみつ・あく七びやうゑかげきよ・くまがへ
にくまむ・ひらやまにおちあはんと・ののしりけるを・ゑつちうのじらうびやうゑ・きみのおんだいじ・これにかぎらじ・あれほどの・
ふてものに・あうてくんでうたれて・なにのせんぞといふ・あひだ五らうびやうゑも・あく七びやうゑも・くまざりけり・じやうのうち
より・あめのふるやうに・いいだしけるやなりけれども・げんじのせいはすくなく・やにもあたらず・かけまはる・
そのうへじやうのうちには・むまにのりたるはすくなく・かちだちはおほかりけり・へいけの・ひとびとののりたるむまは・かふことはまれ
なり・のることはしげかりけり・ふねにひさしくたておきたれば・みなすくんでえりきつたるがごとくなり・くまがへひらやまが・
のりたるむまは・かひにかうたるだいのむま・ひとむちあてば・むまもひとも・みなけたふされぬべかりければ・くまがへにく
めや・ひらやまにくめや・くめと・ののしりけれども・よつくくむものさらになし・ひらやまは・はたさしをうたせて・おほきに
はらをたて・じやうのうちにかけいり・ぶんとりしてこそ・いでにけれ・そのあひだに・くまがへも・むまのいきをやすめ・これもじやうのうちにか
けいり・ぶんどりあまたしてこそ・いでにけれ・くまがへさきによせつれども・きどをひらかねばかけいらず・ひらやまうしろによせ
たれども・きどをひらけばかけいりけり・さてこそくまがへ・ひらやまが・一ぢん・二ぢんをあらそひけれ・これをはじめ
として・なりたの五らうかげしげ・卅きばかりにていできたり・どひのじらうさねひら・七千よきにてよせきたる・しらはた・あかはた
あひまじはつて・ひいづるほどにぞたたかひける・いちのたにのいくさは・さかりなりけれども・おほていくたのもりのいくさは・いま
だはじまらず
P408
梶原が二度の懸 911
さるほどに・むさしのくにのぢうにん・かはらのたらうたかなほ・おなじきじらうもりなほとて・こんどおほて・いくたのもりに・さふらひけるが・おなじ
ききさらぎ六かのひの・よにいりて・かはらのたらう・おとうとのじらうをようで・いひけるは・だいみやうこそ・われとてをお
ろさざれども・らうどうのかうみやうによつて・くんこうのしようにもあづかれ・われらがやうに・みふせうなるものは・われとて
をおろさでは・いかにもかなふまじ・さればうのこくのやあはせとは・さだめられたりしかども・まつがあまりに・
ひさしければ・たかなほは・一にんなりとも・じやうのうちにかけいり・うちじにせんとおもふなり・ごへんはこれより・ふるさと
にくだりて・さいしどもに・このよしかくとかたるべしと・いひければ・もりなほきいて・なみだをながし・こはくちをしきことをも・のたま
ふものかな・ただおとどひさふらふものが・あにをかつせんのばにみすてて・ひとりふるさとへくだつたらば・なにほどのことかさふらふべ
き・これもいつしよにて・うちじにさふらふとまをす・かはらのたらう・さらばとて・かずのかたみをば・げにんのをとこに・ふるさとへくだし・
ただおとどひむまをもはなれ・ゆんづゑをつき・いくたのもりの・さかもぎを・のぼりこえて・じやうちうへぞいりたりける・まだうし
のこくばかりのことなりければ・じやうのうちには・ひかすかにみえて・しづまりかへつて・おともせず・かはらのたらう・ゆん
づゑをつき・だいおんじやうをあげて・これはむさしのくにのぢうにん・しのたうに・かはらのたらう・きさいちのたかなほ・おなじきじらうもりなほと
て・こんどおほていくたのもりの・せんぢんぞやとぞ・なのりたる・じやうのうちには・このよしをききて・あつぱれ・とうごくのつはもの
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しくつろげ・さしつめ・ひきつめ・さんざんにいけるに・じやうのうちのつはもの・おほくいころさる・じやうのうちには・これをみ
て・いやいやこれらこそあいしにくけれ・そのぎならば・あますな・もらすな・うちとれとて・たいぜいうんかのご
とく・みだれいづる・そのなかに・びつちうのくにのぢうにん・まなべの四らう・五らうとて・きやうだいあり・あにの四らうをば・いちのたにに
おかれたり・おとうとの五らうは・いくたのもりにさふらひけるが・三にんばりに・十三ぞくの・なかさしとつて・うちつが
ひ・よつぴいて・ひやうといる・をりふしかはらが・ふりあふのいて・たつたりける・うちかぶとを・したたかに・い
させて・ひるむところを・おとうとのじらう・つつとより・あにをかたにひつかけて・さかもぎをのぼり・こえむとしける
ところを・まなべがにのやに・ひざのふしをしたたかに・いさせて・きやうだいまくらをならべて・どうとふす・そののち・まなべが
らうどう・おちあひて・かはらきやうだいが・くびをとりて・たいしやうぐんにみせたてまつる・しんちうなごんとももり・あつぱれがうのもののてほんかな・
いちにんたうせんとも・これらをこそ・いふべけれ・あつたらもの・いましばしいけてみてとぞ・をしまれける・その
のちかはらがげにんのをとこども・みかたのせいのうちにはしりいりて・かはらどのこそ・ただいまじやうのうちへ・かけいらせたまひて・うた
れさせ・おはしまして・さふらへと・こゑごゑに・よばはつたりければ・かぢはらこのよしをききて・ぢたいこれは・しの
たうの・とのばらのふかくにてこそ・かはらきやうだいをば・うたせたれ・そのぎならば・ときつくれやとて・かぢはらがてぜい・五
百よき・ときをつくりければ・みかたの五万よきも・ときをつくる・じやうのうちの・五万よきもおなじう・ときのこゑ
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P410
しづまりしかば・かぢはらがじなん・へいじかげたか・ちちにはかくともいはずして・じやうのうちへ・をめいてかく・かぢはらし
しやをたてて・みかたのせい・一きもつづかざらんに・さきかけたらむずるものには・くんこうあるまじきぞとの・たいしやう
ぐんよりの・ごぢやうにてあるぞと・いはせければ・へいじしばらくひかへて
もののふのとりつたへたるあづさゆみ・ひいてはかへす・ものならばこそ
と・まをさせたまへと・いひすてて・またをめいてかく・かぢはらさるにても・へいじうたすな・かげたかうたすな・すす
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されども・かぢはらことともせず・にしよりひがしへ・ひとわたり・きたよりみなみへ・ひとわたり・とつてはかへし・わつてはとほり・
さんざんにたたかひ・いつぱううちやぶつて・いでたれば・五百よきとは・みえしかども・五十きばかりにぞ・なりにける・
かぢはらこはいかに・げんたがみえぬはといひければ・らうどうのまをしけるは・ささふらへばこそ・げんたどのは・きたのやまぎ
はに・かけいらせたまひて・かたき八きがうちに・とりこめられさせたまひて・さふらひつるが・いまはさだめて・うたれてぞ・まし
ましさふらふらんと・まをしければ・かぢはらきいて・なみだをながし・かげときいくさして・よにあらんとおもふも・こどもをおもふため
なり・げんたをうたせて・かげとき・よにありても・なににかはせん・さるにても・いまいちど・げんたがゆくへを・
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P411
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せ・そのやを・ぬかで・をりかけ・たうのやをいて・がうのざしきに・つきたりし・かまくらのごん五らうかげまさには・
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るに・げにもげんたは・きたのやまぎはにかけいり・かたき八きがうちにとりこめられて・かぶとをもはや・うちおとされ・おほわらは
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あひ 912
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たがひに・ときつくるこゑ・うみをひびかし・やまをうごかす・むまのかけちがふおとは・いかづちのごとし・たちなぎP412
なたの・ひらめくかげは・いなづまにことならず・とほきをば・ゆみにてい・ちかきをば・たちにてきる・くまでにかけ
て・とるもあり・とらるるもあり・ひつくんで・さしちがへ・しぬるものもありけり・あるひはとつておさへ・
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まだうすでおひて・ここをさいごと・たたかふものもありけり・げんぺいりやうけのつはものども・いづれひまありとも・みえざりけ

坂落し 913
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ひるむところを・じやうのうちより・あはのみんぶしげよしがおとうと・さくらばのすけよしとほ・おちあひて・ふぢたがくびをば・とつてんげり・
かかりけるところに・いちのたに・いくたのもり・とうざいの・きどぐちばかりにては・いかにもかなふべうも・みえざりけるに・
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いちのたにのうしろ・ひえどりごえのたうげに・うちのぞんで・みたまひけるに・たやすくおとすべしとも・みえざりけり・せいにやおそれたりけ
む・をしか二・めか一つ・へいけのぢんへぞ・おちたりける・へいけのかたには・これをみて・こはいかに・さとちかか
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P413
いかさまにも・これは・からめてのせいの・まはるにこそとて・さわぎののしることなのめならず・ここに・いよのくにのぢうにんに・
たけちのむしやどころ・きよのり・それはなにものにてもあれ・かたきのかたより・きたらんずるものを・のがすべきやうなしと
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てのくつばみ・いけづりて・つぎなるししも・とどめけり・めかをば・いてぞ・とほしける・こころならず・かりしたり・しし
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P415
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越中の前司が最後 914
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ちをはき・廿四さいたるきりふのやおひ・しげどうのゆみもちて・つきげなるむまに・きんぷくりんのくらをおいて・うちのり・ただ一
きなぎさをにしへ・おちられけるところを・むさしのくにのぢうにん・をかべの六やたただずみとなのりて・ただ一きにて・おひかけたてまつる・
さつまのかみとつてかへし・これはみかたぞ・あやまちすなとてふりむきたまへる・うちかぶとをみければ・かねくろに・う
すげしやうをぞ・したまひける・六やたたうじ・みかたにさやうのひとをば・みぬものをとて・いよいよおひかけたてまつ
る・さつまのかみとつてかへし・につくいやつが・みかたといはば・いはせよかしとて・とつてひきよせ・むまのうへにて・
壱かたな・ちうにて一かたな・おつるところを一かたな・三かたなまで・さされけれども・二かたなは・よろひのうへにて・とほらず・一かたな
は・みぎのほうを・つきつらぬかれたりけれども・いたでならねば・とつておさへ・くびをかかむとしたまひける
を・六やたがわらは・おくればせにはせきたり・うちがたなのさやをはづいて・さつまのかみのかたな・もちたまへるかたの・かひな
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んとて・ひだりのおんてにて・六やたが・よろひのうはおび・むんずとつかうで・ゆんだけばかり・なげのけ・くわうみやうへん
せう・十ぱうせかい・ねんぶつしゆじやう・せつしゆふしやと・となへもはてさせたまはぬに・六やた・いたでならねば・おきなほり・
さつまのかみの・くびをうつ・くびつつまんとて・ひたたれをときけるに・えびらにむすびつけられたりける・ふみをといてみ
ければ・りよしゆくのはなといふだいにて・一しゆのうたをぞ・かかれける
ゆきくれてこのしたかげをやどとせば・はなやこよひのあるじならまし・
たひらのただのりと・かかれたりしによつてこそ・さつまのかみとは・しりてんげれ・そののちくびをば・たちのきつさきに・
さしつらぬき・たかくさしあげ・だいおんじやうをあげて・このひごろ・へいけのかたに・さしもきこえさせたまひたる・
さつまのかみのとのをば・とうごくむさしのくにのぢうにん・をかべの六やたただずみが・かうこそ・うちたてまつつたれやとぞ・なのりける・
かたきもみかたも・このよしをききて・あつぱれ・さつまのかみのとのは・かだうにも・ぶげいにも・いうにやさしき・たいしやうぐんに
て・おはしつるものをとて・をしまぬひとこそなかりけれ・なかにも・たじまのかみつねまさは・ささきの四らうたかつなに・く
んでうたれたまひぬ・わかさのかみつねとしは・かぢはらげんだかげすゑに・くんでうたれぬ・あはぢのかみきよふさは・かはごえのこたらうしげ
ふさに・くんでうたれたまひぬ・をはりのかみきよさだは・かねこの十らういへただに・くんでうたれたまひぬ・なかにも・くらんどのたいふ
なりもりは・くろきむまにのり・ただ一き・なぎさをにしへ・おちられけるところを・ひたちのくにのぢうにん・ひちやの五らうたかみつとな
のりて・ただ一きにて・おひかけたてまつる・なりもりとつてかへし・むまのあしたて・なほすやおそき・おしならべて・むず
P420
とくんで・どうとおつ・ひちやもだいりき・なりもりも・きこゆるしたたかびとにて・おはしければ・たがひにうへになり・
したになり・ころびあふところに・あるこいへのまへに・ふるゐのさふらひけるにころびいりて・よろひむしやが・二にんしたへ
も・おちつかず・ちうにはたと・つまつてぞ・さふらひける・ひちやの三らう・おとうとをうしなうて・五らうはいづくに
ぞ・いづくにぞと・よばはつたりければ・はるかのゐのそこに・ここにといふ・ひちやさしうつぶいて・みければ・おとうとの
よろひは・ふしなはめかたきのよろひは・もえぎにほひなりければ・おとうとがきたるかぶとのしころを・むんずとつかうて・えいやつと
いうて・ひきあげければ・なりもりも・ひちやがこしに・だきついてぞ・あがられける・やがてなりもりをば・とつ
ておさへて・くびをとる・こんねんは・十六にぞ・なられける
知章の浜軍 916
こんど・おほていくたのもりの・たいしやうぐんには・しんちうなごんとももり・ほん三ゐのちうじやうしげひらのきやう・つがふそのせい・五万よきに
て・ひがしにむかひて・たたかはれけるところに・むさしのくにのぢうにん・ゐのまたたうのうちより・へいけへししやをたてて・ちうなごんに
まをしけるは・きみはひととせ・むさしのこくしにて・わたらせたまへば・そのよしみをもつて まをしさふらふ・いちのたにこそ・はやや
ぶれてさふらへ・いまだうしろをば・ごらんぜられさふらはぬ・やらんとまをしたりければ・ちうなごんを・はじめたてまつつて・おのおの
うしろをかへりみたまへば・げにもくろけぶり・てんにみちみちたり・五万よきのつはものどもも・このよしをみて・よろづ
こころぼそくやおもひけん・みなちりぢりにこそ・なりにけれ・なかにも・ほん三ゐのちうじやう・しげひらのきやうは・かち
P421
にしろう・きなるいとをもつて・いはにむらちどりぬうたるひたたれに・むらさきすそごのよろひをき・やしまのおほいとのより・たまは
られたりける・だうじかげに・のりたまふ・おんめのとごの・ごとうびやうゑもりながをば・ひごろのよめなし・つきげにぞの
らせける・しうじう二き・うちつれて・なぎさをにしへ・おちられけるところに・たすけぶねども・おほかりけれども・かたきはうしろにちかづ
く・のるべきひまもなかりければ・ちからおよばず・みなとがは・かるもがはをも・うちわたり・こまのはやしを・ゆんでになし・
はすのいけをば・めてにみて・いたやど・すまをもうちすぎて・あかしをさしてぞ・おちられける・かかりけるところに・
むさしのくにのぢうにん・しやうの四らう・たかいへとなのりて・しうじう五きにて・おひかけたてまつる・三ゐのめされたる・どうじかげ
は・くきやうのめいばなりければ・たやすくおひつくべしとも・みえざりけり・しやうの四らう・かなはじとや・おもひけむ・
やごろにはせちかづき・三にんばりに十三ぞくの・なかさしとつてうちつがひ・よつぴいてひやうといる・三ゐ
のめされたりける・どうじかげが・さうづにやたちければ・おんめのとごの・ごとうびやうゑもりなが・このよしをみたてまつつて・
わがむまめされ・まゐらせなんとやおもひけむ・とつてかへし・ひがしをさして・おちてゆく・三ゐいかにやうれ・もりながよ・
ひごろは・さはちぎらざりしものを・そのむままゐらせよと・のたまへども・みみにも・ききいれず・むちをあげて・はせて
ゆく・三ゐ・いまはかなはじとや・おもはれけん・うみへうちいれられ・けれども・そこしも・とほあさにて・さう
なう・しづむべきやうも・なかりければ・またなぎさにうちあがり・むまよりおり・うはおびきつてのけ・たかひもはづ
し・すでにはらをきらんとしたまふところに・しやうの四らうたかいへ・むちあぶみをあはせて・はせきたり・いそぎむまよりとんでおり・なぎなたお
つとりなほし・まさなうも・ごじがいさふらふものかな・たすけまゐらせむとて・わがむまにかきのせたてまつつて・おびに
P422
て・くらのまへわに・したたかにしめつけたてまつり・わがみは・のりかへにのつて・みかたのせいのうちへぞ・いりにける・
へいけのかたに・さしもきこえさせたまひぬる・ほん三ゐのちうじやうどのの・いけどりにせられたまひぬるこそ・くちをしけれ・
しんちうなごんとももりは・きぎよりようのひたたれに・はじのにほひの・よろひをき・これもやしまのおほいとのより・たまはられたりけ
る・ゐのうへぐろにのりたまふ・おんこむさしのかみともあきらは・うきおりもののひたたれに・つまにほひのよろひをき・きかはらげにこそ・のりたま
ひけれ・おんめのとごの・けんもつたらうよりかたは・ひしたすきのひたたれに・かたしろのよろひをき・しらあしげにこそ・のりたり
けれ・しうじう三き・うちつれて・なぎさをにしへ・おちられけるところに・ここにこだまたうとおぼしくて・うちはのはたささせた
る・もの・十きばかりにて・おひかけたてまつる・けんもつたらうよりかたは・きこゆるゆみのじやうずなりければ・とつてかへし・まづ・ま
つさきにすすんだる・はたさしが・くびのほねいて・いおとしけり・そののち・たいしやうとおぼしきもの・ちうなごんにかかり
たてまつる・おんこむさしのかみともあきら・なかにへだたり・かたきとひきくんで・どうとおち・かたきのくび・かききつて・おきあが
らんとしたまふところを・かたきがわらはおちあひて・むさしのかみのくびをとる・けんもつたちうおちかさなりて・むさしのかみのおんくび・たまはつた
る・わらはが・くびをも・とつてんげり・そののちよりかたも・ひざのふしを・したたかにいさせて・たたれざり
ければ・ゐながら・かたき三ききつておとし・わがみもうちじにしてんげり・そのまに・ちうなごんは・くきやうのめいばには・
のりたまひぬ・うみのおもて・廿よちやうを・およがせて・おほいとののおんふねへぞ・まゐられける・ふねにところなくして・
むまたつべきやうも・なかりければ・それよりむまをば・おひかへさる・あはのみんぶしげよし・このよしをみたてまつつて・ただいまあ
のおんむま・かたきのものとなりさふらひなんず・たまはつていころしさふらはんとて・よつぴいてむかひければ・ちうなごんよしよしそれは・
P423
なにのものにも・ならばなれ・ただいまわれを・たすけたらんずるものを・いかでかなさけなう・いころすべき・にあるべから
ずとのたまへば・ちからおよばず・はげたるやを・さしはづす・このむまぬしのなごりを・をしむかとおぼしくて・ふねのあ
たりを・およぎまはりおよぎまはり・しけれども・のするものもなかりければ・ちからおよばず・またなぎさにおよぎかへり・なほもこの
むま・ぬしのなごりを・をしむかと・おぼえて・おきのかたをまぼり・たかいななきをしつつ・あしかきしてこそ・
たちたりけれ・やがてこのむまを・かはごゑのこたらうしげふさとつて・おんざうしへたてまつる・それよりしてぞかはごえぐろとは・
めされける・このむまは・しなののくに・ゐのうへより・まゐりたりければ・ゐのうへぐろとなづけて・ゐんのおんむまやに・たてさせられた
りしを・やしまのおほいとのの・ないだいじんにあがりたまひて・おんよろこびまをしのさふらひしとき・ゐんよりくだしたまはられたりし
を・おんおとうとのちうなごんに・あづけまをされけり・ちうなごんあまりに・このむまをひざうして・まいげつついたちごとに・たいさんぶ
くんをぞ・まつられける・そののちしんちうなごんとももり・おほいとののおんまへに・まゐらせたまひて・まをさせたまひけるは・いま
ははや・むさしのかみにも・おくれさふらひぬ・またよりかたも・うたれさふらひぬ・いかなれば・こはおやに・くむかたきのなかに・へ
だたるに・いかなるおやなれば・ふたりともなき・このうたるるを・みすてて・とつてかへし・さふらはざりつる
ことこそ・みながらも・よくいのちはをしかりけりと・おぼえて・かへすがへすも・くちをしうこそさふらへ・ひとのうへに・かやう
のことを・みききさふらはんには・いかばかりか・もどかしうもこそ・さふらはんずらめと・まをしもはてず・なきたま
へば・おほいとの・むさしのかみは・こころもがうにして・よきたいしやうぐんにて・さふらひつるものをとて・おんこゑもんのかみの・こん
ねん十六になりたまひけるが・おんそばに・おはしけるかたを・みたまひて・むさしのかみは・あのゑもんのかみと・どうねんなと
P424
て・なきたまへば・ふねのうちのさぶらひどもも・みなよろひのそでをぞ・ぬらしける・
備中守の最後(あひ) 917
かかりけるところに・こまつどののすゑのこに・びつちうのかみもろもりは・しうじう七八にん・こぶねにとりのり・おきにうかうで・いくさの
なりゆき[* この一字不要]くやうを・みたまふところに・ここに・しんちうなごんのさぶらひに・ゑもんのじようしげさだと・まをすものあり・かたきにおひかけられ・なぎさへ
むいて・はせくだり・おきなるふねを・まぼつて・いかにあれは・びつちうのかみのとのの・おんふねとこそ・みまゐら
せてさふらへ・あはれまゐりさふらはばやと・まをしたりければ・びつちうのかみあれはいかに・しげさだか・うたすな・のせやとて・
ふねをなぎさへ・よせられたり・そこしもとほあさにて・ふねよらざりければ・むまのふとはらひたるほどに・うちいりて・
みけるに・そのあひ・わづかに・ゆんだけばかりは・あるらんとぞ・みえし・び〔つ〕ちうのかみ・いまはかたきの・ちかづくに・
とうのれかしとのたまへば・うけたまはつて・だいのをとこの・おもよろひきたりけるが・さしもなき・こぶねへ・おもひのまま
にかはととびのらむには・なじかは・よかるべき・ふねふみかへして・ひと壱にんもたすからず・はたけやまがらうどう
に・ほんだのじらうが・おちあひて・くまでをおろし・び〔つ〕ちうのかみを・ひきあげたてまつつて・くびをとる・こんねんは・十四さい
にぞ・なられける・
敦盛 918
P425
かかりけるところに・むさしのくにのぢうにん・くまがへのじらうなほざねは・あつぱれよからんかたきがな・いまいちどくまばやとおもひ・
かしこここを・かけまはりかけまはり・みけるところに・ここに・ねりぬきに・つるぬうたるひたたれに・もえぎにほひのよろひをき・
くはがたのかぶとのををしめ・こがねづくりのたちをはき・廿四さいたるきりふのやおひ・しげどうのゆみもちて・れんせんあしげなる
むまの・ふとくたくましきに・きんぷくりんの・くらをおいて・うちのり・おきなるふねをまぼつて・うみのおもて・七八たんがほど・うちおよが
せて・おはしける・むしやをみつけ・くまがへあつぱれ・よきたいしやうぐんとこそ・みまゐらせてさふらへ・まさなうも・
かたきにうしろをば・みせさせたまふものかな・かへさせたまへかへさせたまへと・あふぎをあげて・まねきければ・まねかれて・や
がて・とつてぞ・かへされける・なぎさにうちあがらんと・したまふところに・くまがへむまのあしたて・なほすやおそき・お
しならべて・むずとくんで・どうとおつ・やがてとつて・おさへて・くびをかかんと・しけるが・あまりにものよ
わうおぼえければ・うちかぶとをおしあふのけて・みけるに・いまだ十六か・七かとみえたる・こじやうらふの・
かねぐろに・うすげしやうをぞ・したまひたる・そのとき・くまがへ・なみだをはらはらと・ながいて・いとふしや・
このひとのちちはは・さだめてましますらん・いくさばへ・いだしたてて・いかばかりのことをか・おもひたまふらんに・はや
うたれたりと・ききたまひたらば・さこそは・なげかせたまはむずらめ・なほざねが・こじらうと・うちつれて・いくさを
するだにも・おぼつかなきぞかし・けさいちのたにのにしのきどへ・よせたりつるに・こじらうがめてのこひぢを・のぶ
かにいさせて・やぬいてたべといひつるを・ふかくじんかな・いましばし・こらへとて・ぬかざりつるが・
そののちは・たいぜいに・おしへだてられて・ししやうしらず・ひとのおやの・こをおもふならひ・なほざねが・こじらうをおも
P426
ふやうにこそ・おもひたまふらんに・このひとひとりうちたてまつりたればとて・まくべきいくさに・かたんずるにもあら
ず・またたすけまをしたればとて・それにはよるべからず・あつぱれたすけまゐらせばやとおもひ・そもそもいかなるひと
にて・おんわたりさふらふぞ・なのらせたまへ・たすけまゐらせんと・まをしたりければ・かういふわぎみは・なにものぞ・ま
づなのれと・いはれて・これはむさしのくにのぢうにん・くまがへのじらうなほざねとまをすものにてさふらふなり・さてははや・なんぢがため
には・よきかたきぞ・これはわざわざおもふやうあつて・なのらぬなり・ただしなんぢをさくるにはあらず・なのらずとい
ふとも・はやはやくびをとつて・ひとにとへ・よにはまた・みしりたるものもあらんずるぞとて・つひになのりたまは
ず・くまがへあまりに・このひとのしづまり・がうにおはするほどをかんじて・あつぱれたすけまゐらせばやとおもひ・うしろ
をきつとみければ・どひのじらう・三百よきばかりにてつづく・さきははたけやま五百きばかりにて・ささへたり・
ゆんでのかたをみければ・かぢはら五拾きばかりにて・ひかへたり・そのほかかはごえ・もろをかのつはものども・六七百きにてかけま
はる・くまがへいとふしや・たすけまゐらせんと・つかまつりさふらへど・このたいぜいのなかにては・たとへなほざねがてをこそ・のがれさせ
たまひてさふらふとも・つひにはおんいのちの・のびさせたまひさふらふまじ・おなじうは・なほざねがてにかけたてまつつて・ごぼだいをこそ・
とぶらひ・まゐらせさふらはんずれ・これもただ・ぜんせのことと・おぼしめされさふらふべしと・まをしたりければ・このひとうち
うなづき・たまひけり・そののち・くまがへめをふさぎ・こしのかたなをぬき・くさずりひきあげ・三かたなさいて・くびをとる・く
びつつまんとて・ひたたれを・ときければ・ふえをぞこしに・さされたる・くまがへ・いとふしや・このあかつき・じやうの
うちに・ふえのねの・しつるは・はやこのひとの・ふきたまひけり・ねざしてことに・おもしろかりつるものかな・とうごくに・
P427
千万のつはものありといふとも・いくさばなんどへ・ふえもつものこそ・あるまじけれ・あはれみやこのひとほど・いうにやさしかりける・
ことあらじ・あはれゆみやとるみのならひほど・くちをしかりけるものあらじ・わがこころにまかせたるみならば・などかこのひと・
ひとりたすけざるべきとて・かたてには・くびをもち・かたてには・ゆんづゑにすがり・なみだにむせびて・しばしは
むまにも・のらざりけり・のちにひとにたづぬれば・しゆりのだいぶ・つねもりのすゑのこ・たいふあつもりとて・しやうねん十七にぞ・
なられける・ふえはこえだとて・めいよのふえなりつるを・つねもりこのひと・きりやうたるによつて・さづけられけると
ぞうけたまはる・くまがへががほつしんは・このひとゆゑとぞうけたまはる・さるほどに・いくさやぶれにしかば・へいけみなふねにとり
のり・あるひは・あしやのおきにかかつて・きぢへおもむくふねもあり・あるひは・あはぢのせとをこぎすぎて・しまがくれゆくふねも
あり・いまだいちのたにのおきにただよふふねもあり・うらうらしまじまおほければ・たがひのししやうをさだめがたし・へいけ・うみにしづんで・
しぬるは・かずしらず・くがにはたさをを・ゆひわたし・かけしるす・くび・三千よとぞ・きこえし・いちのたに・いくた
のもり・きたのやまぎは・みなみのなぎさ・とうざいのきどぐち・やぐらのほか・さかもぎのもとに・いふせられ・きりふせられたるひと・
むまのししむらやまのごとし・いちのたにの・をささはら・みどりのいろをひきかへて・うすくれなゐにぞ・なりにける・へいけ・くにを
なびくることも・十四ケこく・またせいのしたがひつくことも・十万よき・これよりみやこへは・わづかに一にちのみちぞかし・こんど
はさりともと・おもはれつる・いちのたにをも・やぶられて・こころぼそくぞ・おもはれける
小宰相の身なげ 919 P428
こんど・つのくに・いちのたににて・うたれたまひし・ひとびとには・ゑちぜんの三ゐみちもり・さつまのかみただのり・たじまのかみつねまさ・わかさの
かみつねとし・あはぢのかみきよふさ・をはりのかみきよさだ・びつちうのかみもろもり・むさしのかみともあきら・くらんどのたいふなりもり・たいふあつもり・十にんとぞきこ
えし・十のくび・みやこへいる・ならびに・ゑつちうのぜんじもりとしがかうべも・おなじくきやうへぞのぼりける・なかにも・ほん三ゐのちうじやう
しげひらきやうは・ひとりいけどりに・せられたまひけり・二ゐどのこのよしききたまひて・ゆみやとりの・いくさばにて・しぬるは・
つねのならひ・なれども・あはれやあの・三ゐのちうじやうが・ひとりいけどりに・せられて・いかばかりのことをか・おもふら
んとてぞ・なかれける・きたのかた・だいなごんのすけどのは・さまかへんと・したまひけるを・おほいとのも・二ゐどのも・
きみをば・いかでか・すてまゐらつさせ・たまふべきと・やうやうに・せいしたまひしうへ・こんどは・さまをもかへたまは
ず・ふししづみてぞ・おはしける・そのほか・いちのたににて・うたれたまひし・ひとびとのきたのかた・たいりやく・さまをぞ・か
へられける・なかにも・ゑちぜんの三ゐみちもりの・さふらひにぐんだたきぐちときかずと・まをすもの・きたのかたのおんまへに・まゐつて
まをしけるは・うへにはけさ・みなとがはのすそにて・かたき七きがなかに・とりこめられさせたまひて・うたれさせ・おはしま
してさふらひぬ・ことに・てをおろして・うちまゐらせてさふらふをば・あふみのくにのぢうにん・きむらのげん三なりつなとこそ・まをして
さふらひつれ・これもやがて・おんともまをして・いかにも・まかりなるべうさふらひしみの・かねてのおほせには・われいかになりた
りとも・ごせのおんとも・つかまつらんと・おもふべからず・あひかまへて・きたのおんかたの・おんゆくへを・みつきまゐらせよと・
おほせさふらひつるほどに・かひなきいのち・たすかつて・これまでまゐりてさふらふと・まをしたりければ・きたのかたは・とかくの
へんじをも・したまはず・ひきかづきてぞ・なかれける・一ぢやうこのひと・うたれたまひぬと・ききながら・もしこのことの・
P429
ひがごとにてもや・あらむずらむ・またいきて・かへらるることもや・おはせむずらむと・ただかりそめに・いでたる
ひとを・まつらむやうに・この三四かがあひだは・またれけるこそ・あはれなれ・されども・いまはむなしき・ひかずも・
すぎゆきて・もしやのたのみも・つきければ・こころぼそくぞ・おもはれける・きさらぎ十三にち・いちのたにより・八しまへ・
わたられけるあかつきがた・きたのかた・めのとのにようばうに・むかつて・のたまひけるは・あはれや三ゐのあす・うちいでんとてのよ・
さしも・いくさばへ・わらはをむかへて・ゆみやとりの・いくさばへ・いづるは・つねのならひなれども・こんどは・しなんず
るやらん・よにもこころぼそく・おぼゆるぞや・さても・みちもりが・はかなきなさけに・みやこのうちを・さそはれいで・な
らはぬたびのそらに・おもむき・すでにふたとせを・おくらんずるに・いささかもおもひこめたるいろの・おはせざりつることこそ・
いつのよまでも・わすれがたけれなんと・かくみも(イいひつづけ身も)ただならず・さへなりたることを・よろ
こびて・みちもり三十になるまで・こといふものも・なかりつるに・さては・うきよのわすれがたみの・あらんずるにこ
そ・ただしかくいつとなき・なみのうへ・ふねのうちのすまひなれば・みみともならんときの・こころぐるしさをば・いかがはす
べきなんど・いひおきし・ことのはは・はかなかりける・かねごとかな・ありし六かの・あかつきを・かぎりとだ
にも・しりたらば・などのちのよと・ちぎらざるべき・あひそめし・そのよのちぎりさへ・いまはなかなかうらめし
くて・かのひかるげんじのたいしやうの・おぼろづくよのないしのかみ・こきでんの・ほそどのも・わがみのうへに・おもふぞや・
まどろめば・ゆめにみえ・さむれば・おもかげにたつぞとよ・されば・みみともなりて・のちをさなきものをそ
だておき・なきひとの・かたみに・みむほどに・おもひのかずは・まさるとも・なぐさむことは・よもあらじ・ながらへ
P430
たれば・おもはぬふしも・あるぞとよ・くさのかげにて・みむも・うかるべし・さればかかる・ついでに・
ひのなか・みづのそこへも・いりなばやと・おもひさだめて・あるぞとよ・かきおきたるふみをば・みやこへたてまつりたまへ・ご
せのことどもまをしたり・しやうぞくをば・いかならんひじりにも・たうでわが・ごせとふらひたまへ・なによりも・そこのなご
りこそ・いつのよまでも・わすれがたけれなんど・こしかたゆくすゑのことどもを・かきくどいてのたまへば・めのと
のにようばう・ひごろは・ひとのまゐつて・ものまをすときだにも・はかばかしう・ごへんじのなきひとの・こよひしも・かく
こしかた・ゆくすゑのことどもを・かきくどいてのたまふは・まことにひのなか・みづのそこへも・いりたまふべき・ひとやらんと・
かなしくて・まをしけるは・こんどいちのたににて・うたれたまひし・ひとびとの・きたのかたのおんなげき・いづれか・おろかに・さ
ふらふべき・されどもみなおんさまをこそ・かへさせたまひてさふらへ・六だう四しやうは・まちまちに・さふ
らふなれば・いづれのみちへか・おもむかせたまひて・さふらふらんに・ひとつみちへ・むまれあひ・まゐらつ
させ・たまはんことは・かたかるべし・なかにも・みもただならず・さへなりたるひとの・ししたるは・ことにつみ
ふかしとこそ・うけたまはりさふらへ・されば・みみともならせたまひてのち・をさなきひとを・そだておき・まゐらつ
させ・たまひて・なきひとの・おんかたみに・ごらんぜむに・それになほも・おんんこころのゆかずは・そのときこそ・さま
をもかへ・なきひとの・ごぼだいをも・とぶらひ・まゐらつさせ・たまはんずれ・たとひちいろのそこに・しづませたま
ふとも・ともにわらはを・ひきぐしてこそ・いらせたまはんずれなんど・やうやうに(イさまざまに)・かなしみければ・
きたのかた・あしうきこえぬとや・おもはれけん・まことはおもひのあまりにこそ・いひつれ・このよは・はるかに・ふけぬら
P431
ん・いざやねなんとのたまへば・めのとのにようばう・さりともと・うれしくて・おんそばに・よりふしたりけるが・
しばらく・まどろみたるまに・きたのかたやはらおきなほり・ふなばたへこそ・いでられけれ・まんまんたる・かいしやうなれ
ば・いづくをにしとは・しらねども・つきのいるさの・やまのはを・そなたやらむと・おもひやり・しづかに・ねんぶつし
たまへば・おきのしらすに・なくちどり・ともまよはすかと・おぼしきに・あまのとわたる・かぢのおと・かすかに
きこゆる・えいやごゑ・いとどあはれやまさるらん・なむさいはう・ごくらくせかいの・けうしゆみだによらい・あかでわかれし・
いもせのならひ・らいせにては・かならずひとつはちすと・かきくどき・なむととなふるこゑともに・なみのそこ
にぞ・いりたまふ・きさらぎ十三にち・いちのたにより・八しまへ・わたられける・あかつきがたのことなりければ・みなひとねいり
て・これをしらざりけるに・ならびのふねに・かぢとりの・ひとりふねこいでさふらひけるが・このよしをみたてまつつて・あはれあさま
し・あのおんふねに・にようばうのただいま・うみへいらせたまひぬるはと・まをすこゑに・めのとおどろき・そばをさぐり・たてまつ
れども・ましまさず・あれあれと・かなしみければ・そのときみなひと・おきあひふねをとどめ・うみにいりて・さがし
たてまつれども・ましまさず・さらでだに・はるのよは・ならひに・かすむものなれば・よものむらくも・うかれき
て・つきひきかくす・よはなれや・あはのなるとの・くせとして・みつしほ・ひくしほ・はやければ・おんぞもなみも・
しろくして・かづけどもかづけども・つきおぼろにて・みえざりけり・ややあつて・かづきあげ・たてまつりければ・ねり
いろのふたつぎぬに・しろきはかまをきたまへり・みぐしもはかまも・しほたれて・とりあげたれども・かひぞなき・めのとにようばう・
むなしきおんてに・とりつきたてまつつて・きみのちのなかに・わたらせたまひしを・とりあげいだき・そだて・まゐらせて
P432
より・このかた・かたときはなれ・まゐらすることも・さふらはず・みやこを・おんいでのときも・おいたるおやをふりすてて・
これまでおんともまをしたる・かひもなく・いかでかかかるうきめをば・みせたまひさふらふやらん・たとひぢやうごふにてわたら
せ・たまひさふらふとも・しやうあるおんこゑをも・ありしむかしのおんすがたをも・いま一ど・みせたまへと・やうやうに・か
なしみけれども・わづかにかよひし・いきもたえ・つひにことぎえ・はてさせたまひけり・いづくをさして・おちつくべ
しともおぼえず・さてしも・あるべきならねば・三ゐのきせながの・一りやうのこりたりけるに・おしまとめたてまつつ
て・またうみへかへしいれたてまつる・めのとのにようばう・こんどは・おくれじと・つづいて・いらむとしけるを・ひととりとどめ
ければ・ちからおよばず・ふなぞこに・たふれふし・をめきさけぶこと・なのめならず・せめておもひのあまりにや・
みづからかみを・はさみおとし・三ゐのおとうと・ちうなごんのりつし・ちうくわいにそらせたてまつり・なくなくかいをぞ・たもちける・
をとこにわかるる・をんなのさまをかふるは・つねのこと・みをなぐるまでのことは・ためしすくなきことどもなり・ちうしんは・
じくんにつかへず・ていぢよりやうふに・まみえずとも・かやうのことをや・まをすべき・このきたのかたとまをすは・ことうのぎやうぶ
