栄花物語詳解巻九


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〔栄花物語巻第九〕 いはかげ
かくて御門(みかど)、いかでおりさせ給(たま)ひなんとのみ思(おぼ)し宣(のたま)はすれど、殿(との)の御(お)前(まへ)許(ゆる)し聞(き)こえさせ給(たま)はぬ程(ほど)に、例(れい)ならず悩(なや)ましうおはしまして、いかなる事(こと)にかと思(おぼ)して御慎(つつし)みあり。中宮(ちゆうぐう)もしづごゝろなく嘆(なげ)かせ給(たま)ふ程(ほど)に、まめやかに苦(くる)しう思(おぼ)し召(め)さるれば、これより重(おも)らせ給(たま)ふやうもこそあれと、何事(なにごと)も思(おぼ)しわかるゝ程(ほど)に、いかでともかくもと思(おぼ)し召(め)さる。御もののけなど様々(さまざま)繁(しげ)き様(さま)なり。此(こ)の頃(ごろ)一条(いちでう)の院(ゐん)にぞおはします。夏(なつ)の事(こと)なれば、さらぬ人(ひと)だに安(やす)くもあらぬに、いみじう苦(くる)しげにおはしますも、見(み)奉(たてまつ)りつかうまつる人(ひと)安(やす)くもあらず嘆(なげ)く。六月七八九日(にち)の程(ほど)なり。今(いま)はかくておりゐなんと思(おぼ)すを、さるべき様(さま)にをきて給(たま)へとおほせらるれば、殿(との)うけたまはらせ給(たま)ひて、東宮(とうぐう)に御たいめんこそは例(れい)の事(こと)なれとて、思(おぼ)しをきてさせ給(たま)ふ程(ほど)に、東宮(とうぐう)には一の宮(みや)をとこそ思(おぼ)し召(め)すらめど、中宮(ちゆうぐう)の御こころの内(うち)にも思(おぼ)しをきてさせ給(たま)へるに、うへおはしまして東宮(とうぐう)の御たいめ急(いそ)がせ給(たま)ふに、世(よ)人(ひと)いかなべい事(こと)にかとゆかしう
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申し思(おも)ふに、一の宮(みや)の御かたざまの人々(ひとびと)、若宮(わかみや)かくて頼(たの)もしういみじき御(おん)中(なか)よりひかり出(い)でさせ給(たま)へる、いと煩(わづら)はしうさやうにこそはと思(おも)ひ聞(き)こえさせたり。又(また)あるひはいでやなど推(お)し量(はか)り聞(き)こえさせたり。
東宮(とうぐう)行啓あり。十一日(にち)に渡(わた)らせ給(たま)ふ程(ほど)いみじうめでたし。一条(いちでう)の院(ゐん)にはいかにおはしまさんとすらんよりほかの嘆(なげ)きに、東宮(とうぐう)方(がた)の殿上人(てんじやうびと)など思(おも)ふ事(こと)なげなるも常(つね)の事(こと)ながら、世(よ)のあはれなる事(こと)、たゞ時(とき)の間(ま)にてかはりける。さて渡(わた)らせ給(たま)へれば、御簾ごしに御たいめんありて、あるべき事(こと)ども申(まう)させ給(たま)ふ。世(よ)にはをどろ<しう聞(き)こえさせつれど、いとさはやかによろづの事(こと)聞(き)こえさせ給(たま)へば、世(よ)の人(ひと)のそらごとをもしけるかなと宮(みや)は思(おぼ)さるべし。位(くらゐ)もゆづり聞(き)こえさせ侍(はべ)りぬれば、東宮(とうぐう)には若宮(わかみや)をなんものすべう侍(はべ)る。だうりのまゝならば、帥(そち)の宮(みや)をこそはと思(おも)ひ侍(はべ)れど、はか<”しき後見(うしろみ)なども侍(はべ)らねばなん。大方(おほかた)の御まつりごとにも、年(とし)頃(ごろ)親(した)しくなど侍(はべ)りつる男(をのこ)どもに、御用意(ようい)あるべきものなり。みだりごゝちをこたるまでもほい遂げ侍(はべ)りなんとし侍(はべ)り、またさらぬにてもあるべき心地(ここち)もし侍(はべ)らずなど様々(さまざま)哀(あは)れに申(まう)させ給(たま)ふ。東宮(とうぐう)も御目のごはせ給(たま)ふべし。さてかへらせ給(たま)ひぬ。
中宮(ちゆうぐう)は若宮(わかみや)の御事(こと)さだまりぬるを、例(れい)の人(ひと)におはしまさば、ぜひなく嬉(うれ)しうこそは思(おぼ)し召(め)すべきを、うへはだうりのまゝにとこそは
