『江戸東京の明治維新』(岩波新書)と『幕末の江戸風俗』(岩波文庫)
菊池眞一
横山百合子『江戸東京の明治維新』(岩波新書)と塚原渋柿園『幕末の江戸風俗』(岩波文庫)とが、ほぼ同時期に出版された。
幕末維新を扱った本は何千何万、汗牛充棟の有様だが、この両書に共通するのは、政治を動かした権力者ではなく、世の荒波に翻弄された下級武士・一般市民の生態を描いている点だ。
『江戸東京の明治維新』は、旧幕臣・家守・遊女・賤民に光を当て、史料から彼等の動きを生き生きと描く。
『幕末の江戸風俗』は、下級武士の家に生まれた著者の生い立ちを幕末から明治まで描き、江戸時代の風俗習慣・法制経済などに関して、体験に基づいた具体的な記述をしている。
『幕末の江戸風俗』の著者・塚原渋柿園は明治元年から四年まで静岡等に赴いていて、この間の東京に関する記述はない。『江戸東京の明治維新』によって若干補える。
それにしても、著者・編者の専門が歴史学・文学と異なっているため、参照する本が全く違うと言っていいほどなのは面白い。共通するのは、『守貞謾稿(近世風俗志)』ぐらいだ。
以下、両書の目次を記す。
横山百合子『江戸東京の明治維新』(岩波新書)
はじめに
第一章 江戸から東京へ……1
第一節 大名小路の風景 2
江戸切絵図「御曲輪内大名小路」/江戸城登城風景図屛風/腰掛茶屋/賑わう内桜田門
第二節 戦略的な藩邸配置 10
「大名小路」藩邸の主/上屋敷、中屋敷、下屋敷の役割/中屋敷の新たな役割
第三節 江戸の占領統治 17
薩摩藩邸浪士の御用盗み/江戸城開城直後の情勢/東京様お酒頂戴/東京城吹上苑拝観
第四節 荒廃する武家地 26
激減する人口/焦る江戸藩邸/帰るに帰れぬ藩士たち
第五節 新しい屋敷主たち 32
公家たちの登場/変貌する大名小路/「東京十二景 内桜田」の光景
第二章 東京の旧幕臣たち……43
第一節 新政府の悩み 44
困難な治安回復/脱籍浮浪士問題/東京の戸籍編成
第二節 身分の再編という矛盾 49
身分制度と新政府/近世の身分とは何か/身分制の解体を考える視点/身分制の再編/明治二年兵制論争/奇兵隊の反乱
第三節 旧幕臣本多元治の明治維新 57
困窮する旧幕臣たち/朝臣化旧幕臣 本多元治/土地経営で生計をたてる/土地の引替/混迷する武家地政策/土地獲得の欲望/本所一つ目という場/一つの人民に二つの触頭
第三章 町中に生きる……73
第一節 家守たちの町中 74
東京府知事の江戸学事始め/二つの役割を負う家守/家守の株化/その日稼ぎの人びと
第二節 明治の人返し 78
四ッ谷伝馬町新一丁目の場合/天皇の食費も削減を/一万人の「物買いの者」/「家守の町中」の否定
第三節 路上の明治維新 87
床店とは/なぜ路上で店を開けたか/神田柳原土手通り床店/床所持主と床商人/床商人の地税上納運動/床店のゆくえ
第四章 遊廓の明治維新……103
第一節 新吉原遊廓と江戸の社会 104
東京府知事大久保一翁の伺い書/新吉原遊女町の役と特権/動揺する幕末の遊廓
第二節 遊廓を支える金融と人身売買 111
仏光寺名目金貸付/財としての遊女/商品としての遊女の身体/明治五年芸娼妓解放令
第三節 遊女いやだ――遊女かしくの闘い 118
竹次郎一件/稚拙な結婚嘆願書/政五郎の対応策/菊次郎一件/かしくの願い
第四節 変容するまなざし 130
下層社会を生きる矜恃/崩壊する遊廓秩序/「自由意思」の売春/隠売女から淫売女へ
第五章 屠場をめぐる人々……139
第一節 弾左衛門支配の終焉 140
関八州えた頭 弾左衛門/弾左衛門支配/賤民廃止令
第二節 牛肉産業のはじまり 146
牛肉需要の急増/官許屠牛改会社の設置/仲間の論理による会社運営/身分の論理による関係/警視庁による介入/屠場の払下げ
第三節 三味線皮渡世小林健次郎の挑戦 154
旧賤民のネットワーク/経営者のひとりとして/木村荘平の後押し/身分制の論理をこえて
第四節 いろは大王と自由民権 160
政府との癒着/屠牛商人との闘い/明治一四年、警視庁との対決/営業の自由を求めて/政商から一自営業者へ
おわりに 169
文献解題 175
あとがき 195