きやうのりかたのおんむすめ・じやうせいもんゐんに・こさいしやうどのとぞ・まをしける・しかるを・ゑちぜんの三ゐみちもり・いまだそのころ・ちうぐう
のすけにて・さふらはれけるが・このにようばうを・一めみそめ・たてまつつて・おもひにこころをそめ・うたをよみ・ふみをつくし・
としつき・こひかなしまれけれども・なびくけしきも・なかりしかば・三ゐみとせとまをすに・いまをかぎりのふみをかきて・
としごろとりつたへたりける・にようばうにたうだりければ・ごしよへもちてまゐるほどに・をりふしこざいしやうどの・さとよりごしよへ・まゐ
られける・みちにてゆきあひたてまつつて・おんくるまのそばを・はしりすぐるやうにて・このふみを・くるまのうちへ・なげいれてぞ・しの
P433
びける・こざいしやうどの・ただいまこのふみを・くるまのうちへ・なげいれたるものは・いかなるものぞと・おんたづねありけれども・おんとも
のものどもも・みなしらぬよしをぞまをしける・こざいしやうどの・さすがこのふみを・くるまのうちに・おくにおよばねば・はかまのこし
に・はさみつつ・ごしよにまゐりさふらはれけるほどに・ところしもこそおほきに・にようゐんのごぜんにしも・このふみを
おとされたり・にようゐんこれを・ごらんじ・つけさせたまひて・ごしよちうのにようばうだちをめして・めづらしきものをこそ・もとめ
たれ・このふみのぬしは・たれなる・らんと・おほせければ・めんめんに・よろづのかみや・ほとけにかけて・みなしらぬよしをぞ・
まをされける・そのなかにも・こざいしやうどのばかりこそ・かほうちあかめ・そばむいて・しばしは・ものをもまをされ
ず・にようゐんかさねて・さていかにや・いかにと・おんたづねありければ・あのみちもりのと・ばかりぞまをされける・にようゐんも・
かねてより・そのことありとは・しろしめされけれども・ふみをひらいて・えいらんあるに・くんろのけぶりも・なつか
しく・ふでのたてども・ゆゑびよしあるさまにて・一しゆのうたをぞ・かかれたる
わがこひは・ほそだにがはのまるきばし・ふみかへされて・ぬるるそでかな・
にようゐんこれは・いまだあはぬをうらみたる・ふみなりあなこころつよや・などなびきたまはぬぞ・あまりにひとの・こころつよきも・
みをなきものと・なすなるものを・なかごろ・をののこまちと・きこえしは・みめかたち・ならびなく・こころざま・よ
にすぐれ・たりしかば・みるひと・きくひとの・こころをいたましめずと・いふことなし・されども・こころつよき・
なをやとりたりけむ・のちには・ひとのおもひのつもりとて・せきでらのほとりに・すまひして・ゆききのたみに・ものをこ
ひ・やどにくもらぬ・つきをば・なみだに・つゆに・うかべつつ・あめをもらさぬ・わざもなく・かぜをふせぐ・
P434
たよりもなし・のべのわかな・さはのねぜりを・つみてこそ・つゆのいのちは・ささへけれ・よにはかかるためしのある
ぞよと・はやなびきたまへ・みづからへんじせんとて・かたじけなくも・にようゐんよりごへんじありとかや
ただたのめ・ほそだにがはのまるきばし・ふみかへしては・おちざらめやは・
三ゐかたじけなくも・にようゐんよりたまはらせたまひて・なのめならず・ちようあいせられけるに・またこまつどののじなん・しん三ゐのちう
じやうすけもり・いまだそのころ・せうしやうにて・せちゑに・まゐられたりけるが・このにようばうを・一めみそめたてまつつて・おもひにこころを
そめ・うたをよみ・ふみをつくし・としつきこひかなしまれけれども・なびくけしきも・なかりしに・はやゑちぜんの三
ゐのうへに・なりたまひぬと・きこえしかば・すけもりのきたのかた・うきやうのだいぶのつぼねとて・ちうぐうのおんかたに・さぶらは
れけるが・このよしをつたへききたまひて・そねましきこころにや・一しゆのうたをぞ・おくられける
いかばかりきみなげくらんこころそめし・やまのもみぢを・ひとにをられて・
すけもりのへんじには
なにとげにひとのをりけるもみぢばに・こころうつして・おもひそめけむ・
これもなかなか・いうにやさしきためしにぞ・まをしつたへたる・みめはさいはひのはな・なれば・三ゐかたじけなくもにようゐんよりたまはら
せたまひて・こんどさいかいのたびのそらまでも・ひきぐしたてまつつて・つひにはおなじみちにおもむかれけるこそ・あはれなれ

平家物語(城方本・八坂系)
巻第十 P435
頸渡 1001
じゆえい三ねんきさらぎ七かのひつのくに・いちのたににて・うたれさせたまふ・へいしのくび・おなじき十かのひ・みやこへいる・ならびに・
ゑつちうのぜんじもりとしがくびも・みやこへのぼる・なかにもほん三みのちうしやうしげひらのきやうは・ひとり・いけどりに・せられたまひけり・
なかにも・こまつの・三みのちうしやうこれもりきやうの・きたのかたは・にしやまのふもと・だいがくじ・しやうぶだにのばうと・まをすところに・しのう
で・おはしけるが・三みのちうじやうといふひと・いけどりにせられて・みやこへ・いると・きこえしかば・いかさまにも・
このひと・のがれたまはじものをとてぞ・なかれける・ひとまゐつて・三みのちうじやうどのとは・ほん三みのちうじやうどのの・おんことにて
さふらふとまをしたりければ・さては・くびどものなかにもや・あるらんとてぞ・なかれける・そのころきやうちうに・のこりとどま
りたまへる・へいけのゆかりのひとびと・いつしか・けふ・われらがみのうへに・いかなるうきことをか・みきかむず
らんとて・やすきここちも・したまはず・おなじき十二にちに・へいしのくびおほぢをわたし・ごくもんにかけらるべし・なん
ど・ごさたありしかば・ほふわうこのこと・おほきに・おぼしめしわづらはせたまひて・しかるべき・くぎやうあまためして・おほせ
あはせられけり・なかにも・ほりかはのだいなごんただちかのきやうの・まをされけるは・およそ・この一もんは・せんてうの・おんときより・せきP436
りのしんとして・ひさしくてうかにつかうまつる・なかんづく・けいしやうのくび・おほぢをわたさるること・ためしなし・されば・のりより・よしつね
が・まをしじやう・あながち・ごきよようあるべからずと・まをされたりければ・ほふわう・このぎもつともとて・すでに・わたさるま
じかりしを・のりより・よしつね・つつしんで・まをされけるは・いのちをかろんじ・ぎをおもんずることも・かつは・ちよくせんの・
おもきがゆゑ・かつは・またおやの・くわいけいのはぢを・きよめんがためなり・まをすむねをごしよういんなからんに・おいては・
なにのいさみにか・てうてきを・ほろぼし・まゐらせさふらふべきと・まをされたりければ・ほふわうもちからおよばせたまはず・またわたさ
るべきにぞ・さだまりける・おなじき十二にちに・へいしのくび・おほぢをわたさる・ひごろみなれたてまつりし・きやうちうのじやうげ・
みななみゐて・そでをぞぬらしける・いはんやそのえんに・ふれ・たがひにおんをかうふり・あはれし・ひとびとの・こころのうち・おし
はかられて・あはれなり・さるほどに・こまつの三みのちうじやうこれもりの・さぶらひに・さいとう五・さいとう六は・六だいどのにつきたてまつ
つて・さふらひけるが・にしやまのふもと・だいがくじしやうぶだにのばうに・しのうでさふらひけるが・わがしゆのおんくびや・まし
ますと・けんぶつのひとの・なかに・まぎれて・みけるに・そのおんくびはなかりけれども・ひごろあひなれたてまつりし・ごいちもんの
くび・いくらもありければ・あまりにめもあてられず・いたはしくて・しきりになみだのすすみければ・ひとに・あやしめ
られじと・いそぎだいがくじに・かへりまゐりたり・きたのかた・さていかにやとのたまへば・さんさふらふ・こまつどののきんだちには・
びつちうのかみのとのの・おんくびばかりこそ・みえさせおはしましさふらへ・そのほかは・そんぢやうそれがし・たれがし・な
んど・まをしたりければ・きたのかた・それも・ひとのうへならばこそ・とてぞ・なかれける・さいとう六が・まをしけるは・
けんぶつのひとのなかに・まをしさふらひしは・こまつどののきんだちたちは・はりまの・三くさのてを・かためさせたまひて・さふら
P437
ひつるが・それもげんじにやぶられたまひて・しん三ゐどのや・しんせうしやうどのや・たんごのかみのとのは・はりまのたかさごのうら
より・おんふねにめして・さぬきの・八しまへ・わたらせおはしましさふらひぬ・びつちうのかみどのばかりこそ・一たにへ・かへらせ
たまひて・うたれさせ・おはしまして・さふらへと・まをしさふらふほどに・さて・こまつの三みのちうしやうどのの・おんことは・いか
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まをしてさふらひつれと・まをしたりければ・きたのかた・それもわれらがことをのみ・あさなゆふな・おもひたまふぞ・おんいたはり
とも・ならせたまひたるらむとて・なきたまへば・わかぎみ・ひめぎみ・さてそのおんいたはりは・なにごとのおんやまひぞと・か
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おはしけるが・あるよのあかつきがた・ねざめして・よ三びやうゑしげかげ・わらはいしどうまろが・おんまへちかうおんとのゐまをしてさふらひける
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たまふべしと・かきとどめ・おくには・一しゆのうたをぞ・かかれたるP438
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みにも・みよかしと・かやうにかきぞ・おくられける・よ三びやうゑおんふみたまはりて・よをひについでのぼるほどに・ほどな
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たまひけり・わかぎみひめぎみ・さてこのごへんじをば・なにとかまをしさふらふべき・きたのかた・ただともかうも・わごぜたちの・
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おぼしめされさふらふ・いそいでむかへ・とらせたまへなんどぞ・かかれたる・よ三ひやうゑ・ごへんじたまはりて・またよをひ
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八島院宣 1002
おなじき十四かに・ほん三みのちうしやうしげひらきやうをば・おほぢを・わたしたてまつる・どひのじらうさねひら・もくらんぢのひたたれに・ひ
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きこえし・さだながは・せきいにけんしやく・たいして・三みの・ちうじやうのかたへ・ゆきむかふ・ひごろは・なんともおもはれざりけ
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四こくの・ちりに・うづもれて・すうねんをふること・かつうは・てうかのおんだいじ・かつうは・ばうこくのもとゐなり・そもそもかの・しげ
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ともをしのぶこころざし・たちまち・九へのくわらくに・とうぜむか・すべからくはかのよりともが・まをさしむるぎに・まかせて・しざいせらるべ
しと・いへども・しんじ・はうけん・ないしどころ・三しゆのしんきを・だにも・みやこへ・かへしたてまつるものならば・かのしげひらの
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じゆえい三ねん二ぐわつ十五にち だいぜんのだいぶなりただがうけたまはつて
へいだいなごんどのへとぞ・あそばされたる
請文 1003
そののち・三みのちうじやうどののおんふみを・二ゐどのへたてまつる・ひらきてみたまへば・こんどしげひら・いちのたににて・いかにもまかり
なるべう・さふらひしみの・ひとり・いけどりに・せられてふたたびみやこへ・かへりのぼりて・こそさふらへ・ゐんぜんかくの
ごとし・しんじ・はうけん・ないしどころ・三しゆのしんぎを・だにも・ことゆゑなう・みやこへ・かへしまゐらつさせたまはば・
しげひらがいのち・たすかるべきにてさふらふなり・このむねをもつて・しかるべきやうに・ひとびとへ・まをさせたまふべしとぞ・P442
かかれたる・二ゐどの・このふみかいまいて・一もんのなかに・いでたまひ・これみたまへやひとびと・三みのちうじやうが・かた
よりかくこそ・まをしくだしたれ・なんのやうも・あるまじ・はやはや・そのみたから・みやこへ・かへし・まゐらつさせたま
ひて・三みのちうじやうを・いま一どわれに・みせたまへ・よにあらんと・おもふも・こどもを・おもふゆゑにこそとて・
ふししづみてぞ・なかれける・まことにもとぞ・おもはれける・へいけのひとびと・さてこのこといかがあるべきと・
ひやうぢやうあり・なかにも・へいだいなごんと・しんちうなごんの・まをされけるは・たとへば・きみのみよを・しろしめすも・
この三しゆのしんぎをもつて・さきとしたまへり・おほくの一もんを・しげひら一にんに・おぼしめしかへらるべきか・たとへまた・
このみたから・みやこへかへしまゐらつさせ・たまひたりとも・しげひらが・いのちたすからむこと・ふぢやうなりと・まをしあはれけれ
ば・ひとびと・このぎもつともと・どうじあはれければ・二ゐどの・ちからおよびたまはず・またひきかづきてぞ・なかれける・さる
にても・おんうけをば・まをさるべきにて・へいだいなごんときただきやう・うけたまはつて・おんうけのじやうを・まゐらせらる・はなかたおん
うけをたまはつて・みやこにのぼり・ゐんのごしよに・まゐり・だいぜんのだいぶにたてまつる・なりただこれをうけとりて・ごぜんにまゐり・とく
しんす・そのじやうにいはく
さんぬる・十五にちのゐんぜん・おなじき廿一にち・たうらい・つつしんで・うけたまはるところ・くだんのごとし・ただしこのおもむきをもつて・
ことのこころを・あんずるに・さんぬる七かのひ・せつしう・いちのたにのなぎさに・おいて・みちもりきやういげ・たうけすうはい・ちうせ
られをはんぬ・なんぞしげひら一にんが・くわんいうをよろこぶべきや・それわがきみは・こたかくらのゐんの・だい一のみこ・けい
ていのきみとして・おんゆづりを・うけ・ましまし・ございゐすでに・四ケねん・そのつつがなしと・いへどもとういほくてい・P443
みだりがはしく・たうを・むすんで・じゆらくのあひだ・かつうは・えうてい・ははぎさきのおんなさけ・もつともふかく・かつうは・くわいせき・とつ
みやのおんこころざし・あさからざるによつて・九しうに・みゆきしまします・くわんかうなからんに・おいては・三しゆのしんぎ・
いかでかぎよくたいを・はなたるべきや・それきみは・しんをもつて・ていとし・しんはきみをもつて・しんとす・しん
うちにうれへて・ていほかによろこばず・きみかみにうれふるときんば・しんしもにたのしまず・せんぞ・へいしやうぐんさだもり・さうまのまさかどを・
つゐたうし・とう八ケこくを・うちなびけしより・このかた・ししそんそんにつたへて・ながく・きんけつてうかを・まもりたてまつる・
なかんづく・だいじやうだいじんにふだうじやうかい・さんぬる・はうげん・へいぢ・りやうどのか〔つ〕せん・ぐめいを・かろんじ・ちよくめいを・おもんぜしこと・ひとへ
に・きみのために・つかへて・まさに・みのためにせず・そもそもかのひやうゑのすけよりともと・いつぱ・さんぬる・へいぢぐわんねん・十二
ぐわつに・ちちよしともが・むほんによつて・しきりに・つゐばつすべきよし・おほせくださると・いへども・こにふだうしやうごく・じひ
のあまりに・まをしなだむるところなり・いつしかむかしのはうおんをわすれて・いまこうおんをぞんぜず・たちまちるにんのみを・ひるがへし・きよう
たうのべつに・あひくははる・これおろかなる・しりよのみじかきところなり・たちまちしんだうの・てんばつをまねき・いよいよ・はいせきの・ちんめつを・
ごせんものか・かつうは・こうしんちやくちやく・きみすたいのほうこう・あさからず・かつうは・わがちちじやうかいが・たびたびのほうこうを・おぼ
しめしわすれずんば・一ゐんかたじけなくも・さんしうへ・ごかうなるべきものか・ここにしんら・ゐんぜんのむねを・うけたまはつて・四こく・
九ごくのぐんびやうども・くものごとく・あつまり・かすみのごとく・たなびいて・ならびに・ふるさとにかへつて・かさねて・くわい
けいのはぢを・きよめんとぞんず・もししからずんば・三しゆのしんぎ・なみにひかれて・きかい・かうらい・てんぢく・しんたんに・
いたらむか・かなしきかな・にんわう八十一だいに・あひあたつて・いたましいかな・わがてう・よよの・おんたからを・なみのそこの・みP444
くづと・しづめんことを・しんたいに・まどつて・かくのごとく・あんないを・けいするところなり・このおもむきをもつて
しかるべきやうに・もらし・そうもんせしめたまへ・せいくわうせいきようきんげん・じう一ゐさきのないだいじんたひらのむねもり・とんしゆごんじやう
とぞかかれたる
内裏女房 1004
また・三みのさぶらひに・むくうまのぜう・まさときと・まをすものあり・あるとき・八でうほりかはの・みだうにまゐり・しゆごの・ぶし
に・むかつて・まをしけるは・これは三みのちうじやうどのの・ねんらい・めしつかはれし・さぶらひに・むくうまのぜうまさときと・まをすものに
てさふらふなり・みやこをおんいでのときも・もつともおんともつかまつるべう・ぞんじさふらひつれども・八でうのにようゐんに・けんざんのみにてさふらふ・うへ
ゆみやのもと・すゑを・だにもぞんじさふらはねば・いとままをして・まかりとどまりさふらふ・まことやらん・三みのちうじやうどのの・みやこに
わたらせたまはんも・けふあすばかりと・やらんうけたまはりさふらふ・あはれおんゆるされを・かうぶつて・いま一ど・おんめに
かかりさふらはば・やとまをしたりければ・しゆごのぶしども・こしのかたなをだにも・おかれさふらはば・やすきおんことさふらふとぞ
まをしける・まさときさらばとて・こしのかたなをば・どひのじらうに・あづけおき・三みのちうじやうどのの・げんざんにいる・三み・いか
に・あれは・まさときか・これへこれへと・のたまへば・まさとき・おそばちかくまゐりて・こしかたゆくすゑのことどもを・よもす
がら・かたりぞ・あかさせたまひける・あけければ・まさとき・いとままをして・まかりいづ・三みのちうじやう・さても・いつぞや・なんぢし
てまをしかよはせし・ふみのぬしは・たうじいづかた・にか・ましますらむなど・のたまへばゐんのごしよに・おんわたりさふらふとぞまをしP445
ける・三みのちうじやう・せめてふみをたてまつつて・へんじをなりとも・みてなぐさまばやと・おもふはいかがあるべきと・
のたまへば・まさときやすき・おんことさふらふとぞまをしける・三みのちうじやう・なのめならず・よろこびたまひて・やがて・おんふみ・あそばし
て・まさときに・たぶ・まさときたまはつて・いでければ・しゆごのぶしども・あれは・いづかたへの・おんふみにてさふらふやらん
と・あやしめければ・三みのちうじやう・くるしかるまじ・そのふみみせよとて・どひのじらうに・みせられけり・
さねひら・ひらいてみ・ややこれは・にようばうのおんかたへの・おんふみにてさふらふなり・くるしからじとて・いだしける・まさ
とき・しゆくしよにかへり・そのひ一にちを・まちくらし・やがてよにいつて・ゐんのごしよにまゐり・くものうへのしづかに・なるほどを・
うかがひて・くだんのにようばうの・すまれけるつぼねの・やかきのへんに・たたずんでききければ・このにようばうも・三みのちうじやう
どののこと・のたまひいだして・なきたまひければ・まさときこのひとも・いまだ・三みのちうじやうどののおんことをば・おぼしめしわすれざりけ
りと・うれしくおもひ・つまどをほとほとと・たたけば・うちよりたそとこたふ・これは三みのちうじやうどのの・お
つかひに・まさときと・まをせば・あけられたり・このおんふみをたてまつる・ひらいてみたまへば・一しゆのうたをぞかかれたる・
なみだがはうきなをながすみなりとも・いま一たびのあふせともがな・
やがてごへんじ・あそばして・まさときにたぶ・まさときたまはつて・八でうほりかはのみだうに・まゐり三みのちうじやうどのに・たてまつ
る・ひらいてみたまへば・これも一しゆのうたをぞ・かかれたる
きみゆゑにわれもうきなをながすとも・そこのみくづとともにきえなん・
三みのちうじやう・このごへんじを・みたまひてぞ・おもひをなぐさめ・たまひける・そののち・三みのちうじやう・しゆごのぶしP446
に・むかつて・のたまひけるは・いま一どはうおんに・あづからばやとおもふは・いかがあるべきと・のたまへば・しゆごのぶ
しども・なにごとにてさふらふやらんと・まをしたりければ・三みのちうじやう・べちのやうはなし・きのふのふみのぬしに・たいめん
して・ごせのことどもをも・いひおかばやと・おもふはいかがあるべきとのたまへば・しゆごのぶしども・やすき・おん
ことさふらふ・とぞまをしける・三みのちうじやう・なのめならずよろこびて・まさときに・このよしのたまへば・まさときかひがひしくも・うしぐるま・
きよげに・さたし・ゐんのごしよにまゐつて・このよし・まをしたりければ・このにようばうも・あまりに・おもはれしことなれ
ば・なのめならずよろこびたまひて・やがていでんと・したまひけるを・かたへのにようばうたち・あなあさまし・それには・
ぶしどもが・いくらもありて・みぐるし・かんなる・ものをなんど・のたまひあはれければ・このにようばう・いまなら
では・またいつのよにかは・みゆべきとて・いそぎ・おんくるまにめし・八でうほりかはのみだうに・おはして・あんないを・
まをされたりければ・三みのちうじやうこれには・ぶしどもが・いくらもありて・あまりに・みぐるしうさふらへば・
くるまよりは・な・おりられさふらひそとて・もんのほとりに・くるまをたてて・はるかに・よふけ・ひと・しづまつてのち・三
みのちうじやう・くるまにいであひ・たいめんしたまひて・こしかたゆくすゑのことどもを・よもすがらかたりぞ・あかさせたまひける・
しののめやうやうあけゆけば・くるまのながえをめぐらして・もとのみちへぞ・かへられける・いづくをやどとて・いそぐら
ん・またいつまでとてか・ちぎりけん・しのぶに・たへぬなみだのいろ・くるまのよそまで・もれぬべし・きぬぎぬにまさとき
を・つかひにて・一しゆのうたをぞ・おくられける
あふこともつゆのいのちももろともに・こよひばかりやかぎりならまし・(イ限りなるらん)P447
このにようばうすみすり・ふでそめて・ごへんじをかかれける・がみづから・ひすゐのかんざしを・もとゆひぎはより・
おしきつて・へんじに・そへてぞおくられける・まさときごへんじ・たまはつて・また八でうほりかはの・みだうにまゐり・三み
のちうじやうどのにたてまつる・ちうじやうひらいてみたまへば・これも一しゆのうたをぞかかれたる
あふことの(イことも)かぎりときけばつゆのみの・きみよりさきにきえぬべきかな・
三みのちうじやうこのかんざしを・みたまひて・ひごろのこころざしの・わりなきいろの・あらはれて・たへぬおもひの・あま
りには・こゑにもいでて・さけぶほどにぞ・おもはれける・やがて・このにようばう・ゐんのごしよをば・まぎれいで・
しやうねん廿三とまをすには・はなのたもとをひきかへて・すみぞめのそでに・やつれはて・ひがしやまさうりんじのかたほとりにぞ・すま
れける・このにようばうとまをすはをはらの・みんぶにふだうしんはんのおんむすめ・さゑもんのかみの・とのとぞ・まをしける
重衡の戒文 1005
さるほどに・三みのちうじやうしげひらのきやうは・おんうけのじやうたうらいのよしをききたまひて・さればこそ・いかにも・かなふまじ
かりつるものを・さこそは・みやこのひとびとも・また一もんのかたがたも・これほどまで・しげひらをいふかなひなきものと・
おもひたまふらめと・こうくわいし・たまへども・かひぞなき・あるとき・三みのちうじやう・どひのじらうをめして・しゆつけをせ
ばやとおもふは・いかがあるべきと・のたまひければ・どひのじらう・たいしやうぐんに・このよしをまをす・のりより・よしつね・ゐん
へ・このよしを・そうしまをされたりければ・ほうわうかまくらのひやうゑのすけに・みせでは・いかがあるべきとて・おんゆるさP448
れも・なかりけり・あるときまた・三みのちうじやう・どひのじらうをめして・しゆつけは・ゆるされねばちからおよばず・ひ
ごろげんざんにいれたてまつつし・しやうにんの・おんめにかかり・ごせのことどもをも・まをしおかばやと・おもふは・いかがあるべきと・
のたまへば・どひのじらう・ひじりは・たれさふらふやらん・くろだにの・ほうねんばうとぞのたまひける・どひのじらう・ややさて・
そのしやうにんの・おんことならば・さねひらも・ずゐぶん・しんじまをしてさふらふ・ごたいめん・やすきおんことさふらふとて・このよしを・ひがしやま
の・ごばうへ・まをしおくりたりければ・しやうにん・そのひとならば・いそぎゆきて・たいめんせんとて・八でうほりかはのみだうに・お
はしたり三みのちうじやう・やがて・いであひたいめんしたまひて・なみだにむせびて・しばしは・ものをもまをされず・ややあつて・三
みのちうじやうなみだを・おさへて・まをされけるは・こんどしげひら・いちのたににていかにも・まかりなるべうさふらひしみの・ひと
りいけどりにせられて・きやうゐなか・ひきしろはれ・はぢをさらしさふらふこと・おもへば・なげきのなかのよろこびなり・そのゆゑはたう
じみなひとの・しやうじんのによらいとのみ・あがめたてまつる・しやうにんにいきて・ふたたびおんめに・かかりさふらふこと・みのさいはひとぞんじさふらふ・さても・
ごしやうをば・なにとかつかまつりさふらふべき・よにさふらひしときは・てうにつかへ・みをたて・せいろにたづさはり・こんじやう
の・えいぐわにのみほこりて・たうらいのしようちんを・かつぞんぜず・いはんやうんつきよ・みだれてのちは・ここにあらそひ・かしこ
にたたかひ・いかにもして・かたきをほろぼし・みをたすけむと・つかまつりさふらひしほどに・あくしんいよいよさへぎつて・ぜんしんかつてす
すまず・つぎに・なんと・はめつのことをば・みなひとの・しげひら一にんが・とがとのみまをしさふらへば・しやうにんもさだめてさぞおぼ
しめされさふらふらん・おやのめいにしたがふならひ・しゆとのあくぎやうを・しづめんがために・まかりむかつてさふらひしに・あくたうおほ
きそのなかに・いかなるきようとの・なかよりか・ひをいだしさふらひけむ・おほくのがらんを・ほろぼすこと・まつたくこれを・ほんP449
いとぞんぜねども・すゑのつゆ・もとのしづくとなるためし・せめ一じんにきするならひ・しげひら一にんが・とがにて・ながく
あびだいせうのそこに・しづまんこと・ただいまなり・つらつら・一しやうのていを・あんずるに・あくごふは・しゆみよりもなほたかく・ぜん
こんは・みぢんばかりも・そのたくはへも・さふらはず・かかるあくにんも・ざいしやうかるみぬべき・はうはふやさふらふ・しめさせたまへ
と・なみだもせきあへず・まをされたりければ・しやうにんも・あはれにて・なみだにむせびて・しばしはものものたまはず・やや
あつて・しやうにん・なみだをおさへて・のたまひけるは・まことに・しゆつりのえうだう・むなしうせさせおはしまさんこと・おんなげき
の・うちのおんなげきなるべし・しかりとは・まをせども・一ねんぜんしんを・おこさせたまはばむりやうのざいしやうも・せうめつし・一た
び・ぼだいしんを・おこさせたまはば・三ぜのしよぶつも・さだめてずゐきしたまふべし・およそしゆつりのえうだう・まちまちなりとは
まをせども・まつせぢよくらんのきに・おいては・しやうみやうねんぶつをもつて・さきとす・こころざしを九ほんにむけぎやうを・六じにつづめた
り・されば・ぐちあんどんのものも・たもちやすく・はかいぢうざいのともがらも・となふるに・たよりあり・一ねんなれども・しやうごふと
なり・ないし十ねんわうじやうのいんとなる・いはんやねんねんに・おこたらず・ときどきに・わすれさせたまはずは・このたび・くゐきのさかいを・
いでましまし・あんやうふたいの・はうどに・いたらせたまはんおんこと・なんのおんうたがひか・さふらふべきと・のたまひければ・三み
のちうじやうどの・なのめならず・よろこびたまひて・十ねんうけたまひけり・三みのちうじやう・まをされけるは・しゆつけはゆるされ
さふらはねば・ちからおよびさふらはず・いただきばかりに・かみそりあて・かいさづけたまへと・まをされたりければ・しやうにん・やすき
おんことさふらふとて・いただきばかりに・かみそりあて・かい・さづけたてまつらる・そののち三みのちうじやうの・としごろしつして・あそばれた
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たまへられて・さふらひしを・しげひらに・あづけおかれてさふらふ・あひかまへて・このすずりひとにたばせたまはで・しやうにんの・おんめの・かよ
はむところに・おかせたまひて・ごらんぜられむたびに・おぼしめしいだして・ねんぶつまをし・しげひらがごせ・とぶらうて・た
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ほうもん・ちやうもんつかまつりたることこそ・なによりも・うれしけれとて・みなずゐきのなみだをぞ・ながしける・あけければ・しやう
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あてて・なくなくばうへぞ・かへられける
重衡の海道くだり 1006
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へ・かへりのぼりたまふだにも・こころうきに・いつしかまた・あづまぢはるかに・おもむきたまひけん・こころのうち・おしはから
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こ・せみまるの・せきのふもとにすてられて・つねはこころをすまし・びはをたんじたまひしに・はくがの三みと・いつしひと・
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しゆくしたまへり・じじう三みの・ちうじやうを・みつけたてまつつて・こはさらに・うつつとも・おぼえさふらはぬものかな・ひごろ
はかかるべき・おんありさまに・みなしたてまつるべしとは・つゆ・おもひこそ・よりさふらはざりしかとて・一しゆ
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あづまぢやはにふのこやのいぶせさに・ふるさといかにこひしかるらん・
三みのちうじやう・かぢはらをめして・あれはいかにと・のたまひければ・かぢはらかしこまつてさんさふらふ・あれはやしまのおほいとの
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じんの・うたひはじめたまひけん・あしがらのやまを・うちこえて・ひかずやうやうかさなれば・三みかまくらへこそ・つ
きたまへ
千手の前 1007
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おんまへにさふらひけるさぶらひども・あつぱれたいしやうぐんやとて・みなそでをぞ・ぬらしける・されども・このひとは・ならをほろぼし・
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あづけらる・そのてい・めいどにて・ざいにんどもが・なぬかなぬかに・十わうのてへ・わたさるらんも・これには・すぎじとぞP455
みえし・かののすけは・おなじあづまのぶしながら・よろづに・なさけあるものにて・三みのちうじやうどのを・やうやうに・も
てなしたてまつる・あるとき・ゆどのしつらひ・みゆひかせたてまつる・三みのちうじやう・かつうはうれしうも・おもはれけり・かつうは
また・かやうに・みをきよめて・ちかう・きらるることもや・あらんずらんと・おもはれけるに・さはなくて・よはひ・
二十ばかりなる・にようばうの・いろあはひ・まことに・うつくしかりけるが・めゆひのかたびらに・しろき・ゆまきし
て・ゆどののと・おしあけて・まゐりたり・三みのちうじやう・あれは・いかにとのたまへば・これはひやうゑのすけどのより・
おんあかに・まゐらせ・られてさふらふとぞ・まをしける・ややあつて・また十四五ばかりなる・めのわらはの・しろきこそで・
うちかづき・たりけるが・はんざうだらひに・くしそへて・もつて・まゐりたり・二にん・かいしやくしたてまつつつて・みゆ・
ひかせたてまつり・かみあらひなんどして・あがられけり・このにようばう・かへるとて・なにごとにても・おぼしめされん
ずる・おんことをば・うけたまはつて・まをせとこそ・ひやうゑのすけどのより・さふらひつれと・まをしたりければ・三みのちうじやう
の・ごへんじには・しげひらこんじやうに・一にんのこ・なければ・なにごとをか・おもふべき・ただしちかう・きらるることも
や・あらんずらん・かみぞ・そりたきとぞ・のたまひける・このにようばう・かへりまゐつて・このよし・まをしたりければ・ひやう
ゑのすけ・それおもひも・よらぬことなり・そのゆゑは・よりともがおやのかたき・とは・いひながら・てうのをんできと・なれる
ひとを・わたくしにてはおもひよらずとぞ・のたまひける・そののち・三みのちうじやう・しゆごのぶしに・むかつてのたまひけるは・
さてもありつるをんなは・いうに・いたいけしたるものかな・いかなるものぞ・なをばなにと・いふやらんと・のたまへば・
かののすけ・さんさふらふあれは・きせがはのちやうじやが・むすめにてさふらふが・みめかたち・ならびなく・こころざま・よにすP456
ぐれ・たりしによつて・この三四ねんがあひだ・ひやうゑのすけどのに・めしつかはれさふらふなをば・せんじゆのまへと・まをしさぶらふなり
とぞ・まをしける・そののちひやうゑのすけ・このよしをききたまひて・あるとき千じゆのまへを・はなやかに・いでたたせて・三みのちうじやう
の・かたへつかはさる・そのくれほどに・しもあめすこしふつて・ものあはれなる・をりふし・せんじゆのまへ・びは・こと
もたせてまゐつたり・かののすけも・おとなしき・いへのこ・らうどう・十よにん・ひきぐして・おそば・ちかうまゐり・
三みのちうじやうどのに・さけをすすめたてまつる・せんじゆのまへ・しやくをとる・三みのちうじやう・すこしうけて・いときようも・な
げに・みえられければ・かののすけ・まをしけるは・よくよくおんみやづかへつかまつれ・けたいにて・よりともうらむなとの・おほせ
を・まかりかうぶつてさふらへば・むねもちが・こころのおよばんほどは・おんみやづかへつかまつるべし・それそれ・やごぜん・なににて
も・一せいまをして・さけすすめたてまつりたまへと・まをしければ・せんじゆのまへ・しやくさしおき・らきちよういたる・なさけなきことを・
きふに・ねたむといふ・らうえいをぞ・したりける・三みのちうじやう・このらうえい・せんひとをば・きたのの・てんじんの・ひび
に三どかけつて・まもらんとの・おんちかひ・わたらせたまふなる・されども・しげしら・こんじやうは・かくすてられたてまつり
ぬ・いまはじよいんしても・なににかは・せんさりながら・ざいしやう・かろみぬべきことあらば・なびきたてまつるべしとのたまへ
ば・せんじゆのまへ・しづめて・じふあくといふとも・なほいんぜふすといふ・らうえいして・ごくらくねがはんひとは・みなみだ
のみやうがうを・となふべしといふ・いまやうを・二三どうたひ・すましたりければ・三みのちうじやう・そのとき・さかづきかたぶ
けらる・三みのちうじやうのさかづきを・せんじゆのまへにたぶ・せんじゆのまへ・たまはつて・かののすけにさす・かののすけが・
のみける・とき・せんじゆのまへ・ことをぞ・ひきすましたる・三みのちうじやう・あなおもしろや・ふつうには・このがくをば・P457
五じやうらくとこそ・まをせども・しげひらが・いまのこころには・ごしやうらくとこそ・くわんずべけれ・さらば・わうじやうのきふを・ひ
かんと・たはぶれたまひ・びはを・とり・てんじゆを・ねぢ・わうじやうのきふを・ひきぞ・すまされたる・三みのちうじやう・
びは・ひきならし・ともしびくらうしては・すかうぐしが・なんだ・よふかうしては・四めんそかのこゑといふ・らうえいをぞ・
したまひたる・このしのこころは・むかし・かんのかうそと・そのかううと・くらゐをあらそひ・八ケねんがあひだに・か〔つ〕せんす
ること七十よど・たたかひごとには・かううかちぬ・されどもつひに・かううまけて・ほろびしとき・ぐしといへるきさきに・なごり
を・をしまれたりしこころなり・いとやさしうぞ・きこえし・三みのちうじやう・これはこのよの・おもひでなるべし・なに
ごとにても・いま一せいと・のたまへば・せんじゆのまへ・またしづめて・一じゆのかげに・やどりあひ・一かのながれを・むす
ぶも・これみな・ぜんぜのちぎりなりといふ・しらびやうしを・二三どうたひ・すまし・たりければ・三みのちうじやうの・
おんことは・なかなかまをすにおよばず・かののすけいげの・ぶしどもも・みな・かんるゐをぞながしける・三みのちうじやう・あなおも
はずや・かかる・あづまのおくにも・いうに・やさしき・をんなのあるにこそとて・なごり・をしげにぞ・みえられ
ける・あけければ・このにようばうかへりまゐりたり・をりふし・ひやうゑのすけどのは・ぢぶつだうに・ほけきやうよみて・おはしけるが・
せんじゆがかへりまゐりたるよしを・ききたまひて・わうよりともは・せんじゆに・おもしろくも・ちうじんをば・したりつる・
ものかなと・のたまへば・さいゐんの・すけちかよし・おんまへちかう・ものかいて・さふらひけるが・ふでさしおき・こは・なに
ごとにて・さふらふやらんと・まをしたりければ・ひやうゑのすけ・へいけは・よよのかじん・さいじんと・きくに・あはせて・こよ
ひ・よもすがら・たちききつるに・三みのちうじやうの・びはのばちおと・らうえいのきよく・まことにおもしろかりつる・ものかなP458
と・のたまへば・ちかよしさんさふらふ・へいけは・よよのかじん・さいじんたるうへ・ひととせこまつのだいふを・はじめたてまつつて・この
ひとびとを・はなにたとへて・さふらひしに・なかにも・このしげひらのきやうをば・ぼたんのはなにこそ・たとへて・さふらひしか・
たれもゆふべ・うけたまはるべうさふらひつるを・いささかまぎるることの・さふらひて・うけたまはらずさふらふ・こののちは・つねに・たちきく
べしとぞ・まをしける・そののち・ひやうゑのすけ・三みのちうじやうの・びはの・ばちおと・くちずさび・つねはおもしろげに・かんじたま
へば・せんじゆのまへは・なかなかに・ものおもひとぞ・なりにける
横笛 1008
なかにも・こまつの三みのちうじやう・これもりのきやうは・みがらは・やしまにありながら・こころは・みやこへのみぞ・かよはれける・