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思(おぼ)しつらめ。彼の宮(みや)もさりともさやうにこそはあらめと思(おぼ)しつらんに、かく世(よ)のひゞきにより引きたがへ思(おぼ)しをきつるにこそあらめ。さりともと御心(こころ)の内(うち)の嘆(なげ)かしう安(やす)からぬ事(こと)にはこれをこそ思(おぼ)し召(め)すらんと、いみじうこころ苦(ぐる)しういとおし。若宮(わかみや)はまだいと幼(をさな)くおはしませば、自(おの)づから御宿世(すくせ)にまかせてありなんものをなど思(おぼ)し召(め)いて、殿(との)の御(お)前(まへ)にも、猶(なほ)此(こ)の事(こと)いかでさらでありにしがなとなん思(おも)ひ侍(はべ)る。彼の御心(こころ)の内(うち)には、年(とし)頃(ごろ)思(おぼ)しつらん事(こと)のたがふをなん、いと心(こころ)苦(ぐる)しうわりなきなど泣く<と言(い)ふばかりに申(まう)させ給(たま)へば、殿(との)の御(お)前(まへ)げにいとありがたき御事(こと)にもおはしますかな。またさるべき事(こと)なれば、げにと思(おも)ひ給(たま)ひてなんをきてつかうまつるべきを、うへおはしましてあべい事(こと)どもをつぶ<とおほせらるゝに、いな猶(なほ)あしうおほせらるゝ事(こと)なり。次第(しだい)にこそはと奏しかへすべき事(こと)にも侍(はべ)らず。世(よ)の中(なか)いとはかなう侍(はべ)れば、かくて世(よ)に侍(はべ)る折さやうならん御有様(ありさま)も見(み)奉(たてまつ)り侍(はべ)りなば、後(のち)の世も思(おも)ひなくこころ安(やす)くてこそ侍(はべ)らめとなん思(おも)ひ給(たま)ふると申(まう)させ給(たま)へば、又(また)これも理(ことわり)の御事(こと)なれば、かへし聞(き)こえさせ給(たま)はず。うへは御(おん)心地(ここち)の苦(くる)しうおぼえさせ給(たま)ふまゝにも、宮(みや)の御(お)前(まへ)をまつはし聞(き)こえさせ給(たま)へば、片時(かたとき)立(た)ち去(さ)り聞(き)こえ給(たま)はず。いと苦(くる)しげにおはします。
御譲位六月十三日(にち)なり。十四日(にち)より御こ〔ゝ〕ち重(おも)らせ給(たま)ふ。若宮(わかみや)東宮(とうぐう)に立(た)たせ給(たま)ひぬ。世(よ)の人(ひと)をどろくべくもあらず、
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あべい事(こと)ゝ皆思(おも)ひたりつれど、御悩(なや)みの程(ほど)、一の宮(みや)の御(お)前(まへ)立(た)ち去(さ)らず扱(あつか)ひ聞(き)こえさせ給(たま)ふも、御こころの内(うち)推(お)し量(はか)られ、こころ苦(ぐる)しうて、中宮(ちゆうぐう)もあひなう御面(おもて)あかむ心地(ここち)せさせ給(たま)ふ。一品宮もよろづ思(おぼ)しみだれたる内(うち)にも、一の宮(みや)の御事(こと)の斯(か)かるをそへ嘆(なげ)かせ給(たま)ふべし。東宮(とうぐう)の御事(こと)などすべて宮(みや)は何(なに)とも覚えさせ給(たま)はねば、たゞ殿(との)の御かたがたに御いとまなく、内(うち)・春宮(とうぐう)・院(ゐん)など参(まゐ)り定(さだ)めさせ給(たま)ふ程(ほど)、えもいはずあさましきまで見(み)えさせ給(たま)ふ御さいはひかなとめでたく見(み)えさせ給(たま)ふ。かくて院(ゐん)の御悩(なや)みいと重(おも)らせければ、御ぐしおろさせ給(たま)はんとて、ほうしやうじざす院源(ゐんげん)僧都(そうづ)召(め)して、おほせらるゝ事(こと)ども、いみじう悲(かな)しとも疎(おろ)かなり。中宮(ちゆうぐう)われにもあらず涙(なみだ)にしづみておはします。〔一〕の宮(みや)・一品宮などいみじう思(おぼ)し召(め)したり。東宮(とうぐう)の御乳母(めのと)達(たち)の思(おも)ひたる気色(けしき)、そはしもいとめでたし。かくて御ぐし六月十九日(にち)たつのときにおろしはてさせ給(たま)ひて、あらぬ様(さま)にておはします。中宮(ちゆうぐう)えせきあへさせ給(たま)はず。思(おも)ひ遣(や)り聞(き)こえさすべし。
さてだに平(たひら)かにおはしまさば、いとめでたき御有様(ありさま)なるべき、いみじき一院(ゐん)にこそはおはしますべきを、すべておはしますべうも見(み)えさせ給(たま)はぬこそいみじけれ。此(こ)の修法など今(いま)はとどめさせ給(たま)ひて、念仏などをきかばやと宣(のたま)はすれど、只今(ただいま)は同(おな)じやうに平(たひら)かにおはしますべき御祈(いのり)のみぞある。さりともいとかばかりの御有様(ありさま)をそむかせ給(たま)ひぬれば、さりともと頼(たの)もしうのみ誰(たれ)
