『医文学』掲載都々逸情歌
菊池眞一
『医文学』という雑誌があった。文字通り、医者が文学を論じ、文芸創作をしたものである。国会図書館には 1巻1号(大14.8) - 12巻5号(昭11.5) が保存されている。
創作は殆どが漢詩・和歌・俳句だが、都々逸が一首、情歌が十四首あるので、以下紹介する。
『医文学』第四巻第二号(第三十一号)昭和三年二月一日
山色新
瀬川良太郎
千古変らぬ芙蓉の峰は初日新な色がさす
『医文学』第七巻第六号(第七十一号)昭和六年六月一日
情歌(酔余の作) 田中香涯
忍ぶ小座敷雨降る宵に、何をさゝやく影法師
いやな客にも柳と靡びき、無理をいはぬが花の里
二階の窓から投げたる文を、誰ぞや行燈のかげで読む
君がなさけの仮り寝の夢に、いつまで経つても醒めぬ恋ひ
月に読む文隈なす影に、見ればゆかりの雁のむれ
耳についたるこの口紅が、何と言つたか憎くらしい
山と山とは立ち隔てゝも、雪は解け合ふ妹背川
逢ふて嬉れしいゆふべの首尾を、今朝もつないだ雨の糸
やみ夜の裏木戸細目にあけて、白い素足が忍びこむ
嘘をついても何乗るものか、わたしや恋ひには千里眼
散りて流るゝ花さへ恋ひし、河の向ふは主の里
薔薇の露をば硯にうけて、君に書きやる恋ひの文
主と湯戻り濡れ手拭で人に見られる顔かくす
何の因果か貧乏で愚痴で、浮気で邪険な主が好き
《2017年8月19日公開》
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