ふるさとに・とどめおきし・をさなきものどもを・いま一ど・みもし・みえばやとは・おもはれけれども・さるべきたよりも・
なかりければ・よ三びやうゑしげかげ・わらはいしどうまるは・ふねにこころえたればとて・とねりたけさと・かれら三にんばかりを・めし
ぐして・じゆえい三ねん・三ぐわつ十五にちのよの・あかつきがた・やしまのたちをば・しのびつつ・まぎれいでさせ・たまひて・
あはのくに・ゆふきのうらより・ふねにのつてぞ・いでられける・なるとのおきを・おしわたり・わか・ふきあげ・そとほりひめの
かみと・あらはれたまひけん・たまつしまのみやうじん・にちぜんこくげんの・おまへのなぎさを・こぎすぎて・きいのみなとにこそつきたまへ・
これよりうらづたひ・しまづたひして・みやこへのぼらばやとは・おもはれけれども・をぢほん三みのちうじやう・しげひらきやうの一
にん・いけどりに・せられて・きやうゐなか・ひきしろはれ・うきはぢを・さらし・たまふだにも・こころうきに・またこれもりさP459
へ・とらへからめられて・ちちのかばねにちを・あやさんことも・こころうければとて・みやこへとはちたび・こころはすすまれ
けれども・こころにこころを・からかひて・それより・かうやのおやまに・のぼり・しりたるひじりを・たづねたまふ・このひじりとまをす
は・さんでうの・さいとうさゑもんのたいふ・もちよりがこに・さいとうたきぐち・ときよりとて・もとは・こまつどのに・さふらひけるが・
十三のとし・ほんじよへまゐりたる・けんれいもんゐんのざふしに・よこぶえといふをんなあり・たきぐち・かれに・さいあいして・かよひけ
るよし・きこえしかば・ちちのもちより・このよしを・ききて・あるときにたきぐちを・ようでいひけるは・なんぢ一にん・もちぬれば・
いかならんひとの・えんにもなし・しゆつしなんどの・たよりにも・せさせんとこそ・おもひしに・かかるいふかひ
なき・よこぶえとかやに・あひぐしたんなり・なんぢこのこと・ふけうの・いたりなるべしなんど・やうやうにいさめければ・たき
ぐちおもひけるは・さいわうぼと・いつしものも・むかしはありていまはなし・またとうばうさくと・きこえしも・なにのみ・きい
てめには・みず・らうせうふぢやうのさかひは・せきくわのひかりに・ことならず・たとへひと・ぢやうみやうを・たもつといへども・七十八十を
ば・すごさず・そのあひだに・ひとのみの・さかんなることは・わづかに・廿よねんを・かぎれり・いくほどならぬ・よのなかに・
おもはしきものを・みんとすれば・おやのめいを・そむくににたり・またおやのめいに・したがはんとすれば・をんなのこころむざん
なり・ゆめまぼろしの・よのなかに・みにくきものを・へんしもみて・なににかはせん・しかじぜんちしきなり・うきよ
を・いとひまことのみちに・いりなんには・とて・たきぐち十九にて・もとどりきり・さがのおく・わうじやうゐんなる
ところに・ねんぶつしてぞ・ゐたりける・よこぶえ・このよしをききて・われをこそ・すてめ・さまを・かへけんことのむざん
さよ・たとへさまを・かふるとも・などみづからに・このよし・かくとは・しらせざりけるぞや・たとへひとこそ・こころP460
づよくとも・いま一どたづねて・うらみばやとおもひ・あるくれがたに・だいりをば・しのびつつ・まぎれいで・さがのかたへ
ぞ・あこがれゆく・すゑのまつやまなみこさば・うらみむとこそは・おもひしに・あふさかやまの・さねかづら・などく
るひとの・なかるらん・ころはきさらぎ・十かあまりの・ことなれば・うめづのさとのはるかぜに・よそのにほひもなつ
かしく・おほゐがはのつきかげは・かすみにこめて・おぼろなり・ひとかたならぬ・あはれさを・たれゆゑと・こそ・おもひけ
め・わうじやうゐんとは・ききつれども・さだかに・いづくのばうとも・しらざれば・このも・かのもに・たたずんで・
たづねかぬるぞ・むざんなる・ここに・すみあらしたる・そうばうに・ねんじゆのこゑの・しけるを・よこぶえ・たきぐちが・こゑに
ききなして・ぐしたりける・をんなをいれて・いはせけるは・さまのかはりて・おはするなるを・みたてまつらむ
ために・よこぶえこそ・これまでまゐりて・さふらへと・いひいれたりければ・たきぐち・むねうちさわぎ・あさましさに・しやうじの
ひまより・みければ・ねくたれがみの・たえまより・なみだのつゆぞ・ところせく・こよひ・よもすがら・
ねざりけりと・おぼえて・おもやせたる・けいき・たづねかねたる・ありさま・まことにみるも・いたはしく
て・いかなる・だうしんじやなりとも・こころよわくも・なりつべし・たきぐち・やがて・ひとをいだして・これには・さや
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たきぐちにふだう・あるじのそうに・むかつて・まをしけるは・これもよに・しづかなるところにて・ねんぶつに・しやうげは・さふらはね
ども・あかでわかれし・をんなに・すまひを・みえて・さふらへば・たとへ一どこそ・さふらふとも・なほも・したふこと・あらば・
さだめて・こころもはたらきぬべし・さらばいとままをしてとて・わうじやうゐんをば・なくなくたちいで・それよりも・かうやのおやまに・P461
のぼり・ほふどうゐん・なしのばうなるところに・おこなひすましてぞ・ゐたりける・よこぶえも・さてしも・あるべきならねば・みやこ
にかへり・さまをかへ・ならの・ほつけじに・おこなふよし・きこえしか・ばたきぐちにふだう・このよしを・つたへききて・なのめ
ならずよろこび・かうやのおやまより・一しゆのうたをぞ・おくりける
そるまではうらみしかどもあづさゆみ・まことのみちにいるぞうれしき・
よこぶえが・へんじには
そるとてもなにかうらみんあづさゆみ・ひきとどむべきこころならねば・
よこぶえは・そのおもひのつもりにや・ほどなう・はかなく・なりにけり・たきぐちにふだう・いよいよおこなひ・すまして
ぞ・ゐたりける・ちちもふけうを・ゆるしけり・したしきひとは・かうやの・おやまの・ひじりのごばうとて・もてな
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みやこにありしときは・ほいに・たてゑぼし・えもんを・つくろひ・びんを・なで・さしも・はなやかなりしをとこぞかし・
しゆつけののちは・けふぞ・はじめて・みたまひける・いまだ・卅に・だにも・ならぬが・らうそうすがたに・やせお
とろへ・こきすみぞめに・おなじけさ・かうのけぶりに・しみかをる・さかしうも・おこなひいりたる・だうしんじや・うらやましくぞ・
おもはれける・しんの七けんが・ちくりんじ・かんの四かうが・こもりけん・しやうざんごもりの・すまひも・これには・すぎじとぞみ
えしP462
高野の巻 1009
そののち・たきぐちにふだう・三みのちうじやうを・みたてまつつて・こはさらに・うつつとも・おぼえさふらはぬ・ものかな・ひごろは・
さぬきの・やしまに・とこそ・つたへうけたまはりつるに・ただいま・なんとして・これまでは・つたはらせ・おはしまし
たるやらんと・まをしたりければ・三みのちうじやう・さればとよ・みやこをば・ひとなみなみに・まぎれいで・さいこくの
かたまでは・おちゆきつれども・おほかたの・うらめしさも・さることにて・ふるさとに・とどめおきし・をさなきものどもの・
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ねば・いとどこころも・とどまらずして・やしまのたちをば・しのびつつ・まぎれいで・これまで・まよひきたれるなり・
さればかかる・ついでに・ひのなか・みづのそこへも・いりなばやと・おもひさだめてあるぞとよ・またくまのへ・まゐら
んと・おもふしゆくぐわんもありと・のたまひも・あへず・なみだにむせびたまへば・たきぐちにふだうまをしけるは・うきよのなかの・あり
さまは・とても・かくても・さふらひなん・ただながきよの・やみこそ・こころうくさふらへとぞ・まをしける・やがて・たき
ぐちにふだうを・せんだちにて・だうだうじゆんれいしたまひつつ・おくのゐんにまゐり・いはむろの・やうを・をがみ・たまふに・こころもこと
ばも・およばれず・むかし・えんぎのせいだい・ごむさうの・おんつげあつて・ひはだいろの・ぎよいを・このおやまへ・おくらせたま
ひて・ちよくしちうなごんすけずみのきやう・はんにやじのそうじやう・くわんげん・二にんこのおやまへ・まゐらせたまひ・おくのゐんにまゐり・いはむろのP463
みとおしひらき・おんころもを・きせたてまつらんと・したまふに・きりあつく・へだたつて・だいし・をがまれさせ・
たまはず・ときにそうじやう・ふかくしうるゐ・したまひて・われひぼの・たいないを・いでて・ししやうのしつに・いつしより・
このかたいまだ・じふぢうきんかいを・ぽんせず・されば・などか・をがまれさせ・たまはざるべき・とて・五たいを・
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るを・そり・おろしたてまつつて・ぎよいを・きせたてまつらせ・たまひけり・かのみでし・いしやまの・ないぐしゆんいうの・い
まだそのころ・どうぎやうにて・ぐぶせられ・たりけるが・これもだいしを・をがみたてまつらずして・ふかくなみだに・
しづんで・おはしけるを・そうじやう・かのてをとつて・だいしのおんひざのほどに・おしあてたまへば・いぎやうくんじて・
一ごうせず・すなはち・いしやまのしやうげうに・とどまつて・いまにありとぞうけたまはる・だいし・みかどの・ごへんじに・のたま
はく・われむかし・さつたに・あうて・まのあたり・ことごとく・いんみやうを・つたへき・むひの・せいぐわんを・おこして・へんち
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には・すぎじとぞ・みえし・かうやさんは・ていじやうをさつて・二はくり・きやうりをはなれて・むにんじやう・せいらん・こずゑを・なら
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たり・ごにふぢやうは・しようわ二ねん・三ぐわつ廿一にち・とらの一てんのことなれば・すぎにしかたも・三百よさい・いま五十六
おく・七千万ざいののち・じそんのしゆつせ・三ゑのあかつきを・またせたまふらん・ひさしさよ
維盛の出家 1010
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らぬことこそ・かなしけれとて・なみだぐみたまふぞ・あはれなる・そのよは・三みのちうじやう・たきぐちにふだうが・あんじつに・
とどまつて・むかし・いまのことどもを・たがひに・かたりあひて・なきぬ・わらひぬ・したまひける・ふけゆくままに・ひじりがぎやう
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も・うたがはれ・ごや・しんでうの・かねの・こゑには・しやうじのねぶりを・さますらんとも・おぼえたり・のがれぬべくは・かくても・
あらまほしくぞ・おもはれける・あけければ・三みのちうじやう・かいのし・しやうじ・さまかへむと・したまひけるが・
よ三びやうゑしげかげ・わらは・いしどうまるを・めして・のたまひけるは・たとへこれもりこそ・みちせばき・ものにて・かくなる
とも・なんぢらは・これよりみやこにのぼり・いかならんひとにも・みやづかうて・みをも・たすけよ・かしと・のたまへば・
二にんのものども・なみだにむせびて・しばしは・ごへんじをもまをさず・ややあつて・しげかげなみだを・おさへてまをしけるは・ちち
にてさふらひし・よ三ざゑもんかげやすは・さんぬるへいぢに・こおほいとのの・おんともつかまつつて・二でうほりかはの・おんたたかひのとき・
かまたひやうゑまさきよと・くんで・あくげんだにうたれさふらひぬ・そのとき・しげかげ・二さい七さいにて・ははには・おくれさふらひぬ・P465
たれふびんとまをすものも・さふらはざりつるに・こおほいとのの・わがみに・かはりたるものの・こなればとて・なのめな
らず・ごふびんにせさせ・おはしまして・きみ九のおんとき・ごげんぷくの・さふらひけるに・かたじけなくも・とも
に・もとどり・とりあげられ・まゐらせて・もりのじをば・五だいに・つけんしげのじをば・まつわうに・たぶと
て・さてこそ・しげかげとは・めされさふらひしか・またわらはなを・まつわうと・まをすことも・うまれて五十にちと・まをすに・ちちが・
いだいて・まゐりければ・こおほいとの・このいへを・こまつと・いへば・いはうて・まつわうと・つけんとて・かやうに
も・めされさふらひき・されば・ごわうじやうのおんときも・このよの・おんことどもをば・はや・おぼしめしわすれさせたまひて・ひとこと
も・おほせいだされさふらは・ざりつるにも・なかにも・しげかげは・せうしやうどのの・おんかたにさふらひて・よくよくおんみやづか
ひつかまつれ・あひかまへて・おんこころに・たがひまゐらすなと・さいごのおほせにも・さふらひき・されば・とりわけ・このおんかた
に・さぶらひて・ことしはすでに・十七ねん・じやうげ・なう・あそびたはぶれ・まゐらせさふらひぬ・されば・きみのかみにも・
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ねん・しげかげにも・おとらず・おもはれ・まゐらせ・さふらひき・とて・これもみづから・もとゆひぎはより・かみを
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くならば・いかばかりか・こころやすかりなんと・のたまひけるぞ・いとほしき・そののち・三みのちうじやう・とねりたけ
さとをめして・のたまひけるは・ひごろ・なんぢをば・みやこへのぼせんと・いひつれども・いまはやしまへ・まゐるべし・そもそもから
かはといふよろひ・こがらすといふたちは・たうけちやくちやくに・つたはつて・これもりまでは・九だいなり・しん三みどのに・あづけ
まをしたるなり・もしたうけのよと・なつてふたたび・みやこへかへりのぼることあらば・いそぎ六だいに・たぶべしと・まをせ
よとぞ・のたまひける・そののち・三みのちうじやう・やまぶししゆぎやうの・まねをし・おひをかけ・たきぐちにふだうを・せんだちにて・くま
のへまゐりたまひけり・かうやのおやまをたつて・さんとうへこそ・いでられけれ・ふぢしろのわうじの・おまへより・はじめて・
わうじわうじを・ふしをがみ・やうやう・さしたまふほどに・千りのはまのきた・いはしろのわうじの・おまへにて・かり
しやうぞくしたるぶし・十四五き・三みのちうじやうどのに・ゆきあひたてまつる・三みのちうじやう・ただいまこれにて・とらへからめられ・
もやせんずらん・そのぎならば・ひとでに・かかるなとて・かたはらに・たちより・かたなのつかに・てをかけて・
あひまたれけるところに・これら・おもひのほかに・うまよりおり・ふかうかしこまつてぞ・さふらひける・三みのちうじやう・はやみし
りたるにこそ・たれなるらんと・おもはれければ・いとどあしはやにこそ・すぎさせたまひけれ・これは・たう
ごくのぢうにん・ゆあさのごんのかみ・むねしげにふだうがこ・ゆあさの七らうびやうゑむねみつと・まをすものなり・らうどうどもが・ただいまの・しゆぎやう
じやは・たれなるらんと・とひければ・あれこそ・へいけのちやくちやく・こまつの・三みのちうじやうどのにてましませ・ひ
ごろはさぬきの・やしまにとこそ・つたへうけたまはりつるに・ただいまなにとして・これまでは・つたはらせ・おはしまし・P467
たるやらん・はや・さまかへたまひけり・よ三びやうゑしげかげ・わらはいしどうまるも・つきたてまつつて・しゆつけしたりけ
るぞや・まゐりて・おんめにかからばやとは・ぞんじつれども・さだめて・おんはばかりもやあらんずらんとおもひて・さて
とほりたりつるなり・いとほしの・おんありさまやとて・なみだにむせびければ・らうどうどもも・みなそでをぞ・ぬらしけ

維盛の熊野参詣 1011
三みのちうじやう・やうやうさしたまふほどに・いはたがはにも・なりしかば・このかはの・ながれを・一ども・わたるもの
は・あくごふぼんなう・むしのざいしやうも・きゆなるものをと・よにも・たのもしげにこそ・のたまひけれ・たきのしり・たかはら・
十でう・くませがは・ゆのかは・みこしがたけをも・すぎゆけば・ほつしんもんにぞ・なりにける・ほんぐうにまゐり・をがみを・まゐら
つさせ・たまひけるが・ほつせを・とどめて・このやまのちけいを・みたまふに・こころもことばもおよばれず・だいひおうご
のかすみは・ゆやさんに・たなびき・れいけんぶさうのしんめいは・おとなしがはに・あとをたれ・一じようしゆぎやうのみねには・かんおうのつき・
くまなし・六こんざんげのそこには・まうざう・つゆを・むすばず・いづれもいづれもたのもしからずと・いふことなし・そのよは・
三みのちうじやう・ほんぐう・しようじやうでんの・おまへにつやして・よもすがら・けいびやくしたまひけるは・ちちの・おとども・
このおまへにてこそ・いのちをめして・ごしやうを・たすけさせおはしませと・まをさせたまひし・おんことまでも・おぼしめし
いだして・ほんぢ・みだによらいにて・ましませば・せいしゆふしやのほんぐわん・あやまりたまはず・九ぽんあんやうの・じやうどへ・P468
いんぜふしたまへと・まをされける・なかにも・ふるさとに・とどめおきし・さいしあんをんにと・いのられけるぞ・うきよを・い
とひ・まことのみちに・いりたまふとは・まをせども・まうしふ・なほ・つきせずと・おぼえて・かなしき・あけければ・
三みのちうじやう・ごぜんのつより・ふねにのり・しんぐうにまゐり・かんのくらを・をがみたまふに・こころもことばも・およばれ
ず・がんしようたかくそびえては・あらし・まうざうのゆめを・やぶり・りうすゐきよく・ながれては・なみぼんなうのあかを・すすぐらむとも・
おぼえたり・あすかのやしろを・ふしをがみ・さののまつばら・さしすぎて・やけいのつゆに・そでぬらし・なちへぞ・まゐ
りたまひける・三のおやまは・いづれも・とりどりなりとは・まをせども・なちさん・ことにすぐれたり・三へに・
みなぎりおつるたきのみづ・す千ぢやうまで・よぢのぼれり・くわんおんのれいざうは・いはのうへに・あらはれて・ふだらく
せんとも・いつつべし・かすみのそこには・ほつけどくじゆのこゑ・きこゆ・りやうじゆせんとも・まをしつべし・むかしくわんざんのほうわう・くわんわ
のなつのころ・十ぜんのていゐを・すべらせたまひて・このおやまにして・九ほんのじやうせつを・おこなはせたまひし・ごあんじつ
の・きうせきには・むかしをしのぶばかりにて・おいきのさくらのみぞ・のこれる
維盛の入水 1012
そのよは・三みのちうじやう・たきもとに・まうでつつ・せんじゆだうに・ねんずして・おはしけるいほりに・なちごもりのそうのなか
に・三みのちうじやうを・よくみしりたてまつりたりける・らうそうの一にん・さふらひけるが・ここなる・しゆぎやうじやを・たれなるら
んと・おもひゐたれば・へいけのちやくちやく・こまつの・三みのちうじやうどのにて・ましましけるぞや・あのひとのことぞP469
かし・すぎにしあんげんぐわんねん・三ぐわつ十三にちに・ほうわう・ほうぢうじどのにして・りんじのおんきやうくやう・ならびに・いそぢのおんが
の・ありしとき・あのひとの・いまだそのころ・四ゐのせうしやうにて・十八か・九に・なられしが・たうけにも・たけ
にも・みめよき・でんじやうびとに・ゑらまれ・さくらをかざして・せいがいはをまはれし・かいかには・だいじん・くわんぱく・
つきたまひ・ちちのおとどは・だいなごんの・うだいしやう・をぢの・むねもり・ちうなごんにて・ちやくざせられ・たりし・けいき・
たれかたをならぶ・べしとも・みえざりき・にようばうたちは・みやまぎのなかの・やうばいとこそ・たはふれたまひしか・あらしに・
たぐふはなの・にほひ・かぜにひるがへす・まひのそで・てんをもてらし・ちをかがやかす・ばかりなり・ただいまに・だいじんの・たい
しやうを・まちうけたまへる・ひとよとこそ・われも・ひとも・まをしあひたりしに・よのまに・かはるならひほど・くちをし
かりけること・あらじ・ただいまのおんありさまの・いたはしさよとて・なみだにむせびければ・さんろうの・ぎやうじやたちも・みなう
ちごろもの・そでをぞ・ぬらしける・あけければ・三みのちうじやう・はまのみやの・おまへより・一えふのふねに・さをさ
して・万りのさうかいに・うかびたまふ・こぎゆくふねの・あとのしらなみ・うらやましくぞ・たちかへる・はるかのおきに・おしいだして・
みたまへば・一のしまあり・あれは・いかにと・のたまへば・あれこそ・ほたてじまとも・まをし・またおほひらいしとも・まをしさふらふ
なりとまをす・三みのちうじやう・かのしまにふねを・よせさせ・ふねよりあがり・まつのえだをけづりて・ゆびの・さきより・ちを
あやし・なくなく・めいせきをこそ・かかれけれ・そぶ・だいじやうだいじんたひらのあそんきよもりこう・ほうみやうじやうかい・そのちやくし・こまつ
のないだいじんしげもりこう・ほうみやうせうくう(イ浄蓮)・そのこ・こまつの三みのちうじやうこれもり・ほうみやうゑんじやう(イ浄円)・とし廿七と・
まをす・やよひ廿九にちに・なちのおきにして・しづみをはんぬと・かきとどめ・おくには・一しゆのうたをぞ・かかれたるP470
ふるさとのまつかぜいかにうらむらん・そこのみくづとしづむわがみを・
またふねに・とりのつて・うみにぞうかびたまひける・かいろはるかにみわたせば・あはれをもよほすたよりあり・あまのつりぶねの・
なみのうへに・うきぬ・しづみぬ・ゆられけるを・みたまふに・つけても・わがみのうへとぞ・おもはれける・ころ
はやよひ廿九にちの・ことなれば・はるも・すでに・くれなんとして・けふをかぎりの・はるなれば・さこそは・なごり・
をしかりけめ・むかしは・九への・うちにして・はるのはなに・うたをよみ・いまはきうしに・しゆくやして・あきのつきに・
しをつくれり・あるひは・やしまのいその・とまやに・たびねして・なみまのつきに・こころをくだき・あるひは・もじ・あかまの
なみのうへに・うきねして・からろのおとに・ゆめをさまし・かへるかりの・くもゐに・おとづれゆくを・みたまふに・つけて
も・ふるさとへ・ことづてせまほしく・そぶがここくの・うらみまでも・おもひのこせる・くまぞなき・そののち・三みのちう
じやう・にしにむかつて・さいごの十ねん・したまひけるが・がつしやうをみだり・ねんぶつを・とどめて・ひじりにむかつて・のたまひ
けるは・あはれ・ひとのみに・さいしをば・もつまじかりけるぞや・こんじやうは・かくさいしに・こころをつくす・のみな
らず・ごせぼだいまでの・さまたげとなる・こころうさよ・ただいまもまた・おもひいづるぞや・おもふことを・こころにこむれば・
つみふかからんなれば・さんげするなりとぞ・のたまひける・たきぐちにふだう・まことに・それは・さぞおぼしめされさふらふら
ん・たかきもいやしきも・おんあいのみちは・ちからおよばずさふらふ・いちやのちぎりを・こむるも・ぜんせのしゆくえん・あさからず・ま
してふうふは・五百しやうまでの・しゆくえんとこそ・うけたまはりさふらへ・しやうじやひつめつ・ゑしやぢやうり・うきよの・ならひにてさふら
へば・たとへ・ちそくこそ・さふらふとも・おくれ・さきだつことの・つひになくて・しもや・さふらふべき・なかにも・だいろくてんP471
のまわうは・よくかいを・わがままに・りやうして・そのうちの・しゆじやうのしやうじを・はなれんと・することをば・きはめて・を
しみ・あるひは・おやとなり・ことなり・あるひは・をつととなり・つまとなつて・もろもろの・はうべんを・めぐらして・さま
たげんと・つかまつりさふらふを・三ぜのしよぶつは・いつさいのしゆじやうを・おんこのごとく・おぼしめされて・ごくらくじやうどの・
ふたいのはうどに・すすめいれんと・したまふを・ひとのみに・さいしと・まをすものが・しやうじを・はなれぬ・きづななる
によつて・ほとけのおほきに・いましめたまふこれなり・げんじのせんぞ・いよにふだうらいぎは・さだたふ・むねたふを・せめし十二ねん
の・か〔つ〕せんのあひだに・ひとのくびを・きることも・一万五せんにん・そのほかさんやのけだもの・がうがのうろくづ・そのいのちをたつこと・いく
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ふかかりしらいぎも・こころつよきがゆゑに・わうじやうをとぐ・ましてきみは・させるざいごふも・わたらせたまはねば・など
かじやうどへ・まゐらせたまはではさふらふべき・ごせんぞ・へいしやうぐんさだもり・さうまのまさかどを・つゐたうし・とう八ケこくを・うちな
びけ・させたまひしに・あひついで・ちやくちやく九だいに・あたらせたまへば・きみこそ・にほんのしやうぐんとも・ならせ
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そのうへ・みだによらいは・さいはうじやうどを・しやうごんし・一ねふ十ねんをも・きらはず・十あく五ぎやくざいをも・みちびかんといふ・
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ただいまさいはうより・きたりたまふべし・くわんぜおんぼさつは・こんれんだいをささげ・だいせいしぼさつは・百ふくしやうごんの・みてを
のべ・むりやうのしやうしゆとともに・みてをさづけて・むかへ・まゐらつさせたまふべし・ただいまこそ・ちいろの・そこに・しづ
むと・おぼしめされさふらふとも・つひには・しうんのうへにこそ・のぼらせたまはんずれ・じやうぶつとくだつして・さとりを
ひらかせたまはば・しやばのこきやうに・たちかへり・さりがたく・おぼしめされし・ひとびとをも・またわりなく・おも
ひまゐらつさせ・たまはんおんかたをも・むかへ・まゐらせ・たまはんは・なんのおんうたがひか・さふらふべき・あひかまへて・よ
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なのめならず・もしも・うきもや・あがりたまふらんと・しばしはみたてまつりけれども・三にんながら・つひに・しづ
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おやまへと・ゆきければ・とねりは・やしまへまゐりける・こころのうちおしはかられて・あはれなり
維盛の北方の出家(あひ) 1013 P473
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そ・ひごろは・みやこのことをのみ・あさな・ゆふな・のたまひしほどに・いかさまにも・これは・いけのだいなごんがやうに・げん
じと・ひとつに・なつて・みやこへ・のぼらせたまふに・こそと・よにも・こころもとなく・おもひしに・さては・さや
うに・なりたまひたることよとて・なみだにむせばせ・おはします・三みのおとうと・しん三みどのや・せうしやうどのや・たんごのかうの
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池の大納言の・関東下向(あひ) 1014 P475
じゆえい三ねん・うづきついたちのひ・くわいげんあつて・げんりやくぐわんねんとぞまをしける・そのころみやこには・しゆとくゐんかみと・あがめたてまつら
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藤戸 1015
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ためしさふらはずとて・ただわたしにこそわたしけれ・どひのじらうさねひらも・とどめかねて・てぜい三百よき・うちいつてぞ・
わたしける・うまのくさわき・むながいづくしに・たつところもあり・くらづめを・ひたすところも・あり・またくらつぼ
をこすところもあり・ふかきところをば・すこしおよがせて・あさきところに・さつとうちあげたりへいけのつはもの・これをみて・みな
ふねに・とりのつて・こぎむかひてぞ・たたかひける・げんじのつはものどもは・へいけのふねに・のりうつり・のりうつつてぞ・たたか
ひける・なかにもかうづけのくにのぢうにん・わみの八らうゆきしげ・さぬきのくにのぢうにん・かべのげんじに・ひつくんで・ふなぞこに
どうとおち・わみがくび・かききつて・おきあがらんと・しけるところを・わみがいとこ・ゑちごのくにのぢうにん・こばやしの
たらうたかしげ・かべのげんじに・おちあひて・ひつくんで・うみへぞいりたりける・こばやしがらうどうに・くろだのげんだと・
まをすもの・こぶねをこぎよせ・くまでをおろして・さがしけるに・しうもかたきも・くまでに・とりつきてぞ・あがつたる・
やがてかべのげんじをば・ふなばたにとつて・おさへて・くびかききつて・すててんげり・これをはじめとして・げんじ・三
まんよき・うちいつてぞわたしける・へいけの・かたのつはものども・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いけれども・げんじ・これ
をことともせず・かぶとのしころをかたむけ・さんざんに・たたかひければ・へいけかなはじとや・おもひけん・またさぬき
のやしまに・こぎしりぞく・そのまに・げんじも・こじまのちに・うちわたり・うまのいきをぞ・やすめける・されば・ささきに・
こじまをたびける・ときのみげうしよにも・てんぢく・しんたんは・しらず・にほん・わがてうに・おいてはかはを・わたしたるP480
ことは・あれども・うみをわたしたるためしなし・きたいふしぎのことなりとぞ・ぶんしやうにも・のせられたる・おなじき十ぐわつ十か
あまりにも・なりしかば・やしまには・しほかぜ・はげしくして・いそこすなみも・たかければ・げんじのふねも・よせきた
らず・しやうかくの・ゆきかふことも・まれなれば・みやこのつても・きかまほしく・ゆきうちふつて・へいけのひとびとは・
いとどきえいる・ここちぞ・したまひける
五節の沙汰(あひ) 1016
おなじき廿六にちに・みやこには・五せち・ならびに・だいじやうゑ・あるべしとぞ・きこえし・ぢしよう四ねんの・五せちは・ふくはらにて
ぞ・とげられける・そのときは・やしまのおほいとのぞ・せつかの・あくよには・まゐられし・こんどは・おほゐのみかどの・
さだいじんつねむねこうぞ・せつかの・あくよには・まゐられける・九らうたいふのはんぐわんよしつね・かちのひたたれに・しらはのや
おひて・ぐぶ・つかまつる・はんぐわんは・きそにもにず・みやこなれたるひとにて・いうなるところも・おほかりけれども・へいけの
えりくづには・なほおとれりとぞ・ひとまをしける・この二三ケねんがあひだは・とうごくほつこくの・ひやくしやうら・あるひは・げんじにせめふせ
られ・はるはとうさくの・おもひをわすれ・あるひは・へいけに・なやまされ・あきはせいしうの・いとなみにもおよばず・いへかまどを・すてて
みなさんりんににまじり・しかば・かかるたいれいをも・いかでか・おこなはるべきなれども・かくのごとくぞ・とげられける・
さるほどに・げんじついで・せめたらましかば・へいけは・そのとしに・ほろぶべかりしを・たいしやうぐん・みかはのかみのりより・はり
まのくに・むろたかさごに・ひきのき・みやこより・いうくんいうぢよども・よびくだし・あそびたはふれて・のみぞ・おはしける・とうごく・P481
ほつこくのつはものどもは・すすむも・せうせうありけれども・たいしやうのげぢに・したがふならひ・ちからおよばず・ただくにのつひえ・
たみの・わづらひのみあつて・さるほどに・としくれて・げんりやくも・二ねんに・なりにけり

平家物語(城方本・八坂系)
巻第十一 P482
逆櫓 さかろ 1101
げんりやく二ねん・むつき十かのひ・九らうたいふのはんぐわんよしつね・ゐんのごしよにまゐり・おほくらのきやうやすつねのあそんを・もつてまをさ
れけるは・へいけは・しゆくはうつきて・しんめいにも・はなたれたてまつり・きみにも・すてられまゐらせて・みやこのほかにいで・
さいかいのなみのうへに・ただよふおちうどと・なれり・しかるを・この二三ケねんが・あひだ・えせめおとさずして・おほくの・
くにぐにを・ふさげさふらふことこそ・あまりに・めざましくさふらへ・こんど・よしつねにおいては・きかい・かうらい・てんぢく・しんたん
までも・へいけのあらん・かぎりは・せむべきよしをぞ・まをされける・ほうわう・なのめならず・ごかんあつて・やがて・
ゐんぜん・あそばしてぞ・たうだりける・はんぐわん・ゐんぜん・たまはつて・ゐんのごしよをいで・しよこくの・さふらひどもに・むかつ
て・のたまひけるは・こんど・よしつね・かまくらどのの・ごだいくわんとして・ちよくせんをうけたまはつて・へいけつゐたうのために・さいこくへ・
まかりむかふ・くがはこまのひづめの・かよはんほど・うみは・ろかいの・たたんかぎりは・せめむずるなり・ただしこれは・むやく・
いのちぞをしい・さいしぞかなしい・なんど・おもひ・あはれんずる・ひとびとは・いそぎこれより・かまくらへ・くだらるべし
とぞ・のたまひける・さるほどに・八しまには・ひまゆく・こまのあしはやくして・むつきもたち・きさらぎにもなりぬ・
P483
しゆんさうくれては・あきのかぜに・おどろき・しうふうやんでは・またはるのくさになりぬ・おくりむかへて・みとせにもはや・
なりにけり・おなじききさらぎ十三にちに・みやこには・いせ・いはしみづを・はじめたてまつつて・廿二しやに・くわんぺいあり・これ
は・こんど・しんじ・はうけん・ないしどころ・三しゆのしんぎを・ことゆゑなう・みやこへ・かへしいれ・たてまつらむとの・ごきせいの・
おんためとぞおぼえたる・おなじき・十四かに・げんじ・みかはのかみのりより・つのくに・かんざきより・七百よさうの・ふねにとり
のり・せんやうだうへ・おもむく・そのおとうと・九らうたいふのはんぐわんよしつね・これも・おなじき・くに・とうか・わたなべ・ふくしまより・二
百よさう・ひやうせんとりのり・なんかいだうへ・はつかうす・わたなべ・かんざき・りやうしよにて・このひごろ・そろへたる・ふねのともづな・け
ふぞとく・をりふし・きたかぜ・きををつて・ふきければ・ふねをいだすに・およばず・あまつさへ・おほかぜ・おほなみに・ふねども・たたき
わられて・しうりのためにとて・そのひは・わたなべに・とどまりぬ・おなじき十五にちに・わたなべには・とうごくのだいみやう・
よりあつて・そもそも・こんどの・ふないくさのやうは・いかがあるべきと・ひやうぢやうあり・なかにも・さがみのくにのぢうにん・かぢはらへい三
かげとき・すすみいでて・まをしけるは・あはれふねに・さかろを・たてさふらはばやと・まをしたりければ・はんぐわん・さかろとは・なにもの
にてさふらふやらん・かぢはらさんさふらふ・むまはかけんとおもへばかけ・ひかんとおもへば・ひき・ゆんでへも・めてへも・
まはしやすきものにてさふらふが・ふねはきつと・おしなほすに・たやすからねば・とも・へに・かぢを・たて・さ
うに・ろをたて-ならべて・へへも・ともへも・おさせさふらはばやと・まをしければ・はんぐわんいやいや・かどいであし・
いくさのならひ・ひつとひきも・ひかじとかねて・やくそくしたるだに・あはひあしければ・かたきにうしろをみするな
らひあり・まして・さやうにかねてより・にげじたくを・せんには・なじかは・よかるべき・せんずるところ・
P484
さかろをも・かいさまろとかやをも・たてたくは・ひとのふねには・百ちやう千ちやうも・たてばたてよ・よしつねが・ふね
においては・一ちやうも・たつべからずとぞ・のたまひける・かぢはらかさねてまをしけるは・いやいや・よき・たいしやうぐんとまをす
は・みをまたう-して・かたきをほろぼすさふらふさやうに・かくべきところをも・ひくべきところをも・しらぬをば・ただゐのしし-
むしやとこそ・まをしさふらへとまをしたりければ・はんぐわん・よしよし・よしつねは・ゐのししかししのためしはしらず・ただかたきをば・ひら
ぜめにせめて・かつたぞ・ここちはよきと・のたまへば・かぢはら・てんせい・このとのについて・いくさ-せじとぞ・つぶやきけ
る・それよりしてぞ・かぢはら・はんぐわんを・にくみ-そめ・たてまつつて・かまくらどのに・ざんげん-して・つひにうたせたてまつりける・
とぞきこえし・おなじき-十六にちの・とりのこくばかりに・はんぐわん・いまは・ふねども・せうせうあらたまつたるらん・一しゆもの・せさ
せよやわかたうとて・いとなむていに・もてなし・もののぐふねへ・はこばせ・むまどものせて・いまはとうとう・ふねをいだせ
と・のたまへば・かぢとりどもがまをしけるは・このかぜは・おきは・なほつようぞ・さふらはん・おんあやまち・せさせたまはん
とてとまをしければ・はんぐわんきしよくおほきにいかつて・のやまのすゑ・うみかはにて・しぬるも・これみなぜんごふのしよゐなり・こん
ど・よしつね・かまくらどのの・ごだいくわんとして・一ゐんのゐんぜんをうけたまはつて・へいけつゐたうのために・さいこくへむかふ・よしつねがげ
ぢを・そむくおのれらこそ・てうてきよ・一ぢやうふねをば・いだすまじきか・いださずは・一々に・いころせと・のたまひ
ける・うけたまはつて・あうしうの・-さとう-三らうびやうゑ-つぎのぶ・おなじき-四らうびやうゑ-ただのぶ・かたをかの-たらう-ちかつね・げん八-ひろつな・いせ三らう
よしもり・むさしばうべんけい・いげの・一にんたう千のつはものども・かたてやを・はげて・ごぢやうにてあるぞ・一ぢやうふねをば・いだ
すまじきか・いださずば・一々に・いころさむとて・よつぴいて・むかひければ・かぢとりどもがまをしけるは・やにあP485
たつて・しなんもおなじこと・かぜつよくは・おきにて・はせじににしねやとて・二百よさうの・ふねのうちより・たんだ五さうぞ・いだしける・五さうのふねとまをすは・まづ・はんぐわんのおんふね・たしろのくわんじやのぶつなのふね・ごとうびやうゑさねもとがふね・さとうきやうだいがふね・よどのがうないただとしがふねなりけり・ただしよどのがうないは・ふねのそうぶぎやうたるによつてなり・のこりのふねどもは・あるひは・かぜにおそれ・あるひはかぢはらがめいにしたがつていださず・そののち・はんぐわんふねのへにすすみいで・だいおんじやうをあげて・かかるおほかぜ・おほなみに・かたきうちとけたらんところへ・よせてこそ・おもふかたきはうたんずれ・いまは四こくのうらうらへ・へいけのぐんびやうども・さしむけたるらんぞ・ふねふねに・かがりたいて・かたきに・ふなかずみするな・よしつねがふねをもとぶねにして・かがりをまほれやとて・とりかぢ・おもかぢに・はしりならべて・ゆくほどに・あまりにかぜのつよきときは・おほづなおろして・ひかせけり・おすには・三かにわたるところを・ただみときに・十六にちのうしのこくに・わたなべをたちて・あくる十七にちのうのこくに・あはのかつうらにつきたまふ
桜場(あひ) 1102
よの・ほのぼのと・あけければ・なぎさに・あかはた・さしあげたり・はんぐわん・あはや・ここにも・よしつねがまうけは・
したるらんぞ・ふねどもひらつけにつけて・かたきのまとになつて・いらるな・なぎさちかうもならば・ふねどものりかたぶ