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も思(おぼ)したるに、いつゝにて東宮(とうぐう)に立(た)たせ給(たま)ふ。七にて御位(くらゐ)につかせ給(たま)ひて後(のち)、二十五年にぞならせ給(たま)ひにければ、今(いま)の世(よ)の御門(みかど)の、かばかりのどかにたもたせ給(たま)ふやうなし。村上(むらかみ)の御事(こと)こそは、世(よ)にめでたきたとひにて、廿一年おはしましけれ。ゑんゆう院(ゐん)の上、世(よ)にめでたき御心(こころ)をきて、たぐひなきひじりの御かどと申しけるに、十五年ぞおはしましけるに、かう久しうおはしましつれば、いみじき事(こと)に世(よ)人(ひと)申し思(おも)へれど、御(おん)心地(ここち)の猶(なほ)いみじく重(おも)らせ給(たま)ひて、寛弘八年六月廿二日(にち)のひるつかた、あさましうならせ給(たま)ひぬ。そこらの殿上人(てんじやうびと)・上達部(かんだちめ)・殿(との)ばら・宮(みや)の御(お)前(まへ)・一の宮(みや)・一品宮(みや)。すべて聞(き)こえん方なし。殿(との)の御(お)前(まへ)えもいはず。いみじき御(おん)心地(ここち)せさせ給(たま)ふとも疎(おろ)かなり。そこらの御ずほうのだんどもこぼち、僧どものもの運(はこ)びののしる程(ほど)いともの騒(さわ)がしう、様々(さまざま)にあはれなる事(こと)多(おほ)かり。
内(うち)方(かた)はめでたき事(こと)を日(ひ)のさし出(い)でたる心地(ここち)したり。此(こ)の院(ゐん)にはよろづ只今(ただいま)はかきくもり、いみじき御有様(ありさま)共(ども)なるに、東宮(とうぐう)のいと若(わか)う行末(ゆくすゑ)はるかなる御程(ほど)、思(おも)ひ参(まゐ)らする。いとめでたし。今年(ことし)は四(よ)つにならせ給(たま)ふ。三の宮はみつにおはします。何(なに)ともなうまぎれさせ給(たま)ふもいみじうあはれなり。いみじき御有様(ありさま)のまた限(かぎ)りなきと聞(き)こえさすれど、道(みち)異(こと)にならせ給(たま)ひぬれば、暫(しば)しこそあれ。さてのみやはとて中宮(ちゆうぐう)も御方(かた)に渡(わた)らせ給(たま)ひぬ。御しつらひ様(さま)殊(こと)にしなして、御となぶら近(ちか)う参(まゐ)りてさべき人々(ひとびと)
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は遠(とを)く退(の)きて候ふ程(ほど)などこそは、世(よ)にたぐひなくゆゝしきわざなりけれ。中宮(ちゆうぐう)もののあはれも何時(いつ)かは知(し)らせ給(たま)ふべき。これこそ始(はじ)めに思(おぼ)し召(め)すらめ。参(まゐ)らせ給(たま)ひし程(ほど)、いみじう若(わか)くおはしまししに、かくての後(のち)十二三年(じふにさんねん)にならせ給(たま)ひぬるに、またならび聞(き)こえさする人(ひと)なくて、明(あ)け暮(く)れよろづになれ聞(き)こえさせ給(たま)ひけるに、俄(にわか)なるやうなる御有様(ありさま)を、いかでかは疎(おろ)かには思(おぼ)し召(め)されん。よろづに理(ことわり)と見(み)えさせ給(たま)ふ。
一品の宮(みや)は十四五ばかりにおはしませば、よろづに今(いま)は思(おぼ)し知(し)りはてて、哀(あは)れに思(おぼ)し召(め)し嘆(なげ)く。師の宮(みや)は、まだいと若(わか)うおはしませど、大方(おほかた)のどかにこころ恥(は)づかしう、よろづ思(おぼ)し知(し)りたる御有様(ありさま)なれば、いたうしづみ思(おぼ)し嘆(なげ)く様(さま)、理(ことわり)なりと見(み)えたり。ひとかたのみならず、自(おの)づから思(おぼ)しむすぼるゝ事(こと)なきにしもあらじかしと、様々(さまざま)こころ苦(ぐる)しうなん。かくて日頃(ひごろ)の御読経のこゑ、哀(あは)れにて過(す)ぐさせ給(たま)ふ程(ほど)に、御さうそうは七月八日と定(さだ)めさせ給(たま)へり。いみじう暑き程(ほど)に、こころよりほかに程(ほど)経(へ)させ給(たま)ふを、中宮(ちゆうぐう)いみじう思(おぼ)し召(め)したり。かくておはします事(こと)こそはめでたき事(こと)ながら、限(かぎ)りあるわざなれば、哀(あは)れにのみなん。七月七日明日(あす)は御さうそうとて按察大納言(だいなごん)殿(どの)より、
