煙管乗といふ新語

                        

菊池眞一

宮武外骨『奇想凡想』(大正9年6月15日)に、
煙管乗といふ新語
という文章がある。「キセル」「キセル乗り」という新語の用例(語源?)を説明したもの。『日本国語大辞典』は「きせるのり」の項目で、この文章の一部を引用している。


煙管乗といふ新語
世が進歩するに随つて種々の新事物が発生し、其新事物に就て又種々の新言語が現はれるものである、我輩が最も面白可笑く感じた一つの新語を爰に紹介する
去る大正七年一月二十九日発行の『東京朝日新聞』に「煙管乗の罰金」と題して

二十七日午前八時頃、新橋駅の改札口に、絹布を纒ひ金縁眼鏡を掛けたる二十五六歳の商人体の青年あり、其所持せる定期乗車券に不審の点あるより太田同駅長が取調べると、此の者は関田留四郎と云ひ、東京麻布区笄町一九と横浜柳町四丁目四九の両所に住所を有し骨董仲買を業とせるが、新橋と芝浜松町間、横浜と同桜木町間との両種の定期乗車券を所持し、これを持て常に東京横浜間を乗車往復し居りしこと判明し、結局無銭乗車の賠償として百円四十八銭の罰金を収めて示談事済みとなりたり

此事実は横浜市の桜木町で乗車し下車する際には、同町と横浜駅間の定期乗車券を示し、新橋では、芝浜松町と新橋駅間の定期乗車券を示し、中間は無賃乗車であつたのだが、これを煙管乗(金が出て居るのは両端のみ、中間は金なし)と云ふのが如何にも奇抜軽妙でおもしろい
(宮武外骨『奇想凡想』大正9年6月15日)






2016年3月20日公開

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