『円朝全集』未掲載円朝俳句(その三)

菊池眞一



 竹下義人「圓朝のかかわった月並句合」(『語文』第百五十七輯。平成二十九年三月二十五日)によると、

明治二十二年二月九日出版『とし籠句合(返草)』に、

人になきこの親みや月と梅    圓朝

とある。


 この句につき、竹下氏は、次のように説明している。〈以下、全部引用〉


 ちなみに、右の圓朝の句については、若干の説明を要する。実は、この句のほかに、別の句形が伝わっているからである。 その句形に関しては、竹内節が圓朝の手紙の中に添えられた俳句として紹介した次の文章中にみえる。

三遊亭圓朝が事に付きては、既に本誌に委しく記されつれば、今又茲に贅筆を要せざれど、余は只彼が風流韻事に就きて、其の一端を録し、同好の一粲に供せん。圓朝が余に贈れる書信中、其末尾に俳句を附するを常とせり。今其一二を掲げんに、
始めておこされし手紙に、
  
人に此親みほしや月と梅    〈下略〉

 右のように竹内節が受信した圓朝書簡に、
  
人に此親みほしや月と梅
の一句が書き添えてあったという。右の文章は明治三十四年一月のものだが、書簡の年次が明らかにされていないため、仮に二種の「人に……」の句が、初案・再案の関係にあったとしても、現時点ではその先後を比定するための決め手を欠く。一般的には、書簡中の句を初案とみるのが穏当かもしれないが、それを証する根拠はない。一方、内容面から判断しようにも、両句の優劣をめぐる評価としては見極めがたいところがあって、何とも悩ましい。後考を待ちたい。





2017年10月5日公開

菊池眞一


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