@たなばたを過(す)ぎにし君(きみ)と思(おも)ひせば今日(けふ)は嬉(うれ)しきあきにぞあらまし W066。
右京命婦(みやうぶ)、御かへし、
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@わびつゝもありつるものをたなばたのたゞ思(おも)ひ遣(や)れ明日(あす)いかにせん W067。
かくて八日のゆふべ、いはかげと言(い)ふところへおはします。儀式(ぎしき)有様(ありさま)めづらかなるまでよそほしきに、さばこれこそはきはの御有様(ありさま)なりけれと、見物(みもの)に人(ひと)思(おも)へり。殿(との)の御(お)前(まへ)を始(はじ)め奉(たてまつ)りて、いづれの上達部(かんだちめ)・殿上人(てんじやうびと)かはのこりつかうまつらぬあらん。おはしましつきては、いみじき御有様(ありさま)と申しつれど、はかなきくもきりとならせ給(たま)ひぬるは、いかゞあはれならぬ。
永き夜といへどはかなう明けぬれば、暁(あかつき)方(がた)には御骨など帥(そち)の宮(みや)・殿(との)など取らせ給(たま)ひて、事(こと)はてぬれば、大蔵卿(おほくらきやう)まさみつ朝臣(あそん)負(お)ひ奉(たてまつ)りてかへらせ給(たま)ふ程(ほど)などいみじう悲(かな)し。かへらせ給(たま)ふみちのそらもなし。皆(みな)一条(いちでう)の院(ゐん)に夜ぶかくいらせ給(たま)ひぬ。高松(たかまつ)の中将(ちゆうじやう)、
@いづこにか君(きみ)をば置(お)きてかへりけんそこはかとだに思(おも)ほえぬかな W068
公信の内蔵頭、
@かへりても同(おな)じ山(やま)ぢをたづねつゝ似たる煙(けぶり)や立(た)つとこそ見め W069。
哀(あは)れにつきせぬ御事(こと)どもなり。
日頃(ひごろ)は扨もおはします御方(かた)の儀式(ぎしき)有様(ありさま)、はかなき御調度(てうど)より始(はじ)め、例(れい)ざまにもてなし聞(き)こえさせ給(たま)へれば、さてのみありつるを今日(けふ)よりはおはしましゝところを、御念仏のほとけおはしまさせ、僧などの慣(な)れ姿(すがた)もいみじう忝(かたじけな)うよろづに悲(かな)し。念仏のこゑの日(ひ)の暮(く)るゝ程(ほど)、ごやなどのいみじう
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哀(あは)れに、様々(さまざま)悲(かな)しき事(こと)多(おほ)くて過(す)ぐさせ給(たま)ふ。御(お)前(まへ)のなでしこを人(ひと)の折りて持(も)て参(まゐ)りたるを、宮(みや)の御(お)前(まへ)の御すゞりがめにさゝせ給(たま)へるを、東宮(とうぐう)取(と)り散(ち)らさせ給(たま)へば、宮(みや)の御(お)前(まへ)、
@見るまゝにつゆぞこぼるゝをくれにしこころも知らぬなでしこのはな W070。
月のいみじうあかきに、おはしましゝところのけざやかに見ゆれば、宮(みや)の御(お)前(まへ)、
@かげだにもとまらざりけるくもの上(うへ)を玉(たま)の台(うてな)と誰(たれ)か言(い)ひけん W071。
はかなう御忌(いみ)も過(す)ぎて、御法事一条(いちでう)の院(ゐん)にてせさせ給(たま)ふ。其(そ)の程(ほど)の御有様(ありさま)、さらなる事(こと)なれば、書きつゞけず。宮々(みやみや)の御有様(ありさま)いみじうあはれなり。御忌(いみ)はてゝ宮(みや)は、枇杷(びは)殿へ渡(わた)らせ給(たま)ふ折、藤式部(しきぶ)、
@ありし世は夢(ゆめ)に見なして涙(なみだ)さへとまらぬやどぞ悲(かな)しかりける W072。
一品の宮は三条(さんでう)院(ゐん)に渡(わた)らせ給(たま)ひぬ。一の宮(みや)はべちなうにおはします。中宮(ちゆうぐう)より宮々(みやみや)におぼつかなからずをとづれ聞(き)こえさせ給(たま)ふ。九月ばかりに弁すけなり。一品の宮(みや)に参(まゐ)りて、やまでらに一日まかりたりしに、いはかげのおはしましどころ見参(まゐ)らせしかば、哀(あは)れに思(おも)ひ給(たま)へられて、