け-のりかたぶけ・むまどもうみへ・おひおろし-おひおろし・ふなばたにひきつけ-ひきつけ・およがせて・くらづめひたるほどに・ならば・ひた
ひたと・うちのつて・くがへをめいて・かけよやとて・なぎさ三ちやうばかりより・ふねどものりかたぶけ・むまども・うみへおひおP486
ろし・ふなばたに・ひきつけ-ひきつけ・およがせて・くらづめ・ひたるほどにも・なりしかば・ひたひたと・うちのつて・くがへをめいてぞ・かけられける・五さうのふねに・むま五十ぴき・たてられたり・くがにも・五十き・ばかりありけるが・このよしを・みて・二ちやうばかり・はつとひいてぞ・のきにける・はんぐわん・いせ三らうよしもりをめして・きやつばらは・けしかるものと・おぼゆるぞ・あのなかに・しかるべきものやある・一にん・ぐしてまゐれと・のたまへば・うけたまはつて・よしもり・五十きばかりがなかへ・ただ一きあゆませいつて・なんとかまをしたりけん・よはひよそぢばかりなるをのこの・ふしなはめの・よろひきたりけるを・ゆみをはづさせ・かぶとを・ぬかせのつたりける・むまをば・げにんに・ひかせて・ぐしてまゐる・はんぐわんあれは・いかにと・のたまへばこれは・たうごくのざいちやう・ばんさいのこんどう六ちかいへさふらふ・はんぐわん・よしよし・なにいへにても・あらばあれ・八しまのあんないじやに・めしぐすべきなり・やがて・よしもりに・あづくるぞ・もののぐばし・ぬがすな・にげてゆかば・しやついころせとぞ・のたまひける・そののち・はんぐわん・ちかいへをめして・ここをば・いづくといふぞと・とひたまへば・こここそ・かつうらさふらふ・よしつねがとへば・しきだいな・まことに・かつうら・さふらふもじには・かつうらと・かいてさふらへども・げらふどもの・まをし-やすきままにこそ・かつらとはまをしさふらへ・はんぐわん・これききたまひてや・ひとびといくさ-しに・きたる・よしつねが・かつうらにつく・めでたさよ・そののち・はんぐわん・またちかいへをめして・たうじ八しまに・せいは・いかほどあるらんなと・のたまへば・千きばかりは・さふらふらん・などすくなきぞ・さんさふらふ・かやうに・四こくのうらうらへ・五十き百き-づつ・さしむけられてさふらふなかにも・あはのみんぶしげよしがちやくし・でんないざゑもんのりよしが・かはのをせめに・三千よきにて・いよのくにへこえてさふらふなりとぞまをしける・はんぐわんさて・このP487
へんに・へいけのうしろや・いつべきものはなきか・などかなうてはさふらふべき・あはのみんぶしげよしがおとうと・さくらばのすけよしとほこそさふらへ・はんぐわんさらばやがて・よしとほうつて・いくさがみにまつれやとて・さくらばがじやうへぞ・おしよせたる・かのさくらばがじやうとまをすは・三ぱうはぬま・一ぱうは・ほりなりけり・げんじ・ほりのかたより・おしよせて・ときをどつとぞ・つくりける・よしとほさんざんに・ふせぎたたかふといへども・はんぐわんに・ていたう・せめられて・かなはじとやおもひけん・くきやうのむまは・もつたり・うちのつて・そばなるぬまより・おちにけり・ふせぐところの・いへのこ・らうどう・廿よにんがくびとつて・よろこび-まをしの・ときつくり・いくさがみにぞ・まつられける
観音講 1103
そののち・はんぐわん・また・ちかいへをめして・これより・八しまへは・いかほどの・みちぞと・とひたまへば・二かぢさふらふとまをす・さらば・かたきのしらぬさきに・よせよやとて・おほさかごえに・かかつて・かけあしになつつ・あよませつ・よもすがら・ばんどう・ばんざい・うちこえて・あくる・十八にちのまんだあさ・さぬきのくに・ひげたといふ・ところに・おちつきて・むまのいきをぞ・やすめられける・ここに・きやうのかたよりと・おぼしくて・みのかさ・らうれう・ふみども・せうせうしたため-もつたる・をとこ一にん・いそがはしげにて・いできたる・はんぐわんこは・なにものぞと・のたまへば・これは・みやこより八しまへ・まゐりさふらふ・はんぐわん・八しまへは・どれへまゐるぞ・おほいとのへまゐりさふらふ・はんぐわんこは・なにごとのおつかひにてか・あるらむなとのたまへば・このをとこまをしけるは・げらふは・おんつかひつかまつるまでにて・こそさふらへ・なにごとのおつかひをば・いかでか・しりまゐら
せP488さふらふべきと・まをしたりければ・はんぐわん・げにもとて・おはしけるが・これも・やとの・あはのくにのざいちやうなるが・
けふはじめて・へいけへめされて・まゐるが・いまだ・八しまへの・あんないをしらず・なんぢはさだめて・たびたびまかりくだつ
てぞ・あるらん・これより八しまへの・あんないじやせよかしと・のたまへば・このをとこさんさふらふ・たびたびまかりくだつてさふらへば・八しまのあんないにおいては・よくそんぢ・しつてさふらふとぞ・まをしける・そののち・はんぐわん・ほしいひくはせなんど・したまひて・さるにても・こはなにごとの・おんつかひにてか・あるらんなと・のたまへば・このをとこさんさふらふ・べちのやうや・さふらふべき・たうじつのくに・かはじりに・げんじども・おほううかうてさふらふを・にようばうの・おんかたより・おほいとのの・おんかたへ・まをされさふらふ・ごさんなれ・さてその・げんじのたいしやうをば・たれとかきく・さんさふらふ・一にんは・三かはのかうのとの・一にんは・九らうたいふはんぐわんどのとこそ・うけたまはりさふらへ・はんぐわん・さてそのたいしやう・はんぐわんどのばし・よくみしりたてまつりたるかと・のたまへば・さんさふらふ・なかにも・たいしやうはんぐわんどのは・せいのちひさきをのこの・いろのしろきが・むかばのふたつさしあらはれて・ことに・しるうましましさふらふが・とのこそよくにさせたまひてさふらへとぞ・まをしける・はんぐわん・どこなるやとの・みやうが・ばかさむとて・からからと・わらはれけるが・あのをとこ・かなたへも・こなたへも・ゆかぬやうに・はからへと・のたまへば・いせの三らう・うけたまはつて・ふみどもうばひとり・かいだうより・二ちやうばかり・ひきいれて・おほきなる・まつのきに・したたかに・しめつけてこそ・とほられけれ・そののち・はんぐわん・ふみをひらいて・みたまへば・まことににようばうのてと・おぼしくて・九らうは・すすどきをのこにて・さふらへば・いかなる・おほかぜ・おほなみをも・きらひさふらふまじきぞ・あひかまへて・おんせいども・ちらさで・よくよくごようじん・さふらふべし・そのほか・たびのそらのP489
ことまでも・こまやかにこそ・かかれたれ・はんぐわん・これみたまへや・ひとびとこれこそ・てんのあたへたまへる・ところのふみよ・かまくらどのにみせたてまつらんとて・ふかうをさめてぞ・よせられける・にうのや・しろとり・たかまつのさとをも・うちすぎうちすぎ・よりたまふほどに・あるまつのなかに・ひとおとあまたして・きこえければ・はんぐわんあはや・ここにも・かたきのこもりたるにこそとて・ひとをつかはして・みせられければ・かたきにてはなかりけり・ころは・きさらぎ十八にち・まんだ・あさのことなりければ・あるみだうに・そのへんの・ざいちのもの・よりあひて・くわんおんかうをぞ・おこなひける・つかひかへつて・このよし・まをしたりければ・はんぐわんさては・よしつねが・まうけにこそは・したるらめとて・かしこに・おしよせ・かれらを・おつぱらひ・しゆはんを・おこなはれけるが・はんぐわん・かうのざしきに・つきながら・しきよまでは・いかがあるべき・べんけいよめと・のたまへば・うけたまはつて・もののぐしながら・かうざにのぼり・けいびやくのかねうちならし・もとよりふるやまぼうし・なりければ・くわんおんかうのしきをば・うちわすれ・さんわうかうの・しきをぞ・ようだりける・はんぐわん・たたばただも・たちたまはず・らいとうは・よしつねさうぞ・ようとてぞ・いでられける・そののち・はんぐわん・またちかいへを・めして・さて八しまのじやうのていは・いかにとのたまへば・むげにあさまにさふらふ・しほのひてさふらふときは・むまのふとばらもぬれずさふらふとぞ・まをしける・はんぐわんさらば・しほのひんを・まつべしとて・しほひがたよりぞ・よせられける・ころはきさらぎ十ハにちの・むまのこくばかりの・ことなれば・けあぐるしほの・かすみとともに・しぐらうだる・なかより・げんじはかりごとに・五き・十き・うちむれうちむれ・よせけるを・へいけは・うんのきはめにや・これをたいぜいとこそ・みてんげれ・さるほどに・八しまには・あはの・みんぶしげよしがちやくし・でんないざゑもんのりよしが・かはのをせめに・三千よP490
きにて・いよのくにへ・むかうたんなるが・つはもの百よにんがくび・とつてきのふ・八しまへまゐらせたりけるを・けふおほいとのの・ごしゆくしよにて・ごじつけんあり・さるほどに・げんじのかたには・このよしをききて・さらばまづひを・かけよやとて・あたりのざいけに・ひをかけければ・ものどもぜうまう・いできたりとて・ひしめきけるが・よつくみて・いいや・これはかたきのよせておぼえさふらふ・われらぶぜいなり・これにて・とりこめられては・かなふまじ・さらば・おふねに・めさるべしとて・くがに・ほしあげおいたりける・五百よさうのふねどもを・をめきさけんで・おしおろす・こくもを・はじめたてまつつて・二ゐどのいげの・やごとなき・にようばうたちは・ごしよのおふねにぞ・めされける・おほいとのふしも・ごしよのおんふねへぞ・まゐられける・そのほか・へいだいなごん・へいちうなごん・しんちうなごん・しゆりのだいぶ・いげのひとびとは・おもひおもひ・こころごころの・ふねにとりのり・あるひは・七八だん・あるひは一ちやうばかり・おしいだして・みたまへば・げんじわづかに・百きばかりには・すぎざりけり・なかにもあらての・むしやと・おぼしくて・三十きばかりすすんだり・ことにむしや一きすすんだり・たいしやうとぞみえし・たいしやうの・そのひのしやうぞくには・あかぢのにしきのひたたれに・くれないすそごのよろひをき・くはがたうつたる・五まいかぶとの・ををしめ・こがねづくりの・たちを・はき・二十四さいたる・そめはのやおひ・しげどうのゆみもつて・くろきむまのふとくたくましきに・きんぷくりんの・くらをおきて・うちのり・おきのかたに・かけむかひ・あぶみふんばり・つつたちあがり・だいおんじやうをあげて・これは・せいわてんわうに十だいのこういん・かまくらのひやうゑのすけよりともがおとうと・一ゐんの・おんつかひけびゐし・五ゐのじよう・九らうたいふのはんぐわんよしつねぞ・へいけのかたにわれと・おもはんひとびとは・すすめや・むかへ・げんざんせんとぞ・なのられける・おきにはへいけ・これをみて・ただいまなのるは・げん九らうよしつねP491
ぞ・あれいとれや・うつとれとて・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いるつづいて・なのるは・たしろのくわんじやのぶつな・ごとうびやうゑさねもと・しそくしんびやうゑのぜうもときよ・かねこの十らういへただ・おとうとのよ一ちかのりと・なのる・げんじはかりごとに・五き・十き・うちむれうちむれ・よせけるに・またつづいてなのるは・あうしうの・さとう三らうびやうゑつぎのぶ・おなじき四らうびやうゑただのぶ・かたをかのたらうちかつね・げん八ひろつな・いせの三らうよしもり・むさしばうべんけいと・なのる・おきには・へいけ・これをみて・さしやにいる・ふねもあり・とほやにいる・ふねもあり・げんじもくがに・ほしあげおいたりける・ふねどもを・こだてにとつて・ゆんでになしては・いてとほり・めてに・なしては・いてとほる・なかにも・ごとうびやうゑさねもとは・ふるつはものなりければ・いそのいくさをば・せず・あはのみんぶしげよしが・このみとせが・あひだやうやうにして・つくりたてたる・八しまのごしよや・だいりに・ひをかけて・ただへんしがあひだの・くわいじんとぞなりにける
あひ 1104
おほいとの・このよしを・みたまひて・げんじのせい・いくほどもなかりけるものを・あまりに・あわてて・ごしよや・だいりを・
やかせつることこそ・やすからね・のとどのは・おはせぬか・くがにあがつて・一いくさしたまへかしとのたまへば・
うけたまはつて・こぶね百さうばかり・なぎさによす
次信が最期 1105 P492
なかにも・ゑつちうの・二らうびやうゑもりつぎ・かちのひたたれに・くろかはのよろひをき・しらえのおほなぎなたの・さやをはづいて・つゑにつき・ふねのへに・すすみいで・だいおんじやうをあげて・いぜんに・なのつたりけれども・かいしやうはるかにへだて・けみやうじつみやう・さだかならず・いかなるひとぞ・なのれや・なのれと・いひければ・いせの三らうよしもり・すすみいでて・あなことも・おろかや・せいわてんわうに・十だいのみすゑ・かまくらどののおんおとうと・九らうたいふのはんぐわんどのぞ・もりつぎきいて・あなことごとし・さては・それは・かねあきうどが・しよじうにてこそ・あんなれ・ちちよしともは・さんぬる・へいぢに・うたれぬ・ははときはが・ふところに・いだかれて・やまと・やましろ・まどひありきしが・そののちは・すておきたりしを・こだいじやうのにふだうどのの・をさなければ・ふびんさに・そだておき・くらまのてらに・ちごにて・十四五までは・ありしが・そののちは・かねあきうどが・らうれうせおひて・おくのかたへ・まどひたりし・そのこくわんじやにこそ・とぞまをしける・よしもり・わうしたのねのやはらかなるままに・さやうのことな・まをされそ・さては・ごへんは・ほつこくとなみやまのかつせんに・うちまけて・こつじきをして・きやうへにげのぼりけるとこそきけ・それをばよもあらがはじとぞ・まをしける・もりつぎこれは・えうせうより・きみのごおんを・あくまで・とげたるみの・なにのふそくに・こつじきをば・せむ・さてわぎみは・いせのくに・すずかやまの・やまだちして・よをわたりけるとこそきけ・それをば・よもあらがはじなとぞ・まをしける・かねこの十らういへただ・すすみいでて・とのばらたちの・ざふごんむやく・りやうはう・くちのきいたるままに・ひがごとを・まをしあはむに・よはあけ・ひはくるるとも・つきすまじ・ただしこぞのきさらぎつのくに一たににて・むさし・さがみの・わかとのばらの・てなみのほどは・よくしつたるらんと・いはせもはてず・うしろに・ひかへたる・おとうとのよ一ちかのり・なかさしと
つP493て・つがひ・よつぴいて・ひやうといる・もりつぎがよろひの・むないた・うらかくほどに・いさせてぞ・ことばたたかひは・やみにける・のとどの・このよしをみたまひて・ふないくさは・やうあるものぞとて・わざとひたたれをば・きたまはず・からまきぞめの・こそでに・くろいとをどしのよろひをき・五まいかぶとのををしめて・廿四さいたる・おほなかぐろの・やおひ・ぬりごめどうの・ゆみもつて・ふねのへに・すすみいで・こんどの・げんじの・たいしやうを・いおとさむとぞ・うかがはれける・のとどのは・とうごくまでも・きこえたまへる・つよゆみ・せいひやうやつぎばやの・てききにて・おはしければ・のとどのの・やさきに・はんぐわんを・かけたてまつらじと・げんじの・つはものども・おんまへに・むんずと・ふさがつてぞ・さふらひける・のとどの・だいおんじやうをあげて・おんまへにさふらひける・ざふにんばらども・あまりに・みぐるしうさふらふ・のけられさふらへ・のけられさふらへとて・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いたまひけるに・くきやうのつはものども・五きまで・こそいおとされけれ・なかにも・はんぐわんの・みにかへて・おもはれける・あうしうの・さとう三らうびやうゑつぎのぶは・かちの・ひたたれに
くろかはをどしの・よろひをき・かげなるむまに・のつて・おんまへに・むんずと・ふさがつて・さふらひける・よろひのひきあはせ・
うしろへつつと・いいだされて・むまよりまつさかさまに・どうとおつ・のとどののわらはに・きくわうまるとて・しやう
ねん十八さいに・なりけるが・しげめゆひの・ひたたれに・もえぎの・はらまきをき・しらえのおほなぎなたの・さやをはづいて・
つゑにつき・ておひたる・つぎのぶが・くびとらむと・するところを・おとうとのただのぶ・につくき・やつのとて・なかさしとつ
てつがひ・よつぴいて・ひやうといる・これもはらまきのひきあわせ・うしろへつつと・いいだされて・いぬゐにこ
そは・まろびけれ・のとどの・わらはが・くびかたきにとられじと・いそぎふねよりとんでおり・わらはを・ひつさ
げP494てぞ・のりたまひける・わらはがくび・かたきにはとられねども・いたでなりければ・ふねのなかにて・しににけり・このきく
わうとまをすは・のとどののおんあに・ゑちぜんの三み・みちもりのわらはなり・三みうたれ・たまひて・のちしかるべきおんかたみにもと・
おもはれける・きくわうを・うたせて・よろづ・こころぼそくや・おもはれけん・そののちは・いくさをも・したまはず・
ふねをば・おきにおしいださす・そののち・はんぐわんも・ておひたる・つぎのぶを・ぢんのうしろに・かきいださせ・いそぎむまよりお
り・つぎのぶがてをとつて・さて・いかにやいかにと・のたまへば・いまはかうさふらふとぞ・まをしける・こんじやうに・おもひお
くことは・なきか・おもひおくことあらば・なにごとにても・よしつねに・いひおけかしと・のたまひければ・つぎのぶ・よに
も・くるしげにて・いきをついて・まをしけるは・こんじやうに・おもひおくことの・などかは・なうて・さふらふべき・まづ
は・きみのへいけをほろぼして・よにわたらせ・たまはむを・みたてまつらぬこと・さては・あうしうにとどめおきし・らうぼをみ
さふらはぬことこそ・よみぢの・さはりとも・なりぬべうさふらへ・さりながら・おんいのちに・かはりまゐらせさふらへば・
ゆみやとりのほんい・ただこのことにさふらふ・おとうとにて・さふらひける・ただのぶをば・あひかまへて・ごふびんに・せさせ・おはしま
す・べしと・これをさいごのことばにて・つぎのぶ廿八とまをしし・きさらぎ十八にちの・とりのこくに・やしまのいそにて・つひには
かなく・なりにけり・はんぐわんおほきに・あきれさせ・たまひて・いせの三らうよしもりをめして・このへんに・そうやある・
たづねて・えさせよと・のたまひければ・よしもりうけたまはつて・そのへんなる・ところより・ぢうそう一にん・たづねいだして・まゐりたり・
はんぐわん・そうにむかひて・のたまひけるは・ただいま・をはるておひのために・一じつきやうをかいて・とぶらひたまへとて・こぞのきさ
らぎ・つのくにいちのたに・のつて・おとされける・むまを・このそうにぞ・ひかれける・このむまとまをすは・くろきむまの・ふと
うP495たくまし・かりければ・はんぐわん・わが五ゐのぜうに・なられしとき・五ゐをば・このむまに・ゆづるとて・たいふぐろと・
めされける・かやうに・みにかへて・おもはれける・おんむまなりけれども・ただいまつぎのぶがために・ひかれけれ
ば・しよこくのさぶらひ・このよしをみたてまつつて・このきみの・おんために・すてんずる・いのちはさらに・をしからずと・かんじてみな
よろひのそでをぞ・ぬらしける
那須の与一 1106
あは・さぬきに・へいけを・そむいて・げんじをまちける・つはものども・ここのたに・かしこの・ほらより・二き・三き・五き・十
き・うちよりうちより・はんぐわんのせいに・くははる・げんじほどなく・三百きばかりにぞ・なりにける・けふはひくれぬ・
しようぶは・けつせじとて・げんぺいたがひに・ひきしりぞくところに・おきのかたより・かざりじんじやうにしたる・こぶねを一さう・なぎさに
よす・なぎさ一ちやうばかりより・ふねをよこさまになす・かたき・みかた・あれは・いかにとみるところに・よはひ十六か・七かと・
みえたる・をんなの・やなぎの・五ぎぬに・くれなゐのはかま・きたりけるが・みなくれなゐの・あふぎのつまに・ひいだしたりけるを・
ふねのせがい・に はさみたて・くがへむけてぞ・まねきける・はんぐわん・ごとうびやうゑさねもとをめして・あれは・いかに
と・のたまへば・いよとにこそさふらふらめ・ただしかたきの・はかりごととこそ・ぞんじさふらへ・そのゆゑは・たいしやうぐんの・や
おもてに・すすんで・けいせいを・みんずらん・そのとき・てだれをもつて・いおとさんとの・はかりごととこそ・
あひぞんじさふらへ・ただしあふぎをば・いそぎいさせらるべうもやさふらふらんと・まをしたりければ・はんぐわん・みかたに・いつべきP496
ものは・なきか・などか・なうてはさふらふべき・つよゆみ・せいひやう・いくらもさふらへども・しもつけのくにのぢうにん・なすのたらう-
すけたかがこに・よ一すけむねこそ・こひやうにはさふらへども・てはきいてさふらふと・まをしたりければ・はんぐわん・しようこはあるか・
さんさふらふ・かけどりなんどをも・みつのやに・ふたやは・たやすくつかまつりさふらふと・まをしければ・はんぐわんさらば・よ一めせと
て・めされけり・そのころよ一は・十八九のをのこの・あかぢのにしきをもつて・おほくびはたそで・いろへたる・
かちのひたたれに・あかいとをどしの・よろひをき・ほしじろのかぶとの・ををしめ・三じやく五すんありける・あししろの・たちを
はき・廿四さいたるきりふのや・そのひのいくさに・いすてて・せうせうのこりたりけるが・うすきりふに・たかのははぎま
ぜたる・ぬだめの・かぶらをぞ・さしそへたる・二ところどうのゆみ・わきにはさみつつ・かぶとをばぬいて・たかひもにか
け・はんぐわんの・おんまへにかしこまる・はんぐわん・いかによ一・あのあふぎの・まんなか・いて・ひとにけんぶつ・せさせよ・かし
とのたまひければ・よ一かしこまつて・まをしけるは・あのあふぎ・いおふせむことふぢやう・いそんぜむことは・けつぢやうなり・ただいまい
そんずる・ほどならば・ながく・みかたの・ゆみやの・おんはぢたるべうさふらふ・されば・じよのじんにも・おほせつけらるべう
や・さふらふらんと・まをしければ・はんぐわん・けしき・おほいにかはつて・こんど・よしつね・一ゐんの・ゐんぜんをうけたまはつて・へいけつゐたうのために・さいこくへむかふ・よしつねかげぢを・そむかれんずる・ひとびとは・いそぎ・これより・かまくらへ・くだらる
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たまふなる・ただいまあのあふぎ・いそんずる・ほどならば・ゆみきりをつて・うみにしづみ・だいりうの・けんぞくとなつて・なが
くぶしの・あだとなるべうさふらふ・さるにても・いま一ど・ほんごくに・むかつて・ごらんぜられむと・おぼしめさ
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弓流し 1107
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志渡合戦 1108 P501
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これなり・一しんは・つのくに・なにはに・いははれたまふ・すみよしのだいみやうじんこれなり・じやうこの・せいばつを・おぼしめしわすれずし
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壇の浦合戦 1109
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きこえしかば・へいけは・おなじきくに・ひくしまに・つきたまふこそ・ふしぎなれ・げんじのせいは・かさなれば・へいけの
せいは・おちぞゆく・げんじのふねは・三千よさう・へいけのふねは・千よさう・へいけのふねのうちには・たうせんもありとか
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かぢはらも・おやこ四にん・よりあひて・うちものの・さやをぞはづしける・すでにかうとみえけるに・かぢはらがむまの
くちには・どひの二らう・つかみつき・はんぐわんのおんむまのくちには・三うらのすけとりつき・たてまつつて・かかる・てんかの・おんだい
じに・どしいくささふらひては・いよいよみかたの・おんよわりなるべし・またかまくらどのの・かへりきこしめされむ
ずるところも・をんびんならずさふらふと・やうやうにまをしければ・はんぐわん・げにもとや・おもはれけむ・しづまりたまへば・
かぢはらすすむにおよばず・それよりしてぞ・かぢはら・はんぐわんをいよいよ・にくみたてまつつて・かまくらどのに・ざんげんして・
つひにうたせたてまつりけるとぞ・きこえし・おなじきやよひ廿四かの・うのこくに・もじ・あかま・だんのうらにて・げんぺいたがひに・
よせあはす・かのはやともが・おきと・まをすは・たぎつておつる・しほなれば・げんじのふねは・しほにむかうて・ひきおと
さる・へいけのふねは・こころならず・しほにつれてぞ・おうたりける・げんぺいたがひに・ふなばたをたたいて・ときつくるこゑそらは・
ぼんてんまでも・きこえ・しもはかいりうじんも・さだめて・おどろき・さわぎ・たまふらむとぞ・おぼえたる・おきはしほの・はやけ
れば・なぎさに・そうて・かぢはら・こぎちがふ・かたきのふねに・くまでをかつはと・なげかけ・おやこ四にん・いへのこらう
どう・十よにん・かたきの・ふねにのりうつりのりうつり・さんざんに・きつてまはり・けるに・おもてを・むかふる・ものぞ
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のち・しんちうなごんとももり・ふねのへに・すすみいで・だいおんじやうをあげて・てんぢくしんたんにも・にほんわがてうにも・かくれなき・めいしやうP506
ゆうしと・いへとも・うんのきはめは・ちからなし・いくさはけふぞ・かぎりやや・さぶらひども・いのちをば・いつのれうにか・
たばふべきと・のたまへば・ひだの三らうざゑもんかげつなみな・このごぢやううけたまはれとぞ・げぢしける・なかにも・ゑつちう
の-じらうびやうゑもりつぎ・すすみいでてまをしけるは・ちうばんどうのやつばらどもは・むまのうへにてこそ・くちはききさふらふとも・ふないくさには・
いつかてうれんつかまつりさふらふべき・ただうをのきに・のぼらむずるやうに・こそさふらはんずらめ・一々に・とつて・
うみへつけさふらひなんとぞ・まをしける・かづさのあく七びやうゑかげきよが・まをしけるは・げんじのたいしやう九らうは・せいちひさ
う・いろしろう・むかばのふたつ・さしあらはれて・ことにしるかんなるぞ・たとへこころこそたけくとも・せいが
ちひさかんなれば・なにほどのことか・あるべき・ただひつくんで・うみへいれよとぞ・まをしける・そののち・しんちうなごん
とももり・おほいとののおんまへに・まゐらせたまひて・まをさせ・たまひけるは・いつよりも・さぶらひどものきそくよげに・
みえてさふらふ・なかにもあはのみんぶしげよしこそ・ひごろにも・にず・けしきかはつて・みえてさふらへ・あはれきやつを・きり
さふらはばやと・まをさせたまひたりければ・おほいとのみえたることもなきに・いかでかさることのあるべき・さるにても・
しげよしめせとて・めされける・しげよしめゆひのひたたれに・ひをどしのよろひきて・おんまへにまゐりかしこまる・おほいとの・やや・
しげよしや・などひごろにも・にず・さぶらひどもにいくさのげぢをもせぬぞ・こころのかはりたるか・またおくしたるかと・のたま
へば・なにごとによつてか・おくしさふらふべきとて・むへんじにて・おんまへをまかりたつ・ちうなごん・あはれ・きやつを・き
らばや・きらばやとは・おもはれけれども・おほいとのの・おんゆるされなければ・ちからおよびたまはず・さるほどに・へいけは・
千よさうを・みてに・わかつ・せんぢんは・やまがのひやうとうじひでとほ・五百さう・二ぢんは・まつらたう三百よさう・ごじんは・P507
へいけのきんだち二百よさうに・のりたまふ・なかにも・やまがのひやうとうじひでとほは・九しう一の・つよゆみ・せいひやう・やつぎばや
の・てぎきなりければ・われにおとらぬ・せいひやう・五百よにん・すぐつて・ふねぶねにたて・さしつめ・ひきつ
め・さんざんに・いけるやに・げんじのたても・たまらず・よろひもかけず・いとほさる・げんじのかたには・ふせぎたたかふ
といへども・さんざんに・いしらまされて・こぎしりぞく・へいけいくさに・かちぬとて・つづみをうつて・ときをつくる・
されども・げんじのかたには・ぐんにぬけて・たたかふものこそ・おほかりけれ
遠矢の沙汰(あひ) 1110
さるほどに・とうごく・さがみのくにのぢうにんわだのこたらうよしもりは・ふねにはのらず・かげなるむまにのり・くがにひかへ・
とほやを・いけるに・なにものにても・三ちやうがうちにて・めにかくるほどのものを・いおとさずと・いふことなし・しらのの・
おほやを・しんちうなごんの・ふねのへのなみに・いうけて・そのや・こなたへ・かへしたまはらんとぞ・まねいたる・ちうな
ごん・このやをめしよせ・みたまへば・しらのに・くぐひのはをもつて・はいだりける・おほやの・十三そくふたつぶ
せの・なかざし・のまき一そくばかり・おいて・とうごくさがみのくにのぢうにん・わだのこたらうたひらのよしもりと・うるしをもつてぞ・
かきつけたる・そののち・しんちうなごん・いよのくにのぢうにんに・にゐのき四らうちかいへをめして・このやいかへせと・のたまへば・
うけたまはつて・わがゆみにうちつがひ・よつぴいて・ひやうといる・これも三ちやうよを・つつといわたし・わだが
うしろ二たんばかりへだてて・ひかへたるむさしのくにのぢうにん・いしさかのこたらうが・ゆんでのかひなに・くつまきせめてぞ・P508
いこうだる・三うらのひとびと・これをみて・わだどのは・われほどのおほやいるものなしと・のたまへども・いかへされて・はぢ
かきたまひぬと・わらはれて・わだおほきに・はらをたて・しうじう七八にんこぶねに・とりのり・へいけの・ふねのあた
りを・おしまはさせ・さしつめ・ひきつめ・さんざんにいけるに・つはものおほく・いころさる・そののちへいけのかたより
も・しらののおほやを・はんぐわんの・ふねのへに・いたてて・これもわだがやうに・あふぎをあげて・そのやこなたへ・
たまはらんとぞ・まねいたる・はんぐわん・このやを・ぬかせて・みたまへば・しらのにつるの・もとじろをもつて・はいだ
りける・おほやの・十四そく二ぶせの・なかさし・のまき一そく・ばかりおいて・いよのくにのぢうにん・にゐのき四
らう・たちばなのちかいへと・うるしをもつてぞ・かきつけたる・はんぐわん・ごとうびやうゑさねもとをめして・このや・いかへしつべきものは・
みかたにたれかあると・のたまへば・つよゆみ・せいひやう・いくらもさふらへども・かひ・げんじにあさりのよ一どのこそ・おん
わたりさふらへ・はんぐわんさらば・よ一めせとて・めされたる・をりふし・あさりどのはこぶねにのつて・おはしたり・はんぐわん
いかに・あさりどの・このや・いかへしたまひてんやと・のたまへば・たまはつて・みさふらはんとて・つまよりみて・これ
は・のもすこし・よわうさふらふ・やつかも・すこし・みじかうさふら〔ふ〕・おなじうは・よしなりがやをもつて・つかまつつて・げんざん
に・いらうずるさふらふとて・ぬりのに・くろほろはいだりける・おほやの十五そく二ぶせの・なかさし・ぬりごめどうの・ゆみ
にとつて・うちつがひ・よつひいて・ひやうといる・これは四ちやうよを・つつと・いわたし・しんちうなごんのふねのへ
に・すすんで・たつたる・にゐのき四らうが・うちかぶとをののかくるるほどに・とつと・いこまれ・ふねよりまつ
さかさまにうみへ・だうとぞ・いいれたる・なかにもあはのみんぶしげよしは・このひごろ・へいけにちうをいたしけるP509
が・ちやくしでんないさゑもんを・九らうはんぐわんに・いけどられ・おんあいのみちの・かなしさは・いま一どこをみむともや・おも
ひけん・みかたのあかはた・あかじるし・きりすて・かなぐりすて・しらはたしろじるしに・なつて・はんぐわんのせいにぞ・
くははりける・さてこそおほいとのも・しんちうなごんも・あはれ・きやつを・きるべかりつるものをと・こうくわいしたまへど
も・かひぞなき・そののち・そらより・しらくもひとむら・みえけるが・くもにては・なかりけり・ぬしなき・しらはた一
ながれ・まひさがり・はんぐわんの・ふねのへに・さをつけの・をの・つくほどに・みえて・またそらへ・まひのぼる・げんじの
つはものども・このよしをみたてまつつて・これほどに・八まんだいぼさつの・ごやうがうあらんうへは・などか・いくさに・かたざるべき
とて・いさみののしること・なのめならず
先帝の身投 1111
そののちいるかといふ・うを一二千がほど・へいけの・ふねのしたをはうて・とほる・おほいとの・みやこより・めしぐせられたり
ける・かもんのかみ・はるのぶとまをす・おんやうしを・めして・いるかは・つねにおほけれども・かかる・ためしは・いまだなし・
きつとかんがへて・まをせと・のたまへば・かしこまつてうけたまはる・かんがへて・まをしけるは・このいるか・はみとほりさふらはば・げんじ・
ことごとく・ほろびさふらひなんず・またはみかへらば・みかたの・おんいくさはあやうく・みえさせ・たまひてさふらふと・まをしもはてぬに・
いるかは・へいけの・ふねのしたよりも・ことごとく・はみかへりけり・さてこそ・おほいとのも・しんちうなごんも・けふをさい
ごとは・おもはれけれ・そののち・へいけ・はかりごとに・たうせんに・ざふにんをのせ・ひやうせんにへいけのきんだちのりたまふ・P510
げんじさだめて・たうせんをぞ・せめんずらむ・そのとき・ひやうせんをもつて・なかに・とりこめ・うたんとは・ぎせられけれ
ども・あはのみんぶしげよしが・かへりちうのうへは・たうせんは・いそやだうなに・ひやうせんをいよとぞ・をしへける・
したく・さうゐしてんげる・かのきしに・あがらむと・したまへば・げんじやさきをそろへて・まちかけたり・ひごろはみ
に・かはらんいのちにかはらむと・ちぎりし・つはものどもも・けふは・きみにむかつて・ゆみをひき・しうにたいして・たち
をぬく・すゐしゆかんどりどもは・ふなぞこに・いふせられ・きりふせられて・をめき・さけぶこと・なのめならず・げんぺいのくに
あらそひ・ただけふを・かぎりとぞ・みえし・そののち・しんちうなごんとももり・ごしよの・おんふねへ・まゐらせたまひて・まを
させたまひけるは・いまははや・みぐるしきものどもさふらはば・うみへいれさせたまへ・とて・はきのごひ・ちりひろひ
なんど・したまへば・にようばうたち・やや・ちうなごんどの・いくさは・いかにと・とはれければ・いくさはけふぞかぎり・いま
よりのちこそ・にようばうたちの・めづらしき・あづまをとこを・ごらんぜんずれとて・からからと・うちわらひたまへば・にようばう
たちこはいかに・これほどに・なりぬるうへは・なんのおんたはぶれぞやとて・こゑごゑに・をめきさけび・たまひける・
まことにもとぞ・おぼえたる・そののち二ゐどの・せんていを・いだきたてまつつて・おびにて・二ところしめ・つけたてまつりこれは・のちのよ
までも・おんたからと・ならむずればとて・しんじを・わきにはさみ・はうけんをこしに・さしつつ・わがみは・をんななりとも・
かたきのてには・わたるまじ・きみのおんともに・まゐるなり・きみにおんこころざし・おもひあはれんずる・ひとびとは・みなまゐり
たまふべしとて・にぶいろのきぬうちかづき・ねりばかまの・そばたかくとつて・ふなばたへこそ・いでられけれ・せんていは・こ
とし八さいに・ならせ・おはしましけるが・おんとしの・ほどよりも・はるかに・くまませ(イねびさせ)・たまひて・みぐしP511
も・おんせなか・すぎたまふ・ほどなりやまばといろのおんぞに・びんづらいはせ・たまへり・おんなみだに・おもれ・させ
たまひて・こはいづちへぞ・あまぜと・おほせければ・二ゐどの・いまだいとけなききみに・むかひたてまつつて・きみはいま
だ・しろしめされ・さふらはずや・十ぜんのかいごふによつて・いまばんじようのあるじとは・うまれさせ・たまひて・
さふらへども・あくえんにひかれて・ごうんすでに・つきさせたまひ・さふらひぬ・いまははや・いせだいじんぐうに・おん
いとままをさせたまひ・そののち・にしにむかはせたまひて・ごねんぶつさふらへと・なみだもせきあへず・まをさせたまひければ・
しゆじやう・いまだいとけなき・みこころに・まづひがしにむかはせたまひ・てんせうだいじんに・おんいとままをさせたまひ・そののち・にしに
むかはせたまひて・ごねんぶつ・さふらひける・に・二ゐどのこれは・しやばせかいとて・あまりにものうきところにて・さふ
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いりたまふ・かなしいかな・むじやうのはるのかぜ・はなのおんすがたを・さそひたてまつり・なさけなきかな・ぶんだんの・あらきなみ・りようがんを・
しづめたてまつる・でんをば・ちやうせいとなづけ・もんをばふらうとことよせしに・いまだ十さいをだにみたせ・たまはで・
うんじやうの・りうくだつて・たちまちに・かいていのうをと・ならせおはします・だいぼん・かうだいのかくのうへ・しやくたい・きけんのみや
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ども・いまはかいしやうの・ふねのほとりに・おんみを・一じに・ほろぼさせ・おはします
能登殿の最後 1112 P512
そののち・にようゐんも・つづいて・うみにいらせたまひけるを・わたなべの・げん五むまのぜう・つがふとまをすもの・こぶねをこぎよせ・
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もやり・たまはぬところを・いせの三らう・こぶねをこぎよせ・くまでを・おろして・まづ・ゑもんのかみを・かけて・ひきあげ
たてまつり・おほいとのは・いとど・しづみも・やりたまはず・これもとらはれ・たまひけり・おんめのとごの・ひだの三
らうざゑもんかげつね・なにものなれば・わがきみをば・とりたてまつるぞとて・おほたちをぬいて・うつてかかる・いせがわら
は・なかに・へだたつて・うちやうたり・かげつねが・うつたちに・わらはがくび・うちおとされ・いせも・あやうく
みえけるを・ならびのふねに・たちたりける・ほりのやたらうともひろ・なかざしとつてつがひ・よつぴいて・ひやうと
いる・をりふし三らうざゑもんが・ふりあをのいて・たつたりける・うちかぶとをしたたかに・いさせて・ひるむ
ところを・ほりいせが・ふねにのりうつり・三らうざゑもんと・むずとくんで・たがひに・うへになり・したになり・ころびあふ
ところを・ほりがらうどう・あまたおちあうて・かげつねがくびをば・とつてんげり・おほいとのひごろは・さしもみにかへて・
おもはれつる・ひだの三らうざゑもんかげつねさへ・おんめのまへにて・かくなれば・いとどこころぼそくぞ・おもはれける・
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に・のりうつり・のりうつり・おきよりいそ・なぎさよりおきへ・さんざんにないで・まはられけるに・おもてをむかふる・ものぞなき・つはものおほく・ほろびにけり・そののち・しんちうなごんとももり・のとどののかたへ・ししやをたて・いつたうつみな・つくりたまひP514