塚原渋柿園『幕末の江戸風俗』(岩波文庫)
五十年前 …… 7
薩州邸の焼討 10
鳥羽伏見の大戦争 15
私の朋友の討死 18
この際の江戸市中 19
種々の物の降った 22
奥羽の戦争 22
脱兵の人気 24
徳川家 26
帰農帰商の連中 28
無禄移住 31
私の給料 37
黄金の浪 39
右に三保の松原 41
凍餒の惨話 45
思ひ出る儘の記 ……47
はしがき 47
与力。根来。組屋敷 49
幕末における武士の風俗 ……63
幕末の江戸風俗(脇差、刀剣の附属品)……82
脇差 82
刀剣の附属品 91
幕末の江戸芸者 ……97
兵馬倥偬の人 ……101
江戸の暮と正月 ……109
餅搗 111
歳暮の贈答 112
煤掃 113
松飾 115
廿九日から大晦日までの事 117
目張入道ほととぎす 118
豆蒔 119
厄払 120
はぜ売に扇売 121
元旦 121
雑煮 122
御屠蘇 123
年礼 124
喰積 124
二百三十俵の住居 126
年礼帳 126
名札 127
年玉 127
紙鳶 128
一枚金二両 128
引からめッこ 130
二枚半 131
両雄相逢うて 133
分捕の凧 134
狂中の狂 135
独楽 135
昔しの日本橋 ……136
五十年前には一銭で蕎麦が六杯 ……139
煎餅が一銭に九十六枚 139
六銭で餅菓子七十二 140
鮨が一銭で十二ある 141
草鞋二足売って酒一合 141
お汁粉が一杯十二文 142
江戸語の変遷 ……144
一 144
二 146
江戸時代の手習師匠 ……152
江戸時代の文教 ……168
維新前後の文学 ……186
江戸沿革私記 ……193
地勢 江戸城 江戸市街 194
武士の風俗 旗本御家人、目見以上以下 欣々風 講武所風 198
武家の収納 玉落 蔵宿 202
江戸の言語 209
江戸の交際 年始、五節句 211
宗教の信心 法事 213
商人の風俗 214
江戸の教育 素読吟味 手習師匠 215
江戸の祭礼 聞小間法 220
町火消 仕事師 222
江戸の市場、問屋等 223
江戸の市政 224
桜痴先生と柳北先生 ……232
尾崎紅葉 ……241
斎藤緑雨子 ……248
桜痴居士 ……252
一 252
二 257
注解(菊池眞一)……269
五十年前 269
薩州邸の焼討 270
鳥羽伏見の大戦争 274
私の朋友の討死 276
この際の江戸市中 277
種々の物の降った 278
奥羽の戦争 279
脱兵の人気 280
徳川家 281
帰農帰商の連中 281
無禄移住 284
私の給料 285
黄金の浪 286
右に三保の松原 286
凍餒の惨話 287
思ひ出る儘の記 288
はしがき 288
与力。根来。組屋敷 294
幕末における武士の風俗 300
幕末の江戸風俗 309
脇差 309
刀剣の附属品 312
幕末の江戸芸者 314
兵馬倥偬の人 318
江戸の暮と正月 321
昔しの日本橋 339
五十年前には一銭で蕎麦が六杯 341
江戸語の変遷 343
江戸時代の手習師匠 348
江戸時代の文教 354
維新前後の文学 360
江戸沿革私記 369
地勢 江戸城 江戸市街 370
武士の風俗……講武所風 372
武家の収納 玉落 蔵宿 374
江戸の言語 375
江戸の交際 年始、五節句 376
宗教の信心 法事 377
商人の風俗 378
江戸の教育 素読吟味 手習師匠 378
江戸の祭礼 聞小間法 380
町火消 仕事師 381
江戸の市政 382
桜痴先生と柳北先生 383
尾崎紅葉 392
斎藤緑雨子 393
桜痴居士 395
解説(菊池眞一)……401
(一)渋柿園の家族 401
(二)島田三郎と福地桜痴と 403
(三)歴史小説 404
(四)渋柿園の逸話 408
(五)幕末風俗の証人 412
(六)収録作について 414
(七)参考文献 421
索引
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2018年8月26日公開
菊池眞一
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