@いはかげの煙(けぶり)をきりにわきかねて其(そ)のゆふぐれの心地(ここち)せしかな W073。
一条(いちでう)の院(ゐん)の御念仏・御読経はてまであるべし。御忌(いみ)の程(ほど)同(おな)じごと候(さぶら)はせ給(たま)ひしに、故関白(くわんばく)殿(どの)の僧都(そうづ)の君(きみ)
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はまかで給(たま)ひて、いゐむろはやがて其(そ)のまゝに候(さぶら)ひ給(たま)へば、僧都(そうづ)の君(きみ)の御許(もと)に遣(や)りし、
@くりかへし悲(かな)しき事(こと)は君(きみ)まさぬ宿(やど)の宿(やど)守(も)る身(に)にこそありけれ W074。
僧都(そうづ)の君(きみ)の御かへし、
@君(きみ)まさぬやどに住(す)むらん人(ひと)よりもよその袂(たもと)はかはくまもなし W075。
東宮(とうぐう)は今(いま)は内(うち)におはしませば、中宮(ちゆうぐう)のよろづに思(おぼ)しみだれさせ給(たま)ふに、東宮(とうぐう)の御有様(ありさま)のおぼつかなささへ。添(そ)ひていぶせく思(おぼ)し召(め)さるゝ事(こと)多(おほ)かり。内(うち)にはまだ誰(たれ)も<候(さぶら)はせ給(たま)はず。督(かん)の殿(との)をぞ参(まゐ)らせ給(たま)へとある御消息(せうそこ)度々(たびたび)になりぬれど、殿(との)の御(お)前(まへ)すが<しうも思(おぼ)し立(た)たせ給(たま)はず。内(うち)の御後見(うしろみ)も、殿(との)つかうまつらせ給(たま)ふ。東宮(とうぐう)のはたさらなり。猶(なほ)めづらかなる御有様(ありさま)を、同(おな)じ事(こと)なれど尽きせず世(よ)人(ひと)申し思(おも)へり。内(うち)の宣耀殿(せんえうでん)の宮(みや)たちは、三(み)所(ところ)は御かうぶりせさせ給(たま)へり。四の宮(みや)はまだわらはにておはします。一宮、斎宮に居(ゐ)させ給(たま)へり。御定(さだ)めになりぬ。御即位(そくゐ)・御(ご)禊(けい)・大嘗会(だいじやうゑ)など様々(さまざま)にののしる。女御代(にようごだい)には督(かん)の殿(との)出(い)で給(たま)ふべきやうにぞ。世(よ)人(ひと)申しける。されどそれはまだ定(さだ)めもなし。
かく言(い)ふ程(ほど)に、故帥(そち)殿(どの)の姫君(ひめぎみ)には、高松(たかまつ)殿(どの)の二位(にゐ)の中将(ちゆうじやう)住(す)み給(たま)ひければ、此(こ)の頃(ごろ)ぞ御(み)子(こ)産み奉(たてまつ)り給(たま)へれば、いみじう美(うつく)しき女君(をんなぎみ)におはすれば、殿(との)は后(きさき)がねと抱(いだ)き持(も)ちて慈(うつく)しみ奉(たてまつ)り給(たま)ふ。七日
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が程(ほど)の御有様(ありさま)限(かぎ)りなく御かたがたよりも御とぶらひどもあり。殿(との)の御(お)前(まへ)はたさらなり。よろづに知(し)り扱(あつか)ひ聞(き)こえさせ給(たま)ふ。あはれ帥(そち)殿(どの)のいみじきものにかしづき給(たま)ひしを思(おぼ)しいづるにも、これ悪(わろ)き振舞(ふるまひ)にはあらねど、世(よ)に限(かぎ)りなき御有様(ありさま)に思(おぼ)しをきてしものをと、まづ思(おも)ひ出(い)で聞(き)こゆる人々(ひとびと)多(おほ)かり。くはしき御事(こと)も世(よ)の騒(さわ)がしきいとなみなれば、え書き尽くさずなりぬ。推(お)し量(はか)るべし。此(こ)の君(きみ)むまれ給(たま)ひてのちは、内(うち)・殿(との)などに参(まゐ)り給(たま)ふもいとまおしう思(おぼ)されてなん。督(かん)の殿(との)内(うち)に参(まゐ)らせ給(たま)ふ。此(こ)の度(たび)はいと心(こころ)異(こと)なり。御門(みかど)の御こころいとおかしう今(いま)めかしうらう<じうおはします。何事(なにごと)ももののはへある様(さま)におはしませば、よろづもてはやし思(おぼ)し召(め)したり。御(ご)禊(けい)などいみじかべう言(い)ひののしるめる。