そ・しやつばらなればとて・いしいやつにても・なかりけりと・のたまひつかはされたりければ・のとどのさて
は・たいしやうと・くめと・ござんなれ・そのぎならば・いでくまんとて・またかたきのふねに・のりうつり・のりうつり・
たいしやうを・たづねられけるに・あやまたず・はんぐわんのふねに・のりうつり・のとどのたち・なぎなたをからりとすて・おほ
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のいたりける・みかたのふねに・つんとこえて・のりうつる・のとどの・はやわざやおとられけむ・つづいても・
こえたまはず・のとどの・いまこれほどに・うんのつきぬるうへはとて・かぶとをもぬいで・うみへなげいれ・よろひのこぐそく
きりすて・かなぐりすて・どうばかりきて・おほわらはに・なつてぞ・たたれたる・そののち・のとどの・だいおんじやう
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に・とさのくにのぢうにんに・あきのこほりを・ちぎやうしける・あきのたいりやうすけみつがこに・たらうさねみつ・じらうすゑみつとて・ともに・卅にんが・ちからもつたる・だいりきの・がうのものあり・らうどうの一にん・さふらひけるも・しうには・おとらぬ・くせ
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に・かのしゆばいしんが・にしきをきて・こきやうへかへりしことを・うらやみ・わうせうくんが・えびすのてにわたり・ここくへ・おもむきたつし・うらみまでも・おもひやられて・あはれなり
内侍所の帰洛
おなじき四ぐわつ三かのひ・さいこくよりのはやむま・みやこにつく・げん八ひろつなとぞ・きこえし・ほうわう・・おんつぼにめして・ぢきに・きこしめす・へいけのいけどりども・ならびに・しんじ・ないしどころ・いれまゐらするよし・そうもんしたりければ・ごかんの・あまりに・やがてさひやうゑのじやうにぞ・なされける・なほごふしんを・さんぜられんが・ために・そうはんぐわんのぶもりを・さいこくへ・くださる・のぶもりしゆくしよにもかへらず・れうの・おんむまをたまはつて・むちをあげて・はせくだる・おなじき十四かに・かへりまゐつて・ことのよしをぞ・まをしける・おなじき十六にち・九らうはんぐわん・いけどりども・あひぐして・はりまのあかしに・つきたまふ・なをえたる・うらなれば・ふけゆくままに・つきさへのぼる・あきのそらにも・おとらず・にようばうたち・さしつど
ひて・ひととせこれを・かよひしふねは・かかるべしとは・おもはざりしものを・などいひて・しのびねに・なきあはれ
ける・そちのすけどの・つきをながめて・いとおもひの・ますことなれば・まくらも・とこも・うきぬ・ばかりにて
ながむればぬるるたもとにやどりけり・つきよくもゐの・ものがたりせよ・ W
はんぐわんは・おなじあづまの・ぶしとは・まをしながら・もののなさけを・しれるひとなれば・いうにたへなる・ここちして・みに
しみてぞ・おもはれける・おなじき廿五にちに・しんじ・ないしどころ・とばへつかせ・たまふと・きこえしかば・おんむかひの・P517
ひとびと・くぎやうには・なかのみかどのむねいへ・かでのこうぢのちうなごん・つねふさ・つちみかどの・さいしやうちうじやうみちちか・でんじやうびとには・たかくらのちうじやうやすみち・えなみちうじやうきんあり・たじまのせうしやうのりよし・ごんさちうべんかねみつ・くらんどうゑもんのじようごんすけ・ちかまさなどぞ・まゐられける・さいこくよりの・おんとものぶしには・九らうたいふはんぐわんよしつね・あしかがくらんどよしかね・さぶらひには・どひのじらうさねひらとぞ・きこえし・そのよの・ねのこくに・ないしどころ・だいじやうくわんのちやうに・いらせたまふ・しんじとまをすは・しるしの-みはこなり・二ゐどの・わきに・はさみ・うみにいらせ・たまひしが・なみにうかうで・みえたまひしを・かたをかのたらうちかつね・とりあげたてまつる・はうけんはながく・うせてぞ・なかりける
あひ(爰に剣あり) 1114
二のみやも・みやこへ・いらせたまふ・このみやこそ・みやこにわたらせたまはば・みくらゐに・つかせたまふ・べかりしかども・へいけ・まうけのきみに・つかへまゐらせんとて・とりたてまつつて・さいこくへくだりぬ・されども・しさいなく・かへりのぼらせたまひけり・ならはぬ・たびのそらに・おもむかせ・たまひて・つかれ・くろませたまひけれども・べちのおんことも・なかりけ
れば・おんぼぎ・七でうのにようゐんも・おんめのと・ぢみやうゐんのさいしやうなども・いかばかりか・うれしく・お
もはれけん・やがて・にようゐんのごしよ・七でうばうじやうどのへ・いれまゐらせられけり・おなじき廿六にちに・へいけの・いけ
どりのひと・みやこへいりたまふとぞ・きこえし・おほいとののおんくるま・つかうまつるものは・としごろ・めしつかはれし・三らうまるとぞ・きこえし・おほいとのは・や二らうまる・三らうまるとて・二にん・めしつかはれけるが・や二らうまるは・一とせ・きそP518
がくるま・やりそんじて・ほうしに・なされ・ゆきがたしらずぞ・なりにける・三らうまるばかり・をとこになつて・にしのきやう
なる・ところにさふらひけるが・おほいとのの・けふみやこへ・いりたまふと・きこえしかば・とばにくだり・はんぐわんの・おんまへにまゐり・これは・おほいとのの・としごろ・めしつかはれさふらひし・三らうまるとまをすものにてさふらふ・しかるべくはおんゆるされ
を・かうぶりて・おほいとののさいごの・おんともをつかうまつりさふらはんと・まをしければ・はんぐわん・はやはやとてぞ・ゆるされ
ける・へいけのいけどりけふ・みやこへ・いりたまふと・きこえしかば・きやうちう・ならびに・ちかき・あたりより・きたり・あつ
まる・じやうげしよにん・とばの・きたのもんより・とうじのみなみのもんまで・ところもなく・つづいて・くるまはしぢを・めぐ
らさず・ひとはかへりみる・ことをえず・さんぬる・ぢしよう・やうわの・ききんえきれいに・ひとだねはみな・つきぬと・
おもひしに・なほのこるは・おほかりけり・ほとけのおんちゑならでは・かずへつくすべき・やうぞなき・おほいとの
には・じやうえをきせ・たてまつり・くるまの・ぜんごの・すだれをまかせ・さうの・ものみを・あげたりけり・ふし・ひとつ
くるまに・のりたまふ・おんこうゑもんのかみは・なみだににむせびて・うつぶして・おはしければ・おほいとのは・四はうをみまは
して・おもひいりたる・けしきも・おはせず・ときただのきやうのくるまも・おなじうやりつづけられたリ・三らうまるは・
なみだにむせびて・ゆくさきも・さらにおぼえず・くらのかみのぶもとも・どうしやして・いりたまふ・べかりしが・しよらうのここちと
て・かんだうより・いりたまふさぬきのちうじやうときざねは・きずをかうぶられければ・これも・べちのみちより・いりたまふ・さふらひには・しゆめのはんぐわんもりくにを・はじめとして・百六十三にん・しろき・ひたたれをきせ・くらのまへはに・しめつけ・しめつけ・わた
しけり・六でうをひがしへ・わたしたてまつる・くわうこんに・およんで・はんぐわんのしゆくしよ・六でう・ほりかはへ・いれたてまつる・しゆごP519
の-ぶしには・かたをかのたらうちかつね・いせの三らうよしもり・えだのげん三・げん八びやうゑなどぞ・さふらひける・ものまゐらせけれども・おんはしをだにも・とりあげたまはず・よにいりけれども・しやうぞくをも・くつろげたまはず・さてしも・あるべき・ならねば・おほいとのも・よりふしたまひけり・うゑもんのかみも・おんそば・ちかく・ふしたまひければ・おほいとの・
じやうえのそでを・うちかけ・まゐらせたまひけり・しゆごのぶしども・これをみたてまつつて・あはれおんあいのみちほど・か
なしかりける・ことあらじ・あのおんそでを・うちかけまゐらせ・たまひたらば・なにほどのことかあるべきとて・たけき
もののふなれども・みなそでをぞ・しぼりける・おなじき廿八にちに・かまくらひやうゑのすけ・じう二ゐ・したまひけり・さんぬる・
ぢしように・じうげの五ゐより・しやうげの四ゐに・うつりたまひき・をつかいとて・二かいを・あがるだに・ありがたき
に・これはすでに・三かいをこえたまへり・三みこそ・したまふべかりしかども・よりまさのきやうのれいをいみてなり・いまはかま
くらげん二ゐどのとぞ・まをしける
廻し文(あひ) 1115
なかにも・へいだいなごんときただのきやうを・はんぐわんのしゆくしよ・ちかく・おきたてまつらる・あるときだいなごん・しそくの・さぬきのちうじやうときざねに・むかつて・のたまひけるは・さても・とらるまじき・ふみを一かう・はんぐわんにとられたんなり・このふみ・かまくらへ・みえては・ひともあまた・いのちをうしなひ・わがみも・いのちたすかるまじ・こはいかがはせんと・のたまひけ
れば・さぬきのちうじやうの・いけんには・はんぐわんは・いろごのみにてさふらへば・おんむすめあまた・ましませば・いづれにても・P520
一にん・はんぐわんに・みせたまへ・したしうなつて・おほせられて・ごらんじさふらへかしと・まをされたりければ・だいな
ごん・このひごろは・むすめどもをば・いかなる・にようごきさきにも・たてむとこそ・おもひしに・いつしか・いまさやうに・
なみなみのものに・みすべしとは・つゆおもひこそ・よらざりしかとて・なみだにむせび・たまひけり・さぬきのちうじゃう
のこころには・たうふくの・おんむすめ・しやうねん十七に・なられけるを・はんぐわんにとは・おもはれけれども・だいなごん・それを
ば・なほいとふしきことにおもひ・たまひて・さきのうへのはらの・おんむすめ・しやうねん廿三に・なられけるを・はんぐわんに・
みせられけり・さかりこそ・すこしすぎられたりけれども・てうつくしう・かきて・じんじやうに・おはし
ければ・はんぐわんは・さきのうへ・かはごえがむすめも・ありけれども・これをば・なほいとふしみたてまつつて・ざしき・じんじ
やうに・しつらうて・おきたてまつらる・あるとき・このにようばう・くだんのふみのことを・のたまひいだされたりければ・はんぐわんさる-ことさふらふとて・ふうをも・とかずして・へいだいなごんどのへ・かへしまをされけり・だいなごんなのめならず・よろこびたま
ひて・やがて・ひにこそ・たかれけれ・いかなることをか・かきたまひたりけん・おそろし・おそろしとぞ・ひとまをしける
女院の御出家 1116
けんれいもんゐんは・さいこくより・たけきもののふの・てにわたり・ふたたび・みやこへ・かへりのぼらせ・たまひては・ひがしやまのふもと・よしだのほういん・きやうゑとまをす・ならほうしのばう・なりけり・すみあらして・としへにければ・にはには・くさふかく・のきP521
には・しのぶしげり・すだれたえ・ねやあらはにて・いづくに・あめかぜたまる・べしとも・みえざりけり・はな
はいろいろにほへども・あるじとたのむ・ぬしもなく・つきはよなよな・さしいれども・ながめてあかす・ひとも
なし・むかしは・たまのうてなを・みがき・にしきのちやうに・まとはれて・たへなるおんみにて・わたらせ・たまひたりしか
ども・いまはありとし・あるひとにもみな・わかれはてさせ・たまひて・あさましげなる・くちばうに・なくなく・たちいらせ・たまひ
ける・おんこころのうち・おしはかられて・あはれなり・みちのほどつき・まゐらせられける・にようばうたちも・みみの・すてが
たさに・いとままをして・みな・ちりぢりにこそ・なりたまひけれ・うをの・くがに・あがれるが・ごとし・とりのすを・
はなれたるより・なほかなし・うかりし・しま・なみのうへ・ふねのうちの・おんすまひも・いまはなかなか・おんこひしうぞ・おぼし
めされける・おなじ・そこのみくづとも・なりぬべかりし・みの・なにしにか・ひとりのこり・とどまつてと・
おぼしめせども・かひぞなき・てんにんの五すゐのかなしみは・にんげんにもありける・ものをとぞ・おほせける・さてしも・
わたらせ・たまふべき・ならねば・おなじき・五ぐわつついたちのひ・にようゐん・みぐしおろさせ・たまひけり・ごかいの・し
には・ちやうらくじのべつたう・あせうしやうにんいんせい(イにんせい)とぞ・きこえし・ごかいのふせには・せんていの・おんなほしとかや・しやうにん・このぎよいを・たまはつて・なんといふことばをば・いだされねども・ぎよいを・かほに・おしあてて・なみだに・むせびたまひけり・そのごまでも・めされたりし・ぎよいなれば・おんうつりがも・いまだ・つきさせたまはず・しか
るべき・おんかたみにもと・おぼしめされて・さいこくより・はるばると・もたせられたりしかども・いまは・ごかいの・
ふせに・なりぬべきものの・なきうへ・かつまた・かのぼだいのおんためにもと・おぼしめされて・なくなく・とりP522
ぞ・いださせたまひける・しやうにん・このぎよいを・はたにぬひて・ちやうらくじのしやうめんに・かけられて・いまにありとぞ・うけたまは
る・にようゐん十五にて・うちへまゐらせたまひ・十六にて・こうひのくらゐに・そなはり・くんわうの・かたはらに・さぶらはせ・たま
ひて よは・よを・もつぱらに・せさせ・おはします・あしたには・あさまつりごとを・すすめ・まゐらつ
させ・たまふばかりなり・廿二にて・わうじ・ごたんじやうあつて・くわうたいしに・たたせたまひ・廿五にて・ゐんがう・
かうぶらせ・たまひて・けんれいもんゐんとぞ・まをしける・ことしは・廿九に・ならせ・おはします・たうりのおんよそほひ・な
ほ・こまやかに・ふようの・おんかたちの・いまだ・おとろへさせ・たまはねど・いまは・ひすゐの・おんかんざしを・つけても・なにに
かは・せさせたまふべき・なれば・なくなく・みぐし・おろさせ・たまひけり・おんよを・いとひ・まこと
のみちに・いらせたまふとは・まをせども・おんなげきは・いまだ・つきさせ・たまはず・ひとびとの・いまはかうとて・うみ
に・しづみたまひし・ありさま・せんていの・おんおもかげ・いつのよにか・わすれまゐらつさせ・たまふべきなれば・さつき
の・みじかよなれども・あかしかねさせ・たまひて・おのづから・うちも・まどろませ・たまはねば・むかしのことを
ば ゆめにだにも・ごらんぜず・かべにそむけたる・のこりのともしびのかげ・かすかにかかげつつ・よもすがら・
くらき・まどを・うつあめのおと・しづかなり・じやうやうじんが・じやうやうきうに・とぢこもられたる・さびしさも・これには・す
ぎじとぞ・みえし・むかしをしのぶ・つまとなれ・とてや・もとの・あるじが・うゑおきし・はなたちばなのありける
が・かぜなつかしく・かをりける・をりふし・やまほととぎす・しきりに・おとづれて・すぎければ・にようゐん
ほととぎすはなたちばなのかをとめて・なくはむかしのひとやこひしき・ W P523
にようばうたちは・二ゐどののやうに・さのみ・たけく・うみにも・しづませ・たまはねば・たけきもののふの・てにわた
り・ふたたびみやこへ・かへりのぼらせ・たまひても・あるにも・あられぬ・さまにて・あるひは・かたちをやつし・さまをか
へ・おもひもかけぬ・たにのそこ・いはのはざまにて・あかしぞ・くらさせ・たまひける・すまひしやどはみな・けぶり
とのみ・たちのぼりにしかば・むなしきあとのみ・のこつて・しげきのべとぞ・なりにける・ひごろみなれし・
ひとのとひくるも・なく・ただせんかよりかへつて・七せのまごに・あひけむも・これには・すぎじとぞ・みえし
あひ 1117
へいけ・ほろびて・のちは・くにぐにもしづかに・みちをかよふに・わづらひなく・みやこもおだしかりければ・あはれ・このはんぐわんほどの・ひとこそ・おはせね・されば・かまくらのげん二ゐどのは・なにごとか・しいだしたまへる・かうみやうある・はんぐわんのよにて・あはれ・しばらくも・あらばやなんど・じやうげまをしあへりけり・かまくらのげん二ゐどの・このよしを・つたへききたまひて・
これにて・よりともが・ずゐぶん・はかりごとを・めぐらしたればこそ・へいけはたやすく・ほろびたれ・九らう一にんしては・いかで
かかなふべき・しかるに・さしもの・てうてき・へいだいなごんの・むこになること・こころえられず・まただいなごんの・むこ
どりも・おほきに・しかるべからず・いかさまにも・こんど・くだつたらば・さだめて・くわぶんの・ふるまひを
ぞ・せむずらんと・ないないこころよからずぞ・きこえしP524
副将 1118
おなじき・五ぐわつなぬかのひ・九らうたいふのはんぐわんよしつねは・おほいとのふしを・ぐそくし・たてまつつて・くわんとうへ・くだらるべしとぞ・きこえし・おなじき六かのひの・くれかたに・おほいとの・はんぐわんのもとへ・ししやをたてて・まことにてさふらふや・みやうにちすでに・くわんとうへ・くだらるべしとやらん・うけたまはりさふらふ・さらんにとつては・だんのうらの・いけどりのうちに・八さいのわらはと・しるされてさふらふは・いまだ・このよにさふらふやらん・あはれ・おんゆるされを・かうぶつて・いま一どみさふらはばやと・のたまひつかはされたりければ・はんぐわんは・よろづになさけあるひとにて・おはしければ・やすきおんこと
さふらふとぞ・のたまひける・このわかぎみをば・かはごえのこたらうしげふさが・あづかりたてまつつて・めのと・かいしやくとて・にようばう二にんぞ・つきたりける・はんぐわん・このよしを・かはごえがもとへ・のたまひつかはされたりければ・わかぎみ・二にんのにようばうども・ひとつくるまに・のせたてまつつて・おほいとのの・おんかたへ・いれたてまつる・わかぎみはるかに・ちちをごらんぜねば・いそぎおんひざへ・まゐられけり・おほいとの・わかぎみのかみ・かきなで・しゆごのぶしに・むかつて・のたまひけるは・これみたまへや・ひとびと・このこがははは・このこをうむとて・なんざんしてしにぬ・さんをば・たひらかに・したりしかども・やがてう
ちふし・なやみしが・わらはが・なからむのち・いかならむひとに・あひぐせさせ・たまひて・をさなきひとを・
まうけて・ましますとも・このこをば・おんめのまへにて・そだておき・わらはが・なからむのちの・よの・かた
みにも・ごらんぜよ・なんど・いつしが・ふびんさに・てんかに・ことのいできたらむずるときは・あのゑもんの-P525
かみに・たいしやうぐんを・せさせ・これには・ふくしやうぐんを・せさせむずれば・なをふくしやうと・つけんなんど・いつしか
ば・なのめならず・よろこび・いまはのときまでも・なをよび・なんどして・あいせしが・七かといつしに・つひ
にはかなく・なりたるぞとよ・されば・このこをみるたびに・そのことのおもはれてとて・なみだにむせびたまへば・ゑ
もんのかみも・なかれけり・二にんの・にようばうも・なみだをながし・しゆごのぶしどもみな・よろひのそでをぞ・ぬらしけ
る・おほいとの・うれしうもみつ・いまはとく・かへれかしと・のたまへば・わかぎみいなや・かへらじとてぞ・なかれ
ける・ゑもんのかみたつて・いかに・ふくしやうよ・こよひは・これに・みぐるしきことの・あらむずるぞ・まづかへつ
て・あすとく・まゐるべしと・のたまへども・わかぎみいなや・かへらじとて・ちちのごじやうえの・そでに・ひしと・とりつ
いてぞ・なかれける・さてしも・あるべきならねば・わかぎみ・二にんのにようばうともに・ひとつくるまにのせ・たてまつつて・
いだしたてまつる・おほいとの・わかぎみの・おんうしろを・はるばると・ごらんじ・おくらせ・たまひて・ひごろの・おもひなげきは・こと
のかずならずとてぞ・なかれける・ははのゆゐごんが・ふびんさに・めのとなんどのかたへ・さしはなつても・つ
かはさず・めのまへにて・そだて・三さいのとし・かぶりたまはつて・よしむねとぞ・なのらせける・おひたちたまふ・
ままに・みめかたち・ならびなく・こころざま・すぐれて・おはしければ・おほいとのことに・さいあいし・たまひて・
こんど・さいかいの・たびのそら・ふねのうちまでも・ひきぐしたてまつつて・つひにへんしも・はなれたまはざりしが・いくさやぶれて・
四十よにちとまをすには・けふぞはじめて・みたまひける・おなじき七かのひの・まんだあさ・かはごゑ・はんぐわんにまをしけるは・
さて・あのをさなきひとをば・なんとしたてまつる・べきひとにてさふらふ・やらんと・まをしたりければ・はんぐわん・このあつ
きP526なかに・をさなきものを・はるばると・かまくらまで・ぐしてくだるに・およばねば・ここにて・なにとも・よきや
うに・はからふべしと・のたまへば・かはごえ・よきやうに・はからへとは・いよいようしなひたてまつるべき・ひとぞと・
こころえて・やどにかへつて・みければ・わかぎみは・いまだ・二にんのにようばうと・ねたまへり・かはごえ・二にんのにようばうに・
むかつて・まをしけるは・おほいとのはけふすでに・くわんとうへ・おんくだりさふらふ・しげふさも・はんぐわんの・ともにてまかりくだりさふらふが・わかぎみをば・けさよりして・をがたの三らううこれよしが・あづかりたてまつるべきにて・おんむかへのおんくるま・よういつかまつてさふらふ・とうとうと・まをしたりければ・二にんの・にようばうこれを・まことぞと・こころえて・いまだねいり・たまへる・をさなきひと・おしおどろかし・たてまつつて・いざさせたまへ・おんむかへのおんくるまのまゐりて・さふらふにと・まをしたりければ・わかぎみさては・きのふのやうに・ちちのおんかたへ・まゐらんずるが・うれしさよ・とくいでむとぞ・のたまひける・さるほど
に・わかぎみ・二にんのにようばうども・ひとつくるまにのせたてまつり・六でうをひがしへ・かはらに・くるまをやりとどめ・しきがはしいて・わかぎみすでに・だきおろし・たてまつらんとす・二にんのにようばう・ひごろより・かかるべしとは・おもひまうけし
ことなれども・さしあたつては・かなしくて・こゑをあげてぞ・かなしみける・わかぎみおほきに・あきれさせたまひ
て・おほいとのは・いづくにぞと・のたまへば・ただいまいらせたまひさふらふ・これにて・まちまゐらつさせ・たまふべしとて・
おんくるまより・だきおろしたてまつつて・しきがはの・うへに・おきたてまつるかはごえが・らうどう・たちをぬいて・ひきそば
め・おんうしろに・たちまはりければ・わかぎみこれを・ごらんじて・いまいくほど・たすかりたまふべきやうに・いそぎ
にげさせたまひ・めのとがふところに・かほさしいれてぞ・なかれける・二にんのにようばう・さらばまづ・われをうしな
ひP527て・さてをさなきひとをば・ともかうも・なしまゐらつさせ・たまふべしとて・をめきさけぶこと・なのめならず・
かはごえも・さすが・いはきならねば・あはれに・おもひまゐらせ・けれども・さてしも・あるべき・ならねば・らうどうに・
めを・おそしと・みあはせければ・こんどは・たちにては・かなはじとや・おもひけむ・こしのかたなをぬき・めの
とがふところに・かほさしいれて・なかれける・をさなきひとを・あらけなく・ひきいだしたてまつつて・みかたなさいて・
くびを・とる・ことしは・八さいにぞ・なられける・くびをば・はんぐわんに・みせたてまつらんとて・もたせてゆけば・
むくろは・むなしう・かはらにあり・二にんのにようばう・かちはだしにて・はんぐわんのしゆくしよに・ゆきむかひ・なにかはく
るしう・さふらふべき・をさなきひとの・おんくびたまはつて・おんぼだいをなりとも・とぶらひ・まゐらせ・さふら
はばやと・なみだもせきあへず・まをしたりければ・はんぐわんは・よろづになさけあるひとに・て・とうとうとてぞ・いだされけ
る・二にんのにようばう・をさなきひとの・おんくびたまはつて・なくなくそこをば・いづるとぞみえしが・ゆきがたしらずぞ・な
りにける・そののち・五六にちありて・にようばうの・二にん・かつらがはへ・みなげたる・ものありけり・をさなきひとの・おん
くびふところにいれて・しづみたるは・めのとなり・おんしがいいだきたてまつつて・しづみたるは・かいしやくの・にようばうなり・
めのとが・みをなげたらむは・いかがせん・かいしやくの・にようばうさへ・みをなげけるこそ・あはれなれ
腰越 1119
さるほどに・九らうたいふはんぐわんよしつねは・おほいとのふしを・ぐそくしたてまつつて・かまくらへこそ・くだられけれ・みちすがら・P528
おほいとの・はんぐわんへ・のたまひけるは・あはれこんど・むねもりおやこがいのちを・まをしてたすけさせ・おはしましさふらへかしと・のたまひければ・はんぐわんさんさふらふ・こんどの・いくさのくんこうには・おんふたところの・おんいのちをまをして・たすけたてまつらばやとこそ・ぞんじさふらへ・ただしおきのかたへ・ながしたてまつらるべう・もやさふらふらんと・まをされたりければ・おほいとの・たとへいかなる・あくる(イろくろ)・つがる・そとのはま・えびす・が・すむなる・ちしまなりとも・むねもりおやこが・いのちだにあらばと・のたまひけるぞ・いとほしき・かくてくにぐに・しゆくじゆく・うちすぎ・うちすぎ・くだりたまふほどに・をはりのくに・のまのうつみにも・なりしかば・はんぐわんは・ここはちち・よしともの・ほろびたまひしところなればとて・おほいとのふしを・むまより・おろしたてまつつて・はかのまへを・かなた・こなたへ・七たびまで・ひきまはしたてまつり・そののち・はんぐわん・はかのまへに・かしこまり・ねがはくは・くわこしやうりやう・このこころざしをもつて・九ほんあんやうのじやうどへ・いんぜふしたまへと・まをされけるこそ・あはれなれ・またおほいとのふしを・むまにかきのせたてまつつて・やうやう・くだりたまふほどに・するがのくに・うきしまがはらにも・なりしかば・おほいとの・こまをひかへて
しほぢよりたえずおもひをするがなる・みはうきしまになをばふじのね(イ名は浮島に身をば富士の嶺) W
おんこゑもんのかみ
われなれやおもひにもゆるふじのねの・むなしきそらのけぶりばかりは・ W
さるほどに・はんぐわんは・三かぢより・ひとをさきだてて・かまくらへあんないを・まをされたりければ・げん二ゐどの・まづ・かぢ
はらをめして・けふ・九らうが・かまくらいりすなるぞ・いかさまにも・くわぶんのふるまひをぞ・せんずらん・さぶらひどもめすP529
べしと・のたまへば・かぢはらうけたまはつて・かまくらちうを・はせめぐりて・もよほしけるに・かまくらちうの・だいみやう・せうみやう・はせあつまつて・げん二ゐどのを・しゆごしたてまつる・げん二ゐどのまた・かぢはらをめして・まづ・かねあらひざはに・せきすゑさせよと・のたまへば・かぢはらうけたまはつて・ふし三き・五百よきにて・ゆきむかひ・かねざはに・せきすゑさせ・おほいとのふしをうけとりたてまつつて・それより・はんぐわんをば・こしごえへ・おつかえし・たてまつる・そののち・おほいとのふしをば・かまくらちうへ・いれたてまつつて・げん二ゐどのすまれける・つぼをへだてて・たいのやに・おきたてまつり・ひきのとう四らうよしかずをもつて・のたまひ・つかはされけるは・まつたう・よりとも・へいけに・いしゆ・おもひたてまつらずさふらふ・そのゆゑは・さんぬる・へいぢに・たうけのために・いけどられ・すでに・ちうせらるべかりしを・こいけのぜんにの・やうやうに・まをして・しざいを・るざいに・しよ
せらるるところなり・たとへ・ぜんにばかりこそ・あはれませたまひ・さふらふとも・こにふだう・しやうごくの・おんあはれみなくては・いかでか・よりともが・かひなきいのちの・たすかりさふらふべき・しかりとはまをせども・かやうに・てうてきとなりたまひぬるうへは・つゐたうしたてまつれとの・ゐんぜんをかうぶつて・ことごとくほろぼし・まゐらせさふらひぬ・されども・かやうに・まのあたり・ご
げんざんに・いつつとこそ・かねてはぞんじさふらはねと・のたまひつかはされたりければ・おほいとの・ゐなほり・かしこま
つて・きかれけるこそ・くちをしけれ・ひごろ・へいけに・ほうこうせしともがらどもの・いま一どよに・あらむとて・かまくら
に・はせくだつて・さふらひけるが・このよしをみたてまつつて・あなあさましあの・おんこころにて・わたらせ・たまへばこそ・こん
ど・さいかいのなみの・そこに・しづみたまふべき・ひとの・いのちいきて・これまでは・はるばるくだらせ・たまひたんな
れ・されば・ただいま・ゐなほり・かしこまつて・ききたまひたらば・そも・たすからせ・たまふべき・おんみか・な
んどP530おのおの・つまはじきをして・あざみ・あへれば・そのうちに・すこしこころえたる・ものの・まをしけるは・まうこしん
ざんに・あるときんば・はくじゆう・ふるひをののき・かんせいの・なかに・あるときは・ををうごかして・しよくを・もとむといふ・ほんもん
あり・されば・いかにたけきつはものなれども・かたきのてに・とらはれぬれば・こころは・かはるならひなり・されば・
ただいま・おほいとのの・わるびれ・たまふもことわりなりと・まをしてこそ・はぢをば・よそにて・たすけけれ・さるほどに・
はんぐわんは・こしごえに・おはしけるが・いかさまにも・こんどかまくらに・くだつたらば・しよしよのかつせん・まいどのかうみやう・
たづねかんぜられんずるかと・おもひたれば・あまさへ・かまくらちうへ・だに・いれられざるこそ・ぞんぐわいの・しだいなれ・
いかさまにも・これは・かぢはらが・かすめまをすにこそ・あんなれとて・まつたう・おんために・やしんを・さしはさま
ざるむねを・きしようだいに・のせられて・すつうのじやうをかき・しんじやうせらる・なかにも・べつして・一ふでなげき・まをさ
るるむねあり・そのじやうにいはく・みなもとのよしつね・おそれながらつつしんでまをしあげさふらふいしゆは・ごだいくわんのその一と・えらばれ・ちよくせんのおつかひとして・てうてきをたひらげ・くわいけいのはぢをすすぎ・ちうしやうおこなはるべきところに・ここうのざんげんによつて・ばくだいのぐんこうを・もだせらる・よしつねをかしなうして・とがをかうぶり・こうあつて・あやまりなしといへども・むなしく・こうるゐにしづむ・ざんしやのじつぷを・ただされず・あまさへ・よしつね・かまくらちうへだに・いれられざるあひだ・しさいをのぶるに・あたはず・いたづらにすじつをおくる・このときにいたつて・おんがんをはいしたてまつらずんば・こつにくどうばうのぎ・ながくたえ・しゆくうんきはまりて・むなしきに・にたるか・はたまた・ぜんぜの・しゆくいんを・かんずるか・こばうこん・そんれいさいたん・したまはずんば・いづれのひか・ぐいのひ
たんP531を・まをしひらかん・たれのひとか・あいれんをたれんや・ことあたらしきまをしじやうかつじゆつくわいに・にたりと・いへども・よしつね・しんてい・はつぷを・ぶもにうけ・いくばくの・じせつをへずして・こさまのかうのとの・ごたかいのあひだ・みなしごとなりはてて・ははのふところに・いだかれ・やまとのくに・うだのこほり・りようもんのまきに・おもむきしより・このかた・一じつへんしも・あんどのおもひに・ぢうせず・
いのちはそんずと・いへども・みを・ざいざいしよしよに・かくし・へんどをんごくを・すみかとして・いやしき・どみん・はくしやうらに・ぼ
くじゆ・せらる・かうけいたちまちに・じゆんじゆくして・へいじ・つゐたうのうつてに・しやうらくせしむる・てあはせに・きそよしなかを・
ちうりくし・へいけを・ほろぼさんために・さいこくに・はつかうして・あるときは・ががたる・がんせきに・むかつて・しゆんめに・むち
をうつて・かたきのために・みをほろぼさむことを・やまず・あるときは・まんまんたる・かいしやうにうかび・ふうはの・なんをしのいて・みをかいていに・しづめんことを・かへりみず・かばねを・けいげいのあぎどに・かけんとせしこと・どどなり・しかのみならず・かつちうをまくらとし・きうせんをげふとする・ほんいは・こばうこんそんれいの・おんいきどほりを・やすめたてまつらんと・おもふよりほかは・またたじなし・あまさへ・よしつね・五ゐのじように・ふにんのでう・たうけのぢうしよく・なにごとか・これにしかんや・しかりといへども・いまうれへふかく・なげきせつなり・このときにいたつて・ぶつじんのおんたすけにあらずんば・いかんか・しうそをたつせむ・まつたう・おんためにやしんを・もたざるむね・しよじ・しよしやの・ほういんのうらをもつて・にほんこくちうの・だいせうのじんぎ・みやうだう・しやうじ・おどろかしたてまつつて・すつうの・きしやうもんをかき・しんじやうすと・いへども・なほもつて・ごいうめんなくんば・にほんはこれ・しんこくなり・たのむところ・たにあらず・ひとへにきでんくわうだいのじひを・あふぎ・びんぎをうかがつて・かうもんに・たつせられ・あやまりなきむねを・いうせられ・ごはうめんにあづからば・しやくぜんのよけい・かもんにつたへ・えいぐわをながく・しそんにのこさむ・よつてねんらいの・しうびをP532
ひらいて・まさに一ごの・あんねいをえん・しよしにつくさず・しかしながらせいりやくせしめをはんぬ・よしつね・きようくわうきんげん・げんりやく弐ねん・六ぐわつ五かのひ しんじやう ゐなばのかみどのへとぞかかれたる
大臣殿のきられ 1120
このじやう・じやうぶんに・たつせずもや・ありけん・とかうの・ごへんじも・なかりければ・はんぐわん・のたまひけるは・さきにうまれたを・あにといひ・のちにうまれたを・おととといふにてこそあれ・よをしらむには・たれかは・おとるべき
と・よにも・ほいなげにこそ・のたまひけれ・おなじき六がつ十二にちに・九らうたいふのはんぐわんよしつね・また・おほいとのふし
を・うけとりたてまつつて・みやこへ・かへりのぼられけり・みちすがら・おほいとのゑもんのかみに・むかつて・われらこんど・かまくらにて・きられんずるかと・おもひたれば・おもひのほかに・いのちたすけられぬることよと・のたまへば・ゑもんのかみ・なにごと
によつてか・たすけられさふらふべきとて・おほいとのにも・ねんぶつを・すすめたてまつり・わがみもいつかう・ごせぼだいの・つ
とめをのみぞ・したまひける・みの・をはりにも・なりしかば・おほいとのまた・ゑもんのかみに・むかつて・いまはわれら・
おやこが・いのちの・たすからむずるに・こそと・のたまへば・たうじは・あつきころにてさふらへば・くびのそんぜぬやう
を・はからうて・みやこちかきところにてぞ・きられさふらはん・ずらむとて・いつかうごせぼだいの・つとめをのみぞ・
したまひける・おなじき・廿二にちに・あふみのくに・しのはらにこそ・つきたまひけれ・そのあさより・おほいとの・ふしを・ひ
きわけたてまつつて・ところどころに・おきたてまつらる・さてこそ・おほいとのも・ゑもんのかみも・けふを・さいごとは・おもはれけれ・P533
はんぐわんは・よろづになさけあるひとにて・おはしければ・一にちぢより・さきに・みやこへひとを・のぼせて・ぜんちしきのひじりを・たづねさせらる・をはらの・ほんしやうばうたんがうとぞ・きこえし・おほいとの・ぜんちしきのひじりに・むかつて・のたまひけるは・われら・こんど・さいかいのそこに・しづむべかりしみの・いけどりにせられて・きやう・ゐなか・ひきしろはれ・はぢをさらしさふらふことも・あのゑもんのかみをおもふゆゑなり・たとへくびをこそ・とらるるとも・むくろは・ひとつところに・ふさむとこそ・
おもひしに・ところどころにて・しなんことこそ・かなしけれと・のたまへば・ぜんちしきのひじり・さな・おぼしめ
されさふらひそ・もとより・このところは・しやうじやひつめつのくになれば・いけるものは・かならずしし・あふものはさだめて・わかるるならひなり・されば・じんのしくわうのをごりを・きはめしも・つひには・りざんのつかに・うづもれ・かんのぶていの・いのちををしまれしも・つひには・もりやうのこけに・くちにき・たのしみはこれ・かなしみのもとゐなり・しやうはすなはち・しのいんなり・きみは・こんねん三十九に・ならせ・おはします・そのおんあひだのことどもを・あんじつづけて・ごらんじさふらへ・ただ一やのゆめのごとし・たとへ・いまよりのち・七十・八十を・たもたせ・たまひさふらふとも・それも・ほどやは・さふらふべき・かたじけなくも・みかどの・ごぐわいせきにて・しようしやうのくらゐに・いたらせ・たまひぬれば・ごえいぐわ・のこるところも・さふらはず・しやくそん・いまだ・せんだんのけぶりを・まぬかれたまはず・いはんや・ゑんぶふぢやうのさかひに・おいてをや・てんにんなほ・またおとろへのひにあへり・とこそみえられてさふらへ・されば・ほとけも・がしんじくう・ざいふくむしゆ・くわんじんむしん・ほふふぢうほふとも・とかれてさふらふなり・いかなる・みだなれば・おこしがたき・せいぐわんをおこして・われらを・いんぜふしたまふらん・いかなる・われらぞや・おく
おくまんごふより・このかた・しやうじに・るてんして・いまだ・しゆつりのごをいでず・こんどたからのやまにいつて・てをむなし
うP534・せさせおはしまさんこと・おんなげきのなかの・おんなげきなるべし・あひかまへて・よねん・おこさせたまふなとて・しきり
に・かねうちならし・ねんぶつを・すすめたてまつる・おほいとの・たちまちまうねんひるがへし・かうしやうに・ねんぶつす百ぺん・となへたまひて・
さらばとく・きれやとて・くびをのべてぞ・またれける・きりては・たちばなうまのじようきんながとぞ・きこえし・きんなが
たちをぬいて・ひきそばめ・おんうしろに・たちまはりければ・おほいとの・ごらんじて・ゑもんのかみも・すでにかうかと・
のたまひもあへず・くびはまへにぞ・おちにける・このきんながとまをすは・ひごろ・しんちうなごんどのの・めしつかはれけるところの・
さぶらひなり・いま一どよに・あらんとて・かまくらに・はせくだつて・いひけるが・一けのしうのくびを・うつ・にくまぬ
ものこそ・なかりけれ・そののち・ぜんちしきのひじり・ゑもんのかみの・おんかたにおはしたり・ゑもんのかみ・ぜんちしきのひじりにむか
つて・のたまひけるは・さて・おほいとののさいごの・おんありさまは・いかにと・とひたまへば・ぜんちしきのひじり・さもゆゆ
しうこそ・みえさせ・おはしまして・さふらひつれと・のたまへば・ゑもんのかみ・なのめならず・よろこびたまひて・十ねんう
け・さらば・とくきれやとて・くびをのべてぞ・うたせられける・きりては・ほりのやたらうあさひろとぞ・きこえし・
まことにをしかるべし・ことしは・十七にぞ・なられける・くびをば・はんぐわん・もたせて・みやこへ・のぼらる・むくろは・
ちしきのひじりと・きんながが・さたとして・ひとつところに・ほりうづみ・そとばをたててぞ・のぼりける・おなじき二十
三にちにけびゐし・二にん・三でう・かはらに・ゆきむかひ・おほいとのふしの・かうべ・うけとりたてまつつて・三でうをにしへ・
わたしたてまつる・かかりければ・ほうわうも・三でう・にしのとうゐんに・みくるまをたてて・えいらんある・そのほか・ぐぶの・くぎやう・
でんじやうびとの・くるまをも・おなじう・たてぞ・ならべられたる・このひとびとは・この・ひごろ・さしも・おんまへちかう・ま
ゐりP535あはれし・ともがらなれば・いつしか・あはれに・おぼしめして・りようがんに・おんなみだ・せきあへさせ・たまはず・
だいじんいじやうのかうべ・おほぢを・わたさるること・てんぢくしんたんはしらず・にほんわがてうに・おいては・これはじめとぞうけたまはる・
さいこくより・かへりのぼらせたまひては・いきて・六でうをひがしへ・わたされ・とうごくより・かへりたまひては・しんで・三
でうをにしへ・わたさる・いきてのはぢ・しんでのはぢ・まをすばかりもなかりけり
P536

