伊藤博文の都々逸

菊 池 眞 一

 下記の都々逸は、伊藤博文作として諸書に載るが、この記事は年月と場所が明確になっているので、一資料として提示しておきたい。
 『文芸倶楽部』第三巻第三編(明治三十年二月十日)所載。


◎伊藤侯の都々一  文界の奇人長田秋濤氏、去年の冬其友達なる横山氏と相提へて京都に到り、折節舞子の浜に優遊自適せられし滄浪閣の主人伊藤侯を訪んとて、祇園町の名妓十数名を撰り、斯くてこの娘子軍を引率し、秋濤氏勢ひ猛に押寄せしが、侯はほくほく打笑みて、緑酌紅燈、酔歌乱舞の大浮れ、侯は興に乗じて、声面白く新作の都々一を歌はれしかば、秋濤氏はすかさず其都々一を書せられんことを求めしに、『好し好し、書て呉れ』との命、近侍の詩人矢土錦山氏をして筆を執らしめられぬ、
  わたしやひとりで舞子の浜に
       浪に千鳥を見てくらす
    口伝しておくれ
 長田横山二兄、携京妓十余名、訪滄浪閣主人於舞子客楼、主人唱之。


《2019年7月8日公開》
菊池眞一