此(こ)の頃(ごろ)は斎宮も野の宮(みや)におはします程(ほど)いとめでたながら、宣耀殿(せんえうでん)の明(あ)け暮(く)れの御なからひのにはかにひき離(はな)れさせ給(たま)ふも、御涙(なみだ)こぼれさせ給(たま)へど、いま<しければ忍(しの)びさせ給(たま)ふべし。殿(との)は御服(ぶく)疾(と)う脱がせ給(たま)ひて、御(ご)禊(けい)など事(こと)ども執(と)り行(おこな)はせ給(たま)ふ。東宮(とうぐう)の宮司(みやづかさ)などまださだまらず。御忌(いみ)の程(ほど)などは、いとゆゝしく思(おぼ)され給(たま)ふ。又(また)日(ひ)次(ついで)など選(え)らせ給(たま)ふ程(ほど)に、事(こと)しも又(また)一定なれば、此(こ)の頃(ごろ)脱がせ給(たま)ふ。はかなくて十月にもなりぬれば、中宮(ちゆうぐう)の御そでのしぐれもながめがちにぞ過(す)ぐさせ給(たま)ふ。御行(おこな)ひのみぞひまなき。庭(には)も紅(くれなゐ)深(ふか)く御覧(ごらん)じ遣(や)られてあはれなり。ちご宮のいみじうあはて
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させ給(たま)ふ程(ほど)の、美(うつく)しきにも、東宮(とうぐう)のいといみじうをよずけさせ給(たま)ふ程(ほど)を、人(ひと)づてに聞(き)こし召(め)しても、飽(あ)かぬ様(さま)に思(おぼ)し召(め)さる。大方(おほかた)の御有様(ありさま)こそ、のどかにも思(おぼ)し召(め)せど、猶(なほ)行末(ゆくすゑ)つきすまじき御頼(たの)もしさを、そこらの御(おん)中(なか)に、女宮の交(ま)じらせ給(たま)へらましかば、いかにめでたき御かしづきぐさならましとおはしまさぬを、口(くち)惜(を)しき事(こと)に見(み)奉(たてまつ)り思(おぼ)し召(め)すも、あまりなるまである御こころなりし。承香殿・弘徽殿(こきでん)などの、女宮をだに持ち奉(たてまつ)らせ給(たま)はましかばとあはれなり。
世(よ)の中(なか)には御(ご)禊(けい)〔な〕ど、今(いま)めかしき事(こと)ども、様々(さまざま)ゆすれど、中宮(ちゆうぐう)はたゞあはれ尽きせず。思(おぼ)し召(め)されて、さるべき折<は、一品宮に御消息(せうそこ)聞(き)こえさせ給(たま)ひ、何事(なにごと)もこころざし聞(き)こえさせ給(たま)ふ。一品宮も月日(ひ)のすぐるを、哀(あは)れに悲(かな)しき事(こと)に思(おぼ)し召(め)しては、帥(そち)の宮だにひとゝころにおはしまさぬ事(こと)をぞ口(くち)惜(を)しく思(おぼ)し召(め)す。いづこにもたゞ御行(おこな)ひをぞたゆませ給(たま)はぬ。一条(いちでう)の院(ゐん)には御読経・御念仏などたえずして、僧どもの、哀(あは)れにこころ細(ぼそ)く、ひろきところに、人(ひと)ずくなにおぼゆるままに、世はかうこそはありけれと、おはしましし。世(よ)の御有様(ありさま)かたりつゝも、思(おも)ひ出(い)で聞(き)こえさせぬ折なし。帥(そち)の宮は、故院(ゐん)の一条(いちでう)の院(ゐん)におはしましゝ折にこそ、べちなうの御住居(すまひ)もつき<”しかりしが,今(いま)は何事(なにごと)もへだて多(おほ)かる。御(おん)心地(ここち)せさせ給(たま)へば、いかにと思(おぼ)しみだるゝに、殿(との)おはしまして、みなみの院(ゐん)を奉(たてまつ)らせ給(たま)ひて、べちなうをば三宮の御らう
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にと思(おぼ)し召(め)したり。あしかるまじき事(こと)なれば、さやうに思(おぼ)し召(め)したれど、猶(なほ)御はてまではかうてやとぞ思(おぼ)し召(め)しける。年(とし)頃(ごろ)の女房(にようばう)達(たち)、内(うち)に参(まゐ)るはすくなうて、東宮(とうぐう)・中宮(ちゆうぐう)・一品の宮(みや)・帥(そち)の宮(みや)にぞ、皆あかれ<参(まゐ)りける。故院(ゐん)の御こころをきてのやうには、誰(たれ)も<おはしまさじとて、ただ其(そ)の御筋(すぢ)をたづね参(まゐ)るなるべし。哀(あは)れに尽きせずめでたうおはしましゝ。御かどゝ、をしみ申(まう)さぬ人(ひと)なし。