平家物語(城方本・八坂系)
巻第十二 P536
重衡のきられ 1201
さるほどに・ほん三みのちうじやうしげひらのきやうをば・いづのくにのぢうにん・かののすけ・むねもちが・あづかりたてまつつて・こぞより・い
づにぞ・おはしける・ならを・ほろぼしたまへる・がらんのかたきとて・たいしゆしきりに・まをしければ・さらば・わたし
たてまつれやとて・こんどは・げん三み・よりまさにふだうのばつし・いづのくらんどのたいふよりかね・うけとりたてまつつて・なんとへこそは・
わたしけれ・こんどは・みやこのうちへは・いれられず・やましなより・だいごぢに・かかられければ・ひのも・しだいに・
ちかくなる・このきたのかたとまをすは・とりかひの・ちうなごんこれざねのきやう・おんむすめ・五でうのだいなごん・くにつなのきやうのやうし・せんていの
おんめのと・だいなごんのすけどのとぞまをしける・さいこくより・たけきぶしのてに・わたり・ふたたびみやこへ・かへりのぼらせたまひて
は・あねのたいふ三みのつぼねと・どうしゆくして・このひのといふところに・ぞ・おはしける・三みのちうじやう・しゆごのぶしに・
むかつてのたまひけるは・このひごろおのおのに・なさけをかけられて・わすれがたうは・おぼゆれども・いま一ど・さいごのはうおん
に・あづからばやと・おもふは・いかがあるべきとのたまへば・しゆごのぶしども・なにごとにてさふらふやらんと・まをしたりけ
れば・三みのちうじやう・べちのやうはなし・ひごろあひなれし・にようばうの・このひのと・いふところに・ありときく・P537
うちすぎさまに・たちよつて・ごせの・ことどもも・いひおかばやと・おもふは・いかがあるべきと・のたまひければ・
しゆごのぶしども・やすきおんことさふらふとて・ひと・さきにまゐつて・これに・だいなごんのすけどのと・まをす・にようばうや・おんわた
りさふらふ・三みのちうじやうどのの・ならへ・おんとほりさふらふが・いささか・ごげんざんのために・いらせ・たまひてさふらふと・まをしたりけ
れば・きたのかたいづくや・いづらとて・はしりいでて・みたまへば・あゐずりのひたたれに・をりゑぼし・きたるをとこの・
やせ・くろみたるが・えんに・よりゐたるぞ・そなりける・きたのかた・いかにや・これへこれへと・のたまへば・三み
のちうじやう・みすうちかづきて・いりたまふ・たがひに・てにてを・とりくみ・いかにやと・いはんと・すれば・なみだに
て・しばしはものをも・のたまはず・ややあつて・三みのちうじやう・なみだを・おさへて・のたまひけるは・こんど・しげひら・
いちのたににて・いかにも・まかりなるべう・さふらひしみの・一にん・いけどりに・せられて・きやうゐなか・ひきしろはれ・うき
はぢを・さらし・さふらふだにも・こころうきに・はては・ならを・ほろぼしたる・がらんのかたきとて・ただいまわたされ・
さふらふぞや・いかばかりか・つみ・ふかう・さふらはんずらむ・たとへ・いかなる・おんありさまにても・わたらせたまへ・しげ
ひらがごせ・とふらうて・たばせたまへと・なみだも・せきあへず・のたまひければ・きたのかたまことに・こぞの・きさらぎ六
かのあかつきを・かぎりとも・しらずして・わかれたてまつりぬれば・やがて・いかにもなりぬべかりしみの・おほいとの
も・二ゐどのも・きみをば・いかでか・すて・まゐらつさせ・たまふべきと・やうやうにせいし・たまひしうへ・されば・と
て・また・このよに・なきひとと・なりたまひたりとも・きこえざりつるほどに・たがひに・かはらぬ・すがたをも・いま一ど・
みえ・たてまつることもや・あらんずらむと・おもひてこそ・いままでも・ありつれ・いまよりのちは・ながきわかれと・ならんP538
ことこそ・かなしけれと・のたまへば・三みのちうじやう・たれも・かはらぬすがたを・たがひに・みえ・たてまつりぬれば・
いまはしでのやまぢをも・たやすく・こえゆきなんと・おもふのみこそ・うれしけれ・なごりは・よを・かさね・ひを
かさぬとも・つきすまじ・これよりなんとも・ほど・とほうさふらへば・ぶしの・まつらんも・こころなし・さらば・いとま・まをし
てとて・すでにいでんとしたまへば・きたのかた・めしてさふらふものの・しほたれて・あまりに・みぐるしうさふらへば・これを・
めせとて・しろこそでに・じやうえそへて・たてまつらる・三みのちうじやう・これを・きかへたまひて・もと・きたまひたる・
ものをば・なからんのちのよの・かたみにも・ごらんぜよ・とて・さしおきたまへば・きたのかたなからんのちのよの・かた
みには・むなしき・ふでのすさみこそ・ならんずれとて・おんすずり・とりいだしたまへば・三みのちうじやう・すみすり・
ふでそめて
せきあへずなみだのかかるからころも・のちのかたみにぬぎぞかへぬる・
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三みのちうじやう・さらば・いとま・まをしてとて・すでにうちいでたまへば・きたのかた・さるにても・いましばしとて・ひきとどめ
たまへば・さのみは・いかがとて・ひきちぎつてぞ・いでられける・三みのちうじやう・こころつよくも・ひき・ちぎつ
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ひつじのあゆみの・ちかづくここちして・むまに・まかせて・うつほどに・そのひのくれがたには・三み・なんとにこそ・
いりたまへ・さるほどに・なんとのたいしゆ・三みのちうじやうどのを・うけとりたてまつつて・とうだい・こうふく・りやうじのたいしゆ・しふゑして・
せんぎしけるは・そもそも・このしげひらのきやうと・いつぱ・ぢうぼんの・あくにんたるうへ・三せん五けいの・ぎやくざいにもこえ・しゆいん
かんくわの・だうりごくじやうせり・せんずる・ところ・りやうじのおほがきを・ひきまはし・そののち・ほりくびにや・すべき・またのこぎりに
てや・ひくべきと・せんぎしけるところに・そのなかに・らうそうどもの・まをしけるは・まことに・がらんはめつせしとき・しゆうとが・
いけどりにも・したらば・とがめさるべけれども・はるかに・ほどへて・のち・ぶしが・とりこに・したるを・うけとりて・さや
うに・せんこと・そうとのほふに・をんびんならず・ただ・ぶしに・とらせて・きづのへんにて・きらすべしと・いひ
ければ・さらばとて・またぶしのてへこそ・わたしけれ・ここに・三みのさぶらひに・むくうまのじよう・まさときとまをすものあ
り・ちうじやうすでに・きづがはにて・きられさせ・たまふと・きこえしかば・いそぎ・むちあぶみあはせて・はせけるが・ほどな
う・きづがはに・はせついて・いそぎ・むまより・とんで・おり・たいぜいの・なかを・おしわけおしわけ・おんまへにまゐつて・
みたてまつるに・ただいまを・かぎりと・みえたまふ・三みのちうじやう・いかに・あれは・まさときか・うれしうも・みえたる
ものかな・いま一ど・ほとけををがみたてまつらばやと・おもふは・いかがあるべきと・のたまひければ・まさときやすきおんことさふらふ
とて・あるみだうに・まゐつて・みたてまつるに・さいはひにみだの・三ぞんの三じやくの・りふざうにて・わたらせ・たまひけるを・
とりたてまつつて・すなごのうへに・ひがしむきに・すゑたてまつり・まさときが・ひたたれの・くくりを・といて・ほとけのみてに・
ゆひつけたてまつり・三みのちうじやう・五しきのいととなぞらへて・これをひかへたまひて・われはからざるに・がらんせうしつP540
の・よやうに・まどはされて・ごくぢうこんぽんの・ことわりに・こたへて・すゑのつゆもとのしづくと・なるためし・しげ
ひら一にんが・とがにて・ながく・あびだいじやうの・そこに・しづまんこと・ただいまなり・ただしつたへきく・だつたが・三ぎやく
ををかし・しやわうのむだうに・ちちをがいせしも・かへつて・てんわうによらいの・きべちにあづかる・ごくぢうあくにん・むたはうべん・
ゆゐしようみだ・とくしやうごくらくの・おんちかひ・あらたまらせ・たまはずは・ひごろの・あくぎやうを・ひるがへし・九ほんあんやうの・じやう
どへ・いんぜふしたまへと・まをさせたまひ・さらば・とく・きれやとて・くびをのべてぞ・うたせられける・ひごろ
の・あくぎやうの・にくさも・さることにて・きりてのぶしも・たいしゆも・みなよろひの・そでをぞぬらしける・そののち・くび
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せんに・ほつけじの・とりゐの・もとにうつたちて・ひを・いだせやと・げぢ・したりしは・これぞ・かしとて・はんにや
じのだいそとばに・くぎづけにこそしたりけれ・さるほどに・三みのちうじやうの・きたのかたは・ひのにおはしけるが・あはれ
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て・くわんおんくわんじやぢざうくわんじや・十りきほうしなんどまをすものに・こしをかかせて・つかはさる・あんのごとく・むくろ
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なしきおんてに・とりつき・たまひて・かなしみ・たまへど・かひぞ・なき・さてしも・あるべきならねば・の
べへ・おくりたてまつり・くびをば・なんとの・しゆんじようしやうにん・しゆとに・こうて・ひのへ・つかはさる・ひとつ・たきぎ
に・つみこめて・けぶりとなし・たてまつる・こつをばかうやへ・おくり・つかをば・ひのにぞ・つかせける・そののち・きたのかたP541
は・ほうかいじより・ひじりを・しやうじて・さまかへ・ひたすら・三みのちうじやうの・ごしやうぜんしよをぞ・いのられける
大地震の沙汰(あひ) 1202
へいけ・ほろびてのちは・くには・こくしにしたがひ・しやうは・りやうけのままなりければ・みちを・かよふに・わづらひ・なくみやこもお
だしかりければ・じやうげあんどのおもひを・なすところに・げんりやく二ねん・七ぐわつ九かのひの・うまのこくばかりに・だいち
おびただしう・うごきて・ややひさし・しらかはの・うち・せきけんの・ほとり・九ぢうのたふよりはじめて・だうしやぶつかく・
じんをくおほく・あるひは・やぶれ・くづれ・あるひはたふれ・かたぶいて・またきは・一うもなかりけり・三十
三げんの・とくちやうじゆゐんをも・十七けんまで・ふりたふす・あがる・ほこりは・けぶりに・おなじ・てんくらうして・ひ
のひかりも・みえず・らうせう・たましひを・うしなひ・てうじう・きもを・まどはす・みやこのうちは・まをすにおよばず・きんごくゑんごくも・
みなかくのごとし・だいち・さけては・みづをいだし・うみ・かたぶきて・はまを・ひたす・やまくづれては・たにをうづみ・
いはほ・くづれて・かはをうづむ・なぎさこぐふねは・なみにただよひ・くがをゆく・ひづめは・あしのたてどを・まどは
す・とりにあらざれば・てんをも・かけりがたし・りうにあらざらば・くもへもまた・いりがたし・こうずゐ・みなぎりいじこば・
たかきをかに・あがりても・しばしは・さりぬべし・みやうくわ・もえきたらば・かはを・へだてても・などか・た
すからざるべき・ただせんかたなきは・だいぢしんなり・またなにものか・まをしだしたりけむ・おんやうのかみ・あべのやすちか・
いそぎ・だいりに・はせさんじて・そうもんしけるは・ゆふさりの・ゐねのこく・あすの・みうまのこくには・だいちかならず・P542
うちかへすべしなんど・そうもんすと・きこえしかば・そのときに・いたつて・いへのなり・しとみかうしの・ゆるぎはた
たくを・みては・おとなしきものの・をめきければ・をさなきものどもも・おなじう・つれてぞ・むせびける・
さるほどに・しゆじやうはおふねに・めして・いけのみぎはに・うかばせ・おはします・そのほかにようゐん・みやみやは・あるひはおん
こしに・めされ・あるひはおんくるまに・めして・いづちともなく・ぎやうけいなる・むかし・もんとくてんわうのぎよう・さいかう三
ねん・三ぐわつ三かの・だいぢしんには・とうだいじのみほとけの・みぐしおちさせたまひけむなり・またしゆじやくゐんのぎようてんぎやう四
ねん・四ぐわつの・だいぢしんには・しゆじやう・ござしよを・いでさせたまひて・だいごくでんのまへ・じやうねいでんのみなみに・五ぢやうのあくをく
を・つくつて・すませたまひけむなり・そのときは・四ぐわつより・はじめて・七ぐわつにいたるまで・ひびに七八ど・
ないし十四五ど・廿どばかり・ゆりけるなんどは・きこえしかども・それはむかしのことなれば・しらず・七八十・
ないし九十のひとまでも・よのめつすると・いふことは・さすが・きのふけふとは・きかざりつるものを・いかさま
にもこれは・へいけのをんりやうか・またはよのそんすべき・ぜんぺうかとぞ・じやうげ・まをしあへりける・さるほどに・ほふわうは・
いまくまのに・なぬか・おんはな・まゐらつさせ・たまひけるが・こんどの・だいぢしんに・ごあんじつ・ふりたふされさせたま
ひ・ひとおほく・うちころされ・しよくゑ・あまた・いできにしかば・いそぎ・みやこへ・くわんぎよなる・さるほどに・けんれいもんゐん
は・ひがしやまのふもと・よしだのごしよに・わたらせたまひけるが・こんどのだいぢしんに・ごしよもやぶれ・ついぢも・くづれにしかば・
りよくえのかんし・きうもんをまぼるだに・なしあれたるにはのまがきは・しげきのべよりも・つゆふかく・うらむるむしの・
こゑまでも・ことに・ものあはれに・きこえ・よも・ながく・なりゆくままに・いとど・おんねざめがちにて・おのづから・P543・
うちも・まどろませ・たまはねば・むかしのことをば・ゆめにだにも・ごらんせず
平大納言の流され 1203
げんりやく二ねん・八ぐわつついたちのひ・かいげんあつて・ぶんぢぐわんねんとぞまをしける・おなじき十かのひ・みやこには・ぢもくおこなはれて・
げんじ六にん・じゆりやうに・なるまづ・九らうたいふのはんぐわんよしつね・いよのかみ・たけだのたらうのぶよし・するがのかみ・かがみのじらう
とほみつ・さがみのかみ・へんみのくわんじやありよし・むさしのかみ・やすだの三らうよしさだ・とほたふみのかみ・おほうちたらうこれよし・しなののかみ・とぞ
きこえし・おなじき廿三にちに・へいけのいけどり・くにぐにへ・ながしつかはさる・まづ・へいだいなごんときただ・のとのくに・くらの
かみのぶもとさどのくに・さぬきのちうじやうときざね・とさのくに・ひやうぶのせうまさあきさぬきのくに・二ゐのそうづせんしんあきのくに・ほつしようじの
しゆぎやうのうゑんいはみのくに・ちうなごんのりつしちうくわいむさしのくに・きやうじゆばうのあじやりいうゑんは・びんごのくにとぞ・きこえし・おなじき廿二
にちのくれがたに・へいだいなごんときただ・にようゐんの・わたらせたまひける・よしだのごしよに・まゐつて・まをされけるは・あ
りがひなき・みにてさふらへども・みやこに・さふらひしほどは・つねは・おんゆくへをも・うけたまはりさふらひしに・いまはせめ・おも
うして・はいしよに・おもむきさふらふべし(イなり)・いまよりのち・いかなる・おんありさまにか・ききなしたてまつらん・ずらむと・
ゆくそらも・おぼえず・さふらふと・なみだも・せきあへず・まをされたりければ・にようゐん・まことに・むかしのなごりとては・そこ・ば
かりこそ・おはせしに・いまよりのち・またたれやのひとか・とひとぶらひ・さふらふべきとて・おんなみだに・むせば
せ・おはします・このときただのきやうと・まをすは・さきのではのかみもとのぶのまご・ぎようぶのごんのせう(イ兵部権大輔)ときのぶのあそんのこP544
なりけり・けんしゆんもんゐんのおんおとと・こたかくらゐんにも・ごぐわいせきにて・おはしければ・かのやうきひが・さいはひしとき・
やうこくちうが・さかえたりしが・ごとし・にふだうしやうごくの・きたのかた二ゐどのにも・おんおととにて・おはしければ・てんが
のだいせうじともに・このきやうに・のたまひあはせられければ・ひとへいくわんぱくとぞ・まをしける・いま・しばらくも・へいけの・よな
らましかば・だいじんのさう・うたがひあらましかは・ちちときのぶのあそんにも・ぞうさだいじんをぞ・おくられける・
しそくさねいへ・ときざねも・ちうせうしやうまで・あがられけり・さればけびゐしのべつたうにも・だい三ケどまで・なりかへら
せたまひけり・このきやうのちやうむのときは・しよこく七だうの・せつたうがうたう・さんぞくかいぞくとうを・めしあつめ・みぎのひぢを・うち
きりうちきり・おひはなされければ・ひとあくべつたうとぞ・まをしける・一とせ・へいけ・さぬきのやしまに・おはせしとき・みやこよ
りのゐんぜんの・おんつかひはながたが・かほに・なみがたと・いふ・かなやきを・さされたりしも・このきやうの・しわざなり・さ
るほどに・ほうわうは・こにようゐんのおんことを・おぼしめされけるに・つけても・いかにもして・このきやうをば・みやこの・
うちに・たすけ・おかばやと・おぼしめされけれども・ひごろのふるまひ・あまりに・ばうぢやくぶじんなりければ・おんいきどほ
り・ふかかりけり・はんぐわんも・したしう・なつて・おはしければ・なにともして・このきやうをば・みやこのうちに・おき
たてまつらばやとは・おもはれけれども・わがみさへ・かまくらの・げん二ゐどのに・こころよからざるうへ・ほふわうのおんいきどほり・
ふかかりければ・ちからおよばせたまはず・きたのかた・そちのすけどのも・ひごろより・かかるべしとは・おもひ・まうけら
れし・ことなれども・さしあたつては・またかなしくぞ・おもはれける・はるかにとしたけ・よはひ・かたぶいて・のち・
みやこの・うちを・いでられけるに・一まども・うち・おくりたてまつるひと・一にんも・つきたてまつらず・けふを・かぎりP545
に・みやこのほかへ・いでられける・こころのうち・おしはかられて・あはれなり・やうやう・くだりたまふほどに・あふみのくにに
も・なりしかば・ここをば・いづくと・いふぞと・とひたまへば・かただのうらとぞ・まをしける・まんまんたる・おきに・ひく
あみを・みたまひて・だいなごん
かへりこむことも(イは)かただにひくあみの・めにもたまらぬわがなみだかな
またやうやう・くだりたまふほどに・のとのくににも・なりしかば・だいなごんの・おはするところは・うらのあたりちかき・ところ
なりければ・いはのうへうへ・まつの一もと・そびえ・たつたるを・みたまひて・だいなごん
しらなみのうちおどろかすいはのうへに・ねいらでまつのいくよへぬらん・
きのふはさいかいのなみのうへにして・をんぞうゑくの・くるしみを・へんしうのなかにつみ・けふは・ほつこくの・ゆきのしたに・
うづもれて・あいべつりくの・かなしみを・こきやうのくもに・かさねたりと・よみあかし・よみくらして・としつきを・おくり
ぞ・かさねさせ・たまひける
小原いり 1204
けんれいもんゐんは・ひがしやまのふもと・よしだのごしよに・わたらせたまひけるが・ここはなほ・みやこちかくてたまぼこの・みちゆくひとの・ひと
めもしげかりなん・されば・つゆのおんいのち・かぜを・またせたまはんほども・いかならむ・やまのおくの・おくへも・
いりなばやとは・おぼしめされけれども・さるべきたよりも・ましまさざり・けるにあるにようばうの・まゐつて・まをしP546
けるは・をはらのおくじやくくわうゐんと・まをすところこそ・きはめて・しづかなるところにて・さふらへと・まをしければ・にようゐん・これ
は・しかるべきほとけの・おんつげにこそと・おぼしめし・やまざとは・ものの・さびしきことこそ・あんなれども・よのうきよ
りは・すみよかんなるものを・とて・なくなくおぼしめしたたせ・たまひけり・なにごとも・むかしに・かはりゆくことどもにて・
おのづからなさけをかけたてまつる・ひとも・なかりけるに・いまはれいぜいの・だいなごんたかふさのきやうの・きたのかた・七でうのしゆり
のだいぶのぶたかの・にようばうよりぞ・つねは・おんのりものなんどをも・さたし・まゐらつさせ・たまひける・ころはぶんぢぐわん
ねん・ながつき廿かあまりの・ことなれば・よものこずゑのいろいろなるを・ごらんじて・はるばると・すぎさせたまふに・やまかげ
なればにや・ひもはや・くれにけり・いつしか・そらかきくもり・うちしぐれつつ・このは・みだりがはし・の
でらのかねの・いりあひのおとすごく・しかのね・かすかに・おとづれて・むしのこゑごゑ・たえだえなり・にようゐんじやくくわう
ゐんに・まゐらせたまひて・みまゐらつさせたまふに・さいはひに・みだの・三ぞんにてぞ・わたらせたまひける・かたじけなくも・わ
がたのみを・かけたてまつるほんぞん・しかるべきことに・おぼしめして・はいを・まゐらつさせたまひけるが・ほつせを・とどめて・か
うぞ・まをさせ・たまひける・てんし・しやうりやう・いちもんいうぎ・とんしようぼだい・じやうとうしやうがくとぞ・まをさせたまひける・き
のふは・ひがしにむかはせたまひて・てんせうだいじん・ぎよくたいあんをんにと・ごきせいあり・けふは・にしにむかつて・みだ
によらい・わうじやうごくらくと・まをさせたまふぞ・あはれなる・にしのやまのはを・ごらんぜらるれば・したもみぢ・ところどころに・
みえわたり・りよくらのかき・もみぢのやま・ゑに・かくとも・ふでもおよびがたし・ひがしには・ほそたにがは・ながれつつ・いはにこけ
むして・さびたるところなれば・まことに・すままほしくぞ・おぼしめす・にはのはぎはら・しもがれて・まがきのきくの・かれがれにP547・
うつろふいろを・ごらんじても・ただおんみのうへとぞ・おぼしめす・はうぢやうなる・ごあんじつを・むすばせたま
ひて・かたはらを・ごしんしよに・こしらへ・一まを・ぶつしよに・しつらはれたり・ちうやてうせきの・おんつとめ・
ぢやうじふだんの・ごねんぶつ・おこたらせたまはずして・つきひを・おくらせたまひけり・かくて・かんなづき・なかの五かの・くれ
かたに・にはにちりしく・ならのはを・ものふみ・ならして・きこゆれば・にようゐんひるだにも・ひとめまれなる・やまざとへ・
ただいま・なにものの・きたるやらん・しのぶべきものならば・しのばばやと・おほせければ・だいなごんのすけどの・たちいでて・
みたまふに・ひとにては・なかりけり・よにうつくしき・をしかの・三つつれたるが・わたるにてぞ・ありけ
る・だいなごんのすけどの・かへりまゐらせ・たまひて
いはねふみたれかはとはむならのはの・そよぐはしかのわたるなりけり
と・まをさせたまひたりければ・にようゐん・なくなく・まどのおんしやうじに・あそばしぞ・つけさせたまひける・かかる
おんつれづれの・なかにも・なほむかしに・おぼしめしなぞらふる・おんことども・おほかりけり・のきにならべる・うゑき
をば・七ぢうはうじゆにかたどり・いはまに・つもるみづをば・八くどくすゐとぞ・おぼしめす・ちやうしうきうに・はなを・も
てあそんしあした・かぜきたつて・にほひを・さそひ・せいりやうでんに・つきをながめし・ゆふべ・くもおほうて・ひかりをかく
す・むかしはぎよくろうきんでんの・たへなる・おんすまひなりしかども・いまは・しばひきむすぶ・いほのうち・よそのたもとも・おさ
へがたしP548
参河守の最後(あひ) 1205
そのころかまくらには・九らうたいふのはんぐわん・うたるべしとぞ・きこえし・あるとき・げん二ゐどの・みかはのかみを・ようで・ご
へん・みやこにのぼり・九らううちたまへと・のたまひければ・みかはのかみ・まをされけるは・これはおなじきやうだいの・なかとは・まをしな
がらことにちぎりを・ふかうなし・さいごくしよしよの・かつせんの・はかりごとまでも・九らうにはすぎずさふらふ・されば・わが
てにかけて・うたむこと・あまりに・ふびんに・ぞんじさふらへば・じよのじんに・おほせつけらるべうもや・さふらふらんと・まをさ
れたりければ・げん二ゐどの・さては・ごへんも・九らうどうしんの・ひとやとて・いそぎしやうじをちやうと・たててぞ・い
りたまひける・みかはのかみ・かなはじとや・おもはれけん・まつたう・さなきよしを・きしやうもんを・もつて・まを
されたりければ・さらば・やがていづにこえ・しゆぜんじに・おはせよと・のたまへば・うけたまはつて・いづに・こ
え・しゆぜんじにこそ・おはしけれ・かかりけるところに・かぢはら・げん二ゐどのに・まをしけるは・みかはのかみどのと・九らうた
いふのはんぐわんと・ご一しよに・ならせたまひては・ゆゆしき・おんだいじにてこそ・さふらはんずれ・こはいかが・おん
はからひさふらふ・やらんと・まをしたりければ・さらば・なんぢ・いづに・こえ・みかはのかみ・うてと・のたまへば・かぢはら・
うけたまはつて・ふし三き・五百よきにて・いづに・こえ・しゆぜんじにこそ・おしよせたれ・みかはのかみは・あるばうに・
おはしけるが・こそでに・おほくちばかりにて・つまどのあひだに・おはしけるが・やたばね・といて・おしくつろげ・
さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いたまひけるに・よせて・おほく・いころさる・そののち・やだねつきければ・ひとでにP549
・かからじとや・おもはれけん・ばうに・ひかけ・じがい・してこそ・うせられけれ・そののち・かぢはら・けぶりを・し
づめ・みかはのかみの・やけくびとつて・かまくらに・もてゆき・げん二ゐどのに・みせたてまつる・しんぺうなりと・のたまひける
土佐坊が夜討 1206
あるとき・げん二ゐどの・とさばうしやうしゆんを・めして・わそう・みやこに・のぼり・九らううてと・のたまへば・とさばう・かしこまつて
まをしけるは・さぞ・たいぜいにては・いかにも・かなひさふらふまじ・しやうしゆんが・てぜいばかりにて・まかりのぼりさふらはんとて・やが
て・五十よきにてぞ・うちたちける・みちすがらをば・くまのまうでのていに・ことよせて・みやこにのぼり・三でう・あぶらのこう
ぢなるところに・やどうちとつてぞ・ゐたりける・はんぐわん・なんとしてか・ききいださせ・たまひたりけん・とさばうが・の
ぼつたんなれば・さだめてまゐらむずる・ものをとて・そのひ・一にち・またれけれども・まゐらず・つぎのひ一にち・また
れけれども・まゐらざりければ・はんぐわん・むさしばうべんけいを・めして・とさばうが・のぼつたんなるが・まゐらぬことこ
そ・ふしぎなれ・なんぢゆいて・とさばうを・ぐしてまゐれと・のたまへば・むさしばう・かしこまつてうけたまはり・とさばうがやどに・
ゆきむかひ・しようしゆんを・ぐして・まゐりたり・はんぐわん・やがて・いであひ・たいめんしたまひて・いかに・わそうは・よし
つねうてとの・つかひなと・のたまへば・とさばうまをしけるは・これは・としごろ・七だいしよまうでの・のぞみ・さふらひしかども・このりやう三
ねんは・きやうとの・さわぎ・くにぐにの・みだれに・よつて・そのぎなくさふらふ・いまは・せけんも・しづかになりさふらへば・その
しゆくぐわん・はたさんために・まかりのぼつてさふらふあひだ・かまくらどのにも・このよし・かくとも・まをしさふらはねば・おんふみなんども・P550
さふらはず・いかさま・げかうのみちに・まゐらむずるここちして・さてまゐらずさふらふと・まをしたりければ・はんぐわん・いや
とよ・まことはよしつねうてとの・つかひなと・のたまひて・けしき・おほきに・かはつて・みえられければ・とさばう・か
なはじとや・おもひけん・くまのの・ごわうを・まをしおろし・七まいの・きしやうもんをかいて・たてまつる・はんぐわん・このうへは・ごん
げんにこそ・まかせまをさんずれとて・とさばうを・ゆるして・かへされけり・とさばう・やどにかへり・いやいや・
このこと・のびては・かなふまじ・こんや・ようちに・したてまつらんとて・みちすがら・しのうで・もたせたる・ひやうぐとりいだ
し・やがて・五十よきにてぞ・うちたちける・はんぐわんのしゆくしよ・六でうほりかはのごしよに・おしよせ・あぶらのこうぢおもてなる・もんをどうどうとたたいて・これは・かまくらどのより・うつてのたいしやう・うけたまはつて・とさばうしやうしゆんが・まゐつてさふらふ・あけられさふらへあけられさふらへとぞ・まをしける・ころは・十ぐわつ十七にちのよの・ことなりければ・はんぐわんのさぶらひどもは・みなきよみづでらまうでして・一にんもなかりけり・おんかたはらには・しづかと・まをす・しらびやうし・ただ一にんぞ・さふらひける・をりふしはんぐわんは・さけにゑひて・ふしたまへり・しづか・はんぐわんを・おし・おどろかし・たてまつつて・ひるの・きしやうほうしが・まゐりて・さふらふに・おきさせたまへと・まをしたりければ・はんぐわん・さては・とて・おきたまふ・まに・よろひ・とつてたてまつる・うは
おびしめたまふまに・たち・とつてたてまつる・おびたまふまに・かぶととつて・たてまつる・を・しめたまふ・まにゆみとつて・
たてまつる・はりたまふ・まに・やとつて・たてまつる・はんぐわん・ゆみおしはり・やかきおひ・ちうもんに・いでられたりけれ
ば・ざふひやうが・むまにくらおいて・ひつたてたり・はんぐわん・むまにうちのり・おほにはに・かけむかひ・あぶみ・ふんばりつつたち・あがり・だいおんじやうを・あげて・てんぢく・しんたんにも・にほんわがてうにも・たうじよしつねを・かたきとて・むかはんずるものこそP551・おぼえね・いかなるものぞ・なのれや・なのれと・のたまひて・さうなう・もんをば・ひらかれず・ついぢ
を・へだていあひたり・はんぐわんのさぶらひどもは・みな・きよみづでらまうで・したりけるが・たうじはきみの・ごようじんのをりふし
ぞ・いざや・まゐらむとて・うちつれうちつれ・まゐるほどに・あんのごとく・六でうおもてに・やさけびのおと・しければ・されば
こそとて・はせあつまり・とさばうを・なかに・とりこめてぞ・たたかひける・えだのげん三・ひざぐち・いさせて・ひきしりぞく・
くまゐたらう・うちかぶといさせて・ひきしりぞく・そののちはんぐわん・もんをひらかせて・きつていで・さんざんに・せめられたり
ければ・とさばうが・せい・五十よきとは・みえしかども・おちぬうたれぬせしほどに・たんごぶらいに・なりにけ
り・とさばう・ただ一きに・なつて・むまをも・はなれ・おりたつて・たたかひけるが・かなはじとや・おもひけ
ん・あぶらのこうぢを・のぼりに・にげてゆく・むさしばう・ただ一にん・つづいたり・きたなしや・かへせや・かへせ
とて・おひかけたり・五でうをひがしへ・ひがしのどうゐんを・のぼりに・にげゆく・三でうをひがしへ・まてのこうぢを・のぼりに・
くらまやまへぞ・にげいりける・はんぐわんは・もと・このてらのちごにて・わたらせたまへば・そのよしみをもつて・たいしゆおこ
つて・とさばうを・いけどりて・むさしばうにぞ・とらせける・むさしばう・しやうしゆんを・からめとつて・みやこにかへり・はん
ぐわんのしゆくしよ・ろくでうほりかはの・ごしよの・おんつぼのうちにぞ・ひつすゑたる・はんぐわん・ごらんじて・わそうは・はやくも・
きしやうには・うてたるものかなと・のたまへば・とさばう・まをしけるは・うつるこそ・だうりさふらふよ・あることに・かい
て・さふらへばとぞ・まをしける・はんぐわん・やがて・なんぢをば・きつても・すつべけれども・こさまの・かみとのの・おんとき・こん
わうまるとて・さしも・ふびんに・せさせ・たまひたりしかば・そのごぼだいの・おんために・いのちをば・たすくるぞ・はやはやP552・かまくらへ・くだるべしと・のたまへば・とさばう・まをしけるは・こは・くちをしきことをも・おほせられさふらふものかな・かま
くらどのの・おんまへを・まかりいづるとき・きみを・うちたてまつらずは・まつたう・まかりくだらじと・まをしきつて・まかりのぼつてさふらふに・きみをこそ・うちたてまつらざらめ・あまつさへいのちたすけられ・まゐらせて・ふたたび・かまくらへ・まかりくだつて・さふらはば・なにほどのえいぐわをか・つかまつりさふらふべき・ただごおんには・いそぎ・かうべを・はねさせたまへと・まをしたりければ・はんぐわんさらばとて・やがて・かはらに・ひきいだし・にしむきにぞ・ひつすゑたる・とさばう・まをしけるは・しやうしゆんはただ・かみともほとけとも・かまくらどのをこそ・たのみたてまつつてはさふらへ・おなじうは・ひがしむきにぞ・きられたうさふらふと・まをしたりければ・さらばとて・またひがしむきにぞ・ひつすゑたる・そのとき・とさばう・てをあはせ・なむかまくらの・げん二ゐどのと・三どとなへてぞ・きられけるP552
吉野軍 1207
さるほどに・かまくらには・みやこにて・とさばう・うたれたりと・きこえしかば・ほうでうの四らうときまさに・六万よきの・ぐん
びやうをさしそへてぞ・のぼせられける・おなじき十一ぐわつついたちのひ・九らうたいふのはんぐわんよしつね・ゐんのごしよに・まゐり・おほくらの
きやう・やすつねのあそんをもつて・まをされけるは・よしつね・かまくらのげん二ゐに・こころよからざるに・よつて・ほうでうの
四らうときまさに・六万よきのぐんびやうを・さしそへて・のぼせさふらふ・うぢ・せたのはしを・ひき・みやこの・うちにて・ささへ
むことは・いと・やすうさふらへども・くげゐんちうの・おんさわぎ・なるべし・あはれ・さいこく・ちんぜいの・ごけにんのうちへ・よしつね・
P553
みはなつべからざる・よしの・ちやうのおんくだひぶみを・くだしたまはりさふらはじやと・まをされたりければ・ほうわう・この
こと・おほきに・おぼしめしわづらはせたまひて・しかるべきくぎやう・あまためして・おほせあはせられけり・うちにも・ほり
かはのだいなごんただちかのきやうの・まをされけるは・まことに・よしつね・みやこの・うちにて・ささへたらむは・くげゐんちうの・
さわぎ・なるべし・くにぐにのみだれは・ふびんにさふらへども・ゐんぜんを・だにも・くだされさふらはじ・みやこの・うちは・
おだし・かるべきよしを・まをされたりければ・ほうわう・このぎもつともとて・やがて・よしつね・みはなつ・べからざ
るよしの・ちやうのおんくだしぶみをぞ・くだされける・はんぐわん・ゐんぜんたまはつて・ゐんのごしよをいで・せんじやうよしのり・くらんどゆきいへ・三
にんひとつに・なつて・つがふそのせい・五百よき・おなじき十一ぐわつ三かのひ・みやこをたつて・さいこくへこそ・くだられけ
れ・はんぐわんは・かはごえがむすめ・へいだいなごんときただのきやうのおんむすめを・さきとして・きたのかた十二にん・もちたまへり・いづれをも・
みはなちがたう・おもはれければ・みな・ひきぐしてぞ・くだられける・かりけるところに・つのくにのぢうにん・おほた
のたらうたかよし・としまのくわんじやよりもと・このよしをききて・あはやはんぐわんどのこそ・かまくらどのに・おんなか・たがはせたまひて・さい
ごくへ・くだらせたまふなれ・にくし・そのぎならば・これにて・うちとどめたてまつらんとて・びんぎのともがら・五百よにんを・
あひもよほし・つのくに・みぞくひと・いふところに・じやうくわくかまへて・まちうけたてまつる・はんぐわん・このよしききたまひて・かしこに・
おしよせ・かれらをさんざんに・けちらし・そのひは・つのくに・だいもつのうらにぞ・つきたまひける・つぎのひ卅よさうのふねに・
とりのり・さいこくへ・くだらむと・したまひけるに・一のすのおきにして・へいけのしりやうや・おこりけん・むこやま
のあらし・はげしくして・ふねどもさんざんに・ふきちらされ・さんを・みだすがごとくにぞ・なりに・ける・十らうくらんどP554
の・ふね二さうは・いづみのうらに・ふきよせたり・はんぐわんのふね二さうは・つのくに・なにはのうらへぞ・うちあげたる・はん
ぐわんは・いかにもして・なみかぜをしづめ・さいこくへとは・おもはれけれども・うちつづき・あれければ・それより・うら
づたひして・すみよしのはまへぞ・あがられける・いづみ・かはちのものども・このよしをききて・たいぜいにて・むかふよしきこ
えしかば・はんぐわんかなはじとや・おもはれけん・十二にんの・にようばうたちをば・すみよしのはまに・うちすて・それより・つはもの
卅よにんを・ひきぐし・にようばうには・しづか・ばかりを・めしぐして・よしのやまを・さしてぞ・おちられける・十二にん
のにようばうたちは・すみよしのまつのもとに・そでを・かたしき・なきゐたまひけるを・そのへんの・ざいちのものども・あはれみたてまつ
つて・おこしにのせたてまつり・よにいつて・みやこへおくりたてまつりけるとぞ・きこえし・さるほどにはんぐわんは・よしのやまに・しの
うで・おはしけるを・だいしゆ・おこつて・あはやはんぐわんどのこそ・かまくらどのに・おんなか・たがはせたまひて・このやま
に・しのうで・おはすなる・いれたてまをしては・かなふまじ・にくしそのぎならば・おひいだしたてまつれや・とて・
たいぜいにて・むかふよし・きこえしかば・はんぐわんいづくまで・かたきに・うしろを・みすべきとて・じがいせんと・したまひ
けるを・あうしうの・さとう四らうびやうゑただのぶ・あににてさふらひし・三らうひやうゑつぎのぶは・やしまにて・おんいのちに・かはり
まゐらせさふらひぬ・けふは・ただのぶ・おんいのちに・かはりまゐらせさふらふべし・ひとまど・なりとも・のびさせたまへと・まをしけ
れども・はんぐわん・いかでか・さることの・あるべきとて・かさねてじがいせんと・したまひけるを・ただのぶ・やうやうに・とり
とどめたてまつりければ・ちからおよびたまはず・それより・つはもの十よにんを・ひきぐして・またよしのやまをぞ・しのばれける・ただ
のぶは・はんぐわんの・おんきせながを・たまはつてぞ・きたりける・のこり十七にんのつはものどもも・よせくるかたきを・いまやいまやP555
とぞ・まちかけたる・あんのごとく・よしののすげう・かくばんぜんじを・さきとして・たいぜいにて・おしよせた
り・そののち・ただのぶ・たかきところに・はしりあがり・これは・かまくらのげん二ゐどのの・おとうと・九らうたいふのはんぐわんよしつねぞと・な
のつて・やたはね・といて・おしくつろげ・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いけるやに・よせておほく・いころさる・
よせてのものども・このよしを・みて・あはや・はんぐわんどのは・うちもの・とつてこそ・ゆゆしう・おはすなるに・ゆみ
をさへ・よくいたまひけりとぞ・おそれける・そののち・やだね・つきければ・うちものの・さやを・はづいて・きつていで・
さんざんに・たたかひけるに・十七にんは・うたれにけり・そののち・ただのぶ・また・たかきところに・はしりあがり・これはまことに・はん
ぐわんどのと・おもひたてまつるか・それは・はや・きのふより・おちたまひぬ・これは・はんぐわんのみうちに・あうしうの・さとう四
らうびやうゑただのぶと・いふものなり・がうのものの・じがいするを・みて・てほんに・せよやとて・よろひのうはおび・きつて・の
け・はら十もんじに・かき・やぶるていに・もてなし・そばなるたにへ・とびおりてぞ・おちゆきける・よせてのものども・
このよしを・みて・ただのぶがくび・とらむとて・ここを・つたひ・かしこを・まはるなんどと・しけるまに・たに
を・こえ・みねを・へだててぞおちのびたる・それより・みやこに・のぼり・あはたぐちのへんに・しのうでぞ・さふらひける・さる
ほどに・ほうでうの四らうときまさは・六まんよきの・ぐんびやうを・たなびいて・おなじき十一ぐわつ五かのひ・みやこに・のぼり・六