かのくらべや・弘徽殿(こきでん)・承香殿は、皆御ぶくあるべし。いかでかはさあらざらん。あはれなる御かたみの衣は、ところわかずなん。そは内(うち)に、承香殿はまめやかに思(おも)ひ聞(き)こえ給(たま)へりしものを、いかでか思(おぼ)し知らぬやうはと見(み)えたり。一条(いちでう)の院(ゐん)の御処分なくて失(う)せさせ給(たま)ひにしかば、のちに殿(との)の御(お)前(まへ)ぞせさせ給(たま)ひける。彼の弘徽殿(こきでん)・承香殿など皆此(こ)の内(うち)にてわかち奉(たてまつ)らせ給(たま)へり。其(そ)の程(ほど)の御こころ、よろづなべてならずなん。あはれなる御こころむけを、いづれも世はかうこそはと申しながらも、あたらしうめでたき御有様(ありさま)を、いとどしうのみなん。一条(いちでう)の院(ゐん)御ぐしをろさせ給(たま)はんとて、宮(みや)に聞(き)こえさせ給(たま)ひける、
@つゆのみのかりのやどりに君を置きて家(いへ)を出(い)でぬる事(こと)ぞ悲(かな)しき W076。
とこそは聞(き)こえしが。御かへし、何事(なにごと)も思(おぼ)しわかざりける程(ほど)にてとぞ。
左衛門(さゑもん)の督の北(きた)の方(かた)、内(うち)のおほい殿(どの)の女御(にようご)に、
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@かずならぬ△道しばとのみ△嘆(なげ)きつゝ△はかなく露の
起臥(おきふし)に△明(あ)け暮(く)れたけの△おいゆかん△此(こ)の世(よ)のすゑに
なりてだに△嬉(うれ)しきふしや△見ゆるとて△いつしかとこそ
まつ山(やま)の△たかき梢に△すごもれる△まだこづたはぬ
うぐひすを△梅(うめ)の匂ひに△さそはせて△こち風はやく
吹きぬれば△谷のこほりも△打(う)ちとけて△霞のころも
たちゐつゝ△しづえ迄にも△打(う)ちなびき△岸の藤なみ
浅からぬ△匂ひに通ふ△むらさきの△くものたなびく
あさ夕に△今もみどりの△まつにのみ△心(こころ)をかけて過(す)ぐすまに△夏(なつ)きぬべしと△聞(き)こゆなり△山(やま)ほとゝぎす さ夜ふかく△かたらひ渡(わた)る△こゑ聞(き)けば△何(なに)のこころを
 思(おも)ふとも△言(い)ひやらぬまの△あやめぐさ△長き例(ためし)に
ひきなして△やづまにかかる△ものとのみ△よもぎの宿を
打(う)ちはらひ△玉のうてなと△思(おも)ひつゝ△うつ蝉の世(よ)の
はかなさも△忘(わす)れはてゝは△ちとせへん△君がみそぎを
祈(いの)りてぞ△かきながしやる△かはせにも△かたへすゞしき 風のをとに△驚かれても△いろ<の△花の袂(たもと)の ゆかしさを△秋(あき)ふかくのみ△頼(たの)まれて△紅葉(もみぢ)のにしき きり立(た)たず△よを長月と△言(い)ひ置ける△久しき事(こと)を きくの花△匂ひを染る△しぐれにも△雨(あめ)のしたふる かひや有(あ)ると△はかなく過(す)ぐす△月日(ひ)にも△心(こころ)もとなく 思(おも)ふまに△かしらのしもの△をけるをも△打(う)ちはらひつゝ ありへんと△思(おも)ひむなしく△なさじとぞ△衣のすそに はぐゝみ
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て△ちりもすゑじと△磨(みが)きつる△玉のひかりの 思(おも)はずに△消えにしよりは△かきくらす△こころのやみに 惑(まど)はれて△あくべきかたも△涙(なみだ)のみ△つきせぬ物と 流(なが)れつゝ△恋しきかげも△とどまらず△袖のしがらみ せきかねて△たきのこゑだに△惜(を)しまれず△まどひ入りては たづぬれど△しでの山(やま)なる△わかれぢは△いきてみるべき かたもなし△あはれ忘(わす)れぬ△なごりには△日数ばかりを かぞふとて△鳴(な)き渡(わた)るめる△よぶこどり△ほのかに君が△歎くなる△こゑ計(ばか)りにて△やましろの△とばにいはせの もり過ぎて△われ計(ばか)りのみ△すみのえの△まつゆきがたも 波かくる△岸のまに<△忘(わす)れ草△生やしげらんと 思(おも)ふにも△のきにかかれる△さゝがにの△みながら絶えぬ たよりだに△むすばざり劔△いとよはみ△心(こころ)細(ぼそ)さぞ つきもせぬ△むなしき空を△思(おも)ひわび△鴈のむれゐし あとみれば△独とこよに△起臥(おきふし)も△まくらの下に いけらじと△憂(う)き身(み)を歎(なげ)く△をしどりの△つがひ離(はな)れて△夜(よ)もすがら△上毛(うはげ)の△△霜(しも)を△払(はら)ひ侘(わ)び△氷(こほ)るつらゝに△閉(と)ぢられて△来(き)し方(かた)知(し)らず△なく声(こゑ)は△△△夢(ゆめ)かとのみぞ おどろきて△消え帰りぬる△たましゐは△行方(ゆくゑ)も知(し)らず こがれつゝ△釣(つり)に年(とし)経(ふ)る△海人(あまびと)も△船(ふね)流(なが)したる 年(とし)月も△かひなきかたは△まさるとも△苅(か)る藻(も)かきやり もとむとも△みるめなぎさに△うつなみの△あとだに