はらに・おちつきて・おはしけるが・このよしをききたまひて・たいぜいにて・むかふよし・きこえしかば・ただのぶこのよしを
ききて・あはたぐちをば・しのびつつ・三でうまてのこうぢなるところに・ひごろみそめたる・にようばうのもとに・たち・しのう
でぞ・さふらひける・六はらには・このよしをききて・たいぜいにて・おしよせたり・ただのぶは・つまどのあひだに・さふらひけるが・
P556
やたばね・といて・おしくつろげ・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いけるやに・よせておほく・まとに・なつて・い
ころさる・そののち・やだね・つきければ・ひとでに・かからじとや・おもひけん・しやうじのうちに・ひきこもり・はら十
もんじに・かきやぶつたりけれども・なほもしなれざりければ・かたなの・きつさきを・くちに・ふくみ・えんより・さ
かさまに・つらぬかつてぞ・うせに・ける・こんねん・廿六・かたきも・これを・みて・をしまぬものこそ・なかりけ
れ・かくて・はんぐわんは・よしのやまの・みゆきに・ふみまよひ・とかくして・たうごくうだのこほりへぞ・いでられける・そのところ・
りうもんのまきは・はは・ときはが・ゆかりなりければ・はんぐわん・かしこに・おちつき・しばらく・いきついてぞ・おはしけ
る・それより・なんとに・のぼり・とうだいじの・ほとり・しゆんぜじと・まをすやまでらに・しのうで・おはしけるが・その
としのくれに・みやこにのぼり・ふしみ・ふかくさ・うめづ・かつら・にしやま・ひがしやまの・かたほとりに・つのて・かくれしのびて
ぞ・おはしける・つぎのとしの・はるのころ・やまぶししゆぎやうじやの・まねをし・おひを・かけ・ひでひらにふだうを・たのみつつ・
ほつこくにかかり・あうしうへぞ・くだられけるとぞ・きこえし
十郎蔵人の沙汰(あひ) 1208
さるほどに・せんじやうよしのりは・いづみの・うらに・うちあげられて・おはしけるが・それよりいがに・くだり・せんどの・
やまでらに・しのうで・おはしけるを・はつとりのげし・へい六まさつなは・へいけの・ゆかりのものなりけるが・このよし
をききて・びんぎのともがら・二百よにん・あひもよほし・せんどのやまでらに・おしよせて・ときを・どつとぞ・つくりける・よしのりP557
は・あるばうに・しのうで・おはしけるが・やたばね・といて・おしくつろげ・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・い
たまひけるに・よせておほく・いころさる・そののち・やだねつきければ・ひとでに・かからじとや・おもはれけん・ばう
に・ひかけ・じがいしてこそ・うせられけれ・そののち・まさつな・けぶりにしづめ・よしのりのやけくびとつて・かまくらへ・もつ
てくだる・さてこそはつとりをば・あんど・してんげれ・さるほどに十らうくらんどどのは・きのくになぐさを・さして・くだ
られけるが・いづみのくに・やげじたと・いふところにて・げにんのをとこ・しよらうの・ここち・いできたりとて・やどうちと
つて・かんびやうして・おはしけるを・あるじのをとこ・このよしを・みたてまつつて・あつぱれ・これは・たうじ・ふす
まの・せんじ・かうぶりおはすなる・十らうくらんどどのにこそと・おもひければ・よに・いつて・しゆくしよをば・しのび
つつ・みやこに・のぼり・六はらに・まゐつて・このよし・まをしたりければ・ほうでう・しんべうなりとて・かげなるむまに・さや
まきそへてぞ・とらせける・そののちほうでう・あるじのをとこを・めして・たうじ十らうくらんどどの・うつても・からめても・え
さすべきものは・たれか・あるべきとのたまへば・あるじのをとこ・さんさふらふ・さいたふの・きただにほうしに・ひたちばうしやうめいこ
そさふらへ・ほうでうさらば・ひたちばう・めせとて・めされける・めされて・しやうめいまゐりたり・ほうでうやがて・いであひ・たい
めんしたまひて・いかに・わそうは・十らうくらんどどの・よく・みしりたてまつりたるかと・のたまへば・よくみしりたてまつつて・
さふらふとぞ・まをしける・ほうでうさらば・十らうくらんどどの・うちても・からめても・えさせよ・けんじやうは・こひに・よるべし
と・のたまへば・ひたちばう・かしこまつてうけたまはり・ささふらはば・ちうげん十にんを・たまはらむと・まをしければ・ほうでうやがて・け
にんのをとこ・十にんさしそへ・あるじのをとこを・あんないじやとして・いづみのくに・やげじたへこそ・くだされけれ・十らうくらんど
P558
どのは・もとのやどをば・かへて・むかひなるところに・やどうち・とつて・おはしけるを・あるじのをとこ・これこ
そと・をしへければ・げにんのをとこどもをば・かしこここに・かくしおき・わがみは・しげめゆひのひたたれに・ふしなはめ
のよろひをき・おほたちを・ぬいて・きつている・十らうくらんど・このよしを・みたまひて・いかに・あれは・ひたちばうと・み
るは・ひがめかと・のたまへば・しやうめいさふらふとて・きつて・かかる・十らうくらんども・そばなる・たち・おつとり・ぬ
きあはせ・さんざんに・たたかはれけるが・ひとでに・かからじとや・おもはれけん・しやうじのうちに・ひきこもりたまへば・
しやうめい・まさなや・ごじがいさふらふか・たすけまをさんずる・ものをとて・たちをなげすて・つつといつて・むず
とくむ・十らうくらんども・つよし・ひたちばうも・つよかりければ・たがひに・うへになり・したになり・ころびあ
ふところを・ここかしこに・かくしおきたりける・げにんのをとこども・はせあつまつて・うへなる・ひたちばうがあしに・なは
をぞ・かけたりける・こはいかに・みかたに・なはかくる・やうや・あると・いはれて・さること・さふらふと
て・ふたりが・あしに・なはをぞ・かけたりける・そののち十らうくらんどどのをば・てとり・あしとり・もとどり・とり・
いけどりにこそ・したりけれ・そののち・たがひに・いきついて・おはしけるが・ふたりのたちを・めしよせ・みたまへ
ば・ひたちばうが・たちは・四十二しよまで・きられたりけれども・十らうくらんどのたちは・一ところも・きれず・な
んぼうゆきいへは・ふるまうたるぞと・のたまへば・しやうめい・いまだ・これほど・てごき・おんかたきには・あひまゐらせず
さふらふとぞ・まをしける・そののち・ひたちばう・あまかはに・つつみ・もたせたりける・ほしひ・とりいだし・十らうくらんどどのにも・
すすめたてまつり・わがみもくひ・げにんのをとこどもにも・くはせ・そののち・十らうくらんどどのをば・おこしにのせたてまつつて・ぐそく
P559
したてまつり・ひたちばう・さきにみやこへ・ひとをのぼせて・六はらへ・このよしまをしたりければ・ほうでうなのめならずよろこびたま
ひて・五百よきにて・おんむかへに・まゐられけるが・よどのおほわたりのへんにて・まゐりあひたてまつり・十らうくらんどどのを・うけ
とりたてまつつて・よどの・あかゐがはらにて・つひに・きりたてまつつてんげり・やがて・ひたちばうをも・十らうくらんどのくびに・そ
へて・かまくらへこそ・くだされけれ・かまくらどの・しんぺうなり・けんしやうには・ながせとて・むさしの・かさいへぞ・
ながされける・つぎのとしの・はるのころ・めしいだし・あまりによき・かたき・うつたるものは・ゆみやみやうが・なきあひだ・さてながし
たりつるなり・いまはけんしやうあるべしとて・ひごろそしようしける・つのくに・おほたのしやうを・あんどする・のみなら
ず・たじまのくに・はむろのしやうを・たまはりけり・おなじき七かのひほうでうゐんざんまをし・よしつねつゐたうの・ゐんぜんを・まをされければ・
やがて・よしつねつゐたうの・ゐんぜんをぞ・くださる・あしたに・かはり・ゆふべに・へんず・せけんのふぢやうこそ・かな
しけれ・おなじき九かのひ・ほうでう・またゐんざんまをし・かげゆのこうぢの・ちうなごんつねふさのきやうを・もつて・まをされける
は・よりともこんど・へいけ・つゐたうのしやうに・せんぜられ・くににこくしをさだめ・しやうに・ぢとうを・すゑおき・たんべつ五しやう
づつの・かちようまいを・あておこなはる・べきよしを・まをされたりければ・ほうわう・このことおほきに・おぼしめし・わづらはせ
たまひて・しかるべき・くぎやうあまた・めして・おほせあはせられけり・なかにも・八でうのちうなごんながかたのきやうの・まをさ
れけるは・およそ・てうてきをたひらぐるものの・はんごくを・たまふと・いふことは・むりやうぎきやうのせつには・みえてさふらへども・より
とものきやうのまをすでう・おほきに・しかるべからざるよし・まをされたりけれども・ひたすらつねふさのきやうの・とりまをされける
うへ・ほうわうつひに・にほんこくのそうつゐふくしをぞ・くだされける・このつねふさのきやうとまをすは・よしだのだいなごんみつふさのきやうの・おん
P560
こなり・ほうわう・しよじ・ないげなう・おほせあはせられけるに・よつて・じやう二ゐのだいなごんまで・あがられけり・さ
れば・ほうわう・おんとし六十六にて・おんかくれのときも・てんかの・たいせうじともに・このきやうに・おほせおかれけるとぞうけたまはる・
されば・かまくらの・げん二ゐどのも・しよじなにごとをも・このつねふさきやうして・まをされけるとぞ・きこえし
六代 1209
あるとき・げん二ゐどの・ほうでうのもとへ・ししやをたてて・へいけは一もん・ひろかりしかば・しそんさだめて・おほかるらん・
いかにもして・たづねいだして・うしなはるべしと・のたまひつかはされたりければ・ほうでう・さてはとて・やが
ててんてをわかつて・きやうちうを・ふれられけるは・なにものにても・へいけのしそん・たづねいだして・まゐらせたらむず
る・ものには・そしようも・しよまうも・こひによるべしと・ふれられたりければ・そしようも・しよまうも・もちたるものは・
おほかりけり・へいけのしそんや・ましますと・かしこここをぞ・たづねける・かならずへいけのしそんならねども・ふつうの・
ひとのこの・じんじやうなるをば・とりいだし・あれは・かの・ちうしやうどのの・わかぎみ・これは・かの・せうしやうどのの・おんこ
なんどまをしければ・ちちはは・これを・かなしみて・まつたう・さなきよしを・ちんじまをしければ・あれは・おち・に
てこそさふらへ・これは・おんめのと・にてこそさふらへ・なんどまをして・ぜひをも・いはせず・おとなしきをば・
くびを・きり・をさなきをば・みづに・いれ・つちにうづむ・はらのうちを・さがさぬと・いふばかりなり・ははのなげ
き・めのとが・かなしみ・まをすばかりも・なかりけり・そののち・ほうでう・かまくらへ・ひとを・たてまつつて・このよしまをさ
P561
れたりければ・げん二ゐどの・さやうに・へいけのしそん・たづねいだして・うしなはれさふらふこと・かへすがへすも・しん
べうにさふらふ・ただし・へいけのちやくちやく・こまつの三みのちうじやう・これもりのきやうのちやくし・六だいはとしも・すこしおとなしかんな
れば・いかにもして・たづねいだして・うしなはるべしと・のたまひつかはされたりければ・ほうでうさてはとて・
やがて・てんてを・わかつて・にしやま・ひがしやまを・たづねさせられけれども・なかりければ・ちからおよばず・あかつきすで
に・かまくらへ・くだらんと・いでたたれける・そのよ・あるにようばうの・六はらに・まゐつてまをしけるは・このほど・おんたづね
さふらふ・へいけのちやくちやく・こまつの・三みのちうじやうこれもりのきやうの・わかぎみ・六だいごぜんの・わたらせたまふ・おんゆくへを
こそ・うけたまはりいだして・さふらへ・そのゆゑは・にしやまのふもと・だいがくじ・しやうぶたにのばうと・まをすところに・きたのかた・わか
ぎみ・ひめぎみ・ひきぐし・まゐらつさせたまひて・この三ねんがあひだ・すみたまふよしを・まをしたりければ・ほうでう・さては・と
て・くわんとうげかうを・とどめて・つぎのひの・まんだあさ・ひとを・つかはして・みせられければ・つかひ・しやうぶだに
のばうに・たづねいり・まがきの・ひまより・をさなきひとの・かひたまへる・しろき・ゑのこの・みすのそとさして・はしり
いでけるを・とらんと・つづいて・いでられければ・めのとのにようばうと・おぼしくて・あな・あさまし・けふこの
ごろ・ひともこそ・みさふらふにとて・とりとどめたてまつると・みおふせて・つかひ・六はらに・かへり・このよし
まをしたりければ・ほうでうさてはとて・やがて・五百よきの・せいにて・しやうぶだにのばうに・おしよせばうの四はうを・七
へ・八へに・うちかこんで・うちへ・ひとを・たてまつつて・これに・うけたまはりさふらへば・へいけのちやくちやく・こまつの・三みの
ちうじやうこれもりのきやうの・わかぎみ六だいごぜんの・わたらせたまふよしを・うけたまはりいだして・かまくらの・げん二ゐのだいくわん・ほうでうの
P562
四らうときまさと・まをすものが・おんむかひに・まゐつてさふらふ・とうとうと・まをされたりければ・ははうへ・めのとのにようばうを・はじめ
たてまつつて・いへのうちに・ありとしあるひと・みな・きも・たましひを・うしなつて・こゑを・あげてぞ・なかれ
ける・この三とせがあひだ・すみたまへども・あたりのひとを・はばかつて・こゑをも・すがたをも・しのびつつ・ものをも・た
かう・のたまは・ざりしかども・いまはのときにも・なりしかば・たへ・しのぶべき・ここちも・したまはず・ほうでう
も・こども・あまた・もちたる・みにて・おはしければ・あな・いとふし・さこそは・おもひたまふらめとて・
さうなうも・みだれいらず・つくづくとぞ・またれける・ひも・やうやう・くれければ・ほうでうまた・うちへ
ひとを・たてまつつて・これは・べちのしさいも・わたらせたまひさふらふまじ・しばらく・よを・しづめむほど・あづかりまを
せと・うけたまはつて・おんむかひのみこし・よういつかまつつてさふらふ・とうとうと・まをされたりければ・さいとう五さいとう六・ばうの
四はうを・たちまはりみて・ははうへのおんまへに・まゐつて・まをしけるは・おほかた・つはものども・みちみちて・いまは・
いづかたへも・しのばせたまふべき・やうも・さふらはず・こは・いかが・おんはからひさふらふ・やらんとまをしたりけれ
ば・ははうへ・さらば・まづ・われを・うしなひて・さてこのこをば・いだせや・とてぞ・なかれける・そののち・
わかぎみ・ははうへの・おんまへに・おはして・まをされけるは・なにかは・くるしう・さふらふべき・ただとく・いでばやと
こそ・ぞんじさふらへ・そのゆゑは・いましばらくも・さふらはば・おそろしげなる・ぶしどもが・みだれいつて・ひとびとの・う
たてげなる・おんありさまを・みたてまつらんに・つけても・いよいよ・こころうく・さふらふべし・たとへ・六はらへ・いでてさふらふ
とも・さうなうは・よも・きられさふらはじ・いま・しばらくも・さふらはば・ほうでうと・かやに・いとまこひ・かへりまゐ
P563
つて・みえまゐらせんと・よにも・おとなしやかにてぞ・のたまひける・さてしも・あるべきならねば・めのとのによう
ばう・おきなほり・さうぞく・したてまつる・二へおりものの・ひたたれに・しろき・おほくちを・きせたてまつる・ははうへは・く
ろきのじゆずの・ちひさきを・とりいだしたまひて・これは・こ三みどのの・としごろ・てなれたまひし・じゆずなり・これ
にて・いまはの・ときまでも・ねんぶつまをし・ちちのわたらせ・たまふ・ひとつじやうどへ・まゐらんと・ねがふべしとぞ・
のたまひける・わかぎみ・さては・ははうへにこそ・はなれまゐらせ・さふらふとも・ちちの・わたらせたまふ・ひとつじやうどへ・
まゐらんことこそ・うれしけれとてぞ・いでられける・わかぎみ・ははうへめのとのにようばうに・たちわかれたまふ・なごりのをしさ・さ
こそは・おもはれけれども・へいけのちやくちやく・さるひとの・こなりければ・ぶしに・よわげを・みえじと・おさ
ふるそでのしたよりも・あまりてなみだぞ・ながれける・わかぎみは・ことし十二に・なりたまひけるが・みめかたち・うつ
くしく・あたりも・てりかがやくほどに・おはしければ・おんむかへのぶしどもも・みな・よろひのそでをぞ・ぬらし
ける・おんいもうとのひめぎみ・ことし十に・なりたまひけるが・わかぎみは・いづくへ・ぞや・われも・まゐらんとて・つづ
いて・いでんと・したまひけるを・めのとのにようばう・とりとどめ・たてまつる・ほうでうも・いはきならねば・あはれに・おもひまゐ
らせけれども・さてしも・あるべきならねば・わかぎみ・みこしに・のせたてまつつて・ぐそくしたてまつる・さいとう五・さいとう六
も・かちはだしにて・六はらへこそ・いでにけれ・わかぎみ・いでさせたまひてのち・きたのかた・めのとのにようばうに・むかつ
て・のたまひけるは・みなひとのこをまうけてのちは・めのとなんどが・かたへ・さしはなつて・つかはすことも・あるぞ
かし・このこを・まうけてのちは・よのつねに・ひとの・もたぬ・こを・もちたるやうに・ひとしれず・ふたりが
P564
なかに・おきてこそ・あいせしが・このこが・としも・すこし・おひたつまま・に・こ三みどのに・すこしも・た
がはざりしかば・しかるべき・おんかたみに・もと・おもひ・こ三みどのに・はなれたてまつつてのちは・このこどもをこそ・
ひだりみぎに・おきても・なぐさみしか・いまは・ひとりは・あれども・ひとりは・なし・このこは・十二になるまで・たび
ねは・こよひはじめなり・おとなしきをば・くびを・きり・をさなきをば・みづにいれ・つちにうづむなれば・
このこは・としも・すこし・おとなしかんなれば・さだめて・きりぞ・せんずらん・ゆふさりにてや・あらんずら
む・またあかつきにてもや・あらんずらむ・さこそは・おそろしくも・おもふらめとて・なきあかし・たまひける・
ながきふゆの・よなれども・かぎりあればや・あけにける・あけければ・さいとう五・かへりまゐりたり・きたのかた・さて・
いかにやと・のたまへば・さんさふらふ・いままでは・べちのしさいも・わたらせたまひさふらはず・わかぎみよりの・おんふみさふらふとて・
とりいだして・たてまつる・きたのかた・ひらいて・みたまへば・げにも・さいとうが・まをすに・たがはず・かかれたり・いままで
は・べちのしさいも・さふらはず・おんこころやすく・おぼしめさるべし・いつしか・よのほども・ひとびとこそ・おんこひし
う・おもひ・まゐらせさふらへ・なんどぞ・かかれたる・きたのかた・さてこのこは・なんと・あるぞと・のたまへば・さんさふらふ・
ひとの・みまゐらせさふらふときは・しらぬていにて・おんわたりさふらふが・またひとのみまゐらせ・さふらはぬときは・かたはらに・う
ちむき・つねは・むつがらせ・おはしましさふらふと・まをしたりければ・きたのかた・それは・まことに・さも・あるらん・
いまみるものも・またみるものも・おそろしげなる・ぶしどもにて・ひごろ・みなれたるもの・一にんも・なし・さこ
そは・それに・つけても・こなたを・こひしと・おもふらめ・とてぞ・なかれける・さいとう五・いましばらく
P565
も・さふらへば・おんこころもとなく・おもひまゐらせさふらふに・いそぎかへりまゐるべきよしを・まをしたりければ・ははうへしばしや・
へんじのあらんずるぞとて・みづぐきのあとは・なみだに・かきくれて・そこはかとは・おぼえねども・おもふこころ
を・しるべしにて・なくなく・おんふみあそばしてぞ・たうだりける・さいとう五・ごへんじ・たまはつて・なくなく・だいがく
じをぞ・いでにける・おんめのとのにようばう・かくて・あるにも・あられねば・だいがくじをば・しのびつつ・まぎれいで・
かしこ・ここをぞ・なきありきける・みちにて・ひとゆきあひ・あないとふし・さこそは・おもひたまふらめ・これよ
り・おく・たかをとまをすところにこそ・もんがくしやうにんと・まをして・たつときひじりの・おはす・なるが・しかも・かまくらどの
だいじのひとに・したまふなり・さも・しかるべき・ひとのこの・じんじやうならんを・おんでしに・せばと・のたまふ
が・もしやと・まゐつて・まをして・みたまへかしと・をしへければ・このにようばう・これは・しかるべき・ほとけのおんつげに・
こそと・おもひければ・いまだ・しらぬ・たかをに・たづねのぼり・もんがくのばうに・たづねいりて・みければ・をりふしもん
がくは・つとめ・して・えんに・いでられたり・やや・ものまをさうと・いへば・ひじり・なにごとと・こたふ・これは・ちの・
なかより・とりあげ・いだき・そだて・まゐらせて・さふらふ・をさなきひとを・きのふ・ぶしに・とられ
て・さふらふぞや・あはれ・さもしかるべく・さふらはば・こひうけ・まゐらつさせ・たまひて・おんでしに・
しまゐらつさせ・たまへかしと・まをしければ・ひじり・さて・それは・いかなるひとの・おんこぞ・いまはなにをか・か
くし・まゐらせ・さふらふべき・へいけのちやくちやく・こまつの・三みのちうじやうこれもりのきやうの・わかぎみ・六だいごぜんと・まをし
て・ことしは・十二にならせ・おはしまし・さふらふが・みめ・かたち・ならびなく・こころざま・よに・
P566
すぐれて・おはしまし・さふらへば・ことに・をしうこそとぞ・まをしける・ひじり・さて・それを・こひうけたら
ば・一ぢやう・ひじりに・たぶべきか・まをすにやおよび・さふらふ・こひうけ・まゐらつさせたまひて・だにも・さふ
らはば・ただ・ともかうも・しやうにんの・おんはからひに・こそとぞ・まをしける・ひじり・さて・そのあづかりのぶし
をば・たれとか・いひつる・なに・ほうでうと・かや・まをすひとにて・さふらふなる・やや・さては・しらぬ・
ひとかとこそおもひたれば・ほうでうをば・しつたるひとや・そのひとのことならば・かなはぬまでも・まをしてこそ・み
め・こころやすう・おもひたまへとて・やがて・うちたつて・六はらへこそ・いでられけれ・このにようばう・だいがくじに・かへ
りまゐつて・このよしまをしたりければ・きたのかたあはれ・されかしされかし・このこがいのちの・たすかりたらんぞ・ひとへに・は
せのくわんおんの・ごりしやうにても・あるべき・うれしきにも・またつらきにも・つきせぬものは・なみだなり・そののちもん
がく・六はらへ・いでられたりければ・ほうでうやがて・いであひ・たいめんしたまひて・このあひだのことどもを・やや・はるかに・
おんものがたりあり・そののち・ほうでうまをされけるは・ひじりもさだめて・しろしめされたるらんやうに・かまくらどのより・へいけ
のしそん・たづねいだして・うしなへと・うけたまはつて・さふらふほどに・ことごとく・たづねいだして・うしなひまゐらせさふらふこと・ときまさ
も・こども・あまた・もつたるみにてさふらへば・まつたうこれを・ほんいとは・ぞんじさふらはねども・よにしたがふならひ・
ちからおよばざるしだいなり・またへいけのちやくちやく・こまつの・三みのちうじやうこれもりのきやうの・ちやくし六だい・たづねいだして・うしな
へと・うけたまはつて・きのふより・むかへまをしては・さふらへども・あまりの・いたはしさに・なんと・したてまつるべき・
ひとやらんと・とかく・あんじ・わづらひて・こそさふらへと・まをされたりければ・ひじりも・そのひとにこそと・おもはれ
P567
ければ・ささふらはば・そのわかぎみを・ひとめ・みまゐらせさふらはばやと・のたまへば・ほうでう・やすきおんことさふらふとて・
ひじりを・わかぎみのおんかたへ・いれまをされけり・ひじり・しやうじを・すこしほそめに・あけて・みたまへば・まことにも・
きくにも・こえて・みめかたち・ならびなく・あたりも・てり・かがやくほどなり・くろきのじゆずの・ち
ひさきを・くりたまひて・まことに・おもひいれたる・おんありさま・いたはしく・みたてまつるところに・わかぎみ・ひじりを・みつけ
たてまつつて・なんとか・おもはれけん・やがて・なみだにむせびたまへば・ひじりも・あまりの・いたはしさに・めも・あてら
れず・しきりになみだの・すすみければ・すみぞめのそでを・かほに・おしあてて・しやうじを・ひきたててぞ・いでられ
ける・そののち・もんがく・ほうでうのまへに・ゆきむかひ・すゑのよに・いかなる・あたの・かたきとも・ならばなれ・いかでか・
このひとのいのちをば・うしなふべき・せんずるところ・ほうでうどの・このひとのいのちを・廿かがあひだ・のべて・たべ・われ・かま
くらに・くだつて・こひうけ・たてまつらんずるに・げん二ゐどのに・ずりやうの・かみつきたまは・ざらむほどは・もんがくが・
まをさうずることをば・いかでか・たがへたまふべき・そのゆゑは・ごへんもさだめて・しりたまひたるらん・やうに・あ
のひとの・いまだ・いづのくに・ほうでう・ひるがしまに・ながされて・おはせしとき・もんがくも・るにんのみにては・さふらひし
かども・あのひとを・よに・たてまをさんがために・ゐんぜんまをしに・ふくはらへ・のぼりしとき・ひとめを・はばかるなら
ひ・よはだいだうにいで・ひるはやまみちにかかつて・よをひに・ついで・のぼるほどに・あるときは・ふじかはのみづいで
て・おしながされんと・せしときも・ありまたあるときは・たかせのふもとにて・さんぞくらに・いのちを・うしなはれん
とせしときも・あり・されども・みを・またうして・みやこに・のぼり・ふくはらのしんとに・くだつて・ゐんぜんまをして・たてまつ
P568
るのみならず・れいぶつれいしやに・いのりを・かけて・よにたてまをしたる・もんがくがことをば・いかでかたがへたまふべき・
あひかまへて・廿かがあひだは・まちたまふべしとて・させるりやうしやうは・なけれども・でしのそう一にん・めしぐし・いそぎむま
に・うちのつて・かまくらへこそ・くだられけれ・さいとう五・さいとう六は・ひじりのおんあとを・はるばると・みおくりたてまつつ
て・ただしやうじんの・によらいと・のみぞ・をがみける・二にんのものども・だいがくじに・かへりまゐつて・このよし・まをしたりけれ
ば・きたのかたさればこそ・この三とせがあひだ・はせのくわんおんに・あゆみをはこび・いのるいのりは・ここぞ・かし・しじうのこと
は・しらねども・このこがいのちの二十かがあひだも・のびんことの・うれしさよ・とてぞ・なかれける・一にち二かと・
せしほどに・廿かのすぐるは・ゆめなれや・ひじりは・いまだ・みえざりけり・ほうでうも・まちかねて・あかつきすでに・かま
くらへ・くだらむと・こそ・いでたちけれ・さいとう五・さいとう六は・てを・にぎれども・かなはず・さてしも・あるべ
きならねば・さいごのいとままをしに・だいがくじへぞ・まゐりける・きたのかた・さていかにやと・のたまへば・さんさふらふ・ひじり
も・廿かがあひだと・こそ・まをして・まかりくだつて・さふらへども・いまだ・のぼることも・さふらはず・ほうでうも・まちかねて・
あかつきすでに・かまくらへ・くだらんと・こそ・いでたつげに・さふらへとまをしたりければ・きたのかた・さてこのこは・なにと・
なるべきぞと・のたまへば・さんさふらふ・それも・ゆふさりか・あかつきのほどに・一ぢやうと・こそみえさせ・おはしまし
さふらへ・そのゆゑは・このほど・あづかりまをしてさふらふ・ぶしをば・のけられて・きのふより・べちのつはものの・あづかりまをしてさふらふ
が・あるひは・かたはらに・ささやくものもさふらふ・あるひは・わかぎみを・みたてまつつて・なみだに・むせぶものもさふらふ・またねんぶつ
まをすものも・ありとぞ・まをしける・ははうへ・さればとよ・もしこのひじりの・こひうけて・もや・おそかるらん・また
P569
かなはぬ・にてもや・おそかるらん・もし・こひうけたらば・たとひ・わがみこそ・おそくとも・さきにひとをば・のぼ
すべきものぞ・かし・あはれ・ほうでうと・かやが・もちひつべからむずる・おとなしきものの・このこをみちにて・
ひじりに・ゆきあはむところまで・ぐして・くだれと・いふものの・あれかし・ものこのひじりの・こひうけて・もや・のぼる
らんに・このこは・さきに・きられたりと・きかむことこそ・かなしけれ・かまくらのげん二ゐと・かやも・わがみに・
しれて・このこが・いのちを・たすけんとは・よも・のたまはじ・されば・くわんおんも・ぢやうごふをば・ちからおよばせたまは
ず・あはれ・ゆめは・たのまれざりける・ものぞや・このあかつき・このこが・しろきむまに・のつて・きたりつるを・いか
にやと・いはんと・すれば・そのゆめの・やがて・さめぬる・うらめしさに・たとへゆめなりとも・しばしがほども・
そはずして・さめぬるゆめこそ・うたてけれ・さては・このこが・いのちのたすからんずるかと・おもひたれば・し
ぬべきことの・かねてより・みえつることの・むざんさよ・なによりも・ひとひいでしとき・いましばらくも・さふら
はば・ほうでうと・かやに・いとまごひ・かへりまゐつて・みえ・まゐらせんと・いひおきし・なぐさめことばの・おとな
しさよ・はつかもすでに・すぐるまで・かなたへも・ゆかず・こなたへも・きたらず・ひとひいでしを・かぎりにて・
ながきわかれと・ならむことこそかなしけれ・きたのかた・さて・なんぢらは・なにとなるべきぞと・のたまへば・さんさふらふ・これ
も・わかぎみの・ともかうも・ならせたまはんところまで・おんともまをして・さふらはんほどに・ともにうしなはれんは・ほんい
なり・たとへまた・たすけられてさふらふとも・やがてもとどり・きつて・わかぎみのごぼだいを・とぶらひまゐらせんと・
かれらふたりは・おもひなつて・こそさふらへと・まをしたりければ・きたのかた・いしうも・おもうたり・さらばとく・
P570
かへつて・このこがゆくすゑを・しらせよと・のたまへば・ふたりのものども・さいごのいとままをして・なくなく・だいがくじをぞ・いで
にける・さるほどに・ほうでうの四らうときまさは・六まんよきの・ぐんぴやうを・だなびいて・ぶんぢぐわんねん・しはす十六にちに・
みやこをたつて・かまくらへこそ・くだられけれ・ほうでう・わかぎみをば・みこしに・のせたてまつつて・ぐそくしたてまつる・さいとう
五・さいとう六をも・のりかへに・のれと・いひけれども・けふをかぎりの・おんともなれば・とて・かちはだしにて
ぞ・くだりける・そのころの・きやうちうのじやうげ・このよしを・みたてまつつて・あな・いとふし・わかぎみのうゐむじやうのさかひ・
けふすでに・こえゆきたまひなんず・とて・みな・なみゐて・そでをぞ・ぬらしける・あはだぐちにも・なりしかば・わ
かふしとぞ・みたまひける・こまを・はやむる・ぶしあれば・ただいま・わがくび・うてとの・つかひやらんと・きも
を・けし・かたはらに・ささやく・ものあれば・ただいま・さいごやらんと・むねさわぐ・いのちのすゑを・まつざかや・
四のみやがはらにて・一ぢやうときこえしかども・せきやま・せきでら・うちすぎて・おほつの・うちでに・なりにけり・あはづの
はら・せたのはしにて・一ぢやうときこえしかども・のぢ・しのはらをも・うちすぎて・そのひはかがみに・つきたまふ・ゆふさり・
一ぢやうとききしかども・そのよも・きらで・あけにけり・あすは・一ぢやうとききしかども・そのひも・きらでぞ・くれにけ
る・ほうでうは・いかにもして・としのうちに・かまくらまでと・いそがれければ・よをひについでぞ・くだられける・
みのをはりにも・なりしかば・いとどこころぼそくぞ・おもはれける・みかはのくにをも・うちすぎて・とほたふみのくに・さよのなか
やま・すぐるにも・またこゆべしとも・おぼえねば・いとど・なみだぞおちまさる・うつのやまべの・うつつにも・ゆめ
に・みちゆくここちして・ひかずやうやう・かさなれば・するがのくに・千ぼんのまつばらにこそ・つきたまへ・さるほどにせんぼん
P571
のまつのしたに・おほまく・ひきまはさせ・しきがはしいて・わかぎみ・みこしより・だきおろしたてまつつて・しきがはのうへに・お
きたてまつる・そののち・ほうでう・さいとう五・さいとう六を・かたはらへ・よびはなして・のたまひけるは・わかぎみをば・ただいまこれにて・
うしなひたてまつるべきにてさふらふなり・ごへんたちは・べちのしさいあるべからず・これより・みやこに・のぼり・わかぎみのごぼだいを・
とぶらひまをさるべしと・のたまへば・二にんのものども・ひごろより・かく・あるべしとは・おもひまけうしことなれ
ども・ただいますでにと・きくからに・むねふさがつて・めくれつつ・とかうの・へんじにも・およばず・そののち・ほう
でう・わかぎみのおんまへに・まゐつて・まをされけるは・かつ・きこしめされさふらふ・ごとく・ひじりも・廿かがあひだとこそまをし
て・まかりくだつてさふらへども・いまだ・のぼることも・さふらはず・かねてまた・あふみのかがみにて・うしなひたてまつれと・うけたまはつては・
さふらひつれども・もしやとひじりにゆきあはんところまでとぞんじ・これまで・おんともまをしてさふらふなり・おなじうは・あしがらをも・
こしまをしたうは・さふらへども・くわんとうのきこえ・しかるべからざるうへ・げん二ゐどのも・いちごふしよかんのわかぎみを・たすけまゐ
らせんとは・よもまをされさふらはじ・ただいまこれにて・うしなひたてまつるべきにてさふらふなり・なにごとも・おぼしめしおくおんことさふら
はば・ときまさにも・うけたまはれ・また二にんのひとびとにも・おほせおかれさふらふべし・さてもこのあひだの・おんなごりこそと・なみだ
も・せきあへず・まをされたりければ・わかぎみは・とかくのへんじも・したまはず・ただうちうなづき・たまふ・ばかり
なり・そののち・わかぎみ・さいとう五・さいとう六を・めして・ただいますでにと・きくぞ・なんぢらは・べちのしさい・あらじと・
こそおもへ・これより・みやこに・のぼるべし・ははうへ・めのとのにようばうの・さだめて・わがことをぞ・とひたまはんずらむ・その
ときは・われみちにて・きられたりと・まをすべからず・ことゆゑなう・かまくらまで・くだりつきて・ひとに・あづけられた
P572
りと・まをすべし・そのゆゑは・われみちにて・きられたりとききたまひたらば・ははうへめのとのにようばうの・ひとしれず・なげき
たまはんも・なかなか・つみふかかるべし・たとへ・のちには・かへり・きこしめさるるとも・あひかまへて・このよし・かくと・
まをすべからず・またひとしもこそ・おほきに・なんぢらが・これまで・はるばると・おんともまをしたる・こころざしのほどこそ・
かへすがへすも・しんぺうなれ・あひかまへて・それに・つけても・ははうへ・めのとのにようばうには・よくよく・おんみやづかひつかまつれ・
それぞ・なににも・すぐれたる・こんじやうごしやうの・けうやうとも・おもふべきと・のたまへば・ふたりのものども・わかぎみに・はな
れたてまつつて・一にちへんし・ながらふべしとも・おぼえずとて・せんぼんのまつのした・すなごの・うへに・たふれふし・こゑ
を・あげてぞ・かなしみける・そののち・わかぎみ・ふところより・くわんおんぎやうを・とりいだしたまひて・二三ぺんがほど・よみわた
し・おなじう・くわんおんのみやうがうを・となへ・そののち・にしにむかひ・かうじやうに・ねんぶつす百べん・となへたまひて・さらば・
とく・きれやとて・くびを・のべてぞ・またれける・きりては・かののくどうしげもちとぞ・きこえし・しげもち・たち
を・ぬいて・ひきそばめ・おんうしろに・たちまはりければ・わかぎみ・これをごらんじて・みぐしの・うしろへ・ゆらゆ
らと・さがりたりけるを・おんまへへ・ひきこしたまへば・す千のつはもの・これを・みて・あな・いとふし・いままで
も・おんこころの・わたらせたまひけるよ・とて・ぶし・たけしと・まをせども・みな・よろひのそでをぞ・ぬらしける・
しげもちも・ながるる・なみだに・かきくれて・たちの・うちども・おぼえず・いちぢやう・しげもち・ふかく・つかまつと・
ぞんじさふらふ・されば・じよのじんに・おほせつけられさふらへとて・なみだに・むせびてぞ・たちたりける・ほうでうも・せんかた
なげにて・あなこころうや・いかなるしゆくしふか・かかる・うきひとに・とりかかりたてまつつて・いまかやうに・こころを・く
P573
だく・こころうさよ・たれも・さこそは・おもふらめ・さらば・あれ・きれ・これきれと・きりてを・えらぶところに・
ここに・はるかのひんがしの・かたより・こきすみぞめのころも・きたりける・そう一にん・しろあしげなるむまに・のつてぞ・いでき
たる・これぞ・もんがくがでしなりける・みちにてひと・ゆきあひ・あな・いとふし・さこそは・おもひたまふらめ・あ
れなる・まつのしたに・こそ・へいけの・きんだちと・まをして十二三ばかりなる・よにうつくしき・をさなきひとを・ただ
いまきりたてまつらんと・しつれ・あまりのいたはしさに・みたてまつらずして・とほり・たりつるよ・なんど・かたりけれ
ば・このそう・さては・わかぎみの・これまで・くだらせたまふなるが・ただいまこれにて・きられさせたまふに・こそと・
おもひければ・いそぎ・むちあぶみ・あはせて・はせけるが・たいぜいの・ののめくを・みてあまりの・こころもとなきに・きたる・
ひがさを・ぬいてぞ・まねきたる・あれは・いかに・やうあり・かまくらどのよりのおんつかひ・ごさんあれと・ひとりふ
たり・まをすほどこそ・ありけれ・きりても・いそぐことなければ・六万よきのつはものどもも・みなひんがしの・かたをぞ・ま
ぼりける・このそう・ほどなうきたりぬ・いそぎむまより・とんで・おり・たいぜいの・なかを・おしわけおしわけ・ほうでうのまへ
に・ゆきむかひ・かまくらどのより・おんゆるしぶみの・さふらふぞとて・くびにかけたる・ふみぶくろより・とりいだして・たてまつるほうでう・
ひらいて・みたまへば・そのじやうに・いはく・
なかにも・へいけのちやくちやく・こまつの三ゐのちうじやうこれもりの・ちやくし六だいたづねいだされさふらふことかへすがへすも・しんべうにぞんじさふらふ・
ただし・たかをの・もんがくしやうにん・しきりに・まをさるるに・よつて・しばらく・あづけたてまつるところなり・これにて・べちのうたがひ・
あるべからず・いそぎ・かのひじりのかたへ・わたさるべし
P574
ぶんぢぐわんねん・十二ぐわつ廿三にち
ほうでうの四らうどのへ・よりともと・こそあそばされたれ・ごじひつなり・ごはんなり・ほうでうも・たかうは・よまれねども・
しんべうしんべうとて・さしおかれければ・さいとう五・さいとう六は・なかなかまをすに・およばず・ほうでうのいへのこ・らうどうも・みな
よろこびのなみだをぞ・ながしける
初瀬六代 1210
さるほどにもんがくも・やうやう・おはしたり・ほうでうやがていであひ・たいめんしたまひて・かねては・はつかのあひだと・こ
そ・うけたまはつては・さふらひつれども・おんのぼりも・さふらはず・またかまくらよりは・ひとを・のぼせ・さふらひて・あふみのかがみにて・
うしなひたてまつれと・うけたまはつては・さふらひつれども・もしやと・ごばうにゆきあひたてまつらんところまでとぞんじ・これまでおんともまをしては・
さふらへども・うしなひたてまつらんと・つかまつりさふらふところに・かしこうぞ・あやまち・つかまつつて・こうかいするらんにと・まうされけ
れば・もんがくされば・とよ・われかまくらに・くだつて・このことを・まをさむと・つかまつりさふらへばやがて・なすののかりに・
いでたまふ・つきたてまつつて・まをせば・かまくらに・かへつて・よきやうに・はからはんと・のたまふあひだ・かまくらにて・まをせ
ばわそう・いしうも・くだつたり・わかみやに・七かこもつて・ごまたけ・おほみだうに・三かこもつて・ぶつじせよ・なん
ど・のたまふあひだ・このひとのおんこころに・すこしも・たがひたてまつつては・もんがくがしよまうも・いかでか・かなふべきと・おもひ・
かしこ・ここに・まゐりこもりし・うちにも・わかぎみのごきたうをのみ・つかまつりさふらひき・もんがく・げん二ゐどのに・このことを・
P575
まをしさふらへば・はては・かなふまじと・のたまふあひた・もんがく・こは・いかに・ごへんの・いまだいづのくに・ほうでうひるがしまに・
ながされて・おはせしとき・もんがくも・るにんのみにては・さふらひしかども・ごへんをよに・たて・まをさむがために・
ゐんぜんまをしに・ふくはらへ・のぼりしとき・ひとめを・はばかるならひ・よるはおほぢにいで・ひるは・やまぢに・かかつて・
よをひについで・のぼるほどに・あるときは・ふじがはの・みづいでて・おしながされんと・せしときもあり・またあるときは・
たかせのふもとにて・さんぞくらに・いのちを・うしなはれんと・せしときも・あり・されども・みを・またうして・みやこ
にのぼり・ふくはらのしんとに・くだつて・ゐんぜんまをして・たてまつるのみならず・れいぶつれいしやに・いのりをかけて・よに・た
てまをしたる・もんがくがしよまうを・たがへたまはんに・おいては・ごへんのみやうがも・おはせうずるか・なんど・ある
ときは・おどしたてまつり・またあるときはすかしたてまつつて・おんてに・すみふでを・とりあてがふやうに・してこそ・おんゆ
るしぶみも・いだしたれ・やは・たやすかるべきと・のたまへば・ほうでう・まことにも・とぞおもはれける・そののちほうでう・
わかぎみの・おんまへに・まゐつて・まをされけるは・もつともおんともつかまつつて・まかりのぼりたくは・さふらへども・としのうちに・くわんとうに・
いささかさたつかまつるべき・ことのさふらふあひだ・こんどは・まづ・まかりくだり・いかさまにも・はるに・なつて・まかりのぼり・おんめにかかる
べしと・まをされたりければ・わかぎみの・ごへんじには・あの・ひじりのごばうの・おんことは・なかなか・まをすにおよばず・
さても・そこのはうしこそ・いつのよまでも・わすれがたけれ・いかほどにも・しやうらくのときは・まづ・げんざんに・
いらうずるさふらふとぞのたまひける・そののちもんがく・わかぎみうけとりたてまつる・ほうでうの・さたとして・みこしに・のせたてまつる・ひとあ
また・つけたてまつつて・のぼせまをされけり・さいとう五・さいとう六をも・のりかへに・のせてぞ・のぼせられける・さるほど
P576
に・もんがく・わかぎみうけとりたてまつつて・いかにもして・としのうちに・みやこまでとは・いそがれけれども・つながぬ・つき
ひなり・ければ・をはりのくに・せたのうらにて・としくれぬ・ぶんぢも二ねんに・なりにけり・おなじきむつき五かのひ・もん
がく・わかぎみ・ぐそくしたてまつつて・みやこに・のぼり・もんがくのしゆくばう・二でうゐのくまの・いはがみのばうへ・いれたてまつる・つぎのひ・わか
ぎみ・さいとう五・さいとう六を・おんともにて・ははうへの・おはしける・しやうぶだにのばうに・おはして・みまゐらつさせたま
ふに・もんこをとぢて・たたけどもたたけども・おともせず・さいとう五・もとより・あんないは・しつたり・ついぢを・のぼり・こ
え・うちへ・まゐつてみたてまつるに・ちかうひとのすみたるけしきも・なかりけり・さいとう五・かへりまゐつて・このよしまをし
たりければ・わかぎみ・こは・いかに・われ・みちにて・きられたりと・ききたまひて・もしふちかはへ・みをもや・
なげて・おはすらん・わがいのちの・をしかりつるも・いまいちど・ははうへをみたてまつらんと・おもふためにこそ・あれ・まことに・
さやうに・なりたまひたらんに・おいては・ありし・せんぼんの・まつばらにて・ともかうも・なるべかりつる・もの
をとて・こゑを・あげてぞ・なかれける・わかぎみの・もとかひたまへる・しろき・ゐのこの・さふらひけるが・わか
ぎみの・おんこゑを・ききつけたてまつつて・ついぢの・かげより・をうちふつてぞ・むかひける・わかぎみ・さてはなんぢは・いま
だ・これに・ありけるにや・あはれなんぢ・ものいふものなりせば・ひとびとのおんゆくへを・とはぬか・とてぞ・なか
れける・そののち・ちかき・あたりのひとに・とひたまへば・さんさふらふ・それは・ふゆのころより・はせへ・おんまゐり
にてさふらふと・まをしたりければ・わかぎみなのめならず・よろこびたまひ・いそぎみやこへかへらせたまひて・つぎのひ・さいとう五を・おんつかひ
にて・はせへ・くだされけり・さるほどに・きたのかたは・わかぎみのおんこと・おぼしめしいだし・なみだに・むせび・うつぶして・お
P577
はしけるところへ・さいとう五・つつと・まゐりたり・きたのかた・さていかにやと・のたまへば・さんさふらふ・わかぎみをば・もん
がくしやうにんの・こひうけ・まゐらつさせ・たまひて・みやこへ・おんのぼりにてさふらふと・まをしたりければ・きたのかたこは・ゆめか
やゆめかやとぞ・のたまひける・そののち・ははうへ・のたまひけるは・まことに・このくわんおんは・ぢやうごふをも・てんじかへさせ・たま
ふおんこと・いまにはじめぬ・ことながらとて・やがて・よろこびのほつせ・まゐらつさせたまひ・いそぎみやこへ・ごげかうあつ
て・わかぎみを・むかへまゐらつさせたまひて・みまゐらつさせたまひけるにも・ただゆめの・ここちぞ・したまひける・
そののち・ははうへ・のたまひけるは・こんどは・ならはぬ・たびのそらに・おもむき・やせくろみたれば・しばらく・
これにて・ゆをも・あび・みをも・いたはりたまへかしとは・おもへども・またひじりのごばうの・おぼしめさるる・
ところもあり・まづたかをに・のぼりたまふべし・これよりたかをも・ほどちかかりければ・つねは・くだつて・みえたまへと
て・さいとう五・さいとう六を・おんともにて・たかをに・のぼせまをされけり・ひじりも・ぜんせのことにや・わかぎみなのめならず・
いとほしみたてまつつて・さいとう五・さいとう六をも・ふぢし・ははうへ・めのとのにようばうの・かすかなる・おんすまひをも・
つねは・こととひ・たまひけり
あひ 1211
そのころのせつしやう・このゑどの・せつしやう・めしかへされ・させたまひて・九でうどの・しんせつしやうに・ならせたまふ・されば・この九
でうどのは・へいけの・ほろび・よのそんじゆくことを・おほきに・なげき・おぼしめされければ・いんとく・むなしからず・
P578
やうはう・たちまちに・ひるがへつて・つひにはみよを・しろしめされけるこそ・めでたけれ
小原御幸 1212
ごしらかはのほふわうは・ぶんぢ二ねんの・はるのころ・にようゐんのかんきよの・おんすまひ・ごらんぜま・ほしくやおぼしめされけむ・
ごかうと・さだめられたりしかども・きさらぎ・やよひは・よかんも・はげしく・みねのしらゆき・きえやらで・たにの・つら
らも・うちとけず・かくてはるすぎ・なつのはじめ・うづき廿かごろにぞ・やうやうおぼしめしたたせ・たまひける・しのびの・ご
かうなりけれども・とくだいじ・くわざんゐん・つちみかどいげ・くぎやう六にん・でんじやうびと八にん・そのほか・ほくめんのともがらどもも・せうせうめ
しぞ・ぐせられける・をはらどほりを・ひよしのやしろへと・ごひろうあつて・かの・きよはらのふかやぶが・ふだらくじ・
をののくわうたいこうぐうの・きうせきを・えいらんあつて・それより・おんくるまをとどめてぞ・おんこしには・めされける・はじめたる・ご
かうなりければ・ごらんじなれたる・かたもなく・きうたいはらふ・ひとも・なし・じんせきたえたるほども・かつかつ・
おぼしめししられて・せれうのさとの・ほそみちも・さこそはおんところせく・おぼしめされけめ・とほやまに・かかる・しら
くもは・ちりにしはなの・かたみなり・あをばに・みゆるこずゑには・はるのなごりぞ・をしまるる・じやくくわうゐんは・いはにこけむ
して・ふるうつくりなせる・せんすゐ・こだち・よしあるさまの・みだうなり・いらか・やぶれては・きりふだんのかうを・
たき・とばそ・おちては・つき・じやうぢうの・ともしびを・かかぐとも・かやうのところをや・まをすべき・みねの・あおやぎつゆをふくみて・たまを
つらぬくか・とも・うたがはれ・いけのうきぐさ・なみに・ただよひ・にしきを・さらすかと・あやまたる・なかしまのまつに・かか
P579
れる・ふぢなみ・こずゑのはなののこるも・やへたつくもの・たえまより・やまほととぎすの・ひとこゑも・けふの・みゆき
を・まちがほなり・さらでだに・みやまがくれの・ならひにて・おほはらや・もりのしたくさ・しげく・あをばま
じりの・おそざくら・はつはなよりも・めづらしく・みづのおもに・ちりしきて・よせくるなみも・しろたへなり・ほふわう・
かれをえいらんあつて
いけみづにみぎはのさくらちりしきて・なみのはなこそさかりなりけれ・
ほふわう・にようゐんのごあんじつを・えいらんあるに・かきには・つたあさがほ・はひかかり・へうたんしばしばむなし・くさ・がんえんが・ちまた
に・しげしとも・いひつべし・のきには・しのぶまじりのわすれぐさ・にはには・よもぎおひ・しげり・れいでう・ふかくとざせり・
あめげんけんが・とばそを・うるほすとも・また・いひつべし・すぎの・ふきめも・まばらにて・しぐれも・しもも・おくつゆ
も・もるつきかげに・あらそひて・たまるべしとも・みえざりけり・うしろはやま・まへはのべ・いささ・をざさに・
かぜそよぎ・よに・たへぬみの・ならひとて・うきふし・しげきたけばしら・みやこのかたのことづては・まどほに・
ゆへる・ませがきや・わづかに・こととふものとては・みねにこづたふ・ましらのこゑ・しづがつまぎの・をののおと・これ
らが・おとづれならでは・まさきの・かづら・あをつづら・くるひと・まれなるところなり・ほうわう・にようゐんのごあんじつに・
いらせたまひて・ひとやさふらふひとやさふらふと・おほせけれども・をりふし・おんいらへまをすものも・なかりけるに・ややあつて・らうに・一
にんいでて・さふらふとぞ・まをしける・ほうわう・にようゐんは・いづかたへ・みゆきなりたるぞと・おほせければ・このうへのやまへ・
はなつみにとぞ・まをしける・ほうわう・さては・はなつみて・たてまつりぬべきひと・一にんも・つきたてまつらざるに・こそ・さ
P580
こそ・おんよを・いとはせたまはんからに・ならはぬおんわざは・いたはしうこそと・おほせければ・このあままをしける
は・いまめかしき・まをしごとにては・さふらへども・しやかは・ちうてんぢくの・あるじ・じやうぼんだいわうのたいしなり・され
ども・かやじやうを・いでさせたまひ・だんとくせんに・いらせたまひて・たかきみねには・たきぎをとり・ふかきたにには・みづを・
むすび・ゆきを・はらひ・こほりを・くだくのみならず・なんぎやうくぎやうのごう・つもつて・つひに・しやうがくとげさせ・たまひ
き・いはんや・さきのよの・しゆくぜんをも・またのちのよの・しゆくごふをも・おぼしめしさとらせたまひて・しやじんのぎやうを・しゆしまし
まさむは・なんのおんうたがひか・さふらふべきとぞ・まをしける・ほうわう・このあまのすがたを・つくづくと・えいらんあるに・
よにも・うたてげなる・あさのころもをぞ・きたりける・ほうわう・ふしぎやあのすがたにても・かやうのことを・まをす
ことよと・おぼしめされて・そもなんぢは・いかなるものぞと・おほせければ・このあま・なみだにむせびて・しばしは・ご
へんじをも・まをさず・ほうわうかさねて・さて・いかにや・いかにと・おんたづねありければ・ややあつて・このあま・なみだを
おさへて・まをしけるは・これはこせうなごんにふだうしんせいのむすめ・あはのないしとぞ・まをしける・ないしは・きの二ゐのむすめ・
きの二ゐは・またほうわうのおんめのと・これは・おんめのとごにて・ていせき・りようがんに・ちかづきたてまつりしをば・いつしか・
おぼしめしわすれて・ただいま・ゆめかと・おどろきおぼしめすにも・りようがんに・おんなみだせきあへさせ・たまはず・かたはらの
しやうじを・ひきあけて・えいらんあるに・ごしんじよと・おぼしくて・たけのおんさをに・かけられたるものは・あさのおんころもに
かみのふすま・むかしのらんじやの・にほひを・ひきかへて・そらだきものと・かをりしは・ふだんかうの・けぶりなり・また
かたはらのしやうじを・ひきあけて・えいらんあれば・らいがうの三ぞん・ひがしむきにたちたまへる・ちうそんのみてには・五しきのいと
P581
を・かけられたり・ほとけのひだりに・ふげんのゑざう・みぎに・ぜんだうくわしやうのみえい・ならびにせんていのごえいをも・おなじう・か
けぞ・そへられたる・おんまへのつくゑには・三ぶきやう・八ぢくのめうもん・九でふのごしよをも・おかれたり・なかにも・
くわんきやう・あそばしかけたると・おぼしくて・はんぐわんばかりぞ・まかれたる・そのほかしよきやうのえうもんども・しきしにかきて・ところ
どころに・おされたり・なかにも・にようゐんの・ごえいかと・おぼしくて
おもひきやみやまのおくにすまひして・くまゐのつきをよそにみんとは・
なかにも・にやくうぢうごつしやう・むしやう・じやうどいん・じようみだぐわんりき・ひつしやうあんらくこくとも・あそばされたり・かのおほえのぢやうき
ほうしが・ごだいさんのふもと・しやうやうせんにして・えいじたりけん・しやうかはるかにきこゆこうんのうへ・しやうじゆらいがうすらくじつのまへと
も・あそばされたり・かのじやうみやうこじの・はうぢやうのむろにして・三まん三千のゆかを・ならべ・十ぱうのしよぶつを・しやう
じ・まゐらつさせ・たまひけん・おんありさまも・これには・すぎじとぞ・みえし・なかにも・ごとくだいじのさだいじんじつていこう・
なみだをおさへて・あしたには・こうがんあつて・せいろにほこれども・ゆふべには・はくこつとなつて・かうげんにくちぬ・
いにしへはつきにたとへしきみなれど・そのひかりなきみやまべのさと
と・なくなくえいぜられたりけるにぞ・みなひと・そでをばぬらされける・そののち・やや・はるかに・あつて・うへの
やまより・こきすみぞめのころもきたりける・あま二にん・きのねを・つたひ・おりくだる・しきみ・つつじ・ふぢのはな・は
なかたみに・いれて・おんひぢに・かけられたり・一にんは・つまぎに・わらびをりそへて・いだきたまへり・おんはなかた
み・おんひぢに・かけさせたまひたるは・かたじけなくも・にようゐんにてぞ・わたらせ・たまひける・つまぎにわらびをりそへて・いだきたまへ
P582
るは・せんていのおんめのと・だいなごんのすけどの・これなり・にようゐんは・ほうわうの・ごかうなりたるよしを・きこしめされ
て・一ねんのまどのまへには・せつしゆのくわうみやうを・ごし・十ねんのしばのとぼそには・しやうじゆのらいがうをこそ・まちつるに・おも
ひのほかに・ほうわうのごかうなりたることこそ・こころうけれ・きりかすみならば・たちもへだたり・つゆしもならば・ときの
まに・きえも・うせばやとぞ・おほせける・よひよひごとの・あかのみづ・むすぶたもとも・しをれつつ・あかつきおきの・
そでのうへには・やまぢのつゆも・しげくして・はらひや・かねさせたまひけん・にようゐんは・ごあんじつへも・いらせ
たまはず・またうしろのやまへも・たちもかへらせたまはずして・おぼしめしわづらはせたまひて・たたせたまへるところに・ないし
のあま・まゐりてぞ・おんはなかたみをばたまはりける
六道 1213
ないしのあま・まをしけるは・おんよを・いとはせたまひて・まことのみちに・いらせたまひぬるうへは・なにのおんはばかりか・
さふらふべき・はやはや・ごたいめんあつて・いそぎくわんぎよなし・まゐらつさせ・たまへかしと・まをしければ・
にようゐんごあんじつに・いらせたまひて・あさのおんころもを・ひきかつがせ・たまひて・なくなくおんまへへは・まゐらせたまひたり
けれども・ほうわうも・おほせいださるるむねも・なし・にようゐんもまた・まをしいださせたまふ・こともなかりけるに・やや・あつて・
ほうわう・おほせけるは・さても・かかるおんありさまに・みなしたてまつるべしとは・つゆおもひこそ・よりさふらは・ざりしか・
たうじたれか・こととひ・まゐらせさふらふと・おほせければ・にようゐんいまは・こととひ・さふらふ・かたとては・れいぜいのだい
P583
なごんたかふさきやうの・きたのかた・七でうのしゆりのだいぶのぶたかの・にようばうよりぞ・つねは・こととひ・さふらふなる・ひごろは
このひとびとに・とひ・とぶらはるべしとは・つゆおもひこそ・よりさふらはざりしかとて・おんなみだ・いよいよ・せき
あへさせたまはず・にようゐんまた・まをさせたまひけるは・このひとびとに・おくれ・さふらひしことは・なかなかなげきのなかのよろこ
びなり・そのゆゑは・五しやう三じうのくを・はなれ・しやかのゆゐていに・つらなり・びくのしやうみやうを・けがし・三じに六
こんを・さんげして・一もんのぼだいを・とぶらひ・さふらふなり・にようゐんかさねて・まをさせたまひけるは・みなひとは・
しやうを・かへてこそ・六だうを・みさふらふに・このみは・いきながら・六だうをこそ・みて・さふらへと・まを
させたまひたりければ・ほうわう・それこそ・おほきに・ふしんに・ぞんじさふらへ・いこくの・げんしやう三ざうは・さとりのまへ
に・六だうを・み・わがてうのにちざうしやうにんは・ざわうごんげんの・おんちかひに・よつてこそ・六だうを・みたりとは・
つたへうけたまはつてさふらへ・さやうに・しやうをかへずして・六だうを・ごらんぜむこと・いかがさふらふべかるらん・にようゐん・ご
ふしんは・さることにては・さふらへども・六だうのおもむき・あらあら・なぞらへまをすべし・このみは・へいだいしやうごくのむすめ・
てんしを・こにもちたてまつりたりしかば・おほうちやまの・はるのはな・いろいろのころもがへ・ぶつみやうのとしのくれ・だいじんくわんぱくいげの・
くぎやうでんじやうびとに・もてなされ・さふらひしありさま・四ぜん六よくの・くものうへに・して・八まんのしよてんに・ゐねうかつ
がうせらるらむも・これには・すぎじとこそ・おぼえさふらひしか・さてもじゆえいのあきのはじめ・みやこをば・きそよしなか
と・かやに・おひいだされ・にしのうみ・なみぢはるかに・ただよひ・さふらひしありさま・てんにんの五すゐと・こそ・
おぼえさふらひしか・たのみつる・九こくのうちをば・をがたの三らうこれよしと・かやに・おひいだされ・さんや・ひろしと・
P584
いへども・やすまむと・するに・ところなし・みつぎものも・たえて・なければ・たみのちからも・およばず・ぐごは・
たまたま・そなはれども・みずをも・きこしめされず・うみにうかべりと・いへども・それしほなれば・のむに・
およばず・ばんすゐ・うみにあり・のまんと・すれば・みやうくわと・なる・く・がきだうのしゆじやうの・くるしみも・これ
には・すぎじとぞ・みえし・とほきまつに・しろさぎの・むれゐるを・みては・げんじの・はたを・あぐるかと・きも
を・けし・さうかいに・やがんのなくをききては・かたきふねをこぐかと・おどろかる・さてもびつちうのみづしま・はりまのむろやま・二た
びのいくさに・かちぬとて・ひとびとすこし・いろをなほして・さふらひしに・またつのくに・いちのたにとかやにして・一
もん十よにん・むねとのさぶらひ三百よにん・ほろび・さふらひしかば・ひとびとの・なほしそくたいも・みえわかず・みには・も
ろもろのけだもののかはを・まき・あしてには・くろがねを・のべてまとひつつ・あさゆふは・いくさよばひの・たえざりしありさま・
たいしやくらごわうの・しゆみのみねにして・たがひのゐせいを・あらそふらんも・これには・すぎじとぞ・おもひさふらひし
か・ひるは・いそべのなみに・ただよひ・よるは・すさきのちどりとともに・なきあかし・なきくらし・さふらひしほどに・
ながとのくに・だんのうらと・かやに・して・せんていを・はじめたてまつつて・一もんみな・いまはかうとて・うみに・しづみ・さふらひ
しかば・たまたまのこるものどもは・ふなぞこに・いふせられ・きりふせられて・をめきさけび・さふらひしありさま・けうくわんだい
けうくわん・むげんあびの・ほのほの・そこの・ざいにんも・これにはすぎじとぞ・おぼえさふらひしか・さても・たけき・もののふ
のてに・わたり・ふたたびみやこへ・かへり・のぼりさふらひしに・はりまのくに・あかしのうらと・かやにつきて・さふ
らひしよの・ゆめに・べうべうたるはまを・なぎさに・そうて・にしへゆけば・るりを・かざつたる・たかき・ろうの・さ
P585
ふらふを・まゐつて・みさふらへば・せんていを・はじめたてまつつて・一もんみな・なみゐて・どうおんに・だいばぼんを・よみ
さふらふを・ここをば・いづくと・いふぞと・とうて・さふらへば・二ゐのあまの・こゑとおぼしくて・りうぐう
じやうと・まをす・かほど・めでたき・ところにも・くは・あるかととうて・さふらへば・これも・いまだ・ちくしやうのく
を・はなれぬところにて・さふらへば・などか・くるしみのなうては・さふらふべき・あひかまへて・ごせ・とぶらうて・
たばせたまへと・まをすと・おぼえて・ゆめさめてのちは・つねは・だいばぼんを・ようで・一もんのぼだいを・とぶらひ・さ
ふらふなり・これすこしも・六だうのおもむきに・たがひ・さふらはずや・さては・わがみ・いのち・をしからねば・あさゆふ・これ
を・いのることなし・ただ・いつのよまでも・わすれがたきは・せんていのおんおもかげ・またこころの・をはりのみだれぬ・さき
にと・ねがはしきは・わうじやうののぞみばかりなりと・なくなくまをさせたまひたりければ・ほふわうを・はじめたてまつつて・ぐぶの・く
ぎやう・でんじやうびと・みなそでをぞ・ぬらされける・さるほどに・せきやう・にしにかたぶけば・じやくくわうゐんの・かねのこゑ・けふも
くれぬと・うちしられ・ひもいりあひに・なりしかば・ほうわうみやこへ・くわんぎよなる・にようゐんは・ほうわうのおんうしろを・はるばる
と・みおくり・まゐらつさせ・たまひて・ごあんじつに・かへらせ・おはしましけるをりふし・やまほととぎす・しきりに・お
とづれて・すぎければ・にようゐん
いざさらばなみだくらべんほととぎす・われもうきよに・ねをのみぞなく・
それよりしてぞ・ほうわうより・つねは・こととひ・まゐらつさせ・たまひけるとぞうけたまはる・にようゐんも・ごねんぶつ・
いよいよ・おこたらせたまはずして・おんとし卅九とまをすには・つひには・りうによか・しやうがくのあとを・おひ・ゐたいけ
P586
ぶにんの・むかしをしたひ・わうじやうのそくわいを・とげさせたまひけるとぞ・うけたまはる・あはれなりしおんことなり
法性寺合戦 1214
さるほどにはんぐわんは・あうしうに・くだり・ひでひらにふだうに・たづねあはせたまひて・わがみ・かまくらの・げん二ゐどのに・こころよ
からざるに・よつて・なんぢを・たのみて・これまで・きたれるなりとのたまへば・ひでひらにふだう・かひがひしくも・たのまれ
て・ころもがは・やなぎがたちに・ごしよ・しつらうて・おきたてまつる・あるときひでひら・はんぐわんに・まをしけるは・せんずるところ・かまくら
どのに・おんなか・まをしなほしたてまつらん・たとへまた・かまくらどの・にふだうがまをすむねを・ごしよういんなくて・おくをせめさせ・たまひさふらふ
とも・あうしう・うしう・りやうごくのつはもの・廿八まんぎにて・ふせがんずるに・などか・ささへざるべきと・よにもたのも
しげにこそ・まをしけれ・かかりけるところに・はんぐわんの・うんやつきにけん・ぶんぢ四ねん・十二ぐわつ十二にちに・ひでひらにふだう・
とし六十六にして・うせにけり・ちやくし・にしきどのたらうやすひら・おくのこじらうよりひら・いつしか・ちちがめいをそむきて・
あくる・ぶんぢ五ねん五ぐわつ九かのひ・五百よきにて・やなぎがたちに・おしよせ・はんぐわんをば・つひに・うちたてまつつてんげり・
やすひらよりひら・このよしを・かまくらへ・まをしたりければ・かまくらどの・いかがは・おぼしめされけん・さらば・おくをも・せめら
るべしとて・はうじやうゑをば・七ぐわつついたちに・ひきあげ・おなじき七ぐわつ十八にちに・十八まんぎにて・かまくらを・たちて・
あうしうにはつかうし・七ぐわつより・かつせんはじめ・八ぐわつ・九ぐわつ・三ケつきがあひだに・あうしう・うしう・りやうこくを・せめしたが
へ・やすひらよりひらを・さきとして・たたかふものをば・うちとり・おちゆくものをば・たすけられけり・それより・こほりこほりに・だいくわんを・
P587
すゑおき・わがみは・いそぎ・かまくらへこそ・かへられけれ・さるほどに・かまくらには・この二三ケねんがあひだは・きやうとの・
さわぎくにぐにのみだれに・よつて・おほやけのごねんぐも・たてまつらねば・そのおそれありとて・おほやけのごねんぐたてまつる・ならびにかまくら
どのは・しやうらくとぞきこえし・おなじき十一ぐわつ七かのひ・みやこにのぼり・六はらに・おちつきたまひて・おなじき九かのひ・ゐんざんまをし・
しやう二ゐの・だいなごんに・あがりたまふ・ひやうゑのぜう十人・ゆきへのぜう十にん・ともに三十にんを・めしつかはるべき
よしを・おほせくだされければ・これよりともがためには・あまりにくわぶんのいたりなるべしとて・十五にんをば・じし・まをされて・
のこり十五にんをぞ・めしつかはれける・おなじき廿二にちに・をはらのの・ぎやうかうの・おんともつかまつり・うだいしやうに・あ
がりたまふ・さるほどに・かまくらどのは・たいしやう・だいなごん・りようくわんを・じしまをされて・おなじき十二ぐわつ三かのひ・かまくらへ
こそ・くだられけれ・さるほどに・六だいどのは・たかをに・おはしけるが・十四五にも・なりたまひしかば・いよい
よ・みめかたち・ならびなく・こころさまよにすぐれて・おはしければ・きたのかたよのよならましかば・いまは
はや・このゑづかさにてこそあらんずれ・なんど・のたまひけるぞ・いとほしき・きたのかた・いまは・よのおそろ
しきに・とうとうしゆつけしたまへかしなんど・のたまひけれども・もんがく・しきりに・をしみたてまつつて・十七のとしの・はるの
ころ・しゆつけしたまふべきにて・かみを・かたの・まはりに・きりまはし・さいとう五・さいとう六も・おなじすがたに・いでた
つて・かうやにのぼり・たきぐちにふだうに・たづねあはせたまひて・しかじかと・いつしひとの・こなりしが・かくなりた
るよしを・かたりたまへば・たきぐちにふだう・このわかぎみのおんすがたを・つくづくとみたてまつるに・こ三みどのに・すこしも・たが
はせ・たまはねば・いよいよ・いとほしく・おもひたてまつつて・二三にち・とどめたてまつり・だうだう・じゅんれい・したまひつ
P588
つ・そののち・たきぐちにふだうを・せんだちにて・くまのへまゐらせたまひ・三のおやまの・ごさんけいことゆゑなう・とげさせたまひ
て・のち・はまのみやの・おまへより・まんまんたる・おきをみたまひて・ちちの・しづみたまひしあとと・きくからに・よせ
くる・おきのしらなみも・なつかしげにぞ・みたまひける・それよりみやこへ・ごげかうあつて・たかをにのぼり・しゆつけし
たまひて・三ゐのぜんじと・まをして・おこなひすましてぞ・おはしける・さるほどに・こまつどのの五なん・たんごのじ
じうただふさは・この五六ケねんがあひだは・びつちうのみやうちと・いふところに・しのうで・おはしけるが・きのくにに・うちこえ・
ゆあさの七らうびやうゑむねみつを・たのみつつ・ゆあさにこそ・おはしけれ・おなじきくにのぢうにん・くまののべつたうたんそう・このよ
しを・きいて・たいぜいにて・おしよせたり・ゆあさもとより・くきやうのじやうくわくなりければ・さうなうおつべきやうも・
なかりけるに・みなとをさしふさぎ・ひやうらうぜめに・せめければ・ゆあさ・かなひがたうぞ・みえし・たんごのじじうどの・
ゆあさにむかつて・のたまひけるは・たとへ・わがみこそ・あらめ・おのおのをさへ・まどひものと・なさんことこそ・くちをしけ
れ・ただわらはを・かまくらへ・ぐして・くだりたまへと・のたまへども・ゆあさいかでかさることの・あるべきとて・ふせぎけるが・
かなはぬせにも・なりしかば・たんごのじじうどのを・ぐそくしたてまつつて・かまくらに・くだりまつたう・さなきよしを・ちんじ
まをしたりけるに・よつてこそ・ゆあさをば・あんどしてんげれ・そののちかまくらどの・たんごのじじうどのに・いであひ・たい
めんしたまひて・こさまのかうのとのの・ごぼだいのおんために・おんいのちばかりをばたすけたてまつるべし・はやはやみやこへ・かへ
りのぼりたまへと・のたまへば・たんごのじじうどの・なのめならずよろこびたまひて・みやこへかへり・のぼらせたまひけるに・かまくらどの・い
かがは・おぼしめされけん・おつさまに・ひとを・のぼせて・たんごのじじうどのをば・あふみのくに・しのはらにて・つひ
P589
に・きりたてまつつてけり・さるほどに・けんきう三ねん・三ぐわつ三かのひ・とうだいじ・くやうあるべしとぞ・きこえし・かかりけれ
ば・かまくらどのも・ごけいごのために・しやうらくあり・きたのかたも・ごけちえんのために・しやうらくとぞ・きこえし・とうだいじくやう・
ことゆゑなう・とげさせたまひてのち・みやこへ・のぼらせたまひけるに・ならざかにて・あやしきをとこ・二にんあり・かまくらどの・
はたけやまをめして・あのうちに・あやしきをとこ二にんあり・いちいちに・めしとつて・ことのしさいをたづねさふらへと・のたまへばはたけやま・
かしこまつて・うけたまはり・あみがさきたる・をとこ二にんを・めしとつて・ことのしさいを・とひけるに・さんさふらふ・一にんは・か
づさの五らうびやうゑただみつ・一にんはさつまのひやうゑのぜうさだやすさふらふ・ごしやうらくのみちすがらも・ねらひたてまつり・たるよしを・まをしけ
れば・さては・とて・きづがはにてぞ・きられける・さるほどに・こまつどののすゑのこに・とさのかみむねざねは・三さいの
としより・おほゐのみかどの・さふにやうせられ・いまはたにんの・ごとくにて・おはしけるを・かまくらどの・なんとし
てか・ききいださせたまひたりけん・たづねたまふよし・きこえしかば・とさのかみ・かなはじとや・おもはれけん・とし十八
にて・しゆつけし・ならに・くだりしゆんじようしやうにんを・たのみつつ・ゆざうにぞ・おはしける・しゆんじようしやうにんは・かひがひ
しくも・たのまれたてまつつて・ゆざうにおきたてまつりたりしが・わたくしにては・いかにも・かなふまじとて・このよしを・
かまくらへ・まをされたりければ・かまくらどの・さらばぐして・くだりたまへ・これにて・よきやうに・はからはんと・
のたまふあひだ・しゆんじようしやうにん・とさのにふだうを・ぐそくして・かまくらへこそ・くだられけれ・とさのにふだう・とても・たす
かるまじとて・なんとを・いでしひよりして・ゆみづをだにも・のみいれたまはず・十四かと・まをすには・あしがらのやま
を・こゆるとて・ひじにに・こそは・したまひけれ・しゆんじようしやうにん・このよしを・かまくらへ・まをされたりければ・
P590
かまくらどの・あなおそろし・そのごころにては・いかなることをか・おもひたまはんずらむ・おそろしおそろしとぞ・のたまひけ
る・さるほどに・へいけのしそんは・はや・みなたえぬるかと・おもひたれば・しんちうなごんとももりの・すゑのこに・いがの
たいふともただは・へいけみやこをおちられけるとき・三さいに・なられけるを・おんめのとごの・きの二らうたいふためかた・とりたてまつ
つて・いがに・くだり・せんどのやまでらに・しのうで・おはしけるが・十四のとし・しのびつつ・みやこにのぼり・ひ
そかにげんぷくし・いがのたいふともただとぞ・なのられける・そののちは・ほうじやうじ・一のはし・たけのうちなるところに・と
ころを・しめてぞ・おはしける・かかりければ・へいけの・うちもらされの・一もんさぶらひども・このよしをきいて・ほうじやう
じ・一のはしへぞ・まゐりける・ゑつちうのじらうびやうゑもりつぎ・かづさのあく七びやうゑかげきよ・きの二らうたいふがこ・ひやうゑのた
らう・ひやうゑのじらうを・さきとして・むねとのつはもの・廿九にんぞ・こもりける・ひるは・ほりのはしを・ひき・よるは・はしをぞ・
わたさせける・かかりければ・きやうちうのらうぜき・もつてのほかにぞ・さふらひける・そのころ・一でうの・二ゐどのにふだふよしやす
のきやうの・きたのかたは・かまくらどのの・おんいもうとにておはしければ・かまくらへ・ひとを・くだして・このあひだの・きやうちうのらうぜき・も
つてのほかに・さふらへば・とのゐのもの・たまはるべきよしを・のたまひつかはされ・たりければ・しんひやうゑのぜうもときよに・
たいぜいをつけそへて・のぼらせらる・もときよ・みやこにのぼり・六はらに・おちつきて・さふらひけるが・このよしをきいて・たいぜいにて・
おしよせたり・かの一のはしと・まをすは・くきやうの・じやうくわくなりければ・たやすく・おつべきやうぞ・なき・よせての・いるや
は・たけにはあたれども・ひとにはあたらず・じやうのうちより・あめのふるやうに・いけるやに・よせておほく・まと
になつて・いころさる・もときよ・かなはじとや・おもひけん・ほうじやうじの・まへなる・ざいけを・こぼつて・ほり
P591
に・むめ・はしとして・きつている・じやうのうちにも・たかやぐらより・さしつめ・ひきつめ・さんざんに・いけるが・
そののち・やだねつきければ・うちもののさやを・はづし・きどを・ひらいて・きつて・いで・さんざんに・たたかひけるに・廿
五にんは・うたれにけり・なかにも・ゑつちうのじらうびやうゑもりつぎ・かづさのあく七びやうゑかげきよは・くつきやうの・にげじやうずなりけ
れば・かはらざかに・うつていで・さんざんにたたかひ・ぶんどり・あまたして・一ぱううちやぶつて・みなみを・さしてぞ・おちゆきけ
る・いがのたいふともただは・こそでに・おほくちばかりにて・つまどのあひだに・おはしけるが・ひとでに・かからじとや・おも
はれけん・しやうじのうちに・ひきこもり・じがいしてこそ・うせられけれ・おんめのとごの・きのじらうたいふためかたも・たち
に・ひかけ・ともただのおんしがいに・ちかづきたてまつり・ひごろは・一しよにと・ちぎりたてまつりし・ことなればとて・はら十もん
じに・かきやぶり・おなじまくらに・ふしにけり・そののち・もときよ・けぶりを・しづめ・ともただの・やけくびとつて・一
でうに・もちて・ゆき・二ゐにふだうどのに・みせたてまつる・しんべうなりとは・のたまへども・ともただのおんくび・みしりたてまつりたるもの
ぞ・なかりける・ここに・しんちうなごんとももりのきたのかた・ぢぶきやうのつぼねは・さいこくより・たけき・もののふの・てに
わたり・ふたたび・みやこへ・かへり・のぼらせたまひては・にんわじの・ほとりに・かくれしのびてぞ・おはしける・
これぞさだめて・みしりたまひたるらんとて・たづねいだしたてまつる・このにようばう・あるくびを・一めみて・これも・三さいのとしよ
り・わかれたりしかば・いまはいかでか・みしるべき・さるにても・これや・そなるらんとて・なみだに・むせ
ばれけるにぞ・ともただのくびとは・しりてんげる・なかにも・ゑつちうの二らうびやうゑもりつぎは・たじまに・くだり・けひ
のごんのかみが・むこに・なつてぞ・ゐたりける・たじまのしゆご・あだちの三らうざゑもんとほもと・このよしをきいて・たい
P592
ぜいにて・おしよせたり・じらうびやうゑも・一ぱううけとつて・たたかひけるが・いかがはしたりけん・たいぜいのなかに・とり
こめられて・いけどりにこそ・せられけれ・やがて・けひのごんのかみをも・じらうびやうゑに・そへて・かまくらへこそ・
くだしけれ・けひのごんのかみは・まつたう・さなきよしを・ちんじまをしければ・ゆるされけり・そののち・ゑつちうのじ
らうびやうゑを・おつぼのうちに・めしいだし・かまくらどの・など・なんぢほどのものの・いたづらに・いけどられぬるぞと・のたまへば・
さんさふらふ・いかにもして・みを・まつたうし・きみを・うちたてまつらんと・ねらひまをしさふらひしに・いまは・うんつきて・
いたづらに・いけどられ・さふらひぬるうへは・ちからおよびさふらはず・ただごおんには・いそぎかうべを・はねさせたまへと・まをしたり
ければ・さらばとて・ゆゐのはまにてぞ・きられける・さるほどに・あはのみんぶふしをば・わだに・あづけ・お
かれたりけるが・かほどに・へいけのさぶらひども・ざいざいしよしよにて・むほんおこすと・きこえしかば・ゆくすゑ・しかるべか
らずとて・あはのみんぶふしをば・三うらのはまにてぞきられける・これは・けんきう八ねん・十ぐわつのことなりさるほどに・
かまくらどのも・一ごかぎり・おはしければにや・しやうぢぐわんねん・むつき十三にちに・おんとし・五十三にて・うせたまふ・
かかりければ・しゆじやう・みくらゐを・さらせたまひて・みこ・つちみかどのゐんに・さづけ・まゐらつさせ・たまひけり・じやう
わうみくらゐに・わたらせたまひしほどは・さしも・けんわう・せいしゆの・おんきこえ・わたらせたまひしが・みくらゐを・さらせ・
たまひてのちは・いつしかよこしまに・ならせ・おはします・あそびを・このませたまひては・いやしきふぢよに・
なずらへ・ぶけいを・このませたまひては・しよこくのつはものどもを・めしあつめ・ほくめんと・なづけてめし・つかはる・ごわう・
けんかくを・このんじかば・てんかに・きずをかふむるもの・おほく・そわう・さいえうを・あいせしかば・きんちうに・うゑてし
P593
ぬるをんな・おほし・かみにこのめば・しもも・すなはち・したがふならひ・これひとへに・よの・そんずべき・ぜんぺうかとぞ・
ひと・まをしける・そのころの・ぢよゐぢもくは・ゐん・うち・せつしやう・くわんぱくの・ごせいばいにも・あらず・一かうきゃうの二ゐの・
つぼねの・まま・なりければ・とひのうれへぞ・おほかりける・さるほどに・もんがくは・たかくらの・ゐんの・二みやを・みくらゐ
に・つけたてまつらむとて・しよこくの・ぶしをぞ・かたらひける・じやうわう・このよしを・つたへ・きこしめされて・くわんにん
すけかねに・おほせて・もんがくをば・二でういはがみにて・からめとり・おきのくにへぞ・ながされける・もんがく・はいるのことを・やすか
らず・おもひければ・なんでふこの・ぎちやうくわんじやに・おいては・われ・ゐたらむずるところへ・むかへんずるものをむかへんずるものを
と・をどりあがりをどりあがりぞ・まをしける・この・ごとばゐんと・まをしたてまつるは・をさなうより・ぎちやうのたまに・すかせたま
ひければ・みな・ひと・ぎちやうくわんじやとぞ・まをしける・されば・そのゆゑにや・じようきうに・ことおこり・くわんとうよりの・そしやう
のために・おきへ・ながされさせ・たまひけり・さるほどに・もんがくは・とし八十八に・して・おきのくににて・ひじにに・
こそしたりけれ・さるほどに・六だいどのは・三みのぜんじと・まをして・おこなひ・すまして・たかをに・おはしけ
るを・さるひとのこなり・さるもののでしなり・ゆくすゑ・しかるべからずとて・たかをにて・からめとり・かまくらに・くだし・
をかべの三らうざゑもん・うけとつて・むつらざかにて・きりたてまつる・十二より廿九まで・たすかりたまふことは・ひとへ
に・はせのくわんおんの・ごりしやうとぞ・きこえし・三みのぜんじ・きられて・へいけのしそんは・たえにけり