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見(み)えず 消(き)えなんとは△思(おも)ひの〔外〕に△津(つ)の国(くに)の△暫(しば)し計(ばか)りも ながらへば△なにはの事(こと)も△今(いま)はたゞ△数多(あまた)かきつむ もしほぐさ△しほの誰(たれ)をか△頼(たの)むべき△煙(けぶり)絶(た)えせぬ△薫(たき)ものの△此(こ)のかたみなる△思(おも)ひあらば△独残(のこ)さず 打(う)ちはぶき△衣(ころも)のすそに△はぐゝめど△身の程(ほど)知(し)らず 頼(たの)むめるかな W077
@みづぐきに思(おも)ふこころを何事(なにごと)も△△△えも書(か)きあへぬ涙(なみだ)なりけり W078
内大臣(ないだいじん)殿(どの)の女御(にようご)殿(どの)の御かへし、
@水茎(みづぐき)の跡(あと)を見(み)るにもいとどしく△△△流(なが)るゝものは涙(なみだ)なりけり W079。
@いにしへを△思(おも)ひ出(い)づれば△雪消えぬ△垣根(かきね)の草(くさ)は△二葉(ふたば)にて△生(を)ひ出(い)でん事ぞ△難(かた)かりし△つのぐむ蘆(あし)の はかなくて△枯(か)れ渡(わた)りたる△水際(ぎは)に△△△番(つが)はぬ鴛鴦(をし)は△寂(さび)しくて△二人(ふたり)の羽(はね)の△下(した)にだに△せばくつどひし△鳥(とり)の子の△雲(くも)の中(なか)にぞ△たゞよひし△昼は各(おのおの) 飛(と)び別(わか)れ△夜(よる)は古巣(ふるす)に△△△帰(かへ)りつゝ△翼(つばさ)を恋(こ)ひて△なき侘(わ)びし△数多(あまた)の声(こゑ)と△聞(き)くばかり△悲(かな)しき△△事(こと)は△広沢(ひろさは)の△いけるかひなき△身(み)なれども△波(なみ)のたちゐに つけつゝも△かたみにこそは△頼(たの)みしか△誰(たれ)も我が世(よ)の 若(わか)ければ△行末(ゆくすゑ)遠(とを)き△小(こ)松原(まつばら)△こ高(だか)くならん△枝(えだ)もあらば△其影にこそ△かくれめと△思(おも)ふこころ
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は△深緑(ふかみどり)△いくしほとだに△思(おも)ほえず△思(おも)ひ初(そ)めてし△衣手(ころもで)の△色(いろ)も変(かは)らで△年(とし)経(ふ)れば△生(お)ひ出(い)づる竹の△己(をの)がよゝ△嬉(うれ)しきふしを△みるごとに△いかなる世にか かれせんと△思(おも)ひけるこそ△はかなけれ
△朝(あした)の露(つゆ)を△△△玉(たま)と見(み)て△磨(みが)きし程(ほど)に△消(き)えにけり△夕(ゆふべ)の松(まつ)の△風(かぜ)の音(おと)に△悲(かな)しき事を△しらべつゝ△ねをのみぞ鳴(な)く 群鳥(むらどり)の△群(む)れたる中(なか)に△只一人(ひとり)△いかなるかたに△飛(と)び行(ゆ)きて△知(し)る人(ひと)もなく△惑(まど)ふらん△とまるたぐひは 多(おほ)くして△恋し悲(かな)しと△思(おも)へども△今(いま)はむなしき△大空(おほぞら)の△雲(くも)計(ばか)りをぞ△かたみには△明(あ)け暮(く)れに見る 月かげの△木(こ)の下闇(したやみ)に△惑(まど)ふめる△嘆(なげ)きの森(もり)の△繁(しげ)さをぞ△払(はら)はん方(かた)も△思(おも)ほえぬ△見る人(ひと)ごとに 理(ことわり)の△涙(なみだ)の川(かは)を△流(なが)すかな△ましてやそこの 辺(わた)りには△いかばかりかは△たぐふらん△淵瀬(ふちせ)も知(し)らず 嘆(なげ)くなる△こころの程(ほど)を△思(おも)ひ遣(や)る△人(ひと)のうへさへ 嘆(なげ)かるゝかな W080。
とて、またかくなん、
@君もさば昔(むかし)の人(ひと)と思(おも)はなん△△△われもかたみに頼(たの)むべきかな W081。